JP2023144441A - 疲労損傷度特定装置及び疲労損傷度の特定方法 - Google Patents

疲労損傷度特定装置及び疲労損傷度の特定方法 Download PDF

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Abstract

【課題】測定対象物の疲労損傷度を高精度に測定することが可能な疲労損傷度特定装置及び疲労損傷度の特定方法を提供すること。【解決手段】測定対象物に繰返し荷重を所定の周波数で付与するための荷重付与手段と;前記測定対象物の温度変化を測定するための温度測定手段と;前記測定対象物の温度変化のデータから、前記測定対象物の熱弾性温度振幅と前記測定対象物の平均温度とを算出する第一の算出手段と;前記熱弾性温度振幅を前記平均温度で無次元化して、前記測定対象物の無次元化熱弾性温度振幅を算出する第二の算出手段と;前記測定対象物の無次元化熱弾性温度振幅を、疲労初期の無次元化熱弾性温度振幅で正規化して、前記測定対象物の正規化熱弾性温度振幅を算出する第三の算出手段と;前記測定対象物と同じ材料の試料を用いて事前に求めた正規化熱弾性温度振幅と疲労損傷度との関係から、測定対象物の疲労損傷度を特定する疲労損傷度特定手段と;を備えることを特徴とする疲労損傷度特定装置。【選択図】なし

Description

本発明は、疲労損傷度特定装置並びに疲労損傷度の特定方法に関する。
従来から、材料の余寿命等を特定するために、様々な装置や方法が研究されている。例えば、特開2006-250683号公報(特許文献1)には、被試験体に繰返し荷重を載荷することによって該被試験体に生じ得る疲労破壊の開始点と疲労破壊の進展の可否を特定するシステムであって、前記疲労破壊特定システムは、赤外線カメラと、該赤外線カメラで撮影された温度変化量から逸散エネルギー画像を作成する画像装置と、ひずみゲージと、から少なくとも構成されており、繰返し荷重に伴って生じる疲労破壊の開始点の特定を被試験体に貼着されたひずみゲージによって特定しながら、逸散エネルギー画像によって疲労破壊が進展するか否かを特定する疲労破壊特定システムが開示されている。
また、特開2010-223957号公報(特許文献2)には、測定対象物に対して応力振幅を繰り返し加える加振機と、前記測定対象物の微小な温度変化を測定し、前記測定対象物の温度画像を得る赤外線サーモグラフィ装置と、前記赤外線サーモグラフィ装置から得た前記測定対象物の温度画像を処理する高速フーリエ変換手段を有する情報処理装置とを備え、前記測定対象物の応力集中係数を評価する工程と、散逸エネルギーを測定する工程と、前記応力集中係数を評価する工程で得られた応力集中係数の値と前記散逸エネルギーを測定する工程から得られた測定結果から疲労限度を特定する工程とを有する、疲労限度特定システムが開示されている。
また、特開2016-024056号公報(特許文献3)には、測定対象物に作用させる荷重を段階的に増加させ、前記荷重毎に発生する前記測定対象物の温度振幅を測定するシステムであって、測定対象物に対して荷重を繰り返し加える加振機と、前記測定対象物の温度画像を得る赤外線カメラと、前記赤外線カメラから得た前記測定対象物の温度画像を処理するフーリエ変換手段を有する情報処理装置とを備え、前記情報処理装置は、散逸エネルギーを測定する散逸エネルギー測定工程と、前記散逸エネルギー測定工程から得られた測定結果から疲労限度応力を特定する疲労限度応力特定工程を有し、前記散逸エネルギー測定工程は、前記赤外線カメラが撮影した温度画像より、加振の基本周波数の成分および第2高調波成分の温度振幅画像を取得し、前記第2高調波の成分の温度振幅画像の最大を示す領域内において、前記基本周波数の成分の温度振幅画像に対する荷重特性の傾きが最大であるピクセル領域の散逸エネルギーを抽出する疲労限度応力特定システムが開示されている。
さらに、特開2018-105709号公報(特許文献4)には、荷重を段階的に増加させながら測定対象物を加振したときに発生する測定対象物の温度変動に基づいて前記測定対象物の疲労限度応力を測定する疲労限度応力特定システムであって、測定対象物に対して各荷重を所定の周波数で繰り返して加える加振機と、荷重が加えられている測定対象物の温度変動を示す温度画像を撮像する赤外線カメラと、前記赤外線カメラから得た前記温度画像に基づき前記測定対象物の疲労限度応力を求める情報処理装置と、を備え、前記情報処理装置は、前記赤外線カメラから得た温度画像から、前記測定対象物に関する、加振の基本周波数の成分の温度振幅に対する第二高調波成分の温度振幅の関係を求め、前記関係を、二次曲線である第一の近似線と二次曲線である第二の近似線によりフィッティングし、前記第一の近似線と前記第二の近似線の交点に基づき前記測定対象物の疲労限度応力を求める疲労限度応力特定システムが開示されている。
また、特開2019-060901号公報(特許文献5)試験片が破断するまで該試験片に荷重を繰り返し加えながら、前記試験片の温度を測定し、前記試験片の温度の上昇率の変化点を決定し、前記荷重を前記試験片に加え始めたときから前記変化点が現れるまでの時間と、前記荷重を前記試験片に加え始めたときから前記試験片が破断するまでの時間との比の値を算出し、前記試験片と同じ材料から構成された構造体の温度を測定し、前記構造体の温度の上昇率の変化点を検出し、前記検出された変化点から前記構造体の余寿命を推定する方法が開示されている。
しかしながら、特許文献1~4に記載されているような従来の装置や方法は、疲労破壊箇所や疲労限度応力を特定するものであり、材料の疲労損傷度を特定できるものではなかった。また、特許文献5に記載されている構造体の余寿命を推定する方法は、作業効率や測定精度の点で必ずしも十分なものではなかった。
特開2006-250683号公報 特開2010-223957号公報 特開2016-024056号公報 特開2018-105709号公報 特開2019-060901号公報
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、測定対象物の疲労損傷度を高精度に測定することが可能な疲労損傷度特定装置及び疲労損傷度の特定方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記目的を達成すべく、先ず、上記特許文献5に記載のような構造体の余寿命を推定する方法について検討したところ、その測定方法においては温度変化の情報として、温度の生データを利用することに起因して、結果的に、測定精度が十分なものとはならない場合があることを見出した(これは、温度の生データは熱伝導や周囲環境の影響と言った各種外乱の影響を受け易いため、測定精度に影響を及ぼすためである)。そこで、本発明者らが、上記目的を達成すべく更に鋭意研究を重ねた結果、測定対象物に繰返し荷重を所定の周波数で付与し;前記測定対象物の温度変化を測定し;前記測定対象物の温度変化のデータから、前記測定対象物の熱弾性温度振幅と、前記測定対象物の平均温度とを算出し;前記熱弾性温度振幅を前記平均温度で無次元化して、前記測定対象物の無次元化熱弾性温度振幅を算出し;前記測定対象物の無次元化熱弾性温度振幅を、疲労初期の無次元化熱弾性温度振幅で正規化して、前記測定対象物の正規化熱弾性温度振幅を算出し;前記測定対象と同じ材料の試料に対して事前に求めた正規化熱弾性温度振幅と疲労損傷度との関係から疲労損傷度を特定することにより、熱伝導や周囲環境の影響を受け難い測定対象物の熱弾性温度振幅(所定の繰り返し回数分の前記測定対象物の温度変化のデータに対して周波数解析して求められる、繰返し荷重を付与する際の周波数と同じ周波数における測定対象物の温度振幅)を計測し、その値を利用して疲労損傷度を特定することが可能となるため、測定対象物の疲労損傷度を高精度に測定することが可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の疲労損傷度特定装置は、
測定対象物に繰返し荷重を所定の周波数で付与するための荷重付与手段と、
前記測定対象物の温度変化を測定するための温度測定手段と、
前記測定対象物の温度変化のデータから、前記測定対象物の熱弾性温度振幅と、前記測定対象物の平均温度とを算出する第一の算出手段と、
前記熱弾性温度振幅を前記平均温度で無次元化して、前記測定対象物の無次元化熱弾性温度振幅を算出する第二の算出手段と、
前記測定対象物の無次元化熱弾性温度振幅を、疲労初期の無次元化熱弾性温度振幅で正規化して、前記測定対象物の正規化熱弾性温度振幅を算出する第三の算出手段と、
前記測定対象物と同じ材料の試料を用いて事前に求めた正規化熱弾性温度振幅と疲労損傷度との関係から、測定対象物の疲労損傷度を特定する疲労損傷度特定手段と、
を備えることを特徴とするものである。
本発明の疲労損傷度の特定方法は、
測定対象物に繰返し荷重を所定の周波数で付与する工程と、
前記測定対象物の温度変化を測定する工程と、
前記測定対象物の温度変化のデータから、前記測定対象物の熱弾性温度振幅と、前記測定対象物の平均温度とを算出する工程と、
前記熱弾性温度振幅を前記平均温度で無次元化して、前記測定対象物の無次元化熱弾性温度振幅を算出する工程と、
前記測定対象物の無次元化熱弾性温度振幅を、疲労初期の無次元化熱弾性温度振幅で正規化して、前記測定対象物の正規化熱弾性温度振幅を算出する工程と、
前記測定対象と同じ材料の試料に対して事前に求めた正規化熱弾性温度振幅と疲労損傷度との関係から疲労損傷度を特定する工程と、
を含むことを特徴とする方法である。
また、前記本発明の疲労損傷度特定装置および前記本発明の疲労損傷度の特定方法においては、前記測定対象物が繊維強化プラスチック(例えば炭素繊維強化プラスチック等)からなるものであることが好ましい。
本発明によれば、測定対象物の疲労損傷度を高精度に測定することが可能な疲労損傷度特定装置及び疲労損傷度の特定方法を提供することが可能となる。なお、本発明によれば、その疲労損傷度特定装置及び疲労損傷度の特定方法により特定した疲労損傷度に基づいて、その測定対象物の疲労余寿命を推定(特定)することも可能である。
本発明の疲労損傷度特定装置に利用することが可能な計測部の構成の好適な一例(一実施形態)を模式的に示す概略図である。 測定対処物の温度と、負荷の繰り返し数との関係を模式的に示すグラフである。 時系列の温度変動データ(図2に示すようなデータ)を周波数解析することで求められる、周波数と温度振幅との関係を模式的に示すグラフである。 測定対象物に繰り返し荷重の負荷を行う場合に関して、初期の状態の測定対象物と、繰り返し荷重の負荷により疲労が進行した状態の測定対象物の状態を模式的に示す模式図である。 繊維と荷重方向のなす角θと、「αsinθcosθ」の値の変化の関係を模式的に示すグラフである。 正規化熱弾性温度振幅と疲労損傷度との関係を事前に求める際に好適に採用することが可能な手順の一例を示すフローチャートである。 測定回数と、負荷繰り返し数の規定回数との関係の好適な一例を示す表である。 2つの事前測定用サンプルに対して、各サンプルごとに異なる応力振幅を採用して測定を行った場合に得られる、各測定回の負荷繰り返し数(規定回数:X~X)と、各測定回の無次元化熱弾性温度振幅の関係のグラフの一例である。 事前測定用サンプルの正規化熱弾性温度振幅と寿命比との関係を示すグラフの一例である。 2つの事前測定用サンプルの正規化熱弾性温度振幅と寿命比との関係を示すグラフの一例である。 疲労損傷度の特定を行う場合に好適に採用することが可能な手順の一例を示すフローチャートである。 試験例1で用いた測定対象物(CFRP)の試験片の表面を模式的に示す概略図である。 試験例1で採用した、測定回数と、各測定回における規定の負荷繰り返し数(規定回数:X~X25)との関係を示す表である。 試験例1で利用した試験片A及びBについての無次元化熱弾性温度振幅と、負荷繰り返し数との関係を示すグラフである。 試験片A及びBについての正規化熱弾性温度振幅と、寿命比との関係を示すグラフである。 試験片Cの無次元化熱弾性温度振幅と負荷繰り返し数との関係を示すグラフである。 試験片Cの実際の寿命比Dactと、寿命比の推定値Destとの関係を示すグラフである。
以下、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明及び図面中、同一又は相当する要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
<疲労損傷度特定装置及び疲労損傷度の特定方法の好適な一実施形態について>
以下、図1を参照しながら本発明の疲労損傷度特定装置の好適な一実施形態について説明するが、本発明の疲労損傷度特定装置は、以下に示す実施形態に限定されるものではない。また、本発明の疲労損傷度特定装置は、本発明の疲労損傷度の特定方法を実施する際に好適に利用可能なものであるため、そのような装置の用いて疲労損傷度の特定を行う場合に好適に採用することが可能な方法を説明することにより、本発明の疲労損傷度の特定方法の好適な一実施形態を併せて説明する。
図1は、前記本発明の疲労損傷度特定装置に利用することが可能な計測部の構成の好適な一例(一実施形態)を模式的に示す概略図である。図1に示す計測部1は、測定対象物の試験片10と、測定対象物の試験片10に繰返し荷重を所定の周波数で付与するための荷重付与手段11と、測定対象物の試験片10の温度変化を測定するための温度測定手段12とを備えるものである。なお、図1において、上下の双方向を示す矢印は、荷重付与手段11により付与される繰り返し荷重Fを概念的に描いたものである。
また、図1に示す計測部1においては、温度測定手段12が図示を省略した外部のコンピュータ(所望の演算を可能とするために必要な、CPU、ROM、RAM等の公知の周辺装置を適宜組み合わせたもの)に接続されている。そして、そのような接続先の外部のコンピュータは、温度測定手段12により測定された温度変化の情報(温度情報に関する情報(データ))を入力された場合に、その温度変化のデータから、前記測定対象物の熱弾性温度振幅と、前記測定対象物の平均温度とを算出(演算)することが可能となるように構成された第一の算出手段(コンピュータ内の演算部)と;第一の算出手段により算出された前記熱弾性温度振幅及び前記平均温度に基づいて、前記熱弾性温度振幅を前記平均温度で無次元化した前記測定対象物の無次元化熱弾性温度振幅を算出(演算)する第二の算出手段(コンピュータ内の演算部)と;第二の算出手段により算出された前記測定対象物の無次元化熱弾性温度振幅を利用して、前記測定対象物の無次元化熱弾性温度振幅を、疲労初期の無次元化熱弾性温度振幅で正規化して、前記測定対象物の正規化熱弾性温度振幅を算出する第三の算出手段(コンピュータ内の演算部)と;第三の算出手段により算出された測定対象物の正規化熱弾性温度振幅を利用して、前記測定対象物と同じ材料の試料を用いて事前に求めた正規化熱弾性温度振幅と疲労損傷度との関係から、測定対象物の疲労損傷度を特定(演算)する疲労損傷度特定手段(コンピュータ内の演算部)を備える。
なお、このような各種の演算に利用するコンピュータは、所望の演算を実行することを可能とするために、必要なCPU、ROM、RAM、各種演算に必要なプログラム(このようなプログラムは、例えば、前記ROMに記録させて利用してもよく、あるいは、別の記録媒体に記録させて利用してもよい)等の公知の周辺装置を適宜組み合わせた構成のものとすればよく、その具体的な構成は特に制限されない。例えば、上述のような演算を実行するためのCPU及びメモリ等からなるハードと、必要な演算を実行させるためにインストールされたコンピュータプログラム(ソフト)とを備えるものを利用してもよい。なお、このようなCPUとしては、例えば、中央処理装置、処理装置、演算装置、プロセッサ、マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータ、DSP(Digital Signal Processor)等が挙げられる。
測定対象物は特に制限されないが、図1に示す実施形態においては、測定対象物を繊維強化プラスチックからなるものとしている。このような繊維強化プラスチックとしては、炭素繊維強化プラスチック、ガラス繊維強化プラスチック、天然繊維強化プラスチック、リサイクル繊維強化プラスチック等を挙げることができる。このような繊維強化プラスチックを測定対象物とした場合には、測定対象物の疲労損傷度を更に高い精度で測定することが可能である。この点に関して、本発明者らは、以下のように推察する。すなわち、先ず、前記繊維強化プラスチックは、繊維直交方向に比べて繊維方向の強度が高いため、例えば、図1に示すように荷重Fを負荷した場合、疲労の進行とともに、荷重方向(上下方向)と平行に近い繊維が主に荷重を受け持つことになる。一方、炭素繊維強化プラスチックは、繊維方向と繊維直交方向とで線膨張係数が異なるものとなる。そのため、炭素繊維強化プラスチックに対して荷重Fを負荷した場合、その材料(繊維強化プラスチック)中の繊維の状態(疲労度)の変化が、特に、無次元化熱弾性温度振幅の変化として顕著に現れる。ここで、無次元化熱弾性温度振幅は、熱弾性温度振幅を平均温度で無次元化したものである。そのため、このような繊維強化プラスチックからなる測定対象物に対して測定(特定)を行った場合には、無次元化熱弾性温度振幅を利用して、更に精度の高い測定を行うことが可能となるものと本発明者らは推察する。
なお、測定対象物の試験片10の形状等は特に制限されるものではなく、荷重付与手段11の種類等に応じて適宜設計できる。また、測定対象物の試験片10は、例えば、温度測定手段12として放射温度計を利用して繰り返し荷重の付与中の温度変化を測定する場合に、その測定対象物の試験片10が既知の放射率となるように、温度を測定する領域を含む表面上の領域に黒体塗料を塗布して利用してもよい。このように、測定対象物の試験片(例えば、前記繊維強化プラスチック)の表面に黒体塗料を塗布することで、より効率よく温度測定を行うことが可能となる。
また、荷重付与手段11は、測定対象物の試験片10に繰返し荷重を所定の周波数で付与することが可能なものであれば、特に制限されず、公知の動的疲労試験機(例えば、油圧シリンダーを上下させて繰返し荷重を負荷する油圧サーボ型疲労試験機等)を適宜利用できる。
また、温度測定手段12は特に制限されず、前記測定対象物の温度変化を測定可能なものであればよく、前記測定対象物の温度変化(繰返し荷重を所定の周波数で付与されている間の温度変化)を求めるために利用することが可能な公知の温度測定用の機器を適宜利用できる。このような温度測定手段12としては、非接触で温度を測定することが可能な装置(例えば、赤外線カメラ(赤外線サーモグラフィカメラ)、放射温度計等の非接触式温度センサ)を好適に利用でき、図1の実施形態では赤外線カメラが利用されている。なお、温度測定手段12として赤外線カメラを用いる場合、被写体の温度に応じて被写体から放出される赤外線量を検知して、単位面積毎(例えば、画素毎:ピクセル毎)に温度を計測することが可能となり、測定対象物の試験片10の表面上の任意の測定領域(測定領域は試験片のサイズ、荷重付与手段11の種類、カメラの特性等に応じて適宜設定すればよい)の各ピクセルごとの温度変化を測定することが可能である。また、図1に示す実施形態のように、温度測定手段12として測定対象物の試験片10の温度を赤外線を利用して測定する機器(赤外線サーモグラフィカメラ)を採用する場合等には、赤外線の計測がより精度の高いものとなるように、計測部1を暗室内に配置して利用してもよい。
また、図1に示す形態の計測部1は前述のように外部のコンピュータに接続されており、その外部のコンピュータを用いて、温度測定手段12で測定された測定対象物の試験片10の温度変化のデータを入力することで、そのコンピュータにより各種演算を行って正規化熱弾性温度振幅を求め、その正規化熱弾性温度振幅を利用して疲労損傷度を特定することを可能とする。ここで、第一~第三の算出手段及び疲労損傷度特定手段を説明するのに先立って、正規化熱弾性温度振幅を利用して疲労損傷度を特定することが可能となる理由(原理)について説明する。
固体に負荷を付与すると気体と同様に温度が変化する(このような温度変化が生じる現象は熱弾性効果として知られている)。そのため、材料に繰返し負荷を付与すると、繰返し負荷と同じ周波数で、熱弾性効果に起因する温度変動が生じることが分かる。以下、測定対象物の試験片10が炭素繊維強化プラスチック(CFRP)であり、かつ、温度測定手段12が赤外線カメラである場合を例に挙げて説明する。ここで、先ず、炭素繊維強化プラスチックの熱弾性効果に起因する温度変動の振幅ΔTは、下記式(1):
(式(1)中、ΔTは熱弾性効果に起因する温度変動の振幅(絶対値)を示し、ρは密度を示し、Cは測定対象物(CFRP)の比熱を示し、Tambは雰囲気温度を示し、Δσは繊維方向に作用する応力振幅を示し、Δσは繊維直交方向に作用する応力振幅を示し、αは繊維方向の線膨張係数を示し、αは繊維直交方向の線膨張係数を示す。)
で表されることが知られている(例えば、野谷敏之ら著、"熱弾性解析の高解像化による炭素繊維複合材料の内部損傷評価",材料(J.Soc.Mat.Sci.,Japan),Vol.49,No.8,pp.941-947(以下、かかる文献を単に「参考文献1」と称する))。なお、本発明においては、温度変動の振幅(熱弾性温度振幅ΔT等)は絶対値として求めたものを利用する。
また、繰返し荷重の付与を所定の周波数で連続して行っている場合において、繰返し荷重の負荷条件下での材料の温度変動を、特定の繰り返し数の期間(所定の繰り返し回数分の期間)に亘って測定して温度変動データを取得した場合を考えると、前述のように、熱弾性効果に起因する温度変動は、繰返し荷重の周波数と同じ周波数を持つ。この点について、より詳細に説明すべく、図2を参照しながら説明する。図2は、測定対処物の温度と、負荷の繰り返し数との関係を模式的に示すグラフの一例である。このようなグラフは、例えば、繰り返し荷重の負荷の周波数を所定の周波数(例えな10Hz)に設定し、温度測定手段12としての赤外線カメラのフレームレートを所定値(例えば211HZ)に設定し、測定期間を所定のフレーム数(例えば4009フレーム)の測定が行われる期間に設定して、測定対象物の試験片10の温度変化を測定することで求めることができる(なお、赤外線カメラによる測定においては、測定対処物10の表面に特定の測定領域を設定して、各フレームの画像ごとに、画像内の特定の測定領域の画素毎の温度から、フレーム間の温度変化を時系列に求めてもよい)。このような測定に際しては、フレーム数をフレームレートで割った値が測定時間となる(例えば、フレームレート:211HZ、フレーム数:4009フレームとすると、4009/211=19秒間が測定時間となる)。また、かかる測定時間に繰り返し荷重の周波数を乗じて求められる数が負荷の繰り返し数となる(例えば、19秒間の測定を行う場合であって、繰り返し荷重の負荷の周波数が10Hzの場合、1秒間に10回の繰り返し荷重が負荷されることから、19×10=190回(cycle)が負荷繰り返し数となる)。ここにおいて、測定期間の全フレームのデータを、負荷の繰り返し数と対応させて時系列に並べることで、図2に示すような測定対処物の温度と、負荷の繰り返し数との関係のグラフを求めることができる。なお、各フレームの温度の画像ごとに、特定の測定領域内の各ピクセルの温度を全て求めた後、全てのピクセルの温度の平均値を求めて、その平均値をそのフレームの測定時刻における測定対象物の温度として採用することが望ましい。そして、そのようなグラフにより、熱弾性効果に起因する温度変動が繰返し荷重の周波数と同じ周波数を持つことが確認できる。
このように、熱弾性効果に起因する温度変動が繰返し荷重の周波数と同じ周波数を持つことから、時系列の温度変動データ(図2に示すようなデータ)を周波数解析(例えばフーリエ変換)することで、周波数と温度振幅との関係を求めることができる。このような関係の一例を図3に示す。熱弾性効果に起因する温度変動は、基本的に繰返し負荷と同じ周波数をもつため、その温度変動のデータ(時系列のデータ)を周波数解析して得られる図3に示すようなデータ(グラフ)から、繰返し荷重の周波数と同じ周波数における温度振幅を求めることができ、その温度振幅を、測定対象物の熱弾性温度振幅ΔT(絶対値:以下、場合により「絶対値」の表記は省略する)として求めることができる。また、時系列温度変動データから、各フレームの画像ごとに求められる測定対象物の温度(時系列の各画像ごとに求められる測定対象物の温度)の総和をフレーム数で割ることで、測定対象物の平均温度を求めることができる。このような平均温度を求めるための計算式は、下記式(2):
(式(2)中、Tは測定対象物の平均温度を示し、Nは温度変動を測定したフレーム数(全フレーム数)を示し、Tiは特定のフレームi(ここで、iは自然数であって、フレームの番号(数)を示し、1~Nの数値となる。)での温度(言い換えれば、iフレーム目の温度)を示す。)
で表される。
ここで、図4に、測定対象物に繰り返し荷重の負荷を行う場合に関して、初期の状態の測定対象物と、繰り返し荷重の負荷により疲労が進行した状態の測定対象物の状態を模式的に示す。なお、図4中のCFは、測定対象物(繊維強化プラスチック:本例ではCFRP)中の炭素繊維を模式的に描いたものである。繊維強化プラスチックは、繊維直交方向に比べて繊維方向の強度が高いため、その試験片10(測定対象物)に図4に示すような繰り返し荷重Fを負荷した場合、疲労の進行とともに、荷重方向(上下方向:Fの方向)と平行に近い繊維が主に荷重を受け持つことになる。一方、炭素繊維強化プラスチックは、繊維方向と繊維直交方向とで線膨張係数が異なるものとなる。そして、前述の温度変動データの測定(時系列の温度のデータ)に基づいて求められた、前記熱弾性温度振幅ΔT(絶対値)と、前記測定対象物の平均温度Tとを用いて、前記熱弾性温度振幅ΔTを式(1)中のΔTとして導入し、かつ、前記測定対象物の平均温度Tを式(1)中の雰囲気温度Tambとして導入し、荷重方向の応力振幅をΔσ(図4参照)とし、繊維と荷重方向のなす角をθ(図4参照)として、上記式(1)を変形すると、下記式(3):
(式(3)中のρ、C、α、αは式(1)中のそれらと同義であり、ΔTは測定対象物の熱弾性温度振幅(絶対値)を示し、Tは測定対象物の平均温度を示し、Δσは荷重方向の応力振幅を示し、θは繊維と荷重方向のなす角を示す。)
を求めることができる。
一方、前記参考文献1に記載されているCFRPの線膨張係数のデータ(α=-0.4×10-6(1/K),α=30×10-6(1/K))を利用して、繊維と荷重方向のなす角θと、「αsinθcosθ」の値の変化の関係を求めると、図5に示すようなグラフを求めることができる。このような図5に示すグラフからは、疲労の進行により繊維CFと荷重方向とのなす角度θが小さくなるに従って「αsinθcosθ」の値が小さくなることが分かる。そのため、荷重の振幅が一定の繰返し荷重の負荷条件下において、ρとCが共に定数であり、かつ、き裂の発生による応力変化が無視できる(Δσは一定)と仮定すると、式(3)から、疲労の進行とともに「ΔT/T」の値は次第に減少することが分かる。このような検討から、式(3)で求められる「ΔT/T」の値は、測定対象物(本実施形態ではCFRP)の疲労損傷と関連のある物理量であることが分かる。そして、本発明においては、「ΔT/T」と疲労損傷と関連を考慮して、前記熱弾性温度振幅を前記平均温度で無次元化して前記測定対象物の無次元化熱弾性温度振幅(ΔT/T)を算出した後、その無次元化熱弾性温度振幅を正規化した値を求めて利用することで、疲労損傷度を特定する。なお、このような疲労損傷度の特定に際しては、例えば、測定対象物と同じ材料からなる試料(事前測定用サンプル)を利用して、その試料(事前測定用サンプル)の疲労の進行の程度と、無次元化熱弾性温度振幅(ΔT/T)を正規化した値の変化に関するデータを予め取得しておき、そのデータとの対比を行って、疲労損傷度を測定することが挙げられる。このように、本発明においては、材料の無次元化熱弾性温度振幅(ΔT/T)に関する値(正規化した値)と、疲労損傷度との相関関係に基づいて、疲労損傷度を特定する。
以上、正規化した無次元化熱弾性温度振幅に関する値を利用して疲労損傷度を特定することが可能となる理由(原理)についての説明を行ったが(なお、正規化した無次元化熱弾性温度振幅を利用する理由については後述する)、そのような疲労損傷度の特定に利用する無次元化熱弾性温度振幅(ΔT/T)を求めるための演算は、測定部1に接続された外部のコンピュータ中の第一の算出手段及び第二の算出手段により行う。
このような外部のコンピュータ内の第一の算出手段及び第二の算出手段としては、測定部1で得られた温度変化に関するデータに基づいて、目的とする演算を行うことが可能となるように、例えば、第一の算出手段を、温度測定手段12で求められた、繰り返し荷重の付与開始から所定回数分の温度変化のデータ(所定のフレーム数の全フレームの温度データ:時系列の温度変動データ:ただし、温度変動のデータを測定する期間は、「正規化熱弾性温度振幅と疲労損傷度との関係」を求める際に、後述の前測定用サンプルに対して各測定回の温度変動のデータの測定を行う際に設定した期間(繰り返し数やフレーム数)と同じ期間とする必要がある)が入力された場合に、その温度変化のデータを周波数解析して測定対象物の熱弾性温度振幅ΔT(絶対値)を算出(演算)するとともに、前記温度変化データに基づいて前記式(2)を利用して前記測定対象物の平均温度Tを算出(演算)するように構成された演算部とし、かつ、第二の算出手段を、第一の演算部により算出された熱弾性温度振幅ΔTと平均温度Tとが入力された場合に、熱弾性温度振幅ΔTを平均温度Tで無次元化して前記測定対象物の無次元化熱弾性温度振幅(ΔT/T)を算出(演算)するように構成された演算部とすることを、それらの好適な実施形態として挙げることができる。このように構成された第一の算出手段及び第二の算出手段を利用した場合には、無次元化熱弾性温度振幅(ΔT/T)を効率よく算出することが可能である。なお、時系列の温度のデータ(温度変動のデータ)の周波数解析の方法は特に制限されるものではないが、例えば、フーリエ変換をその好適な方法として挙げることができる。
また、本発明においては、第一の算出手段及び第二の算出手段により求められた無次元化熱弾性温度振幅(ΔT/T)を利用して、第三の算出手段(前述のコンピュータ内の演算部)により正規化熱弾性温度振幅(無次元化熱弾性温度振幅を正規化した値)を求めて、かかる正規化熱弾性温度振幅の値を利用して、疲労損傷度特定手段(前述のコンピュータ内の演算部)により、測定対象物と同じ材料の試料を用いて事前に求めた「正規化熱弾性温度振幅と疲労損傷度との関係」に基いて、測定対象物の疲労損傷度を特定(演算)する。
ここで、第三の算出手段及び疲労損傷度特定手段について説明する前に、図6に示すフローチャートを参照しながら、「正規化熱弾性温度振幅と疲労損傷度との関係」を事前に求めるための方法として好適に採用可能な方法、および、正規化した熱弾性温度振幅を疲労損傷度の特定(判定)に利用する理由について説明する。なお、本明細書において、「正規化熱弾性温度振幅と疲労損傷度との関係」を事前に求めるために利用する測定対象物と同じ材料の試料からなる試料(試験片)を、測定対象物の試験片と分けて考慮するために、便宜上、場合により、単に「事前測定用サンプル」と称する。また、図6を参照しながら説明する方法(手順)は、図1に示す測定部(測定部1中の温度測定手段12が赤外線カメラである場合)と、その測定部に接続された必要な演算を可能とする外部のコンピュータとを用いた場合の一例である。
正規化熱弾性温度振幅と疲労損傷度との関係を求める方法においては、先ず、その事前準備として、図1に示す測定部1の測定対象物の試験片10が描かれている位置に測定対象物の試験片10の代わりに事前測定用サンプル(試験片)をセットする。そして、最初のステップS101において、事前測定用サンプルに対して、所定の周波数(例えば10Hz)で繰返し荷重の付与を開始する。
次いで、ステップS102に進み、ステップS102において、負荷繰り返し数が規定回数(X~Xのうちのいずれか(図7参照))に達する毎に、その規定回数の繰り返し数を始点として所定期間(所定の繰り返し回数分)、サンプルの時系列の表面温度の変化(温度変動)の測定を行い、n回の測定回ごとに、それぞれ始点から所定期間経過するまでの温度変動(時系列の温度変化)のデータを測定する(表面温度の測定は全部でn回測定することとなる)。このように、ステップS102は、負荷繰り返し数が規定の回数に達するごとに、所定の繰り返し回数分のサンプルの時系列の表面温度の測定を行う。この点について、以下、図7を参照しながら簡単に説明する。
図7は、測定を行う際の負荷繰り返し数の規定回数の設定内容の好適な一例である。ステップS102においては、図7に示すような、負荷繰り返し数の規定回数を予め設定して、ステップS101の繰返し荷重の付与の開始から負荷繰り返し数をカウントして、そのカウント数が図7に示す規定回数X~Xのうちのいずれかに到達する毎に、サンプルの表面温度の測定が開始されるように、図1に示す測定部1の運転を制御する(なお、このような制御には外部のコンピュータを利用して、荷重付与手段11の運転状況の把握(負荷繰り返し数のカウント)及びそのカウント数に応じた温度測定手段12の運転状況の制御等を行う)。このようにして、図7に示す記号のX~Xの規定回数(以下、便宜上、規定回数自体を場合により「X~X」の記号を利用して説明する)に達するごとに、サンプルの表面温度の測定を開始する。そして、各測定回ごとに、表面温度の測定開始(規定回数X~Xに達した時点)から所定の繰り返し回数分(所定期間:赤外線カメラによる測定の所定のフレーム数分)のサンプルの表面温度の測定を行うことで、事前測定用サンプルの時系列の表面温度の変化のデータを測定する。なお、このような赤外線カメラによるサンプルのX~Xの各測定回における測定の方法としては、例えば、温度測定手段12としての赤外線カメラを用いる場合に、フレームレートを予め所定値に設定し、各回の測定期間がそれぞれ測定開始から所定のフレーム数となるまでの期間に設定して、各測定回ごとに、同じ期間(所定のフレーム数分)、事前測定用サンプルの時系列の表面温度の変化を測定することが挙げられる。例えば、フレームレートを211Hzとし、かつ、フレーム数を4009フレームに設定した場合には、前記測定期間は19秒(=4009/211)となり(この場合において、負荷の周波数が10Hzの場合には測定期間中の負荷繰り返し数は190サイクル分となる)、この場合、各測定回において、それぞれX~Xの繰り返し数(規定回数)に達したタイミングから19秒ずつ事前測定用サンプルの時系列の表面温度の変化を測定(4009フレーム分の温度変化の画像の測定)を行うこととなる。ここにおいて、各フレームの画像ごとの事前測定用サンプルの温度は、特に制限されるものではないが、例えば、事前測定用サンプルの特定の領域を測定領域として設定(なお、後述の実施例の欄において説明する図12に示す形態のサンプルにおいては、表面上の長方形状の一部の領域A2を測定領域として設定している)している場合、各フレームの画像ごとに、その所定の測定領域内の各ピクセルの温度をそれぞれ求めて、全ピクセルの温度の平均値を算出し、求められた全ピクセルの温度の平均値を、そのフレームの画像の事前測定用サンプルの温度として採用することにより求めてもよい。そして、そのような各フレームの画像ごとの事前測定用サンプルの温度を、時系列に並べることで、負荷繰り返し数と、温度との関係(例えば、図2に示すような関係)を演算して求めることができる。なお、このような演算(解析)は、そのような演算が可能となるように設計された演算部を備える、外部のコンピュータ(測定部1に接続されたもの)を利用して適宜実行できる。
また、図6に示す手順(フロー)においては、上述のステップS102の測定は、事前測定用サンプルが破断するまで行う。そして、事前測定用サンプルの破断が確認された段階で、ステップS103に進み、図1に示す測定部1中の荷重付与手段11の運転を止めて繰り返し荷重の付与を終了するとともに、事前測定用サンプルの破断が起きるまでにカウントされた負荷繰り返し数を疲労寿命Nとして求める。なお、破断が起きる前の最後の測定回が図7に示す測定回のn回目の測定回となる。
次いで、ステップS104に進み、各始点の繰り返し数(X~X)から所定期間(所定の繰り返し数分)経過するまでの各測定回の温度変動のデータをそれぞれ用いて、全n回の測定回ごとに熱弾性温度振幅ΔTおよび平均温度Tをそれぞれ算出して、測定回ごとの無次元化熱弾性温度振幅(ΔT/T)をそれぞれ求める(ここにおいて、Pは測定回の1~nのうちのいずれかの測定回であることを示す数値(自然数)である)。なお、このような熱弾性温度振幅ΔTおよび平均温度Tの算出(演算)は、前述の第一の算出手段及び第二の算出手段を用いて行ってもよい。すなわち、上述のステップS102の測定で求められた、各測定回の時系列の温度変化のデータ(所定のフレーム数の全フレームの温度データ等)を第一の算出手段に入力し、第一の算出手段において、各測定回ごとに温度変化のデータを周波数解析して、測定回ごとの事前測定用サンプルの熱弾性温度振幅ΔT(Pは熱弾性温度振幅を求めた測定回の回数を示す数値である)を算出(演算)するとともに(図3参照)、各測定回の時系列の温度変化データに基づいて、前記式(2)を利用して、測定回ごとの事前測定用サンプルの平均温度T(Pは平均温度を求めた測定回の回数を示す数値である)を算出(演算)する。次に、第一の算出手段で求められた測定回ごとの前記熱弾性温度振幅ΔTと、測定回ごとの前記平均温度Tとを第二の算出手段に入力して、第二の算出手段において、測定回ごとに無次元化熱弾性温度振幅(ΔT/T)を算出(演算)する。
次に、ステップS105においては、先ず、事前測定用サンプルの測定回ごとの無次元化熱弾性温度振幅(ΔT/T)をそれぞれ事前測定用サンプルの疲労初期の無次元化熱弾性温度振幅(ΔT/T)で正規化して、測定回ごとの正規化熱弾性温度振幅Yを求める。なお、図6に示すフローでは、図7に示す1回目(初回:P=1)の測定回おいて求められた無次元化熱弾性温度振幅(ΔT/T)を疲労初期の無次元化熱弾性温度振幅として利用している。すなわち、本実施形態では、図7に示す1回目(初回)の測定回の繰り返し数(300サイクル)に到達した時点を疲労初期とみなして、事前測定用サンプルの疲労初期の無次元化熱弾性温度振幅を求めている(なお、このような疲労初期の繰り返し数(初回の測定の繰り返し数)は、図7に示すものに限定されるものではなく、適宜設定を変更してもよい)。そして、ステップS105においては、事前測定用サンプルの測定回ごとの無次元化熱弾性温度振幅(ΔT/T)をそれぞれ事前測定用サンプルの疲労初期(初回の測定回(p=1))の無次元化熱弾性温度振幅(ΔT/T)で除することにより、事前測定用サンプルについて、正規化熱弾性温度振幅Y(=(ΔT/T)/(ΔT/T))を求める。このような演算は、測定部1に接続された外部のコンピュータで行ってもよい。また、このような正規化に際しては、無使用の状態のサンプルに対して測定を開始して負荷繰り返し数が初回の規定回数(例えば、図7のX)に到達した状態を疲労初期と擬制し、初回の測定回の無次元化熱弾性温度振幅を、疲労初期の無次元化熱弾性温度振幅(ΔT/T)として利用して計算を行う。
ここで、本発明において、正規化熱弾性温度振幅Yを求めて測定に利用する理由を簡単に説明する。以下、2つの事前測定用サンプルに対して、応力振幅Δσが異なる値となるようにして測定を行った場合を例に挙げて説明する。2つの事前測定用サンプルに対して、各サンプルごとに異なる応力振幅Δσを採用して測定を行った場合、各測定回の負荷繰り返し数(規定回数:X~X)と、各測定回の無次元化熱弾性温度振幅(ΔT/T)の関係は、図8に示すようなグラフとなる。このような図8に示すグラフは、2つの事前測定用サンプル(図8中のサンプルA及びサンプルB)に対して異なる応力振幅Δσを設定して測定した場合において、負荷繰り返し数X(Xは各測定回の始点の繰り返し数)と、各測定回の無次元化熱弾性温度振幅(ΔT/T)の関係について、実際に測定を行った場合のグラフの一例である。このように、同じ材料からなる2つの事前測定用サンプルに対して応力振幅Δσを異なる値として測定を行った場合、そのサンプルごとに異なる無次元化熱弾性温度振幅(ΔT/T)が測定される。これは、上記式(3)から明らかなように、無次元化熱弾性温度振幅(ΔT/T)が応力振幅Δσに依存するためである。そのため、実際に2つの事前測定用サンプルに対して、応力振幅Δσがそれぞれ異なる値になるように設定して測定を行うと図8に示すように、(ΔT/T)の値が異なるグラフが求められることとなる。そして、このような図8に示すグラフを考慮すれば、無次元化熱弾性温度振幅を正規化して利用することで、より精度の高い測定を行うことが可能となることが理解できる。例えば、荷重付与手段11において、繰り返し荷重の大きさが一定の大きさとなるよう設定して測定を行った場合に、荷重付与手段11における多数回の繰り返し荷重の付与に際して負荷の大きさの変動(ばらつき)やゆらぎが生じた場合等においても、無次元化熱弾性温度振幅を正規化して利用している場合には、より精度の高い測定を行うことが可能となるとも考えられる。このような点に着目して、本発明においては、無次元化熱弾性温度振幅を正規化して、疲労損傷度の特定(判定)に利用する。
以上、正規化熱弾性温度振幅Yを求めて測定に利用する理由を簡単に説明したが、ステップS105においては、そのような正規化熱弾性温度振幅Yを求めるとともに測定回ごとに寿命比Dを求める。すなわち、ステップS105においては、各測定回の規定回数(各測定回の始点の繰り返し数(X~X))を、ステップS103で求められた疲労寿命N(サンプルが破断した際の繰り返し数)で正規化して、測定回ごとに寿命比D(=X/N:Xは各測定回の始点の繰り返し数を示す)を求める。
次いで、ステップS106においては、前記事前測定用サンプルの正規化熱弾性温度振幅Yと疲労損傷度の関係として、事前測定用サンプルの正規化熱弾性温度振幅Yと寿命比Dとの関係から、近似線及び近似式を求める。例えば、事前測定用サンプルの正規化熱弾性温度振幅Yと寿命比Dとの関係が図9に示すようなグラフとなる場合(図9は、図8に示すサンプルBが事前測定用サンプルである場合の正規化熱弾性温度振幅Yと寿命比Dとの関係を示すグラフである)、そのデータから正規化熱弾性温度振幅Yと寿命比Dとを最小二乗法により近似して近似線及び近似式を求めることができる。このように、ステップS106においては、正規化熱弾性温度振幅Yと寿命比Dとの関係の近似式を求め、これを正規化熱弾性温度振幅と疲労損傷度の関係として利用する。すなわち、このような近似式に、疲労損傷度が未知の測定対象物の正規化熱弾性温度振幅Yの値を入力することで、その測定対象物の寿命比Dを計算(演算)でき、そのDの値に基づいて、その測定対象物の疲労損傷度を特定することが可能となることから、本実施形態においては、正規化熱弾性温度振幅と疲労損傷度の関係として、前述のような近似式を利用する(ここにおいて、疲労損傷度の特定に、寿命比Dを利用しているため、疲労損傷度の特定とともに、寿命の推定を行うことも可能となる)。なお、ステップS106において、最小二乗法により近似式を求める演算は自動計算機を利用して、測定回ごとの正規化熱弾性温度振幅Yと寿命比Dの値をそれぞれ入力して自動計算させて求めてもよい。
なお、本発明において、前記正規化熱弾性温度振幅と疲労損傷度との関係は、図6に示すフローチャートの実施形態において説明したようにして求められる関係であることが好ましい。すなわち、前記正規化熱弾性温度振幅と疲労損傷度との関係は、先ず、前記測定対象物と同じ材料の試料(測定対象用サンプル)を利用して、前記試料に繰返し荷重を所定の周波数で試料が破壊されるまで付与し続けて、少なくとも複数の所定の繰り返し回数(X~X)に達する毎に、その回数(X~X)から繰返し荷重の付与処理の所定の回数分(例えば、特定のフレーム数分に相当する負荷繰り返し数)の試料の温度変化のデータを利用して、前述の所定の繰り返し回数(X~X)ごとに、それぞれ試料(測定対象用サンプル)の熱弾性温度振幅ΔTと平均温度Tとを求め、所定の繰り返し回数(X~X)ごとに前記試料の測定対象物の正規化熱弾性温度振幅(ΔT/T)を算出した後に、その試料(測定対象用サンプル)が破壊された繰り返し回数を寿命の繰り返し数として、所定の繰り返し回数(X~X)をそれぞれ前記寿命の繰り返し数で除した値を疲労損傷度に関する値として利用することにより求められる、疲労損傷度と前記正規化熱弾性温度振幅との関係であることが好ましい。
以上、図6に示すフローチャートを参照しながら、「正規化熱弾性温度振幅と疲労損傷度との関係」を事前に求めるための方法として好適な方法について説明したが、「正規化熱弾性温度振幅と疲労損傷度との関係」を事前に求めるための方法は上記方法に制限されるものではない。例えば、前述のステップS106では一つの事前測定用サンプル(図8のサンプルB)の結果のみを用いて、近似式を求めているが、近似式を求める方法は、これに限定されるものではなく、事前測定用サンプルを複数個準備して、それぞれのサンプルについて、測定回ごとの正規化熱弾性温度振幅Yと寿命比Dをそれぞれ求め、全サンプルの正規化熱弾性温度振幅Yと寿命比Dのデータを利用して、最小二乗法により近似式を求めてもよい。例えば、2つの事前測定用サンプルを準備して、それぞれのサンプルにそれぞれステップS101~S105を実施して、各サンプルの測定回ごとの正規化熱弾性温度振幅Yと寿命比Dをそれぞれ求めた後、2つの事前測定用サンプルの測定回ごとの正規化熱弾性温度振幅Yと寿命比Dのデータを全て利用し、これらをプロットし、正規化熱弾性温度振幅Yと寿命比Dとを最小二乗法により近似して近似線及び近似式を求めてもよい。ここで、2つの事前測定用サンプルの測定に際しては、サンプルごとに、応力振幅Δσの大きさが異なるものとなるように、荷重付与手段11の設定して、異なる応力振幅Δσで測定を行うことが好ましい。これは、無次元化熱弾性温度振幅(ΔT/T)が応力振幅Δσに依存するため、応力振幅Δσがそれぞれ異なる値になるように設定して測定を行うことで(ΔT/T)の値が異なるグラフが求められ、これを利用することで、荷重付与手段11における多数回の繰り返し荷重の付与に際して、負荷の大きさの変動(ばらつき)やゆらぎが生じる場合等も考慮した、疲労損傷度と前記正規化熱弾性温度振幅との関係を求めることが可能となるためである。なお、このようにして近似線を求めた場合の一例を図10に示す(なお、図10は、図8に示すサンプルA及びBの結果を利用して求めたグラフである)。このような複数の事前測定用サンプルを準備して近似式を求めた場合には、応力振幅Δσのゆらぎも考慮し、より多くのデータに基づいた近似式を求めることができるため、より精度高く疲労損傷度を測定できるものと考えれられる。
以上、「正規化熱弾性温度振幅と疲労損傷度との関係」を事前に求めるための方法について先に説明したが、以下、このようにして求められた正規化熱弾性温度振幅と疲労損傷度との関係(前述のような近似式)を利用して疲労損傷度を求めるための疲労損傷度特定装置が備える、第三の算出手段及び疲労損傷度特定手段について説明する。
第三の算出手段においては、前記測定対象物(試験片10)の無次元化熱弾性温度振幅(ΔT/T)を、前記測定対象物(試験片10)の疲労初期の無次元化熱弾性温度振幅で正規化して、前記測定対象物の正規化熱弾性温度振幅を算出する。そのため、前述の外部のコンピュータが備える第三の算出手段は、前述の第二の算出手段で算出(演算)して求められた前記測定対象物(試験片10)の無次元化熱弾性温度振幅(ΔT/T)を入力した場合に、その無次元化熱弾性温度振幅(ΔT/T)を前記測定対象物(試験片10)の疲労初期の無次元化熱弾性温度振幅(ΔT/T)で正規化する計算をするように構成(所望の演算処理(前記計算)が可能となるように構成)した演算部とすればよい。ここで、第三の算出手段において利用する前記測定対象物(試験片10)の「疲労初期の無次元化熱弾性温度振幅」は、前述の「正規化熱弾性温度振幅と疲労損傷度との関係」を事前に求める際に、事前測定用サンプルについて無次元熱弾性温度振幅の正規化を行う際に設定した疲労初期と同じ時期を、前記測定対象物(試験片10)についての疲労初期と設定して(例えば、前述の図6に示すフローで「正規化熱弾性温度振幅と疲労損傷度との関係」を事前に求める場合には、初回の測定回の測定結果を疲労初期をみなしているため、初回の測定回の負荷繰り返し数が疲労初期に相当)、本発明において疲労損傷度を特定する前記測定対象物(試験片10)が未使用の段階において、予め試験片10と同様の試料を準備して、その試料を用いて設定した疲労初期の無次元化熱弾性温度振幅を事前に測定しておいて利用すればよい。
疲労損傷度特定手段は、第三の算出手段において算出(演算)した前記測定対象物の正規化熱弾性温度振幅を利用して、前記測定対象物と同じ材料の試料(前記事前測定用サンプル)を用いて事前に求めた正規化熱弾性温度振幅と疲労損傷度との関係から、測定対象物の疲労損傷度を特定する。そのため、前述の外部のコンピュータが備える疲労損傷度特定手段は、第三の算出手段において算出(演算)した前記測定対象物の正規化熱弾性温度振幅を入力した場合に、前記測定対象物と同じ材料の試料(前記事前測定用サンプル)を用いて事前に求めた正規化熱弾性温度振幅と疲労損傷度との関係(前述の近似式等)を利用して、測定対象物の疲労損傷度を特定(演算)できるように構成(所望の演算処理が可能となるように構成)した演算部とすればよい。
このような図1に示すような計測部と、前述の第一~第三の算出手段及び疲労損傷度特定手段を備える外部のコンピュータとからなる疲労損傷度特定装置を利用することで、疲労損傷度が未知の測定対象物について疲労損傷度を特定することが可能となる。
以上、図1を参照しながら、本発明の疲労損傷度特定装置の好適な実施形態について説明したが、以下、かかる実施形態の疲労損傷度特定装置(図1に示すような計測部を備える疲労損傷度特定装置)を用いて疲労損傷度の特定を行う場合に好適に採用することが可能な方法(疲労損傷度の特定を行う場合の手順の好適な一例)を説明することにより、本発明の疲労損傷度の特定方法の好適な一実施形態を併せて説明する。
図11は、疲労損傷度の特定を行う場合に好適に採用することが可能な手順の一例を示すフローチャートである。以下、かかるフローチャートの説明に際しては、疲労損傷度の特定を行う対象を、場合により「疲労損傷度が未知の測定対象物」と表現する。
このような疲労損傷度の特定処理に際しては、先ず、前述の外部のコンピュータの第三の算出手段において、疲労損傷度が未知の測定対象物の無次元化熱弾性温度振幅を正規化することが可能となるように、予め、ステップS201において、疲労損傷度が未知の測定対象物についての疲労初期の無次元化熱弾性温度振幅(ΔT/T)1-estを外部のコンピュータの第三の算出手段に入力する。なお、上述の「正規化熱弾性温度振幅と疲労損傷度との関係」を求める際に利用した事前測定用サンプルの「疲労初期の無次元化熱弾性温度振幅」との区別が容易となるように、疲労損傷度が未知の測定対象物の「疲労初期の無次元化熱弾性温度振幅」を、便宜上、「(ΔT/T)1-est」と表記している。
ここにおいて、ステップS201において入力する疲労損傷度が未知の測定対象物の疲労初期の無次元化熱弾性温度振幅(ΔT/T)1-estは、疲労損傷度の特定を行う対象の測定対象物が未使用である段階(疲労が起こっていない新品の段階)において試験片10と同じ形体の試験片を作成して予め測定しておいた値(事前に測定しておいた値)を採用してもよく、あるいは、疲労損傷度の特定を行う対象の測定対象物が未使用の段階にある際に、予め試験片10と同じ形体の試験片を作成して保存しておき、疲労損傷度の測定を行う必要が生じた段階で、その未使用状態の測定対象物の試験片を利用して、別途、疲労初期の無次元化熱弾性温度振幅を測定して、その測定値を疲労損傷度が未知の測定対象物の「疲労初期の無次元化熱弾性温度振幅(ΔT/T)1-est」として利用してもよい。なお、ここにいう「疲労初期」は、事前測定用サンプルを用いて事前に「正規化熱弾性温度振幅と疲労損傷度との関係」を求める際に採用した「疲労初期」と同じ意味である。また、疲労初期の無次元化熱弾性温度振幅(ΔT/T)1-estは、事前測定用サンプルの代わりに、未使用状態の測定対象物の試験片を利用する以外は、上述の「正規化熱弾性温度振幅と疲労損傷度との関係」を求める際に利用した事前測定用サンプルの「疲労初期の無次元化熱弾性温度振幅」を求める方法と同様の方法を採用して求めることができる。
次いで、ステップS202において、疲労損傷度が未知の測定対象物について繰り返し荷重の付与を開始し、開始から所定の負荷繰り返し数までの測定対象物の温度変動を測定する。すなわち、ステップS202において、測定対象物に繰返し荷重を所定の周波数で付与する工程と、前記測定対象物の温度変化を測定する工程とを実行する。疲労損傷度が未知の測定対象物について繰り返し荷重の付与は、図1に示す計測部1の荷重付与手段11(例えば油圧サーボ型疲労試験機等)の運転を開始することで行えばよい。なお、このようなステップS202に用いる疲労損傷度が未知の測定対象物の試験片10の形態(大きさや形状)や、試験片10に付与する繰り返し荷重Fの大きさ、繰り返し荷重の周波数等の条件は、事前測定用サンプルを用いて事前に「正規化熱弾性温度振幅と疲労損傷度との関係」を求める際に採用した条件と同じ条件を採用する必要がある。なお、「正規化熱弾性温度振幅と疲労損傷度との関係」を求める際に、複数の事前測定用サンプルを利用し、それぞれ異なる応力振幅Δσの条件を採用して正規化熱弾性温度振幅等を求めている場合には、複数の事前測定用サンプルのうちの少なくとも1つのサンプルの測定条件(応力振幅Δσ)と同様の条件(応力振幅Δσ)を採用して測定を行うことが望ましい。なお、「正規化熱弾性温度振幅と疲労損傷度との関係」を求める際に複数の事前測定用サンプルを利用している場合においても、各事前測定用サンプル及び疲労損傷度が未知の測定対象物の試験片10は同じ大きさおよび同じ形状とする必要がある。
また、ステップS202における測定対象物の温度変動(温度変化)の測定は、疲労損傷度が未知の測定対象物について繰り返し荷重の付与を開始し、開始から所定期間(繰り返し荷重の付与開始から所定の負荷繰り返し数までの間)の時系列の測定対象物の温度の状態の変化(例えば、図2に示すような温度変化のデータ)を測定することにより行う。なお、このような測定は温度測定手段12により行い、温度測定手段12の運転の制御は、測定部1に接続した外部のコンピュータにより行えばよく、事前測定用サンプルを用いて事前に「正規化熱弾性温度振幅と疲労損傷度との関係」を求める際に採用した方法と同じ方法を採用して測定を行う。なお、ここにいう「所定期間(開始から所定の負荷繰り返し数までの間の期間)」は、「正規化熱弾性温度振幅と疲労損傷度との関係」を求める際に測定回ごとのサンプルの表面温度の測定を行う際に設定した期間と同じ期間に設定する(例えば、「正規化熱弾性温度振幅と疲労損傷度との関係」を求める際に負荷繰り返し数が190サイクル分の期間測定を行った場合には、ステップS202においても190サイクル分の期間測定を行う)。また、ステップS202においては、疲労損傷度が未知の測定対象物について、繰り返し荷重の付与を開始した時点から所定期間の間、測定を行うが、これは、測定を開始した時点の測定対象物の疲労損傷度を測定するためである。なお、温度測定手段12により測定された温度に関する画像(温度測定手段12が赤外線カメラである場合にはサーモグラフィ画像)を、外部のコンピュータにおいて適宜解析して、図2に示すような関係(負荷繰り返し数と、温度との関係)を求め、続くステップS203において利用してもよい。なお、温度に関する画像の解析は、例えば、第一の算出手段を、そのような解析も併せて行うことが可能なように構成して、第一の算出手段において、温度測定手段12から入力される時系列の画像のデータに対して解析を行ってもよいし、あるいは、別の映像処理手段を利用して、別途解析を行い、その解析データを利用してもよい(別の映像処理手段を利用する場合、例えば、第一の算出手段を備えるコンピュータとは別のコンピュータを利用して映像処理(映像の解析)を行ってもよく、あるいは、第一の算出手段を備えるコンピュータに解析用のソフトを読み込んで、かかるコンピュータを、第一の算出手段とは別に、別途演算が可能なように構成させた映像処理のための演算部を備えるものとして、同一のコンピュータ内で映像処理(映像の解析)を行ってもよい)。なお、測定する「測定対象物の温度」は、「正規化熱弾性温度振幅と疲労損傷度との関係」を求める際に事前測定用サンプルの温度として定義した温度と、同じ温度を採用する。すなわち、「正規化熱弾性温度振幅と疲労損傷度との関係」を求める際に、画像解析をフレームごとに行い、各フレームの画像を利用して、画像ごとに所定の測定領域内の全画素のサンプルの表面温度の平均値を求めて、これを各時刻における事前測定用サンプルの温度として採用した場合には、疲労損傷度が未知の測定対象物についても、試験片10に同様の測定領域を設定して、各フレームの画像からそれぞれ測定領域内の全画素の試験片の表面温度の平均値を同様に求めて、その平均値を各時刻における疲労損傷度が未知の測定対象物の温度として利用する。このようにして、測定対象物の温度変動(温度変化)のデータを求めることができる。
次に、ステップS203において、疲労損傷度が未知の測定対象物について、測定対象物の温度振幅温度振幅ΔTestと平均温度Testの算出(演算)する。なお、上述の「正規化熱弾性温度振幅と疲労損傷度との関係」を求める際に利用した事前測定用サンプルの「温度振幅温度振幅ΔT」及び「平均温度T」との区別が容易となるように、ステップS203においては、便宜上、疲労損傷度が未知の測定対象物の温度振幅温度振幅を「ΔTest」と表記し、かつ、疲労損傷度が未知の測定対象物の平均温度を「Test」と表記している。このようなステップS203は、ステップS202で測定した前記測定対象物の温度変化のデータ(所定の繰り返し回数分の前記測定対象物の温度変化のデータ:繰り返し荷重の付与を開始した時点から所定期間の間の測定データ)から、疲労損傷度が未知の現段階(疲労損傷度を求めたい時期)の前記測定対象物の熱弾性温度振幅ΔTestと平均温度Testとを算出(演算)する工程である。このような演算は、疲労損傷度が未知の測定対象物の温度変動(温度変化)のデータを利用する以外は、「正規化熱弾性温度振幅と疲労損傷度との関係」を求める際に、事前測定用サンプルの熱弾性温度振幅ΔTと平均温度Tとを求める際に採用した方法と同様の方法を採用して行えばよく、第一の算出手段により実行することができる。例えば、事前測定用サンプルの熱弾性温度振幅ΔTと平均温度Tとを求める際に、前述のステップS104で説明した方法でサンプルの熱弾性温度振幅と平均温度を求めている場合には、第一の算出手段に温度変化のデータを入力して、時系列の温度変化のデータを周波数解析して、測定回ごとの事前測定用サンプルの熱弾性温度振幅ΔTestを算出(演算)するとともに(図3参照)、各測定回の時系列の温度変化データに基づいて、前記式(2)を利用して、前記測定対象物(試験片10)の平均温度Testを算出(演算)すればよい。
次に、ステップS204において、疲労損傷度が未知の測定対象物について、ステップS203で算出されたΔTestとTest(第一の算出手段で算出された、疲労損傷度が未知の測定対象物の熱弾性温度振幅ΔTestと平均温度Test)を利用して、計測時(現段階)の測定対象物の無次元化熱弾性温度振幅(ΔT/T)estを算出(演算)する。なお、上述の「正規化熱弾性温度振幅と疲労損傷度との関係」を求める際に利用した事前測定用サンプルの「無次元化熱弾性温度振幅(ΔT/T)」との区別が容易となるように、便宜上、疲労損傷度が未知の測定対象物の無次元化熱弾性温度振幅を「(ΔT/T)est」と表記する。このようなステップS204は、疲労損傷度が未知の測定対象物の熱弾性温度振幅ΔTestを前記平均温度Testで無次元化して(ΔTestをTestで除して)、疲労損傷度が未知の測定対象物の無次元化熱弾性温度振幅(ΔT/T)estを算出する工程である。このような演算は、ステップS203で算出されたΔTestとTestをを入力して前記第二の算出手段において行えばよい。
次に、ステップS205において、疲労損傷度が未知の測定対象物について、正規化熱弾性温度振幅Yestを算出(演算)する。なお、上述の「正規化熱弾性温度振幅と疲労損傷度との関係」を求める際に利用した事前測定用サンプルの「無正規化熱弾性温度振幅Y」との区別が容易となるように、便宜上、疲労損傷度が未知の測定対象物の無次元化熱弾性温度振幅を「Yest」と表記する。このようなステップS205は、疲労損傷度が未知の測定対象物の無次元化熱弾性温度振幅(ΔT/T)estを、疲労初期の無次元化熱弾性温度振幅(ΔT/T)1-estで正規化して、疲労損傷度が未知の測定対象物の正規化熱弾性温度振幅Yestを算出する工程である。なお、疲労初期の無次元化熱弾性温度振幅(ΔT/T)1-estの値はステップS201で入力した値を利用し、疲労損傷度が未知の測定対象物の無次元化熱弾性温度振幅(ΔT/T)estの値はステップS204で求めた値を利用する。このような、正規化熱弾性温度振幅Yestの算出(演算)は、ステップS201で入力した値を利用しつつ、ステップS204で求めた疲労損傷度が未知の測定対象物の無次元化熱弾性温度振幅(ΔT/T)estの値を入力して、前記第三の算出手段において行えばよい。
次いで、ステップS206において、疲労損傷度が未知の測定対象物の正規化熱弾性温度振幅Yestに基いて、該測定対象物と同じ材料の試料を用いて事前に求めた正規化熱弾性温度振幅Yと疲労損傷度Dとの関係から、疲労損傷度が未知の測定対象物の疲労損傷度Destを特定する。なお、上述の「正規化熱弾性温度振幅と疲労損傷度との関係」を求める際に利用した事前測定用サンプルの「疲労損傷度D」との区別が容易となるように、本ステップで特定する疲労損傷度が未知の測定対象物の疲労損傷度を「Dest」と表記する。このようなステップS206は、ステップS205で求めた正規化熱弾性温度振幅Yestを利用し、前記測定対象と同じ材料の試料に対して事前に求めた正規化熱弾性温度振幅と疲労損傷度との関係から疲労損傷度Destを特定(判定)する工程である。このような疲労損傷度Destの特定には、事前測定用サンプルを用いて事前に求めた正規化熱弾性温度振幅と疲労損傷度との関係(例えば、前述の近似式等)を利用して行えばよく、そのような関係に基いて、疲労損傷度が未知の測定対象物の疲労損傷度を特定(演算)できるように構成した演算部(前述の演算処理が可能となるようにプログラムした演算部)である疲労損傷度特定手段(外部のコンピュータ内の演算部)において行えばよい。なお、疲労損傷度を特定の方法としては、例えば、事前測定用サンプルを用いて事前に求めた正規化熱弾性温度振幅Yと疲労損傷度Dとの関係が、YとDとの関係を示す近似式である場合には、その近似式にYの代わりにYestの値を導入することで疲労損傷度Dを計算して、そのDの計算値が未知の測定対象物の疲労損傷度Destであるものと擬制することで求める方法を採用することができる。
以上、図面を参照しながら、本発明の疲労損傷度特定装置並びに疲労損傷度の特定方法の好適な一実施形態について説明したが、本発明の疲労損傷度特定装置並びに疲労損傷度の特定方法は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、図1に示す実施形態においては、温度測定手段12として赤外線カメラを利用しているが、温度測定手段12は赤外線カメラに制限されるものではなく、熱電対であってもよい。なお、温度測定手段12として熱電対を利用した場合にも、疲労損傷度を簡便に測定することが可能である。
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
[試験例1]
<試験片の調製>
同じ炭素繊維強化プラスティック(CFRP)からなる厚み3mmのシート(板状体)を3枚準備し、各シートから図12に示すような測定対象物(CFRP)の試験片10をそれぞれ作成して、試験片A、試験片Bおよび試験片Cとした。なお、各試験片は、図12に示すように、長さ(L):200mm、幅(W):25mmの表面を有し、かつ、厚みが3mmの帯板状の試験片とした。なお、かかる試験片は、その表面上の一部の領域A1(長さ(LA1):80mm、幅:25mmの領域)に黒体化塗料を塗布し、塗料の塗布領域A1を形成した。なお、領域A1の形成位置は、図12に示すように、試験片の長さ方向の両端からのそれぞれ距離(LB)が60mmとなるような位置とした。また、温度データの測定に際しては、図12に示す試験片10の領域A1内に破線で示した領域A2(長さ(LA2):70mm、幅(WA2):23mmの領域)を、温度を測定するための領域として採用した。
なお、試験片A、試験片Bおよび試験片Cの調製に利用したシートを構成するCFRPを用いて、引張試験用の試料を4枚調製し、前記CFRPの極限引張強さを別途求めて、その平均値を求めた(なお、このような引張強さ(UTS)は荷重付与手段12により試験片に与える負荷の大きさを決定するために予め実施したものである。以下、このようにして求められた極限引張強さの平均値を、表1において、単に「引張強さ(UTS)」と記載している)。
<測定に用いた機器等について>
計測には、図1に示す計測部1と同様の構成の装置(図1の装置を模した装置)を利用した。ここにおいて、荷重付与手段11として油圧サーボ型疲労試験機を利用し、温度測定手段12として赤外線サーモグラフィカメラを利用した。なお、各試験片10はいずれも、塗料の塗布領域A1以外の領域が油圧サーボ型疲労試験機の掴み具で固定されるようにして用いた。このように、疲労試験機11の前に設置した赤外線カメラ12を用いて試験片10の表面温度の分布を測定可能なように構成した測定部1を用いて測定を行った。
<試験片A~Cの熱弾性温度振幅と平均温度の測定>
試験片A~Cをそれぞれ試験験片10として用いて、荷重付与手段11により表1に示す負荷条件で試験片10に繰り返し荷重を付与し、かつ、図13に示す規定の繰り返し数(X~X25)に達するごとに、表2に示す条件で、試験片10の表面上の領域A2に該当する領域の温度変化を温度測定手段12により測定した。また、このような測定に際しては、表1に示すように、応力振幅の大きさを、試験片Aと、試験片B及びCとで変えて測定を行った。さらに、荷重付与手段11の運転(繰り返し荷重の付与処理)は、各試験片が破損するまでそれぞれ行った。その結果、試験片Aは13160サイクル(cycles)で破損し、試験片Bは23860サイクル(cycles)で破損し、試験片Cは75720サイクル(cycles)で破損した。そのため、試験片Aについては12回目(X~X12)まで測定を行い、試験片Bについては14回目(X~X14)まで測定を行い、試験片Cは25回目(X~X15)まで測定を行った。
このような測定により、各試験片について、図13に示す規定の繰り返し数に到達する毎に、その規定の繰り返し数から190サイクル分の期間に亘る時系列の表面温度の分布を得た(測定回ごとに、所定の繰り返し数分(190サイクル分)の試験片の表面温度のデータを得た)。ここで、試験片の温度の解析に際しては、時系列の温度分布の画像に関して、各フレームの画像ごとに、領域A2の部分の画素(ピクセル)ごとの温度を全て求め、その平均値を算出して、そのフレームでの試験片の温度として採用した(なお、今回の解析では、規定の繰り返し数(X~X25)に到達するごとの各測定回のデータとして4009フレーム分の画像を用いるため(表2参照)、各測定回ごとに、領域A2の部分の全画素(ピクセル)についてそれぞれ4009点の時系列の温度変動データを取得している)。
このようにして、各試験片について、測定回ごとの試験片の温度の解析を行い、負荷繰り返し数と温度に関するデータ(図2に模式的に示すようなデータ:結果的に経過時間と温度との関係ともいえる)をそれぞれ求めた後、各試験片の温度データを周波数解析(ここではフーリエ変換を採用)して、周波数と温度振幅との関係(図3に模式的に示すような関係)を求めて、負荷周波数(繰り返し荷重の周波数)と同じ周波数(10Hz)における、その試験片の温度振幅ΔT(絶対値)をそれぞれ求めた。また、各フレームの試験片の温度のデータに基づいて、上記式(2)を計算して、各試験片の平均温度Tを求めた。このように、4009点の時系列温度変動データを周波数解析して得られた温度振幅と、周波数との関係から、繰返し負荷と同じ周波数(10Hz)での温度振幅を熱弾性温度振幅ΔTとして求め、4009点の時系列の試験片の温度の変動データの平均値を平均温度Tとして用いた。
また、試験片が破損するまでの負荷繰り返し数をそれぞれの試験片の疲労寿命Nとして設定した。このような疲労寿命Nは、試験片A:13160サイクル(cycles)、試験片B:23860サイクル(cycles)、試験片C:75720サイクル(cycles)である。
<無次元化熱弾性温度振幅と負荷繰り返し数との関係についての考察>
試験片A及びBについて、前述の熱弾性温度振幅と平均温度の測定により求められた、各測定回の熱弾性温度振幅ΔT(絶対値)と平均温度Tの測定結果を利用して、試験片A及びBについて、それぞれ無次元化熱弾性温度振幅(ΔT/T)と、各測定回の規定の負荷繰り返し数との関係のグラフを求めた(ここで、Pは測定回の回数を示す自然数である)。得られた結果を図14に示す。
図14に示すように、試験片A及びBのいずれの試験片も、負荷繰り返し数Xの増加とともに、無次元化熱弾性温度振幅(ΔT/T)の値(絶対値)が減少した。なお、無次元化熱弾性温度振幅(ΔT/T)の値(絶対値)が試験片毎に異なる原因は、表1に示したように、試験片Aと試験片Bでは温度の測定時の応力振幅の大きさが異なっていることに起因することは明らかである(上記式(3)から明らかなように、無次元化熱弾性温度振幅(ΔT/T)が応力振幅Δσに依存するためである)。また、このように、負荷繰り返し数Xの増加とともに、無次元化熱弾性温度振幅(ΔT/T)の値(絶対値)が徐々に減少していることから、無次元化熱弾性温度振幅(ΔT/T)の値は疲労損傷の程度と関連する値となることも分かる。
<正規化熱弾性温度振幅と寿命比との関係についての考察>
上述のように、無次元化熱弾性温度振幅(ΔT/T)が応力振幅Δσに依存することから、測定中の応力振幅Δσの変動や揺らぎ等も考慮した計測も可能となるように、正規化した値(正規化熱弾性温度振幅)の利用を検討し、以下に示すような正規化を行った。すなわち、1回目の測定回(X)の規定回数である300サイクル(cycles)の繰り返し荷重が付与された状態を疲労初期と規定し、1回目の測定回の無次元化熱弾性温度振幅を、疲労初期における無次元化熱弾性温度振幅(ΔT/T)と規定して、疲労初期における無次元化熱弾性温度振幅で、各測定回ごとの無次元化熱弾性温度振幅をそれぞれ正規化した。すなわち、このような正規化は、下記式:
=(ΔT/T)/(ΔT/T)
を計算することにより行い(Pは測定回の回数を示す自然数である)、各測定回ごとに得られる値を、それぞれ各測定回の正規化熱弾性温度振幅Yとした。また、疲労寿命が応力振幅Δσの大きさ等の条件により異なるものとなると考えられることから、繰り返し数についても、下記式:
=X/N
(式中、Xは各測定回の規定の繰り返し数を示し、Nは試験片の疲労寿命を示し、Dは寿命比を示す。)
により正規化を行った。
試験片A及びBについての無次元化熱弾性温度振幅(ΔT/T)と繰り返し数との関係を、それぞれ正規化した値で再整理し、各測定回の正規化熱弾性温度振幅Yと寿命比Dとの関係を求めた。得られた結果を図15に示す。なお、図15中の実線は、全データ点を利用して、最小二乗法で近似して得られた近似線である。なお、四次関数で近似したとき、寿命比Dに対して正規化熱弾性温度振幅Yが単調に変化したため、近似線は四次関数の曲線とした。
このような図15に示す結果からも明らかなように、無次元化熱弾性温度振幅と繰り返し数とをそれぞれ正規化した場合には、試験片A及びBのいずれに関して、概ね同一線上にプロットできることが確認された。また、図15に示すように、試験片A及びBのいずれも概ね同一線上にプロットできることから、疲労損傷の程度が未知の測定対象物の試験片に対しても、熱弾性温度振幅と平均温度の測定の測定条件を試験片A又はBのどちらかの試験片の測定時の条件と同じ条件として、試験片の熱弾性温度振幅と平均温度とを求めて、その試験片の正規化熱弾性温度振幅Yを求めた場合には、そのYの値と、図15に示す関係から、疲労損傷の程度を示す寿命比を求めることが可能となることが分かる。このように、「正規化熱弾性温度振幅Yと疲労損傷度に関する寿命比Dとの関係」を予め求めた場合には、その関係(図15に示す例では四次関数)に基づいて、疲労損傷の程度が未知の測定対象物の試験片の正規化熱弾性温度振幅Yを求めることで、寿命比D(疲労損傷度に関する値)を求めることができ、疲労損傷度を特定できることが分かる。
<疲労寿命の特定についての考察>
先ず、試験片Cの測定結果を利用して、以下のようにして、疲労損傷度を特定(推定)した。すなわち、先ず、試験片Cの熱弾性温度振幅と平均温度の測定結果に基づいて、試験片A及びBと同様にして、試験片Cの測定回ごとの無次元化熱弾性温度振幅を算出し、無次元化熱弾性温度振幅と負荷繰り返し数との関係を求めた。なお、試験片Cの無次元化熱弾性温度振幅と負荷繰り返し数との関係を示すグラフを図16に示す。次いで、試験片A及びBと同様にして、試験片Cについても、測定回ごとの無次元化熱弾性温度振幅を、試験片Cの疲労初期(1回目の測定回)の無次元化熱弾性温度振幅(ΔT/T)で正規化して、測定回ごとの正規化熱弾性温度振幅Yをそれぞれ求めた。次に、求めた試験片Cの測定回ごとの正規化熱弾性温度振幅Yをそれぞれ用いて、図15に示す正規化熱弾性温度振幅と寿命比との関係(四次関数の近似式)から、各測定回の時点の試験片Cの寿命比を特定(推定)した。以下、図15に示す正規化熱弾性温度振幅と寿命比との関係(四次関数の近似式)から求められた、各測定回の試験片Cの「寿命比の推定値」を、便宜上、「Dest」と表記する。
また、試験片Cについて疲労寿命Nの値(実際の測定値)を利用して、各測定回の繰り返し数(規定回数)を正規化して、各測定回の寿命比Dをそれぞれ求めた。なお、疲労寿命Nの値を利用して正規化することにより求められる試験片Cの各測定回の「実際の寿命比」を、以下、便宜上、「Dact」と表記する。
次に、このようにして求めた試験片Cの実際の寿命比Dactと、寿命比の推定値Destとを対比した。すなわち、事前に求めた正規化熱弾性温度振幅と寿命比との関係(図15:四次関数の近似式)により寿命比(疲労損傷度の程度)を推定して得られた「寿命比の推定値Dest」と、前述の測定結果から求められた「実際の寿命比Dact」との関係について検討した。ここにおいて、実際の寿命比Dactと、寿命比の推定値Destとの関係を示すグラフを図17に示す。なお、図17に示す実線は、DactとDestとが等しい値となる場合(Dest=Dact)の線を評価のために便宜上記載したものであり、破線は寿命比の推定誤差が±10%となる場合(寿命比が0.1異なる場合)の線を評価のために便宜上記載したものである。
図17に示す結果からも明らかなように、寿命比の推定値Destは、寿命比が0.8となる領域まで、基本的に、実際の寿命比(実験で求めた値)Dactに対する誤差が±10%の範囲内にあることが分かった。このような結果から、事前に求めた正規化熱弾性温度振幅と寿命比との関係(四次関数の近似式)から、寿命比(疲労損傷度)を特定(推定)することで、非常に高い精度で寿命比(疲労損傷度)を特定(推定)することが可能となることが確認された。
なお、寿命比が推定できれば、その寿命比Destから疲労寿命や疲労余寿命を見積もることも可能であり、疲労余寿命も併せて評価できることも分かる。例えば、試験片Cの12回目の測定回の負荷繰り返し数(X12)の10000サイクル(cycles)での計測値Destを利用し、かつ、寿命比Dの式(D=X/N)を変形して、疲労寿命の推定値Nestを下記式:
est=X12/Nest
の関係から求めたところ、10000サイクルの繰り返し負荷が付与された時点の試験片Cの疲労寿命の推定値Nestは68427サイクルであることが分かり、10000サイクルの繰り返し負荷が付与された時点の疲労余寿命は58427サイクルであることを推定できた。一方、実際の試験片Cの疲労寿命Nは75720サイクルであり、10000サイクルの繰り返し負荷が付与された時点の試験片Cの実際の余寿命は65720サイクルである。このような疲労余寿命の対比から、寿命比Destから疲労寿命や疲労余寿命を高精度に測定可能であることが分かった。
以上、説明した通り、無次元化熱弾性温度振幅(ΔT/T)が材料(試験例1ではCFRP)の疲労損傷度と関連のある物理量であることから、無次元化熱弾性温度振幅(ΔT/T)を正規化した値の変化を事前に求めて、正規化熱弾性温度振幅と疲労損傷度(寿命比)との関係を事前に求めておくことで、疲労損傷度が未知の測定対象物の試験片を利用して、熱弾性温度振幅ΔTと平均温度Tを測定し、その測定値を利用して試験片の正規化熱弾性温度振幅を求めることで、その測定対象物の疲労損傷度を特定することが可能であるとともに、かかる疲労損傷度の特定値から疲労余寿命も特定することが可能となることが分かった。
以上説明したように、本発明によれば、測定対象物の疲労損傷度を高精度に測定することが可能な疲労損傷度特定装置及び疲労損傷度の特定方法を提供することが可能となる。
したがって、本発明の疲労損傷度特定装置は、疲労損傷度が未知の測定対処物の疲労損傷度や余寿命を推定するための技術として有用である。
1…測定部、10…試験片、11…荷重付与手段、12…温度測定手段。

Claims (4)

  1. 測定対象物に繰返し荷重を所定の周波数で付与するための荷重付与手段と、
    前記測定対象物の温度変化を測定するための温度測定手段と、
    前記測定対象物の温度変化のデータから、前記測定対象物の熱弾性温度振幅と、前記測定対象物の平均温度とを算出する第一の算出手段と、
    前記熱弾性温度振幅を前記平均温度で無次元化して、前記測定対象物の無次元化熱弾性温度振幅を算出する第二の算出手段と、
    前記測定対象物の無次元化熱弾性温度振幅を、疲労初期の無次元化熱弾性温度振幅で正規化して、前記測定対象物の正規化熱弾性温度振幅を算出する第三の算出手段と、
    前記測定対象物と同じ材料の試料を用いて事前に求めた正規化熱弾性温度振幅と疲労損傷度との関係から、測定対象物の疲労損傷度を特定する疲労損傷度特定手段と、
    を備えることを特徴とする疲労損傷度特定装置。
  2. 前記測定対象物が繊維強化プラスチックからなるものであることを特徴とする請求項1に記載の疲労損傷度特定装置。
  3. 測定対象物に繰返し荷重を所定の周波数で付与する工程と、
    前記測定対象物の温度変化を測定する工程と、
    前記測定対象物の温度変化のデータから、前記測定対象物の熱弾性温度振幅と、前記測定対象物の平均温度とを算出する工程と、
    前記熱弾性温度振幅を前記平均温度で無次元化して、前記測定対象物の無次元化熱弾性温度振幅を算出する工程と、
    前記測定対象物の無次元化熱弾性温度振幅を、疲労初期の無次元化熱弾性温度振幅で正規化して、前記測定対象物の正規化熱弾性温度振幅を算出する工程と、
    前記測定対象と同じ材料の試料に対して事前に求めた正規化熱弾性温度振幅と疲労損傷度との関係から疲労損傷度を特定する工程と、
    を含むことを特徴とする疲労損傷度の特定方法。
  4. 前記測定対象物が繊維強化プラスチックからなるものであることを特徴とする請求項3に記載の疲労損傷度の特定方法。
JP2022051413A 2022-03-28 2022-03-28 疲労損傷度特定装置及び疲労損傷度の特定方法 Active JP7487248B2 (ja)

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