JP2024000487A - 標識ポリペプチド、修飾ポリペプチド、それらのポリペプチドの製造方法、それらのポリペプチドを含む試薬、及び標的物質の測定方法 - Google Patents

標識ポリペプチド、修飾ポリペプチド、それらのポリペプチドの製造方法、それらのポリペプチドを含む試薬、及び標的物質の測定方法 Download PDF

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Abstract

【課題】ポリペプチドに対して高い効率で標識を結合することを可能にする手段を提供することを目的とする。【解決手段】分子量1100以上のポリエチレングリコール鎖を含むリンカーとして用い、当該リンカーを介してポリペプチド中のグルタミン残基と標識とを結合することにより、上記の課題を解決した。【選択図】図8A

Description

本発明は、標識ポリペプチド及びその製造方法に関する。本発明は、修飾ポリペプチド及びその製造方法に関する。本発明は、標識ポリペプチド又は修飾ポリペプチドを含む試薬に関する。本発明は、標的物質の測定方法に関する。
トランスグルタミナーゼ(TG)は、ポリペプチド中のグルタミン残基を基質とし、当該グルタミン残基のカルボキサミド側鎖と、第1級アミンのアミノ基との間にアミド結合を形成する反応を触媒する酵素である。より具体的には、TGが触媒する反応では、ポリペプチド中のグルタミン残基のカルボキサミド側鎖にあるアミノ基と、第1級アミンとが縮合して、当該第1級アミンが有する置換基がグルタミン残基に転移し、アンモニアを生成する。近年、TGを利用して、グルタミン残基を含むポリペプチドに、薬物や標識のような機能性物質を結合させる技術が知られている。
例えば、特許文献1には、グルタミン残基を含むペプチドタグを重鎖のC末端に付加した抗体と、アミノ基を有するリンカーに連結した抗がん薬とをTGの存在下で反応させて、抗がん薬が結合した抗体を得たことが記載されている。TGを利用したポリペプチドへの機能性物質の結合には、官能基を両端に有する二官能性リンカーが一般に用いられる。二官能性リンカーの官能基としては、TGが触媒する反応におけるアミンドナーとしてのアミノ基(-NH2)と、機能性物質をリンカーに共有結合するための任意の官能基とが選択される。そのようなリンカーを介して、ポリペプチド中のグルタミン残基と、機能性物質とが結合する。
米国特許出願第2018/0037921号明細書
本発明者らは、先行文献1に記載されたリンカーを用いてポリペプチド中のグルタミン残基に機能性物質を結合させようと試みたが、必ずしも十分な効率で結合が生じなかった。そこで、本発明は、ポリペプチドに対して高い効率で標識を結合することを可能にする手段を提供することを目的とする。
本発明者らは、二官能性リンカーとして、チオール基(-SH)及びアミノ基を有するポリエチレングリコール(PEG)鎖のうちPEG鎖部分の分子量が1100以上のリンカーを用いることで、ポリペプチド中のグルタミン残基に当該リンカー及び標識を効率よく結合できることを見出して、本発明を完成した。
本発明は、下記の式(I)で表される側鎖を有するグルタミン残基を含む、標識ポリペプチドを提供する。
(式中、(C)は、グルタミン残基のα炭素であり、Xは、直鎖アルキレン基であり、Yは、PEG鎖であり、Zは、標識であり、Lは、スペーサー又は結合手であり、PEG鎖の分子量が1100以上である。)
本発明は、下記の式(II)で表される側鎖を有するグルタミン残基を含む、修飾ポリペプチドを提供する。

(式中、(C)は、グルタミン残基のα炭素であり、Xは、直鎖アルキレン基であり、Yは、PEG鎖であり、PEG鎖の分子量が1100以上である。)
本発明は、上記の標識ポリペプチド又は修飾ポリペプチドを含む試薬を提供する。本発明は、上記の標識ポリペプチドと、標的物質との免疫複合体を形成する工程と、免疫複合体に含まれる標識により生じるシグナルを検出する工程とを含む、標的物質の測定方法を提供する。
本発明は、トランスグルタミナーゼの存在下で、グルタミン残基を含むポリペプチドと、下記の式(VI)で表されるリンカーとを接触することにより、グルタミン残基のカルボキサミド側鎖にリンカーを結合する工程と、カルボキサミド側鎖とリンカーとの結合により生成した修飾ポリペプチドを取得する工程とを含み、修飾ポリペプチドにおいて前記グルタミン残基の側鎖が上記の式(II)で表される、修飾ポリペプチドの製造方法を提供する。
NH2-X-Y-SH (VI)
(式中、Xは、直鎖アルキレン基であり、Yは、PEG鎖であり、PEG鎖の分子量が1100以上である。)
本発明は、トランスグルタミナーゼの存在下で、グルタミン残基を含むポリペプチドと、上記の式(IV)で表されるリンカーとを接触することにより、グルタミン残基のカルボキサミド側鎖にリンカーを結合する工程と、カルボキサミド側鎖とリンカーとの結合により生成した修飾ポリペプチドを取得する工程と、修飾ポリペプチドと、マレイミド基を有する標識とを接触することにより、修飾ポリペプチドに結合したリンカーに標識を結合する工程と、修飾ポリペプチドと標識との結合により生成した標識ポリペプチドを取得する工程とを含み、標識ポリペプチドにおいてグルタミン残基の側鎖が上記の式(I)で表される、標識ポリペプチドの製造方法を提供する。
本発明によれば、アミノ基及びチオール基を有するリンカーを用いることにより高い効率でポリペプチドへの標識の結合を可能にする。
本実施形態の試薬の一例を示す図である。 本実施形態の試薬キットの一例を示す図である。 SH-PEG-NH2リンカー(2K)(Sigma-Aldrich社)のインフュージョン法による質量分析(Infusion MS)の結果を示す図である。 別ロットのSH-PEG-NH2リンカー(2K)(Sigma-Aldrich社)のInfusion MSの結果を示す図である。 SH-PEG-NH2リンカー(2K)(Biopharma PEG Scientific Inc社)のInfusion MSの結果を示す図である。 SH-PEG-NH2リンカー(2K)(Creative PEGWorks社)のInfusion MSの結果を示す図である。 csF001-5Fab-QtagとSH-PEG-NH2リンカー(2K)(Sigma-Aldrich社)とのTGによる反応後の生成物のサイズ排除カラムクロマトグラフィー(SEC)分析の結果を示す図である。 異なるpHでのcsF001-5Fab-QtagとSH-PEG-NH2リンカー(2K)(Sigma-Aldrich社)とのTGによる反応後の生成物のSEC分析の結果を示す図である。 csF028-22Fab-QtagとSH-PEG-NH2リンカー(2K)(Sigma-Aldrich社)とのTGによる反応後の生成物のSEC分析の結果を示す図である。 csF001-5Fab-QtagとSH-PEG-NH2リンカー(3.5K)(Sigma-Aldrich社)とのTGによる反応後の生成物のSEC分析の結果を示す図である。 csF001-5Fab-QtagからのSH-PEG(2K)-Fabとマレイミド修飾ALPとのカップリング反応液のSEC及び非還元SDS-PAGEによる分析の結果を示す図である。 csF001-5Fab-QtagからのSH-PEG(2K)-Fabとマレイミド修飾ALPとのカップリング反応液のSEC分析の結果を示す図である。 分取した画分の非還元SDS-PAGEによる分析の結果を示す図である。 分取した画分のSEC分析の結果を示す図である。 csF028-22Fab-QtagからのSH-PEG(2K)-Fabとマレイミド修飾ALPとのカップリング反応液のSEC分析の結果を示す図である。 csF028-22Fab-QtagからのSH-PEG(2K)-Fabとマレイミド修飾ALPとのカップリング反応液から分取した画分のSEC分析の結果を示す図である。 csF028-22Fab-QtagからのSH-PEG(2K)-Fabとマレイミド修飾ALPとのカップリング反応液から分取した画分の非還元SDS-PAGEによる分析の結果を示す図である。 sF001-5Fab’とマレイミド修飾ALPとのカップリング反応液のSEC分析の結果を示す図である。 sF001-5Fab’とマレイミド修飾ALPとのカップリング反応液から分取した画分の非還元SDS-PAGEによる分析の結果を示す図である。 sF001-5Fab’とマレイミド修飾ALPとのカップリング反応液から分取した画分のSEC分析の結果を示す図である。 Fab-PEG-ALP及び(Fab’)n-ALPのそれぞれを用いた酵素結合免疫吸着法(ELISA)によりHIV-1 p24を測定したときのシグナルの値を示すグラフである。 Fab-PEG-ALP及び(Fab’)n-ALPのそれぞれを用いたELISAによりHIV-1 p24を測定したときのノイズの値を示すグラフである。 Fab-PEG-ALP及び(Fab’)n-ALPのそれぞれを用いたELISAによりHIV-1 p24を測定したときのシグナル/ノイズ(S/N)比を示すグラフである。 Fab-PEG-ALP及び(Fab’)n-ALPのそれぞれを用いたELISAによりヒト血清を測定したときのバックグラウンドを示すグラフである。 HBs628Fab-QtagとSH-PEG-NH2リンカー(2K)(Sigma-Aldrich社)とのTGによる反応後の生成物のSEC分析の結果を示す図である。 HBs628Fab-QtagからのSH-PEG(2K)-Fabとマレイミド修飾ビオチンとのカップリング反応液のSEC分析の結果を示す図である。 HBs628Fab-QtagからのSH-PEG(2K)-Fabとマレイミド修飾ビオチンとのカップリング反応液から分取した画分の非還元SDS-PAGEによる分析の結果を示す図である。 HBs628Fab-QtagからのSH-PEG(2K)-Fabとマレイミド修飾ビオチンとのカップリング反応液から分取した画分のSEC分析の結果を示す図である。 HBs628Fab-Qtagの非還元サンプルの液体クロマトグラフィー質量分析(LC-MS)の結果を示す図である。 HBs628Fab-Qtagの還元したサンプルのLC-MSの結果を示す図である。 HBs628Fab-QtagとそのSH-PEG-Fab及びビオチン-PEG-Fabの非還元サンプルのLC-MSの結果を示す図である。 HBs628Fab-Qtag及びそのSH-PEG-Fabの還元したサンプルのLC-MSの結果を示す図である。 HBs628Fab-QtagからのSH-PEG(2K)-Fabとマレイミド修飾ALPとのカップリング反応液のSEC分析の結果を示す図である。 HBs628Fab-QtagからのSH-PEG(2K)-Fabとマレイミド修飾ALPとのカップリング反応液と各原料を非還元SDS-PAGEにより分析した結果を示す図である。 csF001-25Fab-QtagとSH-PEG-NH2リンカー(2K)(Sigma-Aldrich社)とのTGによる反応後の生成物のSEC分析の結果を示す図である。 csF001-25Fab-QtagからのSH-PEG(2K)-FabとAlexa488-マレイミドとのカップリング反応液のSEC分析の結果を示す図である。 csF001-25Fab-QtagからのSH-PEG(2K)-FabとAlexa488-マレイミドとのカップリング反応液を脱塩及び精製した画分のSECにおけるUV及び蛍光吸収を確認した結果を示す図である。 csF001-25Fab-QtagとそのSH-PEG-Fab及びAlexa488-PEG-Fabの還元したサンプルのLC-MSの結果を示す図である。 図24Aに示される分析結果の拡大図である。 抗CD20 Fab-Qtagと別ロットのSH-PEG-NH2リンカー(2K)(Sigma-Aldrich社)とのTGによる反応後の生成物のSEC分析の結果を示す図である。 R-フィコエリスリン(R-PE)とEMCS試薬との反応液をSEC分析した結果を示す図である。 R-PEとEMCS試薬との反応液を逆相HPLC分析した結果を示す図である。 csF001-25Fab-QtagからのSH-PEG(2K)-Fabとマレイミド修飾R-PEとのカップリング反応液のSEC分析の結果を示す図である。左のパネルは、UV(280 nm)でのクロマトグラムである。右のパネルは、カップリング反応液についてのUV(280 nm)及び蛍光(励起波長565 nm/蛍光波長574 nm)でのクロマトグラムである。 sF001-25Fab-QtagからのSH-PEG(2K)-Fabとマレイミド修飾ALPとのカップリング反応液から分取した画分のSEC分析の結果を示す図である。左のパネルは、UV(280 nm)でのクロマトグラムである。右のパネルは、蛍光(励起波長565 nm/蛍光波長574 nm)でのクロマトグラムである。 抗CD20 Fab-QtagからのSH-PEG(2K)-Fabとマレイミド修飾R-PEとのカップリング反応液のSEC分析の結果を示す図である。左のパネルは、UV(280 nm)でのクロマトグラムである。右のパネルは、カップリング反応液についてのUV(280 nm)及び蛍光(励起波長565 nm/蛍光波長574 nm)でのクロマトグラムである。 抗CD20 Fab-QtagからのSH-PEG(2K)-Fabとマレイミド修飾ALPとのカップリング反応液から分取した画分のSEC分析の結果を示す図である。左のパネルは、UV(280 nm)でのクロマトグラムである。右のパネルは、蛍光(励起波長565 nm/蛍光波長574 nm)でのクロマトグラムである。 csF001-25Fab-Qtagと抗原との相互作用をBiacore(商標) T200(Cytiva社)により測定した結果を示す図である。 csF001-25Fab-QtagからのSH-PEG(2K)-Fabと抗原との相互作用をBiacore(商標) T200により測定した結果を示す図である。 csF001-25Fab-Qtagと抗原との相互作用をBiacore(商標) T200により測定した結果を示す図である。図31Aとは、測定日が異なる。 csF001-25Fab-QtagからのAlexa488-PEG-Fabと抗原との相互作用をBiacore(商標) T200により測定した結果を示す図である。 csF001-25Fab-QtagからのFab-PEG-R-PE、(Fab-PEG)2-R-PE及び(Fab-PEG)3-R-PEのそれぞれを用いてELISAによる測定(抗原の添加なし)を行った結果を示す図である。 csF001-25Fab-QtagからのFab-PEG-R-PE、(Fab-PEG)2-R-PE及び(Fab-PEG)3-R-PEのそれぞれを用いてELISAによる測定(抗原の添加あり)を行った結果を示す図である。 抗CD20 Fab-QtagからのFab-PEG-R-PE、(Fab-PEG)2-R-PE及び(Fab-PEG)3-R-PEのそれぞれを用いたFCM法によりCD20発現細胞を測定した結果を示す図である。 SH-PEG-NH2リンカー(3.5K)(Sigma-Aldrich社)のInfusion MSの結果を示す図である。 SH-PEG-NH2リンカー(5K)(Sigma-Aldrich社)のInfusion MSの結果を示す図である。 csF001-25Fab-QtagとSH-PEG-NH2リンカー(3.5K)(Sigma-Aldrich社)とのTGによる反応後の生成物のSEC分析の結果を示す図である。 csF001-25Fab-QtagとSH-PEG-NH2リンカー(5K)(Sigma-Aldrich社)とのTGによる反応後の生成物のSEC分析の結果を示す図である。 csF001-25Fab-Qtagと、SH-PEG-NH2リンカー(3.5K)(Sigma-Aldrich社)及びSH-PEG-NH2リンカー(5K)(Sigma-Aldrich社)のそれぞれとのTGによる反応後の生成物の非還元SDS-PAGEによる分析の結果を示す図である。 csF001-25Fab-QtagからのSH-PEG(3.5K)-FabとAlexa488-マレイミドとのカップリング反応液のSEC分析の結果を示す図である。 csF001-25Fab-QtagからのSH-PEG(3.5K)-FabとAlexa488-マレイミドとのカップリング反応液を脱塩及び精製した画分のSECにおけるUV及び蛍光吸収を確認した結果を示す図である。 csF001-25Fab-QtagからのSH-PEG(5K)-FabとAlexa488-マレイミドとのカップリング反応液のSEC分析の結果を示す図である。 csF001-25Fab-QtagからのSH-PEG(5K)-FabとAlexa488-マレイミドとのカップリング反応液を脱塩及び精製した画分のSECにおけるUV及び蛍光吸収を確認した結果を示す図である。 csF001-5Fab-QtagとSH-PEG-NH2リンカー(400Da)(Nanocs Inc.社)とのTGによる反応後の生成物のSEC分析の結果を示す図である。 csF001-5Fab-QtagからのSH-PEG(400Da)-Fabとマレイミド修飾ALPとのカップリング反応液のSEC分析の結果を示す図である。 csF001-5Fab-QtagとSH-PEG-NH2リンカー(1K)(Creative PEGWorks社)とのTGによる反応後の生成物のSEC分析の結果を示す図である。 csF001-5Fab-QtagからのSH-PEG(1K)-Fabとマレイミド修飾ALPとのカップリング反応液のSEC分析の結果を示す図である。
本実施形態の標識ポリペプチドは、上記の式(I)で表される側鎖を有するグルタミン残基を含む。当該標識ポリペプチドでは、標識が付加される前のポリペプチド中のグルタミン残基と、標識とが、PEG鎖を有する二官能性リンカーを介して結合している。具体的には、当該標識ポリペプチドは、TGが触媒する反応を利用して、ポリペプチドのグルタミン残基に、二官能性リンカーとしてチオール基及びアミノ基を有するPEG鎖を結合させた後、当該リンカーのチオール基と、マレイミド基を有する標識とを反応させることにより得ることができる(詳細については、後述の標識ポリペプチドの製造方法の説明を参照)。
式(I)において、(C)は、標識ポリペプチド中のグルタミン残基のα炭素である。式(I)で表される側鎖は、当該グルタミン残基の側鎖にリンカー及び標識が結合した構造を有する。本実施形態の標識ポリペプチドは、標識が付加される前のポリペプチド中のTGの基質となり得るグルタミン残基が、上記の式(I)で表される側鎖を有するグルタミン残基に改変されたポリペプチドである。すなわち、標識ポリペプチドのアミノ酸配列は、上記の式(I)で表される側鎖を有するグルタミン残基を含むこと以外は、標識が付加される前のポリペプチドと同じである。標識ポリペプチドにおいて、ポリペプチドの種類は特に限定されない。例えば、標識ポリペプチドは、抗体、抗原、リガンド、受容体などの任意のタンパク質であり得る。それらの中でも、抗体が好ましい。
本明細書において「抗体」との用語は、抗体フラグメントも包含する。抗体フラグメントとしては、例えばFab、Fab'、F(ab')2、Fd、Fd'、Fv、scFv、ドメイン抗体(dAb)、還元型IgG(rIgG)、軽鎖、重鎖抗体、重鎖抗体の可変領域(VHH)、ダイアボディ、トリアボディなどが挙げられる。抗体は、モノクローナル抗体及びポリクローナル抗体のいずれでもよい。抗体の由来は特に限定されず、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ヤギ、ウマ、ラクダ、アルパカ、ニワトリ、ダチョウ、サメなどの動物に由来する抗体であり得る。抗体のアイソタイプはIgG、IgM、IgE、IgAなどのいずれでもよいが、好ましくはIgGである。タグに特異的に結合する抗体は、市販の抗体であってもよいし、当該技術分野において公知の方法により作製した抗体であってもよい。
標識が付加される前のポリペプチドにおいて、TGの基質となり得るグルタミン残基は、例えば、当該ポリペプチドの表面に存在し、カルボキサミド側鎖がポリペプチドの外側に向くグルタミン残基であり得る。あるいは、標識が付加される前のポリペプチドに、グルタミン残基を含むペプチドタグ(以下、「Qタグ」とも呼ぶ)を付加してもよい。Qタグは、所定のアミノ酸配列中にグルタミン残基を含むことにより、当該グルタミン残基がTGの基質となり得る。一般に、ポリペプチド中の全てのグルタミン残基がTGの基質になるわけではないことから、Qタグを付加することが好ましい。Qタグ自体は公知であり、例えば特許文献1にも記載されている。Qタグに含まれるアミノ酸残基数は、好ましくは3以上、より好ましくは4以上である。また、Qタグに含まれるアミノ酸残基数は、好ましくは20以下、より好ましくは15以下、最も好ましくは10以下である。Qタグのアミノ酸配列のうち、1つ又は2つがグルタミン残基である。ペプチダーゼによる切断からQタグを保護する観点から、QタグのC末端のアミノ酸残基はプロリン残基であることが好ましい。Qタグとしては、例えば、GVLNLAQSP (配列番号1)、GLLQGP (配列番号2)、LLQGP (配列番号3)などのアミノ酸配列のペプチドタグが挙げられる。
標識が付加される前のポリペプチドにおいて、Qタグを付加する位置は特に限定されないが、好ましくは、ポリペプチドのN末端又はC末端、より好ましくは、ポリペプチドのC末端である。ポリペプチドが例えば全長抗体、Fab、Fab'又はF(ab')2であるとき、Qタグは、重鎖又は軽鎖のC末端に付加することができる。ポリペプチドにQタグを付加する方法は、特に限定されない。例えば、架橋剤又はリンカーを用いてQタグをポリペプチドに共有結合させてもよい。あるいは、公知の遺伝子組換え法により、ポリペプチドとQタグとの融合ポリペプチドを作製してもよい。
好ましくは、標識ポリペプチドは、ポリペプチドと、上記の式(I)で表される側鎖を有するグルタミン残基を含むぺプチドタグとの融合ポリペプチドである。すなわち、標識ポリペプチドは、Qタグが付加されたポリペプチドであって、当該Qタグ中のTGの基質となり得るグルタミン残基が、上記の式(I)で表される側鎖を有するグルタミン残基に改変されたポリペプチドであり得る。より好ましくは、標識ポリペプチドは、抗体と、上記の式(I)で表される側鎖を有するグルタミン残基を含むプチドタグとの融合ポリペプチドである。
上記の式(I)において、「(C)-(CH2)2-(C=O)-」は、ポリペプチド中のグルタミン残基のカルボキサミド側鎖に由来し、「-NH-X-Y-S-」は、二官能性リンカーであるチオール基及びアミノ基を有するPEG鎖に由来する。ここで、Xは、直鎖アルキレン基であり、直鎖アルキレン基の炭素数は、好ましくは2以上10以下、より好ましくは2以上8以下、最も好ましくは2以上6以下である。Xに関し、直鎖アルキレン基は置換基を有さないことが好ましい。より好ましくは、Xは、炭素数が2以上6以下の非置換の直鎖アルキレン基である。
上記の式(I)において、Yは、分子量が1100以上であるPEG鎖である。PEGはポリマーであるので、標識ポリペプチドの調製に用いられる、チオール基およびアミノ基を有するPEGは、分子量に幅をもった複数の分子の集合体であり得る。したがって、そのようなPEGから調製された標識ポリペプチドの分子量には幅がある。本明細書において、「PEG鎖の分子量が1100以上である」とは、標識ポリペプチドにおけるPEG鎖部分の分子量の最小値が1100であることを意味する。Yに関し、PEG鎖の分子量の下限は、好ましくは1200、1300、1400又は1500である。また、Yに関し、PEG鎖の分子量の上限は、例えば20000、10000、7500、7000、6500、6000又は5500である。PEG鎖の分子量は、例えば、ポリペプチドと結合する前の段階において、二官能性リンカーとしてのチオール基及びアミノ基を有するPEG鎖を質量分析法で分析することにより調べることができる。質量分析法としては、例えばInfusion MS、LC-MS、飛行時間型質量分析(TOF-MS)、マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析(MALDI-MS)などが挙げられる。質量分析の条件は適宜決定できる。例えば、Infusion MSにより分析する場合、条件の詳細は後述の実施例のとおりである。
質量分析により測定されたPEG鎖の分子量の分析結果のうち、最も多く含まれる分子量を「最頻分子量」(Most Abundant Molecular Weight)という。Yに関し、PEG鎖の最頻分子量の下限は、例えば1200、1250、1300、1350、1400、1450、1500、1550、1600、1650、1700、1750、1800、1850、1900、1950、2000又は2050である。Yに関し、PEG鎖の最頻分子量の上限は、例えば18000、15000、12000、9000、8000、7000、6000、5000、4000、3500又は3000である。また、質量分析の結果に基づいて、PEG鎖の重量平均分子量を算出できる。例えば、ポリペプチドと結合する前の段階において、二官能性リンカーとしてのチオール基及びアミノ基を有するPEG鎖をInfusion MSにより分析した場合、最も強度の高い同位体分子ピークの分子量値及び強度から、PEG鎖の重量平均分子量を算出できる。Infusion MSによる分析の条件の詳細は、後述の実施例のとおりである。Yに関し、PEG鎖の重量平均分子量は1300以上であることが好ましく、1700以上であることがより好ましい。Yに関し、PEG鎖の重量平均分子量の下限は、例えば1350、1400、1450、1500、1550、1600、1650、1700、1750、1800、1850、1900、1950、2000又は2050である。Yに関し、PEG鎖の重量平均分子量の上限は20000より低いことが好ましく、例えば15000、12000、10000、8000、7000、6000、5000、4500、4000、3500、3000又は2500である。
Yの構造は、下記の式(III)で表される。式(III)中、nは25以上の整数であり、好ましくは39以上の整数である。
-(OCH2CH2)n-又は-(CH2CH2O)n- (III)
上記の式(III)において、nの下限は、好ましくは25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40又は41である。より好ましくは、nの下限は31、32、33、34、35、36、37、38、39又は40である。また、nの上限は、例えば455、228、171、159、147、136、125、113、102、90、79、68又は56である。
上記の式(I)で表される側鎖において、下記の式(IV)で表される構造の部分は、マレイミド基を有する標識に由来する。Zは、標識であり、Lは、イミド環の窒素原子とZとを結合するスペーサー、又は結合手である。Lに関して、結合手とは、間に他の原子を介さずに、イミド環の窒素原子とZとが直接結合することをいう。
標識は、ポリペプチドに付加され得る物質であって、「標識物質」と同義である。標識は、特異的な検出が可能な物質であるか、又は、それ自体がシグナルを発生する物質(以下、「シグナル発生物質」ともいう)、若しくは他の物質の反応を触媒してシグナルを発生させる物質であり得る。特異的な検出が可能な物質は、当該物質と特異的に結合できる物質が存在するか又は得られるかぎり、特に限定されない。特異的な検出が可能な物質としては、例えばビオチン類、ハプテン、オリゴヌクレオチドなどが挙げられる。ビオチン類は、アビジン類と特異的に結合する。ハプテンとしては、例えば2, 4-ジニトロフェニル(DNP)基が挙げられる。DNPは、抗DNP抗体と特異的に結合する。オリゴヌクレオチドは、その塩基配列と相補的な配列を有するオリゴヌクレオチドと特異的に結合する。
本明細書において「ビオチン類」とは、ビオチンとその類縁体を包含する。ビオチンの類縁体としては、例えばデスチオビオチン、ビオシチンなどが挙げられる。本明細書において「アビジン類」とは、アビジンとその類縁体を包含する。アビジンの類縁体としては、例えばストレプトアビジン、タモギタケ由来アビジン様タンパク質(タマビジン(登録商標))、ブラダビジン、リザビジンなどが挙げられる。
シグナル発生物質としては、例えば蛍光物質、放射性同位元素、化学発光物質などが挙げられる。他の物質の反応を触媒して検出可能なシグナルを発生させる物質としては、例えば酵素が挙げられる。酵素は適切な基質と反応することにより、光、色などのシグナルを発生させる。酵素としては、例えばアルカリホスファターゼ(ALP)、ペルオキシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼなどが挙げられる。蛍光物質としては、例えばAlexa Fluor(登録商標)、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、ローダミンなどの蛍光色素、GFPなどの蛍光タンパク質などが挙げられる。放射性同位元素としては、例えば125I、14C、32P、99mTc、225Acなどが挙げられる。化学発光物質としては、ルテニウムピリジン錯体、アクリジニウムエステルなどが挙げられる。放射性同位元素自体を標識として結合することは困難であるので、放射性同位元素を含み且つマレイミド基を有する化合物を標識として用いてもよい。例えば、125I、14C又は32Pを含み且つマレイミド基を付加された核酸、糖類及びオリゴペプチドなどが挙げられる。また、99mTc、225Acなどの金属元素を配位可能なキレート剤にマレイミド基を付加したマレイミド誘導体を用いてもよい。キレート剤の部分に99mTc、225Acなどを配位させることで、当該マレイミド誘導体をシグナル発生物質として利用できる。キレート剤としては、例えばデフェロキサミンが挙げられる。
好ましい標識は、ビオチン類、酵素、蛍光色素、蛍光タンパク質及びハプテンである。酵素としては、ALPが特に好ましい。
上記の式(I)において、Lが、イミド環の窒素原子とZとを結合するスペーサーであるとき、Lは、例えば、-(CH2)n-R-(C=O)-NH-、-(CH2)n-R-NH-(C=O)-、-(CH2)n-R-(C=O)-、-(CH2)n-R-(C=O)-O-、-(CH2)n-R-O-(C=O)-、-(CH2)n-R-(C=S)-NH-、-(CH2)n-R-NH-(C=S)-、-(CH2)n-R-O-、-(CH2)n-O-R-、-(CH2)n-R-S-又は-(CH2)n-S-R-で表される。nは1以上10以下の整数である。
Rは、それぞれ独立して、結合手、置換基を有してもよい炭素数1以上10以下のアルキレン基、置換基を有してもよい炭素数6以上12以下のアリーレン基若しくはヘテロアリーレン基、置換基を有してもよい炭素数3以上8以下のシクロアルキレン基若しくはヘテロシクロアルキレン基、又はそれらの組み合わせである。Rに関して、結合手とは、間に他の原子を介さずに直接結合することをいう。
Rが、炭素数1以上10以下のアルキレン基であるとき、そのようなアルキレン基としては、例えばメチレン、エチレン、プロピレン、イソプロピレン、ブチレン、イソブチレン、ペンチレン、ネオペンチレン、ヘキシレン、ヘプチレン、オクチレン、2-エチルヘキシレン、ノニレン及びデシレンなどの基が挙げられる。それらの中でも、炭素数1以上4以下のアルキレン基が好ましい。Rが、置換基を有するアルキレン基であるとき、上記の炭素数には、置換基の炭素数は含まれない。
Rが、アリーレン基又はヘテロアリーレン基であるとき、そのような基は、N、S、O及びPから選択される1つ以上のヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数6以上12以下の芳香環であればよい。例えば、フェニレン、ナフチレン、ビフェニリレン、フラニレン、ピローレン、チオフェニレン、トリアゾーレン、オキサジアゾーレン、ピリジレン、ピリミジレンなどの基が挙げられる。Rが、置換基を有するアリーレン基又はヘテロアリーレン基であるとき、上記の炭素数には、置換基の炭素数は含まれない。
Rが、シクロアルキレン基又はヘテロシクロアルキレン基であるとき、そのような基は、N、S、O及びPから選択される1つ以上のヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数3以上8以下の非芳香環であればよい。例えば、シクロプロピレン、シクロブチレン、シクロペンチレン、シクロヘキシレン、シクロヘプチレン、シクロオクチレン、ピロリジニレン、ピペリジニレン、ピペラジニレン、モルホリニレンなどの基が挙げられる。Rが、置換基を有するシクロアルキレン基又はヘテロシクロアルキレン基であるとき、上記の炭素数には、置換基の炭素数は含まれない。
Rにおける置換基としては、例えばヒドロキシ、シアノ、アルコキシ、ニトロ、=O、=S、ハロゲン、ハロアルキル、ヘテロアルキル、カルボキシアルキル、アミン、アミド、チオエーテルなどの基が挙げられる。Rは、置換基を複数有していてもよい。アルコキシは、-O-アルキル基を示し、このアルキル基は、炭素数1以上5以下、好ましくは炭素数1又は2の直鎖状又は分岐鎖状の飽和脂肪族炭化水素基である。
1分子の標識ポリペプチドにおいて、上記の式(I)で表される側鎖を有するグルタミン残基は1つであってもよいし、複数であってもよい。また、複数分子のポリペプチドが1分子の標識を共有して、各ポリペプチドが上記の式(I)で表される側鎖を形成してもよい。この場合、式(I)の標識ポリペプチドは、1のZに対して、「(C)-(CH2)2-(C=O)-NH-X-Y-S-」と上記の式(IV)が連結した構造を複数含む。一例として、下記の式(V)で表される標識ポリペプチドが挙げられる。式(V)において、(C)、X、Y、Z及びLの定義は式(I)と同じである。
式(V)で表される複合体は、2つのマレイミド基を有する1分子の標識に、後述の修飾ポリペプチドが2分子結合して形成される。式(V)で表される複合体は、式(I)で表される標識ポリペプチドの一例である。標識ポリペプチドは、例えば、3つ以上のマレイミド基を有する1分子の標識に、3分子以上の修飾ポリペプチドが結合して形成される複合体であってもよい。このような複合体は、複数のマレイミド基を有する1分子の標識と、複数分子のポリペプチドとが、チオール基及びアミノ基を有するPEG鎖を介して結合することにより作製される。
本実施形態の標識ポリペプチドでは、分子量が1100以上のPEG鎖により、ポリペプチドと標識とが隔てられている。これにより、例えばポリペプチドが抗体である場合、標識が抗体に非特異的に結合することが防がれるという利点がある。また、分子量が1100以上のPEG鎖はフレキシブルな構造であるので、ポリペプチドが抗体である場合、当該抗体が揺れ動くことにより、標的物質である抗原を捕捉しやすくなるという利点がある。また、後述の実験例8及びその結果に示されるように、ポリペプチドが抗体である本実施形態の標識ポリペプチドを用いて、血清中の抗原を検出したとき、バックグラウンドが抑制されるという利点がある。これは、水を含む試料中では、分子量が1100以上のPEG鎖は水和するので、血清由来の夾雑物が標識ポリペプチドに非特異的結合が抑えられたことによると考えられる。
本実施形態の修飾ポリペプチドは、上記の式(II)で表される側鎖を有するグルタミン残基を含む。当該修飾ポリペプチドでは、ポリペプチドのグルタミン残基と、チオール基を有するPEG鎖とが結合している。具体的には、修飾ポリペプチドは、TGが触媒する反応を利用して、ポリペプチドのグルタミン残基に、二官能性リンカーとしてチオール基及びアミノ基を有するPEG鎖を結合させことにより得ることができる(詳細については、後述の修飾ポリペプチドの製造方法の説明を参照)。
修飾ポリペプチドと、マレイミド基を有する標識とを接触すると、修飾ポリペプチドのチオール基と標識のマレイミド基とが反応して、標識ポリペプチドが生成する。すなわち、修飾ポリペプチドは、最終生成物である本実施形態の標識ポリペプチドを得るための中間体である。
式(II)において、(C)は、修飾ポリペプチド中のグルタミン残基のα炭素である。式(II)で表される側鎖は、当該グルタミン残基の側鎖に、チオール基及びアミノ基を有するPEG鎖の構造を有する二官能性リンカーが結合した構造を有する。本実施形態の修飾ポリペプチドは、当該リンカーが結合する前のポリペプチド中のTGの基質となり得るグルタミン残基が、上記の式(II)で表される側鎖を有するグルタミン残基に改変されたポリペプチドである。すなわち、修飾ポリペプチドのアミノ酸配列は、上記の式(II)で表される側鎖を有するグルタミン残基を含むこと以外は、リンカーが結合する前のポリペプチドと同じである。修飾ポリペプチドにおいて、ポリペプチドの種類は特に限定されず、標識ポリペプチドについて述べたことと同じである。すなわち、修飾ポリペプチドは、抗体、抗原、リガンド、受容体などの任意のタンパク質であり得る。それらの中でも、抗体が好ましい。
式(II)中のX及びYの詳細は、標識ポリペプチドについて述べたことと同じである。1分子の修飾ポリペプチドにおいて、上記の式(II)で表される側鎖を有するグルタミン残基は1つであってもよいし、複数であってもよい。
上記のとおり、一般にチオール基は酸化されやすく、チオール基を有する分子間で容易にジスルフィド結合が形成される。そのため、標識ポリペプチド調製の際に、修飾ポリペプチドのチオール基にアセチル基のような保護基を付加することにより、ジスルフィド結合の形成を抑制することができる。一方で、修飾ポリペプチドでは、抑々末端のチオール基は酸化を受けにくく、修飾ポリペプチド間でジスルフィド結合を形成することがほとんどないという利点がある。これは、修飾ポリペプチド中の分子量が1100以上のPEG鎖の水和により、修飾ポリペプチドの分散性が向上して、チオール基同士の接触が起こりにくいためと考えられる。上記の利点により、修飾ポリペプチドでは、そのチオール基を予め保護しておくことは必ずしも必要ではない。すなわち、当該修飾ポリペプチドを用いると、チオール基保護及び保護基の除去などの操作が不要となり、標識ポリペプチドの調製作業を簡便化することが可能である。
本発明のさらなる実施形態は、修飾ポリペプチドの製造方法に関する。この製造方法では、まず、TGの存在下で、グルタミン残基を含むポリペプチドと、上記の式(VI)で表されるリンカーとを接触することにより、当該グルタミン残基のカルボキサミド側鎖に上記のリンカーを結合する。
TG自体は公知の酵素であり、市販されている。TGは、生体又は生体試料から抽出及び精製した天然の酵素であってもよいし、遺伝子組換え法により得られた酵素であってもよい。また、TGの由来は特に限定されず、いずれの生物に由来するTGを用いてもよい。好ましくは、微生物(例えばストレプトマイセス・モバラエンシス)由来のTGを用いる。
ポリペプチドは、TGの基質となり得るグルタミン残基を含むかぎり、特に限定されない。例えば、ポリペプチドは、抗体、抗原、リガンド、受容体などの任意のタンパク質から選択できる。それらの中でも、抗体が好ましい。TGの基質となり得るグルタミン残基を含むポリペプチドは、上記のQタグを付加したポリペプチドであってもよい。好ましいポリペプチドは、抗体とQタグとの融合ポリペプチドである。
上記の式(VI)で表されるリンカーは、チオール基及びアミノ基を有するPEG鎖という構成を有する二官能性リンカーである。式(VI)中のX及びYの詳細については、本実施形態の標識ポリペプチドに関し、式(I)中のX及びYについて述べたことと同じである。式(VI)で表されるリンカー自体は公知であり、市販されている。PEG鎖の分子量は、質量分析により調べることができる。質量分析及びその条件の詳細は、上記のとおりである。市販のリンカーを用いる場合、PEG鎖の分子量は、メーカー又は供給業者が開示する値であってもよい。その場合、開示されたリンカーの分子量は、2000以上であることが好ましい。
上記の式(VI)で表されるリンカーは、分子量が1100以上のPEG鎖の水和により分散性が向上して、チオール基同士の接触が起こりにくいと考えられる。そのため、当該リンカーは、末端のチオール基は酸化を受けにくく、修飾ポリペプチド間でジスルフィド結合を形成することがほとんどない。したがって、上記のポリペプチドと式(VI)で表されるリンカーとを結合する工程において、当該リンカーのチオール基を予め保護しておく必要がない。また、ジスルフィド結合の形成によるチオール基のロスがほとんどないので、修飾ポリペプチドと、マレイミド基を有する標識との反応を定量的かつ効率的に行うことができる。
上記の式(VI)で表されるリンカーは、フリー体であってもよいし、無機酸(例えば塩酸)との塩であってもよい。好ましくは、上記の式(VI)で表されるリンカーは、無機酸(例えば塩酸)との塩である。上記のとおり、当該リンカーは、分子量が1100以上のPEG鎖を有するので、フリー体であっても、リンカー間のジスルフィド結合は起こりにくい。リンカーが無機酸との塩である場合、PEG鎖の水和だけでなく、静電相互作用によってもリンカーの分散性が向上し得る。
TGの存在下でのグルタミン残基を含むポリペプチドと、上記の式(VI)で表されるリンカーとの接触は、適切な水性媒体中で行うことが好ましい。例えば、TGの溶液と、ポリペプチドの溶液と、リンカーの溶液とを混合することにより、これらを接触することができる。混合の順序は特に限定されない。水性媒体としては、例えば水、生理食塩水、緩衝液などが挙げられる。緩衝液としては、例えばリン酸緩衝生理食塩水(PBS)、Tris-HCl、グッドバッファーなどが挙げられる。微生物由来のTGを用いる場合、水性媒体のpHは、中性付近(pH6.5以上8.5以下)が好ましく、pH8以上8.5以下がより好ましい。水性溶媒にジメチ
ルスルホキシド(DMSO)を含有させてもよい。TGを含む水性溶媒中のDMSO濃度は、好ましくは20 w/v%以下、より好ましくは10 w/v%以下である。
上記の接触では、上記の混合により得られたTG、ポリペプチド及びリンカーを含む溶液を、TGが触媒する反応が進行する条件下でインキュベーションすることが好ましい。そのような条件自体は公知である。例えば、温度は、4℃以上37℃以下、好ましくは20℃以上37℃以下である。インキュベーション時間は、温度に応じて適宜決定できるが、例えば1時間以上24時間以下である。10℃以下の低い温度で接触を行う場合は、時間を長くすること(例えば8時間以上)が好ましい。上記の接触において、TGの作用により、ポリペプチド中のグルタミン残基のカルボキサミド側鎖のアミノ基が、リンカー中のアミノ基と交換されてアミド結合を形成し、リンカーが当該側鎖に結合する。これにより、本実施形態の修飾ポリペプチドが生成する。
次いで、カルボキサミド側鎖とリンカーとの結合により生成した修飾ポリペプチドを取得する。例えば、酵素反応後のTG、ポリペプチド及びリンカーを含む溶液を、適切なカラムを用いたSEC又はアフィニティクロマトグラフィーにより精製することにより、酵素及び未反応成分を除去して、修飾ポリペプチドを取得してもよい。未反応成分は、例えば、リンカーと結合しなかったポリペプチド、及び、ポリペプチドと結合しなかったリンカーである。必要に応じて、取得した修飾ポリペプチドを含む溶液を脱塩及び濃縮してもよい。
本発明のさらなる実施形態は、標識ポリペプチドの製造方法に関する。この製造方法では、まず、TGの存在下で、グルタミン残基を含むポリペプチドと、上記の式(VI)で表されるリンカーとを接触することにより、当該グルタミン残基のカルボキサミド側鎖に上記のリンカーを結合する。次いで、カルボキサミド側鎖とリンカーとの結合により生成した修飾ポリペプチドを取得する。これらの工程の詳細は、修飾ポリペプチドの製造方法について述べたことと同じである。また、標識の詳細は、標識ポリペプチドについて述べたことと同じである。
取得した修飾ポリペプチドと、マレイミド基を有する標識とを接触することにより、当該修飾ポリペプチドに結合したリンカーに標識を結合する。修飾ポリペプチドは、上記の式(II)で表される側鎖を有するので、当該側鎖のチオール基と、標識が有するマレイミド基とが反応する。これにより、チオエーテル結合が形成されて、修飾ポリペプチドに結合したリンカーの末端に標識が結合する。
マレイミド基を有する標識は、下記の式(VII)で表される構造を有することが好ましい。式(VII)において、Zは、標識であり、Lは、スペーサー又は結合手であり、R1及びR2は、同一又は互いに異なって、水素原子又は臭素原子である。好ましくは、R1及びR2は、いずれも水素原子であるか、又はいずれも臭素原子である。L及びZの詳細は、本実施形態の標識ポリペプチドに関し、式(I)について述べたことと同じである。R1及び/又はR2が臭素原子である場合、下記の式(VII)で表される構造を有する標識は、マレイミドの誘導体である3,4-ジブロモマレイミド基、又は3-ブロモマレイミド基を有する標識である。本明細書において、「マレイミド基」との用語は、3,4-ジブロモマレイミド基及び3-ブロモマレイミド基も包含する。
上記の式(VII)で表される構造を有する標識は、標識と、マレイミド基及び所定の反応基を有する二官能性リンカーとを結合することにより作製できる。そのような二官能性リンカー自体は公知であり、市販されている。所定の反応基は、標識が有する官能基に応じて適宜決定できる。例えば、標識がアミノ基を有する場合、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)エステル及びマレイミド基を有する二官能性リンカーを用いることができる。この場合、標識のアミノ基と、二官能性リンカーのNHSエステルとが反応して、当該リンカーが標識に結合して、式(VII)で表される構造を有する標識が得られる。あるいは、式(VII)で表される構造を有する標識は、市販の標識であってもよい。
マレイミド基として3,4-ジブロモマレイミド基を有する標識は、例えば、下記の反応スキームに従って作製できる(Morais M.ら, Bioconjugatin, Methods and Protocols (Methods Mol Biol, 2019, 2033 SpringerLink), Chapter 2, pp.15-24参照)。下記の反応スキームでは、マレイミド基を有する標識として、式(VIII)で表される構造を有する標識が得られる。下記の反応スキーム及び式(VIII)中、AcOHは酢酸を表し、DBM-C2-acidは中間体を表し、EEDQは、縮合剤の1-エトキシカルボニル-2-エトキシ-1,2-ジヒドロキノリンを表し、MeCNはアセトニトリルを表し、Zは標識である。
1つの3,4-ジブロモマレイミド基は、2つのチオール基のそれぞれと反応してチオエーテル結合を形成できる。よって、3,4-ジブロモマレイミド基を有する標識を用いることにより、例えば、1分子の標識に対して、2分子の修飾ポリペプチドを結合することができる。すなわち、3,4-ジブロモマレイミド基を介して修飾ポリペプチドが二量体化されて、二分子の標識ポリペプチドの複合体が得られる。例えば、二分子の修飾ポリペプチドと、1分子の式(VIII)で表される構造を有する標識とを結合した場合、下記の式(IX)で表される標識ポリペプチドの複合体が得られる。式(IX)において、(C)、X、Y、Z及びLの定義は、式(I)と同じである。
修飾ポリペプチドと、マレイミド基を有する標識との接触は、適切な水性媒体中で行うことが好ましい。例えば、修飾ポリペプチドの溶液と、マレイミド基を有する標識の溶液とを混合することにより、これらを接触することができる。水性媒体としては、緩衝液が好ましく、例えばトリエタノールアミン緩衝液、PBS、Tris-HCl、グッドバッファーなどが挙げられる。水性媒体のpHは、pH6.5以上7.5以下が好ましい。
上記の接触では、上記の混合により得られた修飾ポリペプチド及び標識を含む溶液を、チオール基とマレイミド基との反応が進行する条件下でインキュベーションすることが好ましい。そのような条件自体は公知である。例えば、温度は、5℃以上37℃以下、好ましくは20℃以上30℃以下である。インキュベーション時間は、温度に応じて適宜決定できるが、例えば2時間以上6時間以下である。10℃以下の低い温度で接触を行う場合は、時間を長くすること(例えば16時間以上)が好ましい。上記の接触により、修飾ポリペプチドのチオール基と、標識のマレイミド基とがチオエーテル結合を形成して、標識ポリペプチドが生成する。
そして、修飾ポリペプチドと標識との結合により生成した標識ポリペプチドを取得する。例えば、反応後の修飾ポリペプチド及び標識を含む溶液を、適切なカラムを用いたSECにより精製することにより、未反応成分を除去して、標識ポリペプチドを取得してもよい。未反応成分は、例えば、修飾ポリペプチドと結合しなかった標識、及び、標識と結合しなかった修飾ポリペプチドである。必要に応じて、取得した標識ポリペプチドを含む溶液を脱塩及び濃縮してもよい。
さらなる実施形態では、マレイミド基を有する標識に代えて、ハロアセチル基を有する標識を用いて、修飾ポリペプチドに標識を結合してもよい(Greg T. Hermanson, Bioconjugate Techniques Third Edition, Academic Press, Chapter 3 The reaction of Bioconjugation, pp.240-241, 2. Thiol reactions, 2.1 Haloacetyl and alkyl halide derivatives参照)。例えば、下記の反応スキームで表されるように、修飾ポリペプチドと、式(X)で表されるハロアセチル基を有する標識(式中、R3は、臭素原子又はヨウ素原子である)とを結合した場合、下記の式(XI)で表される標識ポリペプチドが得られる。下記の反応スキームにおいて、(C)、X、Y、Z及びLの定義は、式(I)と同じである。
本発明のさらなる実施形態は、標識ポリペプチド又は修飾ポリペプチドを含む試薬(以下、「本実施形態の試薬」ともいう)に関する。ポリペプチドが抗体である場合、標識ポリペプチドを含む本実施形態の試薬は、後述の本実施形態の測定方法に用いられる。修飾ポリペプチドを含む本実施形態の試薬は、マレイミド基を有する任意の標識と結合させて、標識ポリペプチドを得る反応に用いられる。標識ポリペプチド及び修飾ポリペプチドの詳細は、上述のとおりである。
本実施形態の試薬は、標識ポリペプチド又は修飾ポリペプチドを容器に収容して、ユーザーに提供されてもよい。本実施形態の試薬の一例を、図1Aに示す。図1Aを参照して、10は、容器に収容された本実施形態の試薬を示す。試薬中の標識ポリペプチド又は修飾ポリペプチドは、固体(例えば粉末、結晶、凍結乾燥品など)であってもよいし、液体(例えば溶液、懸濁液、乳濁液など)であってもよい。標識ポリペプチド又は修飾ポリペプチドを液体の形態で試薬に含む場合、溶媒としては、例えば上記の水性媒体が挙げられる。必要に応じて、水性媒体にカゼイン、BSAなどの安定化剤を添加してもよい。
本発明のさらなる実施形態は、標識ポリペプチド又は修飾ポリペプチドを含む試薬を備える試薬キット(以下、「本実施形態の試薬キット」ともいう)に関する。ポリペプチドが抗体である場合、標識ポリペプチドを含む試薬を備える本実施形態の試薬キットは、後述の本実施形態の測定方法に用いられる。修飾ポリペプチドを含む試薬を備える本実施形態の試薬は、マレイミド基を有する任意の標識と結合させて、標識ポリペプチドを得る反応に用いられる。標識ポリペプチド及び修飾ポリペプチドの詳細は、上述のとおりである。
本実施形態の試薬キットは、例えば、標識ポリペプチド又は修飾ポリペプチドを含む試薬を収容した容器を箱に梱包して、ユーザーに提供されてもよい。箱には、添付文書を同梱してもよい。添付文書には、試薬の組成、標識ポリペプチド又は修飾ポリペプチドの構造、試薬の使用方法、試薬の保管方法などが記載されてもよい。本実施形態の試薬キットの一例を、図1Bに示す。図1Bを参照して、11は、本実施形態の試薬キットを示し、12は、標識ポリペプチド又は修飾ポリペプチドを含む試薬を収容した容器を示し、13は、梱包箱を示し、14は、添付文書を示す。
本発明のさらなる実施形態は、本実施形態の標識ポリペプチドを用いる標的物質の測定方法(以下、「本実施形態の測定方法」とも呼ぶ)に関する。本実施形態の測定方法で用いられる標識ポリペプチドは、抗体と、上記の式(I)で表される側鎖を有するグルタミン残基を含むペプチドタグとの融合ポリペプチド(以下、「本実施形態の標識抗体」とも呼ぶ)である。本実施形態の標識抗体は、標識を有し、且つ標的物質と特異的に結合する抗体であり、本実施形態の測定方法において検出用抗体として用いられる。検出用抗体は、標的物質と結合して、標識を介して検出可能なシグナルを提供する抗体をいう。標識は、シグナル発生物質又は他の物質の反応を触媒して検出可能なシグナルを発生させる物質が好ましい。より好ましくは、標識は酵素、蛍光色素又は蛍光タンパク質である。本実施形態の標識ポリペプチドの詳細は上記のとおりである。
本実施形態の測定方法では、まず、標識抗体と標的物質との免疫複合体を形成する。標的物質は、標識抗体により認識される物質であってもよいし、そのような物質を含む有形成分であってもよい。標識抗体により認識される物質としては、例えばタンパク質、オリゴペプチド、核酸、脂質、糖鎖、ハプテンなどが挙げられる。標識抗体により認識される物質を含む有形成分としては、例えば細胞、細胞外小胞、微生物、ウイルス及びそれらのフラグメントなどが挙げられる。細胞外小胞としては、例えばエクソソーム、エクトソーム、マイクロベシクル、マイクロ粒子、アポトーシス小体などが挙げられる。微生物としては、細菌、真菌などが挙げられる。
免疫複合体は、標的物質を含み得る試料と、標識抗体とを混合することにより形成できる。試料の種類は特に限定されず、例えば、血液、血漿、血清、リンパ液、唾液などの生体試料、尿、糞便などの排泄物、河川水、海水、土壌などの環境試料などが挙げられる。免疫複合体の形成は、溶液中で行われることが好ましい。よって、標的物質を含み得る試料は、液状であることが好ましい。液状の試料は、溶液に限られず、懸濁液、ゾルなどを含む。試料が液状ではない場合、例えば、試料に適切な水性媒体を添加して液状にしてもよい。液状の試料に不溶性の夾雑物が含まれる場合、例えば遠心分離、ろ過などの公知の手段により、該試料から夾雑物を除去してもよい。必要に応じて、液状の試料を上記の水性媒体で希釈してもよい。標識抗体も、適切な水性媒体による液体の形態であることが好ましい。水性媒体については、上述のとおりである。
好ましくは、免疫複合体の形成は、標識抗体と標的物質との免疫複合体を固相上に形成する。例えば、標的物質を含み得る試料と、標識抗体とを混合して免疫複合体を形成した後、当該免疫複合体を含む溶液を、標識抗体又は標的物質を固定できる固相と接触させる。これにより、免疫複合体を固相上に形成できる。あるいは、標的物質をあらかじめ固相に固定しておき、当該固相と標識抗体とを接触することにより免疫複合体を固相上に形成してもよい。
混合における温度及びインキュベーション時間の条件は、抗原抗体反応に適した条件であれば特に限定されない。そのような条件自体は公知である。例えば、温度は、4℃以上40℃以下、好ましくは20℃以上37℃以下である。インキュベーション時間は、温度に応じて適宜決定できるが、例えば1分以上24時間以下である。10℃以下の低い温度で接触を行う場合は、時間を長くすること(例えば1時間以上)が好ましい。
本実施形態の測定方法では、標識抗体に加えて、標的物質と特異的に結合する捕捉用抗体を用いてもよい。捕捉用抗体は、自身が固相に固定されることにより標的物質を固相上に捕捉する抗体をいう。捕捉用抗体は、標識抗体とは、認識するエピトープが異なることが好ましい。標的物質が同じエピトープを複数有する場合は、捕捉用抗体及び標識抗体が認識するエピトープは同じであってもよい。捕捉用抗体をさらに用いる場合、標識抗体と標的物質と捕捉用抗体とのサンドイッチ免疫複合体が形成される。サンドイッチ免疫複合体とは、捕捉用抗体と標的物質と標識抗体とを含む複合体であって、捕捉用抗体と標識抗体とが標的物質上の互いに異なる部位に結合した状態にある複合体をいう。
サンドイッチ免疫複合体は、捕捉用抗体と、標的物質を含み得る試料と、標識抗体とを混合することにより形成できる。好ましい実施形態では、捕捉用抗体と標的物質と標識抗体とのサンドイッチ免疫複合体を固相上に形成する。例えば、標的物質を含み得る試料と捕捉用抗体と標識抗体とを混合してサンドイッチ免疫複合体を形成した後、当該免疫複合体を含む溶液を、捕捉用抗体を固定できる固相と接触させる。これにより、サンドイッチ免疫複合体を固相上に形成できる。あるいは、あらかじめ固相に固定された捕捉用抗体を用いてもよい。すなわち、固相に固定された捕捉用抗体と、標的物質を含み得る試料と、標識抗体とを混合することにより、サンドイッチ免疫複合体を固相上に形成できる。混合における温度及びインキュベーション時間の条件は、上記のとおりである。
固相は、標的物質又は捕捉用抗体を固定可能な不溶性担体であればよい。好ましくは、固相は、捕捉用抗体を固定可能な不溶性担体である。例えば、固相と捕捉用抗体とが直接又は間接的に結合することにより、捕捉用抗体を固相に固定化できる。固相と捕捉用抗体との直接結合としては、例えば、疎水性相互作用による固相表面への吸着又は共有結合が挙げられる。例えば、固相がELISA用マイクロプレートである場合、吸着により捕捉用抗体をプレートのウェル内に固定化できる。また、固相が表面に官能基を有する場合、官能基を利用した共有結合により、捕捉用抗体を固相表面に固定化できる。例えば、固相がカルボキシル基を有する粒子である場合、粒子表面のカルボキシル基を1-[3-(ジメチルアミノ)プロピル]-3-エチルカルボジイミド(WSC)で活性化し、次いでNHSと反応させてNHSエステルを形成する。そして、NHSエステルを有する粒子と捕捉用抗体とを接触させると、NHSエステルと捕捉用抗体のアミノ基とが反応して、捕捉用抗体が粒子表面に共有結合で固定化される。
固相と捕捉用抗体との間接結合としては、捕捉用抗体に特異的に結合する分子を介した結合が挙げられる。そのような分子を固相表面にあらかじめ固定化しておくことで、捕捉用抗体を固相に固定化できる。捕捉用抗体に特異的に結合する分子としては、例えばプロテインA、プロテインG、捕捉用抗体を特異的に認識する抗体(二次抗体)などが挙げられる。また、捕捉用抗体と固相との間を介在する物質の組み合わせを用いて、両者を結合することもできる。そのような物質の組み合わせとしては、ビオチン類とアビジン類、ハプテンと抗ハプテン抗体などの組み合わせが挙げられる。例えば、捕捉用抗体をあらかじめDNPで修飾している場合、抗DNP抗体が固定化された固相によって、捕捉用抗体を当該固相に固定化できる。
固相の素材は、有機高分子化合物、無機化合物、生体高分子などから選択できる。有機高分子化合物としては、ラテックス、ポリスチレン、ポリプロピレン、スチレン-メタクリル酸共重合体、スチレン-グリシジル(メタ)アクリレート共重合体、スチレン-スチレンスルホン酸塩共重合体、メタクリル酸重合体、アクリル酸重合体、アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体、塩化ビニル-アクリル酸エステル共重合体、ポリ酢酸ビニルアクリレートなどが挙げられる。無機化合物としては、磁性体(酸化鉄、酸化クロム、コバルト及びフェライトなど)、シリカ、アルミナ、ガラスなどが挙げられる。生体高分子としては、不溶性アガロース、不溶性デキストラン、ゼラチン、セルロースなどが挙げられる。これらのうちの2種以上を組み合わせて用いてもよい。
固相の形状は特に限定されず、例えば粒子、マイクロプレート、マイクロチューブ、試験管などが挙げられる。それらの中でも、粒子及びマイクロプレートが好ましく、磁性粒子が特に好ましい。固相の形状が粒子である場合、固相として、粒子の懸濁液を上記の免疫複合体の形成に用いることができる。固相の形状がマイクロプレートなどの容器である場合、固相としての容器内で上記の免疫複合体の形成を行うことができる。捕捉用抗体を固定可能な磁性粒子を用いる場合、本実施形態の測定方法は、HISCL(登録商標)シリーズ(シスメックス株式会社)などの市販の全自動免疫測定装置を用いて行われてもよい。
次いで、上記の免疫複合体に含まれる標識により生じるシグナルを検出する。当該標識は、標的物質に結合した標識抗体が有する標識である。したがって、免疫複合体中の標識により生じるシグナルは、標的物質の量を反映する。本明細書において「シグナルを検出する」とは、シグナルの有無を定性的に検出すること、シグナルの強度を定量すること、及び、シグナルの強度を半定量的に検出することを含む。「シグナルの強度を半定量的に検出する」とは、シグナル強度を「シグナル発生せず」、「弱」、「強」などのように複数の段階に検出することをいう。好ましくは、上記の免疫複合体に含まれる標識により生じるシグナルの強度を定量して、測定値を取得する。
シグナルの検出結果は、試料中の標的物質の測定結果として用いることができる。例えば、シグナルの強度を定量する場合は、シグナル強度の測定値自体又は該測定値から取得される値を、標的物質の測定値として用いることができる。シグナル強度の測定値から取得される値としては、例えば、該測定値からネガティブコントロールの測定値又はバックグラウンドの値を差し引いた値などが挙げられる。ネガティブコントロールは適宜選択してもよく、例えば、標的物質を含まない緩衝液などが挙げられる。
シグナル強度の測定値を検量線に当てはめて、試料中の標的物質の量又は濃度の値を決定してもよい。検量線は、複数のキャリブレータの測定値から作成できる。キャリブレータの測定値は、キャリブレータを、試料と同様に、本実施形態の測定方法により測定して得られる。検量線は、X軸にキャリブレータ中の標的物質の濃度をとり、Y軸に測定値(例えばシグナル強度)をとったXY平面に、複数のキャリブレータの測定値をプロットし、最小二乗法などの公知の方法により直線又は曲線を得ることで作成できる。キャリブレータは、例えば、標的物質を含まない緩衝液に、単離又は合成された標的物質を任意の濃度で添加することで調製できる。標的物質を含まないキャリブレータとして、標的物質を含まない緩衝液そのものを用いてもよい。
本実施形態の測定方法は、市販の全自動免疫測定装置により行ってもよい。全自動免疫測定装置とは、ユーザーが試料をセットして測定開始の指示を入力すると、測定試料の調製及びその免疫測定を自動的に行って、標的物質の測定結果を出力する装置である。そのような全自動免疫測定装置としては、例えばHISCL(登録商標)-5000やHISCL-2000iなどのHISCLシリーズ(シスメックス株式会社)が挙げられる。HISCLシリーズの装置は、固相として磁性粒子を用いるサンドイッチELISA法により測定を行う。
本実施形態においては、免疫複合体の形成とシグナルの検出との間に、未反応の遊離成分を除去するB/F(Bound/Free)分離を行ってもよい。未反応の遊離成分とは、免疫複合体を構成しない成分をいう。例えば、標的物質と結合しなかった余剰の捕捉用抗体及び本実施形態の標識抗体などが挙げられる。B/F分離の手段は特に限定されないが、固相が粒子であれば、遠心分離により、免疫複合体を捕捉した固相だけを回収することによりB/F分離ができる。固相がマイクロプレートやマイクロチューブなどの容器であれば、未反応の遊離成分を含む液を除去することによりB/F分離ができる。また、固相が磁性粒子の場合は、磁石で磁性粒子を磁気的に拘束した状態でノズルによって未反応の遊離成分を含む液を吸引除去することによりB/F分離ができ、自動化の観点で好ましい。未反応の遊離成分を除去した後、免疫複合体を捕捉した固相をPBSなどの適切な水性媒体で洗浄してもよい。
標識抗体が有する標識が蛍光色素又は蛍光タンパク質であるとき、本実施形態の測定方法はフローサイトメータにより行われてもよい。本明細書において「フローサイトメータ」は、イメージングフローサイトメータ(IFC)を包含する。IFCとは、CCDカメラなどの撮像部を備えたフローサイトメータである。撮像部のないフローサイトメータは、フローセル内を流れる液中の個々の有形成分に光を照射し、各有形成分から発せられる散乱光及び/又は蛍光を光学シグナルとして検出する装置である。有形成分が細胞である場合、個々の細胞の大きさ、細胞表面の分子又は細胞内分子の量の分布などを測定できる。IFCは、
フローセル内を流れる液中の個々の有形成分の画像を取得可能な装置である。IFCは、例えば、数秒から数分の短時間に、数千個から数百万個の有形成分のそれぞれから蛍光シグナル、散乱光シグナル、蛍光画像及び明視野画像(透過光画像ともいう)を取得し、定量測定できる。また、画像処理により、個々の有形成分の情報を抽出できる。
フローサイトメータにより本実施形態の測定方法を行う場合、測定の対象は、標識抗体により認識される物質を含む有形成分であり得る。フローサイトメータにより測定する場合においても、免疫複合体は、標的物質を含み得る試料と、標識抗体とを混合することにより形成できる。これにより、有形成分上に存在する標的物質に標識抗体が結合して、有形成分上に免疫複合体が形成される。混合における温度及びインキュベーション時間の条件は、上記のとおりである。
免疫複合体に含まれる標識により生じるシグナルの検出は、フローサイトメータにより行われる。すなわち、免疫複合体をフローサイトメータのフローセルに導入し、当該フローサイトメータによりシグナルが検出される。フローサイトメータにおいては、免疫複合体が形成された有形成分の一つ一つがフローセルを通過するときに、当該有形成分に光を照射する。そして、当該有形成分から発せられる蛍光シグナルを検出する。フローサイトメータによる本実施形態の測定方法では、標識として蛍光色素又は蛍光タンパク質を有する標識抗体を用いているので、蛍光色素又は蛍光タンパク質から放出される蛍光シグナルが検出される。そして、検出した蛍光シグナルに基づいて、蛍光情報が取得される。必要に応じて、有形成分からの散乱光シグナルを検出し、当該散乱光シグナルに基づいて散乱光情報を取得してもよい。散乱光としては、前方散乱光(例えば、受光角度が0度から約20度の散乱光)及び側方散乱光(例えば、受光角度が約20度から約90度の散乱光)が挙げられる。
フローサイトメータの光源は特に限定されず、例えば蛍光色素又は蛍光タンパク質の励起に好適な波長の光源を適宜選択できる。光源としては、例えば半導体レーザー光源、アルゴンレーザー光源、He-Neレーザー光源、水銀ランプなどが用いられる。
蛍光情報としては、例えば、蛍光のパルスピーク、パルス幅、パルス面積、透過率、ストークスシフト、比率、経時変化及びそれらに相関する値などが挙げられる。散乱光情報としては、例えば、散乱光のパルスピーク、パルス幅、パルス面積、透過率、ストークスシフト、比率、経時変化及びそれらに相関する値などが挙げられる。
フローサイトメータがIFCである場合、蛍光情報は、例えば、IFCにより撮像された画像から取得される、蛍光シグナルに基づく値であってもよい。IFCで撮像された粒子の蛍光画像において、蛍光シグナルを示すエリアを構成する各ピクセルは、蛍光シグナル強度に応じた画素値を有する。よって、画像から取得される、光学シグナルに基づく値は、例えば、蛍光シグナルを示すエリアを構成するピクセルに基づく値であってもよい。そのような値としては、例えば蛍光強度、最大蛍光強度、総蛍光シグナル強度、蛍光シグナル面積値などが挙げられる。「蛍光強度」は、免疫複合体を含む有形成分の蛍光画像において、蛍光シグナルを示すエリアを構成するピクセルの画素値の平均値である。「最大蛍光強度」は、免疫複合体を含む有形成分の蛍光画像において、蛍光シグナルを示すエリアを構成するピクセルの画素値のうちの最大値である。「総蛍光シグナル強度」は、免疫複合体を含む有形成分の蛍光画像において、蛍光シグナルを示すエリアを構成するピクセルの画素値の合計値である。「蛍光シグナル面積値」は、免疫複合体を含む有形成分の蛍光画像において、蛍光シグナルを示すエリアを構成するピクセルの数である。
取得した蛍光情報に基づいて、免疫複合体を含む有形成分を検出してもよい。蛍光情報が蛍光のパルスピーク、蛍光画像から取得される蛍光強度などの数値で示される情報であるとき、免疫複合体を含む有形成分の蛍光情報の値は、免疫複合体が形成しなかった有形成分の蛍光情報の値よりも大きくなる。よって、取得した蛍光情報の値を所定の閾値と比較し、その比較結果に基づいて、免疫複合体を含む有形成分の測定データを抽出することができる。例えば、取得した蛍光情報の値が、所定の閾値以上である有形成分を、免疫複合体を含む有形成分として検出できる。所定の閾値は特に限定されず、適宜決定できる。例えば、標的物質を含まない緩衝液、又は、標的物質が存在しないことが既知の有形成分を含む試料を、フローサイトメータを用いる本実施形態の測定方法により測定し、蛍光情報の値を取得する。この得られた値を、所定の閾値としてもよい。
以下に、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[材料及び方法]
後述の実験例に用いた材料及び方法について、以下に説明する。方法の詳細については、個別の実験例においても説明する。
1.抗体
(1.1) Qタグを付加した抗p24 Fab抗体の調製
(1.1.1) 抗p24抗体(sF001-5、sF028-22及びsF001-25)産生ハイブリドーマの樹立
マウス(ddY ; 5週齢、メス)を宿主とし、組換え型HIV p24タンパクを抗原とすることで、抗p24抗体(sF001-5、sF028-22、sF001-25)産生ハイブリドーマを樹立した。すなわち、FCA(フロイント完全アジュバンド)及びFIA(不完全フロイントアジュバンド)をアジュバンドとして、組換え型HIV p24タンパクをマウス(ddY ; 5週齢、メス)に免疫した。血中における抗体価の上昇が確認されたマウスを安楽殺した後、剖検にて脾臓を摘出した。摘出した脾臓細胞はPEG法にてマウスミエローマ細胞と細胞融合し、HAT含有培地にてハイブリドーマを選定した。さらに、各ハイブリドーマの培養上清中に分泌された抗体をELISA法にて評価することで、抗p24抗体としてsF001-5、sF028-22、及びsF001-25のそれぞれを産生するハイブリドーマを樹立した。
(1.1.2) sF001-5、sF028-22、及びsF001-25の調製
マウスハイブリドーマ由来sF001-5、sF028-22、及びsF001-25を調製した。すなわち、上記で樹立したsF001-5、sF028-22、及びsF001-25産生ハイブリドーマ細胞をSFM培地にて培養することで、培地中にsF001-5、sF028-22、及びsF001-25をそれぞれ分泌させた。濾過フィルターにて細胞を除去した培養上清をProtein G担体を用いたカラムクロマトグラフィーに供することで、sF001-5、sF028-22、及びsF001-25を精製して各抗体を得た。
(1.1.3) Qタグを付加した抗p24 Fab抗体の調製
キメラsF001-5(以下、「csF001-5」と略記)、キメラsF028-22(以下、「csF028-22」と略記)、及びキメラsF001-25(以下、「csF001-25」と略記)のFab抗体は、マウスハイブリドーマ由来のsF001-5、sF028-22及びsF001-25の超可変部位と、ヒトIgG1、κアイソタイプのFabの定常領域とを連結させたものであった。これらのキメラFab抗体の重鎖C末にQタグ配列を挿入して、Qタグを付加した抗p24 Fab抗体を得た(以下、「csF001-5Fab-Qtag」、「csF028-22Fab-Qtag」及び「csF001-25Fab-Qtag」とも呼ぶ)。挿入されたQタグ配列を含む定常部位のアミノ酸配列及びそれをコードする塩基配列を以下に示した(下線部はQタグ配列)。
軽鎖のアミノ酸配列
TVAAPSVFIFPPSDEQLKSGTASVVCLLNNFYPREAKVQWKVDNALQSGNSQESVTEQDSKDSTYSLSSTLTLSKADYEKHKVYACEVTHQGLSSPVTKSFNRGEC (配列番号4)
軽鎖の塩基配列
ACCGTCGCGGCGCCGTCGGTCTTTATCTTCCCGCCGAGCGATGAACAACTGAAATCTGGTACCGCGAGTGTGGTTTGTCTGCTGAACAATTTTTATCCGCGTGAAGCGAAAGTCCAGTGGAAGGTGGACAACGCCCTGCAGTCTGGCAATAGTCAAGAATCCGTGACCGAACAAGATTCAAAAGACTCGACGTACAGCCTGAGTTCCACCCTGACGCTGAGCAAGGCAGATTATGAAAAACATAAGGTGTACGCTTGCGAAGTTACCCACCAGGGTCTGTCCAGTCCGGTTACGAAATCATTCAACCGCGGCGAATGT (配列番号5)
重鎖のアミノ酸配列
ASTKGPSVFPLAPSSKSTSGGTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTQTYICNVNHKPSNTKVDKKVEPKSCGVLNLAQSP(配列番号6)
重鎖の塩基配列
GCTAGCACAAAAGGGCCCAGCGTGTTTCCACTGGCTCCAAGCTCCAAATCTACTTCTGGGGGCACCGCCGCACTGGGCTGTCTGGTCAAGGACTACTTCCCAGAGCCCGTCACCGTGTCATGGAACTCCGGCGCACTGACTTCCGGAGTCCACACCTTTCCAGCCGTGCTGCAGTCCAGCGGACTGTACAGCCTGTCTAGTGTGGTCACAGTGCCTTCATCCAGCCTGGGAACTCAGACCTATATCTGCAACGTGAATCACAAGCCATCAAATACTAAAGTCGACAAGAAAGTGGAACCCAAGAGCTGTGGCGTCCTTAACCTCGCACAAAGTCCA (配列番号7)
csF001-5Fab-Qtag、csF028-22Fab-Qtag及びcsF001-25Fab-Qtagの軽鎖をコードするポリヌクレオチドについては、sF001-5、sF028-22及びsF001-25の軽鎖の可変領域と、human IgGの軽鎖κの定常領域のそれぞれをPCR法により増幅した後、各断片をOverlap PCR法にて連結させて得た。重鎖をコードするポリヌクレオチドについては、human IgG1のCH1領域を鋳型として、プライマーにてC末端にQタグ配列を付加した断片と、PCR法にて増幅させたsF001-5、sF028-22及びsF001-25の重鎖の可変領域の断片をOverlap PCR法にて連結させて得た。調製したPCR産物をそれぞれpcDNA3.4(Thermo Fisher Scientific社)にTAクローニング法にて導入し、csF001-5_LC(キメラ化したsF001-5における軽鎖)、csF028-22_LC、及びcsF001-25_LCをコードするプラスミドを構築した。さらに、csF001-5_HC_Fab-Qtag(キメラ化したsF001-5における重鎖のFabのC末端にQtagを付加)、csF028-22_HC_Fab-Qtag、及びcsF001-25_HC_Fab-Qtagをコードするプラスミドを構築した。次に、重鎖及び軽鎖のそれぞれをコードするプラスミドをExpi-293cell(Thermo Fisher Scientific社)にコトランスフェクションすることで、培養上清中に組換え型タンパクとしてcsF001-5Fab-Qtag、csF028-22Fab-Qtag及びcsF001-25Fab-Qtagを発現させた。上清中に発現したcsF001-5Fab-Qtag、csF028-22 Fab-Qtag及びcsF001-25Fab-QtagをそれぞれProtein Gカラムを用いて精製した。
(1.2) Qタグを付加した抗HBs628Fab抗体の調製
(1.2.1) 抗HBs628抗体産生ハイブリドーマの樹立
KOHLER及びMilsteinの方法(KOHLER G.及びMilstein C., Nature, 256, 495-497 (1975)参照)により、HBs628抗原を用いて、マウス抗HBs628抗体を産生するハイブリドーマを作製した。
(1.2.2) Qタグを付加したHBs628Fab抗体
Qタグを付加したHBs628Fab抗体(以下、「HBs628Fab-Qtag」とも呼ぶ)は、マウスハイブリドーマ由来のHBs628のFab部分のうち、その重鎖C末にQタグ配列を挿入したものであった。挿入されたQタグ配列を含む定常部位のアミノ酸配列及びそれをコードする塩基配列を以下に示した(下線部はQタグ配列)。
軽鎖のアミノ酸配列
QPKSSPSVTLFPPSSEELETNKATLVCTITDFYPGVVTVDWKVDGTPVTQGMETTQPSKQSNNKYMASSYLTLTARAWERHSSYSCQVTHEGHTVEKSLSRADCS (配列番号8)
軽鎖の塩基配列
CAGCCCAAGTCTTCGCCATCAGTCACCCTGTTTCCACCTTCCTCTGAAGAGCTCGAGACTAACAAGGCCACACTGGTGTGTACGATCACTGATTTCTACCCAGGTGTGGTGACAGTGGACTGGAAGGTAGATGGTACCCCTGTCACTCAGGGTATGGAGACAACCCAGCCTTCCAAACAGAGCAACAACAAGTACATGGCTAGCAGCTACCTGACCCTGACAGCAAGAGCATGGGAAAGGCATAGCAGTTACAGCTGCCAGGTCACTCATGAAGGTCACACTGTGGAGAAGAGTTTGTCCCGTGCTGACTGTTCC (配列番号9)
重鎖のアミノ酸配列
AKTTPPSVYPLAPGSAAQTNSMVTLGCLVKGYFPEPVTVTWNSGSLSSGVHTFPAVLQSDLYTLSSSVTVPSSTWPSETVTCNVAHPASSTKVDKKIVPRDCGLLQGP(配列番号10)
重鎖の塩基配列
GCCAAAACGACACCCCCATCTGTCTATCCACTGGCCCCTGGATCTGCTGCCCAAACTAACTCCATGGTGACCCTGGGATGCCTGGTCAAGGGCTATTTCCCTGAGCCAGTGACAGTGACCTGGAACTCTGGATCCCTGTCCAGCGGTGTGCACACCTTCCCAGCTGTCCTGCAGTCTGACCTCTACACTCTGAGCAGCTCAGTGACTGTCCCCTCCAGCACCTGGCCCAGCGAGACCGTCACCTGCAACGTTGCCCACCCGGCCAGCAGCACCAAGGTGGACAAGAAAATTGTGCCCAGGGATTGTGGCCTGCTCCAGGGCCCCTGATAA (配列番号11)
HBs628Fab-Qtagの軽鎖をコードするポリヌクレオチドは、ハイブリドーマのRNAから5’-RACE法でクローニングし、PCR法で増幅させて得た。HBs628Fab-Qtagの重鎖をコードするポリヌクレオチドは、ハイブリドーマのRNAから5’-RACE法でクローニングし、プライマーにてC末端にQタグ配列を付加した断片をPCR法で増幅させて得た。調製したPCR産物をpcDNA3.4(Thermo Fisher Scientific社)にTAクローニング法にて導入し、HBs628Fab-Qtagをコードするプラスミドを構築した。次に、当該プラスミドをExpi-293cell(Thermo Fisher Scientific社)にトランスフェクションすることで、培養上清中に組換え型タンパクとしてHBs628Fab-Qtagを発現させた。上清中に発現したHBs628Fab-QtagをCapture Select LC-Lambda(mur) affinityカラム(Thermo Fisher Scientific社)を用いて精製した。
(1.3) Qタグを付加した抗CD20 Fab抗体の調製
Qタグを付加した抗CD20 Fab抗体(以下、「抗CD20Fab-Qtag」とも呼ぶ)は、ヒト由来の抗CD20 Fab部分のうち、その重鎖C末にQタグ配列を挿入したものであった。超可変部位と、挿入されたQタグ配列を含む定常部位のアミノ酸配列及びそれをコードする塩基配列を以下に示した(下線部はQタグ配列)。
軽鎖のアミノ酸配列
QIVLSQSPAILSASPGEKVTMTCRASSSVSYIHWFQQKPGSSPKPWIYATSNLASGVPVRFSGSGSGTSYSLTISRVEAEDAATYYCQQWTSNPPTFGGGTKLEIKRTVAAPSVFIFPPSDEQLKSGTASVVCLLNNFYPREAKVQWKVDNALQSGNSQESVTEQDSKDSTYSLSSTLTLSKADYEKHKVYACEVTHQGLSSPVTKSFNRGEC (配列番号12)
軽鎖の塩基配列
CAAATCGTGCTTAGCCAGTCACCAGCGATATTGTCCGCTAGTCCTGGAGAGAAGGTGACCATGACCTGTAGGGCATCTTCCAGCGTTTCCTACATTCACTGGTTTCAGCAGAAGCCAGGGTCCAGCCCTAAACCCTGGATCTATGCCACCAGTAACCTTGCCTCAGGGGTACCTGTGCGATTCAGCGGAAGCGGTAGTGGCACCTCATACTCCCTGACCATTAGCCGCGTTGAAGCTGAAGATGCGGCTACCTACTACTGCCAACAGTGGACGTCTAACCCACCCACATTTGGTGGCGGCACTAAACTGGAGATCAAGCGGACTGTGGCTGCACCATCCGTATTCATCTTTCCGCCCTCTGATGAGCAGCTGAAATCTGGCACAGCTAGCGTCGTGTGCCTGCTGAACAACTTCTACCCTAGAGAGGCAAAAGTGCAGTGGAAGGTCGACAATGCCCTGCAGTCTGGCAATTCACAGGAATCAGTCACCGAACAGGACTCTAAGGATAGCACGTACTCCTTGAGCAGCACACTCACTCTCTCTAAAGCCGACTATGAGAAGCACAAGGTCTATGCCTGTGAGGTGACTCATCAAGGGCTGAGTAGTCCCGTCACAAAGTCCTTCAATCGTGGAGAA (配列番号13)
重鎖のアミノ酸配列
QVQLQQPGAELVKPGASVKMSCKASGYTFTSYNMHWVKQTPGRGLEWIGAIYPGNGDTSYNQKFKGKATLTADKSSSTAYMQLSSLTSEDSAVYYCARSTYYGGDWYFNVWGAGTTVTVSAASTKGPSVFPLAPSSKSTSGGTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTQTYICNVNHKPSNTKVDKKAEPKSCDKTHTGLLQG(配列番号14)
重鎖の塩基配列
CAGGTGCAGTTGCAGCAACCTGGGGCAGAACTCGTGAAGCCTGGGGCATCCGTTAAGATGTCCTGTAAAGCAAGCGGCTATACTTTCACTTCCTACAACATGCATTGGGTGAAACAGACTCCTGGCAGAGGCTTGGAGTGGATAGGAGCCATCTACCCAGGGAATGGTGACACATCTTACAACCAGAAGTTCAAGGGCAAAGCCACCCTCACTGCCGACAAAAGTAGCTCTACAGCCTATATGCAGCTGTCATCCCTGACGAGCGAGGATTCAGCCGTGTATTATTGCGCTAGGTCTACCTACTATGGAGGCGATTGGTACTTCAATGTGTGGGGTGCCGGAACTACCGTGACTGTGTCTGCTGCGAGCACCAAGGGTCCAAGTGTCTTTCCCCTTGCACCGTCCAGCAAATCCACAAGCGGAGGTACTGCTGCTCTTGGCTGTCTGGTGAAGGACTATTTTCCAGAGCCAGTGACGGTTAGCTGGAATTCAGGCGCCCTTACATCTGGGGTACACACGTTTCCTGCCGTTCTGCAAAGCTCAGGACTGTACAGCCTGTCTAGTGTGGTCACAGTCCCCTCAAGCAGTCTCGGCACCCAGACATACATCTGCAATGTCAACCACAAACCCTCCAACACCAAGGTCGACAAGAAGGCAGAACCCAAAAGTTGCGATAAGACCCATACAGGGCTGCTCCAA (配列番号15)
軽鎖Fabをコードするポリヌクレオチドと、重鎖FabのC末端にQタグ配列を挿入した配列のポリヌクレオチドとを、各々pcDNA3.4(Thermo Fisher Scientific社)に挿入した抗CD20Fab-LC、抗CD20 Fab-HC-Qtagをコードする発現プラスミドを全合成にて構築した。次に本プラスミドをExpi-293cell(Thermo Fisher Scientific社)にトランスフェクションすることで、培養上清中に組換え型タンパクとして抗CD20Fab-Qtagを発現させた。上清中に発現した抗CD20Fab-QtagをCaptureSelect(商標) Kappa XL Pre-packed Column(Thermo Fisher Scientific社)を用いて精製した。
2.アミノ基及びチオール基を有するPEGリンカー(SH-PEG-NH2リンカー)
SH-PEG-NH2リンカーとして、(a) HS-PEG2K-NH2, HCl Salt, average Mn 2000(Sigma-Aldrich社)、(b) SH-PEG-NH2, MW 2K(Biopharma PEG Scientific Inc社)、(c) HS-PEG-NH2, MW2K(Creative PEGWorks社)、(d) HS-PEG-NH2, HCl Salt, average Mn 3500(Sigma-Aldrich社)、(e) HS-PEG-NH2, HCl Salt, average Mn 5000(Sigma-Aldrich社)、(f) Thiol PEG-NH2, average Mn 400Da(Nanocs Inc.社)及び(g) HS-PEG-NH2, MW 1kDa(Creative PEGWorks社)を購入した。また、上記(a)のリンカーとは別ロットのHS-PEG2K-NH2, HCl Salt, average Mn 2000(Sigma-Aldrich社)(以下、(a')のリンカーとも呼ぶ)を購入した。(a)、(a')、(b)及び(c)のリンカーは、平均分子量2000の製品として販売されていた。以下、(a)、(a')、(b)及び(c)の各リンカーを「SH-PEG-NH2リンカー(2K)」とも呼ぶ。(d)のリンカーは、平均分子量3500の製品として販売されていた。以下、(d)のリンカーを「SH-PEG-NH2リンカー(3.5K)」とも呼ぶ。(e)のリンカーは、平均分子量5000の製品として販売されていた。以下、(e)のリンカーを「SH-PEG-NH2リンカー(5K)」とも呼ぶ。(f)のリンカーは、平均分子量400の製品として販売されていた。以下、(f)のリンカーを「SH-PEG-NH2リンカー(400Da)」とも呼ぶ。(g)のリンカーは、平均分子量1000の製品として販売されていた。以下、(g)のリンカーを「SH-PEG-NH2リンカー(1K)」とも呼ぶ。(a)、(a')、(b)、(d)、及び(e)のリンカーは塩酸塩であり、(c)、(f)及び(g)のリンカーはフリー体であった。各リンカーの構造は下記のとおりであった。
以下、SH-PEG-NH2リンカーが結合したFab抗体を、以下「SH-PEG-Fab」とも呼ぶ。特に、上記(a)、(a')、(b)及び(c)のいずれかのSH-PEG-NH2リンカーが結合した各Fab抗体を、以下「SH-PEG(2K)-Fab」とも呼ぶ。また、上記(d)、(e)、(f)及び(g)のSH-PEG-NH2リンカーが結合したFab抗体をそれぞれ、以下「SH-PEG(3.5K)-Fab」、「SH-PEG(5K)-Fab」、「SH-PEG(400Da)-Fab」及び「SH-PEG(1K)-Fab」とも呼ぶ。
3.マレイミド基及びNHSエステルを有する架橋剤(EMCS試薬)
EMCS試薬(製品名:EMCS、CAS番号:55750-62-5)を株式会社同仁化学研究所から購入した。分子式及び分子量は、C14H16N2O6 = 308.29であり、構造は下記のとおりであった。
4.標識
(4.1) マレイミド基を有するビオチン
ビオチン-PEAC5-マレイミド(製品名:Biotin-PEAC5-maleimide、CAS番号:374592-98-0)を株式会社同仁化学研究所から購入した。分子式及び分子量は、C26H41ClN6O5S = 585.16であり、構造は下記のとおりであった。
(4.2) マレイミド基を有する蛍光色素
Alexa488-マレイミド(製品名:Alexa Fluor(商標)488 C5 Maleimide、CAS番号:500004-82-0)をThermo Fisher Scientific社から購入した。分子式及び分子量は、C30H25N4NaO12S2= 720.66であり、構造は下記のとおりであった。
(4.3) R-フィコエリスリン(R-PE)
R-PE(製品名:OB1)をOne Biotech社から購入した。
(4.4) アルカリホスファターゼ(ALP)
ウシ小腸由来ALP(製品名:ALP-55)をオリエンタル酵母株式会社から購入した。
5.トランスグルタミナーゼ(TG)
TGとして、微生物由来トランスグルタミナーゼであるACTIVA(登録商標) KS-CT(味の素株式会社)を精製して用いた。以下、精製した酵素を「BTGase」とも呼ぶ。
6.インフュージョン法による質量分析(Infusion MS)
上記(a)、(a')、(b)、(c)、(d)及び(e)の各SH-PEG-NH2リンカーの分子量分布と会合の有無を確認するため、これらのリンカーについてInfusion MSによる分析を行った。MS装置として、Q Exactive(Thermo Fisher Scientific社)を用いた。イオン化モードはpositiveであった。測定サンプルは、上記の各SH-PEG-NH2リンカーをBTGase反応液(50 mM Tris, 2 mM EDTA, pH8.2、又は20 mM Tris, 2 mM EDTA, 150 mM NaCl, pH8.2)に溶解した後、0.1%ギ酸含有30%アセトニトリル溶液で100倍希釈して調製した。繰り返し構造をもつ各SH-PEG-NH2リンカーの質量分析の結果から、S/Nが5以上のピークについて、最も強度の高い各同位体ピークの分子量及び強度から重量平均分子量を算出した。また、MSピークからその分子量幅を確認した。
7.対象タンパク質の定量法
各種のFab抗体及びそれらの誘導体の定量は、SEC分析のAbs280ピーク面積値から算出することにより行った。リファレンスとして、組換え型ヒトインターロイキン6(rhIL-6)(吸光係数0.43)を用いた。
8.非還元SDS-PAGE分析
各種のFab抗体及びそれらの誘導体を、下記の条件の非還元SDS-PAGEにより分析した。
10~20%ポリアクリルアミドゲル:e-PAGEL(アトー株式会社)
電気泳動装置:PAGERUN(アトー株式会社)
電気泳動条件:20 mA、80分
サンプルバッファー:NuPAGE LDS Sample Buffer(Invitrogen)
実験例1:BTGaseを用いたSH-PEG-NH2リンカー(2K)によるFab抗体の修飾
(1) SH-PEG-NH2リンカー(2K)とFab抗体との結合
BTGaseを用いて、csF001-5Fab-Qtag、csF028-22Fab-Qtag、csF001-25Fab-Qtag及びHBs628Fab-Qtagのそれぞれに上記(a)のSH-PEG-NH2リンカー(2K)(Sigma-Aldrich社)を結合させた。また、抗CD20Fab-Qtagに上記(a')のSH-PEG-NH2リンカー(2K)(Sigma-Aldrich社)を結合させた。具体的には、次のとおりであった。MES緩衝液(50mM MES, 2 mM EDTA, pH7.0)に10μMとなるようcsF001-5Fab-Qtag又はHBs628Fab-Qtagを溶解させ、50当量のSH-PEG-NH2リンカー(2K)及び0.1 U/mLのBTGaseと共に25℃で3時間インキュベートした。なお、BTGaseの活性はヒドロキサム法(Folk J.E.及びCole P.W., J.Biol.Chem. 241, 5518-5525 (1966)参照)により行った。SECにより反応の進行を分析した。
SH-PEG-NH2リンカー(2K)の導入効率を高めるための検討として、Tris緩衝液(20 mM Tris、2 mM EDTA、150 mM NaCl、pH8.2又はpH8.5)において、10μMのcsF001-5Fab-Qtag、csF028-22Fab-Qtag及びcsF001-25Fab-Qtagに対し、それぞれ50当量のリンカーを添加して、室温にて5時間反応させた。そして、pH8.2及びpH8.5での反応生成物と、pH7.0での反応生成物とのSEC分析の結果を比較した。
導入効率を高めた上記の反応条件(pH8.2又は8.5)を、以下、全てのFab-QtagとSH-PEG-NH2リンカーとの反応に適応した。反応液のうち、csF001-5Fab-Qtagの反応液については、アミコン10K(Merch社)により脱塩及び濃縮し、SH-PEG-NH2リンカーを除去した。csF028-22Fab-Qtagの反応液については、Superdex 200 Increase 10/300で分取し、アミコン10K(Merch社)で濃縮した。HBs628Fab-Qtagの反応液については、Superdex 75 Increase 10×300 mmで分取し、アミコン10K(Merch社)で濃縮した。csF001-25Fab-Qtag及び抗CD20 Fab-Qtagの反応液について、Protein Gカラムにより脱塩及び精製した後、アミコン10K(Merch社)で濃縮した。
(2) SEC分析
CSF001-5Fab-Qtag、csF028-22Fab-Qtag、csF001-25Fab-Qatg及びそのSH-PEG-NH2リンカー(2K)(Sigma-Aldrich社)との反応液をSEC分析した。csF028-22Fab-Qtag及びSH-PEG-NH2リンカー(2K)については分取も行った。条件は下記のとおりであった。
カラム:Superdex 200 Increase 10×300 mm (Cytiva社)
HPLC装置:Chromaster(登録商標) (株式会社日立ハイテクサイエンス)
分析温度:室温
溶媒:Arg-SEC Mobile Phase (Standard, ナカライテスク株式会社)
流速:0.8 ml/min
検出:UV 280nm, FL (Ex:295nm/Em:335nm)
(3) SEC分析及び分取
HBs628Fab-Qtag及びSH-PEG-NH2リンカー(2K)(Sigma-Aldrich社)との反応液について、下記の条件で分析及び分取をした。
カラム:Superdex 75 Increase 10×300 mm (Cytiva社)
HPLC装置:Chromaster(登録商標) (株式会社日立ハイテクサイエンス)
分析温度:室温
溶媒:Arg-SEC Mobile Phase (Strong, ナカライテスク株式会社)
流速:0.8 ml/min
検出:UV 280nm, FL (Ex:295nm/Em:335nm)
(4) Protein GによるSH-PEG-Fabの分取
csF001-25Fab-Qtag及び抗CD20 Fab-QtagからのSH-PEG(2K)-Fabを下記の条件で分取した。
カラム:HiTrap(商標) Protein G HP Column(1mL、Cytiva社)
溶媒A:20 mMリン酸緩衝液、150 mM NaCl、pH7.0
溶媒B:0.1Mグリシン、pH2.7
流速:0.8 ml/min
検出:UV 280nm, FL (Ex:295nm/Em:335nm)
実験例2:HBs628Fab-QtagからのSH-PEG-Fabのビオチン標識
(1) SH-PEG-Fabのビオチン標識
HBs628Fab-QtagからのSH-PEG(2K)-Fabを、次のようにしてビオチン標識した。BTGaseを用いたHBs628Fab-Qtagと上記(a)のSH-PEG-NH2リンカー(2K)(Sigma-Aldrich社)との反応液をアミコン10K(Merch社)により脱塩及び濃縮して、SH-PEG-Fabを含む濃縮液を得た。50 mM MES、2 mM EDTA緩衝液(pH7.0)中、SH-PEG-Fab 10μMに対し、100当量になるようBiotin-PEAC5-maleimideを添加し、5℃で一晩反応させた。反応液をSECにて精製した。SH-PEG-Fabとマレイミド標識ビオチンとの反応生成物を、以下、「ビオチン-PEG-Fab」とも呼ぶ。ビオチン-PEG-Fabは、式(I)の構造(式中、Xがエチレン、YがPEG鎖、Zがビオチン、Lがスペーサー)であった。
(2) ビオチン-PEG-FabのSEC分析及び分取
HBs628Fab-Qtagからのビオチン-PEG-Fabを下記の条件で分析及び分取した。
カラム:Superdex 75 Increase 10×300 mm
HPLC装置:Chromaster(登録商標) (株式会社日立ハイテクサイエンス)
分析温度:室温
溶媒:Arg-SEC Mobile Phase (Strong, ナカライテスク株式会社)
流速:0.8 ml/min
検出:UV 280nm, FL (Ex:295nm/Em:335nm)
(3) ウェスタンブロット(WB)法による分析
HBs628Fab-QtagとそのSH-PEG(2K)-Fab及びビオチン-PEG-Fabを、上記の非還元SDS-PAGEにより分離後、次のようにしてWB法で分析した。Fab(5~10 ng相当)をSDS-PAGE(10~20% ポリアクリルアミドゲル)で分離した後、iBlot 2ドライブロッティング装置(Thermo Fisher Scientific社)でPVDF膜(Invitrogen社)に転写した。転写後のPVDF膜を、1%スキムミルク含有TBST(10 mM Tris, 150 mM NaCl, 0.05% Tween20, pH 7.4)で、室温で1時間ブロッキングした。ブロッキングしたPVDF膜をTBSTで洗浄した(10分×3回)。1%スキムミルク含有TBSTで1:20,000に希釈したHRP-Conjugated Streptavidin(Thermo Fisher Scientific社)をPVDF膜に添加し、室温で1時間反応した。PVDF膜をTBSTで洗浄した(10分×3回)。ECL Prime Western Blotting Detection Reagent(Cytiva社)をPVDF膜に添加し、Amersham Imager 680(Cytiva社)でビオチン標識の有無を検出した。
(4) LC-MS分析
HBs628Fab-QtagからのSH-PEG-FabのMS分析は2種類の方法で行った。すなわち、非還元及び還元後のサンプルについて分析した。還元条件は、Fab 10μgに対し85 mM TCEP(トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン)を過剰量加え、一晩5℃で放置した後、LC-MS分析した。分析条件は下記のとおりであった。
カラム:Develosil C18 (3μm, 2mmID ×100mmL、野村化学株式会社)
分析温度:25℃
溶媒A:0.1%ギ酸
溶媒B:0.1%ギ酸、100%アセトニトリル
グラジエント:B10%からB60%まで1minのグラジエント
流速:100μL/min
LC装置:LC-20A(株式会社島津製作所)
MS装置:Q Exactive (Thermo Fisher Scientific社)
イオン化モード:positive
実験例3:SH-PEG-FabのALP標識
(1) ALPのマレイミド修飾
csF001-5Fab-Qtag、csF028-22Fab-Qtag及びHBs628Fab-QtagからのSH-PEG(2K)-FabのALP標識に用いるため、次のようにしてALPをマレイミドで修飾した。25 Mトリエタノールアミン緩衝液(1 mM MgCl2, 0.1 mM ZnCl2, 150 mM NaCl, pH7.0)に10μMとなるようALPを溶解した。ALP溶液に20当量のEMCS試薬を添加して37℃で1時間インキュベートした。反応液をPD10カラム(Cytiva社)で脱塩した後、アミコン10Kにより濃縮した。
(2) SH-PEG(2K)-FabのALP標識
(2.1) csF001-5Fab-QtagからのSH-PEG(2K)-Fabの標識
csF001-5Fab-QtagからのSH-PEG(2K)-Fabを、次のようにしてALP標識した。20μMのSH-PEG(2K)-Fabと10μMのマレイミド修飾ALPとを25 mMトリエタノールアミン緩衝液(1 mM MgCl2, 0.1 mM ZnCl2, 150 mM NaCl, pH7.0)中、5℃で一晩インキュベートした。反応液を、Superdex 200 Increase(Cytiva社)を用いたHPLCで分析した後、1分子のALPが有する1つのマレイミド基にFabが結合したALP標識Fab(以下、「Fab-PEG-ALP」と呼ぶ)、1分子のALPが有する2つのマレイミド基のそれぞれにFabが結合したALP標識Fab(以下、「(Fab-PEG)2-ALP」と呼ぶ)、及び、1分子のALPが有する3つのマレイミド基のそれぞれにFabが結合したALP標識Fab(以下、「(Fab-PEG)3-ALP」と呼ぶ)をそれぞれ精製及び分取した。Fab-PEG-ALPは、1分子のALPと1分子のFabとの複合体であり、(Fab-PEG)2-ALPは、1分子のALPと2分子のFabとの複合体であり、(Fab-PEG)3-ALPは、1分子のALPと3分子のFabとの複合体であった。Fab-PEG-ALP、(Fab-PEG)2-ALP及び(Fab-PEG)3-ALPは、それぞれ式(I)の構造(式中、Xがエチレン、YがPEG鎖、ZがALP、Lがスペーサー)であった。
(2.2) csF028-22Fab-QtagからのSH-PEG(2K)-Fabの標識
csF028-22Fab-QtagからのSH-PEG(2K)-Fabを、次のようにしてALP標識した。SH-PEG(2K)-Fabをアミコン10K(Merch社)で25 mMトリエタノールアミン緩衝液(1 mM MgCl2, 0.1 mM ZnCl2, 150 mM NaCl, pH7.0)に濃縮して、バッファー交換した。得られた20μMの反応液と、6.7μMのマレイミド修飾ALPとを25 mMトリエタノールアミン緩衝液(1 mM MgCl2, 0.1 mM ZnCl2, 150 mM NaCl, pH7.0)中、5℃で一晩インキュベートした。反応液を、Superdex 200 Increase(Cytiva社)を用いたHPLCで分析した後、Fab-PEG-ALP、(Fab-PEG)2-ALP及び(Fab-PEG)3-ALPをそれぞれ精製及び分取した。各ALP標識Fabの定量は、上記の対象タンパク質の定量法により行った。各ALP標識Fabの溶液にBSA(Proliant社)を終濃度0.1%となるよう添加した。
(2.3) HBs628Fab-QtagからのSH-PEG(2K)-Fabの標識
HBs628Fab-QtagからのSH-PEG(2K)-Fabを、次のようにしてALP標識した。SH-PEG(2K)-Fabとマレイミド修飾ALP(以下、「(Mal)n-ALP」とも呼ぶ)とを表1に示すモル比で、25 mMトリエタノールアミン緩衝液(1 mM MgCl2, 0.1 mM ZnCl2, 150 mM NaCl, pH7.0)中、5℃で一晩インキュベートした。反応液を、Superdex 200 Increase(Cytiva社)を用いたHPLCで分析した後、Fab-PEG-ALP、(Fab-PEG)2-ALP及び(Fab-PEG)3-ALPをそれぞれ精製及び分取した。なお、(Mal)n-ALPは、n個(nは1以上の整数)のマレイミド基が付加された1分子のALPを表す。
(3) Fab-PEG-ALP、(Fab-PEG)2-ALP及び(Fab-PEG)3-ALPのSEC分析及び分取
(3.1) csF001-5Fab-Qtag及びHBs628Fab-QtagからのALP-PEG-Fabの分析条件
カラム:Superdex 200 Increase 10×300 mm
HPLC装置:Chromaster(登録商標) (株式会社日立ハイテクサイエンス)
分析温度:室温
溶媒:Arg-SEC Mobile Phase (Standard、ナカライテスク株式会社)
流速:0.8 ml/min
検出:UV 280nm, FL (Ex:295nm/Em:335nm)
(3.2) Fab-PEG-ALP、(Fab-PEG)2-ALP及び(Fab-PEG)3-ALPの分析及び分取の条件
カラム:Superdex 200 Increase 10×300 mm
HPLC装置:Chromaster(登録商標) (株式会社日立ハイテクサイエンス)
分析温度:室温
溶媒:25 mM トリエタノールアミン緩衝液(1 mM MgCl2, 0.1 mM ZnCl2, 150 mM NaCl, pH7.0)
流速:0.8 ml/min
検出:UV 280nm, FL (Ex:295nm/Em:335nm)
実験例4:ランダム標識法によるFab’のALP標識
(1) ALPのマレイミド修飾
Qタグを有さないFab’のALP標識に用いるため、次のようにしてALPをマレイミドで修飾した。D-PBS(-)(pH7.4)に20μMとなるようALPを溶解した。ALP溶液に30当量のEMCS試薬を添加して37℃で1時間インキュベートした。反応液をPD10カラム(Cytiva社)で脱塩し、0.1M トリエタノールアミン緩衝液(1 mM MgCl2, 0.1 mM ZnCl2, 150 mM NaCl, pH7.0)にバッファー交換した。その後、アミコン50Kにより濃縮した。
(2) 全長抗体からのF(ab’)2の作製及びSEC分取
マッキルベイン緩衝液(pH3.8)にsF001-5を6.67μM、ペプシン(Sigma社)を0.95μMとなるようにそれぞれ溶解し、37℃で3時間インキュベートした。その後、10v%の1M Tris-HCl(pH8.5)を添加することで中和し、反応を停止した。アミコン10Kにより生成物を濃縮した後、Superdex 200 Increase(Cytiva社)を用いてF(ab’)2を精製及び分取した。得られたF(ab’)2溶液を再度、アミコン10Kにより濃縮した。この操作をしても、抗体の物質量あたりの反応性が低下しないことは確認した。分取の条件は下記のとおりであった。
カラム:Superdex 200 Increase 10×300 mm
精製装置:AKTAgo (Cytiva社)
分析温度:室温
溶媒:0.1M リン酸緩衝液(1 mM EDTA・2Na, pH6.0)
流速:0.5 ml/min
検出:UV 280nm
(3) F(ab’)2からのFab’の作製及びSEC分取
0.1Mリン酸緩衝液(1mM EDTA・2Na, pH6.0)に、上記(2)で作成したF(ab’)2を20μMとなるように溶解した。F(ab’)2溶液に、1500当量の2-メルカプトエチルアミン試薬(ナカライテスク株式会社)を添加して37℃で90分間インキュベートした。その後、Superdex 200 Increase(Cytiva社)を用いて、生成したsF001-5Fab’のフラクションのみを分取及び精製し、アミコン10Kにより濃縮した。分取の条件は下記のとおりであった。
カラム:Superdex 200 Increase 10×300 mm
精製装置:AKTAgo (Cytiva社)
分析温度:室温
溶媒:0.1M リン酸緩衝液(1mM EDTA・2Na, pH6.0)
流速:0.5 ml/min
検出:UV 280nm
(4) Fab’のALP標識(ランダム標識法)
Fab’中のシステイン残基とマレイミド修飾ALPとのカップリングにより、Fab’をALP標識した。具体的には、次のとおりであった。44μMのsF001-5Fab’と8.8μMのマレイミド修飾ALPとを0.1Mトリエタノールアミン緩衝液(1 mM MgCl2, 0.1 mM ZnCl2, 150 mM NaCl, pH7.0)中、5℃で一晩インキュベートした。その後、Superdex 200 Increase(Cytiva社)を用いて、生成したカップリング体(以下、「(Fab’)n-ALP」と呼ぶ)を分取及び精製した。分取の条件は下記のとおりであった。なお、(Fab’)n-ALPは、ALPが有するn個(nは1以上の整数)のマレイミド基のそれぞれにFab’が結合した複合体を表す。
カラム:Superdex 200 Increase 10×300 mm
精製装置:AKTAgo (Cytiva社)
分析温度:室温
溶媒:0.1M トリエタノールアミン緩衝液(1 mM MgCl2, 0.1 mM ZnCl2, 150 mM NaCl, pH7.0)
流速:0.5 ml/min
検出:UV 280nm
精製した(Fab’) n-ALPを含むサンプルを非還元SDS-PEGE及びSECにより分析した。SEC分析の条件は下記のとおりであった。
カラム:Superdex 200 Increase 10×300 mm
HPLC装置:Chromaster(登録商標) (株式会社日立ハイテクサイエンス)
分析温度:室温
溶媒:Arg-SEC Mobile Phase (Standard、ナカライテスク株式会社)
流速:0.8 ml/min
検出:UV 280nm, FL (Ex:295nm/Em:335nm)
実験例5:Alexa488-マレイミドによるSH-PEG-Fabの蛍光標識
(1) SH-PEG-FabとAlexa488-マレイミドとの結合
csF001-25Fab-QtagからのSH-PEG(2K)-Fabを、次のようにして蛍光色素で標識した。SH-PEG(2K)-Fabをアミコン10K(Merch社)で濃縮し、50 mMリン酸ナトリウム緩衝液(2 mM EDTA, pH7.0)にバッファー交換した。6μM反応液と120μMのAlexa488-マレイミドとを50 mMリン酸ナトリウム緩衝液(2 mM EDTA, pH7.0)中、5℃で一晩インキュベートした。反応液中のAlexa488で標識したFab(Alexa488-PEG-Fab)を、Superdex 200 Increase(Cytiva社)を用いてHPLCにより分取及び分析した。SH-PEG-FabとAlexa488-マレイミドとの反応生成物を、以下、「Alexa488-PEG-Fab」とも呼ぶ。Alexa488-PEG-Fabは、式(I)の構造(式中、Xがエチレン、YがPEG鎖、ZがAlexa488、Lがスペーサー)であった。
(2) SEC分取の条件
カラム:Superdex 200 Increase 10×300 mm
HPLC装置:Chromaster(登録商標) (株式会社日立ハイテクサイエンス)
分析温度:室温
溶媒:50 mM リン酸緩衝液、2 mM EDTA、pH7.0
流速:0.8 ml/min
検出:UV 280nm
(3) SEC分析の条件
カラム:Superdex 200 Increase 10×300 mm
HPLC装置:Chromaster(登録商標) (株式会社日立ハイテクサイエンス)
分析温度:室温
溶媒:Arg-SEC Mobile Phase (Standard、ナカライテスク株式会社)
流速:0.8 ml/min
検出:UV 280nm
FL (Ex. 495 nm/ Em. 519nm) PMT Super Low
(4) LC-MS分析
csF001-25Fab-QtagからのSH-PEG(2K)-Fab及びAlexa488-PEG-Fabを、次のようにしてLC-MS分析した1M Tris (pH7.5)中、200当量のTCEPにて37℃で2時間還元した後、サンプルをLC-MS分析した。分析条件は下記のとおりであった。
カラム:PLRP-1000 column (2μm ×100mmL、PL laboratory社)
分析温度:25℃
溶媒A:0.1%ギ酸
溶媒B:0.1%ギ酸、100%アセトニトリル
グラジエント:B10%からB60%まで1minのグラジエント
流速:100μL/min
LC装置:LC-20A(株式会社島津製作所)
MS装置:Q Exactive (Thermo Fisher Scientific社)
イオン化モード:positive
実験例6:R-PEによるSH-PEG-Fabの蛍光標識
(1) R-PEのマレイミド修飾
csF001-25Fab-Qtag及び抗CD20 Fab-QtagからのSH-PEG(2K)-FabのR-PE標識に用いるため、次のようにしてR-PEをマレイミドで修飾した。R-PEを50 mMリン酸ナトリウム緩衝液(2 mM EDTA、pH7.0)に透析置換した。そして、5μM R-PE溶液に400μMのEMCS試薬を添加して37℃で1時間インキュベートした。反応液をPD10カラム(Cytiva社)で脱塩した後、アミコン3Kにより濃縮した。得られたマレイミド修飾R-PEを、以下、「(Mal)n-R-PE」とも呼ぶ。(Mal)n-R-PEは、n個(nは1以上の整数)のマレイミド基が付加された1分子のR-PEを表す。
(2) SH-PEG-Fabとマレイミド修飾R-PEとの結合
csF001-25Fab-Qtag及び抗CD20 Fab-QtagからのSH-PEG(2K)-Fabを、次のようにして蛍光色素で標識した。SH-PEG(2K)-Fabをアミコン10K(Merch社)で濃縮し、50 mMリン酸ナトリウム緩衝液(2 mM EDTA, pH7.0)にバッファー交換した。6μM反応液と2μMの(Mal)n-R-PEとを50 mMリン酸ナトリウム緩衝液(2 mM EDTA, pH7.0)中、5℃で一晩インキュベートした。反応液にL-システインを終濃度0.1 mMとなるよう添加して未反応のマレイミド基をキャッピングした。その後、Superdex 200 Increase(Cytiva社)を用いてHPLCにより分析した。1分子のR-PEが有する1つのマレイミド基にFabが結合したR-PE標識Fab(以下、「Fab-PEG-R-PE」と呼ぶ)、1分子のR-PEが有する2つのマレイミド基のそれぞれにFabが結合したR-PE標識Fab(以下、「(Fab-PEG)2-R-PE」と呼ぶ)、及び、1分子のR-PEが有する3つのマレイミド基のそれぞれにFabが結合したR-PE標識Fab(以下、「(Fab-PEG)3-R-PE」と呼ぶ)をそれぞれ精製及び分取した。また、それらを別途SEC分析した。分取及び分析の条件は下記のとおりであった。なお、Fab-PEG-R-PEは、1分子のR-PEと1分子のFabとの複合体であり、(Fab-PEG)2-R-PEは、1分子のR-PEと2分子のFabとの複合体であり、(Fab-PEG)3-R-PEは、1分子のR-PEと3分子のFabとの複合体であった。Fab-PEG-R-PE、(Fab-PEG)2-R-PE及び(Fab-PEG)3-R-PEは、それぞれ式(I)の構造(式中、Xがエチレン、YがPEG鎖、ZがR-PE、Lがスペーサー)であった。
(3) SEC分取の条件
カラム:Superdex 200 Increase 10×300 mm
HPLC装置:Chromaster(登録商標) (株式会社日立ハイテクサイエンス)
分析温度:室温
溶媒:50 mM リン酸緩衝液、2 mM EDTA、pH7.0
流速:0.8 ml/min
検出:UV 280nm
(4) SEC分析の条件
カラム:Superdex 200 Increase 10×300 mm
HPLC装置:Chromaster(登録商標) (株式会社日立ハイテクサイエンス)
分析温度:室温
溶媒:Arg-SEC Mobile Phase (Standard、ナカライテスク株式会社)
検出:UV 280nm
FL (Ex. 565 nm/ Em. 574nm) PMT Super Low
実験例7:ALP標識抗体のALP活性測定
実験例3で調製したcsF028-22Fab-QtagからのFab-PEG-ALP、(Fab-PEG)2-ALP及び(Fab-PEG)3-ALPのALP活性を、次にようにして測定した。キャリブレータ(生化学自動分析装置;日立7170により活性値を付与したALP-55(オリエンタル酵母株式会社))と、検量線範囲内になるように希釈した各ALP標識抗体とを、CDP-star(Thermo Fisher Scientific社)を基質としてALP活性を測定した。各種測定検体のALP活性に希釈倍率を掛け合わせることで各ALP標識抗体のALP活性値を算出し、未修飾ALPに対する比活性を比較した。
実験例8:Fab-PEG-ALP及び(Fab’)n-ALPを含む試薬の性能評価
実験例3で調製したcsF001-5Fab-QtagからのFab-PEG-ALP及び実験例4で調製した(Fab’)n-ALPのそれぞれを検出用抗体として用いる免疫学的測定法により、HIV p24抗原を測定した。測定結果を比較して、Fab-PEG-ALP及び(Fab’)n-ALPのそれぞれを含む試薬の性能を検討した。測定は、全自動免疫測定装置HISCL(登録商標)-2000i(シスメックス株式会社)により行った。
(1) 試薬の調製
検出用抗体試薬であるR3試薬以外は、HIV1 p24抗原・HIV抗体キット「HISCL(登録商標) HIV Ag+Ab試薬」(シスメックス株式会社)に含まれるR1試薬(ビオチン標識抗体)、R2試薬(ストレプトアビジン固定化磁性粒子)、R4試薬(化学発光基質希釈液)及びR5試薬(化学発光基質)、又はこれらの試薬の製造法に準ずる方法で作製した試薬を用いた。R3試薬は、Fab-PEG-ALP又は(Fab’)n-ALPを用いて、次のようにして調製した。Fab-PEG-ALP及び(Fab’)n-ALPをそれぞれ0.1Mトリエタノールアミン緩衝液(3% BSA, 0.5%カゼインナトリウム, 1mM MgCl2, 0.1 mM ZnCl2, 150 mM NaCl, pH6.5)で希釈して、表2に示す濃度になるように調整した。各抗体溶液をMillex-GS 0.22μm (Merck社)でろ過して、R3試薬とした。各抗体のALP活性は、実験例7と同様にして算出した。
(2) 検体の調製
HIV p24抗原(abcam社)をD-PBS(0.1% BSA, pH7.4)及びヒトプール血清(ニッスイ株式会社)のそれぞれで希釈して、10 pg/mL、100 pg/mL及び1000 pg/mLの抗原濃度の検体を作製した。また、D-PBS(0.1% BSA, pH7.4)及びヒトプール血清自体を、抗原を含まない(0 pg/mL)検体として用いた。
(3) 測定
上記(1)のR1~R5試薬をHISCL-2000i(シスメックス株式会社)にセットして、上記(2)で調製した8種類の検体を測定した。HISCL-2000iによる測定手順は、次のとおりであった。検体(20μL)とR1試薬(50μL)とを混合した後、R2試薬(30μL)を添加した。得られた混合液中の磁性粒子を集磁して上清を除き、HISCL洗浄液(300μL)を加えて磁性粒子を洗浄した。上清を除き、磁性粒子にR3試薬(100μL)を添加して混合した。得られた混合液中の磁性粒子を集磁して上清を除き、HISCL洗浄液(300μL)を加えて磁性粒子を洗浄した。
上清を除き、磁性粒子にR4試薬(50μL)及びR5試薬(100μL)を添加して、化学発光強度を測定した。
実験例9:Alexa488標識抗体の抗原結合能の評価
実験例5で調製したcsF001-25Fab-QtagからのSH-PEG(2K)-Fab及びAlexa488-PEG-Fabの抗原結合能を、Biacore(商標) T200(Cytiva社)を用いた表面プラズモン共鳴(SPR)反応により測定した。比較のため、csF001-25Fab-Qtagについても測定した。具体的には、次のとおりであった。Human Fab Capture Kit(Cytiva社)に添付されたHuman Fab Binderを、センサーチップCM5(Cytiva社)上にアミンカップリングにて固定化した。リガンドとしてSH-PEG(2K)-Fab、Alexa488-PEG-Fab及び未標識Fab(csF001-25Fab-Qtag)をそれぞれ結合させた。アナライトとして、組換え型タンパクのHIV-1 p24(Prospec社)を反応させた。相互作用解析は、Biacore T200 Evaluation softwareにより、1:1 Binding反応モデルを用いて実施した。使用した装置、試薬及び反応条件は、以下のとおりであった。
[装置及び試薬]
装置:Biacore(商標) T200(Cytiva社)
センサーチップ:センサーチップCM5(Cytiva社)
キャプチャーキット:ヒトFabキャプチャーキット(Cytiva社)
カップリングキット:アミンカップリングキット(Cytiva社)
バッファー:HBS-EP+ バッファー(Cytiva社)
[リガンドキャプチャー]
リガンド:SH-PEG(2K)-Fab、Alexa488-PEG-Fab及び未修飾Fab(csF001-25Fab-Qtag)
流速:30μL/min
添加時間(Contact time):60sec
[サンプル]
アナライト:HIV-1 p24(Prospec社)(2.5~80 nM)
流速:30μL/min
添加時間(Contact time):30sec
解離時間:300sec
[再生]
再生バッファー:10 mMグリシン-HCl pH2.1
流速:30μL/min
添加時間(Contact time):30sec
実験例10:R-PE標識抗体の抗原結合能
実験例6で調製したcsF001-25Fab-QtagからのFab-PEG-R-PE、(Fab-PEG)2-R-PE及び(Fab-PEG)3-R-PEの抗原結合能を、次のようにしてELISAにより測定した。Fab-PEG-R-PE、(Fab-PEG)2-R-PE及び(Fab-PEG)3-R-PEのそれぞれを、R-PEの蛍光強度が同程度となるように希釈して、検出用試薬を調製した。抗Hisタグ抗体を固定化した黒色96ウェルマイクロプレートに、抗原として、Hisタグを付加した組換え型HIV-1 p24(Prospec社)を室温で1時間反応させた。比較のため、抗原を添加しなかった抗Hisタグ抗体固定化マイクロプレートも用意した。そして、洗浄液(0.05% Tween 20含有生理食塩水)にて各ウェルを洗浄した。各検出用試薬をマイクロプレートのウェルに供し、室温で1時間反応させた。洗浄液にて各ウェルを洗浄した後、マイクロプレート中のR-PE標識抗体を蛍光プレートリーダー(励起波長488nm、蛍光波長578nm)にて検出した。
実験例11:R-PE標識抗体を含む試薬の性能評価
実験例6で調製した抗CD20 Fab-QtagからのFab-PEG-R-PE、(Fab-PEG)2-R-PE及び(Fab-PEG)3-R-PEのそれぞれを検出用抗体として用いるフローサイトメトリ(FCM)法によりCD20発現細胞を測定した。測定結果を比較して、各R-PE標識抗体を含む試薬の性能を検討した。具体的な測定手順には、次のとおりであった。Fab-PEG-R-PE、(Fab-PEG)2-R-PE及び(Fab-PEG)3-R-PEのそれぞれを希釈バッファー(2% FBS, 2 mM EDTA/D-PBS(pH7.4))で、R-PEの蛍光強度が同程度となるように希釈して、検出用試薬を調製した。各検出用試薬中にCD20発現Ramos細胞を攪拌させ、4℃で30分間反応させた。遠心にて細胞をペレットにし、希釈バッファーにて細胞を洗浄した。Ramos細胞表面のCD20に結合した各R-PE標識抗体をBD AccuriTM C6 Plusフローサイトメータ(Becton, Dickinson and Company社)にて検出した。
実験例12:SH-PEG-NH2リンカー(3.5K)及びSH-PEG-NH2リンカー(5K)によるFab抗体の修飾
(1) SH-PEG-NH2リンカー(3.5K)及びSH-PEG-NH2リンカー(5K)とFab抗体との結合
BTGaseを用いて、csF001-25Fab-Qtagに上記(d)のSH-PEG-NH2リンカー(3.5K)(Sigma-Aldrich社)及び上記(e)のSH-PEG-NH2リンカー(5K)(Sigma-Aldrich社)のそれぞれを結合させた。具体的には、次のとおりであった。Tris緩衝液(20 mM Tris, 2 mM EDTA, 150 mM NaCl, pH8.2)に10μMとなるようcsF001-25Fab-Qtagを溶解させ、100当量のSH-PEG-NH2リンカー(3.5K)又はSH-PEG-NH2リンカー(5K)及び0.1 U/mLのBTGaseと共に5℃で一晩インキュベートした。なお、BTGaseの活性はヒドロキサム法により行った。SECにより反応の進行を分析した。各リンカーの反応液についてProtein Gカラムにより脱塩及び精製した後、アミコン10K(Merch社)で濃縮した。SEC分析の条件は下記のとおりであった。
(2) SEC分析の条件
カラム:Superdex 200 Increase 10×300 mm (Cytiva社)
HPLC装置:Chromaster(登録商標) (株式会社日立ハイテクサイエンス)
分析温度:室温
溶媒:Arg-SEC Mobile Phase (Standard、ナカライテスク株式会社)
流速:0.8 ml/min
検出:UV 280nm, FL (Ex:295nm/Em:335nm)
実験例13:Alexa488-マレイミドによるSH-PEG-Fabの蛍光標識
(1) SH-PEG-Fabの蛍光標識
csF001-25Fab-QtagからのSH-PEG(3.5K)-Fab及びSH-PEG(5K)-Fabを、次のようにして蛍光色素で標識した。各SH-PEG-Fabをアミコン10K(Merch社)で濃縮し、25 mMトリエタノールアミン緩衝液(1 mM MgCl2, 0.1 mM ZnCl2, 150 mM NaCl, pH7.0)にバッファー交換した。6μM反応液と120μMのAlexa488-マレイミドとを25 mMトリエタノールアミン緩衝液(1 mM MgCl2, 0.1 mM ZnCl2, 150 mM NaCl, pH7.0)中、5℃で一晩インキュベートした。反応液中のAlexa488-PEG-Fabを、Superdex 200 Increase(Cytiva社)を用いてHPLCにより分析した。SEC分析の条件は下記のとおりであった。
(2) SEC分析の条件
カラム:Superdex 200 Increase 10×300 mm (Cytiva社)
HPLC装置:Chromaster(登録商標) (株式会社日立ハイテクサイエンス)
分析温度:室温
溶媒:Arg-SEC Mobile Phase (Standard、ナカライテスク株式会社)
流速:0.8 ml/min
検出:UV 280nm
FL (Ex. 565 nm/ Em. 574nm) PMT Super Low
実験例14:SH-PEG-NH2リンカー(400Da)によるFab抗体の修飾
(1) SH-PEG-NH2リンカー(400Da)とFab抗体との結合
BTGaseを用いて、csF001-5Fab-Qtagに上記(f)のSH-PEG-NH2リンカー(400Da)(Nanocs Inc.社)を結合させた。具体的には、次のとおりであった。Tris緩衝液(20 mM Tris, 2 mM EDTA, 150 mM NaCl, pH8.2)に10μMとなるようcsF001-5Fab-Qtagを溶解させ、50当量のSH-PEG-NH2リンカー(400Da)及び0.1 U/mLのBTGaseと共に5℃で一晩インキュベートした。なお、BTGaseの活性はヒドロキサム法により行った。反応液をSuperdex 200 Increase(Cytiva社)により脱塩及び精製した後、アミコン10K(Merch社)で濃縮した。
(2) SH-PEG(400Da)-FabのALP標識
10μMのSH-PEG(400Da)-Fabと5μMのマレイミド修飾ALPとを25 mMトリエタノールアミン緩衝液(1 mM MgCl2, 0.1 mM ZnCl2, 150 mM NaCl, pH7.0)中、5℃で一晩インキュベートした。反応液を、Superdex 200 Increase(Cytiva社)を用いたHPLCで分析した。SEC分析の条件は下記のとおりであった。
(3) SEC分析の条件
カラム:Superdex 200 Increase 10×300 mm (Cytiva社)
HPLC装置:Chromaster(登録商標) (株式会社日立ハイテクサイエンス)
分析温度:室温
溶媒:Arg-SEC Mobile Phase (Standard、ナカライテスク株式会社)
流速:0.8 ml/min
検出:UV 280nm
FL (Ex. 295 nm/Em. 335nm)
実験例15:SH-PEG-NH2リンカー(1K)によるFab抗体の修飾
(1) SH-PEG-NH2リンカー(1K)とFab抗体との結合
BTGaseを用いて、HBs628Fab-Qtagに上記(g)のSH-PEG-NH2リンカー(1K)(Creative PEGWorks社)を結合させた。具体的には、次のとおりであった。MES緩衝液(50mM MES, 2 mM EDTA, pH7.0)に10μMとなるようHBs628Fab-Qtagを溶解させ、50当量のSH-PEG-NH2リンカー(1K)及び0.1 U/mLのBTGaseと共に25℃で3時間インキュベートした。SECにより反応の進行を分析した。なお、BTGaseの活性はヒドロキサム法により行った。反応液をアミコン10K(Merch社)により脱塩、濃縮及び精製した。
(2) SH-PEG(1K)-FabのALP標識
10μMのSH-PEG(1K)-Fabと5μMのマレイミド修飾ALPとを25 mMトリエタノールアミン緩衝液(1 mM MgCl2, 0.1 mM ZnCl2, 150 mM NaCl, pH7.0)中、5℃で一晩インキュベートした。反応液を、Superdex 200 Increase(Cytiva社)を用いたHPLCで分析した。SEC分析の条件は下記のとおりであった。
(3) SEC分析の条件
カラム:Superdex 200 Increase 10×300 mm (Cytiva社)
HPLC装置:Chromaster(登録商標) (株式会社日立ハイテクサイエンス)
分析温度:室温
溶媒:Arg-SEC Mobile Phase (Standard、ナカライテスク株式会社)
流速:0.8 ml/min
検出:UV 280nm
FL (Ex. 295 nm/Em. 335nm)
[結果]
上記の各実験の結果について、以下に説明する。
1.SH-PEG-NH2リンカー(2K)のInfusion MS分析の結果
上記(a)、(a')、(b)及び(c)の各SH-PEG-NH2リンカー(2K)をInfusion MSにより分析した結果を、図2A、B、C及びDに示した。図2A、B及びD中、矢印は、分子量の最小値を示したピーク、最頻分子量を示したピーク、及び、分子量の最大値を示したピークを指す。上記(a)、(a')、(b)及び(c)のリンカーの最頻分子量はそれぞれ、2014.2、2058.2、1397.8及び1617.9であった。また、分析結果に基づいて、各リンカーの重量平均分子量を算出した。図2A、B、C及びDから分かるように、各リンカーの重量平均分子量及び分子量分布は異なっていた。具体的には、下記のとおりであった。なお、重量平均分子量は、(a')以外のリンカーについては、S/Nが5以上のMSピークから算出した値であり、(a')のリンカーについては、S/Nが1.5以上のMSピークから算出した値であった。
・上記(a)のリンカー: 重量平均分子量2095.2、分子量分布1838.1~2410.4
・上記(a')のリンカー:重量平均分子量2029.5、分子量分布1794.1~2454.4
・上記(b)のリンカー: 重量平均分子量1460.0、分子量分布1177.7~1794.1
・上記(c)のリンカー: 重量平均分子量1611.9、分子量分布1221.7~2058.2
いずれのリンカーも、官能基(SH-CH2CH2-及び-NH2)を除いたPEG鎖部分の分子量としては、1100以上であった。また、官能基を除いたPEG鎖部分の重量平均分子量としては1300以上であった。BTGase反応液(NaCl無添加、pH8.2)を添加した後のSH-PEG-NH2リンカー(2K)は、ジスルフィド(S-S)結合を介した二量体化は確認されず、PEG鎖の分子量分布に相関したモノマーのMSスペクトルのみが検出された。したがって、上記(a)、(a')、(b)及び(c)のSH-PEG-NH2リンカー(2K)はいずれも、BTGase反応溶液中において会合していないことが示された。
2.BTGaseを用いたSH-PEG-NH2リンカー(2K)によるcsF001-5Fab-Qtagの修飾(実験例1)
csF001-5Fab-Qtagと上記(a)のSH-PEG-NH2リンカー(2K)(Sigma-Aldrich社)とのBTGaseによる反応後の生成物のSEC分析の結果を、図3に示した。具体的には、脱塩及び濃縮した反応液のクロマトグラムである。図中、「+SH-PEG-NH2」とは、SH-PEG-NH2リンカー(2K)を添加した反応液の分析結果であり、「-SH-PEG-NH2」とは、SH-PEG-NH2リンカー(2K)を添加しなかった反応液の分析結果である。図3より、リンカーを添加しなかった場合では、Fabのピークに変化は認められなかった。すなわち、Qタグ中のGln残基とFab上のLys残基との間でのFab同士の分子間会合は起こっていなかった。一方、リンカーを添加した場合では、リテンションタイム18.5分付近の未修飾Fabのピークが減少し、高分子量側であるリテンションタイム17.5分付近にシフトした1ピークが新たに確認された。これは、直鎖構造のSH-PEG-NH2リンカー1分子がQタグを介して結合したSH-PEG-Fabにおいて、見かけの大きさが高まり、分離したピークとして観察されたことを示した。実際、当該ピークが未修飾Fabピークに比べブロードであるのは、リンカー中のPEG鎖が、図2A~Dに示したように広い分子量分布を有するためである。ピーク面積から換算した反応効率は約73%であった。これは過去にBTGaseで高分子PEGリンカー修飾させた場合と同様な傾向であった(Sato H.ら, Biochemistry, 35(40) 13072-13080 (1996)参照)。
さらに、BTGaseでの導入効率を高めるため、反応pHを7.5から8.2及び8.5にした場合の分析結果を、図4に示した。図中、「SH-PEG」とは、上記(a)のSH-PEG-NH2リンカー(2K)(Sigma-Aldrich社)を表す。図4より、BTGase中の活性SH基とFab-Qtag中のGln側鎖とのチオエーテル結合中間体に対するSH-PEG-NH2リンカーのアミノ基による求核性が高まり、その反応効率が73%から、それぞれ約95%及び約96%へ向上し、定量的に導入可能なことを確認した。pH7.0では、これまでと同様に反応効率が約73%であったことから、BTGase反応のpHを8~8.5付近にすることで、SH-PEG-NH2リンカーの導入を定量的に行えることが示された。
3.BTGaseを用いたSH-PEG-NH2リンカー(2K)によるcsF028-22Fab-Qtagの修飾(実験例1)
導入効率を高めた反応条件(pH8.2又は8.5)でのcsF028-22Fab-Qtagと上記(a)のSH-PEG-NH2リンカー(2K)(Sigma-Aldrich社)とのBTGaseによる反応後の生成物のSEC分析の結果を、図5に示した。図中、「SHリンカー+」とは、SH-PEG-NH2リンカー(2K)を添加した反応液の分析結果であり、「SHリンカー-」とは、SH-PEG-NH2リンカー(2K)を添加しなかった反応液の分析結果である。図5より、リンカーを添加しなかった場合では、csF001-5Fab-Qtagと同様、Fabのピークに変化は認められなかった。すなわち、Qタグ中のGln残基とFab上のLys残基との間でのFab同士の分子間会合は起こっていなかった。一方、リンカーを添加した場合では、リテンションタイム19.3分付近の未修飾Fabのピークが減少し、高分子量側であるリテンションタイム18.2分付近にシフトしたブロードなピークが新たに確認された。これは、直鎖構造のSH-PEG-NH2リンカー1分子がQタグを介して結合したSH-PEG-Fabにおいて、見かけの大きさが高まり、完全分離ではないものの、分離したピークとして観察されたことを示した。なお、当該ピークが未修飾Fabピークに比べブロードであるのは、リンカー中のPEG鎖が広い分子量分布を有するためである。なお、未修飾体とピークが完全に分離しなかったため、反応効率は96%であった。実際、分取後のピークはブロードな1ピークだった。
4.BTGaseを用いたSH-PEG-NH2リンカー(3.5K)によるcsF001-5Fab-Qtagの修飾(実験例12)
導入効率を高めた反応条件でのcsF001-5Fab-Qtagと上記(d)のSH-PEG-NH2リンカー(3.5K)(Sigma-Aldrich社)とのBTGaseによる反応後の生成物のSEC分析の結果を、図6に示した。図中、「SHリンカー+」とは、SH-PEG-NH2リンカー(3.5K)を添加した反応液の分析結果であり、「SHリンカー-」とは、SH-PEG-NH2リンカー(3.5K)を添加しなかった反応液の分析結果である。リンカーを添加しなかった場合では、csF001-5Fab-Qtagと同様、Fabのピークに変化は認められなかった。すなわち、Qタグ中のGln残基とFab上のLys残基との間でのFab同士の分子間会合は起こっていなかった。一方、リンカーを添加した場合では、リテンションタイム19.3分付近の未修飾Fabのピークが減少し、高分子量側であるリテンションタイム17.8分付近にシフトしたブロードなピークが新たに確認された。これは、直鎖構造のSH-PEG-NH2リンカー1分子がQタグを介して結合したSH-PEG-Fabにおいて、見かけの大きさが高まり、完全分離ではないものの、分離したピークとして観察されたことを示した。なお、当該ピークが未修飾Fabピークに比べブロードであるのは、リンカー中のPEG鎖が広い分子量分布を有するためである。なお、反応効率は約84%であり、SH-PEG-NH2リンカー(2K)を用いた反応より若干低下した。これは、SH-PEG-NH2リンカー(3.5K)がSH-PEG-NH2リンカー(2K)よりも分子鎖長が長いので、BTGaseの基質反応性が多少低下したからと考えられた。実際、分取後のピークはブロードな1ピークだった。
5.csF001-5Fab-QtagからのSH-PEG-FabのALP標識(実験例3)
(1) カップリング反応液のSEC分析
csF001-5Fab-QtagからのSH-PEG(2K)-Fab、マレイミド修飾ALP((Mal)n-ALP)、及びそれらのカップリング反応液のSEC分析の結果と、それらの非還元SDS-PAGEの結果を、図7に示した。図中、「Fab+SH-PEG」とは、SH-PEG(2K)-Fabの溶液の分析結果であり、「ALP+EMCS」とは、マレイミド修飾ALPを含む溶液の分析結果であり、「Fab:ALP(1:1)カップリング」及び「カップリング」とは、SH-PEG(2K)-Fabとマレイミド修飾ALPとのカップリング反応液の分析結果である。FabとALPの混合比がわずか1:1であるにも関わらず、SH-PEG(2K)-Fab由来のピーク(リテンションタイム約17.5分)は20%程度しか残らず、(Mal)n-ALP由来のピーク(リテンションタイム約15.3分)も減少した。そして、ALP1分子に対してFabが1分子結合したと推定される主ピーク(Fab-PEG-ALP、リテンションタイム約13.5分)、Fabが2分子結合したと推定される副ピーク((Fab-PEG)2-ALP、リテンションタイム約12.5分)が確認された。実際、それぞれの原料及び反応液の非還元SDS-PAGE(二量体であるALPモノマー(ALP(m))での生成物のバンドに相当)の結果も加味すると、未修飾ALPに対し、Fabによるカップリング体のピーク分離性は非常に高かった。これは、直鎖PEG分子を介してFab分子がALPに結合することにより、見かけの大きさが大きくなったことに起因するためであった。
(2) カップリング反応ピークのSEC分取及び取得した画分のSEC分析
csF001-5Fab-QtagからのSH-PEG(2K)-Fabとマレイミド修飾ALPとのカップリング反応液についてSECによる分取を行い、取得した各画分の非還元SDS-PAGE及びSECによる分析の結果を、図8A~Cに示した。図8Aにおいて、破線で囲まれた2つのピークは、リテンションタイムが早い順に、ALPと2分子のFabが結合したALP標識Fab((Fab-PEG)2-ALP)及び1分子のALPと1分子のFabが結合したALP標識Fab(Fab-PEG-ALP)と結論した。実際、図8Bにおいて、Fab-PEG-ALPについては、ALP(m)(分子量約6万)のバンドと、Fabが1分子結合したと思われる分子量10万~13万程度の位置にある2つのバンドが検出された。ALP(m)に対しバンドが2つ検出されたことについては、ALP分子へのマレイミド修飾が、当該ALP分子中のLys残基の側鎖へのランダム修飾であるので、SH-PEGを介したALPへのSH-PEG-Fabの結合部位により、見かけ上、2種類の大きさのFab-ALPモノマー結合体種が生成されたと考察した。実際、このように直鎖高分子PEG鎖のランダムな1分子結合体が、電気泳動において2種類のバンドとして確認された事例は過去に報告されていた(Sato H., Advanced Drug Delivery Reviews, 54, 487-504 (2002)参照)。FabとSH-PEGを介して結合しているALP上のEMCSリンカーが、ALP分子に対しランダム修飾されたことによる影響であると考えられた。(Fab-PEG)2-ALPについては、泳動において未修飾ALPのバンドはほとんど認められなかった。メインは、上記の分子量約10万~13万程度の2バンドとなるFab-PEG-ALPであった。さらに、分子量約20万程度の位置に、(Fab-PEG)2-ALP由来と考えられるバンドが1つ検出された。これらの結果はリーズナブルであった。このうち、Fab-PEG-ALPを性能評価することとした。図8Cに示されるように、どちらの精製物もSEC分析において1ピークとなっており、純度は高かった。なお、精製物の泳動バンドから推定される分子量が、各タンパク質の分子量和より高分子側に検出されたことは、直鎖高分子PEG(2K)を介した結合により、結合体分子としての見かけ上の大きさが大きくなったことが原因と考えられた。
6.csF028-22Fab-QtagからのSH-PEG-FabのALP標識(実験例3)
(1) カップリング反応液のSEC分析
csF028-22Fab-QtagからのSH-PEG(2K)-Fab、マレイミド修飾ALP((Mal)n-ALP)、及びそれらのカップリング反応液のSEC分析の結果を、図9に示した。図中、「カップリング」とは、SH-PEG(2K)-Fabとマレイミド修飾ALPとのカップリング反応液の分析結果である。FabとALPの混合比がわずか3:1であるにも関わらず、SH-PEG(2K)-Fab由来のピーク(リテンションタイム約18.4分)は30%程度しか残らず、(Mal)n-ALP由来のピーク(リテンションタイム約15.3分)も10%程度しか残らなかった。反応効率は他のALPカップリングと同様高かった。そして、Fab-PEG-ALPと推定される副ピーク(リテンションタイム約14.8分)及び(Fab-PEG)2-ALPと推定される副ピーク(リテンションタイム約13.8分)に加え、ALP1分子に対してFabが3分子結合したと推定される主ピーク((Fab-PEG)3-ALP、リテンションタイム約12.8分)が確認された。
(2) カップリング反応ピークのSEC分取及び取得した画分のSEC分析
csF028-22Fab-QtagからのSH-PEG(2K)-Fabとマレイミド修飾ALP((Mal)n-ALP)とのカップリング反応液についてSECによる分取を行い、取得した各画分の非還元SDS-PAGE及びSECによる分析の結果を、図10A及びBに示した。図10Aより、分取した各画分では、推定したFab結合数に準じたALPモノマー修飾体プロファイルに相当するバンドが観察された。図10Bにおいて、各ピークは、リテンションタイムが早い順に、(Fab-PEG)3-ALP、(Fab-PEG)2-ALP及びFab-PEG-ALPと結論した。(Fab-PEG)3-ALP及び(Fab-PEG)2-ALPの純度は高かったのに対し、Fab-PEG-ALPの純度はやや低かった。しかし、いずれも主生成物がメインピークとして確認された。
7.sF001-5Fab’とマレイミド修飾ALPとのカップリング反応(実験例4)
sF001-5Fab’と(Mal)n-ALPとのカップリング反応液のSEC分取時のクロマトグラムと、取得した各画分の非還元SDS-PAGEによる分析結果を、図11A及びBに示した。csF001-5FabからのSH-PEG-FabのALP標識(実験例3参照)では、SH-PEG-Fabと(Mal)n-ALPとのモル比は1:1だったのに対し、この反応ではFab’:ALP = 5:1のカップリング比率で行った。その結果、図11Aに示されるように、未反応の(Mal)n-ALPのピークの面積は、カップリング体のピークの面積より大きかった。これは、sF001-5Fab’中のCys残基の側鎖にあるSH基と(Mal)n-ALPとのカップリング効率が、csF001-5FabからのSH-PEG-Fabと(Mal)n-ALPとのカップリング効率に比べて低いことを意味した。実際、SH-PEGリンカー法とランダム標識法のそれぞれに用いたALPのマレイミド修飾率は、EMCS試薬の添加量として前者が20当量に対し、後者は30当量と高かった。また、実際のEMCS修飾に伴い、SDS-PAGEのバンドも複数観察されたことから、ランダム標識法でのカップリング反応におけるALPのマレイミド修飾率も高かったと考えられた。本結果から、ランダム標識法に対し、SH-PEGリンカー法によるSH-PEG-Fabとマレイミド修飾ALPとのカップリング効率の高さは際立っていた。
ALPは75kDaの分子が2つ合わさった150kDaの二量体として存在するが、図11Bに示されるように、SDS-PAGEではモノマーとして観察され、70kDa付近にバンドが観察された。一方、カップリング体では100kDa以上に複数のバンドが観察された。PEG-SHリンカーによる結合体と異なり、カップリング体は見かけの大きさを反映し、Fab 1分子結合体、2分子結合体、更に複数個結合した結合体のバンドが生成していると考える。さらに高分子量側のカップリング体においては、還元後、酸化工程を入れていないため、一部、Fab’のH鎖L鎖間のS-Sが還元されたまま、Fab’分子に2個のALPモノマーが結合したものも生成している可能性があった。ただし、分取フラクションからは未標識ALP由来のバンドがほとんど検出されなかったことから、以下の評価で使用する(Fab)n-ALPに未標識ALPはほとんど混入していなかった。この(Fab)n-ALP精製サンプルのSEC分析結果を図12に示す。csF001-5FabからのSH-PEG-FabとALPとの均質複合体((Fab-PEG)2-ALP及びFab-PEG-ALP)のSEC分析の結果(図5参照)と異なり、図12では、(Fab)n-ALPのSECピークがブロードで、Fab結合数毎のピーク分離性が低かった。これは、前者がPEG鎖を介してFabとALPが結合することにより、見かけの分子量が大きくなり、SECでの分離性が高まったのに対し、(Fab)n-ALPでは短鎖のEMCSリンカーを介した結合体であるため、見かけの分子量は大きくならず、分離性が低いためであった。また、Fabの結合数毎の個々のピークが、(Fab-PEG)2-ALP及びFab-PEG-ALPのそれぞれに対してブロードであることは、Fab-PEGがヒンジ部選択的なPEG鎖末端SH基のみとの結合体であるのに対し、ランダム標識法によるカップリング体では、Fabの結合部位がヒンジ部Cys残基、及び鎖間Cys残基等、複数個所存在することにより、ALP結合体構造がよりヘテロであるためであった。
8.ALP標識抗体のALP活性測定(実験例7)
ALP分子自体と、csF028-22Fab-QtagからのFab-PEG-ALP、(Fab-PEG)2-ALP及び(Fab-PEG)3-ALPのALP比活性を表3に示した。表3に示されるように、各ALP標識抗体は、ALP分子に対するFab-PEG結合数が増加しても、その比活性は低下しなかった。よって、本実施形態の製造方法により、ALP活性が保持されたALP標識ポリペプチドが調製可能なことが示された。なお、比活性が100%を超えたことは、分画サンプルの純度が影響したことによると考えた。
9.Fab-PEG-ALP及び(Fab’)n-ALPを含む試薬の性能評価(実験例8)
(1) R3試薬の反応性
csF001-5Fab-QtagからのFab-PEG-ALPと、ランダム標識法により得られた(Fab’)n-ALPのそれぞれをR3試薬として用いて、D-PBS(0.1% BSA, pH7.4)ベースの検体を測定した結果を、シグナル、ノイズ(バックグラウンドともいう)及びシグナル/ノイズ(S/N)比に分けて、図13A~Cに示した。図中、横軸の抗体濃度は、各抗体に結合したALPの活性を表す。HISCL(登録商標) HIV Ag+Ab試薬の測定値(count)は、抗原濃度に依存して上昇するので、図13Aのグラフにおいて、シグナルの値が高ければ高いほど、抗原との反応性が高いことを示した。逆に、図13Bのグラフにおいて、ノイズの値が低ければ低いほど、特異性が高いことを示した。(Fab’)n-ALPでは、比較的シグナルが大きくなったが、ノイズも大きくなった。結果として、図13Cに示されるように、(Fab’)n-ALPでは、検出用試薬の感度を示すS/N比は低くなった。一方、csF001-5Fab-QtagからのFab-PEG-ALPについては、シグナル及びノイズともに(Fab’)n-ALPよりも小さくなった。特にノイズは、(Fab’)n-ALPに比べて非常に低く抑えられた。結果として、感度を示すS/N比は、0.5 U/mLにおいて(Fab’)n-ALPの4倍以上の値を示した。なお、Fab-PEG-ALPの同じALP活性値に対し、(Fab’)n-ALPの方が高いシグナル値を示すのは、ALP1分子に対し平均して複数分子のFabが結合したことによると考えられた。以上の結果から、本実施形態の製造方法により得られる酵素標識抗体を用いることで、体外診断薬の感度の向上が期待される。
(2) 血清由来成分によるバックグラウンド上昇の抑制
バックグラウンドを比較するため、csF001-5Fab-QtagからのFab-PEG-ALPと(Fab’)n-ALPのそれぞれをR3試薬として用いて、D-PBS(0.1% BSA, pH7.4)及びヒトプール血清を測定した結果を、図14に示した。PBSベースの検体の測定では、csF001-5Fab-QtagからのFab-PEG-ALPの方が(Fab’)n-ALPよりもバックグラウンドが低下することは上記のとおりであったが、図14に示されるように、ヒト血清中でのバックグラウンドを比較した結果、その差異がさらに顕著となった。すなわち、(Fab’)n-ALPにおいては、血清中でそのバックグラウンドが5.6倍高まったのに対し、Fab-PEG-ALPにおいては1.26倍とほとんど上昇を認めなかった。血清中には様々なタンパク質や脂質が含まれるので、緩衝液ベースの検体よりもバックグラウンドが高くなる場合が多い。この結果において、構造不均一な(Fab’)n-ALPに対し、SH-PEGリンカーを介したFab-PEG-ALPが血清由来のバックグラウンド上昇を抑制できた要因は、Fab-PEG-ALPは、構造が均質であることに加え、水和により親水性が高い直鎖PEGリンカーにより構成された分子種であることと考えた。図示しないが、バックグラウンドが低下したことにより、Fab-PEG-ALPでは、感度についてもp24抗原の全濃度域で上昇し、最大30倍程度向上した。
10.HBs628Fab-QtagからのSH-PEG-Fabの調製及びそのビオチン標識(実験例1及び2)
(1) BTGaseを用いたSH-PEG-NH2リンカー(2K)によるHBs628Fab-Qtagの修飾
HBs628Fab-Qtagと上記(a)のSH-PEG-NH2リンカー(2K)(Sigma-Aldrich社)とのBTGaseによる反応後の生成物をSEC分析の結果を、図15に示した。図中、「+SH-PEG-NH2」とは、SH-PEG-NH2リンカー(2K)を添加した反応液の分析結果であり、「-SH-PEG-NH2」とは、SH-PEG-NH2リンカー(2K)を添加しなかった反応液の分析結果である。図15より、リンカーを添加しなかった場合では、csF001-5Fab-Qtagと同様、Fabのピークに変化は認められなかった。すなわち、Qタグ中のGln残基とFab上のLys残基との間でのFab同士の分子間会合は起こっていなかった。一方、リンカーを添加した場合では、リテンションタイム12.3分付近の未修飾Fabのピークが減少し、高分子量側であるリテンションタイム11.5分付近にシフトした1ピークが新たに確認された。これは、直鎖構造のSH-PEG-NH2リンカー1分子がQタグを介して結合したSH-PEG-Fabにおいて、見かけの大きさが高まり、分離したピークとして観察されたことを示した。なお、当該ピークが未修飾Fabピークに比べブロードであるのは、リンカー中のPEG鎖が広い分子量分布を有するためである。ピーク面積から換算した反応効率は約72%であり、csF001-5Fab-Qtagの結果と同程度であった。
(2) HBs628Fab-QtagからのSH-PEG-Fabのビオチン標識
csF001-5Fab-Qtagと上記(a)のSH-PEG-NH2リンカー(2K)(Sigma-Aldrich社)との反応液のSEC分析におけるリテンションタイム11.5分のピークを分取して分析した結果と、SH-PEG-Fabを含む濃縮液とBiotin-PEAC5-maleimideとの反応液のSEC分析におけるピークを分取して分析した結果を、図16A及びBに示した。各反応液のSEC分析において分取されたピークは、図16Aにおける破線で囲まれたピークであった。図16Bを参照して、csF001-5Fab-QtagとSH-PEG-NH2リンカー(2K)との反応液及びその分取サンプルの非還元SDS-PAGE分析結果から、生成物であるSH-PEG-Fabは、未反応Fabに対し40KDa付近において高分子量側にわずかにシフトしており(→で示したバンド)、1分子のSH-PEG-NH2リンカーが結合したことが示唆された。なお、電気泳動において一部、H鎖とL鎖が結ばれていないことによる20KDa付近に2つのバンドが検出された。これは、SH-PEG-NH2リンカー(2K)の結合によりFabのパッキング構造が変わり、一部リンカーのSH基により還元されたものであった。実際、FabとSH-PEG-NH2リンカー(2K)とを、反応液中でBTGase無添加の状態で放置しても、FabのH鎖L鎖間のS-S結合は還元されない(Data not shown)。図16Cを参照して、精製サンプルはSEC純度が高く、1ピークであった。
図16Bを参照して、SH-PEG-FabとBiotin-PEAC5-maleimideとの反応液及びその分取サンプルの非還元SDS-PAGE分析結果から、SH-PEG-Fabと同様に、40KDa付近で未修飾Fabに対して、わずかにシフトした1バンドが検出された。バンド強度は、反応液のSEC分取のクロマトグラムにおける修飾画分のピーク強度比を反映していた。また、SH-PEG-Fabにおいて認められたH鎖とL鎖由来のバンドはほぼ検出されず、FabのS-S結合は再構成されていることが確認できた。Biotin-PEAC5-maleimideでの修飾により、SH-PEG-Fabのパッキング構造が安定し、一部切れていた鎖間S-S結合が構成されたためと考えられた。さらに、このビオチン修飾体反応液、及びその分取体のみ、非還元SDS-PAGEにおける生成物の位置に高い強度のバンドが確認されており、SH-PEG-Fabがビオチン標識されたことが示された。
11.HBs628Fab-QtagからのSH-PEG-Fab及びビオチン-PEG-FabのLC-MS分析(実験例2)
(1) HBs628Fab-QtagのLC-MS分析の結果
HBs628Fab-Qtagの非還元及び還元したサンプルのLC-MSスペクトルを、図17A及びBに示した。図17Aを参照して、非還元サンプルのLC-MSにおいては、HBs628Fab-Qtagの+20から+41価の多価イオンが観察された。一部のCys残基が還元状態になっている可能性があるが、計測分子量を反映したスペクトルであった。一方、図17Bを参照して、還元したサンプルのLC-MSにおいて、L鎖とH鎖の多価イオンが観測された。また、L鎖については、N末端の2残基が切断された切断物が観察された。L鎖とH鎖は、N末端がピログルタミル化されているものの、デザインした骨格構造体であることが示された。
(2) SH-PEG-Fab及びビオチン-PEG-FabのLC-MS分析の結果
HBs628Fab-QtagとそのSH-PEG-Fab及びビオチン-PEG-Fabの非還元サンプルのLC-MSスペクトルを、図18に示した。SH-PEG-Fab及びビオチン-PEG-Fabのそれぞれについて、図18の中段及び下段のスペクトル中、▼で示した多価イオンが観察された。シグナルはPEG鎖の分子量分布を反映し、ブロードなシグナルとして観察された。非還元のSH-PEG-Fab及びビオチン-PEG-Fabの計測平均分子量(数平均分子量)はそれぞれ48710及び49223であった。未修飾HBs628Fab-Qtagの計測平均分子量(数平均分子量)との差はそれぞれ2141と2654であった。よって、SH-PEG-Fab及びビオチン-PEG-Fabはそれぞれ、平均して1つのSH-PEG鎖(2K)及び1つのビオチン-PEG鎖(2K)が結合していることが示唆された。
HBs628Fab-Qtag及びそのSH-PEG-Fabの還元したサンプルのLC-MSスペクトルを、図19に示した。還元によりL鎖とH鎖の多価イオンが観測された。SH-PEG-FabのL鎖のスペクトルパターンは、HBs628Fab-Qtagのものと変わらなかった。一方、SH-PEG-FabのH鎖は、PEG鎖の分子量分を反映してブロードなシグナルとして観察された(弧「⌒」を付した箇所参照)。以上の結果から、BTGaseが触媒する反応により、1分子の上記(a)のSH-PEG-NH2リンカー(2K)(Sigma-Aldrich社)がHBs628Fab-QtagのH鎖に結合していることが示された。ここで、抗体中の内在Gln残基は、Fc部分の糖鎖除去後のGln295を除いて、BTGaseの基質とならないことが知られている(国際公開第2012/059882号及びJeger S.ら, Angew.Chem.Int.Ed.Engl., 49, 9995-9997 (2010)参照)。よって、1分子のSH-PEG-NH2リンカー(2K)がHBs628Fab-QtagのQタグ中のGln残基に結合していることが示唆された。
12.HBs628Fab-QtagからのSH-PEG-FabのALP標識(実験例3)
HBs628Fab-QtagからのSH-PEG(2K)-Fabとマレイミド修飾ALP((Mal)n-ALP)とのカップリング反応液についてSECによる分取を行い、取得した各画分のSEC分析の結果を、図20に示した。また、当該カップリング反応液と各原料を非還元SDS-PAGEにより分析した結果を、図21に示した。図20を参照して、FabとALPとの混合比が2:1、1:1又は1:2の反応液のSEC分析におけるピーク面積比から算出したSH-PEG-Fabの残留率に大きな違いがなく、ほぼ80%程度が反応した。SH-PEG-Fabの(Mal)n-ALPに対する添加モル比が高いほど、(Fab-PEG)2-ALP由来のリテンションタイム約12.3分のピーク面積の割合が高まった。よって、SH-PEG-Fabは、csF001-5Fab-Qtagの結果と同様、マレイミド修飾ALPとの反応効率がPEGリンカー効果により高まることが示された。さらに、その反応モル比をコントロールすることにより、ALPに対しFabの結合割合を調整できることが示された。なお、3種の反応条件において(Mal)n-ALPピークの残存率が、添加するSH-PEG-Fabのモル比が高いほど低下しており、リーズナブルであった。図21を参照して、それぞれの原料及び反応液の非還元SDS-PAGE(二量体であるALPモノマーでの生成物のバンドに相当)の結果から、(Mal)n-ALPに対するSH-PEG-Fabの添加比率が高いほど、ALPモノマーに対しSH-PEG-Fabが結合したと思われるバンド数が増えた。また、高分子量域のバンドの割合が高まっていることからも、FabとALPのようなタンパク質同士のカップリング比率を調整できることが、非還元SDS-PAGEの結果からも示された。
13.csF001-25Fab-QtagからのSH-PEG-Fabの調製及びその蛍光標識(実験例1及び5)
(1) BTGaseを用いたSH-PEG-NH2リンカー(2K)によるcsF001-25Fab-Qtagの修飾
導入効率を高めた反応条件でのcsF001-25Fab-Qtagと上記(a)のSH-PEG-NH2リンカー(2K)(Sigma-Aldrich社)とのBTGaseによる反応の後、脱塩及び濃縮した反応液のSEC分析の結果を、図22に示した。図中、「Fab」とは、SH-PEG-NH2リンカー(2K)を添加しなかった反応液の分析結果である。リテンションタイム19.8分付近の未修飾Fabのピークがほぼ消失し、高分子量側であるリテンションタイム18.9分付近にシフトしたピークが新たに確認された。反応効率はピーク面積から93%であった。
(2) Alexa488-マレイミドによるSH-PEG-Fabの蛍光標識
csF001-25Fab-QtagからのSH-PEG(2K)-FabとAlexa488-マレイミドとの反応液をSEC分析した結果を、図23A及びBに示した。図23A中、上のクロマトグラムが、Alexa488-マレイミドを20当量添加した反応液の分析結果であり、下のクロマトグラムが、Alexa488-マレイミドを添加しなかった反応液の分析結果である。図23Aを参照して、リテンションタイムに違いが見られず、蛍光団標識による凝集等が起こっていないことが示された。また、Alexa488-マレイミドを添加しなかった反応液において、下のクロマトグラムではSH-PEG鎖リンカー同士の会合由来ピークも認められず、会合も起こらないことが示された。Alexa488-マレイミドを添加した反応液の脱塩及び精製画分について、SEC分析をUV及び蛍光吸収で確認した結果、図23Bに示されるように、生成物はAlexa488由来の蛍光吸収を示した。よって、SH-PEG-FabとAlexa488-マレイミドとが1対1で結合したAlexa488-PEG-Fabが作製できたことが示された。
14.csF001-25Fab-QtagからのSH-PEG-Fab及びAlexa488-PEG-FabのLC-MS分析(実験例5)
csF001-25Fab-Qtag及びそのSH-PEG-Fab及びAlexa488-PEG-Fabの還元したサンプルのLC-MSスペクトルを、図24A及びBに示した。図24Bは、図24Aの拡大図である。SH-PEG-NH2リンカー(2K)の結合により、SH-PEG-FabのL鎖のスペクトルパターンは、csF001-25Fab-Qtagのものと変わらなかった。一方、SH-PEG-FabのH鎖の多価イオン(↓印付した箇所参照)は、PEG鎖の分子量分を反映してブロードなシグナルとして観察された(▼を付した箇所参照)。この結果から、BTGaseが触媒する反応により、1分子のSH-PEG-NH2リンカー(2K)がcsF001-25Fab-QtagのH鎖に結合していることが示された。上記のように、抗体中の内在Gln残基は、Fc部分の糖鎖除去後のGln295を除いて、BTGaseの基質とならないことが知られていることから、1分子の上記(a)のSH-PEG-NH2リンカー(2K)(Sigma-Aldrich社)がHBs628Fab-QtagのQタグ中のGln残基に結合していることが示唆された。さらに、Alexa488-マレイミドの結合により、H鎖の多価イオンのブロードなPEG鎖由来スペクトルがほぼ消失し、1分子のAlexa488の結合を反映したシフトが観察された(▼を付した箇所参照)。この結果から、Alexa488-PEG-Fabは、1分子のAlexa488がSH-PEGリンカーを介して結合したFabであることが示された。
15.BTGaseを用いたSH-PEG-NH2リンカー(2K)による抗CD20 Fab-Qtagの修飾(実験例1)
導入効率を高めた反応条件での抗CD20 Fab-Qtagと上記(a')のSH-PEG-NH2リンカー(2K)(Sigma-Aldrich社)とのBTGaseによる反応の後、脱塩及び濃縮した反応液のSEC分析の結果を、図25に示した。図中、「Fab-Qtag」とは、SH-PEG-NH2リンカー(2K)を添加しなかった反応液の分析結果である。リテンションタイム20.2分付近の未修飾Fabのピークがほぼ消失し、高分子量側であるリテンションタイム19.0分付近にシフトしたピークが新たに確認された。反応効率はピーク面積から77%であった。導入効率を高めた条件で反応を行ったにもかかわらず、他のFab-Qtagに比べて、反応効率が低かったことは、おそらくQタグのC末端にプロリン残基入っていないためにペプチダーゼの影響を受けやすく、Fab-Qtag原料中にQtagが切断されたものが含まれていたためであると考えた。
16.SH-PEG-FabのR-PE標識(実験例6)
(1) R-PEのマレイミド修飾
R-PEとEMCS試薬との反応液をSEC及び逆相HPLCで分析した結果を、図26A及びBに示した。図26Aを参照して、EMCS試薬との反応により得られたマレイミド修飾R-PEのピークは、未修飾R-PEに比べ、リテンションタイムに大きな違いは認められなかった。よって、R-PEの構造が保持されていることが示唆された。一方、その逆相HPLCの分析結果においては、図26Bに示されるように、R-PEの主構成ユニットであるαサブユニット及びβサブユニットと推定されるピークが、EMCS修飾により、リテンションタイム後方にブロード化していた。よって、疎水性の高いEMCS試薬が複数結合したマレイミド修飾体((Mal)n-R-PE)が調製できたと判断した。なお、ピークの帰属については、ピーク面積値の大きさから、後方ピークを分子量が大きいβサブユニットとし、前方ピークを分子量が小さいαサブユニットとしたが、これらは暫定的であった。
(2) csF001-25Fab-QtagからのSH-PEG-Fabとマレイミド修飾R-PEとのカップリング反応
sF001-25Fab-QtagからのSH-PEG(2K)-Fab、(Mal)n-R-PE、及びそれらのカップリング反応液のSEC分析の結果を、図27に示した。FabとR-PEの混合比がわずか3:1であるにも関わらず、SH-PEG(2K)-Fab由来のピーク(リテンションタイム約19.2分)は減少し、(Mal)n-R-PE由来のピーク(リテンションタイム約16.0分)も約7%しか残らなかった。すなわち、反応効率が高かった。PEG効果(見かけの分子量が高まる)を想定したリテンションタイムから、Fab-PEG-R-PEと推定されるピーク(リテンションタイム約14.8分)に加え、(Fab-PEG)2-R-PEと推定されるピーク(リテンションタイム約13.4分)及び(Fab-PEG)3-R-PEと推定されるピーク(リテンションタイム約12.8分)が確認された。
(3) カップリング反応ピークのSEC分取及び取得した画分のSEC分析
sF001-25Fab-QtagからのSH-PEG(2K)-Fabとマレイミド修飾ALPとのカップリング反応液についてSECによる分取を行い、取得した各画分をSEC分析した結果を、図28に示した。図28より、各ピークは、リテンションタイムが早い順に、(Fab-PEG)3-R-PE、(Fab-PEG)2-R-PE及びFab-PEG-R-PEと結論した。そのUVピーク面積当たりの蛍光強度は、Fab-PEGの結合数が増えるほど低下する傾向にあり、推察した結合体構造を反映していた。(Fab-PEG)3-ALP及び(Fab-PEG)2-ALPの純度は高かったのに対し、Fab-PEG-ALPの純度はやや低かった。しかし、いずれも主生成物がメインピークとして確認された。生成物のピークはR-PEとの反応に伴い、PE由来の蛍光吸収が確認された。
(4) 抗CD20 Fab-QtagからのSH-PEG-Fabとマレイミド修飾R-PEとのカップリング反応
抗CD20 Fab-QtagからのSH-PEG(2K)-Fab、(Mal)n-R-PE、及びそれらのカップリング反応液のSEC分析の結果を、図29に示した。FabとR-PEの混合比がわずか3:1であるにも関わらず、SH-PEG(2K)-Fab由来のピーク(リテンションタイム約19.2分)は減少し、(Mal)n-R-PE由来のピーク(リテンションタイム約15.8分)もほぼ残らなかった。すなわち、反応効率が高かった。PEG効果(見かけの分子量が高まる)を想定したリテンションタイムから、Fab-PEG-R-PEと推定されるピーク(リテンションタイム約14.8分)に加え、(Fab-PEG)2-R-PEと推定されるピーク(リテンションタイム約13.4分)及び(Fab-PEG)3-R-PEと推定されるピーク(リテンションタイム約12.8分)が確認された。生成物のピークはR-PEとの反応に伴い、PE由来の蛍光吸収が確認された。
(5) カップリング反応ピークのSEC分取及び取得した画分のSEC分析
抗CD20 Fab-QtagからのSH-PEG(2K)-Fabとマレイミド修飾ALPとのカップリング反応液についてSECによる分取を行い、取得した各画分をSEC分析した結果を、図30に示した。図30より、各ピークは、リテンションタイムが早い順に、(Fab-PEG)3-R-PE、(Fab-PEG)2-R-PE及びFab-PEG-R-PEと結論した。そのUVピーク面積当たりの蛍光強度は、Fab-PEGの結合数が増えるほど低下する傾向にあり、推察した結合体構造を反映していた。(Fab-PEG)3-ALP及び(Fab-PEG)2-ALPの純度は高かったのに対し、Fab-PEG-ALPの純度はやや低かった。しかし、いずれも主生成物がメインピークとして確認された。生成物のピークはR-PEとの反応に伴い、PE由来の蛍光吸収が確認された。
17.Alexa488標識抗体の抗原結合能の評価(実験例9)
csF001-25Fab-QtagとそのSH-PEG(2K)-Fab及びAlexa488-PEG-Fabの抗原に対する相互作用を、Biacore(商標) T200(Cytiva社)により測定し結果を、表4及び図31A~Dに示した。なお、SH-PEG(2K)-Fab及びAlexa488-PEG-Fabの測定日がそれぞれ異なるので、結果を分けて示した。表4に示されるように、SH-PEG(2K)-Fab及びAlexa488-PEG-FabのKD値はいずれも、未修飾Fab(csF001-25Fab-Qtag)のKD値と差は認められなかった。また、図31A~Dに示されるように、センサーグラムのパターンにも大きな違いは認められなかった。したがって、本標識方法による抗原結合能への影響はなかった。
18.R-PE標識抗体の抗原結合能(実験例10)
csF001-25Fab-QtagからのFab-PEG-R-PE、(Fab-PEG)2-R-PE及び(Fab-PEG)3-R-PEの抗原結合能をELISAにより測定した結果を、図32A及びBに示した。図32Aは、抗原を添加しなかった場合の結果を示し、図32Bは、抗原を添加した場合の結果を示す。図32Aを参照して、検出用試薬の蛍光強度を揃えた(すなわち、R-PE標識抗体のモル濃度を揃えた)上で、各希釈倍率における蛍光シグナル値を比較した。その結果、いずれの希釈倍率においても、検出された蛍光シグナル値に大きな違いは認められなかった。一方、図32Bを参照して、抗原を添加した場合では、検出された蛍光シグナル値についてR-PE標識抗体間で違いが認められた。具体的には、同じ希釈倍率においては、Fab-PEG-R-PEの蛍光シグナル値が最も低く、(Fab-PEG)2-R-PEの蛍光シグナル値は二番目に高く、(Fab-PEG)3-R-PEの蛍光シグナル値が最も高くなった。すなわち、Fab-PEG分子の結合数が高いほど、その蛍光シグナル値は高かった。これは、R-PE分子上にFab-PEG分子が複数個結合することにより、抗原結合におけるアビディティ効果が発揮され、R-PE分子当たりの抗原キャプチャー能が高まったためと考えた。実際、検出用試薬における(Fab-PEG)2-R-PE及び(Fab-PEG)3-R-PEの濃度をそれぞれFab-PEG-R-PEの約1/3及び約1/5にすることで、Fab-PEG-R-PEを用いた場合と同程度の蛍光シグナル値を示した。この結果より、R-PEに対しFab-PEG分子を複数個結合させたR-PE標識抗体は、抗原結合能が高まり、分子当たりに換算した抗体-R-PE結合体の蛍光シグナル値を増大させる効果があることが示された。
19.R-PE標識抗体を含む試薬の性能評価(実験例11)
抗CD20 Fab-QtagからのFab-PEG-R-PE、(Fab-PEG)2-R-PE及び(Fab-PEG)3-R-PEのそれぞれを検出用抗体として用いるFCM法によりCD20発現細胞(Ramos細胞)を測定した結果を、図33に示した。検出用試薬の蛍光強度を揃えた(すなわち、R-PE標識抗体のモル濃度を揃えた)上で、各希釈倍率における蛍光シグナル値を比較した。図33を参照して、検出された蛍光シグナル値についてR-PE標識抗体間で違いが認められた。具体的には、同じ希釈倍率においては、Fab-PEG-R-PEの蛍光シグナル値が最も低く、(Fab-PEG)2-R-PEの蛍光シグナル値は二番目に高く、(Fab-PEG)3-R-PEの蛍光シグナル値が最も高くなった。すなわち、Fab-PEG分子の結合数が高いほど、その蛍光シグナル値は高かった。これは、R-PE分子上にFab-PEG分子が複数個結合することにより、細胞上のCD20への結合におけるアビディティ効果が発揮され、R-PE分子当たりの抗原キャプチャー能が高まったためと考えた。実際、検出用試薬における(Fab-PEG)2-R-PE及び(Fab-PEG)3-R-PEの濃度をそれぞれFab-PEG-R-PEの約1/3及び約1/4にすることで、Fab-PEG-R-PEを用いた場合と同程度の蛍光シグナル値を示した。よって、R-PEに対しFab-PEG分子を複数個結合させたR-PE標識抗体は、アビディティ効果により、FCMに用いる検出用試薬の性能を向上できることが示された。
20.SH-PEG-NH2リンカー(3.5K)及びSH-PEG-NH2リンカー(5K)のInfusion MS分析の結果
上記(d)及び(e)の各SH-PEG-NH2リンカー(Sigma-Aldrich社)をInfusion MSにより分析した結果を、図34A及びBに示した。図中、矢印は、分子量の最小値を示したピーク、最頻分子量を示したピーク、及び、分子量の最大値を示したピークを指す。上記(d)及び(e)のリンカーの最頻分子量はそれぞれ、3511.1及び4699.8であった。また、分析結果に基づいて、各リンカーの重量平均分子量を算出した。図34A及びBから分かるように、各リンカーの重量平均分子量及び分子量分布は、メーカーにより開示された平均分子量に近いプロファイルであった。具体的には、下記のとおりであった。
・上記(d)のリンカー:重量平均分子量3544.2、分子量分布2982.7~4171.5
・上記(e)のリンカー:重量平均分子量4586.6、分子量分布3951.3~5228.1
BTGase反応液(NaCl無添加、pH8.2)を添加した後の各SH-PEG-NH2リンカーは、ジスルフィド(S-S)結合を介した二量化はほぼ確認されず、PEG鎖の分子量分布に相関したモノマーのMSスペクトルが検出された。したがって、上記(d)及び(e)のSH-PEG-NH2リンカーはいずれも、会合していないことが示された。
21.Alexa488-マレイミドによるSH-PEG-Fabの蛍光標識(実験例12及び13)
(1) BTGaseを用いたSH-PEG-NH2リンカー(3.5K/5K)によるcsF001-5Fab-Qtagの修飾
導入効率を高めた反応条件でのcsF001-25Fab-Qtagと、上記(d)のSH-PEG-NH2リンカー(3.5K)(Sigma-Aldrich社)及び上記(e)のSH-PEG-NH2リンカー(5K)(Sigma-Aldrich社)のそれぞれとのBTGaseによる反応の後、脱塩及び濃縮した反応液のSEC分析及び非還元SDS-PAGEの結果を、図35A~Cに示した。図35Aを参照して、リテンションタイム19.8分付近の未修飾Fabのピークがほぼ消失し、高分子量側であるリテンションタイム18.4分付近(3.5K)及び17.9分付近(5K)のそれぞれにシフトしたピークが新たに確認された。これらのリテンションタイムは、SH-PEG(2K)-Fabに対して、より高分子側にシフトしていた。反応効率はピーク面積から98%(3.5K)及び92%(5K)であった。
(2) Alexa488-マレイミドによるSH-PEG-Fabの蛍光標識
csF001-25Fab-QtagからのSH-PEG(3.5K)-FabとAlexa488-マレイミドとの反応液をSEC分析した結果を、図36A及びBに示した。csF001-25Fab-QtagからのSH-PEG(5K)-FabとAlexa488-マレイミドとの反応液をSEC分析した結果を、図37A及びBに示した。図36A及び37A中、上のクロマトグラムが、Alexa488-マレイミドを20当量添加した反応液の分析結果であり、下のクロマトグラムが、Alexa488-マレイミドを添加しなかった反応液の分析結果である。
図36Aを参照して、反応液のSEC分析において、Alexa488の結合に伴いリテンションタイムにわずかな違いが認められたが(SH-PEG-Fab:約18.6分、Alexa488-PEG-Fab:約18.4分)、蛍光団標識による凝集等が起こっていないことが示された。また、図36Bに示されるように、反応液のSEC分析において、生成物は、リテンションタイム約18.4分付近にAlexa488由来の蛍光吸収を示した。よって、SH-PEG(3.5K)-FabとAlexa488-マレイミドとが1対1で結合したAlexa488-PEG-Fabが作製できたことが示された。
図37Aを参照して、反応液のSEC分析において、Alexa488の結合に伴いリテンションタイムにわずかな違いが認められたが(SH-PEG-Fab:約18.2分、Alexa488-PEG-Fab:約17.9分)、蛍光団標識による凝集等が起こっていないことが示された。また、図37Bに示されるように、反応液のSEC分析において、生成物は、リテンションタイム約18.0分付近にAlexa488由来の蛍光吸収を示した。よって、SH-PEG(5K)-FabとAlexa488-マレイミドとが1対1で結合したAlexa488-PEG-Fabが作製できたことが示された。
22.SH-PEG-NH2リンカー(400Da)によるFab抗体の修飾(実験例14)
(1) BTGaseを用いたSH-PEG-NH2リンカー(400Da)によるcsF001-5Fab-Qtagの修飾
csF001-5Fab-Qtagと上記(f)のSH-PEG-NH2リンカー(400Da)(Nanocs Inc.社)とのBTGaseによる反応液をSEC分析(分取)した結果を、図38に示した。図38より、SH-PEG-NH2リンカー(400Da)を添加した場合に、ピークトップがわずかにリテンションタイム前方にシフトしていた。当該リンカーが1分子結合したFabの見かけの大きさは、未修飾Fab(csF001-5Fab-Qtag)に対して、クロマトグラム上で違いがない可能性もあった。そこで、分取した画分を、次のマレイミド修飾ALPとのカップリング反応に用いた。
(2) SH-PEG(400Da)-FabのALP標識
csF001-5Fab-QtagからのSH-PEG(400Da)-Fab、マレイミド修飾ALP((Mal)n-ALP)、及びそれらのカップリング反応液のSEC分析の結果を、図39に示した。図39に示されるように、反応液のSEC分析において、リテンションタイム約13.8分付近に新たなブロードピークが検出されたが、Fab反応生成物及び(Mal)n-ALP由来の原料ピーク面積の低下はほとんど確認できなった。この結果より、SH-PEG(400Da)-Fabと(Mal)n-ALPとのカップリング反応は、ほとんど進行せず、カップリング体ができたとしてもわずかであると結論した。よって、本実施形態の標識ポリペプチドの製造方法には、SH-PEG-NH2リンカー(400Da)は適していないことが示された。
23.SH-PEG-NH2リンカー(1K)によるFab抗体の修飾(実験例15)
(1) BTGaseを用いたSH-PEG-NH2リンカー(1K)によるHBs628Fab-Qtagの修飾
HBs628Fab-Qtagと上記(g)のSH-PEG-NH2リンカー(1K)(Creative PEGWorks社)とのBTGaseによる反応液をSEC分析した結果を、図40に示した。図40に示されるように、リンカーを添加しなかった場合では、Fabのピークに変化は認められなかった。すなわち、Qタグ中のGln残基とFab上のLys残基との間でのFab同士の分子間会合は起こっていなかった。一方、リンカーを添加した場合では、リテンションタイム18.7分付近の未修飾Fabのピークが減少し、分離性はよくないが、高分子量側にピークが新たに確認された。SH-PEG-NH2リンカー(2K)の鎖長に比べ、SH-PEG-NH2リンカー(1K)はその半分の鎖長であるので、Fab-QTagに結合しても、見かけの大きさは大きく高まらないと考えた。よって、リテンションタイム約17.7分付近のピークは、SH-PEG(1K)-Fabと推定した。このピークに加え、リテンションタイム約16.9分付近にさらに高分子量由来ピークが観察された。この位置は、SH-PEG(1K)-Fabと推定した画分のSECによる溶出位置よりも高分子量側であった。よって、より高分子量側の当該画分は、SH-PEGリンカーのSH基同士のS-S結合を介した会合により生成したPEG-S-S-PEG-Fabではないかと推察した。実際、Dickgiesser S.ら(Bioconjugate Chemistry, 31, 1070-1076 (2020)参照)は、BTGaseによる反応において、SH基を有する低分子リンカーCysteamine(SH-CH2-CH2-NH2)を、TGの基質として抗体中のGln残基へ選択的導入を試みたが、CysteamineによるTG修飾抗体は上記Cysteamine中のSH基同士が会合した二量体が導入されたことを報告している。そのため、反応後、還元剤TCEPを用いて完全還元した後、再酸化によりS-S再構成を行っていた。このような知見があることからも、SH-PEG-NH2リンカー(1K)で生成したと推察されたS-S同士の会合による二量体の形成は間違いないと思われた。カップリング反応液中に未反応のFab-Qtag及びPEG-S-S-PEG-Fabが含まれていても、それらはフリーのSH基を持たず、(Mal)n-ALPと反応しないので、当該反応液を脱塩して、次のマレイミド修飾ALPとのカップリング反応に用いた。
(2) SH-PEG(1K)-FabのALP標識
HBs628Fab-QtagからのSH-PEG(1K)-Fab、マレイミド修飾ALP((Mal)n-ALP)、及びそれらのカップリング反応液のSEC分析の結果を、図41に示した。FabとALPの混合比2:1でカップリング反応を行った結果、図41に示されるように、(Mal)n-ALP由来のピーク(リテンションタイム約15.2分)は43%程度反応し、SH-PEG(1K)反応生成物のうち、SH-PEG―Fab由来と思われるピーク成分(リテンションタイム約17.8分)が消失し、ALPに1分子のFabが結合したFab-PEG-ALPと推定されるピークが新たに確認された。ただし、生成物は、このFab-PEG-ALPと推定されるピーク(リテンションタイム約13.8分)がメインであり、ALPに2分子のFabが結合した(Fab-PEG)2-ALP(リテンションタイム約12.8分)はわずかしか生成しなかった。このように、SH-PEG-NH2リンカー(1K)は、Fab-Qtagと反応する際、リンカー同士が二量体化してしまったために、(Mal)n-ALPとのカップリング効率が低かった。この結果より、PEG鎖の分子量1000程度のSH-PEG-NH2リンカーを介したFab-Qtagと(Mal)n-ALPとのカップリング体は、SH-PEG(1K)-Fabと無修飾Fab-QtagのSECによる分離性が悪かったことが示された。また、リンカー同士の会合による副反応により、タンパク質同士のカップリング効率が低く、SH-PEG-NH2リンカー(1K)の使用は実用的でないと判断した。
以上の実験結果より、本発明によると、SH-PEG-NH2リンカー(400Da)やSH-PEG-NH2リンカー(1K)を用いた場合に比べてポリペプチドへの標識の導入効率が高いことが分かった。
10: 試薬
11: 試薬キット
12: 第1容器
13: 梱包箱
14: 添付文書

Claims (30)

  1. 下記の式(I)で表される側鎖を有するグルタミン残基を含む、標識ポリペプチド。

    (式中、(C)は、グルタミン残基のα炭素であり、Xは、直鎖アルキレン基であり、Yは、ポリエチレングリコール鎖であり、Zは、標識であり、Lは、スペーサー又は結合手であり、前記ポリエチレングリコール鎖の分子量が1100以上である。)
  2. 抗体と、前記側鎖を有するグルタミン残基を含むペプチドタグとの融合ポリペプチドである請求項1に記載の標識ポリペプチド。
  3. 下記の式(II)で表される側鎖を有するグルタミン残基を含む、修飾ポリペプチド。

    (式中、(C)は、前記グルタミン残基のα炭素であり、Xは、直鎖アルキレン基であり、Yは、ポリエチレングリコール鎖であり、前記ポリエチレングリコール鎖の分子量が1100以上である。)
  4. 抗体と、前記側鎖を有するグルタミン残基を含むペプチドタグとの融合ポリペプチドである請求項3に記載の修飾ポリペプチド。
  5. 前記ポリエチレングリコール鎖の重量平均分子量が、1300以上である請求項1~4のいずれか1項に記載のポリペプチド。
  6. 前記ポリエチレングリコール鎖の重量平均分子量が、1700以上である請求項1~4のいずれか1項に記載のポリペプチド。
  7. 前記ポリエチレングリコール鎖が、下記の式(III):
    -(OCH2CH2)n-又は-(CH2CH2O)n- (III)
    (式中、nが25以上の整数である。)
    で表される請求項1~4のいずれか1項に記載のポリペプチド。
  8. 前記nが39以上の整数である請求項7に記載のポリペプチド。
  9. 前記直鎖アルキレン基の炭素数が、2以上10以下である請求項1~4のいずれか1項に記載のポリペプチド。
  10. 前記標識が、ビオチン類、酵素、蛍光色素、蛍光タンパク質及びハプテンからなる群より選択される少なくとも1種である請求項1又は2に記載の標識ポリペプチド。
  11. 前記抗体が、Fab、Fab'、F(ab')2、Fd、Fd'、Fv、scFv、dAb、rIgG、軽鎖、重鎖抗体、重鎖抗体の可変領域、ダイアボディ又はトリアボディである請求項2又は4に記載のポリペプチド。
  12. 請求項1~4のいずれか1項に記載のポリペプチドを含む試薬。
  13. トランスグルタミナーゼの存在下で、グルタミン残基を含むポリペプチドと、下記の式(VI):
    NH2-X-Y-SH (VI)
    (式中、Xは、直鎖アルキレン基であり、Yは、ポリエチレングリコール鎖であり、前記ポリエチレングリコール鎖の分子量が1100以上である。)
    で表されるリンカーとを接触することにより、前記グルタミン残基のカルボキサミド側鎖に前記リンカーを結合する工程と、
    前記カルボキサミド側鎖と前記リンカーとの結合により生成した修飾ポリペプチドを取得する工程と、
    を含み、
    前記修飾ポリペプチドにおいて前記グルタミン残基の側鎖が、下記の式(II):

    (式中、(C)は、前記グルタミン残基のα炭素であり、Xは、直鎖アルキレン基であり、Yは、ポリエチレングリコール鎖であり、前記ポリエチレングリコール鎖の分子量が1100以上である。)
    で表される、
    修飾ポリペプチドの製造方法。
  14. トランスグルタミナーゼの存在下で、グルタミン残基を含むポリペプチドと、下記の式(VI):
    NH2-X-Y-SH (VI)
    (式中、Xは、直鎖アルキレン基であり、Yは、ポリエチレングリコール鎖であり、前記ポリエチレングリコール鎖の分子量が1100以上である。)
    で表されるリンカーとを接触することにより、前記グルタミン残基のカルボキサミド側鎖に前記リンカーを結合する工程と、
    前記カルボキサミド側鎖と前記リンカーとの結合により生成した修飾ポリペプチドを取得する工程と、
    前記修飾ポリペプチドと、マレイミド基を有する標識とを接触することにより、前記修飾ポリペプチドに結合したリンカーに標識を結合する工程と、
    前記修飾ポリペプチドと標識との結合により生成した標識ポリペプチドを取得する工程と、
    を含み、前記標識ポリペプチドにおいて前記グルタミン残基の側鎖が、下記の式(I):

    (式中、(C)は、グルタミン残基のα炭素であり、Xは、直鎖アルキレン基であり、Yは、ポリエチレングリコール鎖であり、Zは、標識であり、Lは、スペーサー又は結合手であり、前記ポリエチレングリコール鎖の分子量が1100以上である。)
    で表される、
    標識ポリペプチドの製造方法。
  15. 前記グルタミン残基を含むポリペプチドが、抗体と、グルタミン残基を含むペプチドタグとの融合ポリペプチドである請求項13又は14に記載の製造方法。
  16. 前記ポリエチレングリコール鎖の重量平均分子量が、1300以上である請求項13又は14に記載の製造方法。
  17. 前記ポリエチレングリコール鎖の重量平均分子量が、1700以上である請求項13又は14に記載の製造方法。
  18. 前記ポリエチレングリコール鎖が、下記の式(III):
    -(OCH2CH2)n-又は-(CH2CH2O)n- (III)
    (式中、nが25以上の整数である。)
    で表される請求項13又は14に記載の製造方法。
  19. 前記nが39以上の整数である請求項18に記載の製造方法。
  20. 前記直鎖アルキレン基の炭素数が、2以上10以下である請求項13又は14に記載の製造方法。
  21. 前記標識が、ビオチン類、酵素、蛍光色素、蛍光タンパク質及びハプテンからなる群より選択される少なくとも1種である請求項14に記載の製造方法。
  22. 前記抗体が、Fab、Fab'、F(ab')2、Fd、Fd'、Fv、scFv、dAb、rIgG、軽鎖、重鎖抗体、重鎖抗体の可変領域、ダイアボディ及びトリアボディからなる群より選択される少なくとも1種である請求項15に記載の製造方法。
  23. 請求項2に記載の標識ポリペプチドと、標的物質との免疫複合体を形成する工程と、
    前記免疫複合体に含まれる前記標識により生じるシグナルを検出する工程と、
    を含む、標的物質の測定方法。
  24. 前記形成する工程において、前記免疫複合体が固相上に形成される請求項23に記載の測定方法。
  25. 前記形成する工程と前記検出する工程との間に、未反応の遊離成分を除去する工程をさらに含む請求項23又は24に記載の測定方法。
  26. 前記標的物質が、タンパク質、オリゴペプチド、核酸、脂質、糖鎖及びハプテンからなる群より選択される少なくとも1種である請求項23又は24に記載の測定方法。
  27. 前記標識が、酵素、蛍光色素及び蛍光タンパク質からなる群より選択される少なくとも1種である請求項23又は24に記載の測定方法。
  28. 前記標識ポリペプチドが有する標識が蛍光色素又は蛍光タンパク質であり、前記検出する工程において、前記免疫複合体をフローサイトメータのフローセルに導入し、前記フローサイトメータにより前記シグナルが検出される請求項23に記載の測定方法。
  29. 前記標的物質が、タンパク質、オリゴペプチド、核酸、脂質、糖鎖及びハプテンからなる群より選択される少なくとも1種を表面に有する有形成分である請求項28に記載の測定方法。
  30. 前記有形成分が、細胞、細胞外小胞、微生物、ウイルス及びそれらのフラグメントからなる群より選択される少なくとも1種である請求項29に記載の測定方法。
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