JP2023027762A - 修飾ゼラチン、これを含む、組織接着剤、ハイドロゲル、薬物送達担体、フィルム、多孔体および血管塞栓剤、多孔体の製造方法 - Google Patents

修飾ゼラチン、これを含む、組織接着剤、ハイドロゲル、薬物送達担体、フィルム、多孔体および血管塞栓剤、多孔体の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】ハンドリング性、生体適合性および組織接着性に優れた組織接着剤と、この組織接着剤に使用可能な修飾ゼラチン等を提供すること。【解決手段】次式(1)で表される化合物:【化1】TIFF2023027762000007.tif42127(R1は、水素原子、炭素数1~10のアルキル基のうちのいずれかを示し、Xは、イソシアネート基、または、末端にイソシアネート基を有するスペーサーを示す)が、前記イソシアネート基を介して、ゼラチン中のアミノ基に導入されている修飾ゼラチンを使用する。【選択図】図1

Description

本発明は、修飾ゼラチン、これを含む、組織接着剤、ハイドロゲル、薬物送達担体、フィルムおよび多孔体および血管塞栓剤、多孔体の製造方法に関する。
超高齢社会に突入した我が国において、低侵襲医療の発展が求められているとともに、生体適合性を有する各種の生体材料や医療材料の開発が進んでいる。例えば、組織接着剤は、組織同士を接着剤によって接着させることで、欠損や創部を迅速に閉鎖・修復可能な医療材料であり、手術時間の短縮や組織再生の促進など様々な利点がある。
現在、臨床で使用されている組織接着剤として、フィブリン糊が挙げられるが、接着強度が低いことや、ウイルス感染のリスクがあることが問題である。シアノアクリレート系の接着剤は、高い接着能を示すが、毒性が強いことが問題である。また、反応性官能基を有するポリマーを用いた接着剤は、高い生体適合性を示すが、化学反応によって炎症反応が惹起されることが懸念され、また、2液成分を混合する必要があるため、ハンドリングが難しい。
このような事情から、1液成分からなり、生体適合性と組織接着性に優れた組織接着剤の開発が求められている。
例えば、非特許文献1には、低温度で液体、高温でゲルを形成する温度応答性ハイドロゲルが記載されている。また、非特許文献2には、組み換えタンパク質と界面活性剤とを用いた温度応答性接着剤等が記載されている。
K. Nagahama, T. Ouchi and Y. Ohya, Temperature-induced hydrogels through self-assembly of cholesterol-substituted star PEG-b-PLLA copolymers: An injectable scaffold for tissue engineering, Adv. Funct. Mater. 18, 1220-1231 (2008). L. Xiao, Z. Wang, Y. Sun, B. Li, B. Wu, C. Ma, V. S. Petrovskii, X. Gu, D. Chen, I. I. Potemkin, A. Herrmann, H. Zhang, K. Liu, An artificial phase-transitional underwater bioglue with robust and switchable adhesion performance. Angew. Chem. Int. Ed. 60, 12082-12089 (2021).
しかしながら、非特許文献1に記載されたハイドロゲルは、1液型であるためハンドリング性に優れているものの、ゲルの強度が低く、また合成高分子であるため、生体組織との親和性(生体適合性)が低いという問題がある。また、非特許文献2に記載されたハイドロゲルは、ハンドリング性および接着強度には優れるものの、界面活性剤の毒性が懸念される。
本発明は、以上の事情に鑑みてなされたものであり、ハンドリング性、生体適合性および組織接着性に優れた組織接着剤を提供すること、また、この組織接着剤に使用可能な修飾ゼラチンと、この修飾ゼラチンを含む生体材料や医療材料として、ハイドロゲル、薬物送達担体、フィルム、多孔体および血管塞栓剤を提供することを課題としている。
上記の課題を解決するため、本発明の修飾ゼラチンは、以下のことを特徴としている。
[1]次式で表される化合物(1):
Figure 2023027762000002
(Rは、水素原子、炭素数1~10のアルキル基のうちのいずれかを示し、Xは、イソシアネート基、または、末端にイソシアネート基を有するスペーサーを示す)
が、前記イソシアネート基を介して、ゼラチン中のアミノ基に導入されている。
[2]ゼラチン中のアミノ基に対し、前記化合物(1)が26~90mol%導入されている。
[3]前記ゼラチンが、ブタ腱由来またはブタ皮膚由来のゼラチンである。
[4]前記スペーサーは、炭素数1~20の炭化水素鎖である。
本発明の組織接着剤は、以下のことを特徴としている。
[5]温度応答性を有する組織接着剤であって、前記[1]から[4]のいずれかの修飾ゼラチンを含有する。
本発明のハイドロゲルは、
[6]前記[1]から[4]のいずれかの修飾ゼラチンを含有することを特徴としている。
本発明の薬物送達担体は、
[7]前記[1]のハイドロゲルと、薬物とを含むことを特徴としている。
本発明のフィルムは、
[8]前記[1]から[4]のいずれかの修飾ゼラチンを含有し、前記修飾ゼラチンは、ゼラチン中のアミノ基に対し、前記化合物(1)が79~90mol%導入されていることを特徴としている。
本発明の多孔体は、以下のことを特徴としている。
[9]前記[1]から[4]のいずれかの修飾ゼラチンを含有し、前記修飾ゼラチンは、ゼラチン中のアミノ基に対し、前記化合物(1)が79~90mol%導入されている。
[10]塩化ナトリウム結晶を含む。
本発明の多孔体の製造方法は、以下のことを特徴としている。
[11]多孔体の製造方法であって、
前記[1]から[4]のいずれかの修飾ゼラチンを有機溶媒に溶解させて溶解液を得ること、
前記溶解液を凍結後、水で洗浄することで前記有機溶媒を除去すること、
を含み、
前記修飾ゼラチンは、ゼラチン中のアミノ基に対し、前記化合物(1)が79~90mol%導入されている。
[12]前記溶解液に塩化ナトリウム結晶を添加することを含む。
本発明の血管塞栓剤は、以下のことを特徴としている。
[13]前記[1]から[4]のいずれかの修飾ゼラチンと、溶媒とを含有する。
[14]さらに、造影剤を含有する。
[15]前記溶媒が、水である。
[16]前記[1]から[3]のいずれかの修飾ゼラチンと、有機溶媒とを含有し、
前記修飾ゼラチンは、ゼラチン中のアミノ基に対し、前記化合物(1)が70~100mol%導入されている。
[17]前記有機溶媒が、ジメチルスルホキシドである。
本発明の修飾ゼラチンによれば、組織接着剤、ハイドロゲル、薬物送達担体、血管塞栓剤、フィルムおよび多孔体などの生体材料や医療材料を提供することができる。
本発明の組織接着剤は、温度応答性を有し、ハンドリング性、生体適合性および組織接着性に優れている。
本発明のハイドロゲルは、デリバリーしたい各種薬剤(タンパク質等を含む)を配合することで、薬物送達担体として使用することができる。また、ハイドロゲルと細胞懸濁液とを混合することで、細胞移植用の足場材料として使用することもできる。本発明の薬物送達担体は、局所デリバリー担体や徐放性デリバリー担体などとして、各種薬剤をデリバリーすることができる。さらに、ハイドロゲルを血管塞栓物質として用いることで、止血やがん治療に用いることができる。
本発明の血管塞栓剤は、血管を塞栓することができ、止血やがん治療に好ましく使用することができる。
本発明のフィルムは、生体適合性に優れ、例えば、創傷被覆材や細胞培養足場材料などに好ましく使用することができる。
本発明の多孔体は、生体適合性に優れ、例えば、創傷被覆材や細胞足場材料などに好ましく使用することができる。
ウレイドピリミジノン修飾ゼラチンの構造を示した概要図である。なお、ゼラチン構造中の曲線部分は、ポリペプチド鎖を示している。 ウレイドピリミジノン修飾ゼラチンの調製方法を示した概要図である。なお、ゼラチン構造中の曲線部分は、ポリペプチド鎖を示している。 ウレイドピリミジノン基のゼラチン分子への導入を示した図である。 ウレイドピリミジノン修飾ゼラチンの溶解とゲル化における構造変化を例示した概要図である。 各材料について、温度とせん断弾性率の関係を評価した結果を示した図である。 各材料について、温度とせん断粘度の関係を評価した結果を示した図である。 TGUPyの濃度と粘弾特性の関係をレオメーターを用いて評価した結果を示した図である。 SGUPyの温度変化に対するせん断弾性率を評価した結果を示した図である。 TGUPy-42をPBSに溶解し、レオメーターを用いてゲル化速度を評価した図である。 ブタ皮膚由来ゼラチン(SG)、ブタ腱由来ゼラチン(TG)、TGUPy-42を含むゲルについて、ゲルの引張試験を行った結果を示す図である。 ブタ皮膚由来ゼラチン(SG)、ブタ腱由来ゼラチン(TG)、TGUPy-42を含むゲルについて、ゲルの圧縮試験を行った結果を示す図である。 TGUPyのチキソトロピー性について検討した結果を示す図である。 ブタ皮膚由来ゼラチン(SG)、ブタ腱由来ゼラチン(TG)、TGUPy-26、TGUPy-42、TGUPy-53の水中安定性を検討した結果を示した図である。 ブタ皮膚由来ゼラチン(SG)、ブタ腱由来ゼラチン(TG)、TGUPy-26、 TGUPy-42、TGUPy-53のタンパク質透過性を検討した結果を示す図である。 水素結合を阻害したハイドロゲルについて、温度とせん断弾性率の関係を評価した結果を示す図である。 ブタ皮膚由来ゼラチン(SG)、ブタ腱由来ゼラチン(TG)、TGUPy-26、 TGUPy-42、 TGUPy-53について、組織接着性を検討した結果を示す図である。 スペーサー長の変更による温度とせん断弾性率の関係および接着強度への影響を検討した図である。 ブタ皮膚由来ゼラチン(SG)、ブタ腱由来ゼラチン(TG)、TGUPy-26、 TGUPy-42、TGUPy-53について、癒着防止能を検討した結果を示す図である。 ブタ皮膚由来ゼラチン(SG)、ブタ腱由来ゼラチン(TG)、TGUPy-26、TGUPy-42、TGUPy-53について、細胞毒性試験の結果を示す図である。 TGUPyのハイドロゲル内で細胞を培養し、位相差顕微鏡によって細胞形態を観察した結果を示す図である。 ブタ皮膚由来ゼラチン(SG)、ブタ腱由来ゼラチン(TG)、TGUPy-26、TGUPy-42、TGUPy-53について、生体適合性および生分解性を観察、評価した顕微鏡写真を示す図である。 TGUPyの癒着防止機能を確認した結果を示す図である。 TGUPyの50℃における粘度および37℃の生理食塩水中での貯蔵弾性率を評価した結果を示す図である。 高導入率TGUPyの37℃における粘度および37℃の生理食塩水中での貯蔵弾性率を評価した結果を示す図である。 高導入率TGUPyを用いて作製したフィルムの写真を示す図である。 高導入率TGUPyを用いて、溶液中に粒子が形成されたことを示す図である。 高導入率TGUPyを用いて作製した多孔体の写真を示す図である。
以下、本発明の修飾ゼラチン、組織接着剤、ハイドロゲル、薬物送達担体、フィルム、多孔体および多孔体の製造方法の一実施形態について説明する。
なお、本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
また、本明細書における基(原子群)の表記において、置換及び無置換を記していない表記は、本発明の効果を損ねない範囲で、置換基を有さないものと共に置換基を有するものをも包含するものである。例えば、「アルキル基」とは、置換基を有さないアルキル基(無置換アルキル基)のみならず、置換基を有するアルキル基(置換アルキル基)をも包含するものである。このことは、各化合物についても同義である。
<修飾ゼラチン>
本発明の修飾ゼラチンは、ゼラチン中のアミノ基に、次式で表される化合物(1)が、イソシアネート基を介して導入されている。
Figure 2023027762000003
この化合物(1)において、Rは、水素原子、炭素数1~10のアルキル基のうちのいずれかを示している。Xは、イソシアネート基、または、末端にイソシアネート基を有するスペーサーを示しており、このイソシアネート基を介して、ゼラチン中のアミノ基と結合している。
スペーサーは、炭素数1~20の炭化水素鎖を含み、末端にイソシアネート基を有している。スペーサーの炭化水素鎖は、特に限定されないが、例えば、アルキル基やエチレンオキシド鎖などであってよく、炭素数が2~12であることが好ましい。
また、ゼラチンの種類は特に限定されず、例えば、ウシやブタなどの動物由来のゼラチン、ティラピアやタラなどの魚由来のゼラチンを例示することができる。
そして、本発明の修飾ゼラチンは、ゼラチン中のアミノ基に対し、上記の化合物(1)が26~90mol%導入されていることが好ましい。化合物(1)の導入率がこの範囲であると、組織接着性やゲル強度などの観点から、ハイドロゲルが好ましい特性を有するため、各種の生体材料や医療材料に応用することができる。一方、化合物(1)の導入率が26mol%未満であると、水溶性が高くなるため生理環境下における水中安定性が低くなり、化合物(1)の導入率が90mol%を超えると、粘度が高くなりすぎハンドリング性が悪くなる。なお、化合物(1)の導入率は、例えば、後述する実施例に記載の方法で確認することができる。
より具体的には、本発明の修飾ゼラチンの好ましい一実施形態として、例えば、ウレイドピリミジノン基を導入したゼラチン(以下、「ウレイドピリミジノン基修飾ゼラチン」と記載する場合がある)を例示することができる。
図1に例示するように、ウレイドピリミジノン基修飾ゼラチンは、ゼラチン中のリシンなどのアミノ基にウレイドピリミジノン基が修飾されたポリマーである。図1に示したウレイドピリミジノン基修飾ゼラチンの合成の例では、スペーサーとして末端にイソシアネート基を有するヘキサンが例示されている。
ウレイドピリミジノン基修飾ゼラチンは、公知の方法によって合成することができ、その方法は特に限定されない。
具体的には、例えば図2に例示するように、先ず、ゼラチンをジメチルスルホキシドなどの有機溶媒に溶解する。次に、末端にイソシアネート基を有するウレイドピリミジノン分子(分子量293)をジメチルスルホキシドなどの有機溶媒に溶解する。この溶解液に、ゼラチン中のアミノ基の量(n)を100モル%としたときに30~200モル%のウレイドピリミジノン分子を添加し、撹拌する。20~30℃で16~24時間撹拌することによって、ウレイドピリミジノン修飾ゼラチンを合成する。反応終了後、冷エタノール・酢酸エチル混合溶媒で再沈殿処理をし、冷クロロホルムおよび冷エタノールで洗浄後に、減圧乾燥をすることでウレイドピリミジノン基修飾ゼラチンの粉末を得ることができる。
後述するように、本発明の修飾ゼラチンは、組織接着剤や、ハイドロゲル、薬物送達担体、フィルムおよび多孔体などの生体材料や医療材料として使用することができる。
<組織接着剤>
本発明の組織接着剤は、上述した本発明の修飾ゼラチンを含む。
具体的には、例えば、粉末状として得た本発明の修飾ゼラチンを、40℃~60℃程度に加温したリン酸緩衝液などに溶解することで組織接着剤を得ることができる。本発明の修飾ゼラチンを含む組織接着剤は、この温度範囲において液状であるため、例えば、スプレーデバイスやシリンジなどに注入して使用することができる。さらに、液状である組織接着剤は、37℃以下(例えば10℃~37℃)で5~30分程度静置することで本発明のハイドロゲル(水を含む流動性を有しないゲル)が形成され、組織接着剤として好ましく使用可能な粘度や組織接着性を発現させることができる。すなわち、本発明の組織接着剤は、温度応答性を有しており、具体的には、例えば、40℃~60℃では液状であり、500~10000mPa・sの粘度を発現し、例えば10℃~37℃では、100~30000Paの弾性率を発現することができる。なお、本発明の組織接着剤を好適な温度に加熱することができる手段であれば任意の公知の手段が好適に採用され得る。
また、組織接着剤中の水分量は、用途等に応じて、例えば、組織接着剤の重量の80~99重量%の範囲で適宜調製することができる。
本発明の組織接着剤は、修飾ゼラチン中に、化合物(1)が26~90mol%導入されていることが好ましく、30~60mol%導入されていることがより好ましく、40~50mol%導入されていることが特に好ましい。化合物(1)の導入率がこの範囲であると、良好な温度応答性を有し、優れた粘度や組織接着性を発現することができる。
さらに、本発明の組織接着剤の場合、修飾ゼラチンを構成するゼラチンは、ブタ腱由来またはブタ皮膚由来のゼラチンであることが好ましく、ブタ腱由来のゼラチンであることがより好ましい。修飾ゼラチンを構成するゼラチンがブタ腱由来のゼラチンであると、37℃以下において、より良好な粘弾性や組織接着性を発現することができる。
本発明の組織接着剤は、例えば、40℃~60℃で加温して液状とすることで、組織欠損部位に、スプレーデバイスやシリンジ等を使用して塗布することができる。さらに、発明の組織接着剤の塗布後、37℃程度の体温に接することで、ハイドロゲルが形成されるため、患部の欠損を物理的に補填し、組織再生を促すことができる。組織接着剤のその他の応用としては、止血、創部の閉鎖、癒着防止、膵液漏予防、褥瘡治療、筋組織再生、消化管粘膜における創傷治癒などを例示することができる。
このように、本発明の組織接着剤は、温度を調整することで、良好な粘度や組織接着性を発現することができ、1液型で使用することができるためハンドリング性に優れている。さらに、本発明の組織接着剤は、ゼラチンを主原料としているため、生体適合性にも優れている。
また、本発明の組織接着剤は、生体組織のマトリックス構造である脱細胞化マトリックスを複合することも可能である。ブタやウシなどの動物の臓器や組織から細胞成分を取り除いた後に残る細胞外マトリックス成分を複合することで、組織接着剤に生物学的機能を付与することが可能である。脱細胞化マトリックスとして、膀胱や心臓、肝臓、すい臓、小腸などの臓器から作製した脱細胞化マトリックスを使用することができる。
さらに、生体組織接着剤調製用キットとして、上述した本発明の組織接着剤を含むキットも提供される。生体組織接着剤調製用キットは、本発明の組織接着剤に加えて、これらを溶解するための溶解液やその他の添加剤、スプレーデバイスやシリンジなど注入器具、包装容器などを含んでもよい。
<ハイドロゲルおよび薬物送達担体など>
上述したように、例えば、粉末状として得た本発明の修飾ゼラチンを、40℃~60℃程度に加温したリン酸緩衝液などに溶解することで溶解液を得ることができ、この溶解液を、37℃以下(例えば10℃~37℃)で5~30分程度静置することで本発明のハイドロゲル(水を含む流動性を有しないゲル)を得ることができる。
本発明のハイドロゲルは、例えば、デリバリーしたい各種薬剤(タンパク質等を含む)を配合することで、薬物送達担体(局所デリバリー担体や徐放性デリバリー担体)とすることができる。すなわち、本発明の薬物送達担体は、ハイドロゲルと、所望の各種薬物とを含む。
薬剤は、特に限定されないが、例えば、抗がん剤や抗炎症薬、抗血栓薬、抗生物質、生物学的製剤または、線維芽細胞増殖因子、血管内皮細胞増殖因子、肝細胞増殖因子等の成長因子、造影剤を例示することができる。
また、薬物送達担体は、ワクチンとして、ウイルスや癌の抗原タンパク質を担持することで、ワクチンキャリアとして使用することもできる。
さらに、例えば37℃程度に加温したハイドロゲルと細胞懸濁液とを混合することで、細胞移植用の足場材料として使用することもできる。
<フィルム>
本発明のフィルムは、上述した本発明の修飾ゼラチンを含有し、修飾ゼラチンは、ゼラチン中のアミノ基に対し、化合物(1)が79~90mol%導入されている。化合物(1)の導入率が79~90mol%であると、水に不溶になるが、例えば、水に1mg/mL~10mg/mLの濃度で修飾ゼラチンを分散させ、100℃以上の温度で加熱することで、水に溶解させることができる。この溶液を乾燥させることで、水に不溶かつ透明なフィルムを作製することができる。
フィルムの厚さは、用途などに応じて適宜調整することができるが、例えば、10nm~1mmの範囲を例示することができる。
このフィルムは、不溶性の修飾ゼラチンからなるため、生体環境で溶解しない安定な構造体であり、例えば、創傷被覆材や細胞足場材料などに好ましく使用することができる。
<多孔体>
本発明の多孔体は、上述した本発明の修飾ゼラチンを含有する。本発明の多孔体における修飾ゼラチンは、ゼラチン中のアミノ基に対し、化合物(1)が79~90mol%導入されている。前記化合物(1)の導入率が79~90mol%であると、水に不溶になるため、1~500μmのポアを有する多孔体を作製することができる。
多孔体の製造方法は特に限定されないが、例えば、以下の工程、
<1>修飾ゼラチンを有機溶媒に溶解させて溶解液を得る工程、および、
<2>溶解液を凍結後、水で洗浄することで有機溶媒を除去する工程、
を含むことができる。
工程<1>では、例えば、有機溶媒としてジメチルスルホキシド(DMSO)やN-メチル-2-ピロリドン(NMP)などを使用することができる。有機溶媒中の修飾ゼラチンの濃度は特に限定されないが、例えば、10mg/mL~200mg/mLの範囲を例示することができる。
さらに、工程<1>では、例えば、溶解液に50~100μm程度の大きさの塩化ナトリウム結晶を添加することが好ましい。塩化ナトリウム結晶を添加することで、多孔体の多孔性を向上させることができ、具体的には、例えば30~50μmのポアを有する多孔体を作製することができる。塩化ナトリウム結晶の添加量は特に限定されないが、例えば、溶解液に対して、1000mg/mL~5000mg/mLの範囲を例示することができる。
工程<2>では、例えば、溶解液を-10℃~-40℃で凍結し、超純水などで洗浄することによって、有機溶媒を除去することができる。このような洗浄を複数回繰り返し行い、材料を凍結乾燥することで、修飾ゼラチンの凍結乾燥体である本発明の多孔体を得ることができる。溶解液に塩化ナトリウム結晶を添加した場合は、多孔体には、塩化ナトリウム結晶が含まれ、良好なポア構造が形成される。
この多孔体は、不溶性の修飾ゼラチンからなる構造体であるため、生体環境で溶解しない安定な構造体であり、例えば、創傷被覆材や足場材料などに使用することができる。
<血管塞栓剤>
本発明の血管塞栓剤は、上述した本発明の修飾ゼラチンと溶媒とを含有する。血管塞栓剤とは、カテーテル等で出血部位やがん周辺の血管に送達することで、血管を塞栓し、止血やがん治療を行う医療材料である。
血管塞栓剤に使用する溶媒としては、例えば、水、ジメチルスルホキシド(DMSO)などの有機溶媒を例示することができる。なかでも、修飾ゼラチンの溶解性と、生体適合性に優れる観点から、溶媒は、ジメチルスルホキシド(DMSO)であることが好ましい。
さらに、血管塞栓剤は、造影剤を含有することが好ましい。造影剤は特に限定されず、公知の材料を使用することができるが、例えば、Isohexol、タンタル粉末、lipiodol(登録商標)などを例示することができる。
また、本発明の血管塞栓剤は、例えば、溶媒がジメチルスルホキシド(DMSO)である場合、ゼラチン中のアミノ基に対し、前記化合物(1)が70~100mol%導入されていることが好ましく、79~90mol%導入されていることがより好ましい。前記化合物(1)の導入率がこの範囲であると、溶媒(DMSO)中に修飾ゼラチンを溶解させることができる。
本発明の血管塞栓剤は、上述した本発明の修飾ゼラチンを含有するため、加温した状態において良好な粘度を有するとともに、血液中で安定なハイドロゲルを形成することができる。このため、本発明の血管塞栓剤は、血管を塞栓することができ、止血やがん治療に好ましく使用することができる。
本発明の修飾ゼラチン、組織接着剤、ハイドロゲル、薬物送達担体、フィルム、多孔体、血管塞栓剤、および多孔体の製造方法は、以上の実施形態に限定されることはない。例えば、修飾ゼラチン、組織接着剤、ハイドロゲル、薬物送達担体、フィルムおよび多孔体は、用途などに応じて、薬学的に許容しうる公知の添加剤を含んでいてもよい。このような添加剤の例としては、例えば、血液凝固第XIII因子、トリプシン阻害剤(アプロチニンなど)、アルブミン、コラーゲン、ポリグリコール酸(PGA)、イソロイシン、グリシン、アルギニン、グルタミン酸、界面活性剤、pH調整剤、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、糖アルコール(グリセロール、マンニトール等)、クエン酸ナトリウムなどを例示することができる。
以下、本発明について、実施例とともに詳しく説明するが、本発明の修飾ゼラチン、組織接着剤、ハイドロゲル、薬物送達担体、フィルム、多孔体および血管塞栓剤は、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
<修飾ゼラチンの調製>
この実施例では、修飾ゼラチンとして、ウレイドピリミジノン修飾ゼラチンを調製した(図1、図2)。
具体的には、先ず、ウレイドピリミジノン誘導体を合成した。2-アミノ-4-ヒドロキシ-6-メチルピリミジン(17.4 mmol,2.178 g,Sigma-Aldrich)を1,6-ジイソシアナトヘキサン(78.3 mmol,13.163 g,東京化成工業株式会社)に分散させ、100℃に加熱して反応させ、撹拌下で16時間続けた。25℃まで冷却した後、10倍量のn-ヘキサンを加えて生成物を沈殿させた。得られた沈殿物をろ過して回収し、n-ヘキサンで3回洗浄した。生成物を50℃で減圧乾燥し、ウレイドピリミジノン誘導体を白色粉末として得た。
次に、ブタ腱由来ゼラチン(TG)またはブタ皮膚由来ゼラチン(SG)(新田ゼラチン株式会社製)をジメチルスルホキシドに50℃で溶解し、室温まで冷却した。また、末端にイソシアナート基を有するウレイドピリミジノン誘導体(分子量293)をジメチルスルホキシドに溶解した。この分散液に、ゼラチン中のアミノ基の量(n)を100モル%としたときに30~200モル%のウレイドピリミジノン分子を添加し、撹拌した。20~30℃で16~24時間撹拌することによって、ウレイドピリミジノン修飾ゼラチンを合成した。反応終了後、エタノール・酢酸エチル混合溶媒で再沈殿処理をし、冷クロロホルムおよび冷エタノールで洗浄後に、減圧乾燥をすることで目的物であるウレイドピリミジノン(UPy)修飾ゼラチンの粉末を得た。
以下、UPyで修飾したブタ腱由来ゼラチン(TG)を「TGUPy」と記載することがある。また、UPyで修飾したブタ皮膚由来ゼラチン(SG)を「SGUPy」と記載することがある。
ウレイドピリミジノン基(UPy)の導入率は、TNBS(2,4,6-trinitrobenzensulfonic acid
)を用いてゼラチンの残存アミノ基を特定する手法によって定量した。
ブタ腱由来ゼラチン(TG)に対して、UPyをそれぞれ30%、45%、60%、90%、120%、200%仕込みで添加したところ、導入率(D.S)は、26mol%、42mol%、53mol%、79mol%、88mol%、90mol%となった。以下、UPyの導入率が26mol%であるTGUPyを「TGUPy-26」、42mol%であるTGUPyを「TGUPy-42」、53mol%であるTGUPyを「TGUPy-53」、79mol%であるTGUPyを「TGUPy-79」、88mol%であるTGUPyを「TGUPy-88」、90mol%であるTGUPyを「TGUPy-90」と記載することがある。
また、1H NMR測定(400MHz、DMSO-d6)より、ウレイドピリミジノン基のゼラチン分子への導入を確認した(図3)。DMSO-d6 : δ =11.53 (s, 1H, CH3-C-NH), 9.67 (s, 1H, CH2-NH-(C=O)-NH), 7.30 (t, 1H, CH2-NH-(C=O)-NH), 5.77 (s, 1H, CH=C-CH3), 3.12 (m, 4H, NH-(C=O)-NH-CH2 +CH2-NCO), 2.10 (s, 3H, CH3), 1.50 (m, 4H, NH-CH2-CH2), 1.31 (m, 4H, CH2-CH2-CH2-CH2-CH2-CH2- NCO) ppm.
表1に、TGUPy-26、TGUPy-42、TGUPy-53、TGUPy-79、TGUPy-88、TGUPy-90の特徴を示す。
Figure 2023027762000004
<ウレイドピリミジノン修飾ゼラチンからなるハイドロゲルの作製>
リン酸緩衝液(Phosphate buffered saline(PBS) pH=7.4)にウレイドピリミジノン修飾ゼラチンを50℃で溶解した。その溶液をシリコンモールドに入れ、25~37℃で5~30分間静置することでハイドロゲルが作製できる(図4)。
<粘度測定>
粘弾性測定装置(Rheoplus、アントンパール社製)を用いて、ハイドロゲルの粘弾性を測定した。100μLの50℃に加温したブタ皮膚由来ゼラチン(SG)、ブタ腱由来ゼラチン(TG)、ウレイドピリミジノン修飾ブタ腱ゼラチン(TGUPy-26、42、53(D.S.=26、42、53))の溶液(20wt%、PBS)をレオメーターのステージにのせ、直径10mmの治具で挟み込んだ。測定中、ステージの温度を10℃から50℃で変化させ、温度とせん断弾性率の関係を評価した。
いずれのサンプルにおいても、温度上昇に伴って、貯蔵弾性率(G’)が減少し、ブタ皮膚由来ゼラチン(SG)は33℃で損失弾性率(G")がG'を上回り、ゾル状態となった(図5)。一方、ブタ腱由来ゼラチン(TG)は38℃までゲル状態を保っており、TGUPyは39~41℃のゾルーゲル転移温度を示した。また、37℃におけるG'も、TGUPyが高い値を示した。これらの結果より、ブタ腱由来ゼラチン(TG)およびUPy修飾は、37℃におけるゲルの強度を高め、ゾルーゲル転移温度を上昇させるため、TGUPyは生理環境下である37℃においてもゲルを形成すると考えられる。
また、同様の手法によってせん断粘度を評価したところ、温度の上昇に伴ったせん断年度の低下が確認された(図6)。これらのサンプルは、50℃で液状になるため、シリンジで注入可能であると考えられる。一方、TGUPy-53は、50℃においても比較的高いせん断年度を示しているが、TGUPy-26およびTGUPy-42はせん断年度が低く、注入が容易であると考えられる。
さらに、TGUPyの濃度と粘弾特性の関係をレオメーターを用いて評価したところ、濃度依存的なG'の増加が確認された(図7)。この結果より、溶液濃度を変化させるだけで、ハイドロゲルの力学特性が制御できることが示された。
<SGUPyの物性評価>
SGUPyについて、粘弾特性評価を行った。ブタ皮膚由来ゼラチン(SG)に対して、UPyをそれぞれ30%、100%、200%仕込みで添加したところ、導入率(D.S.)は30%、84%、93%となった(SGUPy-30、SGUPy-84、SGUPy-93)。得られたSGUPyの温度変化に対するせん断弾性率を評価したところ、ブタ皮膚由来ゼラチン(SG)と比較して、UPy修飾によってせん断弾性率が増加し、ゾル-ゲル転移温度も増加した(図8)。一方で、37℃ではゾル状態であり、TGUPyと比較すると生理環境下で不安定な材料であることが示された(図8)。
<TGUPyのゲル化速度>
TGUPy-42をPBSに20wt%で溶解し、レオメーターを用いてゲル化速度を評価した。50℃で加温されたサンプルは、G’がG”より低くゾル化していたが、37℃に温度を切り替えた瞬間からG’が上昇し、5分後にはG”を上回り、ゲル化することが示された(図9)。
<引張試験による力学強度測定>
ブタ皮膚由来ゼラチン(SG)、ブタ腱由来ゼラチン(TG)、TGUPy-42をPBSに20wt%で溶解し、ISO 37-2のサイズのシリコンモールドに注ぎ、25℃で60分間ゲル化させた。テクスチャ―アナライザーを用いて作製したゲルの引張試験を行った(図10)。
その結果、25℃の測定条件において、TGUPy-42は、SGおよびTGと比較して、高い延び率を示した(SG: 121%、TG: 310%、TGUPy-42: 523%)。また、TGUPy-42は、高い破断強度を示しており(SG: 0.042MPa、TG: 0.135MPa、TGUPy-42: 0.402MPa)、UPy修飾によって、水素結合が分子間ではたらき、ゲルの力学強度が向上していることが明らかとなった。また、ブタ皮膚由来ゼラチン(SG)およびブタ腱由来ゼラチン(TG)は、成型後に37℃で1時間インキュベートすると、溶解することで元の形状が保てず引張試験を行うことが困難であった。一方、TGUPyは、37℃でインキュベート後も形状を保っていた。25℃比較すると、延び率が低下しており、やわらかくなっていることが示された。
<圧縮試験による力学強度測定>
ブタ皮膚由来ゼラチン(SG)、ブタ腱由来ゼラチン(TG)、TGUPy-42をPBSに20wt%で溶解し、シリコンモールド(直径8mm、高さ5mm)に注ぎ、25℃で60分間ゲル化させた。テクスチャ―アナライザーを用いて作製したゲルの圧縮試験を行ったところ、25℃の測定条件において、ブタ皮膚由来ゼラチン(SG)およびブタ腱由来ゼラチン(TG)は、圧縮後にゲルが崩壊したが、TGUPyは240kPaが負荷された圧縮試験後においても、ゲルの形状を保っていた(図11)。
これらの結果から、UPy修飾によって、水素結合が分子間ではたらき、ゲルの力学強度が向上していることが明らかとなった。また、ブタ皮膚由来ゼラチン(SG)およびブタ腱由来ゼラチン(TG)は、成型後に37℃で1時間インキュベートすると、溶解することで元の形状が保てず圧縮試験を行うことが困難であった。一方、TGUPyは、37℃でインキュベート後も形状を保っていた。25℃比較すると、弾性率が低下しており、やわらかくなっていることが示された。
<チキソトロピー特性>
TGUPyは、温度に対する応答性だけでなく、力学刺激に対しても応答することを下記の実験で評価した。チキソトロピー特性とは、応力印加時には材料の粘弾性が低下し、印加を停止すると徐々に粘弾性が回復する特性のことである。チキソトロピー特性が付与されていれば、シリンジを用いた注入が容易となるため、接着剤開発において重要な特性である。20重量%のTGUPy溶液(PBS)100μLを粘弾測定装置のステージにのせ、直径10mmの円盤状の治具で固定した。37℃の測定条件下で、せん断速度を変化させたところ、せん断粘度が低下し、せん断応力が増加したことから、本材料がチキソトロピー性を有していることが示された(図12)。
また、37℃で5分ごとにひずみを1%と300%へ変化させることでチキソトロピー性を評価した。300%ひずみによってゲルがいったんは破壊され弾性率が低下したが、1%のひずみに戻すと、再び弾性率が回復していた(図12)。TGUPyは、可逆的な物理的相互作用である水素結合を駆動力としてゲルを形成しているため、いったん切断された結合が再び再形成されることでG'が回復したと考えられる。
<水中安定性>
ブタ皮膚由来ゼラチン(SG)、ブタ腱由来ゼラチン(TG)、TGUPy-26、 TGUPy-42、 TGUPy-53をPBSに20wt%で、50℃で溶解し、100μLを2mLチューブに添加し、25℃で60分間ゲル化させた。1mLのPBSを添加し、37℃で所定時間インキュベートした。その後上清を除去し、残存したゲルを凍結乾燥し、その重量を測定した。
結果を図13に示す。ブタ皮膚由来ゼラチン(SG)はインキュベート直後から、PBS中に溶解したため重量が大きく減少した。ブタ腱由来ゼラチン(TG)は、ブタ皮膚由来ゼラチン(SG)と比較して重量減少の速度が遅かったが、24時間後にはほとんどが溶解しており、水中安定性が低かった。一方で、TGUPyは重量がほとんど変化しておらず、生理環境下において、高い水中安定性を示した。また、TGUPyに1mg/mLコラゲナーゼ溶液を1mL添加し同様の実験を行ったところ、徐々に重量が減少した。この結果から、TGUPyは酵素によって分解されることが示された。TGUPyは、生体内において、組織中の酵素によって分解される生分解性材料であると考えられる。
<透過性試験>
タンパク質透過性は、ハイドロゲルを癒着防止剤として利用する上で重要な性質である。癒着を防止するためには、ハイドロゲルが物理的なバリアとしてタンパク質の透過を抑制することが望まれる。ブタ皮膚由来ゼラチン(SG)、ブタ腱由来ゼラチン(TG)、TGUPy-26、 TGUPy-42、TGUPy-53をPBSに20wt%で、50℃で溶解し、100μLを24ウェルトランスウェルインサート(コーニング社)内に添加し、25℃で60分間ゲル化させた。その後、0.1mg/mLのFITC-アルブミン(Mw=66,000Da)を100μL添加(プレート側にはPBSを1mL)し、プレート側には1mLのPBSを添加した。所定時間ごとに50μLの溶液をインサート下側から取り出し、50μLのPBSを補充した。得られた溶液の蛍光強度を、マイクロプレートリーダーを用いて測定し、検量線から透過率を評価した。
その結果、ブタ皮膚由来ゼラチン(SG)は、24時間後には80%以上のアルブミンがゲルを透過していた(図14)。一方、ブタ腱由来ゼラチン(TG)およびTGUPy-26、TGUPy-42、TGUPy-53においては、アルブミンの透過率が低いことが確認された。TGUPyは水中安定性が高いため、安定なゲルを形成したため、分子の透過が抑制されたが、ブタ皮膚由来ゼラチン(SG)はゲル自体が溶解したために透過率が増加したと考えられる。
<ゲル形成の阻害実験>
粘弾性測定装置(Rheoplus、アントンパール社)を用いて、ハイドロゲルの粘弾性を測定した。pHの調整および尿素を添加することで水素結合を阻害することで、ゲル形成の駆動力としての水素結合の寄与を評価した。100μLの50℃に加温したTGUPy-42の溶液(20wt%、PBS、pH=5.6)またはTGUPy-42の溶液(20wt%、PBS+0.1M NaOH、pH=12)、TGUPy-42の溶液(20wt%、PBS+1M 尿素、pH=5.6)をレオメーターのステージにのせ、直径10mmの治具で挟み込んだ。測定中、ステージの温度を10度から50度へで変化させ、温度とせん断弾性率の関係を評価した。
その結果、高pHおよび尿素を添加したサンプルにおいて、G’の低下が観察された(図15)。これは、pH上昇に伴う脱プロトン化または尿素による水素結合形成の競合的な阻害が起きていることを示している。つまり、TGUPyは、水素結合を駆動力としてゲルを形成していることが確認された。
<接着試験>
ブタ大腸(芝浦臓器)を用いて接着試験を行った。試験方法は、米国試験材料協会の規格(ASTM F-2258-05)に従って行った。ブタ大腸を開き、生理食塩水で洗浄した。得られた組織を2.5cm四方の組織片へと裁断し、試験装置の上下の治具それぞれに瞬間接着剤を用いて固定した。この際、大腸組織の内膜側を治具に接着させ、もう一方の組織と外膜側で接触するように設置した。ホットプレートを用いることで測定中のブタ大腸組織の温度を37℃に保った。ブタ皮膚由来ゼラチン(SG)、ブタ腱由来ゼラチン(TG)、TGUPy-26、TGUPy-42、 TGUPy-53をPBSに20wt%で、50℃で溶解し、該組織上に300μLを添加した。直後に、上部の治具によって80kPaで圧着し、3分間そのまま圧着した後、上部へと引っ張り上げることで接着力を測定した。
結果を図16に示す。TGUPy-26およびTGUPy-42は、ブタ皮膚由来ゼラチン(SG)、ブタ腱由来ゼラチン(TG)と比較して高い接着強度を示した。一方、TGUPy-53は溶液の粘度が高く組織のすきまに接着剤が浸透しなかったため接着強度が低かった。これらの結果から、TGUPyは温度応答性組織接着剤として有用であると考えられる。
<スペーサーの効果>
UPy基をゼラチンに修飾する際のスペーサー構造の影響を評価した。上記で使用した、1,6―ジイソシアナートヘキサンのほかに、1,4-ジイソシアナートブタンおよび1、8-ジイソシアナートオクタンを出発物質として用い、スペーサーの炭素数が4、6、8のウレイドピリミジノン誘導体(C4、C6、C8)を合成した(図17a)。合成法は、C6の場合と同様である。また、C6と同様の合成法でウレイドピリミジノン修飾ゼラチンを合成した。ウレイドピリミジノン基の導入率は、TNBSを用いた手法によって定量した。ブタ腱由来ゼラチン(TG)に対して、UPyを45%仕込みで添加したところ、導入率(D.S)はC4で46mol%、C8で44mol%となった。スペーサーの炭素数が4、6、8のウレイドピリミジノン誘導体を導入したTGUPyをそれぞれ「TGUPy-C4-46」、「TGUPy-C6-42」、「TGUPy-C8-44」と記載する場合がある。
表2に、TGUPy-C4-46、TGUPy-C6-42およびTGUPy-C8-44の特徴を示す。
Figure 2023027762000005
粘弾性測定装置(Rheoplus、アントンパール社)を用いて、ハイドロゲルの粘弾性を測定した。100μLの50℃に加温したTG、C4、C6、C8の溶液(20wt%、PBS、pH=5.6)をレオメーターのステージにのせ、直径10mmの治具で挟み込んだ。測定中、ステージの温度を10度から50度の範囲で変化させ、温度とせん断弾性率の関係を評価した。
その結果、スペーサー長が長くなるにつれて弾性率の増加が見られた。(図17b)。これは、末端のUPy基の運動性が向上したためであると考えられる。
一方、接着強度については、C4が最も高い値を示した(図17c)。これは、C4は、加温時の溶液の粘度が低く、組織の凹凸に浸透したためであると考えられる。
<癒着防止能の評価>
ブタ大腸(芝浦臓器)を用いて接着試験を行った。試験方法は、米国試験材料協会の規格(ASTM F-2258-05)に従って行った。ブタ大腸を開き、生理食塩水で洗浄した。得られた組織を2.5cm四方の組織片へと裁断し、試験装置の上下の治具それぞれに瞬間接着剤を用いて固定した。この際、大腸組織の内膜側を治具に接着させ、もう一方の組織と外膜側で接触するように設置した。ホットプレートを用いることで測定中のブタ大腸組織の温度を37℃に保った。ブタ皮膚由来ゼラチン(SG)、ブタ腱由来ゼラチン(TG)、TGUPy-26、TGUPy-42、TGUPy-53をPBSに20wt%で、50℃で溶解し、該組織上に300μLを添加した。その後、37℃で10分間インキュベートすることでゲルの温度を37℃まで低下させた。そして、上部の治具によって80kPaで圧着し、3分間そのまま圧着した後、上部へと引っ張り上げることで接着力を測定した。
その結果、ブタ腱由来ゼラチン(TG)が比較的高い組織接着強度を示したのに対して、TGUPyは、いずれも2kPaと低い接着強度であった(図18)。これは、ゾル-ゲル転移温度が高いTGUPyにおいては、37℃で安定なゲル層を形成したためであると考えられる。これらの結果から、TGUPyは高温の状態では組織接着性を示し、いったん37℃でゲルを形成すると他組織へは接着しないことが明らかとなり、温度応答性組織接着剤として癒着の防止に使用できると考えられる。
<ハイドロゲルの細胞毒性試験>
ブタ皮膚由来ゼラチン(SG)、ブタ腱由来ゼラチン(TG)、TGUPy-26、TGUPy-42、TGUPy-53をPBSに20wt%で、50℃で溶解し、RPMI1640培地(10%ウシ胎児血清、1%ペニシリンストレプトマイシン)で希釈することで、0.3~20mg/mLの溶液を調製した。評価細胞として、マウス線維芽細胞(L929細胞)を用いて、毒性を評価した。L929細胞はRPMI1640培地(10%ウシ胎児血清、1%ペニシリンストレプトマイシン)を用いて37℃、5%CO2のインキュベーターで培養した。1×104個のL929細胞を96ウェルプレートに播種し、24時間予備培養した。調製した溶液を各ウェルに添加し、さらに24時間培養した。培養完了後、細胞数カウンティングキット(WST-8、DOJINDO)を用いて細胞数を定量した。
その結果、いずれのサンプルにおいても高い細胞生存率を示した(図19)。これらの結果より、TGUPyは高い細胞適合性を示すことが明らかとなった。
<細胞培養試験>
TGUPy-42をRPMI1640培地(10%ウシ胎児血清、1%ペニシリンストレプトマイシン)に20wt%で、50℃で溶解した。2×104個のマウス筋芽細胞(C2C12)をこの溶液で分散させ、96ウェルプレートに播種し、37℃、5%CO2のインキュベーターで培養した。24時間後に、位相差顕微鏡によって細胞形態を観察した。
その結果、C2C12細胞はゲル内で接着、伸展しており、TGUPyが細胞の足場材料として機能することが示された(図20)。したがって、TGUPyを細胞をデリバリーするためのゲルとして用いることで、再生医療用のデリバリー担体として応用できると考えられる。
<ハイドロゲルの生体適合性および生分解性>
開発したハイドロゲルをC57BL/6Jマウス(6~8週齢、メス)へ埋入することで、生体適合性と生分解性、組織再生能を評価した。ブタ皮膚由来ゼラチン(SG)、ブタ腱由来ゼラチン(TG)、TGUPy-26、TGUPy-42、TGUPy-53をPBSに20wt%で、50℃で溶解し、100μLを厚さ1mmのシリコンモールドに入れ、25℃で60分間ゲル化させた。得られたゲルはUV照射によって滅菌した。イソフルランの吸入麻酔下において、背部の毛を剃り、70%エタノールで消毒した後に、メスで皮膚を切開し、皮下に材料を埋植した。1、3、7日後にマウスを安楽死させ、材料と組織を摘出し、組織切片観察を行った。ヘマトキシリン・エオシン観察の結果、ブタ皮膚由来ゼラチン(SG)、ブタ腱由来ゼラチン(TG)は、1日後の時点でゲルの残存は確認されず、分解されていることが観察された(図21)。一方、UPyゼラチンは1日後においても、皮下に残存している様子が観察され、3日後には分解、吸収されていることが分かった。これらの結果より、UPy修飾によって、ゼラチンの生体環境下での安定性が向上していることが分かった。
<ラット腹膜癒着モデルを用いた癒着防止能の評価>
TGUPyの癒着防止能を検証するために、ラット腹膜癒着モデルを用いた。Sprague-Dawleyラット(SDラット)の腹部の毛を剃り、70%エタノールで消毒した後に、5 cm開腹した。盲腸を露出させ、ガーゼで擦過傷を作製し、元の位置に戻し、盲腸が接する腹壁の腹膜の表面組織(1cm x 2cm)をメスで剥離、切除した。45℃に加温した接着剤(TGUPy-42の20 wt%PBS溶液)を500μL腹膜組織及び盲腸表面に塗布した。5分ほど静置しゲル化を確認後、盲腸を元の腹腔に戻し、抗生物質(アミカマイシン、1 mg/kg)を添加した。筋層を縫合し、皮膚の創部をオートクリップで閉鎖し、消毒した。14日目に開腹し、目視によって癒着の有無を確認し、下記の基準に従ってスコア化を行った。
0:癒着なし
1:弱い癒着(組織間で1点で接着)
2:中程度の癒着(組織間で複数点で癒着)
3:広範囲で癒着(組織間で面と面で部分的に癒着)
4:深刻な癒着(組織同士が全面で癒着)
その結果、未処置のラットにおいては、腹膜と盲腸の間に強固な癒着が確認された。また、TGを塗布したラットにおいても一部で癒着が確認された。一方、TGUPyを塗布したラットにおいては癒着は確認されず、また損傷させた腹膜組織および盲腸組織表面は再生していた(図22)。これらの結果より、TGUPyは、癒着防止機能を有していることが示された。
<TGUPyを用いた血管塞栓剤の開発>
TGUPyは水素結合によって、水中で安定なハイドロゲルを形成するため、血管塞栓剤としての応用が可能である。
50℃に加温したTGUPy-42の20 wt%PBS溶液を37℃の生理食塩水中に射出すると、安定なハイドロゲルを形成するため、このTGUPy-42の20 wt%PBS溶液を血管塞栓剤として以下の検討を行った。
血管塞栓剤として使用する上で重要である溶液の粘度を測定した。粘弾性測定装置(Rheoplus、アントンパール社)を用いて、50℃に加温した血管塞栓剤(TGUPy-42の20 wt%PBS溶液)の粘度を測定したところ、TGUPy-42の粘度は1393 mPa・sであった(図23)。
また、血管塞栓剤として使用するためには造影剤を複合化することが望ましいため、種々の造影剤を混合した。
造影剤として、Isohexol(647 mg/mL)およびタンタル粉末(tantalum、100 mg/mL)をTGUPy-42に混合したところ、Iohexolでは粘度が増加したが、tantalumでは粘度が減少した。いずれの溶液もシリンジで注入可能な粘度であった。
血管塞栓剤は水中で硬化することで塞栓する材料であるため、水中で硬化後のTGUPyの貯蔵弾性率を測定した。粘弾性測定装置(Rheoplus、アントンパール社)を用いて、37℃の生理食塩水中での貯蔵弾性率を測定したところ、血管塞栓剤(TGUPy-42の20 wt%PBS溶液)の貯蔵弾性率は59 Paであり、水中でハイドロゲルの形態を保っていた(図23)。また、血管塞栓剤に、造影剤としてIsohexolとタンタル粉末を混合したところ、どちらの造影剤においても弾性率が減少した(図23)。
<高導入率TGUPyを用いた血管塞栓剤の開発>
TGUPyを血管塞栓剤として応用する場合、水に溶解したハイドロゲルとしての使用に加えて、有機溶媒であるジメチルスルホキシドに溶解させて使用することができる。水に対して難溶性の高導入率TGUPyをジメチルスルホキシドに溶解し、その溶解液を血管塞栓剤として使用することで、血液中で硬化してハイドロゲルを形成する、高い塞栓能を有する血管塞栓剤が作製できる。
具体的には、90mol%のUPyを導入したTGUPy-90を50mg/mLの濃度でジメチルスルホキシドに溶解した。この溶液を生理食塩水中に射出すると、溶媒置換によって、ジメチルスルホキシドが水中に放出され、TGUPy-90が部分的に不溶化したハイドロゲルが形成した。高導入率TGUPyは、難溶性のゼラチンからなる構造体であるため、生体環境で容易に溶解しない安定な構造体であり、血液中に射出し不溶化させることで、血液塞栓剤として使用できる。
ジメチルスルホキシドに溶解したTGUPy溶液の粘度を測定した。具体的には、90mol%のUPyを導入したTGUPy-90を50mg/mLの濃度でジメチルスルホキシドに溶解したものを血管塞栓剤とし、この血管塞栓剤について、粘弾性測定装置(Rheoplus、アントンパール社)を用いて、37℃における粘度を測定した。その結果、血管塞栓剤の粘度は345 mPa・sであった(図24)。
また、血管塞栓剤に、造影剤として、Isohexol(647 mg/mL)、タンタル粉末(100 mg/mL)、リピオドール(登録商標)(体積比で1:1)を混合したところ、Isohexolとlipiodol(登録商標)において粘度の減少が確認された(図24)。造影剤の混合によって粘度が減少することで、よりカテーテル等での送達が容易になると考えられる。
さらに、水中で硬化後の高導入率TGUPy(TGUPy-90)の貯蔵弾性率を測定した。粘弾性測定装置(Rheoplus、アントンパール社)を用いて、37℃の生理食塩水中での血管塞栓剤(TGUPy-90を50mg/mLの濃度でジメチルスルホキシドに溶解したもの)の貯蔵弾性率を測定した。その結果、この血管塞栓剤の貯蔵弾性率は323 Paであった(図24)。
また、血管塞栓剤に、造影剤として、Isohexol(647 mg/mL)、タンタル粉末(100 mg/mL)、lipiodol(登録商標)(体積比で1:1)を混合したところ、いずれの造影剤においても貯蔵弾性率が増加しており(図24)、これらは水中において安定なハイドロゲルを形成したことから、血管塞栓剤として有用であることが確認された。
<高導入率TGUPyを用いたフィルム形成>
79mol%のUPyを導入したTGUPy-79を10mg/mLの濃度で超純水に分散させ、オートクレーブによって、120℃で10分間加熱した。TGUPy-79は、UPy基の水素結合が強いため、水溶液を50℃に加熱しても溶解しないが、オートクレーブ後は水に溶解していた。その溶液をシリコン上で風乾させることで、水に不溶かつ透明なフィルムを作製することができた(図25)。
<高導入率TGUPyを用いた粒子形成>
88mol%のUPyを導入したTGUPy-88を10mg/mLの濃度で超純水に分散させ、オートクレーブによって、120℃で10分間加熱した。TGUPy-88は、UPy基の水素結合が強いため、水溶液を50℃に加熱しても溶解せず、オートクレーブをしても水に溶解はしないが、粒子が分散した白濁溶液が得られた。電子顕微鏡観察を行ったところ、サブマイクロメートルからマイクロメートルサイズの球形の粒子が観察された(図26)。
<高導入率TGUPyを用いた多孔体形成>
90mol%のUPyを導入したTGUPy-90を50mg/mLの濃度でジメチルスルホキシドに溶解した。この溶液をシリコンモールド(厚さ1mm)に入れ、-30℃で凍結した。その後、超純水中で洗浄することによって、ジメチルスルホキシドを除去した。この洗浄過程を3回繰り返し、得られた材料を凍結乾燥することで、TGUPyの凍結乾燥体を得た。SEM観察を行った結果、得られた凍結乾燥体は部分的に数μmのポアを有する多孔体であった(図27)。TGUPyは、不溶性のゼラチンからなる構造体であるため、生体環境で溶解しない安定な構造体である。
また、多孔性を向上させることを目的として、塩化ナトリウム結晶をポロジェンとして用いた。90mol%のUPyを導入したTGUPy-90を50mg/mLの濃度でジメチルスルホキシドに溶解した。この溶液に、塩化ナトリウム結晶(50~100μm)を固液比で2当量添加し、混和した(溶液1mLに対して、2gの塩化ナトリウム結晶を添加)。この溶液をシリコンモールド(厚さ1mm)に入れ、-30℃で凍結した。その後、超純水中で洗浄することによって、ジメチルスルホキシドを除去した。この洗浄過程を3回繰り返し、得られた材料を凍結乾燥することで、TGUPy多孔体を得た。
SEM観察を行った結果、得られた多孔体は約50μmのポアを有する多孔構造であった(図27)。塩化ナトリウム結晶を用いることで多孔性を向上できることが明らかとなった。
さらに、この多孔体は、様々な分子や構造体との複合化が可能である。TGUPy多孔体に対して、脱細胞化組織を複合した。まず、ブタ膀胱の上皮組織をメスによって切除し、生理食塩水で洗浄した。その後、処理溶液(0.1重量%過酢酸、4%エタノール)で2時間洗浄し、生理食塩水と超純水で洗浄した。その後、DNase溶液(0.2mg/mL)で24時間処理し、DNAを除去した。更に、生理食塩水と超純水で洗浄し、凍結乾燥によってブタ膀胱脱細胞化組織粉末を得た。なお、脱細胞化組織の調製に使用される生体由来の器官の種類は特に限定されないが、例えば、哺乳類の膀胱、心臓、肝臓、すい臓、及び、小腸等が挙げられる。90mol%のUPyを導入したTGUPy-90を50mg/mLの濃度でジメチルスルホキシドに溶解した。この溶液に、ブタ膀胱脱細胞化組織粉末を50mg/mLで添加し、混和した。この溶液をシリコンモールド(厚さ1mm)に入れ、-30℃で凍結した。その後、超純水中で洗浄することによって、ジメチルスルホキシドを除去した。この洗浄過程を3回繰り返し、得られた材料を凍結乾燥することで、TGUPy多孔体を得た。SEM観察を行った結果、得られた多孔体は約30~50μmのポアを有する多孔構造であった(図27)。
本発明の修飾ゼラチンは組織接着剤や、薬物送達担体、フィルムおよび多孔体などの生体材料や血管塞栓剤などの医療材料として有用である。特に、組織接着剤は、ハンドリング性、生体適合性および組織接着性に優れており、止血、創部の閉鎖、癒着防止、膵液漏予防、褥瘡治療、筋組織再生、消化管粘膜における創傷治癒、血管塞栓物質などへの応用が可能である。

Claims (17)

  1. 次式で表される化合物(1):
    Figure 2023027762000006
    (Rは、水素原子、炭素数1~10のアルキル基のうちのいずれかを示し、Xは、イソシアネート基、または、末端にイソシアネート基を有するスペーサーを示す)
    が、前記イソシアネート基を介して、ゼラチン中のアミノ基に導入されていることを特徴とする修飾ゼラチン。
  2. 前記ゼラチンが、ブタ腱由来またはブタ皮膚由来のゼラチンであることを特徴とする請求項1の修飾ゼラチン。
  3. 前記スペーサーは、炭素数1~20の炭化水素鎖であることを特徴とする請求項1の修飾ゼラチン。
  4. ゼラチン中のアミノ基に対し、前記化合物(1)が26~90mol%導入されていることを特徴とする請求項1の修飾ゼラチン。
  5. 温度応答性を有する組織接着剤であって、
    請求項1から4のいずれかの修飾ゼラチンを含有することを特徴とする組織接着剤。
  6. 請求項1から4のいずれかの修飾ゼラチンを含有することを特徴とするハイドロゲル。
  7. 請求項6のハイドロゲルと、薬物とを含むことを特徴とする薬物送達担体。
  8. 請求項1から4のいずれかの修飾ゼラチンを含有し、
    前記修飾ゼラチンは、ゼラチン中のアミノ基に対し、前記化合物(1)が79~90mol%導入されていることを特徴とするフィルム。
  9. 請求項1から4のいずれかの修飾ゼラチンを含有し、
    前記修飾ゼラチンは、ゼラチン中のアミノ基に対し、前記化合物(1)が79~90mol%導入されていることを特徴とする多孔体。
  10. 塩化ナトリウム結晶を含むことを特徴とする請求項9の多孔体。
  11. 多孔体の製造方法であって、
    請求項1から4のいずれかの修飾ゼラチンを有機溶媒に溶解させて溶解液を得ること、
    前記溶解液を凍結後、水で洗浄することで前記有機溶媒を除去すること、
    を含み、
    前記修飾ゼラチンは、ゼラチン中のアミノ基に対し、前記化合物(1)が79~90mol%導入されていることを特徴とする多孔体の製造方法。
  12. 前記溶解液に塩化ナトリウム結晶を添加することを含むことを特徴とする請求項11の多孔体の製造方法。
  13. 請求項1から4のいずれかの修飾ゼラチンと、溶媒とを含有することを特徴とする血管塞栓剤。
  14. さらに、造影剤を含有することを特徴とする請求項13の血管塞栓剤。
  15. 前記溶媒が、水であることを特徴とする請求項13の血管塞栓剤。
  16. 請求項1から3のいずれかの修飾ゼラチンと、有機溶媒とを含有し、
    前記修飾ゼラチンは、ゼラチン中のアミノ基に対し、前記化合物(1)が70~100mol%導入されていることを特徴とする血管塞栓剤。
  17. 前記有機溶媒が、ジメチルスルホキシドであることを特徴とする請求項16の血管塞栓剤。
JP2022125361A 2021-08-17 2022-08-05 修飾ゼラチン、これを含む、組織接着剤、ハイドロゲル、薬物送達担体、フィルム、多孔体および血管塞栓剤、多孔体の製造方法 Pending JP2023027762A (ja)

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