JP2023151051A - 骨格筋TypeI細胞への分化誘導剤 - Google Patents

骨格筋TypeI細胞への分化誘導剤 Download PDF

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Abstract

【課題】これまでTypeI線維への分化促進効果が知られていなかった成分を用いる、骨格筋TypeI細胞への新規分化誘導剤を提供すること【解決手段】R-spondin 3を含む、骨格筋TypeI細胞への分化誘導剤。【選択図】なし

Description

本発明は、骨格筋TypeI細胞への分化誘導剤、β-カテニン経路の活性化剤、被験細胞が骨格筋TypeI細胞か否かの判定方法、骨格筋TypeI細胞の萎縮に起因する疾患を治療するための医薬組成物等に関する。
骨格筋は主にTypeI線維及びTypeII線維という2種類の異なるタイプの筋線維から構成される。TypeI線維とTypeII線維との主な特徴の違いは以下の通りである。
Figure 2023151051000001
TypeI線維及びTypeII線維それぞれの特徴は上記のように明らかになってきているが、筋芽細胞からTypeI線維及びTypeII線維への分化にどのような因子が関与しているかについては、検討されているものの、その多くはまだ明らかになっていない。
特開2006-328031
本発明は、これまでTypeI線維への分化促進効果が知られていなかった成分を用いる、骨格筋TypeI細胞への新規分化誘導剤を提供することを課題とする。
かかる状況の下、本発明者らは、TypeI線維及びTypeII 線維で発現する遺伝子を探索し、これらの遺伝子の機能を調べた結果、特にTypeI 線維で高発現する遺伝子についてR-spondin 3が骨格筋TypeI細胞への分化誘導作用を有することを見出した。本発明者らはかかる新規の知見に基づき、R-spondin 3が骨格筋TypeI細胞に関与する機構等を研究し、多くの試行錯誤を繰り返した結果、本発明を完成した。従って、本発明は、以下の項を提供する:
項1.R-spondin 3を含む、骨格筋TypeI細胞への分化誘導剤。
項2.生体外で細胞に添加することにより用いられる分化誘導剤又は生体に投与するための注射剤もしくはカプセル剤である、項1記載の分化誘導剤。
項3.R-spondin 3を含む、β-カテニン経路の活性化剤。
項4.生体外で細胞に添加することにより用いられる活性化剤又は生体に投与するための注射剤もしくはカプセル剤である、項3記載の活性化剤。
項5.被験細胞が骨格筋TypeI細胞か否かの判定においてR-spondin 3を指標とする方法。
項6.R-spondin 3を含む、骨格筋TypeI細胞の分化誘導により処置し得る状態を処置するための医薬。
本発明によれば、これまでTypeI線維への分化促進効果が知られていなかった成分を用いる、骨格筋TypeI細胞への新規分化誘導剤を提供することができる。
実施例1における筋線維の分類及びRNA抽出法の概略を図1に示す。 実施例1における筋線維からのRNA抽出結果を示す。 実施例2における試験の概要ならびに細胞上清及び細胞内におけるRspo3発現のウエスタンブロットの結果を示す(図3上)。また、当該試験に使用したpCAGGSにクローニングしたRspo3配列の情報を図3下に示す。各配列の説明:EcoR I制限酵素サイト;GAATTC(四角で囲んだ箇所)遊びの配列;GT(網掛け部分)コザック配列:CACCATG・・・TAG(下線部分)図3に示す塩基配列の13位のAから846位のGまで:Mouse Rspo3の配列(開始コドンはコザック配列の一部と重複) 実施例2における細胞上清及び細胞内におけるRspo3発現のウエスタンブロットの結果を示す 実施例3の試験結果を示す(図5上)。実施例3に使用した組み換えマウスRspo3のアミノ酸配列を図5下に示す。 実施例3の試験結果を示す。 実施例3の試験結果を示す。 実施例3の試験結果を示す。 実施例3の試験結果を示す。 実施例3の試験結果を示す。 実施例4の試験結果を示す。
分化誘導剤
本発明は、R-spondin 3を含む、骨格筋TypeI細胞への分化誘導剤を提供する。
本発明の有効成分であるR-spondin 3は、Rspoファミリーに属するタンパク質である。R-spondin 3としては、例えば、ヒト、マウス、サル、ラット、ブタ、チンパンジー、ウシ、トリ、ゼブラフィッシュ、アフリカツメガエル等に由来するもの等が挙げられる。また、R-spondin 3としては、NCBIアクセッションNo.NM_028351.3(Mouse RNA)、No.NP_082627.3(Mouse Protein);No.NM_032784.5(Human RNA)、No.NP_116173.2(Human Protein)で示される塩基配列又はアミノ酸配列を有するもの等が挙げられる。また、好ましい実施形態にいて、本発明において、R-spondin 3としては、例えば、上記のマウスのアミノ酸配列又は上記のマウスのアミノ酸配列に対する相同性が80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上のアミノ酸配列を有するもの等が挙げられる。本発明において、R-spondin 3をRspo3と示すこともある。
一実施形態において、本発明においては、本発明の分化誘導剤は、対象に投与することにより、対象の体内において筋芽細胞から骨格筋TypeI細胞への分化を誘導する。本発明においては、R-spondin 3そのものを分化誘導剤として用いてもよいし、薬学的に許容される各種担体(例えば、例えば等張化剤、安定化剤、pH調節剤、抗酸化剤、溶解補助剤、粘稠化剤、防腐剤等)と組み合わせた組成物として用いてもよい。
等張化剤としては、例えば、グルコース、トレハロース、ラクトース、フルクトース、マンニトール、キシリトール、ソルビトール等の糖類、グリセリン、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール等の多価アルコール類、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム等の無機塩類等が挙げられる。
キレート剤としては、例えば、エデト酸二ナトリウム、エデト酸カルシウム二ナトリウム、エデト酸三ナトリウム、エデト酸四ナトリウム、エデト酸カルシウム等のエデト酸塩類、エチレンジアミン四酢酸塩、ニトリロ三酢酸又はその塩、ヘキサメタリン酸ソーダ、クエン酸等が挙げられる。
安定化剤としては、例えば、亜硫酸水素ナトリウム等が挙げられる。
pH調節剤としては、例えば、塩酸、炭酸、酢酸、クエン酸等の酸が挙げられ、さらに水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、炭酸ナトリウム等のアルカリ金属炭酸塩又は炭酸水素塩、酢酸ナトリウム等のアルカリ金属酢酸塩、クエン酸ナトリウム等のアルカリ金属クエン酸塩、トロメタモール等の塩基等が挙げられる。
防腐剤としては、例えば、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチル等のパラオキシ安息香酸エステル、グルコン酸クロルヘキシジン、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化セチルピリジニウム等の第4級アンモニウム塩、アルキルポリアミノエチルグリシン、クロロブタノール、ポリクォード、ポリヘキサメチレンビグアニド、クロルヘキシジン等が挙げられる。
抗酸化剤としては、例えば、亜硫酸水素ナトリウム、乾燥亜硫酸ナトリウム、ピロ亜硫酸ナトリウム、濃縮混合トコフェロール等が挙げられる。
溶解補助剤としては、例えば、安息香酸ナトリウム、グリセリン、D-ソルビトール、ブドウ糖、プロピレングリコール、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、マクロゴール、D-マンニトール等が挙げられ、
粘稠化剤としては、例えば、ポリエチレングリコール、メチルセルロース、エチルセルロース、カルメロースナトリウム、キサンタンガム、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール等が挙げられる。
組成物の実施形態において、組成物中のR-spondin 3の含有量は特に限定されず、例えば、90質量%以上、70質量%以上、50質量%以上、30質量%以上、10質量%以上、5質量%以上、1質量%以上等の条件から適宜設定できる。
製剤形態は、特に限定されず、例えばカプセル剤、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、シロップ剤等の経口投与剤;注射剤(筋肉注射、静脈注射、局所注射等)、含嗽剤、点滴剤、外用剤(軟膏、クリーム、貼付薬、吸入薬)、座剤、皮下埋め込み型のカプセル等の非経口投与剤等の各種製剤形態を挙げることができる。上記製剤形態のうち、好ましいものとしては、例えば、注射剤(筋肉注射等)、皮下埋め込み型のカプセル剤等が挙げられる。
また、本発明の分化誘導剤は、R-spondin 3タンパク質を含んでいてもよいし、R-spondin 3タンパク質を発現する核酸分子を含んでいてもよい。従って、そうでないことが明示されていない限り、本発明において分化誘導剤が「R-spondin 3を含む」とは、分化誘導剤がR-spondin 3をタンパク質として含むこと、及びR-spondin 3タンパク質を発現する核酸分子を含むこと、の両方を意味する。
R-spondin 3タンパク質を発現する核酸分子としては、本発明のペプチドをコードする核酸(DNA、RNA等)等が挙げられる。これらのタンパク質又は核酸分子は、適当なビヒクルに組み込まれていてもよい。例えば、本発明の分化誘導剤は、R-spondin 3タンパク質をリポソーム等のベクターに包まれた状態で含んでいてもよい。また、本発明の分化誘導剤は、R-spondin 3タンパク質を発現する核酸分子を、プラスミドベクター、ウイルスベクター等のベクターに含まれた状態で含んでいてもよい。これらの実施形態において、リポソーム、プラスミドベクター、ウイルスベクター等は、医薬分野において用いられているものを広く使用することができる。
かかる実施形態において本発明の分化誘導剤は、哺乳動物等の対象に投与される。哺乳動物としては、ヒト、サル、マウス、ラット、ウサギ、ネコ、イヌ、ブタ、ウシ、ウマ、ヒツジ等が挙げられる。
分化誘導剤組成物の実施形態において、組成物中のR-spondin 3タンパク質の含有量は、投与経路、患者の年齢、体重、症状等によって異なり一概に規定できないが、ペプチド又は核酸の成人(体重50kg)1日あたりの投与量が通常0.1~5000mg程度、より好ましくは1~1000mg程度になる量とすればよい。1日1回投与する場合は、1製剤中にこの量が含まれていればよく、1日3回投与する場合は、1製剤中にこの3分の1量が含まれていればよい。
また、別の実施形態において、本発明の分化誘導剤は、生体外で、幹細胞、筋芽細胞、筋管細胞等の細胞に添加することによって、骨格筋TypeI細胞への分化誘導をすることもできる。従って、本発明は、生体外で、幹細胞、筋芽細胞、筋管細胞、株化培養細胞(C2C12細胞、L6細胞、Hu5/KD3細胞など、株化された骨格筋細胞)等の細胞に、R-spondin 3を作用させる工程を含む、骨格筋TypeI細胞への分化誘導方法も提供する。
幹細胞としては、間葉系幹細胞、サテライト細胞(骨格筋の幹細胞)、iPS細胞、ES細胞等が挙げられる。筋芽細胞、筋管細胞としては、サテライト細胞から分化誘導したもの等が挙げられる。これらの細胞としては、公知のものもしくは公知の方法に準じて作製したもの等が挙げられる。これらの細胞としては市販されているもの等を用いてもよい。
また、これらの細胞としては、単離した細胞であっても、細胞塊、組織片等の形態であってもよい。また、これらの細胞としては、ヒト、マウス、ラット、モルモット、ブタ、サル、イヌ、ネコ、アフリカツメガエル等に由来するものが挙げられる。R-spondin 3を作用させる工程は、例えば、これらの細胞にR-spondin 3のタンパク質又はこれをコードする核酸分子を添加することにより行うことができる。R-spondin 3の添加量としては、特に限定されないが、例えば、溶媒1mLに対し2-400ng、好ましくは100-400ngの範囲に設定できる。また、例えば、反応系に添加した際の終濃度として0.0645-12.9nM、好ましくは3.23-12.9nMとなるようR-spondin 3を添加してもよい。
本発明の方法においては、上記細胞は、液体培地等の溶液中に配置した状態で用いてもよい。培地としては、動物細胞の培養に通常用いられる培地を適宜使用することができる。かかる培地としては、例えば、DMEM(Dulbecco’s Modified Eagle Medium)培地、RPMI(Roswell Park Memorial Institute) 1640培地、MEM(Minimum Essential Medium)培地、DMEM/F12(Dulbecco’s Modified Eagle Medium:Nutrient Mixture F-12)培地、SkBM-2基礎培地等が挙げられる。また、培地には、血清、緩衝剤、抗生物質、アミノ酸、ピルビン酸ナトリウム、無機塩、アミノ酸、インスリンやFGFなどの増殖、分化を誘導するタンパク質、ビタミン類等を適宜添加してもよい。
さらに、本工程においては、上記細胞を、R-spondin 3の存在下で保持してもよい。かかる実施形態において、保持の間、静置しても、振盪を行ってもよい。保持時間は特に限定されないが、例えば、1-120時間、好ましくは48-72時間の間で設定できる。本工程の温度も限定されないが、例えば、30-37.5℃、好ましくは37.0-37.2℃の間で設定できる。当該工程により、上記細胞から骨格筋TypeI細胞が分化し、増殖する。本発明の方法は、上記工程により分化し、増殖した骨格筋TypeI細胞を回収する工程を含んでいてもよい。回収工程は、本発明の属する細胞培養の分野において用いられる方法を広く使用することができる。回収工程に用いる方法としては、遠心分離、ろ過、洗浄、トリプシン処理、遠心分離等が挙げられる。
医薬
上記のように本発明においてR-spondin 3は、骨格筋TypeI細胞の分化誘導作用を示す。そのため、本発明の骨格筋TypeI細胞への分化誘導剤は、骨格筋TypeI細胞への分化誘導により処置し得る状態の処置に有用である。従って、好ましい実施形態においては、本発明は、R-spondin 3を含む、骨格筋TypeI細胞の分化誘導により処置し得る状態を処置するための医薬を提供する。骨格筋TypeI細胞の分化誘導により処置し得る状態としては、例えば、廃用性萎縮、糖尿病、TypeI細胞を支配する運動神経の障害等の骨格筋TypeI細胞の萎縮を伴う疾患が挙げられる。加えて、癌や慢性腎不全に伴う筋量減少(カヘキシア)は、筋細胞のTypeをとわず両者が減少するが、少なくともTypeI細胞の萎縮を防ぐことができる。また、骨格筋TypeI細胞の分化誘導により処置し得る状態には、疾患と診断されるものだけでなく、長期のベッドレストなどによる不活動、ギプス固定による不動化、無重力状態に長期間滞在することによる筋肉萎縮等の状態等も挙げられる。また、骨格筋TypeI細胞への分化誘導により処置し得る状態の処置には、マラソン、遠泳等の筋持久力を必要とするスポーツにおけるパフォーマンスを高めること等も挙げられる。従って、本発明の医薬において、骨格筋TypeI細胞の分化誘導により処置し得る状態の「処置」には、上記疾患の予防又は治療、上記状態の改善等が包含される。
医薬の実施形態における、有効成分R-spondin 3、その使用方法、投与量、投与対象、担体等は前述した分化誘導剤と同様である。また、本発明の医薬及び分化誘導剤は、上記疾患、状態の処置に有用であることが知られている成分をさらに含んでもよい。上記疾患、状態の処置に有用であることが知られている成分としては、例えば、マイオスタチン阻害分子であるフォリスタチンやその模倣体、マイオスタチン抗体やアクチビン受容体IIの阻害薬等の萎縮治療薬、ビグアナイド薬、DPP-4阻害薬、チアゾリジン系薬剤等の糖尿病治療薬病治療薬等が挙げられる。かかる実施形態において、本発明の医薬には、R-spondin 3と上記疾患、状態の処置に有用であることが知られている成分とが一つの製剤中に含まれるものだけでなく、R-spondin 3と上記疾患、状態の処置に有用であることが知られている成分とが一つの製剤中に含まれる組み合わせ製剤であってもよい。
β-カテニン経路の活性化剤
後述するように本発明者らは、R-spondin 3がβ-カテニン経路の活性化を介して骨格筋TypeI細胞への分化を誘導することを見出した。従って、本発明は、R-spondin 3 を含む、β-カテニン経路の活性化剤を提供する。β-カテニン経路の活性化剤の実施形態における、有効成分R-spondin 3、その使用方法、投与量、投与対象、担体等は前述した分化誘導剤と同様である。β-カテニン経路の活性化剤も、前記分化誘導剤と同様に、生体外で対象となる細胞等のβ-カテニン経路を活性化するために用いることができる。
骨格筋TypeI細胞か否かの判定方法
本発明者らは、R-spondin 3はTypeI特異的なタンパク質であり、従って、被験細胞がTypeI細胞か否かの判定にR-spondin 3を指標し得ることを見出した。従って、本発明は、被験細胞が骨格筋TypeI細胞か否かの判定においてR-spondin 3を指標とする方法を提供する。被験細胞は、骨格筋細胞、筋管細胞のいずれであってもよい。本発明の方法は、例えば、被験細胞におけるR-spondin 3の遺伝子発現量を測定することにより行うことができる。かかる実施形態において、例えば、TypeI細胞であることが分かっている陽性コントロール細胞及び/又はTypeII細胞であることが分かっている陰性コントロール細胞におけるR-spondin 3の遺伝子発現量を測定もさらに測定し、被験細胞におけるR-spondin 3遺伝子発現量と対比することにより被験細胞がTypeI細胞か否かの判定することができる。具体的には、例えば、被験細胞におけるR-spondin 3遺伝子発現量がTypeII細胞であることが分かっている陰性コントロール細胞におけるR-spondin 3の遺伝子発現量より有意に大きい場合(例えば、統計的に有意差がある場合、あらかじめ設定した閾値より大きい場合等)に被験細胞がTypeI細胞であると判定することができる。例えば、被験細胞におけるR-spondin 3遺伝子発現量がTypeI細胞であることが分かっている陽性コントロール細胞におけるR-spondin 3の遺伝子発現量と同等またはそれ以上の場合(例えば、統計的に有意差がある場合、あらかじめ設定した閾値より大きい場合等)に被験細胞がTypeI細胞であると判定することができる。
以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
実施例1
筋線維の分類
本実施例における筋線維の分類及びRNA抽出法の概略を図1に示す。具体的には以下の操作を行った。
1.8-12週齢のMyh7-CFP mouse (ジャクソンStock no. 016922)よりヒラメ筋を摘出し、37度で温めておいた4%Collagenase(Type I ,Worthington, Lakewood, NJ, U.S.A, CollagenaseはDMEM(Dulbecco's Modified Eagle Medium :high glucose GlutaMAX ,Thermo Fisher Scientific、1%anti-bioticを含む溶液に溶解) にいれ、37℃で1時間、振盪しながらインキュベーションした。
2.5% BSAでコーティングしたパスツールピペットを用いて、インキュベーション後の筋組織をDMEM+GlutaMAX+1%AB入りのシャーレに移し、単一筋線維にほぐした。
3.蛍光顕微鏡(Leica M165 FC)で、CFPの蛍光(青色)をType I 線維(CFP+)とし、それ以外をType II 線維(CFP-)として分類した。
4.それぞれの筋線維を回収した後、PBSで2回洗浄し、液体窒素により凍結した。
RNAの抽出
1.500uLのTrizol(ThermoScientific)を添加し、QIAshredder(Quiagen)を用いて筋線維をホモジナイズ(13000×g、2 min遠心、室温)した。通過画分(懸濁液)は回収し、再度、500uLのTrizolをQIAshredderに添加し、同様の操作を行った(2回目)。
2.2回分の懸濁液を回収し、5分間静置後、200μL のクロロホルムを添加し、15秒間激しく振盪、室温で3 分間静置した。引き続き、4℃,12,000 x g,15分間、遠心分離し、上層の水層を1.5mL tubeに移した。
3.500 μL のイソプロパノールを添加、ボルテックス、室温で10分静置後、4℃,12,000 x g,10分間、遠心分離した(RNAが沈殿)。
4.1 mL の70%エタノールで洗浄後、4℃,7500 x g,5分間、遠心分離し、沈殿したRNAをRnase free waterで溶解してRNA回収した。
マイクロアレイ(図2)
Total RNA をそれぞれの筋線維から抽出した(RNAの抽出参照)。RNAの濃度はNanodrop(ThermoScientific)にて解析し、RNAの純度はAgilent 2100 Bioanalyzerにて測定した(基準値:吸光度(260 / 280)が1.5以上、吸光度(260/230)が1.0以上、RNA Integrity Number (RIN)が7.0以上)。各線維から抽出したRNAは1色法にてラベリングを行い、DNAマイクロアレイ解析(DNAチップ研究所に委託)を実施した(使用チップ:the Mouse Gene Arrays (Agilent) 、解析ソフト:Feature Extraction 11.5.1.1 (Agilent))。 それぞれのサンプルにおける遺伝子発現量を正規化するため log2の値に変換し、TypeII線維にくらべてTypeI線維で発現量の高い順にランキング形式にまとめた。その中でType II線維に比べ、Type I線維でもっとも発現比の高い値を示す分泌タンパク質を検索した。結果を図2左のグラフに示す。図2のグラフに示すように、Rspo3遺伝子の発現比(Type I/Type II)はType I線維の遺伝子の中でも非常に高かった。
定量PCR
定量PCRはDyNAmo ColorFlash SYBR Green qPCR Kit (Thermo Fisher Scientific, MA, USA) を用いて、添付のプロトコルに従い96-well PikoReal Real-Time PCR System で測定した。結果は、ハウスキーピング遺伝子TATA binding protein (Tbp)で補正した。定量PCRのために用いたプライマーを以下に示した。
Figure 2023151051000002
結果を図2、右のグラフに示す。
実施例2
Rspo3が筋細胞で分泌されるかどうかの検証(図3、4)
1.ICRマウスのヒラメ筋を0.8%Collagenase入りのDMEMにいれ、37度で2時間インキュベーション後、筋組織から単一筋線維を回収した。筋線維はAccutase (Innovative Cell Technologies, SAN, USA) で10 分間処理後、シャーレに蒔いて7日間、増殖培地 (No glucose DMEM :30%(v/v) FBS, 1%(v/v) GlutaMAX, 1%(v/v) chicken embryo extract, 10 ng/ml bFGF , 1%(v/v) penicillin-streptomycin含有) で37°C 、5% CO2で培養した。増殖したサテライト細胞由来の筋芽細胞は、再度マトリゲル(BD Biosciences, Franklin Lakes, NJ, USA)をコートした12 wellプレートに1.2×105cells/wellの細胞数で播種した。
2.翌日、Lipofectamine3000(Thermoscientific)を使用して、pCAGGS-Rspo3発現ベクター(pCAGGS-Rspo3ベクターは本発明者らによりクローニングしたもの)、またはコントロール群としてpCAGGSを細胞にトランスフェクションした。
※pCAGGSにクローニングしたRspo3配列の情報は図3に示す通り。
3.増殖後、分化培地(DMEM GlutaMAX, 5% horse serum と1% penicillin-streptomycin含有)に変え、分化3日目で細胞を細胞回収溶液(50 mM Tris-HCl pH 7.5, 5 mM sodium pyrophosphate tetrabasic, 1 mM ethylenediaminetetraacetic acid pH 8.0, 1 mM sodium orthovanadate, 1% Nonidet P-40, 10 mM sodium fluoride, 150 mM sodium chloride, 10 mg/L leupeptin, 1 mM phenylmethylsulfonyl fluoride, 5 mg/mL aprotinin, 3 mM benzamidine, and 10 mM beta glycerophosphate)で回収し、ソニケーション後、遠心分離し、上清を細胞懸濁液としてウエスタンブロットにて発現量を解析した。
※培地の分析は、分化2日目に無血清培地DMEMにかえて、24時間培養に使用したものを回収し、遠心濃縮した。
遠心濃縮は以下のプロトコルで行った。回収したMediumを1,000Xg, 4℃で15分遠心後、上清をさらに12,000Xg, 4℃)35分遠心し、上清を0.22 μmフィルター(Millipore)に通した。通過した溶液の1,600 μLを分子量3kDaカットのAmicon遠心濃縮チューブ(Millipore)で遠心濃縮した(2,900Xg, 180-min, 4℃)。遠心後のフィルターを抜けていない側の溶液を回収し、ウエスタンブロットに用いた。
結果を図3、4に示す。図3に示すように、pCAGGS-Rspo3発現ベクターをトランスフェクとしたRspo3過剰発現細胞サンプルについて、細胞内だけでなく培養上清でもRspo3が検出された。従って、筋芽細胞はRspo3を細胞外に分泌することが分かる。また、図4に示すように、Rspo3過剰発現細胞では、TypeI線維マーカーであるMyHCIタンパク質をRspo3過剰発現していない細胞に比べ、有意に高く発現した。従って、Rspo3過剰発現細胞はTypeI線維に分化誘導されたことが分かる。
実施例3 Rspo3添加実験(図5~10)
1.Myh7-CFP mouse (ジャクソンStock no. 016922)よりヒラメ筋を摘出し、0.8%Collagenaseで処理後、筋組織を単一筋線維にし、CFPの蛍光の有無により筋線維を単離(方法は実施例2と同様)後、増殖培地で6-7日間培養した。
2.細胞を1.2×105 cells/well (培地量2 mL)でマトリゲルコートした12wellプレートに播種した翌日に、分化培地にrecombinant mouse Rspo3 protein (R&D Systems, MN, USA; 4120-RS-025、配列情報は図5下に記載)を終濃度200 ng/mL (6.45 nM、200 ng/mL BSAで溶解)で添加し、分化誘導した。コントロール群は200 ng/mLのBSAを添加した。
※阻害剤を加える条件では、XAV-939(Chem Scene LLC, NJ, USA; 284028-89-3) 1.56 μg/mL (5 μM)をRspo3と同時、あるいは阻害剤単独で加えた。培地は毎日交換した。
3.分化3日目で細胞を回収し、ウエスタンブロットにて発現量を解析した。
※核と細胞質で分画する際には、NE-PER Nuclear and Cytoplasmic Extraction Reagents Kit (Thermo Fisher Scientific)を使用し、付属のプロトコルに従って、核画分と細胞質画分に分けたのち、ウエスタンブロットにて解析した。ウェスタンブロッティングで用いた抗体は以下の通り。
Figure 2023151051000003
・上記以外にコスモバイオ株式会社に作製を委託したRspo3のポリクローナル抗体を使用した。
※抗体を作製した際のペプチド配列を以下に示す。
mouse Rspo3のC末アミノ酸配列の一部(CRARDKQQKSVSVSTVH)を認識部位に使用した。
結果を図5~10に示す。図5に示すようにRspo3リコンビナントタンパク質の存在下で分化させた筋管細胞ではTypeI線維マーカーであるMyHCIタンパク質発現が有意に増加した。図6に示すように、Myh7-CFP マウスの骨格筋をTypeI線維とTypeII線維にわけて単離し、それぞれのサテライト細胞を筋芽細胞に増殖させ、Rspo3リコンビナントタンパク質の存在下で分化させた筋管細胞でMyHCIタンパク質の発現量を検証したところ、どちらの筋線維タイプ由来であっても、Rspo3の存在下によりMyHCIタンパク質発現が有意に増加した。
Rspo3が骨格筋に作用し、MyHCIを誘導する細胞内の作用する機序を明らかにするため、Rspo3のシグナル伝達経路の1つとして知られているWnt/β-catenin経路の活性化を検証した。シグナル経路の活性化は細胞質のβ-catenin量、および細胞核に移行したβ-catenin量を定量することで検証した。図7に示すように、線維タイプにかかわらず、Rspo3添加により細胞質に蓄積したβ-catenin量と細胞核におけるβ-cateninの発現量は有意に増加し、Rspo3がWnt/β-catenin経路を活性化することが明らかとなった。
Rspo3がβ-catenin経路以外のWnt経路(Wnt/ PCP経路、Wnt/calcium経路)を介して共同制御する可能性を検証した。Wnt/ PCP経路の活性化はJNKのリン酸化、Wnt/calcium経路の活性化はNFATc1の発現量で検証した。図8に示すようにRspo3の添加によるJNKのリン酸化増加は認められず、Wnt/ PCP経路は関係しないことが示された。図9に示すようにRspo3添加によるNFATc1発現量の変化は認められず、Wnt/calcium経路は関係しないことが明らかになった。
Wnt/β-catenin経路の阻害剤(XAV939)を用い、Wnt/β-catenin経路の阻害によって、Type I線維への誘導が抑制されるかを検証した。図10に示すように、由来する筋線維タイプにかかわらず、Wnt/β-catenin経路の阻害によりMHC Iの発現が抑制され、Rspo3がWnt/β-catenin経路を介してType I線維へ誘導することが明らかとなった。
実施例4マウス生体を用いた検証
1.麻酔下のICRマウスに50μL の10μM Cardiotoxin (CTX、筋損傷薬剤) を前脛骨筋へ注射し、筋損傷を誘導した。
2.CTX投与3日後に、0.6 U/μL のヒアルロニターゼを25μL注入し、続いて2μg/μLのDNA(pCAGGS-Rspo3または空ベクター)を25μL注入(50ugDNAが投与されたことになる)した。
3.エレクトロポレーション用の電極針を前脛骨筋の長軸と直行するように突き刺し、200 V/cm、1Hzで8回電流を流した。
4.筋損傷開始から14日後に筋組織を回収し、ウエスタンブロットで発現量の解析を実施した。
生体内でRspo3がTypeI線維を誘導するかを検証するため、マウスの骨格筋に筋損傷薬剤を注入し、筋組織内で筋芽細胞が増殖している状態にした後に、Rspo3を過剰発現させることで、再生筋でType I 線維が誘導されるかの検証を行った。
図11上に示すように、マウスの前脛骨筋を筋損傷薬剤により損傷させ、損傷3日目にRspo3発現ベクターをElectroporation法により筋で過剰発現させた。再生の進んだ14日目に筋を回収し、MyHC Iの発現量を定量した。図11下図に示すように、損傷後Rspo3を過剰発現させた筋組織において、MyHC I発現は有意に上昇し、生体内においてもRspo3がTypeIを誘導することが示された。
尚、上記実施例はマウスR-spondin 3を用いたが、R-spondin 3は種間でアミノ酸配列保存性が高いため(例えば、マウスとヒトの相同性:94%一致)、マウス以外のR-spondin 3でも同様の効果が期待できる。

Claims (6)

  1. R-spondin 3を含む、骨格筋TypeI細胞への分化誘導剤。
  2. 生体外で細胞に添加することにより用いられる分化誘導剤又は生体に投与するための注射剤もしくはカプセル剤である、請求項1記載の分化誘導剤。
  3. R-spondin 3を含む、β-カテニン経路の活性化剤。
  4. 生体外で細胞に添加することにより用いられる活性化剤又は生体に投与するための注射剤もしくはカプセル剤である、請求項3記載の活性化剤。
  5. 被験細胞が骨格筋TypeI細胞か否かの判定においてR-spondin 3を指標とする方法。
  6. R-spondin 3を含む、骨格筋TypeI細胞の分化誘導により処置し得る状態を処置するための医薬。
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