JP2024013431A - 量子吸収分光システム及び量子吸収分光方法 - Google Patents

量子吸収分光システム及び量子吸収分光方法 Download PDF

Info

Publication number
JP2024013431A
JP2024013431A JP2022115504A JP2022115504A JP2024013431A JP 2024013431 A JP2024013431 A JP 2024013431A JP 2022115504 A JP2022115504 A JP 2022115504A JP 2022115504 A JP2022115504 A JP 2022115504A JP 2024013431 A JP2024013431 A JP 2024013431A
Authority
JP
Japan
Prior art keywords
quantum
wavelength
optical path
length difference
signal
Prior art date
Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
Pending
Application number
JP2022115504A
Other languages
English (en)
Inventor
繁樹 竹内
Shigeki Takeuchi
佑 向井
Yu Mukai
雅也 荒畑
Masaya Arahata
亮 岡本
Akira Okamoto
Current Assignee (The listed assignees may be inaccurate. Google has not performed a legal analysis and makes no representation or warranty as to the accuracy of the list.)
Kyoto University
Original Assignee
Kyoto University
Priority date (The priority date is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the date listed.)
Filing date
Publication date
Application filed by Kyoto University filed Critical Kyoto University
Priority to JP2022115504A priority Critical patent/JP2024013431A/ja
Priority to PCT/JP2023/025937 priority patent/WO2024018994A1/ja
Publication of JP2024013431A publication Critical patent/JP2024013431A/ja
Pending legal-status Critical Current

Links

Images

Classifications

    • GPHYSICS
    • G01MEASURING; TESTING
    • G01JMEASUREMENT OF INTENSITY, VELOCITY, SPECTRAL CONTENT, POLARISATION, PHASE OR PULSE CHARACTERISTICS OF INFRARED, VISIBLE OR ULTRAVIOLET LIGHT; COLORIMETRY; RADIATION PYROMETRY
    • G01J3/00Spectrometry; Spectrophotometry; Monochromators; Measuring colours
    • G01J3/28Investigating the spectrum
    • G01J3/42Absorption spectrometry; Double beam spectrometry; Flicker spectrometry; Reflection spectrometry
    • GPHYSICS
    • G01MEASURING; TESTING
    • G01JMEASUREMENT OF INTENSITY, VELOCITY, SPECTRAL CONTENT, POLARISATION, PHASE OR PULSE CHARACTERISTICS OF INFRARED, VISIBLE OR ULTRAVIOLET LIGHT; COLORIMETRY; RADIATION PYROMETRY
    • G01J3/00Spectrometry; Spectrophotometry; Monochromators; Measuring colours
    • G01J3/28Investigating the spectrum
    • G01J3/45Interferometric spectrometry
    • GPHYSICS
    • G01MEASURING; TESTING
    • G01NINVESTIGATING OR ANALYSING MATERIALS BY DETERMINING THEIR CHEMICAL OR PHYSICAL PROPERTIES
    • G01N21/00Investigating or analysing materials by the use of optical means, i.e. using sub-millimetre waves, infrared, visible or ultraviolet light
    • G01N21/17Systems in which incident light is modified in accordance with the properties of the material investigated
    • G01N21/25Colour; Spectral properties, i.e. comparison of effect of material on the light at two or more different wavelengths or wavelength bands
    • G01N21/31Investigating relative effect of material at wavelengths characteristic of specific elements or molecules, e.g. atomic absorption spectrometry
    • G01N21/35Investigating relative effect of material at wavelengths characteristic of specific elements or molecules, e.g. atomic absorption spectrometry using infrared light
    • GPHYSICS
    • G02OPTICS
    • G02FOPTICAL DEVICES OR ARRANGEMENTS FOR THE CONTROL OF LIGHT BY MODIFICATION OF THE OPTICAL PROPERTIES OF THE MEDIA OF THE ELEMENTS INVOLVED THEREIN; NON-LINEAR OPTICS; FREQUENCY-CHANGING OF LIGHT; OPTICAL LOGIC ELEMENTS; OPTICAL ANALOGUE/DIGITAL CONVERTERS
    • G02F1/00Devices or arrangements for the control of the intensity, colour, phase, polarisation or direction of light arriving from an independent light source, e.g. switching, gating or modulating; Non-linear optics
    • G02F1/35Non-linear optics
    • G02F1/39Non-linear optics for parametric generation or amplification of light, infrared or ultraviolet waves

Landscapes

  • Physics & Mathematics (AREA)
  • Spectroscopy & Molecular Physics (AREA)
  • General Physics & Mathematics (AREA)
  • Nonlinear Science (AREA)
  • Analytical Chemistry (AREA)
  • Health & Medical Sciences (AREA)
  • Life Sciences & Earth Sciences (AREA)
  • Chemical & Material Sciences (AREA)
  • Optics & Photonics (AREA)
  • Biochemistry (AREA)
  • General Health & Medical Sciences (AREA)
  • Immunology (AREA)
  • Pathology (AREA)
  • Investigating Or Analysing Materials By Optical Means (AREA)
  • Spectrometry And Color Measurement (AREA)
  • Optical Modulation, Optical Deflection, Nonlinear Optics, Optical Demodulation, Optical Logic Elements (AREA)

Abstract

【課題】量子吸収分光において、広い波長域に亘って高速に試料の吸収分光特性を算出する。【解決手段】回転ステージ105は、量子もつれ光子対の波長を結晶回転角θの変更により走査する。移動ミラー110及び駆動装置111は、シグナル光子とアイドラー光子との間の光路長差を掃引する。光検出器81は、対象試料がアイドラー光子の光路に配置された状態において、シグナル光子の検出数に応じた信号を出力する。プロセッサ91は、結晶回転角θの変更により波長を順次変化させる度に、量子干渉信号のエンベロープ全体が取得されるように光路長差を掃引する場合と比べて光路長差の掃引範囲が限定された条件下、又は光路長差が固定された条件下で量子干渉信号を取得し、取得された量子干渉信号に現れる干渉縞の振幅を算出し、算出された干渉縞の振幅に基づいて、結晶回転角θに対応するアイドラー光子の波長における吸収分光特性を算出する。【選択図】図14

Description

本開示は、量子吸収分光システム及び量子吸収分光方法に関する。
近年、量子計測、量子通信及び量子計算などの量子技術分野において、2つの光子が量子力学的な相関を有する「量子もつれ」が生じた光子対を利用して新規機能を実現する研究が進められている。以下、このような光子対を「量子もつれ光子対」と称し、量子もつれ光子対の吸収による分光を「量子吸収分光」と称する。国際公開第2021/117632号(特許文献1)は、本発明者らにより提案された量子吸収分光システム及び量子吸収分光方法を開示する。
国際公開第2021/117632号 特開2004-54191号公報
Y. Mukai, M. Arahata , T. Tashima , R. Okamoto, and S. Takeuchi, "Quantum Fourier-Transform Infrared Spectroscopy for Complex Transmittance Measurements", Physical Review Applied 15, 034019 (2021) Masaya Arahata, Yu Mukai, Bo Cao, Toshiyuki Tashima, Ryo Okamoto, and Shigeki Takeuchi, "Wavelength variable generation and detection of photon pairs in visible and mid-infrared regions via spontaneous parametric down conversion", Vol. 38, No. 6/June 2021/Journal of the Optical Society of America B Masaya Arahata, Yu Mukai, Toshiyuki Tashima, Ryo Okamoto, and Shigeki Takeuchi, "Wavelength-tunable broadband infrared quantum absorption spectroscopy in the mid-infrared region 2-5 um", 第4回IFQMS要旨集, 2021年12月3日 Yu Mukai, Ryo Okamoto, and Shigeki Takeuchi, "Quantum Fourier-transform infrared spectroscopy in the fingerprint region", Optics Express Vol. 30, No. 13, 22624-22636 (2022) Chiara Lindner, Sebastian Wolf, Jens Kiessling and Frank Kuhnemann, "Fourier transform infrared spectroscopy with visible light", Optics Express Vol. 28, No. 4, 4426-4432 (2020)
量子吸収分光においても、古典的な光学系が用いられる従来型の吸収分光と同様に、試料の吸収分光特性を計測可能な波長域を広くする要望と、計測時間を短くする要望とが存在する。本発明者らは、たとえば特許文献1に開示された量子吸収分光において広い波長域に亘る吸収分光特性を計測対象とする場合、計測時間が長くなり得る点に着目した(詳細は後述)。過度に長い計測時間は実用性の低下につながり得る。よって、広い波長域を対象とする量子吸収分光では計測時間の短縮に対する要望が特に顕著になる。
本開示は上記の課題を解決するためになされたものであり、本開示の目的の1つは、広い波長域に亘って高速に試料の吸収分光特性を計測可能な技術を提供することである。
本開示の一態様において、量子吸収分光システムは、シグナル光子とアイドラー光子との量子もつれ光子対が発生する複数の物理過程の間で量子干渉を起こすように構成された量子光学系を備える。量子光学系は、非線形光学素子と、波長走査部と、光路掃引部とを含む。非線形光学素子は、ポンプ光の照射により、量子もつれ光子対を発生させる。波長走査部は、量子もつれ光子対の波長を制御パラメータの変更により走査するように構成されている。光路掃引部は、シグナル光子とアイドラー光子との間の光路長差を掃引するように構成されている。量子吸収分光システムは、さらに、光検出器と、プロセッサとを備える。光検出器は、対象試料がアイドラー光子の光路に配置された状態において、シグナル光子の検出数に応じた信号を出力する。プロセッサは、量子干渉を起こすように量子光学系を制御し、当該制御中に光検出器から取得される量子干渉信号に基づいて対象試料の吸収分光特性を算出する。プロセッサは、制御パラメータの変更により波長を順次変化させる度に、量子干渉信号のエンベロープ全体が取得されるように光路長差を掃引する場合と比べて光路長差の掃引範囲が限定された条件下、又は光路長差が固定された条件下で量子干渉信号を取得する。プロセッサは、取得された量子干渉信号に現れる干渉縞の振幅を算出し、算出された干渉縞の振幅に基づいて、制御パラメータに対応するアイドラー光子の波長における吸収分光特性を算出する。
本開示によれば、広い波長域に亘って高速に試料の吸収分光特性を計測できる。
本開示の実施の形態1に係る量子吸収分光システムの全体構成の一例を示す図である。 コントローラの代表的な構成例を示す図である。 量子吸収分光の原理を説明するための概念図である。 非線形光学結晶の回転を説明するための図である。 ファインモードの概要を説明するための概念図である。 ファインモードの全体処理手順を示すフローチャートである。 ファインモードにおける第2の量子計測の処理手順の一例を示すフローチャートである。 ファインモードにおける演算処理の処理手順の一例を示すフローチャートである。 量子干渉信号の一例と、当該量子干渉信号から得られたフーリエスペクトルとを示す図である。 量子干渉信号の他の一例と、当該量子干渉信号から得られたフーリエスペクトルとを示す図である。 図9及び図10に例示したフーリエスペクトルの解析結果をまとめた図である。 コースモードの概要を説明するための概念図である。 コースモードの全体処理手順を示すフローチャートである。 コースモードにおける第2の量子計測の処理手順の第1例を示すフローチャートである。 コースモードにおける演算処理の処理手順の一例を示すフローチャートである。 非線形光学結晶の回転走査に伴う量子干渉信号のピークシフトを示す図である。 非線形光学結晶の角度と量子干渉信号のピーク位置との間の関係の一例を示す図である。 実施の形態1に係る第2スイープの掃引範囲に関するマップの概念図である。 コースモードにおける第2の量子計測の処理手順の第2例を示すフローチャートである。 コースモードにより得られた透過スペクトルの一例を示す図である。 ファインモードの全体処理手順を示すフローチャートである。 ファインモードにおける第2の量子計測の処理手順の一例を示すフローチャートである。 ファインモードにおける演算処理の処理手順の一例を示すフローチャートである。 アイドラー波長2.7μm付近のファインモードによる計測結果の一例を示す図である。 アイドラー波長4.3μm付近のファインモードによる計測結果の一例を示す図である。 本開示の実施の形態1に係る量子吸収分光システムの全体構成の他の一例を示す図である。 ATRユニットの構成例を示す図である。 非線形光学結晶の結晶材料をまとめた図である。 実施の形態1の変形例1に係る量子吸収分光システムの全体構成を示す図である。 並進ステージによる擬似位相整合デバイスの平行移動の様子を示す図である。 擬似位相整合デバイスの平行移動に伴って発生するアイドラー光子の波長に関するシミュレーション結果の一例を示す図である。 実施の形態1の変形例1に係る第2スイープの掃引範囲に関するマップの概念図である。 実施の形態1の変形例1に係る第2の量子計測の処理手順の一例を示すフローチャートである。 実施の形態1の変形例2に係る量子吸収分光システムの全体構成を示す図である。 非線形光学結晶の温度の制御に伴うアイドラー光子の波長の変化に関するシミュレーション結果の一例を示す図である。 実施の形態1の変形例2に係る第2スイープの掃引範囲に関するマップの概念図である。 実施の形態1の変形例2に係る第2の量子計測の処理手順の一例を示すフローチャートである。 実施の形態1の変形例3に係る量子吸収分光システムの全体構成を示す図である。 ポンプ光の波長の変化に伴うアイドラー光子の波長の変化に関するシミュレーション結果の一例を示す図である。 実施の形態1の変形例3に係る第2スイープの掃引範囲に関するマップの概念図である。 実施の形態1の変形例3に係る第2の量子計測の処理手順の一例を示すフローチャートである。 実施の形態2に係る量子吸収分光システムの全体構成を示す図である。 分光器82の構成例を示す図である。 実施の形態2に係る量子干渉信号の解析手法を説明するための概念図である。 実施の形態2に係る明瞭度の算出手法を説明するための図である。 実施の形態2に係る第2の量子計測の処理手順の一例を示すフローチャートである。 実施の形態2に係る演算処理の処理手順の一例を示すフローチャートである。 実施の形態3に係る量子吸収分光システムの全体構成を示す図である。 実施の形態3に係る量子干渉信号の解析手法を説明するための概念図である。 実施の形態3に係る明瞭度の算出手法を説明するための図である。 実施の形態3に係る第2の量子計測の処理手順の一例を示すフローチャートである。 実施の形態3に係る演算処理の処理手順の一例を示すフローチャートである。
以下、本開示の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一又は相当部分には同一符号を付して、その説明は繰り返さない。
[用語の説明]
本開示及びその実施の形態において、紫外域とは、10nm~360nmの波長域を意味する。可視域とは、360nm~1050nmの波長域を意味する。近赤外域とは、1050nm~2μmの波長域を意味する。中赤外域とは、2μm~5μmの波長域を意味する。遠赤外域とは、5μm~20μmの波長域を意味する。超遠赤外域とは、20μm~1mmの波長域を意味する。赤外域とは、近赤外域、中赤外域、遠赤外域及び超遠赤外域を全て含み得る。
本開示及びその実施の形態において、ナノメートルオーダーには、1nmから1000nm(=1μm)までの範囲が含まれる。マイクロメートルオーダーには、1μmから1000μm(=1mm)までの範囲が含まれる。ミリメートルオーダーには、1mmから10mm(=1cm)までの範囲が含まれる。
以下の実施の形態では、本開示に係る量子吸収分光システムにより赤外域(特に中赤外域)における試料の吸収分光特性を計測する構成について説明する。ただし、本開示に係る量子吸収分光システムにより計測可能な波長域は赤外域に限定されるものではなく、紫外域であってもよいし可視域であってもよい。
[実施の形態1]
<システム構成>
図1は、本開示の実施の形態1に係る量子吸収分光システムの全体構成の一例を示す図である。量子吸収分光システム1は、試料の赤外域における吸収分光特性(複素透過率スペクトル、透過スペクトル、吸収スペクトルなど)を計測するように構成されている。量子吸収分光システム1は、量子光学系10と、光検出器81と、コントローラ90とを備える。
量子光学系10は、ポンプ光からシグナル光子とアイドラー光子との量子もつれ光子対が発生する複数の物理過程の間で量子干渉を生じさせるように構成されている。図中、ポンプ光をLpで示す。シグナル光(シグナル光子からなる光)の光路をLsで示し、アイドラー光(アイドラー光子からなる光)の光路をLiで示す。このように、添字p,s,iは、それぞれ、ポンプ光、シグナル光及びアイドラー光に関連するパラメータであることを示す。たとえば、ポンプ光の波長を「ポンプ波長λp」と記載し、シグナル光子の波長を「シグナル波長λs」と記載し、アイドラー光子の波長を「アイドラー波長λi」と記載する。光路、角周波数などについても同様である。
量子光学系10は、励起光源101と、レンズ102と、ダイクロイックミラー103と、非線形光学結晶104と、回転ステージ105と、ダイクロイックミラー106と、固定ミラー107と、レンズ108と、試料ホルダ109と、移動ミラー110と、駆動装置111と、レンズ112と、ロングパスフィルタ113と、アイリス114と、バンドバスフィルタ115と、並進ステージ116とを含む。
励起光源101は、非線形光学結晶104を励起するためのポンプ光を発する。ポンプ光は、可視域に含まれる連続波(CW:Continuous wave)のレーザ光である。本実施の形態では、波長532nmの緑色のレーザ光を発する半導体レーザが励起光源101として採用されている。
レンズ102は、励起光源101とダイクロイックミラー103との間に配置されている。レンズ102は、励起光源101からのポンプ光を集光し、集光したポンプ光が非線形光学結晶104に焦点を結ぶように調整されている。
ダイクロイックミラー103は、レンズ102と非線形光学結晶104との間に配置されている。ダイクロイックミラー103は、シグナル光を透過する一方で、ポンプ光及びアイドラー光は反射する。ポンプ光は、ダイクロイックミラー103で反射して非線形光学結晶104に照射される。
非線形光学結晶104は、レンズ102により集光されたポンプ光からシグナル光とアイドラー光とを発生させる。より詳細には、非線形光学結晶104は、ポンプ光の自発パラメトリック下方変換(SPDC:Spontaneous Parametric Down-Conversion)によりシグナル光子とアイドラー光子との光子対を生成する。ポンプ光のSPDCにおいては、自発パラメトリック下方変換の前後でエネルギー保存則及び位相整合条件(波数ベクトルの保存則)が満たされる。本実施の形態において、非線形光学結晶104は、タイプIのニオブ酸リチウム(MgO:LiNbO)結晶(厚み0.5mm)である。この場合、シグナル光は可視光であり、アイドラー光は赤外光(近赤外光又は中赤外光)である(図11参照)。
非線形光学結晶104は、本開示に係る「非線形光学素子」の一例である。本開示に係る「非線形光学素子」は、非線形光学結晶に限定されず、たとえばリング共振器であってもよいし、シリコン(Si)及び/又は窒化シリコン(SiN)などにより形成される光導波路であってもよい。また、量子もつれ光子対の発生にポンプ光のSPDCに代えて自発的四光波混合(SFWM:Spontaneous Four-Wave Mixing)を用いてもよい。リング共振器、光導波路等を「非線形光学素子」として採用する場合、SFWMを好適に用いることができる。
回転ステージ105は、コントローラ90からの制御指令に従って、ポンプ光に対して非線形光学結晶104を回転するように構成されている。ポンプ光の垂直入射方向を基準とした非線形光学結晶104の回転角度を「結晶回転角θ」と記載する。結晶回転角θは本開示に係る「制御パラメータ」の一例である。回転ステージ105は、結晶回転角θを所定の範囲内で結晶回転角θを少しずつ変化させることによって、SPDCの位相整合条件(下記式(1)参照)を変更するように構成されている。回転ステージ105を用いた非線形光学結晶104の回転走査については図4にて詳細に説明する。
Figure 2024013431000002
回転ステージ105は、本開示に係る「波長走査部」の一例である。本開示に係る「波長走査部」としては後述する変形例1~3に示すような他の構成も採用可能である。
ダイクロイックミラー106は、非線形光学結晶104と移動ミラー110との間、かつ、非線形光学結晶104と固定ミラー107との間に配置されている。本実施の形態において、ダイクロイックミラー106は、可視光を透過し、赤外光を反射する。可視域のシグナル光は、ポンプ光とともにダイクロイックミラー106を透過して固定ミラー107に向かう。一方、赤外域のアイドラー光は、ダイクロイックミラー106で反射して移動ミラー110に向かう。なお、ダイクロイックミラー106は、赤外光を透過し、可視光を反射するものであってもよい。
固定ミラー107は、たとえば凹面鏡であって、各々ダイクロイックミラー106を透過したポンプ光及びシグナル光を反射する。ポンプ光の反射光及びシグナル光の反射光は、ダイクロイックミラー106を再び透過して非線形光学結晶104に戻る。ポンプ光は、非線形光学結晶104を通過するが、ダイクロイックミラー103で反射する。一方、シグナル光は、非線形光学結晶104を通過し、ダイクロイックミラー103も透過する。
レンズ108は、ダイクロイックミラー106と試料ホルダ109との間に配置されている。レンズ108は、ダイクロイックミラー106で反射したアイドラー光を平行光にする。
試料ホルダ109は、非線形光学結晶104と移動ミラー110との間に配置されている。試料ホルダ109は試料(図中、SPで示す)を保持する。後述する各種の量子計測結果は、可視域から中赤外域までの波長域で高い透過率を示すガラス(より具体的には、厚み1mmのUV溶融石英(ultraviolet fused silica))を試料として用いたものである。試料ホルダ109の材料には、アイドラー光(この例では赤外光)に対して透明な材料が用いられている。アイドラー光は、試料に照射され、その透過光が移動ミラー110に向かう。
移動ミラー110は、たとえば平面鏡であって、試料を透過したアイドラー光を反射する。反射したアイドラー光は、ダイクロイックミラー106でさらに反射して非線形光学結晶104に戻る。アイドラー光は、非線形光学結晶104を通過するものの、ダイクロイックミラー103で反射して除去される。したがって、アイドラー光が光検出器81に到達することはない。
駆動装置111は、コントローラ90からの制御指令に従って、アイドラー光の伝搬方向に沿って移動ミラー110を移動させるように構成されている。駆動装置111は、たとえば、コントローラ90からの制御指令に従って機械的に変位するモータ駆動装置(サーボモータ、ステッピングモータなど)を含む。駆動装置111は、コントローラ90からの印加電圧に応じて変位する圧電素子(ピエゾ素子)を含んでもよい。
以下、シグナル光路長とアイドラー光路長との間の光路長差をΔLで表す。駆動装置111は、移動ミラー110を走査することによって、シグナル光路長とアイドラー光路長とが一致するΔL=0の位置を含む所定の範囲内で光路長差ΔLを変化させることができるように構成されている。光路長差ΔLは移動ミラー110の変位量の2倍に等しい。
レンズ112は、ダイクロイックミラー103と光検出器81との間に配置されている。レンズ112は、ダイクロイックミラー103を透過したシグナル光を集光し、集光したシグナル光を光検出器81に出力する。
ロングパスフィルタ113、アイリス114及びバンドバスフィルタ115は、ダイクロイックミラー103で反射されずに光検出器81に向かうポンプ光(及び背景光)を除去する。バンドバスフィルタ115は、バンドバスフィルタ115の位置を調整するための並進ステージ116上に配置されている。
なお、図1に示す量子光学系10では、マイケルソン(Michelson)干渉計に類似した量子干渉計が採用されている。しかし、本開示に係る量子光学系は、複数の非線形光学素子を含むマッハツェンダ(Mach-Zehnder)干渉計に類似した構成を有してもよい。
光検出器81は、シリコンベースの光検出器であって、可視域(及び近赤外域の一部)に高い感度を有する。実施の形態1において、光検出器81は、シングルピクセル型の受光素子(図示せず)を含む。具体的に、光検出器81は、たとえば、PINフォトダイオード又はAPD(avalanche photodiode)などのフォトダイオードを含む。光検出器81は、光電管(phototube)、光電子増倍管(PMT:photomultiplier tube)又は超伝導光子検出器(SSPD:superconducting single photon detector)などを含んでもよい。ただし、光検出器81がマルチピクセル型の受光素子を含む構成も除外されない。光検出器81は、シグナル光を導波するための光ファイバ(マルチモードファイバ)に光学的に結合されていてもよい。光検出器81は、シグナル光を検出し、その検出信号をコントローラ90に出力する。シグナル光の検出信号の強度は、光検出器81によるシグナル光子の検出数に正比例する。
コントローラ90は、量子吸収分光システム1内の各機器(励起光源101、回転ステージ105、駆動装置111及び並進ステージ116)を制御する。また、コントローラ90は、光検出器81からのシグナル光の検出信号(後述する量子干渉信号)に基づいて試料の赤外吸収分光特性を算出するための各種演算処理を実行する。
図2は、コントローラ90の代表的な構成例を示す図である。コントローラ90は、プロセッサ91と、メモリ92と、入力機器93と、出力機器94と、通信インターフェース(IF)95とを含む。メモリ92は、ROM(Read Only Memory)921と、RAM(Random Access Memory)922と、フラッシュメモリ923とを含む。コントローラ90の構成要素はバス等の信号線によって互いに接続されている。なお、コントローラ90は機能ごとに2以上に分割して構成されていてもよい。
プロセッサ91は、典型的にはCPU(Central Processing Unit)であって、各種演算処理を実行する。プロセッサ91による演算処理については後に詳細に説明する。メモリ92は、プロセッサ91により実行されるコンピュータプログラム(オペレーティングシステム、アプリケーションプログラムなど)と、そのコンピュータプログラムで使用されるデータ(マップ、テーブル、数式、パラメータなど)とを記憶する。また、メモリ92は、プロセッサ91による演算処理結果を一時的に格納する。入力機器93は、ユーザ(研究者、技術者、オペレータなどの測定者)の入力操作を受け付ける。入力機器93はキーボード、マウスなどである。出力機器94は様々な情報をユーザに出力する。出力機器94は、たとえばディスプレイである。通信IF95は、量子吸収分光システム1内の各機器と通信可能に接続されている。通信IF95は外部機器(図示しないサーバなど)と通信可能であってもよい。
<原理>
≪量子吸収分光の原理≫
図3は、量子吸収分光の原理を説明するための概念図である。ここでは理解を容易にするため、ポンプ光の光路中に2つの非線形光学結晶が配置された構成を例に説明する。2つの非線形光学結晶を第1の結晶104A及び第2の結晶104Bと記載する。図1に示した量子光学系10の構成は、非線形光学結晶104が第1の結晶104A及び第2の結晶104Bの両方を兼ねた構成である。
励起光源101からのポンプ光を第1の結晶104Aに照射すると、第1の結晶104AにおけるSPDCにより、エネルギーが相対的に大きい1つの光子が、エネルギー保存則及び位相整合条件を満たしつつ、エネルギーがより小さい2つの光子に分かれる。図3に示す例では、1つの可視光子(ポンプ光子)から、1つの可視光子(シグナル光子)と1つ赤外光子(アイドラー光子)との量子もつれ光子対が発生する。第2の結晶104Bへのポンプ光の照射によっても同様に、1つの可視光子と1つ赤外光子との量子もつれ光子対が発生する。
第1の結晶104Aにより量子もつれ光子対が発生する事象(第1の物理過程)と、第2の結晶104Bにより量子もつれ光子対が発生する事象(第2の物理過程)との間で量子干渉が起こる。より詳細には、第1の物理過程を表す確率振幅と第2の物理過程を表す確率振幅とを足し合わせた場合に、上記2つの確率振幅が同位相であれば第1の物理過程と第2の物理過程とが強め合う一方で、上記2つの確率振幅が逆位相であれば第1の物理過程と第2の物理過程とが打ち消し合う(量子干渉効果)。以下では、第1の物理過程と第2の物理過程とが打ち消し合う干渉(破壊的干渉)を例に説明する。ただし、量子光学系10は建設的干渉を起こすように構成されていてもよい。また、量子光学系10は、3回以上の物理過程の間で量子干渉を起こしてもよい。
光検出器81は、量子もつれ光子対のうちの可視光子(シグナル光)の進行方向に配置されている。試料がアイドラー光路に配置されていない場合、第1の物理過程と第2の物理過程との見分けが付かず、第1の物理過程と第2の物理過程とが量子干渉を起こし、この例では打ち消し合う。この場合、第2の結晶104Bよりも後段では、量子もつれ光子対が発生していないように観測される。つまり、シグナル光が光検出器81により検出されることはない。これに対し、試料がアイドラー光路に配置されている場合には、アイドラー光子が試料に吸収される。そうすると、第1の物理過程と第2の物理過程との見分けが付くことになり、第1の物理過程と第2の物理過程との間の量子干渉が不完全になる。その結果、シグナル光子が光検出器81により検出される。
このように、量子吸収分光においては、量子もつれ光子対のうちの一方の可視光子(シグナル光子)を光検出器81により検出することによって、もう一方の赤外光子(アイドラー光子)が試料により吸収されたと判定することが可能である。
図1に示すようなマイケルソン型の量子干渉計において、単位時間当たりのシグナル光子の検出数は下記式(2)のように表される。以下、このパラメータを「検出光子数P」(signal counts)と記載する。シグナル周波数をωsで表し、アイドラー周波数をωiで表す。シグナル光路とアイドラー光路との間の光の遅延時間をΔtで表す。二光子場振幅(two-photon field amplitude)をF(ωi)で表す。試料の複素透過率(複素透過振幅)をτで表す。時間に依存しない位相をΘで表す。
Figure 2024013431000003
≪非線形光学結晶の回転≫
図4は、非線形光学結晶104の回転を説明するための図である。前述のように、結晶回転角θは、ポンプ光の垂直入射方向を基準とする非線形光学結晶104の回転角度である。非線形光学結晶104の光軸をOAで示す。非線形光学結晶104の面法線をSNで示す。非線形光学結晶104のカット角をφで示す。カット角φは非線形光学結晶104の仕様から既知である。後述する量子計測に使用した非線形光学結晶104のカット角φは57.9°であった。ポンプ光の伝搬方向と非線形光学結晶104の光軸OAとがなす角を内部角度θ’と記載する。
非特許文献2に詳細に記載されているように、結晶回転角θと内部角度θ’とは相互に変換可能である。結晶回転角θと内部角度θ’との間に成り立つ関係式(非特許文献2の式(4)~式(7)参照)と、SPDCにおけるエネルギー保存則及び位相整合条件(非特許文献2の式(1)~式(3)参照)とから、結晶回転角θ(又は内部角度θ’)を設定すると、アイドラー波長λi及びシグナル波長λsも一意的に定まるとの関係が導かれる。つまり、結晶回転角θからアイドラー波長λi及びシグナル波長λsを算出できる(後述する図11参照)。
以上のように構成された量子吸収分光システム1は以下の3つの制御モードを有する。
1.Q-FTIR(quantum Fourier-transform infrared spectroscopy)モード
2.コース(coarse)モード
3.ファイン(fine)モード
ユーザは、入力機器93に対する操作によって3つの制御モードを使い分けることができる。以下、各制御モードの特徴を明確にするため、上記の順に説明する。ファインモードは本開示に係る「第1のモード」に相当し、コースモードは本開示に係る「第2のモード」に相当する。なお、以下に記載する数値は理解を助けるための例示的なものであり、限定的な解釈に使用されるべきではない。
<Q-FTIRモード>
≪Q-FTIRモードの概要≫
図5は、Q-FTIRモードの概要を説明するための概念図である。この例では、移動ミラー110の変位範囲Dを1.25mm(光路長差の掃引範囲W=2.5mm)とする。移動ミラーの変位ステップδdを100nm(移動ミラー110の変位1回当たりの光路長差の掃引ステップδL=200nm)とする。
まず、回転ステージ105の制御により、結晶回転角θが開始角度θ(0)(たとえばθ(0)=-10°)に設定される。そして、光路長差ΔLが-1.25mm(左端)から1.25mm(右端)までの全範囲で変化するように移動ミラー110が変位される。たとえば、ΔL=-1.25mmに設定された状態で検出光子数Pが取得される。続いて、移動ミラー110を変位ステップδd=100nmだけ変位させ、それにより光路長差ΔLを掃引ステップδL=200nmだけ増加させて検出光子数Pが再び取得される。このように、ΔL=1.25mmに達するまで、光路長差ΔLを掃引ステップδLずつ掃引しながら検出光子数Pが取得される。次に、結晶回転角θをθ(0)からθ(1)(たとえばθ(1)=-9°)に変化させてから同様に光路長差ΔLが掃引される。その後も結晶回転角θが終了角度(たとえば30°)に達するまでの間、結晶回転角θの変化(この例では1°ずつの増加)により量子もつれ光子対の波長を走査しながら同様の光路長差ΔLの掃引が繰り返し実施される。
なお、図中の黒いマーカーは、サンプリング(移動ミラー110の変位及び検出光子数Pの取得)の実行位置を示す。後述するように、実際のサンプリング回数は図示できないほど多い。図5の上図にはサンプリングの実行位置の一部のみが模式的に図示されている。
以下では、量子干渉信号のうち検出光子数Pが変動して量子干渉縞(フリンジ構造)が現れる部分を「エンベロープ」という。Q-FTIRモードでは、量子干渉信号のエンベロープ全体が取得されるように光路長差ΔLが掃引される。
≪Q-FTIRモードの処理フロー≫
図6は、Q-FTIRモードの全体処理手順を示すフローチャートである。このフローチャートに示される一連の処理は、たとえば、入力機器93がユーザ操作(開始ボタンの押下操作など)を受け付けた場合にメインルーチンから呼び出されて実行される。各ステップは、コントローラ90内に配置された、1以上のプロセッサ91を含む電気回路(circuitry)により実行される。各ステップは典型的にはソフトウェア処理により実現されるが、一部又は全部のステップがハードウェア処理により実現されてもよい。他のフローチャートについても同様である。以下、ステップを「S」と略す。
S11において、コントローラ90は、アイドラー光路に配置された試料ホルダ109に試料が設置されていない状態での「第1の量子計測」を実行する。第1の量子計測については適宜省略可能である。ユーザが事前に実行した第1の量子計測の結果をコントローラ90のメモリ92に格納しておいてもよい。量子吸収分光システム1の製造業者が第1の量子計測を出荷前に実行し、その結果をメモリ92に格納しておいてもよい。
S12において、コントローラ90は、試料ホルダ109に試料が設置された状態での「第2の量子計測」を実行する。なお、試料は通常、ユーザにより設置される。しかし、試料を搬送するフィード装置(図示せず)を設けることで自動化することも可能である。第1の量子計測と第2の量子計測との順序を入れ替えてもよい。
S13において、コントローラ90は、第1及び第2の量子計測の結果に基づいて、試料の赤外吸収分光特性を算出するための演算処理を実行する。この演算処理については図8にて説明する。
第1の量子計測と第2の量子計測とは試料の設置の有無が異なる以外は同等である。そのため、以下では第2の量子計測について代表的に説明する。
図7は、Q-FTIRモードにおける第2の量子計測の処理手順の一例を示すフローチャートである。S121において、コントローラ90は、非線形光学結晶104を回転させる範囲(結晶回転角θの走査範囲)を設定する。結晶回転角θの走査範囲は、結晶回転角θ(又は内部角度θ’)とアイドラー波長λiとの対応関係(図11参照)に基づき、試料の赤外吸収分光特性を計測しようとする波長(アイドラー波長λi)に応じて設定できる。結晶回転角θの走査範囲は、発生させようとする量子もつれ光子対の波長域に応じて、たとえばユーザの手動操作により設定されてもよい。図5の例では、結晶回転角θが-10°から30°まで1°ずつ変化するように結晶回転角θの走査範囲が設定される。ただし、結晶回転角θが等間隔(等しいステップ)で変化することは例示に過ぎず、結晶回転角θの変化量は変化の度に異なってもよい。最初の処理時には結晶回転角θは予め定められた開始角度θ(0)に設定される。
S122において、コントローラ90は、ポンプ光の出力を開始するように励起光源101を制御する。
S123,S124において、コントローラ90は、移動ミラー110が変位するように駆動装置111を制御することで、広い掃引範囲Wの全体に対して掃引ステップδLで光路長差ΔLを変化させる。コントローラ90は、たとえば、マイクロメートルオーダー又はミリメートルオーダーの掃引範囲Wに対してナノメートルオーダーの掃引ステップδLでの掃引を実行する。具体的な処理手順を説明すると、コントローラ90は、移動ミラー110が前回の位置から変位ステップδwだけ変位するように、移動ミラー110に設けられた駆動装置111を制御する。これにより、光路長差ΔLが掃引ステップδL(=2δw)だけ変化する。そして、コントローラ90は、光検出器81から検出光子数Pを取得する(S123)。全掃引範囲Wに対する掃引が終了していない場合(S124においてNO)、コントローラ90は、処理をS123に戻し、再び光路長差ΔLを掃引ステップδLだけ変化させて検出光子数Pを取得する。全掃引範囲Wに対する掃引が終了すると(S124においてYES)、設定された結晶回転角θに対応する量子干渉信号(図9及び図10参照)が取得される。コントローラ90は、処理をS125に進める。
なお、一般に、光検出結果の積算により信号雑音比を向上させることができる。そのため、コントローラ90は、光路長差ΔLの掃引(移動ミラー110の変位)を規定の回数だけ繰り返してもよい。ただし、コントローラ90は1回しか掃引を行わなくてもよい。
S125において、コントローラ90は、非線形光学結晶104がS121にて定められた角度だけ回転するように、すなわち、結晶回転角θがθ(n)からθ(n+1)(n:0又は自然数)に変化するように、回転ステージ105を制御する。
S126において、コントローラ90は、非線形光学結晶104の回転走査終了条件が成立したかどうかを判定する。結晶回転角θが終了角度に達していない場合(S126においてNO)、コントローラは、処理をS123に戻す。これにより、非線形光学結晶104がさらに回転した状態で光路長差ΔLが再び掃引される。結晶回転角θが終了角度に達すると(S126においてYES)、コントローラは、処理をS127に進め、ポンプ光の出力を停止するように励起光源101を制御する。
図8は、Q-FTIRモードにおける演算処理の処理手順の一例を示すフローチャートである。このフローチャートに示される処理は、第2の量子計測に続いて自動的に実行されてもよいし、ユーザによる手動操作(解析開始ボタンの押下操作など)に応答して実行されてもよい。後述する他の演算処理についても同様である。
Q-FTIRモードでは、第1及び第2の量子計測により取得された量子干渉信号の各々に対してフーリエ変換が行われる。上記式(1)において、光の遅延時間Δtを光路長差ΔLに変換し、かつ角周波数ωを波数kに変換すると、下記式(3)が導かれる。
Figure 2024013431000004
S131において、コントローラ90は、第2の量子計測により得られた量子干渉信号のフーリエ変換により、フーリエスペクトルの振幅A(k)を算出する(下記式(4)参照)。
Figure 2024013431000005
S132において、コントローラ90は、S131の処理と同様に、第1の量子計測により得られた量子干渉信号のフーリエ変換により、フーリエスペクトルの振幅A (k)を算出する。
S133において、コントローラ90は、下記式(5)に示すように上記2つの振幅の比を取ることによって、試料の複素透過率スペクトルτ ’*(k)を算出する。コントローラ90は、複素透過率スペクトルの絶対値の2乗により、試料の透過スペクトルT(k)を算出してもよい。
Figure 2024013431000006
このように、Q-FTIRモードでは、試料のあり/なしの2通りのフーリエスペクトルの振幅比に基づいて、試料の赤外吸収分光特性が算出される。試料の赤外吸収分光特性は、試料の複素透過率スペクトルτ(k)及び透過スペクトルT(k)を含み得る。
≪Q-FTIRモードの計測結果≫
図9は、量子干渉信号の一例と、当該量子干渉信号から得られたフーリエスペクトルとを示す図である。図10は、量子干渉信号の他の一例と、当該量子干渉信号から得られたフーリエスペクトルとを示す図である。上図において、横軸は光路長差ΔLを表し、縦軸は検出光子数Pを表す。右上に光路長差ΔL=0付近における量子干渉信号の拡大図を示す。下図において、横軸は波長(=アイドラー波長λi)を表し、縦軸はフーリエスペクトルの強度(振幅A)を表す。この例では、光路長差の掃引範囲Wを200μmに設定し、光路長差の掃引ステップδLを100nmに設定した。移動ミラー110の各位置における光積算時間は300msであった。
図9に示す量子計測時の結晶回転角θでは、非線形光学結晶104により波長712nmのシグナル光子が発生するとともに、波長2104nmのアイドラー光子が発生する。量子干渉信号のフーリエ変換により得られたフーリエスペクトルのピーク波長(すなわち、試料であるガラスを透過した波長)は2.1μmであった。フーリエスペクトルの半値幅(FWHM:full width at half maximum)は51nmであった。図10に示す量子計測時の結晶回転角θでは、シグナル波長λs=600nmであり、アイドラー光子波長λi=4696nmであった。フーリエスペクトルのピーク波長は4.7μmであり、フーリエスペクトルの半値幅は344nmであった。このように、中赤外域の両端に位置する波長(2.1μm及び4.7μm)において、量子吸収分光システム1により実際に測定された波長はアイドラー光子の発生波長とよく一致していた。
図11は、図9及び図10に例示したフーリエスペクトルの解析結果をまとめた図である。横軸は内部角度θ’を表す。左側の縦軸はアイドラー波長λiを表し、右側の縦軸はシグナル波長λsを表す。黒線は理論曲線を示す(非特許文献2の式(1)~式(7)参照)。白丸はフーリエスペクトルから得られた実測値を示す。
図11より、回転ステージ105を用いて非線形光学結晶104を回転させることによって、2μmから5μmまでの中赤外域の全域に亘ってアイドラー光子を発生可能であることが分かる。すなわち、非線形光学結晶104の回転によってアイドラー光子の発生波長域を拡張し、それにより非常に広い波長域に亘って試料の赤外吸収特性を計測することが可能になる。それに加えて、そのときのシグナル光子は可視域の波長を有するため、可視域に高い感度を有するシリコンベースの光検出器81を好適に用いることができる。さらに、中赤外域の全域に亘って実測値が理論曲線上に乗っていた。これは、中赤外域の全域に及ぶ広い波長域に亘って赤外吸収分光に成功していることを示している。
≪量子計測時間≫
一般に、FTIR等により得られるフーリエスペクトルの波数分解能は、光路長差の掃引範囲Wの逆数により決定される(Δk=1/W)。したがって、フーリエスペクトルの波数分解能を高くする(Δkを小さくする)には光路長差の掃引範囲Wを広くしなければならない。
なお、光路長差の掃引範囲Wと、サンプリング回数Nと、光路長差の掃引ステップδLとはW=N×δLとの関係にある。掃引ステップδLは計測対象の波長域(アイドラー波長λi)に応じて定まり、任意に設定できるものではない。よって、光路長差の掃引範囲Wを広くする場合、サンプリング回数Nの増加を避けられない。
このように、Q-FTIRモードにおいて試料の赤外吸収分光特性を高精度に計測するには、高い波数分解能でフーリエスペクトルを取得することが要求される。そのためには原理的に、光路長差の掃引範囲Wを十分に長く設定することを要する。それに加えて、光路長差の掃引ステップδLも十分に細かく設定される。掃引ステップδL1は、たとえばアイドラー波長λiの10分の1程度である。それに伴って必然的に量子計測時間が長くなる。
図5を再び参照して具体的な数値を挙げて説明すると、要求される波数分解能が4cm-1である場合、光路長差の掃引範囲W=2.5mmに設定される。アイドラー波長λiが約2μmである場合、光路長差の掃引ステップδL=200nmに設定される。この場合、サンプリング回数N=W/δL=2.5mm/200nm=1.25×10である。つまり、結晶回転角θ=開始角度θ(0)において1万回以上のサンプリング(移動ミラー110の変位及び検出光子数Pの取得)が実施される。続く結晶回転角θ=θ(1)でも同様に1万回以上のサンプリングが実施される。結晶回転角θをある程度(たとえば数十°)変化させる場合、数十万回のサンプリングが繰り返されることになり、長時間(たとえば数時間)を要し得る。そこで、本実施の形態に係る量子吸収分光システム1には、量子計測時間を短縮して実用性を向上すべく、コースモードが設けられている。
<コースモード>
≪コースモードの概要≫
図12は、コースモードの概要を説明するための概念図である。コースモードの一例では、第1スイープ及び第2スイープによる2段階での光路長差の掃引が実行される。
結晶回転角θが開始角度θ(0)に設定された状態で最初に第1スイープが実行される。第1スイープの目的は、量子干渉信号のピーク位置の特定である。より詳細には、試料が試料ホルダ109に設置されていない場合の量子干渉信号のピーク位置は、量子吸収分光システム1の仕様から既知である。試料を試料ホルダ109に設置すると、量子干渉信号のピーク位置が試料の基礎データ(屈折率及び厚み)に応じてシフトする。このシフト量を求めることが第1スイープの目的である。第1スイープでは、広い掃引範囲W1に対して大きな掃引ステップδL1が設定される。
第1スイープにおける光路長差の掃引範囲W1は、試料の屈折率及び厚みに応じて設定され得る。より詳細には、通常、試料の厚みは容易に測定できる。試料の屈折率が既知である場合、試料の光路長(=屈折率×厚み)の値を掃引範囲W1を設定し得る。たとえ試料の屈折率が未知である場合でも多くの物質の屈折率は約1~3である。したがって、最大で試料の厚みの3倍程度に掃引範囲W1を設定すればよい。
第1スイープにおける光路長差の掃引ステップδL1を過度に細かく設定することは要求されない。掃引ステップδL1は、アイドラー波長λiに近い値に設定され得る。たとえば、アイドラー波長λiの4分の1程度に掃引ステップδL1を設定すればよい(δL1=λi/4)。
具体例として、試料が厚み1mm、屈折率1.5のガラスである場合、掃引範囲W1は、最大で、たとえば1.5mmに設定され得る。アイドラー波長λiが約2μmである場合、たとえば、掃引ステップδL1=500nmに設定される。この場合、第1スイープにおけるサンプリング回数N1は、N1=W1/δL1=1.5mm/500nm=3000回だけでよい。このように少ないサンプリング回数であっても量子干渉信号のピーク位置を特定可能である。
実際には図18及び図19にて説明するように、厚みも屈折率も既知の試料に対してはピーク位置のシフト量の概略値が事前に分かっている。したがって、図12に示すように掃引範囲W1をより狭い範囲に絞り込むことができる。たとえば、掃引範囲W1=50μmであり、掃引ステップδL1=500nmである場合、第1スイープにおけるサンプリング回数N1は、N1=W1/δL1=50μm/500nm=100回だけでよい。
次に第2スイープが実行される。第2スイープの目的は、第1スイープにより特定されたピーク位置付近の精密計測である。第2スイープでは、狭い掃引範囲W2に対して小さな掃引ステップδL2が設定される。
第2スイープの掃引範囲W2は、量子干渉信号のピークを含む程度には広いが、第1スイープの掃引範囲W1よりも十分に狭い範囲である。より具体的には、量子干渉信号のピーク位置付近に現れる干渉縞の1~2波長分の距離を掃引範囲W2を設定し得る。
第2スイープの掃引ステップδL2は、Q-FTIRモードにおける掃引ステップδLと同様に、たとえばアイドラー波長λiの10分の1程度である(δL1=λi/10)。
具体例として、掃引範囲W2=4μmに設定される。アイドラー波長λiが約2μmである場合、掃引ステップδL2=200nmに設定される。この場合、第2スイープにおけるサンプリング回数N2は、N2=W2/δL2=4μm/200nm=20回だけでよい。したがって、非線形光学結晶104を回転走査した場合の第2スイープの合計サンプリング回数も少数(たとえば1000回程度)で済む。
以下で詳細に説明するように、試料の赤外吸収分光特性(透過スペクトル)を算出するのに必要なパラメータは量子干渉信号の振幅Aであり、より特定的には検出光子数の最大値P max及び最小値P minである。検出光子数の最大値P max及び最小値P minは、量子干渉信号のピーク位置近傍から求まる。そのため、量子干渉信号のピーク位置を特定するための第1スイープが導入される。そして、続く第2スイープでは、Q-FTIRモードのように量子干渉信号のエンベロープ全体が取得されるように光路長差を掃引する場合と比べて光路長差の掃引範囲が限定され、第1スイープにより特定されたピーク位置付近が精密に掃引される。他方、ピーク位置から離れた位置では掃引が省略される。よって、コースモードによれば、量子計測時間を大幅に(たとえば数分間に)短縮できる。
≪コースモードの処理フロー≫
図13は、コースモードの全体処理手順を示すフローチャートである。コースモードにおける処理の全体の流れは、Q-FTIRモードにおける処理の全体の流れ(図6参照)と同等であるため、説明は繰り返さない。
図14は、コースモードにおける第2の量子計測の処理手順の第1例を示すフローチャートである。Q-FTIRモードと同様に、結晶回転角θの走査範囲がユーザ操作等により設定される(S2201)。コントローラ90は、ポンプ光の出力を開始するように励起光源101を制御する(S2202)。
S2203,S2204において、コントローラ90は、図12にて説明したように、第2スイープと比べて相対的に広く設定された掃引範囲W1に対して相対的に大きな掃引ステップδL1で第1スイープを実行する。より具体的には、コントローラ90は、光路長差ΔLが前回値から掃引ステップδL1だけ変化するように、移動ミラー110に設けられた駆動装置111を制御する。そして、コントローラ90は、光検出器81から検出光子数Pを取得する(S2203)。全掃引範囲W1に対する掃引が終了するまでの間(S2204においてNO)、コントローラ90は、処理をS2203に戻し、光路長差ΔLの掃引と検出光子数Pの取得とを再び実施する。全掃引範囲W1に対する掃引が終了すると(S2204においてYES)、コントローラ90は、処理をS2205に進める。
S2205において、コントローラ90は、第1スイープにより得られた粗い量子干渉信号(図12の上図参照)のピーク位置を特定する。図9及び図10に示した量子干渉信号の波形形状から分かるように、検出光子数Pは、ピーク位置から離れた位置では略一定であり、エンベロープの範囲内に限って変動する。そのため、コントローラ90は、検出光子数Pの変動が生じた光路長差ΔLの範囲からピーク位置を特定できる。たとえば、コントローラ90は、検出光子数Pが略一定の範囲における検出光子数Pの値を基準値とし、その基準値に対する差が所定量よりも大きくなる範囲を検出光子数Pの変動範囲として抽出する。そして、コントローラ90は、検出光子数Pの変動範囲の中間位置を量子干渉信号のピーク位置として特定できる。
あるいは、より厳密な手法を採用してもよい。ΔL=cΔtとの関係式を用いて上記式(2)を書き換えると、下記式(6)及び式(7)が得られる。式(6)及び式(7)は量子干渉信号の包絡関数を示す。このような包絡関数を利用したカーブフィティングにより量子干渉信号のエンベロープを求め、エンベロープからピーク位置を特定してもよい。なお、二光子場振幅をF’(Ω)で表す。位相シフトをφi’(Ω)で表す。Ωは離調であり、ωs=ωs0-Ω(ωs0:中心周波数)及びωi=ωi0+Ω(ωi0:中心周波数)との関係を満たす。
Figure 2024013431000007
S2206,S2207において、コントローラ90は、量子干渉信号のピーク位置を含む狭い掃引範囲W2に対して相対的に小さな掃引ステップδL2で第2スイープを実行する。より具体的には、コントローラ90は、光路長差ΔLが前回値から掃引ステップδL2だけ変化するように移動ミラー110の駆動装置111を制御する。そして、コントローラ90は光検出器81から検出光子数Pを取得する(S2206)。全掃引範囲W2に対する掃引が終了するまでの間(S2207においてNO)、コントローラ90は処理をS2206に戻し、光路長差ΔLの掃引と検出光子数Pの取得とを再び実施する。全掃引範囲W2に対する掃引が終了すると(S2207においてYES)、コントローラ90は処理をS2208に進める。
S2208において、コントローラ90は、非線形光学結晶104が次の角度になるまで回転するように回転ステージ105を制御する。
S2209において、コントローラ90は、非線形光学結晶104の回転走査終了条件が成立したかどうかを判定する。結晶回転角θが終了角度に達していない場合(S2209においてNO)、コントローラは処理をS2203に戻す。これにより、非線形光学結晶104がさらに回転した状態で、第1スイープと、それに続く第2スイープとが実行される。結晶回転角θが終了角度に達すると(S2209においてYES)、コントローラは処理をS2210に進め、ポンプ光の出力を停止するように励起光源101を制御する。
図15は、コースモードにおける演算処理の処理手順の一例を示すフローチャートである。S231において、コントローラ90は、結晶回転角θごとに、第1及び第2の量子計測における第2スイープにより得られた量子干渉信号から検出光子数の最大値P max及び最小値P minを取得する。
S232において、コントローラ90は、結晶回転角θごとに、下記式(8)に従って、第2の量子計測における検出光子数の最大値P max及び最小値P minから量子干渉の明瞭度(visibility)Vを算出する。
Figure 2024013431000008
S233において、コントローラ90は、上記式(8)と同様の式に従って、第1の量子計測における検出光子数の最大値P max及び最小値P minから明瞭度Vrefを算出する。なお、第1の量子計測が事前に実行されていてVrefが既知の場合には当該処理をスキップできる。
S234において、コントローラ90は、結晶回転角θごとに、V/Vref=Tとの関係式に基づいて、明瞭度Vから透過率Tを算出する。これにより、各結晶回転角θにおける透過率T(透過率Tの結晶回転角θに対する依存性)が得られる。
S235において、コントローラ90は、結晶回転角θとアイドラー波長λiとの対応関係(図11参照)を用いて結晶回転角θをアイドラー波長λiに換算することで、透過スペクトルT(λi)を作成する。コントローラ90は、作成した透過スペクトルT(λi)をメモリ92に格納したり出力機器94に出力(たとえばディスプレイに表示)したりしてもよい。
≪2つのモードの対比≫
前述のとおり、Q-FTIRモードでは量子干渉信号がフーリエ変換され、フーリエスペクトルの振幅比に基づいて試料の赤外吸収分光特性が算出される(上記式(3)~式(5)参照)。この場合、フーリエスペクトルの波数分解能を向上させるためには光路長差の掃引範囲Wを十分に長く設定することが要求される。その結果、量子計測時間が長くなり得る。
これに対し、コースモードおいては上記式(8)に従い、量子干渉信号に現れる干渉縞(より具体的には検出光子数の最大値P max及び最小値P min)から直接的に量子干渉の明瞭度Vが算出される。すなわち、量子干渉信号のフーリエスペクトルは使用されない。そのため、光路長差の掃引範囲が狭いことに起因する精度低下が引き起こされることはない。したがって、第2スイープの掃引範囲W2を十分に狭く設定することが可能であり、それにより量子計測時間を短縮できる。さらに、ピーク位置近傍では第2スイープによる精密な掃引が行われるので、量子干渉信号に現れる干渉縞が高精度に計測される。よって、コーススキャンによれば、試料の赤外吸収分光特性の計測精度の低下を抑制しつつ、量子計測時間を大幅に短縮できる。
≪ピークシフト≫
第1スイープによって量子干渉信号のピーク位置が特定され、そのピーク位置に基づいて第2スイープの掃引範囲W2が決定されると説明した。しかしながら、第2スイープの掃引範囲W2の決定に第1スイープは必須ではない。量子干渉信号のピーク位置は、非線形光学結晶104の回転走査に伴ってシフトする(ピークシフト)。また、量子干渉信号のピーク位置は、試料の基礎データ(具体的には屈折率、厚みなど)に応じても変化し得る。これらの情報に基づいて量子干渉信号のピーク位置を推定可能である。
図16は、非線形光学結晶104の回転走査に伴う量子干渉信号のピークシフトを示す図である。横軸は光路長差ΔLを表す。縦軸は検出光子数Pを表す。この例では、非線形光学結晶104をθ=0°から32°に回転した場合に量子干渉信号のピーク位置が約2.8mmシフトすることが分かる。
図17は、結晶回転角θと量子干渉信号のピーク位置との間の関係の一例を示す図である。横軸は結晶回転角θを表す。縦軸は、量子干渉信号のピーク位置のシフト量(結晶回転角θ=0°におけるピーク位置を基準とした場合の変化量)を表す。図17に示すように、ピーク位置のシフト量は、結晶回転角θが増加するに従って単調に増加する。このような対応関係を事前に求めておくことによって、第2スイープの掃引範囲W2を事前に決定できる。第2スイープの掃引範囲W2は、たとえばマップ(テーブルであってもよいし、関数であってもよい)の形式でまとめることができる。
図18は、実施の形態1に係る第2スイープの掃引範囲W2に関するマップの概念図である。マップMP0は、この例では、試料の基礎データ(この例では屈折率と厚みとの組合せ)ごとに、結晶回転角θと第2スイープの掃引範囲W2との間の対応関係を含む。マップMP0は、結晶回転角θと、アイドラー波長λi及びシグナル波長λsとの間の対応関係(図11に示される関係)をさらに含んでもよい。このようなマップを事前に準備しておくことにより、第1スイープを省略できる。マップMP0は、量子吸収分光システム1の製造業者が出荷前に準備してコントローラ90のメモリ92に格納しておいてもよい。あるいは、ユーザ自身がマップMP0を準備してメモリ92に格納してもよい。なお、マップMP0は、本開示に係る「第1の対応関係」及び「第2の対応関係」の両方に相当する。「第1の対応関係」と「第2の対応関係」とは別々に規定されていてもよい。
図19は、コースモードにおける第2の量子計測の処理手順の第2例を示すフローチャートである。S2211において、コントローラ90は、試料の基礎データ(屈折率及び厚み)の入力を受け付ける。これらの基礎データは、入力機器93に対するユーザ操作によって入力されてもよいし、通信IF95を介して外部から取得されてもよい。試料を設置しない場合には媒質(通常は空気)のデータを設定すればよい。
S2212において、コントローラ90は、ポンプ光の出力を開始するように励起光源101を制御する。
S2213において、コントローラ90は、図18に示したマップMP0を参照することによって、S2211にて入力された試料の屈折率及び厚み、並びに現在の結晶回転角θに対応する第2スイープの掃引範囲W2を決定する。
S2214,S2215において、コントローラ90は、S2213にて決定された狭い掃引範囲W2に対して小さな掃引ステップδL2で第2スイープを実行する。これらの処理及び続くS2216~S2218の処理については、第1例のS2206~S2210の処理(図14参照)と同等であるため、説明は繰り返さない。
≪コースモードの計測結果≫
図20は、コースモードにより得られた透過スペクトルの一例を示す図である。下の横軸は、中赤外域の全域に及ぶアイドラー波長λiを表す。上の横軸は、下の横軸に対応するシグナル波長λsを表す。縦軸は透過率Tを表す。量子吸収分光システム1による計測結果を黒丸で示す。比較のため、従来型のフーリエ変換赤外分光装置(FTIR装置)による計測結果も併せて示されている(白い四角及び実線参照)。
図20より、本実施の形態に係る量子吸収分光システム1により得られた透過スペクトルが、従来型のFTIR装置により得られた透過スペクトルとよく一致していることが分かる。アイドラー波長2.7μm付近及び4.3μm付近における透過率Tの落ち込みは、試料(ガラス)中の不純物のOH伸縮振動による吸収に由来すると考えられる。
<ファインモード>
≪ファインモードの概要≫
コースモードによれば、量子計測時間を大幅に短縮できる。一方、量子計測時間を一定程度短縮しつつ、試料の赤外吸収分光特性をより高精度に計測したい場合がある。そのような場合に、Q-FTIRモードとの比較において非線形光学結晶104の回転走査範囲が狭く、かつ、量子干渉信号のフーリエスペクトルを取得するファインモードを使用できる。たとえばコースモードにより得られた結果をより詳細に解析したい場合にファインモードを選択できる。一例として、図20に示したアイドラー波長2.7μm付近及び4.3μm付近における透過率Tの落ち込みの解析にファインモードを使用できる。
≪ファインモードの処理フロー≫
図21は、ファインモードの全体処理手順を示すフローチャートである。ファインモードにおける処理の全体の流れは、Q-FTIRモードにおける処理の全体の流れ(図6参照)と同等であるため、説明は繰り返さない。
図22は、ファインモードにおける第2の量子計測の処理手順の一例を示すフローチャートである。S321において、コントローラ90は、コースモードにより得られた結果に基づいて、非線形光学結晶104の回転走査範囲を設定する。コントローラ90は、たとえば、図20に示した透過率Tの落ち込みに対応するアイドラー波長を発生可能な回転走査範囲を設定し得る。
ファインモードにおける回転走査範囲は、Q-FTIRモードにおける回転走査範囲よりも狭く、ピンポイント(局所的)であることが好ましい。前述のQ-FTIRモードの例では結晶回転角θの範囲が-30°から10°までの40°に設定されるのに対し、ファインモードにおける結晶回転角θの範囲は4°である(図24及び図25参照)。
コントローラ90は、非線形光学結晶104の回転走査範囲の候補を出力機器94(ディスプレイなど)から出力してもよい。ユーザが当該候補に同意する場合、コントローラ90は、当該候補を非線形光学結晶104の回転走査範囲として設定する。一方、ユーザが当該候補に非同意の場合、コントローラ90は、ユーザによる回転走査範囲の変更操作を受け付ける。
以降のS322~S327の処理は、Q-FTIRモードにおけるS122~S127の処理(図7参照)と同等であるため、説明は繰り返さない。
図23は、ファインモードにおける演算処理の処理手順の一例を示すフローチャートである。ファインモードにおける演算処理は、Q-FTIRモードにおける演算処理(図8参照)と同等であるため、説明は繰り返さない。
≪ファインモードの計測結果≫
図24は、アイドラー波長2.7μm付近のファインモードによる計測結果の一例を示す図である。図25は、アイドラー波長4.3μm付近のファインモードによる計測結果の一例を示す図である。図24の上図には、結晶回転角θ=8°,9°,10°,11°における4つのフーリエスペクトルが示されている。図25の上図には、結晶回転角θ=23°,24°,26°,27°における4つのフーリエスペクトルが示されている。図24及び図25の下図には、フーリエスペクトルから算出される透過スペクトル(4つのフーリエスペクトルから算出された4つの透過スペクトルが合成されたもの)が示されている。フーリエスペクトルは試料非設置時に取得されたものである。透過スペクトルは試料(ガラス)設置時に取得されたものである。光路長差の掃引範囲W=2.4mmに設定し、光路長差の掃引ステップδL=200nmに設定した。各ステップにおける光積算時間は50msであった。
図24及び図25より、アイドラー波長4.3μm付近及び波長4.3μm付近のいずれにおいても、ファインモードにより得られた透過スペクトルと、従来型のFTIR装置により得られた透過スペクトルとがよく一致していることが分かる。ファインモードにおける波数分解能は十分に高いため(具体的には8.33cm-1)、Q-FTIRモードと同様に透過スペクトルを高精度に計測できる。一方で、ファインモードでは、Q-FTIRモードと比べて非線形光学結晶104の回転走査範囲が狭い(この例では10分の1)ことから、量子計測時間を短縮できる。
<小括>
以上のように、実施の形態1においては、非線形光学結晶104の回転走査により中赤外域の全域に亘るアイドラー光子を発生させることができる。Q-FTIRモードでは、広い掃引範囲の全体に対して多数回のサンプリングが実施される。これにより、試料の赤外吸収分光特性を高精度に計測できる。
コースモードでは、広い掃引範囲W1に対する大きな掃引ステップδL1での掃引(第1スイープ)により、又は事前に準備された対応関係(マップMP0)を用いて、量子干渉信号のピーク位置を特定した上で、そのピーク位置を含む狭い掃引範囲W2が小さな掃引ステップδL2での掃引される(第2スイープ)。これにより、量子計測時間を大幅に短縮できる。よって、実施の形態1によれば、広い波長域に亘って高速に試料の吸収分光特性を計測できる。
ファインモードでは、Q-FTIRモードと同様に、広い掃引範囲の全体に対して多数回のサンプリングが実施される。しかし、ファインモードでは、非線形光学結晶104の回転走査範囲がコースモードの結果に基づいてピンポイントに限定されている。これにより、量子計測時間が過度に長くならないようにつつ、試料の赤外吸収分光特性を高精度に計測できる。
なお、実施の形態1に係る量子吸収分光システム1がQ-FTIRモード、コースモード及びファインモードの3つのモードを有すると説明した。しかし、Q-FTIRモード及びファインモードは必須ではなく、量子吸収分光システム1はコースモードのみを有していてもよい。あるいは、量子吸収分光システム1は、コースモードに加えて、Q-FTIRモード及びファインモードのうちの一方のモードのみを有していてもよい。
<他の実施例>
≪ATRユニット≫
図26は、本開示の実施の形態1に係る量子吸収分光システムの全体構成の他の一例を示す図である。量子吸収分光システム1Aは、量子光学系10に代えて量子光学系10Aを備える点において、実施の形態1に係る量子吸収分光システム1(図1参照)と異なる。量子光学系10Aは、ダイクロイックミラー117及び固定ミラー118を含む点、シグナル光路に固定ミラー107に代えて移動ミラー119及び駆動装置120を含む点、試料ホルダ109に代えて全反射測定(ATR:Attenuated Total Reflection)ユニット121を含む点、並びにアイドラー光路に移動ミラー110及び駆動装置111に代えて固定ミラー122を含む点において、量子光学系10と異なる。
ダイクロイックミラー117は、ダイクロイックミラー106を透過したポンプ光及びシグナル光のうち、ポンプ光を反射する一方で、シグナル光を透過する。ポンプ光は、固定ミラー118により反射されて非線形光学結晶104に戻る。シグナル光は、駆動装置120が設けられた移動ミラー119により反射されて非線形光学結晶104に戻る。
図27は、ATRユニット121の構成例を示す図である。ATRユニット121は、レンズ121Aと、プリズム121Bと、レンズ121Cとを含む。レンズ121A、プリズム121B及びレンズ121Cは、アイドラー光子の伝搬方向に沿ってこの順に配置されている。ATRユニット121は、レンズ121A,121Cに代えて又は加えて光軸調整用のミラーを含んでもよい。
プリズム121Bは、高屈折率を有し、試料表面に接触するように配置されている。レンズ121Aからプリズム121Bの内部に入射したアイドラー光子は、プリズム121Bと試料との界面で全反射する。この際、試料側に滲み出すアイドラー光子(エバネッセント波)が試料表面に吸収されるため、全反射光を検出することで試料表面の赤外吸収分光特性を測定できる。なお、ATRユニット121は後述する実施の形態2,3にも適用可能である。
(a)アイドラー光路に配置された移動ミラー110の変位により光路長差ΔLを掃引する場合(図1参照)、移動ミラー110の変位に伴ってアイドラー光の光軸が周期的に変化し得る。移動ミラー110が変位しても常にアイドラー光の光軸が適切な位置に維持されるように量子光学系10を構築することは容易ではない。(b)また、ATRユニット121は、プリズム121Bを含むため大型化し得る。装置サイズの制約がある中で、試料と移動ミラー110との機械的な接触を避けつつ移動ミラー110の往復運動が可能なスペースを試料の後段に確保することが困難であり得る。(c)さらに、試料表面が微視的にざらついている場合、典型的な透過法では、アイドラー光子が試料表面で散乱及び/又は反射されることで複数のモードが発生し得る。その結果、信号強度が低下したりノイズが増大したりし得る。
(a)これに対し、量子吸収分光システム1Aにおいては、シグナル光路に配置された移動ミラー119の変位により光路長差ΔLが掃引され、アイドラー光の光軸が時間的に変化しないため、量子光学系10Aの構築の難易度を低くすることができる。(b)また、試料と移動ミラー119との機械的接触も起こり得ないので、スペース確保の課題も回避できる。(c)さらに、プリズム121Bが試料表面に接触するように構成されているため、たとえ微小な凹凸が試料表面に存在していたとしても信号強度の低下及び/又はノイズの増大も抑制できる。
(d)それに加えて、アイドラー光が試料を透過する場合、試料の屈折率及び厚みに応じてアイドラー光子の光路長が変わる。そのため、前述のように、試料の屈折率及び厚みに応じて第1スイープにおける光路長差の掃引範囲W1が設定される。試料の屈折率及び厚み(特に屈折率)が未知の場合、掃引範囲W1が適切な範囲に設定されなかったり、掃引範囲W1を適切な範囲に設定するのに試行錯誤を要したりする可能性がある。これに対し、ATRユニット121においては、試料の屈折率及び厚みに拘わらずアイドラー光子の光路長が一定である。したがって、掃引範囲W1の設定変更が不要であり、掃引範囲W1を予め固定することが可能になる。よって、第1及び第2の量子計測の実行手順をより単純化できる。
≪非線形光学結晶≫
図28は、非線形光学結晶104の結晶材料をまとめた図である。非線形光学結晶104の結晶材料としては、LiNbOに限らず、タンタル酸リチウム(LiTaO)、銀チオガレート(AgGaS)、リン化ガリウム(GaP)、ヒ化ガリウム(GaAs)、セレン化亜鉛(ZnSe)なども採用可能である。
ただし、図28に示される各種材料は例示であり、非線形光学結晶104として採用可能な結晶材料がこれらに限定されないことを確認的に記載する。また、本明細書において化合物が化学量論的組成式によって表現されている場合、その化学量論的組成式は代表例に過ぎない。組成比は非化学量論的であってもよい。たとえば、ニオブ酸リチウムが「LiNbO」と表現されている場合、特に断りのない限り、ニオブ酸リチウムは「Li/Nb/O=1/1/3」の組成比に限定されず、任意の組成比でLi、Nb及びOを含み得る。他の化合物についても同様である。
[実施の形態1の変形例1]
実施の形態1の変形例1においては、擬似位相整合(QPM:Quasi-Phase-Matched)デバイスを用いて量子もつれ光子対の波長を走査する構成について説明する。
図29は、実施の形態1の変形例1に係る量子吸収分光システムの全体構成を示す図である。量子吸収分光システム2は、量子光学系10に代えて量子光学系20を含む点において、実施の形態1に係る量子吸収分光システム1(図1参照)と異なる。量子光学系20は、非線形光学結晶104に代えてQPMデバイス21を含む点、及び回転ステージ105に代えて並進ステージ22を含む点において、量子光学系10と異なる。
QPMデバイス21はファンアウト型の素子である。すなわち、QPMデバイス21の非線形光学結晶(QPM結晶)は、扇型(放射状)に変化する分極反転周期(poling period)を有する(図30参照)。QPM結晶の材料は、たとえば、マグネシウム添加定比タンタル酸リチウム(Mg doped stoichiometric lithium tantalate)(Mg:SLT)である。
並進ステージ22は、コントローラ90からの制御指令に従って、ポンプ光の伝搬方向に対して垂直な方向にQPMデバイス21を平行移動する(並進させる)ように構成されている。QPMデバイス21の移動方向は、ポンプ光の伝搬方向に対して厳密に垂直でなくてもよく、ポンプ光の伝搬方向に対して交わる方向であればよい。
図30は、並進ステージ22によるQPMデバイス21の平行移動の様子を示す図である。なお、QPMデバイス21はレンズ及びフィルタを含み得るが(特許文献1の図7参照)、図面が煩雑になるのを防ぐため、図30にはQPM結晶のみが図示されている。
QPMデバイス21(QPM結晶)の図中、上側の端面を第1端E1と記載し、下側の端面を第2端E2と記載する。第1端E1を基準とした、第1端E1と第2端E2とを結ぶ方向へのQPMデバイス21の移動量をΔXと記載する。移動量ΔXは、本開示に係る「制御パラメータ」の一例である。第1端E1と第2端E2との間の長さが5mmである場合、並進ステージ22は、所定の移動ステップでΔXを0から5mmまで変化させることができる。
QPM結晶の分極反転周期Λは、第1端E1において最小値Λminであり、第2端E2において最大値Λmaxである。並進ステージ22を用いてQPMデバイス21を平行移動させることによって、ポンプ光の光路におけるQPM結晶の分極反転周期Λが変化する。これにより、分極反転周期ΛをΛminからΛmaxまでの範囲内で変化させることができる。位相整合条件は下記式(9)のように表される。
Figure 2024013431000009
図31は、QPMデバイス21の平行移動に伴って発生するアイドラー光子の波長λiに関するシミュレーション結果の一例を示す図である。横軸は、ポンプ光の光路における分極反転周期Λを表す。縦軸はアイドラー波長λiを表す。ここではポンプ波長λp=532nmであり、分極反転周期の最小値Λmin=8μmであり、分極反転周期の最大値Λmax=13.5μmであると想定した。図31に示すように、QPMデバイス21の平行移動によって中赤外域の全域よりも広い1μmから5μmまでの波長域に亘ってアイドラー光子を発生させることができる。
図32は、実施の形態1の変形例1に係る第2スイープの掃引範囲に関するマップの概念図である。マップMP1は、試料の基礎データ(屈折率と厚みとの組合せ)ごとに、QPMデバイス21の移動量ΔXと第2スイープの掃引範囲W2との間の対応関係を含む。マップMP1は、QPMデバイス21の移動量ΔXと、アイドラー波長λi及びシグナル波長λsとの間の対応関係をさらに含んでもよい。
図33は、実施の形態1の変形例1に係る第2の量子計測の処理手順の一例を示すフローチャートである。S421,S422の処理は、実施の形態1におけるS2211,S2212の処理(図19参照)と同等である。
S423において、コントローラ90は、マップMP1を参照することによって、QPMデバイス21の現在の移動量ΔX(n)に対応する第2スイープの掃引範囲W2を決定する。続くS424,S425の処理は、実施の形態1におけるS2214,S2215の処理(図19参照)と同等である。
S426において、コントローラ90は、QPMデバイス21が現在の移動量ΔX(n)から次の移動量ΔX(n+1)に変化するように並進ステージ22を制御する。S427以降の処理もS2217以降の処理と同等である。よって、説明は繰り返さない。
図33ではコースモードにおいて第1スイープを省略する例を説明したが、コントローラ90は第1スイープを実行してもよい。また、本変形例でもコントローラ90はファインモードを有する。続く変形例2,3でも同様である。
以上のように、実施の形態1の変形例1においては、QPMデバイス21を平行移動走査する(QPMデバイス21に対するポンプ光の照射位置を変化させる)ことによって、中赤外域の全域に亘るアイドラー光子を発生させることができる。変形例1によれば、実施の形態1と同様に、広い波長域に亘って高速に試料の吸収分光特性を計測できる。
実施の形態1のように非線形光学結晶104を回転走査する場合、ポンプ光、シグナル光及びアイドラー光の各光路に変化が生じ得る。これに対し、QPMデバイス21の平行移動走査では、そのような光路変化を抑制できる。さらに、一般に、並進ステージは、回転ステージと比べて、位置の制御性が高く、かつサイズも小さい。したがって、変形例1によれば、高精度かつコンパクトな量子吸収分光システム2を提供できる。
なお、図示しないが、実施の形態1においても、非線形光学結晶104に代えてQPMデバイスを採用してもよい。つまり、QPMデバイスと回転ステージ105とを組み合わせてもよい。この場合、分極反転周期が光路に沿って変化するチャープ型の素子を用いることが好ましい。
[実施の形態1の変形例2]
実施の形態1の変形例2においては、非線形光学結晶の温度走査によって量子もつれ光子対の波長を走査する構成について説明する。
図34は、実施の形態1の変形例2に係る量子吸収分光システムの全体構成を示す図である。量子吸収分光システム3は、量子光学系10に代えて量子光学系30を含む点において、実施の形態1に係る量子吸収分光システム1(図1参照)と異なる。量子光学系30は、回転ステージ105に代えて温度制御装置31を含む点において、量子光学系10と異なる。
温度制御装置31は、非線形光学結晶104の温度(以下、「結晶温度T」と記載する)を検出する温度センサ(図示せず)を含む。結晶温度Tは、本開示に係る「制御パラメータ」の一例である。温度制御装置31は、コントローラ90からの制御指令に従って、結晶温度Tを制御するように構成されている。温度制御装置31は、たとえば、PTC(Positive Temperature Coefficient)ヒータなどの加熱装置311を含む。温度制御装置31は、加熱装置311に代えて又は加えて、ペルチェ素子などの冷却装置(図示せず)を含んでもよい。非線形光学結晶104の屈折率が温度依存性を示すため、結晶温度Tの制御によって位相整合条件(下記式(10)参照)を変化させることができる。
Figure 2024013431000010
図35は、結晶温度Tの制御に伴うアイドラー波長λiの変化に関するシミュレーション結果の一例を示す図である。横軸は結晶温度Tを表す。縦軸はアイドラー波長λiを表す。ここではポンプ波長λp=532nmであり、分極反転周期Λ=10μmであると想定した。図35に示すように、非線形光学結晶104の温度制御(加熱/冷却)によってもアイドラー光子の波長域を変化させることができる。
図36は、実施の形態1の変形例2に係る第2スイープの掃引範囲に関するマップの概念図である。マップMP2は、試料の基礎データ(屈折率と厚みとの組合せ)ごとに、結晶温度Tと第2スイープの掃引範囲W2との間の対応関係を含む。マップMP2は、結晶温度Tと、アイドラー波長λi及びシグナル波長λsとの間の対応関係をさらに含んでもよい。
図37は、実施の形態1の変形例2に係る第2の量子計測の処理手順の一例を示すフローチャートである。S521,S522の処理は、実施の形態1におけるS2211,S2212の処理(図19参照)と同等である。
S523において、コントローラ90は、マップMP2を参照することによって、現在の結晶温度T(n)に対応する第2スイープの掃引範囲W2を決定する。なお、結晶温度Tの変化に伴う量子干渉信号のピークシフトは小さい。そのため、本変形例では結晶温度Tに拘わらず第2スイープの掃引範囲W2を固定してもよい。S524,S545の処理もS2214,S2215の処理と同等である。
S526において、コントローラ90は、結晶温度Tが現在の設定値T(n)から次の設定値T(n+1)に変化するように温度制御装置31を制御する。S527以降の処理もS2217以降の処理と同等である。よって、説明は繰り返さない。
以上のように、実施の形態1の変形例2においては、非線形光学結晶104の温度走査によって、中赤外域の一部におけるアイドラー光子を発生させることができる。変形例2によれば、一定程度の広い波長域に亘って高速に試料の吸収分光特性を計測できる。
一般に、機械的な機構は、電気的・電子的な機構と比べて故障し易い傾向にある。温度制御装置31は、非線形光学素子の回転又は並進のための機械的な機構を含まないため、故障しにくい。また、温度制御装置31の典型的な構成要素(PTCヒータ、ペルチェ素子など)は小型である。したがって、変形例2によれば、堅牢かつコンパクトな量子吸収分光システム3を提供できる。
なお、量子吸収分光システム3に適用可能な非線形光学結素子は、バルク型の非線形光学結晶104に限定されない。量子吸収分光システム3は、リング共振器、光導波路、又はQPMデバイスを含んでもよい。QPMデバイスは、ファンアウト型の素子であってもよいし、チャープ型の素子であってもよい。
[実施の形態1の変形例3]
実施の形態1の変形例3においては、励起光源から発せられるポンプ光の波長走査によって量子もつれ光子対の波長を走査する構成について説明する。
図38は、実施の形態1の変形例3に係る量子吸収分光システムの全体構成を示す図である。量子吸収分光システム4は、量子光学系10に代えて量子光学系40を含む点において、実施の形態1に係る量子吸収分光システム1(図1参照)と異なる。量子光学系40は、励起光源101に代えて波長可変励起光源41を含む点において、量子光学系10と異なる。
波長可変励起光源41は、コントローラ90からの制御指令に従って、少なくとも可視域においてポンプ波長λpを可変に構成されている。この例では、波長可変励起光源41は、ポンプ波長λpを450nmから570nmまでの範囲で変化させることができる。ポンプ波長λpの変化させることによって、エネルギー保存則及び位相整合条件(下記式(11)参照)を変化させることができる。波長可変励起光源41は、たとえば各種の半導体レーザであるが、他の方式のレーザ(色素レーザなど)であってもよい。ポンプ波長λpは、本開示に係る「制御パラメータ」の一例である。
Figure 2024013431000011
図39は、ポンプ波長λpの変化に伴うアイドラー波長λiの変化に関するシミュレーション結果の一例を示す図である。横軸はポンプ波長λpを表す。縦軸はアイドラー波長λiを表す。ここでは結晶温度T=20℃であり、分極反転周期Λ=10μmであると想定した。図39に示すように、ポンプ波長λpの変化によっても、中赤外域の全域よりも広い1μmから5μmまでの波長域に亘ってアイドラー光子を発生させることができる。
図40は、実施の形態1の変形例3に係る第2スイープの掃引範囲W2に関するマップの概念図である。マップMP3は、試料の基礎データ(屈折率と厚みとの組合せ)ごとに、ポンプ波長λpと第2スイープの掃引範囲W2との間の対応関係を含む。マップMP3は、ポンプ波長λpと、アイドラー波長λi及びシグナル波長λsとの間の対応関係をさらに含んでもよい。
図41は、実施の形態1の変形例3に係る第2の量子計測の処理手順の一例を示すフローチャートである。S621,S622の処理は、実施の形態1におけるS2211,S2212の処理(図19参照)と同等である。
S623において、コントローラ90は、マップMP3を参照することによって、ポンプ光の現在の波長λp(n)に対応する第2スイープの掃引範囲W2を決定する。なお、ポンプ波長λpの変化に伴う量子干渉信号のピークシフトは小さい。そのため、本変形例でもポンプ波長λpに拘わらず第2スイープの掃引範囲W2を固定してもよい。S624,S625の処理もS2214,S2215の処理と同等である。
S626において、コントローラ90は、ポンプ波長λpが現在の設定値λp(n)から次の設定値λp(n+1)に変化するように波長可変励起光源41を制御する。S627以降の処理もS2217以降の処理と同等である。よって、説明は繰り返さない。
以上のように、実施の形態1の変形例3においては、ポンプ波長λp(非線形光学結晶104の励起波長)の走査によって、中赤外域の全域に亘るアイドラー光子を発生させることができる。よって、変形例3によれば、実施の形態1と同様に、広い波長域に亘って高速に試料の吸収分光特性を計測できる。
また、波長可変励起光源41の構成によっては、図39に示したように非常に広い波長域に亘ってアイドラー光子を発生させることが可能であり、さらに多波長励起も可能である。したがって、変形例3によれば、広波長域での計測に特に好適な量子吸収分光システム4を提供できる。
なお、量子吸収分光システム4に適用可能な非線形光学結素子は、バルク型の非線形光学結晶104に限定されず、リング共振器、光導波路、又はファンアウト型若しくはチャープ型のQPMデバイス(いずれも図示せず)であってもよい。
非線形光学結晶104の回転走査(実施の形態1)と、QPMデバイス21の平行移動走査(変形例1)と、非線形光学結晶104の温度走査(変形例2)と、ポンプ光の波長走査(変形例3)とは適宜組み合わせることができる。たとえば、非線形光学結晶104の回転走査に対して、非線形光学結晶104の温度走査を組み合わせてもよいし、ポンプ光の波長走査を組み合わせてもよいし、両方(合計3つの手法)を組み合わせてもよい。同様に、QPMデバイス21の平行移動走査に対して、QPMデバイス21の温度走査を組み合わせてもよいし、ポンプ光の波長走査を組み合わせてもよいし、両方を組み合わせてもよい。非線形光学結晶104の温度走査とポンプ光の波長走査とを組み合わせてもよい。
[実施の形態2]
実施の形態2においては、移動ミラー110のステップ的な変位を実行せず、量子計測中の光路長差ΔLを固定するシステム構成について説明する。
図42は、実施の形態2に係る量子吸収分光システムの全体構成を示す図である。量子吸収分光システム5は、シングルピクセル型の光検出器81に代えて分光器82を備える点において、実施の形態1に係る量子吸収分光システム1(図1参照)と異なる。
図43は、分光器82の構成例を示す図である。分光器82は、分散光学素子821と、受光素子822とを含む。
分散光学素子821は、この例では回折格子である。分散光学素子821は、シグナル光を波長に応じて異なる方向に分散(波長分解)する。分散光学素子821は、他の種類の素子(プリズムなど)であってもよい。
受光素子822は、アレイ状に配列した複数のピクセルを含むマルチピクセル型の素子である。具体的には、受光素子822は、CCD(Charged-Coupled Device)イメージセンサ又はCMOS(Complementary Metal-Oxide-Semiconductor)イメージセンサなどである。受光素子822は、ピクセルごとに異なる波長のシグナル光の光強度を検出するように構成されている。
図44は、実施の形態2に係る量子干渉信号の解析手法を説明するための概念図である。図44の上側に、実施の形態1に係る量子吸収分光システム1を用いて、QーFTIRモードにおける光路長差ΔLの掃引により取得された量子干渉信号を示す。横軸は光路長差ΔLを表し、縦軸は検出光子数Pを表す。前述のように横軸の光路長差ΔLはΔL=cΔtとの関係式を用いて遅延時間Δtに変換可能であるため、この量子干渉信号は時間領域における量子干渉信号であると言える。
他方、図44の下側に、実施の形態2に係る量子吸収分光システム5を用いて、光路長差ΔLを固定した状態で取得された量子干渉信号を示す。左側の量子干渉信号はΔL=0に対応し、中央の量子干渉信号はΔL=100μmに対応し、右側の量子干渉信号はΔL=200μmに対応する。横軸は、分光器82による波長分解後に検出されたシグナル波長λsを表す。縦軸は光強度を表す。下側の3図に示される量子干渉信号は、波長領域における量子干渉信号である。
下側の3図より、ΔL=0の場合には波長領域における量子干渉信号に干渉縞(フリンジ構造)が観察されないのに対し、ΔL=100μm又は200μmの場合には干渉縞が観察されることが分かる。さらに、ΔL=200μmの場合には、ΔL=100μmの場合と比べて、干渉縞の間隔が狭いことも分かる。このように、分光器82を用いて計測される波長領域における量子干渉信号には、光路長差ΔLが大きいほど、より間隔が狭くて明瞭な干渉縞が現れる。光路長差ΔLをある程度大きな値(この例ではΔL=200μm以上)になるように移動ミラー110を変位させ、その位置に移動ミラー110を固定することによって、明瞭な干渉縞が現れた波長領域における量子干渉信号を取得できる。なお、光路長差ΔLを固定することは、光路長差ΔLの掃引範囲を限定する一態様であるとも言える。
図45は、実施の形態2に係る明瞭度の算出手法を説明するための図である。ここでも比較のため、上側に時間領域における量子干渉信号を示し、下側に波長領域における量子干渉信号を示す。
波長領域における量子干渉信号に現れる干渉縞の振幅Aは、時間領域における量子干渉信号に現れる干渉縞の振幅Aと同じ情報を与える。したがって、移動ミラー110の変位により光路長差ΔLを掃引しながら取得された量子干渉信号の振幅Aと同様に、光路長差ΔLをある程度大きな値に固定した状態で分光器82を用いて取得された量子干渉信号の振幅Aからも量子干渉の明瞭度Vを算出できる。具体的には下記式(12)を用いることができる(A=Imax-Imin)。そして、実施の形態1と同様に、試料が設置されていない第1の量子計測と試料が設置された第2の量子計測との間での明瞭度Vの比に基づいて、試料の透過率Tを算出できる。
Figure 2024013431000012
このように、実施の形態2に係る量子吸収分光システム5は、光路長差ΔLを掃引しなくても、波長領域における量子干渉信号に現れる干渉縞に基づいて量子干渉の明瞭度Vを算出できる。これは、サンプリングの繰り返しが不要な「ワンショット計測」が実現されることを示している。よって、量子計測時間をさらに短縮できる。
また、移動ミラー110の駆動装置111は、明瞭な干渉縞を観察するために光路長差ΔLをある程度大きな値(たとえば数百μm)に設定できさえすればよい。駆動装置111はマイクロメートルオーダーで移動ミラー110を制御できれば十分であり、ナノメートルオーダーの制御は要求されない。したがって、駆動装置111に粗動のみが可能な安価な装置を採用できる。よって、量子吸収分光システム5の部材コストを低減できる。
図46は、実施の形態2に係る第2の量子計測の処理手順の一例を示すフローチャートである。コントローラ90は、試料の基礎データ(屈折率及び厚み)の入力を受け付ける(S721)。コントローラ90は、ポンプ光の出力を開始するように励起光源101を制御する(S722)。
S723において、コントローラ90は、予め準備されたマップ(図示せず)を参照して、結晶回転角θから光路長差ΔLを決定する。当該マップにおいて、光路長差ΔLは、波長領域における量子干渉信号に明瞭な干渉縞が観察されるように決定されている。マップはS721にて入力される屈折率及び厚みも含むものであることが望ましい。
S724において、コントローラ90は、S724にて決定された光路長差ΔLが生じる位置に移動ミラー110が移動するように駆動装置111を制御する。移動ミラー110は、その位置に固定される。すなわち、コントローラ90は第2スイープは実行しない。当然ながら、時間領域における量子干渉信号のピーク位置を特定するための掃引(第1スイープ)も不要である。そして、コントローラ90は、波長領域における量子干渉信号を分光器82から取得する(S725)。
S726において、コントローラ90は、結晶回転角θが次の角度に変化するように回転ステージ105を制御する。
S727において、コントローラ90は、非線形光学結晶104の回転走査終了条件が成立したかどうかを判定する。結晶回転角θが終了角度に達していない場合(S727においてNO)、コントローラは、処理をS723に戻す。これにより、結晶回転角θがさらに次の角度に変化した状態で波長領域における量子干渉信号が取得される。結晶回転角θが終了角度に達すると(S727においてYES)、コントローラは、処理をS728に進め、ポンプ光の出力を停止するように励起光源101を制御する。
図47は、実施の形態2に係る演算処理の処理手順の一例を示すフローチャートである。このフローチャートに示される処理は、検出光子数の最大値P max及び最小値P minに代えて干渉縞の最大値Imax及びIminを用いる点を除けば、コースモードにおける演算処理(図15参照)と同等であるため、詳細は説明は繰り返さない。
以上のように、実施の形態2においても実施の形態1と同様に、非線形光学結晶104の回転走査により中赤外域の全域に亘るアイドラー光子を発生させることができる。さらに、実施の形態2では、シグナル光路長とアイドラー光路長とが一致するΔL=0の位置から移動ミラー110を一定程度ずらした(デチューンした)状態で、分光器82を用いた波長分解により波長領域における量子干渉信号が取得される。そして、波長領域における量子干渉信号に現れる干渉縞の最大値Imax及び最小値Iminに基づいて、量子干渉の明瞭度V,Vrefが算出される。これにより、光路長差ΔLの掃引を省略できるため、量子計測時間がさらに短縮される。よって、実施の形態2によれば、広い波長域に亘って一層高速に試料の吸収分光特性を計測できる。
実施の形態2では、非線形光学結晶104の回転走査と分光器82による波長分解とを組み合わせる構成について説明した。しかし、分光器82による波長分解と組み合わせ可能な量子もつれ光子対の波長走査は、非線形光学結晶104の回転走査に限定されない。QPMデバイス21の平行移動走査(変形例1)と分光器82による波長分解とを組み合わせてもよい。非線形光学結晶104の温度走査(変形例2)と分光器82による波長分解とを組み合わせてもよい。ポンプ光の波長走査(変形例3)と分光器82による波長分解とを組み合わせてもよい。
[実施の形態3]
実施の形態3においては、移動ミラー110を変位させず、かつ、分光器82も使用しないシステム構成について説明する。
図48は、実施の形態3に係る量子吸収分光システムの全体構成を示す図である。量子吸収分光システム6は、量子光学系10に代えて量子光学系60を含む点、及び分光器82に代えて光検出器83を含む点において、実施の形態2に係る量子吸収分光システム5(図42参照)と異なる。量子光学系60は、移動ミラー110の駆動装置111に加えて移動ミラー110の調整機構61を含む点において、量子光学系10と異なる。
光検出器83は、アレイ状に配列した複数のピクセルを含むマルチピクセル型の受光素子を含む。光検出器83は、たとえばCCDイメージセンサ又はCMOSイメージセンサである。実施の形態2と異なり、光検出器83は、回折格子などの分散光学素子821(図43参照)は含まない。
調整機構61は、コントローラ90からの制御指令に従って、アイドラー光の伝搬方向に対する移動ミラー110の角度を調整可能に構成されている。調整機構61は、たとえば、1軸チルト又は2軸チルトが可能な傾斜回転ステージである。調整機構61は、ユーザにより調整される手動ステージであってもよい。
図49は、実施の形態3に係る量子干渉信号の解析手法を説明するための概念図である。ここでも理解を容易にするため比較例から説明する。比較例に係る量子光学系は、非線形光学結晶104と固定ミラー107との間でポンプ光の往路と復路とが完全に重なり合うように調整されている。シグナル光の往路と復路とも同様に、非線形光学結晶104と固定ミラー107との間で完全に重なり合う。アイドラー光の往路と復路とは、非線形光学結晶104と移動ミラー110との間で完全に重なり合う。
この場合、シグナル光子とアイドラー光子との量子干渉の結果、光検出器83により検出されるシグナル光の強度は、光検出器83の受光面に並ぶ複数のピクセル間でおおよそ等しい。言い換えると、光検出器83の受光面におけるシグナル光強度の空間プロファイルは一様である。移動ミラー110を掃引すると、シグナル光強度の空間プロファイルは、全体的に増大したり減少したりするものの一様のままである。
これに対し、実施の形態3に係る量子光学系60は、アイドラー光の往路と復路とが僅かにずれるように調整されている。一方、ポンプ光及びシグナル光については、往路と復路とが完全に重なり合っている。この場合にもシグナル光子とアイドラー光子との量子干渉が起こり、光検出器83の受光面におけるシグナル光強度の空間プロファイルに干渉縞(フリンジ構造)が観察される。なお、シグナル光路とアイドラー光路との間の光路長差ΔLをゼロ近傍に設定することが望ましい。アイドラー光に代えて又は加えてシグナル光の往路と復路とが僅かにずれるように調整されていてもよい。
図50は、実施の形態3に係る明瞭度の算出手法を説明するための図である。横軸は、光検出器83の受光面に並ぶ複数のピクセルの位置(基準位置からの各ピクセルの距離)を表す。縦軸は光強度を表す。このような空間的な干渉縞の最大値Imax及び最小値Iminからも上記式(12)に従って量子干渉の明瞭度Vを算出できる。そして、実施の形態1,2と同様に、試料が設置されていない第1の量子計測と試料が設置された第2の量子計測との間での明瞭度Vの比に基づいて、試料の透過率Tを算出できる。したがって、光路長差ΔLを掃引しなくてよいし、分光器82を設ける必要もない。
図51は、実施の形態3に係る第2の量子計測の処理手順の一例を示すフローチャートである。S826において、コントローラ90は、シグナル光強度の空間プロファイルに現れる空間的な干渉縞を取得する。他の処理は、実施の形態2に係る第2の量子計測の対応する処理(図46参照)と同等であるため、説明は繰り返さない。
図52は、実施の形態3に係る演算処理の処理手順の一例を示すフローチャートである。S831において、コントローラ90は、光検出器83の各ピクセルにより検出されたシグナル光強度に基づいて、空間的な干渉縞の最大値Imax及びIminを取得する。S832以降の処理は、実施の形態2に係る演算処理の対応する処理(図47参照)と同等であるため、説明は繰り返さない。
以上のように、実施の形態3においても実施の形態1,2と同様に、非線形光学結晶104の回転走査により中赤外域の全域に亘るアイドラー光子を発生させることができる。さらに、実施の形態3では、シグナル光路長とアイドラー光路長とが一致するΔL=0の位置から移動ミラー110を一定程度ずらした(デチューンした)状態、かつ、アイドラー光の往路と復路とが僅かにずれるように調整された状態で、マルチピクセル型の光検出器83によりシグナル光強度の空間プロファイルが取得される。そして、シグナル光強度の空間プロファイルに現れる空間的な干渉縞の最大値Imax及び最小値Iminに基づいて、量子干渉の明瞭度V,Vrefが算出される。これにより、光路長差ΔLの掃引を省略できるため、量子計測時間がさらに短縮される。よって、実施の形態3によれば、広い波長域に亘って一層高速に試料の吸収分光特性を計測できる。さらに、分光器82も設置しなくてよいため、安価かつコンパクトな量子吸収分光システム6を提供できる。
実施の形態3では、非線形光学結晶104の回転走査によって広い波長域のアイドラー光を発生させる構成について説明した。しかし、QPMデバイス21の平行移動走査(変形例1)、非線形光学結晶104の温度走査(変形例2)又はポンプ光の波長走査(変形例3)によって広い波長域のアイドラー光を発生させてもよい。つまり、実施の形態3と実施の形態1の変形例1~3とは適宜組み合わせることができる。
[付記]
最後に本開示の諸態様を付記としてまとめて記載する。
(付記1)
量子吸収分光システムであって、
シグナル光子とアイドラー光子との量子もつれ光子対が発生する複数の物理過程の間で量子干渉を起こすように構成された量子光学系を備え、
前記量子光学系は、
ポンプ光の照射により、前記量子もつれ光子対を発生させる非線形光学素子と、
制御パラメータの変更により、前記量子もつれ光子対の波長を走査するように構成された波長走査部と、
前記シグナル光子と前記アイドラー光子との間の光路長差を掃引するように構成された光路掃引部とを含み、
前記量子吸収分光システムは、さらに、
対象試料が前記アイドラー光子の光路に配置された状態において、前記シグナル光子の検出数に応じた信号を出力する光検出器と、
前記量子干渉を起こすように前記量子光学系を制御し、当該制御中に前記光検出器から取得される量子干渉信号に基づいて前記対象試料の吸収分光特性を算出するプロセッサとを備え、
前記プロセッサは、
前記制御パラメータの変更により前記波長を順次変化させる度に、前記量子干渉信号のエンベロープ全体が取得されるように前記光路長差を掃引する場合と比べて前記光路長差の掃引範囲が限定された条件下、又は前記光路長差が固定された条件下で前記量子干渉信号を取得し、
取得された量子干渉信号に現れる干渉縞の振幅を算出し、
算出された干渉縞の振幅に基づいて、前記制御パラメータに対応する前記アイドラー光子の波長における前記吸収分光特性を算出する、量子吸収分光システム。
(付記2)
前記光検出器は、波長分解することなく前記シグナル光子を検出するように構成され、
前記プロセッサは、
前記波長を順次変化させる度に、前記量子干渉信号の前記エンベロープ全体の時間領域よりも狭く、かつ、前記量子干渉信号のピーク位置を含む特定の時間領域で前記量子干渉信号が選択的に取得されるように、前記光路長差の掃引範囲を限定し、
前記特定の時間領域における量子干渉信号に現れる前記干渉縞の振幅を算出する、付記1又は2に記載の量子吸収分光システム。
(付記3)
前記制御パラメータと前記光路長差の掃引範囲との間の第1の対応関係が格納されたメモリをさらに備え、
前記プロセッサは、前記第1の対応関係を参照することによって、前記制御パラメータに応じて前記光路長差の掃引範囲を限定する、付記2に記載の量子吸収分光システム。
(付記4)
試料の屈折率及び厚みと前記光路長差の掃引範囲との間の第2の対応関係が格納されたメモリをさらに備え、
前記プロセッサは、前記第2の対応関係を参照することによって、前記対象試料の屈折率及び厚みに応じて前記光路長差の掃引範囲を限定する、付記2又は3に記載の量子吸収分光システム。
(付記5)
前記プロセッサは、
第1のステップ幅で前記光路長差を掃引することによって前記特定の時間領域を決定し、
前記第1のステップ幅よりも小さな第2のステップ幅で前記光路長差を掃引することによって、前記特定の時間領域における量子干渉信号を選択的に取得する、付記2~4のいずれか1項に記載の量子吸収分光システム。
(付記6)
前記プロセッサは、第1及び第2のモードを有し、
前記第1のモードは、前記量子干渉信号のフーリエ変換により得られるフーリエスペクトルの振幅に基づいて、前記対象試料の吸収分光特性を算出するモードであり、
前記第2のモードは、前記量子干渉信号に現れる前記干渉縞の振幅に基づいて、前記対象試料の吸収分光特性を算出するモードであり、
前記プロセッサは、前記第2のモードでは、前記第1のモードと比べて、前記光路長差の掃引範囲を限定する、付記1~5のいずれか1項に記載の量子吸収分光システム。
(付記7)
前記光検出器は、
前記シグナル光子を波長分解する分散光学素子と、
前記分散光学素子により波長分解された光を検出するマルチピクセル型受光素子とを含み、
前記プロセッサは、
前記波長を順次変化させる度に、前記光路長差が固定された条件下で波長領域における量子干渉信号を取得し、
前記波長領域における量子干渉信号に現れる干渉縞の振幅を算出する、付記1に記載の量子吸収分光システム。
(付記8)
前記光検出器は、波長分解することなく前記シグナル光子を検出するマルチピクセル型受光素子を含み、
前記プロセッサは、
前記波長を順次変化させる度に、前記光路長差が固定された条件下で前記マルチピクセル型受光素子におけるシグナル光子の光強度の空間プロファイルを前記量子干渉信号として取得し、
前記空間プロファイルに現れる干渉縞の振幅を算出する、付記1に記載の量子吸収分光システム。
(付記9)
前記波長走査部は、前記非線形光学素子を回転させるように構成された回転機構を含み、
前記プロセッサは、前記ポンプ光の入射方向に対して前記非線形光学素子の光軸がなす角度を前記制御パラメータとして制御する、付記1~8のいずれか1項に記載の量子吸収分光システム。
(付記10)
前記非線形光学素子は、ファンアウト型の擬似位相整合素子であり、
前記波長走査部は、前記ポンプ光の伝搬方向に交わる方向に前記擬似位相整合素子を平行移動させる移動機構を含み、
前記プロセッサは、前記移動機構による前記擬似位相整合素子の移動距離を前記制御パラメータとして制御する、付記1~8のいずれか1項に記載の量子吸収分光システム。
(付記11)
前記波長走査部は、前記非線形光学素子の温度を走査するように構成された温度制御装置を含み、
前記プロセッサは、前記非線形光学素子の温度を前記制御パラメータとして制御する、付記1~8のいずれか1項に記載の量子吸収分光システム。
(付記12)
前記波長走査部は、前記ポンプ光の波長を可変に構成された光源を含み、
前記プロセッサは、前記ポンプ光の波長を前記制御パラメータとして制御する、付記1~8のいずれか1項に記載の量子吸収分光システム。
(付記13)
前記量子光学系は、前記対象試料の全反射測定が可能に構成された全反射測定装置をさらに含む、付記1~12のいずれか1項に記載の量子吸収分光システム。
(付記14)
量子光学系を用いた量子吸収分光方法であって、
前記量子光学系は、シグナル光子とアイドラー光子との量子もつれ光子対が発生する複数の物理過程の間で量子干渉を起こし、制御パラメータの変更により前記量子もつれ光子対の波長を走査するように構成されるとともに、前記シグナル光子と前記アイドラー光子との間の光路長差を掃引するように構成され、
前記量子吸収分光方法は、
試料が前記アイドラー光子の光路に配置された状態において、前記制御パラメータの変更により前記波長を順次変化させるステップと、
前記波長を順次変化させる度に、前記シグナル光子の検出数に応じた量子干渉信号を光検出器から取得するステップとを含み、
前記取得するステップは、前記量子干渉信号のエンベロープ全体が取得されるように前記光路長差を掃引する場合と比べて前記光路長差の掃引範囲が限定された条件下、又は前記光路長差が固定された条件下で前記量子干渉信号を取得するステップを含み、
前記量子吸収分光方法は、さらに、
前記量子干渉信号に現れる干渉縞の振幅を算出するステップと、
前記干渉縞の振幅に基づいて、前記制御パラメータに対応する前記アイドラー光子の波長における前記試料の吸収分光特性を算出するステップとを含む、量子吸収分光方法。
今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
1,1A,2~6 量子吸収分光システム、10,10A,20,30,40,60 量子光学系、101 励起光源、102 レンズ、103 ダイクロイックミラー、104 非線形光学結晶、105 回転ステージ、106 ダイクロイックミラー、107 固定ミラー、108 レンズ、109 試料ホルダ、110 移動ミラー、111 駆動装置、112 レンズ、113 ロングパスフィルタ、114 アイリス、115 バンドバスフィルタ、116 並進ステージ、117 ダイクロイックミラー、118 ミラー、119 固定ミラー、120 駆動装置、121 ATRユニット、121A レンズ、121B プリズム、121C レンズ、122 固定ミラー、21 QPMデバイス、22 並進ステージ、31 温度制御装置、311 加熱装置、41 波長可変励起光源、61 調整機構、81 光検出器、82 分光器、821 分散光学素子、822 受光素子、83 光検出器、90 コントローラ、91 プロセッサ、92 メモリ、921 ROM、922 RAM、923 フラッシュメモリ、93 入力機器、94 出力機器、95 通信IF。

Claims (14)

  1. 量子吸収分光システムであって、
    シグナル光子とアイドラー光子との量子もつれ光子対が発生する複数の物理過程の間で量子干渉を起こすように構成された量子光学系を備え、
    前記量子光学系は、
    ポンプ光の照射により、前記量子もつれ光子対を発生させる非線形光学素子と、
    前記量子もつれ光子対の波長を制御パラメータの変更により走査するように構成された波長走査部と、
    前記シグナル光子と前記アイドラー光子との間の光路長差を掃引するように構成された光路掃引部とを含み、
    前記量子吸収分光システムは、さらに、
    対象試料が前記アイドラー光子の光路に配置された状態において、前記シグナル光子の検出数に応じた信号を出力する光検出器と、
    前記量子干渉を起こすように前記量子光学系を制御し、当該制御中に前記光検出器から取得される量子干渉信号に基づいて前記対象試料の吸収分光特性を算出するように構成されたプロセッサとを備え、
    前記プロセッサは、
    前記制御パラメータの変更により前記波長を順次変化させる度に、前記量子干渉信号のエンベロープ全体が取得されるように前記光路長差を掃引する場合と比べて前記光路長差の掃引範囲が限定された条件下、又は前記光路長差が固定された条件下で前記量子干渉信号を取得し、
    取得された量子干渉信号に現れる干渉縞の振幅を算出し、
    算出された干渉縞の振幅に基づいて、前記制御パラメータに対応する前記アイドラー光子の波長における前記吸収分光特性を算出する、量子吸収分光システム。
  2. 前記光検出器は、波長分解することなく前記シグナル光子を検出するように構成され、
    前記プロセッサは、
    前記波長を順次変化させる度に、前記量子干渉信号の前記エンベロープ全体の時間領域よりも狭く、かつ、前記量子干渉信号のピーク位置を含む特定の時間領域で前記量子干渉信号が選択的に取得されるように、前記光路長差の掃引範囲を限定し、
    前記特定の時間領域における量子干渉信号に現れる前記干渉縞の振幅を算出する、請求項1に記載の量子吸収分光システム。
  3. 前記制御パラメータと前記光路長差の掃引範囲との間の第1の対応関係が格納されたメモリをさらに備え、
    前記プロセッサは、前記第1の対応関係を参照することによって、前記制御パラメータに応じて前記光路長差の掃引範囲を限定する、請求項2に記載の量子吸収分光システム。
  4. 試料の屈折率及び厚みと前記光路長差の掃引範囲との間の第2の対応関係が格納されたメモリをさらに備え、
    前記プロセッサは、前記第2の対応関係を参照することによって、前記対象試料の屈折率及び厚みに応じて前記光路長差の掃引範囲を限定する、請求項2に記載の量子吸収分光システム。
  5. 前記プロセッサは、
    第1のステップ幅で前記光路長差を掃引することによって前記特定の時間領域を決定し、
    前記第1のステップ幅よりも小さな第2のステップ幅で前記光路長差を掃引することによって、前記特定の時間領域における量子干渉信号を選択的に取得する、請求項2に記載の量子吸収分光システム。
  6. 前記プロセッサは、第1及び第2のモードを有し、
    前記第1のモードは、前記量子干渉信号のフーリエ変換により得られるフーリエスペクトルの振幅に基づいて、前記対象試料の吸収分光特性を算出するモードであり、
    前記第2のモードは、前記量子干渉信号に現れる前記干渉縞の振幅に基づいて、前記対象試料の吸収分光特性を算出するモードであり、
    前記プロセッサは、前記第2のモードでは、前記第1のモードと比べて、前記光路長差の掃引範囲を限定する、請求項1に記載の量子吸収分光システム。
  7. 前記光検出器は、
    前記シグナル光子を波長分解する分散光学素子と、
    前記分散光学素子により波長分解された光を検出するマルチピクセル型受光素子とを含み、
    前記プロセッサは、
    前記波長を順次変化させる度に、前記光路長差が固定された条件下で波長領域における量子干渉信号を取得し、
    前記波長領域における量子干渉信号に現れる干渉縞の振幅を算出する、請求項1に記載の量子吸収分光システム。
  8. 前記光検出器は、波長分解することなく前記シグナル光子を検出するマルチピクセル型受光素子を含み、
    前記プロセッサは、
    前記波長を順次変化させる度に、前記光路長差が固定された条件下で前記マルチピクセル型受光素子におけるシグナル光子の光強度の空間プロファイルを前記量子干渉信号として取得し、
    前記空間プロファイルに現れる干渉縞の振幅を算出する、請求項1に記載の量子吸収分光システム。
  9. 前記波長走査部は、前記非線形光学素子を回転させるように構成された回転機構を含み、
    前記プロセッサは、前記ポンプ光の入射方向に対して前記非線形光学素子の光軸がなす角度を前記制御パラメータとして制御する、請求項1~8のいずれか1項に記載の量子吸収分光システム。
  10. 前記非線形光学素子は、ファンアウト型の擬似位相整合素子であり、
    前記波長走査部は、前記ポンプ光の伝搬方向に交わる方向に前記擬似位相整合素子を平行移動させる移動機構を含み、
    前記プロセッサは、前記移動機構による前記擬似位相整合素子の移動距離を前記制御パラメータとして制御する、請求項1~8のいずれか1項に記載の量子吸収分光システム。
  11. 前記波長走査部は、前記非線形光学素子の温度を走査するように構成された温度制御装置を含み、
    前記プロセッサは、前記非線形光学素子の温度を前記制御パラメータとして制御する、請求項1~8のいずれか1項に記載の量子吸収分光システム。
  12. 前記波長走査部は、前記ポンプ光の波長を可変に構成された光源を含み、
    前記プロセッサは、前記ポンプ光の波長を前記制御パラメータとして制御する、請求項1~8のいずれか1項に記載の量子吸収分光システム。
  13. 前記量子光学系は、前記対象試料の全反射測定が可能に構成された全反射測定装置をさらに含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の量子吸収分光システム。
  14. 量子光学系を用いた量子吸収分光方法であって、
    前記量子光学系は、シグナル光子とアイドラー光子との量子もつれ光子対が発生する複数の物理過程の間で量子干渉を起こし、制御パラメータの変更により前記量子もつれ光子対の波長を走査するように構成されるとともに、前記シグナル光子と前記アイドラー光子との間の光路長差を掃引するように構成され、
    前記量子吸収分光方法は、
    試料が前記アイドラー光子の光路に配置された状態において、前記制御パラメータの変更により前記波長を走査するステップと、
    前記波長を順次変化させる度に、前記シグナル光子の検出数に応じた量子干渉信号を光検出器から取得するステップとを含み、
    前記取得するステップは、前記量子干渉信号のエンベロープ全体が取得されるように前記光路長差を掃引する場合と比べて前記光路長差の掃引範囲が限定された条件下、又は前記光路長差が固定された条件下で前記量子干渉信号を取得するステップを含み、
    前記量子吸収分光方法は、さらに、
    前記量子干渉信号に現れる干渉縞の振幅を算出するステップと、
    前記干渉縞の振幅に基づいて、前記制御パラメータに対応する前記アイドラー光子の波長における前記試料の吸収分光特性を算出するステップとを含む、量子吸収分光方法。
JP2022115504A 2022-07-20 2022-07-20 量子吸収分光システム及び量子吸収分光方法 Pending JP2024013431A (ja)

Priority Applications (2)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2022115504A JP2024013431A (ja) 2022-07-20 2022-07-20 量子吸収分光システム及び量子吸収分光方法
PCT/JP2023/025937 WO2024018994A1 (ja) 2022-07-20 2023-07-13 量子吸収分光システムおよび量子吸収分光方法

Applications Claiming Priority (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2022115504A JP2024013431A (ja) 2022-07-20 2022-07-20 量子吸収分光システム及び量子吸収分光方法

Publications (1)

Publication Number Publication Date
JP2024013431A true JP2024013431A (ja) 2024-02-01

Family

ID=89617681

Family Applications (1)

Application Number Title Priority Date Filing Date
JP2022115504A Pending JP2024013431A (ja) 2022-07-20 2022-07-20 量子吸収分光システム及び量子吸収分光方法

Country Status (2)

Country Link
JP (1) JP2024013431A (ja)
WO (1) WO2024018994A1 (ja)

Family Cites Families (4)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP2010243208A (ja) * 2009-04-01 2010-10-28 Sony Corp 光スペクトル測定装置および光スペクトル測定方法
GB2542189B (en) * 2015-09-11 2022-02-16 Psiquantum Corp Optical apparatus and method for outputting one or more photons
US10648908B2 (en) * 2016-03-14 2020-05-12 Agency For Science, Technology And Research Optical system, method of forming and operating the same
EP4075110A4 (en) * 2019-12-13 2024-01-03 Univ Kyoto SYSTEM AND METHOD FOR QUANTUM ABSORPTION SPECTROSCOPY

Also Published As

Publication number Publication date
WO2024018994A1 (ja) 2024-01-25

Similar Documents

Publication Publication Date Title
WO2021117632A1 (ja) 量子吸収分光システムおよび量子吸収分光方法
TWI454654B (zh) Film thickness measuring device and method for measuring film thickness
JP2021512497A (ja) 広帯域波長可変レーザー及びそのレーザーシステムの波長判定
US20060098206A1 (en) Apparatus and method for measuring thickness and profile of transparent thin film using white-light interferometer
WO2015038561A1 (en) Cavity-enhanced frequency comb spectroscopy system employing a prism cavity
KR20130018553A (ko) 막 두께 측정 장치
US10648908B2 (en) Optical system, method of forming and operating the same
EP3870944B1 (en) Device and method for the spectroscopic analysis of brillouin scattered light
JPH10325795A (ja) 媒質の測定方法および測定装置
US9128059B2 (en) Coherent anti-stokes raman spectroscopy
EP1593955A2 (en) Wavelength-tuned intensity measurement with a surface plasmon resonance sensor
JP7382629B2 (ja) 光学測定装置および波長校正方法
WO2024018994A1 (ja) 量子吸収分光システムおよび量子吸収分光方法
JP2009092569A (ja) 屈折率計
Podmore et al. On-Chip compressed sensing Fourier-transform visible spectrometer
Stark et al. NIR instrumentation technology
JP2010210384A (ja) 屈折率計
JP5365594B2 (ja) 導波モード共鳴格子を用いた屈折率測定装置及び屈折率測定方法
US20230124422A1 (en) Optical metrology system and method
US20210389115A1 (en) Optical coherence tomography system
US20240152026A1 (en) Quantum absorption spectroscopy system
RU2805776C1 (ru) Способ измерения спектра анизотропного отражения полупроводниковых материалов и устройство для его осуществления
US20240035889A1 (en) Optical Device And Spectroscopy Apparatus
JP5566826B2 (ja) 全反射分光計測におけるデータ解析方法
González-Andrade et al. Silicon nitride on-chip spatial heterodyne Fourier-transform spectrometer with high étendue and broadband operation

Legal Events

Date Code Title Description
A521 Request for written amendment filed

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523

Effective date: 20221121