JP2023535523A - 電気化学的窒素還元を連続的に行う方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】本発明は、アンモニアを製造するための連続的な電気化学的窒素還元の方法を提供する。この方法は、少なくともカソードに接触する電解質を含む電気化学セルに窒素を供給することと、水素含有種のアノード酸化によって電解質にプロトンを導入することと、リチウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、亜鉛、アルミニウム、及びバナジウムから選択される金属の存在下で窒素をカソード還元し、アンモニアを生成することと、を含む。電解質は、可逆的な脱プロトン化によって中性プロトン受容体を形成することが可能なカチオンプロトンキャリアを含む。中性プロトン受容体は、イリドである。【選択図】図1
Description
本発明は、電気化学的に窒素を連続的に還元してアンモニアを製造する方法に関する。この方法は、少なくともカソードに接触する電解質を含む電気化学セルに窒素を供給することと、水素含有種のアノード酸化によって電解質にプロトンを導入することと、特定の金属の存在下で窒素をカソード還元し、アンモニアを生成することと、を含む。電解質は、可逆的な脱プロトン化によって中性プロトン受容体を形成することが可能なカチオンプロトンキャリアを含む。本発明は、さらに、電気化学的還元反応のための液体電解質、電気化学セルにおける還元反応のための電解質の使用、および電気化学セル中の電解質を含む連続電気化学的還元反応のためのシステムに関する。
急増する世界人口の要求を満たすのに十分な食糧とエネルギーを供給することは、人類にとって継続的な課題である。窒素(N2)を固定してアンモニア(NH3)を生成する新技術は、これらの2つの課題に対して可能性のある解決策を提供する。合成アンモニアベースの肥料は、既に世界の食糧生産に不可欠であり、NH3の高いエネルギー密度は、輸送可能な燃料や再生可能エネルギーのキャリアーとしての使用に大きな可能性をもたらす提供している。
20世紀に発明されたハーバーボッシュ法は、合成アンモニアを大量に生産する工業的経路を初めて提供した。しかし、窒素の三重結合(N≡N、942kJ/mol)は非常に安定であるため、ハーバーボッシュ法では、高圧(150~350atm)および高温(400~550℃)という極端な反応条件と、通常天然ガスの蒸気改質プロセスから供給される純H2の供給が必要である。その結果、このプロセスは世界のエネルギー供給の約2%を消費し、世界の温室効果ガス排出の~1.5%を占めている。したがって、継続可能な資源により推進可能なN2からNH3への変換技術が緊急に必要とされている。
電気化学的窒素還元反応(NRR)プロセスの開発に成功すれば、簡単な電解セルで再生可能な電力をNH3に直接変換することが可能になる。NRRのカソード半反応を式(1)に示す。
N2+6H++6e-→2NH3 (1)
N2+6H++6e-→2NH3 (1)
NRRに必要なプロトンは、水蒸気改質されたH2に頼るのではなく、水のアノード酸化(酸素発生反応)または持続可能な水分解プロセスから生成されるH2によって供給することができる。残念ながら、6e-と6H+のNRRは反応速度論的に遅いため、式(2)で示される、より容易な2e-と2H+の水素発生反応(HER)よりも電気化学的に不利である。HERとの競合の結果、報告された多くのNH3の電気化学的合成において、非常に低いファラデー効率と低いNH3収率が課題となっている。
2H++2e-→H2 (2)
2H++2e-→H2 (2)
この問題に対処する1つのアプローチが、DE102018210304に開示されている。リチウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、亜鉛、アルミニウム、およびバナジウムを含む適切な金属が、対応する窒化物を形成するために使用される。まず、金属イオン含有溶融塩を高温で電気分解することによって、金属形態の金属を、好ましくはその液体状態で形成し、つづいて、N2と反応させて金属窒化物を形成する。窒化物の形成が完了すると、窒化物は分離され、電気化学セルのアノード区画に導入されてプロトンが生成され、最終的にアンモニアが生成される。金属窒化物を別々のプロセス環境間で操作する必要があるため、複雑な多段階プロセスとなっており、設備投資もエネルギーも非効率的である。
過去に開発された別のアプローチは、例えば、Chemistry Letters、1993、851-854においてTsunetoらによって報告されたように、リチウムを介した連続的な電気化学的アンモニア合成である。典型的なリチウムを介した連続的な電気化学的NH3合成反応では、電解質系は、テトラヒドロフランなどの有機溶媒中にリチウムトリフレート(LiOtf)、過塩素酸リチウム(LiClO4)、またはテトラフルオロホウ酸リチウム(LiBF4)などのリチウム塩と、プロトンキャリア(またはプロトン供与体)を含む。この反応の提案された機構を、プロトンの供給源がH2のアノード酸化である場合について、図1に示す。カソード102では、リチウムカチオン(Li+)が還元されて金属リチウム(Li)になり、これが窒素(N2)と自発的に反応して窒化リチウム(Li3N)が形成される。つづいて、Li3Nは、電解質中に存在するプロトンキャリア(BH)によってプロトン化され、アンモニアと脱プロトン化したプロトンキャリア(B)を生成し、リチウムカチオンが再生する。アノード104では、H2のアノード酸化によりプロトン(H+)が生成される。これらのプロトンは、電解質中でBをプロトン化してプロトンキャリア(BH)を再生する。このようにして、反応サイクルが完結する。プロトンは窒素還元反応に間接的にしか関与しないので、HERとの競合は最小限に抑えられると期待される。
プロトンキャリア分子(BH)は、NH3を生成するために、Li3Nと反応性が高い必要があるが、競合する水素及び/又は水素化物へのプロトン還元の速度を減少させるために、理想的には弱酸性であればよい。現在、このプロセスに使用されている最も一般的なプロトンキャリアは、エタノールおよび類似のアルコール(メタノール、イソプロピルアルコールなど)である。したがって、プロトンキャリア(BH)は、通常、CH3CH2OHのような中性種であり、その脱プロトン化形態Bは、CH3CH2O-のようなアニオン種である。水は、酸性度が高く、Li+がLiに還元されるよりも正電位でH2に還元されるため、一般にプロトンキャリアとして適さない。
リチウムを媒体とする電気化学合成反応の大きな課題は、エタノールなどのアルコール系プロトンキャリアを効果的に再生することであり、これまで実験的に検証されたことはない。一般にアンモニアより高価なアルコールが十分にリサイクルされない場合、合成のプロトン源として不経済に消費される。アルコールのアノード分解は、セル中のエタノール消費に寄与する寄生プロセスとして認識されている。
別の課題は、カソードでプロトンキャリアが脱プロトン化した後、アニオン種がLi+と共に不溶性塩として析出し、不溶性の副生成物が形成されることである。これらの物質が析出すると、セルの内部抵抗が急激に上昇し、所望の反応を推進するのに必要なセル電圧が上昇することがある。エタノールなどのアルコールの脱プロトン化で生成するアニオンは非常に強い塩基であり、Li+カチオンと強く相互作用して溶解度の低い塩を生成する。
したがって、アンモニアを製造するための連続的な電気化学的窒素還元において、上記の課題の1つ以上を少なくとも部分的に解決する、または有用な代替手段を提供する新しい方法が継続的に必要とされている。
本明細書において、先行技術として示された特許文献またはその他の事項への言及は、いずれかの請求項の優先日において、その文献または事項が知られていたこと、またはそれが含む情報が共通の一般的知識の一部であったことを認めるものと解釈されるべきでない。
第1の態様によれば、本発明は、アンモニアを製造するための連続的な電気化学的窒素還元の方法を提供する。この方法は、少なくともカソードに接触する電解質を含む電気化学セルに窒素を供給することと、水素含有種のアノード酸化によって電解質にプロトンを導入することと、リチウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、亜鉛、アルミニウム、及びバナジウムから選択される金属の存在下で窒素をカソード還元し、アンモニアを生成することと、を含む。電解質は、可逆的な脱プロトン化によって中性プロトン受容体を形成することが可能なカチオンプロトンキャリアを含む。中性プロトン受容体は、イリドである。
いくつかの実施の形態において、窒素をカソード還元することは、窒素とカチオンプロトンキャリアとを反応させてアンモニアを生成するとともに中性プロトン受容体を形成することを含む。カチオンプロトンキャリアは、プロトンで中性プロトン受容体をプロトン化することにより電解質中で再生されてもよい。
窒素とカチオンプロトンキャリアとを反応させることは、(i)窒素と金属とを反応させて金属窒化物を形成することと、(ii)金属窒化物とカチオンプロトンキャリアとを反応させてアンモニアを生成するとともに中性プロトン受容体を形成することと、を含んでもよい。
いくつかの実施の形態において、金属は、電解質中で金属カチオンとして存在する。
いくつかの実施の形態において、金属は、リチウムである。
いくつかの実施の形態において、イリドは、正電荷を有する、リン、窒素、硫黄、及び酸素からなる群から選択されるヘテロ原子に隣接するカルバニオンを含む。
いくつかの実施の形態において、中性プロトン受容体は、ホスホニウムイリド及びスルホニウムイリドから選択される。いくつかの実施の形態において、中性プロトン受容体は、ホスホニウムイリドである。
いくつかの実施の形態において、カチオンプロトンキャリアは、アルキルホスホニウムカチオン及びアルキルスルホニウムカチオンから選択される。いくつかの実施の形態において、カチオンプロトンキャリアは、アルキルホスホニウムカチオンである。アルキルホスホニウムカチオンは、テトラアルキルホスホニウムカチオンであってもよい。テトラアルキルホスホニウムカチオンは、例えば、[PR6R7R8R9]+の形であってもよい。ここで、R6、R7、R8、R9は、C1~C20のn-アルキル基から独立して選択される。
いくつかの実施の形態において、カチオンプロトンキャリアは、窒化リチウムと接触すると脱プロトン化して中性プロトン受容体を形成することが可能である。
いくつかの実施の形態において、電解質は、非水系液体電解質である。非水系液体電解質は、1以上の分子溶媒を含んでもよい。分子溶媒は、エーテル、メチル化ポリエーテル、メチル化グリコールエーテル、フッ化エーテル、フッ化アルキル、フッ化シクロアルキル、カーボネート、スルホラン、及びジメチルスルホキシドからなる群から選ばれてもよい。それに加えて、またはそれに代えて、非水性液体電解質は、例えば電解質中の全溶媒の少なくとも50重量%の量の常温イオン液体溶媒を含んでいてもよい。
いくつかの実施の形態において、カチオンプロトンキャリア及び中性プロトン受容体は、電解質に可溶である。
いくつかの実施の形態において、カチオンプロトンキャリアは、1以上の電気化学的に安定なアニオンによって電解質中で電荷均衡される。1以上の電気化学的に安定なアニオンは、テトラフルオロホウ酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、塩化物イオン、過塩素酸イオン、トリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロリン酸イオンなどのフルオロアルキルリン酸イオン、テトラキス[3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]ホウ酸イオン及びテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ホウ酸イオンなどのフルオロアリルホウ酸イオン、テトラキス[ヘキサフルオロイソプロピル]ホウ酸イオンなどのフルオロアルキルホウ酸イオン、ビス(フルオロスルホニル)イミド、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、及び(フルオロスルホニル)-(トリフルオロメタンスルホニル)イミドなどのフッ化ビス(スルホニル)イミド、及びトリフルオロメタンスルホン酸イオン及び他のパーフルオロアルキルスルホン酸イオンなどのフッ化スルホン酸イオンからなる群から選択されてもよい。
いくつかの実施の形態において、カチオンプロトンキャリア及び中性プロトン受容体は、合わせて0.001mol/Lより高い濃度、又は0.01mol/Lより高い濃度、又は0.1mol/Lと4mol/Lの間の範囲の濃度で電解質中に存在する。
いくつかの実施の形態において、水素含有種は、水素及び水から選択される。
いくつかの実施の形態において、この方法は、窒素を1barより高い、又は5barより高い、好ましくは10barより高い分圧で電気化学セルに供給することを含む。
いくつかの実施の形態において、カソードは、窒素をカソード還元する際に、-2.0V(vs Ag/Ag+)より低い(より負側)の電位を有する。この電位は、金属の還元電位、すなわち、そのカチオンから金属形態への還元の電位より低くてもよい。
第2の態様によれば、本発明は、アンモニアを製造するための連続的な電気化学的窒素還元の方法を提供する。この方法は、少なくともカソードに接触する電解質を含む電気化学セルに窒素を供給することと、水素含有種のアノード酸化によって電解質にプロトンを導入することと、リチウムの存在下で窒素をカソード還元し、アンモニアを生成することと、を含む。電解質は、可逆的な脱プロトン化によって中性プロトン受容体を形成することが可能なカチオンプロトンキャリアを含む。カチオンプロトンキャリアは、ホスホニウムカチオンであり、中性プロトン受容体は、ホスホニウムイリドである。
第3の態様によれば、本発明は、アンモニアを製造するための連続的な電気化学的窒素還元の方法を提供する。この方法は、少なくともカソードに接触する電解質を含む電気化学セルに窒素を供給することと、水素含有種のアノード酸化によって電解質にプロトンを導入することと、リチウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、亜鉛、アルミニウム、及びバナジウムから選択される金属の存在下で窒素をカソード還元し、アンモニアを生成することと、を含む。電解質は、アルキルホスホニウムカチオン及びアルキルスルホニウムカチオンから選択される少なくとも1つを含む。
いくつかの実施の形態において、電解質は、アルキルホスホニウムカチオンを含む。アルキルホスホニウムカチオンは、テトラアルキルホスホニウムカチオンであってもよい。テトラアルキルホスホニウムカチオンは、例えば、[PR6R7R8R9]+の形であってもよい。ここで、R6、R7、R8、R9は、C1~C20のn-アルキル基から独立して選択される。いくつかの実施の形態において、アルキルホスホニウムカチオンは、窒化リチウムと接触すると脱プロトン化してイリドを形成することが可能である。
本発明の第1の態様に関連する特徴は、第2および第3の態様にも適用可能である。
第4の態様によれば、本発明は、電気化学的還元反応のための液体電解質を提供する。この液体電解質は、(i)イリドである中性プロトン受容体と、(ii)可逆的な脱プロトン化によって中性プロトン受容体を形成することが可能なカチオンプロトンキャリアと、(iii)非水性溶媒と、を備える。
いくつかの実施の形態において、液体電解質は、(iv)リチウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、亜鉛、アルミニウム、及びバナジウムから選択される金属カチオンを更に含む。
いくつかの実施の形態において、イリドは、正電荷を有する、リン、窒素、硫黄、及び酸素からなる群から選択されるヘテロ原子に隣接するカルバニオンを含む。
いくつかの実施の形態において、中性プロトン受容体は、ホスホニウムイリド及びスルホニウムイリドから選択される。いくつかの実施の形態において、中性プロトン受容体は、ホスホニウムイリドである。
いくつかの実施の形態において、カチオンプロトンキャリアは、アルキルホスホニウムカチオン及びアルキルスルホニウムカチオンから選択される。いくつかの実施の形態において、カチオンプロトンキャリアは、アルキルホスホニウムカチオンである。アルキルホスホニウムカチオンは、テトラアルキルホスホニウムカチオンであってもよい。テトラアルキルホスホニウムカチオンは、例えば、[PR6R7R8R9]+の形であってもよい。ここで、R6、R7、R8、R9は、C1~C20のn-アルキル基から独立して選択される。
いくつかの実施の形態において、カチオンプロトンキャリアは、1以上の電気化学的に安定なアニオンによって液体電解質中で電荷均衡される。1以上の電気化学的に安定なアニオンは、テトラフルオロホウ酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、塩化物イオン、過塩素酸イオン、トリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロリン酸イオンを含むフルオロアルキルリン酸イオン、テトラキス[3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]ホウ酸イオン及びテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ホウ酸イオンを含むフルオロアリルホウ酸イオン、テトラキス[ヘキサフルオロイソプロピル]ホウ酸イオンを含むフルオロアルキルホウ酸イオン、ビス(フルオロスルホニル)イミド、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、及び(フルオロスルホニル)-(トリフルオロメタンスルホニル)イミドを含むフッ化ビス(スルホニル)イミド、及びトリフルオロメタンスルホン酸イオン及び他のパーフルオロアルキルスルホン酸イオンを含むフッ化スルホン酸イオンからなる群から選択されてもよい。
いくつかの実施の形態において、液体電解質は、実質的に水を含まない。
いくつかの実施の形態において、非水系溶媒は、1以上の分子溶媒を含む。分子溶媒は、エーテル、メチル化ポリエーテル、メチル化グリコールエーテル、フッ化エーテル、フッ化アルキル、フッ化シクロアルキル、カーボネート、スルホラン、及びジメチルスルホキシドからなる群から選択されてもよい。
いくつかの実施の形態において、非水系溶媒は、常温イオン液体溶媒を含む。例えば、非水系溶媒は、電解質中の全溶媒の少なくとも20重量、又は少なくとも50重量%の量の常温イオン液体溶媒を含んでいてもよい。
いくつかの実施の形態において、カチオンプロトンキャリアは、窒化リチウムと接触すると脱プロトン化して中性プロトン受容体を形成することが可能である。
第5の態様によれば、本発明は、電気化学的還元反応のための液体電解質を提供する。この液体電解質は、(i)ホスホニウムイリドである中性プロトン受容体と、(ii)可逆的な脱プロトン化によって中性プロトン受容体を形成することが可能な、ホスホニウムカチオンであるカチオンプロトンキャリアと、(iii)非水性溶媒と、を備える。
本発明の第4の態様に関連する特徴は、第5の態様にも適用可能である。
第6の態様によれば、本発明は、電気化学セルにおける還元反応のための、第3または第4の態様のいずれかの実施の形態に係る液体電解質の使用を提供する。
いくつかの実施の形態において、中性プロトン受容体が、電気化学セル内で水素含有種のアノード酸化によって生成されるプロトンによってプロトン化されてカチオンプロトン受容体を形成し、カチオンプロトン受容体が、還元反応において脱プロトン化されて中性プロトン受容体を再形成する。
いくつかの実施の形態において、還元反応は、リチウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、亜鉛、アルミニウム、及びバナジウムから選択される金属により媒介される連続的な電気化学的窒素還元である。
第7の態様によれば、本発明は、電気化学的還元反応を連続的に行うシステムを提供する。このシステムは、カソード、アノード、及びカソードとアノードとの間に電圧を印加するための電源を含む電気化学セルと、少なくともカソードに接触する、第3又は第4の態様のいずれかの実施の形態の液体電解質と、を備える。
用語「含む」、「備える」、及び「有する」が本明細書(特許請求の範囲を含む)において使用される場合、それらは、記載された特徴、整数、ステップ、又は成分を特定するが、1つ以上の他の特徴、整数、ステップ、若しくは成分、又はそれらの群の存在を排除しないものと解釈されるものとする。
本発明の更なる態様は、以下の発明の詳細な説明において以下に明らかにされる。
本発明の実施の形態は、本明細書において、添付の図面を参照して、例示のみの目的で説明される。
[連続的な電気化学的窒素還元によるアンモニアの製造方法]
本発明は、アンモニアを製造するための連続的な電気化学的窒素還元方法に関する。この方法は、一般に、カソード、アノード、およびカソードとアノードの間に電圧を印加する電源からなる電気化学セルで行われる。電気化学セル内の、少なくともカソードと接触する電解質は、カチオンプロトンキャリアを含む。カチオンプロトンキャリアは、可逆的に脱プロトン化されて、イリド分子である中性プロトン受容体を形成することが可能である。この方法は、反応のために電気化学セルに窒素を供給することと、水素含有種のアノード酸化によって電解質にプロトンを導入することと、リチウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、亜鉛、アルミニウム、およびバナジウムから選択される金属の存在下で窒素をカソード還元してアンモニアを生成することを含む。金属は、電解質中および/またはカソード表面に存在してもよい。カチオンプロトンキャリアは、アンモニアを生成するためのプロトンを提供し、脱プロトン化されて中性プロトン受容体を形成することが可能である。
本発明は、アンモニアを製造するための連続的な電気化学的窒素還元方法に関する。この方法は、一般に、カソード、アノード、およびカソードとアノードの間に電圧を印加する電源からなる電気化学セルで行われる。電気化学セル内の、少なくともカソードと接触する電解質は、カチオンプロトンキャリアを含む。カチオンプロトンキャリアは、可逆的に脱プロトン化されて、イリド分子である中性プロトン受容体を形成することが可能である。この方法は、反応のために電気化学セルに窒素を供給することと、水素含有種のアノード酸化によって電解質にプロトンを導入することと、リチウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、亜鉛、アルミニウム、およびバナジウムから選択される金属の存在下で窒素をカソード還元してアンモニアを生成することを含む。金属は、電解質中および/またはカソード表面に存在してもよい。カチオンプロトンキャリアは、アンモニアを生成するためのプロトンを提供し、脱プロトン化されて中性プロトン受容体を形成することが可能である。
いかなる理論にも拘束されることを意図しないが、本発明のアンモニア合成反応は、リチウムを介した連続的なアンモニア合成について一般的に理解されているメカニズムによって進行することが示唆される。この示唆によれば、金属カチオンはカソード上で還元されて対応する金属形態の金属を形成し、窒素は金属形態の金属と反応して対応する金属窒化物を形成する。つづいて、金属窒化物はカチオンプロトンキャリアによってプロトン化されてアンモニアを生成し、中性プロトン受容体を形成して金属カチオンを再生させる。アノードでの水素含有種の酸化により電解質に導入されたプロトンで中性プロトン受容体をプロトン化することにより、カチオンプロトンキャリアは電解質中で連続的に再生される。
従来のリチウムを介したアンモニア合成との主な違いは、カチオンプロトンキャリアとそれに対応する中性プロトン受容体、特に、脱プロトン化してイリドプロトン受容体を形成するカチオンプロトンキャリアを用いることである。これは、脱プロトン化してアニオンプロトン受容体を形成するアルコールなどの中性プロトンキャリアに比べて、多くの利点があることが分かっている。
これらの利点は、低い初期セル抵抗および向上したセル安定性を含み得る。さらに、優れたファラデー効率及び高い反応速度が得られる可能性がある。この性能の向上は、少なくとも部分的には、反応シーケンスにアニオン種が存在しないことに起因することが示唆されている。実際、NH3の合成中に系内に必然的に存在するアニオンは、特に金属カチオンおよび/またはカチオンプロトン供与体の対イオンとして、意図的に導入されるものだけである。これらのアニオンは、電気化学反応条件下でのカソードおよびアノードの安定性、および電解質への溶解性のために選択することができるので、アニオン分解経路を回避または最小化することができる。
性能の向上は、カチオン種が静電力によって負極に引き寄せられる傾向にあることにも起因すると考えられる。したがって、カチオンプロトン供与体は、カソードに最も近い電解質層で豊富になり、それによって、カソード表面またはその近傍でのプロトン化反応への利用可能性が向上する可能性がある。
連続的な電気化学的窒素還元は、窒素が時間的及び/又は空間的に分離した一連のプロセスステップ、例えば、リチウム電解、窒化リチウム形成、及びアンモニア生成のための別々のバッチプロセスでアンモニアに変換される逐次電気化学プロセスとは区別することが可能である。上記で説明したように、連続的な還元は、合成の単一のプロセスステップにおいて、金属種及び/又はプロトンキャリア種を含む1つ以上の種の異なる形態間での循環を含むことが示唆される。
[金属]
連続的な電気化学的窒素還元は、金属を媒介または触媒として行われる。この合成は、反応サイクルに金属窒化物中間体を含むことが示唆されている。したがって、電気化学反応条件下で窒素から金属窒化物を形成することができる金属の範囲が、本発明で使用され得る。本明細書で使用される「金属」は、金属元素を意味し、特定の還元状態または化学種を意味するものではない。そのゼロ酸化状態の金属形態の金属が、例えば示唆された反応機構の文脈で明示される場合、その「金属形態」または「金属形態の金属」という用語が用いられる。
連続的な電気化学的窒素還元は、金属を媒介または触媒として行われる。この合成は、反応サイクルに金属窒化物中間体を含むことが示唆されている。したがって、電気化学反応条件下で窒素から金属窒化物を形成することができる金属の範囲が、本発明で使用され得る。本明細書で使用される「金属」は、金属元素を意味し、特定の還元状態または化学種を意味するものではない。そのゼロ酸化状態の金属形態の金属が、例えば示唆された反応機構の文脈で明示される場合、その「金属形態」または「金属形態の金属」という用語が用いられる。
先に示唆したメカニズムによれば、金属カチオンの電気化学的還元によりカソードに金属形態の金属が生成し、これがN2と自発的に反応して対応する金属窒化物を生成する。このため、電気化学的アンモニア生成条件下における後者の反応は熱力学的に好ましい(一般式nM++mN2←→MnN2mの反応のギブスエネルギーが負)はずである。表にまとめられた熱力学データ(例えば、L.B. Pankratzら、Thermodynamic Data for Mineral Technology、Washington D.C.、1984、John R. Rumble、CRC Handbook of Chemistry and Physics 101st Edition、2020)、公表された理論計算(例えば、Norskovら、in Energy Environ. Sci、2017、10、1621-1630)および実験報告(例えば、DE102018210304)に基づいて、好適な金属は、リチウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、亜鉛、アルミニウム、およびバナジウムを含む。
いくつかの実施の形態では、金属は、リチウムを含む、またはリチウムからなる。リチウムは、常温で窒素を活性化するその実証された能力のために、特に好適であると考えられる。
金属は、還元の間、電解質中に溶解した金属カチオンの形態(例えば、Li+)で存在してもよい。上記のように、反応サイクルは、電解質から金属カチオンを還元してカソード上に金属を形成し、サイクルの最終段階として金属カチオンを再生することを含むと考えられている。しかし、可溶な金属カチオンを中間体として用いずに、カソード表面の固体種(例えば、金属窒化物と金属形態の金属)間での連続的な反応で金属が循環することも可能であると考えられている。したがって、リチウムの場合、カソード反応機構は、原理的には、(i)金属形態のリチウムがカソード上で窒素と化学反応して窒化リチウムを形成し、(ii)カチオンプロトン供与体の存在下で窒化リチウムが直接電気化学的に還元され、金属形態のリチウムが直接再生されてアンモニアを生成する(すなわち、Li3N+3HB+3e-=NH3+3Li(0)+3B-)。
金属カチオンは、電解質中に0.001mol/Lより高い濃度、0.01mol/Lより高い濃度、または0.1mol/Lより高い濃度で存在してもよい。濃度の上限は、電解質媒体中の前駆体金属塩の溶解度によってのみ制限されると考えられる。いくつかの実施の形態において、電解質中の金属カチオンの濃度は、0.1mol/L~4mol/Lの範囲であり、例えば約0.2mol/Lである。
金属は、例えば、電解質に適切な金属塩を溶解することによって、カチオンの形態で電気化学セルに導入されるのが最も好都合である。しかし、金属が金属窒化物として、あるいは金属形態で導入されることを排除するものではない。金属カチオンが反応サイクルに関与していると仮定すると、これらはその種から電解質中で生成されてもよい。
[カチオンプロトンキャリア-イリドプロトン供与体]
電解質は、さらに、可逆的に脱プロトン化されて中性プロトン受容体を形成することが可能なカチオンプロトンキャリアを含む。プロトンキャリアおよびプロトン受容体は、典型的には有機種である。本明細書で使用する可逆的な脱プロトン化とは、カチオンプロトンキャリアが脱プロトン化されて中性プロトン受容体を形成し、その後に再プロトン化されてカチオンプロトンキャリアを再生することが可能であることを意味する。
電解質は、さらに、可逆的に脱プロトン化されて中性プロトン受容体を形成することが可能なカチオンプロトンキャリアを含む。プロトンキャリアおよびプロトン受容体は、典型的には有機種である。本明細書で使用する可逆的な脱プロトン化とは、カチオンプロトンキャリアが脱プロトン化されて中性プロトン受容体を形成し、その後に再プロトン化されてカチオンプロトンキャリアを再生することが可能であることを意味する。
示唆された機構と同様に、カチオンプロトンキャリアは、好ましくは室温の溶液中で、Li3Nなどの金属窒化物と反応することによって、中性プロトン受容体に脱プロトン化することが可能であってもよい。中性プロトン受容体は、好ましくは室温の溶液中で、遊離プロトンおよび/または有機酸との反応によってプロトン化し、カチオンプロトンキャリアを形成することが可能であってもよい。本発明者らは、このような反応が、本発明の方法において使用可能なカチオンプロトンキャリア-中性プロトン受容体の候補を評価するための便利な方法である可能性があることを見出した。
中性プロトン受容体であるイリドは、正の形式電荷を持つヘテロ原子に直接結合した負の形式電荷を持つ原子を含む中性双極子分子であり、双性イオンの一種である。
いかなる理論にも拘束されることを意図しないが、好適なイリドは、負電荷の電子が正中心の空軌道と一部共有されるため、必要に応じてプロトン化および脱プロトン化反応によってカチオンプロトン供与体と可逆的に相互変換することが可能であると考えられる。これにより、プロトン化された形態に、金属を介した連続的なアンモニア合成においてプロトン供与体に要求される弱酸性領域の酸性度がもたらされると考えられる。
いくつかの実施の形態において、イリドは、正に帯電したヘテロ原子に隣接するカルバニオンを含む。したがって、分子上のプロトンキャリア部位は炭素原子であり、脱プロトン化形態におけるカルバニオンとプロトン化形態におけるC-H共有結合の間で遷移する。イリドの正に帯電した(またはカチオン性の)ヘテロ原子は、リン、窒素、硫黄、および酸素からなる群から選択してもよい。
いくつかの実施の形態において、カチオンプロトン供与体は、ホスホニウムカチオンまたはスルホニウムカチオンであり、中性プロトン受容体は、対応するホスホニウムイリドまたはスルホニウムイリドである。いくつかの実施の形態において、カチオンプロトン供与体は、ホスホニウムカチオンであり、中性プロトン受容体は、対応するホスホニウムイリドである。
いくつかの実施の形態において、カチオンプロトンキャリアは、アルキルホスホニウムカチオンまたはアルキルスルホニウムカチオンであり、中性プロトン受容体は、対応するホスホニウムイリドまたはスルホニウムイリドである。本明細書で使用される場合、アルキルホスホニウムカチオンまたはアルキルスルホニウムカチオンは、少なくとも1つの任意に置換されたアルキル基を含むホスホニウムカチオンまたはスルホニウムカチオンを指す。いくつかの実施の形態において、カチオンプロトン供与体はアルキルホスホニウムカチオンであり、中性プロトン受容体は対応するホスホニウムイリドである。アルキルホスホニウムカチオンは、一般に、脱プロトン化してホスホニウム-カルバニオンイリド(R’)3P+-C-(R”)2を形成することが可能な任意の種であってもよい。ここで、それぞれの有機基R’及びR”は、同じであっても異なっていもよい。
アルキルホスホニウムカチオンの脱プロトン化によるイリドの生成は、有機合成化学の分野で知られており、イリドは一般にWittig試薬と呼ばれている。ホスホニウム-カルバニオンイリドは、多くの合成反応スキームにおいて求核試薬として有用である。例えば、Wittig反応では、ホスホニウムイリドはカルボニル基との[2+2]環化付加反応によりオキサホスフェタンとなり、その後脱離してアルケンとホスフィンオキシドを生成する。イリド試薬による合成反応は、一般に反応性のイリドがホスフィンオキシドなどの安定種に非可逆的に変換されることによって推進される。
これに対して、本発明の実施の形態では、ホスホニウムイリドを可逆的なプロトンシャトリング(shuttling)剤として用い、電解質中のプロトンを遮断し、窒素とのプロトン化反応のために輸送してアンモニアを生成させる。
広範囲のアルキルホスホニウムカチオンが、例えばスキーム1に示されるように、イリドプロトン受容体への可逆的な脱プロトン化が可能であるという要求のみを条件として、本発明に適していると考えられる。したがって、アルキルホスホニウムカチオンは、式Iの構造を有し、対応するイリドは、式IIの構造を有してもよい。
いくつかの実施の形態において、R1、R2、R3は、独立して、アルキル(例えば、C1~C20のn-アルキル基)およびアリール(例えば、フェニル基)から選択され、R4は、水素、アルキル(例えば、C1~C20のn-アルキル基)およびアリール(例えば、フェニル基)から選択され、R5は、水素、アルキル(例えば、C1~C19のアルキル基)、シクロアルキル(例えば、C3~C6のシクロアルキル基)、ハロゲン、エーテル、エステル、アシル、アミノ、およびニトリル官能基で置換されたアルキル(例えば、C1~C19のアルキル基)またはシクロアルキル、アリール(例えば、-C6F5を含むフェニル基)、エステル(例えば、-C(=O)O(C1~C6のアルキル))、アミド(例えば、C(=O)NHC6F5、C(=O)N(Me)OMe)、ニトリル(-CN)、ハロゲン、エーテル(例えば、-O(C1~C6のアルキル))、チオエーテル(例えば、-S(C1~C6のアルキル)、-SC6F5)、-PR10R11、及び-P(=O)R12R13から選択される。ここで、R10~R13は、独立して、アルキル(例えば、C1~C6のアルキル)およびアリール(例えば、-C6F5)である。R1~R4のいずれかにおけるアルキル基およびアリール基は、無置換であってもよいし、ハロゲン、エーテル、ヒドロキシ、エステル、アシル、アミノ、ニトリル官能基などの置換基で置換されていてもよく、R1~R4のいずれか2つが連結して環状構造を形成していてもよい。
当業者には理解されるように、R1~R5基、特にR5は、アルキルホスホニウムカチオンの酸性度、ひいてはプロトン供与能力を制御するために選択することができる。
いくつかの実施の形態において、R1、R2、およびR3は、独立して、C1~C20のn-アルキルおよびフェニルから選択され、R4は、水素であり、R5は、水素およびC1~C19のn-アルキルから選択される。
いくつかの実施の形態において、アルキルホスホニウムカチオンは、イオン液体カチオンである。これは、適切な対イオンと対になったときに、イオン液体、例えば常温イオン液体を形成することが可能であることを意味する。本明細書で使用されるように、イオン液体は、100℃未満の融点を有する塩であり、常温イオン液体は、25℃未満の融点を有する。このようなカチオンは、電解質中の他の溶媒や塩との溶解性/混和性が高く、導電性が高いため、好ましいと考えられる。テトラアルキルホスホニウムカチオンを含む一般式Iのさまざまなホスホニウムカチオンは、BF4
-、PF6
-、トリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスファート(eFAP)を含むフルオロアルキルホスファート、テトラキス[ヘキサフルオロイソプロピル]ボラートなどのフルオロアルキルボラート、ビス(フルオロスルホニル)イミド、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(TFSI)、(フルオロスルホニル)-(トリフルオロメタンスルホニル)イミドなどのフッ化ビス(スルホニル)イミド、トリフラートや他のパーフルオロアルキルスルホナートなどのフッ化スルホナートなどの対イオンとの組み合わせでイオン性液体を形成する。溶解した金属カチオンを含まないこのタイプのイオン液体は、先行技術(例えば、MacFarlaneら、WO2017/132721)において窒素還元の分野で使用されてきたが、先行技術に開示されたカソード電位では、これらのイオン液体は脱プロトン化するいかなる傾向も示さない。金属窒化物の形成を達成するために、このケースで必要とされるより著しく負の電位、例えば-2.0V(vs Ag/Ag+)よりも負の電位では、これらのイオン液体は活性プロトン供与体となることができる。
いくつかの実施の形態において、アルキルホスホニウムカチオンは、テトラアルキルホスホニウムカチオンである。テトラアルキルホスホニウムカチオンは、[PR6R7R8R9]+の構造を有してもよい。ここで、R6、R7、R8、及びR9は、C1~C20のn-アルキルから独立して選択される。いくつかの実施の形態において、R6、R7、R8、及びR9の炭素原子の合計は、少なくとも7、または少なくとも13、または少なくとも16である。当業者に理解されるように、テトラアルキルホスホニウムカチオンの結合鎖長の増加は、一般に、有機媒体中における溶解度を高め、塩の融点を下げ、水を吸収または溶解する傾向を低下させるであろう。いくつかの実施の形態において、R6、R7、及びR8は、独立して、C4~C20のn-アルキルから選択され、R9は、C1~C20のn-アルキルである。
NH3の連続合成中、特に定常状態またはそれに近い運転条件では、電解質は、一般に、カチオンプロトンキャリアとイリドプロトン受容体の両方の混合物を含むであろう。連続運転されるセルは、他の物質(例えば、Li、Li3N、LiH)が蓄積していなければ、アノードでのプロトンの生成とカソードでの消費(目的のNH3または副生成物のH2などとして)が正確に一致するときに、両種の相対濃度が定常状態に達する。実際、電解質中に両方の種が存在することで、望ましい緩衝作用が生じることが理解される。この緩衝作用により、プロトンキャリアは、起動時および/または間欠駆動による電流の変動時に、アノードでの過剰なプロトン生成を吸収することができる。さらに、電解質中のイリドプロトン受容体の濃度が高い状態で動作することにより、多くのプロトンが、HERなどの望ましくないカソード反応に参加する前に、イリドによって遮断され消費されることが保証される。
いくつかの実施の形態において、プロトンキャリア系は、例えば、カチオンプロトンキャリア種の適切な塩を電解質中に溶解させることによって、そのカチオンの形態で化学セルに導入される。しかし、カチオンプロトン供与体または対応するイリドプロトン受容体のいずれかが、NH3合成反応を促進するために電気化学セルに供給されてもよいことが理解されよう。2種の混合物は、上記に説明したように、どちらの場合もその場で(in situ)形成されてもよい。
カチオンプロトン供与体及びその対応するイリドプロトン受容体は、電解質中に、合わせて、0.001mol/Lより高い、又は0.01mol/Lより高い、又は0.05mol/Lより高い濃度で存在してもよい。いくつかの実施の形態において、例えば電解質溶媒が主に分子性有機溶媒である場合、合わせた濃度は0.05mol/Lと1mol/Lの間の範囲、例えば約0.1mol/Lである。他の実施の形態において、例えば、ホスホニウムベースのイオン液体が電解質溶媒のかなりの割合を占める場合、カチオンプロトン供与体及びその対応するイリドプロトン受容体を合わせた濃度は、実質的により高くてもよい。
示唆された反応メカニズムの観点から、金属カチオン及びカチオンプロトンキャリアの合計濃度は、電気化学的NH3合成の間、一定であると予想されるが、これら2種の比率は異なる定常状態の条件で変化しうることが理解されよう。いくつかの実施の形態において、金属カチオン及びカチオンプロトンキャリアは、合わせて、0.001mol/Lより高い、又は0.01mol/Lより高い、又は0.1mol/Lより高い濃度で電解質中に存在する。合わせた濃度は、0.1mol/Lと4mol/Lの間の範囲、または0.1mol/Lと1mol/Lの間の範囲、例えば約0.3mol/Lであってもよい。
[電気化学的に安定なアニオン]
電解質は、金属カチオンおよびカチオンプロトンキャリアを含む電解質中に存在するカチオン種の電荷とバランスをとるために、1つまたは複数のアニオンを含む。アニオンは、好ましくは、電気化学的に安定なアニオンである。本明細書で使用されるように、電気化学的に安定なアニオンは、連続的な電気化学的窒素還元の条件下で、カソード反応またはアノード反応に対して許容できる程度に安定している、または著しく影響を受けにくいアニオンである。
電解質は、金属カチオンおよびカチオンプロトンキャリアを含む電解質中に存在するカチオン種の電荷とバランスをとるために、1つまたは複数のアニオンを含む。アニオンは、好ましくは、電気化学的に安定なアニオンである。本明細書で使用されるように、電気化学的に安定なアニオンは、連続的な電気化学的窒素還元の条件下で、カソード反応またはアノード反応に対して許容できる程度に安定している、または著しく影響を受けにくいアニオンである。
既に述べたように、アニオン種が反応経路に関与しないので、本発明の方法において著しい利点が得られると考えられる。したがって、電解質中に存在するアニオンは、金属カチオンとカチオンプロトンキャリアの電荷バランスをとるために必要なものを含め、電気化学反応条件下でのカソードおよびアノード安定性、及び電解質への溶解性のために選択されてもよい。これにより、アニオン性分解経路を回避または最小化することができる。
電気化学合成およびイオン液体技術の分野において、電気化学的に安定な広範囲のアニオンが知られており、任意のそのようなアニオンまたはそれらの組み合わせが、本発明の方法において好適であると考えられる。好適なアニオンの非限定的な例は、テトラフルオロホウ酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、塩化物イオン、過塩素酸イオン、トリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロリン酸イオンなどのフルオロアルキルリン酸イオン、テトラキス[3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]ホウ酸イオン及びテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ホウ酸イオンなどのフルオロアリルホウ酸イオン、テトラキス[ヘキサフルオロイソプロピル]ホウ酸イオンなどのフルオロアルキルホウ酸イオン、ビス(フルオロスルホニル)イミド、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、及び(フルオロスルホニル)-(トリフルオロメタンスルホニル)イミドなどのフッ化ビス(スルホニル)イミド、及びトリフルオロメタンスルホン酸イオン(トリフラート)及び他のパーフルオロアルキルスルホン酸イオン(パーフルオロヘキサンスルホン酸イオンなど)などのフッ化スルホン酸イオンを含む。塩化物イオンは、例えばアノード反応がH2である場合など、いくつかの実施の形態においてアノード酸化に対して十分に安定であると考えられるので、使用されてもよい。
電気化学的に安定なアニオンは、金属カチオンと共に、すなわち金属塩として、またはカチオンプロトン供与体と共に、あるいはその両方と共に電解質に導入することができる。
[溶媒]
電解質は、典型的には、非水系液体電解質であり、1つ以上の非水系溶媒を含んでもよい。好適な非水系溶媒は、一般に非プロトン性溶媒であり、非プロトン性分子溶媒と常温イオン液体などのイオン性溶媒の両方を含んでもよい。溶媒は、好ましくは、反応条件下で安定であるか、またはせいぜい若干分解する程度であることが望ましい。
電解質は、典型的には、非水系液体電解質であり、1つ以上の非水系溶媒を含んでもよい。好適な非水系溶媒は、一般に非プロトン性溶媒であり、非プロトン性分子溶媒と常温イオン液体などのイオン性溶媒の両方を含んでもよい。溶媒は、好ましくは、反応条件下で安定であるか、またはせいぜい若干分解する程度であることが望ましい。
非水系溶媒は、理想的には、金属カチオン、カチオンプロトンキャリア、およびイリドプロトン受容体を含む、反応サイクルに関与する主要な種にとって良溶媒であるべきである。特定の溶媒におけるカチオン種の溶解度は、対イオンの賢明な選択、および本明細書に開示されるカチオンプロトンキャリアシステムの設計によって増加し得ることが知られている。したがって、広範囲の非プロトン性溶媒が、本発明の実施の形態において好適であり得る。
いくつかの実施の形態において、非水系液体電解質は、エーテル、メチル化ポリエーテル、テトラグライムなどのメチル化グリコールエーテル、フッ化エーテル、フッ化アルキル、フッ化シクロアルキル、カーボネート、スルホラン、およびジメチルスルホキシドからなる群から選択される1以上の分子溶媒から構成される。
いくつかの実施の形態において、非水性液体電解質は、例えば、電解質中の全非水系溶媒の少なくとも20重量%、又は少なくとも50重量%の量で、常温イオン液体溶媒を含む。電気化学合成に適した溶媒として、例えばWO2017/132721に開示されるように、広範な常温イオン液体が知られており、そのような溶媒は、一般に、本開示の方法において使用され得る。
したがって、いくつかの実施の形態において、常温イオン液体溶媒は、以下を含む。
(i)PR1~4(ホスホニウム)、NR1~4(テトラアルキルアンモニウム)、C4H8NR2(ピロリジニウム)からなる群から選択される少なくとも一つのカチオン:ここで、各R基は、独立して、直鎖、分枝、または環状で、好ましくは1~18個の炭素原子を含み、オプションで部分的または完全にハロゲン化され、オプションでヘテロ原子を含み、オプションでエーテル、アルコール、カルボニル(アセテート)、チオール、スルホキシド、スルホネート、アミン、アゾ、またはニトリルから選択される官能基を含み、2つのR基は、連結して単環式または複素環式の環を形成してもよい。
(ii)(R’O)xPF6-x(リン酸イオン)、(R’O)xBF4-x(ホウ酸イオン)、R’SO2NSO2R’(イミド)、R’SO2C(SO2R’)(SO2R’)(メチド)、FSO2NSO2F、C2O4BF2、C2O4PF4、RC2O4BF2、RC2O4PF4、CF3SO3(トリフラート)、R’SO3(スルホン酸イオン)、R’CO2(カルボン酸イオン)、CF3COO(トリフルオロ酢酸イオン)、R’xPF6-x(FAP)、R’xBF4-xからなる群から選択される少なくとも1つのアニオン:ここで、各R’基は、独立して、直鎖、分枝、または環状であり、好ましくは1~18個の炭素原子を含み、オプションで部分的または完全にフッ素化され、オプションでエーテル、アルコール、カルボニル(アセテート)、チオール、スルホキシド、スルホネート、アミン、アゾ、またはニトリルから選ばれる官能基を含み、2つのR’基は、連結して単環式または複素環式の環を形成してもよい。
それぞれの場合において、xはゼロから中心原子の共有結合の最大数までである。
(i)PR1~4(ホスホニウム)、NR1~4(テトラアルキルアンモニウム)、C4H8NR2(ピロリジニウム)からなる群から選択される少なくとも一つのカチオン:ここで、各R基は、独立して、直鎖、分枝、または環状で、好ましくは1~18個の炭素原子を含み、オプションで部分的または完全にハロゲン化され、オプションでヘテロ原子を含み、オプションでエーテル、アルコール、カルボニル(アセテート)、チオール、スルホキシド、スルホネート、アミン、アゾ、またはニトリルから選択される官能基を含み、2つのR基は、連結して単環式または複素環式の環を形成してもよい。
(ii)(R’O)xPF6-x(リン酸イオン)、(R’O)xBF4-x(ホウ酸イオン)、R’SO2NSO2R’(イミド)、R’SO2C(SO2R’)(SO2R’)(メチド)、FSO2NSO2F、C2O4BF2、C2O4PF4、RC2O4BF2、RC2O4PF4、CF3SO3(トリフラート)、R’SO3(スルホン酸イオン)、R’CO2(カルボン酸イオン)、CF3COO(トリフルオロ酢酸イオン)、R’xPF6-x(FAP)、R’xBF4-xからなる群から選択される少なくとも1つのアニオン:ここで、各R’基は、独立して、直鎖、分枝、または環状であり、好ましくは1~18個の炭素原子を含み、オプションで部分的または完全にフッ素化され、オプションでエーテル、アルコール、カルボニル(アセテート)、チオール、スルホキシド、スルホネート、アミン、アゾ、またはニトリルから選ばれる官能基を含み、2つのR’基は、連結して単環式または複素環式の環を形成してもよい。
それぞれの場合において、xはゼロから中心原子の共有結合の最大数までである。
いくつかの実施の形態において、イオン液体溶媒は、電気化学的NH3合成の条件下で、安定、すなわち実質的に非反応性である。
他の実施の形態において、イオン液体溶媒の少なくとも1つのカチオンは、可逆的な脱プロトン化によりイリドプロトン受容体を形成することが可能なカチオンプロトンキャリア種である。このようなイオン液体の例は、本明細書に開示されるように、テトラアルキルホスホニウムカチオンを有するものである。ホスホニウムベースのイオン液体溶媒は、水の非存在下で、本明細書に開示される原理による、金属により媒介されたアンモニアへの連続的な電気化学的窒素還元を促進し得ることが想定される。電解質溶媒は、反応性カチオンを有するイオン液体溶媒で構成されてもよい。あるいは、反応性カチオンと安定カチオンの混合物を有するイオン液体溶媒を用いてもよく、反応性イオン液体と安定分子溶媒の混合物を用いてもよい。
電解質は、好ましくは、水を実質的に含まない。これは、水の量がゼロであるか、または、本明細書に開示されるような連続的な金属媒介電気化学的NH3合成反応の反応サイクルにかなりの程度干渉しないほど少ないことを意味する。例えば、電解質は、1000ppm以下、好ましくは100ppm以下、最も好ましくは20ppm以下の水を含んでもよい。
電解質は、物質移動の制限が回避されるか、又は許容できる程度に低くなるような十分に粘度を有していてもよい。いくつかの実施の形態において、非水系電解質は、25℃で50MPa・s未満、又は20MPa・s未満、又は15MPa・s未満の粘度を有する。この粘度は、Lovis 2000M Anton Paar粘度計(Lovis角30°)を用いて、ISO 12058に従って測定されてもよい。
[アンモニアに還元するための窒素の供給]
本発明の方法は、少なくともカソードに接触する電解質を含む電気化学セルに窒素を供給し、金属の存在下で窒素をカソード還元してアンモニアを生成させることを含む。
本発明の方法は、少なくともカソードに接触する電解質を含む電気化学セルに窒素を供給し、金属の存在下で窒素をカソード還元してアンモニアを生成させることを含む。
本明細書で使用される「カソード還元」は、特定のメカニズムを示すものではなく、反応サイクルに関与する中間種を特定するものではなく、またはこれらの種が反応する場所(例えば、カソード表面上またはバルク電解質中)を示唆するものではないことが理解されよう。しかしながら、いかなる理論にも拘束されることを意図しないが、図1を参照して本明細書に開示されるメカニズムに従って、窒素がアンモニアにカソード還元されることが示唆される。本明細書に一般的に開示されるように、本発明において、プロトン供与体(図1のBH)はカチオンプロトンキャリア(Y-H+)であり、プロトン受容体(図1のB)は、対応する中性イリド分子(Y)である。したがって、全体のカソード窒素還元反応は、式(3)で示されるようになると考えられる。
N2+6Y-H++6e-→2NH3+6Y (3)
N2+6Y-H++6e-→2NH3+6Y (3)
したがって、カソードは、このカソード反応を推進するのに適した電位であってもよい。この電位は、特に、金属カチオンの対応する還元形態、例えば金属形態及び/又は金属窒化物への還元電位(例えば、Li+/Li還元電位)より低くても(より負側であっても)よい。この還元電位は、サイクリックボルタンメトリーにおけるクロスオーバー点によって測定される、窒素還元条件下での非水系電解質中の金属カチオンの見かけの還元電位として決定されてもよい。
いくつかの実施の形態において、カソード電位は、非水系電解質中の金属カチオンの見かけの還元電位に対して、-0.2V、または0.4V低い(より負側)。このような電位では、優れた収率およびファラデー効率が得られる可能性がある。しかし、いくつかの実施の形態において、カソード電位は、非水系電解質中の金属カチオンの見かけの還元電位に対して、-1V、または0.8V高い(より正側)。
窒素は、1barより大きい、又は5barより大きい、又は10barより大きい分圧で電気化学セルに供給されてもよい。いくつかの実施の形態において、窒素は、0.7bar~100bar、または2bar~30bar、または5bar~20barの範囲の分圧で供給される。セル内のN2の分圧を上昇させると、電解質に溶解しているN2の濃度を上昇させることにより、アンモニア合成のファラデー効率を向上させることができる。これは、金属窒化物を形成するN2と金属との間の所望の反応を促進すると考えられる。
窒素は、電解質を窒素と接触させ、それによって窒素を電解質中に可溶化することによって、カソード還元のために電気化学セルに供給されてもよい。いくつかの実施の形態において、窒素は、カソードに曝露されたとき、主に、または排他的に、溶液相に存在する。あるいは、窒素ガスをカソード上に通過してもよい。この場合、電極、ガス、および電解質の間に三相境界が形成される。
電解質は、アンモニア合成を促進するために適切な温度に維持されてもよい。温度は、-35℃から200℃、例えば、15℃から100℃の範囲であってもよい。
アンモニウムカチオンは、本発明のカチオンプロトンキャリア(アルキルホスホニウムなど)よりも強い酸であるため、生成したアンモニアは電解質中でNH4
+ではなくNH3として存在すると予想される。しかし、過剰なプロトンが生成された場合、ある程度のアンモニアがNH4
+の形で生成される可能性は排除されない。
[アノード酸化]
本発明の方法は、水素含有種のアノード酸化によって電解質にプロトンを導入することを含む。本明細書に開示された原理によれば、プロトンは、電解質中でイリドプロトン受容体と反応してカチオンプロトンキャリアを再生すると予想される。窒素還元反応に関与する主要なプロトン化剤であると考えられるのは、プロトンそのものではなく、後者の種である。
本発明の方法は、水素含有種のアノード酸化によって電解質にプロトンを導入することを含む。本明細書に開示された原理によれば、プロトンは、電解質中でイリドプロトン受容体と反応してカチオンプロトンキャリアを再生すると予想される。窒素還元反応に関与する主要なプロトン化剤であると考えられるのは、プロトンそのものではなく、後者の種である。
プロトンは、電気化学セルのアノードで、水素(H2)や水(H2O)など、任意の適切な水素含有種の酸化によって生成することができる。これらの反応物のアノード半反応は、それぞれ式(4)と式(5)に示される。
H2→2H++2e- (4)
2H2O→O2+4H++4e- (5)
H2→2H++2e- (4)
2H2O→O2+4H++4e- (5)
したがって、プロトンキャリアのアノード再生プロセスの全体は、式(3)と均衡させて、式(6)または式(7)のいずれかで示される。ここで、Yはイリドプロトン受容体であり、Y-H+はカチオンプロトンキャリアである。
3H2+6Y→6Y-H++6e- (6)
3H2O+6Y→(3/2)O2+6Y-H++6e- (7)
3H2+6Y→6Y-H++6e- (6)
3H2O+6Y→(3/2)O2+6Y-H++6e- (7)
H2を酸化してプロトンを生成する場合、カチオンプロトンキャリアを含む電解質をカソードとアノードの両方に接触させてもよい。この場合、プロトンは、アノードで生成されると直接電解質に導入される。H2は、再生可能な電力による水の電気分解を含む、任意の供給源から得てもよい。オプションとして、水の電気分解セルを窒素還元セルと統合して、電気分解から窒素還元に直接H2を供給することも可能である。
水は安価であるため、電気化学合成におけるプロトンの供給源として特に好ましいが、金属を介した連続的な電気化学的窒素還元を妨害することが知られている。したがって、H2Oを酸化してプロトンを生成する場合には、アノードからカチオンプロトンキャリアを含む電解質にプロトンを間接的に移動させることが好ましいと考えられる。これは、窒素還元が行われる電解質中の水の存在を許容できる程度に制限または回避するのに役立つ可能性がある。例えば、電気化学セルは、2つの電解質:カチオンプロトンキャリア(本明細書に一般的に開示される)を含むカソライトと、水が酸化されるアノードに接触すアノライト(液体、固体、又は固体と液体の混合物のいずれか)を備えてもよい。電気化学セルは、アノライトからカソライトへのプロトン移動を可能にするが、水の移動を実質的に制限または回避するように構成される。これを実現するための様々な構成が電気化学合成の分野で知られており、以下にさらに詳しく説明する。
H2は、カソードでのHERとの競合により、通常、窒素還元反応の重要な副生成物である。H2副生成物は、オプションでカソードでの酸化のためにリサイクルされ、選択された水素含有種の供給を補足することができる。他のエネルギー含有副生成物はないので、これにより、アンモニアの単位生産量あたりのエネルギー消費量を低減させることができる。
[電気化学セル]
本発明の方法は、一般に、カソードと、アノードと、カソードおよびアノードに接続された電源とを含む電気化学セルにおいて実行される。電源は、電気化学的アンモニア合成を推進するのに十分な電圧をカソードとアノードとの間に印加するように構成される。
本発明の方法は、一般に、カソードと、アノードと、カソードおよびアノードに接続された電源とを含む電気化学セルにおいて実行される。電源は、電気化学的アンモニア合成を推進するのに十分な電圧をカソードとアノードとの間に印加するように構成される。
カソードは、一般に、必要な還元電位で安定な任意の導電性電極、例えば、以前に報告されたリチウム媒介連続電気化学合成(例えば、Tsunetoら、Chemistry Letters、1993、851-854)または金属カチオンの金属形態への還元を含む他のプロセスで使用される金属電極であってもよい。適切な金属の非限定的な例は、Ni、Nb、Ti、Mo、Fe、Cu、Ag、及びZn、並びにこれらの合金を含んでもよい。いくつかの実施の形態において、銅(Cu)カソードが使用される。他の実施の形態において、カソードの金属は、アンモニア合成を媒介する金属の金属形態からなる、または含む。
カソードは、シリンダー、ディスク、プレート、またはセル設計に適した他の形状にすることができる。カソードは、さらに、例えばエッチングによって達成されるような多孔質であってもよいし、発泡体として、または圧縮粒子の塊として、あるいは逆オパール構造によって構築されてもよい。所望の媒介金属は、最適な粗さと多孔性を提供する基礎構造上に、例えば電着または化学蒸着によって被覆されてもよい。カソードは、金属ナノ粒子を不活性な構造体に沈着させることによっても形成することができる。
H2OまたはH2などの水素含有種を酸化してプロトンを形成するのに適したアノードは、電気化学の分野でよく知られている。いくつかの実施の形態において、アノードは白金電極である。
電源は、直流電源など、電解システム用の任意の従来の電源であってよい。オプションで、電源は、太陽光発電電池を含んでもよい。アンモニアが電力、特に再生可能な電力から製造され得ることは、本発明の特に有利な点であると考えられる。例えば、本発明により、太陽または風力発電された電力を使用して、必要な時にアンモニアベースの肥料を製造することができることが想定される。これは、水耕栽培などの高価値農業用途に特に有用であり、または遠隔地への肥料輸送に関連する物流課題を最小化することが可能であろう。
本発明の実施の形態を実行するための電気化学セルの一例が、図2に概略的に示される。セル200は、セルチャンバ211内の銅カソード210を含む。セル200は、さらに、白金アノード212を含み、Ag/Ag+などの従来型の参照電極213をオプションで含む。この3つの電極は、本明細書に一般的に開示されるリチウムカチオンおよびカチオンプロトンキャリアを含む同一の非水系液体電解質214中に浸漬される。オプションで、セルチャンバー211における物質輸送を強化するために、電解質を混合又は循環させるためのスターラー又は他の手段が含まれてもよい。電極は、カソード210とアノード212との間に電圧を印加することが可能な電源(図示せず)に接続されており、カソードの還元電位は基準電極に対して制御(又は測定)される。
セル200は、窒素(N2)と水素(H2)を含む混合ガス218をチャンバー211に導入するためのガス入口215をさらに含む。セルは、チャンバーのヘッドスペースからガス219を除去するためのガス出口216、電解質を電解質フィード222で補充するための電解質入口220、及び電解質214を回収するための電解質出口221を含んでもよい。セルは、好ましくは、高圧で動作するように構成される。
使用時には、混合ガス218がガス入口215を介してチャンバー211内に加圧され、カソードとアノードの間には、カソード210においてLi+/Li還元電位よりも低い(より負の)還元電位を達成するのに十分な電圧が印加される。セルチャンバー211内の窒素の分圧は10barより高く、水素の分圧は1barより高くてもよい。その結果セルを流れる電流は、本明細書に開示される原理に従って、窒素のアンモニアへの電気化学的還元をもたらす。アンモニア生成物は、ガス出口216を介してガス219中から、及び/又は、電解質出口221を介して回収される電解質214中から、連続的又は周期的にセルチャンバー211から除去されてもよい。
いくつかの実施の形態において、これらの流れの一方または両方を連続的に回収し、必要に応じてガス混合物218および/または電解質フィード222を導入することによりガス反応物(N2およびH2)および/または電解質を連続的に補充することによって、セルは定常状態で運転される。ガス219及び/又は電解質214の回収されたストリームからアンモニアが分離されてもよく、残留ガス及び電解質は、それぞれガス混合物218及び電解質フィード222の一部としてセルチャンバー211に戻されてもよい。電解質出口221を介して回収された電解質214の一部は、廃棄され(又は再生され)、フィード222中の新鮮な電解質と交換されてもよい。これにより、セル内の目標電解質滞留時間が維持される。
肥料生成セルの使用の点の1つの実施の形態において、出口ガスストリーム219を硫酸またはリン酸の水溶液に通し、アンモニアをアンモニウム(NH4
+)として吸収させる。このプロセスの生成物は、使用した酸のアンモニウム塩の溶液、例えば硫酸アンモニウム溶液であり、肥料溶液として直接応用することができる。水耕栽培や業務用温室で使用する場合は、植物への給水にインラインで連続的に肥料を供給するようにセルを制御することができる。
本発明の実施の形態を実行するための電気化学セルの別の例が、図3に概略的に示される。セル300は、プロトンを透過可能な膜セパレータ333、例えばナフィオンなどのスルホン化ポリ(テトラフルオロエチレン)アイオノマーから構成される膜によって分離されたカソードチャンバー311及びアノードチャンバー331を含む。銅カソード310は、カソードチャンバー311に配置される。従来型の参照電極313もカソードチャンバー内にある。白金アノード312は、アノードチャンバー331に配置される。電極は、カソード310とアノード312との間に電圧を印加することが可能な電源(図示せず)に接続されており、カソードの還元電位は、参照電極に対して制御(または測定)される。
カソード310と参照電極313はカソライト314に浸漬され、アノード312はアノライト334に浸漬される。カソライト314は、本明細書に一般的に開示されるようなリチウムカチオンとカチオンプロトンキャリアとを含む非水系液体電解質であり、水を実質的に含まない。アノライト334は、アノードでの酸化のために水を含むが、それ以外は、カソライト314と比較して組成が同じであっても異なっていてもよい。膜分離器333は、カソード反応室とアノード反応室との間のプロトン以外の種の伝達を抑制するか、又は実質的に防止する。
セル300は、カソードチャンバー311に窒素フィード318を導入するためのガスフィード入口315をさらに含む。セルは、カソードチャンバーのヘッドスペースからガス319を除去するためのカソードガス出口316、カソライトフィード325でカソライトを補充するためのカソライト入口324、及びカソライト314を回収するためのカソード出口321を含んでもよい。セル300は、アノライト334を導入または補充し、オプションで、アノードチャンバー331に1つ以上の水素含有種(例えば、液体または蒸気のいずれかとしてのH2Oおよび/またはH2)を導入するためのアノード入口340を含んでもよい。アノライト出口341は、アノライト334を回収するために設けられ、アノードガス出口344は、アノードチャンバーのヘッドスペースからガス345を回収するために設けられる。
使用時、窒素318は、ガス供給入口315を介してカソードチャンバー311に加圧される。カソードチャンバー311内の窒素の分圧は、10barより高くてもよい。水は、最初にアノライト344に存在し、および/またはアノード入口340を介してアノードチャンバーに供給されてもよい。カソードとアノードの間に、Li+/Li還元電位よりも低い(より負の)還元電位をカソード310で達成するのに十分な電圧が印加される。その結果、セルを流れる電流により、本明細書に開示される原理にしたがって、カソードチャンバー311において窒素をアンモニアに電気化学的に還元することができる。
セル300では、セル200とは異なり、カソード312で水が酸化され、式(5)にしたがってアノライト334中でプロトンが生成される。プロトンは、膜セパレータ333を通過して移動してセル内の電荷中性を維持し、カソライト314に入って中性プロトン受容体をプロトン化し、カチオンプロトンキャリアを再生させる。しかし、水および他の望ましくない種は、膜セパレータ333によって、アノライト334からカソライト314へ移動することを排除または抑制される。
アンモニア生成物は、ガス出口316を介してガス319中から、及び/又は電解質出口221を介して回収されたカソライト314から、連続的又は定期的にカソードチャンバ311から除去されてもよい。セルは連続的に運転されてもよく、セルから取り出された電解質及びガスは、セル200について説明したのと同様の方法で、アンモニア及び他の副生成物を除去した後に戻されてもよい。カソードチャンバー311で副生成物として生成された水素は、酸化のためにアノードチャンバー331に回収、再利用されてもよい。
変形例において、アノード312での酸化のために、水素が唯一の水素含有種としてセル300に導入されてもよい。この場合、カソライト314及びアノライト334の双方が、実質的に水を含まないものであってもよい。
セル300において示された構成は、カソードにおける水の酸化、及びその結果として生じるプロトンの、水に敏感なカソード反応に参加する水を実質的に含まない電解質への選択的な移動を可能にするように構成された電気化学セルの一例に過ぎない。報告された別のアプローチにおいて、セパレータが多孔質アノード(例えば、ガス拡散電極)に近接して配置される。水を含むガスストリーム(例えば、湿った空気)は、セパレータによって対流混合を妨げられながら、アノードの外面を通過するように導かれる。電解質は十分に疎水性であるため、ガスストリームから水分はほとんど吸収されない。電解質の疎水性とガスストリームの湿度が適切に調整されていれば、セパレータはバルク電解質中の水分含有量を低く保つためのプロトン選択性を必要としなくてもよい。
別の報告されたアプローチにおいて、疎水性の有機カソライトと極性(水溶液など)のアノライトを混和せず、両者の相界面でプロトン移動が実現される。この構成は、カソライトへの水分移行を適切に抑制しながら、十分なプロトン移動を可能とすることもできる。相界面を安定に保つために、相界面の位置付けとしてセパレータを使用してもよい。
[液体電解質、電解質の使用、及び電解質を含むシステム]
本発明は、電気化学的還元反応のための液体電解質に関する。電解質は、(i)イリドである中性プロトン受容体と、(ii)可逆的な脱プロトン化によって中性プロトン受容体を形成することが可能なカチオンプロトンキャリアと、(iii)非水系溶媒と、を含む。液体電解質は、好ましくは、実質的に水を含まない。例えば、液体電解質は、1000ppm未満、好ましくは100ppm未満、最も好ましくは20ppm未満の水を含んでもよい。
本発明は、電気化学的還元反応のための液体電解質に関する。電解質は、(i)イリドである中性プロトン受容体と、(ii)可逆的な脱プロトン化によって中性プロトン受容体を形成することが可能なカチオンプロトンキャリアと、(iii)非水系溶媒と、を含む。液体電解質は、好ましくは、実質的に水を含まない。例えば、液体電解質は、1000ppm未満、好ましくは100ppm未満、最も好ましくは20ppm未満の水を含んでもよい。
本発明は、さらに、この電解質を電気化学セルにおける還元反応に使用することに関する。
カチオンプロトンキャリア、その対応する中性イリドプロトン受容体、電解質中のカチオン種の電荷を均衡させる電気化学的に安定なアニオン、上記の種の濃度、および非水系溶媒は、一般に、アンモニアを生成する連続電気化学的窒素還元の方法の文脈で本明細書に開示される通りである。
本発明者らは、使用時にカチオンプロトン供与体とイリドプロトン受容体の両方を含む電解質が、電気化学的還元の分野で利点をもたらす可能性があることを認識した。特に興味深いのは、アノード酸化によって生成されたプロトンを必要とするカソード還元であるが、(a)カソードでのプロトンまたは水のH2への直接還元が所望の還元プロセスと競合し、(b)電解質において非水系条件が望ましく、および/または(c)反応シーケンスにおけるアニオン有機中間体が沈殿、分解、または他の分解経路の影響を受けやすいような場合である。
本明細書に開示された原理によれば、カチオンプロトン供与体はカソード還元反応にプロトンを提供し、対応するイリドプロトン受容体はアノードで水素含有種(好適にはH2またはH2O)のアノード酸化によって電解質に導入されたプロトンを遮断する。ホスホニウム-カルバニオンイリドを含む特定のイリドは、実質的な劣化や沈殿なしにプロトン化型と脱プロトン化型の間で繰り返し循環することができ、高いターンオーバー数を達成できることが分かっている。さらに、電解質中の両種の存在は、全体的な還元反応を緩衝し、起動時やオンライン間欠時に生成または蓄積する過剰な反応中間体(プロトンを含む)を吸収し、多くのアノードプロトンがHERなどの望ましくないカソード反応に参加する前に遮断され、消費されることを確実にする。
いくつかの実施の形態において、電気化学セル内の還元反応は、本開示で詳述するように、リチウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、亜鉛、アルミニウム、及びバナジウムから選択される金属によって媒介される連続電気化学的窒素還元である。このような実施の形態では、電解質は、これらの金属カチオンを含んでもよい。しかし、金属カチオンは、この特定の還元反応の特定の要件であり、金属カチオン成分は、それに応じて、他の実施態様では存在しなくてもよいことが理解されよう。
本発明は、さらに、連続的な電気化学的還元反応のためのシステムに関する。このシステムは、カソード、アノード、及びカソードとアノードとの間に電圧を印加するための電源を含む電気化学セルと、少なくともカソードに接触する本明細書に記載の液体電解質と、を備える。電気化学セルは、一般に、アンモニアを生成するための連続的な電気化学的窒素還元の方法の文脈で説明されたようなものであってよい。
[実施例]
本発明は、以下の実施例を参照して説明される。実施例は、本明細書に記載された発明を例示するものであり、限定するものではないことを理解されたい。
本発明は、以下の実施例を参照して説明される。実施例は、本明細書に記載された発明を例示するものであり、限定するものではないことを理解されたい。
[材料と方法]
ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)で安定化されたテトラヒドロフラン(THF)をChem-Supply社から購入した。電解質調製の前に、受け取ったTHFを4Åモレキュラーシーブ上で24時間、または(カールフィッシャー滴定による)検出水分量が5ppm未満となるまでさらに乾燥させた。LiBF4、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiOTf)、およびリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)を、ACROS Organics(純度98%のLiBF4、無水)などの商業サプライヤーから購入した。電解質調製に使用する前に、塩をさらに120℃真空下で12時間乾燥させた。ホスホニウムおよびスルホニウム塩である、トリヘキシル(テトラデシル)ホスホニウムトリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート([P666,14][eFAP])、トリブチル(オクチル)ホスホニウムトリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート([P444,8][eFAP])、トリエチル(メチル)ホスホニウムトリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート([P1222][eFAP])、トリヘキシル(テトラデシル)ホスホニウムパーフルオロヘキサンスルホネート([P666,14][PFHS])、及びトリエチルスルホニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(Et3S-TFSI)を既知の方法に従って合成した。
ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)で安定化されたテトラヒドロフラン(THF)をChem-Supply社から購入した。電解質調製の前に、受け取ったTHFを4Åモレキュラーシーブ上で24時間、または(カールフィッシャー滴定による)検出水分量が5ppm未満となるまでさらに乾燥させた。LiBF4、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiOTf)、およびリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)を、ACROS Organics(純度98%のLiBF4、無水)などの商業サプライヤーから購入した。電解質調製に使用する前に、塩をさらに120℃真空下で12時間乾燥させた。ホスホニウムおよびスルホニウム塩である、トリヘキシル(テトラデシル)ホスホニウムトリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート([P666,14][eFAP])、トリブチル(オクチル)ホスホニウムトリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート([P444,8][eFAP])、トリエチル(メチル)ホスホニウムトリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート([P1222][eFAP])、トリヘキシル(テトラデシル)ホスホニウムパーフルオロヘキサンスルホネート([P666,14][PFHS])、及びトリエチルスルホニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(Et3S-TFSI)を既知の方法に従って合成した。
電気化学的測定は、内容積75mLの1区画3電極構成の圧力セルで行った。各実験で使用された電解液の標準的な量は5mLであった。実験に使用した作用電極(WE)は、直径1.25mmのCu円板電極であった。Ptシート対向電極(CE、幾何学的表面積GSA=1cm2)と、ガラスフリットで分離したAg準参照電極(RE)を使用した。各実験の前に、電極研磨パッド(Buehler)上でアルミナスラリー混合物(0.3μm及び0.05μm)を使用してWEを研磨した。つづいて、研磨したWEを脱イオン水(DI)ですすいで残留アルミナ粒子を除去し、清浄な研磨パッド(アルミナなし)でさらに研磨して清浄な表面にした後、アセトンでさらにすすいだ。CEについては、電極をブタン炎で真っ赤な輝きが観察されるまで炙り、その後アセトンですすいだ。洗浄処理後、すべての電極と圧力セル部品を80℃で最低4時間、真空下で乾燥させた。その後、電気化学セルを組み立て、Ar-グローブボックス内で電解質を満たした。次に、セルをArグローブボックスの外で超高純度N2(純度99.999%)で目標圧力まで加圧した。
電気化学的測定は、Biologic VMP XXX装置を用いて実施した。クロノアンペロメトリー(CA)測定は、一連の電気化学的測定に続いて実施した。セルの加圧につづいて、電気化学インピーダンス分光法(EIS)を実施し、つづいて、安定した電位測定値が観測されるまで開回路電位(OCP)測定を実施した。OCPにつづいて、サイクリックボルタンメトリー実験を実施し、Li/Li+電位に対応するクロスオーバー電位を決定した。この電位値は、次のCA実験で作用電極(WE)電位(vs Li/Li+)を決定するための内部標準として使用した。
CA実験中に生成したアンモニアは、ACS Energy Lett.、2020、5、736-741の手順に従い、内部標準添加法によってBerthelot(インドフェノールブルー)分光光度計で測定した。電気化学的測定後、電解液を採取し、50mMのH2SO4水溶液で希釈した。その後、4本の1.5mLサンプルチューブに、希釈したサンプルの100μLアリコートを入れ、400μLの脱イオン水と、400μLの内部標準(10、20、50μM)をそれぞれのチューブに入れ、4種類の異なる校正点を調製した。さらに、ブランクとして、0.5mlの脱イオン水を含むチューブも用意した。5本のチューブのそれぞれに、1MのNaOH(5重量%のサリチル酸および5重量%のクエン酸ナトリウムを含む)を含む溶液0.4mL、10重量%のNaClO溶液100μL、及び1重量%のC5FeN6Na2O(ニトロフェリシアン化ナトリウム)30μLを加えた。この混合液を2時間インキュベートし、発色させた。インキュベーション後、5つのサンプル溶液を紫外可視分光計で測定し、655nmの吸光度を取ってプロットし、元の電解質中のアンモニア量を決定した。
[実施例1.電解質の調製]
典型的な電解質の調製において、汚染物質の蓄積を最小限に抑えるため、25mLの電解液バッチをAr-グローブボックス内で調製した。1つの電解液は、0.2MのLiBF4と0.1Mの[P666,14][eFAP]をTHF中に含む。この電解質を調製するために、2.3±0.1gの[P666,14][eFAP]を25mLのメスフラスコに加え、次に0.47±0.05gのLiBF4を加え、THFで溶解して25mLにした。最終の電解液の含水率は、さらにカールフィッシャー滴定で試験し、含水率が20ppm未満のバッチのみを電気化学的試験に使用した。
典型的な電解質の調製において、汚染物質の蓄積を最小限に抑えるため、25mLの電解液バッチをAr-グローブボックス内で調製した。1つの電解液は、0.2MのLiBF4と0.1Mの[P666,14][eFAP]をTHF中に含む。この電解質を調製するために、2.3±0.1gの[P666,14][eFAP]を25mLのメスフラスコに加え、次に0.47±0.05gのLiBF4を加え、THFで溶解して25mLにした。最終の電解液の含水率は、さらにカールフィッシャー滴定で試験し、含水率が20ppm未満のバッチのみを電気化学的試験に使用した。
同様の電解質を、以下のように調製した。
・0.2M リチウムトリフラート(LiOtf)/0.1M [P666,14][eFAP]/THF;
・0.2M LiBF4/0.1M [P444,8][eFAP]/THF;
・0.2M LiBF4/0.1M [P666,14][PFHS]/THF;
・0.2M LiOTf/0.1M [P444,8]Cl/THF;
・0.2M LiBF4/0.1M [P4444][BF4]/THF;
・2.0M LiTFSI/0.1M Et3S-TFSI/THF;
・0.2M LiBF4/0.1M [P4444][BF4]/THF;
・0.2M LiOTf/0.1M [P666,14][eFAP]/ジメトキシエタン(DME);
・2.0M LiTFSI/0.1M [P666,14][eFAP]/スルホラン
・0.2M LiOTf/0.1M [P666,14][TFSI]/THF
・0.2M リチウムトリフラート(LiOtf)/0.1M [P666,14][eFAP]/THF;
・0.2M LiBF4/0.1M [P444,8][eFAP]/THF;
・0.2M LiBF4/0.1M [P666,14][PFHS]/THF;
・0.2M LiOTf/0.1M [P444,8]Cl/THF;
・0.2M LiBF4/0.1M [P4444][BF4]/THF;
・2.0M LiTFSI/0.1M Et3S-TFSI/THF;
・0.2M LiBF4/0.1M [P4444][BF4]/THF;
・0.2M LiOTf/0.1M [P666,14][eFAP]/ジメトキシエタン(DME);
・2.0M LiTFSI/0.1M [P666,14][eFAP]/スルホラン
・0.2M LiOTf/0.1M [P666,14][TFSI]/THF
[実施例2.サイクリックボルタンメトリー試験]
プロトンキャリアとしてのホスホニウムカチオンの電気化学的特性を調べるために、まず、0.2M LiBF4/0.1M [P666,14][eFAP]/THF電解質を用いてサイクリックボルタンメトリー実験を行い、この分子とLiの電気化学との親和性を分析した。比較対象は、これまでに報告されているLiを介した連続的電気化学システムに用いられる典型的な電解質で、THF中の0.2M LiOtf/0.17M エタノールからなる。サイクリックボルタンメトリー実験は、N2の圧力を20barまで変化させながら行った。
プロトンキャリアとしてのホスホニウムカチオンの電気化学的特性を調べるために、まず、0.2M LiBF4/0.1M [P666,14][eFAP]/THF電解質を用いてサイクリックボルタンメトリー実験を行い、この分子とLiの電気化学との親和性を分析した。比較対象は、これまでに報告されているLiを介した連続的電気化学システムに用いられる典型的な電解質で、THF中の0.2M LiOtf/0.17M エタノールからなる。サイクリックボルタンメトリー実験は、N2の圧力を20barまで変化させながら行った。
図4は、両方のプロトンキャリア系におけるサイクリックボルタンメトリーの結果を示す。[P666,14][eFAP]の存在がLiの電気化学を妨害しないことは明らかである。その代わりに、それ自体が塩である[P666,14][eFAP]は、電解質のイオン伝導度を向上させた。その結果、より高い電流密度から、著しく高い電気化学反応速度が推測できる。例えば、[P666,14][eFAP]を含む系で、0.22V(vs Li/Li+)のLi酸化ピークにおける電流は8.5mA・cm-2であることが観測されており、この値は標準的なエタノール系で観測された値(0.35mA・cm-2)の24倍に相当する。
[実施例3.クロノアンペロメトリー(CA)によるアンモニア生成量]
リチウムを介した窒素の還元によるアンモニア生成におけるプロトンキャリアとしてのホスホニウムカチオン/ホスホニウムイリド系の能力をさらに評価するために、0.2M LiBF4/0.1M [P666,14][eFAP]/THF電解質を用いて、-0.15Vから-1.05V(vs Li/Li+)の範囲で電位を印加して、一連のCA実験を行った。実験は、20barのN2の条件下で2時間行った。カソードプロセスにおいてH2のLiHへの還元が寄与しないように、セル内に水素は導入しなかった。H2がない場合、プロトンを生成するアノード反応は、THFの酸化である。図5に示す結果から、高いファラデー効率(FE)でアンモニアの生成に成功したことが示された。アンモニア生成の最大のFEである82±12%は、印加電位が-0.75V(vs Li/Li+)のときに達成された。この電位では、77±16nmol・cm-2・s-1のアンモニア収率が得られた。試験した電位範囲では、印加する過電圧が高くなるにつれて、アンモニア生成収率が増加することが確認された。0.75Vのエラーバーは、n=4(4回の繰り返し実験)の結果の標準偏差を、その他のエラーバーは、n=2の結果の標準偏差を表している。
リチウムを介した窒素の還元によるアンモニア生成におけるプロトンキャリアとしてのホスホニウムカチオン/ホスホニウムイリド系の能力をさらに評価するために、0.2M LiBF4/0.1M [P666,14][eFAP]/THF電解質を用いて、-0.15Vから-1.05V(vs Li/Li+)の範囲で電位を印加して、一連のCA実験を行った。実験は、20barのN2の条件下で2時間行った。カソードプロセスにおいてH2のLiHへの還元が寄与しないように、セル内に水素は導入しなかった。H2がない場合、プロトンを生成するアノード反応は、THFの酸化である。図5に示す結果から、高いファラデー効率(FE)でアンモニアの生成に成功したことが示された。アンモニア生成の最大のFEである82±12%は、印加電位が-0.75V(vs Li/Li+)のときに達成された。この電位では、77±16nmol・cm-2・s-1のアンモニア収率が得られた。試験した電位範囲では、印加する過電圧が高くなるにつれて、アンモニア生成収率が増加することが確認された。0.75Vのエラーバーは、n=4(4回の繰り返し実験)の結果の標準偏差を、その他のエラーバーは、n=2の結果の標準偏差を表している。
[実施例4.クロノポテンショメトリーによるセルの安定性試験]
クロノポテンショメーター(CP)実験において、カチオン性ホスホニウムプロトンキャリア系のカソード電位安定性をエタノールプロトンキャリア系と比較した。0.2M リチウムトリフラート(LiOTf)/0.1M [P666,14][eFAP]/THF電解質を、0.2M リチウムトリフラート(LiOTf)/0.17M エタノール/THF電解質に対して、それぞれ27mA・cm-2の一定電流で比較した。実験は、ホスホニウムの場合は19.5barのN2と0.5barのH2の条件下で、エタノールの場合は20barのN2の条件下で行った(後者の結果は、H2があってもなくても同じである)。結果を図6に示す。挿入図は実験の初期数分間の拡大図である。この結果から、エタノールベースの系では、CP実験の開始直後から必要なカソード電圧が上昇する問題が生じたことが示された。わずか20分以内に作動電極電位が-6V(vs Li/Li+)を超え、電気化学システムの電位過負荷に至った。これに対して、ホスホニウムベースのプロトンキャリア系は著しく高い安定性を示し、20時間以上にわたって電圧の安定性を維持した。ホスホニウムプロトンキャリアのカソード電位は、実験の間、-2V(vs Li/Li+)未満を維持した。これは、ホスホニウムプロトンキャリア系において、より高いエネルギー効率ももたらす。
クロノポテンショメーター(CP)実験において、カチオン性ホスホニウムプロトンキャリア系のカソード電位安定性をエタノールプロトンキャリア系と比較した。0.2M リチウムトリフラート(LiOTf)/0.1M [P666,14][eFAP]/THF電解質を、0.2M リチウムトリフラート(LiOTf)/0.17M エタノール/THF電解質に対して、それぞれ27mA・cm-2の一定電流で比較した。実験は、ホスホニウムの場合は19.5barのN2と0.5barのH2の条件下で、エタノールの場合は20barのN2の条件下で行った(後者の結果は、H2があってもなくても同じである)。結果を図6に示す。挿入図は実験の初期数分間の拡大図である。この結果から、エタノールベースの系では、CP実験の開始直後から必要なカソード電圧が上昇する問題が生じたことが示された。わずか20分以内に作動電極電位が-6V(vs Li/Li+)を超え、電気化学システムの電位過負荷に至った。これに対して、ホスホニウムベースのプロトンキャリア系は著しく高い安定性を示し、20時間以上にわたって電圧の安定性を維持した。ホスホニウムプロトンキャリアのカソード電位は、実験の間、-2V(vs Li/Li+)未満を維持した。これは、ホスホニウムプロトンキャリア系において、より高いエネルギー効率ももたらす。
20時間の実験全体では、40%のFEと、5.5nmol・cm-2・s-1の収率を達成した。1.5時間のみの同様の実験では、67%のFEと、9.0nmol・cm-2・s-1の収率を達成した。6時間後の性能低下は、THF溶媒の分解が少なくとも部分的に寄与している可能性が示唆された。
各CP実験後に作用電極(WE)の点検を行った。ホスホニウムプロトンキャリア系を用いた20時間の実験後、Cu表面は光沢を保っていた。一方、エタノールプロトンキャリア系では、わずか8時間の実験後に、WE表面に強く付着した白い堆積物が確認された。これは、脱プロトン化キャリア(すなわち、EtOLi)の不溶性及び/又は不安定性により、不溶性物質が蓄積してWEが徐々に不働態化したものと考えられる。このことは、リチウムを用いたアンモニア合成の動作中に生じるセル電位の上昇が、アルコール電解質成分の分解の結果であるというこれまでの提言と一致する。
[実施例5.イリドの再生の調査]
電気化学的なリチウム媒介アンモニア合成における再生可能なプロトンキャリアとしてのアルキルホスホニウム種の役割を調べるために、一連の実験を[P666,14][eFAP]で行い、図7に示すように、31P-NMR分光法でモニターした。すべての反応は、アルゴン・グローブボックス内の不活性雰囲気下で、乾燥材料を用いて実施した(O2及びH2O<0.5ppm)。31P-NMRスペクトルは、外部キャピラリーを用いてPPh3を基準として軸を0ppmに較正し、THF中で記録した。
電気化学的なリチウム媒介アンモニア合成における再生可能なプロトンキャリアとしてのアルキルホスホニウム種の役割を調べるために、一連の実験を[P666,14][eFAP]で行い、図7に示すように、31P-NMR分光法でモニターした。すべての反応は、アルゴン・グローブボックス内の不活性雰囲気下で、乾燥材料を用いて実施した(O2及びH2O<0.5ppm)。31P-NMRスペクトルは、外部キャピラリーを用いてPPh3を基準として軸を0ppmに較正し、THF中で記録した。
第1ステップにおいて、0.2Mの[P666,14][eFAP]のTHF溶液を調製し、31P-NMRスペクトルを記録した。図7に示すように、このスペクトルには、ホスホニウムカチオン[P666,14]に対応する1つの31P-NMR信号が39.3ppmに、[eFAP]アニオンに対応するシグナル群が-131~-151ppmに含まれている。第2ステップにおいて、過剰量のLi3Nを[P666,14][eFAP]の0.2M溶液に加え、混合物を24時間撹拌した。目視では混合物の変化は観察されず、無色透明のままであり、目視できる沈殿物はなかった。24時間後に記録した31P-NMRスペクトル(図7の中央のスペクトル)では、39.3ppmのピークが完全に消失し、15.7ppmに新しいピークが出現していることが確認された。このピークは、Li3Nとの反応によるホスホニウムカチオンの脱プロトン化によってほぼ定量的な収率で形成された双性イオン種に対応するものである。このNMRデータは、ホスホニウムイリドの形成と合致する。第3ステップにおいて、0.1Mの酢酸溶液0.2mlをイリド含有溶液0.5mlに加え、31P-NMRスペクトルを記録した(図7の下段のスペクトル)。このスペクトルから、ホスホニウムカチオンの定量的な回収が確認された(39.3ppmのピーク)。
ホスホニウムカチオンの回収を質量分析(MS)で確認した。第1ステップと第3ステップの質量スペクトルは同一で、[P666,14]カチオンに対応する1つのシグナル(m/z=483)のみを示した。
この段階的な反応プロセスを、以下に示す他のホスホニウム塩について繰り返した。[P1222][eFAP]、[P4448][eFAP]、及びトリフェニルメチルホスホニウムテトラフルオロボレート([PPh3Me][BF4]。すべての31P-NMRスペクトルにおいて、Li3Nと反応させるとイリド種が生成し、酢酸を加えるとホスホニウムカチオンが再生することが確認された。このことから、さまざまなアルキルホスホニウムカチオンがカチオンプロトンキャリアとして適していることと、この段階的反応試験が潜在的なプロトンキャリアのスクリーニング法として使用できることが示された。
[実施例6.他のアルキルホスホニウム塩の評価]
一連のCA実験で、他のアルキルホスホニウム塩の評価を行った。CA実験は、(a)0.2M LiBF4/0.1M [P444,8][eFAP]/THF電解質、(b)0.2M LiBF4/0.1M [P666,14][PFHS]/THF電解質、(c)0.2M LiOTf/0.1M [P666,14]Cl/THF電解質を用いた場合は、それぞれ印加電位-0.45V(vs Li/Li+)で8時間、(d)0.2M LiBF4/0.1M [P4444][BF4]/THF電解質、(e)0.2M LiOTf/0.1M [P666,14][TFSI]/THF電解質を用いた場合は、それぞれ印加電位-0.75V(vs Li/Li+)で2時間行った。実験は、20barのN2(H2なし)の条件下で行った。その結果を以下の表1に示す。
一連のCA実験で、他のアルキルホスホニウム塩の評価を行った。CA実験は、(a)0.2M LiBF4/0.1M [P444,8][eFAP]/THF電解質、(b)0.2M LiBF4/0.1M [P666,14][PFHS]/THF電解質、(c)0.2M LiOTf/0.1M [P666,14]Cl/THF電解質を用いた場合は、それぞれ印加電位-0.45V(vs Li/Li+)で8時間、(d)0.2M LiBF4/0.1M [P4444][BF4]/THF電解質、(e)0.2M LiOTf/0.1M [P666,14][TFSI]/THF電解質を用いた場合は、それぞれ印加電位-0.75V(vs Li/Li+)で2時間行った。実験は、20barのN2(H2なし)の条件下で行った。その結果を以下の表1に示す。
[P444,8][eFAP]で得られた生産性と選択性は、同じ電位の[P666,14][eFAP]プロトンキャリア(実施例3参照)と同等であり、様々なアルキルホスホニウム構造が適していることが示された。[P666,14][TFSI]では優れた性能が得られたが、[P666,14][PFHS]及び[P666,14]Clではやや生産性が低かった。これは、これらの塩を含む電解質の導電率が低いためであると考えられる。しかし、この結果は、電気化学的に安定なさまざまな対イオンが適していることを示している。この中で、塩化物は、H2のアノード反応に使用するのに十分な安定性を有する。
[実施例7.アノード酸化される水素含有種としてのH2の評価]
H2を電解質へのプロトン源として使用し、連続アンモニア合成を行った。CA実験は、0.2M LiBF4/0.1M [P666,14][eFAP]/THFの電解質を用いて、印加電位-0.45V(vs Li/Li+)で行った。水素ガス(H2)を加圧された電気化学セルに供給した。15barのN2と5barのH2からなる合計20barのセル圧で、4回の測定を行った。22±11nmol・cm-2・s-1のNH3平均収率と、65±22%のファラデー効率(FE)が得られた。
H2を電解質へのプロトン源として使用し、連続アンモニア合成を行った。CA実験は、0.2M LiBF4/0.1M [P666,14][eFAP]/THFの電解質を用いて、印加電位-0.45V(vs Li/Li+)で行った。水素ガス(H2)を加圧された電気化学セルに供給した。15barのN2と5barのH2からなる合計20barのセル圧で、4回の測定を行った。22±11nmol・cm-2・s-1のNH3平均収率と、65±22%のファラデー効率(FE)が得られた。
[実施例8.N2に代えてArを使用した比較実施例]
実施例2~7で生成したNH3が、供給されたN2ガス由来であることを証明するために、0.2M LiBF4/0.1M [P666,14][eFAP]/THFの電解質を用いて、20barのAr圧力下で、-0.45V(vs Li/Li+)の電位を印加したCA実験を行った。2.5Cの電荷が流れた後、合計でわずか6nmolのNH3が検出された。これは、N2を用いた同等の実験で検出された3479nmol(1.5Cの電荷が流れた)とは対照的であり、生成したNH3はN2の電気化学的還元に由来することが示された。
実施例2~7で生成したNH3が、供給されたN2ガス由来であることを証明するために、0.2M LiBF4/0.1M [P666,14][eFAP]/THFの電解質を用いて、20barのAr圧力下で、-0.45V(vs Li/Li+)の電位を印加したCA実験を行った。2.5Cの電荷が流れた後、合計でわずか6nmolのNH3が検出された。これは、N2を用いた同等の実験で検出された3479nmol(1.5Cの電荷が流れた)とは対照的であり、生成したNH3はN2の電気化学的還元に由来することが示された。
[実施例9.N2圧の影響]
N2圧の影響を調査するため、0.2M LiBF4/0.1M [P666,14][eFAP]/THFの電解質を用いて、印加電位-0.75V(vs Li/Li+)で一連のCA実験を行った。実験は、2~20barの範囲のN2圧で2時間行った。図8に示す結果から、高圧にすることで収率とファラデー効率が向上していることが示された。
N2圧の影響を調査するため、0.2M LiBF4/0.1M [P666,14][eFAP]/THFの電解質を用いて、印加電位-0.75V(vs Li/Li+)で一連のCA実験を行った。実験は、2~20barの範囲のN2圧で2時間行った。図8に示す結果から、高圧にすることで収率とファラデー効率が向上していることが示された。
[実施例10.他の溶媒の評価]
THFは、電着Liによる重合が望ましくないため、Liを介したアンモニア電解合成に適した他の非水系溶媒を特定するために溶解度調査を行った。溶解度は、指定された溶媒中の0.2Mの塩の濃度で評価した。その結果を表2に示す。
LiTFSI:リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド;
DME:ジメトキシエタン;
FPEE:1H,1H,5H-オクタフルオロペンチル-1,1,2,2-テトラフルオロエチルエーテル;
HFCP:1H,1H,2H-ヘプタフルオロシクロペンタン;
TFT.トリフルオロトルエン。
*HFCP中に0.1Mの[P666,14][eFAP]、0.2Mの塩を入れた混合液5mLに350uLのDMEを添加した。
#5mLのTFT中に0.1Mの[P666,14][eFAP]を入れた混合液に0.2MのLiOtfを溶解させるには、375uLのDMEが必要である。
THFは、電着Liによる重合が望ましくないため、Liを介したアンモニア電解合成に適した他の非水系溶媒を特定するために溶解度調査を行った。溶解度は、指定された溶媒中の0.2Mの塩の濃度で評価した。その結果を表2に示す。
DME:ジメトキシエタン;
FPEE:1H,1H,5H-オクタフルオロペンチル-1,1,2,2-テトラフルオロエチルエーテル;
HFCP:1H,1H,2H-ヘプタフルオロシクロペンタン;
TFT.トリフルオロトルエン。
*HFCP中に0.1Mの[P666,14][eFAP]、0.2Mの塩を入れた混合液5mLに350uLのDMEを添加した。
#5mLのTFT中に0.1Mの[P666,14][eFAP]を入れた混合液に0.2MのLiOtfを溶解させるには、375uLのDMEが必要である。
0.2M LiOTf/0.1M [P666,14][eFAP]/DMEの電解質を用い、印加電位-0.45V(vs Li/Li+)のCA実験で、ジメトキシエタン(DME)を溶媒として評価した。実験は20barのN2の条件下で1.3時間行った。結果を以下の表3に示す。
2.0M LiTFSI/0.1M [P666,14][eFAP]/スルホランの電解質を用い、印加電位-0.25V(vs Li/Li+)のCA実験で、スルホランを溶媒として評価した。実験は20barのN2と60℃の条件下で2時間行った。結果を以下の表3に示す。
[実施例11.カチオンプロトンキャリアとしてのアルキルスルホニウム塩の評価]
THF中の2Mのリチウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(LiTFSI)と0.1Mのトリエチルスルホニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(Et3S-TFSI)を含む電解質を用い、ニッケル線カソード(表面積0.15cm2)付きの単一区画セルで、0.55V(vs Li/Li+)の印加電位を設定して、一連のCA実験でアルキルスルホニウム塩の評価を行った。実験は、15barのN2(H2なし)の条件下で、電解質を600rpmで攪拌しながら6時間行った。NH3の収率は71nmol・s-1・cm-2で、ファラデー効率は30%であった。
THF中の2Mのリチウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(LiTFSI)と0.1Mのトリエチルスルホニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(Et3S-TFSI)を含む電解質を用い、ニッケル線カソード(表面積0.15cm2)付きの単一区画セルで、0.55V(vs Li/Li+)の印加電位を設定して、一連のCA実験でアルキルスルホニウム塩の評価を行った。実験は、15barのN2(H2なし)の条件下で、電解質を600rpmで攪拌しながら6時間行った。NH3の収率は71nmol・s-1・cm-2で、ファラデー効率は30%であった。
これらの結果は、同じ電位で[P666,14][eFAP]プロトンキャリアを用いた場合と同等である(実施例3参照)。この結果は、リチウムを介したNRRにおけるプロトンキャリアとしてスルホニウム型カチオンの適合性を実証している。
本明細書に記載された発明が、明示的に記載されたもの以外の変形および修正の影響を受け得ることは、当業者には理解されるところである。本発明は、本発明の精神及び範囲内に入る全てのそのような変形及び修正を含むと理解される。
Claims (39)
- アンモニアを製造するための連続的な電気化学的窒素(N2)還元の方法であって、
該方法は、
少なくともカソードに接触する電解質を含む電気化学セルに窒素を供給することと、
水素含有種のアノード酸化によって前記電解質にプロトンを導入することと、
リチウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、亜鉛、アルミニウム、及びバナジウムから選択される金属の存在下で窒素をカソード還元し、アンモニアを生成することと、
を含み、
前記電解質は、可逆的な脱プロトン化によって中性プロトン受容体を形成することが可能なカチオンプロトンキャリアを含み、
前記中性プロトン受容体は、イリドである
方法。 - 窒素をカソード還元することは、窒素と前記カチオンプロトンキャリアとを反応させてアンモニアを生成するとともに前記中性プロトン受容体を形成することを含む
請求項1に記載の方法。 - 前記カチオンプロトンキャリアは、プロトンで前記中性プロトン受容体をプロトン化することにより前記電解質中で再生される
請求項2に記載の方法。 - 窒素と前記カチオンプロトンキャリアとを反応させることは、
(i)窒素と前記金属とを反応させて金属窒化物を形成することと、
(ii)前記金属窒化物と前記カチオンプロトンキャリアとを反応させてアンモニアを生成するとともに前記中性プロトン受容体を形成することと、
を含む
請求項2又は3に記載の方法。 - 前記金属は、前記電解質中で金属カチオンとして存在する
請求項1から4のいずれか1項に記載の方法。 - 前記金属は、リチウムである
請求項1から5のいずれか1項に記載の方法。 - 前記イリドは、正電荷を有する、リン、窒素、硫黄、及び酸素からなる群から選択されるヘテロ原子に隣接するカルバニオンを含む
請求項1から6のいずれか1項に記載の方法。 - 前記中性プロトン受容体は、ホスホニウムイリド及びスルホニウムイリドから選択される
請求項1から7のいずれか1項に記載の方法。 - 前記中性プロトン受容体は、ホスホニウムイリドである
請求項1から7のいずれか1項に記載の方法。 - 前記カチオンプロトンキャリアは、アルキルホスホニウムカチオン及びアルキルスルホニウムカチオンから選択される
請求項1から9のいずれか1項に記載の方法。 - 前記カチオンプロトンキャリアは、アルキルホスホニウムカチオンである
請求項1から9のいずれか1項に記載の方法。 - アルキルホスホニウムカチオンは、テトラアルキルホスホニウムカチオンである
請求項11又は12に記載の方法。 - 前記電解質は、非水系液体電解質である
請求項1から12のいずれか1項に記載の方法。 - 前記非水系液体電解質は、エーテル、メチル化ポリエーテル、メチル化グリコールエーテル、フッ化エーテル、フッ化アルキル、フッ化シクロアルキル、カーボネート、スルホラン、及びジメチルスルホキシドからなる群から選択される1以上の分子溶媒を含む
請求項13に記載の方法。 - 前記非水系液体電解質は、常温イオン液体溶媒を含む
請求項13又は14に記載の方法。 - 前記カチオンプロトンキャリア及び前記中性プロトン受容体は、前記電解質に可溶である
請求項1から15のいずれか1項に記載の方法。 - 前記カチオンプロトンキャリアは、1以上の電気化学的に安定なアニオンによって前記電解質中で電荷均衡される
請求項1から16のいずれか1項に記載の方法。 - 前記1以上の電気化学的に安定なアニオンは、テトラフルオロホウ酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、塩化物イオン、過塩素酸イオン、トリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロリン酸イオンを含むフルオロアルキルリン酸イオン、テトラキス[3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]ホウ酸イオン及びテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ホウ酸イオンを含むフルオロアリルホウ酸イオン、テトラキス[ヘキサフルオロイソプロピル]ホウ酸イオンを含むフルオロアルキルホウ酸イオン、ビス(フルオロスルホニル)イミド、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、及び(フルオロスルホニル)-(トリフルオロメタンスルホニル)イミドを含むフッ化ビス(スルホニル)イミド、及びトリフルオロメタンスルホン酸イオン及び他のパーフルオロアルキルスルホン酸イオンを含むフッ化スルホン酸イオンからなる群から選択される
請求項17に記載の方法。 - 前記カチオンプロトンキャリア及び前記中性プロトン受容体は、合わせて0.001mol/Lより高い濃度で前記電解質中に存在する
請求項1から18のいずれか1項に記載の方法。 - 前記水素含有種は、水素(H2)及び水から選択される
請求項1から19のいずれか1項に記載の方法。 - 窒素を1barより高い分圧で前記電気化学セルに供給することを含む
請求項1から20のいずれか1項に記載の方法。 - 前記カソードは、窒素をカソード還元する際に、-2.0V(vs Ag/Ag+)より低い(より負側)の電位を有する
請求項1から21のいずれか1項に記載の方法。 - アンモニアを製造するための連続的な電気化学的窒素(N2)還元の方法であって、
該方法は、
少なくともカソードに接触する電解質を含む電気化学セルに窒素を供給することと、
水素含有種のアノード酸化によって前記電解質にプロトンを導入することと、
リチウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、亜鉛、アルミニウム、及びバナジウムから選択される金属の存在下で窒素をカソード還元し、アンモニアを生成することと、
を含み、
前記電解質は、アルキルホスホニウムカチオン及びアルキルスルホニウムカチオンから選択される少なくとも1つを含む
方法。 - 電気化学的還元反応のための液体電解質であって、
(i)イリドである中性プロトン受容体と、
(ii)可逆的な脱プロトン化によって前記中性プロトン受容体を形成することが可能なカチオンプロトンキャリアと、
(iii)非水系溶媒と、
を含む液体電解質。 - (iv)リチウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、亜鉛、アルミニウム、及びバナジウムから選択される金属カチオンを更に含む
請求項24に記載の液体電解質。 - 前記イリドは、正電荷を有する、リン、窒素、硫黄、及び酸素からなる群から選択されるヘテロ原子に隣接するカルバニオンを含む
請求項24又は25に記載の液体電解質。 - 前記中性プロトン受容体は、ホスホニウムイリド及びスルホニウムイリドから選択される
請求項25から26のいずれか1項に記載の液体電解質。 - 前記カチオンプロトンキャリアは、アルキルホスホニウムカチオン及びアルキルスルホニウムカチオンから選択される
請求項24から27のいずれか1項に記載の液体電解質。 - アルキルホスホニウムカチオンは、テトラアルキルホスホニウムカチオンである
請求項28に記載の液体電解質。 - 前記カチオンプロトンキャリアは、1以上の電気化学的に安定なアニオンによって前記液体電解質中で電荷均衡される
請求項24から29のいずれか1項に記載の液体電解質。 - 前記1以上の電気化学的に安定なアニオンは、テトラフルオロホウ酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、塩化物イオン、過塩素酸イオン、トリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロリン酸イオンを含むフルオロアルキルリン酸イオン、テトラキス[3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]ホウ酸イオン及びテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ホウ酸イオンを含むフルオロアリルホウ酸イオン、テトラキス[ヘキサフルオロイソプロピル]ホウ酸イオンを含むフルオロアルキルホウ酸イオン、ビス(フルオロスルホニル)イミド、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、及び(フルオロスルホニル)-(トリフルオロメタンスルホニル)イミドを含むフッ化ビス(スルホニル)イミド、及びトリフルオロメタンスルホン酸イオン及び他のパーフルオロアルキルスルホン酸イオンを含むフッ化スルホン酸イオンからなる群から選択される
請求項30に記載の液体電解質。 - 実質的に水を含まない
請求項24から31のいずれか1項に記載の液体電解質。 - 前記非水系溶媒は、エーテル、メチル化ポリエーテル、メチル化グリコールエーテル、フッ化エーテル、フッ化アルキル、フッ化シクロアルキル、カーボネート、スルホラン、及びジメチルスルホキシドからなる群から選択される1以上の分子溶媒を含む
請求項24から32のいずれか1項に記載の液体電解質。 - 前記非水系溶媒は、常温イオン液体溶媒を含む
請求項24から33のいずれか1項に記載の液体電解質。 - 前記カチオンプロトンキャリアは、窒化リチウムと接触すると脱プロトン化して前記中性プロトン受容体を形成することが可能である
請求項24から34のいずれか1項に記載の液体電解質。 - 電気化学セルにおける還元反応のための請求項24から35までのいずれか1項に記載の液体電解質の使用。
- 前記中性プロトン受容体が、前記電気化学セル内で前記水素含有種のアノード酸化によって生成されるプロトンによってプロトン化されてカチオンプロトン受容体を形成し、
前記カチオンプロトン受容体が、前記還元反応において脱プロトン化されて前記中性プロトン受容体を再形成する
請求項36に記載の使用。 - 前記還元反応は、リチウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、亜鉛、アルミニウム、及びバナジウムから選択される金属により媒介される連続的な電気化学的窒素還元である
請求項36又は37に記載の使用。 - 電気化学的還元反応を連続的に行うシステムであって、
カソード、アノード、及び前記カソードと前記アノードとの間に電圧を印加するための電源を含む電気化学セルと、
少なくとも前記カソードに接触する請求項24から35のいずれか1項に記載の液体電解質と、
を備えるシステム。
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