JP2023100244A - Cu-[Ni,Co]-Si系銅合金板材、その製造方法、通電部品および放熱部品 - Google Patents

Cu-[Ni,Co]-Si系銅合金板材、その製造方法、通電部品および放熱部品 Download PDF

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【課題】厳しい曲げ加工を施したときに、曲げ加工部外周表面の理想的な平滑曲面のプロファイルに対し、実際のプロファイルの乖離が小さく抑えられる性質を具備するCu-[Ni,Co]-Si系銅合金板材を提供する。【解決手段】質量%で、NiとCoの合計:1.00~6.00%、Si:0.30~1.40%であり、必要に応じて所定量のAg、Al、B、Cr、Fe、Mg、Mn、P、S、Sn、Ti、Zn、Zr、希土類元素の1種以上を含み、残部Cuおよび不可避的不純物からなる化学組成を有し、圧延方向に対し垂直な断面に設けた測定領域についてのEBSDによるステップサイズ0.05μmでの測定において、結晶方位差5°以上の境界を結晶粒界とみなした場合に、平均結晶粒径が4.00μm以下であり、GROD平均値が10.5°以下である銅合金板材。【選択図】図6

Description

本発明は、曲げ加工部の表面形態を改善したCu-[Ni,Co]-Si系銅合金板材、その製造方法、およびその銅合金板材を素材に用いた通電部品や放熱部品に関する。ここで、Cu-[Ni,Co]-Si系銅合金とは、Cu-Ni-Si系銅合金、Cu-Co-Si系銅合金およびCu-Ni-Co-Si系銅合金の総称である。
Cu-[Ni,Co]-Si系銅合金は、銅合金の中でも強度と導電性のバランスが比較的良好であり、コネクタ、リードフレームなどの通電部品や、電子機器の放熱部品に有用である。コネクタ等の通電部品は一般的に曲げ加工部を持つ。厳しい曲げ加工を施して成形される部品に対応するには、強度、導電性が良好であることに加え、曲げ加工性についても改善が図られたCu-[Ni,Co]-Si系銅合金素材を適用することが望まれる。
特許文献1には、Cu-Ni-Co-Si系銅合金において、溶体化処理条件を最適化することにより析出物組成を制御し、強度、導電性、曲げ加工性を改善する技術が開示されている。曲げ加工性については、Badway(曲げ軸が圧延方向と同一)でのR/t=1.0のW曲げ試験を行い、曲げ部外周表面の平均粗さRaを測定する方法で評価されている(段落0037)。
特許文献2には、Cu-Ni-Si系銅合金において、結晶粒径10μm以下の結晶粒個数割合と結晶粒径20μm以上の結晶粒個数割合を制御することにより、曲げ加工性と応力緩和特性を改善する技術が開示されている。曲げ加工性については、W曲げ試験を行った試験片の曲げ部表面を観察し、日本伸銅協会の規格であるJBMA T307に記載されたA~Eの評価基準(Aがシワなし、Bがシワ小、Cがシワ大、Dが割れ小、Eが割れ大)に分類する手法で評価されている(段落0025)。
一方、EBSD(電子線後方散乱回折法)によって測定されるKAM値や結晶配向を制御することによって、銅合金板材の諸特性を改善する技術が知られている。
例えば、特許文献3には、Cu-Ni-Si系銅合金において、製造工程を工夫して粗大第二相粒子の個数密度とKAM値を制御することにより、高強度でエッチング加工面の表面平滑性に優れる板材を得る技術が開示されている。特許文献4には、Cu-Co-Si系銅合金において、製造工程を工夫してBrass方位が優勢な集合組織に制御することにより、プレス打抜き性とエッチング性に優れる板材を得る技術が開示されている。特許文献3、4で採用しているEBSD測定では、測定スポットのステップサイズを従来一般的な0.5μmとしている。また、特許文献3、4には曲げ加工性に関する知見は開示されていない。
特開2017-71811公報 特開2013-95977号公報 特許第6152212号公報 特開2018-178243号公報
銅合金板材に、例えば曲げ半径Rと板厚tの比R/tが1.0程度といったB.W.での厳しい90°曲げ加工を施すと、曲げ加工部の外周表面には微視的なシワが形成される。そのシワが肉厚内部のクラックにつながる「割れ」でない限り、通常は強度的な観点から問題はないとされる。例えば日本伸銅協会技術標準JCBA T307に規定される曲げ加工性評価においても、シワの外観検査による評価方法が採用されている。しかし、シワによって形成される表面凹凸の大きさ(例えば粗さ曲線に基づく算術平均粗さRa)では、曲げ加工部の表面形態を正しく把握することはできない。曲げ加工部の外周表面付近では材料が伸ばされるため、実際の表面プロファイルは、理想的な平滑曲面のプロファイルに対して乖離したものとなる。その乖離が大きい場合の表面形態は、曲げ加工部外周表面の頂部近傍が理想的な平滑曲面から全体的に陥没したような、言わば「大きい凹部」を形成している表面形態であると見なすことができる。
基板対基板(BtoB)コネクタなど、樹脂部材と一体化させることによって形成される通電部品では、樹脂成形の工程で曲げ加工部外周表面の凹部に樹脂が入り込んでしまう「樹脂かぶり」と呼ばれる事象が生じて、問題となることがある。近年、電子機器の高機能化が進み、それに伴ってコネクタ等の通電部品や放熱部品においては小型化、狭ピッチ化のニーズが高まっている。狭ピッチ化されたコネクタでは、上記樹脂かぶりの影響を受けやすく、曲げ加工性の改善を意図した従来のCu-[Ni,Co]-Si系銅合金材料でも樹脂かぶりの問題を解消することは難しい。この問題を解消するには、単に曲げ加工部の表面粗さ(個々のシワの間に形成される凹部の深さ)を小さくすることではなく、理想的な平滑曲面のプロファイルに対する乖離が小さい表面形態とすることが重要であると考えられる。
本発明は、厳しい曲げ加工を施したときに、曲げ加工部外周表面の理想的な平滑曲面のプロファイルに対し、実際のプロファイルの乖離が小さく抑えられる性質を具備するCu-[Ni,Co]-Si系銅合金板材を提供することを目的とする。
上記目的を達成するため、本明細書では以下の発明を開示する。
[1]質量%で、Ni(ニッケル)とCo(コバルト)の合計:1.00~6.00%、Si(ケイ素):0.30~1.20%、Ag(銀):0~0.30%、Al(アルミニウム):0~1.00%、B(ホウ素):0~0.20%、Cr(クロム):0~0.50%、Fe(鉄):0~1.00%、Mg(マグネシウム):0~0.50%、Mn(マンガン):0~1.00%、P(リン):0~0.20%、S(硫黄):0~0.20%、Sn(錫):0~1.00%、Ti(チタン):0~0.50%、Zn(亜鉛):0~1.00%、Zr(ジルコニウム):0~0.30%、残部Cu(銅)および不可避的不純物からなる化学組成を有し、圧延方向に対し垂直な断面に設けた測定領域についてのEBSD(電子線後方散乱回折法)によるステップサイズ0.05μmでの測定において、結晶方位差5°以上の境界を結晶粒界とみなした場合に、Area Fraction法による平均結晶粒径が4.00μm以下であり、同一結晶粒内の測定スポットによる平均方位をその結晶粒の基準方位とするとき、前記測定領域の全測定スポットについて、各測定スポットが属する結晶粒の基準方位との方位差を求めて平均値を算出したGROD平均値が10.5°以下である銅合金板材。
[2]更に、希土類元素を合計3.0質量%以下の範囲で含有する組成を有する、上記1に記載の銅合金板材。
[3]前記EBSDによるステップサイズ0.05μmでの測定において、結晶方位差5°以上の境界を結晶粒界とみなした場合のKAM値が3.0°以下である、上記1または2に記載の銅合金板材。
[4]日本伸銅協会技術標準JCBA T307:2007に準拠したB.W.での90°W曲げ試験による、割れが発生しない最小曲げ半径MBRと板厚tとの比MBR/tが1.0以下である、上記[1]~[3]のいずれかに記載の銅合金板材。
[5]導電率が30%IACS以上である、上記[1]~[4]のいずれかに記載の銅合金板材。
[6]圧延平行方向の引張強さが500MPa以上である、上記[1]~[5]のいずれかに記載の銅合金板材。
[7]板厚が0.02~0.40mmである、上記[1]~[6]のいずれかに記載の銅合金板材。
[8]中間製品板材に、溶体化処理、中間冷間圧延、時効処理を上記の順に施す製造工程において、
溶体化処理を、800~1050℃で10~1000秒保持する条件で行い、
中間冷間圧延を、圧下率6%以上の圧延パスの回数を10パス以下とし、圧下率6%以上の圧延パスにおける単位板幅あたりの平均圧延荷重を1500kN/m以下とし、トータル圧延率を70%以上とする条件で行い、
時効処理を、400~600℃で1~24時間保持する条件で行うことにより前記GROD平均値が10.5°以下である銅合金板材を得る、上記[1]~[7]のいずれかに記載の銅合金板材の製造方法。
[9]前記中間製品板材は、熱間圧延後に冷間圧延を施した板材である、上記[8]に記載の銅合金板材の製造方法。
[10]中間製品板材に、溶体化処理、中間冷間圧延、時効処理、仕上冷間圧延、低温焼鈍を上記の順に施す製造工程において、
溶体化処理を、800~1050℃で10~1000秒保持する条件で行い、
中間冷間圧延を、圧下率6%以上の圧延パスの回数を10パス以下とし、圧下率6%以上の圧延パスにおける単位板幅あたりの平均圧延荷重を1500kN/m以下とし、トータル圧延率を70%以上とする条件で行い、
時効処理を、400~600℃で1~24時間保持する条件で行い、
仕上冷間圧延を、トータル圧延率3~15%の条件で行い、
低温焼鈍を、300~500℃で10~300秒保持する条件で行うことにより前記GROD平均値が10.5°以下である銅合金板材を得る、上記[1]~[7]のいずれかに記載の銅合金板材の製造方法。
[11]前記中間製品板材は、熱間圧延後に冷間圧延を施した板材である、上記[10]に記載の銅合金板材の製造方法。
[12]上記[1]~[7]のいずれかに記載の銅合金板材を素材に用いた通電部品。
[13]上記[1]~[7]のいずれかに記載の銅合金板材を素材に用いた放熱部品。
本明細書において、「板材」とはシート状の金属材料を意味する。薄いシート状の金属材料は「箔」と呼ばれることもあるが、そのような「箔」もここでいう「板材」に含まれる。コイル状に巻き取られた長尺のシート状金属材料も「板材」に含まれる。また、本明細書ではシート状の金属材料の厚さを「板厚」と呼んでいる。
本明細書において、数値範囲を示す表記「n1~n2」は、「n1以上n2以下」であることを意味する。ここで、n1、n2は、n1<n2を満たす数値である。
EBSD(電子線後方散乱回折法)による上記平均結晶粒径、GROD(Grain Reference Orientation Deviation)の平均値、およびKAM(Kernel Average Misorientation)値は、以下のようにして求めることができる。
[平均結晶粒径の求め方]
板材の圧延方向に垂直な断面(以下「LD面」ということがある。)をFE-SEM(電界放出型走査電子顕微鏡)により観察し、板厚1/4位置から3/4位置までの範囲内に設けた板幅方向24μm×板厚方向18μmの矩形の測定領域について、EBSD(電子線後方散乱回折)法によりステップサイズ(測定ピッチ)0.05μmにて結晶方位を測定する。板厚が薄く、板厚方向に18μmの視野が確保できない場合は、板幅方向が24μm、板厚方向が板厚1/4位置から3/4位置までの範囲である矩形の測定領域について測定する。EBSDデータ解析用ソフトウェアを用いて、方位差5°以上の境界を結晶粒界とみなし、測定領域内にある全ての結晶粒についてDiameterチャートを用いて結晶粒径を求め、Area Fraction法によって前記結晶粒径の平均値を算出する。結晶粒の一部が測定領域の境界からはみ出している結晶粒については、測定領域内に存在する部分の面積をそのまま平均結晶粒径の算出に使用する。この操作を無作為に選択した重複しない5視野の測定領域について行い、5視野で得られた結晶粒径の平均値の相加平均値を平均結晶粒径(μm)とする。なお、双晶境界({111}/Σ3対応粒界、{110}/Σ9対応粒界)は無視し、結晶粒界とはみなさず、平均結晶粒径を算出する。
ここで、「板厚1/4位置」とは、板厚をt(mm)とするとき、一方の圧延面からの距離がt/4(mm)である板厚方向位置を意味する。同様に「板厚3/4位置」とは、上記の圧延面からの距離が3t/4(mm)である板厚方向位置を意味する。
[GROD平均値の求め方]
LD面についてステップサイズ(測定ピッチ)0.05μmにて測定した上記のEBSD測定データに基づき、EBSDデータ解析用ソフトウェアを用いて、方位差5°以上の境界を結晶粒界とみなし、同一結晶粒内の平均方位をその結晶粒の基準方位として、測定領域の全測定スポットについてそのスポットが属する結晶粒の基準方位との方位差GROD(Grain Reference Orientation Deviation - Angle)の値(°)を算出し、それらの平均値をGROD平均値(°)とする。なお、双晶境界({111}/Σ3対応粒界、{110}/Σ9対応粒界)は無視し、結晶粒界とはみなさず、GROD平均値を算出する。
[KAM値の求め方]
LD面についてステップサイズ(測定ピッチ)0.05μmにて測定された上記のEBSD測定データに基づき、EBSDデータ解析用ソフトウェアを用いて、方位差5°以上の境界(双晶境界も含む)を結晶粒界とみなした場合のKAM(Kernel Average Misorientation)値を算出する。このKAM値は、0.05μmピッチで配置された電子線照射スポットについて、隣接するスポット間の結晶方位差(以下これを「隣接スポット方位差」という。)をすべて測定し、5°未満である隣接スポット方位差の測定値のみを抽出して、それらの平均値を求めたものに相当する。なお、KAM値の算出においては双晶境界も結晶粒界とみなす。
上記90°W曲げ試験におけるB.W.は「Bad Way」の略であり、曲げ軸が圧延方向に平行であることを意味する。
ある圧延パスにおける圧下率(%)は下記(1)式により定まる。
圧下率(%)=100×(t-t)/t …(1)
:その圧延パスに供する前の板厚(mm)
:その圧延パスを終えた板厚(mm)
ある圧延工程でのトータル圧延率(%)は下記(2)式により定まる。
トータル圧延率(%)=100×(h-h)/h …(2)
:その圧延工程の圧延1パス目に供する前の板厚(mm)
:その圧延工程の最終圧延パスを終えた板厚(mm)
本発明に従うCu-[Ni,Co]-Si系銅合金板材は、厳しい曲げ加工を施したときに、曲げ加工部外周表面の理想的な平滑曲面のプロファイルに対し、乖離の小さい表面形態を得ることができる。これにより、例えば、狭ピッチ化された基板対基板(BtoB)コネクタにおける樹脂かぶりの問題が顕著に軽減されるといった効果が期待される。
従来材(比較例No.31)の曲げ外周表面外観を例示した図面代用写真。 図1の表面について測定された高さプロファイルを例示した図。 図2のプロファイルの頂部付近を拡大表示した図。 本発明材(本発明例No.2)の曲げ外周表面外観を例示した図面代用写真。 図4の表面について測定された高さプロファイルを例示した図。 図5のプロファイルの頂部付近を拡大表示した図。
[化学組成]
以下、合金成分に関する「%」は、特に断らない限り「質量%」を意味する。
本発明では、Ni、Coの少なくとも1種を含有し、かつSiを含有するCu-[Ni,Co]-Si系銅合金を対象とする。Ni、CoおよびSiは、(Ni,Co)Siを主体とする析出物を形成し、強度と導電性の向上に寄与する。NiとCoの合計含有量は1.00~6.00%とする必要がある。2.00~5.00%であることがより好ましく、2.50~4.00%であることが更に好ましい。Si含有量は0.30~1.20%の範囲で設定できる。NiとCoの合計含有量が6.00%を超えて多くなると、後述の平均結晶粒径やGROD平均値が適正範囲であっても、B.W.での厳しい曲げ加工において、理想的な平滑曲面からの乖離が少ない表面形態(以下、これを「適正な表面形態」と言う。)を安定して得ることが難しくなる。一方、NiとCoの合計含有量が1.00%に満たない場合や、Si含有量が0.30~1.20%の範囲を外れる場合には、後述の平均結晶粒径を適正範囲に調整することが難しくなり、結果的にB.W.での厳しい曲げ加工において適正な表面形態を安定して実現することができない。Ni、Co、Siの量的関係については、適正な表面形態、強度および導電性の良好なバランスの観点から、質量%において、(Ni+Co)/Si比率を2.50~5.20の範囲とすることが好ましく、3.60~5.00とすることがより好ましく、4.00~4.80とすることが更に好ましい。
その他の元素として、必要に応じてAg、Al、B、Cr、Fe、Mg、Mn、P、S、Sn、Ti、Zn、Zrを含有させることができる。これら任意元素の含有量は、Ag:0~0.30%、Al:0~1.00%、B:0~0.20%、Cr:0~0.50%、Fe:0~1.00%、Mg:0~0.50%、Mn:0~1.00%、P:0~0.20%、S:0~0.20%、Sn:0~1.00%、Ti:0~0.50%、Zn:0~1.00%、Zr:0~0.30%の範囲で設定することができる。これらの元素の合計は、適正な表面形態、強度および導電性の良好なバランスの観点から2.0質量%以下であることが好ましい。
経済性や製造性を考慮すると、上記任意元素の含有量は、Ag:0~0.15%、Al:0~0.80%、B:0~0.15%、Cr:0~0.40%、Fe:0~0.50%、Mg:0~0.25%、Mn:0~0.50%、P:0~0.15%、S:0~0.18%、Sn:0~0.50%、Ti:0~0.15%、Zn:0~0.50%、Zr:0~0.28%の範囲とすることが好ましい。この場合において、これらの元素の合計は、1.5質量%以下であることが好ましい。
上記任意元素の含有量は、Ag:0~0.10%、Al:0~0.10%、B:0~0.10%、Cr:0~0.30%、Fe:0~0.30%、Mg:0~0.20%、Mn:0~0.20%、P:0~0.10%、S:0~0.15%、Sn:0~0.20%、Ti:0~0.10%、Zn:0~0.30%、Zr:0~0.25%の範囲とすることがより好ましい。この場合において、これらの元素の合計は、1.0質量%以下であることが好ましい。
上記任意元素の含有量は、Ag:0~0.02%、Al:0~0.08%、B:0~0.02%、Cr:0~0.14%、Fe:0~0.20%、Mg:0~0.10%、Mn:0~0.08%、P:0~0.02%、S:0~0.10%、Sn:0~0.18%、Ti:0~0.06%、Zn:0~0.20%、Zr:0~0.20%の範囲とすることが更に好ましい。この場合において、これらの元素の合計は、0.8質量%以下であることが好ましい。
上記以外の元素として、希土類元素(REM)を含有させることができる。希土類元素は、周期表第3族のSc(スカンジウム)、Y(イットリウム)、およびランタノイド系元素である。適正な表面形態、強度および導電性の良好なバランスの観点から、希土類元素の合計含有量を質量%で3.0%以下とすることが好ましく、2.0%以下とすることがより好ましく、0.8%以下、あるいは0.5%以下に管理してもよい。
具体的な希土類元素の含有量範囲として、例えば、質量%で、La(ランタン):2.5%以下、Ce(セリウム):2.0%以下、Pr(プラセオジム):0.5%以下、Nd(ネオジム):0.8%以下、Sm(サマリウム):1.0%以下、およびY(イットリウム):1.8%以下から選ばれる1種以上を含み、希土類元素の合計含有量が3.0%以下である範囲を挙げることができる。
経済性や製造性を考慮した希土類元素の含有量範囲としては、例えば、質量%で、La:1.5%以下、Ce:1.2%以下、Pr:0.5%以下、Nd:0.8%以下、Sm:0.5%以下、およびY:1.0%以下から選ばれる1種以上を含み、希土類元素の合計含有量が2.0%以下である範囲を挙げることができる。経済性や製造性に更に配慮したより好ましい希土類元素の含有量範囲としては、例えば、質量%で、La:0.50%以下、Ce:0.45%以下、Pr:0.05%以下、Nd:0.15%以下、Sm:0.4%以下、およびY:0.3%以下から選ばれる1種以上を含み、希土類元素の合計含有量が0.80%以下である範囲を挙げることができる。
以上の合金元素において、Al、B、Cr、Mn、P、Ti、Zrは合金強度を更に高め、かつ応力緩和を小さくする作用を有する。Ag、Mg、Snは耐応力緩和性の向上に有効である。Znは銅合金板材のはんだ付け性および鋳造性を改善する。Cr、Fe、Mn、Ti、Zrは、Sや不可避的不純物として混入しうるPbなどと高融点化合物を形成しやすく、また、B、P、Ti、Zrは鋳造組織の微細化効果を有するので、それぞれ熱間加工性の改善に寄与しうる。Sは合金のプレス打抜き性の向上に有効である。希土類元素は、結晶粒の微細化や析出物の分散化に有効である。希土類元素を含有させる場合、その合計含有量を0.01%以上とすることがより効果的である。
以上の元素以外の残部はCuおよび不可避的不純物で構成される。不可避的不純物は、製造上不可避的に混入する元素であって、上記に挙げた元素以外のものをいう。
[平均結晶粒径]
本発明の銅合金板材は、圧延方向に対し垂直な断面(LD面)に設けた測定領域についてのEBSDによるステップサイズ0.05μmでの測定において、結晶方位差5°以上の境界を結晶粒界とみなした場合のArea Fraction法による平均結晶粒径が4.00μm以下であることを要件とする。この平均結晶粒径が4.00μmを超える場合には、B.W.での厳しい曲げ加工において適正な表面形態を安定して得ることが難しくなる。上記の平均結晶粒径は3.00μm以下であることがより好ましく、2.70μm以下であることが更に好ましく、2.00μm以下に調整することも可能である。平均結晶粒径の下限については特に定めないが、過剰な微細化は工程負荷の増大を招く要因となるので、通常、0.50μm以上の範囲に制御すればよい。なお、双晶境界({111}/Σ3対応粒界、{110}/Σ9対応粒界)は無視し、結晶粒界とはみなさず、平均結晶粒径を算出する。
[GROD平均値]
本発明の銅合金板材は、上記のEBSD測定において、結晶方位差5°以上の境界を結晶粒界とみなした場合のGROD平均値が10.5°以下であることを要件とする。8.0°以下であることがより好ましく、6.0°以下であることが更に好ましい。GROD平均値は、測定領域の全測定スポットについて、各測定スポットが属する結晶粒の基準方位との方位差を求めて、その平均値を算出したものに相当する。ここでは、各結晶粒の基準方位として、同一結晶粒内の測定スポットによる平均方位を採用する。GROD平均値は、各結晶粒の内部に蓄えられている残留応力が板材全体としてどの程度の大きさであるかを示す指標となる。発明者らの研究によれば、このGROD平均値は、曲げ加工部外周表面の形態に大きな影響を及ぼすことがわかった。B.W.での厳しい曲げ加工において適正な表面形態を安定して得るためには、GROD平均値を10.5°以下に厳密に制御することが極めて有効である。GROD平均値の下限については特に定めないが、残留応力を過剰に低減させることは工程負荷の増大を招く要因となるので、通常、1.0°以上の範囲に制御すればよい。なお、双晶境界({111}/Σ3対応粒界、{110}/Σ9対応粒界)は無視し、結晶粒界とはみなさず、GROD平均値を算出する。
[KAM値]
KAM値は、局所的な格子ひずみ(残留応力)が板材全体としてどの程度存在するかを知る手がかりとなる指標である。B.W.での厳しい曲げ加工において適正な表面形態を得るためには、測定ステップサイズを0.05μmという微小サイズに設定した上記のEBSD測定において、結晶方位差5°以上の境界(双晶境界も含む)を結晶粒界とみなした場合のKAM値が3.0°以下であることが好ましい。2.5°以下であることがより好ましく、2.0°以下であることが更に好ましい。ただし、KAM値がこの要件を満たしていても、GROD平均値が上記所定の範囲に制御されていない場合には、B.W.での厳しい曲げ加工において適正な表面形態を安定して実現することができない。KAM値の下限については特に定めないが、残留応力を過剰に低減させることは工程負荷の増大を招く要因となるので、通常、0.3°以上の範囲に制御すればよい。
[90°W曲げ試験によるMBR/t]
本発明の銅合金板材においては、日本伸銅協会技術標準JCBA T307:2007に準拠したB.W.での90°W曲げ試験による、割れが発生しない最小曲げ半径MBRと板厚tとの比MBR/tが1.0以下であることが好ましく、0.4以下であることがより好ましい。MBR/tが0であるものを得ることも可能である。なお、この試験でのMBR/tは、どの程度の厳しい曲げまで割れが生じないかを示す従来一般的な曲げ加工性評価の指標である。化学組成、平均結晶粒径、GROD平均値が上述した適正範囲に制御されていないCu-[Ni,Co]-Si系銅合金板材では、MBR/tによる曲げ加工性が良好であっても、B.W.での厳しい曲げ加工において理想的な平滑曲面からの乖離が少ない表面形態を安定して実現することは難しい。
JCBA T307:2007には「本標準は、厚さ0.1mm以上0.8mm以下の銅および銅合金薄板条の曲げ加工性評価に適用する。」と記載されている。発明者らの検討によれば、板厚が0.1mm未満のCu-[Ni,Co]-Si系銅合金板材においても、この規格に準拠したW曲げ試験によって、曲げ加工性の評価が可能であることが確認された。したがって、本発明ではJCBA T307:2007に示されるB.W.でのW曲げ試験方法を、板厚が0.1mm未満(例えば0.02mm以上0.1mm未満)の場合にも拡張して、そのまま適用する。試験片の幅は例えば10mmとすればよい。
[導電率・引張強さ]
コネクタ等の通電部品用の素材には、導電率が30%IACS以上の導電性を有し、圧延方向の引張強さが500MPa以上の強度レベルを有することが望まれる。上述の化学組成を満たしていれば、後述する製造方法により、導電率が30%IACS以上、引張強さ500MPa以上の板材を得ることができる。導電率については40%IACS以上、50%IACS以上、60%IACS以上、65%IACS以上といった所望のレベルに調整することも可能である。本発明で規定する合金組成においては、通常、80%IACS以下の範囲となる。引張強さについては600MPa以上、700MPa以上、800MPa以上、900MPa以上、1000MPa以上といった強度レベルにそれぞれ調整することも可能である。通常、1200MPa以下の範囲で調整すればよい。
[曲げ加工部外周の理想的な平滑曲面からの最大乖離]
後述のB.W.での90°W曲げ試験において、曲げ加工部外周の理想的な平滑局面からの最大乖離は3.0μm以下となることが望ましい。この最大乖離が2.0μm以下、あるいは更に1.0μm以下となる板材を得ることも可能である。なお、この最大乖離を完全に0とすることは困難であり、通常0.1μm以上となる。
[製造方法]
以上説明した銅合金板材は、例えば以下のような製造工程により作ることができる。
溶解・鋳造→熱間圧延→冷間圧延→(中間焼鈍→冷間圧延)→溶体化処理→中間冷間圧延→時効処理→(仕上冷間圧延→低温焼鈍)
上記において括弧内の工程は必要に応じて行うことができる。なお、上記工程中には記載していないが、熱間圧延後には必要に応じて面削が行われ、各熱処理後には必要に応じて酸洗、研磨、または脱脂が行われる。以下、各工程について説明する。
[溶解・鋳造]
連続鋳造、半連続鋳造等により、上述した本発明の銅合金板材の化学組成を有する鋳片を製造すればよい。Siなどの酸化を防止するために、不活性ガス雰囲気または真空溶解炉で行うのがよい。
[熱間圧延]
熱間圧延は通常の手法に従えばよい。熱間圧延前の鋳片加熱は例えば900~1050℃で1~5時間保持する条件で行うことができる。トータルの熱間圧延率は例えば70~97%とすればよい。最終パスの圧延温度は700℃以上900℃以下とすることが好ましい。熱間圧延終了後には、水冷などにより急冷することが好ましい。
[冷間圧延]
常法により冷間圧延を施し、次工程の溶体化処理に供するための中間製品板材を得る。必要に応じて板厚調整のために更に中間焼鈍と冷間圧延を1回または複数回施して中間製品板材としてもよい。
[溶体化処理]
溶体化処理は、800~1050℃で10~1000秒保持する条件で行うことができる。溶体化処理温度が低すぎる場合や高すぎる場合は、最終的に得られる板材の平均結晶粒径およびGROD平均値を上述の適正範囲に制御することが難しくなる。上記温度で保持した後の冷却速度は、一般的な連続焼鈍ラインで実現できる程度の急冷とすればよい。例えば、530℃から300℃までの平均冷却速度を100℃/s以上とすることが望ましい。
[中間冷間圧延]
溶体化処理と時効処理の間で行う冷間圧延をここでは「中間冷間圧延」と呼んでいる。平均結晶粒径およびGROD平均値が最終的に上述した所定範囲に制御された板材を得るためには、この中間冷間圧延での条件設定を厳密に行うことによって、局所的に過度なひずみエネルギー(転位)が導入されないように板厚を減少させることが極めて重要である。具体的には、圧下率6%以上の圧延パスの回数を10パス以下とし、圧下率6%以上の圧延パスにおける単位板幅あたりの平均圧延荷重を1500kN/m以下とし、結晶粒を微細化するために、トータル圧延率を70%以上とする条件で中間冷間圧延を行う。ここで、圧下率6%以上の圧延パスにおける単位板幅あたりの平均圧延荷重は、圧下率6%以上の各圧延パスにおける単位板幅あたりの圧延荷重の総和を、圧下率6%以上の圧延パスの回数で除することによって定まる。
圧下率6%以上の圧延パスの回数は10パス以下に抑えるが、その回数が過度に少ないと所定の板厚減少を達成するための圧下率が増大し生産性が低下する。圧下率6%以上の圧延パスの回数は4パス以上を確保することが好ましい。圧下率6%以上の圧延パスにおける単位板幅あたりの平均圧延荷重は1500kN/m以下に抑える必要があるが、その平均圧延荷重が過度に低いパススケジュールでは生産性の面で不利となる。上記の平均圧延荷重が500kN/m以上、あるいは750kN/m以上となるようにパススケジュールを設定することが好ましい。トータル圧延率は、結晶粒微細化の観点から70%以上とする必要があるが、80%以上とすることがより好ましく、90%以上としてもよい。トータル圧延率の上限は特に定めないが、ミルの能力に応じて、例えば98%以下の範囲で設定すればよい。
[時効処理]
次いで、時効処理を、400~600℃で1~24時間保持する条件で行う。この条件範囲内で、用途に応じて所定の強度、導電性が得られるように最適な時効処理条件を設定すればよい。時効処理の加熱によりひずみの低減が生じ、また時効処理温度が高すぎると再結晶が起こりうる。上記の条件範囲を外れると、最終的に得られる板材の平均結晶粒径およびGROD平均値を上述の適正範囲に制御することが難しくなる。なお、上述の通り、以下の仕上冷間圧延および低温焼鈍は任意工程であり、本発明の銅合金板材を得るための加工・熱履歴を、この時効処理工程で終了とすることもできる。
[仕上冷間圧延]
時効処理後に行う最終的な冷間圧延をここでは「仕上冷間圧延」と呼んでいる。この工程は必須ではないが、板材の形状矯正や最終的な板厚調整を行う上で有効である。ただし、最終的に得られる板材のGROD平均値を上述の適正範囲に安定して制御するには、仕上冷間圧延のトータル圧延率は15%以下に抑えることが重要である。
[低温焼鈍]
仕上冷間圧延のトータル圧延率が3%以上である場合には、残留応力の低減などの目的で低温焼鈍を施すことが望ましい。低温焼鈍は、300~500℃で10~300秒保持する条件で行うことができる。
以上のようにして、B.W.での厳しい曲げ加工において理想的な平滑曲面からの乖離が少ない表面形態が得られる性質を具備したCu-[Ni,Co]-Si系銅合金板材を得ることができる。最終的なCu-[Ni,Co]-Si系銅合金板材の板厚は、例えば0.02~0.40mmの範囲で設定することができる。
[通電部品、放熱部品]
本発明の銅合金板材は、通電部品や放熱部品などの素材として有用である。本発明の銅合金板材を素材に用いると、厳しい曲げ加工を施したときに、曲げ加工部外周表面の理想的な平滑曲面のプロファイルに対し、乖離の小さい表面形態を実現することができるので、本発明の銅合金板材は、特に曲げ加工を経て製造される(すなわち曲げ加工部を有する)通電部品や放熱部品の素材として極めて有用である。
表1に示す化学組成の銅合金を溶製し、縦型半連続鋳造機を用いて鋳造した。本発明例No.17では、希土類元素の添加源としてミッシュメタル(希土類元素の混合体)を銅合金原料の全量中0.36質量%の割合で添加した。このミッシュメタルに含まれる主要な希土類元素の質量割合は、La:Ce:Pr:Nd=28:50:5:17であった。
鋳造によって得られた鋳片を1000℃で3時間加熱したのち抽出して、トータル圧延率75~96%、最終パスの圧延温度700℃以上、水冷の条件で熱間圧延を行い、表2、表3に記載の板厚の熱延材を得た。熱間圧延後、表層の酸化層を機械研磨および切削により除去(面削)し、冷間圧延を施して溶体化処理に供するための中間製品板材とした。各中間製品板材に、一部の例を除き、溶体化処理、中間冷間圧延、時効処理、仕上冷間圧延、および低温焼鈍を施し、板材製品(供試材)を得た。No.14では仕上冷間圧延および低温焼鈍を省略した。No.41では溶体化処理の工程に代えて600℃で6時間保持する第1時効処理を施し、中間冷間圧延後には500℃で6時間保持する第2時効処理を施した。No.37、42、43では中間冷間圧延を省略した。熱延材の板厚、熱間圧延後の各工程での主な製造条件、および最終的に得られた供試材の板厚は表2、表3に示してある。
各供試材について以下の調査を行った。
(平均結晶粒径)
供試材から採取したサンプルの圧延方向に垂直な断面(LD面)を、クロスセクションポリッシャー(日本電子株式会社製IB-19530CP)により加速電圧4kVで処理することによって、EBSD(電子線後方散乱回折)測定用の試料表面を作製した。その試料表面をFE-SEM(日本電子株式会社製JSM-7200F)により加速電圧15kV、倍率5000倍の条件で観察し、板厚1/4位置から3/4位置までの範囲内に設けた板幅方向24μm×板厚方向18μmの矩形の測定領域について、FE-SEMに設置されているEBSD装置(Oxford Instruments社製、Symmetry)を用いて、EBSD法によりステップサイズ0.05μmで結晶方位データを採取した。5視野の測定領域について測定した結晶方位データに基づき、上掲の「平均結晶粒径の求め方」に従い、Area Fraction法による平均結晶粒径を求めた。EBSDデータ解析用ソフトウェアとして、株式会社TSLソリューションズ製OIM-Analysis7.3.1を利用した(後述のGROD平均値、KAM値の算出においても同様。)。
(GROD平均値)
上記のEBSD法により採取した結晶方位データに基づき、上掲の「GROD平均値の求め方」に従い、GROD平均値を求めた。
(KAM値)
上記のEBSD法により採取した結晶方位データに基づき、上掲の「KAM値の求め方」に従い、KAM値を求めた。
(曲げ加工部外周の理想的な平滑曲面からの最大乖離)
試験片の長手方向が圧延直角方向に一致するように、長さ30mm、幅0.3mmの試験片を供試材から切り出し、日本伸銅協会技術標準JCBA T307:2007に準拠する方法で曲げ半径R(mm)と板厚t(mm)の比R/tが1.0であるB.W.での90°W曲げ試験を行った。試験片に形成された曲げ部の曲げ外周表面をレーザー顕微鏡(オリンパス社製、LEXT OLS4000)により観察し、試験片幅方向に対し直角方向に走査した場合の、曲げ加工部外周表面の高さプロファイルを測定した。観察には50倍の対物レンズを使用した。プロファイルの高さ方向は、曲げ加工時の治具の進行方向に相当する方向とした。具体的な測定方法を、図1~図3を例に挙げて説明する。
図1に、従来材であるNo.31の曲げ外周表面を、曲げ加工時の治具の進行方向に相当する方向に見た外観写真を例示する。写真の横方向が試験片の幅方向(すなわち曲げ軸に平行な方向)、写真中に示した、写真の縦方向に平行な直線がプロファイル測定線である。
図2に、図1の表面について測定された高さプロファイルを例示する。実測されたプロファイル(実線)の中で、頂点(高さの最高点)から15μm程度までの深さ位置では不規則な凹凸が多くなる。そこで、実測されたプロファイル曲線のデータのうち、頂点からの深さが15~25μmの範囲にある部分のデータを用いて、多項式近似曲線(2次関数)を作成した。その際、測定位置(図2の横軸)のデータを0.25μm刻みで取得し、多項式近似曲線の作成は最小二乗法で行った。このようにして得られた多項式近似曲線を「理想プロファイル」とし、曲げ加工部外周の理想的な平滑曲面の断面曲線とみなした。図2中に、理想プロファイルを破線で示してある。実際の曲げ外周表面は、頂部付近が陥没したような表面形態を呈していることがわかる。
図3に、図2のプロファイルの頂部付近を拡大して示す。同一の走査方向位置(図3の横軸位置)における理想プロファイル(破線)と実測プロファイル(実線)の高さ方向距離の最大値(μm)を「最大乖離」と定義する。この図の例では最大乖離は6.3μmであった。樹脂かぶりは、図中の破線に相当する理想的な平滑曲面と図中の実線に相当する材料の曲げ加工外周で囲まれた領域において生じる。
この最大乖離の測定を、1つの試験片について無作為に設定した5本の測定線で行い、5つの最大乖離値の最大値をその試験片の最大乖離とした。試験数n=3にて3つの試験片の最大乖離を求め、3つの試験片の最大乖離の測定値の平均値を当該供試材の最大乖離の成績値として採用した。図2、図3に一例を示したNo.31の例についての最大乖離の成績値は6.3μmと求まった。
以上の方法で各供試材の曲げ試験片について最大乖離を測定した。この試験方法による最大乖離が3.0μm以下であるCu-[Ni,Co]-Si系銅合金板材は、曲げ加工部の表面形態が従来よりも顕著に改善される性質を有するものであると評価される。
図4に、本発明例であるNo.2の曲げ外周表面を曲げ加工時の治具の進行方向に相当する方向に見た外観写真を例示する。図5に、図4の表面について測定された高さプロファイルを例示する。図6に、図5のプロファイルの頂部付近を拡大して示す。図6の縦軸は前述図3に対し2倍に拡大して示してある。この例では最大乖離は2.0μmであった。また、図5、図6に一例を示したNo.2の例についての最大乖離の成績値は2.0μmと求まった。
(90°W曲げ試験によるMBR/t)
上記の最大乖離の評価とは別に、通常の曲げ試験により以下のように曲げ加工性を評価した。日本伸銅協会技術標準JCBA T307:2007に準拠してB.W.でのW曲げ試験による、割れが発生しない最小曲げ半径MBRと板厚tとの比MBR/tを求めた。試験片サイズは圧延直角方向長さ30mm、圧延方向長さ(試験片の幅)10mmとした。曲げ部表面の割れ有無の判定はJCBA T307:2007に従って行った。曲げ部表面の外観観察において「しわ:大」と判定されたサンプルについては、最も深いしわの部分について曲げ軸方向に垂直に切断した試料を作製し、その研磨断面を光学顕微鏡で観察することによって板厚内部へ進展するクラックが生じていないかどうかを確認し、そのようなクラックが生じていない場合に「割れが認められない」と判定した。本発明材料の用途を考慮すると、この試験によるMBR/tが1.0以下であれば良好な曲げ加工性を有していると評価される。
(引張強さ)
各供試材から圧延平行方向の引張試験片(JIS 5号)を採取し、試験数n=3でJIS Z2241に準拠した引張試験を行い、引張強さを測定した。n=3の平均値を当該供試材の成績値とした。
(導電率)
各供試材の導電率をJIS H0505に準拠してダブルブリッジ、平均断面積法により測定した。
以上の結果を表4に示す。
Figure 2023100244000002
Figure 2023100244000003
Figure 2023100244000004
Figure 2023100244000005
化学組成および板材の製造条件を上述の適正範囲に厳密に制御した本発明例のものは、いずれも平均結晶粒径、GROD平均値が本発明で規定する範囲にある組織状態を呈し、曲げ加工部外周の理想的な平滑曲面からの最大乖離が3.0μm以下となる性質を有していた。また、これらは通常の評価方法における曲げ加工性も良好で、強度、導電性も良好であった。
これに対し、比較例であるNo.31は、NiとCoの合計含有量が多すぎたので、曲げ加工部外周の理想的な平滑曲面からの最大乖離(以下、単に「最大乖離」という。)が大きく、また、通常の評価方法における曲げ加工性(以下、単に「曲げ加工性」という。)も劣っていた。
No.32は、NiとCoの合計含有量が不足したことに起因して平均結晶粒径が大きくなり、最大乖離が大きかった。曲げ加工性、強度も劣っていた。
No.33は、Si含有量が多すぎたことに起因して平均結晶粒径が大きくなり、最大乖離が大きかった。曲げ加工性、導電性も劣っていた。
No.34は、Si含有量が不足したことに起因して平均結晶粒径が大きくなり、最大乖離が大きかった。曲げ加工性、強度も劣っていた。
No.35では、中間冷間圧延でのトータル圧延率が不足したので平均結晶粒径が大きくなり、最大乖離が大きかった。
No.36は、中間冷間圧延において圧下率6%以上のパス回数が多すぎたのでGROD平均値が高くなり、最大乖離が大きかった。曲げ加工性も悪かった。
No.37は、中間冷間圧延を省略し、仕上冷間圧延のトータル圧延率を大きくした例である。この場合、平均結晶粒径が大きくなり、GROD平均値、KAM値も高くなった。その結果、最大乖離が大きくなり、曲げ加工性も劣っていた。
No.38は、中間冷間圧延において圧下率6%以上の圧延パスにおける単位板幅あたりの平均圧延荷重が大きすぎたのでGROD平均値が高くなり、最大乖離が大きかった。曲げ加工性も劣っていた。
No.39は、仕上冷間圧延でのトータル圧延率が大きすぎたのでGROD平均値が高くなり、最大乖離が大きかった。また、KAM値も高く、曲げ加工性も悪かった。
No.40は、中間冷間圧延率でのトータル圧延率を低くし、仕上冷間圧延でのトータル圧延率を高くした例であり、特許文献3の表2に記載されているNo.1に相当するものである。この場合、平均結晶粒径が大きくなるとともに、GROD平均値およびKAM値が高くなり、最大乖離が大きかった。曲げ加工性も本発明例に比べ劣っていた。
No.41は、溶体化処理に代えて600℃で6時間保持する第1時効処理を施し、中間冷間圧延後には500℃で6時間保持する第2時効処理を施し、仕上冷間圧延のトータル圧延率を本発明の規定より大きくした例であり、特許文献4の表2に記載されているNo.1に相当するものである。この場合、GROD平均値、KAM値が高くなり、最大乖離が大きかった。曲げ加工性も本発明例に比べ劣っていた。
No.42は、中間冷間圧延を省略した例であり、特許文献2の表2に記載されている「発明例1」の再現を試みたものである。この場合、平均結晶粒径が大きくなり、またGROD平均値を十分に低減することができなかった。その結果、最大乖離が大きかった。
No.43は、中間冷間圧延を省略し、仕上冷間圧延のトータル圧延率を本発明の規定より大きくし、低温焼鈍の保持時間を本発明の規定より長くした例であり、特許文献1の表1に記載されている「発明例1」の再現を試みたものである。この場合、平均結晶粒径が大きくなるとともに、GROD平均値およびKAM値が高くなり、最大乖離が大きかった。
No.44~48は、中間冷間圧延のトータル圧延率が小さく、圧下率6%以上の圧延パスにおける単位板幅あたりの平均圧延荷重が大きい条件で行ったことにより、平均結晶粒径が大きくなるとともに、GROD平均値が高くなった。その結果、これらはいずれも最大乖離が大きくなり、曲げ加工性も劣った。このうちNo.44は、低温焼鈍を本発明の規定より高温で行ったので強度が低下した。No.45は、溶体化処理温度を本発明の規定より低温で行ったので強度が低下した。No.46は、溶体化処理温度を本発明の規定より高温で行ったので導電率が低下した。No.47は、時効処理を本発明の規定より高温で行ったので強度が低下した。No.48は、時効処理を本発明の規定より低温で行ったので導電率が低下した。
No.49は、中間冷間圧延でのトータル圧延率が低く、仕上冷間圧延でのトータル圧延率が高く、低温焼鈍の温度が低かったことにより、平均結晶粒径が大きくなるとともに、GROD平均値およびKAM値が高くなり、最大乖離が大きかった。曲げ加工性も悪かった。

Claims (13)

  1. 質量%で、NiとCoの合計:1.00~6.00%、Si:0.30~1.20%、Ag:0~0.30%、Al:0~1.00%、B:0~0.20%、Cr:0~0.50%、Fe:0~1.00%、Mg:0~0.50%、Mn:0~1.00%、P:0~0.20%、S:0~0.20%、Sn:0~1.00%、Ti:0~0.50%、Zn:0~1.00%、Zr:0~0.30%、残部Cuおよび不可避的不純物からなる化学組成を有し、圧延方向に対し垂直な断面に設けた測定領域についてのEBSD(電子線後方散乱回折法)によるステップサイズ0.05μmでの測定において、結晶方位差5°以上の境界を結晶粒界とみなした場合に、Area Fraction法による平均結晶粒径が4.00μm以下であり、同一結晶粒内の測定スポットによる平均方位をその結晶粒の基準方位とするとき、前記測定領域の全測定スポットについて、各測定スポットが属する結晶粒の基準方位との方位差を求めて平均値を算出したGROD平均値が10.5°以下である銅合金板材。
  2. 更に、希土類元素を合計3.0質量%以下の範囲で含有する組成を有する、請求項1に記載の銅合金板材。
  3. 前記EBSDによるステップサイズ0.05μmでの測定において、結晶方位差5°以上の境界を結晶粒界とみなした場合のKAM値が3.0°以下である、請求項1または2に記載の銅合金板材。
  4. 日本伸銅協会技術標準JCBA T307:2007に準拠したB.W.での90°W曲げ試験による、割れが発生しない最小曲げ半径MBRと板厚tとの比MBR/tが1.0以下である、請求項1または2に記載の銅合金板材。
  5. 導電率が30%IACS以上である、請求項1または2に記載の銅合金板材。
  6. 圧延平行方向の引張強さが500MPa以上である、請求項1または2に記載の銅合金板材。
  7. 板厚が0.02~0.40mmである、請求項1または2に記載の銅合金板材。
  8. 中間製品板材に、溶体化処理、中間冷間圧延、時効処理を上記の順に施す製造工程において、
    溶体化処理を、800~1050℃で10~1000秒保持する条件で行い、
    中間冷間圧延を、圧下率6%以上の圧延パスの回数を10パス以下とし、圧下率6%以上の圧延パスにおける単位板幅あたりの平均圧延荷重を1500kN/m以下とし、トータル圧延率を70%以上とする条件で行い、
    時効処理を、400~600℃で1~24時間保持する条件で行うことにより前記GROD平均値が10.5°以下である銅合金板材を得る、請求項1または2に記載の銅合金板材の製造方法。
  9. 前記中間製品板材は、熱間圧延後に冷間圧延を施した板材である、請求項8に記載の銅合金板材の製造方法。
  10. 中間製品板材に、溶体化処理、中間冷間圧延、時効処理、仕上冷間圧延、低温焼鈍を上記の順に施す製造工程において、
    溶体化処理を、800~1050℃で10~1000秒保持する条件で行い、
    中間冷間圧延を、圧下率6%以上の圧延パスの回数を10パス以下とし、圧下率6%以上の圧延パスにおける単位板幅あたりの平均圧延荷重を1500kN/m以下とし、トータル圧延率を70%以上とする条件で行い、
    時効処理を、400~600℃で1~24時間保持する条件で行い、
    仕上冷間圧延を、トータル圧延率3~15%の条件で行い、
    低温焼鈍を、300~500℃で10~300秒保持する条件で行うことにより前記GROD平均値が10.5°以下である銅合金板材を得る、請求項1または2に記載の銅合金板材の製造方法。
  11. 前記中間製品板材は、熱間圧延後に冷間圧延を施した板材である、請求項10に記載の銅合金板材の製造方法。
  12. 請求項1または2に記載の銅合金板材を素材に用いた通電部品。
  13. 請求項1または2に記載の銅合金板材を素材に用いた放熱部品。
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