JP2023540125A - 質量分析計の較正及びチューニング方法 - Google Patents

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Abstract

質量分析計の較正及びチューニング方法以下の工程を含む、質量分析計を較正及び/又はチューニングする方法:(i)試料を提供すること;(ii)イオン生成方法によって、前記試料の表面からイオンを生成すること、及び(iii)前記イオンを用いて、質量分析計の較正、質量分析計のチューニング、又はそれらの組み合わせを行うこと、ここで、前記イオン生成方法が脱離エレクトロスプレーイオン化法(DESI)である。真空蒸着されたPLAガラススライドは、DESI、MALDI、又はSIMSなど、あらゆるイオン生成方法の較正/チューニング試料として使用することもできる。

Description

本発明は、質量分析計の較正及び/又はチューニング方法に関し、特に、質量分析による表面分析中及び/又は質量分析イメージング、更に具体的には脱離エレクトロスプレーイオン化法(DESI)による表面分析中に使用するための較正及び/又はチューニング方法に関する。また、ポリ乳酸試料から生成されるイオンを使用する任意のイオン生成方法を用いた質量分析計の較正及び/又はチューニング方法に関する。
アンビエントイオン化質量分析の導入は、質量分析の適用と導入に革命をもたらしたことは間違いない。これはイオン化法の一形態であり、試料の前処理や分離を行わずに、質量分析計の外部にあるイオン源でイオンが形成される。例えば、イオンは、質量分析計に入る前に、帯電したエレクトロスプレー液滴に抽出されることで形成されたり、化学的イオン化法によって熱的に脱着及びイオン化されたり、又はレーザーで脱着もしくは除去(ablated)され、ポストイオン化され得る。
このようなアンビエントイオン化法の多くでは、最小限の試料調製が必要であるにもかかわらず、試料調製とは関係のない要因によって、最大の試料スループットの達成が潜在的に妨げられる可能性がある。
脱離エレクトロスプレーイオン化質量分析イメージング(DESI-MSI)のスループットに特に影響する要因は、イオン透過の最適なチューニングと同様に、質量分析計の日常的な較正である。現在、DESIイオン源で日常的に使用される機器の外部質量較正とチューニングは、DESI源をエレクトロスプレーイオン化(ESI)源に置き換えることによって行われている。ESI源が取り付けられると、更に一般的な質量較正とチューニングが行われる。較正には、ギ酸ナトリウム、ヨウ化ナトリウム/ヨウ化セシウムまたは質量分析計固有の化合物などの適切な較正化合物を使用することが一般的である。イオン透過のチューニングについても同様のアプローチがとられる。質量分析計の較正にESIを使用することは、1990年代以降、一般的である。
しかし、装置からDESI源を除去することは、比較的単純な作業ではあるが、ソース除去前に達成された、最適化されたDESI設定からの逸脱を引き起しやすい。DESIスプレーヘッドの形状を再び最適化する必要があるため、経験豊富なDESIユーザーであっても、試料分析が大幅に遅れる可能性がある。
さらに、質量分析計がメーカーの性能基準に従っているか、あるいはそれを上回る性能を発揮しているかを確かなものにするためには、質量分析計を較正するだけでなく、生成されたイオンの透過をチューニングする必要がある。チューニングは、一連の電極間にかかる電圧を微調整することによって行われ、イオン源から質量分析計への目的のイオンの効率的な伝送を可能にする。質量分析計の定期的なチューニングは、あらゆる測定の最適な感度と再現性を確かなものにする一方、期待される最適化されたパラメータからの逸脱を把握することも可能とする。
質量分析計をチューニングするための前提条件は、通常はESIを使用して、目的のm/z範囲をカバーする、チューニングされる機器の特定のm/z範囲にわたって、いくつかの装置パラメータを手動または自動で調整できるような適切な時間の間、一定のイオン流を生成することである。
チューニングに使用されるイオンは、単一化合物又はこれら化合物のフラグメンテーション生成物のイオン化に由来するものでなければならない。DESIなどの他のイオン源を装着した質量分析計の場合、DESI源をESIに置き換えてチューニングを行い、DESI源を再び装着する以外に選択肢はない。DESI源を使用して質量分析計を直接チューニングできるようになれば、試料スループットが大幅に向上する。
US 2005/056776 A1 (Willoughby Rossら)は、質量電荷分析計又はイオン移動度分析計にイオンを伝送する効率を高めるために、大気圧、中間圧及び真空レーザー脱離イオン化法並びにイオン源を設定する方法を開示している。
EP 2778684 A1 (Zentech)は、消化段階又は液体抽出工程が存在しない乾燥した流体スポットのMALDI-MS分析によって血液中に存在する少なくとも1つの分子を検出及び/又は定量化する方法を開示しており、これによって乾燥した流体スポット内の少なくとも1つの分子の物理的分布を更に分析することが可能となる。本発明は上記の欠点の少なくともいくつかに対処する較正及び/又はチューニング方法を提供しようとする。
米国特許出願公開第2005/0056776号明細書 欧州特許出願公開第2778684号明細書
本発明の第1の態様では、以下の工程を含む、質量分析計を較正及び/又はチューニングする方法が提供される:
(i)試料を提供すること;
(ii)イオン生成方法によって、前記試料の表面からイオンを生成すること、及び
(iii)前記イオンを用いて、質量分析計の較正、質量分析計のチューニング、又はそれらの組み合わせを行うこと、
ここで、前記イオン生成方法が脱離エレクトロスプレーイオン化法(DESI)である。
本発明方法の利点は、試料分析の前に使用され得るDESI源を取り外すことなく、外部較正及び/又はチューニングを行う方法を提供し、装置の停止時間を制限してスループットを向上させることである。
本方法は工程(i)に先だって以下の工程を含んでも良い:
(a)DESIであるイオン生成方法によってイオンを生成すること、及び
(b)前記質量分析計を使用して前記イオンを分析すること。
本方法は工程(iii)の後に以下の追加工程を含んでも良い:
(iv)前記較正され及び/又はチューニングされた質量分析計を使用して、DESIであるイオン生成方法によって生成されたイオンを分析すること。
好ましい実施形態では、較正試料は、単一タイプの分子又は混合タイプの分子から形成された均質な層である。較正試料は、目標の特定の質量範囲内のガス状イオンのシリーズ/クラスターを形成するように選択されてもよい。
好ましくは、較正試料はポリ乳酸(PLA)などのポリエステルである。しかし、2,5-ジヒドロキシ安息香酸(2,5-DHB、モノアイソトピック質量:154.02661)、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸(CHCA、モノアイソトピック質量:189.04259)、カフェイン(モノアイソトピック質量:194.08038)、ローダミンB(モノアイソトピック質量:443.23347)、アンジオテンシンI(Angio I、モノアイソトピック質量:1295.67749)、もしくはアンジオテンシンII(Angio II、モノアイソトピック質量:1045.53455)又はこれらの混合物であってもよい。
較正試料は分子量2000 Da未満のPLAの顆粒をスライドガラス上に昇華させることによって調製されてもよい。
本発明の第2の態様では、以下の工程を含む、質量分析計を較正及び/又はチューニングする方法が提供される:
(i)試料を提供すること;
(ii)イオン生成方法によって、前記試料の表面からイオンを生成すること、及び
(iii)前記イオンを用いて、質量分析計の較正、質量分析計のチューニング、又はそれらの組み合わせを行うこと、
ここで、前記試料はガラス上に真空蒸着されたポリ乳酸(PLA)を含む。
ガラス上に真空蒸着されたPLAを使用することで、複数種のイオン発生方法に有効な試料が得られることが意外にも見出された。
本方法は工程(i)に先だって以下の工程を含んでも良い:
(a)イオン生成方法によってイオンを生成すること、及び
(b)前記質量分析計を使用して前記イオンを分析すること。
本方法は工程(iii)の後に以下の追加工程を含んでも良い:
(iv)前記較正され及び/又はチューニングされた質量分析計を使用して、イオン生成方法によって生成されたイオンを分析すること。
イオン生成方法は、いずれの工程でも同じであってもよく、独立して、脱離エレクトロスプレーイオン化法(DESI)、二次イオン質量分析法(SIMS)又はマトリックス支援レーザー脱離/イオン化法(MALDI)を含んでもよい。
次に、本発明の多数の好ましい実施形態が、添付の図面を参照し、図示するように説明される:
図1は、本発明に従った四重極飛行時間型(QToF)質量分析計を用いて得られた(a) +veイオンDESI及び(b) -veイオンDESIの単一走査質量スペクトルを示す; 図2は、オービトラップ型(Orbitrap)質量分析計を用いて得られた(a) +veイオンDESI及び(b) -veイオンDESIの平均質量スペクトルを示す; 図3は、四重極飛行時間型質量分析計を用いて得られた(a) +veイオンMALDI及び(b) -veイオンMALDIの平均質量スペクトルを示す; 図4は、前記飛行時間型質量分析計を用いて得られた(a) +veイオンSIMS及び前記オービトラップ型(Orbitrap)質量分析計を用いて得られた(b) +veイオンSIMSの平均質量スペクトルを示す; 図5は、四重極飛行時間型質量分析計における質量分析の較正の前(a)及び直後(b)の前記PLA被覆スライドの+veイオンDESIに対するm/z 100-450の範囲における重心平均質量スペクトルを示す; 図6は、四重極飛行時間型質量分析計を用いて、PLA以外のいくつかの化学物質で被覆されたスライドから得られた(a) +veイオンDESI及び(b) -veイオンDESIの平均質量スペクトルを示す; 図7は、+veイオンモードでDESIを使用してPLA被覆スライドを連続的にサンプリングすることによって、経時的に検出された相対的な総イオン電流のグラフを示す;そして 図8は、+veイオンモードでDESIを使用してPLA被覆スライドを連続的にサンプリングすることによって、経時的に検出された相対的な総イオン電流の更なるグラフを示す。
実験
ガラススライド(SuperFrost Plus, Thermo Scientific社,ウォルサム,マサチューセッツ州)をメタノール中で5分間超音波処理することによって洗浄した。窒素下で乾燥させた後、150mLの昇華装置(Chemglass, バインランド, ニュージャージー州)のコールドフィンガーの下に、両面サーマルテープを使ってガラススライドを貼り付けた。ポリ乳酸(PLA, 2kDa,~100mg)の顆粒を前記コンデンサー付きフラスコの底に置いた。前記コールドフィンガーにドライアイスと水を入れ、ホットプレートを用いて前記装置を加熱した。Edwards E2M1.5ラフポンプを使用して2.2*10-2バールの真空を達成し;圧力はEdwards TIC 3 Head Instrument Controllerを使用して監視した。前記ホットプレートを390℃まで加熱し、PLAを10分かけて昇華させた。その後、前記スライド上の結露を避けるために前記チャンバーにN2を流し、室温と室内圧に到達させた。
PLAを真空被覆する既述の方法に加えて、いくつかの他の被覆方法を試した。最初に、PLA粉末を10mg/mLの濃度でクロロホルムに溶解した。次に、この溶液を、スピンコーター(4000 rpm、60秒間)を使用し、ディップコーターとピペットを用いた液滴堆積とを使用して、清浄なガラススライド上に堆積させた。被覆された前記スライドは、あらゆる分析に先立ち、雰囲気条件で乾燥させた。ディップコーティング以外のすべての例において、被覆された前記スライドは、被覆されていない面を下にして、300℃に保持された標準的な実験室のホットプレート上に置かれた。さらに、PLAシートを購入し、そのまま、あるいはシートを20×20mmに切り抜いたものをスライドグラスの上に載せ、300℃に保たれたホットプレート上にスライドを配置することによってテストした。
上記の方法で調製したすべてのスライドをDESIスプレーの下に置き、これらの表面からイオンを生成する能力を調査した。記載した調製法のいずれも、PLA関連イオンを質量分析計で検出できるような表面を作るには適していなかった。
例A - DESIイオン化源を使用する様々な質量分析計を較正するためのポリ乳酸試料の使用
PLA被覆されたスライドは、DESI互換質量分析計の較正標準材として評価するために、異なる二箇所の共同研究者に発送された。実験室ごとにDESIスプレーの設定が異なることを考慮して、外部熱源をすべてオフにするという制限のもと、それぞれが実験に最適化されたDESI条件を使用することが求められた。DESIデータは以下を使用して取得された:
例A1 -Waters Xevo G2-XS QToFs質量分析計 2台
例A2 -Waters Synapt G2-Si QToF質量分析計 1台
例A3 -Thermo Q-Exactive質量分析計 1台。
すべての装置にProsolia 2D DESIステージ(Prosolia, インディアナポリス, インディアナ州)を取り付けた;Watersの装置にはWatersが提供する改良型DESIスプレーを使用し、Q-Exactiveには自家製のFSスプレーを使用した。DESI溶媒は、すべての実験において、95:5 (v:v)メタノール:水で、1.5μL/minの流速で注入された。質量分析計は、正イオンモードと負イオンモードの両方で、それぞれ5kVと4kVをスプレーアセンブリに印加して操作された。
図1に見られるように、目的のm/z範囲に亘ってピークが検出される。これらのイオンは、PLAポリマーの様々な長さに対応し、ESI、MALDI、及び大気圧固体試料分析プローブ(ASAP)イオン化法を使用して生成された既発表の質量スペクトルと一致する。我々の観察によると、使用したPLA顆粒は、環状PLA(CPLA)と直鎖状PLA(LPLA)の混合物を含む可能性がある。図1に示したスペクトルは、Osakaらが提案した、前記2つの分子のフラグメンテーションパターンによって説明できる(Osaka, I., Watanabe, M., Takama, M., Murakami, M. and Arakawa, R. (2006), Characterization of linear and cyclic polylactic acids and their solvolysis products by electrospray ionization mass spectrometry. J. Mass Spectrom., 41: 1369-1377)。
正(+ve)イオンDESIでは、LPLAとCPLAの両方がプロトン化分子又はナトリウム化分子のいずれかとして検出され、負(-ve)イオンDESIでは、LPLAのみが脱プロトン化分子として検出された。通常20-30keVの衝突エネルギーを加えることで、更に高分子量のPLAイオンが断片化され、m/z 100未満の較正範囲を拡大することができた。DESIの較正基準材としてPLAを使用する場合、Watersの装置ではインレットキャピラリーに熱を加えない必要があるが、Thermo Q-Exactiveで分析する場合は、キャピラリー温度を320℃にする必要があることに注意しなければならなかった。質量分析計の較正に使用したイオンの正確な質量を表1に示す。
表1. +ve及び-veイオンDESIで50-1500 m/zの範囲において質量分析計の外部較正を行うために使用したPLAイオンの正確な質量。すべてのイオンについて、Mは72.02113 Daの質量を持つPLAモノマーである。
Figure 2023540125000002
PLA被覆されたスライドを使用しても、ポリマーのキャリーオーバー、DESIエミッターチップやインレットキャピラリーの閉塞を示す証拠は確認されていない。試料ステージが溶媒スプレーから離れると、ポリマーからの明らかな信号はなかった。
例B - MALDIイオン化プロセスを用いた質量分析計を較正するためのポリ乳酸試料の使用
MALDI-MSは、波長355 nmのNd:YAGレーザーを装備したWaters MALDI源を取り付けたWaters Synapt G2-Si質量分析計を使用し、2.5 kHzの繰り返し速度で25 nJパルスを生成して実行された。質量スペクトルは、m/z 50-1200の質量範囲で正と負のイオンモードの両方で取得され、装置は「分解能」モードで動作した。MALDI分析の前に、PLA被覆スライドは、ポリマーの脱離とイオン化を促進するために、適切なMALDIマトリックスでさらに被覆された;α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸(CHCA)と9-アミノアクリジン(9-AA)(SigmaAldrich, 英国)をそれぞれ正と負のイオンMALDI分析に用いた。マトリックスは、TMスプレーヤー(HTX Technologies, 米国)を用いて、以下の設定でPLA被覆スライド上に蒸着させた:13パス、0.07 mL min-1流量、3mmトラック間隔、65℃、15 psi窒素圧。例Bの結果を図3に示す。
例C - SIMSプロセスを用いた質量分析計を較正するためのポリ乳酸試料の使用
SIMSデータは、飛行時間型(ToF)質量分析計を備えた3D OrbiSIMS(ION-TOF GmbH, ミュンスター, ドイツ)及びオービトラップ型(Orbitrap)質量分析計を備えたQ Exactive HF(Thermo Fisher, ブレーメン, ドイツ)を用いて取得した。個々の質量スペクトルを取得した;ToF質量スペクトルは、30keV Bi3+(0.1pA、サイクルタイム200μs)を分析ビームとして用い、20μm×20μm(128×128画素)の視野を持つように取得した。オービトラップ型(Orbitrap)質量スペクトルは、5keV Ar1882+イオンビームを用い、質量分解能240 000、注入時間500 ms、質量範囲m/z 100-1500で取得した。視野は200μm×200μm(70×70画素)であった。どちらの取得でも、試料表面の帯電効果を補正するためにエレクトロンフラッドガンを使用した。
ToF質量分析計又はオービトラップ型質量分析計のいずれかを使用した3D OrbiSIMS装置によって取得されたデータは、DESI又はMALDIのいずれかを使用して取得されたデータと一致する。標準的なSIMS ToF分析中に試料に加えられる更に高いエネルギーが、PLA鎖の著しい断片化を引き起こすと考えられる。
前記PLA被覆スライドを3D OrbiSIMS装置のオービトラップ型の較正に使用したところ、現在のSIMS較正方法では容易に達成できないm/z 1200までの較正に成功した。これは、ペプチドやタンパク質のような生体物質の分析に特に有利であり、これらの生体分子は1000を超えるm/z値で観察されることが期待される。例Cの結果を図4に示す。
例D - QToF質量分析計のDESI設定を使用した、被覆されたPLAスライドによる質量分析計の較正後のピークアノテーションの補正
質量分析計の適切な較正標準材として提案されたPLA被覆スライドの有効性を評価するために、例Aで説明したのと同じDESI設定と実験条件を使用してデータを収集した。質量分析計を工場出荷時のデフォルト設定に戻し、質量スペクトルを記録して図5(a)に示した。スペクトルのピークアノテーションと表1に示された一連のイオンの正確な質量とを比較すると、検出されたイオンの真のm/z値からアノテーションがずれていることがわかる。イオンの正確な質量に対する質量割り当てのこのシフトの補正、すなわち質量較正を行った後、同じPLAサンプルを繰り返し取得した(図5(b))。質量分析計を較正することによって、較正されたスペクトルにおける質量割り当てが表1のイオンの正確な質量と一致することが観測される。
例E - DESI及びMALDIイオン源を使用した四重極飛行時間型質量分析計を較正するための各種化合物の使用
PLA被覆ガラススライドは様々な質量分析計の質量分析の較正に成功したが、PLAとは関係のない他の化合物を使用しながら、このアプローチの適用可能性をも示す。ここでは、低分子化合物、一般的なMALDIマトリックス、色素、及び2種類のペプチドの組を選択し使用した。選択された化合物は、多層構造になるように、同じガラススライド上に様々な量でスプレーコーティング又は真空蒸着された。選択された化合物は、2,5-ジヒドロキシ安息香酸(2,5-DHB、モノアイソトピック質量:154.02661)、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸(CHCA、モノアイソトピック質量:189.04259)、カフェイン(モノアイソトピック質量:194.08038)、ローダミンB(モノアイソトピック質量:443.23347)、アンジオテンシンI(Angio I、モノアイソトピック質量:1295.67749)、及びアンジオテンシンII(Angio II、モノアイソトピック質量:1045.53455)であった。
まず、2種類のペプチドを水に溶解し、1 mg/mLの原液を調製した。それぞれのアリコートを採取し、メタノールで希釈して10 ug/mLの作業溶液とし、HTX TM-Sprayerを使用して清浄なガラススライド上に個別にスプレーした。次に、ペプチドで被覆されたスライドをAngstrom NexDep蒸着プラットフォーム(Angstrom Engineering, ON, カリフォルニア州)に移し、ここで、2,5-DHB、CHCA、カフェイン及びローダミンが以下の設定で個別に蒸着された:5e-5 torrの真空中で5 A/sの速度で50 nmの膜厚に蒸着。このようにして、基板上に様々な層が蒸着された多層構造を作製した。基板は5℃に保ち、40 rpmで回転させた。
完成したスライドは、化学物質の堆積直後に、QTof質量分析計で両極性にてMALDI及びESIによって分析された;正イオンと負イオンのDESIによって得られたスペクトルを図6に示す。10秒を超えて取得されたデータは、両方の機器で通常の質量較正を行うのに十分であった。分析物の脱着は、1分間を超えて十分に安定であり、四重極のチューニングに容易に使用できる。試料の安定性は、スライドを4 ℃の実験室用冷蔵庫に2週間保管した後にテストされた;取得したデータは0日目のデータと同一であった。
例F - DESIイオン化源を装着した質量分析計をチューニングするためのPLAスライドの使用
上記の実験方法を用いてスライドにPLAを被覆した。二重較正/チューニング標準材として機能する被覆PLAスライドの能力を示す証拠は、PLA被覆スライドを連続的にサンプリングすることによって11分間を超えて検出された総イオン電流(TIC)を示す図7によって可視化される。グラフで観察された2.5分間の頻度は、各ラインラスターの取得時間を表す。
11分間を超える実験では、DESIスプレーの下で試料ステージをラインごとに連続的に移動させることで、ある程度安定したイオンの流れが実現された。
TICは最適化されたパラメータで取得されたため、強度が変化するのはDESIスプレーの下でステージが移動することに起因する。ガラススライドは全体がPLAで被覆されているが、スライドの中心部にはPLAが更に多く含まれているため、ステージがスライドの中心部に向かうにつれてイオン強度は増加し、遠ざかるにつれて減少する。
その後、同じPLA被覆スライドを連続的にサンプリングし、60回を超えるスキャンで相対的な総イオン電流を検出した。サンプリングは、PLA被覆されたスライド上のシングルラインラスターから2.2分間行われた。計算された%RSDは6 %未満であった。結果を図8に示す。
PLAによってカバーされるm/z値の広い範囲を考慮すると、ユーザーは特定の質量範囲 (例えば100-200 m/z又は600-1000 m/z)でイオンを最適に透過させるために質量分析計をチューニングすることを選択できるので、目的のイオンに対する最適な機器感度を確保することができる。
結論
速度を制限する工程が試料の準備であったことを考えると、アンビエントMSの進歩によって、更に高い試料スループットを達成することができる。これらの障害を克服したことで、計装ダウンタイムが最適なスループットを達成できない主な要因として認識されるようになった。特にDESIについては、質量較正のためにDESIとESIを頻繁に切り替える必要があるので、多くの研究グループが更に高速な試料分析のために日常的な較正を犠牲にしてきた。
イオン源を変更することなくDESIで使用するのに適した較正標準材が発見された。低分子量PLAは、正又は負のいずれのイオンモードでも、DESI較正標準材として適していると見られる。被覆されたPLAスライドの導入によって、ESIを用いた較正後のスプレーヘッドの再最適化手順が不要になったため、スループットが向上し、ダウンタイムが最小化されて、DESIワークフローの効率が急速に高まった。また、PLAスライドを使用することで、そのスライドから生成されるイオンの範囲と分布によって、MSのチューニングが可能になる。
記載された実施形態及び従属請求項のすべての任意かつ好ましい特徴及び変更は、本明細書で教示された本発明のすべての態様で利用可能である。更に、従属請求項の個々の特徴だけでなく、記載された実施形態のすべての任意の及び好ましい特徴ならびに変更は、互いに組み合わせ可能であり、交換可能である。
本出願が優先権を主張する英国特許出願第2014089.3号及び本出願に添付された要約書の開示内容は、参照によって本明細書に組み込まれる。

Claims (14)

  1. 以下の工程を含む、質量分析計を較正及び/又はチューニングする方法:
    (i)試料を提供すること;
    (ii)イオン生成方法によって、前記試料の表面からイオンを生成すること、及び
    (iii)前記イオンを用いて、質量分析計の較正、質量分析計のチューニング、又はそれらの組み合わせを行うこと、
    ここで、前記イオン生成方法が脱離エレクトロスプレーイオン化法(DESI)である。
  2. 前記工程(i)に先だって以下の工程を含む、請求項1に記載の方法:
    (a)DESIであるイオン生成方法によってイオンを生成すること、及び
    (b)前記質量分析計を使用して前記イオンを分析すること。
  3. 前記工程(iii)の後に以下の追加工程を含む、請求項1又は2に記載の方法:
    (iv)前記較正された質量分析計を使用して、DESIであるイオン生成方法によって生成されたイオンを分析すること。
  4. 前記試料が単一タイプの分子又は混合タイプの分子から形成された均質な層である、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
  5. 前記試料がポリエステルである、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
  6. 前記試料が、ポリ乳酸(PLA)、2,5-ジヒドロキシ安息香酸(2,5-DHB、モノアイソトピック質量:154.02661)、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸(CHCA、モノアイソトピック質量:189.04259)、カフェイン(モノアイソトピック質量:194.08038)、ローダミンB(モノアイソトピック質量:443.23347)、アンジオテンシンI(Angio I、モノアイソトピック質量:1295.67749)、又はアンジオテンシンII(Angio II、モノアイソトピック質量:1045.53455)である、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
  7. 前記較正試料が、目的分子の真空蒸着、スプレー堆積、又は溶剤堆積によって調製される、請求項6に記載の方法。
  8. 以下の工程を含む、質量分析計を較正及び/又はチューニングする方法:
    (i)試料を提供すること;
    (ii)イオン生成方法によって、前記試料の表面からイオンを生成すること、及び
    (iii)前記イオンを用いて、質量分析計の較正、質量分析計のチューニング、又はそれらの組み合わせを行うこと、
    ここで、前記試料はガラス上に真空蒸着されたポリ乳酸を含む。
  9. 前記工程(i)に先だって以下の工程を含む、請求項8に記載の方法:
    (a)イオン生成方法によってイオンを生成すること、及び
    (b)前記質量分析計を使用して前記イオンを分析すること。
  10. 前記工程(iii)の後に以下の追加工程を含む、請求項8又は9に記載の方法:
    (iv)前記較正された質量分析計を使用して、イオン生成方法によって生成されたイオンを分析すること。
  11. 前記イオン生成方法がいずれの工程でも同じである、請求項8~10のいずれかに記載の方法。
  12. 前記イオン生成方法が、独立して、脱離エレクトロスプレーイオン化法(DESI)、二次イオン質量分析法(SIMS)、又はマトリックス支援レーザー脱離イオン化法(MALDI)である、請求項8~11のいずれかに記載の方法。
  13. 質量分析計をチューニングするために必要とされるイオンの分布を決定し、工程(ii)のイオン生成方法の結果として前記分布を有するイオンを生成する試料を工程(i)において提供する工程を含む、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
  14. イオンの前記分布が50から2000 m/zの質量電荷比を有する、請求項13に記載の方法。
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