JP2024010448A - レーザー加工装置及びレーザー加工方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】マウスピース型矯正装置の材料であるシート材をレーザーによって切断したとき、全周にわたってバリやカエリなどが形成されることなく、迅速かつ正確にマウスピース型矯正装置を作成することが可能なレーザー加工装置及びレーザー加工方法を提供する。【解決手段】レーザー加工装置1は、作成目標とするマウスピース型矯正装置の成形に用いられる歯型模型の3次元データに基づいて決定されたレーザーによる切断線に関する切断線データを取得する切断線データ取得部22と、歯型模型に対する切断線の位置に基づいて、シート材を切断するレーザー照射部からの歯型模型に対するレーザーの照射角度を決定する照射角度決定部23と、決定された照射角度に基づいて、切断線に沿ってシート材を切断するように、歯型模型に対するレーザーの照射角度を制御する加工制御部24とを備える。【選択図】図8
Description
本発明は、レーザー加工装置及びレーザー加工方法に関するものである。
口腔内に設置され歯列矯正に用いられる歯列矯正装置には、様々なタイプのものがあり、例えば、ワイヤー矯正装置、拡大床装置やマウスピース型矯正装置などがある。
マウスピース型矯正装置による矯正では、移動後の歯の位置や向きを考慮してマウスピース(アライナーとも呼ばれる。以下「アライナー」という。)が形成される。複数の段階ごとに少しずつ異なる形状を有するアライナーに取り換えられることによって、矯正前の歯列が目標とする歯列へ調整される。
アライナーは、複数の歯からなる歯列に装着されたとき、歯列を矯正できるように各歯に対して圧力を付与できる弾性力を有する。
アライナーは、シート状の樹脂材料(以下「シート材」という。)を、装着者の歯に基づいて形成された歯型模型に加熱しながら圧着させることによって形成される。なお、現状の歯列を反映した歯型模型は、印象材を用いた型取りを行なった後、石膏を注入して作成されたり、または、3Dスキャナーによるスキャンによって歯を含む口腔内の形状が取得された後、取得された形状データに基づいて3Dプリンターによって作成されたりする。アライナーを形成するための歯型模型は、歯の位置や向きを現状の歯列から少し異ならせる必要がある。そのため、現状の歯列を反映した歯型模型の形状、又は、歯を含む口腔内の形状を3Dスキャナーによるスキャンによって取得した後、取得されたデータに対して歯の位置や向きを変更してアライナー用の歯型模型の3次元データを生成し、生成された3次元データに基づいて3Dプリンターによってアライナー用の歯型模型が作成される。
シート材が歯型模型に圧着された後、シート材をアライナーとして形成するため、シート材の余剰部分を切断する必要がある。従来、シート材の切断は、歯科技工士がはさみを使用して行われているが、シート材は強度が高いことから、長時間の作業によって腱鞘炎を発症させるおそれがある。
また、上記特許文献1のように、レーザーを用いてシート材の余剰部分を切断する方法も知られているが、レーザーによって切断されたシート材の端部において、出っ張りやぎざぎざ等のバリやカエリが発生することがある。その結果、アライナーの端部に形成されたバリやカエリを除去する作業が必要になり、アライナーの製作に手間や時間がかかってしまう。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、マウスピース型矯正装置の材料であるシート材をレーザーによって切断したとき、全周にわたってバリやカエリなどが形成されることなく、迅速かつ正確にマウスピース型矯正装置を作成することが可能なレーザー加工装置及びレーザー加工方法を提供することを目的とする。
本発明に係るレーザー加工装置は、作成目標とするマウスピース型矯正装置の成形に用いられる歯型模型の3次元データに基づいて決定されたレーザーによる切断線に関する切断線データを取得する切断線データ取得部と、前記歯型模型に対する前記切断線の位置に基づいて、シート材を切断するレーザー照射部からの前記歯型模型に対する前記レーザーの照射角度を決定する照射角度決定部と、決定された前記照射角度に基づいて、前記切断線に沿って前記シート材を切断するように、前記歯型模型に対する前記レーザーの照射角度を制御する加工制御部とを備える。
この構成によれば、歯型模型の3次元データに基づいて、レーザーによる切断線に関する切断線データが決定されており、切断線データが取得される。歯型模型は、作成目標とするマウスピース型矯正装置の成形に用いられる。歯型模型に対する切断線の位置に基づいて、シート材を切断するレーザー加工装置の歯型模型に対するレーザーの照射角度が決定される。そして、決定された照射角度に基づいてレーザーが照射されながら、切断線に沿ってシート材が切断される。
これにより、歯型模型に対する切断線の位置に応じて、レーザー照射部がシート材に対して照射するレーザーの照射角度が変更され、シート材の切断部分の全てにわたってバリやカエリなどが形成されない。その結果、切断部分に形成されていたバリやカエリを除去する作業が不要になり、迅速かつ正確にマウスピース型矯正装置を作成することができる。
上記発明において、前記レーザーの照射角度は、前記歯型模型に圧着された状態の前記シート材の厚さに基づいて決定されてもよい。
この構成によれば、前記歯型模型に圧着された状態の前記シート材の厚さに応じて、レーザー加工装置のシート材に対するレーザーの照射角度が変更される。
上記発明において、前記レーザーの照射角度は、前記マウスピース型矯正装置における前歯部分の舌側において、前記歯型模型の底面に対して20°以上70°以下の範囲の角度となるように決定されてもよい。
この構成によれば、マウスピース型矯正装置における前歯部分の舌側を切断する場合において、シート材に対してレーザーを照射する際、レーザーの照射角度は、歯型模型の底面に対して20°以上70°以下の範囲の角度である。なお、前歯部分の舌側を切断する場合、レーザーの照射角度は、歯型模型の表面に対して90°、すなわち法線方向であることが望ましい。
上記発明において、前記レーザーの照射角度は、前記マウスピース型矯正装置における前歯部分の頬側において、前記歯型模型の底面に対して20°となるように決定されてもよい。
この構成によれば、マウスピース型矯正装置における前歯部分の頬側を切断する場合において、シート材に対してレーザーを照射する際、レーザーの照射角度は、歯型模型の底面に対して20°である。
上記発明において、前記レーザーの照射角度は、前記マウスピース型矯正装置における奥歯部分の左右6番歯の舌側並びに7番歯の舌側及び頬側において、前記歯型模型の底面に対して40°以上70°以下の範囲の角度となるように決定されてもよい。
この構成によれば、マウスピース型矯正装置における奥歯部分の左右6番歯の舌側並びに7番歯の舌側及び頬側を切断する場合において、シート材に対してレーザーを照射する際、レーザーの照射角度は、歯型模型の底面に対して40°以上70°以下の範囲の角度である。なお、奥歯部分の左右6番歯の舌側並びに7番歯の舌側及び頬側を切断する場合、レーザーの照射角度は、歯型模型の表面に対して90°、すなわち法線方向であることが望ましい。
上記発明において、前記レーザーの照射角度は、前記マウスピース型矯正装置における奥歯部分の左右6番歯の頬側において、前記歯型模型の底面に対して20°以上70°以下の範囲の角度となるように決定されてもよい。
この構成によれば、マウスピース型矯正装置における奥歯部分の左右6番歯の頬側を切断する場合において、シート材に対してレーザーを照射する際、レーザーの照射角度は、歯型模型の底面に対して20°以上70°以下の範囲の角度である。なお、奥歯部分の左右6番歯の頬側を切断する場合、レーザーの照射角度は、歯型模型の表面に対して90°、すなわち法線方向であることが望ましい。
本発明に係るレーザー加工方法は、作成目標とするマウスピース型矯正装置の成形に用いられる歯型模型の3次元データに基づいて決定されたレーザーによる切断線に関する切断線データを取得する第1ステップと、前記歯型模型に対する前記切断線の位置に基づいて、シート材を切断するレーザー照射部の前記歯型模型に対する前記レーザーの照射角度を決定する第2ステップと、決定された前記照射角度に基づいて、前記切断線に沿って前記シート材を切断するように、前記歯型模型に対する前記レーザーの照射角度を制御する第3ステップとを備える。
本発明によれば、マウスピース型矯正装置の材料であるシート材をレーザーによって切断したとき、全周にわたってバリやカエリなどが形成されることなく、迅速かつ正確にマウスピース型矯正装置を作成することができる。
本発明の一実施形態に係るレーザー加工装置1によって形成されるアライナー60は、図1から図3に示すような歯列矯正装置であり、歯に装着されることによって歯に対して所定の力を付与する。アライナーは、マウスピース型矯正装置、又は、歯列矯正用マウスピースとも呼ばれている。アライナー60は、上顎の粘膜面に沿って装着され上側の歯列を矯正するものと、下顎の粘膜面に沿って下側の歯列を矯正するものがあり、本実施形態はいずれにも適用可能である。
アライナー60は、シート材62によって形成されたものであり、複数の歯に密着して複数の歯を覆うように装着される。アライナー60は、歯を収容し歯側に面する凹部と、歯側とは反対側の口腔側に面する凸部を有する。アライナー60は、装着者の歯に対応する形状を有する。アライナー60は、複数の歯の歯列方向に沿っており、前歯から左右両側の奥歯(奥歯)にかけて弓状に配置されている複数の歯(歯列弓)に対応した形状を有する。
アライナー60は、複数の歯からなる歯列に装着されたとき、歯列を矯正できるように各歯に対して圧力を付与できる弾性力を有する。また、アライナー60は、歯に装着されることによって、歯の向きや位置を調整することができる。
アライナー60は、図6に示すように、シート状の樹脂材料であるシート材62を、装着者の歯に基づいて形成された歯型模型40に加熱しながら圧着させることによって形成される。なお、歯型模型40は、3次元データに基づいて3Dプリンターによって作成される。歯型模型40の例を図5に示す。歯型模型40の3次元データは、例えば、歯型模型3次元データ作成プログラムによって、歯を含む口腔内の形状に関する3次元データに対して、歯冠部分が分離されて、歯の位置や方向が調整されることによって作成される。歯を含む口腔内の現状の形状に関する3次元データは、印象材を用いた型取りによって作成された歯型模型、又は、口腔内を、3Dスキャナーによってスキャンすることで取得される。シート材62の材料は、アライナーの材料として通常用いられるものが適用される。
歯型模型40は、図2に示すように、底面40aが水平面を有する。歯型模型40の底面40aがロボット部3のハンド11と接触して、歯型模型40がハンド11に固定される。歯型模型40の底面40aの位置は、前歯の歯茎部分の高さと奥歯の歯茎の部分の高さがほぼ同一となるように決定されている。
本実施形態に係るレーザー加工装置1は、図7及び図8に示すように、レーザー照射部2と、ロボット部3と、制御部4と、カメラ部5と、電気集塵装置6などを備える。
レーザー照射部2は、レーザー加工装置1内で固定されており、レーザーを所定の方向に照射する。レーザー照射部2は、レーザーを照射することによって、レーザーでシート材62を切断する。シート材62が歯型模型40に圧着された後、シート材62をアライナー60として形成するためには、シート材62に生じる余剰部分を切断する必要がある。このシート材62の余剰部分がレーザー照射部2のレーザーによって切断される。
図7に示すように、ロボット部3は、歯型模型40を固定可能なハンド11と、ハンド11の位置や方向を変化させるアーム12などを有する。ロボット部3は、ハンド11及びアーム12によって、ハンド11に固定された歯型模型40の方向や位置を変更させることができる。ロボット部3は、歯型模型40に圧着されたシート材62に対して適切な角度でレーザーが照射されるように制御される。ハンド11の先端には、吸引カップが設けられる。これにより、歯型模型40が吸引によってハンド11の先端に固定される。
制御部4は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、及びコンピュータ読み取り可能な記憶媒体等から構成されている。そして、各種機能を実現するための一連の処理は、一例として、プログラムの形式で記憶媒体等に記憶されており、このプログラムをCPUがRAM等に読み出して、情報の加工・演算処理を実行することにより、各種機能が実現される。なお、プログラムは、ROMやその他の記憶媒体に予めインストールしておく形態や、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体に記憶された状態で提供される形態、有線又は無線による通信手段を介して配信される形態等が適用されてもよい。コンピュータ読み取り可能な記憶媒体とは、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、DVD-ROM、半導体メモリ等である。
制御部4は、図8に示すように、3次元データ取得部21と、切断線データ取得部22と、照射角度決定部23と、加工制御部24などを備える。
3次元データ取得部21は、歯型模型40の3次元データを取得する。歯型模型40の3次元データは、3Dスキャナーによるスキャンによって歯を含む口腔内の現状の形状が取得された後、3次元データ上で矯正目標とする位置や方向に歯が調整されることによって作成される。
切断線データ取得部22は、切断線(カットライン)64(図9参照)に関する切断線データを取得する。切断線64は、レーザー照射部2によって照射されるレーザーがシート材62を切断するときのレーザーが通過する線であり、作成されるアライナー60の外形線である縁部に相当する。切断線64は、アライナー60の縁部の形状に応じて決定される。
切断線データは、例えば、切断線データ作成プログラムによって、歯型模型40の3次元データに基づいて決定されている。切断線データは、歯型模型40に対する切断線64の位置(座標データ)や、切断線64上での歯型模型40の表面に対する法線方向などを含む。歯型模型40に対する切断線64の位置は、例えば、左右それぞれで最も奥に位置する奥歯2本の間の中心を基準点にして決定される。
切断線64、すなわち、アライナー60の縁部の形状は、図2及び図3に示すように、すべての歯の歯冠と歯茎の境界線から高さ方向に所定の距離離れた位置となるように凹凸状に形成される線である。または、切断線64、すなわち、アライナー60の縁部の形状は、図4に示すように、いずれか一つの歯の歯冠の最下端から高さ方向に所定の距離離れた位置を基準としてほぼ一直線状となるように形成される線であり、この線は底面40aとほぼ平行である。
照射角度決定部23は、切断線データ取得部22によって取得された切断線データを用いて、レーザーの照射角度を決定する。照射角度決定部23は、切断線データに含まれている切断線64の位置や歯型模型40の表面に対する法線方向に基づいて、歯型模型40に対するレーザーの照射角度を決定する。
具体的には、照射角度決定部23は、図9に示すように、切断線データに対して三つの領域、例えば、切断線データのうち前歯部分の舌側の領域A1、前歯部分の頬側の領域A2、奥歯部分の領域A3を、切断線データに含まれる位置情報に基づいてそれぞれ設定する。照射角度決定部23は、設定された領域ごとに歯型模型40に対するレーザーの照射角度を決定する。
図10(a)に示すように、照射角度は、例えば、歯型模型40のうち前歯部分の舌側の領域A1では、歯型模型40の表面に対して法線方向とする。なお、照射角度は、この例に限られず、領域A1では、歯型模型40の底面40aに対して20°以上70°以下の範囲の角度方向としてもよい。
また、照射角度は、図10(b)に示すように、歯型模型40のうち前歯部分の頬側の領域A2では、歯型模型40の底面40aに対して20°の方向とする。
さらに、照射角度は、図10(a)に示すように、歯型模型40のうち奥歯部分の左右6番歯(第一大臼歯)の舌側、並びに、7番歯(第二大臼歯)の頬側及び舌側の領域A3では、歯型模型40の表面に対して法線方向とする。なお、照射角度は、この例に限られず、領域A3では、歯型模型40の底面40aに対して40°以上70°以下の範囲の角度方向としてもよい。
またさらに、図10(a)に示すように、歯型模型40のうち奥歯部分の左右6番歯(第一大臼歯)の頬側の領域A4では、歯型模型40の表面に対して法線方向とする。なお、照射角度は、この例に限られず、領域A4では、歯型模型40の底面40aに対して20°以上70°以下の範囲の角度方向としてもよい。
加工制御部24は、照射角度決定部23で決定された照射角度に基づいて、切断線64に沿ってシート材62を切断するように、レーザー加工装置1を制御する。これにより、ロボット部3のハンド11やアーム12が動作して歯型模型40の位置や方向が変化する。そして、レーザー照射部2から照射されるレーザーが照射角度決定部23で決定された照射角度となるように、歯型模型40に圧着されたシート材62に対してレーザーが照射されて、シート材62が切断される。
次に、シート材62を切断する際の歯型模型40に圧着されたシート材62に対するレーザーの照射角度について説明する。
レーザーによってシート材62を切断するとき、レーザーの出力が一定である場合、レーザーが貫通するシート材62の厚さが厚くなるとシート材62を切断できない部分が生じる。
歯型模型40に圧着されたシート材62は、歯型模型40の位置に応じて肉厚が異なる。発明者らは、前歯部分の舌側と奥歯側で切断できない部分が生じやすいことを確認した。
シート材62が歯型模型40に圧着されるとき、歯冠に相当する部分に沿って、水平なシート材62が鉛直方向、又は、斜め方向に向かってシート材62が引き延ばされる。歯冠の表面が鉛直に近いほど傾斜が緩い場合に比べてシート材62がより引き延ばされて肉厚が薄くなる。また、引き延ばす距離が長い部分ほど、短い部分に比べて、シート材62の肉厚が薄くなる。
したがって、歯の前歯部分の舌側と頬側、及び、奥歯部分では、シート材62の肉厚が異なる。発明者らが実際に歯型模型40に圧着されたシート材62の肉厚を計測したところ、舌側のシート材62の肉厚は頬側のシート材62の肉厚よりも厚く、t検定の結果より有意差があることが確認された。また、前歯部分の舌側、頬側と、奥歯側のシート材62の肉厚の正規分布(N=80)を確認したところ、舌側と奥歯側のシート材62の肉厚は、頬側に比べて、0.1mm程度厚い傾向にあることが確認された。なお、シート材62は、PET製であり、初期肉厚が0.76mmである。
歯冠において、前歯部分の頬側の表面は、角度が鉛直に近いことから、舌側に比べてシート材62の肉厚が薄くなるといえる。また、奥歯側に近づくほど、歯冠の高さが低くなるため、前歯部分に比べて奥歯部分におけるシート材62の肉厚が厚くなるといえる。
また、図10(a)に示すように、レーザーの照射角度が歯型模型40の表面に対する法線方向である場合、シート材62の肉厚tと、レーザーによるシート材62の切断厚さt’は等しくなる。一方、図10(b)に示すように、レーザーの照射角度が、歯型模型40の表面に対する法線方向以外の角度である場合、切断方向がシート材62の厚さ方向に対して斜めとなるため、シート材62の切断厚さt’はシート材62の肉厚tよりも大きくなる。
例えば、図10(b)に示すように、レーザーの照射角度が歯型模型40の底面40aに対して20°の方向である場合、上記の実測されたシート材62の肉厚tを切断厚さt’に換算すると、t’の平均値は、tの平均値よりも0.05mmから0.10mm程度大きくなることが分かった。
また、発明者らは、成形されたシート材62に対して、全周にわたって歯型模型40の表面に対して法線方向からレーザーを照射すると、シート材62の位置に応じて、バリの発生の有無に違いがあることを確認した。
すなわち、前歯部分の舌側と奥歯部分では、図10(a)に示すように、歯型模型40の表面に対して法線方向からレーザーをシート材62に照射したとき、シート材62の切断部分においてバリが発生しにくい。他方、前歯部分の頬側では、歯型模型40の表面に対して法線方向からレーザーをシート材62に照射したとき、切断部分においてバリが発生しやすい。
そこで、前歯部分と奥歯部分の頬側について、歯型模型40の表面に対して法線方向以外の角度でレーザーをシート材62に照射して、バリの発生の有無を確認した。その結果、レーザーの照射角度が歯型模型40の底面40aに対して40°であるときは、前歯部分の頬側のうち、左右1番歯(中切歯)と2番歯(側切歯)に該当する部分でシート材62の切断部分にバリが生じた。また、レーザーの照射角度が歯型模型40の底面40aに対して20°であるときは、前歯部分の頬側の全てでシート材62の切断部分にバリが生じなかった。
これは、切断部分のエッジにおいて、レーザーによる切断時に生じている溶融樹脂に作用する表面張力から説明できる可能性がある。すなわち、シート材の表面に対して法線方向からレーザーを照射すると、エッジ角度は90°となり、それ以外の角度からレーザーを照射すると、片面側でエッジ角度は鈍角となる。エッジ角度が90°であるときは、鈍角であるときと比べて、表面張力が大きいことから、溶融樹脂が切断部分に滞留しやすくバリが生じやすくなると考えられる。
成形されたシート材62の肉厚は、装着者に関わらず、おおむね上述した傾向にある。したがって、全周にわたって適切な切断が行われるように、シート材62の切断位置を考慮してレーザーの照射角度を調整する。
上述したとおり、図10(a)に示すように、前歯部分の舌側、並びに、奥歯部分の頬側及び舌側は、肉厚が他の部分よりも厚く、バリも生じにくいことから、歯型模型40の表面に対して法線方向からレーザーをシート材62に照射する。前歯部分の頬側は、歯型模型40の表面に対して法線方向以外の角度でレーザーを照射する。
また、前歯部分の頬側は、切断部分にバリが生じないように、例えば、図10(b)に示すように、歯型模型40の底面40aに対して20°の方向からレーザーを照射する。
なお、複数の歯を平面視すると、歯茎の奥歯部分、特に、6番歯の舌側、並びに、7番歯の頬側及び舌側は、前歯部分に比べて凹凸の差が大きく、歯型模型40の底面40aに対して小さい角度の方向からレーザーを照射しようとすると、切断部分以外の部分と干渉してしまう。そのため、歯型模型40の底面40aに対してできるだけ大きい角度の方向からレーザーを照射して、切断部分以外の部分との干渉を回避することが望ましい。他方、歯型模型40の底面40aに対して大きい角度とすると、切断厚さt’が大きくなりすぎて、シート材62を切断できない場合が生じる。
そこで、奥歯部分の左右6番歯の舌側、並びに、7番歯の頬側及び舌側は、例えば、歯型模型40の底面40aに対して40°以上70°以下の範囲の角度方向からレーザーをシート材62に照射してもよい。
なお、前歯部分の舌側、及び、奥歯部分の左右6番歯の頬側では、奥歯部分の左右6番歯の舌側、並びに、7番歯の頬側及び舌側よりも、歯型模型40の底面40aに対して小さい角度の方向からレーザーを照射することもできる。そこで、前歯部分の舌側、及び、奥歯部分の左右6番歯の頬側は、例えば、歯型模型40の底面40aに対して20°以上70°以下の範囲の角度方向からレーザーをシート材62に照射してもよい。
なお、レーザーの照射強度は、成形されたシート材62の全周にわたって一定でもよいし、シート材62の位置に応じて変化させてもよい。上述したとおり、シート材62の切断位置を考慮してレーザーの照射角度を調整することから、シート材62の位置に応じて切断厚さt’が変化する。
例えば、レーザーの照射強度は、歯型模型40の表面に対して法線方向からレーザーを照射する前歯部分の舌側、歯型模型40の底面40aに対して20°の方向からレーザーを照射する前歯部分の頬側、歯型模型40の表面に対して法線方向からレーザーを照射する奥歯部分の順に強くしていってもよい。
次に、図11を参照して、レーザー加工装置1を用いたシート材62の切断方法について説明する。
シート材62を切断する前段階において、まず、歯を含む口腔内の現状の形状に関する3次元データが取得される(ステップS1)。次に、口腔内の形状に関する3次元データに基づいて、作成目標とするアライナー(マウスピース型矯正装置)60の成形に用いられる歯型模型40の3次元データが作成される(ステップS2)。
シート材62を切断する前段階において、まず、歯を含む口腔内の現状の形状に関する3次元データが取得される(ステップS1)。次に、口腔内の形状に関する3次元データに基づいて、作成目標とするアライナー(マウスピース型矯正装置)60の成形に用いられる歯型模型40の3次元データが作成される(ステップS2)。
口腔内の現状の形状に関する3次元データは、例えば、3Dスキャナーによって口腔内がスキャンされることによって取得される。また、歯型模型40の3次元データは、コンピュータのデータ処理によって、歯を含む口腔内の形状に関する3次元データに対して、歯の位置や方向が矯正目標とする位置や方向に変更されて、歯の位置や方向がデータ上で調整されることによって作成される。
そして、レーザーによるシート材62の切断線データが、作成された歯型模型40の3次元データに基づいて、作成目標とするアライナー60の縁部の形状に応じて決定される。これにより、歯型模型40に対応する切断線データが作成される(ステップS3)。アライナー60の縁部を形成する切断線64は、凹凸状に形成されるのか(図2及び図3参照)、又は、歯茎上で一直線上となるように形成されるのか(図4参照)が選択可能である。
次に、記憶部に記録された歯型模型40の3次元データ及び切断線データが取得される(ステップS4)。そして、取得された歯型模型40の3次元データ及び切断線データに基づいて、レーザーの照射角度が決定される(ステップS5)。歯型模型40に対するレーザーの照射角度は、切断線データに含まれている切断線64の位置や歯型模型40の表面に対する法線方向に基づいて決定される。
例えば、次のとおり、レーザーの照射角度が決定される。図10(a)に示すように、歯型模型40のうち前歯部分の舌側の領域A1では、歯型模型40の表面に対して法線方向からレーザーがシート材62に照射される。また、図10(b)に示すように、歯型模型40のうち前歯部分の頬側の領域A2では、歯型模型40の底面40aに対して20°の方向からレーザーがシート材62に照射される。さらに、図10(a)に示すように、歯型模型40のうち奥歯部分の領域A3及び領域A4では、歯型模型40の表面に対して法線方向からレーザーがシート材62に照射される。
なお、レーザーの照射角度は、以下のように決定されてもよい。例えば、歯型模型40のうち前歯部分の舌側の領域A1では、歯型模型40の底面40aに対して20°以上70°以下の範囲の角度方向からレーザーがシート材62に照射されてもよい。また、歯型模型40のうち奥歯部分の左右6番歯の舌側、並びに、7番歯の頬側及び舌側の領域A3では、歯型模型40の底面40aに対して40°以上70°以下の範囲の角度方向からレーザーがシート材62に照射されてもよい。さらに、歯型模型40のうち奥歯部分の左右6番歯の頬側の領域A4では、歯型模型40の底面40aに対して20°以上70°以下の範囲の角度方向からレーザーがシート材62に照射されてもよい。
上記のとおり、レーザーの照射角度が決定されると、決定された照射角度に基づいて、切断線64に沿ってシート材62を切断するように、レーザー加工装置1が制御される。具体的には、まず、シート材62が圧着された歯型模型40がロボット部3のハンド11に設置される(ステップS6)。そして、ロボット部3のハンド11やアーム12が動作して、レーザー照射部2から照射されるレーザーが、歯型模型40に対して決定された照射角度となるように、ロボット部3が歯型模型40の位置や方向を変化させる。また、ロボット部3の動作と同時に、歯型模型40に圧着されたシート材62に対してレーザー照射部2からレーザーが照射されて、シート材62が切断される(ステップS7)。
歯型模型40に対するレーザーの照射角度が一定である場合、歯型模型40に圧着されたシート材62において歯型模型40の位置に応じて肉厚が異なったり、奥歯の歯茎部分の凹凸によってレーザーを照射できなかったりすることで、シート材62を適切に切断できない場合がある。これに対して、本実施形態によれば、歯型模型40に対するレーザーの照射角度が切断線64の位置に応じて変化することから、歯型模型40に圧着されたシート材62において、歯型模型40の位置に応じて肉厚が異なる場合であっても、シート材62をレーザーによって切断したとき、全周にわたってバリやカエリなどが形成されることなく、迅速かつ正確にアライナー60を作成することができる。
次に、図5を参照して、歯型模型40の治具41について説明する。
歯型模型40には、ロボット部3のハンド11に歯型模型40を固定するための治具41が設けられる。治具41は、平板状部材であって、両端部がそれぞれ歯型模型40の歯肉側に連結されている。なお、治具41は、3次元データに基づいて3Dプリンターによって、歯型模型40の一部として、歯を含む顎部分と一体的に作成される。治具41を含む3次元データは、歯型模型40の3次元データを作成するときに、治具41に関する3次元データを組み合わせることで作成される。
歯型模型40には、ロボット部3のハンド11に歯型模型40を固定するための治具41が設けられる。治具41は、平板状部材であって、両端部がそれぞれ歯型模型40の歯肉側に連結されている。なお、治具41は、3次元データに基づいて3Dプリンターによって、歯型模型40の一部として、歯を含む顎部分と一体的に作成される。治具41を含む3次元データは、歯型模型40の3次元データを作成するときに、治具41に関する3次元データを組み合わせることで作成される。
図5に示すように、治具41には、例えば、一つの頂点を有する平面視V字形状の凹部42が形成されてもよい。この場合、ロボット部3のハンド11には、治具41の凹部42の形状に対応するように、突出した凸部が設けられる。治具41の凹部42が、ハンド11の凸部に組み合わせられることによって、治具41がハンド11において位置決めされる。また、ハンド11が所定位置及び所定方向にあるとき、凸部の頂点の座標をレーザー加工装置1の原点とする。そして、凹部42の頂点を治具41の原点、すなわち、歯型模型40の原点とする。歯型模型40の原点に基づいて、切断線64の位置座標を設定することで、レーザー加工装置1は、切断線64の位置座標に関するデータに基づいて、設定された切断線64に沿ってレーザーをシート材62に照射することができる。
なお、図7及び図8に示すように、レーザー加工装置1は、カメラ部5を更に備えてもよい。
カメラ部5は、レーザーの照射対象であるシート材62及びシート材62が圧着された歯型模型40を撮像する。制御部4の加工制御部24は、カメラ部5の撮像結果に基づいて、歯型模型40の位置や方向の補正を行う。これにより、ロボット部3自体が有する座標情報だけでなく、カメラ部5によって取得される情報に基づいて、ロボット部3とレーザー加工装置1の位置関係が調整されるため、位置ずれを低減して、レーザーをシート材62に対して精度良く照射し切断することができる。
カメラ部5は、レーザーの照射対象であるシート材62及びシート材62が圧着された歯型模型40を撮像する。制御部4の加工制御部24は、カメラ部5の撮像結果に基づいて、歯型模型40の位置や方向の補正を行う。これにより、ロボット部3自体が有する座標情報だけでなく、カメラ部5によって取得される情報に基づいて、ロボット部3とレーザー加工装置1の位置関係が調整されるため、位置ずれを低減して、レーザーをシート材62に対して精度良く照射し切断することができる。
歯型模型40の位置や方向の補正を行うため、カメラ部5は、例えば、歯型模型40の治具41に印字された文字や記号などからなる識別番号44(図5参照)を撮像する。そして、撮像された文字や記号の位置、方向及び大きさなどに基づいて、加工制御部24が歯型模型40の位置や方向の補正を行う。
さらに、カメラ部5によって撮像された、歯型模型40に印字された識別番号44に基づいて、制御部4が、レーザー加工装置1に設置されている歯型模型40を特定するようにしてもよい。この場合、特定された識別番号44に基づいて、歯型模型40に関する切断線データが取得される。これにより、ユーザーがレーザー加工装置1に対して歯型模型40の識別番号を手入力する必要がなく、レーザー加工装置1は、設置されている歯型模型40に対応した切断線データを記憶部から取得でき、取得された切断線データに基づいてレーザーをシート材62に照射してアライナー60を形成できる。
本実施形態に係るレーザー加工装置1は、レーザー照射部2と、ロボット部3と、カメラ部5が一つのケーシング7に収容される。また、レーザーによるシート材62の切断時に生じる粉塵等を除去するため、ケーシング7内に電気集塵装置6が設置されることが望ましい。さらに、レーザーによるシート材62の切断によって作成されるアライナー60の表面に対して識別番号(図示せず。)が印字されるようにしてもよい。アライナー60表面への識別番号の印字は、例えば、ガルバノ方式UVレーザーマーカーからのレーザー光によって行われる。この場合、レーザー加工装置1のケーシング7内にガルバノ方式UVレーザーマーカー(図示せず。)が設置される。
1 :レーザー加工装置
2 :レーザー照射部
3 :ロボット部
4 :制御部
5 :カメラ部
6 :電気集塵装置
7 :ケーシング
11 :ハンド
12 :アーム
21 :3次元データ取得部
22 :切断線データ取得部
23 :照射角度決定部
24 :加工制御部
40 :歯型模型
40a :底面
41 :治具
42 :凹部
44 :識別番号
60 :アライナー
62 :シート材
64 :切断線
2 :レーザー照射部
3 :ロボット部
4 :制御部
5 :カメラ部
6 :電気集塵装置
7 :ケーシング
11 :ハンド
12 :アーム
21 :3次元データ取得部
22 :切断線データ取得部
23 :照射角度決定部
24 :加工制御部
40 :歯型模型
40a :底面
41 :治具
42 :凹部
44 :識別番号
60 :アライナー
62 :シート材
64 :切断線
Claims (7)
- 作成目標とするマウスピース型矯正装置の成形に用いられる歯型模型の3次元データに基づいて決定されたレーザーによる切断線に関する切断線データを取得する切断線データ取得部と、
前記歯型模型に対する前記切断線の位置に基づいて、シート材を切断するレーザー照射部からの前記歯型模型に対する前記レーザーの照射角度を決定する照射角度決定部と、
決定された前記照射角度に基づいて、前記切断線に沿って前記シート材を切断するように、前記歯型模型に対する前記レーザーの照射角度を制御する加工制御部と、
を備えるレーザー加工装置。 - 前記レーザーの照射角度は、前記歯型模型に圧着された状態の前記シート材の厚さに基づいて決定される請求項1に記載のレーザー加工装置。
- 前記レーザーの照射角度は、
前記マウスピース型矯正装置における前歯部分の舌側において、前記歯型模型の底面に対して20°以上70°以下の範囲の角度となるように決定される請求項1又は2に記載のレーザー加工装置。 - 前記レーザーの照射角度は、
前記マウスピース型矯正装置における前歯部分の頬側において、前記歯型模型の底面に対して20°となるように決定される請求項1又は2に記載のレーザー加工装置。 - 前記レーザーの照射角度は、
前記マウスピース型矯正装置における奥歯部分の左右6番歯の舌側並びに7番歯の舌側及び頬側において、前記歯型模型の底面に対して40°以上70°以下の範囲の角度となるように決定される請求項1又は2に記載のレーザー加工装置。 - 前記レーザーの照射角度は、
前記マウスピース型矯正装置における奥歯部分の左右6番歯の頬側において、前記歯型模型の底面に対して20°以上70°以下の範囲の角度となるように決定される請求項1又は2に記載のレーザー加工装置。 - 作成目標とするマウスピース型矯正装置の成形に用いられる歯型模型の3次元データに基づいて決定されたレーザーによる切断線に関する切断線データを取得する第1ステップと、
前記歯型模型に対する前記切断線の位置に基づいて、シート材を切断するレーザー照射部の前記歯型模型に対する前記レーザーの照射角度を決定する第2ステップと、
決定された前記照射角度に基づいて、前記切断線に沿って前記シート材を切断するように、前記歯型模型に対する前記レーザーの照射角度を制御する第3ステップと、
を備えるレーザー加工方法。
Priority Applications (1)
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---|---|---|---|
JP2022111784A JP2024010448A (ja) | 2022-07-12 | 2022-07-12 | レーザー加工装置及びレーザー加工方法 |
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-
2022
- 2022-07-12 JP JP2022111784A patent/JP2024010448A/ja active Pending
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