JP2024070548A - 硫化リン組成物 - Google Patents

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Abstract

【課題】リチウムイオン伝導性が向上した硫化物系無機固体電解質材料を安定的に得ることができる、硫化リン組成物を提供する。【解決手段】少なくともP2S5およびP4S9を含む硫化物系無機固体電解質材料用の硫化リン組成物であって、前記硫化リン組成物中のP2S5、P4S9、P4S7およびP4S3の含有量の合計を100質量%としたとき、固体31P-NMRスペクトルから算出される前記P2S5の含有量が30質量%以上60質量%以下であり、線源としてCuKα線を用いたX線回折により得られるスペクトルから算出される結晶化度が40%以上70%以下である硫化リン組成物。【選択図】なし

Description

本発明は、硫化リン組成物に関する。
リチウムイオン電池は、一般的に、携帯電話やノートパソコン等の小型携帯機器の電源として使用されている。また、最近では小型携帯機器以外に、電気自動車や電力貯蔵等の電源としてもリチウムイオン電池は使用され始めている。
現在市販されているリチウムイオン電池には、可燃性の有機溶媒を含む電解液が使用されている。一方、電解液を固体電解質に替えて、電池を全固体化したリチウムイオン電池(以下、全固体型リチウムイオン電池とも呼ぶ。)は、電池内に可燃性の有機溶媒を用いないので、安全装置の簡素化が図れ、製造コストや生産性に優れると考えられている。
このような固体電解質に用いられる固体電解質材料としては、例えば、硫化物系無機固体電解質材料が知られている。
特許文献1(特開2016-27545号公報)には、CuKα線を用いたX線回折測定における2θ=29.86°±1.00°の位置にピークを有し、Li2y+3PS(0.1≦y≦0.175)の組成を有することを特徴とする硫化物系固体電解質材料が記載されている。
特開2016-27545号公報
本発明者らの検討によれば、硫化物系無機固体電解質材料の原料の一つである硫化リンの種類(例えば、製造会社や製造ロット、製造方法)を変更すると、得られる硫化物系無機固体電解質材料のリチウムイオン伝導性が低くなる場合があることが明らかになった。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、リチウムイオン伝導性が向上した硫化物系無機固体電解質材料を安定的に得ることができる、硫化リン組成物を提供するものである。
本発明者らは、リチウムイオン伝導性が向上した硫化物系無機固体電解質材料を提供するために鋭意検討した。その結果、硫化物系無機固体電解質材料を製造する際の原料として、Pの含有量および結晶化度がそれぞれ特定の範囲である硫化リン組成物を用いると、得られる硫化物系無機固体電解質材料のリチウムイオン伝導性を向上できることを見出し、本発明に至った。
本発明によれば、以下に示す硫化リン組成物、硫化物系無機固体電解質材料の原料組成物、硫化物系無機固体電解質材料の製造方法、硫化物系無機固体電解質材料、硫化物系無機固体電解質、硫化物系無機固体電解質膜およびリチウムイオン電池が提供される。
[1]
少なくともPおよびPを含む硫化物系無機固体電解質材料用の硫化リン組成物であって、
前記硫化リン組成物中のP、P、PおよびPの含有量の合計を100質量%としたとき、
固体31P-NMRスペクトルから算出される前記Pの含有量が30質量%以上60質量%以下であり、
線源としてCuKα線を用いたX線回折により得られるスペクトルから算出される結晶化度が40%以上70%以下である硫化リン組成物。
[2]
固体31P-NMRスペクトルから算出される前記Pの含有量が40質量%以上70質量%以下である、前記[1]に記載の硫化リン組成物。
[3]
前記Pおよび前記Pの合計含有量が90質量%以上である、前記[1]または[2]に記載の硫化リン組成物。
[4]
示差走査熱量計により測定して得られる、前記硫化リン組成物のDSC曲線において、280℃以上300℃以下の温度領域に吸熱ピークが観察され、前記吸熱ピークの融解熱量が60J/g以上90J/g以下である、前記[1]~[3]のいずれかに記載の硫化リン組成物。
[5]
粉末状である、前記[1]~[4]のいずれかに記載の硫化リン組成物。
[6]
前記[1]~[5]のいずれかに記載の硫化リン組成物と、硫化リチウムと、を含む、硫化物系無機固体電解質材料の原料組成物。
[7]
前記[6]に記載の硫化物系無機固体電解質材料の原料組成物を機械的処理する工程を含む硫化物系無機固体電解質材料の製造方法。
[8]
前記[6]に記載の硫化物系無機固体電解質材料の原料組成物の機械的処理物を含む、硫化物系無機固体電解質材料。
[9]
前記[8]に記載の硫化物系無機固体電解質材料を含む硫化物系無機固体電解質。
[10]
前記[9]に記載の硫化物系無機固体電解質を主成分として含む硫化物系無機固体電解質膜。
[11]
正極活物質層を含む正極と、電解質層と、負極活物質層を含む負極とを備えたリチウムイオン電池であって、
前記正極活物質層、前記電解質層および前記負極活物質層のうち少なくとも一つが、前記[8]に記載の硫化物系無機固体電解質材料を含むリチウムイオン電池。
本発明によれば、リチウムイオン伝導性が向上した硫化物系無機固体電解質材料を安定的に得ることができる、硫化リン組成物を提供することができる。
本実施形態のリチウムイオン電池の構造の一例を示す断面図である。 本実施形態の硫化リン組成物の結晶化度の算出方法(ピーク分離法)を説明するためのX線回折スペクトルを示す図である。 吸熱ピークの融解熱量を算出する際に用いるベースラインを説明するための図である。
以下に、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。なお、すべての図面において、同様な構成要素には共通の符号を付し、適宜説明を省略する。また、図は概略図であり、実際の寸法比率とは一致していない。数値範囲の「A~B」は特に断りがなければ、A以上B以下を表す。
[硫化リン組成物]
本実施形態の硫化リン組成物は、少なくともPおよびPを含む硫化物系無機固体電解質材料用の硫化リン組成物であって、前記硫化リン組成物中のP、P、PおよびPの含有量の合計を100質量%としたとき、固体31P-NMRスペクトルから算出される前記Pの含有量が30質量%以上60質量%以下であり、線源としてCuKα線を用いたX線回折により得られるスペクトルから算出される結晶化度が40%以上70%以下である。
本発明者らの検討によれば、硫化物系無機固体電解質材料の原料の一つである硫化リンの種類(例えば、製造会社や製造ロット、製造方法)を変えると、得られる硫化物系無機固体電解質材料のリチウムイオン伝導性が低くなる場合があることが明らかになった。
そこで、本発明者らは、リチウムイオン伝導性が向上した硫化物系無機固体電解質材料を安定的に得る製造方法を提供するために鋭意検討した。その結果、硫化物系無機固体電解質材料を製造する際の原料として、固体31P-NMRスペクトルから算出されるPの含有量および線源としてCuKα線を用いたX線回折により得られるスペクトルから算出される結晶化度がそれぞれ特定の範囲である硫化リン組成物を用いると、得られる硫化物系無機固体電解質材料のリチウムイオン伝導性を向上できることを見出し、本発明に至った。
すなわち、本実施形態によれば、硫化物系無機固体電解質材料の原料として、固体31P-NMRスペクトルから算出されるPの含有量が30質量%以上60質量%以下であり、線源としてCuKα線を用いたX線回折により得られるスペクトルから算出される結晶化度が40%以上70%以下である硫化リン組成物を用いることにより、リチウムイオン伝導性が向上した硫化物系無機固体電解質材料を安定的に得ることができる。
本実施形態の硫化リン組成物中のPの含有量は30質量%以上60質量%以下であるが、本実施形態の硫化リン組成物の全体を100質量%としたとき、本実施形態の硫化物系無機固体電解質材料のリチウムイオン伝導性をより一層向上できる点から、好ましくは35質量%以上、より好ましくは38質量%以上、さら好ましくは40質量%以上であり、そして、好ましくは55質量%以下、より好ましくは52質量%以下、さらに好ましくは50質量%以下である。
ここで、本実施形態の硫化リン組成物中のPの含有量は固体31P-NMRスペクトルから算出することができる。
本実施形態の硫化リン組成物中のPの含有量は、本実施形態の硫化リン組成物の全体を100質量%としたとき、本実施形態の硫化物系無機固体電解質材料のリチウムイオン伝導性をより一層向上できる点から、好ましくは40質量%以上、より好ましくは45質量%以上、さらに好ましくは48質量%以上、さらに好ましくは50質量%以上であり、そして、好ましくは70質量%以下、より好ましくは65質量%以下、さらに好ましくは62質量%以下、さらに好ましくは60質量%以下である。
ここで、本実施形態の硫化リン組成物中のPの含有量は固体31P-NMRスペクトルから算出することができる。
本実施形態の硫化リン組成物は少なくともPおよびPを含む。本実施形態の硫化リン組成物中のPおよびPの合計含有量は、本実施形態の硫化リン組成物の全体を100質量%としたとき、本実施形態の硫化物系無機固体電解質材料のリチウムイオン伝導性をより一層向上できる点から、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは97質量%以上、さらに好ましくは98質量%以上、さらに好ましくは99質量%以上である。本実施形態の硫化リン組成物中のPおよびPの合計含有量の上限は特に限定されないが、例えば、100質量%以下である。
固体31P-NMRスペクトルは、例えば、以下の方法で測定できる。
はじめに、Nガスでパージしたグローボックス内で3.2mm径の測定用試料管に試験試料を充填し、外部磁場に対してマジック角(54.7度)傾斜した状態で回転(Magic Angle Spining:MAS)させ、以下の条件で測定をおこなう。
装置:(株)JEOL RESONANCE製JNM-ECA-600
観測周波数:242.95MHz
パルス幅:90°パルス
パルス待ち時間:2800秒
積算回数:64回
測定モード:シングルパルス法
MAS速度:12kHz
標準物質:(NHHPO・1.33ppm
試験試料の31P-NMRスペクトルにおいて検出されたピークについて、参考文献1「Hellmut Eckert, Cheryl S. Liang and Galen D. Stucky : 31P magic angle spinning NMR of crystalline phosphorous sulfides. Correlation of 31P chemical shielding tensors with local environments, J. Phys. Chem, 1989, 93, 452-457」を参照し、下記のピーク帰属に基づいてガウス関数を用いた波形分離を実施し、各ピークの積分値を算出する。各成分に由来するピークの積分値は、含有するリンのモル数に比例する。そのため、得られた積分値と各成分の分子量より含有比率を算出することができる。
の化学シフトは40~52ppm、Pの化学シフトは52~70ppm、Pの化学シフトは80~90ppm、90~100ppm、110~115ppm、Pの化学シフトは80~90ppm、90~100ppmである。
線源としてCuKα線を用いたX線回折により得られるスペクトルから算出される、本実施形態の硫化リン組成物の結晶化度は40%以上70%以下であるが、本実施形態の硫化物系無機固体電解質材料のリチウムイオン伝導性をより一層向上できる点から、好ましくは45%以上、より好ましくは48%以上、さらに好ましくは50%以上、さらに好ましくは52%以上であり、そして、好ましくは65%以下、より好ましくは63%以下、さらに好ましくは60%以下である。
ここで、硫化リン組成物の結晶化度の算出方法について、図2を用いながら説明する。図2は、本実施形態の硫化リン組成物の結晶化度の算出方法(ピーク分離法)を説明するためのX線回折スペクトルを示す図である。
まず、線源としてCuKα線を用いたX線回折では、結晶質に対応する回折曲線はシャープなピークになり、非晶質に対応する回折曲線は散乱によりブロードなハローとなるため、結晶質および非晶質の合計に対する結晶質の割合を結晶化度として算出できる。
本実施形態では、結晶化度を算出する方法として、ピーク分離法を利用する。非干渉性散乱や格子の乱れ等の影響を考慮しないで、プロファイル・フィッティングの手法を用いてX線回折パターン(散乱曲線とも呼ぶ。)を結晶性回折曲線と非晶質ハローにピークを分離する。プロファイル・フィッティングにはX線回折装置付属の解析ソフトを利用することができる。
結晶化度を算出する具体的な手順は以下のとおりである(図2参照;リガク社、X線回折ハンドブック、2000年2月21日、三版、P83、図3.6.2引用)。
(1)バックグランドの分離
低角度側から高角度側のX線強度を直線で結び、直線下の面積をバックグランドとする。
(2)ハローの分離
非晶質によるハローパターンを推定して、バックグランドを差し引いた散乱曲線からハローを分離する。
(3)結晶性回折曲線の分離
上記(2)と同様の方法で、結晶性回折曲線を分離する。
(4)結晶化度の算出
散乱曲線から分離した、非晶成分の回折曲線(非晶質ハロー)および結晶成分の回折曲線(結晶性回折曲線)の曲線下の面積(積分強度)を用いて、下記(1)式から結晶化度を算出する。
Xc={Ic/(Ic+Ia)}×100 (1)
Ic:結晶成分の回折曲線(結晶性回折曲線)の曲線下の面積(積分強度)
Ia:非晶成分の回折曲線(非晶質ハロー)の曲線下の面積(積分強度)
また、硫化リン組成物が溶媒を含む場合は、硫化リン組成物から溶剤を乾燥除去してから測定することが好ましい。
本実施形態の硫化物系無機固体電解質材料のリチウムイオン伝導性をより一層向上できる点から、示差走査熱量計により測定して得られる、本実施形態の硫化リン組成物のDSC曲線において、280℃以上300℃以下の温度領域に吸熱ピークが観察されることが好ましく、前記吸熱ピークの融解熱量が好ましくは60J/g以上、より好ましくは65J/g以上、さらに好ましくは70J/g以上、さらに好ましくは75J/g以上、さらに好ましくは80J/g以上、そして、好ましくは90J/g以下、より好ましくは88J/g以下、さらに好ましくは85J/g以下である。
なお、上記DSC曲線は、例えば、以下の方法で測定できる。
まず、アルゴン雰囲気中で、アルミニウムパンに硫化リン組成物20~25mgを秤量し、その後、アルミニウム蓋を被せサンプルシーラーで密封する。リファレンスのアルミニウム容器は空の状態とする。開始温度25℃、測定温度範囲30~350℃、昇温速度5℃/min、アルゴン毎分100mlの雰囲気の条件下で、示差走査熱量計を用いて示差走査熱量測定を行う。また、示差走査熱量計としては、特に限定されないが、例えば、DSC6300、セイコーインスツルメント社製を使用することができる。
また、硫化リン組成物が溶媒を含む場合は、硫化リン組成物から溶剤を乾燥除去してから測定することが好ましい。
これにより得られたDSC曲線から、280℃以上300℃以下の温度領域に吸熱ピークの有無を観察することができる。
ここで、上記吸熱ピークの融解熱量は、吸熱ピークを含む融解吸熱カーブと、ベースラインとで囲まれる面積を求めることで算出される。物質固有の熱容量は熱変化の前後で異なるため、吸熱ピーク前後のベースラインは一直線にならない。
そこで、本実施形態において、吸熱ピークにおけるベースラインは、図3に示す点Rと点Sを結んだ線とする。点Rは、吸熱ピーク前のベースラインと吸熱ピークの接線との交点Pを通るとともにY軸に平行な線と、融解吸熱カーブとの交点である。点Sは、吸熱ピーク後のベースラインと吸熱ピークの接線との交点Qを通るとともにY軸に平行な線と、融解吸熱カーブとの交点である。
本実施形態の硫化リン組成物の性状としては、例えば粉末状を挙げることができる。本実施形態の硫化物系無機固体電解質材料の製造は一般的には乾式でおこなわれるため、本実施形態の硫化リン組成物の性状が粉末状であると、硫化物系無機固体電解質材料の製造がより容易となる。
[硫化物系無機固体電解質材料の製造方法]
本実施形態の硫化物系無機固体電解質材料の製造方法は、本実施形態の硫化リン組成物と、硫化リチウムと、を含む、硫化物系無機固体電解質材料の原料組成物を機械的処理することにより、各成分を化学反応させながらガラス化して、ガラス状態の硫化物系無機固体電解質材料を得る工程を含む。
すなわち、本実施形態の硫化物系無機固体電解質材料の製造方法は、以下の工程(A)を含み、さらに工程(B)や工程(C)を含んでもよい。工程(C)は、工程(A)と工程(B)の間に行ってもよいし、工程(B)の後に行ってもよい。
工程(A):本実施形態の硫化リン組成物と、硫化リチウムと、を含む、硫化物系無機固体電解質材料の原料組成物を機械的処理することにより、各成分を化学反応させながらガラス化して、ガラス状態の硫化物系無機固体電解質材料を得る工程
工程(B):得られたガラス状態の硫化物系無機固体電解質材料を加熱し、少なくとも一部を結晶化させ、ガラスセラミックス状態の硫化物系無機固体電解質材料を得る工程
工程(C):得られたガラスもしくはガラスセラミックス状態の硫化物系無機固体電解質材料を粉砕、分級、または造粒する工程
(工程(A))
はじめに、硫化物系無機固体電解質材料の原料組成物を準備する。硫化物系無機固体電解質材料の原料組成物は、本実施形態の硫化リン組成物と、硫化リチウムと、を含み、必要に応じて窒化リチウムをさらに含んでもよい。
ここで、原料組成物中の各原料の混合比は、得られる硫化物系無機固体電解質材料が所望の組成比になるように調整する。
各原料を混合する方法としては各原料を均一に混合できる混合方法であれば特に限定されないが、例えば、ボールミル、ビーズミル、振動ミル、打撃粉砕装置、ミキサー(パグミキサー、リボンミキサー、タンブラーミキサー、ドラムミキサー、V型混合器等)、ニーダー、2軸ニーダー、気流粉砕機、クラッシャー、回転刃式の粉砕機等を用いて混合することができる。
各原料を混合するときの攪拌速度や処理時間、温度、反応圧力、混合物に加えられる重力加速度等の混合条件は、混合物の処理量によって適宜決定することができる。
工程(A)においては、本実施形態の硫化リン組成物と、硫化リチウムと、を含む硫化物系無機固体電解質材料の原料組成物を機械的処理することにより、各成分を化学反応させながらガラス化して、ガラス状態の硫化物系無機固体電解質材料を得る。
ここで、機械的処理は、2種以上の無機化合物を機械的に衝突させることにより、化学反応させながらガラス化させることができるものであり、例えば、メカノケミカル処理等が挙げられる。ここで、メカノケミカル処理とは、対象の組成物にせん断力や衝突力のような機械的エネルギーを加えつつガラス化する方法である。
また、工程(A)において、メカノケミカル処理は、水分や酸素を高いレベルで除去した環境下を実現しやすい観点から、乾式メカノケミカル処理であることが好ましい。
メカノケミカル処理を用いると、各原料を微粒子状に粉砕しながら混合することができるため、各原料の接触面積を大きくすることができる。それにより、各原料の反応を促進することができるため、本実施形態の硫化物系無機固体電解質材料をより一層効率良く得ることができる。
ここで、メカノケミカル処理とは、混合対象に、せん断力、衝突力または遠心力のような機械的エネルギーを加えつつガラス化する方法である。メカノケミカル処理によるガラス化をおこなう装置(以下、ガラス化装置と呼ぶ。)としては、ボールミル、ビーズミル、振動ミル、ターボミル、メカノフュージョン、ディスクミル、ロールミル等の粉砕・分散機;削岩機や振動ドリル、インパクトドライバ等で代表される回転(せん断応力)および打撃(圧縮応力)を組み合わせた機構からなる回転・打撃粉砕装置;高圧型グライディングロール;ローラ式竪型ミルやボール式竪型ミル等の竪型ミル等が挙げられる。
これらの中でも、非常に高い衝撃エネルギーを効率良く発生させることができる観点から、ボールミルおよびビーズミルが好ましく、ボールミルがより好ましい。
また、連続生産性に優れている観点から、ロールミル;削岩機や振動ドリル、インパクトドライバ等で代表される回転(せん断応力)および打撃(圧縮応力)を組み合わせた機構からなる回転・打撃粉砕装置;高圧型グライディングロール;ローラ式竪型ミルやボール式竪型ミル等の竪型ミル等が好ましい。
硫化物系無機固体電解質材料の原料組成物を機械的処理するときの回転速度や処理時間、温度、反応圧力、原料組成物に加えられる重力加速度等の混合条件は、原料組成物の種類や処理量によって適宜決定することができる。一般的には、回転速度が速いほど、ガラスの生成速度は速くなり、処理時間が長いほどガラスヘの転化率は高くなる。
通常は、線源としてCuKα線を用いたX線回折分析をしたとき、原料由来の回折ピークが消失または低下していたら、硫化物系無機固体電解質材料の原料組成物はガラス化され、所望の硫化物系無機固体電解質材料が得られていると判断することができる。
工程(A)における機械的処理は不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。これにより硫化物系無機固体電解質材料の劣化(例えば、酸化)を防止することができる。
不活性ガスとしては、例えば、アルゴンガス、ヘリウムガス、窒素ガス等が挙げられる。これらの不活性ガスは、製品への不純物の混入を防止するために、高純度である程好ましく、また、水分の接触を避けるために、露点が-70℃以下であることが好ましく、-80℃以下であることがより好ましい。
ここで、工程(A)では、27.0℃、印加電圧10mV、測定周波数域0.1Hz~3MHzの測定条件における交流インピーダンス法による硫化物系無機固体電解質材料のリチウムイオン伝導度が、好ましくは1.0×10-4S・cm-1以上、より好ましくは2.0×10-4S・cm-1以上、さらに好ましくは3.0×10-4S・cm-1以上、さらに好ましくは4.0×10-4S・cm-1以上となるまでガラス化処理をおこなうことが好ましい。これにより、リチウムイオン伝導性により一層優れた硫化物系無機固体電解質材料を得ることができる。
<硫化リチウム>
原料として用いる硫化リチウムとしては特に限定されず、市販されている硫化リチウムを使用してもよいし、例えば、水酸化リチウムと硫化水素との反応により得られる硫化リチウムを使用してもよい。高純度な硫化物系無機固体電解質材料を得る観点および副反応を抑制する観点から、不純物の少ない硫化リチウムを使用することが好ましい。
ここで、本実施形態において、硫化リチウムには多硫化リチウムも含まれる。
<窒化リチウム>
原料として窒化リチウムを用いてもよい。ここで、窒化リチウム中の窒素はNとして系外に排出されるため、原料として窒化リチウムを利用することで、構成元素としてLi、P、およびSを含む硫化物系無機固体電解質材料に対し、Li組成のみを増加させることが可能となる。
本実施形態の窒化リチウムとしては特に限定されず、市販されている窒化リチウム(例えば、LiN等)を使用してもよいし、例えば、金属リチウム(例えば、Li箔)と窒素ガスとの反応により得られる窒化リチウムを使用してもよい。
本実施形態の硫化物系無機固体電解質材料の製造方法では、高純度な固体電解質材料を得る観点および副反応を抑制する観点から、不純物の少ない窒化リチウムを使用することが好ましい。
ここで、原料組成物中の各原料の比率は、硫化物系無機固体電解質材料が所望の組成比になるように調整することができる。
(工程(B))
工程(B)においては、得られたガラス状態の硫化物系無機固体電解質材料を加熱し、少なくとも一部を結晶化させ、ガラスセラミックス状態の硫化物系無機固体電解質材料を得る。こうすることにより、より一層リチウムイオン伝導性に優れた硫化物系無機固体電解質材料を得ることができる。
すなわち、本実施形態の硫化物系無機固体電解質材料は、リチウムイオン伝導性に優れる点から、ガラスセラミックス状態(結晶化ガラス状態)が好ましい。ここで、ガラスセラミックスとは、無機化合物の少なくとも一部が結晶化したものであり、結晶化ガラスとも呼ばれる。
工程(B)における加熱処理温度は特に限定されるものではないが、本実施形態の硫化物系無機固体電解質材料のリチウムイオン伝導性をより向上させる観点から、好ましくは180℃以上、より好ましくは200℃以上、さらに好ましくは220℃以上であり、そして、好ましくは500℃以下、より好ましくは450℃以下、さらに好ましくは400℃以下、さらに好ましくは350℃以下である。
工程(B)における加熱処理時間は所望のガラスセラミックス状態の硫化物系無機固体電解質材料が得られる時間であれば特に限定されるものではないが、本実施形態の硫化物系無機固体電解質材料のリチウムイオン伝導性をより向上させる観点から、好ましくは0.5時間以上、より好ましくは1時間以上であり、そして、好ましくは24時間以下、より好ましくは3時間以下である。
また、工程(B)における加熱処理の方法は特に限定されないが、例えば、加熱炉や焼成炉を用いる方法を挙げることができる。なお、このような加熱する際の温度、時間等の条件は、本実施形態の硫化物系無機固体電解質材料の特性を最適なものにするため適宜調整することができる。
また、工程(B)における加熱処理は、硫化物系無機固体電解質材料の劣化(例えば、酸化)を防止する観点から、不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
ガラス状態の硫化物系無機固体電解質材料を加熱するときの不活性ガスとしては、例えば、アルゴンガス、ヘリウムガス、窒素ガス等が挙げられる。これらの不活性ガスは、製品への不純物の混入を防止するために、高純度である程好ましく、また、水分の接触を避けるために、露点が-30℃以下であることが好ましく、-70℃以下であることがより好ましく、-80℃以下であることが特に好ましい。混合系への不活性ガスの導入方法としては、混合系内が不活性ガス雰囲気で満たされる方法であれば特に限定されないが、不活性ガスをパージする方法、不活性ガスを一定量導入し続ける方法等が挙げられる。
(工程(C))
本実施形態の硫化物系無機固体電解質材料の製造方法では、必要に応じて、得られたガラスもしくはガラスセラミックス状態の硫化物系無機固体電解質材料を粉砕、分級、または造粒する工程(C)をさらにおこなってもよい。例えば、粉砕により微粒子化し、その後、分級操作や造粒操作によって粒子径を調整することにより、所望の粒子径を有する硫化物系無機固体電解質材料を得ることができる。上記粉砕方法としては特に限定されず、ミキサー、気流粉砕、乳鉢、回転ミル、コーヒーミル等公知の粉砕方法を用いることができる。また、上記分級方法としては特に限定されず、篩等公知の方法を用いることができる。
これらの粉砕または分級は、空気中の水分との接触を防ぐことができる点から、不活性ガス雰囲気下または真空雰囲気下で行うことが好ましい。
[硫化物系無機固体電解質材料]
本実施形態の硫化物系無機固体電解質材料は、本実施形態の硫化物系無機固体電解質材料の製造方法により得ることができる。すなわち、本実施形態の硫化物系無機固体電解質材料は、本実施形態の硫化物系無機固体電解質材料の原料組成物の機械的処理物を含む。
本実施形態の硫化物系無機固体電解質材料は、リチウムイオン伝導性を必要とする任意の用途に用いることができ、好ましくはリチウムイオン電池、より好ましくは全固体型リチウムイオン電池に用いることができる。
下記<リチウムイオン伝導度の測定>に記載された方法により測定される、本実施形態の硫化物系無機固体電解質材料のリチウムイオン伝導度は、リチウムイオン電池の入出力特性をより向上させる観点から、好ましくは1.0×10-3S/cm以上、より好ましくは1.1×10-3S/cm以上、さらに好ましくは1.2×10-3S/cm以上、さらに好ましくは1.3×10-3S/cm以上、さらに好ましくは1.4×10-3S/cm以上である。
また、本実施形態の硫化物系無機固体電解質材料のリチウムイオン伝導度は特に限定されないが、例えば、1.0×10-2S/cm以下であり、5.0×10-3S/cm以下であってもよく、3.0×10-3S/cm以下であってもよく、2.0×10-3S/cm以下であってもよい。
<リチウムイオン伝導度の測定>
まず、硫化物系無機固体電解質材料110mgを270MPa、10分間の条件でプレスし、直径9.5mm、厚さ1mmの円板状試料を得る。
次いで、電気化学装置を用いて、印加電圧10mV、測定周波数域0.1Hz~3MHz、測定温度27℃という条件で、電極としてLi箔を用い、交流インピーダンス法により、得られた円板状試料のリチウムイオン伝導度を測定する。
なお、リチウムイオン伝導度の測定は、例えば、バイオロジック社製のポテンショスタット/ガルバノスタットSP-300等の電気化学測定装置で行うことができる。
本実施形態の硫化物系無機固体電解質材料は電気化学的安定性が良好であることが好ましい。ここで、電気化学的安定性とは、例えば、広い電圧範囲で酸化還元されにくい性質をいう。より具体的には、本実施形態の硫化物系無機固体電解質材料において、温度25℃、掃引電圧範囲0~5V、電圧掃引速度5mV/秒の条件で測定される硫化物系無機固体電解質材料の酸化分解電流の最大値が、好ましくは0.50μA以下、より好ましくは0.20μA以下、さらに好ましくは0.10μA以下、さらに好ましくは0.05μA以下、さらに好ましくは0.03μA以下である。
硫化物系無機固体電解質材料の酸化分解電流の最大値が上記上限値以下であると、リチウムイオン電池内での硫化物系無機固体電解質材料の酸化分解を抑制することができるため好ましい。
硫化物系無機固体電解質材料の酸化分解電流の最大値の下限値は特に限定されないが、例えば、0.0001μA以上である。
本実施形態の硫化物系無機固体電解質材料は、リチウムイオン伝導性を必要とする任意の用途に用いることができる。中でも、本実施形態の硫化物系無機固体電解質材料は、リチウムイオン電池に用いられることが好ましい。より具体的には、リチウムイオン電池における正極活物質層、負極活物質層、電解質層等に使用されることが好ましい。さらに、本実施形態の硫化物系無機固体電解質材料は、全固体型リチウムイオン電池を構成する正極活物質層、負極活物質層、固体電解質層等に好適に用いられ、全固体型リチウムイオン電池を構成する固体電解質層により好適に用いられる。
本実施形態の硫化物系無機固体電解質材料を適用した全固体型リチウムイオン電池の例としては、正極と、固体電解質層と、負極とがこの順番に積層されたものが挙げられる。
本実施形態の硫化物系無機固体電解質材料は、電気化学的安定性、水分や空気中での安定性および取り扱い性等をより一層向上させる観点から、構成元素としてLi、PおよびSを含むことが好ましい。
また、本実施形態の硫化物系無機固体電解質材料は、リチウムイオン伝導性および電気化学的安定性の性能バランスを向上させる観点、並びに、水分または空気中での安定性および取り扱い性をより一層向上させる観点から、本実施形態の硫化物系無機固体電解質材料中のPの含有量に対するLiの含有量のモル比Li/Pが、好ましくは1.0以上5.0以下、より好ましくは2.0以上4.0以下、さらに好ましくは2.5以上3.8以下、さらに好ましくは2.7以上3.6以下、さらに好ましくは2.8以上3.5以下、さらに好ましくは2.9以上3.4以下、さらに好ましくは3.0以上3.3以下であり、そしてPの含有量に対するSの含有量のモル比S/Pが、好ましくは2.0以上6.0以下であり、より好ましくは3.0以上5.0以下、さらに好ましくは3.5以上4.5以下、さらに好ましくは3.8以上4.2以下、さらに好ましくは3.9以上4.1以下、さらに好ましくは4.0である。
本実施形態の硫化物系無機固体電解質材料は、リチウムイオン伝導性および電気化学的安定性の性能バランスを向上させる観点、並びに、水分または空気中での安定性および取り扱い性をより一層向上させる観点から、LiPSおよびLi1012からなる群から選択される一種または二種を含むことが好ましい。
ここで、本実施形態の硫化物系無機固体電解質材料中のLi、PおよびSの含有量は、例えば、ICP発光分光分析やX線分析により求めることができる。
本実施形態の硫化物系無機固体電解質材料の形状としては、例えば粒子状を挙げることができる。
本実施形態の粒子状の硫化物系無機固体電解質材料は特に限定されないが、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による重量基準粒度分布における平均粒子径d50が、好ましくは1μm以上100μm以下であり、より好ましくは3μm以上80μm以下、さらに好ましくは5μm以上60μm以下である。
硫化物系無機固体電解質材料の平均粒子径d50を上記範囲内とすることにより、良好なハンドリング性を維持すると共にリチウムイオン伝導性をより一層向上させることができる。
[硫化物系無機固体電解質]
本実施形態の硫化物系無機固体電解質は、本実施形態の硫化物系無機固体電解質材料を含む。
本実施形態の硫化物系無機固体電解質は、本実施形態の硫化物系無機固体電解質材料以外の成分として、例えば、本発明の目的を損なわない範囲内で、本実施形態の硫化物系無機固体電解質材料とは異なる種類の固体電解質材料を含んでもよい。
本実施形態の硫化物系無機固体電解質材料とは異なる種類の固体電解質材料としては、イオン伝導性および絶縁性を有するものであれば特に限定されないが、一般的にリチウムイオン電池に用いられるものを用いることができる。例えば、本実施形態の硫化物系無機固体電解質材料とは異なる種類の硫化物系無機固体電解質材料、酸化物系無機固体電解質材料、その他のリチウム系無機固体電解質材料等の無機固体電解質材料;ポリマー電解質等の有機固体電解質材料を挙げることができる。
本実施形態の硫化物系無機固体電解質材料とは異なる種類の硫化物系無機固体電解質材料としては、例えば、LiS-SiS材料、LiS-GeS材料、LiS-Al材料、LiS-SiS-LiPO材料等が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
ここで、例えば、LiS-SiS材料とは、少なくともLiS(硫化リチウム)とSiSとを含む無機組成物を機械的処理により互いに化学反応させることにより得られる固体電解質材料を意味する。
ここで、硫化リチウムには多硫化リチウムも含まれる。
酸化物系無機固体電解質材料としては、例えば、LiTi(PO、LiZr(PO、LiGe(PO等のNASICON型材料;(La0.5+xLi0.5-3x)TiO等のペロブスカイト型材料;LiO-P材料;LiO-P-LiN材料;等を挙げることができる。
その他のリチウム系無機固体電解質材料としては、例えば、LiPON、LiNbO、LiTaO、LiPO、LiPO4-x(xは0<x≦1)、LiN、LiI、LISICON等を挙げることができる。
さらに、無機固体電解質の結晶を析出させて得られるガラスセラミックスも無機固体電解質材料として用いることができる。
上記有機固体電解質材料としては、例えば、ドライポリマー電解質、ゲル電解質等のポリマー電解質を用いることができる。
ポリマー電解質としては、一般的にリチウムイオン電池に用いられるものを用いることができる。
[硫化物系無機固体電解質膜]
本実施形態の硫化物系無機固体電解質膜は、本実施形態の硫化物系無機固体電解質を主成分として含む。
本実施形態の硫化物系無機固体電解質膜は、例えば、全固体型リチウムイオン電池を構成する固体電解質層に用いられる。本実施形態の固体電解質膜を適用した全固体型リチウムイオン電池の例としては、正極と、固体電解質層と、負極とがこの順番に積層されたものが挙げられる。この場合、固体電解質層が固体電解質膜により構成されたものである。
本実施形態の硫化物系無機固体電解質膜の平均厚みは、固体電解質の欠落および固体電解質膜表面のクラックの発生をより一層抑制する観点から、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上、さらに好ましくは20μm以上である。
本実施形態の硫化物系無機固体電解質膜の平均厚みは、好ましくは500μm以下、より好ましくは200μm以下、さらに好ましくは100μm以下である。これにより固体電解質膜のインピーダンスをより一層低下させることができ、その結果、得られる全固体型リチウムイオン電池の電池特性がより一層向上させることができる。
本実施形態の硫化物系無機固体電解質膜は、粒子状の固体電解質の加圧成形体であることが好ましい。すなわち、粒子状の固体電解質を加圧し、固体電解質材料同士のアンカー効果で一定の強度を有する固体電解質膜とすることが好ましい。加圧成形体とすることにより、固体電解質同士の結合が起こり、得られる固体電解質膜の強度はより一層高くなる。その結果、固体電解質の欠落や、固体電解質膜表面のクラックの発生をより一層抑制できる。
本実施形態の硫化物系無機固体電解質膜中の本実施形態の硫化物系無機固体電解質材料の含有量は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上である。これにより、固体電解質間の接触性が改善し、固体電解質膜の界面接触抵抗を低下させることができ、その結果、固体電解質膜のリチウムイオン伝導性がより一層向上する。そして、このようなリチウムイオン伝導性に優れた固体電解質膜を用いることにより、得られる全固体型リチウムイオン電池の電池特性をより一層向上できる。
本実施形態の硫化物系無機固体電解質膜中の本実施形態の硫化物系無機固体電解質材料の含有量の上限は特に限定されないが、例えば、100質量%以下である。
本実施形態の硫化物系無機固体電解質膜の平面形状は特に限定されず、電極や集電体の形状に合わせて適宜選択することが可能であるが、例えば、矩形とすることができる。
本実施形態の硫化物系無機固体電解質膜にはバインダー樹脂が含まれてもよいが、バインダー樹脂の含有量は、好ましくは0.5質量%未満、より好ましくは0.1質量%未満、さらに好ましくは0.05質量%未満、さらに好ましくは0.01質量%未満である。また、本実施形態の固体電解質膜は、バインダー樹脂を実質的に含まないことがさらに好ましく、バインダー樹脂を含まないことがさらに好ましい。これにより、固体電解質間の接触性が改善され、固体電解質膜の界面接触抵抗を低下させることができる。その結果、固体電解質膜のリチウムイオン伝導性をより一層向上させることができる。そして、このようなリチウムイオン伝導性が向上した固体電解質膜を用いることにより、得られる全固体型リチウムイオン電池の電池特性を向上できる。
なお、「バインダー樹脂を実質的に含まない」とは、本実施形態の効果が損なわれない程度には含有してもよいことを意味する。また、固体電解質層と正極または負極との間に粘着性樹脂層を設ける場合、固体電解質層と粘着性樹脂層との界面近傍に存在する粘着性樹脂層由来の粘着性樹脂は、「固体電解質膜中のバインダー樹脂」から除かれる。
上記バインダー樹脂は、無機固体電解質材料間を結着させるために、リチウムイオン電池に一般的に使用される結着剤のことをいい、例えば、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロース、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、スチレン・ブタジエン系ゴム、ポリイミド等が挙げられる。
本実施形態の硫化物系無機固体電解質膜は、例えば、粒子状の固体電解質を金型のキャビティ表面上または基材表面上に膜状に堆積させ、次いで、膜状に堆積した固体電解質を加圧することにより得ることができる。
上記固体電解質を加圧する方法は特に限定されず、例えば、金型のキャビティ表面上に粒子状の固体電解質を堆積させた場合は金型と押し型によるプレス、粒子状の固体電解質を基材表面上に堆積させた場合は金型と押し型によるプレスやロールプレス、平板プレス等を用いることができる。
固体電解質を加圧する圧力は、例えば、10MPa以上500MPa以下である。
また、必要に応じて、膜状に堆積した無機固体電解質を加圧するとともに加熱してもよい。加熱加圧を行えば固体電解質同士の融着・結合が起こり、得られる固体電解質膜の強度はより一層高くなり、その結果、固体電解質の欠落や、固体電解質膜表面のクラックの発生をより一層抑制できる。
固体電解質を加熱する温度は、例えば、40℃以上500℃以下である。
[リチウムイオン電池]
本実施形態のリチウムイオン電池は、例えば、正極活物質層を含む正極と、電解質層と、負極活物質層を含む負極とを備えたリチウムイオン電池であって、上記正極活物質層、上記電解質層および上記負極活物質層のうち少なくとも一つが、本実施形態の硫化物系無機固体電解質材料を含む。
図1は、本実施形態のリチウムイオン電池の構造の一例を示す断面図である。
本実施形態のリチウムイオン電池100は、例えば、正極活物質層101を含む正極110と、電解質層120と、負極活物質層103を含む負極130とを備えている。
そして、正極活物質層101、負極活物質層103および電解質層120の少なくとも一つが、上記した本実施形態の硫化物系無機固体電解質材料を含有する。また、正極活物質層101、負極活物質層103および電解質層120のすべてが、上記した本実施形態の硫化物系無機固体電解質材料を含有していることが好ましい。
なお、本実施形態では特に断りがなければ、正極活物質を含む層を正極活物質層101と呼ぶ。正極110は、必要に応じて、正極活物質層101に加えて集電体105をさらに含んでもよいし、集電体105を含まなくてもよい。また、本実施形態では特に断りがなければ、負極活物質を含む層を負極活物質層103と呼ぶ。負極130は、必要に応じて、負極活物質層103に加えて集電体105をさらに含んでもよいし、集電体105を含まなくてもよい。
本実施形態のリチウムイオン電池100の形状は特に限定されず、円筒型、コイン型、角型、フィルム型、その他任意の形状が挙げられる。
本実施形態のリチウムイオン電池100は、一般的に公知の方法に準じて製造される。例えば、正極110、電解質層120および負極130を重ねたものを、円筒型、コイン型、角型、フィルム型その他任意の形状に形成し、必要に応じて、非水電解液を封入することにより作製される。
<正極>
正極110は特に限定されず、リチウムイオン電池に一般的に用いられているものを使用することができる。正極110は特に限定されないが、一般的に公知の方法に準じて製造することができる。例えば、正極活物質を含む正極活物質層101をアルミ箔等の集電体105の表面に形成することにより得ることができる。
正極活物質層101の厚みや密度は、電池の使用用途等に応じて適宜決定されるため特に限定されず、一般的に公知の情報に準じて設定することができる。
正極活物質層101は正極活物質を含む。
正極活物質としては、リチウムイオン電池の正極に使用可能な正極活物質であれば特に限定されないが、例えば、リチウムコバルト酸化物(LiCoO)、リチウムニッケル酸化物(LiNiO)、リチウムマンガン酸化物(LiMn)、固溶体酸化物(LiMnO-LiMO(M=Co、Ni等))、リチウム-マンガン-ニッケル酸化物(LiNi1/3Mn1/3Co1/3)、オリビン型リチウムリン酸化物(LiFePO)等の複合酸化物;ポリアニリン、ポリピロール等の導電性高分子;LiS、CuS、Li-Cu-S化合物、TiS、FeS、MoS、Li-Mo-S化合物、Li-Ti-S化合物、Li-V-S化合物、Li-Fe-S化合物等の硫化物系正極活物質;硫黄を含浸したアセチレンブラック、硫黄を含浸した多孔質炭素、硫黄と炭素の混合粉等の硫黄を活物質とした材料;等を用いることができる。
正極活物質層101は特に限定されないが、上記正極活物質以外の成分として、例えば、バインダー樹脂、増粘剤、導電助剤、固体電解質材料等から選択される1種以上の材料を含んでもよい。以下、各材料について説明する。
正極活物質層101は、正極活物質同士および正極活物質と集電体105とを結着させる役割をもつバインダー樹脂を含んでもよい。
本実施形態のバインダー樹脂はリチウムイオン電池に使用可能な通常のバインダー樹脂であれば特に限定されないが、例えば、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロース、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、スチレン・ブタジエン系ゴム、ポリイミド等が挙げられる。これらのバインダーは一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
正極活物質層101は、塗布に適したスラリーの流動性を確保する点から、増粘剤を含んでもよい。増粘剤としてはリチウムイオン電池に使用可能な通常の増粘剤であれば特に限定されないが、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース系ポリマーおよびこれらのアンモニウム塩並びにアルカリ金属塩、ポリカルボン酸、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸塩、ポリビニルアルコール等の水溶性ポリマー等が挙げられる。これらの増粘剤は一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
正極活物質層101は、正極110の導電性を向上させる観点から、導電助剤を含んでもよい。導電助剤としてはリチウムイオン電池に使用可能な通常の導電助剤であれば特に限定されないが、例えば、アセチレンブラック、ケチェンブラック等のカーボンブラック、気相法炭素繊維等の炭素材料が挙げられる。
本実施形態のリチウムイオン電池の正極は、本実施形態の硫化物系無機固体電解質材料を含む固体電解質を含んでいてもよいし、本実施形態の硫化物系無機固体電解質材料とは異なる種類の固体電解質材料を含む固体電解質を含んでいてもよい。
本実施形態の硫化物系無機固体電解質材料とは異なる種類の固体電解質材料としては、イオン伝導性および絶縁性を有するものであれば特に限定されないが、一般的にリチウムイオン電池に用いられるものを用いることができる。例えば、本実施形態の硫化物系無機固体電解質材料とは異なる種類の硫化物系無機固体電解質材料、酸化物系無機固体電解質材料、その他のリチウム系無機固体電解質材料等の無機固体電解質材料;ポリマー電解質等の有機固体電解質材料;を挙げることができる。より具体的には、上記した本実施形態の硫化物系無機固体電解質の説明で挙げた固体電解質材料を用いることができる。
正極活物質層101中の各種材料の配合割合は、電池の使用用途等に応じて、適宜決定されるため特に限定されず、一般的に公知の情報に準じて設定することができる。
<負極>
負極130は特に限定されず、リチウムイオン電池に一般的に用いられているものを使用することができる。負極130は特に限定されないが、一般的に公知の方法に準じて製造することができる。例えば、負極活物質を含む負極活物質層103を銅等の集電体105の表面に形成することにより得ることができる。
負極活物質層103の厚みや密度は、電池の使用用途等に応じて適宜決定されるため特に限定されず、一般的に公知の情報に準じて設定することができる。
負極活物質層103は負極活物質を含む。
上記負極活物質としては、リチウムイオン電池の負極に使用可能な負極活物質であれば特に限定されないが、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、樹脂炭、炭素繊維、活性炭、ハードカーボン、ソフトカーボン等の炭素質材料;リチウム、リチウム合金、スズ、スズ合金、シリコン、シリコン合金、ガリウム、ガリウム合金、インジウム、インジウム合金、アルミニウム、アルミニウム合金等を主体とした金属系材料;ポリアセン、ポリアセチレン、ポリピロール等の導電性ポリマー;リチウムチタン複合酸化物(例えばLiTi12)等が挙げられる。これらの負極活物質は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
負極活物質層103は特に限定されないが、上記負極活物質以外の成分として、例えば、バインダー樹脂、増粘剤、導電助剤、固体電解質材料等から選択される1種以上の材料を含んでもよい。これらの材料としては、特に限定はされないが、例えば、上述した正極110に用いる材料と同様のものを挙げることができる。
負極活物質層103中の各種材料の配合割合は、電池の使用用途等に応じて、適宜決定されるため特に限定されず、一般的に公知の情報に準じて設定することができる。
本実施形態のリチウムイオン電池の負極は、本実施形態の硫化物系無機固体電解質材料を含む固体電解質を含んでいてもよいし、本実施形態の硫化物系無機固体電解質材料とは異なる種類の固体電解質材料を含む固体電解質を含んでいてもよい。
本実施形態の硫化物系無機固体電解質材料とは異なる種類の固体電解質材料としては、イオン伝導性および絶縁性を有するものであれば特に限定されないが、一般的にリチウムイオン電池に用いられるものを用いることができる。例えば、本実施形態の硫化物系無機固体電解質材料とは異なる種類の硫化物系無機固体電解質材料、酸化物系無機固体電解質材料、その他のリチウム系無機固体電解質材料等の無機固体電解質材料;ポリマー電解質等の有機固体電解質材料;を挙げることができる。より具体的には、上記した本実施形態の硫化物系無機固体電解質の説明で挙げた固体電解質材料を用いることができる。
<電解質層>
次に、電解質層120について説明する。電解質層120は、正極活物質層101および負極活物質層103の間に形成される層である。
電解質層120としては、セパレーターに非水電解液を含浸させたものや、固体電解質を含む固体電解質層が挙げられる。
本実施形態のセパレーターとしては正極110と負極130を電気的に絶縁させ、リチウムイオンを透過する機能を有するものであれば特に限定されないが、例えば、多孔性膜を用いることができる。
多孔性膜としては微多孔性高分子フィルムが好適に使用され、材質としてポリオレフィン、ポリイミド、ポリフッ化ビニリデン、ポリエステル等が挙げられる。特に、多孔性ポリオレフィンフィルムが好ましく、具体的には多孔性ポリエチレンフィルム、多孔性ポリプロピレンフィルム等が挙げられる。
上記非水電解液とは、電解質を溶媒に溶解させたものである。
上記電解質としては、公知のリチウム塩がいずれも使用でき、活物質の種類に応じて選択すればよい。例えば、LiClO、LiBF、LiPF、LiCFSO、LiCFCO、LiAsF、LiSbF、LiB10Cl10、LiAlCl、LiCl、LiBr、LiB(C、CFSOLi、CHSOLi、LiCFSO、LiCSO、Li(CFSON、低級脂肪酸カルボン酸リチウム等が挙げられる。
上記電解質を溶解する溶媒としては、電解質を溶解させる液体として通常用いられるものであれば特に限定されず、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、メチルエチルカーボネート(MEC)、ビニレンカーボネート(VC)等のカーボネート類;γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン等のラクトン類;トリメトキシメタン、1,2-ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、2-エトキシエタン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン等のエーテル類;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類;1,3-ジオキソラン、4-メチル-1,3-ジオキソラン等のオキソラン類;アセトニトリル、ニトロメタン、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド等の含窒素類;ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル等の有機酸エステル類;リン酸トリエステルやジグライム類;トリグライム類;スルホラン、メチルスルホラン等のスルホラン類;3-メチル-2-オキサゾリジノン等のオキサゾリジノン類;1,3-プロパンスルトン、1,4-ブタンスルトン、ナフタスルトン等のスルトン類;等が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
本実施形態の固体電解質層は、正極活物質層101および負極活物質層103の間に形成される層であり、固体電解質材料を含む固体電解質により形成される層である。固体電解質層に含まれる固体電解質は、リチウムイオン伝導性を有するものであれば特に限定されるものではないが、本実施形態においては、本実施形態の硫化物系無機固体電解質材料を含む固体電解質であることが好ましい。
本実施形態のリチウムイオン電池の固体電解質層に含まれる固体電解質の含有量は、所望の絶縁性が得られる割合であれば特に限定されるものではないが、好ましくは10体積%以上100体積%以下、好ましくは50体積%以上100体積%以下、好ましくは70体積%以上100体積%以下、好ましくは90体積%以上100体積%以下であり、より好ましくは固体電解質以外の成分を実質的に含まない。
なお、「固体電解質以外の成分を実質的に含まない」とは、本実施形態の効果が損なわれない程度には固体電解質以外の成分を含有してもよいことを意味する。
本実施形態のリチウムイオン電池の固体電解質層に含まれる固体電解質は、リチウムイオン伝導性を有するものであれば特に限定されるものではないが、本実施形態の硫化物系無機固体電解質であることが好ましい。
本実施形態のリチウムイオン電池の固体電解質層に含まれる、本実施形態の硫化物系無機固体電解質の含有量は、所望の絶縁性が得られる割合であれば特に限定されるものではないが、好ましくは10体積%以上100体積%以下、より好ましくは50体積%以上100体積%以下、さらに好ましくは70体積%以上100体積%以下、さらに好ましくは90体積%以上100体積%以下であり、さらに好ましくは本実施形態の硫化物系無機固体電解質以外の成分を実質的に含まない。
なお、「本実施形態の硫化物系無機固体電解質以外の成分を実質的に含まない」とは、本実施形態の効果が損なわれない程度には本実施形態の硫化物系無機固体電解質以外の成分を含有してもよいことを意味する。
本実施形態のリチウムイオン電池の固体電解質層は、バインダー樹脂を含有していてもよい。バインダー樹脂を含有することにより、可撓性を有する固体電解質層を得ることができる。バインダー樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素含有結着材を挙げることができる。
本実施形態のリチウムイオン電池の固体電解質層の厚さは、好ましくは0.1μm以上1000μm以下、より好ましくは0.1μm以上300μm以下である。
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
以下、本発明を実施例および比較例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
[1]測定方法
はじめに、以下の実施例および比較例における測定方法を説明する。
(1)固体31P-NMR測定
実施例および比較例で使用した硫化リン組成物に対して、次のようにして固体31P-NMR測定をそれぞれ行った。
はじめに、Nガスでパージしたグローボックス内で3.2mm径の測定用試料管に試験試料を充填し、外部磁場に対してマジック角(54.7度)傾斜した状態で回転(Magic Angle Spining:MAS)させ、以下の条件で測定をおこなった。
装置:(株)JEOL RESONANCE製JNM-ECA-600
観測周波数:242.95MHz
パルス幅:90°パルス
パルス待ち時間:2800秒
積算回数:64回
測定モード:シングルパルス法
MAS速度:12kHz
標準物質:(NHHPO・1.33ppm
試験試料の31P-NMRスペクトルにおいて検出されたピークについて、参考文献1「Hellmut Eckert, Cheryl S. Liang and Galen D. Stucky : 31P magic angle spinning NMR of crystalline phosphorous sulfides. Correlation of 31P chemical shielding tensors with local environments, J. Phys. Chem, 1989, 93, 452-457」を参照し、下記のピーク帰属に基づいてガウス関数を用いた波形分離を実施し、各ピークの積分値を算出した。得られた積分値と各成分の分子量より含有比率を算出した。
の化学シフトは40~52ppm、Pの化学シフトは52~70ppm、Pの化学シフトは80~90ppm、90~100ppm、110~115ppm、Pの化学シフトは80~90ppm、90~100ppmである。
(2)硫化物系無機固体電解質材料の組成比率の測定
ICP発光分光分析装置(セイコーインスツルメント社製、SPS3000)を用いて、ICP発光分光分析法により測定し、実施例および比較例で得られた硫化物系無機固体電解質材料中のLi、PおよびSの質量%をそれぞれ求め、それに基づいて、各元素のモル比をそれぞれ計算した。
(3)リチウムイオン伝導度の測定
下記の方法により、実施例および比較例で得られた硫化物系無機固体電解質材料のリチウムイオン伝導度を測定した。結果を表1に示す。
まず、硫化物系無機固体電解質材料110mgを270MPa、10分間の条件でプレスし、直径9.5mm、厚さ1mmの円板状試料を得た。
次いで、バイオロジック社製、ポテンショスタット/ガルバノスタットSP-300を用いて、印加電圧10mV、測定周波数域0.1Hz~3MHz、測定温度27℃という条件で、電極としてLi箔を用い、交流インピーダンス法により、得られた円板状試料のリチウムイオン伝導度を測定した。
(4)結晶化度の測定
はじめに、X線回折装置(リガク社製、RINT2000)を用いて、電圧40kV、電流40mA、発散スリット1°、発散スリット縦制限10mm、散乱スリット1°、受光スリット0.3mm、測定開始角度3°、測定終了角度90°、スキャン速度0.2°/分の条件で、線源としてCuKα線を用い、硫化リン組成物はアルゴンガスで満たした気密試料ホルダーにセットして、硫化リン組成物のX線回折分析スペクトルをそれぞれ得た。
次いで、以下のピーク分離法を用いて、得られたX線回折スペクトルから、実施例および比較例で用いた硫化リン組成物の結晶化度を算出した。
まず、非干渉性散乱や格子の乱れ等の影響を考慮しないで、プロファイル・フィッティングの手法を用いてX線回折パターンを結晶性回折曲線と非晶質ハローにピークを分離した。プロファイル・フィッティングにはX線回折装置付属の解析ソフト(リガク社製、製品名:統合粉末X線解析ソフトウエアPDXL 応用解析(結晶化度))を利用した。
結晶化度を算出する具体的な手順は以下のとおりである(図2参照;リガク社、X線回折ハンドブック、2000年2月21日、三版、P83、図3.6.2引用)。
(1)バックグランドの分離
低角度側から高角度側のX線強度を直線で結び、直線下の面積をバックグランドとした。
(2)ハローの分離
非晶質によるハローパターンを推定して、バックグランドを差し引いた散乱曲線からハローを分離した。
(3)結晶性回折曲線の分離
上記(2)と同様の方法で、結晶性回折曲線を分離した。
(4)結晶化度の算出
散乱曲線から分離した、非晶成分の回折曲線(非晶質ハロー)および結晶成分の回折曲線(結晶性回折曲線)の曲線下の面積(積分強度)を用いて、下記(1)式から結晶化度を算出した。
Xc={Ic/(Ic+Ia)}×100 (1)
Ic:結晶成分の回折曲線(結晶性回折曲線)の曲線下の面積(積分強度)
Ia:非晶成分の回折曲線(非晶質ハロー)の曲線下の面積(積分強度)
(5)融解熱量の測定
実施例および比較例で使用した硫化リン組成物に対して、次のようにしてDSC測定をそれぞれ行った。まず、アルゴン雰囲気中で、硫化リン組成物20~25mgをアルミニウムパンへ秤量し試料とした。次いで、当該試料に対し、開始温度25℃、測定温度範囲30~350℃、昇温速度5℃/min、アルゴン毎分100mlの雰囲気の条件下で、示差走査熱量計(DSC6300、セイコーインスツルメント社製)を用いて示差走査熱量測定を行った。これにより得られたDSC曲線から、280℃以上300℃以下の温度領域における吸熱ピークの融解熱量(J/g)を算出した。
上記吸熱ピークの融解熱量は、吸熱ピークを含む融解吸熱カーブと、ベースラインとで囲まれる面積を求めることで算出した。吸熱ピークにおけるベースラインは、図3に示す点Rと点Sを結んだ線とした。
[2][硫化物系無機固体電解質材料の製造]
<実施例1>
(Li1012の製造)
20℃のアルゴン雰囲気下で、粉末状の硫化リン組成物1(Perimeter Solutions社製、製品名:Normal/S、Lot.22D1218453)1.27gとLiS(古河機械金属社製、純度99.9%)0.79gとLiN(古河機械金属社製)0.04gを秤量した。
次いで、20℃のアルゴン雰囲気下で、秤量した硫化リン組成物1とLiSとLiNとを乳鉢ですりつぶしながら混合し、混合物(a1)を得た。
得られた混合物(a1)2.1gを、20℃のアルゴン雰囲気下で、遊星ボールミル(45mLジルコニアポット、直径10mmジルコニアボール18個使用)を用いてメカノケミカル処理し、材料(b1)を得た。より具体的には、混合物(a1)を400rpmで10分間メカニカルミリングした後、5分間静置するという処理を120サイクル行い、材料(b1)を得た。メカニカルミリングの途中、メカノケミカル処理開始から15時間経過時に、ジルコニアポット壁面およびジルコニアボール表面に付着した粉末の掻き出しを行った。
得られた材料(b1)をカーボンるつぼに入れ、アルゴン雰囲気下の加熱炉で270℃、2時間の条件で加熱処理を行い、Li1012で表される硫化物系無機固体電解質材料を得た。
(LiPSの製造)
20℃のアルゴン雰囲気下で、粉末状の硫化リン組成物1(Perimeter Solutions社製、製品名:Normal/S、Lot.22D1218453)1.3gとLiS(古河機械金属社製、純度99.9%)0.8gを秤量した。
次いで、20℃のアルゴン雰囲気下で、秤量した硫化リン組成物1とLiSとを乳鉢ですりつぶしながら混合し、混合物(a2)を得た。
得られた混合物(a2)2.1gを、20℃のアルゴン雰囲気下で、遊星ボールミル(45mLジルコニアポット、直径10mmジルコニアボール18個使用)を用いてメカノケミカル処理し、材料(b2)を得た。より具体的には、混合物(a2)を400rpmで10分間メカニカルミリングした後、5分間静置するという処理を120サイクル行い、材料(b2)を得た。メカニカルミリングの途中、メカノケミカル処理開始から15時間経過時に、ジルコニアポット壁面およびジルコニアボール表面に付着した粉末の掻き出しを行った。
得られた材料(b2)をカーボンるつぼに入れ、アルゴン雰囲気下の加熱炉で270℃、2時間の条件で加熱処理を行い、LiPSで表される硫化物系無機固体電解質材料を得た。
<実施例2>
硫化リン組成物1の代わりに粉末状の硫化リン組成物2(関東化学社製、鹿1級、Lot.607H1801)を用いたこと以外は実施例1と同様にしてLi1012で表される硫化物系無機固体電解質材料およびLiPSで表される硫化物系無機固体電解質材料をそれぞれ得た。
<比較例1>
粉末状の硫化リン組成物1(Perimeter Solutions社製、製品名:Normal/S、Lot.22D1218453)50gを石英容器に入れて真空加熱装置(古河機械金属社製)にセットし、-0.094MPaの減圧下、300℃で2時間加熱した。
次いで、300℃に加熱された石英容器を、各部バルブを閉じて真空状態を保ったまま水を張ったバケツに漬け、30℃まで急冷した。30℃に冷却した石英容器の底部に溜まった成分を「硫化リン組成物3」とした。
次いで、硫化リン組成物1の代わりに硫化リン組成物3を用いたこと以外は実施例1と同様にしてLi1012で表される硫化物系無機固体電解質材料およびLiPSで表される硫化物系無機固体電解質材料をそれぞれ得た。
<比較例2>
硫化リン組成物1の代わりに粉末状の硫化リン組成物4(Perimeter Solutions社製、製品名:Perimeter Normal/eXG、Lot.22D1222095)を用いたこと以外は実施例1と同様にしてLi1012で表される硫化物系無機固体電解質材料およびLiPSで表される硫化物系無機固体電解質材料をそれぞれ得た。
Figure 2024070548000001
実施例の硫化物系無機固体電解質材料は、比較例の硫化物系無機固体電解質材料よりもリチウムイオン伝導性が向上していた。
100 リチウムイオン電池
101 正極活物質層
103 負極活物質層
105 集電体
110 正極
120 電解質層
130 負極

Claims (11)

  1. 少なくともPおよびPを含む硫化物系無機固体電解質材料用の硫化リン組成物であって、
    前記硫化リン組成物中のP、P、PおよびPの含有量の合計を100質量%としたとき、
    固体31P-NMRスペクトルから算出される前記Pの含有量が30質量%以上60質量%以下であり、
    線源としてCuKα線を用いたX線回折により得られるスペクトルから算出される結晶化度が40%以上70%以下である硫化リン組成物。
  2. 固体31P-NMRスペクトルから算出される前記Pの含有量が40質量%以上70質量%以下である、請求項1に記載の硫化リン組成物。
  3. 前記Pおよび前記Pの合計含有量が90質量%以上である、請求項1または2に記載の硫化リン組成物。
  4. 示差走査熱量計により測定して得られる、前記硫化リン組成物のDSC曲線において、280℃以上300℃以下の温度領域に吸熱ピークが観察され、前記吸熱ピークの融解熱量が60J/g以上90J/g以下である、請求項1または2に記載の硫化リン組成物。
  5. 粉末状である、請求項1または2に記載の硫化リン組成物。
  6. 請求項1または2に記載の硫化リン組成物と、硫化リチウムと、を含む、硫化物系無機固体電解質材料の原料組成物。
  7. 請求項6に記載の硫化物系無機固体電解質材料の原料組成物を機械的処理する工程を含む硫化物系無機固体電解質材料の製造方法。
  8. 請求項6に記載の硫化物系無機固体電解質材料の原料組成物の機械的処理物を含む、硫化物系無機固体電解質材料。
  9. 請求項8に記載の硫化物系無機固体電解質材料を含む硫化物系無機固体電解質。
  10. 請求項9に記載の硫化物系無機固体電解質を主成分として含む硫化物系無機固体電解質膜。
  11. 正極活物質層を含む正極と、電解質層と、負極活物質層を含む負極とを備えたリチウムイオン電池であって、
    前記正極活物質層、前記電解質層および前記負極活物質層のうち少なくとも一つが、請求項8に記載の硫化物系無機固体電解質材料を含むリチウムイオン電池。
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