JP2024094516A - 着床能増強胚の作製方法 - Google Patents

着床能増強胚の作製方法

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Abstract

【課題】胚のダメージを最小限に留め、簡便かつ短時間の工程で所望のタイミングで、着床能が増強された移植用の胚を作製する方法を開発し、提供する。
【解決手段】胚表面にRGDモチーフを含むポリペプチドの溶液をインビトロで接触させることで着床能の増強された胚を作製する方法を提供する。
【選択図】図1

Description

本発明は、着床能を増強した移植用胚の作製方法、及びその方法で作製された移植用胚に関する。
近年、先進国をはじめとする各国では、晩婚化等を背景に不妊治療を受ける夫婦が増加している。例えば、2020年の日本における出生児14人のうち1人は、胚移植による出産である(非特許文献1及び2)。
ところが、不妊治療における体外受精又は顕微授精による成功率は高いとは言い難い。例えば、2020年の日本における体外受精の成功率(胚移植あたりの出生率)は、新鮮胚を用いた場合は14.7%、凍結胚を用いた場合は25.5%に過ぎない(非特許文献1)。インビトロでの受精、受精卵から胚盤胞までの成長、及び着床から妊娠までの各成功率はいずれも50%以上であることから、前述の成功率の低さは、母体子宮内に移植された移植胚の子宮内膜への着床率の低さが原因とされている。
胚の着床は、胚表面の細胞接着タンパク質と子宮内膜細胞上の受容体タンパク質との相互作用によって行われる。したがって、移植胚の着床率を向上させて体外受精等の成功率を高めるには、子宮内膜への胚の接着性を増強することが有効と考えられ、それに関連する研究が行われている。
例えば、非特許文献3は、胚盤胞と子宮上皮細胞との接着を向上させる目的で、培養液中にIGF-1(インスリン様成長因子1:Insulin-like growth factor 1)を添加することによって、胚表面におけるフィブロネクチンの産生を向上させる手法を開示している。しかし、この方法はIGF-1を介して接着タンパク質であるフィブロネクチンの産生を間接的に亢進させるため、フィブロネクチンの産生量や発現のタイミングを制御することが困難である。フィブロネクチン量は、接着性の強化、及び胚の成長に直接的な影響を与え、その発現のタイミングは不妊治療等における移植時の着床率に大きな影響を及ぼすことが知られている。したがって、この方法では胚の着床率を向上させることができないという問題があった。
また、非特許文献4は、初期胚の成長とフィブロネクチン濃度との関係を開示している。具体的には、初期胚の培養液にフィブロネクチンを異なる濃度で添加して、フィブロネクチンが胚に与える影響について評価している。その結果、フィブロネクチン濃度が5μg/mL及び300μg/mLのときは2細胞期から胚盤胞まで成長したサンプルが0%であり、50μg/mLにおいても成長したのは約7%に過ぎなかったことが報告されている。この結果は、高濃度のフィブロネクチンを胚に長時間作用させることは、胚の成長を阻害することを示唆している。
さらに、非特許文献5は、胚盤胞を含む培養液に15.2±3.1μg/mLのフィブロネクチンを添加してフィブロネクチン処理による胚盤胞の体外移植率(in vitro-implantation rate)について開示している。本文献は、使用する胚が、受精から胚盤胞期までを体内で発育させた胚盤胞の場合、インビトロでのフィブロネクチン添加による着床能の向上効果が認められたが、体内受精後に採取し、2細胞期から後期胚盤胞期までを体外で培養した胚盤胞の場合、フィブロネクチン添加による向上効果は認められなかったことを報告している。この結果は、低濃度のフィブロネクチン添加では体外で培養された胚盤胞は、着床能の効果を向上できないことを示唆している。
以上のように、従来の研究報告から、接着タンパク質が胚の着床率の向上に関与していることは判明しているものの、高濃度の接着タンパク質で処理した場合は胚へのダメージが生じて、胚の成長が阻害されてしまうことや、逆に低濃度の接着タンパク質処理では胚の細胞接着性の向上が得られないため、胚の着床率の向上に接着タンパク質を利用できないという問題があった。
本発明の課題は、上記問題を解決するために、処理による胚のダメージを最小限に抑え、簡便かつ短時間の工程により所望のタイミングで細胞接着性が増強された移植用の胚を作製する方法を開発し、提供することにある。
上記課題の解決方法を開発するため、本発明者が鋭意研究を重ねた結果、インビトロ操作で移植前の胚に高濃度の細胞接着タンパク質を短時間接触させた場合、胚の細胞接着性を増強し、かつ胚へのダメージを最小限に抑えることに成功した。本発明は、当該研究結果に基づくものであって、以下の着床能増強胚の作製方法及び移植用の着床能増強胚を提供する。
(1)着床能増強胚の作製方法であって、有胎盤類の胚表面にRGDモチーフを含むポリペプチドの溶液をインビトロで接触させる接触工程を含む前記作製方法。
(2)RGDモチーフを含むポリペプチドを細胞表面に付着した移植用の着床能増強胚。
本発明の着床能増強胚の作製方法によれば、インビトロで胚表面にRGDモチーフを含むポリペプチドの溶液を接触させる簡便な方法で、子宮内膜への着床能が増強された移植用の胚を作製することができる。
本発明の着床能増強胚作製方法のフロー図である。 発明の着床能増強胚作製方法で作製した胚における細胞接着性の増強を示す図である。図中、Stability scoreは、細胞接着性を評価するために、培養容器へタッピング刺激による胚の不動性(接着強度)を4段階でスコア化したものである。スコア4は強固な接着を、スコア3は中程度の接着を、スコア2は弱い接着を、そしてスコア1は非接着を示す。実施例1はn=16~24で、また比較例1はn=16~20で行った。
1.着床能増強胚作製方法
1-1.概要
本発明の第1の態様は、着床能の増強された移植用胚の作製方法である。本発明の作製方法では、胚表面にRGDモチーフを含むポリペプチドの溶液を接触させることによって着床能の増強された胚を作製する。本発明の作製方法によれば、所望のタイミングで、化学処理や物理処理による胚へのダメージを最小限に留めながら簡便かつ短時間の工程で着床能が増強された胚を作製することができる。また、その胚を子宮内に移植することで妊娠効率を向上することが可能となる。
1-2.用語の定義
本明細書で使用する用語について、以下で定義する。
「胚」とは、多細胞生物において、受精後、卵割を開始して間もない初期発生段階の個体をいう。本明細書では、特に有胎盤類の受精卵から子宮内膜に着床可能な時期までの個体、具体的には胚盤胞までを指す。なお、本明細書で単に「胚」と記載した場合、特段の断りのない限り、移植用の胚を意味するものとする。
「有胎盤類」とは、現存の哺乳類とほぼ同義であり、胚を胎盤に着床させて、仔を子宮内で親に近い形態となる発生後期段階まで養育する動物系統群をいう。
本明細書で「移植用(の)胚」とは、母体子宮内への移植を主な目的とした胚をいう。通常、人工受精又は顕微授精によりインビトロで調製された胚が該当する。ただし、胚の移植先は、必ずしもヒト又は有胎盤類の子宮内に限らず、例えば、創薬又は臨床試験用の子宮内膜上皮細胞を含むインビトロ領域であってもよい。
本明細書で「移植胚」とは、母体子宮内又はインビトロでの子宮内膜上に移植された胚をいう。
「細胞接着性」とは、他の細胞表面に接着又は結合する性質をいう。この細胞接着性は、限定はしないが、通常、細胞膜上に存在する細胞接着性タンパク質とそのレセプタータンパク質間の結合により達成される。本明細書で「細胞接着性」とは、主に胚が他の細胞表面、例えば、子宮内膜細胞上やインビトロ培養した上皮細胞上に接着する性質を意味する。
本明細書において「着床能」とは、胚が子宮内膜へ着床する能力をいう。この能力は前記胚の細胞接着性の強さに比例し、その細胞接着性の強さは胚表面に存在する細胞接着タンパク質の数及びその面積に依存する。
本明細書において「着床能(の)増強」とは、通常の胚が有する細胞接着性を強化すること、及びそれによって胚の着床能を増大させることをいう。
本明細書において「着床能増強移植胚」とは、子宮内膜への胚の接着性を強化することで着床能が増強された移植胚をいう。
「RGDモチーフ」とは、アルギニン(R)-グリシン(G)-アスパラギン酸(D)の3つのアミノ酸残基で構成される細胞接着活性を有するアミノ酸配列のモチーフをいう。
本明細書において「接触させる」とは、2つの物質が互いに接するようにすることをいう。
1-3.方法
本発明の着床能増強移植胚の作製方法のフロー(S0100)を図1に示す。この図で示すように、本発明の作製方法は、接触工程(S0102)を必須の工程として、また培養工程(S0101)、及び分離回収工程(S0103)を選択工程として含む。以下、各工程について説明をする。
1-3-1.培養工程
「培養工程」(S0101)は、接触工程前に受精卵を所望の発育段階まで培養する工程である。
本工程で使用する受精卵は公知の方法で調製すればよい。例えば、母体に排卵誘発剤を接種した後、採卵針を用いて卵巣内から卵胞液と共に卵子を採取する。続いて、受精当日に採精した精子、又は凍結保存していた精子を用いて受精させる方法が挙げられる。受精は、体外受精(IVF:in vitro fertilization)又は顕微授精(ICSI:intracytoplasmic sperm injection)のいずれであってもよい。
受精卵の培養は、当該分野で公知の方法を用いればよい。培地は、胚を培養できる培地であれば限定はしない。一般の細胞培養用培地を用いてもよい。細胞培養用培地は、細胞の維持と生育に必要な成分を含むことから、受精卵を適当な発育段階の胚にまで培養するのにも好適である。
培地は、組成により天然培地、半合成培地、合成培地等に分類されるがいずれの培地も使用できる。例えば、限定はしないが、ダルベッコ改変イーグル培地(Dulbecco's Modified Eagle's Medium;D-MEM)、ハムF12培地(Ham's Nutrient Mixture F12)、D-MEM/F12培地、マッコイ5A培地(McCoy's 5A medium)、イーグルMEM培地(Eagle's Minimum Essential Medium;EMEM)、αMEM培地(alpha Modified Eagle's Minimum Essential Medium;αMEM)、MEM培地(Minimum Essential Medium)、RPMI1640(Roswell Park Memorial Institute-1640)培地、イスコフ改変ダルベッコ培地(Iscove's Modified Dulbecco's Medium;IMDM)、MCDB131培地、ウィリアム培地E、IPL41培地、Fischer's培地、M199培地、高性能改良199培地(Hight Performance Medium 199)、StemPro 34(Thermo Fisher Scientific社製)、X-VIVO 10(Chembrex社製)、X-VIVO 15(Chembrex社製)、HPGM(Chembrex社製)、StemSpan H3000(STEMCELL Technologies社製)、StemSpan SFEM(STEMCELL Technologies社製)、StemlineII(Sigma-Aldrich社製)、QBSF-60(Quality Biological社製)、StemProhESCSFM(Thermo Fisher Scientific社製)、Essentia l8(登録商標)培地(Thermo Fisher Scientific社製)、mTeSR1又はmTeSR2培地(STEMCELL Technologies社製)、ReproFF又はReproFF2(Reprocell社製)、PSGro hESC/iPSC培地(System Biosciences社製)、NutriStem(登録商標)培地(Biological Industries社製)、CSTI-7培地(細胞科学研究所社製)、MesenPRO RS培地(Thermo Fisher Scientific社製)、MF-Medium(登録商標)間葉系幹細胞増殖培地(東洋紡株式会社製)、Sf-900II(Thermo Fisher Scientific社製)、Opti-Pro(Thermo Fisher Scientific社製)等が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。特にDMEM/F12培地の場合、その混合比率は特に制限されないが、構成成分の重量濃度比でDMEMとF12を6:4~4:6の範囲で混合するのが好ましい。各培地の具体的な組成については、当該分野で公知であり、適当な文献(例えば、Kaech S. and Banker G., 2006, Nat. Protoc., 1(5): 2406-15)に記載の組成に基づいて調製すればよい。また、各メーカーが市販する培地については、購入により入手できる。
胚の培養温度は、37℃±1℃の範囲が好ましい。また、培地中の二酸化炭素濃度は、2%~5%、又は3%~4%であればよい。
培養期間は、胚が所望の発育段階まで発育する期間であれば限定しない。通常は、胚が胚盤胞にまで発育する期間であればよい。例えば、上記培養条件であれば、受精後3~5日が該当する。
培養後、次の接触工程の実施までに期間が空く場合には、培養した胚を必要に応じて凍結保存することができる。使用に際しては、接触工程を実施する前に完全解凍する。
また、培養後、又は凍結保存からの解凍後、必要に応じて胚を洗浄してもよい。洗浄は例えば、緩衝液、又は生理食塩水等で行えばよい
1-3-2.接触工程
「接触工程」(S0102)は、胚表面にRGDモチーフを含むポリペプチドの溶液をインビトロで接触させる工程である。本工程は、本発明の着床能増強移植胚の作製方法において主要な工程であり、胚の細胞接着性を増強するために、インビトロで胚表面にRGDモチーフを含むポリペプチドを付着させることを目的とする。なお、本明細書で単に「ポリペプチド」と表記した場合、特に断りのない限り、RGDモチーフを含むポリペプチドを意味するものとする。
本工程で使用する胚は、初期胚(分割期胚)~胚盤胞の発育段階であればよい。好ましくは胚盤胞である。また、本工程で使用する胚のグレードは限定しないが、例えば、初期胚であればヴィーク分類でグレード1又は2、また胚盤胞であればガードナー分類でクラス5又は6が好ましい。
本工程で使用するポリペプチドは、RGDモチーフを含み、子宮内膜上皮細胞との接着活性を有するポリペプチドであれば限定はしないが、好ましくは細胞接着タンパク質である。
「細胞接着タンパク質」は、インテグリン結合活性を有するタンパク質であって、例えば、フィブロネクチン、ビトロネクチン、カドヘリン、ラミニン、コラーゲン等が挙げられる。いずれの細胞接着タンパク質も由来生物種は問わない。好ましくは有胎盤類由来であり、より好ましくはヒト由来である。
より具体的な例示として、ヒトフィブロネクチンのアミノ酸配列を配列番号1で、ヒトビトロネクチンのアミノ酸配列を配列番号2で、ヒトカドヘリンのアミノ酸配列を配列番号3で、ヒトラミニンのアミノ酸配列を配列番号4で、またヒトコラーゲンのアミノ酸配列を配列番号5で示す。
また、RGDモチーフを含み、かつインテグリン結合活性を有する限り、前記細胞接着タンパク質のペプチド断片であってもよい。ペプチドの長さは限定しない。例えば、50アミノ酸以上全長未満、100アミノ酸以上全長未満、150アミノ酸以上全長未満、又は200アミノ酸以上全長未満の長さであればよい。
本工程で使用するポリヌクレオチド溶液は、適当な溶媒に前記RGDモチーフを含むポリペプチドを含む溶液である。この溶液に使用する溶媒は、限定はしないが、接触による胚への影響がない、又は極めて軽微な溶媒が好ましい。例えば、リン酸バッファ(PBSバッファ)等の緩衝液、生理食塩水、培地(特に培養工程で使用した培地)が挙げられる。ポリヌクレオチド溶液における、当該ポリヌクレオチドの濃度は、50μg/mL~2mg/mL、80μg/mL~1.5mg/mL、又は1mg/mL~1.2mg/mLであればよい。50μg/mL未満の場合、胚表面に十分量のポリペプチドを付着させるには少なく、また2mg/mLを超える高濃度のポリペプチド溶液では胚へのダメージが大きくなるためである。
ポリペプチド溶液に胚を接触させる方法は、胚表面にポリペプチドを付着できる方法であれば限定はしない。例えば、ポリペプチド溶液を胚表面に塗布、又は噴霧する方法や、胚の全体又は一部をポリペプチド溶液に浸漬する方法が挙げられる。胚の細胞接着性の増強がポリペプチドの付着面積、及びその付着した数に依存し得ることを鑑みれば、胚をポリペプチド溶液に完全浸漬する接触方法が好ましい。
接触時間は5分~90分、10分~60分、15分~50分、20分~40分、又は25分~30分であればよい。5分未満の場合、胚表面に十分量のポリペプチドを付着させるには短すぎ、また90分を超えるとポリペプチド溶液への接触による胚へのダメージが大きくなるためである。
なお、本工程中も、胚へのダメージを軽減するために、接触温度は28~39℃、30~38℃、32~37℃、又は34~36℃の範囲とし、また二酸化炭素濃度は2%~5%、又は3%~4%の雰囲気下とすることが好ましい。
本工程後の胚は、ポリペプチド溶液と共にそのまま、例えば、母体子宮内に移植してもよいし、次述の回収工程を経て使用してもよい。
1-3-3.分離回収工程
「分離回収工程」(S0103)は接触工程(S0102)後の胚を回収する工程である。本工程は、前記接触工程後の胚と前記ポリペプチド溶液とを分離し、ポリペプチドを付着させた処理後の胚を回収する工程である。本工程は、胚へのダメージを与えないため、胚とポリペプチド溶液の必要以上の接触を回避することを目的とする。
胚と前記ポリペプチド溶液との分離方法は、特に限定はしない。例えば、ポリペプチド溶液に胚を浸漬して接触工程を行った場合であれば、ポリペプチド溶液から処理した胚を取り出せばよい。溶液から胚を取り出す方法は限定しない。マイクロピペットやガラス管を用いて胚を取り出す方法が一般的であり、本工程でもその方法で回収すればよい。
その後、胚表面に付着した過剰なポリペプチド溶液を除くなどの目的で、胚を洗浄してもよい。洗浄液として用いる液体は、前記接触工程と同様に、胚への影響がない、又は極めて軽微な液体であれば特に限定はしない。例えば、リン酸バッファ(PBSバッファ)等の緩衝液、生理食塩水、培地(特に培養工程で使用した培地)が挙げられる。この洗浄液で1回又は複数回洗浄することで、過剰なポリペプチド溶液を除去することができる。前記接触工程でポリペプチド溶液を胚表面に塗布又は噴霧した場合も、洗浄により分離回収ができる。
本工程後の胚は、緩衝液等の適当な溶媒と共に、用途に応じて子宮内移植や創薬研究等に使用することができる。
2.移植用着床能増強胚
2-1.概要
本発明の第2の態様は、移植用着床能増強胚である。本発明の胚は、同時期の発生段階における通常の胚と比較してその表面に多くのRGDモチーフを含むポリペプチドをインビトロでの処理により付着している。その特徴により、本発明の胚は細胞接着性が高く、それによって着床能も増強されている。
2-2.構成
本発明の移植用着床能増強胚は、RGDモチーフを含むポリペプチドを細胞表面に付着していることを特徴とする。このようなポリペプチドは、通常の胚盤胞にも胚表面に存在しているが、本発明の移植用着床能増強胚は、第1態様に記載の作製方法によって、インビトロで、人為的に胚表面に付与されていることから、同時期の通常の胚と比較して、より多くのポリペプチドを有している。
本発明の胚は、前記第1態様の着床能増強胚の作製方法によって作製することができる。それ故に、用語の定義や条件等については基本的には第1態様の作製方法に準ずる。
本発明の移植用着床能増強胚は、移植を主な目的としたインビトロ胚であり、その使用までは適当な溶媒に浸漬した状態で保存されている。ここで使用する溶媒は、胚への影響がない、又は極めて軽微な溶媒であれば特に限定はしない。例えば、保存期間が短期間であれば、リン酸バッファ(PBSバッファ)等の緩衝液、又は生理食塩水であればよく、保存期間が6時間を超える場合には培地が好適である。胚の保存方法は、当該分野で公知の方法であれば限定はしない。例えば液体窒素中での凍結保存が挙げられる。
本発明の移植用着床能増強胚は、着床効率の高い移植用の胚として子宮内に移植する他、ヒト以外の動物胚であれば創薬や臨床研究等に使用することができる。
以下で、本発明の着床能増強胚の作製方法を用いて移植用着床能増強胚を作製する具体例を示す。なお、以下の実施例は、本発明の実施形態の一例に過ぎず、本発明は以下の実施例により限定されることはない。
<着床能増強胚における細胞接着性の検証>
(目的)
本発明の作製方法で得られる着床能増強胚が未処理の胚と比較して細胞接着性が増強されていることを検証する。
(方法)
(実施例1)
胚は、胚盤胞のマウス凍結受精卵(アーク・リソース社、C57BL/6J Jcl)を用いた。
接着タンパク質には0.1%フィブロネクチン溶液(シグマアルドリッチ社製、F0895-2MG)を用いた。
作製方法は、前記マウス凍結受精卵を融解した後、35mm dishにて100μLのKSOM培養液(アーク・リソース社)を用いて、ガードナー分類におけるクラス6まで、37℃で5%CO2下にて4日間培養を行った。
次に、胚をガラスピペットで取り出し、0.1%フィブロネクチン溶液(シグマアルドリッチ社製、F0895-2MG)へ浸漬し、37℃で5%CO2下にて10分間インキュベートしてフィブロネクチンを胚表面に付与した。
続いて、胚を取り出した後、1mLのDMEM培養液(Thermo Fisher Scientific社製)を含み、子宮内膜上皮細胞(Ishikawa細胞:ECACC社製)で表面を予めコーティングした培養容器へ播種し、37℃で5%CO2下にて培養を行った。播種から4時間後、24時間後、48時間後に、顕微鏡下で培養容器へタッピング刺激を加え、その際の胚の動きや子宮内膜上皮細胞との結合状態から4段階でスコア化し、胚の接着性を評価した。各スコアは、スコア4を強固な接着、スコア3を中程度の接着、スコア2を弱い接着、そしてスコア1を非接着とした。
(比較例1)
実施例1において、培養後の胚をフィブロネクチン溶液に浸漬させることなく、子宮内膜上皮細胞で表面コーティングした培養容器へ播種し、37℃で5%CO2下にて培養を行った。播種から4時間後、24時間後、48時間後に、顕微鏡下で培養容器へタッピング刺激を加え、実施例1と同様に4段階でスコア化し、胚の接着性を評価した。
(結果)
図1に結果を示す。この図で示すように、インビトロで1mg/mLという高濃度のフィブロネクチン溶液に短時間浸漬処理した実施例1の胚は、比較例1の胚と比較して、有意に接着安定性のスコアが高く、細胞接着性が増強されていることが立証された。
<フィブロネクチン濃度と接触時間による着床能の検証>
(目的)
フィブロネクチンの濃度と胚との接触時間による胚の細胞接着性の増強効果について検証する。
(方法)
フィブロネクチンの濃度条件及び接触時間を振り、それらの組み合わせによる胚の細胞接着性について、前記比較例1との比較により増強したか否かで検証した。
(実施例2)
実施例1において、培養後の胚をガラスピペットで取り出し、リン酸バッファ(Thermo Fisher Scientific社製、14190144)で15μg/mLに調製したフィブロネクチン溶液へ浸漬した後、37℃で5%CO2下にて10分間インキュベートしてフィブロネクチンを胚表面に付与した。他の操作は、実施例1と同様に行った。
(実施例3:移植用着床能増強胚No.3)
実施例1において、培養後の胚をガラスピペットで取り出し、0.1%フィブロネクチン溶液(シグマアルドリッチ社製、F0895-2MG)へ浸漬した後、37℃で5%CO2下にて1分間インキュベートしてフィブロネクチンを胚表面に付与した。他の操作は、実施例1と同様に行った。
(実施例4:移植用着床能増強胚No.4)
実施例1において、培養後の胚をガラスピペットで取り出し、0.1%フィブロネクチン溶液(シグマアルドリッチ社製、F0895-2MG)へ浸漬した後、37℃で5%CO2下にて60分間インキュベートしてフィブロネクチンを胚表面に付与した。他の操作は、実施例1と同様に行った。
(結果)
結果を表1に示す。
表1から、フィブロネクチン濃度が15μg/mLのような低濃度の場合、10分間の接触では胚の細胞接着性増強効果は得られなかった。また、1mg/mLのような高濃度であっても、1分間という短時間の接触では胚の細胞接着性増強効果は同様に得られなかった。
一方、1mg/mLであれば10分以上の接触時間で、目的の増強効果が確認された。
これらの結果から、実施例1及び実施例4の胚において、特に顕著な着床能の増強が達成されたことが推認される。
日本産婦人科学会, 2020年体外受精・胚移植等の臨床実施成績 厚生労働省, 令和2年(2020)人口動態統計月報年計(概数)の概況, 第4表 Green C.J. et al., 2015,Hum. Reprod., 30(2): 284-298 Larson R.C. et al., 1992, J. Reprod. Fertil., 96: 289-297 竹内一浩, 他, 1998, 哺乳卵研誌, 5(2): 105-112

Claims (5)

  1. 着床能増強胚の作製方法であって、
    有胎盤類の胚表面にRGDモチーフを含むポリペプチドの溶液をインビトロで接触させる接触工程
    を含む前記作製方法。
  2. 前記溶液の前記ポリペプチド濃度が50μg/mL~2mg/mLである、請求項1に記載の作製方法。
  3. 接触時間が5分~90分である、請求項1又は2に記載の作製方法。
  4. 前記RGDモチーフを含むポリペプチドが細胞接着タンパク質である、請求項1に記載の作製方法。
  5. RGDモチーフを含むポリペプチドを細胞表面に付着した移植用の着床能増強胚。
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