JP2023163361A - 組成物、及び接着剤 - Google Patents

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Abstract

【課題】 生体適合性および組織接着性に優れた組成物を提供する。【解決手段】 組成物であって、ゼラチンと、アルコールと、水を含む溶媒とを含む。前記ゼラチンを含むマトリックス中に、前記アルコール及び前記溶媒を含む液滴が分散している。【選択図】図1

Description

本発明は、組成物、及び接着剤に関する。
超高齢社会に突入した我が国において、低侵襲医療の発展が求められているとともに、生体適合性を有する各種の生体材料や医療材料の開発が進んでいる。例えば、組織接着剤は、組織同士を接着剤によって接着させることで、欠損や創部を迅速に閉鎖・修復可能な医療材料であり、手術時間の短縮や組織再生の促進など様々な利点がある。
現在、臨床で使用されている組織接着剤として、フィブリン糊が挙げられるが、接着強度が低いことや、ウイルス感染のリスクがあることが問題である。シアノアクリレート系の接着剤は、高い接着能を示すが、毒性が強いことが問題である。また、反応性官能基を有するポリマーを用いた接着剤は、高い生体適合性を示すが、化学反応によって炎症反応が惹起されることが懸念され、また、2液成分を混合する必要があるため、ハンドリングが難しい。
このような事情から、1液成分からなり、生体適合性と組織接着性に優れた組織接着剤の開発が求められている。
例えば、非特許文献1には、低温度で液体、高温でゲルを形成する温度応答性ハイドロゲルが記載されている。また、非特許文献2には、組み換えタンパク質と界面活性剤とを用いた温度応答性接着剤等が記載されている。
K. Nagahama, T. Ouchi and Y. Ohya, Temperature-induced hydrogels through self-assembly of cholesterol-substituted star PEG-b-PLLA copolymers: An injectable scaffold for tissue engineering, Adv. Funct. Mater. 18, 1220-1231 (2008). L. Xiao, Z. Wang, Y. Sun, B. Li, B. Wu, C. Ma, V. S. Petrovskii, X. Gu, D. Chen, I. I. Potemkin, A. Herrmann, H. Zhang, K. Liu, An artificial phase-transitional underwater bioglue with robust and switchable adhesion performance. Angew. Chem. Int. Ed. 60, 12082-12089 (2021).
しかしながら、非特許文献1に記載されたハイドロゲルは、1液型であるためハンドリング性に優れているものの、ゲルの強度が低く、また合成高分子であるため、生体組織との親和性(生体適合性)が低いという問題がある。また、非特許文献2に記載されたハイドロゲルは、ハンドリング性および接着強度には優れるものの、界面活性剤の毒性が懸念される。
本発明は、以上の事情に鑑みてなされたものであり、組織接着剤として利用可能な、生体適合性及び組織接着性に優れた組成物を提供する。
発明者らは、上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、以下の構成により上記課題を達成することができることを見出した。
[1] 組成物であって、
ゼラチンと、
アルコールと、
水を含む溶媒とを含み、
前記ゼラチンを含むマトリックス中に、前記アルコール及び前記溶媒を含む液滴が分散している、組成物。
[2] 前記組成物のゾル-ゲル転移温度が38℃~50℃である、[1]に記載の組成物。
[3] 37℃における、せん断弾性率が1000Pa以上である、[1]又は[2]に記載の組成物。
[4] 50℃における、せん断弾性率が200Pa以下である、[1]~[3]のいずれかに記載の組成物。
[5] 前記組成物中における前記ゼラチンの濃度が、5質量%~20質量%であり、前記組成物中における前記アルコールの濃度が、2.5質量%~10質量%である、[1]~[4]のいずれかに記載の組成物。
[6] 前記組成物中における前記アルコールの濃度が、5質量%~10質量%である、[5]に記載の組成物。
[7] 前記組成物中における前記ゼラチンの濃度が、10質量%~20質量%であり、前記組成物中における前記アルコールの濃度が、5質量%~10質量%である、[5]に記載の組成物。
[8] 前記組成物中における前記ゼラチンの濃度(G)に対する、前記組成物中における前記アルコールの濃度(A)の比率(A/G)が、1/10~20/10である、[1]~[7]のいずれかに記載の組成物。
[9] 前記ゼラチンがブタ腱由来のゼラチンである、[1]~[8]のいずれか1項に記載の組成物。
[10] 前記ゼラチンの重量平均分子量が200,000~500,000である、[1]~[9]のいずれかに記載の組成物。
[11] 前記アルコールがポリアルキレングリコールである、[1]~[10]のいずれかに記載の組成物。
[12] 前記ポリアルキレングリコールが、ポリエチレングリコールである、[11]に記載の組成物。
[13] 前記ポリアルキレングリコールの重量平均分子量が、6000以上である、[11]又は[12]に記載の組成物。
[14] 前記ポリアルキレングリコールの重量平均分子量が、6,000~40,000である、[13]に記載の組成物。
[15] 前記溶媒が緩衝溶液である、[1]~[14]のいずれかに記載の組成物。
[16] コアセルベート構造を有するハイドロゲルである、[1]~[15]のいずれかに記載の組成物。
[17] [1]~[16]のいずれかに記載の組成物を含む、接着剤。
本発明は、生体適合性および組織接着性に優れた組成物を提供する。該組成物は、例えば、接着剤(組織接着剤)として利用可能である。
コアセルベートハイドロゲル(実施例で調製した試料1)の位相差顕微鏡写真である。 蛍光修飾したブタ腱由来のゼラチン(TG)及びポリエチレングリコール(PEG)の濃度を変えて調製したハイドロゲル(実施例で調製した試料2-1~2-12)の共焦点レーザー走査顕微鏡写真である。 PEGの濃度を変化させたハイドロゲル(実施例で調製した試料3-1~3-5)における、温度とせん断弾性率との関係を示す図である。 PEGの濃度を変化させたハイドロゲル(実施例で調製した試料3-1~3-5)のゾル-ゲル転移温度(ゲル化温度)を示す図である。 蛍光修飾したTGと、分子量の異なるPEGとを用いて調製したハイドロゲル(実施例で調製した試料4-1~4-8)の共焦点レーザー走査顕微鏡写真である。 ハイドロゲル(実施例で調製した試料4-1~4-8)における、PEGの分子量とせん断貯蔵弾性率との関係を示す図である。 実施例で調製したコアセルベートハイドロゲル(試料1)、及びPEG無添加のTG(試料3-4)のゲル化速度の評価結果を示す図である。 実施例で調製したコアセルベートハイドロゲル(試料1)、及びPEG無添加のTG(試料3-4)のチキソトロピー特性の評価結果を示す図である。 実施例で調製したコアセルベートハイドロゲル(試料1)のインジェクタビリティー試験の結果を示す図である。 実施例で調製したコアセルベートハイドロゲル(試料1)、及びPEG無添加のTG(試料3-4)の引張試験の結果を示す図である。 実施例で調製したコアセルベートハイドロゲル(試料1)、分解酵素を添加したコアセルベートハイドロゲル、及びPEG無添加のTG(試料3-4)の水中安定性試験の結果を示す図である。 実施例で調製したコアセルベートハイドロゲル(試料1)、及びPEG無添加のTG(試料3-4)の50℃における接着試験結果を示す図である。 実施例で調製したコアセルベートハイドロゲル(試料1)、及びPEG無添加のTG(試料3-4)の37℃における接着試験結果を示す図である。 実施例で調製したコアセルベートハイドロゲル(試料1)、及びPEG無添加のTG(試料3-4)の細胞毒性試験の結果を示す図である。 実施例で調製したコアセルベートハイドロゲル(試料1)、及びPEG無添加のTG(試料3-4)の生体適合性、生分解性を示す図である。 実施例で調製したコアセルベートハイドロゲル(試料1)の癒着防止能の評価結果を示す図である。
以下、本発明について詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施形態に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に制限されるものではない。
なお、本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
また、本明細書における基(原子群)の表記において、置換及び無置換を記していない表記は、本発明の効果を損ねない範囲で、置換基を有さないものと共に置換基を有するものをも包含するものである。例えば、「アルキル基」とは、置換基を有さないアルキル基(無置換アルキル基)のみならず、置換基を有するアルキル基(置換アルキル基)をも包含するものである。このことは、各化合物についても同義である。
[組成物]
本実施形態の組成物は、ゼラチンと、アルコールと、水を含む溶媒(以下、適宜「水系溶媒」と記載する)とを含む。本実施形態の組成物は、ヒトの体温付近(37℃付近)において、流動性の無いハイドロゲルを形成する。より詳細には、本実施形態の組成物は、ゼラチンを含むマトリックス中にアルコール及び水系溶媒を含む液滴が分散している構造(所謂、コアセルベート構造)を有する、コアセルベートハイドロゲルである。
本実施形態で用いるゼラチンは、特に限定されないが、ヒトの体温付近(37℃付近)において安定なコアセルベートハイドロゲルを形成する観点からは、ゾル-ゲル転移温度が比較的高い、ウシやブタなどの動物由来のゼラチンが好ましく、ブタ皮膚、又はブタ腱由来のゼラチンがより好ましく、ブタ腱由来のゼラチンが特により好ましい。生体由来のポリマーであるゼラチンを主成分とすることで、本実施形態の組成物は生体適合性を高めることができる。
ゼラチンのゲル化温度(ゾル-ゲル転移温度)は、例えば、33℃以上、37℃以上、又は38℃以上が好ましい。本実施形態の組成物は、コアセルベート構造を有することで、ゲル化温度が原料ゼラチンよりも高くなる。原料ゼラチンのゲル化温度が、上記温度以上であれば、本実施形態の組成物は、十分に高いゲル化温度を得ることができ、結果として、ヒトの体温付近において、より安定で強度の高いコアセルベートハイドロゲルを形成できる。ゼラチンのゲル化温度の上限値は特に限定されないが、例えば、50℃以下である。
ゼラチンの分子量は、特に限定されないが、例えば、重量平均分子量が、100,000~500,000、200,000~500,000、又は250,000~400,000であってよい。ゼラチンの重量平均分子量が上記範囲内であれば、本実施形態の組成物は、より安定で強度の高いコアセルベートハイドロゲルを形成できる。
本実施形態で用いるアルコールは、特に限定されず、本実施形態の効果を奏する範囲で適宜選択することでできる。本実施形態の組成物を生体に用いる場合、アルコールは毒性を有さないか、又は毒性が極めて低いことが好ましい。また、より安定で強度の高いコアセルベートハイドロゲルを形成する観点から、水系溶媒に溶解すること(水溶性であること)が好ましい。
本実施形態で用いるアルコールとしては、例えば、ポリアルキレングリコール(直鎖型、分岐型、官能基修飾型(アミノ基、チオール基、カルボキシ基))、ポリグリシドール、エタノール等が挙げられる。生体に対する毒性が低く、且つより安定で強度の高いコアセルベートハイドロゲルを形成する観点から、本実施形態に用いるアルコールは、ポリアルキレングリコール(繰り返し単位中のアルキレン基の炭素数が、例えば、2~4個)が好ましく、ポリエチレングリコールがより好ましい。
ポリアルキレングリコールの分子量は特に限定されないが、重量平均分子量が6,000以上、又は6,000~40,000であることが好ましい。ポリアルキレングリコールの分子量が上記範囲内であると、本実施例の組成物は、より安定で強度の高いコアセルベートハイドロゲルを形成できる。
本実施形態のアルコールは、1種類のアルコールであってもよいし、複数種類のアルコールの混合物であってもよい。
本実施形態で用いる水系溶媒は、主成分が水であれば特に限定されないが、例えば、超純水、生理食塩水、ホウ酸、リン酸、炭酸等各種無機塩緩衝液(緩衝溶液)又はこれらの混合物を用いることができる。
本実施形態の組成物中の各成分の濃度は、組成物がヒトの体温付近(37℃付近)でコアセルベートハイドロゲルを形成できるのであれば、特に限定されない。例えば、組成物中におけるゼラチンの濃度が、5質量%~20質量%であり、且つアルコールの濃度が、2.0質量%~10質量%、2.5質量%~10質量%、又は5質量%~10質量%であってもよい。または、組成物中における前記ゼラチンの濃度が、10質量%~20質量%であり、且つアルコールの濃度が、5質量%~10質量%であってもよい。組成物中におけるゼラチン濃度、及び/又はアルコール濃度が上記範囲内であれば、組成物は、より安定で強度の高いコアセルベートハイドロゲルを形成し易い。
また、組成物中におけるゼラチンとアルコールとの比率は特に限定されないが、より安定で強度の高いコアセルベートハイドロゲルを形成する観点からは、組成物中におけるゼラチンの濃度(G)に対する、アルコールの濃度(A)の比率(A/G)は、1/10~20/10、2/10~20/10、又は2/10~10/10であってよい。
組成物中の水分量は、特に限定されない。用途等に応じて、例えば、組成物中の80~99質量%の範囲で適宜調製してよい。
本実施形態の組成物は、ゼラチンと、アルコールと、水系溶媒のみから構成されてもよいし、本実施形態の効果を奏する範囲において、汎用の添加剤を含んでもよい。本実施形態の組成物を生体に用いる場合、薬学的に許容しうる公知の添加剤を含んでいてもよい。このような添加剤の例としては、例えば、血液凝固第XIII因子、トリプシン阻害剤(アプロチニンなど)、アルブミン、コラーゲン、ポリグリコール酸(PGA)、イソロイシン、グリシン、アルギニン、グルタミン酸、界面活性剤、pH調整剤、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、糖アルコール(グリセロール、マンニトール等)、クエン酸ナトリウムなどを例示することができる。組成物中における添加剤の濃度は、例えば、5質量%以下、1質量%以下、又は0質量%としてよい。
本実施形態の組成物のゲル化温度(ゾルーゲル転移温度)は、例えば、38℃~50℃、又は44~48℃が好ましい。また、組成物の37℃における、せん断弾性率(貯蔵弾性率G’)は、例えば、1000Pa以上が好ましい。本実施形態の組成物は、コアセルベート構造を有することで、原料ゼラチンよりもゲル化温度が高まり、ヒトの体温付近において、より安定で強度の高いゲルとなり得る。この特性は、生体用の接着剤として非常に優れているおり、本実施形態の組成物は組織接着剤に応用できる。尚、組成物の37℃における、せん断弾性率(貯蔵弾性率G’)の上限値は特に限定されないが、例えば、20,000Pa以下である。
また、本実施形態の組成物の50℃における、せん断弾性率(貯蔵弾性率G’)は、例えば、200Pa以下が好ましい。ヒトの体温よりも高温領域において、ゾル状態であり、せん断弾性率が十分に低ければ、本実施形態の組成物は、体温以上のゾル状態で生体に塗布し、塗布後に体温においてゲル化させる、温度応答性組織接着剤として利用可能である。尚、組成物の50℃における、せん断弾性率(貯蔵弾性率G’)の下限値は特に限定されないが、例えば、2Pa以上である。
本実施形態の組成物は、ゼラチンと、アルコールと、水系溶媒(水を含む溶媒)と、必要に応じて添加剤とを汎用の方法により混合することにより製造することができる。
以上説明したように、発明者は、本実施形態の組成物が、ヒトの体温付近(例えば、37℃)において、コアセルベートハイドロゲルとなり、このコアセルベート構造により、ゲルの強度、及び組織に対する接着強度が高まることを見出した。また、発明者は、コアセルベート化により、本実施形態の組成物のゲル化速度、力学強度、水中安定性が向上すること、更に、より少ない力でインジェクション可能となること(チキソトロピー特性)、生体内で使用した場合の癒着防止能が向上すること等も見出した。これらの特性を有する本実施形態の組成物は、例えば、接着剤(生体用の組織接着剤)等、以下に説明する様々な用途に利用可能である。
[組成物の用途]
<組織接着剤>
本実施形態の組織接着剤は、上述した本実施形態の組成物を含む。本実施形態の組織接着剤は、温度応答性を有し、ハンドリング性、生体適合性および組織接着性に優れている。
本実施形態の組織接着剤は、例えば、40℃~60℃程度の範囲においてゾル状態であり、37℃以下(例えば10℃~37℃)で5~30分程度静置することで、ゲル状態となる。すなわち、本実施形態の組織接着剤は、温度応答性をする。したがって、本実施形態の組織接着剤は、例えば、40℃~60℃で加温してゾル状態とすることで、組織欠損部位に、スプレーデバイスやシリンジ等を使用して塗布することができる。さらに、発明の組織接着剤の塗布後、37℃程度の体温に接することで、ハイドロゲルが形成されるため、患部の欠損を物理的に補填し、組織再生を促すことができる。組織接着剤のその他の応用(機能)としては、止血、創部の閉鎖、癒着防止、膵液漏予防、褥瘡治療、筋組織再生、消化管粘膜における創傷治癒などを例示することができる。尚、組織接着剤を加温(加熱)する手段は特に限定されず、任意の公知の手段が好適に採用され得る。
このように、本実施形態の組織接着剤は、温度を調整することで、良好な粘度や組織接着性を発現することができ、1液型で使用することができるためハンドリング性に優れている。
また、本実施形態の接着剤は、チキソトロピー特性を有する。チキソトロピー特性とは、応力印加時には材料の粘弾性が低下し、印加を停止すると徐々に粘弾性が回復する特性である。本実施形態の接着剤は、チキソトロピー特性により、ゲル状態であってもシリンジによる注入が容易であり、ゲル状態のまま、即ち、加熱してゾル状態とすることなく、組織に付与することもできる。
また、本実施形態の組織接着剤は、生体組織のマトリックス構造である脱細胞化マトリックスを複合することも可能である。ブタやウシなどの動物の臓器や組織から細胞成分を取り除いた後に残る細胞外マトリックス成分を複合することで、組織接着剤に生物学的機能を付与することが可能である。脱細胞化マトリックスとして、膀胱や心臓、肝臓、すい臓、小腸などの臓器から作製した脱細胞化マトリックスを使用することができる。
さらに、生体組織接着剤キットとして、上述した本実施形態の組織接着剤を含むキットも提供される。生体組織接着剤キットは、本実施形態の組織接着剤に加えて、スプレーデバイスやシリンジなど注入器具、包装容器などを含んでもよい。
<その他の用途>
本実施形態の組成物は、例えば、デリバリーしたい各種薬剤(タンパク質等を含む)を配合することで、薬物送達担体(局所デリバリー担体や徐放性デリバリー担体)とすることができる。すなわち、本実施形態の薬物送達担体は、ハイドロゲル(上述した組成物)と、所望の各種薬物とを含む。
薬剤は、特に限定されないが、例えば、抗がん剤や抗炎症薬、抗血栓薬、抗生物質、生物学的製剤または、線維芽細胞増殖因子、血管内皮細胞増殖因子、肝細胞増殖因子等の成長因子を例示することができる。また、薬物送達担体は、ワクチンとして、ウイルスや癌の抗原タンパク質を担持することで、ワクチンキャリアとして使用することもできる。
さらに、再生医療分野においては、37度に加温した本実施形態の組成物と細胞懸濁液を混合することで、細胞移植用の足場材料として使用することもできる。
以下に実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す実施例により限定的に解釈されるべきものではない。
1.コアセルベートハイドロゲルの顕微鏡観察
[試料1]
ブタ腱由来のゼラチン(TG:Tendon gelatin、新田ゼラチンから購入)を、50℃のリン酸緩衝液(PBS:Phosphate buffered saline、pH=7.4)に溶解した。得られたTG水溶液にポリエチレングリコール(PEG:Polyethylene glycol、重量平均分子量:10,000)を所定量添加して混合し、50℃で5~30分間静置した(終濃度 TG:20質量%、PEG:5質量%)。その後、25~37℃で30分間静置することでハイドロゲル(組成物)を得た。
<評価>
得られた試料1の位相差顕微鏡観察を行った。図1に示すように、ゼラチンを含むマトリックス中に、PEG及び溶媒(リン酸緩衝液)を含む液滴が分散しているコアセルベート構造が確認された。試料1では、TG水溶液へのPEGの添加により、TGが脱水和され、液-液相分離が誘起されたと推測される。
2.コアセルベーションにおける、TG及びPEG濃度の効果
PEG及び蛍光修飾したTGの濃度を変化させて試料(ハイドロゲル)を調製し、顕微鏡観察を行った。
[試料2-1]
TGをジメチルスルホキシドに溶解し、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)を添加し反応させた。エタノールでの再沈殿後に、水に再度10mg/mLで溶解し、透析膜(分子量分画:10kDa)を用いて透析を行った。その後、凍結乾燥によってFITC修飾TGを得た。FITC修飾TGを50℃のPBS(pH=7.4)に溶解した。その溶液にPEG(重量平均分子量:10,000)を所定量添加して混合し、50℃で5~30分間静置した(終濃度 FITC修飾TG:2.5質量%、PEG:2.5質量%)。その後、25~37℃で30分間静置することで試料2-1(ハイドロゲル)を得た。
[試料2-2~2-4]
PEGの終濃度を2.5質量%とし、FITC修飾TGの終濃度を、それぞれ、5質量%、10質量%、20質量%ととした以外は、試料2-1と同様の方法により各試料を調製した。
[試料2-5~2-8]
PEGの終濃度を5質量%とし、FITC修飾TGの終濃度を、それぞれ、2.5質量%、5質量%、10質量%、20質量%ととした以外は、試料2-1と同様の方法により各試料を調製した。尚、試料2-8の組成は、上述した試料1の組成と同一である。
[試料2-9~2-12]
PEGの終濃度を10質量%とし、FITC修飾TGの終濃度を、それぞれ、2.5質量%、5質量%、10質量%、20質量%ととした以外は、試料2-1と同様の方法により各試料を調製した。
<評価>
得られた試料2-1~2-12について、共焦点レーザー走査顕微鏡を用いて蛍光観察を行った。図2にグレースケールで表現した写真を示す。蛍光修飾されたTGを含む領域が薄い色(グレー)、TGを含まない領域が濃い色(黒)で示されている。試料2-3~2-4、2-6~2-8、及び2-10~2-12では、ゼラチンのマトリックス中に、PEG及び溶媒(リン酸緩衝液)を含む液滴が分散しているコアセルベート構造が確認された。
一方、試料2-1~2-2では、液-液相分離が生じておらず、コアセルベート構造は確認できなかった。また、試料2-5、2-9では、PEG及び溶媒中に、ゼラチンを含む液滴が分散しているコアセルベートが確認された。
以上の結果から、以下のことが推測される。組成物中におけるゼラチンの濃度が5質量%~20質量%、且つアルコールの濃度が2.5質量%~10質量%において、安定なコアセルベートハイドロゲルを形成し易い。また、組成物中におけるゼラチンの濃度が5質量%~20質量%、且つアルコールの濃度が5質量%~10質量%である場合、更に、組成物中におけるゼラチンの濃度が10質量%~20質量%であり、且つアルコールの濃度が5質量%~10質量%である場合に、より安定なコアセルベートハイドロゲルを形成し易い。
3.粘弾性測定
PEGの濃度を変化させて試料(ハイドロゲル)の粘弾性を測定した。
[試料3-1~3-3]
TGの終濃度を20質量%とし、PEGの終濃度を、それぞれ、2質量%、5質量%、10質量%とした以外は、試料1と同様の方法により試料3-1~3-3を調製した。尚、試料3-2の組成は、上述した試料1の組成と同一である。
[試料3-4]
TGの終濃度を20質量%とし、PEGを添加しなかった(即ち、PEGの終濃度:0質量%)以外は、試料1と同様の方法により試料3-4を調製した。
[試料3-5]
ブタ腱由来のゼラチンに代えて、ブタ皮膚由来のゼラチン(SG:Skin gelatin、新田ゼラチンから購入)を用い、PEGを添加しなかった(即ち、PEGの終濃度:0質量%)以外は、試料1と同様の方法により試料3-5を調製した。
<評価>
調製した各試料3-1~3-5について、以下の評価を行った。50℃に加温した試料(100μL)をレオメーター(粘弾性測定装置、アントンパール社、Rheoplus(登録商標))のステージにのせ、直径10mmの治具で挟み込んだ。測定中、ステージの温度を20度から50度へと変化させ、温度とせん断弾性率(貯蔵弾性率G’と損失弾性率G")の関係を評価した。
図3Aに、各試料における、温度とせん断弾性率(貯蔵弾性率G’)との関係を示し、図3Bに、各試料のゲル化温度(ゾルーゲル転移温度)を示す。尚、図3Bに示すゲル化温度は、各試料における、貯蔵弾性率G’と損失弾性率G"との大小関係が逆転する温度(横軸に温度、縦軸にせん断弾性率を取ったグラフにおける、貯蔵弾性率G’曲線と損失弾性率G"曲線との交点)とした。
図3Aに示すように、いずれの試料も温度上昇に伴って、せん断弾性率が低下した。ヒトの体温付近(37℃)において、ブタ腱ゼラチン(TG、試料4)とブタ皮膚ゼラチン(SG、試料5)とを比較すると、ブタ腱ゼラチン(TG)の方が、ブタ皮膚ゼラチン(SG)よりも、せん断弾性率がかなり高かった。これは、図3Bに示すように、ブタ腱ゼラチン(TG)のゲル化温度が38℃以上と高く、37℃付近でゲル状態であるのに対して、ブタ皮膚ゼラチン(SG)のゲル化温度は32℃と低く、37℃付近でゾル状態であるためである。
ブタ腱ゼラチン(TG)にPEGを添加してコアセルベートとした試料3-1~3-3では、ブタ腱ゼラチン(SG)よりもゲル化温度が高くなり、せん断弾性率も高くなった。そして、PEGの濃度が高い程、せん断弾性率及びゲル化温度は、より高くなる傾向を示した。試料3-2~3-3(PEG:5~10質量%)では、37℃における、せん断弾性率は、1000Pa以上であり、ゲル化温度は、44~48℃であった。
このように、ゼラチンにPEG等のアルコールを添加してコアセルベート構造とすることでゲル化温度が上昇し、ヒトの体温付近において、強度の高い安定なゲル状態を得られることが分かった。尚、以上の結果から、今回、実験データを示していないが、ゼラチンとしてブタ皮膚由来のゼラチンを用いた場合も、コアセルベート化によりゲル化温度が上昇して、37℃において安定なコアセルベートゲルを形成する組成物を得られると推測される。
また、50℃において、PEG濃度2~10質量%の試料(試料3-1~3-3)のせん断弾性率は、200Pa以下であり、ゾル状態であった。この結果から、試料3-1~3-3が、体温以上のゾル状態で生体に塗布し、塗布後に体温においてゲル化する、温度応答性組織接着剤として利用可能なことが確認できた。
4.コアセルベーションにおける、PEGの分子量の効果
蛍光修飾したTG(FITC修飾TG)と、分子量の異なるPEGとを用いて試料(ハイドロゲル)を調製して、顕微鏡観察を行った。
[試料4-1]
上述の試料2-1と同様の方法により、蛍光修飾したTG(FITC修飾TG)を合成し、合成したFITC修飾TGをPBS(pH=7.4)に50℃で溶解した。その溶液に重量平均分子量400のPEGを所定量添加して混合し、50℃で5~30分間静置した(終濃度 TG:20質量%、PEG:5質量%)。その後、25~37℃で30分間静置することでハイドロゲルを得た。
[試料4-2~4-7]
重量平均分子量400のPEGに代えて、重量平均分子量1,500、6,000、10,000、40,000、100,000、300,000のPEGをそれぞれ用いたこと以外は、試料4-1と同様の方法により試料4-2~4-7を調製した。
[試料4-8]
PEGを加えなかった(PEGの終濃度:0質量%)以外は、試料4-1と同様の方法により試料4-8を調製した。試料4-8は、図4A及び図4B中、Controlとして示す。
<評価>
得られた試料4-1~4-8について、共焦点レーザー走査顕微鏡を用いて蛍光観察を行った。図4Aにグレースケールで表現した写真を示す。図4Aでは、蛍光修飾されたTGを含む領域が薄い色(グレー)、TGを含まない領域が濃い色(黒)で示されている。図4Aに示すように、重量平均分子量6,000以上の試料(試料4-3~4-7)では、ゼラチンマトリックス中に、PEG及び溶媒(リン酸緩衝液)を含む液滴が分散しているコアセルベート構造が確認された。
一方、重量平均分子量1,500以下の試料、及びPEG含有しないControl(試料4-1~4-2及び4-8)では、液-液相分離が生じておらず、コアセルベート構造は確認できなかった。
更に、試料4-1~4-8について、以下の評価を行った。50℃に加温した試料(100μL)をレオメーター(粘弾性測定装置、アントンパール社、Rheoplus(登録商標))のステージにのせ、直径10mmの治具で挟み込んだ。ステージの温度を37℃に切り替え、37℃におけるせん断弾性率(貯蔵弾性率G’)を測定した。結果を図4Bに示す。コアセルベート構造が確認された重量平均分子量6,000以上の試料は、Control(PEG無添加のTG)よりも、せん断貯蔵弾性率が高く、強度の高い安定なゲルであることが確認できた。特に、重量平均分子量6,000~40,000範囲において、より高いせん断貯蔵弾性率を示し、重量平均分子量10,000のPEGを用いた場合に、せん断貯蔵弾性率は1.7kPaであり、最大値を示した。尚、重量平均分子量が10,000を超えたPEGを用いた場合に、せん断貯蔵弾性率がやや低下するのは、PEGの溶解性が低下して一部に凝集が生じるためだと推測される。
5.コアセルベートハイドロゲルのゲル化速度
試料1(終濃度 TG:20質量%、重量平均分子量:10,000のPEG:5質量%)、及び試料3-4(PEG無添加のTG)のゲル化速度を以下に説明する方法により評価した。
50℃に加温した各試料(100μL)をレオメーター(粘弾性測定装置、アントンパール社、Rheoplus(登録商標))のステージにのせ、直径10mmの治具で挟み込んだ。まず、各試料を50℃において測定を開始し、測定開始3秒後に37℃に温度を切り替えて測定を続け、測定時間とせん断弾性率(貯蔵弾性率G’と損失弾性率G")との関係を評価した。結果を図5に示す。図5の横軸において、「0(ゼロ)分」が測定温度を37℃に切り替えた時間である。
測定開始直後の50℃で加温された試料1(コアセルベートハイドロゲル)は、G’がG"より低くゾル状態であったが、37℃に温度を切り替えた瞬間からG’が上昇し、2分後にはG"を上回り、ゲル化することが分かった。一方、試料3-4(PEG無添加のTG)ではゲル化に20分を要した。この結果から、コアセルベートハイドロゲルでは、コアセルベート化によってTGがPEGによって脱水和され、TGマトリックス中で濃縮されるため、ゲル化速度が向上したと推測される。
6.チキソトロピー特性
試料1(終濃度 TG:20質量%、重量平均分子量:10,000のPEG:5質量%)、及び試料3-4(PEG無添加のTG)のチキソトロピー特性を以下に説明する方法により評価した。
50℃に加温した試料(100μL)をレオメーター(粘弾性測定装置、アントンパール社、Rheoplus(登録商標))のステージにのせ、直径10mmの治具で挟み込んだ。37℃の測定条件下で、5分ごとに歪みを1%と300%へ変化させながら、せん断弾性率(貯蔵弾性率G’と損失弾性率G")を測定した。結果を図6に示す。
図6に示すように、300%歪みによってゲルが一旦は破壊されて、せん断弾性率が低下したが、1%の歪みに戻すと、再び、せん断弾性率が回復した。このように、試料1及び3-4、共にチキソトロピー特性を示すことが確認できた。各試料では、可逆的な物理的相互作用である水素結合を駆動力としてゲルを形成しているため、いったん切断された結合が再び再形成されることで、せん断弾性率が回復したと推測される。
また、コアセルベートハイドロゲルである試料1は、試料3-4(PEG無添加のTG)と比較して、歪み印加時に、せん断弾性率が、よりが低下しており、シリンジでのインジェクションがより容易であることが期待される。
7.インジェクタビリティー試験
試料1(終濃度 TG:20質量%、重量平均分子量:10,000のPEG:5質量%)のインジェクタビリティーを以下に説明する方法により評価した。ニードルゲージ23G、25G、27Gの皮下注射針が付いた3種類のシリンジを用意し、予め重量を測定した。各シリンジに試料1(ゲル)を1mL充填し、再度重量を測定し、45℃で1時間静置した。その後、シリンジを測定台に固定し、引張試験機(島津製作所製)でシリンジを圧縮することにより、ゲルをインジェクションさせた(最大応力設定:50N、100mm/分)。測定後のシリンジの重量を測定し、インジェクションされたゲルの重量を算出した。結果を図7に示す。
図7に示すように、試料1は、いずれのニードルゲージのシリンジにおいても80%の高いインジェクタビリティーを示し、インジェクションに必要な応力も20Nであった。20N程度であれば、人力により十分、インジェクション可能である。このことから、本ゲルは加温によってシリンジでインジェクション可能なゲルであり、組織接着剤へ応用できることが示された。
8.引張試験による力学強度測定
50℃に加温した試料1(終濃度 TG:20質量%、重量平均分子量:10,000のPEG:5質量%)、及び試料3-4(PEG無添加のTG)を、それぞれ、ISO 37-2のサイズのシリコンモールドに注ぎ、25℃で60分間ゲル化させた。その後、テクスチャ―アナライザーを用いて、25℃でのゲルの引張試験を行った。結果を図8に示す。
図8に示すように、コアセルベートハイドロゲル(TG-PEG、試料1)は、TG(試料3-4)と比較して、高い延び率を示した(TG:224%、TG-PEG: 353%)。また、コアセルベートハイドロゲル(TG-PEG)は、TG(試料3-4)と比較して、高い破断強度を示しており(TG:0.15MPa、TG-PEG:0.40MPa)、分子間での水素結合によって、ゲルの力学強度が向上していることが明らかとなった。
9.水中安定性
50℃に加温した100μLの試料1(終濃度 TG:20質量%、重量平均分子量:10,000のPEG:5質量%)、及び試料3-4(PEG無添加のTG)を、それぞれ、2mLチューブに注入し、25℃で60分間ゲル化させた。チューブに1mLのPBSを更に添加し、37℃で所定時間インキュベートした。その後上清を除去し、残存したゲルを凍結乾燥し、その重量を測定した。結果を図9に示す。
図9に示すように、コアセルベートハイドロゲル(TG-PEG、試料1)は、TG(試料3-4)と比較して、重量の減少速度が遅く、生理環境下において、TGよりも高い水中安定性を示した。
更に、試料1のゲルに、PBSに代えて1mg/mLコラゲナーゼ溶液を1mL添加し、同様の試験を行った。結果を合わせて図9に示す。コラゲナーゼ溶液を加えた試料1(TG-PEG collagenase)は、徐々に重量が減少し、24時間経過後にほぼ消滅した。この結果から、試料1のコアセルベートハイドロゲルは、生体内において、組織中の酵素によって分解される生分解性材料であることが確認できた。
10.接着試験
ブタ大腸(芝浦臓器)を用いて接着試験を行った。試験方法は、米国試験材料協会の規格(ASTM F-2258-05)に従って行った。まず、ブタ大腸を開き、生理食塩水で洗浄した。得られた組織を2.5cm四方の組織片へと裁断し、試験装置の上下の治具それぞれに瞬間接着剤を用いて固定した。この際、大腸組織の内膜側を治具に接着させ、もう一方の組織と外膜側で接触するように設置した。ホットプレートを用いることで測定中のブタ大腸組織の温度を37℃に保った。
次に、50℃に加温した300μLの試料1(終濃度 TG:20質量%、重量平均分子量:10,000のPEG:5質量%)、及び試料3-4(PEG無添加のTG)を、それぞれ、該組織上に付与した。直後に、上部の治具によって2Nで圧着し、3分間そのまま圧着した後、上部へと引っ張り上げることで接着力を測定した。結果を図10Aに示す。また、ゲル等を何ら付与しない状態の組織においても同様の試験を行い、Controlとした。図10Aに示すように、試料1及び試料3-4は、Controlと比較して高い接着強度を示した。
次に、同様の実験を接着剤の温度を変化させて行った。まず、50℃に加温したゲルを組織に付与した後に、37℃で10分間インキュベートすることでゲルの温度を37℃まで低下させた。そして、上部の治具によって2Nで圧着し、3分間そのまま圧着した後、上部へと引っ張り上げることで接着力を測定した。結果を図10Bに示す。PEG無添加の試料3-4(TG)が、比較的高い組織接着強度を示したのに対して、試料1(TG-PEG)は、低い接着強度であった。これは、ゲル化温度が高い試料1では、37℃において安定なゲル層が形成されたためと考えられる。
図10A及び図10Bに示す結果から、試料1(TG-PEG)は、高温の状態(50℃)では高い組織接着性を示し、体温付近(37℃)まで温度が低下して一旦、ゲルを形成すると他組織へは接着しないことが明らかとなった。これから、試料1のコアセルベートハイドロゲルは、癒着防止能を有する温度応答性組織接着剤として使用可能であることが確認できた。
11.細胞毒性試験
50℃に加温した100μLの試料1(終濃度 TG:20質量%、重量平均分子量:10,000のPEG:5質量%)、及び試料3-4(PEG無添加のTG)を2mLチューブに注入し、25℃で60分間ゲル化させた。1mLのRPMI1640培地(10%ウシ胎児血清、1%ペニシリンストレプトマイシン)を添加し、37℃で所定時間インキュベート後に、上清を回収した。評価細胞として、マウス線維芽細胞(L929細胞)を用いて、毒性を評価した。L929細胞はRPMI1640培地(10%ウシ胎児血清、1%ペニシリンストレプトマイシン)を用いて37℃、5%COのインキュベーターで培養した。2x10個のL929細胞を96ウェルプレートに播種し、24時間予備培養した。回収した上清を各ウェルに添加し、さらに24時間培養した。培養完了後、細胞数カウンティングキット(WST-8、DOJINDO)を用いて細胞数を定量した。結果(細胞生存率)を図11に示す。試料3-4、試料1共に、高い細胞生存率を示した。これらの結果より、コアセルベートハイドロゲル(試料1)が高い細胞適合性を示すこと確認できた。
12.生体適合性、生分解性の試験
試料(ハイドロゲル)をC57BL/6Jマウス(6~8週齢、メス)へ埋入することで、生体適合性と生分解性を評価した。
まず、50℃に加温した100μLの試料1(終濃度 TG:20質量%、重量平均分子量:10,000のPEG:5質量%)、及び試料3-4(PEG無添加のTG)を、それぞれ、厚さ1mmのシリコンモールドに入れ、25℃で60分間ゲル化させた。得られたゲルはUV照射によって滅菌した。イソフルランの吸入麻酔下において、マウスの背部の毛を剃り、70%エタノールで消毒した後に、メスで皮膚を切開し、皮下に各試料を埋植した。1、3、7日後にマウスを安楽死させ、材料と組織を摘出し、組織切片観察を行った。
図12に示すように、ヘマトキシリン・エオシン観察の結果、試料3-4(TG)は1日後の時点でゲルの残存は確認されず、分解されていることが観察された。一方、試料1(TG-PEG)は、1日後においても、皮下に残存している様子が観察され、3日後には分解、吸収されていることが分かった。これらの結果より、試料1は、コアセルベート化により、生体環境下での安定性が向上し、生体に適合していることが確認できた。また、試料1は、最終的には分解吸収される生分解性を有することも確認できた。
13.ラット腹膜癒着モデルを用いた癒着防止能の評価
癒着防止能を検証するために、ラット腹膜癒着モデルを用いた。Sprague-Dawleyラット(SDラット)の腹部の毛を剃り、70%エタノールで消毒した後に、5cm開腹した。盲腸を露出させ、ガーゼで擦過傷を作製し、元の位置に戻し、盲腸が接する腹壁の腹膜の表面組織(1cmx2cm)をメスで剥離、切除した。45℃に加温した試料1(終濃度 TG:20質量%、重量平均分子量:10,000のPEG:5質量%)を500μL、腹膜組織及び盲腸表面に塗布した。5分ほど静置しゲル化を確認後、盲腸を元の腹腔に戻し、抗生物質(アミカマイシン、1mg/kg)を添加した。筋層を縫合し、皮膚の創部をオートクリップで閉鎖し、消毒した。
14日目に開腹し、目視によって癒着の有無を確認し、下記の基準に従ってスコア化を行った。また、擦過傷に何ら処置を施さなかったラット腹膜癒着モデルについても、同様に試験及び観察を行った(Control)。以上の結果を図13に示す。
<癒着評価基準>
0:癒着なし
1:弱い癒着(組織間で1点で接着)
2:中程度の癒着(組織間で複数点で癒着)
3:広範囲で癒着(組織間で面と面で部分的に癒着)
4:深刻な癒着(組織同士が全面で癒着)
図13に示すように、未処置のラット(Contorol)においては、腹膜と盲腸の間に強固な癒着が確認された。一方、試料1を塗布したラットは、癒着が確認されず、また損傷させた腹膜組織、及び盲腸組織表面において中皮細胞の再上皮化が起きており、組織再生が確認された。これらの結果より、試料1は癒着防止機能を有していることが確認された。
本発明の組成物は組織接着剤などの生体材料や医療材料として有用である。特に、組織接着剤は、ハンドリング性、生体適合性および組織接着性に優れている。

Claims (17)

  1. 組成物であって、
    ゼラチンと、
    アルコールと、
    水を含む溶媒とを含み、
    前記ゼラチンを含むマトリックス中に、前記アルコール及び前記溶媒を含む液滴が分散している、組成物。
  2. 前記組成物のゾル-ゲル転移温度が38℃~50℃である、請求項1に記載の組成物。
  3. 37℃における、せん断弾性率が1000Pa以上である、請求項1又は2に記載の組成物。
  4. 50℃における、せん断弾性率が200Pa以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の組成物。
  5. 前記組成物中における前記ゼラチンの濃度が、5質量%~20質量%であり、
    前記組成物中における前記アルコールの濃度が、2.5質量%~10質量%である、請求項1~4のいずれか1項に記載の組成物。
  6. 前記組成物中における前記アルコールの濃度が、5質量%~10質量%である、請求項5に記載の組成物。
  7. 前記組成物中における前記ゼラチンの濃度が、10質量%~20質量%であり、
    前記組成物中における前記アルコールの濃度が、5質量%~10質量%である、請求項5に記載の組成物。
  8. 前記組成物中における前記ゼラチンの濃度(G)に対する、前記組成物中における前記アルコールの濃度(A)の比率(A/G)が、1/10~20/10である、請求項1~7のいずれか1項に記載の組成物。
  9. 前記ゼラチンがブタ腱由来のゼラチンである、請求項1~8のいずれか1項に記載の組成物。
  10. 前記ゼラチンの重量平均分子量が200,000~500,000である、請求項1~9のいずれか1項に記載の組成物。
  11. 前記アルコールがポリアルキレングリコールである、請求項1~10のいずれか1項に記載の組成物。
  12. 前記ポリアルキレングリコールが、ポリエチレングリコールである、請求項11に記載の組成物。
  13. 前記ポリアルキレングリコールの重量平均分子量が、6000以上である、請求項11又は12に記載の組成物。
  14. 前記ポリアルキレングリコールの重量平均分子量が、6,000~40,000である、請求項13に記載の組成物。
  15. 前記溶媒が緩衝溶液である、請求項1~14のいずれか1項に記載の組成物。
  16. コアセルベート構造を有するハイドロゲルである、請求項1~15のいずれか1項に記載の組成物。
  17. 請求項1~16のいずれか1項に記載の組成物を含む、接着剤。
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