JP2023131774A - 水処理用固形薬剤、水処理用固形薬剤の製造方法、およびそれを用いた水処理装置 - Google Patents

水処理用固形薬剤、水処理用固形薬剤の製造方法、およびそれを用いた水処理装置 Download PDF

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Abstract

Figure 2023131774000001
【課題】凝集剤の溶解性を低減し、長期間にわたり安定した凝集剤濃度を提供可能な水処理用固形薬剤、水処理用固形薬剤の製造方法、およびそれを用いた水処理装置を提供する。
【解決手段】水処理用固形薬剤1は、被処理水中の処理対象物質に作用する凝集剤15と、凝集剤15の溶解性を低減させる賦形剤17と、を含む。水処理用固形薬剤1は、凝集剤を10~80重量パーセント、賦形剤を20~90重量パーセント含有することが好ましい。
【選択図】図1

Description

本発明は、水処理用固形薬剤、水処理用固形薬剤の製造方法、およびそれを用いた水処理装置に関するものである。
従来から、工業排水や生活排水中の微粒子を除去する方法として沈殿処理法と呼ばれる方法が用いられている(特許文献1参照)。この沈殿処理法においては、被処理水が貯められた凝集反応槽に有機凝結剤や高分子凝集剤を添加後、都度撹拌を行うことで微粒子を含むフロックを成長させる。その後、沈殿槽にて静置することでフロックを沈殿させ、微粒子が除去された水が得られる。
また、生活水等に用いる浄水を得る方法として、微粒子等を濾過する濾過部を有する水処理装置の開発が行われている。水処理装置の中には、マイクロフロック濾過法(以下、単に「フロック濾過法」という。)と呼ばれる方法が用いられる場合がある(特許文献2参照)。このフロック濾過法においては、濾過材の上流側において凝集剤が被処理水に供給される。その後、微粒子が凝集剤によってフロック化された直後に、フロックが濾過材によって被処理水から除去される。なお、安定した品質の浄水を得るためには、水処理方法の処理条件の変化が小さいことが好ましい。このため、凝集剤は被処理水中の濃度変化が小さいことが好ましい。
一般に、液体の凝集剤を水処理に用いる場合には、当該凝集剤を水に溶解した後、凝集剤溶液を、注入ポンプを用いて被処理水に注入している。これにより、被処理水へ凝集剤を一定濃度で供給し、安定した品質の処理水を得ている。しかし、この方法は、使用する注入ポンプが高価であることから、被処理水の浄化にコストが掛かることや、注入ポンプや凝集剤溶液を貯留するタンクが嵩張るため装置全体が大きくなること、凝集剤溶液の作成に手間がかかること、重くて変形する溶液のため運搬に労力がかかること、注入する経路がスケール等により狭窄あるいは閉塞した場合に凝集剤を安定して供給できなくなること、といった問題がある。
特許第6798867号公報 特許第5698881号公報
そこで、凝集剤を固形化し、固形状の凝集剤を被処理水に添加することで、上記4つの問題を解決することを検討した。しかし、凝集剤は、水に完全に溶解させた後にポンプで注入することが前提であるため、素早く溶解するように構成されている。このため、固形の凝集剤を通水路に静置するなどして、被処理水に溶解させて添加する方法を試みたが、固形の凝集剤が被処理水に素早く溶解してしまい、長期間にわたる微粒子除去を行うことができないという課題や、凝集剤濃度が安定せず効果的に微粒子除去を行うことができないという課題があり、安定した水質の浄水を得ることが困難であった。
そこで本発明は、上記従来の課題を解決するものであり、固形化された凝集剤の溶解性を低減し、長期間にわたり安定した凝集剤濃度を提供可能な水処理用固形薬剤、水処理用固形薬剤の製造方法、およびそれを用いた水処理装置を提供することを目的とする。
そして、この目的を達成するために、本発明に係る水処理用固形薬剤は、被処理水中の処理対象物質に作用する固形化された凝集剤と、凝集剤の溶解性を低減させる固形化された賦形剤と、を含むものであり、これにより所期の目的を達成するものである。
また、この目的を達成するために、本発明に係る水処理用固形薬剤の製造方法は、被処理水中の処理対象物質に作用する凝集剤と、凝集剤の溶解性を低減させる賦形剤と、を溶媒に溶解させる溶解工程と、溶媒中で凝集剤と賦形剤とを混練する混練工程と、溶媒を蒸発させ、凝集剤と賦形剤の混合体を得る蒸発工程と、混合体を成形する成形工程と、を含む。
また、この目的を達成するために、本発明に係る水処理用固形薬剤の製造方法は、被処理水中の処理対象物質に作用する凝集剤と、凝集剤の溶解性を低減させる賦形剤と、を分散媒中で混合する混合工程と、分散媒を蒸発させ、凝集剤と賦形剤の混合体を得る蒸発工程と、混合体を成形する成形工程と、を含み、分散媒としてアルコールを100重量%用いる。
また、この目的を達成するために、本発明に係る水処理装置は、本発明に係る水処理用固形薬剤を備える。
本発明によれば、被処理水の浄化を安価に行うことができ、長期間にわたり安定した凝集剤濃度を提供可能な水処理用固形薬剤、水処理用固形薬剤の製造方法、およびそれを用いた水処理装置を提供することができる。
図1は、本実施の形態1に係る水処理用固形薬剤1の構成を示す概念図である。 図2は、本実施の形態1に係る効能部10の構成を示す概念図である。 図3は、本実施の形態1に係る保護部20の構成を示す概念図である。 図4は、本実施の形態1に係る水処理用固形薬剤1を製造する際に用いられる金型の模式図である。 図5は、本実施の形態1に係る水処理用固形薬剤1aの製造方法を示すフロー図である。 図6は、本実施の形態2に係る水処理用固形薬剤1bの製造方法を示すフロー図である。 図7は、本実施の形態3に係る水処理用固形薬剤1cの製造方法を示すフロー図である。 図8は、本実施の形態3に係る水処理装置の模式図である。 図9は、本実施例に係る凝集剤溶液を注入する試験用水処理装置を示す図である。 図10は、被処理水中の凝集剤濃度と除濁率の相関を示す図である。 図11は、水処理用固形薬剤1を通水路中に置く試験用水処理装置を示す図である。 図12は、実施例1~33および比較例1~3の水処理用固形薬剤の詳細をまとめた図である。 図13は、実施例1~5および比較例1の被処理水中の凝集剤濃度と除濁率の評価結果をまとめた図である。 図14は、実施例1~5および比較例1の9.5L通水時の被処理水中の凝集剤濃度、除濁率、溶解性、単位溶解速度、溶解持続時間、浄化可能な被処理水量をまとめた図である。 図15は、実施例6~10および比較例2の被処理水中の凝集剤濃度と除濁率の評価結果をまとめた図である。 図16は、実施例6~10および比較例2の9.5L通水時の被処理水中の凝集剤濃度、除濁率、溶解性、単位溶解速度、溶解持続時間、浄化可能な被処理水量をまとめた図である。 図17は、実施例11~28の9.5L通水時の被処理水中の凝集剤濃度、除濁率、溶解性、単位溶解速度、溶解持続時間、浄化可能な被処理水量をまとめた図である。 図18は、かき混ぜ型粉体混合物、結合型粉体混合物、相溶化粉体の顕微鏡観察写真を示す図である。 図19は、実施例4および実施例29~30の被処理水中の凝集剤濃度と除濁率の評価結果をまとめた図である。 図20は、実施例4および実施例31~32の被処理水中の凝集剤濃度と除濁率の評価結果をまとめた図である。 図21は、実施例4および実施例31~32の効能部の露出面積比と被処理水中の凝集剤濃度比をまとめた図である。 図22は、比較例3の「カオリンのみ時の除濁率」、「カオリン+鉄イオン時の除濁率」および「カオリン+鉄イオン時の除鉄率」の評価結果をまとめた図である。 図23は、実施例4の「カオリンのみ時の除濁率」、「カオリン+鉄イオン時の除濁率」および「カオリン+鉄イオン時の除鉄率」の評価結果をまとめた図である。 図24は、実施例33の「カオリンのみ時の除濁率」、「カオリン+鉄イオン時の除濁率」および「カオリン+鉄イオン時の除鉄率」の評価結果をまとめた図である。
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施の形態は、本発明を具体化した一例で合って、本発明の技術的範囲を限定するものではない。また、実施形態において説明する各図は、模式的な図であり、各図中の構成要素の大きさ、厚さ、および存在比等の各比率が、必ずしも実際の比率を反映しているとは限らない。
{実施の形態1}
まず、図1を参照して、本発明の実施の形態1に係る水処理用固形薬剤1(以下、固形薬剤1と称する)について説明する。図1は、本実施の形態1に係る固形薬剤1の構成を示す概念図である。図2は、本実施の形態1に係る効能部10の構成を示す概念図である。
水処理の方法として、例えば、被処理水に固形薬剤1を添加する例を以下に説明する。添加された固形薬剤1は、当該固形薬剤の構成成分を水中に徐放する。被処理水に懸濁している微粒子は、水の電離の影響を受けて負に帯電しているため、正電荷を有する固形薬剤1を用いた場合、固形薬剤1の電気中和作用により帯電が解消され、懸濁微粒子同士が結合して基礎フロックが形成される。この反応を凝結反応という。また、高分子有機化合物を含む固形薬剤1においては、基礎フロックどうしがつなぎ合わされる、すなわち架橋作用を受けて粗大フロックが形成される。この反応を凝集反応という。そして、凝結反応および凝集反応によって生成した基礎フロックおよび粗大フロック(以降まとめてフロックと称する)を沈殿あるいは濾過等により被処理水から除去することで、被処理水から懸濁微粒子を除去し、浄水を得ることが可能である。
固形薬剤1は、効能部10と、保護部20とを有して構成される。また、固形薬剤1では、効能部10の側面が保護部20で被覆される。
図2および図3を参照して、効能部10および保護部20について説明する。図2は、本実施の形態1に係る効能部10の構成を示す概念図である。図3は、本実施の形態1に係る保護部20の構成を示す概念図である。
効能部10は、被処理水中に含まれる微粒子との間で凝結反応単独、あるいは凝結反応および凝集反応を起こす。効能部10の作用により、被処理水中の微粒子を粗大化させ、沈殿あるいは濾過により被処理水から除去することで、被処理水の浄化を行うことができる。
効能部10の形状は問わないが、被処理水との接触面積確保、保護部20による表面被覆の容易さ、貯蔵時の省スペース化などの観点から、円筒状であることが好ましい。効能部10は、保護部20の中空空間25に格納され、効能部10の側面13が保護部20の内壁23と接して構成される。なお、保護部20の詳細については後述する。
効能部10の天面を形成する一端部11は、保護部20の保護部天面21と同一平面あるいは同一平面よりも内側(保護部20の保護部底面22側)に位置する。一端部11は、その形状は問わないが、被処理水との接触面積を一定とするために、略平面であることが好ましい。
効能部10の底面を形成する他端部12は、保護部20の保護部底面22と同一平面あるいは同一平面よりも内側(保護部20の保護部天面21側)に位置する。一端部11は、その形状は問わないが、被処理水との接触面積を一定とするために、略平面であることが好ましい。
一端部11および他端部12をこのような構成とすることで、固形薬剤1を被処理水に添加した際に、効能部10が溶出して体積が減少していっても被処理水への効能部10の露出面積を常に略一定にすることができ、効能部10の溶出速度を一定とすることができる。したがって、長期間にわたり、被処理水中の凝集剤濃度を安定させることができる。なお、効能部10の一端部11あるいは他端部12のうち少なくとも一方は、保護部20の中空空間25外に突出しないように構成する。
効能部10は、凝集剤15と、賦形剤17とを有して構成される。
凝集剤15は、被処理水中の微粒子に作用し、微粒子をフロックにして粗大化させる。凝集剤15として、無機凝結剤、有機凝結剤、および高分子凝集剤のうち、少なくとも1種を用いる。凝集剤15には、分子構造中に正電荷を有する薬剤を用いることが好ましい。正電荷を有する薬剤を用いることにより、負に帯電している微粒子に対し、電荷中和を行うことができ、凝結反応あるいは凝集反応を起こさせることで、微粒子を粗大化することができる。
無機凝結剤として、例えば、ポリ塩化アルミニウム(PAC)、ポリ硫酸アルミニウム、ポリ硫酸第二鉄、臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム(CTAB)、塩化ベンザルコニウム、キトサンオリゴ糖、塩化鉄、または硫酸バンド(硫酸アルミニウム)等を用いることができる。
有機凝結剤として、例えば、ポリDADMAC(PolyDiallylDiMethylAmmonium Chloride)、ポリアミン、ジシアンジアミド系高分子等を用いることができる。ポリアミンとして、例えば、ポリエチレンイミンを用いることができる。また、ジシアンジアミド系高分子として、例えば、ポリジシアンジアミドと塩化アンモニウムの反応物を用いることができる。これらの有機凝結剤は、無機凝集剤に比べて重量当たりの電荷密度が高い(1gあたりの正電荷のモル量を示すカチオン当量が4meq/g以上)ため、無機凝集剤と比較して極少量で凝結反応を得ることができる。
高分子凝集剤として、カチオン性の高分子凝集剤を用いることが好ましく、例えば、ポリDMAEMA(PolyDiMethylAminoEthylMethAcrylate、ポリメタクリル酸ジメチルアミノエチルエステル)等を用いることができる。
なお、無機凝結剤は強い凝結反応を起こし、凝集反応はほとんど起こさない。また、有機凝結剤は、少量で強い凝結反応および弱い凝集反応を起こす。そして高分子凝集剤は、少量で強い凝結反応および強い凝集反応を起こす。有機凝結剤と高分子凝集剤の凝集反応の差は、それらがどの位置に正電荷を有するかによるところが大きく、直鎖に位置にする有機凝結剤は弱い凝集反応を起こし、側鎖に位置する高分子凝集剤は強い凝集反応を起こす。強い凝集反応は、沈殿処理法においては有利に働く半面、フロック濾過法においては濾過材を巻き込んだ凝集塊(マッドボール)を生成して濾過部の閉塞を誘発するリスクを有する。
凝集剤15として、無機凝結剤、有機凝結剤、高分子凝集剤の3つの剤をそれぞれ単独で使用することも、3つの剤のうち2つを併用することも、3つ全てを併用することも可能である。
効能部10に対する凝集剤15の含有量は、10~80重量%であり、好ましくは10~40重量%である。凝集剤15の含有量が上記範囲内にあると、被処理水への溶解性を低減させることができ、好ましい。
賦形剤17は、凝集剤15の水への溶解性を低減させる薬剤である。賦形剤17を配合することにより、効能部10の溶解性が低減する。
賦形剤17として、タマリンドシードガム、カチオン化グアーガム、グアーガム、キサンタンガムなどの増粘多糖類やポリエチレングリコール、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース等を用いることができ、タマリンドシードガム、カチオン化グアーガム、グアーガム、ポリエチレングリコールを用いるのが好ましく、より好ましくは、タマリンドシードガム、カチオン化グアーガム、グアーガムを用いることである。
賦形剤とは、薬剤用語の一つであり、医薬品等において、薬剤を嵩増しして取扱い性を向上させる目的や薬剤加工性を向上させる目的で使われる。本発明においては、上記目的に加え、最も重要である凝集剤15の溶解性制御(溶解性の抑制)の役割を果たしている。賦形剤17は、水酸基などの極性基を多く有するため、凝集剤15が、賦形剤17の極性基に引き付けられて水素結合等により弱く結合する。その結果、凝集剤15の水への溶解を抑制することが可能となる。
賦形剤17を配合することにより、固形薬剤1中の凝集剤15の配合率が下がる。賦形剤17は凝集剤15よりも溶解性が低いため、固形薬剤1では、凝集剤15単独の場合よりも見かけ上の溶解性が下がり、凝集剤15の水中濃度は低減される。しかし、単に賦形剤17の増加分に対応して固形薬剤1の見かけ上の溶解性が低減するだけではなく、賦形剤17を使うことで凝集剤15の溶出速度そのものを低減することが可能となる。この賦形剤17による凝集剤15への溶出速度低減効果は、本発明者らによって見出されたものである。
効能部10に対する賦形剤17の含有量は、20~90重量%であり、好ましくは60~90重量%である。賦形剤17の含有量が上記範囲内にあると、凝集剤15の溶出速度および溶解性を低減でき、長期間凝集剤成分を溶出させることができる。したがって、長期間(例えば2週間)にわたり、効能部10の形状を保持しつつ、凝集剤成分を溶出させることができるため好ましい。
保護部20は、効能部10を水との接触から保護する。具体的には、保護部20は、効能部10の側面13を被覆することにより、効能部10が被処理水等の水と接触して、吸水し、膨張し、溶解又は崩壊することを抑制する作用を有する。ここで、保護部20が効能部10を水との接触から保護する作用とは、保護部20を通して水が効能部10の側面13に至ることを抑制する作用を意味する。なお、保護部20は、効能部10を水との接触から保護する作用を有する限りにおいて、被処理水等の水と接触して、吸水し、膨張し、溶解又は崩壊するものであってもよい。また、保護部20は、効能部10と同程度の時間で溶解または崩壊するものであると効能部10の残存を目視で確認しやすいため、より好ましい。
保護部20として、水溶性の薬剤を用いることが好ましい。水溶性の薬剤を用いない場合、被処理水中に保護部20の成分が残存し、濾過による水処理を行う場合などでは濾過部に到達して蓄積した場合、濾材の閉塞が生じてしまう。
保護部20に用いる薬剤として、例えば、トリクロロイソシアヌル酸、ジクロロイソシアヌル酸等の塩素含有化合物、でんぷんやグアーガム、タマリンドガム等の多糖類が用いられる。このうち、塩素含有化合物は、被処理水の水処理後に得られる処理後水中の塩素濃度を高くすることにより、被処理水に含まれる細菌等を殺菌したり、鉄イオン等を酸化凝集させたりして鉄濃度の低い処理後水を得やすいため好ましい。また、保護部20がジクロロイソシアヌル酸塩又はトリクロロイソシアヌル酸を主成分とするものであると好ましい。
保護部20の形状は問わないが、被処理水との接触面積確保、保護部20での表面保護の容易さ、貯蔵時の省スペース化などの観点から、天面および底面、つまり両端が開口した円筒状であることが好ましい。図3に示す保護部20は、保護部天面21と、保護部底面22と、内壁23と、を有して構成され、内部に中空空間25を有する。
保護部天面21は、保護部20の天面を形成する面であり、中央に開口を有する。保護部天面21と同一平面あるいはより内方(保護部底面22側)に効能部10の一端部11があることが好ましい。これにより、効能部10の側面13を水との接触から保護しつつ、開口部分で一端部11が水と接触することができる。
保護部底面22は、保護部20の底面を形成する面であり、中央に開口を有する。保護部底面22と同一平面あるいはより内方(保護部天面21側)に効能部10の他端部12があることが好ましい。これにより、効能部10の側面13を水との接触から保護しつつ、開口部分で他端部12が水と接触することができる。
内壁23は、保護部20の内壁であり、効能部10の側面13と接する。これにより、側面13を水との接触から保護することができる。
中空空間25は、効能部10を格納可能な空間である。中空空間25を鉛直方向上方から見た形状および面積は、効能部10を鉛直方向上方から見た形状および面積と略一致する。
保護部20をこのように構成することで、固形薬剤1を被処理水に添加した際に、被処理水への効能部10の露出面積を一定にすることができ、効能部10の溶出速度を一定とすることができる。
また、固形薬剤1は、凝集剤15、賦形剤17のそれぞれの含有割合の合計が100重量%を超過しないように配合比を設定し、その配合比を任意に変更可能である。また、必要に応じて打錠時に金型から抜きやすくするための滑沢剤などの添加物等を配合してもよい。
そして、固形薬剤1は、25℃における被処理水への溶出速度が、0.01~2mg/min/cmであり、より好ましくは0.02~0.2mg/min/cmである。溶出速度がこの範囲内であれば、溶解初期の凝集剤濃度の急上昇や乱高下を抑制しつつ、被処理水へ凝集剤を所望の濃度で安定的に供給することができる。
(固形薬剤の製造方法)
次に、図4および図5を参照して、本実施の形態1に係る固形薬剤1の製造方法について説明する。図4は、本発明に係る固形薬剤1を製造する際に用いられる金型5の模式図である。図5は、本実施の形態1に係る固形薬剤1の製造方法を示すフロー図である。
本実施の形態1の固形薬剤1は金型5を用いて、凝集剤15と、賦形剤17とを混合した混合物を、加圧して錠剤状とすることによって製造することができる。
金型5は、金型5aと金型5bおよび金型5cを有して構成される。
金型5aは、製造時に固形薬剤1の原料が投入される部材である。金型5aは、内部空間6を有する筒状の部材であり、筒状部の少なくとも一端が開口している。
内部空間6の直径D1は、固形薬剤1の直径と略一致する。金型5aの内部空間6に固形薬剤1の原料が投入される。内部空間6の形状により、固形薬剤1の形状が決定される。
金型5bは、上部加圧部7と基部8を有し、金型5aの内部空間6と篏合する。
上部加圧部7は、金型5aの開口に挿し込まれ、固形薬剤1の原料を加圧する部材である。加圧部7の直径D2は、内部空間6の直径D1と略一致し、内部空間2への挿入および取り出しが可能な直径とする。
基部8は、加圧部7と一体に成形され、加圧部7に圧力を伝達する部材である。
金型5cは、底蓋部9を有し、金型5aの内部空間6と嵌合する。
底蓋部9は、金型5aの開口のうち、上部加圧部7が挿し込まれる開口とは別の開口に挿し込まれ、金型5aの底面に蓋をする部材である。
なお、金型5a、金型5bおよび金型5cの素材は、特に限定されず、金属であってもよいし、樹脂であってもよい。
図5を用いて、固形薬剤1の製造方法について説明する。
まず、粉状の凝集剤15と、粉状の賦形剤17とを秤量し、秤量さじでかき混ぜたり、秤量容器を振ったりするなどして混ぜ合わせることにより、かき混ぜ型粉体混合物を調製する(混合工程:ステップS1a)。
そして、かき混ぜ型粉体混合物に圧力を加え成形することにより、効能部10を得る(成形工程:ステップS2a)。
成形工程の詳細な手順を説明する。まず、蒸発工程により得られた凝集剤15と賦形剤17とを含むかき混ぜ型粉体混合物を、金型5cが嵌め合わされ、底部が底蓋部9によって塞がれた金型5aの内部に充填する。当該かき混ぜ粉体混合物を金型5aに充填した後、金型5aの上部開口から金型5bを挿し込み、かき混ぜ粉体混合物に圧力を加える。これにより、かき混ぜ粉体混合物が圧縮され、かき混ぜ粉体混合物中の空隙が除去されて緻密化する。なお、かき混ぜ粉体混合物の加圧条件は特に限定されず、効能部10が所望の密度になるように調整することができ、例えば、混合固体を、室温条件下、1~100MPaの圧力で加圧することが好ましい。
そして、金型5aの内部から成型体を取り出すことにより、効能部10を得ることができる。
得られた効能部10を、保護部20の開口に挿入し、効能部10の一端部11が保護部天面21より突出しないように、また他端部12が保護部底面22より突出しないように合体させ形成することで、固形薬剤1を得る(挿入工程:ステップS3a)。
以上の製造方法により、凝集剤15と賦形剤17とを原料として、固形薬剤1を得ることができる。
以上、本実施の形態1に係る固形薬剤1によれば、以下の効果を享受することができる。
(1)固形薬剤1は、被処理水中の微粒子等の処理対象物質に作用する凝集剤15と、凝集剤15の溶解性を低減させる賦形剤17と、を含む。
このような構成により、被処理水に対する固形薬剤1の溶解性を低減することができ、長期間にわたり被処理水中の凝集剤濃度を所定の値にすることが可能となる。
(2)賦形剤17を用いて固形薬剤1を形成した。これにより、凝集剤15単独の場合と比較し、高い強度を有する固形薬剤1とすることができる。また、凝集剤15単独の場合と比較し、賦形剤17を配合することにより、固形薬剤1の体積を適切な大きさにすることができる。そのため、運搬時や保管時等の取扱いが容易な固形薬剤1とすることができる。
(3)有機凝結剤および高分子凝集剤は基本的に低圧縮性であり、単体での圧縮成形性が高くない。したがって、高圧縮性であり粉体結合性の高い賦形剤17を配合することにより、圧縮成形性が向上するため、容易に固形薬剤1が得られる。
(4)固形薬剤1は、25℃における被処理水への溶出速度が、0.01~2mg/min/cmであり、より好ましくは0.02~0.2mg/min/cmである。溶出速度がこの範囲内であれば、溶解初期の凝集剤濃度の急上昇や乱高下を抑制しつつ、被処理水へ凝集剤を所望の濃度で安定的に供給することができる。
{実施の形態2)
次に、図6を参照して、本実施の形態2に係る固形薬剤1bの製造方法について説明する。図6は、本実施の形態2に係る固形薬剤1bの製造方法を示すフロー図である。
実施の形態2に係る固形薬剤1bの製造方法は、凝集剤15および賦形剤17を混合する際の手順が実施の形態1と異なり、その他、得られる固形薬剤1の構成等は実施の形態1と同様である。以下、実施の形態1で説明済みの内容は再度の説明を適宜省略し、実施の形態1と異なる点を主に説明する。
本実施の形態2の固形薬剤1bは、凝集剤15と、賦形剤17とを混合した混合物を、金型5を用いて、加圧して錠剤状とすることによって製造することができる。
まず、粉状の凝集剤15と、粉状の賦形剤17とを秤量し、分散媒を加えて分散させる(分散工程:ステップS1b)。分散媒として、エタノールやイソプロピルアルコール、ブタノールなどのアルコールを用いることができる。
次に、分散媒を揮発させ、凝集剤15と賦形剤17とを含む結合型粉体混合物を得る(蒸発工程:ステップS2b)。
そして、結合型粉体混合物に圧力を加え成形することにより、効能部10bを得る(成形工程:ステップS3b)。成型工程の詳細な手順は実施の形態1と同様である。
得られた効能部10bを、保護部20の開口に挿入し、効能部10bの一端部11が保護部天面21より突出しないように、また他端部12が保護部底面22より突出しないように合体させ形成することで、固形薬剤1bを得る(挿入工程:ステップS4b)。
以上の製造方法により、凝集剤15と賦形剤17とを原料として、固形薬剤1bを得ることができる。
以上、本実施の形態2に係る固形薬剤1によれば、実施の形態1で得られる効果(1)~(4)に加え、以下の効果を享受することができる。
(5)実施の形態2の製造方法によって固形薬剤1bを作製することにより、凝集剤15と賦形剤17とが単に混合しているだけでなく、粉体レベルで均一化しており、かつ、賦形剤17と凝集剤15とが分離せず互いに絡みついて粉体レベルで結合させることができる。そのため、固形薬剤1bの溶解初期時において、凝集剤15だけが先に溶出することを抑制でき、溶解初期の凝集剤濃度の急上昇を抑制することができる。
{実施の形態3)
次に、図7を参照して、本実施の形態3に係る固形薬剤1cの製造方法について説明する。図6は、本実施の形態3に係る固形薬剤1cの製造方法を示すフロー図である。
実施の形態3に係る固形薬剤1cの製造方法は、凝集剤15および賦形剤17を混合する際の手順が実施の形態1と異なり、その他得られる固形薬剤1cの構成等は実施の形態1と同様である。以下、実施の形態1で説明済みの内容は再度の説明を適宜省略し、実施の形態1と異なる点を主に説明する。
本実施の形態3の固形薬剤1cは、凝集剤15と、賦形剤17とを混合した混合物を、金型5を用いて、加圧して錠剤状とすることによって製造することができる。
まず、凝集剤15と、賦形剤17とを秤量し、溶媒に溶解させる(溶解工程:ステップS1c)。溶媒として水を用いることができる。
次に、溶解した凝集剤15と賦形剤17とを混錬する(混練工程:ステップS2c)。混合方法は特に限定されないが、固形薬剤1中での凝集剤15の粒子および賦形剤17の粒子が互いに相溶化するように混練して混練体を得る。なお、ここで相溶化とは、粒子同士が分子レベルで結合していることを示す。
次に、回転刃を持つ回転ミルで混練体を粉砕微細化する(粉砕工程:ステップS3c)。
次に、溶媒を蒸発させ、凝集剤15と賦形剤17とを含む相溶化粉体を得る(蒸発工程:ステップS4c)。相溶化粉体中の凝集剤15と賦形剤17は相溶化して一体となっており、顕微鏡像からは両者の区別はつかない状態となっている。得られた相溶化粉体は、効能部10の原料となる。
なお、ステップS3cとステップS4cは入れ替えが可能だが、ステップS3cを先に行うことにより、材料の表面積が増えるため、溶媒の蒸発時間を短縮することができる。
そして、相溶化粉体に圧力を加え成形することにより、効能部10cを得る(成形工程:ステップS5c)。成型工程の詳細な手順は実施の形態1と同様である。
得られた効能部10cを、保護部20の開口に挿入し、効能部10cの一端部11が保護部天面21より突出しないように、また他端部12が保護部底面22より突出しないように合体させ形成することで、固形薬剤1cを得る(挿入工程:ステップS6c)。
以上の製造方法により、凝集剤15と賦形剤17とを原料として、固形薬剤1cを得ることができる。
以上、本実施の形態3に係る固形薬剤1cによれば、実施の形態1および実施の形態2で得られる効果(1)~(5)に加え、以下の効果を享受することができる。
(6)実施の形態3の製造方法によって固形薬剤1cを作製することにより、凝集剤15と賦形剤17とが単に混合しているだけでなく、相溶化させることができる。相溶化によって、分子レベルで凝集剤15と賦形剤17とが均一分散しつつ結合しているため、固形薬剤1cの溶解初期時において、凝集剤15だけが先に溶出することをより強く抑制でき、溶解初期の凝集剤濃度の急上昇を抑制することができる。
{実施の形態4)
図7を参照して、本発明の実施の形態4に係る水処理装置50について説明する。図7は、本発明の実施の形態4に係る水処理装置50の構成を示す概念図である。なお、図7では、水処理装置50の各要素を概念的に示している。
実施の形態4に係る水処理装置50では、水処理に用いる薬剤として、実施の形態1に係る固形薬剤1を用いている。以下、実施の形態1で説明済みの内容は再度の説明を適宜省略し、実施の形態1と異なる点を主に説明する。
水処理装置50は、水源52から供給される被処理水を浄化する装置である。水処理装置50は、例えば、戸建て住宅や集合住宅、商業施設などの建物に水を導入する水道管と連結して設置されてもよく、その場合、建物に導入される被処理水を浄化する。住宅に水処理装置50を設置する場合、例えば、各戸に1つずつ設けられてもよい。
水源52は、自然に存在する水を保持する場所であり、例えば、井戸、河川もしくは池等を含む。つまり、水源52からは、天然水を被処理水として得ることができる。
なお、被処理水とは、例えば、水道水の原料になる水であり、井戸、河川もしくは池等の水源から汲み出した水や雨水が該当し、微粒子等を含んでいる。
微粒子とは、例えば砂、シルト、粘土や酸化鉄粒子等が挙げられるが、これらに特に限定されることはなく、被処理水中に含まれる粒子であれば除去対象となる。微粒子として、例えば、粒子径が0.2~15μmの粒子であれば除去することが可能である。微粒子は、その多くが負に帯電し、被処理水中では微粒子同士が互いに反発しあっている。また、被処理水に含まれる酸化鉄粒子は、例えば、地中に含まれる鉄が溶出した後に酸化してできた粒子である。
図7に示すように、水処理装置50は、流入口51と、通水ポンプ53と、通水管54と、薬剤添加部55と、濾過部57と、浄水排出口58とを有して構成される。
流入口51は、通水ポンプ53によって水源52から汲み上げられる被処理水を装置内に導入する開口である。流入口51は、通水管54の上流端に位置する。
通水管54は、被処理水を流通させ、内部で被処理水の浄化を行う管である。通水管54の上流端には流入口51が設けられ、下流端には浄水排出口58が設けられる。通水管54は、流入口51および通水ポンプ53を連通接続する。また、通水管54は、通水ポンプ53および薬剤添加部55を連通接続する。また、通水管54は、薬剤添加部55および濾過部57を連通接続する。また、通水管54は、濾過部57および浄水排出口58を連通接続する。
通水ポンプ53は、水源52から被処理水を汲み上げ、水処理装置50に供給する。通水ポンプ53は、通水ポンプ下流へと被処理水を送水する。通水ポンプ53は、薬剤添加部55の上流に設けられる。通水ポンプ53は、流入口51の位置と、水源52の水位との間の高低差によって送水量が変動しないように出力制御できる。
薬剤添加部55は、被処理水に実施の形態1に記載の固形薬剤1を添加する。薬剤添加部55には、被処理水に添加される固形薬剤1が格納される。薬剤添加部55は、通水管54と直接接続されていてもよいし、通水管54の横に置いた薬剤添加部55と通水管54とを別の配管で接続してもよい。薬剤添加部55は、濾過部57の上流に設けられる。なお、固形薬剤1の代わりに、固形薬剤1b、もしくは固形薬剤1cを用いてもよい。
濾過部57は、通水管54によって薬剤添加部55と連通接続されている。また、濾過部57は、通水管54によって、浄水排出口58と連通接続されている。濾過部57は、薬剤添加部55の下流に設けられる。濾過部57は、固形薬剤1により形成されるフロックを含有する水を濾過する。濾過部57は、フロックを含有する水を濾過することができれば、特に限定されない。濾過部57は、例えば、容器と容器内に充填された濾過材とを含んでいてもよい。
濾過部57の濾過材として、砂、アンスラサイト、ガーネット、セラミックス、オキシ水酸化鉄、水中で沈降し、圧力で変形しにくい硬度をもつものを単一層又は多層にした粒状濾過材、マンガン砂、粒状活性炭等の濾過材表面に吸着能を持たせた粒状濾過材、繊維、プラスチック等の織物や不織布濾過材、膜濾過材などの深層濾過と言われている濾過現象を示す濾過材を、特に制限すること無く利用できる。濾過材としてマンガン砂を用いる場合、マンガン砂の密度は、例えば2.57g/cm~2.67g/cmとすることができる。マンガン砂のマンガン付着量は、0.3mg/g以上であることが好ましい。
浄水排出口58は、濾過部57によって濾過された被処理水を、浄水として装置外に供給する開口である。浄水排出口58は、通水管54の一端であり、流入口51とは異なる一端に設けられる。浄水排出口58から得られる浄水は、濁度が低減され、生活水として用いることができる。生活水とは、例えば、家事、入浴、炊事、飲用等の日常生活に用いる水を含む。
((処理の流れ))
水処理装置50による被処理水の浄化方法について説明する。まず、通水ポンプ53により、微粒子を含む被処理水が水源52から流入口51を介して装置内に導入される。水処理装置50内に導入された被処理水は、通水ポンプ53により通水管54を流通する。流入した被処理水が薬剤添加部55に到達すると、被処理水は固形薬剤1と接触する。この時の、被処理水に対する凝集剤15濃度は、例えば0.005ppm~0.2ppmとなる。この範囲の場合には、フロックの粗大化を原因とした濾過部57の閉塞を抑制可能なため、好ましい。
添加された固形薬剤1は、被処理水中の微粒子と作用し、濾過部57で濾過される濾過対象物質が形成される。
例えば、固形薬剤1は、被処理水中の微粒子と凝結反応あるいは凝集反応を起こし、フロックが形成される。また、凝集剤の有する正電荷によって濾過部57の濾過材の負の帯電についても中和可能であり、微粒子やフロックと、濾過材との電荷反発を解消できる。電荷反発が解消された結果、フロックが濾過されやすくなるため、除濁性能を向上させることが可能である。
形成されたフロックを含む被処理水は、通水管54を流通し、薬剤添加部55の後段に設けられる濾過部57に導入される。濾過部57に導入された被処理水は、被処理水中のフロックが濾過材によって濾過されるため、浄水となる。そして、濾過部57の下流に設けられる浄水排出口58からは、微粒子が除去された浄水を得ることができる。浄水は、生活用水として使用可能である。このようにして、被処理水から微粒子を除去することができる。
以上、本実施の形態4に係る水処理装置50によれば、実施の形態1~4で得られる効果(1)~(6)に加え、以下の効果を享受することができる。
(7)固形薬剤1を用いて水処理を行うことができるため、凝集剤溶液を貯留する薬液タンクと凝集剤溶液を注入する注入ポンプが不要となる。そのため、装置サイズのコンパクト化と装置にかかるコスト低減が可能となる。特に、装置サイズに関しては、薬剤添加部55と濾過部57を一体化することで更なるコンパクト化が可能となる。
(8)作成に手間がかかり、水を含むため重くて嵩張りかつ変形して運搬しにくい凝集剤溶液を、小さくて取扱いの容易な固形薬剤1に置き換えることで、水処理装置50の運用性を高めることが可能となる。
{実施例)
〔凝集剤濃度〕
まず、図9に示す水処理装置を用いて、被処理水中の凝集剤濃度と除濁性能の相関性を調べた。図9は、本実施例に係る凝集剤溶液を注入する試験用水処理装置を示す図である。得られた結果を、図10に示す。図10は、被処理水中の凝集剤濃度と除濁率の相関を示す図である。
(水処理装置)
図9に示す構成および濾過時の流路を有する水処理装置60において、通水ポンプ63を動かして通水試験を実施し、濾過通水時の除濁性能を評価した。
<水源、被処理水>
微粒子を清水に分散させ、後述する方法で濁度を100NTU(Nephelometric Turbidity Unit:NTU)としたものを水源62として用いた。清水とは、微粒子を添加していないきれいな水(イオン交換樹脂には通していない水)である。
微粒子として、カオリンおよび酸化鉄一水和物を用いた。カオリンは、0.2μmおよび4μmに粒度分布のピークを有する。また、酸化鉄一水和物は、6umに粒度分布のピークを有する。
そして、水源の調製時には、カオリンおよび酸化鉄一水和物を、それぞれの濁度が50NTU、合計100NTU、すなわち比率としてカオリンと酸化鉄一水和物が1:1となるように清水中に分散させた。
このカオリンの濃度と濁度の関係は1.6NTU/mgであった。すなわち、50NTUのカオリンを含有する水源1Lを得るために必要なカオリンは、31.2mgであった。また、この酸化鉄一水和物の濃度と濁度の関係は12.1NTU/mgであった。すなわち50NTUの酸化鉄一水和物を含有する水源1Lを得るために必要な酸化鉄一水和物は4.1mgであった。
<流入口、通水ポンプ、通水管、浄水排出口>
流入口61、通水ポンプ63、通水管64、浄水排出口68は、実施の形態4に記載の各構成と同様の構成とした。
なお、通水ポンプ63の通水流量は、0.47L/minとした。
<薬剤添加部>
通水ポンプ63の下流側と後述する濾過部67の間に、薬剤添加部65を設けた。
凝集剤溶液貯留タンク65aは、凝集剤溶液を貯留する槽または容器であり、凝集剤溶液貯留タンク65a、凝集剤溶液注入ポンプ65bおよび凝集剤溶液注入管65cを備える。
具体的には、通水ポンプ63と濾過部67を連通する通水管64に、横から凝集剤溶液注入管65cを接続し、凝集剤溶液注入ポンプ65bによって凝集剤溶液貯留タンク65a中の凝集剤溶液を被処理水に注入した。
凝集剤溶液注入ポンプ65bの通水量は一定とし、凝集剤溶液中の凝集剤濃度を変えることで被処理水中の凝集剤濃度が0.001~5ppm(ppmはmg/Lと同義)となるようにした。
用いた凝集剤は、カチオン性有機凝結剤に分類されるポリDADMAC(Polydiallyldomrthylammonium chloride)(重量平均分子量約100万、カチオン当量約6meq/g)であり、これをイオン交換水に溶かしたものを凝集剤溶液として用いた。
<濾過部>
濾過部67の外形容器として、内径45mmのガラス管67aを用いた。濾過部67は、下流側(浄水排出口68側)から順に、濾過材として、有効径0.35mmの酸化マンガン被覆砂を128mm充填して構成した酸化マンガン被覆砂層67bと、粒子径0.5~1.3mmの酸化鉄添着活性炭を103mm充填して構成した酸化鉄添着活性炭層67cと、を備える構成とした。酸化マンガン被覆砂67bおよび酸化鉄添着活性炭67cの充填容積は、それぞれ0.20Lおよび0.16Lであり、充填容積の合計は0.36Lである。
通水流量が0.47L/minであるため、そこから計算される濾過部57への被処理水の通水線速度は296mm/minであり、濾過材中に被処理水が滞留する時間は47秒となる。
なお、濾過部67には捕集された微粒子が蓄積されるため、試験条件を同一にするために、蓄積した微粒子を取り除いて各試験開始前の状態を同じにする必要がある。そのため、各試験が終了するごとに濾過部67を取り外して振り、微粒子を濾過材から脱離させた上で、洗浄水を浄水排出口68から濾過部67に流入させ、通水させることで洗浄した。洗浄水は濾過通水時の被処理水と同じく上記100NTUの水源とし、濾過部上部から排出される洗浄排水が洗浄水と同程度の濁度になるまで洗浄水を通水した。
なお、除濁性能の評価結果は、以下の測定および評価基準に基づいたものである。
(濁度)
水処理装置50に9.5Lを通水させた後に、浄水排出口68から取り出した浄水の濁度を濁度測定装置(HACH社製、型番2100Q)で測定した。そして以下の式を用いて除濁率を算出した。
除濁率(%)=(1-浄水の濁度/水源の濁度)×100
(凝集剤濃度の評価結果)
被処理水中の凝集剤濃度と除濁率の評価結果を図10に示す。図10は、被処理水中の凝集剤濃度と除濁率の相関を示す図である。
被処理水中の凝集剤濃度が0.005~0.2ppmの範囲において、90%以上の除濁率が得られることが判明した。
これは、凝集剤の有するカチオンの濃度が低すぎると電荷反発が解消しきれないために高い除濁率が得られず、逆にカチオンの濃度が高すぎると正に逆帯電してしまい、この場合でも高い除濁率が得られないことを示している。
そのため、高い除濁率を得るためには、被処理水中の凝集剤溶液の濃度は0.005~0.2ppmの範囲として処理を行うことが適切であるといえる。この結果から、凝集剤15の溶解性を制御すること、特に溶解性の高い凝集剤15の溶解性を低減させて最適な濃度を得ることは非常に重要であることが明らかとなった。
なお、最適な凝集剤濃度は水源の濁度ごとに異なるが、本実施例に用いた100NTUという濁度は、想定する処理対象水源のうちの大部分の水源を網羅する値であり、この濁度の水源において高除濁率を得られれば、多くの想定処理対象水源で浄水を得ることができる。
仮に100NTUよりも低い濁度、例えば20NTUの水源を処理する場合には、所定の濃度(例えば5NTU)まで低減するのに75%の除濁率でよいこととなり、この場合でも適用可能であるといえる。したがって100NTUで高い除濁率が得られれば、多くの想定処理対象水源で浄水目的の水処理に適用することが可能である。
〔各種固形薬剤の評価の概要〕
次に、図11に示す水処理装置を用いて、固形薬剤を適用した場合の被処理水中の凝集剤濃度、除濁性能および除鉄性能を評価した。以下、実施例および比較例を用いて各種の固形薬剤1をさらに詳細に説明するが、本実施形態はこれによって限定されるものではない。
(水処理装置)
図11は、実施例および比較例に用いた水処理装置50aの構成および濾過時の流路を示す図である。この水処理装置において、通水ポンプ53を動かして通水試験を実施し、凝集剤濃度および濾過通水時の除濁性能を評価した。
なお、凝集剤濃度の評価と除濁性能および除鉄性能の評価は別々の水源を使う必要があるため、同時には実施できない。今回の評価では被処理水中の凝集剤濃度の測定を先に実施し、その後、固形薬剤1を十分に乾かした上で除濁性能および除鉄性能の測定を実施した。
水処理装置50aは、薬剤添加部55と濾過部57が直接接続されている点以外は、実施の形態4に記載の水処理装置50と同一の構成である。
<流入口、通水ポンプ、通水管、浄水排出口>
流入口51、通水ポンプ53、通水管54、浄水排出口58は、実施の形態4に記載の各構成と同様の構成とした。なお、水源52を汲み上げ、被処理水として通水管54内に流通させる通水ポンプ53の通水流量は0.47L/minとした。
<薬剤添加部>
薬剤添加部55Aは、孔開き板55aを有し、下流側が濾過部57と直接接続されている。
孔開き板55aは、固形薬剤1を保持する板であり、固形薬剤1と被処理水とが薬剤添加部55A内で接触するように固形薬剤1を保持しつつ、被処理水が濾過部57に流通可能な孔を有する。孔の大きさは、固形薬剤1の大部分(例えば95%)が溶解した場合でも、固形薬剤1が通過しない大きさとすることが好ましい。
各試験の際には、固形薬剤1個を孔開き板55aの上に置いた。このように薬剤添加部55Aに固形薬剤を入れて通水することで、凝集剤15を所定の溶解速度で溶解させ、凝集剤15を被処理水に添加することができる。
<水源、被処理水>
実施例1~32、および比較例1~2の被処理水中の凝集剤濃度評価時:
後述するコロイド滴定法で被処理水中の凝集剤濃度を測定するため、清水中の妨害物質であるカルシウムイオン、マグネシウムイオン、塩化物イオンや有効塩素成分などをイオン交換樹脂(具体的にはオルガノ製純水器G-10D)で除去したイオン交換水を被処理水として用いた。濁度は0NTU、鉄濃度は0ppmである。
実施例1~32、および比較例1~2の除濁性能評価時:
前述したカオリンと酸化鉄一水和物を清水に分散させ、濁度をそれぞれ50NTU、合計100NTUとしたものを水源として用いた。
実施例4、実施例33および比較例3の除濁性能のみの評価時:
前述したカオリンのみを清水に分散させ、濁度を50NTUとしたものを水源として用いた。
実施例4、実施例33および比較例3の除濁性能および除鉄性能の同時評価時:
前述したカオリンのみを清水に分散させ、濁度を50NTUとしたものを水源として用いた。そして、通水ポンプ53と薬剤添加部55の間に位置する通水管54の横から差し込むように、鉄イオン源として塩化第一鉄四水和物溶液を注入ポンプで注入し(図不指示)、被処理水中の鉄濃度を3ppmとなるようにした。
<濾過部>
濾過部57Aは、下記点以外は図9に示した濾過部67と同様の構成とした。なお、濾過部57Aの入水側(上流側)は、薬剤添加部55Aの下流側と直接接続している。
凝集剤濃度測定時:
被処理水中に溶出した凝集剤15を濾過部57Aで除去しないようにするために、内径45mmのガラス管57aの中に何も充填していない空の濾過部57Aとした。(図11において、酸化マンガン被覆砂層57bおよび酸化鉄添着活性炭層57cがない状態である)。
除濁性能および除鉄層能測定時:
凝集剤溶液を注入して被処理水中の凝集剤濃度ごとの除濁性能を評価した時(図9及び図10)と同様の、酸化マンガン被覆砂層57bおよび酸化鉄添着活性層57cを内径45mmのガラス管57aの中に設けた濾過部57Aを用いた。
また、前述した方法で9.5L通水試験が終了するごとに洗浄を実施した。洗浄水として、カオリンを清水に分散した50NTUの水源を用いた。
(固形薬剤)
図12を用いて、実施例および比較例に用いた各固形薬剤について説明する。図12は、実施例1~33および比較例1~3の水処理用固形薬剤の詳細をまとめた図である。
以下の手順により直打型固形薬剤1d、分散型固形薬剤1e、相溶型固形薬剤1f、相溶型固形薬剤1g、無保護部固形薬剤1h、塩素剤複合固形薬剤1i、塩素のみ固形薬剤1jを作製した。
直打型固形薬剤1d、分散型固形薬剤1e、相溶型固形薬剤1f、相溶型固形薬剤1g、塩素剤複合固形薬剤1iは、図1に示すように効能部10と保護部20とを含む固形薬剤である。
無保護部固形薬剤1hは、効能部10のみで構成されているため、厳密には固形薬剤1ではないが、便宜上、無保護部固形薬剤1hと表記する。
塩素のみ固形薬剤1jは、保護部20のみで構成されているため、厳密には固形薬剤1ではないが、便宜上、塩素のみ固形薬剤1jと表記する。
<効能部>
以下に示す実施例および比較例全て(比較例3を除く)の固形薬剤において、凝集剤15と賦形剤17の合計秤量重量は作成した全てのサンプルにおいて1gとした。すなわち凝集剤が0.1g(配合率10%)であれば賦形剤は0.9g(配合率90%)であり、凝集剤が0.8g(配合率80%)であれば賦形剤は0.2g(配合率20%)である。なお、加圧成型後に成型体を金型5から抜きやすくするために、潤滑剤としてステアリン酸マグネシウムを配合したが、その配合率は0.5%と極少量であるため、配合率を0%とみなした。
効能部10として、試験内容に応じて、直打型効能部10d、分散型効能部10e、相溶型効能部10f、および相溶型効能部10gを用いた。
直打型効能部10d:(実施例29および比較例1~2)
同じ秤量容器の中に凝集剤15を0.1~1g、賦形剤17を0.9~0g、滑沢剤としてのステアリン酸マグネシウム0.005gをそれぞれ秤量投入した後に、秤量さじでかき混ぜることで、かき混ぜ型粉体混合物を得た。
かき混ぜ型粉体混合物を0.44g取り出して金型5に入れて加圧成型し、直径6.5mm、高さ10mmの円筒形の直打型効能部10dを得た。つまり、直打型効能部10dは、実施の形態1に記載の製造方法により作製される。
分散型効能部10e:(実施例30)
同じ秤量容器の中に凝集剤15を0.2g、賦形剤17を0.8g、滑沢剤としてのステアリン酸マグネシウム0.005gをそれぞれ秤量投入した。そして秤量容器の中に分散媒として100%エタノールを1ml投入して撹拌し、秤量容器の中の材料を分散混合した。その後エタノールを揮発させて結合型粉体混合物を得た。
この結合型粉体混合物を0.44g取り出して金型5に入れて加圧成型し、直径6.5mm、高さ10mmの円筒形の分散型効能部10eを得た。つまり、分散型効能部10eは、実施の形態2に記載の製造方法により作製される。
相溶型効能部10f:(実施例1~28、31、33)
同じ秤量容器の中に凝集剤15を0.05~0.8g、賦形剤17を0.2~0.95g、滑沢剤としてのステアリン酸マグネシウム0.005gをそれぞれ秤量投入した。そして秤量容器の中に水0.5mlを入れ、混練棒を使って念入りに混錬して一塊となった混練体を得た。
一塊状態の混練体を、22,000rpm、1分の条件で回転ミルにかけて粉砕微細化して湿った粉状にした後に、溶媒の水を揮発させて相溶化粉体を得た。相溶化粉体中に含まれる凝集剤15と賦形剤17は相溶化して分子レベルで結合しており、見かけ上では両者の区別はつかない。
この相溶化粉体を0.44g取り出して金型5に入れて加圧成型し、直径6.5mm、高さ10mmの円筒形の相溶型効能部10fを得た。つまり、相溶型効能部10fは、実施の形態3に記載の製造方法により作製される。
相溶型効能部10g:(実施例32)
相溶化粉体を0.85g取り出して直径を9mmとした金型5で加圧成型し、直径を9mmとしたこと以外は相溶型効能部10fと同様とした。
<保護部>
保護部20を用いる場合には、試験内容に応じて樹脂製保護部20a、樹脂製保護部20b、および塩素系保護部20cを用いた。
樹脂製保護部20a:(実施例1~31および比較例1~2)
外形の直径30mm、高さ13mm、中空空間の直径6.5mmの中空円筒型のポリ乳酸樹脂成形体を樹脂製保護部20aとした。
樹脂製保護部20b:(実施例32)
中空空間の直径を9mmにしたこと以外は樹脂製保護部20aと同様とした。
なお、不溶性のポリ乳酸樹脂を保護部20の材料に用いた理由は、後述するコロイド測定法による被処理水中の凝集剤濃度の測定に影響を与えないためである。
塩素系保護部20c:(実施例33および比較例3)
外形の直径30mm、高さ13mm、中空空間の直径6.5mmの中空円筒型のトリクロロイソシアヌル酸からなる塩素固形剤を塩素系保護部20cとした。
<各種固形薬剤の作製>
上述した各効能部および各保護部を組み合わせ、各種固形薬剤を作製した。
直打型固形薬剤1d:(実施例29および比較例1~2)
直径6.5mmの直打型効能部10dを樹脂製保護部20aの中空空間に挿入して直打型固形薬剤1dを得た。
分散型固形薬剤1e:(実施例30)
直径6.5mmの分散型効能部10eを樹脂製保護部20aの中空空間に挿入して分散型固形薬剤1eを得た。
相溶型固形薬剤1f:(実施例1~28)
直径6.5mmの相溶型効能部10fを樹脂製保護部20aの中空空間に挿入して相溶型固形薬剤1fを得た。
相溶型固形薬剤1g:(実施例32)
直径9mmの相溶型効能部10gを樹脂製保護部20bの中空空間に挿入して相溶型固形薬剤1gを得た。
無保護部固形薬剤1h:(実施例31)
直径6.5mmの相溶型効能部10fを保護部に挿入せずに、そのまま単独で用いて、無保護部固形薬剤1hとした。
塩素剤複合固形薬剤1i:(実施例33)
直径6.5mmの相溶型効能部10fを塩素系保護部20cの中空空間に挿入して塩素剤複合固形薬剤1iを得た。
塩素のみ固形薬剤1j:(比較例3)
塩素系保護部20cのみをそのまま用いて塩素のみ固形薬剤1jとした。
(測定方法および評価基準)
各評価結果は、以下の測定および評価基準に基づいたものである。
<凝集剤濃度>
浄水排出口58から検水として1Lの被処理水を採取し、通水量10Lまでの被処理水中の凝集剤濃度を測定した。
凝集剤濃度は、凝集剤15に含まれるカチオンの量で測定することで定量可能である。カチオン量の測定方法として、アニオンコロイド滴定溶液と滴定指示薬を用いたコロイド滴定法を用いた。原理としてはアニオンコロイドがカチオンコロイド(凝集剤)と複合体を形成することでカチオンコロイドが全て消費された後に、余ったアニオンコロイドがトルイジンブルーと結合して青色からピンク色に変化する現象を用いた手法である。
具体的には、検水として1Lの被処理水(水源は0NTUのイオン交換水)を浄水排出口58から得た後に、指示薬として0.1重量%のトルイジンブルー指示薬溶液を0.2ml加えた後に、アニオン滴定溶液として1/400規定のPVSK(ポリビニル硫酸カリウム)溶液を撹拌しながら滴下していく。そして、検水の色が薄い青から薄いピンク色に変化した点を中和点とし、予め作成しておいた検量線を用いて、PVSK溶液の滴下量から凝集剤濃度を求めた。
検量線は、1Lのイオン交換水に所定量の凝集剤を溶解させてそれぞれの濃度とした検水に対してコロイド滴定を実施し、それぞれの濃度に対するPVSK滴下量を測定することで作成した。検量線は凝集剤15の種類ごとに作成した。
<濁度>
水処理装置50aに被処理水9.5Lを通水させ、その間に浄水排出口58から取り出した浄水の濁度を濁度測定装置(HACH社製、型番2100Q)で測定した。そして以下の式を用いて除濁率を算出した。
除濁率(%)=(1-浄水の濁度/水源の濁度)×100
<鉄濃度>
水処理装置50aに被処理水9.5Lを通水させ、その間に浄水排出口58から取り出した浄水の鉄濃度を鉄濃度測定装置(HACH社製、型番DR900)で測定した。そして以下の式を用いて除鉄率を算出した。
除鉄率(%)=(1-浄水の鉄濃度/水源の鉄濃度)×100
(実施例および比較例の詳細)
図12に示した各実施例および比較例の固形薬剤の詳細を以下に示す。
[実施例1]
凝集剤15として、カチオン性有機凝結剤であるポリDADMAC(重量平均分子量約100万、カチオン当量約6meq/g、粒子径200~500μmのビーズ状粒子)を80%、賦形剤17としてタマリンドシードガム(平均粒子径30μmの粉体)を20%配合してφ6.5mm、高さ10mmの相溶型効能部10fを構成し、樹脂製保護部20aの中空空間に挿入して相溶型固形薬剤1fを得た。
[実施例2]
凝集剤としてポリDADMACを60%、賦形剤としてタマリンドシードガムを40%配合した以外は、実施例1と同様にした。
[実施例3]
凝集剤としてポリDADMACを40%、賦形剤としてタマリンドシードガムを60%配合した以外は、実施例1と同様にした。
[実施例4]
凝集剤としてポリDADMACを20%、賦形剤としてタマリンドシードガムを80%配合した以外は、実施例1と同様にした。
[実施例5]
凝集剤としてポリDADMACを10%、賦形剤としてタマリンドシードガムを90%配合した以外は、実施例1と同様にした。
[実施例6]
凝集剤として、カチオン性高分子凝集剤であるポリDMAEMA(重量平均分子量約300万、カチオン当量約4.8meq/g、粒子径500~2000μmの岩塊状粒子)を80%、賦形剤としてタマリンドシードガム(平均粒子径30μmの粉体)を20%配合してφ6.5mm、高さ10mmの相溶型効能部10fを構成し、樹脂製保護部20aの中空空間に挿入して相溶型固形薬剤1fを得た。
[実施例7]
凝集剤としてポリDMAEMAを60%、賦形剤としてタマリンドシードガムを40%配合した以外は、実施例6と同様にした。
[実施例8]
凝集剤としてポリDMAEMAを40%、賦形剤としてタマリンドシードガムを60%配合した以外は、実施例6と同様にした。
[実施例9]
凝集剤としてポリDMAEMAを20%、賦形剤としてタマリンドシードガムを80%配合した以外は、実施例6と同様にした。
[実施例10]
凝集剤としてポリDMAEMAを10%、賦形剤としてタマリンドシードガムを90%配合した以外は、実施例6と同様にした。
[実施例11]
凝集剤としてポリDADMACを20%、賦形剤としてグアーガム(平均粒子径30μmの粉体)を80%配合してφ6.5mm、高さ10mmの相溶型効能部10fを構成し、樹脂製保護部20aの中空空間に挿入して相溶型固形薬剤1fを得た。
[実施例12]
凝集剤としてポリDADMACを40%、賦形剤としてグアーガムを60%配合した以外は、実施例11と同様にした。
[実施例13]
凝集剤として、ポリDADMACを10%、賦形剤としてカチオン化グアーガム(平均粒子径30μmの粉体)を90%配合してφ6.5mm、高さ10mmの相溶型効能部10fを構成し、樹脂製保護部20aの中空空間に挿入して相溶型固形薬剤1fを得た。
[実施例14]
凝集剤としてポリDADMACを20%、賦形剤としてカチオン化グアーガムを80%配合した以外は、実施例13と同様にした。
[実施例15]
凝集剤として、ポリDADMACを20%、賦形剤としてキサンタンガム(平均粒子径30μmの粉体)を80%配合してφ6.5mm、高さ10mmの相溶型効能部10fを構成し、樹脂製保護部20aの中空空間に挿入して相溶型固形薬剤1fを得た。
[実施例16]
凝集剤としてポリDADMACを40%、賦形剤としてキサンタンガムを60%配合した以外は、実施例15と同様にした。
[実施例17]
凝集剤として、ポリDADMACを20%、賦形剤として重量平均分子量50万のポリエチレングリコール(平均粒子径400μmの顆粒、以降PEG0.5Mとする)を80%配合してφ6.5mm、高さ10mmの相溶型効能部10fを構成し、樹脂製保護部20aの中空空間に挿入して相溶型固形薬剤1fを得た。
[実施例18]
凝集剤として、ポリDADMACを20%、賦形剤として重量平均分子量200万のポリエチレングリコール(平均粒子径100μmの顆粒、以降PEG2Mとする)を80%配合してφ6.5mm、高さ10mmの相溶型効能部10fを構成し、樹脂製保護部20aの中空空間に挿入して相溶型固形薬剤1fを得た。
[実施例19]
凝集剤として、ポリDADMACを5%、賦形剤としてヒドロキシプロピルセルロース(平均粒子径30μmの粉体、以降HPCとする)を95%配合してφ6.5mm、高さ10mmの相溶型効能部10fを構成し、樹脂製保護部20aの中空空間に挿入して相溶型固形薬剤1fを得た。
[実施例20]
凝集剤としてポリDADMACを10%、賦形剤としてHPCを90%配合した以外は、実施例19と同様にした。
[実施例21]
凝集剤としてポリDADMACを20%、賦形剤としてHPCを80%配合した以外は、実施例19と同様にした。
[実施例22]
凝集剤として、ポリDADMACを5%、賦形剤として平均重量分子量1500のポリビニルアルコール(平均粒子径200μmの顆粒、以降PVAとする)を95%配合してφ6.5mm、高さ10mmの相溶型効能部10fを構成し、樹脂製保護部20aの中空空間に挿入して相溶型固形薬剤1fを得た。
[実施例23]
凝集剤としてポリDADMACを10%、賦形剤としてPVAを90%配合した以外は、実施例22と同様にした。
[実施例24]
凝集剤としてポリDADMACを20%、賦形剤としてPVAを80%配合した以外は、実施例22と同様にした。
[実施例25]
凝集剤として、ポリDADMACを20%、賦形剤としてカルボキシメチルセルロース(平均粒子径30μmの粉体、以降CMCとする)を80%配合してφ6.5mm、高さ10mmの相溶型効能部10fを構成し、樹脂製保護部20aの中空空間に挿入して相溶型固形薬剤1fを得た。
[実施例26]
凝集剤としてポリDADMACを40%、賦形剤としてCMCを60%配合した以外は、実施例25と同様にした。
[実施例27]
凝集剤としてポリDADMACを60%、賦形剤としてCMCを40%配合した以外は、実施例25と同様にした。
[実施例28]
凝集剤としてポリDADMACを80%、賦形剤としてCMCを20%配合した以外は、実施例25と同様にした。
[実施例29]
凝集剤として、ポリDADMACを20%、賦形剤としてタマリンドシードガムを80%配合してφ6.5mm、高さ10mmの直打型効能部10dを構成し、樹脂製保護部20aの中空空間に挿入して直打型固形薬剤1dを得た。
[実施例30]
凝集剤として、ポリDADMACを20%、賦形剤としてタマリンドシードガムを80%配合してφ6.5mm、高さ10mmの分散型効能部10eを構成し、樹脂製保護部20aの中空空間に挿入して分散型固形薬剤1eを得た。
[実施例31]
凝集剤として、ポリDADMACを20%、賦形剤としてタマリンドシードガムを80%配合してφ6.5mm、高さ10mmの相溶型効能部10fを構成し、これを保護部20に入れずにそのまま使用することで無保護部固形薬剤1hとした。
[実施例32]
凝集剤として、ポリDADMACを20%、賦形剤としてタマリンドシードガムを80%配合してφ9mm、高さ10mmの相溶型効能部10gを構成し、φ9mmの中空空間を有する樹脂製保護部20bの中空空間に挿入して相溶型固形薬剤1gを得た。
[実施例33]
凝集剤として、ポリDADMACを20%、賦形剤としてタマリンドシードガムを80%配合してφ6.5mm、高さ10mmの相溶型効能部10fを構成し、トリクロロイソシアヌル酸からなる塩素系保護部20cの中空空間に挿入して塩素剤複合固形薬剤1iを得た。
[比較例1]
賦形剤を用いずに、凝集剤として200~500μmのビーズ状のポリDADMACを1g、滑沢剤としてステアリン酸マグネシウム0.05gを秤量容器の中でかき混ぜた。それを0.44g取り出して金型に入れて加圧成型することで直打型効能部10dを構成した。それを樹脂製保護部20aの中空空間に挿入して直打型固形薬剤1dを得た。ポリDADMACのみでは金型で加圧成型しても、取り出した後にばらばらになって成型できなかったため、加圧前に金型に水を極少量垂らして加圧成型することで形を成した。
[比較例2]
凝集剤としてポリDMAEMAを1g用いた以外は、比較例1と同様にした。
[比較例3]
効能部を挿入しないで、塩素系保護部20cをそのまま使用することで塩素のみ固形薬剤1jとした。
(評価結果)
以下、それぞれの実施例および比較例の結果について評価した。
((賦形剤配合の効果))
初めに、賦形剤17を配合することによる固形薬剤1への影響を検討するために、図13および図14を参照して、凝集剤15としてポリDADMACを用いた比較例1および実施例1~5の結果を説明する。図13は、実施例1~5および比較例1の被処理水中の凝集剤濃度と除濁率の評価結果をまとめた図である。図13の(a)は、通水量に対する被処理水中の凝集剤濃度変化を表す図である。図13の(b)は、通水量に対する被処理水の除濁率変化を示す図である。図14は、実施例1~5および比較例1の9.5L通水時の被処理水中の凝集剤濃度、除濁率、溶解性、単位溶解速度、溶解持続時間、浄化可能な被処理水量をまとめた図である。
初めに、凝集剤100%の場合、すなわち賦形剤17を配合しない場合である比較例1について検討する。比較例1では、被処理水中の凝集剤濃度が、通水量1.5~9.5Lの通水試験期間全般において、8ppm前後となり、その時の除濁率は約60~70%であった。前述した凝集剤溶液での被処理水への凝集剤添加濃度実験での検討と同様に比較例1では、被処理水の濁度に対する凝集剤濃度が高すぎて被処理水中のカチオンが過多の状態であり、微粒子あるいは濾材が正に逆帯電しているために、低い除濁率しか得られていないといえる。
ここで、9.5L通水時の被処理水中の凝集剤濃度から、比較例1および実施例1~5の固形薬剤の溶解性、単位溶解速度、固形薬剤が溶解しきるまでの時間(以下、溶解持続時間とする)および浄化可能な被処理水量を算出した結果を図14に示す。なお、溶解性、単位溶解速度、溶解持続時間および溶解性浄化可能な被処理水量の算出方法は以下のとおりである。
溶解性=被処理水中の凝集剤濃度/(比較例1の被処理水中凝集剤濃度×凝集剤配合率)
単位溶解速度=被処理水中の凝集剤濃度/(被処理水の通水流量×効能部の露出面積)
溶解持続時間=効能部中の凝集剤量/(単位溶解速度×効能部の露出面積)
浄化可能な被処理水量=被処理水の通水流量×溶解持続時間
溶解性は、比較例1を基準とした固形薬剤1の溶解しやすさを示す値である。実施例1~5では、賦形剤17の配合比率が上昇するに従い、凝集剤15の配合比率は低下するため、被処理水に対する凝集剤15の絶対量が低下し、凝集剤濃度は低下する。したがって、上述した式により溶解性を算出し、その値を比較することで賦形剤17添加による効果を検討する。
ここで、溶解性の値が小さければ小さいほど、賦形剤17の配合に伴い低下した凝集剤15の配合率以上に被処理水中の凝集剤濃度は低くなったことを示し、また、浄化可能な被処理水量は大きくなり、そして溶解持続時間が長くなることを意味する。
逆に言えば、比較例1と実施例の溶解性の値が同じであれば、被処理水中の凝集剤濃度は、比較例1の被処理水中の凝集剤濃度に配合率をかけたものと同じになり、溶解持続時間および浄化可能な被処理水量は同じであることを意味する。言い換えれば溶解性が同じであれば、凝集剤15の配合率を下げても、下がるのは被処理水中の凝集剤濃度のみであり、浄化可能な被処理水の量や養家持続時間は上がらない。
ここで、比較例1の溶解性は1である。したがって溶解性が1以下であれば、比較例1に対して下げた凝集剤15の配合率以上に被処理水中の凝集剤濃度を低減でき、同時に浄化可能な被処理水の量を大きく、固形薬剤中の効能部が溶解しきるまでの時間を長くすることができる固形薬剤1であるといえる。
比較例1の9.5L通水時の被処理水中の凝集剤濃度は8.119ppmであり、除濁率は67%であった。そして、単位溶解速度は5.75mg/min/cmと算出された。この溶解速度で凝集剤15が溶解した場合、0.44gの効能部10を有する1個の固形薬剤1の溶解持続時間は2時間弱となる。この場合、2時間弱おきに固形薬剤1を薬剤添加部55Aに投入しなくてはならず、水処理に手間がかかる。さらに、浄化可能な被処理水量は54Lに過ぎず、工業用途はおろか、家庭等での生活水に用いる場合であっても、1日に何度も固形薬剤1を設置する必要が生じる。
この結果から、比較例1の固形薬剤を用いた場合、70%以下の低い除濁率と2時間弱の短い浄化可能時間しか得られず、課題があることがわかる。
したがって、より高い除濁率とより長い浄化可能時間を得るためには、凝集剤15の溶解性を1よりも小さくすることが必要である。そして、溶解性を低減するために、賦形剤17としてタマリンドシードガムを配合した実施例1~5の評価を実施した。
その結果、凝集剤を80%、賦形剤を20%配合した実施例1の固形薬剤では被処理水中の凝集剤濃度は2.654ppmであり、除濁率は70%であった。溶解性は0.409と半分以下に低減した。単位溶解速度は1.879mg/min/cmと算出され、溶解持続時間は5時間、浄化可能な被処理水量は133Lとなった。
凝集剤を60%、賦形剤を40%配合した実施例2の固形薬剤では、被処理水中の凝集剤濃度は0.595ppmであり、除濁率は80%であった。溶解性は0.122とさらに低減した。溶解速度は0.421mg/min/cmと算出され、溶解時間は16時間、浄化可能な被処理水量は444Lとなった。
凝集剤を40%、賦形剤を60%配合した実施例3の固形薬剤では、被処理水中の凝集剤濃度は0.100ppmであり、除濁率は97%であった。溶解性は0.031であり、比較例1の1/30以下まで低減した。溶解速度は0.071mg/min/cmと算出され、溶解持続時間は63時間、浄化可能な被処理水量は1765Lとなった。
凝集剤を20%、賦形剤を80%配合した実施例4の固形薬剤では、被処理水中の凝集剤濃度は0.055ppmであり、除濁率は98%であった。溶解性は0.034と比較例1の1/30に低減した。溶解速度は0.039mg/min/cmと算出され、溶解持続時間は57時間、浄化可能な被処理水量は1596Lとなった。
凝集剤を10%、賦形剤を90%配合した実施例5の固形薬剤では、被処理水中の凝集剤濃度は0.030ppmであり、除濁率は94%であった。溶解性は0.037と比較例1の1/30に低減した。溶解速度は0.022mg/min/cmと算出され、溶解持続時間は51時間、浄化可能な被処理水量は1447Lとなった。
実施例1~5の結果が示すように、賦形剤17を配合することで、凝集剤15の溶解性を顕著に低減させることが可能となる。具体的には、凝集剤15の配合率を80%以下にして賦形剤を20%配合するだけで、溶解性は賦形剤17がない場合の半分以下である0.4になる。特に凝集剤を10~40%配合し、賦形剤を90~60%配合することで、溶解性は賦形剤17がない場合の1/30になった。その結果、被処理水中の凝集剤濃度を8ppmという過剰な値から、最適な範囲である0.005~0.2ppmにすることができた。そして、浄化可能な被処理水の量および溶解持続時間を30倍にすることができ、長時間にわたって高い除濁率で被処理水を浄化することが可能な固形薬剤1を得ることができた。
((凝集剤種類の検討))
次に、凝集剤15の種類を変更した場合の賦形剤17の効果を検討するために、図15および図16を参照して、凝集剤15としてポリDMAEMAを用いた比較例2および実施例6~10の結果を説明する。図15は、実施例6~10および比較例2の被処理水中の凝集剤濃度と除濁率の評価結果をまとめた図である。図15の(a)は、通水量に対する被処理水中の凝集剤濃度変化を表す図である。図15の(b)は、通水量に対する被処理水の除濁率変化を示す図である。図16は、実施例6~10および比較例2の9.5L通水時の被処理水中の凝集剤濃度、除濁率、溶解性、単位溶解速度、溶解持続時間、浄化可能な被処理水量をまとめた図である。
まず、凝集剤100%の場合、すなわち賦形剤17を配合しない場合である比較例2について検討する。比較例2では、被処理水中の凝集剤濃度が、通水量1.5~9.5Lの通水試験期間において0.27~0.44ppmとなり、その時の除濁率は87~96%であった。
比較例2が比較例1と比較して高い除濁率が得られている原因として、ポリDADMACよりもポリDMAEMAの溶解性が低く、比較例1ほどには過剰な濃度となっていないことが考えられる。しかしながら、2.5Lまでの通水初期の除濁率は高くないことを考えると、被処理水中の凝集剤濃度は目標値よりも少し高く、カチオン過剰となっていることが考えられる。
一方で、高分子凝集剤であるポリDMAEMAを高めの濃度で用いることで、凝集反応による粗大フロックの発生は起こりやすい。その結果、粗大フロックが多く発生して濾過材の空隙が埋まることで、微粒子が捕捉されやすくなり、通水するにつれて徐々に除濁率が高くなっていったと考えられる。これは、100NTUの水源を9.5L通水した後に、酸化鉄添着活性炭層の最上層に簡単には崩れない凝集塊(マッドボール)の発生が確認されたことからも裏付けられる。
なお、マッドボールが発生すると濾過部57Aで濾過材が閉塞して通水障害が起きるため、発生するたびに濾過材をかき混ぜるなどのメンテナンスが必要となる。そのため、水処理装置50aがメンテナンスなしに持続的に水処理するためには、マッドボールが発生しないことが好ましい。
次に、9.5L通水時の被処理水中の凝集剤濃度から、比較例2および実施例6~10の溶解性、溶解速度、溶解持続時間、浄化可能な被処理水量を算出した結果を図16に示す。
比較例2の9.5L通水時の被処理水中の凝集剤濃度は0.320ppmであり、除濁率は96%であった。溶解性は1で、溶解速度は0.227mg/min/cmと算出された。この時の溶解持続時間は49時間であり、浄化可能な被処理水量は1375Lである。
ポリDMAEMAの溶解性がもとから低いため、比較例1と比較し、溶解持続時間は比較的長いが、通水初期の低い除濁性能やマッドボールの形成の課題があり、溶解性を低減して被処理水中の凝集剤濃度をより低くする必要がある。そして、溶解性を低減するために、賦形剤としてタマリンドシードガムを配合した実施例6~10の評価を実施した。
その結果、凝集剤を80%、賦形剤を20%配合した実施例6の固形薬剤1では、被処理水中の凝集剤濃度は0.173ppmであり、除濁率は97%であった。溶解性は0.67に低減した。溶解速度は0.122mg/min/cmと算出され、溶解持続時間は72時間、浄化可能な被処理水量は2038Lとなった。9.5L通水後、濾過部にマッドボールの発生を確認した。
また、凝集剤を60%、賦形剤を40%配合した実施例7の固形薬剤では、被処理水中の凝集剤濃度は0.115ppmであり、除濁率は99%であった。溶解性は0.60に低減した。溶解速度は0.082mg/min/cmと算出され、溶解時間は81時間、浄化可能な被処理水量は2294Lとなった。9.5L通水後、濾過部にマッドボールの発生は確認されなかった。
凝集剤を40%、賦形剤を60%配合した実施例8の固形薬剤では、被処理水中の凝集剤濃度は0.070ppmであり、除濁率は99%であった。溶解性は0.55に低減した。溶解速度は0.050mg/min/cmと算出され、溶解持続時間は89時間、浄化可能な被処理水量は2504Lとなった。9.5L通水後、濾過部にマッドボールの発生は確認されなかった。
凝集剤を20%、賦形剤を80%配合した実施例9の固形薬剤では、被処理水中の凝集剤濃度は0.045ppmであり、除濁率は97%であった。溶解性は0.70に低減した。溶解速度は0.032mg/min/cmと算出され、溶解持続時間は70時間、浄化可能な被処理水量は1969Lとなった。9.5L通水後、濾過部にマッドボールの発生は確認されなかった。
凝集剤を10%、賦形剤を90%配合した実施例10の固形薬剤では、被処理水中の凝集剤濃度は0.019ppmであり、除濁率は97%であった。溶解性は0.060に低減した。溶解速度は0.014mg/min/cmと算出され、溶解持続時間は82時間、浄化可能な被処理水量は2304Lとなった。9.5L通水後、濾過部にマッドボールの発生は確認されなかった。
以上の結果から、カチオン性高分子凝集剤のポリDMAEMAを凝集剤15として用いた場合でも、賦形剤を20%以上配合することで、配合しない場合と比較して、溶解性を3~5割低減できることがわかった。ポリDMAEMAにおいては、賦形剤17の配合率上昇による溶解性低減は、ポリDADMACを用いた場合ほどには顕著にはみられなかったが、初期通水時の除濁性能を上げ、かつマッドボールの発生を抑制するためには被処理水中の凝集剤濃度をより下げることが望ましい。そのためには、凝集剤15の配合率を10~40%、賦形剤17の配合率を90~60%にすることが好ましいといえる。
なお、タマリンドシードガムのイオン性を測定した結果、ノニオンであった。そのため、賦形剤17としてタマリンドシードガムを配合しても、凝集剤15に含まれるカチオンが中和され、減少するために、微粒子への凝集作用が低減するといった影響はほとんどないと考えられる。
((賦形剤種類の検討))
次に、賦形剤17の種類を変更した場合の固形薬剤1の効果を検討するために、図17を参照して、凝集剤15としてポリDADMACを用いた実施例11~28の結果を説明する。図17は、実施例11~28の9.5L通水時の被処理水中の凝集剤濃度、除濁率、溶解性、単位溶解速度、溶解持続時間、浄化可能な被処理水量をまとめた図である。
まず、どのような材料を賦形剤17として用いることができるかを調べるために、賦形剤17の種類を変えて実施例11~28の相溶型固形薬剤1fを作成し、被処理水中の凝集剤濃度と除濁率を測定した。なお、実施例11~28では、凝集剤15としてポリDADMACを用いた。
初めに、賦形剤17として、グアーガムを用いた実施例11および実施例12について検討する。
実施例11では、凝集剤15を20%、賦形剤17としてグアーガムを80%配合した相溶型固形薬剤1fを用いた。実施例11の被処理水中の凝集剤濃度は、0.025ppmであり、凝集剤15を20%、タマリンドシードガムを80%配合した実施例4の0.46倍だった。
実施例12では、凝集剤15を40%、賦形剤17としてグアーガムを60%配合した相溶型固形薬剤1fを用いた。実施例12の被処理水中の凝集剤濃度は、0.060ppmであり、凝集剤を20%、タマリンドシードガムを80%配合した実施例4と近しい値であった。
実施例11および実施例12の結果から、凝集剤15のみを配合し、賦形剤17を配合しない比較例1よりも溶解性が大幅に低減していることから、グアーガムは賦形剤17として使用可能であるといえる。また、賦形剤17としてグアーガムを用いた場合には、同配合率でタマリンドシードガムを用いた場合よりも被処理水中の凝集剤濃度が抑制される。したがって、所望の被処理水中の凝集剤濃度に応じて、グアーガムあるいはタマリンドシードガムを選択すればよい。
なお、グアーガムのイオン性を測定した結果ノニオンであった。そのため、賦形剤17としてグアーガムを配合しても、凝集剤15に含まれるカチオンが中和され、減少するために、微粒子への凝集作用が低減するといった影響はほとんどないと考えられる。
次に、賦形剤17として、カチオン化グアーガムを用いた実施例13および実施例14について検討する。
実施例13では、凝集剤15を10%、賦形剤17としてカチオン化グアーガムを90%配合した相溶型固形薬剤1fを用いた。実施例13の被処理水中の凝集剤濃度は、0.035ppmであり、凝集剤を10%、タマリンドシードガムを90%配合した実施例5の被処理水中の凝集剤濃度とほぼ同じであった。
実施例14では、凝集剤15を20%、賦形剤17としてカチオン化グアーガムを80%配合した相溶型固形薬剤1fを用いた。実施例14の被処理水中の凝集剤濃度は、0.055ppmであり、凝集剤を20%、タマリンドシードガムを80%配合した実施例4の被処理水中の凝集剤濃度とほぼ同じだった。
実施例13および実施例14では、凝集剤15のみを配合し、賦形剤17を配合しない比較例1よりも溶解性が大幅に低減していることから、カチオン化グアーガムは賦形剤17として使用可能であるといえる。また、同配合率でタマリンドシードガムを用いた場合と同程度の被処理水中の凝集剤濃度が得られるため、タマリンドシードガムの代用としてカチオン化グアーガムを用いることができる。
なお、カチオン化グアーガムのイオン性を測定したところ、微弱なカチオン性であった。そのため、凝集剤15に含まれるカチオンが中和され、減少するために、微粒子への凝集作用が低減するといった影響はほとんどないと考えられる。
次に、賦形剤17として、キサンタンガムを用いた実施例15および実施例16について検討する。
実施例15では、凝集剤15を20%、賦形剤17としてキサンタンガムを80%配合した相溶型固形薬剤1fを用いた。実施例15の被処理水中の凝集剤濃度は0.001ppmだった。
ここで、キサンタンガムのイオン性を測定した結果、アニオン性を示した。したがって、実施例15において、凝集剤濃度が著しく低い値を示したのは、凝集剤15に含まれるカチオンをアニオン性のキサンタンガムが中和し、固形薬剤全体として、カチオン性を示さない固形薬剤となってしまったためであるといえる。
一方、キサンタンガムの配合比率を変更した実施例16では異なる結果が得られた。実施例16では、凝集剤15を40%、賦形剤17としてキサンタンガムを60%配合した相溶型固形薬剤1fを用いた。実施例16の被処理水中の凝集剤濃度は、0.055ppmであり、凝集剤15を20%、賦形剤17としてタマリンドシードガムを80%配合した実施例4の被処理水中の凝集剤濃度とほぼ同じだった。したがって、キサンタンガムはアニオンのため、凝集剤15に含まれるカチオンを中和して全体としてのカチオン量を減らしてしまうが、賦形剤17として使用することは可能である。この場合、タマリンドシードガムを用いる場合よりも凝集剤15の配合比率を増加させる必要がある。
次に、賦形剤17として、ポリエチレングリコールを用いた実施例17および実施例18について検討する。
実施例17では、凝集剤15を20%、賦形剤17としてPEG0.5Mを80%配合した相溶型固形薬剤1fを用いた。実施例17の被処理水中の凝集剤濃度は、0.144ppmであり、凝集剤15を20%、賦形剤17としてタマリンドシードガムを80%配合した実施例4の被処理水中の凝集剤濃度の2.6倍だった。
また、実施例18では、凝集剤15を20%、賦形剤17としてPEG2Mを80%配合した相溶型固形薬剤1fを用いた。実施例18の被処理水中の凝集剤濃度は0.065ppmであり、凝集剤15を20%、賦形剤17としてタマリンドシードガムを80%配合した実施例4の被処理水中の凝集剤濃度と同等であった。
実施例17と実施例18を比較した結果、低分子量のポリエチレングリコールを用いた方が被処理水中の凝集剤濃度が高い要因は、分子量が低いほどポリエチレングリコールの溶解性が高いためと推測される。また、凝集剤15のみを配合し、賦形剤17を配合しない比較例1に比べて、溶解性は大幅に低減されていることから、ポリエチレングリコールは賦形剤17として使用可能であるといえる。なお、ポリエチレングリコールのイオン性を測定した結果、0.5M、2Mともにノニオンであった。
次に、賦形剤17として、HPCを用いた実施例19~21について検討する。
実施例19では、凝集剤15を5%、賦形剤17としてHPCを95%配合した相溶型固形薬剤1fを用いた。実施例19の被処理水中の凝集剤濃度は0.060ppmであり、凝集剤を20%、賦形剤としてタマリンドシードガムを80%配合した実施例4の被処理水中の凝集剤濃度とほぼ同じだった。
実施例20では、凝集剤15を10%、賦形剤17としてHPCを90%配合した相溶型固形薬剤1fを用いた。実施例20の被処理水中の凝集剤濃度は0.149ppmであり、凝集剤を10%、賦形剤としてタマリンドシードガムを90%配合した実施例5の被処理水中の凝集剤濃度の5.0倍だった。
実施例21では、凝集剤15を20%、賦形剤17としてHPCを80%配合した相溶型固形薬剤1fを用いた。実施例21の被処理水中の凝集剤濃度は0.263ppmであり、凝集剤15を20%、賦形剤17としてタマリンドシードガムを80%配合した実施例4の被処理水中の凝集剤濃度の4.8倍だった。
実施例19~21の結果より、凝集剤のみを配合し、賦形剤を配合しない比較例1に比べて溶解性は大幅に低減されていることから、HPCは賦形剤17として使用可能であるといえる。また、賦形剤17としてHPCを使用した場合には、同じ配合率のタマリンドシードガムを使用した場合よりも被処理水中の凝集剤濃度が高くなる。したがって、所望の被処理水中の凝集剤濃度に応じて、HPCあるいはタマリンドシードガムを選択すればよい。なお、HPCのイオン性を測定した結果、ノニオンであった。
次に、賦形剤17として、PVAを用いた実施例22~24について検討する。
実施例22では、凝集剤15を5%、賦形剤17としてPVAを95%配合した相溶型固形薬剤1fを用いた。実施例22の被処理水中の凝集剤濃度は0.115ppmであり、凝集剤15を10%、賦形剤17としてタマリンドシードガムを90%配合した実施例5の被処理水中の凝集剤濃度の3.8倍だった。
実施例23では、凝集剤15を10%、賦形剤17としてPVAを90%配合した相溶型固形薬剤1fを用いた。実施例23の被処理水中の凝集剤濃度は0.723ppmであり、凝集剤15を10%、賦形剤17としてタマリンドシードガムを90%配合した実施例5の被処理水中の凝集剤濃度の24倍だった。
実施例24では、凝集剤15を20%、賦形剤17としてPVAを80%配合した相溶型固形薬剤1fを用いた。実施例24の被処理水中の凝集剤濃度は0.263ppmであり、凝集剤15を20%、賦形剤17としてタマリンドシードガムを80%配合した実施例4の被処理水中の凝集剤濃度の20倍だった。
実施例22~24の結果より、賦形剤17としてPVAを使用した場合、同じ配合率のタマリンドシードガムを使用した場合よりも濃度が大幅に高くなるといえる。しかしながら、凝集剤15のみを配合し、賦形剤17を配合しない比較例1に比べて溶解性は低減されていることから、HPCは賦形剤として使用可能であるといえる。ただし、溶解持続時間はタマリンドシードガムを用いた場合よりも短時間となる。なお、PVAのイオン性を測定した結果、ノニオンであった。
次に、賦形剤17として、CMCを用いた実施例25~28について検討する。
実施例25では、凝集剤15を20%、賦形剤17としてCMCを80%配合した相溶型固形薬剤1fを用いた。
また、実施例26では、凝集剤15を40%、賦形剤17としてCMCを60%配合した相溶型固形薬剤1fを用いた。
実施例25および実施例26の被処理水中の凝集剤濃度は0.001ppmだった。
ここで、CMCのイオン性を測定した結果、アニオン性を示した。したがって、実施例25および実施例26において、凝集剤濃度が著しく低い値を示したのは、凝集剤15に含まれるカチオンをアニオン性のCMCが中和し、固形薬剤全体として、カチオン性を示さない固形薬剤となってしまったためであるといえる。
一方、CMCの配合比率を変更した実施例27および実施例28では異なる結果が得られた。実施例27では、凝集剤15を60%、賦形剤17としてCMCを40%配合した相溶型固形薬剤1fを用いた。実施例27の被処理水中の凝集剤濃度は0.100ppmであり、凝集剤を20%、賦形剤としてタマリンドシードガムを80%配合した実施例4の被処理水中の凝集剤濃度の1.8倍だった。
また、実施例28では、凝集剤15を80%、賦形剤17としてCMCを20%配合した相溶型固形薬剤1fを用いた。実施例28の被処理水中の凝集剤濃度は1.169ppmであり、凝集剤15を20%、賦形剤17としてタマリンドシードガムを80%配合した実施例4の被処理水中の凝集剤濃度の21倍だった。
また、実施例27および実施例28の被処理水中の凝集剤濃度は、凝集剤15のみを配合し、賦形剤17を配合しない比較例1の被処理水中の凝集剤濃度よりも大幅に低い。したがって、カチオンを中和してしまう点や、配合率により凝集剤濃度が変化しやすく濃度制御が難しい点という課題はあるが、適切な配合比であればCMCは賦形剤17として使用可能であるといえる。
((固形薬剤の製造方法の検討))
次に、効能部10の内部における凝集剤15と賦形剤17の混合方法の違いによる各種性能への影響を検討するために、図18および図19を参照して実施例29、実施例30、および実施例4の結果を説明する。図18は、かき混ぜ型粉体混合物、結合型粉体混合物、相溶化粉体の顕微鏡観察写真を示す図である。図19は、実施例4および実施例29~30の被処理水中の凝集剤濃度と除濁率の評価結果を示す図である。
実施例29(直打型固形薬剤1d)、実施例30(分散型固形薬剤1e)、実施例4(相溶型固形薬剤1f)の各固形薬剤を用いて、効能部10の内部における凝集剤15と賦形剤17の混ざり方による違いの評価を行った。
まず図18を参照する。
図18の(a)に示したのは、実施例29の直打型効能部10dの作成に用いたかき混ぜ型粉体混合物の顕微鏡観察写真である。図18の(b)に示したのは、実施例30の分散型効能部10eの作成に用いた結合型粉体混合物の顕微鏡観察写真である。図18の(c)に示したのは、実施例4の相溶型効能部10fの作成に用いた相溶化粉体の顕微鏡観察写真である。なお、いずれの写真も顕微鏡で175倍に拡大して観察した写真である。
かき混ぜ型粉体混合物中では、ビーズ状の凝集剤15と粉状の賦形剤17とが一体化せずにそれぞれ分離して存在していることがわかる。
それに対して、結合型粉体混合物では、ビーズ状の凝集剤15の表面に粉状の賦形剤17が絡みつくように付着していることがわかる。この形態となった要因を検討する。凝集剤15および賦形剤17ともに、分散媒として加えたエタノールには溶けないが、エタノール中で均一に分散する。分散中に、エタノールによって空気中の微量な水分が吸収されることで、凝集剤15と賦形剤17の表面に水素結合が発生する。そして分散媒であるエタノールを蒸発させた後には、ビーズ状の凝集剤15の表面に賦形剤17が絡み合うように付着する。すなわち、凝集剤15の表面の一部を賦形剤17が被覆している状態となっている。
また、相溶化粉体では、凝集剤15と賦形剤17とが溶けあっており、両者の区別がつかない状態で一体化していることがわかる。これは、凝集剤15および賦形剤17が水に溶けて両者が分子レベルで結合し、結合した状態で粉砕した後に溶媒である水を蒸発させることで、両者が一体化した相溶化粉体となるためである。つまり、この相溶化粉体では、固形薬剤1が被処理水中に添加されるより前、つまり固形薬剤1が被処理水に溶出する前から、凝集剤15と賦形剤17が予め水素結合しているといえる。
実施例29、実施例30、実施例4の固形薬剤の凝集剤濃度および除濁率の結果を図19に示す。図19の(a)は、通水量に対する被処理水中の凝集剤濃度変化を表す図である。図13の(b)は、通水量に対する被処理水の除濁率変化を示す図である。
直打型固形薬剤を用いた実施例29では、2.5Lまでの初期通水時の凝集剤濃度が0.15ppm~0.35ppmと高い値を示しており、凝集剤15の過剰な溶出が確認された。その結果、過剰な凝集剤濃度によって微粒子が正に逆帯電し、除濁率が80%以下の低い値を示した。
直打型固形薬剤において、高い凝集剤濃度および低い除濁率を示した要因を検討する。凝集剤15であるポリDADMACの溶解速度は速く、水を介して賦形剤17であるタマリンドシードガムと結合することで初めて溶解速度の抑制が実現される。しかし、直打型固形薬剤の場合、凝集剤15と賦形剤17とが効能部10の中で分離して存在しているため、初期通水時には溶解速度の速い凝集剤15のみが先に溶け出してしまう。その後、しばらく通水して賦形剤17が溶け出すことで、賦形剤17の効果が表れ、凝集剤15の溶解速度の抑制がなされるため、通水初期において高い凝集剤濃度を示すと推察される。
それに対して、分散型固形薬剤を用いた実施例30では、通水初期の凝集剤濃度は0.05ppm~0.15ppm以下であり、初期通水時の凝集剤15の過剰な溶出とそれに起因する除濁率の低下を抑制できている。これは、効能部10の中で、凝集剤15の表面に賦形剤17が絡み合うように付着することで、通水初期の凝集剤15の溶出を抑制できているためであると推察される。なお、賦形剤17による凝集剤15の溶出抑制は、凝集剤15を賦形剤17が被覆することによる物理的な作用と、凝集剤15と賦形剤17との水素結合による化学的な作用との少なくとも一方あるいは双方によるものであると推察される。
さらに、相溶型固形薬剤を用いた実施例4では、通水初期の凝集剤濃度は0.07ppm以下であり、初期通水時の凝集剤15の過剰な溶出とそれに起因する除濁率の低下をさらに抑制することができている。この要因を検討する。凝集剤15と賦形剤17とが相溶化した相溶化粉体の中で、凝集剤15と賦形剤17は予め水素結合した状態となっている。この相溶化粉体で効能部10を形成することにより、水素結合による凝集剤15の溶出抑制作用が生じた状態で通水が開始されるため、初期通水時から凝集剤15の溶出を強く抑制することができる。したがって、相溶型固形薬剤1fを用いた場合において、最も安定した初期凝集剤濃度および除濁率が得られたと推察される。
((露出面積の検討))
次に、効能部10の露出面積が凝集剤濃度に与える影響を検討するために、図20および図21を参照して、実施例31、実施例32、および実施例4の結果を説明する。図20は実施例4および実施例31~32の被処理水中の凝集剤濃度と除濁率の評価結果を示す図である。図20の(a)は、通水量に対する被処理水中の凝集剤濃度変化を表す図である。図20の(b)は、通水量に対する被処理水の除濁率変化を示す図である。図21は、実施例4および実施例31~32の効能部の露出面積比と被処理水中の凝集剤濃度比をまとめた図である。
保護部20を有さない固形薬剤を用いた実施例31と比較し、保護部20を有する実施例4および実施例32では、いずれも通水初期の凝集剤濃度は抑制され、高い除濁率を示した。また、効能部の直径を変化させた実施例32および実施例4の結果から、被処理水中の凝集剤濃度比は、効能部10の露出面積比と相関関係にあることが判明した。
これらの結果から、保護部20を用いて効能部10の露出面積を制御することは、長期間にわたって所定の被処理水中の凝集剤濃度を得る方法として有効であるといえる。
((塩素系薬剤の検討))
次に、効能部10と塩素系保護部20cを組み合わせることによる被処理水中の物質に対する除濁性能への影響を検討するために、図22~図24を参照して、比較例3、実施例4、および実施例33の結果を説明する。図22~24は、それぞれ、比較例3、実施例4、実施例33における「カオリンのみ時の除濁率」、「カオリン+鉄イオン時の除濁率」および「カオリン+鉄イオン時の除鉄率」の評価結果をまとめた図である。
実施例4、実施例33および比較例3では以下の方法で各測定を行った。
カオリンのみを加えて50NTUとした被処理水を通水した時の濁度を測定し、「カオリンのみ時の除濁率」を求めた。それとは別に、カオリンのみを加えて50NTUとした被処理水を通水すると同時に、通水ポンプの下流側および薬剤添加部の上流側の位置に塩化第一鉄四水和物溶液を注入ポンプで注入し、鉄イオンを3ppm添加した水を通水した時の濁度と鉄濃度を測定し、「カオリン+鉄イオン時の除濁率」および「カオリン+鉄イオン時の除鉄率」を求めた。
塩素系保護部20cのみで構成された比較例3の固形薬剤の結果を図22に示す。また、相溶型効能部10fと、樹脂製保護部20aで構成された実施例4の固形薬剤の結果を図23に示す。また、相溶型効能部10fと、塩素系保護部20cで構成された実施例33の固形薬剤の結果を図24に示す。
比較例3では、「カオリン+鉄イオン時の除濁率」および「カオリン+鉄イオン時の除鉄率」は80%以上となり、高い値を示しているが、「カオリンのみ時の除濁率」はが40%以下と非常に低い。塩素系保護部20cの作用機構として、塩素系保護部20cが水に溶解して有効塩素となり、鉄イオンを酸化凝集すると同時にカオリンに対しても凝集効果が得られるため、高い除濁率が得られる。しかし、比較例3のように、微粒子のみが存在して鉄イオンが存在しない場合には、凝集反応をもたらす物質がないため、微粒子がフロック化せず、その結果除濁率が大幅に低くなると推察される。
また、実施例4では、「カオリンのみ時の除濁率」および「カオリン+鉄イオン時の除濁率」は90%以上と高い値を示した。これは、効能部10に含まれる凝集剤15が作用して微粒子をフロック化したためである。しかし、「カオリン+鉄イオン時の除鉄率」は、酸化鉄添着活性炭層による吸着によってそれなりに高い値を示したが、75~90%にとどまった。これは、塩素系保護部20cによる、鉄イオンを酸化して凝集させる作用が得られていないためである。
それに対して実施例33では、3.5L通水後において「カオリンのみ時の除濁率」、「カオリン+鉄イオン時の除濁率」および「カオリン+鉄イオン時の除鉄率」の全てで90%以上の高い値が得られた。これは、効能部10に含まれる凝集剤15の微粒子をフロック化する作用と、塩素系保護部20cが溶け出すことで生じる有効塩素による、鉄イオンを酸化凝集する作用との双方の作用によるものであり、その結果、高い除濁性能と除鉄性能が得られた。
さらには実施例33では、9.5L通水後の「カオリン+鉄イオン時の除濁率」が98%となり、実施例4の96%と比べてより高い値となっている。これは、凝集剤15によるフロック化の作用と、有効塩素による鉄イオンの酸化凝集の作用が同時に起こり、微粒子のフロック化がより促進されたためである。
(変形例)
本発明に係る水処理用固形薬剤では、固形薬剤1は、効能部10と保護部20とを含んで構成されるとしたが、これに限られない。例えば、保護部20を備えず、効能部10だけであってもよい。このようにしても、賦形剤17により、凝集剤15の溶解性が低減されるため、長期にわたり安定した凝集剤濃度を提供可能な固形薬剤1とすることができる。
本発明に係る水処理用固形薬剤、水処理用固形薬剤の製造方法、およびそれを用いた水処理装置は、被処理水の浄化を安価に行うことができ、長期間にわたり安定した凝集剤濃度を提供可能な水処理用固形薬剤、水処理用固形薬剤の製造方法、およびそれを用いた水処理装置として有用であり、建物入口設置型浄水装置(POE)、使用場所設置型浄水装置(POU)等に適用することが可能である。
1、1b、1c 固形薬剤
1d 直打型固形薬剤
1e 分散型固形薬剤
1f、1g 相溶型固形薬剤
1h 無保護部固形薬剤
1i 塩素剤複合固形薬剤
1j 塩素のみ固形薬剤
10、10b、10c 効能部
10d 直打型効能部
10e 分散型効能部
10f、10g 相溶型効能部
11 一端部
12 他端部
13 側面
15 凝集剤
17 賦形剤
20 保護部
20a、20b 樹脂製保護部
20c 塩素系保護部
21 保護部天面
22 保護部底面
23 内壁
25 中空空間
50、50a、60 水処理装置
51、61 流入口
52、62 水源
53、63 通水ポンプ
54、64 通水管
55、55A、65 薬剤添加部
55a 孔開き板
57、57A、67 濾過部
58、68 浄水排出口
65a 凝集剤溶液貯留タンク
65b 凝集剤溶液注入ポンプ
65c 凝集剤溶液注入管

Claims (15)

  1. 被処理水中の処理対象物質に作用する固形化された凝集剤と、
    前記凝集剤の溶解性を低減させる固形化された賦形剤と、を含む水処理用固形薬剤。
  2. 前記凝集剤を10~80重量パーセント、
    前記賦形剤を20~90重量パーセント含有する請求項1に記載の水処理用固形薬剤。
  3. 前記凝集剤を10~40重量パーセント、
    前記賦形剤を60~90重量パーセント含有する請求項1または2に記載の水処理用固形薬剤。
  4. 25℃における前記被処理水への溶出速度が0.01~2mg/min/cmである請求項1から3のいずれか一項に記載の水処理用固形薬剤。
  5. 前記賦形剤は、タマリンドシードガム、グアーガム、カルボキシメチルセルロース、デンプン、キサンタンガム、ポリエチレングリコールのうち少なくとも一つを含有する請求項1から4のいずれか一項に記載の水処理用固形薬剤。
  6. 前記凝集剤は、ポリDADMAC、ポリアミン、ジシアンジアミド系高分子の少なくとも一つを含有する請求項1から5のいずれか一項に記載の水処理用固形薬剤。
  7. 前記凝集剤の粒子および前記賦形剤の粒子が互いに相溶化している請求項1から6のいずれか一項に記載の水処理用固形薬剤。
  8. 前記凝集剤の粒子の表面を前記賦形剤の粒子が被覆している請求項1から6のいずれか一項に記載の水処理用固形薬剤。
  9. 前記凝集剤と前記賦形剤とを含んで構成される効能部と、
    前記効能部を前記被処理水との接触から保護する保護部と、を備え、
    前記保護部は、両面が開口した筒形状を有し、
    前記効能部は、前記保護部における中空空間に格納され前記両面の開口から露出する請求項1から8のいずれか一項に記載の水処理用固形薬剤。
  10. 前記効能部の底面および天面のうち少なくとも一方は、前記両面の開口のうち一方の開口を有する平面以下に設けられる請求項9に記載の水処理用固形薬剤。
  11. 前記保護部に含まれる保護剤は、塩素化合物を主成分とする請求項9または10に記載の水処理用固形薬剤。
  12. 被処理水中の処理対象物質に作用する凝集剤と、前記凝集剤の溶解性を低減させる賦形剤と、を溶媒に溶解させる溶解工程と、
    前記溶媒中で前記凝集剤と前記賦形剤とを混練する混練工程と、
    前記溶媒を蒸発させ、前記凝集剤と前記賦形剤の混合体を得る蒸発工程と、
    前記混合体を成形する成形工程と、
    を含む水処理用固形薬剤の製造方法。
  13. 被処理水中の処理対象物質に作用する凝集剤と、前記凝集剤の溶解性を低減させる賦形剤と、を分散媒中で混合する混合工程と、
    前記分散媒を蒸発させ、前記凝集剤と前記賦形剤の混合体を得る蒸発工程と、
    前記混合体を成形する成形工程と、
    を含み、前記分散媒としてアルコールを100重量%用いる水処理用固形薬剤の製造方法。
  14. 請求項1~11のいずれか一項に記載の水処理用固形薬剤または請求項12~13のいずれか一項に記載の製造方法により製造された水処理用固形薬剤を備える、水処理装置。
  15. 前記処理対象物質を含む被処理水と前記水処理用固形薬剤とが接触して得られる接触後水は、
    前記凝集剤の濃度が0.005ppm以上0.2ppm以下である請求項14に記載の水処理装置。
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