JP2023144190A - 空調システム - Google Patents

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Hiroichi Tashiro
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隆広 藤澤
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【課題】機械学習モデルの更新を自動で好適に実行し得る空調システムを提供する。【解決手段】空調の運転に用いる値を推定する機械学習モデルを定期的に自動で更新することにより、機械学習モデルの推定精度を保ち得るよう構成されている。機械学習モデルの更新は、既存の機械学習モデルを修正して新しい機械学習モデルを作成することで行う。具体的な手順としては、例えば新しい機械学習モデルを定期的に作成し、該新しい機械学習モデルの推定精度と、運用中の機械学習モデルの推定精度を比較して、推定精度の高い方の機械学習モデルを以降の運用に採用する。【選択図】図6

Description

本発明は、空調システムに関する。
近年、人工知能による機械学習を用いて生成したモデルによって各種の値を推定する技術が様々な分野で開発され、実用化されている。空調の分野も例に漏れず、例えば下記特許文献1には、センサの設置されていない位置における空気の温度(床近傍温度)を機械学習モデルにより推定する技術が開示されている。特許文献1に記載の空調システムでは、外気温度や天候、別の位置に設置された温度センサの測定値などのパラメータを説明変数として温度推定モデルに入力し、目的の位置の床近傍温度の推定値を出力するようになっている。また、下記特許文献2には、空調負荷に関し、現在までに取得された実績値に基づいて予測値を出力する技術が開示されている。
特開2021-76348号公報 特開2020-165622号公報
ところで、上記したような技術において用いられるモデルは、目的とする値の推定精度が運用時間の経過と共に下がっていくことが多い。一般に、機械学習モデルの推定精度が低下する要因には、大きく分けて未学習データパターンの混入と、データの質的な変化の2通りが考えられる。空調システムの場合、前者としては例えば寒波の到来のような気候パターンの変化が挙げられる。学習データの採集時にはなかった(あるいは推定値に対する影響が小さかった)大きな外的要因が加わることにより、説明変数から推定値を導き出すパターンが現実にそぐわなくなってしまうのである。後者としては、例えば空調対象であるビルに入居するテナントの入れ替わりが挙げられる。この場合は、部屋の使用状況や熱的環境など、説明変数として入力されるデータ自体が学習データの採集時と大きく異なり、所謂ダーティデータが混入した状態となってしまう。そこで、推定精度を高く保ちながら運用を続けるために、例えばモデルの推定精度を定期的にチェックし、精度が十分でない場合にはモデルを更新することが行われてきた。
モデルの更新は、例えばモデルによる推定精度を示す指標であるRMSE値(この値が小さいほど、推定精度が高いとされる)をシステム側で基準値と比較し、これが基準値を上回った場合にはその旨を運用者に通知し、これを受けてデータサイエンティストが運用中のモデルを修正し、あるいは作り直す、といった手順により行われる。
このようなモデルの更新作業は無論、データ科学に関する知識や技術を要し、手間のかかるものである。システムの運用者にとっては、データサイエンティストのような専門の技術者に更新作業を依頼する必要があり、更新の都度、高額の人件費が生じる。また、データサイエンティストの作成したモデルを実際の運用環境に適用する作業にも、別途費用と時間が生じてしまう。
本発明は、斯かる実情に鑑み、機械学習モデルの更新を自動で好適に実行し得る空調システムを提供しようとするものである。
本発明は、空調の運転に用いる値を推定する機械学習モデルを定期的に自動で更新することにより、前記機械学習モデルの推定精度を保ち得るよう構成されていることを特徴とする空調システムにかかるものである。
本発明の空調システムは、前記機械学習モデルの更新が、既存の機械学習モデルを修正して新しい機械学習モデルを作成することで行われるよう構成することができる。
本発明の空調システムは、前記機械学習モデルの更新における新しい機械学習モデルの作成が、既存の機械学習モデルの構造を変更することなく、重みづけを変更することで行われるよう構成することができる。
本発明の空調システムは、新しい機械学習モデルを定期的に作成し、該新しい機械学習モデルの推定精度と、運用中の機械学習モデルの推定精度を比較して、推定精度の高い方の機械学習モデルを以降の運用に採用するよう構成してもよい。
本発明の空調システムは、新しい機械学習モデルを定期的に作成し、該新しい機械学習モデルの推定精度が基準値よりも高いことを条件として、前記新しい機械学習モデルを以降の運用に採用するよう構成してもよい。
本発明の空調システムは、運用中の機械学習モデルの推定精度を定期的に基準値と比較し、前記運用中の機械学習モデルの推定精度が基準値よりも低いことを条件として新しい機械学習モデルを作成し、以降の運用に採用するよう構成してもよい。
本発明の空調システムにおいて、前記機械学習モデルは、ペリメータゾーンの床近傍温度を推定するよう構成することができる。
本発明の空調システムによれば、機械学習モデルの更新を自動で好適に実行するという優れた効果を奏し得る。
本発明を適用した空調システムの構成の一例を示す概略図である。 本発明を適用した空調システムにおいて、ペリメータゾーンに面して設置される変風量装置および床近傍温度センサの配置の一例を示す概略平面図である。 複数階にわたる建物に対して適用された本発明の空調システムの全体構成の一例を示す概略図である。 本発明を適用した空調システムにおいて、基準階のペリメータゾーンに面して設置される変風量装置および床近傍温度センサの配置の一例を示す概略平面図である。 温度推定モデルの入出力構成の一例を示す概念図である。 機械学習モデルの更新に係るスケジュールの一例を示すタイムチャートである。 機械学習モデルの更新に係る手順の一例を示すフローチャートである。 機械学習モデルの更新に係る手順の別の一例を示すフローチャートである。 機械学習モデルの更新に係る手順のさらに別の一例を示すフローチャートである。
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
図1は本発明の実施による空調システムの一例を模式的に示している。空調機1から送り出される空調された空気(給気)A1は、給気ダクト2を通ってオフィス等の室内である対象空間Sへ導かれる。対象空間Sの天井3には複数の吹出口4が設置されており、各空調機1から伸びる給気ダクト2の下流側は、各吹出口4に接続されている。給気ダクト2を流通する空調空気A1は、各吹出口4から対象空間Sへ供給される。
給気ダクト2における各吹出口4の手前の位置には、それぞれ変風量装置5が備えられている。変風量装置5はVAV(Variable Air Volume)等と略称される装置であり、内部に備えたダンパの開度を変更することで、内部を通過する空気の風量を調整するようになっている。給気A1は、対象空間Sへ供給されるにあたり、変風量装置5により風量を調整される。
対象空間Sは、外皮負荷の影響を受けやすい窓際などのペリメータゾーンPと、その内側のインテリアゾーンIに分けることができる。図1には、インテリアゾーンIに面する位置と、ペリメータゾーンPに面する位置にそれぞれ変風量装置5を1台ずつ図示しており、またインテリアゾーンIに面する変風量装置5に対し給気A1を送り出す空調機1(インテリア空調機1a)と、ペリメータゾーンPに面する変風量装置5に対し給気A1を送り出す空調機1(ペリメータ空調機1b)をそれぞれ1台ずつ図示している(尚、これは模式的に簡略化された図であり、実際の空調システムにおいては、変風量装置5や空調機1の数や配置、空調機1に対する変風量装置5の台数等は、対象空間Sの規模や形状、熱的状況等に応じて適宜設定されることは言うまでもない)。
天井3には、インテリアゾーンIおよびペリメータゾーンPにあたる位置にそれぞれ吸込口7,16が設けられている。インテリアゾーンI、ペリメータゾーンPに面する各変風量装置5からは、それぞれインテリア空調機1aまたはペリメータ空調機1bから送られた給気A1が、吹出口4を通じて対象空間Sへ供給され、該対象空間S内の空気(室内空気)A2と混合する。
室内空気A2のうち、主にインテリアゾーンIにある一部は、インテリアゾーンIに面する吸込口7から還気A3として取り込まれる。還気A3のうち、一部は還気ダクト8の外へ排気A4として排出され、一部は還気ダクト8から新たに取り込まれる外気A0と混合してインテリア空調機1aに戻り、温度や湿度を調整されたうえで再度、給気A1として送り出される。
室内空気A2のうち、主にペリメータゾーンPにある一部は、ペリメータゾーンPに面する吸込口16から還気A3として取り込まれ、還気ダクト17を通って全量がペリメータ空調機1bに戻り、温度を調整されたうえで再度、給気A1として送り出される。こうして、空調機1と対象空間Sの間を空気が循環するようになっている。尚、インテリアゾーンIでは外気A0を取り込んで空気の入れ替えを行う一方、ペリメータゾーンPにおいては外気A0を取り込まず、空気の全量を循環させる設計となっているのは、ペリメータゾーンPにおいてはインテリアゾーンIと比較して人がいることが少ないことが想定されるためである。
このような空調システムにおいては、例えば変風量方式と呼ばれる空調方式により、対象空間S内における空調負荷の変動に対応するようになっている。対象空間S内の適当な箇所(ここに示した例では、天井3)には、室内空気A2の温度を測定する温度センサ9が設けられている(以下、天井やその付近における室内空気A2の温度を測定するこれらの温度センサ9を、「天井温度センサ」と称する。また以下では、天井温度センサ9の設置される高さにおける室内空気A2の温度を、必要に応じて便宜的に「天井温度」と称する)。変風量装置5には、それぞれ制御装置(VAVコントローラ)が設けられており、 天井温度センサ9における測定値と、変風量装置5における温度設定値の偏差が0に近づくよう、変風量装置5に対しPI制御等による制御を行い、適当な風量の給気A1を吹出口4から供給するようになっている。例えば、暖房時において、室内温度(室内空気A2の温度)の設定値に対し、天井温度センサ9の測定値が低い場合には給気A1の供給量を大きくし、設定値と測定値が近い場合には供給量を少なくする、といった制御を行う。
空調システムを構成する各機器の運転状況は、制御装置10によって監視され、操作される。制御装置10は、各空調機1(インテリア空調機1aやペリメータ空調機1b)の動作を制御するコントローラ等を備えており、例えば各変風量装置5における要求風量や、対象空間S内における設定温度といった値を取得し、これらに基づいて、各空調機1から供給される給気A1の温度や風量等を決定するようになっている。
各変風量装置5の制御装置では、天井温度を各天井温度センサ9における測定値として取得し、設定温度との偏差に基づいて変風量装置5内のダンパの開度を調整し、適当な風量の給気A1を吹出口4から供給する。すなわち、例えば暖房時において、目標値に対して天井温度センサ9の測定値が低い場合には給気A1の供給量を多くし、目標値と測定値が近い場合には供給量を少なくする、といった制御を行う。
各空調機1では、変風量装置5から送り出される給気A1を各変風量装置5へ送り出すが、ここで送り出される給気A1の量は、その下流の変風量装置5における要求風量の合計である。そこで、制御装置10では、各変風量装置5における要求風量に基づき、各空調機1における供給風量を決定する。
以上のような風量による制御に加え、実際の空調システムでは、さらに要求風量に応じて給気温度(空調機1から送り出される給気A1の温度)を調整する制御(ロードリセット制御)もあわせて行われる。変風量方式の空調システムでは、原則的に、負荷が大きければ変風量装置5からの要求風量が増え、負荷が小さければ要求風量が減ると言える。そこで、変風量装置5からの要求風量に応じ、空調機1における給気A1の供給風量だけでなく、給気温度をも適宜変更するのである。例えば暖房時において、要求風量が変風量装置5の定格風量に対して小さい場合には、給気温度の設定値を下げる。尚、ロードリセット制御としては種々の方式を採用することができ、例えば変風量装置5の開度情報に基づき、各変風量装置5の開度が所定の開度範囲に収まるよう給気温度の設定値を変更する方式でもよいし、変風量装置5の設定温度と計測温度(空調システム内の適当な箇所における空気の計測温度。例えば、還気A3の温度)の偏差に重みづけを行い、その重みづけに基づいて給気温度の設定値を変更する方式でもよい。
このように、図1に示す如き空調システムにおいては、室内負荷に合わせ、供給風量および給気温度が自動で変更される。
ところで、こうした空調システムでは、室内空気A2の温度を天井温度センサ9の測定値として把握しているため、対象空間S内にいる人が実際に接している室内空気A2の温度と、制御装置10において把握される室内空気A2の温度が乖離する場合がある。図1に示す例では天井3の高さに天井温度センサ9が配置されているが、外気条件や、変風量装置5および空調機1といった各機器の制御条件等により、人の位置する床面付近の室内空気A2の温度と、天井温度センサ9の周辺(天井付近)における室内空気A2の温度に差が生じてしまうのである。
特に、外気温度の低い冬期等においては、ペリメータゾーンの空気が外気によって冷却され、下方に沈み込んで床面に沿って流れるコールドドラフトと呼ばれる冷気の流れが発生し、これにより、ペリメータゾーンやその近傍に位置する人が不快に感じる状況が生じることがある。温かい空気は冷たい空気と比較して比重が小さいので、天井の吹出口から暖気が供給されていても、該暖気と、外気による冷却で生じる冷気の温度差が大きい場合や、風量が十分でない場合には、吹出口から下方に吹き出される空気の慣性力が上向きの浮力に打ち消されてしまい、床面付近まで届かない。すなわち、外気温の低い時季のペリメータゾーンにおいては、変風量装置から供給される暖気に対して冷気が優勢となる結果、居住域への暖気の供給が不十分となってしまう場合が想定されるのである。
そこで本実施例では、ペリメータゾーンPの床面付近に、ペリメータゾーンPにおける室内空気A2の温度分布を是正する目的でペリメータファン6を設けている。ペリメータファン6は、対象空間S内の室内空気A2を窓面に沿って上向きに送り出すようになっている。このペリメータファン6の作動により、ペリメータゾーンPの床面付近から上方へ向かう室内空気A2の流れを形成すれば、外気によって冷却された窓面付近の室内空気A2がコールドドラフトとなってペリメータゾーンPより内側のインテリアゾーンIへ向かうのを妨げ、上方の吸込口16へ送り込むことができる。また、これにあわせ、ペリメータファン6に向けて近傍の変風量装置5から室内空気A2を送り出すようにすれば、ペリメータファン6の動作と相俟って、温度の高い室内空気A2をペリメータゾーンPの外縁付近まで供給することもできる。
ただし、このようにペリメータファンを設けたとしても、上述したようなコールドドラフトや居住域への暖気の供給不全への対策としては十分でない場合もある。室内空気の温度を測定するための温度センサが天井付近に設けられている以上、その測定値と、床面近傍における空気の温度とは乖離する場合があり、前記温度センサの測定値に基づいて空調システムが運転されていれば、やはりペリメータゾーンに十分な暖気が供給されない事態も想定し得る。例えば、変風量装置からペリメータファンに十分な量の暖気を供給できていない場合や、室内の上下間で空気に温度差が生じている場合には、天井付近の温度センサで把握される温度がペリメータゾーンの床面付近の温度よりも高くなる。その結果、ペリメータゾーンの近傍における床面付近の実際の温度状況が変風量装置の運転に反映されず、天井の近傍は快適な温度に維持されたとしても、居住域の温度が低いままとなってしまうといった事態が生じ得るのである。
このような事態の対策として、単に変風量装置における設定温度を上げることも考えられるが、仮にそのようにした場合、例えば冬期から中間期に近づいて外気温が上昇し、室内の上下間における温度差が小さくなったタイミングで、逆に居住域の温度が上がりすぎてしまう懸念がある。
そこで、本実施例の空調システムでは、床面近傍の空気の温度を推定し、これを設定値に近づけるような制御を行うようにしている。一般的な空調システムでは、天井付近に設置した温度センサの測定値に基づいて各機器の運転を行うために上述の如き問題が生じるのであるが、床面近傍の空気の温度に基づいた運転をすれば、居住域の温度を快適に保つことができる。
以下、本明細書では、床の近傍にある室内空気A1の温度を「床近傍温度」と称する。本明細書における「床近傍温度」とは、床面の付近である0cm以上10cm未満、または居住域である10cm以上170cm以下における空気の温度を指す。また、「天井温度」とは、床面から170cm以上で且つ天井3以下の高さにおける空気の温度を指すものとする。すなわち、天井温度センサ9は、天井3の高さに設けてもよいし、それより低い位置に(床面から170cm以上の高さであれば)設けてもよい。
ここで、床面近傍の空気の温度は、床面付近に温度センサを設ければ実測値として取得できる。しかしながら、空調の対象とするオフィスビル等である建物の目的の位置すべてに温度センサを設置すれば、その数は膨大になってしまい、設置費用が嵩むうえ、管理も面倒である。これを避けるため、本実施例では、機械学習モデルを用いて床近傍温度を推定することで、センサの設置に係るコストを減らしつつ、床近傍温度に基づいた運転を行うことができるようにしている。
ただし、機械学習モデルを用いて床近傍温度を推定するにしても、床近傍に設置する温度センサの数をゼロにすることはできない。機械学習モデルの生成に用いる学習データには正確な測定値が必要であるし、また、ある位置の床近傍温度を推定する際に、別の位置の床近傍温度の値を測定値として取得し、これを用いる場合もあるからである。
本実施例においては、後述する基準階以外の階では、図1、図2に示す如く、ペリメータゾーンPの近傍に位置する変風量装置5のうち、一部の変風量装置5の平面視における近傍に、床近傍温度センサ11を設けている(図1には、側面視における床近傍温度センサ11の位置を破線にて示している)。床近傍温度センサ11は、ペリメータゾーンPにおいて人等の存在する高さである床面またはその近傍に設置され、周囲の空気の温度を計測するセンサである。
ここで、床近傍温度センサ11は、床面やその付近における室内空気A1の温度を床近傍温度として測定する場合には0cm以上10cm未満の高さに設ければよいし、10cm以上170cm以下(居住域)の高さにおける室内空気A1の温度を測定する場合にはその高さに設ければよい。あるいは後者の場合、例えば0cm以上10cm未満の高さに床近傍温度センサ11を設置し、天井温度センサ9における測定値と、床近傍温度センサ11における測定値に基づき、差分を両センサ間の距離で按分し、求めたい高さの温度を算出するようにしてもよい。
床近傍温度センサ11の平面視における設置位置は、各ペリメータファン6(図1参照)の設置位置に対して内側(すなわち、窓や壁から見てペリメータファン6のさらに内側に床近傍温度センサ11が位置するという位置関係)とすると好適である。ペリメータファン6は通常、対象空間Sの内側に面する側から室内空気A2を取り込んで上方へ送り出すように配置される。このため、ペリメータファン6に対して内側に床近傍温度センサ11を設けると、ペリメータファン6に取り込まれる床面付近の室内空気A2が床近傍温度センサ11に対し動きながら接触するので、床近傍温度センサ11において好適に床近傍温度を取得することができる。
尚、図1では説明の便宜のため、2台の空調機1、1個の対象空間S、2個の吹出口4および2台の変風量装置5、1台のペリメータファン6、計2個の吸込口7,16を簡単に図示したが、これはあくまで説明のための模式的な図であって、実際の空調システムにおいては、空調機1や変風量装置5の設置台数を変更したり、複数の対象空間Sに給気A1を導く構成としてもよい。対象空間Sあたりの吹出口4の設置数も、対象空間Sの広さ等に応じて適宜変更し得る。また、実際の空調システムにおいては、ここに示した機器類の他にも各種の機器やセンサ等が設置されるが、本発明の趣旨と直接関係しない構成については、適宜図示を省略している。
このような空調システムは、例えば図3に示す如く、ある建物の全体に対して設置することができ、各階には例えば図2に示す如く、ペリメータゾーンPに面する変風量装置5の一部に関し、平面視におけるその近傍の位置に床近傍温度センサ11が設置される。ここに示した例では、各対象空間SのペリメータゾーンPに関し、平面視における各辺毎に1個ずつ、床近傍温度センサ11を設置している(尚、ここでいう「ペリメータゾーンPに面する変風量装置5」とは、「ペリメータゾーンPに対し空気を供給する変風量装置5」程度の意味である)。ペリメータゾーンPの温度状況は、外気に面した窓面や壁を介して外皮負荷(風向や日照等)の影響を受けやすく、同じ建物あるいは対象空間S内であっても窓面や壁の方位によって大きく異なるが、同じ室内で且つ建物に対する方角が同じであれば、概ね同じような温度状況になると考えられるからである。
つまり、各階の各対象空間SのペリメータゾーンPは、方角によって異なる温度状況上の特性に応じ、原則として大きく4系統に分けることができ、例えば北東に面する窓や壁と、北西に面する窓や壁を有する対象空間Sについては、北東側のペリメータゾーンPと、北西側のペリメータゾーンPの2系統のペリメータゾーンを有していると見なすことができる(尚、特殊な形状の階あるいは対象空間Sについては、無論この限りではなく、より多系統のペリメータゾーンPを有すると見なし得る場合も想定できる)。そして、これら各系統に該当するペリメータゾーンP毎に、機械学習モデルである温度推定モデルMを生成する(温度推定モデルMの生成については後に詳述する)。
尚、上に説明したような方角によるペリメータゾーンの系統分けや、それによる温度推定モデルの作成はあくまで一例である。実際に温度推定モデルを生成するにあたり、ペリメータゾーンの分け方や温度推定モデルの作り方は、現場の温度状況等に応じて適宜設定し得る。
また、図2にはペリメータゾーンPに設置された変風量装置5、および床近傍温度センサ11のみを図示しているが、実際にはインテリアゾーンIにも変風量装置5が適宜配置されているほか、ペリメータファン6や天井温度センサ9といった機器類も図1に示す通りに配置されていることは勿論である。また、図3には空調システムの全体図として簡略化された建物および空調システムを図示し、また各階に空調機1(ペリメータ空調機1b)や変風量装置5を1台ずつ図示しているが、実際の建物の階数はここに示した階数と異なっていてもよいこと、各階にはより多くの空調機1や変風量装置5が設置されていてもよいことは言うまでもない。むろん、各階の間取りや、各対象空間Sにおける変風量装置5の配置は、図2に示した構成とは異なっていてもよい。
建物を構成する階のうち、一部の階においては、図4に示すように、ペリメータゾーンPに面する変風量装置5の全台に関し、その近傍に床近傍温度センサ11を設置している。後述する温度推定モデルMを生成するための学習データD(図3参照)に使用する、床近傍温度の実測値を採集するためである。
図4に示す如く、ペリメータゾーンPに面する変風量装置5の全台に対して床近傍温度センサ11を設置する階(以下、「基準階」と称する)は、例えば間取りが共通する複数の階のうち特定の一部階とするとよい。間取りが共通していれば、温度状況は概ね同じようになると考えられるからである。つまり、例えば11階から40階までの間取りが同じ建物において、11階~40階を対象とする場合には、25階を基準階と設定し、25階で採集された床近傍温度の実測値を学習データDに使用して温度推定モデルMを生成し、11階から40階までの他の階における床近傍温度の推定に用いればよい。尚、間取りが共通していても、高さが大きく異なればそれに応じて温度状況にも差が生じることも考えられるので、そういった場合は、例えば18階と32階をそれぞれ別の基準階としてもよい。すなわち、18階を第一の基準階として採集した学習データに基づき第一の温度推定モデルを生成し、11階から24階までの他の階における床近傍温度の推定に用い、また、32階を第二の基準階として採集した学習データに基づき第二の温度推定モデルを生成し、25階から40階までの他の階における床近傍温度の推定に用いるのである。あるいは、例えば近傍のビルの影などの影響により特定の階を境に温度状況が大きく変化するような場合、前記特定の階の上下でそれぞれ別の温度推定モデルを適用してもよい。このように、基準階の設定や、ある温度推定モデルを適用する対象は、各種の条件を勘案して適宜決定すればよい。
各階の空調は、図3に示す如く空調機1、変風量装置5、ペリメータファン6、天井温度センサ9、床近傍温度センサ11および制御装置10によって運転され、各階における空調の運転状況は、各階の制御装置10に接続された中央監視装置12により監視され、統御される。中央監視装置12は、建物全体の空調システムやその他のシステム(電気システム等)を総合的に監視する装置である。中央監視装置12には、さらに温度推定部13が接続され、温度推定部13にはモデル生成部14が接続される。温度推定部13およびモデル生成部14は、例えばパーソナルコンピュータ等の情報処理装置である。温度推定部13は、後述するように、各階のペリメータゾーンP(図1、図2参照)における床近傍温度を推定する。モデル生成部14は、温度推定部13が床近傍温度を推定するための温度推定モデルMを生成する。温度推定モデルMは、学習データDに基づいて生成され、床近傍温度に関係するパラメータを説明変数とし、ある位置における床近傍温度を推定する機械学習モデルである。すなわち、例えばある階の特定の対象空間Sの北側にあたるペリメータゾーンPの複数箇所における床近傍温度を、後述する種々のパラメータに基づいて推定するようになっている。また、モデル生成部14は、後述するように、生成した温度推定モデルMをスケジュールに合わせて更新するようにもなっている。
温度推定モデルMによる床近傍温度の推定には、例えば以下のパラメータを用いることができる。
・外気温度(複数の高さ(例えば、屋上と高層および低層)にて取得した値を用いてもよい)
・日射量(日射計100によって測定される日射量の実測値、または日射量推定部101によって算出される日射量の推定値)
・日射の有無(対象の位置が日向か日影か)
・空調機1の運転状態(オフ/冷房/暖房/送風、給気温度の目標値、給気量。床近傍温度を推定したい位置の空調を担当する空調機1における値を使用してもよいし、その他の空調機1における値を使用することもできる)
・空調機1における給気温度の実測値
・流出熱量(対象空間Sから外部へ流れる熱の量。室内外の温度差に基づき算出できる)
・ペリメータゾーンPに面する変風量装置5の運転状態(オン/オフ、設定温度、要求風量)
・天井温度センサ9の測定値(現在値。さらに、それより過去に取得した値)
・風向(複数の高さ(例えば、屋上と高層および低層)にて取得した値を用いてもよい)
・風速(複数の高さ(例えば、屋上と高層および低層)にて取得した値を用いてもよい)
・降雨量
・床近傍温度センサ11の測定値(床近傍温度を推定したい位置とは別の位置に設置された床近傍温度センサ11の測定値)
・ペリメータファン6の運転状態(オン/オフ、風量)
・日付(月または日の少なくとも一方)
・時刻(時間または分の少なくとも一方)
・曜日(日月火水木金土、または、休日か平日か)
温度推定モデルMの入出力構成の一例を図5に示す。入力される説明変数は、中央監視装置12から取得される外気温度(過去30分の平均値)、日射量(過去30分の平均値)、日射の有無、ペリメータゾーンPおよびインテリアゾーンIの各空調機1の運転状態、それらにおける給気温度の実測値、ペリメータゾーンPに面する変風量装置5の運転状態、流出熱量、および各所に設置された天井温度センサ9の測定値である。これらを入力値とし、目的の各位置における床近傍温度の推定値を出力する。
このような温度推定モデルMは、変風量装置5の系統単位毎に作成し、各ペリメータ空調機1b毎に、対応する位置の床近傍温度を出力できるようにする。ここに示した例では、計8台の変風量装置5を備えた空調系統に用いる温度推定モデルMを想定しており、8台の変風量装置5の位置に対応した8通りの床近傍温度の推定値を出力するようになっている。尚、床近傍温度センサ11が設置されている位置に関しては、その測定値を使用すればよいので、温度推定モデルによる床近傍温度の推定は必要ない。
図5に示した例では、温度推定モデルMに対し、計8箇所の天井温度センサ9における現在および過去の値を説明変数として入力し、計8箇所の位置における床近傍温度の推定値を算出するようになっている。過去値としては、5分刻みで30分前までの値を使用している。尚、温度推定モデルに入力する天井温度センサの測定値の入力数(図5では8個)や、目的の推定値(床近傍温度)の出力数(同じく図5では8個)はあくまで一例であって、実際のシステムにおける天井温度センサの設置数や、床近傍温度を推定したい場所の数によって適宜変更してよい。また、入力する過去値の数や、何分前までの過去値を使用するか、何分おきの過去値を使用するか、などについても、空調システムやモデルを設計する際に適宜設定してよい。
ここで、ある位置における床近傍温度を推定するにあたっては、上にも挙げたように、別の位置に設置された床近傍温度センサ11の実測値を用いてもよい。例えば、図2における右辺の一箇所における床近傍温度を推定しようとする場合に、同じ部屋の同じ辺(同じ系統のペリメータゾーンP内)に設置された床近傍温度センサ11の測定値を説明変数として用いるといったことも可能である。ただし、温度推定モデルMに入力する説明変数として、各所に設けた天井温度センサ9における測定値を使用すると、別の位置に設置された床近傍温度センサ11の実測値を用いる場合と比べ、目的の位置における床近傍温度を特に精度よく推定できる場合もあることが、本願発明者らの研究によって明らかになっている。
オフィスビルの部屋等である対象空間Sでは、床上に仕切りが設置されていたり、排熱のある機器類が配置されているなどして、たとえ同じ室内の同じペリメータゾーンであっても、位置が異なれば熱的状況が大きく異なる場合もしばしばある。そのような場合、目的の位置の床近傍温度と、別の位置における実測値との相関が低いため、目的の位置とは別の位置における床近傍温度センサ11の実測値を目的の位置の床近傍温度を推定するための説明変数として入力すると、出力される推定値が実際の数値と乖離する可能性も考えられる。一方、天井付近の熱的状況には、床の近傍と比べれば仕切りや機器の排熱等による変化や位置ごとの差が生じにくいので、実際の対象空間S内の状況にもよるが、天井3やその付近に設置された天井温度センサ9の測定値の方が、説明変数としてはより有用である場合が多いと考えられる。例えば図5に示した温度推定モデルMのように、天井温度の推移やパターンを考慮するモデルを用いれば、床近傍温度を精度よく推定することができる。尤も、例えばある位置における床近傍温度を推定したい場合に、その位置の熱的状況が床近傍温度センサ11の備えられた別の位置の熱的状況と似通っていることがわかっているような場合には、前記別の位置の床近傍温度センサ11の測定値を説明変数として利用することが有効であることも想定できる。また、説明変数として天井温度センサ9の現在値や過去値を用いつつ、さらに精度を高める意図で、別の位置の床近傍温度センサ11の測定値をも用いるようにしてもよい。
尚、上記パラメータのうち、外気温度、降雨量、日射量についても、床近傍温度の予測値に対し時間差で影響することが考えられる。そこで、これらの値についても、予測したい時点より前(例えば、10分~30分程度前)の実測値をパラメータとして採用してもよい。
また、ペリメータファン6の運転状態を温度推定モデルMに反映させることもできるが、その際、ペリメータゾーンPの熱的状況がペリメータファン6の運転状態の影響を特に大きく受けることを考慮し、ペリメータファン6の運転状態を説明変数として使用する代わりに、あるいはペリメータファン6の運転状態を説明変数として使用するのに加えて、ペリメータファン6の運転状態によって温度推定モデルM自体を使い分けても良い。すなわち、例えばペリメータファン6の運転状態がオンのときの温度推定モデルM(温度推定モデルMONとする)と、オフのときの温度推定モデルM(温度推定モデルMOFFとする)をそれぞれ生成しておき、ペリメータファン6の運転状態に応じて温度推定モデルMON、MOFFを切り替えるのである。
また、各パラメータとしては、ここに例示したものに代えて、単位あるいは定義の異なる同等のパラメータや、関連するパラメータを用いることができる。また、上に例示したパラメータの他に、床近傍温度に関連する何らかの別のパラメータを用いても良い。また、値の規格化や中心化といった処理を適宜行っても良いことは勿論である。
学習データDは、空調システムの稼働中、各階(特に、基準階)の制御装置10や、その他の図示しないセンサ類等から中央監視装置12に蓄積された空調の運転に関するデータのセットであり、温度推定部13に格納される。モデル生成部14は、学習データDに基づいて温度推定モデルMを生成し、温度推定部13に格納する。
モデル生成部14による温度推定モデルMの生成について説明する。温度推定モデルMとしては、線形回帰、リッジ回帰、勾配ブースティング、ランダムフォレスト等、各種の形式のモデルを採用することができるが、例えば多入力・多出力のニューラルネットワークを用いて温度推定モデルMを生成すれば、床近傍温度を精度よく推定することができる。ここで、特に二層線形ニューラルネットワークを用いると、2週間程度の短い学習期間でも過学習を起こすことなく、精度のよい推定が可能である。その他、三層ニューラルネットワークや、LSTMのような時系列ニューラルネットワークを用いても、高精度の推定が可能である。
温度推定モデルMの生成に用いる学習データDは、図1~図3に示す如き空調システムを実際に運転した際の、様々な時点あるいは位置における床近傍温度に関連する各種のパラメータ(例えば、上に例示したようなパラメータ)と、床近傍温度の実測値とを記録したデータセットである。床近傍温度の実測値は、基準階のペリメータゾーンPの各所に設置された床近傍温度センサ11から取得する。また、床近傍温度に関連するパラメータの一部は、空調機1や天井温度センサ9、変風量装置5の制御部等から取得することができる。
学習データDには、複数の時点における上記各パラメータと共に、基準階において取得されたその時点の床近傍温度の実測値が記録される。
モデル生成部14は、学習データDを用いて機械学習を行い、各種のパラメータに基づき、各階のペリメータゾーンP各所の床近傍温度を推定する温度推定モデルMを生成する。ニューラルネットワークを用いて温度推定モデルMを生成する場合、モデル生成部14が、学習データDに記録された上述の各種パラメータから複数のパラメータを適宜取捨選択し、また必要に応じてそれぞれに規格化・中心化などの加工や重みづけを施し、選択肢のパターンを形成していく。形成したパターンから推定される床近傍温度と、基準階の床近傍温度センサ11で取得された実際の床近傍温度とを比較しながら、パターンを修正する作業を繰り返し、機械学習によって精度の高い温度推定モデルMを最終的に生成する。生成された温度推定モデルMは、対象の空調システムにおいて、床近傍温度に関連するパラメータから、ある位置の床近傍温度を推定するモデルとなっている。
そして、本実施例の空調システムは、上述の如き温度推定モデルMを定期的に自動で更新し、これにより、床近傍温度の推定に関し精度を高く保ちながら運用を継続できるようになっている(尚、以下に説明する例では、更新に供するべく新しいモデルを作成したものの、結果的に採用されず、既存のモデルを使用し続けることもあり得るが、本明細書では説明の便宜のため、そういった場合も「更新」と称することとする。すなわち、本明細書でいう「更新」とは、運用中のモデルをバージョンアップすることのみを指すのではなく、バージョンアップを前提とした一連の作業を指すものとする)。
機械学習モデルである温度推定モデルの更新について、図6のタイムチャートを参照しながら説明する。上に述べたような床近傍温度の推定値に基づく運転が必要となるのは主に外気温度が低く暖房運転を行う冬期であるので、ここでは冬期暖房時(例えば、11月1日~3月31日)における空調システムの運転を想定して説明する。
本実施例の場合、温度推定モデルとして、モデル生成部14(図3参照)が定期的に(例えば、月に2度)新しいモデルを作成する。温度推定モデルを用いた床近傍温度の推定値に基づく運転を11月1日から開始する場合、まず既存のモデルAを用いて床近傍温度を推定しながら運転を行う。これと並行して、新しいモデルBを作成するための学習データの採集を開始する。学習データの採集期間は適宜設定してよいが、例えば30日間とする。モデルBは、11月1日から30日までの30日間に採集された学習データに基づき作成される。30日間分の学習データのうち、例えばはじめの5分の4(11月1日~24日の24日間分)を訓練データに、残りの5分の1(11月25日~30日の6日分)をテストデータに当て、新しいモデルBを作成する(ホールドアウト法;尚、訓練データとテストデータの割合は一例であって、適宜変更することができる)。
モデルBの作成は、既存のモデルAをベースに、これに再学習を施すことで行われる。再学習の内容は、具体的には重みづけとバイアスの変更によるモデルの修正であり、層数やニューロン数、活性化関数などのハイパーパラメータ調整までは行わない。再学習の具体的な方法としては、例えば誤差逆伝播法や、2層のニューラルネットワークであれば最小二乗法といった手法を用いることができる。新しい機械学習モデルを一から生成するのではなく、また既存のモデルの構造自体を作り変えることもなく、一部のみを修正して新しいモデルを作成することで、更新に係る計算量を大幅に節減することができる。
24日分の訓練データによりモデルAに再学習を施して作成したモデルについて、6日分のテストデータを用いて推定誤差のテストを行う。テストロスを算出する操作を繰り返し実行し、エポック毎の誤差を示す学習曲線を作成する。学習曲線における誤差が最小となるモデルを、新しいモデルBとして採用する。このとき、24日分の訓練データをさらに分割し、ミニバッチ学習によってモデルBの候補となるモデルを複数、作成する。また、ある一定のエポック数を通して誤差が増え続けた場合に学習を打ち切るアーリーストッピングを採用してもよい。
テストデータによるテストの際には、K-分割交差検証ではなく、常に過去のデータから作成したモデルを使ってそれより後の床近傍温度を推定し、精度を確認する。すなわち、上述のように、データの採集開始から24日間の訓練データから抜き出したデータに基づいてモデルを作成し、その後の6日分のテストデータで精度を確認する。尚、時系列データ向けのホールドアウト法(訓練データの時系列を考慮したホールドアウト法)は存在するが、30日間程度の学習データでは十分な数のモデルの作成・検証ができないため、ここでは採用しない。ただし、訓練データ間の時間的な関係が推定にとって特に重要である場合や、学習データをより長く取れるような運用を行う場合などはこの限りではない。モデルの検証に際しては、データの性質や、システムの運転条件等に応じ、その都度適した手法を採用し得る。
ここで、テストデータとしては、6日分のデータのうち、空調機(床近傍温度を推定したい目的の位置の空調を担当するペリメータ空調機)が暖房運転を行っている条件のデータを用いると、空調オフ時の影響を除外して適切なモデルを選択することができる。一方、訓練データについては、暖房運転時のデータだけでなく、24日間分の全てのデータ(空調機の運転モードが冷房/暖房/送風あるいはオフのいずれかにかかわらず全てのデータ)を学習に使用した方が精度の良い温度推定モデルを得やすいことが、本願発明者らの研究で明らかになっている。
こうして、24日間分の訓練データを用いて作成した複数のモデルの精度を、6日間分のテストデータを用いて検証し、最も精度の高いモデルをモデルBとして採用する。
続いて、運用中の既存のモデルAと、新しいモデルBとの精度を比較検証し、どちらをその後の運用に用いるかを決定する。この新旧モデルの精度の検証期間は、例えば15日間である。11月1日~30日の間のデータを学習データとして作成した新しいモデルBで、続く12月1日~15日の15日間、床近傍温度の推定を行う。並行して、既存のモデルAでも床近傍温度の推定を行う(既存のモデルAは運用中のモデルであるので、11月1日から12月15日まで、床近傍温度の推定を継続することになる)。そして、12月1日~15日の15日間における床近傍温度の推定精度を、モデルAとモデルBとで比較する。推定精度の比較は、例えば床近傍温度センサを設けた位置における床近傍温度を推定し、その値を前記床近傍温度センサの測定値と比較してRMSE値を算出すれば、該RMSE値の大小によって判定できる。より精度の高かった方のモデルを、続く12月16日からの運用に採用する。
ここで、新旧のモデルA,Bの精度の比較検証の際には、空調機の運転モード(オフ/冷房/暖房/送風)によらず全てのデータを用いてRMSE値を算出するようにすると、検証に係る期間を短くし、新しいモデルを採用する場合には該新しいモデルを早期に実用に供することができる。上述のように、機械学習モデルの推定精度は時間と共に低下していくため、一般にモデルは新しいほど精度が高いと言える。新しく作成したモデルを極力早く運用に用いることで、推定精度をより高く保つことができる。
モデルA,Bの比較検証と並行して、11月16日からはさらに新たなモデルCのための学習データの採集を開始する。モデルCは、11月16日~12月15日の30日間に採集した学習データを用い、既存のモデルを修正して作成される(モデルCの候補モデルを作成する時点において、運用中のモデルはモデルAであるので、モデルCはモデルAを原型に作成される)。作成された新しいモデルCで、続く12月16日~30日の15日の間、床近傍温度の推定を行う。その間、モデルA,Bのうち採用されたモデルにより、並行して床近傍温度の推定が行われているので、これら2つのモデルによる15日間の推定の精度を改めて比較する。より精度の高いモデルをシステムに紐付け、1月1日からの運用に用いる(12月は31日まであるが、新旧モデルの精度の比較は30日までのデータに基づいて行う。31日までの床近傍温度の推定は、現行のモデル(モデルA,Bのうち採用されたいずれか)にて運用する。ただし、これは単なる一例であって、例えば16日~31日の16日間のデータを検証に用いてもよい。その他、月の日数に起因して生じる端数の部分にあたるデータの取り扱いについては、本発明を実施する者が適宜決定すればよい。あるいは、月次や日付によらず、例えば決まった日数や経過時間毎に更新を行うようにしてもよい)。
こうして、新しいモデルを半月毎に作成し、その都度、より精度の高いモデルを採用することを繰り返しながら空調システムの運用を行っていく。一個のモデルで運用を続けると、原則として精度は時間経過と共に低下していくが、システムが自動で新しいモデルを作成し、より精度の高いモデルを選択し更新していくので、精度を実用上十分に高い範囲に保ちながら運用を続けることができる。モデルを更新するためにデータサイエンティスト等の人員は必要ないので、更新にかかる手間や費用を大幅に節減することができる。その際、誤差逆伝播法のように、モデルの構造は変更せず、モデルの各所における重みづけのみを変更する手法で既存のモデルを修正し、新しいモデルを作成するようにすれば、計算負荷を大きく低減し、実用上無理のない範囲で機械学習モデルによる運用を行うことができる。
尚、ここに説明したスケジューリングはあくまで一例である。モデルの更新を適用する期間や、更新するサイクルの長さ、学習データの採集や検証といった各工程の長さ等については、システムの構成や求める推定データの性質等に合わせて適宜変更し得る。
ここで、上に述べたような機械学習モデルの自動更新は、特に本実施例の如く空調の運転に用いる何らかの値の推定に用いる場合に特に好適である。空調の運転に係る諸条件は、季節の影響が大きく、年単位で周期的に変化するからである。このような性質を有する数値の推定は、上述の如き定期的にモデルを更新する方式と相性が良い。すなわち、推定したい数値に関係する各種の条件は時間経過と共に確実に変化していくので、定期的な更新によって精度を保ちやすいのである。プログラムによるモデルの生成のされ方によっては、ある期間におけるあるパラメータの時間的な変化が目的の推定値に反映される場合もあると思われるが、季節によって変化する空調に係る値はまさにそうした時間経過に伴う変化の影響を受ける性質を有しているので、精度の高いモデルが作成できる可能性が高い。むろん、空調に係る諸条件にも突発的な要因の影響は無視できないが、そうした要因の影響に対して季節的な要因の影響が大きいので、やはり精度の高いモデルが作成されやすいことが期待できる。
尚、本実施例のシステムでは、対象の建物について系統別に複数の温度推定モデルを生成している。よって、上述したような温度推定モデルの更新作業も、各モデル毎にそれぞれ実行される。各温度推定モデルは、全て同じ手法・規格で生成してもよいが、位置毎に異なる手法や規格で生成することもできる。尚、一旦生成し、運用を開始した温度推定モデルは、その後の更新では重みづけが変更されるのみであり、原則として規格や構造が変更されることはない。
上述の如きスケジュールにおけるモデルの更新に係る手順は、例えば図7に示すフローチャートにまとめることができる。モデル生成部14(図3参照)は、スケジューラによって設定された日時に、温度推定モデルMの更新プログラムを起動する(ステップS1)。更新プログラムは、更新の基礎とするモデル、すなわち現在運用中の温度推定モデルを呼び出す(ステップS2)。続いて、その回の更新に用いる期間のデータを学習データとして読み込み、再学習を実行する(ステップS3)。
再学習によって既存のモデルから作成し、選抜した新しいモデルにより、目的とする数値(床近傍温度)の推定を開始する(ステップS4)。並行して、運用中のモデルでも、床近傍温度を推定する運用を続ける。比較検証のためのデータが揃った段階で、新旧のモデルによる推定精度を互いに比較する(ステップS5)。新しいモデルの推定精度が運用中のモデルより高ければ、新しいモデルを運用中のシステムに紐付け(ステップS6)、その回の更新作業を終了する。新しいモデルの推定精度が運用中の既存のモデルより低ければ、該既存のモデルの運用を継続することとし、そのままその回の更新作業を終了する。
図6においてモデルAを更新する場合を例に説明すると、ステップS1~S3は、再学習のためのデータが揃った11月30日のタイミングで実行され、ステップS4は、その後の12月1日~15日の間に実行される。ステップS5の判定は、比較に必要なデータが揃った12月15日に実行される。
図8は図7と異なる更新の手順の一例を示している。基本的には図7の手順と同様であり、定期的に新しい機械学習モデルを作成するようにしているが、図8の手順では、推定精度を新旧のモデル間で比較するのではなく、新しいモデルの推定精度を基準値と比較する点で異なっている(ステップS7)。すなわち、新しく生成したモデルの推定精度が基準値よりも高ければ、(仮に既存のモデルの推定精度の方が新しいモデルよりも高いとしても)新しいモデルを選択する(ステップS6)。新モデルの推定精度が基準を下回る場合には、既存のモデルをそのまま使用する。このようにすると、新旧のモデルの推定精度を比較する工程(図7におけるステップS4,S5)が不要であり、新しく作成したモデルを短時間で実用に供することができる。図6におけるモデルAとモデルBの例を比較対象として説明すると、12月1日~15日の比較検証の期間が不要であり、11月1日~30日に採集した学習データを元に作成したモデルBの推定精度が基準値より高ければ、12月1日からモデルBによる運用を開始することができる。尚、上に述べたような空調システムでは複数の温度推定モデルMが並行して運用されるが、これらの更新に際して使用する推定精度の基準値は、モデル間で共通の値であってもよいし、モデル毎に異なっていてもよい。
図9は図7、図8と異なる更新の手順のさらなる一例を示している。図9の手順では、運用中のモデルの推定精度を定期的に評価し、精度が基準値より低い場合に新たなモデルを作成するようになっている。スケジューラにより設定日時に起動された更新モデルは(ステップS1)、まず現在運用中のモデルによる目的の値(床近傍温度)の推定の実績データを呼び出す(ステップS8)。例えば直近15日分の推定値を実測値と比較してRMSE値を算出し、これを基準値と比較する(ステップS9)。RMSE値が基準値よりも低い場合には、現行のモデルで十分な精度の推定が可能であると判断できるので、現行のモデルによる運用をそのまま継続することとし、手順を終了する。RMSE値が基準値以上であった(すなわち、推定精度が基準値以下であった)場合には、新しいモデルの作成に必要な学習データを呼び出し、再学習を実行して新しいモデルを作成する(ステップS3)。作成したモデルを以降の運用に用いるモデルとして採用し(ステップS6)、更新を終了する。
このような手順では、推定精度の低下を定期的にチェックしつつ、基準よりも精度が低い場合にのみ新たなモデルを作成するので、計算負荷を低減することができる。また、推定精度の検証は、運用中のモデルによる実績値として既に取得されたデータを用いて行うので、図8に示した手順と同様、精度の検証に時間がかからないというメリットがある。
尚、ここに説明した空調システムのシステム構成や温度推定モデルMの生成、床近傍温度の推定等に係る手順はあくまで一例である。床近傍温度に関連する上述の如き各種パラメータから温度推定モデルMを生成し、これを用いて床近傍温度を推定し得る限りにおいて、システム構成や各種の手順等は種々変更することができる。例えば、ここでは中央監視装置12に温度推定部13を接続し、該温度推定部13にモデル生成部14を接続した構成を例示したが、システムを構成する各機器間の接続関係は適宜変更し得る。また、モデルの更新の手順についても、更新を好適に実行し推定の精度を高く保ち得る限りにおいて、上に述べた例を適宜変更してよい。
また、上では冬期暖房時における床近傍温度の推定を念頭に説明を行ったが、本発明を適用し得る状況はこれに限定されない。例えば、将来における空調負荷を予測する場合など、空調システムの運転に用いる何らかの数値を推定したい場合に適宜利用することができる。
以上のように、上記本実施例の空調システムは、空調の運転に用いる値を推定する機械学習モデル(温度推定モデル)Mを定期的に自動で更新することにより、機械学習モデルMの推定精度を保ち得るよう構成されている。このようにすれば、システムが自動で新しいモデルを作成し、更新していくことにより、精度を実用上十分に高い範囲に保ちながら空調システムの運用を続けることができる。
また、上記本実施例の空調システムは、機械学習モデルMの更新が、既存の機械学習モデルMを修正して新しい機械学習モデルMを作成することで行われるよう構成されている。このようにすれば、新しい機械学習モデルを一から生成するのではなく、既存のモデルを修正することでモデルの更新を実行するので、更新に係る計算量を節減することができる。
また、上記本実施例の空調システムは、機械学習モデルMの更新における新しい機械学習モデルMの作成が、既存の機械学習モデルMの構造を変更することなく、重みづけを変更することで行われるよう構成することができる。このようにすれば、既存のモデルの構造自体を作り変えることなく、一部のみを修正することによりモデルの更新を実行するので、更新に係る計算量をさらに節減することができる。
また、上記本実施例の空調システムは、新しい機械学習モデルMを定期的に作成し、該新しい機械学習モデルMの推定精度と、運用中の機械学習モデルMの推定精度を比較して、推定精度の高い方の機械学習モデルMを以降の運用に採用するよう構成することができる。このようにすれば、より精度の高いモデルを選択し更新していくことにより、推定精度を高い範囲に保ちながら空調システムの運用を続けることができる。
また、上記本実施例の空調システムは、新しい機械学習モデルMを定期的に作成し、該新しい機械学習モデルMの推定精度が基準値よりも高いことを条件として、新しい機械学習モデルMを以降の運用に採用するよう構成することもできる。このようにすれば、新旧のモデルの推定精度を比較する工程を不要とし、新しく作成したモデルを短時間で実用に供することができる。
また、上記本実施例の空調システムは、運用中の機械学習モデルMの推定精度を定期的に基準値と比較し、運用中の機械学習モデルMの推定精度が基準値よりも低いことを条件として新しい機械学習モデルMを作成し、以降の運用に採用するよう構成することもできる。このようにすれば、基準よりも精度が低い場合にのみ新たなモデルを作成するので、計算負荷を低減することができる。また、推定精度の検証は、運用中のモデルによる実績値として既に取得されたデータを用いて行うので、精度の検証に時間がかからず、作成したモデルを短時間で実用に供することができる。
また、上記本実施例の空調システムにおいて、機械学習モデルMは、空調の運転に用いる値としてペリメータゾーンPの床近傍温度を推定するよう構成された温度推定モデルである。このようにすれば、床近傍温度の推定値を用いる空調システムにおいて上述の作用効果を奏することができる。
したがって、上記本実施例によれば、機械学習モデルの更新を自動で好適に実行し得る。
尚、本発明の空調システムは、上述の実施例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
M 機械学習モデル(温度推定モデル)
P ペリメータゾーン

Claims (7)

  1. 空調の運転に用いる値を推定する機械学習モデルを定期的に自動で更新することにより、前記機械学習モデルの推定精度を保ち得るよう構成されていること
    を特徴とする空調システム。
  2. 前記機械学習モデルの更新は、既存の機械学習モデルを修正して新しい機械学習モデルを作成することで行われるよう構成されていること
    を特徴とする請求項1に記載の空調システム。
  3. 前記機械学習モデルの更新における新しい機械学習モデルの作成は、既存の機械学習モデルの構造を変更することなく、重みづけを変更することで行われるよう構成されていること
    を特徴とする請求項2に記載の空調システム。
  4. 新しい機械学習モデルを定期的に作成し、該新しい機械学習モデルの推定精度と、運用中の機械学習モデルの推定精度を比較して、推定精度の高い方の機械学習モデルを以降の運用に採用するよう構成されていること
    を特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の空調システム。
  5. 新しい機械学習モデルを定期的に作成し、該新しい機械学習モデルの推定精度が基準値よりも高いことを条件として、前記新しい機械学習モデルを以降の運用に採用するよう構成されていること
    を特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の空調システム。
  6. 運用中の機械学習モデルの推定精度を定期的に基準値と比較し、前記運用中の機械学習モデルの推定精度が基準値よりも低いことを条件として新しい機械学習モデルを作成し、以降の運用に採用するよう構成されていること
    を特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の空調システム。
  7. 前記機械学習モデルは、空調の運転に用いる値としてペリメータゾーンの床近傍温度を推定するよう構成された温度推定モデルであることを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載の空調システム。
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