JP2023097430A - セラミックスコンポジット膜の形成方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】電気泳動堆積法によるセラミックスコンポジット膜の形成方法であって、得られるセラミックスコンポジット膜の膜欠陥を効果的に抑制できるセラミックスコンポジット膜の形成方法、及び当該形成方法により表面被覆された機能性材料の製造方法を提供する。【解決手段】電気泳動堆積法によるセラミックスコンポジット膜の形成方法であって、金属アルコキシドを含む有機溶媒中にセラミックス粒子を分散してなる懸濁液を、電圧を印加したアルコール中に滴下又は注入し、前記の電圧を印加したアルコール中で前記懸濁液が電気泳動と堆積をする過程において、前記金属アルコキシドの加水分解と重縮合反応を生じ、これにより、前記セラミックス粒子と該セラミックス粒子間を埋める金属酸化物マトリクスとを含むセラミックスコンポジットを、前記の電圧を印加したアルコール中に配した被処理対象物表面に堆積させることを含む、セラミックスコンポジット膜の形成方法。【選択図】図1

Description

本発明は、セラミックスコンポジット膜の形成方法に関する。
セラミックスは、耐熱性、耐摩耗性、高硬度、絶縁性、誘電性、耐食性などの特性を有し、種々の用途に用いられている。例えば、チタン酸バリウムは高い誘電性からセラミックスコンデンサや圧電素子の材料として、窒化ケイ素は高い機械的強度と耐摩耗性から輸送機等の部品などに、イットリウム部分安定化ジルコニアはその高い硬度と化学的安定性から歯科用材料などに、酸化セリウムは研磨剤や触媒などとして使用されている。
セラミックス材料の調製法として、湿式法や乾式法が知られている。湿式法として、例えばゾル-ゲル法が知られている。また、乾式法としては、例えばスパッタ法が挙げられる。
セラミックスの電子機器への適用や、表面処理材料としての適用においては、セラミックスの薄膜を形成することが必要である。ナノメートルオーダーのセラミックス薄膜を形成する技術として、電気泳動堆積法(EPD法、電着法)が知られている。この方法は、膜材料の微粒子の分散液中に、膜を形成する基材と対電極を浸漬し、電圧を印加して分散液中の微粒子を基材方向に電気泳動し、基材上に微粒子を堆積させて成膜するものである。電気泳動堆積法によれば、膜厚や膜構造の制御が比較的容易であり、電子デバイス等に求められるナノメートルレベルの薄膜を、膜厚や構造を制御して形成することが可能となる。しかし、電気泳動堆積法による薄膜形成では乾燥時に膜が大きく収縮し、クラックや剥離が生じやすい問題がある。この問題に対処する技術として、例えば特許文献1には、セラミックスのナノ粒子を分散媒中に分散させ、ナノ粒子分散液を調製する工程Aと、導電性の基材の表面を、前記分散液中における前記ナノ粒子の表面電荷と逆の電荷を有する、ポリアクリル酸等の高分子電解質の被膜で被覆する工程Bと、前記被覆された基材及び対電極を前記分散液中に浸漬し、電気泳動堆積法により前記被覆された基材上に前記ナノ粒子を堆積させる工程Cとを有することを特徴とするナノ粒子薄膜の製造方法が開示されている。特許文献1記載の技術によれば、高分子電解質がバインダとして機能し、膜のクラックや剥離を抑制できるとされる。
2種以上のセラミックスからなる機能性セラミックスコンポジットが知られている。例えば特許文献2には、BaTi前駆体溶液中に、FeまたはKを含有するBaTiO粒子を分散させた、圧電材料組成物が開示されている。特許文献2記載の技術によれば、この圧電材料組成物を塗布して製膜することにより、キュリー温度が高まり高温域でも高誘電性を発現させることができるとされる。
特開2010-126735号公報 特開2008-195555号公報
セラミックス膜の形成では一般に、膜欠陥(クラックや剥離)をできるだけ抑えた状態に成膜することが求められる。しかし、耐熱性、耐摩耗性、高硬度、絶縁性、誘電性、耐食性などのセラミックスに特有の種々の特性を効果的に発現させるためには、特許文献1に記載されるような有機高分子電解質の利用は好ましくない場合がある。そこで、本発明者は有機材料を用いずに、セラミックス材料からなる膜の形成を、電気泳動堆積法により形成する技術について検討を重ねた。その結果、金属アルコキシドを含むアルコール媒体中にセラミックス粒子を分散させた懸濁液を用いて、電気泳動堆積法により基材上に膜を形成することにより、電気泳動中に、アルコール媒体中に含まれる微量の水分による金属アルコキシドの加水分解とそれに続く重縮合反応が生じ、セラミックス粒子と、これらの粒子間を埋める金属酸化物マトリクスとからなるセラミックスコンポジット膜を形成できることがわかってきた。このセラミックスコンポジット膜は、金属アルコキシドを用いずに電気泳動堆積法でセラミックス膜を形成した場合に比べて、膜欠陥をある程度抑えることができた。なお、加水分解と重縮合反応は、電気泳動の最終段階である堆積の過程でも進行すると考えられる。
本発明は、電気泳動堆積法によるセラミックスコンポジット膜の形成方法であって、得られるセラミックスコンポジット膜の膜欠陥を、より効果的に抑制できるセラミックスコンポジット膜の形成方法を提供することを課題とする。また、本発明は、このセラミックスコンポジット膜の形成方法を用いて表面被覆された機能性材料の製造方法の提供を課題とする。
本発明者は上記課題に鑑み鋭意検討を重ねた。その結果、予め金属アルコキシドを含む有機溶媒中にセラミックス粒子を分散してなる懸濁液を調製し、該懸濁液を、電圧を印加したアルコール中に滴下又は注入して、電気泳動堆積法により被処理対象物表面にセラミックスコンポジット膜を形成させることにより、得られるセラミックスコンポジット膜において、膜欠陥が、より効果的に抑制されることを見出した。
本発明はこれらの知見に基づき完成されるに至ったものである。
本発明の上記課題は、下記の手段により解決された。
(1)
電気泳動堆積法によるセラミックスコンポジット膜の形成方法であって、
金属アルコキシドを含む有機溶媒中にセラミックス粒子を分散してなる懸濁液を、電圧を印加したアルコール中に滴下又は注入し、前記の電圧を印加したアルコール中で前記懸濁液が電気泳動と堆積をする過程において、前記金属アルコキシドの加水分解と重縮合反応を生じ、これにより、前記セラミックス粒子と該セラミックス粒子間を埋める金属酸化物マトリクスとを含むセラミックスコンポジットを、前記の電圧を印加したアルコール中に配した被処理対象物表面に堆積させることを含む、セラミックスコンポジット膜の形成方法。
(2)
前記の表面にセラミックスコンポジットが堆積した被処理対象物を焼成することを含む、前記(1)に記載のセラミックスコンポジット膜の形成方法。
(3)
前記焼成の温度が500~1500℃である、前記(2)に記載のセラミックスコンポジット膜の形成方法。
(4)
前記アルコールが、炭素数が4以下のアルコールである、前記(1)~(3)のいずれか1項に記載のセラミックスコンポジット膜の形成方法。
(5)
前記セラミックス粒子が二チタン酸バリウム粒子を含み、前記金属アルコキシドがチタンアルコキシド及びバリウムアルコキシドを含む、前記(1)~(4)のいずれか1項に記載のセラミックスコンポジット膜の形成方法。
(6)
前記セラミックス粒子が酸化ジルコニウム粒子及び/又は酸化セリウム粒子を含み、前記金属アルコキシドがジルコニウムアルコキシド及びイットリウムアルコキシドを含む、前記(1)~(4)のいずれか1項に記載のセラミックスコンポジット膜の形成方法。
(7)
前記(1)~(6)のいずれか1項に記載のセラミックスコンポジット膜の形成方法により被処理対象物表面にセラミックスコンポジット膜を形成することを含む、機能性材料の製造方法。
(8)
前記機能性材料がコンデンサである、前記(7)に記載の機能性材料の製造方法。
(9)
前記機能性材料が軸受鋼球である、前記(7)に記載の機能性材料の製造方法。
本発明のセラミックスコンポジット膜の形成方法(以下、「本発明の形成方法」ともいう。)によれば、得られるセラミックスコンポジット膜の膜欠陥を効果的に抑制することができる。
また、本発明の機能性材料の製造方法によれば、上記のセラミックスコンポジット膜の形成方法により、所望の被処理対象物表面にセラミックスコンポジット膜を形成することで、高品質の機能性材料を得ることができる。
図1は、本発明の形成方法を実施する装置の一実施形態を示す概略模式図である。 図2は、本発明の形成方法を実施する装置の別の実施形態を示す概略模式図である。 図3は、CeO分散YPSZ膜を被覆させた高炭素クロム軸受鋼球の還元焼成及び酸化焼成後の状態を拡大して示す図面代用写真である。 図4は、粉末YPSZ(型番:TZ-3Y-E、東ソー株式会社製、イットリア部分安定化ジルコニア)と粉末YSZ(型番:TZ-8YS、東ソー株式会社製、イットリア安定化ジルコニア)の表面の走査型電子顕微鏡写真を示す、図面代用写真である。 図5は、CeO分散YPSZ膜を被覆させた高炭素クロム軸受鋼球の酸化焼成後の状態を拡大して示す図面代用写真である。 図6は、CeO分散YPSZ膜を被覆させた高炭素クロム軸受鋼球の酸化焼成後の表面を拡大して示す図面代用写真である。 図7は、CeO分散YPSZ膜を被覆させた高炭素クロム軸受鋼球の酸化焼成後の断面及び表面を拡大して示す図面代用写真である。 図8は、ボールオンディスク法による摩擦摩耗試験の結果を示すグラフである。 図9は、CeO分散YPSZ膜を被覆させた高炭素クロム軸受鋼球の還元焼成又は酸化焼成後の状態を拡大して示す図面代用写真である。 図10は、CeO分散YPSZ膜を被覆させた高炭素クロム軸受鋼球の還元焼成又は酸化焼成後の表面を拡大して示す図面代用写真である。 図11は、CeO分散YPSZ膜を被覆させた高炭素クロム軸受鋼球の還元焼成又は酸化焼成後の表面を拡大して示す図面代用写真である。 図12は、ボールオンディスク法による摩擦摩耗試験の結果を示すグラフである。 図13は、CeO分散YPSZ膜で被覆させたNi合金基板表面の還元焼成後の状態を拡大して示す図面代用写真である。 図14は、BaTi-BaTiOコンポジット薄膜で被覆させたSi基板表面を示す図面代用写真である。 図15は、BaTi-BaTiOコンポジット薄膜で被覆させたSi基板表面を拡大して示す図面代用写真である。 図16は、本発明の形成方法を実施する装置のさらに別の実施形態を示す概略模式図である。 図17は、CeO分散YPSZ膜を被覆させた高炭素クロム軸受鋼球を拡大して示す図面代用写真である。 図18は、CeO分散YPSZ膜を被覆させた高炭素クロム軸受鋼球の酸化焼成後の表面を拡大して示す図面代用写真である。 図19は、ボールオンディスク法による摩擦摩耗試験の結果を示すグラフである。 図20は、BaTi-BaTiOコンポジット薄膜で被覆させたSi基板表面を拡大して示す図面代用写真である。 図21は、BaTi-BaTiOコンポジット薄膜で被覆させたSi基板表面を拡大して示す図面代用写真である。 図22は、Si基板上に被覆したBaTi-BaTiOコンポジット薄膜の比誘電率の温度依存性を示すグラフである。
本発明の形成方法の好ましい実施形態について説明する。なお、本発明は、本発明で規定すること以外は、下記で説明する実施の形態に限定されるものではない。例えば、下記の説明では、本発明の形成方法を実施する装置構成の例を図1、図2及び図16に示しているが、本発明は、これらの図面に示された装置を使用する形態に限定されるものではない。
本発明の形成方法の一実施形態の概略を、図1を参照して説明する。本発明の形成方法を実施するための好ましい装置(電気泳動堆積法を実施する装置)の一例は、液体収容槽10、懸濁液滴下手段11及び直流電源12を備えている。懸濁液滴下手段11は、液体収容槽10の上方に設けられ、セラミックス粒子及び金属アルコキシドが有機溶媒中に分散ないし溶解してなる懸濁液を、液体収容槽10内に滴下する。図1に示すように、上方のゴム栓13及び電極(対電極)14は懸濁液滴下手段11を配置できるようにくり抜かれていることが好ましい。
液体収容槽10の内部にはアルコール15が充填されている。被処理対象物16は電極(作用電極)17の上に設置される。なお、被処理対象物16が電極(作用電極)17自体である場合は、被処理対象物16の設置を要しない。直流電源12によってアルコール15に電圧を印加し、当該アルコール15中に懸濁液滴下手段11より懸濁液18を滴下する。滴下された懸濁液18は、アルコール中を電気泳動する過程で、また堆積する過程で、前記金属アルコキシドの加水分解と重縮合反応を生じ、これにより、前記セラミックス粒子と該セラミックス粒子間を埋める金属酸化物マトリクスとを含むセラミックスコンポジットを形成しながら、被処理対象物16の表面に堆積し、セラミックスコンポジット膜が形成される。
図1の概略模式図では、上方の電極を対電極14(陽極)、下方の電極を作用電極17(陰極)とし、さらに懸濁液滴下手段11を上方に設置しているが、本発明の形成方法を実施するための装置構成は図1のような構成に限られない。例えば、本発明の形成方法の別の実施形態では、図2に示すように、上方の電極を作用電極17、下方の電極を対電極14とし、懸濁液注入手段19を下方に設置することもできる。この場合、懸濁液18は注射器や液送ポンプなどにより懸濁液注入手段19から注入され、細かい粒径のセラミックス粒子のみが電気泳動により上方に移動して堆積する。また、例えば図16に示す装置構成を本発明の形成方法に用いることも好ましい。図16の装置構成では、筒状の電極を対電極14、筒状の電極の内側に配する軸受鋼球を作用電極17とし、懸濁液滴下手段11を上方に設置している。
電気泳動堆積法それ自体は上述の通り公知の技術である。本発明の形成方法において、電気泳動堆積法で印加する電圧、温度等の詳細は後述する。
なお、本明細書における実施形態の説明は一例であり、本発明は、本発明で規定すること以外は、本明細書に記載された実施形態に何ら限定されるものではない。
本発明において、セラミックス粒子は特に限定されず、前記金属アルコキシドを含む有機溶媒中に分散させることができれば、目的に応じて適宜選択することができる。セラミックス粒子自体は古くから知られており、種々の特性を発現する機能性物質としても種々の技術分野で使用されている。一例を挙げれば、コーティング材料、潤滑材料、有色顔料、磁性材料、光学材料、導電材料、誘電体及び圧電材料(圧電セラミックス)等としてセラミックス粒子が使用されている。本発明は、セラミックス粒子としてこれらを広く用いることができる。
上記セラミックス粒子の具体例としては、例えばシリカ、板状アルミナ、繊維状アルミナ、ジルコニア、酸化ジルコニウム(イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、イットリア部分安定化ジルコニア(YPSZ)、カルシア安定化ジルコニア(CSZ)等を含む)、スピネル、タルク、ムライト、コージエライト、炭化ケイ素、窒化ケイ素、サイアロン、ケイ酸ランタン、ヘマタイト、コバルトブルー、コバルトバイオレット、コバルトグリーン、コバルト酸リチウム、マグネタイト、Mn-Znフェライト、Ni-Znフェライト、酸化イットリウム、酸化セリウム(ガドリニアドープセリア(GDC)、ジルコニアドープセリア(ZDC)等を含む)、酸化サマリウム、酸化ランタン、酸化タンタル、酸化テルビウム、酸化ユーロピウム、酸化ネオジム、酸化亜鉛、酸化チタン、フッ化マグネシウム、酸化スズ、アンチモン含有酸化スズ(ATO)、スズ含有酸化インジウム(ITO)、チタン酸バリウム、二チタン酸バリウム、チタン酸鉛(PT)、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、チタン酸ジルコン酸鉛ランタン(PLZT)等が挙げられる。
本発明で用いるセラミックス粒子は、気相法や液相法など、常法により製造することができる。また、市販されているセラミックス粒子を用いてもよい。
本発明ないし本明細書において「セラミックス粒子」とは、セラミックス微粒子やセラミックス超微粒子等の種々の大きさのセラミックス粒子を広く包含する意味である。前記セラミックス粒子(一次粒子)の平均粒径は、10~2000nmであることが好ましく、100~1000nmであることがより好ましく、200~800nmであることがさらに好ましい。前記セラミックス粒子の平均粒径を上記の範囲内とすることで、充填率が高く緻密性の高いセラミックスコンポジット膜を形成することができる。セラミックス粒子の平均粒径は、体積基準のメディアン径である。
本発明に用いる前記セラミックス粒子は、電気泳動堆積法に付す前に、種々の処理に付すことができる。例えば、後述するように、BaTi粒子を予め分極処理を施すことにより、得られる膜を、配向性を有する所望の強誘電体膜とすることが可能になる。
本発明の形成方法において、有機溶媒中の前記金属アルコキシドは、電気泳動の際にアルコール等に含まれる水分による加水分解と、それに続く重縮合反応が進行し、金属酸化物のマトリックス(バインダー)を形成する。加水分解に利用される水分はアルコール中に微量に含まれている水分であってもよく、金属アルコキシドを含む有機溶媒中に含まれる水分であってもよい。金属アルコキシドの加水分解、重縮合反応それ自体は公知の反応である。
前記金属アルコキシドを構成するアルコキシ基は特に限定されず、例えば、炭素数1~10のアルコキシ基とすることができ、炭素数1~8のアルコキシ基であることも好ましく、炭素数1~6のアルコキシ基であることも好ましく、炭素数1~4のアルコキシ基であることも好ましい。アルコキシ基の具体例として、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基等が挙げられる。また、金属アルコキシドが有するアルコキシ基の数(金属原子に直接結合するアルコキシ基の数)は、2~4が好ましく、3又は4がより好ましい。
前記金属アルコキシドは特に限定されず、加水分解と重縮合反応を生じる範囲で、目的に応じて適宜に選択される。一例として、イットリウムアルコキシド(Y(OR))、ジルコニウムアルコキシド(Zr(OR))、チタンアルコキシド(Ti(OR))、バリウムアルコキシド(Ba(OR))、リチウムアルコキシド(Li(OR))、ナトリウムアルコキシド(Na(OR))、マグネシウムアルコキシド(Mg(OR))、アルミニウムアルコキシド(Al(OR))、ケイ素アルコキシド(Si(OR))、カリウムアルコキシド(K(OR))、カルシウムアルコキシド(Ca(OR))、スカンジウムアルコキシド(Sc(OR))、クロムアルコキシド(Cr(OR))、マンガンアルコキシド(Mn(OR))、鉄アルコキシド(Fe(OR))、コバルトアルコキシド(Co(OR))、ニッケルアルコキシド(Ni(OR))、銅アルコキシド(Cu(OR))、亜鉛アルコキシド(Zn(OR))、ガリウムアルコキシド(Ga(OR))、ストロンチウムアルコキシド(Sr(OR))、インジウムアルコキシド(In(OR))、スズアルコキシド(Sn(OR))、ハフニウムアルコキシド(Hf(OR))、鉛アルコキシド(Pb(OR))、ランタンアルコキシド(La(OR))、セリウムアルコキシド(Ce(OR))、ガドリニウムアルコキシド(Gd(OR))等が挙げられる。Rはアルキル基を示す。
前記金属アルコキシドの加水分解と重縮合反応から生じる金属酸化物マトリックスとして、例えばチタン酸バリウム(BaTiO)、二チタン酸バリウム(BaTi)、ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O)、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、イットリア部分安定化ジルコニア(YPSZ)、カルシア安定化ジルコニア(CSZ)、ガドリニアドープセリア(GDC)、ジルコニアドープセリア(ZDC)、ジルコン(ZrSiO)、ハフノン(HfSiO)、ケイ酸ランタン(LaSi)、クロム酸ランタン(LaCrO)、マンガン酸ランタンストロンチウム((La,Sr)MnO))、コバルト酸ランタンストロンチウム((La,Sr)CoO))、鉄コバルト酸ランタンストロンチウム(La,Sr)(Co,Fe)O)、酸化セリウム(CeO)、酸化ニッケル(NiO)、酸化アルミニウム(Al)、酸化チタン(TiO)、酸化亜鉛(ZnO)、スズ含有酸化インジウム(ITO)、スピネル(MgAl、FeAl、MnAl,NiAl、ZnAlなど)等が挙げられる。
本発明の形成方法により形成されるセラミックスコンポジット膜の好適な例として、セラミックス粒子として二チタン酸バリウム(BaTi)粒子を用い、金属アルコキシドとしてチタンアルコキシドとバリウムアルコキシドとを用いた形態が挙げられる。この形態では、電気泳動中にチタンアルコキシドとバリウムアルコキシドが加水分解と重縮合反応を生じ、チタン酸バリウム(BaTiO)のマトリクスが生じる。つまり、BaTi粒子間がBaTiOのマトリクスで埋められたセラミックスコンポジット膜が得られる。
BaTiOは高い誘電率を示す強誘電体であり、特に室温付近で高い誘電率を示すことが知られている。一方で、BaTiOのキュリー温度は約120℃と低い。すなわち強誘電性は約120℃で消失し、それよりも高い温度条件では強誘電体から常誘電体へと変化する。これに対し、BaTiはそのキュリー温度が約475℃と高く、高温条件下でも強誘電性を示すが、室温付近では誘電率が低いことが知られている。
よって、このような異なる誘電性を示すBaTiOマトリックスとBaTi粒子からなるセラミックスコンポジット膜を形成することにより、環境温度によらず、強誘電体として作動するセラミックスコンポジット膜を得ることができる。
上記の形態において、チタン酸バリウムマトリックス形成のためのチタンアルコキシドに対するバリウムアルコキシドの配合量は、炭酸バリウムの析出を抑える観点から、モル比(Ba/Ti)で、1.00以下が好ましい。同様の観点から、当該モル比は、0.90~1.00であることが好ましく、0.95~1.00であることがより好ましい。
上記の形態では、滴下又は注入する懸濁液において、有機溶媒中のチタンアルコキシド及びバリウムアルコキシドの濃度は、0.01~10.0mol/Lであることが好ましく、0.05~5.0mol/Lであることがより好ましく、0.1~1.0mol/Lであることがさらに好ましい。
また、本発明の形成方法により形成されるセラミックスコンポジット膜の別の好適な例として、セラミックス粒子としてイットリア部分安定化ジルコニア(YPSZ)粒子若しくはイットリア安定化ジルコニア(YSZ)粒子、並びに/又は酸化セリウム(CeO)粒子を用い、金属アルコキシドとしてジルコニウムアルコキシドとイットリウムアルコキシドとを用いた形態が挙げられる。この形態では、電気泳動中にジルコニウムアルコキシドとイットリウムアルコキシドが加水分解と重縮合反応を生じ、YPSZのマトリクスが生じる。つまり、YPSZ粒子、YSZ粒子やCeO粒子の間がYPSZマトリクスで埋められたセラミックスコンポジット膜が得られる。このセラミックスコンポジット膜により、例えば、高炭素クロム軸受鋼の表面を成膜することにより、耐摩耗性と低摩擦性に優れたベアリング用ボールないしベアリングを提供することが可能になる。
上記の形態において、イットリウムアルコキシドに対するジルコニウムアルコキシドの配合量は、モル比(Z/Y比)で、99/1~90/10であることが好ましく、97/3~95/5であることがより好ましい。
また上記の形態において、セラミックス粒子としてイットリア安定化ジルコニア(YSZ)粒子、金属アルコキシドとしてジルコニウムアルコキシドとイットリウムアルコキシドを用いる場合、YSZ粒子と金属アルコキシド由来のYPSZの比(体積比)を、前記YSZ粒子:前記YPSZ=6:4~8:2とすることが好ましく、7:3~8:2とすることがより好ましい。
上記の形態では、滴下又は注入する懸濁液において、有機溶媒中のイットリウムアルコキシド及びジルコニウムアルコキシドの濃度は、0.01~10.0mol/Lであることが好ましく、0.1~5.0mol/Lであることがより好ましく、0.5~1.0mol/Lであることがさらに好ましい。
前記「金属アルコキシドを含む有機溶媒」の有機溶媒としては、有機合成用脱水溶媒、例えばメタノール、エタノール、2-メトキシエタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、メチルエチルケトン、アセチルアセトン、アセトン、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサンなどの有機溶媒が挙げられる。上記有機溶媒は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
懸濁液の調製の手順としては、金属アルコキシドを含む有機溶媒中にセラミックス粒子を分散しても良いし、セラミックス粒子を含む有機溶媒中に金属アルコキシドを溶解しても良いし、セラミックス粒子を含む有機溶媒と金属アルコキシドを含む有機溶媒とを混合しても良い。また、懸濁液の調製は、不活性ガス雰囲気下(例えばアルゴン(Ar)雰囲気下)で行うことが好ましい。
前記懸濁液は、金属アルコキシドや有機溶媒以外に、本発明の効果を損なわない範囲で他の成分を含んでいてもよい。このような他の成分としては、例えばポリエチレンイミン、ポリエチレングリコール、ポリカルボン酸化合物などの分散剤や、ポリビニルピロリドン、ポリビニルブチラール、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル等のバインダが挙げられる。ポリエチレングリコールを分散剤に用いてゼータ電位が負になる場合や、ポリカルボン酸化合物などのアニオン性分散剤を用いる場合には、電極に印加する電圧の向きを逆転して、本発明の形成方法を実施することになる。
本発明の形成方法において、前記懸濁液を、電圧を印加したアルコール中に滴下又は注入すること以外は、上述のように、通常の電気泳動堆積法(EPD法)を適用することができる。
電気泳動において、電極間を繋ぐ媒体として用いるアルコール(電圧を印加するアルコール)は特に制限されない。本発明の効果を損なわない範囲で種々のアルコールを用いることができる。なかでも、炭素数が4以下のアルコールであることが好ましく、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール及びその異性体から選ばれる少なくとも1種であることがより好ましく、エタノールであることがさらに好ましい。
前記懸濁液は金属アルコキシドを含有するため、電場による電気泳動堆積の過程で、アルコール中に通常、微量含まれる水分により、前記金属アルコキシドの加水分解が生じ、それに続く重縮合反応が生じて、粒子堆積層形成と同時にゲル化も進行すると考えられる。
アルコールの水分含量は、目的の加水分解反応が進めば、微量でもよく、水を添加して水分量をある程度増やしてもよい。加水分解を促進する観点、及び電気分解による過度な気泡発生や急激な加水分解と縮重合を抑制する観点から、例えば0.001~10質量%とすることもでき、0.002~8.0質量%としてもよく、0.004~6.0質量%としてもよい。
前述したように、本発明の形成方法は、前記懸濁液を印加したアルコール中に滴下又は注入することを特徴とする。懸濁液の滴下量又は注入量を制御することにより、形成されるセラミックスコンポジット膜の膜厚を容易に制御することができる。滴下又は注入方法は特に制限されず、例えば電気泳動槽のゴム栓及び対電極側の基板に穴を空け、そこからピペット等を用いて懸濁液を前記アルコール中に滴下することができる。上方の電極を作用電極、下方の電極を対電極とし、懸濁液注入手段を下方に設置する場合には、下部に設置したゴム栓の穴から、注射器や液送ポンプなどを用いて懸濁液を注入することもできる。
懸濁液の滴下量又は注入量は、懸濁液中のセラミックス粒子及び金属アルコキシドの種類、及び得られるセラミックスコンポジット膜の膜厚に応じて適宜設定することができる。例えば、1回の滴下量(1滴)又は1回の注入量あたり4~100μLとすることができ、4~50μLとしてもよく、4~20μLとしてもよい。
アルコールに印加する電圧は特に制限されず、使用する金属アルコキシド、セラミックス粒子、および目的とする膜構造等に応じて適宜に設定される。
例えば、強誘電体薄膜を作製する目的で、得られるセラミックスコンポジット膜を粒径が数百nm~2μmの粒子が堆積してなるより緻密で薄い膜構造とする観点から、該電圧は好ましくは10V以上であり、より好ましくは20V以上であり、さらに好ましくは30V以上である。懸濁液注入手段を下部に設置する場合には、該電圧は好ましくは100V以上であり、より好ましくは200V以上である。また、緻密なセラミックスコンポジット膜の剥離を抑制する観点から、該電圧を500V以下とすることもできる。
また、耐摩耗性や耐熱性を向上させる目的で、得られるセラミックスコンポジット膜を厚くする観点からは、該電圧を100V以上とすることもでき、200V以上とすることもできる。
さらに、印加する電圧は成膜過程において一定である必要はなく、成膜過程で膜が厚くなるにつれて、印加電圧を段階的あるいは連続的に上昇させることが好ましい。この際、電圧を500V以上にまで上昇させることもできる。
また、電圧を印加する時間は特に制限されず、印加する電圧、滴下する懸濁液の量、所望の膜厚により適宜調整することができる。
本発明の形成方法において、前記被処理対象物も特に制限されない。種々の材料からなる被処理対象物を適用することができ、その形状も目的に応じて自由に設定される。被処理対象物の構成材料の一例として、純金属、合金などの金属種、シリコンウェハ、酸化物、炭化物、窒化物等が挙げられる。
本発明の形成方法において、被処理対象物は予めその表面に、アルミニウム、インジウム、スズ、鉛などの低融点金属を真空蒸着法などにより蒸着させることもできる。上記低融点金属としては、アルミニウムがより好ましい。
さらに、例えば被処理対象物がSiで構成されているとき、表面に、Ti及び/又はPtを真空蒸着法などにより蒸着させることもできる。
上記のように被処理対象物の表面に蒸着処理を施すことにより、被処理対象物とセラミックスコンポジット膜との密着性をより高めることができ、セラミックスコンポジット膜の剥離をより抑制できる場合がある。また、蒸着処理を施すことにより、セラミックスコンポジット膜を誘電体や半導体として用いる際の下部電極を構成することもできる。
なお、上記のように被処理対象物の表面に金属の蒸着処理を施した後に、さらにメカニカルコーティングを行うことで、被処理対象物とセラミックスコンポジット膜の密着性をより高めることができる。前記「メカニカルコーティング」とは、例えば被処理対象物(軸受鋼球)をナノCeO粉末とYPSZ粉末とともに、遊星型ボールミルによる処理に付すことにより、自転運動と公転運動による強い機械的エネルギーで被処理対象物にナノCeO粉末とYPSZ粉末とを固着させることを意味する。
本発明の形成方法は、セラミックスコンポジット膜を被処理対象物の表面に堆積させた後に焼成する焼成工程を有することが好ましい。前記焼成工程において、焼成温度は形成されるセラミックスコンポジット膜や被処理対象物の種類に応じて適宜設定することができる。例えば、500~1500℃としてもよい。また、500~800℃としてもよく、700~1100℃とすることもでき、1100~1500℃とすることもできる。焼成時間も適宜設定することができ、通常は0.5~5時間である。
また、前記焼成工程(酸化焼成工程)の前に、還元焼成工程を有していても良い。当該還元焼成工程は、アルゴン(Ar)雰囲気下で熱処理を施すことが好ましい。例えば、Ar-5%H雰囲気下で熱処理を施すことも好ましい。還元焼成条件としては特に限定されず、前記焼成条件を適用できる他、通常の還元焼成条件を適宜選択することができる。
前記セラミックスコンポジット膜で被処理対象物の表面を被覆することにより、種々の機能性材料を得ることができる。このような機能性材料としては、ベアリングの軸受鋼球やタービンブレードなどの構造材料、コンデンサやインクジェット式記録ヘッド用圧電素子などの誘電体材料、燃料電池などに用いる導電性材料や絶縁材料、液晶ディスプレイや色素増感太陽電池などに用いる透明電極材料、光学材料、磁性体材料、光触媒材料、生体材料、触媒材料、発光体材料、熱電材料等が挙げられる。
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
[実施例1]
高炭素クロム軸受鋼球(ベアリングボール、型番:SUJ2 3/16 G=28、株式会社天辻鋼球製作所製、直径:4.76mm;以下単に「軸受鋼球」ともいう。)の表面に、真空蒸着法を用いて厚さ約1μmのAl膜を被覆した。
粉末YPSZ(型番:TZ-3Y-E、東ソー株式会社製、イットリア部分安定化ジルコニア)を1.14g、イットリウムアルコキシド(Y(OC)を0.06g、ジルコニウムアルコキシド(Zr(OCを1.44g、ナノCeO粒子を0.075g用意し、ポリ酢酸ビニル(PVAc)0.30gを含有する2-メトキシエタノール10mLに、上記各材料を加えて1時間撹拌し、さらに撹拌溶液にポリエチレンイミンを0.60g(0.49g/g-粒子(粉末YPSZ及びナノCeO粒子))となるように加えて90分間撹拌した。さらに常温で18時間静置することで、CeO分散YPSZ前駆体溶液(懸濁液)を得た。
図1に示す装置を組み立て、エタノール(水分含量:0.2質量%以下)20mLを縦置き筒形容器(特注品、有限会社板垣製作所製)に入れ、外径20mm、内径7mmの環状のPt板(外径20mmの円盤状Pt板の中心に、直径7mmの穴が開いている板)が上部の陽極(対電極)、直径20mmの合金基板が下部の陰極(作用電極)となるように電極を取り付けた。また陰極の電極上に、上記によりAl膜を被覆した高炭素クロム軸受鋼球を設置した。電極間に100Vの直流電圧を印加した後、前記CeO分散YPSZ前駆体溶液を、Pt板の穴からエタノール中に30滴(約11μL/滴)滴下し、滴下後さらに30分間電圧を印加した。こうして、電気泳動により、高炭素クロム軸受鋼球のAl膜の表面をCeO分散YPSZ膜で被覆した。CeO分散YPSZ膜の膜厚は10~80μmの範囲に収まっていた。
こうして、本発明の形成方法によりセラミックスコンポジット膜を形成した軸受鋼球を得た。
[比較例1]
対照実験として、下記のようにして通常のEPD法(金属アルコキシドを用いない方法)により、CeO粒子とYPSZ粒子とにより被覆した高炭素クロム軸受鋼球を調製した。
上記縦置き筒形容器の上部の陽極が外径20mmの円盤状Pt板、下部の陰極が直径20mmの合金基板となるように電極を取り付けた。陰極の電極上に、実施例1と同様の方法によりAl膜を被覆した高炭素クロム軸受鋼球を設置し、内部にエタノール(水分含量:0.2質量%以下)20mLと、粉末YPSZ、ナノCeO、及びPEIの懸濁液(粉末YPSZ 46.0mg、ナノCeO 2.2mg、PEI 2.2mg含有)を加えた。電極間に100Vの直流電圧を印加して、電気泳動により高炭素クロム軸受鋼球のAl膜の表面を、CeO粒子とYPSZ粒子で構成された膜で被覆した。
こうして、金属酸化物マトリクスを有しないセラミックスコンポジット膜を形成した軸受鋼球を得た。
[比較例2]
別の対照実験として、下記のようにして懸濁ゾルEPD法(懸濁液を滴下せずに、予めエタノール中に懸濁液を混合する方法)により、CeO分散YPSZ膜を被覆した高炭素クロム軸受鋼球を調製した。上記縦置き筒形容器の上部の陽極が外径20mmの円盤状Pt板、下部の陰極が直径20mmの合金基板となるように電極を取り付けた。陰極の電極上に、上記によりAl膜を被覆した高炭素クロム軸受鋼球を配し、内部にエタノール(水分含量:0.2質量%以下)20mLと、前記CeO分散YPSZ前駆体溶液を0.33mL加えた。電極間に100Vの直流電圧を印加して、電気泳動により高炭素クロム軸受鋼球のAl膜の表面を、CeO分散YPSZ膜で被覆した。
こうして、セラミックスコンポジット膜を形成した軸受鋼球を得た。
上記実施例1、比較例1及び2で得た各軸受鋼球を、空気中で24時間以上静置して乾燥させ、さらにAr-5%H雰囲気下において、500℃で1時間還元焼成した。次に、前記各軸受鋼球をさらに空気中において700℃で1時間焼成した。
(表面観察)
焼成後の実施例1、比較例1及び2で得られた各軸受鋼球の外観を、一眼レフカメラ(型番:D5600(本体)、AF-S Micro NIKKOR 40mm 1:2.8G(レンズ)、株式会社ニコン社製)の接写モードで撮影した。撮影画像を下記図3に示す。
図3より明らかなように、通常のEPD法や懸濁ゾルEPD法によって表面被覆した高炭素クロム軸受鋼球は、膜の剥離が観察された。これに対し、本発明の形成方法(ゾル滴下EPD法)により表面被覆した高炭素クロム軸受鋼球は、膜の剥離がほとんど観察されず、膜の均一性が格段に高められていることがわかる。
[実施例2]
高炭素クロム軸受鋼球(ベアリングボール、型番:SUJ2 3/16 G=28、株式会社天辻鋼球製作所製、直径:4.76mm)の表面に、真空蒸着法を用いて厚さ約1μmのAl膜を被覆した。
Ar雰囲気下において、粉末YSZ(型番:TZ-8YS、東ソー株式会社製、イットリア部分安定化ジルコニア)1.14gと、ナノCeO粒子0.075gとを、ポリエチレンイミン(PEI)を溶解した2-メトキシエタノール5mlに加えて1.5時間攪拌した。得られた分散液に対し、イットリウムアルコキシド(Y(OC)と、ジルコニウムアルコキシド(Zr(OC)と、ポリ酢酸ビニル(PVAc)0.15gとを溶解した2-メトキシエタノール溶液5mlを混合して、さらに1時間攪拌した。得られた混合液をさらに常温で18時間静置することにより、CeO分散YPSZ前駆体溶液(懸濁液)を得た。なお上記の調製において、イットリウムアルコキシドとジルコニウムアルコキシドの配合量は、[粉末YSZ]/[金属アルコキシド由来のYPSZ(便宜上、ゾルとも称す。)](体積比)が、それぞれ6.1/3.9、7.1/2.9、8.0/2.0となるように配合した。以下、それぞれ「6/4」、「7/3」、「8/2」と称す。またナノCeO粒子の配合量は、CeO分散YPSZ前駆体溶液中の濃度が1.16 vol%となる量とした。また、PEI添加量は、上記各比率(6/4、7/3、8/2)に対して、それぞれ0.57g/g-粒子、0.49g/g-粒子、0.44g/g-粒子(粉末YSZ及びナノCeO粒子)とした。
なお、実施例1で用いた粉末YPSZ(型番:TZ-3Y-E、東ソー株式会社製、イットリア部分安定化ジルコニア)と、本実施例で用いた粉末YSZを走査型電子顕微鏡(型番:SU-8020、株式会社日立ハイテク製)を用いて観察した。走査型電子顕微鏡写真を図4に示す。実施例1で用いた粉末YPSZは100nm程度の細かい一次粒径を有しているため、図4の左図に示すように球状の大きな二次粒子(平均粒径37.6μm)を形成していた。これに対し本実施例では、軸受鋼球に均一な厚さのセラミックスコーティングを行う観点から、一次粒子の凝集が少なく、細かい二次粒径(平均粒径0.25μm)を有する粉末YSZを用いた。
実施例1と同様に、エタノールを縦置き筒形容器(型番:特注品、有限会社板垣製作所製)に入れ、外径20mm、内径7mmの環状のPt板(外径20mmの円盤状Pt板の中心に、直径7mmの穴が開いている板)が上部の陽極(対電極)、直径20mmの合金基板が下部の陰極(作用電極)となるように電極を取り付けた。また陰極の電極上に、上記によりAl膜を被覆した高炭素クロム軸受鋼球を設置した。電極間に200Vの直流電圧を印加した後、前記CeO分散YPSZ前駆体溶液を、Pt板の穴からエタノール中に30滴(約11μL/滴)滴下し、滴下後さらに30分間電圧を印加した。こうして、電気泳動により、高炭素クロム軸受鋼球のAl膜の表面をCeO分散YPSZ膜で被覆した。
上記によって得た軸受鋼球を空気中で30分間静置して乾燥させ、空気中において500℃で1時間酸化焼成した。
(表面観察)
上記により得られた焼成後の軸受鋼球について、外観と表面をマイクロスコープ(型番:RH-2000(本体)、MZB-2500REZ(レンズ)、株式会社ハイロックス社製)により撮影して観察を行った。結果を図5及び図6に示す。
図5より明らかなように、前駆体溶液の固体粒子濃度、すなわち分散させる粉末YSZ粒子と金属アルコキシド由来のYPSZの割合(粒子/ゾル比)を変えて、本発明のゾル滴下EPD法による成膜を行った場合、いずれの割合で製造した軸受鋼球であっても膜の剥離が少なく、均一性の高い膜が得られることが示された。また、図6から明らかなように、表面の亀裂の発生も抑えられていた。
特に、図5(右)より、粒子/ゾル=8/2の固体粒子濃度を高くした軸受鋼球では、セラミックス被覆膜の剥離が極めて少なかった。なお、最密充填させた球体のYSZの隙間をゾル-ゲル法による金属アルコキシド由来のYPSZで埋めることを考えると、幾何学的に粒子/ゾル比は74/26になる。そのため、上記のとおり粒子/ゾル=8/2とすることにより、成膜性に優れた軸受鋼球が得られたと考えられた。
(走査型電子顕微鏡観察)
さらに上記により得られた焼成後の軸受鋼球について、断面写真と高倍率走査型電子顕微鏡写真(SEM像)を図7に示す。図7より明らかなように、固体粒子濃度が最も高い、粒子/ゾル=8/2の条件で成膜した膜で最も厚い膜が形成された。また、いずれの膜においても、微細粒子が堆積した気孔の多い微細構造を有していることが分かった。
(ボールオンディスク摩擦摩耗試験)
さらに上記により得られた焼成後の軸受鋼球について、摩擦摩耗特性を評価するためにボールオンディスク法によるステンレス鋼(SUS304)板に対する摩擦摩耗試験を行った。これらの軸受鋼球のボールオンディスク法による摩擦摩耗試験結果を図8に示す。いずれも摩擦係数が抑えられ、良好な結果であった。また、滴下した前駆体溶液の固体粒子濃度が高くなるにつれて、摩擦係数が上昇した距離(摩耗距離)は、0.00m(6/4)、0.27m(7/3)、2.31m(8/2)と大きくなった。なお、粒子/ゾル=8/2の条件で成膜した膜では、2mまでのスライド距離では摩擦係数の上昇は見られず、2.31mのスライド距離で摩擦係数の上昇が起こった。
[実施例3]
実施例2と同様の方法によって電気泳動を行い、高炭素クロム軸受鋼球のAl膜の表面をCeO分散YPSZ膜で被覆した軸受鋼球を得た。得られた軸受鋼球を空気中で30分間静置して乾燥させ、その後還元焼成(Ar-5%H雰囲気下において500℃で1時間焼成)又は酸化焼成(空気中において500℃で1時間焼成)を行った。
(表面観察)
焼成後の各軸受鋼球の外観を、実施例2と同様にマイクロスコープを用いて観察した。結果を図9に示す。還元焼成で得られたナノ粒子分散セラミックス膜は灰色になっていた。一方、空気中での酸化焼成で得られたナノ粒子分散セラミックス膜は白色であった。いずれの焼成雰囲気においても、ゾル滴下EPDを行った膜では剥離がほとんど見られなかった。ゾル滴下EPD法で膜の密着性を高めるためには、200Vのような高電圧を印加することが有効であることが示された。
また、焼成後の各軸受鋼球の表面を、実施例2と同様にマイクロスコープを用いて観察した。結果を図10に示す。図10の結果はいずれも良好なものであるが、還元焼成によって得られた膜に比べて、酸化焼成によって得られた膜の方が亀裂が少ないことが示された。
(走査型電子顕微鏡観察)
さらに、焼成後の各軸受鋼球の表面を、実施例2と同様に走査型電子顕微鏡を用いて高倍率SEM像を取得した。得られた写真を図11に示す。図11より、いずれの試料においても、焼結の初期段階の状態であり、気孔を多く有するナノ~サブミクロンサイズの粒子堆積膜が形成されていることが分かった。これらの粒子間に存在する気孔は、マイクロクラックと同様に、亀裂伝播抑制に有効に働くと考えられる。
(ボールオンディスク摩擦摩耗試験)
さらに、実施例2と同様にして、焼成後の各軸受鋼球について摩耗摩擦試験を行った。結果を図12に示す。いずれの試料においても、初期の摩擦係数は0.5より低く、良好な結果であった。なお、印加電圧200V、酸化焼成の条件で作製したセラミックスコート軸受鋼球は、図12に示した2mまでのスライド距離では摩擦係数の上昇は見られず、2.31mのスライド距離で摩擦係数の上昇が起こった。
[実施例4]
Ni合金(インコネル601、厚さ0.2mm、株式会社ニラコ製)を縦10mm×横10mmに切断し、表面を研磨後、真空蒸着法を用いて厚さ約1μmのAl膜を被覆させ、基板として用いた。また対照サンプルとしては、Al膜を蒸着させていないNi合金基板を用いた。
Ar雰囲気下において、粉末YPSZ(型番:TZ-3Y-E、東ソー株式会社製、イットリア部分安定化ジルコニア)1.14gと、ナノCeO粒子0.075gとを、ポリエチレンイミン(PEI)を0.6g溶解した2-メトキシエタノール5mlに加えて1.5時間攪拌した。得られた分散液に対し、イットリウムアルコキシド(Y(OC)0.06gと、ジルコニウムアルコキシド(Zr(OC)1.44gと、ポリ酢酸ビニル(PVAc)0.3gとを溶解した2-メトキシエタノール溶液5mlを混合して、さらに1時間攪拌した。得られた混合液をさらに常温で18時間静置することにより、CeO分散YPSZ前駆体溶液(懸濁液)を得た。
エタノール(水分含量:0.2質量%以下)20mLを縦置き筒形容器(型番:特注品、有限会社板垣製作所製)に入れ、外径20mm、内径7mmの環状のPt板(外径20mmの円盤状Pt板の中心に、直径7mmの穴が開いている板)が上部の陽極、上記の10mm角のNi合金基板が下部の陰極となるように電極を取り付けた。電極間に100Vの直流電圧を印加した後、前記CeO分散YPSZ前駆体溶液を、Pt板の穴からエタノール中に20滴、40滴、60滴と滴下した。こうして、電気泳動により、Ni合金基板上に膜を堆積させた。膜を堆積させたNi合金基板は、Ar-5%H雰囲気下において、500℃で1時間焼成した。次に、それぞれの試料をさらに空気中において700℃で1時間焼成した。
(走査型電子顕微鏡観察)
焼成後、室温で静置させたそれぞれの試料について走査型顕微鏡(型番:SU-8020、株式会社日立ハイテク製)による表面観察を行った。また、それぞれの試料の断面を同様に走査型顕微鏡で観察し、CeO分散YPSZ膜の膜厚を測定した。
図13にAlを蒸着していないNi合金基板表面(図13左、上段:20滴、中段:40滴、下段:60滴)と、Alを蒸着させたNi合金基板表面(図13右、上段:20滴、中段:40滴、下段:60滴)に被膜したCeO分散YPSZ膜の状態を示す。図13より、Alを蒸着していないNi合金基板に比べて、Alを蒸着させたNi合金基板の方が、CeO分散YPSZ膜が全体を均一に覆っており、膜の剥離が抑制されていることが明らかとなった。
また、CeO分散YPSZ前駆体溶液の滴下量を増やすにつれて、基板表面全体をCeO分散YPSZ膜が覆っていくことが示された。特に、前駆体溶液の滴下量が40滴と60滴で、基板表面全体を比較的均一かつ厚い膜で被膜することができた。Al蒸着を行ったNi合金基板の空気中焼成後の断面SEM像から、CeO分散YPSZ膜の厚さは、CeO分散YPSZ前駆体溶液の滴下量20滴で6μm、40滴で13μm、60滴で18μmであることがわかった。すなわち、CeO分散YPSZ前駆体溶液の滴下量を増やすことで、堆積する膜厚を増加させることができ、滴下量に応じて膜厚を自在に変化させられることが示された。
[実施例5]
チタンイソブトキシド(Ti[OCHCH(CH)を0.68g、バリウムエトキシド(Ba(OC)の10w/v%エタノール溶液を4.57mL、超脱水エタノール(水分含量:0.001質量%以下)を5.8mL、アセチルアセトンを0.4mL、ポリエチレンイミンを0.4g混合し、BaTiO前駆体溶液を調製した。なお、上記の操作はアルゴン(Ar)雰囲気下で行った。
炭酸バリウム(BaCO)と酸化チタン(TiO)(ルチル型)を、BaとTiのモル比が1:2となるように混合し、タブレット上に形成した後に焼成(昇温1150℃(400℃/h)、3時間温度保持、400℃/hで室温まで冷却)し、再度棒状に成形して再び同じ条件で焼成した。焼成した棒状サンプルを電気炉内に縦に設置し、棒状サンプルの下方から徐々に融解し、融液を水中に落下させて急冷凝固させ、得られた固体をボールミルを用いて回転数:600rpm、時間:1時間の条件で粉砕し、BaTi粉末を得た。得られた粉砕サンプルを、Ti板上に0.15mm厚となるように均一に敷き、電圧:100V/0.15mm、時間:10秒間、回数:2回の条件で分極処理を行った。
得られた分極処理を施したBaTi粉末を、BaTiとBaTiOのモル比が8:1になるようにBaTiO前駆体溶液中に加え、BaTi粒子を懸濁させたBaTiO前駆体溶液(懸濁液、以下、「BT2-BT前駆体溶液」ともいう。)を作製した。得られたBT2-BT前駆体溶液を氷浴中で30分間撹拌し、その後24時間室温中で静置した。なお、上記の操作はアルゴン(Ar)雰囲気下で行った。
エタノール(水分含量:0.2質量%以下)を縦置き筒形容器(型番:特注品、有限会社板垣製作所製)20mLに入れ、外径20mm、内径7mmの環状のPt板(外径20mmの円盤状Pt板の中心に、直径7mmの穴が開いている板)が上部の陽極、TiとPtを蒸着させた10mm角のSi基板(以下、「Pt/Ti/SiO/Si基板」ともいう。ここで、SiOは自然酸化膜である。)が下部の陰極となるように電極を取り付けた。電極間に直流電圧を印加した後、上記静置後のBT2-BT前駆体溶液をエタノール中に滴下(約10μL/滴)して、電気泳動によりSi基板上に薄膜を堆積させた。なお、薄膜は、印加する電圧を0、30、50、70Vと変えて4種類の試料を作製した。その後、電気炉を用いてこれらの試料を700℃で1時間焼成した。焼成後、4つの試料に対して目視による表面観察を行い、また0、30Vで作製した試料については、さらに走査型顕微鏡(SEM)による表面観察を行った。
(表面観察)
図14より明らかなように、サンプルを焼成することで、印加0V(電気泳動を行わなかった)で被膜させた場合、BaTi-BaTiOコンポジット薄膜(以下、「BT2-BTコンポジット薄膜」ともいう。)の剥離が観察された。
これに対し、印加する電圧を30、50、70Vとして電気泳動によりBT2-BTコンポジット薄膜を形成させたサンプルでは、焼成によってもBT2-BTコンポジット薄膜の剥離が格段に抑制されていた。また、焼成後の膜厚は、30Vでは0.18mm、50Vでは0.13mm、70Vでは0.09mmであり、電圧を上昇させることでより薄い膜を形成できることが明らかとなった。
(走査型電子顕微鏡観察)
さらに、前記0Vでのサンプルと、30Vでのサンプルの表面を走査型顕微鏡によって観察した画像写真を図15に示す。図15より印加電圧を0Vで堆積させた膜には、多くの空隙が見られ、粒子が堆積したような多孔質膜となっていることがわかった。これは、堆積過程において、加水分解と重縮合によるゲル化が進行したためであると考えられた。
これに対し、電圧を印加して電気泳動によりBT2-BTコンポジット薄膜を堆積させると、膜の堆積量が増え、亀裂の少ない膜が得られることが明らかとなった。
[実施例6]
高炭素クロム軸受鋼球(ベアリングボール、型番:SUJ2 3/16 G=28、株式会社天辻鋼球製作所製、直径:4.76mm)の表面に、真空蒸着法を用いて厚さ約1μmのAl膜を被覆した。
Ar雰囲気下において、粉末YPSZ(型番:TZ-3Y-E、東ソー株式会社製、イットリア部分安定化ジルコニア)1.14gと、ナノCeO粒子0.075gとを、ポリエチレンイミン(PEI)を0.6g溶解した2-メトキシエタノール5mlに加えて1.5時間攪拌した。得られた分散液に対し、イットリウムアルコキシド(Y(OC)0.06gと、ジルコニウムアルコキシド(Zr(OC)1.44gと、ポリ酢酸ビニル(PVAc)0.3gとを溶解した2-メトキシエタノール溶液5mlを混合して、さらに1時間攪拌した。得られた混合液をさらに常温で18時間静置することにより、CeO分散YPSZ前駆体溶液(懸濁液)を得た。
図16に示す装置を組み立て、エタノール(水分含量:0.2質量%以下)25mLを縦置き筒型容器(特注品、有限会社板垣製作所製)に入れ、直径15mm×長さ50mmの円筒状の白金板を陽極(対電極)、前記筒型容器の中心には前記Al膜を被覆した高炭素クロム軸受鋼球を陰極(作用電極)として設置した。
前記CeO分散YPSZ前駆体溶液(懸濁液)を、エタノールで満たした装置内に12滴(約11μL/滴)滴下し、200Vの印加電圧で30分間電気泳動堆積を行うことにより、高炭素クロム軸受鋼球のAl膜の表面をCeO分散YPSZ膜で被覆した。前記懸濁液を滴下して得られた軸受鋼球を、空気中で24時間乾燥させ、試料(A)を得た。また、得られた軸受鋼球をエタノール蒸気で満たしたシャーレ中で24時間乾燥させ、試料(B)を得た。
また、前記懸濁液を、エタノールで満たした装置内に6滴(約11μL/滴)滴下し、200Vの印加電圧で30分間電気泳動堆積を行い得られた軸受鋼球を、空気中で24時間乾燥させた。この電気泳動堆積と乾燥処理をもう一度繰り返して、試料(C)を得た。
さらに、前記懸濁液を、エタノールで満たした装置内に6滴(約11μL/滴)滴下し、200Vの印加電圧で30分間電気泳動堆積を行い得られた軸受鋼球を、エタノール蒸気で満たしたシャーレ中で24時間乾燥させた。この電気泳動堆積と乾燥処理をもう一度繰り返して、試料(D)を得た。
(表面観察)
上記により得られた試料(A)~(D)の各軸受鋼球について、外観をマイクロスコープ(型番:RH-2000(本体)、MZB-2500REZ(レンズ)、株式会社ハイロックス社製)により撮影して観察した。結果を図17に示す。いずれの試料においても、高炭素クロム軸受鋼球のAl膜の表面に、CeO分散YPSZ膜がおよそ均一に形成されていた。また、空気中で乾燥させた試料(試料(A))に比べて、エタノール蒸気中で乾燥させた試料(試料(B))の方が、CeO分散YPSZ膜の剥離がより抑制されていることが示された。また、空気中で乾燥させた場合でも、前記懸濁液の滴下と乾燥を2回行うことにより、CeO分散YPSZ膜の剥離が抑えられることが示された(試料(A)と(C)との比較)。
[実施例7]
高炭素クロム軸受鋼球(ベアリングボール、型番:SUJ2 3/16 G=28、株式会社天辻鋼球製作所製、直径:4.76mm)の表面に、真空蒸着法を用いて厚さ約1μmのAl膜を被覆した。
Ar雰囲気下において、粉末YPSZ(型番:TZ-3Y-E、東ソー株式会社製、イットリア部分安定化ジルコニア)1.14gと、ナノCeO粒子0.075gとを、ポリエチレンイミン(PEI)を0.6g溶解した2-メトキシエタノール5mlに加えて1.5時間攪拌した。さらに、得られた分散液に対し、イットリウムアルコキシド(Y(OC)0.06gと、ジルコニウムアルコキシド(Zr(OC)1.44gと、ポリ酢酸ビニル(PVAc)0.3gとを溶解した2-メトキシエタノール溶液5mlを混合して、さらに1時間攪拌した。得られた混合液をさらに常温で18時間静置することにより、CeO分散YPSZ前駆体溶液(懸濁液)を得た。
図2に示す装置を組み立て、エタノール(水分量:0.2質量%以下)20mLを縦置き筒形容器(特注品、有限会社板垣製作所製)に入れ、外径20mm、内径7mmの環状のPt板(外形20mmの円盤状Pt板の中心に、直径7mmの穴が開いている板)が下部の陽極(対電極)、直径20mmの合金基盤が上部の陰極(作用電極)となるように電極を取り付けた。また、陰極の電極上に、上記によりAl膜を蒸着させた高炭素クロム軸受鋼球を設置し電気泳動堆積を行った。印加条件は、
条件A:200Vの一定の電圧で30分間印加、
条件B:200Vを5分間印加した後、急激に500Vまで昇圧して25分間印加、
条件C:200Vから7.5分毎に100Vずつ、段階的に500Vまで昇圧し、計30分間印加、
とした。
上記によりCeO分散YPSZ膜を形成させた各軸受鋼球を、空気中で1日静置して乾燥させ、さらに空気中において500℃で1時間酸化焼成した。
(走査型電子顕微鏡観察)
上記焼成後の軸受鋼球の膜表面における、高倍率走査型電子顕微鏡写真(SEM像)を図18に示す。いずれの試料でもCeO分散YPSZ膜がおよそ均一に形成されていた。各試料の違いをみてみると、条件Cで得られた試料が、最も成膜状態がよかった。
(ボールオンディスク摩擦摩耗試験)
上記により得られた焼成後の軸受鋼球について、ボールオンディスク法によるステンレス鋼(SUS304)板に対する摩擦摩耗試験を行った。これらの軸受鋼球のボールオンディスク法による摩擦摩耗試験結果を図19に示す。いずれの軸受鋼球でも摩擦係数が抑えられ、良好な結果であった。特に、条件Cにより得られた軸受鋼球が、低い摩擦係数を最も長く保つことができた。
[実施例8]
チタンイソブトキシド(Ti[OCHCH(CH)を0.68g、バリウムエトキシド(Ba(OC)の10w/v%エタノール溶液を4.57mL、超脱水エタノール(水分含量:0.001質量%以下)を5.8mL、アセチルアセトンを0.4mL、ポリエチレンイミンを0.4g混合し、BaTiO前駆体溶液を調整した。なお、上記の操作はアルゴン(Ar)雰囲気下で行った。
炭酸バリウム(BaCO)と酸化チタン(TiO)(ルチル型)をBaとTiのモル比が1:2となるように混合し、タブレット上に形成した後に焼成(昇温1150℃(400℃/h)、3時間温度保持、400℃/hで室温まで冷却)し、再度棒状に成形して再び同じ条件で焼成した。焼成した棒状サンプルを1350℃に設定した電気炉内に縦に設置し、棒状サンプルの下方から徐々に溶解し、溶液を水中に落下させて急冷凝固させ、得られた固体を、ボールミルを用いて回転数:600rpm、時間:1時間の条件で粉砕した。さらに、超脱水エタノール2.9Lに対してポリエチレンイミン0.173gを溶解した溶液を用いて分級を30秒間行った。その後、1000℃で1時間焼成し、溶媒と有機物を分離させた粒径の小さいBaTi粉末を得た。
焼成後のBaTi粉末を、Ti板上に0.15mm厚となるように均一に敷き、電圧:200V/0.1mm、時間:5秒間、回数:6回の条件で分極処理を行った。その後、分極処理後のBaTi粉末を、BaTiとBaTiOのモル比が8:1となるようにBaTiO前駆体溶液中に加え、BaTi粒子を懸濁させたBaTiO前駆体溶液(懸濁液、以下、「BT2-BT前駆体溶液」ともいう。)を調製した。得られたBT2-BT前駆体溶液を氷冷中で30分間撹拌し、その後24時間室温中で静置した。なお、上記の操作はアルゴン(Ar)雰囲気下で行った。
図2に示す装置を組み立て、エタノール(水分含量:0.2質量%以下)を縦置き筒形容器(型番:特注品、有限会社板垣製作所製)20mLに入れ、外形20mm、内径7mmの環状のPt板(外径20mmの円盤状Pt板の中心に、直径7mmの穴の開いている板)が下部の陽極、Si基板(以下、「Pt/Ti/SiO/Si基板」ともいう。ここで、SiOは自然酸化膜である。)が上部の陰極となるように電極を取り付けた。
上記装置の電極間に200Vの直流電圧を印加した後、上記静置後のBT2-BT前駆体溶液をエタノール中に注入して、電気泳動によりSi基板上にBT2-BTコンポジット薄膜を堆積させた。なお、図2に示す上記装置による電気泳動堆積法(以下、注入法とも称す。)では、注射器により前記前駆体溶液を1mL注入後30分間電場中で静置した。薄膜を堆積した各Si基板は、1100℃でそれぞれ1時間焼成した。
(表面観察)
前記注入法により得られた焼成後のSi基板について、表面をマイクロスコープ(型番:RH-2000(本体)、MZB-2500REZ(レンズ)、株式会社ハイロックス社製)により撮影して観察を行った。結果を図20に示す。前記注入法により、Si基板上に表面の粒子がより均一であり、基板の露出のない緻密なBT2-BTコンポジット薄膜が得られた。
また、前記注入法により得られた焼成後のSi基板について、表面を走査型電子顕微鏡により撮影して観察を行った。結果を図21に示す。前記注入法により、Si基板上に粒径が数百nm~2μmの小さな丸い粒子が堆積しており、隙間が無く、緻密な微細構造を有するBT2-BTコンポジット薄膜が得られた。
(比誘電率の温度依存性)
前記注入法により得られた焼成後のSi基板について、BT2-BTコンポジット薄膜の比誘電率の温度依存性を測定した。結果を図22に示す。得られたBT2-BTコンポジット薄膜は480℃付近に比誘電率のピークを示した。
なお本願発明は、公益財団法人JKAによる2021年度 機械振興補助事業(補助事業名「軸受鋼球へのナノ粒子分散セラミックコーティングによる摩擦低減補助事業」(番号:214))の助成を受けて行われた。
10 液体収容槽
11 懸濁液滴下手段
12 直流電源
13 ゴム栓
14 電極(対電極)
15 アルコール
16 被処理対象物
17 電極(作用電極)
18 懸濁液
19 懸濁液注入手段
20 軸受鋼球

Claims (9)

  1. 電気泳動堆積法によるセラミックスコンポジット膜の形成方法であって、
    金属アルコキシドを含む有機溶媒中にセラミックス粒子を分散してなる懸濁液を、電圧を印加したアルコール中に滴下又は注入し、前記の電圧を印加したアルコール中で前記懸濁液が電気泳動と堆積をする過程において、前記金属アルコキシドの加水分解と重縮合反応を生じ、これにより、前記セラミックス粒子と該セラミックス粒子間を埋める金属酸化物マトリクスとを含むセラミックスコンポジットを、前記の電圧を印加したアルコール中に配した被処理対象物表面に堆積させることを含む、セラミックスコンポジット膜の形成方法。
  2. 前記の表面にセラミックスコンポジットが堆積した被処理対象物を焼成することを含む、請求項1に記載のセラミックスコンポジット膜の形成方法。
  3. 前記焼成の温度が500~1500℃である、請求項2に記載のセラミックスコンポジット膜の形成方法。
  4. 前記アルコールが、炭素数が4以下のアルコールである、請求項1に記載のセラミックスコンポジット膜の形成方法。
  5. 前記セラミックス粒子が二チタン酸バリウム粒子を含み、前記金属アルコキシドがチタンアルコキシド及びバリウムアルコキシドを含む、請求項1に記載のセラミックスコンポジット膜の形成方法。
  6. 前記セラミックス粒子が酸化ジルコニウム粒子及び/又は酸化セリウム粒子を含み、前記金属アルコキシドがジルコニウムアルコキシド及びイットリウムアルコキシドを含む、請求項1に記載のセラミックスコンポジット膜の形成方法。
  7. 請求項1~6のいずれか1項に記載のセラミックスコンポジット膜の形成方法により被処理対象物表面にセラミックスコンポジット膜を形成することを含む、機能性材料の製造方法。
  8. 前記機能性材料がコンデンサである、請求項7に記載の機能性材料の製造方法。
  9. 前記機能性材料が軸受鋼球である、請求項7に記載の機能性材料の製造方法。
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