JP2023106640A - 内耳有毛細胞の製造方法、薬剤の評価方法、及び細胞分化誘導用組成物 - Google Patents

内耳有毛細胞の製造方法、薬剤の評価方法、及び細胞分化誘導用組成物 Download PDF

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Abstract

【課題】分化誘導効率の改良された内耳有毛細胞の製造方法を提供する【解決手段】多能性幹細胞から分化誘導して得られた内耳前駆細胞を含む細胞集団を、第1のWnt/βカテニン経路の誘導剤及び抗Frizzled剤を含有する培地で培養する工程を含む、内耳有毛細胞の製造方法である。【選択図】なし

Description

本発明は、内耳有毛細胞の製造方法、薬剤の評価方法、及び細胞分化誘導用組成物に関する。
近年、人工多能性幹細胞(iPS細胞)や胚性幹細胞(ES細胞)などの多能性幹細胞は、再生医療あるいは病態解明、創薬のためのリサーチ・ツールなどとして、広汎にその利用が実現されている。一方で、種々の原因により惹起される聴覚障害に関しては、実験動物では聴覚の測定/比較が困難であり、科学的評価に資する内耳細胞を多能性幹細胞から誘導する方法の開発が期待されている。
しかしながら、例えば、非特許文献1、2にみられるように、ヒトES細胞から内耳前駆細胞を誘導する場合、胚葉体形成及びそれにともなう目視下における内耳前駆細胞の選択が必要であり、長期の培養期間及び低い効率が問題であった。更に、内耳前駆細胞から更に分化段階の進んだ内耳有毛細胞への誘導は、非常に効率が悪く、再生医療あるいは病態解明、創薬のためのリサーチ・ツールなどに応用するには、品質の面でも問題があった。
このような課題に対して、本出願人らは、多能性幹細胞から高効率に内耳前駆細胞を誘導する方法を確立した(特許文献1)。また、その誘導方法を応用して、遺伝性難聴疾患であるのペンドレッド症候群患者に由来するヒトiPS細胞を樹立したうえ、ペンドリン陽性細胞を調製し、患者由来細胞に特異的な細胞内凝集体の形成の確認やプロテオソーム阻害負荷に抗することができる薬剤の評価を行っている(特許文献2)。
W. Chen, N. Jongkamonwiwat, L. Abbas, S. J. Eshtan, S. L. Johnson, S. Kuhn, M. Milo, J. K. Thurlow, P. W. Andrews, W. Marcotti, H. D. Moore, M. N. Rivolta,「Restoration of auditory evoked responses by human ES-cell-derived otic progenitors」Nature 490(2012) 278-282. M. Ronaghi, M. Nasr, M. Ealy, R. Durruthy-Durruthy, J. Waldhaus, G. H. Diaz, L. M. Joubert, K. Oshima, S. Heller,「Inner ear hair cell-like cells from human embryonic stem cells」Stem Cells Dev 23(2014) 1275-1284.
特許第6218152号公報 国際公開第2016/117431号
しかしながら、高品質の細胞を安定的に大量かつ適切な価格で供給するには、より効率的な誘導方法の開発が必要であった。
よって、本発明の目的は、分化誘導効率の改良された内耳有毛細胞の製造方法を提供することにある。また、その方法により得られた内耳有毛細胞に対する、薬剤の評価方法を提供することにある。また、細胞分化誘導を簡便に行うようにするための、細胞分化誘導用組成物を提供することにある。
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を重ね、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、その第1の観点において、多能性幹細胞から分化誘導して得られた内耳前駆細胞を含む細胞集団を、第1のWnt/βカテニン経路の誘導剤及び抗Frizzled剤を含有する培地で培養する工程を含む、内耳有毛細胞の製造方法を提供するものである。
本発明による、上記第1の観点における内耳有毛細胞の製造方法によれば、多能性幹細胞から分化誘導した内耳前駆細胞を含む細胞集団を、第1のWnt/βカテニン経路の誘導剤及び抗Frizzled剤を含有する培地で培養するので、品質の良好な内耳有毛細胞が効率よく得られる。
本発明による内耳有毛細胞の製造方法においては、前記第1のWnt/βカテニン経路の誘導剤及び抗Frizzled剤を含有する培地は、IGF-1、bFGF、及びEGFからなる群から選ばれた1種又は2種以上を含有することが好ましい。これによれば、品質の良好な内耳有毛細胞への分化をより確実にすることができる。
本発明による内耳有毛細胞の製造方法においては、前記第1のWnt/βカテニン経路の誘導剤及び抗Frizzled剤を含有する培地は、無血清培地であることが好ましい。これによれば、血清因子に起因して目的外の細胞に分化してしまうリスクを抑えることができる。
本発明による内耳有毛細胞の製造方法においては、前記第1のWnt/βカテニン経路の誘導剤は、Wnt3a及び/又はR-spondin1であり、前記抗Frizzled剤は、Frizzled10の擬似分子による競合剤であることが好ましい。
本発明による内耳有毛細胞の製造方法においては、以下の工程(1)及び(2)を含み、
(1)前記多能性幹細胞から分化誘導して得られた内耳前駆細胞を含む細胞集団を浮遊培養する工程
(2)工程(1)で得られた細胞集団を、前記第1のWnt/βカテニン経路の誘導剤及び前記抗Frizzled剤を含有する培地で培養する工程
前記工程(1)における浮遊培養は、第2のWnt/βカテニン経路の誘導剤を含有する培地で行うことが好ましい。
これによれば、多能性幹細胞から分化誘導して得られた内耳前駆細胞を含む細胞集団を、Wnt/βカテニン経路の誘導剤を含有する培地での浮遊培養に処するので、品質の良好な内耳有毛細胞への分化をより確実にすることができる。
本発明による内耳有毛細胞の製造方法においては、前記第2のWnt/βカテニン経路の誘導剤を含有する培地は、IGF-1、bFGF、及びEGFからなる群から選ばれた1種又は2種以上を含有することが好ましい。これによれば、品質の良好な内耳有毛細胞への分化をより確実にすることができる。
本発明による内耳有毛細胞の製造方法においては、前記第2のWnt/βカテニン経路の誘導剤を含有する培地は、無血清培地であることが好ましい。これによれば、血清因子に起因して目的外の細胞に分化してしまうリスクを抑えることができる。
本発明による内耳有毛細胞の製造方法においては、前記第2のWnt/βカテニン経路の誘導剤は、R-spondin1、CHIR99021、及びWnt3aからなる群から選ばれた1種又は2種以上であることが好ましい。
本発明による内耳有毛細胞の製造方法においては、前記多能性幹細胞から分化誘導して得られた内耳前駆細胞を含む細胞集団は、レチノイン酸及び第3のWnt/βカテニン経路の誘導剤を含有する培地で培養する工程を含む方法で得られたものであることが好ましい。これによれば、多能性幹細胞から、内耳予定領域マーカーであるPAX2及び/又はPAX8を発現した細胞を含む細胞集団を、より確実に分化誘導することができる。
本発明による内耳有毛細胞の製造方法においては、前記第3のWnt/βカテニン経路の誘導剤は、CHIR99021、BIO、及びLiClからなる群から選ばれた1種又は2種以上であることが好ましい。
本発明は、その第2の観点において、上記の製造方法で得られた内耳有毛細胞を、被検薬剤で処理する工程と、前記被検薬剤で処理した前記内耳有毛細胞の状態を評価する工程とを含む、薬剤の評価方法を提供するものである。
本発明による、上記第2の観点における薬剤の評価方法によれば、内耳有毛細胞に影響を与える薬剤の評価を有効かつ効率的に行うができる。
本発明は、その第3の観点において、Frizzled受容体の種類に選択的な競合剤を含有する細胞分化誘導用組成物を提供するものである。
本発明による、上記第3の観点における細胞分化誘導用組成物によれば、これを用いて、効率的な内耳有毛細胞の調製を、より簡便に行うことができる。
本発明による細胞分化誘導用組成物においては、前記競合剤は、Frizzled10の擬似分子による競合剤であることが好ましい。
本発明による細胞分化誘導用組成物においては、該細胞分化誘導用組成物は、内耳有毛細胞誘導用のものであることが好ましい。
なお、本明細書において、上記内耳有毛細胞の製造方法における「第1のWnt/βカテニン経路の誘導剤」、「第2のWnt/βカテニン経路の誘導剤」、「第3のWnt/βカテニン経路の誘導剤」とは、それぞれ異なる工程において「Wnt/βカテニン経路の誘導剤」を用いるという趣旨であり、物質的構成を相互に別異なものとして区別する趣旨ではない。よって、例えば、第1~第3のそれぞれのWnt/βカテニン経路の誘導剤として、1種又は2種以上の同一の物質を用いる場合があってよく、あるいは、第1~第3のそれぞれのWnt/βカテニン経路の誘導剤として、全部又は一部が異なる1種又は2種以上の物質を用いる場合があってもよい。
本発明による内耳有毛細胞の製造方法の一実施形態を説明するフロー図である。 本発明による内耳有毛細胞の製造方法の他の実施形態を説明するフロー図である。 試験例1において、ヒトiPS細胞から分化誘導した内耳前駆細胞について、qRT-PCRによる遺伝子発現解析を行った結果を示す図表である。 試験例2において、ヒトiPS細胞から内耳前駆細胞に分化誘導する過程における内耳前駆細胞マーカーの発現量の推移をqRT-PCRで比較した結果を示す図表である。 試験例3において、ヒトiPS細胞から内耳前駆細胞への分化誘導を行い、3種類の異なるWnt/βカテニン経路の誘導剤を添加して培養したことによる内耳前駆細胞マーカーの発現量の変化をqRT-PCRで定量した結果を示す図表である。 試験例4において、内耳前駆細胞から内耳有毛細胞への分化誘導を行い、内耳前駆細胞マーカーのLGR5及び内耳有毛細胞マーカーのATOH1の遺伝子発現量をqRT-PCRで定量した結果を示す図表である。 試験例5において、内耳前駆細胞から内耳有毛細胞への分化誘導を行い、R-spondin1を添加して浮遊培養を行ったことによる内耳有毛細胞マーカーの発現量の変化をqRT-PCRで定量した結果を示す図表である。 試験例6において、内耳前駆細胞から内耳有毛細胞への分化誘導を行い、内耳有毛細胞、支持細胞、及びらせん神経節細胞のそれぞれのマーカー分子に対する特異抗体による免疫染色を行った結果を示す図表である。 試験例7において、内耳前駆細胞から内耳有毛細胞への分化誘導の過程で各種抗Frizzled剤を添加することによる内耳有毛細胞マーカーの発現量の変化をqRT-PCRで比較した結果を示す図表である。
本発明は、多能性幹細胞から内耳器官を構成する内耳細胞を分化誘導する方法に関し、より詳細には、多能性幹細胞から内耳細胞への分化の途中段階にあり、幹細胞性を残す内耳前駆細胞において、内耳有毛細胞への分化誘導が促進されるように改良された、内耳有毛細胞の製造方法に関する。
多能性幹細胞としては、人工多能性幹細胞(iPS細胞)や胚性幹細胞(ES細胞)などが知られている。多能性幹細胞は、ヒト由来のものであってもよく、ヒト以外の生物に由来するものであってもよい。また、iPS細胞である場合には、健常人の体細胞から初期化して調製されたものを用いてもよく、疾患保有者の体細胞から初期化して調製されたものを用いてもよい。疾患としては、特には、内耳器官、聴覚、聴力等に関するものが挙げられ、例えば、ペンドレッド症候群、アッシャー症候群等が挙げられる。
本発明においては、多能性幹細胞から分化誘導して得られた内耳前駆細胞を、第1のWnt/βカテニン経路の誘導剤及び抗Frizzled剤を含有する培地で培養する必要があるが、それ以外は、従来の方法に従って培養を行うことができる。以下、多能性幹細胞を内耳有毛細胞への分化に向かわせるための典型的な誘導方法に沿って、本発明を詳細に説明する。ただし、本発明にかかる方法は、以下に説明する特定の培養条件等に限定されるものではない。
なお、以下の説明において「接着培養」とは、目的の細胞や細胞集団を培養器の底面等に接着させて培養することを意味し、また、「浮遊培養」とは、目的の細胞や細胞集団を培養器の底面等に接着させずに培養することを意味する。この場合、培養中、細胞や細胞集団が培養器の底面等に接着するとは、細胞や細胞集団が、細胞外マトリクス(ECM)などに含まれる細胞-基質接着分子を通じて、培養器の底面等と接着している状態を意味し、培養液を軽く揺らしても細胞や細胞集団が培養液中に浮かんでこない状態をいう。一方、培養中、細胞や細胞集団が培養器の底面等に接着しないとは、細胞や細胞集団が、細胞外マトリクス(ECM)などに含まれる細胞-基質接着分子を通じて、培養器の底面等と接着していない状態を意味し、たとえ底面等に触れていても培養液を軽く揺らすと細胞や細胞集団が培養液中に浮かんでくるような状態をいう。接着培養の際は、細胞の基質への接着を促進するために、プラスティックディッシュの底表面を化学処理したり、接着を促進する接着用コーティング剤(ゼラチン、ポリリジン、寒天など)でコートしたりすることが好ましい。浮遊培養の際は、プラスティックディッシュの底面等の表面は処理しないか、細胞の気質への接着を阻止するための接着阻止用コーティング剤(ポリ(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)など)でコートしたりすることが好ましい。なお、接着培養であっても、目的の細胞が接着するまでに時間がかかり、ある程度の時間、浮遊状態にある場合があるが、時間がかかってもその細胞が最終的に接着する場合は、接着培養に含めることとする。
[1]多能性幹細胞から内耳前駆細胞への分化誘導
本発明において、多能性幹細胞から内耳前駆細胞を含む細胞集団への分化誘導は、例えば、以下の工程(1)~(4)を経ることにより行うことができる。
(1)第1工程:多能性幹細胞を、成長因子の非存在下であって、ROCK阻害剤の存在下で培養する工程
(2)第2工程:工程(1)で得られた細胞集団を、成長因子の非存在下であって、ROCK阻害剤の非存在下で培養する工程
(3)第3工程:工程(2)で得られた細胞集団を、bFGF、FGF3、FGF10、及びFGF19からなる群から選ばれた少なくとも1種の成長因子、及びBMP4の存在下で培養する工程と、
(4)第4工程:工程(3)で得られた細胞集団を、bFGF、FGF3、FGF10、及びFGF19からなる群から選ばれた少なくとも1種の成長因子の存在下であって、BMP4の非存在下で培養する工程
上記の第1工程で用いる培地としては、多能性幹細胞もしくは多能性幹細胞から分化に向かう細胞を維持できる培地であればよく、特に限定されない。例えば、多能性幹細胞維持用のフィーダー細胞不要な無血清培地である「mTeSR1」(STEMCELL Technologies社)などが好ましく例示される。ただし、第1工程においては、成長因子の非存在下であって、ROCK(Rho-associated coiled-coil forming kinase/Rho結合キナーゼ)の阻害剤の存在下で培養を行う。ROCK阻害剤により、多能性幹細胞に対して、細胞死抑制効果がある。第1工程は、1~3日間行うことが好ましく、1~2日間行うことがより好ましい。
上記の第1工程で用いるROCK阻害剤としては、例えば、Y-27632((R)-(+)-trans-N-(4-Pyridyl)-4-(1-aminoethyl)-cyclohexanecarboxamide)、Fasudil hydrochloride、K-115(リパスジル塩酸塩水和物)、DE-104などが例示される。ROCK阻害剤の濃度は、ROCK阻害剤の種類に応じて、適宜最適濃度を決定すればよいが、例えばY-27632の場合、1~100μMが好ましく、10~20μMがより好ましい。
上記の第2工程で用いる培地としては、多能性幹細胞もしくは多能性幹細胞から分化に向かう細胞を維持できる培地であればよく、特に限定されない。例えば、第1工程の培養に好ましく使用される培地と同様に、多能性幹細胞維持用のフィーダー細胞不要な無血清培地である「mTeSR1」(STEMCELL Technologies社)などが好ましく例示される。ただし、第2工程では、成長因子の非存在下であって、ROCK阻害剤の非存在下で培養する。また、その際、第2工程の好ましい態様においては、上記mTeSR1メディウムで1日程度培養した後、培地を、続く工程で使用する基礎培地(例えば、無血清培地である「DMEM/F12」(商品名「D-MEM/Ham’s F-12」、富士フイルム和光純薬株式会社)に、無血清サプリメント「B27」(商品名「Gibco B-27 Supplement」、Thermo Fisher Scientific社)、無血清サプリメント「N2」(商品名「Gibco N-2 Supplement」(Thermo Fisher Scientific社)、無血清サプリメント「Gibco GlutaMAX」(Thermo Fisher Scientific社)、無血清サプリメント「Nonessential aminoacid」(ナカライテスク株式会社)を補充した培地)などに交換し、1日毎に新鮮培地に交換しつつ培養して、細胞を維持することが好ましい。これによれば、続く工程で成長因子を作用させるために用いる基礎培地に細胞をよくなじませることができる。第2工程は、トータルで1~10日間行うことが好ましく、2~8日間行うことがより好ましい。3~6日間行うことが更により好ましい。
なお、上記の第1工程及び第2工程において、成長因子及び/又はROCK阻害剤の非存在下の意味は、成長因子及び/又はROCK阻害剤が実質的に非存在であればよく、成長因子及び/又はROCK阻害剤は効果がないレベルの濃度で含まれていてもよい。
上記の第3工程で用いる培地としては、多能性幹細胞から分化に向かう細胞を維持できる培地であればよく、特に限定されない。例えば、第2工程の後半培養で好ましく使用される培地と同様に、無血清培地である「DMEM/F12」(商品名「D-MEM/Ham’s F-12」、富士フイルム和光純薬株式会社)に、無血清サプリメント「B27」(商品名「Gibco B-27 Supplement」、Thermo Fisher Scientific社)、無血清サプリメント「N2」(商品名「Gibco N-2 Supplement」(Thermo Fisher Scientific社)、無血清サプリメント「Gibco GlutaMAX」(Thermo Fisher Scientific社)、無血清サプリメント「Nonessential aminoacid」(ナカライテスク株式会社)を補充した培地などが好ましく例示される。ただし、第3工程では、成長因子としてbFGF、FGF3、FGF10、及びFGF19からなる群から選ばれた少なくとも1種の成長因子、及びBMP4の存在下に培養する。その際、bFGF、FGF3、FGF10、及びFGF19は、それらの全部を存在させることが好ましい。成長因子であるbFGF、FGF3、FGF10、FGF19、及びBMP4の培地中の濃度範囲としては、それぞれにおいて10~50ng/mLであることが好ましく、10~25ng/mLであることがより好ましい。また、培地は、例えば、およそ1日毎に新鮮なものに交換しつつ培養して、細胞を維持することが好ましい。これによれば、上記成長因子による所望の分化に向かわせる効果を更に高めることができる。第3工程は、トータルで1~6日間行うことが好ましく、2~5日間行うことがより好ましい。3~4日間行うことが更により好ましい。
上記の第4工程で用いる培地としては、多能性幹細胞から分化に向かう細胞を維持できる培地であればよく、特に限定されない。例えば、第3工程の培養に好ましく使用される培地と同様に、無血清培地である「DMEM/F12」(商品名「D-MEM/Ham’s F-12」、富士フイルム和光純薬株式会社)に、無血清サプリメント「B27」(商品名「Gibco B-27 Supplement」、Thermo Fisher Scientific社)、無血清サプリメント「N2」(商品名「Gibco N-2 Supplement」(Thermo Fisher Scientific社)、無血清サプリメント「Gibco GlutaMAX」(Thermo Fisher Scientific社)、無血清サプリメント「Nonessential aminoacid」(ナカライテスク株式会社)を補充した培地などが好ましく例示される。ただし、第4工程では、成長因子としてbFGF、FGF3、FGF10、及びFGF19からなる群から選ばれた少なくとも1種の成長因子の存在下であって、BMP4の非存在下に培養する。その際、bFGF、FGF3、FGF10、及びFGF19は、それらの全部を存在させることが好ましい。成長因子であるbFGF、FGF3、FGF10、及びFGF19の培地中の濃度範囲としては、それぞれにおいて10~50ng/mLであることが好ましく、25ng/mLであることがより好ましい。また、培地は、例えば、およそ1日毎に新鮮なものに交換しつつ培養して、細胞を維持することが好ましい。これによれば、上記成長因子による所望の分化に向かわせる効果を更に高めることができる。第4工程は、トータルで1~6日間行うことが好ましく、2~5日間行うことがより好ましい。3~4日間行うことが更により好ましい。
なお、第4工程において、BMP4の非存在下の意味は、BMP4が実質的に非存在であればよく、効果がないレベルの濃度で含まれていてもよい。
上記した第1工程~第4工程の一連の培養は、培養皿の底面等に付着させつつ培養する、接着培養によることが好ましい。これによれば、細胞を効率よく培養することができる。また、分化誘導を促進したり、逆に分化誘導を抑えたり、それらを調節するための培地交換等の操作が容易である。また、無血清培地で培養することが好ましい。これによれば、血清因子に起因して目的外の細胞に分化してしまうリスクを抑えることができる。
ここで、一般に、多能性幹細胞から内耳細胞への分化を評価するには、内耳予定領域マーカーであるPAX2やPAX8の発現を指標にして評価することができる。すなわち、多能性幹細胞は、所定の培養を経ることにより内耳細胞への分化に向かうと、それにともなってPAX2やPAX8の発現が上昇する。また、分化度が進むにつれて、PAX2やPAX8の発現は抑制傾向となる(参考文献1:Ealy M, Ellwanger DC, Kosaric N, Stapper AP, Heller S.「Single-cell analysis delineates a trajectory toward the human early otic lineage.」Proc Natl Acad Sci U S A. 2016 Jul 26;113(30):8508-13.;参考文献2:Koehler KR, Nie J, Longworth-Mills E, Liu XP, Lee J, Holt JR, Hashino E1.「Generation of inner ear organoids containing functional hair cells from human pluripotent stem cells.」Nat Biotechnol. 2017 Jun;35(6):583-589.)。よって、PAX2やPAX8の発現をタンパク発現レベルやmRNA発現レベルで調べることにより、内耳細胞へ分化の程度を評価することができる。したがって、上記に説明した方法を経ることにより、多能性幹細胞を内耳細胞に向けて分化誘導すると、PAX2やPAX8の発現をタンパク発現レベルやmRNA発現レベルで調べたとき、少なくともその発現を検知することができるレベルに達した細胞集団となっている。
[2]内耳前駆細胞から内耳有毛細胞への分化誘導
図1には、本発明による内耳有毛細胞の製造方法の一実施形態をフロー図により説明している。本発明においては、多能性幹細胞から分化誘導して得られた内耳前駆細胞を含む細胞集団に対して、特定の処理を施すことにより、内耳有毛細胞への分化誘導を促進させる。具体的には、図1に示されるように、多能性幹細胞から分化誘導して得られた内耳前駆細胞を、第1のWnt/βカテニン経路の誘導剤及び抗Frizzled剤を含有する培地で培養する。
本工程の培養に用いる培地としては、「DMEM/F12」(商品名「D-MEM/Ham’s F-12」、富士フイルム和光純薬株式会社)などが好ましく例示される。培地には、適宜、補充栄養成分を補充してもよい。例えば、無血清サプリメント「B27」(商品名「Gibco B-27 Supplement」、Thermo Fisher Scientific社)、無血清サプリメント「N2」(商品名「Gibco N-2 Supplement」(Thermo Fisher Scientific社)、無血清サプリメント「Gibco GlutaMAX」(Thermo Fisher Scientific社)、無血清サプリメント「Nonessential aminoacid」(ナカライテスク株式会社)等が挙げられる。
一般に、内耳有毛細胞への分化誘導に寄与する成長因子としては、bFGF、EGF、IGF-1、ヘパリンなどが知られている。よって、これら成長因子の1種又は2種以上を培地に含有せしめて培養することが好ましい。この場合、これら成長因子の培地中の濃度範囲としては、bFGFでは、10~50ng/mLであることが好ましく、10~30ng/mLであることがより好ましい。EGFでは、10~50ng/mLであることが好ましく、20~30ng/mLであることがより好ましい。IGF-1では、10~100ng/mLであることが好ましく、20~50ng/mLであることがより好ましい。ヘパリンでは、1~100ng/mLであることが好ましく、10~50ng/mLであることがより好ましい。培養は、特に、成長因子としてEGFが少なくとも存在する環境下に行うことが好ましい。これによれば、内耳有毛細胞への分化をより確実にすることができる。培養方式としては、浮遊培養で行ってもよく、接着培養で行ってもよく、その両方の培養方式を相互に連続的に併用してもよい。また、無血清培地で培養することが好ましい。これによれば、血清因子に起因して目的外の細胞に分化してしまうリスクを抑えることができる。また、培養期間は、トータル15~30日間行うことが好ましく、18~27日間行うことがより好ましく、21~24日間行うことが更により好ましい。
第1のWnt/βカテニン経路の誘導剤としては、Wnt3a、R-spondin1、CHIR99021(別名:6-((2-((4-(2,4-Dichlorophenyl)-5-(4-Methyl-1H-imidazol-2-yl)pyrimidin-2-yl)amino)ethyl)amino)nicotinonitrile)、BIO(別名:6-bro-moindirubin 3’-oxime)、LiCl(塩化リチウム)等が挙げられる。これらのうち、Wnt3a、R-spondin1がより好ましく例示され、Wnt3a及びR-spondin1の両方の存在下に行うことが好ましい。また、抗Frizzeled剤としては、Frizzled受容体の種類に選択的な競合剤として、ヒトFrizzled受容体の細胞外ドメイン断片及びヒトFcドメインからなる融合タンパク質などが知られているので、そのようなFrizzled受容体の擬似分子を用いることができる。
本発明の限定されない任意の態様においては、抗Frizzled剤として、Frizzled10の擬似分子が好ましく例示される。これによれば、後述する実施例に示されるように、Wnt/βカテニン経路の誘導剤とともに使用することで、内耳有毛細胞の一形態である蝸牛該有毛細胞への分化誘導を促すことができる。例えば、Frizzled10の擬似分子として、商品名「Recombinant Human Frizzled-10 Fc Chimera Protein」、R&D Systems社)なども市販されているので、そのような市販品を用いてもよい。
培地中での第1のWnt/βカテニン経路の誘導剤の濃度は、その下限値としては、10ng/mL以上とすることが好ましく、その上限値としては、1000ng/mL以下であることが好ましい。また、第1のWnt/βカテニン経路の誘導剤が、特にWnt3aである場合、その下限値としては、1ng/mL以上とすることが好ましく、10ng/mL以上とすることがより好ましく、20ng/mL以上とすることが更により好ましい。その上限値としては、100ng/mL以下であることが好ましく、50ng/mL以下であることがより好ましく、20ng/mL以下であることが更により好ましい。また、特にR-spondin1である場合、その下限値としては、10ng/mL以上とすることが好ましく、50ng/mL以上とすることがより好ましく、100ng/mL以上とすることが更により好ましい。その上限値としては、1000ng/mL以下であることが好ましく、500ng/mL以下であることがより好ましく、200ng/mL以下であることが更により好ましい。
一方、培地中での抗Frizzled剤の濃度は、下限値としては、10ng/mL以上とすることが好ましく、20ng/mL以上とすることがより好ましく、50ng/mL以上とすることが更により好ましい。その上限値としては、200ng/mL以下であることが好ましく、100ng/mL以下であることがより好ましく、50ng/mL以下であることが更により好ましい。
図2には、本発明による内耳有毛細胞の製造方法の他の実施形態をフロー図により説明している。この実施形態においては、上記した第1のWnt/βカテニン経路の誘導剤及び抗Frizzled剤を含む培地での培養を、以下の工程(i)及び(ii)に処することにより行っている。
(i)前記内耳前駆細胞を含む細胞集団を浮遊培養する工程
(ii)工程(i)で得られた細胞集団を接着培養する工程
浮遊培養のためには、内耳前駆細胞は、上記した細胞剥離の処理と同様にして個々の細胞に分離し、適当な液体培地に懸濁させたうえ、非接着状態で培養することができる浮遊培養用の培養器に入れて培養することが好ましい。非接着培養用の培養器としては、具体的には、例えば、細菌培養用プラスティックディッシュなどを用いることができる。
浮遊培養に用いる培地は、特に限定されず、上述した無血清培地である「DMEM/F12」(商品名「D-MEM/Ham’s F-12」、富士フイルム和光純薬株式会社)などが好ましく例示される。培地には、適宜、補充栄養成分を補充してもよい。例えば、無血清サプリメント「B27」(商品名「Gibco B-27 Supplement」、Thermo Fisher Scientific社)、無血清サプリメント「N2」(商品名「Gibco N-2 Supplement」(Thermo Fisher Scientific社)、無血清サプリメント「Gibco GlutaMAX」(Thermo Fisher Scientific社)、無血清サプリメント「Nonessential aminoacid」(ナカライテスク株式会社)等が挙げられる。
上記のとおり、一般に、内耳有毛細胞への分化誘導に寄与する成長因子としては、bFGF、EGF、IGF-1、ヘパリンなどが知られている。よって、これら成長因子の1種又は2種以上を培地に含有せしめて培養することが好ましい。この場合、これら成長因子の培地中の濃度範囲としては、bFGFでは、10~50ng/mLであることが好ましく、10~30ng/mLであることがより好ましい。EGFでは、10~50ng/mLであることが好ましく、20~30ng/mLであることがより好ましい。IGF-1では、10~100ng/mLであることが好ましく、20~50ng/mLであることがより好ましい。ヘパリンでは、1~100ng/mLであることが好ましく、10~50ng/mLであることがより好ましい。この浮遊培養は、トータル2~6日間行うことが好ましく、3~5日間行うことがより好ましく、4日間行うことが更により好ましい。
また、その浮遊培養においては、遠心分離等により形成されたスフェア(細胞塊)を壊さないように回収して、新鮮な培地を入れ替えたり、新鮮な培地を追加したりして、更にその浮遊培養を続けてもよい。この場合、追加的な浮遊培養を2~6日間行うことが好ましく、3~5日間行うことがより好ましく、4日間行うことが更により好ましい。追加する培地は、特に限定されず、上述した無血清培地である「DMEM/F12」(商品名「D-MEM/Ham’s F-12」、富士フイルム和光純薬株式会社)などが好ましく例示される。培地には、適宜、無血清サプリメント「B27」(商品名「Gibco B-27 Supplement」、Thermo Fisher Scientific社)、無血清サプリメント「N2」(商品名「Gibco N-2 Supplement」(Thermo Fisher Scientific社)、無血清サプリメント「Gibco GlutaMAX」(Thermo Fisher Scientific社)、無血清サプリメント「Nonessential aminoacid」(ナカライテスク株式会社)等の補充栄養成分を補充してもよい。ただし、細胞や細胞集団に刺激を与えない観点からは、成長因子以外は、最初の浮遊培養で用いた培地と同一のものを用いるのが好ましい。追加する新鮮培地に含有せしめる成長因子としては、上記したもののうちで、bFGF、EGF、IGF-1、ヘパリン等から選ばれた1種又は2種以上であればよい。それぞれの好ましい濃度は、10~30ng/mL、10~30ng/mL、20~50ng/mL、10~50ng/mLなどである。
浮遊培養においては、上記した成長因子のほか、成長因子として、更に、第2のWnt/βカテニン経路の誘導剤の存在下で行うことがより好ましい。これによれば、後述する実施例に示されるように、内耳有毛細胞への分化誘導の効率が更に向上する。第2のWnt/βカテニン経路の誘導剤としては、R-spondin1、CHIR99021(別名:6-((2-((4-(2,4-Dichlorophenyl)-5-(4-Methyl-1H-imidazol-2-yl)pyrimidin-2-yl)amino)ethyl)amino)nicotinonitrile)、BIO(別名:6-bro-moindirubin 3’-oxime)、LiCl(塩化リチウム)、Wnt3a等が挙げられる。これらのうち、R-spondin1、CHIR99021、Wnt3aがより好ましく例示される。浮遊培養の培地中での第2のWnt/βカテニン経路の誘導剤の濃度は、その下限値としては、10ng/mL以上とすることが好ましく、その上限値としては、1000ng/mL以下であることが好ましい。また、第2のWnt/βカテニン経路の誘導剤が、特にR-spondin1である場合、その下限値としては、10ng/mL以上とすることが好ましく、50ng/mL以上とすることがより好ましく、100ng/mL以上とすることが更により好ましい。その上限値としては、1000ng/mL以下であることが好ましく、500ng/mL以下であることがより好ましく、200ng/mL以下であることが更により好ましい。また、第2のWnt/βカテニン経路の誘導剤が、特に特にCHIR99021である場合、その下限値としては、0.1μM以上とすることが好ましく、0.5μM以上とすることがより好ましく、1μM以上とすることが更により好ましい。その上限値としては、10μM以下であることが好ましく、5μM以下であることがより好ましく、3μM以下であることが更により好ましい。また、第2のWnt/βカテニン経路の誘導剤が、特にWnt3aである場合、その下限値としては、1ng/mL以上とすることが好ましく、10ng/mL以上とすることがより好ましく、20ng/mL以上とすることが更により好ましい。その上限値としては、100ng/mL以下であることが好ましく、50ng/mL以下であることがより好ましく、20ng/mL以下であることが更により好ましい。
図2に示す実施形態においては、上記浮遊培養した細胞や細胞集団を、更に接着培養する。
接着培養のためには、上記浮遊培養した細胞や細胞集団を、遠心分離等により形成されたスフェア(細胞塊)を壊さないように回収して、接着培養を行う。接着培養のための培養器としては、上述したように、特に、コーティング剤でコートした培養皿を用いて培養することが好ましい。これによれば、浮遊培養後の細胞や細胞集団を、更に効率よく分化に向かわせることができる。コーティング剤は、通常、培養器への接着や分化を促す目的で使用されるものを用いればよく、そのような目的のコーティング剤は、特に限定されないが、例えば、poly-O-fibronectine等が好ましく例示される。また、無血清培地で培養することが好ましい。これによれば、血清因子に起因して目的外の細胞に分化してしまうリスクを抑えることができる。接着培養の培地は、浮遊培養で用いた培地と同一のものを用いてもよく、他の培地を用いてもよい。具体的には、例えば、上述した無血清培地である「DMEM/F12」(商品名「D-MEM/Ham’s F-12」、富士フイルム和光純薬株式会社)などが好ましく例示される。培地には、適宜、無血清サプリメント「B27」(商品名「Gibco B-27 Supplement」、Thermo Fisher Scientific社)、無血清サプリメント「N2」(商品名「Gibco N-2 Supplement」(Thermo Fisher Scientific社)、無血清サプリメント「Gibco GlutaMAX」(Thermo Fisher Scientific社)、無血清サプリメント「Nonessential aminoacid」(ナカライテスク株式会社)等の補充栄養成分を補充してもよい。ただし、上述したように、一般に、内耳有毛細胞への分化誘導に寄与する成長因子としては、bFGF、EGF、IGF-1、ヘパリンなどが知られている。よって、これら成長因子の1種又は2種以上を培地に含有せしめて培養することが好ましい。この場合、これら成長因子の培地中の濃度範囲としては、上記した浮遊培養の際と同様である。この接着培養は、トータル7~21日間行うことが好ましく、10~14日間行うことがより好ましい。
また、その接着培養においては、新鮮な培地を入れ替えたり、新鮮な培地を追加したりして、更にその接着培養を続けてもよい。この場合、接着培養開始から1~4日間、好ましくは2~3日間、より好ましくは2日間培養を行い、その後、追加的な接着培養を6~17日間行うことが好ましく、7~14日間行うことがより好ましく、8~12日間行うことが更により好ましい。追加する培地は、特に限定されず、上述した無血清培地である「DMEM/F12」(商品名「D-MEM/Ham’s F-12」、富士フイルム和光純薬株式会社)などが好ましく例示される。培地には、適宜、無血清サプリメント「B27」(商品名「Gibco B-27 Supplement」、Thermo Fisher Scientific社)、無血清サプリメント「N2」(商品名「Gibco N-2 Supplement」(Thermo Fisher Scientific社)、無血清サプリメント「Gibco GlutaMAX」(Thermo Fisher Scientific社)、無血清サプリメント「Nonessential aminoacid」(ナカライテスク株式会社)等の補充栄養成分を補充してもよい。ただし、細胞や細胞集団に刺激を与えない観点からは、成長因子以外は、最初の接着培養で用いた培地と同一のものを用いるのが好ましい。追加する新鮮培地に含有せしめる成長因子としては、上記したもののうちで、bFGF、EGF、IGF-1、ヘパリン等から選ばれた1種又は2種以上であればよい。それぞれの好ましい濃度は、10~30ng/mL、10~30ng/mL、20~50ng/mL、10~50ng/mLなどである。
[3]内耳前駆細胞の賦活化
上述したように、本発明においては、多能性幹細胞から得られた内耳前駆細胞から内耳有毛細胞を分化誘導するが、その限定されない任意の態様においては、使用する内耳前駆細胞は、上記した第1工程~第4工程の一連の培養後に、更に、以下の処理を施すことにより賦活化させたうえで用いてもよい。
(5)第5工程:工程(4)で得られた細胞集団を、細胞剥離処理したうえ、レチノイン酸及び第3のWnt/βカテニン経路の誘導剤を含有する培地で培養する工程
上記の第5工程においては、多能性幹細胞から分化誘導したPAX2/PAX8陽性細胞を含む細胞集団について、細胞剥離の処理を施す。多能性幹細胞の培養により内耳細胞へ分化させる過程では、増殖した細胞は細胞同士が接着した状態となるところ、細胞の個々を分離したうえで次の培養に移すと、単細胞化もしくは2~10個の少数の細胞塊などに解離して、細胞の個々が培地や培養器に直接に暴露して影響を受けやすくなる。このとき、細胞が未分化であったり、細胞の生育活性が弱かったりすると、生き残れずに死滅する。これにより、内耳細胞への分化にとって不必要な細胞が淘汰されて、PAX2及び/又はPAX8の発現レベルを確実に維持することができる。細胞剥離の処理は、細胞同士の接着を解離して、細胞の個々を分離することができる手段であればよく、特に制限はないが、例えば、トリプシンやアクターゼなどによる酵素処理が挙げられる。酵素処理後には、液体培地中でのピペッティングなどで解離を確実にすることができる。また、所定の孔径を有するメッシュを通すことにより、残存する細胞塊を除去してもよい。そのような目的で用いられるメッシュとしては、孔径1~1000μmなどの範囲で段階的に所定の孔径を有するナイロンメッシュを備えたセルストレーナーが市販されているので、そのような市販のセルストレーナーのなかから適宜適当な孔径のものを選択して利用してもよい。
上記の第5工程においては、上記細胞剥離の処理を施した細胞や細胞集団を、更に、レチノイン酸及び第3のWnt/βカテニン経路の誘導剤を含有する培地で培養する。培地としては、無血清培地である「DMEM/F12」(商品名「D-MEM/Ham’s F-12」、富士フイルム和光純薬株式会社)などが好ましく例示される。培地には、適宜、補充栄養成分を補充してもよい。例えば、無血清サプリメント「B27」(商品名「Gibco B-27 Supplement」、Thermo Fisher Scientific社)、無血清サプリメント「N2」(商品名「Gibco N-2 Supplement」(Thermo Fisher Scientific社)、無血清サプリメント「Gibco GlutaMAX」(Thermo Fisher Scientific社)、無血清サプリメント「Nonessential aminoacid」(ナカライテスク株式会社)等が挙げられる。
ただし、本工程では、レチノイン酸及び第3のWnt/βカテニン経路の誘導剤を含有する培地で培養する。後述の実施例で示されるように、レチノイン酸と第3のWnt/βカテニン経路の誘導剤を併用して培地に含有せしめて、その培地で培養すると、PAX2及び/又はPAX8の発現レベルが高められる。レチノイン酸としては、オールトランス型レチノイン酸等が挙げられる。また、第3のWnt/βカテニン経路の誘導剤としては、CHIR99021(別名:6-((2-((4-(2,4-Dichlorophenyl)-5-(4-Methyl-1H-imidazol-2-yl)pyrimidin-2-yl)amino)ethyl)amino)nicotinonitrile)、BIO(別名:6-bro-moindirubin 3’-oxime)、LiCl(塩化リチウム)、Wnt3a、R-spondin1等が挙げられる。これらのうち、CHIR99021、BIO、LiCl(塩化リチウム)などがより好ましく例示される。
本工程での培地中でのレチノイン酸の濃度は、その下限値としては、0.1μM以上とすることが好ましく、0.3μM以上とすることがより好ましく、0.5μM以上とすることが更により好ましい。その上限値としては、5μM以下であることが好ましく3μmM以下であることがより好ましく、1μM以下であることが更により好ましい。なお、上記した無血清サプリメント「B27」(商品名「Gibco B-27 Supplement」には、レチノイン酸の前駆物質としてビタミンAが配合されているので、そのビタミンAの影響を排除して培地中でのレチノイン酸の濃度条件を確実にするには、ビタミンA非含有の無血清サプリメント「B27-VA」(商品名「Gibco B-27 Supplement, minus vitamin A」、Thermo Fisher Scientific社)などを用いるとよい。
本工程での培地中での第3のWnt/βカテニン経路の誘導剤の濃度は、その下限値としては、0.1μM以上とすることが好ましく、その上限値としては、30mM以下であることが好ましい。また、第3のWnt/βカテニン経路の誘導剤が、特にCHIR99021である場合、その下限値としては、0.1μM以上とすることが好ましく、0.5μM以上とすることがより好ましく、1μM以上とすることが更により好ましい。その上限値としては、10μM以下であることが好ましく、5μM以下であることがより好ましく、3μM以下であることが更により好ましい。また、第3のWnt/βカテニン経路の誘導剤が、特にBIOである場合、その下限値としては、0.1μM以上とすることが好ましく、0.5μM以上とすることがより好ましく、1μM以上とすることが更により好ましい。その上限値としては、5μM以下であることが好ましく、3μM以下であることがより好ましく、1μM以下であることが更により好ましい。また、第3のWnt/βカテニン経路の誘導剤が、特にLiClである場合、その下限値としては、1mM以上とすることが好ましく、3mM以上とすることがより好ましく、5mM以上とすることが更により好ましい。その上限値としては、30mM以下であることが好ましく、20mM以下であることがより好ましく、10mM以下であることが更により好ましい。
本工程においては、培地は、例えば、およそ1日~2日毎に新鮮なものに交換しつつ培養して、細胞を維持することが好ましい。これによれば、上記成長因子による所望の分化に向かわせる効果を更に高めることができる。トータルで1~6日間行うことが好ましく、2~5日間行うことがより好ましい。3~4日間行うことが更により好ましい。
上記したレチノイン酸及び第3のWnt/βカテニン経路の誘導剤を含む培地での培養は、培養器の底面等に接着させつつ培養する、接着培養によることが好ましい。これによれば、細胞剥離処理後の培養を効率よく行うことができる。また、培地交換等の操作が容易である。特に、コーティング剤でコートした培養皿を用いて培養することが好ましい。これによれば、細胞剥離処理後の細胞や細胞集団を、更に効率よく分化に向かわせることができる。コーティング剤は、通常、培養器への接着や分化を促す目的で使用されるものを用いればよく、そのような目的のコーティング剤は、特に限定されないが、例えば、poly-O-fibronectine等が好ましく例示される。また、無血清培地で培養することが好ましい。これによれば、血清因子に起因して目的外の細胞に分化してしまうリスクを抑えることができる。また、幹細胞性の維持のためには、低酸素条件(例えばO4~10%、より好ましくは4~6%、更により好ましくは4%、CO5%)において培養してもよいが、通常酸素条件(例えばO4~20%、より好ましくは10~20%、更により好ましくは20%、CO5%)において培養してもよい。
上記したレチノイン酸及び第3のWnt/βカテニン経路の誘導剤を含む培地での培養は、成長因子としてIGF-1、bFGF、及びEGFからなる群から選ばれた1種又は2種以上の存在下に行うことが好ましい。これによれば、内耳前駆細胞への分化をより確実にすることができる。また、成長因子であるbFGF及びEGF及びIGF-1のうち、それらの全部存在させることが更により好ましい。これらの成長因子の培地中の濃度範囲としては、bFGF及びEGFのそれぞれにおいて10~30ng/mLであることが好ましい。IGF-1において10~50ng/mLであることが好ましい。
以上のようにして得られた内耳前駆細胞は、上記したレチノイン酸及び第3のWnt/βカテニン経路の誘導剤を含む培地での培養前に比べて、PAX2及び/又はPAX8の発現レベルが向上している。例えば、細胞集団を集めてmRNA発現解析を行ったとき、その発現レベルは、培養前に比べて50~1500倍に増加していることが典型的であり、100~1500倍に増加していることがより典型的であり、200~1500倍に増加していることが更により典型的である。
上記に説明したPAX2及び/又はPAX8の発現レベルが向上した内耳前駆細胞によれば、後述する実施例で示されるように、内耳有毛細胞等、更に分化段階の進んだ内耳細胞を効率的に得ることができる。
[4]薬剤の評価方法
本発明の別の観点では、本発明は、上記した方法によって得られた内耳有毛細胞を用いて、任意の被験物質を作用させ、その内耳有毛細胞への影響を調べることにより、その被験物質を評価する、薬剤の評価方法を提供するものである。
[5]細胞分化誘導用組成物
本発明の別の観点では、本発明は、Frizzled受容体の種類に選択的な競合剤を含有する細胞分化誘導用組成物を提供する。Frizzled受容体の種類に選択的な競合剤としては、ヒトFrizzled受容体の細胞外ドメイン断片及びヒトFcドメインからなる融合タンパク質などが知られているので、そのようなFrizzled受容体の擬似分子を用いることができる。
本発明にかかる細胞分化誘導用組成物において、限定されに任意の態様においては、Frizzled受容体の種類に選択的な競合剤として、Frizzled10の擬似分子が好ましく例示される。これによれば、後述する実施例に示されるように、Wnt/βカテニン経路の誘導剤とともに使用することで、内耳有毛細胞の一形態である蝸牛該有毛細胞への分化誘導を促すことができる。例えば、Frizzled10の擬似分子として、商品名「Recombinant Human Frizzled-10 Fc Chimera Protein」、R&D Systems社)なども市販されているので、そのような市販品を用いてもよい。
本発明にかかる細胞分化誘導用組成物中のFrizzled受容体の種類に選択的な競合剤の含有量は、特に限定されないが、その下限値として、0.5ng/mL以上であることが典型的であり、1ng/mL以上であることがより典型的であり、10ng/mL以上であることが更により典型的であり、50ng/mL以上であることが特に典型的である。その上限値としては、乾燥分中に10μg/mL以下であることが典型的であり、5μg/mL以下であることがより典型的であり、1μg/mL以下であることが更により典型的であり、0.5μg/mL以下であることが特に典型的である。
本発明にかかる細胞分化誘導用組成物は、多能性幹細胞から内耳有毛細胞への分化誘導のために用いられることが好ましい。具体的には、上記した抗Frizzeled剤を含有する培地での培養に使用するための、培養プレミックス液、液体培地等の形態で使用して、本発明による内耳有毛細胞の製造方法を、より簡便に実施することができる。
以下に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。ただし、これらの実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
(試薬)
(1)Matrigel:コーティング剤(商品名「Corning Matrigel基底膜マトリックス」、Corning社)
(2)アクターゼ:細胞剥離用酵素製剤(商品名「Accutase」、ナカライテスク株式会社)
(3)Y-27632:ROCK阻害剤(Rho-associated coiled-coil forming kinase/Rho結合キナーゼの特異的阻害剤)(商品名「Y-27632」、富士フイルム和光純薬株式会社)
(4)mTeSR1:iPS細胞用維持培地(商品名「mTeSR1」、STEMCELL Technologies社)
(5)DMEM/F12:無血清培地(商品名「D-MEM/Ham’s F-12」、富士フイルム和光純薬株式会社)
(6)B27:無血清サプリメント(商品名「Gibco B-27 Supplement」、Thermo Fisher Scientific社)
(7)B27-VA:無血清サプリメント(商品名「Gibco B-27 Supplement, minus vitamin A」、Thermo Fisher Scientific社)
(8)N2:無血清サプリメント(商品名「Gibco N-2 Supplement」、Thermo Fisher Scientific社)
(9)GlutaMAX:無血清サプリメント(商品名「Gibco GlutaMAX」、Thermo Fisher Scientific社)
(10)Nonessential aminoacid:非必須アミノ酸サプリメント(商品名「MEM 非必須アミノ酸溶液」、ナカライテスク株式会社)
(11)poly-o-fibronectin:コーティング剤(商品名「Poly-L-ornithine」、Sigma-Aldrich社)、(商品名「Fibronectin」、Sigma-Aldrich社)
(12)bFGF(商品名「Recombinant Human FGF-basic」、Peprotech社)
(13)FGF3(商品名「Recombinant Human FGF-3 protein」、R&D Systems社)
(14)FGF10(商品名「Recombinant Human FGF-10 protein」、Peprotech社)
(15)FGF19(商品名「Recombinant Human FGF-19 protein」、Peprotech社)
(16)BMP4(商品名「Recombinant Human BMP-4 protein」、Peprotech社)
(17)IGF-1(商品名「Recombinant Human IGF-1 Protein」、R&D Systems社)
(18)CHIR99021(商品名「CHIR99021」、Focusbiomolecules社)
(19)Wnt3a(商品名「Recombinant Human Wnt3a protein」、R&D Systems社)
(20)BIO(商品名「BIO」、Sigma-Aldrich社)
(21)レチノイン酸(商品名「retinoic acid」、Sigma-Aldrich社)
(22)ヘパリン(商品名「Heparin Sodium Salt」、ナカライテスク株式会社)
(23)Frizzled7の疑似分子(商品名「Recombinant Human Frizzled-7 Fc Chimera」、R&D Systems社)
(24)Frizzled8の疑似分子(商品名「Recombinant Human Frizzled-8 Fc Chimera」、R&D Systems社)
(25)Frizzled10の擬似分子(商品名「Recombinant Human Frizzled-10 Fc Chimera Protein」、R&D Systems社)
(26)qRT-PCRに用いたプライマーの配列を表1に示す。
Figure 2023106640000001
[試験例1]
本試験例では、ヒトiPS細胞から内耳前駆細胞を分化誘導する過程におけるPAX2、PAX8、SOX2、LGR5の発現量をqRT-PCRで定量した。
[分化誘導方法]
(Day0)
1) 6ウェルプレートをMatrigelでコーティングした。
2) コンフルエントなfeeder-freeヒトiPS細胞にアクターゼを添加して37℃で2~3分インキュベートし、ディッシュから剥離した。
3) PBSで希釈後遠心し、細胞を回収した。
4) 上澄みをすてROCK阻害剤(Y-27632)(10μM)を加えたmTeSR1メディウムに細胞を懸濁した。
5) ナイロンメッシュ(孔径40μm)を通し、血球計算盤で細胞数をカウントした。
6) 前記1)でMatrigelコーティングしたウェルにY-27632を添加したmTeSR1メディウムを加えた。
7) 1ウェルあたり2.0×10cells/cmとなるように細胞懸濁液を播種した。
(Day1)
ROCK阻害剤を含まないmTeSR1メディウムに培地交換した。
(Day2)
無血清培地(DMEM/F12+B27+N2+GlutaMAX+Nonessential aminoacid)に培地交換した。以後、Day4まで、毎日培地交換した。
(Day5)
無血清培地(DMEM/F12+B27+N2+GlutaMAX+Nonessential aminoacid)に、成長因子bFGF、FGF3、FGF10、FGF19、BMP4を、それぞれ濃度が25ng/mL、25ng/mL、25ng/mL、25ng/mL、10ng/mLとなるように添加した培地に培地交換した。以後、Day7まで、毎日培地交換した。
(Day8)
無血清培地(DMEM/F12+B27+N2+GlutaMAX+Nonessential aminoacid)に、成長因子bFGF、FGF3、FGF10、FGF19を添加した培地(成長因子の濃度は全て25ng/mL)に培地交換した。以後DAY10まで、毎日培地交換した。
(Day11)
細胞にアクターゼを添加して37℃で2~3分インキュベートし、ディッシュから剥離し、PBSで希釈した。遠心して細胞を回収し、無血清培地(DMEM/F12+B27+N2)に、成長因子bFGF、FGF3、FGF10、FGF19を、それぞれ濃度が25ng/mL、25ng/mL、25ng/mL、25ng/mLとなるように添加した培地で懸濁した。ナイロンメッシュ(孔径40μm)で残存する細胞塊を除去して、poly-o-fibronectinでコーティングしたウェルに播種した。培養は、通常酸素条件下(O20%、CO5%)で行った。
(Day12)
翌日、下記条件1)~4)のそれぞれの培地条件となるよう、培地交換した。
・条件1)無血清培地(DMEM/F12+B27-VA+N2)に、成長因子bFGF、EGF、IGF-1を、それぞれ濃度が10ng/mL、20ng/mL、50ng/mLとなるように添加して調製した培地
・条件2)上記条件1)の培地に、更に、レチノイン酸を濃度が0.5μMとなるように添加して調製した培地
・条件3)上記条件1)の培地に、更に、CHIR99021を濃度が3μMとなるように添加して調製した培地
・条件4)上記条件1)の培地に、更に、レチノイン酸を濃度が0.5μMとなるように添加し、CHIR99021を濃度が3μMとなるように添加して調製した培地
以後Day15まで、毎日培地交換した。
(Day15)
Day15の細胞について、RNeasyスピンカラムキット(Qiagen社)を用いてtotal RNAを抽出し、各サンプル1μgのtotal RNAから逆転写酵素(商品名「Invitrogen SuperScript IV Reverse Transcriptase(Thermo Fisher Scientific社)によりcDNA合成を行い、内耳前駆細胞マーカーの発現量をqRT-PCRにより定量した。
図3に結果を示す。なお、結果は、上記培養条件4のときの定量値を1としたときの相対値で示した。
その結果、図3に示されるように、内耳前駆細胞マーカーであるPAX2、PAX8の発現レベルはCHIR99021とレチノイン酸の両方を添加した際に顕著に増加していた。また、CHIR99021の添加によって、SOX2及びLGR5の発現上昇が認められた。このことから、CHIR99021によるWNTシグナルの活性化、およびレチノイン酸の添加によって内耳前駆細胞の分化が促進されることが示唆された。
[試験例2]
本試験例では、ヒトiPS細胞から内耳前駆細胞を分化誘導する過程におけるPAX2、PAX8、SOX2、LGR5の発現量の推移をqRT-PCRで定量した。
[分化誘導方法]
試験例1と同様の方法で分化誘導を行い、Day11にアクターゼによる細胞剥離処理を行った細胞について、翌日(Day12)、培地交換を行った。その培地としては、無血清培地(DMEM/F12+B27-VA+N2)に、成長因子bFGF、EGF、IGF-1を、それぞれ濃度が10ng/mL、20ng/mL、50ng/mLとなるように添加し、更に、CHIR99021及びレチノイン酸を、それぞれの濃度が3μM、0.5μMとなるように添加して調製した培地を使用した。以後Day18まで、毎日培地交換を行った。
(Day11、15、20)
Day11、15、20の細胞について、それぞれ試験例1と同様にして、total RNAを抽出、cDNAを合成し、qRT-PCRにより内耳前駆細胞マーカーであるPAX2、PAX8、SOX2、LGR5の発現量を定量した。
図4に結果を示す。なお、結果は、未分化iPS細胞について同様のqRT-PCRによる定量値を1としたときの相対値で示した。
その結果、図4に示されるように、内耳前駆細胞マーカーであるPAX2とLGR5の発現レベルはDay11からDay15にかけて上昇した。一方、Day15からDay20にかけてはPAX2、PAX8、SOX2、LGR5の発現レベルはいずれも減少した。この結果から、Day11からDay15にかけてCHIR99021およびレチノイン酸を添加することで、内耳前駆細胞を効率よく誘導できることが示唆された。
[試験例3]
試験例1、2では、Wnt/βカテニン経路の誘導剤であるCHIR99021をレチノイン酸とともに使用すると、内耳前駆細胞マーカーの発現量が高められることが明らかとなった。本試験例では、他にWnt/βカテニン経路の誘導剤として知られているLiCl及びBIOについて、内耳前駆細胞マーカーの発現量に与える影響を調べた。
[分化誘導方法]
試験例1と同様の方法で分化誘導を行い、Day11にアクターゼによる細胞剥離処理を行った細胞について、翌日(Day12)、培地交換を行った。その培地としては、無血清培地(DMEM/F12+B27-VA+N2)に、成長因子bFGF、EGFを、それぞれ濃度が10ng/mL、20ng/mLとなるように添加し、レチノイン酸を濃度が0.5μMとなるように添加し、更に培地に以下の7つの異なる条件でWnt/βカテニン経路の誘導剤を添加したものを調製して使用した。
・条件1)非添加
・条件2)CHIR99021 3μM
・条件3)LiCl 1mM
・条件4)LiCl 10mM
・条件5)BIO 0.1μM
・条件6)BIO 0.5μM
・条件7)BIO 1μM
以後Day16まで、毎日培地交換を行った。
(Day16)
Day16の細胞について、試験例1と同様にして、totalRNAを抽出、cDNAを合成し、qRT-PCRにより内耳前駆細胞マーカーであるPAX2およびPAX8の発現量を定量した。
図5に結果を示す。なお、結果は、上記培養条件1(非添加)のときの定量値を1としたときの相対値で示した。
その結果、図5に示されるように、LiClおよびBIO添加群は非添加群と比較してPAX2の発現が上昇した。この結果から、Wnt/βカテニン経路の誘導剤は、レチノイン酸とともに使用することにより、内耳前駆細胞の誘導を促進することが示唆された。
[試験例4]
本試験例では、内耳前駆細胞から内耳有毛細胞への分化誘導を行い、内耳前駆細胞マーカーのLGR5及び内耳有毛細胞マーカーのATOH1の遺伝子発現量をqRT-PCRで定量した。
[分化誘導方法]
試験例1と同様の方法で分化誘導を行い、Day11にアクターゼによる細胞剥離処理を行った細胞について、翌日(Day12)から、以下の2種類の異なる培養条件で培養を行った。
・条件1)無血清培地(DMEM/F12+B27+N2)に、成長因子bFGF、EGF、IGF-1を、それぞれ濃度が10ng/mL、20ng/mL、50ng/mLとなるように添加して調製した培地、低酸素条件下(O4%、CO5%)
・条件2)無血清培地(DMEM/F12+B27-VA+N2)に、成長因子bFGF、EGF、IGF-1を、それぞれ濃度が10ng/mL、20ng/mL、50ng/mLとなるように添加し、更に、CHIR99021及びレチノイン酸を、それぞれの濃度が3μM、0.5μMとなるように添加して調製した培地、通常酸素条件下(O20%、CO5%)
以後Day15まで、毎日培地交換を行った。
(Day15)
細胞をアクターゼで剥離し、等量のPBSを加え、ナイロンメッシュ(孔径40μm)を通し、血球計算盤で細胞数をカウントした。
8.5×10cells/wellになるように細胞を懸濁し、低接着6ウェルプレート(商品名「Corning超低接着表面(Ultra-Low Attachment)プレート」、Corning社)に播種した。このとき、条件1と条件2で誘導した細胞は、それぞれ以下の組成の培地に懸濁し、低酸素条件下(O4%、CO5%)で浮遊培養を開始した。
・条件1)無血清培地(DMEM/F12+B27+N2)に、成長因子bFGF、EGF、IGF-1を、それぞれ濃度が10ng/mL、20ng/ml、50ng/mLとなるように添加し、更に、Y-27632を濃度が10μMとなるように添加し、Wnt3aを濃度が20ng/mLとなるように添加し、CHIR99021を濃度が3μMとなるように添加し、ヘパリンを濃度が50ng/mLとなるように添加して調製した培地
・条件2)無血清培地(DMEM/F12+B27-VA+N2)に、成長因子bFGF、EGF、IGF-1を、それぞれ濃度が10ng/mL、20ng/mL、50ng/mLとなるように添加し、更に、Y-27632を濃度が10μMとなるように添加し、Wnt3aを濃度が20ng/mLとなるように添加し、CHIR99021を濃度が3μMとなるように添加し、ヘパリンを濃度が50ng/mLとなるように添加し、レチノイン酸を濃度が0.5μMとなるように添加して調製した培地
(Day19、23)
条件1と条件2でそれぞれ下記の組成の培地を用いてDay19およびDay23に全量培地交換を行った。
・条件1)無血清培地(DMEM/F12+B27+N2)に、成長因子bFGF、EGF、IGF-1を、それぞれ濃度が10ng/mL、20ng/mL、50ng/mLとなるように添加し、更に、Wnt3aを濃度が20ng/mLとなるように添加し、CHIR99021を濃度が3μMとなるように添加し、ヘパリンを濃度が50ng/mLとなるように添加した培地
・条件2)無血清培地(DMEM/F12+B27-VA+N2)に、成長因子bFGF、EGF、IGF-1を、それぞれ濃度が10ng/mL、20ng/mL、50ng/mLとなるように添加し、更に、Wnt3aを濃度が20ng/mLとなるように添加し、CHIR99021を濃度が3μMとなるように添加し、ヘパリンを濃度が50ng/mLとなるように添加し、レチノイン酸を濃度が0.5μMとなるように添加して調製した培地
(Day27)
Day27に、poly-o-fibronectinでコーティングした12ウェルプレートにスフェア(細胞塊)を接着させた。
(Day28)
Day28に条件1、2のいずれも無血清培地(DMEM/F12+B27+N2)に、成長因子EGF、IGF-1を、それぞれ濃度が25ng/mL、10ng/mL添加して調製した培地で培地交換を行った。以後2日に一度培地交換を行った。
(Day34)
Day34の細胞について、試験例1と同様にして、totalRNAを抽出し、cDNA合成を行って、qRT-PCRによる遺伝子発現解析に供した。
その結果、図6に示されるように、内耳前駆細胞をCHIR99021及びレチノイン酸を添加した培地で培養した試験群では、非添加群と比べて、内耳前駆細胞マーカーのLGR5の発現は減少し、一方で初期の内耳有毛細胞マーカーであるATOH1の発現は大幅に亢進していた。このことから、CHIR99021及びレチノイン酸の添加により内耳前駆細胞の誘導効率が向上した結果、内耳有毛細胞への誘導効率についても向上したものと考えられた。
[試験例5]
本試験例では、内耳前駆細胞から内耳有毛細胞への分化誘導を行い、R-spondin1を添加して浮遊培養を行ったことによる内耳有毛細胞マーカーの発現量の変化をqRT-PCRで定量した。
[分化誘導方法]
試験例1と同様の方法で分化誘導を行い、Day11にアクターゼによる細胞剥離処理を行った細胞について、翌日(Day12)、培地交換を行った。その培地としては、無血清培地(DMEM/F12+B27-VA+N2)に、成長因子bFGF、EGF、IGF-1を、それぞれ濃度が10ng/mL、20ng/mL、50ng/mLとなるように添加し、更に、CHIR99021を濃度が3μMとなるように添加し、レチノイン酸を濃度が0.5μMとなるように添加したものを調製し、培地交換を行った。培養は、通常酸素条件下(O20%、CO5%)で行った。
以後Day18まで、毎日培地交換を行った。
(Day18)
細胞をアクターゼで剥離し、等量のPBSを加え、ナイロンメッシュ(孔径40μm)を通し、血球計算盤で細胞数をカウントした。
8.5×10cells/wellになるように細胞を懸濁し、低接着6ウェルプレート(商品名「Corning超低接着表面(Ultra-Low Attachment)プレート」、Corning社)に播種し、低酸素条件下(O4%、CO5%)で浮遊培養を開始した。このとき、培地として、下記条件1)又は条件2)を使用して、細胞を懸濁して浮遊培養を開始した。
・条件1)無血清培地(DMEM/F12+B27-VA+N2)に、成長因子bFGF、EGF、IGF-1を、それぞれ濃度が10ng/mL、20ng/ml、50ng/mLとなるように添加し、更に、Y-27632を濃度が10μMとなるように添加し、Wnt3aを濃度が20ng/mLとなるように添加し、CHIR99021を濃度が3μMとなるように添加し、ヘパリンを濃度が50ng/mLとなるように添加し、レチノイン酸を濃度が0.5μMとなるように添加して調製した培地
・条件2)無血清培地(DMEM/F12+B27-VA+N2)に、成長因子bFGF、EGF、IGF-1を、それぞれ濃度が10ng/mL、20ng/ml、50ng/mLとなるように添加し、更に、Y-27632を濃度が10μMとなるように添加し、Wnt3aを濃度が20ng/mLとなるように添加し、CHIR99021を濃度が3μMとなるように添加し、ヘパリンを濃度が50ng/mLとなるように添加し、レチノイン酸を濃度が0.5μMとなるように添加し、R-spondin1を濃度が200ng/mLとなるように添加して調製した培地
(Day22)
Day22に条件1)及び条件2)ともにROCK阻害剤であるY-27632を添加しないこと以外は、同じ組成の培地で培地交換を行った。
(Day24)
Day24の細胞について、試験例1と同様にしてtotalRNAを抽出し、cDNA合成を行って、qRT-PCRによる遺伝子発現解析に供した。
その結果、図7に示されるように、浮遊培養時の培地にR-spondin1を添加した試験群は、非添加群と比べて、内耳有毛細胞マーカーのATOH1、MYO7A、MYO15A、BRN3Cの発現量が上昇していた。このことから、Wnt/βカテニン経路の誘導剤であるR-spondin1の添加によりWNTシグナルが活性化されたことで、内耳前駆細胞の増殖が促進されたか、あるいは内耳前駆細胞から内耳有毛細胞への分化が促進されたものと考えられた。
なお、この試験例では、内耳有毛細胞マーカーのATOH1、MYO7A、MYO15A、BRN3Cの発現量を上昇させる薬剤として、R-spondin1が見出されたが、他の薬剤についても、同様にして、これらの内耳有毛細胞マーカーの発現量を上昇させることができるかどうかについて評価することが可能である。また、このときに用いるマーカーや培養条件は、適宜に他のマーカーや培養条件を設定してもよく、任意の薬剤について、内耳前駆細胞から内耳有毛細胞への分化を促進させることができるかどうかを評価することが可能である。
[試験例6]
CHIR99021及びレチノイン酸で処理した内耳前駆細胞から、支持細胞及びらせん神経節細胞をともなう内耳有毛細胞を分化誘導させた。
[分化誘導方法]
試験例1と同様の方法で分化誘導を行い、Day11にアクターゼによる細胞剥離処理を行った細胞について、翌日(Day12)、無血清培地(DMEM/F12+B27-VA+N2)に、成長因子bFGF、EGF、IGF-1を、それぞれ濃度が10ng/mL、20ng/mL、50ng/mLとなるように添加し、更に、CHIR99021を濃度が3μMとなるように添加し、レチノイン酸を濃度が0.5μMとなるように添加して調製した培地に培地交換し、通常酸素条件下(O20%、CO5%)で培養を行った。
以後Day18まで、毎日培地交換を行った。
(Day18)
細胞をアクターゼで剥離し、等量のPBSを加え、ナイロンメッシュ(孔径40μm)を通し、血球計算盤で細胞数をカウントした。
8.5×10cells/wellになるように細胞を懸濁し、低接着96ウェルプレート(商品名「Corning超低接着表面(Ultra-Low Attachment)プレート」、Corning社)に播種し、低酸素条件下(O4%、CO5%)で浮遊培養を開始した。このとき、培地としては、無血清培地(DMEM/F12+B27-VA+N2)に、成長因子EGFを濃度が20ng/mLとなるように添加し、更に、Y-27632を濃度が10μMとなるように添加し、Matrigelを濃度が1%となるように添加し、Wnt3aを濃度が20ng/mLとなるように添加し、CHIR99021を濃度が10μMとなるように添加し、ヘパリンを濃度が50ng/mLとなるように添加し、レチノイン酸を濃度が0.5μMとなるように添加し、R-spondin1を濃度が200ng/mLとなるように添加して調製した培地を使用して、細胞を懸濁して浮遊培養を開始した。
(Day23)
浮遊培養後5日目(Day23)に、無血清培地(DMEM/F12+B27+N2)に、成長因子EGFを濃度が20ng/mLとなるように添加して調製した培地で全量培地交換を行い、通常酸素条件下(O20%、CO5%)で浮遊培養を行った。その後は、3日に1度の頻度で培地交換した。
(Day42)
Day42にスフェア(細胞塊)を4%パラフォルムアルデヒドで固定し、凍結切片を作成した。
免疫染色は、抗原賦活化操作を行ったのち、マウス抗MYO7A抗体、マウス抗BRN3C抗体、ヤギ抗SOX2抗体、ヤギ抗SOX21抗体、ウサギ抗Calbindin抗体(それぞれ、50倍、100倍、100倍、100倍、1000倍希釈)により処理し、その後、それぞれの動物種IgGに特異的な蛍光2次抗体を用いて標識し、蛍光顕微鏡で観察した。図8には、得らえた顕微鏡観察像を示す(scale bar:上段50μm、下段20μm)。
その結果、図8に示されるように、有毛細胞マーカーであるMYO7A、BRN3C陽性細胞、支持細胞マーカーであるSOX2、SOX21陽性細胞、蝸牛神経節細胞のマーカーであるCalbindin陽性細胞が検出された。
このことから、本誘導法を用いて培養することで、多能性幹細胞から、支持細胞及びらせん神経節細胞をともなう内耳有毛細胞を分化誘導できることが明らかとなった。
[試験例7]
内耳前駆細胞から内耳有毛細胞を分化誘導する過程で、培地に各種抗Frizzled剤を添加することによる効果を検討した。
[分化誘導方法]
試験例1と同様の方法で分化誘導を行い、Day11にアクターゼによる細胞剥離処理を行った細胞について、翌日(Day12)、無血清培地(DMEM/F12+B27-VA+N2)に、成長因子bFGF、EGF、IGF-1を、それぞれ濃度が10ng/mL、20ng/mL、50ng/mLとなるように添加し、更に、CHIR99021を濃度が3μMとなるように添加し、レチノイン酸を濃度が0.5μMとなるように添加し)て調製した培地に培地交換し、通常酸素条件下(O20%、CO5%)で培養を行った。
以後Day18まで、毎日培地交換を行った。
(Day18)
細胞をアクターゼで剥離し、等量のPBSを加え、ナイロンメッシュ(孔径40μm)を通し、血球計算盤で細胞数をカウントした。
8.5×10cells/wellになるように細胞を懸濁し、低吸着6ウェルプレート(商品名「Corning超低接着表面(Ultra-Low Attachment)プレート」、Corning社)に播種し、低酸素条件下(O4%、CO5%)で浮遊培養を開始した。このとき、培地としては、無血清培地(DMEM/F12+B27-VA+N2)に、成長因子bFGF、EGF、IGF-1を、それぞれ濃度が10ng/mL、20ng/mL、50ng/mLとなるように添加し、更に、Y-27632を濃度が10μMとなるように添加し、Matrigelを濃度が1%となるように添加し、Wnt3aを濃度が20ng/mLとなるように添加し、CHIR99021を濃度が3μMとなるように添加し、ヘパリンを濃度が50ng/mLとなるように添加し、レチノイン酸を濃度が0.5μMとなるように添加し、R-spondin1を濃度が200ng/mLとなるように添加して調製した培地を使用して、細胞を懸濁して浮遊培養を開始した。
(Day22)
浮遊培養後4日目(Day22)にROCK阻害剤であるY-27632を添加しないこと以外は、同じ組成の培地で全量培地交換を行った。
(Day24)
浮遊培養6日目(Day24)にスフェア(細胞塊)を回収し、poly-o-fibronectinでコーティングしたプレートに接着させた。
翌日、下記条件1)~5)のそれぞれの培地条件となるよう、培地交換した。
・条件1)無血清培地(DMEM/F12+B27+N2)に、成長因子EGF、IGF-1を、それぞれ濃度が25ng/mL、10ng/mLとなるように添加し、更に、Wnt3aを濃度が10ng/mLとなるように添加して調製した培地
・条件2)上記条件1)の培地に、更に、R-spondin1を濃度が200ng/mLとなるように添加して調製した培地
・条件3)上記条件1)の培地に、更に、R-spondin1を濃度が200ng/mLとなるように添加し、Frizzled7の擬似分子(以下「FZD7」という場合がある。)を濃度が100ng/mLとなるように添加して調製した培地
・条件4)上記条件1)の培地に、更に、R-spondin1を濃度が200ng/mLとなるように添加し、Frizzled8の擬似分子(以下「FZD8」という場合がある。)を濃度が100ng/mLとなるように添加して調製した培地
・条件5)上記条件1)の培地に、更に、R-spondin1を濃度が200ng/mLとなるように添加し、Frizzled10の擬似分子(以下「FZD10」という場合がある。)を濃度が100ng/mLとなるように添加して調製した培地
(Day30)
接着培養6日後(Day24)の細胞について、試験例1と同様にして、total RNAを抽出、cDNA合成を行い、qRT-PCRにより各培養条件における有毛細胞マーカーの発現量を定量した。
その結果、図9に示されるように、Wnt3a及びR-spondin1及びFZD10を添加して培養した条件においては、蝸牛外有毛細胞マーカーであるPrestinの発現量が顕著に亢進していた。このことから、WNTシグナルを活性化し、同時にFZD10を介したシグナルを阻害することで、蝸牛外有毛細胞への分化誘導が促進されるものと考えられた。
(処方例1)
Frizzled10の擬似分子(商品名「Recombinant Human Frizzled-10 Fc Chimera Protein」、R&D Systems社)の粉末を、PBSで100μg/mLとなるように溶解し、抗Frizzled剤を含有する培地を調製するためのプレミックス液の形態とした。このプレミックス液は、4℃の冷蔵庫で2週間~1ヵ月程度保管可能であった。

Claims (14)

  1. 多能性幹細胞から分化誘導して得られた内耳前駆細胞を含む細胞集団を、第1のWnt/βカテニン経路の誘導剤及び抗Frizzled剤を含有する培地で培養する工程を含む、内耳有毛細胞の製造方法。
  2. 前記第1のWnt/βカテニン経路の誘導剤及び抗Frizzled剤を含有する培地は、IGF-1、bFGF、及びEGFからなる群から選ばれた1種又は2種以上を含有する、請求項1記載の内耳有毛細胞の製造方法。
  3. 前記第1のWnt/βカテニン経路の誘導剤及び抗Frizzled剤を含有する培地は、無血清培地である、請求項1又は2記載の内耳有毛細胞の製造方法。
  4. 前記第1のWnt/βカテニン経路の誘導剤は、Wnt3a及び/又はR-spondin1であり、前記抗Frizzled剤は、Frizzled10の擬似分子による競合剤である、請求項1~3のいずれか1項に記載の内耳有毛細胞の製造方法。
  5. 請求項1~4のいずれか1項に記載の内耳有毛細胞の製造方法であって、
    以下の工程(1)及び(2)を含み、
    (1)前記多能性幹細胞から分化誘導して得られた内耳前駆細胞を含む細胞集団を浮遊培養する工程
    (2)工程(1)で得られた細胞集団を、前記第1のWnt/βカテニン経路の誘導剤及び前記抗Frizzled剤を含有する培地で培養する工程
    前記工程(1)における浮遊培養は、第2のWnt/βカテニン経路の誘導剤を含有する培地で行う、該内耳有毛細胞の製造方法。
  6. 前記第2のWnt/βカテニン経路の誘導剤を含有する培地は、IGF-1、bFGF、及びEGFからなる群から選ばれた1種又は2種以上を含有する、請求項5記載の内耳有毛細胞の製造方法。
  7. 前記第2のWnt/βカテニン経路の誘導剤を含有する培地は、無血清培地である、請求項5又は6記載の内耳有毛細胞の製造方法。
  8. 前記第2のWnt/βカテニン経路の誘導剤は、R-spondin1、CHIR99021、及びWnt3aからなる群から選ばれた1種又は2種以上である、請求項5~7のいずれか1項に記載の内耳有毛細胞の製造方法。
  9. 前記多能性幹細胞から分化誘導して得られた内耳前駆細胞を含む細胞集団は、レチノイン酸及び第3のWnt/βカテニン経路の誘導剤を含有する培地で培養する工程を含む方法で得られたものである、請求項1~8のいずれか1項に記載の内耳有毛細胞の製造方法。
  10. 前記第3のWnt/βカテニン経路の誘導剤は、CHIR99021、BIO、及びLiClからなる群から選ばれた1種又は2種以上である、請求項9記載の内耳有毛細胞の製造方法。
  11. 請求項1~10のいずれか1項に記載の製造方法で得られた内耳有毛細胞を、被検薬剤で処理する工程と、前記被検薬剤で処理した前記内耳有毛細胞の状態を評価する工程とを含む、薬剤の評価方法。
  12. Frizzled受容体の種類に選択的な競合剤を含有する細胞分化誘導用組成物。
  13. 前記競合剤は、Frizzled10の擬似分子による競合剤である、請求項12記載の細胞分化誘導用組成物。
  14. 前記細胞分化誘導用組成物は、内耳有毛細胞誘導用のものである、請求項12又は13記載の細胞分化誘導用組成物。
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