JP2023095112A - 切削工具の製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】耐欠損性を安定して高めることができる切削工具の製造方法を提供する。【解決手段】焼結合金製の工具基体1と、工具基体1の表面に配置され、炭化物、窒化物、および炭窒化物のいずれか、あるいはこれらの複合化合物により構成される層を少なくとも有する硬質被膜と、を備える切削工具の製造方法であって、加熱された工具基体1の表層1aに、パルス幅が100ps以下のパルスレーザLを照射することにより圧縮残留応力を付与するレーザピーニング工程と、少なくとも工具基体1の表層1a上に、硬質被膜を成膜する成膜工程と、を備える。【選択図】図4

Description

本発明は、耐欠損性を高めて工具寿命を延ばすことができる切削工具の製造方法に関する。
従来、超硬合金製の工具基体上に硬質被膜を成膜した切削工具(以下、単に工具と呼ぶ場合がある)が知られている。この種の切削工具では、工具基体や硬質被膜に圧縮残留応力を付与することで、切削中に切れ刃近傍に発生する亀裂の進展が抑制されて、刃先の耐欠損性が向上する。
例えば、特許文献1では、硬質被膜の成膜後の後処理として、硬質被膜の上からショットピーニングを行うことで、圧縮残留応力を付与している。
特許文献2では、硬質被膜の成膜後の後処理として、硬質被膜の上からレーザピーニングを行うことで、圧縮残留応力を付与している。
特許文献3では、硬質被膜の成膜前の工具基体にフェムト秒レーザを用いたレーザピーニングを行い、その後、硬質被膜を成膜している。
特開平2-254144号公報 国際公開第2021/037947号 特開2013-107143号公報
特許文献1の方法では、ショットピーニングの投射圧を高めると圧縮残留応力は高まるものの、ショットピーニング処理中に刃先の欠けや微小なクラックの発生頻度が増し、工具寿命が安定しなくなる問題があった。
特許文献2の方法では、レーザによる硬質被膜の表層の除去(アブレーション)や硬質被膜の剥離などが発生し、耐摩耗性が低下する問題があった。
特許文献3の方法では、硬質被膜を成膜するときに工具基体が高温状態を経るため、工具基体の表層に付与した圧縮残留応力が解放されてしまい、耐欠損性を安定して高めることができなかった。
本発明は、耐欠損性を安定して高めることができる切削工具の製造方法を提供することを目的の一つとする。
本発明の一つの態様は、焼結合金製の工具基体と、前記工具基体の表面に配置され、炭化物、窒化物、および炭窒化物のいずれか、あるいはこれらの複合化合物により構成される層を少なくとも有する硬質被膜と、を備える切削工具の製造方法であって、加熱された前記工具基体の表層に、パルス幅が100ps以下のパルスレーザを照射することにより圧縮残留応力を付与するレーザピーニング工程と、少なくとも前記工具基体の表層上に、前記硬質被膜を成膜する成膜工程と、を備える。
本発明では、硬質被膜が成膜される前の工具基体(以下、ワークと呼ぶ場合がある)に対して、従来よりもパルス幅が小さい、パルス幅100ps(ピコ秒)以下の短パルスレーザを照射する。これにより、熱影響を抑えつつレーザのピークパワー密度を高められるため、例えば大気中や不活性ガス中などの気体中においても、ワーク表面に大きな衝撃力を作用させることができ、大きな圧縮残留応力を付与できる。この処理はいわゆる超短パルスレーザピーニングであり、レーザ照射したワークの表面を若干加工することで発生するプラズマが爆発的に拡散する際の、力学的な反作用によりワークに衝撃波を発生させ、塑性変形や転位などの結晶欠陥を付与することで、ワーク表面に圧縮残留応力を付与する手法である。
詳しくは、本発明では、工具基体を例えば数百℃に加熱し、この加熱された工具基体の表層に対して、パルスレーザ照射によるレーザピーニング処理を行う。すなわち、ワークに「ウォームレーザピーニング(温間レーザピーニング)」処理を施すことにより、圧縮残留応力を付与するため、その後の硬質被膜の成膜時にワークが高温状態を経ても、圧縮残留応力の解放が抑えられ、高い圧縮残留応力を維持することができる。
このメカニズムとしては、ワークを加熱した状態でレーザピーニングを行うことで、工具基体の表層を構成する結晶中に、コットレル雰囲気(転位の端部に炭素などの軽元素が入り込んだ状態のもの)が形成されるためと考えられる。一般に、圧縮残留応力は転位によって保持されるが例えば室温でワークにレーザピーニング処理を行った場合に結晶中に発生する通常の転位と比べて、上記「コットレル雰囲気」は、エネルギー的に安定しているため移動や消滅が生じにくく、つまり加熱等に対する安定性が高い。
したがって本発明によれば、製造される切削工具の耐欠損性を安定して高めることができ、工具寿命を延ばすことができる。
前記切削工具の製造方法において、加熱された前記表層の温度が、100℃以上400℃以下であることが好ましい。
工具基体の表層を100℃以上に加熱した状態として、レーザピーニング処理を行うことにより、上述の作用効果がより安定的かつ顕著なものとなる。すなわち、ワークを100℃以上としてレーザピーニング処理を施すことで、工具基体の表層の結晶中にコットレル雰囲気が安定して形成される。このため、ワークが硬質被膜の成膜時に高温状態を経ても、高い圧縮残留応力がより安定して維持される。
また、工具基体の表層を400℃以下に加熱した状態として、レーザピーニング処理を行うため、高い圧縮残留応力を安定して確保できる。具体的に、工具基体を加熱し過ぎると、ワークが軟化することで歪が入りにくくなり、また加熱による応力緩和の効果とも相殺されて、圧縮残留応力の大きさ(絶対値)が低下するおそれがある。ワークを400℃以下としてレーザピーニング処理を施すことにより、上述のような問題が抑えられる。
前記切削工具の製造方法は、前記レーザピーニング工程よりも前に、前記工具基体の表層を保護する保護層を形成する保護層形成工程と、前記レーザピーニング工程よりも後かつ前記成膜工程よりも前に、前記保護層を除去する保護層除去工程と、を備えることが好ましい。
工具基体の表層に、保護層を介さずに直接レーザを照射すると、ワーク表面の例えばCo等を主成分とする結合相が選択的に除去される場合があり、硬質被膜の付着強度に影響する可能性がある。このような場合においては、本発明の上記構成のように、工具基体の表層に、例えば黒色インクやメッキなどの保護層(犠牲層)を数μm~数十μmの厚さで形成した後に、レーザピーニング処理を行うことが好ましい。これにより、ワーク表面の結合相が選択的に除去されることを抑制できる。そして、ワークから保護層を除去した後で、硬質被膜をコーティングする。
本発明の上記構成によれば、工具基体の表層と硬質被膜との付着強度を安定して高めることができる。
前記切削工具の製造方法は、前記レーザピーニング工程よりも前に、前記工具基体の表層に粒子を投射することにより、前記表層に圧縮残留応力を付与するショットピーニング工程を備えることが好ましい。
前記切削工具の製造方法は、前記レーザピーニング工程よりも後かつ前記成膜工程よりも前に、前記工具基体の表層に粒子を投射することにより、前記表層に圧縮残留応力を付与するショットピーニング工程を備えることが好ましい。
ウォームレーザピーニング処理では、工具基体の表層の深い部分に圧縮残留応力が入りやすく、浅い部分には圧縮残留応力が入りにくい傾向がある。一方、ショットピーニング処理では、工具基体の表層の浅い部分に圧縮残留応力が入りやすい傾向がある。このため、ワークに対してウォームレーザピーニング処理とショットピーニング処理とを併用することにより、ワーク表層の深さ方向においてより広範囲に、より安定して圧縮残留応力を付与することができる。
本発明の前記態様の切削工具の製造方法によれば、耐欠損性を安定して高めることができる。
図1は、本実施形態の切削工具を示す斜視図である。 図2は、切削工具の切れ刃近傍を拡大して示す断面図である。 図3は、本実施形態の切削工具の製造方法を示すフローチャートである。 図4は、レーザピーニング工程を説明する側面図である。 図5は、レーザピーニング工程を説明する工具基体の部分上面図である。
本発明の一実施形態の切削工具10および切削工具10の製造方法について、図面を参照して説明する。
本実施形態の切削工具10は、切削インサートである。本実施形態の切削工具10は、特に図示しないが、例えば、金属製等の被削材に旋削加工(切削加工)を施す刃先交換式バイトに用いられる。
図1に示すように、本実施形態の切削工具10は、板状である。具体的に、切削工具10は多角形板状であり、図示の例では四角形板状である。なお切削工具10は、四角形板状以外の多角形板状や円板状等であってもよい。
本実施形態では、切削工具10の中心軸Cが延びる方向、つまり中心軸Cと平行な方向を、軸方向と呼ぶ。切削工具10の平面視において、中心軸Cは、切削工具10の中心に位置する。中心軸Cは、切削工具10の厚さ方向に沿って延びる。
中心軸Cと直交する方向を径方向と呼ぶ。径方向のうち、中心軸Cに近づく向きを径方向内側と呼び、中心軸Cから離れる向きを径方向外側と呼ぶ。
中心軸C回りに周回する方向を周方向と呼ぶ。
図2に示すように、本実施形態の切削工具10は、焼結合金製の工具基体1と、工具基体1の表面に配置され、炭化物、窒化物、および炭窒化物のいずれか、あるいはこれらの複合化合物により構成される層を少なくとも有する硬質被膜2と、工具基体1の稜線部に形成され、硬質被膜2のうち稜線部に位置する部分を含む切れ刃3と、を備える。つまり本実施形態の切削工具10は、工具基体1上に硬質被膜2をコーティングした切削インサートである。図1に示すように、切削工具10は、一対の板面10a,10bと、外周面10cと、貫通孔10dと、を備える。
一対の板面10a,10bは、多角形状であり、中心軸Cの軸方向を向く。本実施形態では、一対の板面10a,10bがそれぞれ四角形状である。一対の板面10a,10bは、一方の板面(上面)10aと、他方の板面(下面)10bと、を有する。一方の板面10aと他方の板面10bとは、軸方向に互いに離れて配置され、軸方向において互いに反対側を向く。
本実施形態では、軸方向のうち、他方の板面10bから一方の板面10aへ向かう方向を軸方向一方側と呼び、一方の板面10aから他方の板面10bへ向かう方向を軸方向他方側と呼ぶ。なお軸方向は、上下方向と言い換えてもよい。この場合、軸方向一方側は上側に相当し、軸方向他方側は下側に相当する。
一対の板面10a,10bのうち、少なくとも一方の板面10aは、板面10aの一部(コーナ部等)が切削加工時に図示しない被削材と対向する。
一対の板面10a,10bのうち、少なくとも一方の板面10aは、すくい面5を有する。すなわち切削工具10は、すくい面5を有する。すくい面5は、板面10aの少なくとも一部を構成する。本実施形態ではすくい面5が、板面10aの周縁部に位置する4つのコーナ部のうち、少なくとも2つのコーナ部にそれぞれ配置される。上記2つのコーナ部は、中心軸Cを中心として互いに180°回転対称となる位置に配置される。
図2に示すように、すくい面5は、ランド部5aと、傾斜部5bと、を有する。
ランド部5aは、すくい面5のうち、切れ刃3と接続される部分である。ランド部5aは、切れ刃3の径方向内側に配置される。本実施形態ではランド部5aが、切れ刃3から径方向内側へ向かうに従い軸方向他方側へ向けて傾斜する傾斜面である。なおランド部5aは、中心軸Cと垂直な方向に拡がる平面状でもよい。
傾斜部5bは、すくい面5のうち、ランド部5aの径方向内側に位置する部分である。傾斜部5bは、ランド部5aの径方向内端部と接続される。傾斜部5bは、ランド部5aから径方向内側へ向かうに従い軸方向他方側へ向けて傾斜する傾斜面である。傾斜部5bの径方向に沿う単位長さあたりの軸方向へ向けた変位量は、ランド部5aの径方向に沿う単位長さあたりの軸方向へ向けた変位量よりも大きい。すなわち、中心軸Cと垂直な図示しない仮想平面に対する傾斜部5bの傾きは、前記仮想平面に対するランド部5aの傾きよりも大きい。
図1に示すように、外周面10cは、一対の板面10a,10bと接続され、径方向外側を向く。外周面10cは、軸方向の両端部が一対の板面10a,10bと接続される。具体的に、外周面10cのうち軸方向一方側の端部は、一方の板面10aと接続される。外周面10cのうち軸方向他方側の端部は、他方の板面10bと接続される。外周面10cは、切削工具10の周方向全域にわたって延びる。
外周面10cは、逃げ面6を有する。すなわち切削工具10は、逃げ面6を有する。逃げ面6は、外周面10cの少なくとも一部を構成する。逃げ面6は、外周面10cのうち各すくい面5と隣接する部分にそれぞれ配置される。
貫通孔10dは、切削工具10を軸方向に貫通する。貫通孔10dは、一対の板面10a,10bに開口し、軸方向に延びる。貫通孔10dの中心軸は、中心軸Cと同軸に配置される。図示の例では、貫通孔10dが円孔状である。貫通孔10dには、例えば、図示しないクランプ駒の突起やクランプネジ等が挿入される。
切れ刃3は、すくい面5と逃げ面6とが接続される稜線部、つまりすくい面5と逃げ面6との交差稜線部に配置される。本実施形態では切れ刃3が、板面10aの周縁部に位置する4つのコーナ部のうち、少なくとも2つのコーナ部にそれぞれ配置される。図2に示すように、本実施形態では切れ刃3が、丸ホーニングを有する。なお切れ刃3は、チャンファホーニング等の他のホーニング形状を有していてもよい。また切れ刃3が、ホーニング形状を有していなくてもよい。
図1に示すように、切れ刃3は、コーナ刃部3aと、一対の直線刃部3bと、を有する。コーナ刃部3aは、径方向外側に向けて突出する凸曲線状である。直線刃部3bは、直線状であり、コーナ刃部3aと接続される。本実施形態では、コーナ刃部3aの刃長方向の両端部に、一対の直線刃部3bが接続される。なお刃長方向とは、切れ刃3が延びる方向であり、具体的には切れ刃3の各刃部3a,3bが延びる方向である。コーナ刃部3aおよび一対の直線刃部3bは、軸方向から見て、全体として略V字状である。
切れ刃3は、工具基体1の稜線部(交差稜線部)と、硬質被膜2のうち前記稜線部にコーティングされる部分と、により構成される。
工具基体1は、上述した切削工具10の形状と同じ形状を有する。工具基体1は、周期律表の第4,第5,第6族金属の炭化物、窒化物およびこれらの相互固溶体の中の少なくとも1種の硬質相と、Ni,CoまたはNi-Co合金を主成分とする重量比2~15%の結合相と、を有する焼結合金製である。本実施形態では工具基体1が、WC基の超硬合金製である。なお工具基体1は、例えばTiC基またはTi(C,N)基等のサーメット製でもよい。
後述するレーザピーニング工程を経ることにより、工具基体1の表層1aの残留応力は、例えば-1000MPa以下、好ましくは-1500MPa以下とされる(マイナスが圧縮側)。なお本実施形態でいう「工具基体1の表層1a」とは、工具基体1のうち、工具基体1の表面(硬質被膜2との界面)から少なくとも深さ1μmの表層部分を指す。
図2に示すように、硬質被膜2は、化学蒸着法(CVD法)または物理蒸着法(PVD法)により、工具基体1の表面(外面)上に成膜される。硬質被膜2は、工具基体1の表面のうち、少なくとも切れ刃3を含む領域に配置される。本実施形態では硬質被膜2が、少なくとも切れ刃3、すくい面5および逃げ面6に配置される。なお硬質被膜2は、工具基体1の表面全体に成膜されていてもよい。
硬質被膜2の膜厚は、全体として例えば1μm以上30μm以下である。硬質被膜2は、炭化物、窒化物、および炭窒化物のいずれか、あるいはこれらの複合化合物により構成される層(以下、第1層と呼ぶ)を含む単層または複数層で構成される。硬質被膜2が複数層の場合、複数の層の中で最も厚さ(膜厚)が厚い層が、第1層とされる。この場合、第1層の膜厚は、例えば1μm以上20μm以下である。第1層は、例えばTiCN層等である。
特に図示しないが、硬質被膜2を複数層により構成する場合、硬質被膜2は、第1層の表面に配置される第2層と、第2層の表面に配置される第3層と、を有していてもよい。
第2層および第3層、すなわち第1層以外の層は、例えば、周期律表の第4,第5,第6族金属の炭化物、窒化物、炭窒化物、酸化物、硼化物、Siの炭化物、窒化物、炭窒化物、Alの酸化物、窒化物、およびこれらの相互固溶体、ダイヤモンド、DLC、立方晶窒化ホウ素(cBN)などにより構成される。なお、硬質被膜2のうち第1層以外の層は、第1層の膜種によっては限定されないため、ここでは一般に切削工具の硬質被膜として用いられるものを列挙した。
次に、切削工具10の製造方法について説明する。
図3に示すように、本実施形態の切削工具10の製造方法は、焼結工程S1と、ショットピーニング工程S2と、保護層形成工程S3と、レーザピーニング工程S4と、保護層除去工程S5と、成膜工程S6と、を備える。
焼結工程S1では、原料粉末をプレス成型することで工具基体1の形状とされた圧粉体を、焼結する。圧粉体は、工具基体1の製造過程において圧粉成形される中間成形体である。本実施形態では、圧粉体は板状であり、具体的には多角形板状である。工具基体1が超硬合金製の場合、上記原料粉末は、例えばWCおよびCoを主成分とした混合粉末等である。
本実施形態では、ショットピーニング工程S2が、レーザピーニング工程S4よりも前工程として設けられる。特に図示しないが、ショットピーニング工程S2では、工具基体1の表層1aに粒子を投射することにより、表層1aに圧縮残留応力を付与する。ショットピーニング処理の条件としては、例えば、湿式(ウェットブラスト)にて、粒子の材質がZrO2、粒径が120~200μm、投射圧力が0.30~0.40MPa、投射角度がすくい面法線に対し30°~60°等である。
また本実施形態では、ショットピーニング工程S2において、工具基体1の稜線部(切れ刃3となる部分)のバリ取りやホーニング処理を併せて行う。
保護層形成工程S3は、レーザピーニング工程S4よりも前工程として設けられる。保護層形成工程S3では、工具基体1の表層1a上に、表層1aを保護する保護層を形成する。保護層は、例えば、黒色インクやメッキなどにより構成される層であり、工具基体1の表層1a上に数μm~数十μmの厚さで形成される。本実施形態では、保護層の厚さが、例えば3~10μm程度である。保護層は、工具基体1の表層1aのうち、少なくとも後述するレーザ照射範囲Aに設けられる。保護層は、犠牲層と言い換えてもよい。
レーザピーニング工程S4では、加熱された工具基体1の表層1aに、パルス幅が100ps(ピコ秒)以下のパルスレーザLを照射することにより、圧縮残留応力を付与する。なお以下の説明では、工具基体1をワークと呼ぶ場合がある。
図4は、レーザピーニング工程S4を説明する側面図であり、図5は、レーザピーニング工程S4を説明するワークの部分上面図である。なお図4および図5においては、工具基体1を模式的に表しており、また保護層の図示は省略している。
図4に示すように、本実施形態ではレーザピーニング工程S4において、ホットプレート(加熱手段)100上に工具基体1を載置し、工具基体1を加熱した状態として、保護層を介して工具基体1の表層1aにパルスレーザLを照射する。なお本実施形態では、「保護層を介して工具基体1の表層1aにパルスレーザLを照射する」ことを、単に「表層1aにパルスレーザLを照射する」などという場合がある。
レーザピーニング処理によって工具基体1に所望の圧縮残留応力を付与するために、工具基体1の加熱温度には、適正な温度範囲が存在する。具体的に本実施形態では、加熱された工具基体1の表層1aの温度が、100℃以上400℃以下である状態において、ワークにレーザピーニング処理を施す。より好ましくは、工具基体1の表層1aの加熱温度は、200℃~300℃である。
すなわち、本実施形態のレーザピーニング工程S4は、ワークを加熱した状態としてレーザピーニング処理を行うため、ウォームレーザピーニング(温間レーザピーニング)工程S4と言い換えてもよい。
図4および図5に示すように、レーザピーニング工程S4では、集光したレーザビーム(パルスレーザL)で、工具基体1の稜線部(切れ刃3となる部分)を含むようにハッチング走査を行う。なお本実施形態では、ワークの加熱温度が水の沸点よりも高いことから、例えばワークを水中に沈めて、水によりプラズマ衝撃波を閉じ込める水中レーザピーニングを行うことは困難である。このため本実施形態では、所定の温度範囲に加熱されたワークに対して、大気中や不活性ガス中などの気体中において、レーザピーニング処理を行う。
気体中でのレーザピーニング処理は、水中でのレーザピーニング処理と比較して衝撃が小さいため、工具基体1に十分な圧縮残留応力を付与するためには、パルス幅が100ps以下のパルスレーザLを用いる必要がある。
好ましくは、レーザピーニング工程S4では、工具基体1の表層1aに、パルス幅が10ps以下のパルスレーザLを照射する。より望ましくは、レーザピーニング工程S4では、表層1aに、パルス幅が2ps以下のパルスレーザLを照射する。
また好ましくは、レーザピーニング工程S4では、表層1aに、パルス幅が10fs(フェムト秒)以上のパルスレーザLを照射する。より望ましくは、レーザピーニング工程S4では、表層1aに、パルス幅が500fs以上のパルスレーザLを照射する。
パルスレーザLのピークパワー密度は、1TW(テラワット)/cm以上が好ましく、より好ましくは5TW/cm以上であり、さらに望ましくは、20TW/cm以上である。このように、1TW(テラワット)/cm以上で衝撃を与えることで、工具基体1に高い圧縮残留応力を安定して付与することができる。また好ましくは、ピークパワー密度は、10PW(ペタワット)/cm以下である。その理由は、10PW(ペタワット)/cmを超えたあたりから、大気のブレイクダウンによるプラズマが生じ、レーザビームが遮蔽されてしまうためである。なお、ピークパワー密度は、パルスエネルギー/(パルス幅×スポット面積)で計算される値である。
図5に示すように、本実施形態ではレーザピーニング工程S4において、工具基体1の切れ刃3となる稜線部(以下、単に切れ刃3と呼ぶ場合がある)と直交する方向にパルスレーザLを走査させる。具体的に、パルスレーザLの走査方向Sは、切れ刃3のうち直線刃部3bでは、直線刃部3bと直交する方向であり、またコーナ刃部3aでは、コーナ刃部3aと直交する方向である(図1参照)。
詳しくは、本実施形態では、工具基体1の切れ刃3となる稜線部と直交する方向に沿って、該稜線部、工具基体1のランド部5aとなる部分(以下、単にランド部5aと呼ぶ場合がある)、および、工具基体1の傾斜部5bとなる部分(以下、単に傾斜部5bと呼ぶ場合がある)の径方向外端部の順に、パルスレーザLを走査させる(図2参照)。すなわち、パルスレーザLを、切れ刃3と直交する方向のうち、切れ刃3からすくい面5上へ向けて走査させる。
図5に2点鎖線で示す複数の円は、パルスレーザLのワーク表面におけるスポットBを表している。本実施形態では、パルスレーザLの走査方向Sにおいて隣り合うスポットB同士、および、走査方向Sと直交する方向において隣り合うスポットB同士が、互いにオーバーラップしている。ただしこれに限らず、隣り合うスポットB同士は、互いにオーバーラップしていなくてもよい。また図5に示すように、スポットBは、工具基体1の稜線部(切れ刃3)にも配置される。
パルスレーザLのワーク表面におけるスポットBの直径(以下、スポット直径と呼ぶ場合がある)は、10μm以上200μm以下が好ましい。スポット直径が10μm以上であれば、レーザアブレーションによるクレーター(凹み)の発生が抑制され、平滑な面を維持することができる。スポット直径が200μm以下であれば、表層1aに付与される圧縮残留応力の値が低下するのを抑制できる。なお、パルスレーザLのスポット直径は、20μm以上100μm以下とすることがより望ましい。
また、図1および図2にレーザ照射範囲Aとして示すように、パルスレーザLは、少なくとも、工具基体1のうち切れ刃3となる稜線部と、該稜線部に隣接するすくい面5となる部分と、にわたって照射される。レーザ照射範囲Aは、切れ刃3に沿って延びる帯状であり、本実施形態では、全体として略V字状である。レーザ照射範囲A(の幅寸法)は、切削加工時に切削条件として設定される送り量に対して、110~200%の範囲であることが好ましい。但し、切削加工時の条件としての送り量は様々な状況によって逐次設定される値であるため、本発明工具の製造時はカタログ等に記載の各工具の推奨送り量範囲の上限値の110~200%の範囲、あるいは推奨送り量が設定されていない場合は、切れ刃3からすくい面5へ向けた200μm以上、1000μm以下の範囲Aで処理(レーザ照射)することが好ましい。
具体的に、本実施形態では、工具基体1のうち切れ刃3となる稜線部、ランド部5aとなる部分、および、傾斜部5bとなる部分の径方向外端部にわたるレーザ照射範囲Aに、パルスレーザLを照射する。
より詳しくは、上記レーザ照射範囲Aに、図示しないガルバノスキャナ・Fθレンズユニットを用いてパルスレーザLをハッチング走査する。このときの処理雰囲気は、大気中または任意のガス中とする。任意のガスとは、例えば酸化を抑える不活性ガス等である。
なお、レーザピーニング工程S4では、工具基体1の圧縮残留応力に、切れ刃3に平行な方向と、切れ刃3と直交する方向とで異方性を付与してもよい。特に図示しないが、このような異方性を付与するには、レーザピーニング工程S4において、例えば、切れ刃3と平行な方向のパルスレーザ照射点間隔と、切れ刃3と直交する方向のパルスレーザ照射点間隔とを、互いに異ならせればよい。ただしこれに限らず、例えば、切れ刃3と平行な方向のパルスレーザ照射点間隔と、切れ刃3と直交する方向のパルスレーザ照射点間隔とを互いに同じ値(一定)とし、ピークパワー密度を、切れ刃3と直交する方向において変化させたり、切れ刃3と平行な方向において変化させたりすることにより、圧縮残留応力に異方性を付与してもよい。
図3に示すように、保護層除去工程S5は、レーザピーニング工程S4よりも後工程かつ成膜工程S6よりも前工程として設けられる。保護層除去工程S5では、工具基体1の表層1a上に形成した保護層を除去する。保護層は、例えば酸性の薬品等によって除去される。
成膜工程S6では、工具基体1の少なくとも表層1a上に、炭化物、窒化物、および炭窒化物のいずれか、あるいはこれらの複合化合物により構成される層(第1層)を少なくとも有する硬質被膜2を成膜する。詳しくは、少なくとも表層1aのレーザピーニング処理が施された部分に対して、化学蒸着法(CVD法)または物理蒸着法(PVD法)により、硬質被膜2を成膜する。
硬質被膜2が複数層からなる場合、例えば3層の場合には、工具基体1の表層1a上に第1層を成膜し、第1層上に第2層を成膜し、第2層上に第3層を成膜する。
第2層および第3層、すなわち第1層以外の層は、例えば、周期律表の第4,第5,第6族金属の炭化物、窒化物、炭窒化物、酸化物、硼化物、Siの炭化物、窒化物、炭窒化物、Alの酸化物、窒化物、およびこれらの相互固溶体、ダイヤモンド、DLC、立方晶窒化ホウ素(cBN)などにより構成される。
以上説明した本実施形態の切削工具10の製造方法では、硬質被膜2が成膜される前の工具基体1に対して、従来よりもパルス幅が小さい、パルス幅100ps以下の短パルスレーザを照射する。これにより、熱影響を抑えつつレーザのピークパワー密度を高められるため、例えば大気中や不活性ガス中などの気体中においても、ワーク表面に大きな衝撃力を作用させることができ、大きな圧縮残留応力を付与できる。この処理はいわゆる超短パルスレーザピーニングであり、図4に示すように、レーザ照射したワークの表面を若干加工することで発生するプラズマPが爆発的に拡散する際の、力学的な反作用によりワークに衝撃波を発生させ、塑性変形や転位などの結晶欠陥を付与することで、ワーク表面に圧縮残留応力を付与する手法である。
詳しくは、本実施形態では、工具基体1を例えば数百℃に加熱し、この加熱された工具基体1の表層1aに対して、パルスレーザ照射によるレーザピーニング処理を行う。すなわち、ワークに「ウォームレーザピーニング(温間レーザピーニング)」処理を施すことにより、圧縮残留応力を付与するため、その後の硬質被膜2の成膜時にワークが高温状態を経ても、圧縮残留応力の解放が抑えられ、高い圧縮残留応力を維持することができる。
このメカニズムとしては、ワークを加熱した状態でレーザピーニングを行うことで、工具基体1の表層1aを構成する結晶中に、コットレル雰囲気(転位の端部に炭素などの軽元素が入り込んだ状態のもの)が形成されるためと考えられる。一般に、圧縮残留応力は転位によって保持されるが例えば室温でワークにレーザピーニング処理を行った場合に結晶中に発生する通常の転位と比べて、上記「コットレル雰囲気」は、エネルギー的に安定しているため移動や消滅が生じにくく、つまり加熱等に対する安定性が高い。
したがって本実施形態によれば、製造される切削工具10の耐欠損性を安定して高めることができ、工具寿命を延ばすことができる。
また本実施形態では、加熱された工具基体1の表層1aの温度が、100℃以上400℃以下である。
工具基体1の表層1aを100℃以上に加熱した状態として、レーザピーニング処理を行うことにより、上述の作用効果がより安定的かつ顕著なものとなる。すなわち、ワークを100℃以上としてレーザピーニング処理を施すことで、工具基体1の表層1aの結晶中にコットレル雰囲気が安定して形成される。このため、ワークが硬質被膜2の成膜時に高温状態を経ても、高い圧縮残留応力がより安定して維持される。
また、工具基体1の表層1aを400℃以下に加熱した状態として、レーザピーニング処理を行うため、高い圧縮残留応力を安定して確保できる。具体的に、工具基体1を加熱し過ぎると、ワークが軟化することで歪が入りにくくなり、また加熱による応力緩和の効果とも相殺されて、圧縮残留応力の大きさ(絶対値)が低下するおそれがある。ワークを400℃以下としてレーザピーニング処理を施すことにより、上述のような問題が抑えられる。
また、本実施形態の切削工具10の製造方法は、レーザピーニング工程S4よりも前に、工具基体1の表層1aを保護する保護層を形成する保護層形成工程S3と、レーザピーニング工程S4よりも後かつ成膜工程S6よりも前に、前記保護層を除去する保護層除去工程S5と、を備える。
工具基体1の表層1aに、保護層を介さずに直接レーザを照射すると、ワーク表面の例えばCo等を主成分とする結合相が選択的に除去される場合があり、硬質被膜2の付着強度に影響する可能性がある。このような場合においては、本実施形態のように、工具基体1の表層1aに、例えば黒色インクやメッキなどの保護層(犠牲層)を数μm~数十μmの厚さで形成した後に、レーザピーニング処理を行うことが好ましい。これにより、ワーク表面の結合相が選択的に除去されることを抑制できる。そして、ワークから保護層を除去した後で、硬質被膜2をコーティングする。
本実施形態の上記構成によれば、工具基体1の表層1aと硬質被膜2との付着強度を安定して高めることができる。
また本実施形態の切削工具10の製造方法は、工具基体1の表層1aに粒子を投射することにより、表層1aに圧縮残留応力を付与するショットピーニング工程S2を備える。
ウォームレーザピーニング処理では、工具基体1の表層1aの深い部分に圧縮残留応力が入りやすく、浅い部分には圧縮残留応力が入りにくい傾向がある。一方、ショットピーニング処理では、工具基体1の表層1aの浅い部分に圧縮残留応力が入りやすい傾向がある。このため、ワークに対してウォームレーザピーニング処理とショットピーニング処理とを併用することにより、ワーク表層の深さ方向においてより広範囲に、より安定して圧縮残留応力を付与することができる。
また本実施形態では、レーザ照射範囲Aが、切削加工時に切削条件として設定される送り量(推奨送り量)に対して、110~200%の範囲である。
レーザ照射範囲Aが、送り量の110%以上であると、切削加工時に被削材に直接接触する切削工具10の刃先領域(切削条件の切込み量、送り量)よりも、レーザピーニング処理領域を大きく確保できるため、切れ刃3の耐欠損性がより安定して高められる。
またレーザ照射範囲Aが、送り量の200%以下であると、工具の性能を十分に得ながら、プロセス時間を短縮化することが出来る。
また、レーザ照射範囲Aが、切れ刃3からすくい面5へ向けた200μm以上1000μm以下の範囲であることによっても、上述と同様の作用効果が得られる。
また、本実施形態のレーザピーニング工程S4において、工具基体1の圧縮残留応力に、切れ刃3に平行な方向と、切れ刃3と直交する方向とで異方性を付与する場合には、下記の作用効果が得られる。
すなわちこの場合、切れ刃3と平行な方向の圧縮残留応力値と、切れ刃3と直交する方向の圧縮残留応力値とに、所定以上の差を設けることができる。例えば上記構成と異なり、切れ刃3と平行な方向と、切れ刃3と直交する方向とで、圧縮残留応力値が互いに同じである場合(等方性を付与した場合)と比べて、本実施形態の上記構成によれば、切削の種類や被削材等に応じて、切れ刃3に必要な耐欠損性能を効率よく付与できる。
また、本実施形態のレーザピーニング工程S4では、ホットプレート100上に工具基体1を載置し工具基体1を加熱した状態として、工具基体1にレーザピーニング処理を施す。
この場合、工具基体1の温度変化が小さく抑えられて、工具基体1を安定して所望の加熱温度範囲に維持することができ、ウォームレーザピーニング処理によるワークへの圧縮残留応力の付与が安定して行える。すなわち、硬質被膜2の成膜時の高熱によっても解放されにくい圧縮残留応力を、工具基体1に安定して付与することができる。
なお、本発明は前述の実施形態に限定されず、例えば下記に説明するように、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において構成の変更等が可能である。
前述の実施形態では、レーザピーニング工程S4において、ホットプレート100上に工具基体1を載置することで工具基体1を加熱する例を挙げたが、これに限らない。工具基体1を加熱する方法、すなわち工具基体1の表層1aを加熱する方法(加熱手段)は、ホットプレート100以外の、例えば誘導加熱、ヒートガン、レーザ加熱等でもよい。つまり工具基体1の加熱手段には、任意の熱源を用いることができる。
前述の実施形態では、ショットピーニング工程S2が、レーザピーニング工程S4よりも前に備えられる例を挙げたが、これに限らない。
特に図示しないが、切削工具10の製造方法は、レーザピーニング工程S4よりも後かつ成膜工程S6よりも前に、工具基体1の表層1aに粒子を投射することにより、表層1aに圧縮残留応力を付与するショットピーニング工程を備えることとしてもよい。より詳しくは、前記ショットピーニング工程は、保護層除去工程S5よりも後工程かつ成膜工程S6よりも前工程として設けられる。この場合においても、前述の実施形態と同様の作用効果が得られる。
前述の実施形態では、ショットピーニング工程S2において工具基体1の稜線部(切れ刃3となる部分)のバリ取りやホーニング処理を併せて行うこととしたが、これに限らない。特に図示しないが、例えば、ブラシ等の研磨部材を用いた研磨工程を設けることにより、上記バリ取りやホーニング処理を行ってもよい。
前述の実施形態では、切削工具10の製造方法が、保護層形成工程S3および保護層除去工程S5を備える例を挙げたが、これに限らない。詳しくは、レーザピーニング工程S4において、工具基体1の表層1aに、保護層を介さずに直接レーザ照射することによっても、ワーク表面の結合相が選択的に除去されるような現象が生じない(もしくは生じにくい)場合には、保護層形成工程S3および保護層除去工程S5を設けなくてもよい。
前述の実施形態では、切削工具10が刃先交換式バイトに用いられる例を挙げたが、これに限らない。切削工具10は、例えば、被削材に転削加工(切削加工)を施す刃先交換式ドリルや刃先交換式エンドミル等に用いられてもよい。
また、切削工具10が切削インサートである例を挙げたが、これに限らない。切削工具10は、例えばソリッドタイプのバイト、ドリル、エンドミル、リーマおよびそれ以外の切削工具であってもよい。
その他、本発明の趣旨から逸脱しない範囲において、前述の実施形態および変形例等で説明した各構成を組み合わせてもよく、また、構成の付加、省略、置換、その他の変更が可能である。また本発明は、前述した実施形態等によって限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。ただし本発明はこの実施例に限定されない。
本発明の実施例として、前述の実施形態で説明した切削工具10の製造方法により製造された切削工具10を複数種類用意した(実施例1~4)。これらの切削工具10は、JIS規格のCNMG120408形状を有する切削インサートである。また、工具基体1は、WC超硬合金製であり、WCの平均粒径が1.5μm、Coの濃度が9%である。実施例1~4の各切削工具10は、後述のレーザピーニング工程S4における加熱温度が互いに異なる(後述の表1参照)。
切削工具10の製造方法において、保護層形成工程S3では、工具基体1の表層1a上に、厚さ約3μmのCuメッキ(保護層)を形成した。
また、レーザピーニング工程S4では、ホットプレート100の上面に工具基体1を載せ、100℃~400℃の間の各温度で加熱しながら、大気中においてパルスレーザLによりレーザピーニング処理を行った。
レーザ条件は、レーザ波長1030nm、パルス幅1ps、ビーム集光直径(スポット直径)φ50μm、パルスエネルギー1mJとし、図5に示すように、工具基体1の稜線部(切れ刃3)からすくい面5上にかけて、レーザ照射範囲Aを均等にハッチング走査した。このとき、パルス照射点(スポットB)の中心間の距離は20μmとなるよう、走査速度と繰り返し周波数により調整を行った。
次いで、工具基体1を室温まで冷却した後、保護層除去工程S5においてCuメッキを除去し、成膜工程S6において工具基体1の表層1aに硬質被膜2を成膜した。具体的に、硬質被膜2は、工具基体1の表面(表層1a)上に、第1層としてTiCN層を厚さ5μm、第2層としてTiC層を厚さ1μmで、この順に化学気相成長(CVD)法によってコーティングした。
また比較例としては、レーザピーニング工程S4において工具基体1を加熱せず、室温(20℃)でレーザピーニング処理したもの(比較例2)と、レーザピーニング処理自体を行わなかったもの(比較例1)と、を用意した。
実施例1~4および比較例1、2の各切削工具10を用いて、NC旋盤による断続切削試験を行った。切削条件は下記の通りである。
<切削条件>
・被削材:SCM440 スリット入り丸棒材
・切削速度:Vc=100m/min
・切込み量:ap=3.0mm
・送り量:f=0.3mm
そして、切削開始から切れ刃3の刃先欠損が生じるまでの切削時間を測定した。結果を表1に示す。
Figure 2023095112000002
なお、表1の判定の基準は下記の通りとした。
・A:刃先欠損までの切削時間が400秒以上であるもの。
・B:刃先欠損までの切削時間が100秒以上400秒未満であるもの。
・C:刃先欠損までの切削時間が100秒未満であるもの。
表1に示すように、レーザピーニング未処理品の比較例1に比べて、室温でレーザピーニング処理を行った比較例2では、顕著な寿命向上の効果は得られなかった。
一方、ウォームレーザピーニング処理を行った実施例1~4では、比較例1、2と比べて大幅に工具寿命が向上した。その中でも、ウォームレーザピーニング温度が200℃~300℃の実施例2、3においては、特に格別顕著な効果を奏することが確認された。
本発明の切削工具の製造方法によれば、耐欠損性を安定して高めることができる。したがって、産業上の利用可能性を有する。
1…工具基体、1a…表層、2…硬質被膜、10…切削工具、100…ホットプレート(加熱手段)、L…パルスレーザ、S2…ショットピーニング工程、S3…保護層形成工程、S4…レーザピーニング工程、S5…保護層除去工程、S6…成膜工程

Claims (5)

  1. 焼結合金製の工具基体と、前記工具基体の表面に配置され、炭化物、窒化物、および炭窒化物のいずれか、あるいはこれらの複合化合物により構成される層を少なくとも有する硬質被膜と、を備える切削工具の製造方法であって、
    加熱された前記工具基体の表層に、パルス幅が100ps以下のパルスレーザを照射することにより圧縮残留応力を付与するレーザピーニング工程と、
    少なくとも前記工具基体の表層上に、前記硬質被膜を成膜する成膜工程と、を備える、
    切削工具の製造方法。
  2. 加熱された前記表層の温度が、100℃以上400℃以下である、
    請求項1に記載の切削工具の製造方法。
  3. 前記レーザピーニング工程よりも前に、前記工具基体の表層を保護する保護層を形成する保護層形成工程と、
    前記レーザピーニング工程よりも後かつ前記成膜工程よりも前に、前記保護層を除去する保護層除去工程と、を備える、
    請求項1または2に記載の切削工具の製造方法。
  4. 前記レーザピーニング工程よりも前に、前記工具基体の表層に粒子を投射することにより、前記表層に圧縮残留応力を付与するショットピーニング工程を備える、
    請求項1から3のいずれか1項に記載の切削工具の製造方法。
  5. 前記レーザピーニング工程よりも後かつ前記成膜工程よりも前に、前記工具基体の表層に粒子を投射することにより、前記表層に圧縮残留応力を付与するショットピーニング工程を備える、
    請求項1から3のいずれか1項に記載の切削工具の製造方法。
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