JP2024033313A - スポット溶接継手、スポット溶接継手の製造方法、及び自動車部品 - Google Patents

スポット溶接継手、スポット溶接継手の製造方法、及び自動車部品 Download PDF

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【課題】引張強さ1700MPa以上の高強度鋼板を含み、且つ、溶融境界破断を抑制可能なスポット溶接継手及びその製造方法、並びに自動車部品を提供する。【解決手段】本発明の一態様に係るスポット溶接継手は、C含有量が0.28質量%以上かつ引張強さが1700MPa以上である第一鋼板、及び、C含有量が0.28質量%未満である第二鋼板を含む板組と、板組を接合するナゲットと、を備え、第一鋼板の少なくとも1枚は、第二鋼板と重ねられており、第一鋼板の全ての硬度評価領域における溶融境界硬度勾配が-0.5~0Hv/μm以下である。【選択図】図2

Description

本発明は、スポット溶接継手、スポット溶接継手の製造方法、及び自動車部品に関する。
抵抗スポット溶接は、安価且つ迅速に鋼板を接合することができる。そのため、抵抗スポット溶接は、例えば自動車ボディー部材の材料である高強度鋼板の接合等、様々な用途で用いられている。
一方で自動車分野では、鋼板の高強度化及び薄肉化が進んでいる。鋼板を高強度化及び薄肉化することにより、自動車ボディー部材の強度を保ちながら、その重量を削減し、燃費向上等の効果を得ることができる。
ここで、引張強さ1700MPa以上の鋼板では、スポット溶接継手の接合強度の低下が課題となっている。例えば、母材鋼板の引張強さが1780MPaのスポット溶接継手では、十字引張強さ(Cross Tension Strength、CTS)が顕著に低下するという課題がある。十字引張強さとは、板組に含まれる鋼板を剥離させる方向の応力に対する接合部の強度を意味する。
CTS低下の要因の一つは、ナゲットの端部付近における靭性の低下である。高強度鋼板においては、種々の条件の熱処理を適用して金属組織を最適化することによって、靭性が確保されている。しかし、高強度鋼板をスポット溶接すると、ナゲット及びその周囲の熱影響部において金属組織が変化し、その結果、スポット溶接継手の破断が生じやすくなる。以上の事情により、ナゲットの端部の脆化を抑制する接合方法が求められている。
特許文献1には、第1の鋼板部材と、第1の鋼板部材に板厚方向に重ねられた第2の鋼板部材と、第2の鋼板部材における第1の鋼板部材が重ねられた側と反対側に、板厚方向に重ねられた第3の鋼板部材と、第1の鋼板部材、第2の鋼板部材、及び第3の鋼板部材が重ねられた部分に形成されて互いを接合する溶接部と、を備え、第3の鋼板部材が、第2の鋼板部材の端部で折り返されて、第1の鋼板部材と第2の鋼板部材との間に配されている折り返し部を有し、折り返し部は、溶接部によって第1の鋼板部材及び第2の鋼板部材と接合されている継手構造が開示されている。
特許文献2には、本溶接の通電開始前に、上記被溶接材を初期設定加圧力に到達するまで加圧し、ついで、本溶接の通電開始前の加圧開始時点から上記初期設定加圧力に到達するまでに得られる加圧力の指標となるパラメータを用いて、本溶接の通電時の加圧力を設定する抵抗スポット溶接方法が開示されている。
特許文献3には、本溶接と、本溶接に先立つテスト溶接とを行うとともに、テスト溶接を2通り以上の溶接条件で行うものとし、テスト溶接では、溶接条件ごとに、通電開始前における被溶接材の加圧を開始してから設定加圧力に到達するまでの加圧カパラメータと、瞬時発熱量の時間変化曲線および累積発熱量とを記憶させ、さらに、前記本溶接では、通電開始前に前記テスト溶接と同じ条件で被溶接材の加圧を行い、この際の加圧カパラメータと、前記テスト溶接にて記憶させたパラメータとを溶接条件ごとに比較することにより、本溶接の瞬時発熱量の時間変化曲線および累積発熱量の目標値を設定し、この目標値に従って、通電量を制御する適応制御溶接を行う抵抗スポット溶接方法が開示されている。
特許文献4には、炭素の含有量が0.05mass%以上0.5mass%以下、引張強度TSが780MPa以上、板厚tが1.2mm以上である2枚以上の鋼板をスポット溶接することによって形成されたスポット溶接部材であって、スポット溶接部のナゲット領域、溶接熱影響硬化領域、及び溶接熱影響軟化領域の形状、大きさ、及び硬度やシートセパレーションの終端位置が所定条件を満足するスポット溶接部材が開示されている。
特開2020-157348号公報 特開2021-112773号公報 国際公開第2019/160141号 特開2016-209919号公報
本発明者らは、炭素量が高い高強度鋼板と、炭素量が低い低強度鋼板とを重ね合わせることにより、ナゲットの脆化を抑制可能であることを知見した。高強度鋼板と低強度鋼板とを重ね合わせて構成された板組をスポット溶接すると、高強度鋼板の溶融金属と低強度鋼板の溶融金属とが混合し、炭素が希釈される。その結果、ナゲットの炭素量は、高強度鋼板の炭素量よりも低くなる。鋼の硬さは炭素量に比例する。従って、ナゲットの炭素を希釈することにより、ナゲットの脆化を抑制することができる。
しかしながら、ナゲットの脆化が抑制されたスポット溶接継手においても、十分にCTSが確保されない場合がしばしば見られた。本発明者らは、高強度鋼板と低強度鋼板とを組み合わせたスポット溶接継手における、溶接部の破断形態を詳細に調査した。その結果、高強度鋼板と低強度鋼板とを組み合わせたスポット溶接継手においては、ナゲットの溶融境界に沿って亀裂が伝播することが発見された。溶融境界とは、ナゲットの外縁のことであり、換言すると、スポット溶接の際に溶融及び凝固が生じるナゲットと、スポット溶接の際に溶融及び凝固が生じない熱影響部との境界のことである。
特許文献1~4のいずれも、このような破断形態に着目しておらず、また、これを解決する手段を提供していない。
具体的には、特許文献1は引張強さ1500MPa以下の鋼板を対象とした技術であり、引張強さ1700MPa以上の鋼板のスポット溶接については何ら考慮していない。また、特許文献1においては溶融境界に沿って生じる破断は考慮されておらず、この破断を抑制可能なナゲットの構成も開示されていない。
特許文献2及び特許文献3は、散りの抑制を課題としており、溶融境界に沿って生じる破断は考慮していない。また、特許文献2及び特許文献3には、この破断を抑制可能なナゲットの構成も開示されていない。
特許文献4では、スポット溶接継手の十字引張試験によってプラグ破断及び剥離破断のいずれかが生じる旨を開示しているが、これらの破断において、溶融境界に沿って亀裂が伝播しているか否か、特段の検討はなされていない。また、特許文献4では、この破断を抑制可能なナゲットの構成も開示されていない。
本発明は、引張強さ1700MPa以上の高強度鋼板を含み、且つ、溶融境界破断を抑制可能なスポット溶接継手及びその製造方法、並びに自動車部品を提供することを目的とする。
本発明の要旨は以下の通りである。
(1)本発明の一態様に係るスポット溶接継手は、C含有量が0.28質量%以上かつ引張強さが1700MPa以上である第一鋼板、及び、C含有量が0.28質量%未満である第二鋼板を含む板組と、前記板組を接合するナゲットと、を備えるスポット溶接継手であって、前記第一鋼板の少なくとも1枚は、前記第二鋼板と重ねられており、前記第一鋼板の硬度評価領域を、前記スポット溶接継手の、前記ナゲットの中心を通り且つ前記板組の表面に垂直な断面において、前記第一鋼板及び前記第二鋼板の重ね面に沿った第一仮想線と、前記第一仮想線に平行であり、前記第一仮想線から400μm離間され、且つ前記第一鋼板の内部に位置する第二仮想線と間の領域と定義し、溶融境界硬度勾配を、前記硬度評価領域の内部で、前記ナゲットの外縁である溶融境界に垂直な第三仮想線に沿って、前記ナゲットの外側から内側へ、荷重50gfのマイクロビッカース硬度測定を70μm間隔で連続的に行うことによって得られる、前記溶融境界を中心とした幅280μmの領域の硬度分布の、最小二乗法によって得られる一次近似直線の傾きと定義したとき、測定される、前記第一鋼板の全ての前記硬度評価領域における溶融境界硬度勾配が-0.5~0Hv/μmである。
(2)上記(1)に記載のスポット溶接継手は、好ましくは、P偏析評価領域を、前記硬度評価領域の内部、且つ、前記ナゲットの内部に位置する200μm四方の矩形の領域であって、その頂点のうち1以上が前記溶融境界と一致し、且つ、その四辺のうち1つの延在方向と前記板組の厚さ方向とが一致する領域と定義し、平均P濃度を、前記P偏析評価領域において、前記P偏析評価領域の縦辺及び横辺それぞれに沿って0.5μm間隔で配されたP濃度測定点それぞれにおいて測定されたP濃度の平均値と定義し、P偏析点を、前記P偏析評価領域において、前記平均P濃度の10倍以上のP濃度を有する前記P濃度測定点と定義し、P偏析度を、前記P偏析点の個数が全ての前記P濃度測定点の個数に占める割合と定義したとき、前記P偏析度が0.3%以上である。
(3)上記(1)に記載のスポット溶接継手は、好ましくは、互いに重ねられた前記第一鋼板と前記第二鋼板とのC含有量の差が0.07%以下である。
(4)上記(2)に記載のスポット溶接継手は、好ましくは、互いに重ねられた前記第一鋼板と前記第二鋼板とのC含有量の差が0.07%以下である。
(5)本発明の別の態様に係るスポット溶接継手の製造方法は、上記(1)~(4)のいずれか一項に記載のスポット溶接継手の製造方法であって、C含有量が0.28質量%以上かつ引張強さが1700MPa以上である第一鋼板、及び、C含有量が0.28質量%未満である第二鋼板を含む板組に、スポット溶接用電極を用いて加圧力を加えながら本通電して、前記板組を局所的に溶融させる工程と、前記本通電の後で、通電を実質的に停止した状態で前記板組への前記加圧力を保持して、前記板組を冷却する工程とを備え、前記第一鋼板の少なくとも1枚は、前記第二鋼板と重ねられており、前記本通電における加圧力FE(N)、溶接電流IW(kA)、及び前記板組に含まれる鋼板の平均板厚h(mm)が、下記式A及び下記式Bを満たし、前記保持において、前記加圧力FEが前記式Aを満たし、且つ、保持時間tH(msec)が、下記式Cを満たす。
1960×h≦FE≦3920×h・・・(式A)
0.5≦IW≦9・・・(式B)
0≦tH≦200・・・(式C)
(6)上記(5)に記載のスポット溶接継手の製造方法は、好ましくは、前記本通電をする工程と、前記保持する工程とを連続的に実行し、前記保持する工程の後、前記加圧力を解放する。
(7)上記(5)に記載のスポット溶接継手の製造方法は、好ましくは、前記本通電をする工程と、前記保持をする工程との間に、前記通電を実質的に停止した状態で前記板組への前記加圧力を保持することにより、前記板組を冷却する工程と、前記板組に形成されたナゲットに偏析緩和後通電することにより、前記ナゲットを再加熱する工程と、をさらに備え、前記冷却及び前記偏析緩和後通電における加圧力FE(N)が、前記式Aを満たし、前記冷却における冷却時間tS(msec)が、下記式Dを満たし、前記本通電における前記溶接電流IW(kA)及び前記偏析緩和後通電における再加熱電流IP(kA)が、下記式Eを満たし、前記偏析緩和後通電における偏析緩和後通電時間tP(msec)が、下記式Fを満たす。
1≦tS≦400・・・(式D)
0.6×IW≦IP≦0.9×IW・・・(式E)
50≦tP≦1000・・・(式F)
(8)本発明の別の態様に係る自動車部品は、上記(1)~(4)のいずれか一項に記載のスポット溶接継手を備える。
本発明によれば、引張強さ1700MPa以上の高強度鋼板を含み、且つ、溶融境界破断を抑制可能なスポット溶接継手及びその製造方法、並びに自動車部品を提供することができる。
本実施形態に係るスポット溶接継手の断面模式図である。 溶融境界硬度勾配の測定方法の模式図である。 P偏析評価領域の模式図である。 P偏析評価領域の模式図である。 P偏析評価領域の模式図である。 本実施形態に係るスポット溶接継手の製造方法のフローチャートである。 板組が3枚の鋼板から構成されるスポット溶接継手の一例の断面模式図である。 板組が3枚の鋼板から構成されるスポット溶接継手の一例の断面模式図である。 板組が3枚の鋼板から構成されるスポット溶接継手の一例の断面模式図である。
(1.スポット溶接継手)
本発明の一態様に係るスポット溶接継手1は、図1及び図2に例示されるように、C含有量が0.28質量%以上かつ引張強さが1700MPa以上である第一鋼板111、及び、C含有量が0.28質量%未満である第二鋼板112を含む板組11と、板組11を接合するナゲット12と、を備え、第一鋼板111の少なくとも1枚は、第二鋼板112と重ねられており、第一鋼板111の硬度評価領域111Hを、スポット溶接継手1の、ナゲット12の中心を通り且つ板組11の表面に垂直な断面において、第一鋼板111及び第二鋼板112の重ね面11Aに沿った第一仮想線VL1と、第一仮想線VL1に平行であり、第一仮想線VL1から400μm離間され、且つ第一鋼板111の内部に位置する第二仮想線VL2と間の領域と定義し、溶融境界硬度勾配を、硬度評価領域111Hの内部で、ナゲット12の外縁である溶融境界12Bに垂直な第三仮想線VL3に沿って、ナゲット12の外側から内側へ、荷重50gfのマイクロビッカース硬度測定を70μm間隔で連続的に行うことによって得られる、溶融境界12Bを中心とした幅280μmの領域の硬度分布の、最小二乗法によって得られる一次近似直線の傾きと定義したとき、測定される、第一鋼板111の全ての硬度評価領域111Hにおける溶融境界硬度勾配が-0.5~0Hv/μmである。ただし、第二鋼板112と重ねられる第一鋼板111の厚みが400μm未満の場合、第一鋼板111の内部すべてを硬度評価領域111Hとしてもよい。
(第一鋼板111、及び第二鋼板112から構成される板組11)
本実施形態に係るスポット溶接継手1は、第一鋼板111及び第二鋼板112を含む板組11を有する。板組11とは、鋼板を重ね合わせることによって構成された溶接母材である。
第一鋼板111は、C含有量が0.28質量%以上かつ引張強さが1700MPa以上の鋼板と定義される。第二鋼板112は、C含有量が0.28質量%未満の鋼板と定義される。板組11は、1枚以上の第一鋼板111及び1枚以上の第二鋼板112を含む。なお、C含有量が0.28質量%以上かつ引張強さが1700MPa未満の鋼板は、第一鋼板111及び第二鋼板112のいずれにも該当しない。このような鋼板を板組11が含んでもよい。
(ナゲット12)
本実施形態に係るスポット溶接継手1は、ナゲット12を有する。ナゲット12とは、抵抗溶接によって形成された溶接部の一部であり、溶接中に溶融凝固した金属のことである。ナゲット12は、板組11を接合する。換言すると、ナゲット12は、板組11に含まれる重ね合わせられた複数の鋼板を接合する。ナゲット12の外縁は、溶融境界12Bと称される。
(第一鋼板111と第二鋼板112との位置関係)
図1に示されるように、板組11に含まれる第一鋼板111のうち少なくとも1枚は、第二鋼板112と重ねられる。好ましくは、板組11に含まれる第一鋼板111の全てが、第二鋼板112と重ねられる。これにより、第一鋼板111及び第二鋼板112の重ね面11Aの周辺において、炭素の希釈が生じる。ナゲット12は、溶融した第一鋼板111及び第二鋼板112が凝固して得られるものである。そのため、第一鋼板111及び第二鋼板112の重ね面11Aの周辺において、ナゲット12の炭素濃度は第一鋼板111よりも低く、且つ、第二鋼板112よりも高くなる。
(溶融境界硬度勾配)
本実施形態に係るスポット溶接継手1においては、ナゲットの外側から内側に向かって連続的に行われる硬さ測定によって特定される、第一鋼板111の全ての硬度評価領域111Hにおける溶融境界硬度勾配が、-0.5~0HV/μmである。溶融境界硬度勾配の測定方法、及び測定方法を特定するための用語の定義について、図2を参照しながら、以下に説明する。
溶融境界硬度勾配は、スポット溶接継手1の、ナゲット12の中心を通り且つ板組11の表面に垂直な断面において評価される値である。図1及び図2は、当該断面における、本実施形態に係るスポット溶接継手1の断面図である。以下、当該断面を、単に「断面」と称する。
図2に示されるように、断面における、第一鋼板111及び第二鋼板112の重ね面11Aに沿った仮想線を第一仮想線VL1と称する。第一仮想線VL1に平行であり、第一仮想線VL1から400μm離間され、且つ第一鋼板111の内部に位置する仮想線を、第二仮想線VL2と称する。さらに、ナゲット12の外縁である溶融境界12Bに垂直な任意の直線を、第三仮想線VL3と称する。
第一仮想線VL1と第二仮想線VL2との間の領域が、第一鋼板111の硬度評価領域111Hと定義される。図1に例示されるスポット溶接継手1において、第一鋼板111と第二鋼板112との重ね面11Aの枚数は1つだけであり、従って硬度評価領域111Hの個数も1つだけである。しかしながら、第一鋼板111と第二鋼板112との重ね面11Aの枚数が2以上となる場合もある。例えば図6に示されるように、二枚の第二鋼板112の間に第一鋼板111が挟まれている板組11において、第一鋼板111と第二鋼板112との重ね面11Aの枚数は2つである。このような板組においては、硬度評価領域111Hの個数も2つである。第一鋼板111の厚みが800μm未満の場合、2つの硬度評価領域が重なるが、その各々について溶融境界硬度勾配を測定してもよいし、重なる領域において、測定が可能であれば、重なる領域のみについて溶融境界硬度を測定してもよい。後述するP偏析度の測定についても同様である。
溶融境界硬度勾配は、硬度評価領域111Hの内部で、溶融境界12Bを横切るように連続的にマイクロビッカース硬度測定をすることによって得られる値である。具体的には、硬度評価領域111Hの内部で、第三仮想線VL3に沿って、ナゲット12の外側から内側へ、荷重50gfのマイクロビッカース硬度測定を70μm間隔で連続的に行うことによって得られる、溶融境界12Bを中心とした幅280μmの領域の硬度分布の、最小二乗法によって得られる一次近似直線の傾きが、溶融境界硬度勾配と定義される。なお、硬さ測定は、ナゲットの外側から内側に向かって連続的に行われる。従って、ナゲットの外側からナゲットの内側に向かって硬さが減少する場合、溶融境界硬度勾配は負の値となる。溶融境界硬度勾配は、1つの硬度評価領域111Hに関して1回測定されればよい。
本実施形態に係るスポット溶接継手1では、1以上の硬度評価領域111Hの全てにおいて、溶融境界硬度勾配が-0.5~0HV/μmとされる。硬度評価領域111Hの全てにおいて、溶融境界硬度勾配が-0.4HV/μm以上、-0.3HV/μm以上、又は-0.2HV/μm以上であってもよい。溶融境界硬度勾配は-0.1HV/μm以下であってもよい。
(本実施形態に係るスポット溶接継手1の作用効果)
本実施形態に係るスポット溶接継手1においては、第一鋼板111の少なくとも1枚が、第二鋼板112と重ねられている。これにより、ナゲット12の炭素量は第一鋼板111の炭素量よりも低い値とされている。その結果、本実施形態に係るスポット溶接継手1においては、高強度鋼板のスポット溶接継手1に特有の、ナゲット12の脆化が抑制されている。
ただし、第一鋼板111と第二鋼板112とが重ねられたスポット溶接継手1においては、溶融境界12Bに沿って破断が進展しやすい傾向が見られる。この溶融境界破断は、スポット溶接継手1の接合強度、特にCTSを低下させる。
本発明者らは、ナゲット12と第一鋼板111との間の硬度差が、溶融境界破断の原因であると考えた。そして本発明者らは、ナゲット12と第一鋼板111との間の硬度差を抑制し、溶融境界硬度勾配を-0.5~0Hv/μmとすることにより、溶融境界破断が抑制されることを知見した。
なお、溶融境界破断が懸念されるのは、ナゲット12における炭素希釈の度合いが大きい領域と、第一鋼板111との境界部である。炭素希釈の度合いが大きい領域とは、第一鋼板111と第二鋼板112との合わせ面の周辺部である。従って本実施形態に係るスポット溶接継手1においては、溶融境界硬度勾配を、合わせ面から400μm以内の領域である硬度評価領域111Hにおいて評価する。硬度評価領域111Hの個数が2以上である場合は、全ての硬度評価領域111Hにおいて、溶融境界硬度勾配が所定範囲内とされる。一方、2枚の第一鋼板111同士の合わせ面、又は2枚の第二鋼板112同士の合わせ面においては、ナゲット12と母材鋼板との炭素濃度差は小さい。また、第一鋼板111と第二鋼板112との合わせ面から離れた領域においても、ナゲット12と母材鋼板との炭素濃度差は小さい。このような、ナゲット12と母材鋼板との硬度差が生じにくい領域において、溶融境界硬度勾配は特に限定されない。
溶融境界硬度勾配を所定範囲内とするための手段の一つは、後述する条件で、ナゲット12に偏析緩和後通電を行うことである。偏析緩和後通電とは、抵抗溶接を行った後、凝固直後に後通電を行い、ナゲット12を高温に保持することで偏析元素の拡散を促進し、溶接金属の靭性を改善する後通電である。偏析緩和後通電は、ナゲット12や母材を溶融させない点で、スポット溶接(本通電)とは異なる。
偏析緩和後通電により、ナゲット12及びその周辺を高温に保持することで溶融境界12Bの周辺の硬さが均一化される。なお、高強度鋼板を含むスポット溶接継手1のナゲット12内部には、Pの偏析が生じることが通常である。しかし、偏析緩和後通電されたナゲット12においては、Pの偏析も解消されている。
一方、偏析緩和後通電を行うことなく溶融境界硬度勾配を所定範囲内とすることも可能である。偏析緩和後通電を行うことなく得られたナゲット12の内部には、P偏析が残っている。具体的には、以下に説明する測定方法によって評価される、ナゲット12のP偏析度が0.3%以上である。P偏析度を評価することにより、偏析緩和後通電の有無を推定することができる。偏析緩和後通電を省略することにより、スポット溶接継手1の製造効率を高めることができる。
まず、P偏析度の測定部位を説明するための用語の定義について説明する。図3A~図3Cに示されるように、スポット溶接継手1の、ナゲット12の中心を通り且つ板組11の表面に垂直な断面において、上述した硬度評価領域111Hの内部、且つ、ナゲット12の内部に位置する200μm四方の矩形の領域であって、その頂点のうち1以上が前記溶融境界と一致し、且つ、その四辺のうち1つの延在方向と板組11の厚さ方向とが一致する領域が、P偏析評価領域12Pと定義される。
図3Aは、板組11が2枚の鋼板を有するスポット溶接継手1の、ナゲット12の中心を通り且つ板組11の表面に垂直な断面の模式図である。図3Aに例示されたスポット溶接継手1において、ナゲット12の断面は楕円形状を有する。このようなスポット溶接継手1において、P偏析評価領域12Pは、硬度評価領域111Hの内部、且つ、ナゲット12の内部に設定される。また、P偏析評価領域12Pは、200μm四方の矩形形状を有する。さらに、P偏析評価領域12Pは、その4つの頂点のうち1つ以上がナゲット12の外縁、即ち溶融境界12Bに接する。加えて、P偏析評価領域12Pの四辺のうち1つの延在方向が、板組11の厚さ方向と一致するように設定される。なお、曳け巣はナゲット12の内部とはみなされない。上述した箇所が曳け巣等を含んでおり、P偏析度の測定に適しない場合は、測定箇所を上述した箇所から若干移動させることも許容される。例えば、ナゲット12の端部に最も近い位置において測定されるP偏析度と、この位置から100μm程度離れた位置において測定されるP偏析度とはほぼ同一になると考えられる。
図3Bは、板組11が1枚の第一鋼板111及び2枚の第二鋼板112を有し、且つ第一鋼板111が板組11の表面に配されるスポット溶接継手1の、ナゲット12の中心を通り且つ板組11の表面に垂直な断面の模式図である。このようなスポット溶接継手1においても、P偏析評価領域12Pは、図3Aに例示されたスポット溶接継手1と同様に設定することができる。
図3Cは、板組11が1枚の第一鋼板111及び2枚の第二鋼板112を有し、且つ第一鋼板111が板組11の内部に配されるスポット溶接継手1の、ナゲット12の中心を通り且つ板組11の表面に垂直な断面の模式図である。このようなスポット溶接継手1において、硬度評価領域111Hは2つ存在するため、P偏析評価領域12Pも2つ存在する。
このP偏析評価領域12Pにおいて、P濃度を測定する。P濃度は、P偏析評価領域12Pの縦辺及び横辺それぞれに沿って0.5μm間隔で配されたP濃度測定点において測定する。P偏析評価領域12Pの縦辺及び横辺を区別する必要はないが、本実施形態においては便宜上、板組11の厚さ方向に沿って延在する辺を縦辺と称し、縦辺に直交する辺を横辺と称する。P偏析評価領域12Pの縦辺及び横辺の長さは200μmであるので、P濃度測定点の個数は(200÷0.5)=160000個となる。これら測定点において測定されたP濃度の平均値を、平均P濃度と定義する。また、これら測定点のうち、平均P濃度の10倍以上のP濃度を有するものを、P偏析点と定義する。そして、P偏析点の個数が、全てのP濃度測定点の個数に占める割合を、スポット溶接継手1のP偏析度とみなす。
偏析緩和後通電を行うことなく溶融境界硬度勾配を所定範囲内とする方法の一例は、第一鋼板111と第二鋼板112との組み合わせを最適化し、且つ本通電の条件を後述の通り最適化することである。これにより得られたスポット溶接継手1においては、互いに重ねられた第一鋼板111と第二鋼板112とのC含有量の差が0.07%以下とされている。ナゲット12の炭素を希釈するためには、第二鋼板112の炭素量が小さい方が好ましい。一方、互いに重ねられた第一鋼板111と第二鋼板112とのC含有量の差を0.07%以下とすることにより、ナゲット12と第一鋼板111との硬度差を低減することができる。互いに重ねられた第一鋼板111と第二鋼板112とのC含有量の差を、0.06%以下、0.05%以下、0.04%以下、又は0.03%以下としてもよい。当然のことながら、偏析緩和後通電を行い、且つ第一鋼板111と第二鋼板112とのC含有量の差を上述の範囲内としてもよい。
(2.スポット溶接継手1の製造方法)
次に、本発明の別の態様に係るスポット溶接継手1の製造方法を説明する。本発明の別の態様に係るスポット溶接継手1の製造方法は、図4のフローチャートに示されるように、
(本通電工程S1)C含有量が0.28質量%以上かつ引張強さが1700MPa以上である第一鋼板111、及び、C含有量が0.28質量%未満である第二鋼板112を含む板組11に、加圧力を加えながら本通電をして、板組11を局所的に溶融させる工程と、
(保持工程S2)本通電の後で、通電を実質的に停止した状態で板組11への加圧力を保持する工程と
を備え、第一鋼板111の少なくとも1枚は、第二鋼板112と重ねられており、本通電における加圧力FE(N)、溶接電流IW(kA)、及び板組11に含まれる鋼板の平均板厚h(mm)が、下記式A及び下記式Bを満たし、保持において、加圧力FEが式Aを満たし、且つ、保持時間tH(msec)が、下記式Cを満たす。
1960×h≦FE≦3920×h・・・(式A)
0.5≦IW≦9 ・・・(式B)
0≦tH≦200 ・・・(式C)
(本通電工程S1)
まず板組11に、スポット溶接用電極を用いて、加圧力を加えながら本通電をする。本通電とは、抵抗溶接の被溶接材である母材を加熱して、母材を溶融させるための通電である。本通電によって、板組11を局所的に溶融させる。例えばJIS C 9304:1999に規定されているような、通常のスポット溶接用電極を用いることにより、板組11を加圧しながら通電加熱することができる。
本通電の対象となる板組11は、C含有量が0.28質量%以上かつ引張強さが1700MPa以上である第一鋼板111、及び、C含有量が0.28質量%未満である第二鋼板112を含む。第一鋼板111の少なくとも1枚は、第二鋼板112と重ねられている。
(保持工程S2)
本通電工程S1に次いで、通電を実質的に停止した状態で、板組11への加圧力を保持する。なお、通常のスポット溶接用電極は、その内部に冷媒流通のための流路を有している。スポット溶接の際に、電極の先端は水などの冷媒によって冷却されている。そのため、無通電、又はそれに近い通電状態で板組11への加圧力を保持することにより、溶接部から電極への熱移動が生じ、溶接部が冷却される。本通電工程S1と、保持工程S2とを連続的に実行する場合、保持工程S2によって溶融金属が凝固し、板組11を接合するナゲット12が形成される。一方、後述する冷却工程S11及び偏析緩和後通電工程S12も実施する場合、保持工程S2によって、再加熱されたナゲット12が冷却される。
本通電工程S1及び保持工程S2においては、以下の条件が満たされる必要がある。
1960×h≦FE≦3920×h・・・(式A)
0.5≦IW≦9 ・・・(式B)
0≦tH≦200 ・・・(式C)
上記式A、式B、及び式Cに含まれる記号の定義は以下の通りである。
FE:本通電工程S1、及び保持工程S2における加圧力(N)
h:板組11に含まれる鋼板の平均板厚(mm)
IW:本通電工程S1における溶接電流(kA)
tH:保持工程S2における加圧力の保持時間(msec)
加圧力FEとは、電極が板組11を挟む力のことである。加圧力FEは、一定値であってもよいし、スポット溶接継手1の製造の際に適宜変動させてもよい。例えば、本通電工程S1及び保持工程S2、並びに後述する冷却工程S11及び偏析緩和後通電工程S12それぞれに適用される加圧力FEが相違していてもよい。また、本通電の開始から終了までの間に、加圧力FEが変動してもよい。冷却、偏析緩和後通電、及び保持においても同様である。
しかしながら、本通電工程S1において、加圧力FEは常に式Aを満たす必要がある。本通電工程S1において、平均板厚hに対して加圧力FEが小さすぎると、本通電の際に鋼板の間に隙間が生じ、溶接不良が生じるおそれがある。また、平均板厚hに対して加圧力FEが大きすぎると、本通電の際に電極が板組11の内部に向けて陥入し、スポット溶接継手1の表面に凹凸が生じるおそれがある。
本通電工程S1における溶接電流値IWは、式Bを満たす必要がある。溶接電流値IWが不足すると、板組11を接合するための十分なサイズを有するナゲット12が形成できないおそれがある。一方、溶接電流値IWが大きすぎると、スポット溶接が不安定となり、散りの発生などの種々の溶接欠陥が生じる。溶融電流値IWは、一定値であってもよいし、スポット溶接継手1の製造の際に適宜変動させてもよい。しかしながら、本通電工程S1において、溶融電流値IWは常に式Bを満たす必要がある。
保持工程S2においても、加圧力FEが式Aを満たす必要がある。加圧力FEが不足すると、溶接部から電極への熱移動が妨げられる。一方、加圧力FEが過剰であると、電極が板組11の内部に向けて陥入し、スポット溶接継手1の表面に凹凸が生じるおそれがある。
保持工程S2における加圧力の保持時間tHとは、加圧力FEが式Aを満たしている時間のことである。保持時間を設けることは必ずしも必須ではなく、例えば保持時間tHを0msecとしてもよい。即ち、本通電工程S1の終了と同時に、又は後述する偏析緩和後通電工程S12の終了と同時に電極を開放して、加圧力を1960×h未満に低下させてもよい。しかしながら、本通電工程S1又は偏析緩和後通電工程S12の安定性を考慮して、保持時間tHを0msec超としてもよい。一方、保持時間tHが200msecを超えると、スポット溶接継手1の製造効率が損なわれる。
本実施形態に係るスポット溶接継手1の製造方法において、偏析緩和後通電は必須ではない。例えば、本通電をする工程と、保持する工程とを連続的に実行し、保持する工程の後、加圧力を解放してもよい。一般に、加圧力が開放された後には偏析緩和後通電は行われない。偏析緩和後通電を省略することにより、スポット溶接継手1の製造効率が改善される。
(冷却工程S11及び偏析緩和後通電工程S12)
一方、本実施形態に係るスポット溶接継手1の製造方法が、図4のフローチャートに示されるように、本通電工程S1と、保持工程S2との間に、
(冷却工程S11)通電を実質的に停止した状態で板組11への加圧力を保持することにより、板組11を冷却する工程と、
(偏析緩和後通電工程S12)板組11に形成されたナゲット12に偏析緩和後通電することにより、ナゲット12を再加熱する工程と、
をさらに備えてもよい。この場合、冷却における加圧力FE(N)が、式Aを満たし、冷却における冷却時間tS(msec)が、下記式Dを満たし、本通電における溶接電流IW(kA)及び偏析緩和後通電における再加熱電流IP(kA)が、下記式Eを満たし、偏析緩和後通電における偏析緩和後通電時間tP(msec)が、下記式Fを満たすことが好ましい。
1≦tS≦400 ・・・(式D)
0.6×IW≦IP≦0.9×IW・・・(式E)
50≦tP≦1000 ・・・(式F)
(冷却工程S11)
冷却工程S11では、本通電工程S1の終了後に、通電を実質的に停止した状態で板組11への加圧力を保持することにより、板組11を冷却する。これにより、溶融金属を凝固させてナゲット12を形成する。冷却工程S11は、偏析緩和後通電工程S12を有しないスポット溶接継手1の製造方法における保持工程S2と同じ役割を果たす。
(偏析緩和後通電工程S12)
偏析緩和後通電工程S12では、板組11に形成されたナゲット12に偏析緩和後通電することにより、ナゲット12を再加熱する。これにより、ナゲット12及びその周囲を熱処理して、溶融境界硬度勾配を所定範囲内とする。
冷却工程S11及び偏析緩和後通電工程S12においては、冷却工程S11及び偏析緩和後通電工程S12における加圧力FE(N)が、前記式Aを満たすことが好ましく、さらに、以下の条件が満たされることが好ましい。
1≦tS≦400 ・・・(式D)
0.6×IW≦IP≦0.9×IW・・・(式E)
50≦tP≦1000 ・・・(式F)
上記式D、式E、及び式Fに含まれる記号の定義は以下の通りである。
tS:冷却工程S11における冷却時間(msec)
IP:偏析緩和後通電工程S12における再加熱電流(kA)
tP:偏析緩和後通電工程S12における偏析緩和後通電時間(msec)
冷却工程S11においても、加圧力FEが式Aを満たす必要がある。加圧力FEが不足すると、溶接部から電極への熱移動が妨げられる。一方、加圧力FEが過剰であると、電極が板組11の内部に向けて陥入し、スポット溶接継手1の表面に凹凸が生じるおそれがある。
冷却時間tSとは、冷却工程S11において加圧力FEが式Aを満たしている時間のことである。冷却時間tSが不足すると、溶接部の温度が十分に低下する前に再加熱が始まるので、熱処理が適切に行われないおそれがある。一方、冷却時間tSが長すぎると、スポット溶接継手1の製造効率が損なわれる。
式Eは、本通電工程S1における電流値IWと、偏析緩和後通電工程S12における電流値IPとの関係を規定している。偏析緩和後通電工程S12における電流値IPが、本通電工程S1における電流値IWに対して大きすぎると、ナゲット12が再溶融するおそれがある。一方、偏析緩和後通電工程S12における電流値IPが本通電工程S1における電流値IWに対して小さすぎると、熱処理が適切に行われないおそれがある。
式Fは、偏析緩和後通電時間tPを規定している。偏析緩和後通電時間とは、加圧力FEが式Aを満たし、且つ電流値IPが式Eを満たしている時間のことである。偏析緩和後通電時間tPが短すぎると、熱処理が適切に行われないおそれがある。一方、偏析緩和後通電時間tPが長すぎると、スポット溶接継手1の製造効率が損なわれる。
(3.自動車部品)
本発明の別の態様に係る自動車部品は、上述した実施形態に係るスポット溶接継手1を備える。本実施形態に係る自動車部品は、引張強さ1700MPa以上の第一鋼板111を有するので、高い強度を有する。さらに、本実施形態に係る自動車部品では、ナゲット12の炭素量が抑制されているので、ナゲット12の脆化が抑制されている。加えて、本実施形態に係る自動車部品では、溶融境界硬度勾配が所定範囲内とされているので、ナゲット12と母材との境界である溶融境界12Bに沿った破断が抑制されている。従って、本実施形態に係る自動車部品は、高い接合強度を有する。本実施形態に係る自動車部品の種類は特に限定されないが、例えば、衝突安全性を確保するために重要な部材であるバンパー、及びBピラーである。また、Aピラー、サイドシル、フロアメンバー、フロントサイドメンバー、キック部、リアサイドメンバー、フロントサスタワー、トンネルリンフォース、トルクボックス、シート骨格、バッテリーケースのフレーム及びそれらのピラー同士の結合部(Bピラーとサイドシルの結合部、Bピラーとルーフレールの結合部、ルーフクロスメンバーとルーフレールの結合部)を、本実施形態に係る自動車部品としてもよい。ただし、本実施形態に係るスポット溶接継手1の用途は、自動車部品に限られない。
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明はこれに限定されることなく、この発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。以下に、本実施形態に係るスポット溶接継手及びその製造方法のその他の態様の例について説明する。以下に説明する態様は、スポット溶接継手、及びその製造方法のいずれにも適用可能である。
(板厚比)
本実施形態に係るスポット溶接継手1においては、板厚比を2以上5以下としてもよい。ここで、板厚比は、板組11に含まれる鋼板の板厚の合計値を、板組11の表面に配された鋼板のうち最も薄いものの板厚で割った値と定義される。上述の定義によれば、本実施形態に係るスポット溶接継手1において、板厚比は必然的に2以上となる。一方、板厚比を2.1以上、2.5以上、又は3.0以上としてもよい。これにより、本実施形態に係るスポット溶接継手1から構成される機械部品の設計の自由度を高めることができる。また、本実施形態に係るスポット溶接継手1においては、板厚比を5以下とすることが好ましい。これにより、接合不良の発生率を一層低下させることができる。板厚比を4.8以下、4.5以下、又は4.0以下としてもよい。
(鋼板の板厚、及び引張強さ等)
第一鋼板111及び第二鋼板112の板厚は特に限定されない。第一鋼板111及び第二鋼板112の、特に好適な板厚の例を挙げると、0.8mm以上4.0mm以下である。板組11の総板厚も特に限定されない。
第一鋼板111の引張強さは上述の通り1700MPa以上であるが、1800MPa以上、1900MPa以上、2000MPa以上、又は2100MPa以上であってもよい。第一鋼板111の引張強さの上限は特に限定されないが、例えば2800MPa以下、2500MPa以下、又は2300MPa以下であってもよい。
第二鋼板112の引張強さは特に限定されない。例えば、第二鋼板112の引張強さを1800MPa未満、1700MPa以下、1500MPa以下、又は1200MPa以下とすることが好ましい。第二鋼板112の引張強さを470MPa以上、500MPa以上、又は600MPa以上としてもよい。
第一鋼板111及び第二鋼板112の一方又は両方が、その表面にめっき層を有していてもよい。めっき層の例は、例えば溶融亜鉛めっき、溶融合金亜鉛めっき、合金化溶融亜鉛めっき、電気亜鉛めっき、電気Alめっき等である。例えば、第一鋼板111及び第二鋼板112がホットスタンプ用の鋼板であり、スポット溶接継手1がホットスタンプ部材であってもよい。
(板組の構成)
板組11に含まれる鋼板の合計枚数は、2枚以上の任意の値とすることができる。また、第一鋼板111の枚数及び第二鋼板112の枚数も、1枚以上の任意の値とすることができる。第一鋼板111の少なくとも1枚が、第二鋼板112と重ねられている限り、鋼板の重ね合わせの順番も任意である。
例えば板組11が、図5に示されるように、1枚の第二鋼板112が2枚の第一鋼板111の間に挟まれる構成を有してもよい。なお、図5の板組11において、第一鋼板111と第二鋼板112との重ね面11Aの数は2枚である。従って、両方の第一鋼板111の硬度評価領域111Hにおいて、溶融境界硬度勾配が所定範囲内とされる必要がある。
板組11が、図6に示されるように、1枚の第一鋼板111が2枚の第二鋼板112の間に挟まれる構成を有してもよい。なお、図6の板組11において、第一鋼板111と第二鋼板112との重ね面11Aの数は2枚である。従って、第一鋼板111の一方の表面側の硬度評価領域111H、及び他方の表面側の硬度評価領域111Hの両方において、溶融境界硬度勾配が所定範囲内とされる必要がある。
板組11が、図7に示されるように、2枚の第一鋼板111が重ね合わせられ、その上に1枚の第二鋼板112が配される構成を有してもよい。なお、図7の板組11において、第一鋼板111と第二鋼板112との重ね面11Aの数は1枚である。第二鋼板112と重ねられている第一鋼板111の硬度評価領域111Hにおいてのみ、溶融境界硬度勾配が所定範囲内とされていればよい。2枚の第一鋼板111の重ね面においては、溶融境界12B破断のリスクが低いので、溶融境界硬度勾配は特に限定されない。
板組11が、4枚以上の鋼板を含んでもよい。また、第一鋼板111の少なくとも一枚が第二鋼板112と重ねられている限り、板組11に、第一鋼板111及び第二鋼板112のいずれにも該当しない鋼板が含まれていてもよい。
実施例により本発明の一態様の効果を更に具体的に説明する。ただし、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例に過ぎない。本発明は、この一条件例に限定されない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限り、種々の条件を採用し得る。
鋼板A~Fを組み合わせて種々の板組を作成した。そして、発明例2以外の板組に対しては、本通電工程及び保持工程を含むスポット溶接継手の製造方法を適用して、種々のスポット溶接継手を製造した。発明例2の板組に対しては、本通電工程、冷却工程、偏析緩和後通電工程、及び保持工程を含むスポット溶接継手の製造方法を適用した。そして、スポット溶接継手の溶融境界硬度勾配及びP偏析度を、上述の手順で測定した。加えて、スポット溶接継手に十字引張試験を実施して溶接部を剥離破断させて、その破断形態を観察した。破断形態が溶融境界破断であるスポット溶接継手は、不合格(×)と判定し、プラグ破断であるスポット溶接継手は、合格(〇)と判定した。
溶接条件は以下の通りとした。
・板組の平均板厚:1.6mm
・本通電工程における加圧力:3.92N
・本通電工程における溶接電流値:7.0kA
・保持工程における加圧力:3.92N
・保持工程における保持時間:200msec
(偏析緩和後通電工程があった場合)
・冷却工程における加圧力:3.92N
・冷却工程における冷却時間:80msec
・偏析緩和後通電工程における加圧力:3.92N
・偏析緩和後通電工程における再加熱電流値:6.3kA
・偏析緩和後通電工程における偏析緩和後通電時間:600msec
表1に、鋼板A~Fの炭素量を示す。表2には、板組を構成する鋼板の種類、溶融境界硬度勾配、P偏析度、及び破断形態を記載した。
Figure 2024033313000002
Figure 2024033313000003
本発明例2、4、6~10のスポット溶接継手では、溶融境界硬度勾配が所定範囲内とされていた。これらのスポット溶接継手に十字引張試験をしたところ、溶融境界破断は生じなかった。
一方、比較例1、3、及び5においては、溶融境界硬度勾配が小さすぎた。即ち、これらの比較例においては、ナゲットと第一鋼板との間の硬度差が抑制されなかった。その原因は、重ね合わせられた第一鋼板と第二鋼板とのC含有量の差が0.07%超であり、しかも偏析緩和後通電がされなかったからであると推定される。これらのスポット溶接継手の十字引張試験をしたところ、溶融境界破断が生じた。
比較例11においては、溶融境界硬度勾配は所定範囲内とされていたが、第二鋼板が板組に含まれていなかった。比較例11においては、ナゲットの脆化が著しかったので、溶融境界破断が発生した。
1 スポット溶接継手
11 板組
111 第一鋼板
111H 硬度評価領域
112 第二鋼板
11A 第一鋼板と第二鋼板との重ね面
12 ナゲット
12B 溶融境界
12P P偏析評価領域
i 圧痕
VL1 第一仮想線
VL2 第二仮想線
VL3 第三仮想線
S1 本通電工程
S11 冷却工程
S12 偏析緩和後通電工程
S2 保持工程

Claims (8)

  1. C含有量が0.28質量%以上かつ引張強さが1700MPa以上である第一鋼板、及び、C含有量が0.28質量%未満である第二鋼板を含む板組と、
    前記板組を接合するナゲットと、
    を備えるスポット溶接継手であって、
    前記第一鋼板の少なくとも1枚は、前記第二鋼板と重ねられており、
    前記第一鋼板の硬度評価領域を、前記スポット溶接継手の、前記ナゲットの中心を通り且つ前記板組の表面に垂直な断面において、前記第一鋼板及び前記第二鋼板の重ね面に沿った第一仮想線と、前記第一仮想線に平行であり、前記第一仮想線から400μm離間され、且つ前記第一鋼板の内部に位置する第二仮想線と間の領域と定義し、
    溶融境界硬度勾配を、前記硬度評価領域の内部で、前記ナゲットの外縁である溶融境界に垂直な第三仮想線に沿って、前記ナゲットの外側から内側へ、荷重50gfのマイクロビッカース硬度測定を70μm間隔で連続的に行うことによって得られる、前記溶融境界を中心とした幅280μmの領域の硬度分布の、最小二乗法によって得られる一次近似直線の傾きと定義したとき、
    測定される、前記第一鋼板の全ての前記硬度評価領域における溶融境界硬度勾配が-0.5~0Hv/μmである
    スポット溶接継手。
  2. P偏析評価領域を、前記硬度評価領域の内部、且つ、前記ナゲットの内部に位置する200μm四方の矩形の領域であって、その頂点のうち1以上が前記溶融境界と一致し、且つ、その四辺のうち1つの延在方向と前記板組の厚さ方向とが一致する領域と定義し、
    平均P濃度を、前記P偏析評価領域において、前記P偏析評価領域の縦辺及び横辺それぞれに沿って0.5μm間隔で配されたP濃度測定点それぞれにおいて測定されたP濃度の平均値と定義し、
    P偏析点を、前記P偏析評価領域において、前記平均P濃度の10倍以上のP濃度を有する前記P濃度測定点と定義し、
    P偏析度を、前記P偏析点の個数が全ての前記P濃度測定点の個数に占める割合と定義したとき、
    前記P偏析度が0.3%以上であることを特徴とする請求項1に記載のスポット溶接継手。
  3. 互いに重ねられた前記第一鋼板と前記第二鋼板とのC含有量の差が0.07%以下であることを特徴とする請求項1に記載のスポット溶接継手。
  4. 互いに重ねられた前記第一鋼板と前記第二鋼板とのC含有量の差が0.07%以下であることを特徴とする請求項2に記載のスポット溶接継手。
  5. 請求項1~4のいずれか一項に記載のスポット溶接継手の製造方法であって、
    C含有量が0.28質量%以上かつ引張強さが1700MPa以上である第一鋼板、及び、C含有量が0.28質量%未満である第二鋼板を含む板組に、スポット溶接用電極を用いて加圧力を加えながら本通電して、前記板組を局所的に溶融させる工程と、
    前記本通電の後で、通電を実質的に停止した状態で前記板組への前記加圧力を保持して、前記板組を冷却する工程と
    を備え、
    前記第一鋼板の少なくとも1枚は、前記第二鋼板と重ねられており、
    前記本通電における加圧力FE(N)、溶接電流IW(kA)、及び前記板組に含まれる鋼板の平均板厚h(mm)が、下記式A及び下記式Bを満たし、
    前記保持において、前記加圧力FEが前記式Aを満たし、且つ、保持時間tH(msec)が、下記式Cを満たす
    スポット溶接継手の製造方法。
    1960×h≦FE≦3920×h・・・(式A)
    0.5≦IW≦9 ・・・(式B)
    0≦tH≦200 ・・・(式C)
  6. 前記本通電をする工程と、前記保持する工程とを連続的に実行し、
    前記保持する工程の後、前記加圧力を解放する
    ことを特徴とする請求項5に記載のスポット溶接継手の製造方法。
  7. 前記本通電をする工程と、前記保持をする工程との間に、
    前記通電を実質的に停止した状態で前記板組への前記加圧力を保持することにより、前記板組を冷却する工程と、
    前記板組に形成されたナゲットに偏析緩和後通電することにより、前記ナゲットを再加熱する工程と、
    をさらに備え、
    前記冷却及び前記偏析緩和後通電における加圧力FE(N)が、前記式Aを満たし、
    前記冷却における冷却時間tS(msec)が、下記式Dを満たし、
    前記本通電における前記溶接電流IW(kA)及び前記偏析緩和後通電における再加熱電流IP(kA)が、下記式Eを満たし、
    前記偏析緩和後通電における偏析緩和後通電時間tP(msec)が、下記式Fを満たす
    ことを特徴とする請求項5に記載のスポット溶接継手の製造方法。
    1≦tS≦400 ・・・(式D)
    0.6×IW≦IP≦0.9×IW・・・(式E)
    50≦tP≦1000 ・・・(式F)
  8. 請求項1~4のいずれか一項に記載のスポット溶接継手を備える自動車部品。
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