JP2023102995A - 慢性腎臓病の治療剤及びそのスクリーニング方法 - Google Patents

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理恵 中島
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美智子 杉山
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明子 桑江
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Abstract

【課題】慢性腎臓病の治療剤及びそのスクリーニング方法を提供する。【解決手段】スタチンを有効成分とする慢性腎臓病の治療剤、及び、被験物質の存在下でヒト不死化近位尿細管細胞株を培養する工程と、前記細胞株が培地中に分泌したアンジオテンシノーゲンを測定する工程と、を含み、前記被験物質の存在下におけるアンジオテンシノーゲンの分泌量が、前記被験物質の非存在下における分泌量と比較して低下することが、前記被験物質が慢性腎臓病の治療剤であることを示す、慢性腎臓病の治療剤のスクリーニング方法。【選択図】なし

Description

本発明は、慢性腎臓病の治療剤及びそのスクリーニング方法に関する。
慢性腎臓病は、成人の8人に1人が罹患する疾患である。しかしながら、末期腎不全に至るまでの病態を改善する有効な薬物に乏しいのが現状である。慢性腎臓病としては、糖尿病性腎症、多発性嚢胞腎、糸球体腎炎、腎硬化症、ネフローゼ症候群が含まれる。
慢性腎臓病の治療では、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬や、アンジオテンシンII受容体拮抗薬等のレニン・アンジオテンシン系阻害薬が用いられている。レニン・アンジオテンシン系は、体液・電解質の恒常性を維持する生理的なシステムである。レニン・アンジオテンシン系には、全身性レニン・アンジオテンシン系と、尿細管レニン・アンジオテンシン系が存在する(例えば、非特許文献1を参照)。近位尿細管細胞もアンジオテンシノーゲンを発現しており、結合尿細管/皮質集合管も尿細管特異的なレニンを発現しており、尿細管レニン・アンジオテンシン系として、生体のナトリウム代謝の恒常性を維持している(例えば、非特許文献1を参照)。
現在、慢性腎臓病の治療に用いられている、既存のレニン・アンジオテンシン系阻害薬では、腎糸球体血行動態に対する作用と、尿細管に対する作用とを分離することができない。このため、既存のレニン・アンジオテンシン系阻害薬の投与には、腎機能の恒常性の維持を破綻してしまうリスクがある。そもそも尿細管中には、レニン・アンジオテンシン系の構成要素が、血中より高濃度に認められることから、既存薬の効果は尿細管レニン・アンジオテンシン系に対しては期待できない。
Ishigami T., et al., Identification of Bona Fide Alternative Renin Transcripts Expressed Along Cortical Tubules and Potential Roles in Promoting Insulin Resistance In Vivo Without Significant Plasma Renin Activity Elevation, Hypertension, 64, 125-133, 2014.
本発明は、慢性腎臓病の治療剤を提供することを目的とする。本発明はまた、慢性腎臓病の治療剤のスクリーニング方法を提供することを目的とする。
本発明は以下の態様を含む。
[1]スタチンを有効成分とする慢性腎臓病の治療剤。
[2]前記スタチンが、フルバスタチン、アトルバスタチン、シンバスタチン、セリバスタチン、ピタバスタチン、ロバスタチン、プラバスタチン、ロスバスタチン及びメバスタチンからなる群より選択される少なくとも1種の化合物又はその薬学的に許容される塩若しくはそれらの溶媒和物である、[1]に記載の慢性腎臓病の治療剤。
[3]前記スタチンが、フルバスタチン、アトルバスタチン、シンバスタチン、セリバスタチン、ピタバスタチンからなる群より選択される少なくとも1種の化合物又はその薬学的に許容される塩若しくはそれらの溶媒和物である、[1]又は[2]に記載の慢性腎臓病の治療剤。
[4]慢性腎臓病の治療剤のスクリーニング方法であって、被験物質の存在下でヒト不死化近位尿細管細胞株を培養する工程と、前記細胞株が培地中に分泌したアンジオテンシノーゲンを測定する工程と、を含み、前記被験物質の存在下におけるアンジオテンシノーゲンの分泌量が、前記被験物質の非存在下における分泌量と比較して低下することが、前記被験物質が慢性腎臓病の治療剤であることを示す、スクリーニング方法。
[5]アンジオテンシノーゲンを測定する前記工程をホモジニアスアッセイにより行う、[4]に記載のスクリーニング方法。
本発明によれば、慢性腎臓病の治療剤を提供することができる。また、慢性腎臓病の治療剤のスクリーニング方法を提供することができる。本発明により、尿細管レニン・アンジオテンシン系を選択的に抑制・制御する化合物を特定することが可能になる。選択的に尿細管レニン・アンジオテンシン系を抑制する化合物は、腎糸球体血行動態に影響を与えることなく、腎内レニン・アンジオテンシン系を制御することができる。
図1は、実験例1で樹立したヒト不死化近位尿細管細胞株の顕微鏡写真である。 図2(a)は、ヒト不死化近位尿細管細胞株から培地中に経時的に分泌されるアンジオテンシノーゲンをウエスタンブロッティングにより検出した結果を示す写真である。図2(b)は、図2(a)と同一の試料中のアンジオテンシノーゲンを、実験例2で確立したアンジオテンシノーゲン測定系(近接ホモジニアスアッセイ)により検出した結果を示すグラフである。 図3は、実験例2で確立したアンジオテンシノーゲン測定系により作成した標準曲線である。 図4(a)及び(b)は、実験例3における代表的なスクリーニング結果を示す図である。 図5は、実験例4の結果を示すグラフである。 図6は、実験例5の結果を示すグラフである。 図7は、実験例5の結果を示すグラフである。 図8は、実験例5の結果を示すグラフである。 図9は、実験例5の結果を示すグラフである。 図10は、実験例5の結果を示すグラフである。
[慢性腎臓病の治療剤]
1実施形態において、本発明は、スタチンを有効成分とする慢性腎臓病の治療剤を提供する。
実施例において後述するように、発明者らは、不死化した近位尿細管細胞の培地にスタチンを添加することにより、近位尿細管細胞によるアンジオテンシノーゲンの分泌が抑制されることを明らかにした。
この結果は、スタチンが、腎糸球体血行動態に対する作用と、尿細管に対する作用とを分離し、尿細管レニン・アンジオテンシン系を特異的に抑制する、新たなクラスの慢性腎臓病の治療剤であることを意味する。
したがって、スタチンは新たな慢性腎臓病の治療剤として有用である。スタチンは、近位尿細管細胞によるアンジオテンシノーゲンの分泌抑制剤であるということもできる。
スタチンは、HMG-CoA還元酵素を阻害することにより、血液中のコレステロール値を低下させる、HMG-CoA還元酵素阻害薬の総称である。スタチンとしては、フルバスタチン(CAS番号:93957-54-1)、アトルバスタチン(CAS番号:134523-00-5)、シンバスタチン(CAS番号:79902-63-9)、セリバスタチン(CAS番号:145599-86-6)、ピタバスタチン(CAS番号:147511-69-1)、ロバスタチン(CAS番号:287714-41-4)、プラバスタチン(CAS番号:81093-37-0)、ロスバスタチン(CAS番号:287714-41-4)及びメバスタチン(CAS番号:73573-88-3)からなる群より選択される少なくとも1種の化合物又はその薬学的に許容される塩若しくはそれらの溶媒和物が挙げられる。
スタチンとしては、なかでも、フルバスタチン、アトルバスタチン、シンバスタチン、セリバスタチン、ピタバスタチンからなる群より選択される少なくとも1種の化合物又はその薬学的に許容される塩若しくはそれらの溶媒和物が好ましい。
薬学的に許容される塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、マグネシウム塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩等が挙げられる。
また、スタチン又はスタチンの塩の溶媒和物としては、薬学的に許容される溶媒和物であれば特に制限されず、例えば、水和物、有機溶媒和物等が挙げられる。
より具体的なスタチンの塩又はその溶媒和物としては、フルバスタチン・ナトリウム、アトロバスタチン・カルシウム、アトルバスタチンカルシウム水和物、ピタバスタチン・カルシウム、ピタバスタチン・カルシウム水和物、フルバスタチン・ナトリウム、セリバスタチン・ナトリウム、プラバスタチン・ナトリウム等が挙げられる。
慢性腎臓病の治療剤は、医薬組成物として製剤化されていることが好ましい。慢性腎臓病の治療剤は、例えば、錠剤、カプセル剤、エリキシル剤、マイクロカプセル剤等の形態で経口的に、あるいは、注射剤等の形態で非経口的に投与することができる。
薬学的に許容される担体としては、通常医薬組成物の製剤に用いられるものを特に制限なく用いることができる。より具体的には、例えば、ゼラチン、コーンスターチ、トラガントガム、アラビアゴム等の結合剤;デンプン、結晶性セルロース等の賦形剤;アルギン酸等の膨化剤;水、エタノール、グリセリン等の注射剤用溶剤等が挙げられる。
医薬組成物は添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム等の潤滑剤;ショ糖、乳糖、サッカリン、マルチトール等の甘味剤;ペパーミント、アカモノ油等の香味剤;ベンジルアルコール、フェノール等の安定剤;リン酸塩、酢酸ナトリウム等の緩衝剤;安息香酸ベンジル、ベンジルアルコール等の溶解補助剤;酸化防止剤;防腐剤等が挙げられる。
医薬組成物は、上述した、スタチン、スタチンの塩又はこれらの溶媒和物と、上述した薬学的に許容される担体及び添加剤を適宜組み合わせて、一般に認められた製薬実施に要求される単位用量形態で混和することによって製剤化することができる。
医薬組成物の投与量は、患者の症状、体重、年齢、性別等によって異なり、一概には決定できないが、例えば、成人1日あたり1~40mg程度の有効成分を1日1回又は2~4回程度に分けて投与すればよい。
[慢性腎臓病の治療剤のスクリーニング方法]
1実施形態において、本発明は、慢性腎臓病の治療剤のスクリーニング方法であって、被験物質の存在下でヒト不死化近位尿細管細胞株を培養する工程と、前記細胞株が培地中に分泌したアンジオテンシノーゲンを測定する工程と、を含み、前記被験物質の存在下におけるアンジオテンシノーゲンの分泌量が、前記被験物質の非存在下における分泌量と比較して低下することが、前記被験物質が慢性腎臓病の治療剤であることを示す、スクリーニング方法を提供する。
発明者らは、ヒト不死化近位尿細管細胞株がアンジオテンシノーゲンを分泌することを見出し、本実施形態のスクリーニング方法を完成させた。ヒト不死化近位尿細管細胞株がアンジオテンシノーゲンを分泌することは従来知られていなかった。
実施例において後述するように、本実施形態のスクリーニング方法により、慢性腎臓病の治療剤をスクリーニングすることができる。本実施形態のスクリーニング方法によりスクリーニングすることができる治療剤は、尿細管レニン・アンジオテンシン系を抑制・制御する作用を持つものである。
被験物質としては、特に限定されず、例えば、天然化合物ライブラリ、合成化合物ライブラリ、既存薬ライブラリ、代謝物ライブラリ等が挙げられる。
本実施形態のスクリーニング方法において、アンジオテンシノーゲンを測定する工程をホモジニアスアッセイにより行うことが好ましい。従来、アンジオテンシノーゲンの測定は、いわゆる不均一EIA(Enzyme Immuno-assay、酵素免疫アッセイ)で行われていた。不均一EIAでは、B/F分離を必要とする。ここで、「B」はbond(結合)、「F」はfree(遊離)の意味である。つまり、抗体と結合している抗原と抗体と結合していない抗原を分離するということである。
マイクロプレート上に抗体を固相化した従来法のELISAは、複数の操作が必要であり、なかでも洗浄の工程は、確実に残余血清、残余反応液を除去する上で欠かせなかった。しかしながら洗浄の工程は、測定時間の上昇をもたらすとともに、自動化によりスループット性を向上する上で強い障害になっていた。
これに対し、ホモジニアスアッセイはB/F分離を必要としないため、不均一EIAによるスループット性の低下を解消するとともに、高感度な測定を実現することができる。この結果、慢性腎臓病の治療剤のハイスループットスクリーニング(HTS)が可能となる。
ホモジニアスアッセイは、特に限定されないが、近接ホモジニアスアッセイであることが好ましく、例えば、AlphaLISA(パーキンエルマー社)等の市販のキットを使用して行うことができる。
[その他の実施形態]
1実施形態において、本発明は、スタチンの有効量を、治療を必要とする患者に投与することを含む、慢性腎臓病の治療方法を提供する。
1実施形態において、本発明は、慢性腎臓病の治療のためのスタチンを提供する。
1実施形態において、本発明は、慢性腎臓病の治療剤を製造するためのスタチンの使用を提供する。
これらの実施形態において、スタチンについては上述したものと同様である。すなわち、スタチンは、フルバスタチン、アトルバスタチン、シンバスタチン、セリバスタチン、ピタバスタチン、ロバスタチン、プラバスタチン、ロスバスタチン及びメバスタチンからなる群より選択される少なくとも1種の化合物又はその薬学的に許容される塩若しくはそれらの溶媒和物であってよい。
次に実施例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
[実験例1]
(ヒト近位尿細管細胞の不死化)
pLenti6_V5/DEST(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)のNotI部位に、CDKN2A(p16)遺伝子(NCBIアクセッション番号:NM_000077.5)の第419~437番目の塩基配列を標的とした、U6プロモーター作動型shRNA発現カセットを導入したベクター(pLenti6_V5/DEST_sh-p16)を作製した。
続いて、pENTR-A_TERTを用いて、Gatewayクローニング・システムにより、pLenti6_V5/DEST_sh-p16にTERT遺伝子を導入し、レンチウイルスベクター(pLenti6_TERT_sh-p16)を作製した。
続いて、pLenti6_TERT_sh-p16及びViraPower Packaging Mix(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)を293FT細胞(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)に導入し、ウイルス粒子を作製した。
続いて、正常ヒト近位尿細管細胞(ロンザ社)にウイルス粒子を感染させて、ヒトTERT遺伝子、及び、p16遺伝子を不活化するshort hairpin RNA(shRNA)を導入して不死化し、ヒト不死化近位尿細管細胞株(hRPTEC)を得た。続いて、得られたヒト不死化近位尿細管細胞株の培地をDMEMに馴化し、以下の実験に用いた。図1は、樹立したヒト不死化近位尿細管細胞株の顕微鏡写真である。倍率は20倍である。
[実験例2]
(アンジオテンシノーゲン測定系の確立)
市販のキット(製品名「AlphaLISA」、パーキンエルマー社)を使用した近接ホモジニアスアッセイにより、アンジオテンシノーゲン(以下、「AGT」という場合がある。)を測定する測定系を確立した。
《ビオチン化抗AGT抗体の調製》
抗AGT抗体(Abnova社)にNHS-ChromaLinkビオチン溶液(SoluLink社)を添加し、室温で2時間インキュベーションした。続いて、Zeba Desalting Columns(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)で余分なビオチン化試薬を除去した。続いて、下記式(1)に示す算出式に基づいて、280nmの吸光度(A280)及び354nmの吸光度(A354)からビオチン化抗体の濃度を測定した。
ビオチン化抗体の濃度(μM)=((A280-(A354×0.23))/1.34)/160,000×10 …(1)
《アクセプタービーズへの抗体結合》
非標識AlphaLISAアクセプタービーズ(パーキンエルマー社)に、抗AGT抗体(Sino Biological社)、及び、10%Tween-20、400mM NaBHCNを添加し、37℃で48時間インキュベートした。
続いて、0.8MのNaOHで溶解した65mg/mL濃度のカルボキシメチルアミンヘミ塩酸塩(CMO)溶液を、上記のビーズ・抗体溶液に添加し、未反応基をブロックした。
続いて、4℃で16,000g、15分間遠心し、上清を除去した。続いて、0.1M Tris-HCLで洗浄し、0.05%Proclin-300を添加したPBSに懸濁した。
《至適ビオチン化抗体濃度の決定》
500ng/mL濃度のヒトAGTタンパク質(シグマアルドリッチ社)溶液をアナライトとし、至適ビオチン化抗体濃度を検討した。
上記のビオチン化抗AGT抗体を、AlphaLISA Immuno Assay Buffer(パーキンエルマー社)を用いて、15nM、25nM、50nM、100nM、500nMに希釈し、5μLのアナライト、50μg/mLのアクセプタービーズ溶液をそれぞれ1/2 Area Plate 96(パーキンエルマー社)にアプライし、室温で1時間インキュベーションした。その後、80μg/mLのAlphaScreenストレプトアビジンドナービーズ(パーキンエルマー社)を25μL加え、30分インキュベートした後、EnSpire Alpha(パーキンエルマー社)でシグナルを計測した。
標準曲線の作成には、ヒトAGTタンパク質(シグマアルドリッチ社)をDMEMで1ng/mL、10ng/mL、100ng/mL、500ng/mL、1,000ng/mL、5,000ng/mL、10,000ng/mL、50,000ng/mLに希釈したものを使用した。
図2(a)及び(b)は、確立したアンジオテンシノーゲン測定系による代表的なアッセイの結果である。図2(a)は、ヒト不死化近位尿細管細胞株(hRPTEC)から培地中に経時的に分泌されるアンジオテンシノーゲン(AGT)をウエスタンブロッティングにより検出した結果を示す写真である。
図2(b)は、図2(a)と同一の試料中のアンジオテンシノーゲン(AGT)を、本実験例で確立したアンジオテンシノーゲン測定系(近接ホモジニアスアッセイ)により検出した結果を示すグラフである。図2(b)中、縦軸は蛍光強度(相対値)を示し、横軸は時間(時間)を示す。
図3は、本実験例で確立したアンジオテンシノーゲン測定系により作成した標準曲線である。
[実験例3]
(HTSスクリーニング)
東京大学創薬機構より提供された、Validated Library(既知の薬効のある低分子化合物、3399化合物、2mM、5μL)を使って、慢性腎臓病の治療剤をスクリーニングした。実験例1で樹立した不死化hRPTECの培地に、上記ライブラリに含まれる各低分子化合物を、終濃度1μMで添加し、48~72時間、5%CO、37℃でインキュベートした。その後、培地を回収し、培地中のAGT濃度を測定した。培地中のAGT濃度の測定は実験例2で確立した近接ホモジニアスアッセイにより行った。
具体的には、まず、不死化hRPTECを、10mmディッシュ8~9枚用意した。続いて、古い培地を吸引除去し、D-PBS(-)2mLで2回洗浄した。続いて、0.05%トリプシンEDTA 1mLを添加し、5%CO、37℃のインキュベーター内に数分間静置した。その後、細胞が剥がれていることを確認し、1mLの10%ウシ胎児血清(FBS)含有DMEMを加えた。続いて、細胞数をカウントして、2.75×10/mLに細胞密度を調整し、96ウェルプレートに200μL/ウェル(5.5×10個/ウェル)ずつ播種して、5%CO、37℃のインキュベーター内で48時間インキュベートした。続いて、不死化hRPTECが播種された96ウェルプレートの培地を、プロテアーゼ阻害剤カクテルを添加した、FBS不含DMEM38μL/ウェルに変更した。
続いて、東京大学創薬機構より提供された低分子化合物プレートを室温に戻した。続いて、1μLの低分子化合物(2mM)に99μLのFBS不含DMEMを加えて、100倍希釈(20μM)した。続いて、希釈した低分子化合物2μLを、不死化hRPTECが播種された96ウェルプレートに分注した。各低分子化合物の最終濃度は1μMであった。その後、5%CO、37℃のインキュベーター内で72時間インキュベートした。
続いて、実験例2で確立したアンジオテンシノーゲン測定系(近接ホモジニアスアッセイ)により、各ウェルの培地中に分泌されたアンジオテンシノーゲンを測定した。
具体的には、まず、10×AlphaLISA Hiblock Buffer(パーキンエルマー社)300μLに、蒸留水2700μLを加え、溶液(1)とした。続いて、上記溶液(1)576μLにビオチン化抗AGT抗体溶液64μLを加え、75μLずつ8ウェルに分注した。続いて、上記溶液(1)633.6μLにアクセプタービーズ6.4μLを加え、75μLずつ8ウェルに分注した。続いて、遮光下で上記溶液(1)1476μLにAlphaScreenストレプトアビジンドナービーズ(パーキンエルマー社)を24μL加え、180μLずつ8ウェルに分注した。続いて、各低分子化合物の存在下で培養した不死化hRPTECの培地を10μLずつアプライした。
同様に、ポジティブコントロール(化合物無添加培地で不死化hRPTECを培養した培地)、ネガティブコントロール(細胞培養に使用していない培地)も10μLずつアプライした。
続いて、希釈したビオチン化抗体・アクセプタービーズ溶液を5μLずつアプライし、シーリングの後、ボルテックスにより撹拌し軽く遠心した後、室温で3時間インキュベートした。その後、希釈したドナービーズを12.5μLずつアプライし、ボルテックス及び遠心した後、室温で30分間インキュベートしてEnSpire Alpha(パーキンエルマー社)でシグナルを計測した。
図4(a)及び(b)は、代表的なスクリーニング結果を示す図であり、96ウェルプレート1枚分の結果を示す。図4(a)は測定値を示し、図4(b)は測定値から算出した、アンジオテンシノーゲンの分泌の阻害率(%)を示す。図4(a)及び(b)中、「1」の列はポジティブコントロールの結果であり、「12」の列はネガティブコントロールの結果である。アンジオテンシノーゲンの分泌の阻害率は、下記式(2)により算出した。
阻害率(%)=(1-(測定値-ネガティブコントロールの測定値の平均値)/(ポジティブコントロールの測定値の平均値-ネガティブコントロールの測定値の平均値))×100 …(2)
スクリーニングの結果、近位尿細管細胞によるアンジオテンシノーゲンの分泌を抑制する化合物として、フルバスタチン、アトルバスタチン、シンバスタチン、セリバスタチン、ピタバスタチンが同定された。
下記表1に、フルバスタチン、アトルバスタチン、シンバスタチン、セリバスタチン、ピタバスタチンによるアンジオテンシノーゲンの分泌の阻害率を示す。アンジオテンシノーゲンの分泌の阻害率は、上記式(2)により算出した。
Figure 2023102995000001
[実験例4]
(スタチン及びNa-K ATPase阻害剤の比較)
不死化hRPTECを用いて、スタチン及びNa-K ATPase阻害剤によるアンジオテンシノーゲンの分泌の阻害率を比較した。
図5は、不死化hRPTECを用いて測定した、スタチンによるアンジオテンシノーゲンの分泌の阻害率と、正常対照と考えられる尿細管Na-K ATPase阻害剤によるアンジオテンシノーゲンの分泌の阻害率を、実験例2で確立したアンジオテンシノーゲン測定系(近接ホモジニアスアッセイ)により測定した結果を示すグラフである。アンジオテンシノーゲンの分泌の阻害率は、上記式(2)により算出した。
スタチンとしては、フルバスタチン、アトルバスタチン、シンバスタチン、セリバスタチン、ピタバスタチンを使用した。また、尿細管Na-K ATPase阻害剤としては、ジゴキシン、ウワバイン、ラナトシドCを使用した。図5中、縦軸はアンジオテンシノーゲンの分泌の阻害率(%)を表す。また、「ALL」はスタチンを除く全低分子化合物を表し、「DR」はスタチンを表す。
その結果、スタチン類が、正常対照と考えられる尿細管Na-K ATPase阻害剤(ジゴキシン類)と、同等のアンジオテンシノーゲンの分泌の阻害効果を示すことが確認された。
[実験例5]
(同定した化合物の検証)
実験例1で樹立した不死化hRPTECの培地に、スタチンを様々な濃度で添加し、48~72時間、5%CO、37℃でインキュベートした。スタチンとしては、フルバスタチン、アトルバスタチン、シンバスタチン、セリバスタチン及びピタバスタチンを使用した。その後、培地を回収し、培地中のアンジオテンシノーゲン(AGT)濃度を測定した。培地中のAGT濃度の測定は実験例2で確立した近接ホモジニアスアッセイにより行った。
具体的には、まず、不死化hRPTECを、10mmディッシュ8~9枚用意した。続いて、古い培地を吸引除去し、D-PBS(-)2mLで2回洗浄した。続いて、0.05%トリプシンEDTA 1mLを添加し、5%CO、37℃のインキュベーター内に数分間静置した。その後、細胞が剥がれていることを確認し、1mLの10%ウシ胎児血清(FBS)含有DMEMを加えた。続いて、細胞数をカウントして、2.75×10/mLに細胞密度を調整し、96ウェルプレートに200μL/ウェル(5.5×10個/ウェル)ずつ播種して、5%CO、37℃のインキュベーター内で48時間インキュベートした。続いて、不死化hRPTECが播種された96ウェルプレートの培地を、プロテアーゼ阻害剤カクテルを添加した、FBS不含DMEM38μL/ウェルに変更した。
続いて、段階希釈した各スタチン2μLを、それぞれ、不死化hRPTECが播種された96ウェルプレートに分注した。各スタチンの最終濃度は、それぞれ、1,000nM、100nM、10nM、1nM、0nMであった。その後、5%CO、37℃のインキュベーター内で72時間インキュベートした。
続いて、実験例2で確立したアンジオテンシノーゲン測定系(近接ホモジニアスアッセイ)により、各ウェルの培地中に分泌されたアンジオテンシノーゲンを測定した。また、MTTアッセイにより、細胞が生存していることを確認した。
図6~10は、各スタチンによるアンジオテンシノーゲンの分泌の阻害率(%)を示すグラフである。アンジオテンシノーゲンの分泌の阻害率は、上記式(2)により算出した。図6はフルバスタチンを添加した結果であり、図7はアトルバスタチンを添加した結果であり、図8はシンバスタチンを添加した結果であり、図9はセリバスタチンを添加した結果であり、図10はピタバスタチンを添加した結果である。
その結果、各スタチンの添加により、不死化hRPTECからのアンジオテンシノーゲンの分泌が抑制されたことが確認された。また、各スタチンの濃度依存性も明らかとなった。
本発明によれば、慢性腎臓病の治療剤を提供することができる。また、慢性腎臓病の治療剤のスクリーニング方法を提供することができる。

Claims (5)

  1. スタチンを有効成分とする慢性腎臓病の治療剤。
  2. 前記スタチンが、フルバスタチン、アトルバスタチン、シンバスタチン、セリバスタチン、ピタバスタチン、ロバスタチン、プラバスタチン、ロスバスタチン及びメバスタチンからなる群より選択される少なくとも1種の化合物又はその薬学的に許容される塩若しくはそれらの溶媒和物である、請求項1に記載の慢性腎臓病の治療剤。
  3. 前記スタチンが、フルバスタチン、アトルバスタチン、シンバスタチン、セリバスタチン、ピタバスタチンからなる群より選択される少なくとも1種の化合物又はその薬学的に許容される塩若しくはそれらの溶媒和物である、請求項1又は2に記載の慢性腎臓病の治療剤。
  4. 慢性腎臓病の治療剤のスクリーニング方法であって、
    被験物質の存在下でヒト不死化近位尿細管細胞株を培養する工程と、
    前記細胞株が培地中に分泌したアンジオテンシノーゲンを測定する工程と、を含み、
    前記被験物質の存在下におけるアンジオテンシノーゲンの分泌量が、前記被験物質の非存在下における分泌量と比較して低下することが、前記被験物質が慢性腎臓病の治療剤であることを示す、スクリーニング方法。
  5. アンジオテンシノーゲンを測定する前記工程をホモジニアスアッセイにより行う、請求項4に記載のスクリーニング方法。
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