JP2023089973A - ワクチン組成物 - Google Patents

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JP2023089973A JP2022201005A JP2022201005A JP2023089973A JP 2023089973 A JP2023089973 A JP 2023089973A JP 2022201005 A JP2022201005 A JP 2022201005A JP 2022201005 A JP2022201005 A JP 2022201005A JP 2023089973 A JP2023089973 A JP 2023089973A
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Toru Katsumata
健 浦野
Takeshi Urano
裕子 成相
Yuko Narai
宏樹 加美野
Hiroki KAMINO
一成 秋吉
Kazunari Akiyoshi
晋一 澤田
Shinichi Sawada
理紗子 三浦
Risako Miura
洋 珠玖
Hiroshi Shuku
公一 森田
Koichi Morita
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Abstract

【課題】ポリエチレングリコール鎖を使用せず、且つ、従来よりも免疫記憶の期間が向上したワクチン組成物を提供する。【解決手段】ワクチン組成物は、SARSコロナウイルス-2のスパイクタンパク質のS1サブユニットの少なくとも一部を含む、抗原タンパク質と、ヒアルロン酸及びステリル基が導入されたヒアルロン酸誘導体を含む、ヒアルロン酸誘導体成分と、を含み、前記ヒアルロン酸誘導体が、一般式(I)で表される繰り返し単位を1以上有し、前記ヒアルロン酸及び前記ヒアルロン酸誘導体に由来する二糖の繰り返し単位に対する、前記ステリル基の導入率が30%以上60%以下である。[化1]TIFF2023089973000017.tif42170【選択図】なし

Description

本発明は、ワクチン組成物に関する。
重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(以下、「SARSコロナウイルス-2」と称する)は、2019年11月に中国の武漢市付近で発生が確認されて以来、世界中の国々に拡大し、多くの罹患者及び死亡者が確認されており、治療薬及びワクチンの開発が進められている。
近年の研究では、SARSコロナウイルス-2のスパイクタンパク質が、ヒト等の動物の細胞の受容体であるアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)と結合する領域として、受容体結合領域(RBD)が特定された。RBDに対する抗体は、SARSコロナウイルス-2とACE2との結合を阻害することにより、SARSコロナウイルス-2の感染を抑える中和抗体として重要な機能を担っている。一方で、ウイルスに対する抗体によって感染が増悪する現象が知られており、その現象は抗体依存性感染増強(ADE)と言われている。スパイクタンパク質に対する抗体を解析した結果、スパイクタンパク質へのACE2の結合を阻害する抗体ばかりでなく、ACE2の結合性を増加させる抗体が存在することが判明している。
そこで、特許文献1では、SARSコロナウイルス-2のスパイクタンパク質の変異体をコードする核酸分子を含む医薬品組成物により、上記ACE2の結合性を増加させる抗体の誘導能を低減し、重症化リスクを低減することが提案されている。
また、特許文献2では、ある特定のSARSコロナウイルス-2の阻害活性を有する化合物又は当該化合物を含有する医薬組成物により、SARSコロナウイルス-2の複製を阻害し、治療することが提案されている。
一方、SARSコロナウイルス-2に対するmRNAワクチンでは脂質やリン脂質と混合することによってmRNA粒子を血中滞留させている。しかしながら、単純な脂質等であるとmRNA粒子を血中から排出してしまう虞があり、これを抑制するために脂質等にポリエチレングリコール(PEG)鎖が修飾されている。
特許第6954696号公報 特開2021-138694号公報
SARSコロナウイルス-2に対するmRNAワクチンでは、PEG鎖がアナフィラキシーショックの原因と考える説もある。また、mRNAワクチンでは、長期の免疫記憶ができず、追加接種が必要である。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、ポリエチレングリコール鎖を使用せず、且つ、従来よりも免疫記憶の期間が向上したワクチン組成物を提供する。
すなわち、本発明は、以下の態様を含む。
(1) SARSコロナウイルス-2のスパイクタンパク質のS1サブユニットの少なくとも一部を含む、抗原タンパク質と、
ヒアルロン酸及びステリル基が導入されたヒアルロン酸誘導体を含む、ヒアルロン酸誘導体成分と、
を含み、
前記ヒアルロン酸誘導体が、下記一般式(I)で表される繰り返し単位を1以上有し、
前記ヒアルロン酸及び前記ヒアルロン酸誘導体に由来する二糖の繰り返し単位に対する、前記ステリル基の導入率が30%以上60%以下である、ワクチン組成物。
Figure 2023089973000001
(式中、R、R、R、及びRは、それぞれ独立に、水素原子、C1-6アルキル、ホルミル及びC1-6アルキルカルボニルからなる群より選択され;
Zは、直接結合、又は2個以上30個以下の任意のアミノ酸残基からなるペプチドリンカーを表し;
は、以下の式:
-NR-R、
-NR-COO-R、
-NR-CO-R、
-NR-CO-NR-R、
-COO-R、
-O-COO-R、
-S-R、
-CO-Y-S-R、
-O-CO-Y-S-R、
-NR-CO-Y-S-R、及び
-S-S-R、
で表される基からなる群より選択される基であり;
、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、C1-20アルキル、アミノC2-20アルキル及びヒドロキシC2-20アルキルからなる群より選択され、ここで当該基のアルキル部分は、-O-及び-NR-からなる群より選択される基が挿入されていてもよく;
は、水素原子、C1-12アルキル、アミノC2-12アルキル及びヒドロキシC2-12アルキルからなる群より選択され、当該基のアルキル部分は-O-及び-NH-からなる群より選択される基が挿入されていてもよく;
Rは、ステリル基であり;
Yは、C2-30アルキレン、又は-(CHCHO)-CHCH-であり、ここで、当該アルキレンは、-O-、-NR-及び-S-S-からなる群より選択される基が挿入されていてもよく;
は、水素原子、C1-20アルキル、アミノC2-20アルキル及びヒドロキシC2-20アルキルからなる群より選択され、当該基のアルキル部分は-O-及び-NH-からなる群より選択される基が挿入されていてもよく;
は、C1-5アルキレンであり;
は、C2-8アルキレン又はC2-8アルケニレンであり;
mは、1以上100以下の整数である。)
(2) 皮下注射又は筋肉内注射によって投与される、(1)に記載のワクチン組成物。
(3) 前記抗原タンパク質が、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなる、(1)又は(2)に記載のワクチン組成物。
(4) アジュバントを更に含む、(1)~(3)のいずれか一つに記載のワクチン組成物。
(5) 前記アジュバントがアニオン性化合物である、(4)に記載のワクチン組成物。
(6) 前記アジュバントがCpGオリゴデオキシヌクレオチドである、(4)又は(5)に記載のワクチン組成物。
(7) 前記ステリル基がコレステリル基である、(1)~(6)のいずれか一つに記載のワクチン組成物。
(8) 凍結乾燥粉末である、(1)~(7)のいずれか一つに記載のワクチン組成物。
(9) 前記ヒアルロン酸誘導体の分子量が4,000以上1,000,000以下である、(1)~(8)のいずれか一つに記載のワクチン組成物。
上記態様のワクチン組成物によれば、ポリエチレングリコール鎖を使用せず、且つ、従来よりも免疫記憶の期間が向上したワクチン組成物を提供することができる。
試験例2における鼠径リンパ節での蛍光強度測定の結果である。(A)は、蛍光(FITC)修飾抗原タンパク質SJKの蛍光強度測定の結果である。(B)は、蛍光(Cy5)修飾ヒアルロン酸誘導体成分HK1の蛍光強度測定の結果である。 試験例2における皮膚での蛍光強度測定の結果である。(A)は、蛍光(FITC)修飾抗原タンパク質SJKの蛍光強度測定の結果である。(B)は、蛍光(Cy5)修飾ヒアルロン酸誘導体成分HK1の蛍光強度測定の結果である。 試験例2における鼠径リンパ節の共焦点レーザー顕微鏡による三次元観察像である。(A)は、蛍光(FITC)修飾抗原タンパク質SJKの蛍光の観察像である。(B)は、蛍光(Cy5)修飾ヒアルロン酸誘導体成分HK1の蛍光の観察像である。
以下、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
以下、本明細書において使用される用語を説明する。
本明細書において使用される「C1-20アルキル」という用語は、炭素数1以上20以下の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を意味し、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、iso-プロピル、n-ブチル、sec-ブチル、iso-ブチル、tert-ブチル等の「C1-4アルキル」が含まれ、さらに、n-ペンチル、3-メチルブチル、2-メチルブチル、1-メチルブチル、1-エチルプロピル、n-ヘキシル、4-メチルペンチル、3-メチルペンチル、2-メチルペンチル、1-メチルペンチル、3-エチルブチル、2-エチルブチル等が含まれる。C1-20アルキルには、炭素数が1以上12以下のC1-12アルキル、炭素数が1以上6以下のC1-6アルキル基も含まれる。
本明細書において使用される「C1-6アルキルカルボニル」という用語は、アルキル部分が既に言及したC1-6アルキルであるアルキルカルボニル基を意味し、例えば、アセチル、プロピオニル、n-プロピルカルボニル、iso-プロピルカルボニル、n-ブチルカルボニル、sec-ブチルカルボニル、iso-ブチルカルボニル、tert-ブチルカルボニル等の「C1-4アルキルカルボニル」が含まれる。
本明細書において使用される「アミノC2-20アルキル」という用語は、置換基としてアミノ基を有する炭素数2以上20以下の直鎖状又は分岐鎖状のアルキルを意味し、例えば、アミノ基はアルキル基の末端の炭素原子上に位置していてもよい。アミノC2-20アルキルには、炭素数が2以上12以下のアミノC2-12アルキルも含まれる。
本明細書において使用される「ヒドロキシC2-20アルキル」という用語は、置換基としてヒドロキシ基を有する炭素数2以上20以下の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を意味し、例えば、ヒドロキシ基はアルキル基の末端の炭素原子上に位置していてもよい。ヒドロキシC2-20アルキルには、炭素数が2以上12以下のヒドロキシC2-12アルキルも含まれる。
本明細書において使用される「C2-30アルキレン」という用語は、炭素数2以上30以下の直鎖状又は分岐鎖状の2価の飽和炭化水素基を意味し、例えば、エチレン、プロピレン等を含み、炭素数が2以上20以下のC2-20アルキレン、炭素数が2以上8以下のC2-8アルキレン、基「-(CH-」(ここで、nは2以上30以下であり、2以上20以下が好ましく、2以上15以下がより好ましい。)を含む。
本明細書において使用される「C1-5アルキレン」という用語は、炭素数1以上5以下の直鎖状又は分岐鎖状の2価の飽和炭化水素基を意味し、例えば、メチレン、エチレン、プロピレン等を含む。
本明細書で言及する用語「C2-8アルケニレン」とは、炭素数2以上8以下の直鎖状又は分岐鎖状の、1以上の二重結合を含む、2価の飽和炭化水素基を意味し、例えば、-CH=CH-、-C(CH)=CH-、2-ブテン-1,4-ジイル、ヘプタ-2,4-ジエン-1,6-ジイル、オクタ-2,4,6-トリエン-1,8-ジイル等を含む。幾何異性が存在する場合は、それぞれの異性体及びそれらの混合物も含まれる。
≪ワクチン組成物≫
本実施形態のワクチン組成物は、
SARSコロナウイルス-2のスパイクタンパク質のS1サブユニットの少なくとも一部を含む、抗原タンパク質と、
ヒアルロン酸及びステリル基が導入されたヒアルロン酸誘導体を含む、ヒアルロン酸誘導体成分と、
を含む。
上記ヒアルロン酸誘導体成分は、ヒアルロン酸誘導体中のステリル基が水中で自己会合し、単分子又は複数分子が会合することでナノサイズのハイドロゲルを形成するものである。よって、後述する製造方法で得られた、本実施形態のワクチン組成物において、上記抗原タンパク質と、上記ヒアルロン酸誘導体は、複合体(以下、「抗原タンパク質-ヒアルロン酸誘導体複合体」と称する場合がある)を形成している。具体的には、ヒアルロン酸誘導体中のステリル基と、抗原タンパク質とが疎水性相互作用により複合体を形成しており、抗原タンパク質とステリル基等の疎水性部位が中心部に存在し、一方、ヒアルロン酸及びヒアルロン酸誘導体中のヒアルロン酸に由来する部位等の親水性部位が外縁部に存在する、コア-シェル型様の球状構造を呈しているものと推定される。すなわち、抗原タンパク質がヒアルロン酸誘導体に封入又は内包された構造を呈しているものと推定される。
抗原タンパク質-ヒアルロン酸誘導体複合体からなる球状構造体の平均粒子径は、20nm以上100nm以下であることが好ましく、20nm以上70nm以下であることがより好ましく、20nm以上60nm以下であることがさらに好ましい。平均粒子径が上記数値範囲であることで、生体内で安定した構造で存在することができ、且つ、リンパ節をより容易に通過することができる。平均粒子径は、例えば、DLS(Dynamic Light Scattering)や、ナノトラッキング粒子測定装置等によって、測定することができる。
本実施形態のワクチン組成物において、前記ヒアルロン酸誘導体が、下記一般式(I)で表される繰り返し単位を1以上有する。
Figure 2023089973000002
(式中、R、R、R、及びRは、それぞれ独立に、水素原子、C1-6アルキル、ホルミル及びC1-6アルキルカルボニルからなる群より選択され;
Zは、直接結合、又は2個以上30個以下の任意のアミノ酸残基からなるペプチドリンカーを表し;
は、以下の式:
-NR-R、
-NR-COO-R、
-NR-CO-R、
-NR-CO-NR-R、
-COO-R、
-O-COO-R、
-S-R、
-CO-Y-S-R、
-O-CO-Y-S-R、
-NR-CO-Y-S-R、及び
-S-S-R、
で表される基からなる群より選択される基であり;
、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、C1-20アルキル、アミノC2-20アルキル及びヒドロキシC2-20アルキルからなる群より選択され、ここで当該基のアルキル部分は、-O-及び-NR-からなる群より選択される基が挿入されていてもよく;
は、水素原子、C1-12アルキル、アミノC2-12アルキル及びヒドロキシC2-12アルキルからなる群より選択され、当該基のアルキル部分は-O-及び-NH-からなる群より選択される基が挿入されていてもよく;
Rは、ステリル基であり;
Yは、C2-30アルキレン、又は-(CHCHO)-CHCH-であり、ここで、当該アルキレンは、-O-、-NR-及び-S-S-からなる群より選択される基が挿入されていてもよく;
は、水素原子、C1-20アルキル、アミノC2-20アルキル及びヒドロキシC2-20アルキルからなる群より選択され、当該基のアルキル部分は-O-及び-NH-からなる群より選択される基が挿入されていてもよく;
は、C1-5アルキレンであり;
は、C2-8アルキレン又はC2-8アルケニレンであり;
mは、1以上100以下の整数である。)
本実施形態のワクチン組成物において、前記ヒアルロン酸及び前記ヒアルロン酸誘導体に由来する二糖の繰り返し単位に対する、前記ステリル基の導入率(以下、単に「ステリル基導入率」と称する場合がある)が30%以上60%以下であり、30%以上55%以下が好ましく、35%以上50%以下がより好ましく、35%以上45%以下がさらに好ましい。
ステリル基導入率が上記下限値以上であることで、生体内で沈殿せずに安定したハイドロゲルを保つことができる。一方で、上記上限値以下であることで、ハイドロゲルの平均粒子径を上記範囲内とすることができる。
ステリル基導入率は、H-NMR測定により測定することができる。すなわち、ヒアルロン酸誘導体成分のH-NMRスペクトルにおけるヒアルロン酸誘導体のステリル基に由来するピークの積分値と、ヒアルロン酸誘導体に含まれるN-アセチル-D-グルコサミンのアセチル基に由来するピーク(COCH、1.6ppm以上2.0ppm以下、3H)の積分値と、を用いて、以下の式に基づいて計算することができる。なお、式中nはピークに対応する水素原子の数を表す。具体的には、例えば後述する実施例に記載した方法に従って測定することができる。
[ステリル基導入率](%)
=[(ステリル基に由来するピーク積分値×3/n)/(N-アセチル-D-グルコサミンのアセチル基に由来するピーク積分値)]×100
本実施形態のワクチン組成物は、上記構成を有することで、ポリエチレングリコール(PEG)鎖を含まず、PEG鎖によって引き起こされると推定されているアナフィラキシーショック等の副作用が生じにくいものである。
また、本実施形態のワクチン組成物は、後述する実施例に示すように、T細胞における免疫記憶期間が向上しており、中和抗体の産生能も向上しており、免疫効果に優れるものである。
また、後述する実施例に示すように、本実施形態のワクチン組成物を凍結乾燥粉末とすることで、保存安定性を向上させることができる。
次いで、本実施形態のワクチン組成物の構成成分について以下に詳細を説明する。
<抗原タンパク質>
抗原タンパク質は、SARSコロナウイルス-2のスパイクタンパク質のS1サブユニットの少なくとも一部を含む。
抗原タンパク質は、糖鎖修飾されていてもよい。糖鎖修飾されていることによって、より効果的に免疫を誘導することができる。
ウイルス表面のタンパク質を抗原タンパク質とする場合、抗原タンパク質がウイルス同様に糖鎖修飾を受けるためには、N末端に分泌シグナルペプチドが付加されている必要がある。抗原タンパク質が細胞外に分泌される時に、N末端の分泌シグナルペプチドは切断される。分泌シグナルペプチドとしては、例えば、SARSコロナウイルス-2のスパイクタンパク質の1番目から13番目までのアミノ酸残基からなる分泌シグナルペプチド(アミノ酸配列:MFVFLVLLPLVSS(配列番号2))、IL-2に由来するシグナルペプチド(アミノ酸配列:MYRMQLLSCIALSLALVTNS(配列番号3))、IL-6に由来するシグナルペプチド(アミノ酸配列:MNSFSTSAFGPVAFSLGLLLVLPAAFPAP(配列番号4))等が挙げられる。中でも、SARSコロナウイルス-2のスパイクタンパク質の1番目から13番目までのアミノ酸残基からなる分泌シグナルペプチド(配列番号2)が好ましい。
糖鎖としては特に限定されず、生体内で複合糖質(糖ペプチド又は糖タンパク質、プロテオグリカン、糖脂質等)として存在する糖鎖であってもよく、生体内で複合糖質として存在しない糖鎖であってもよい。生体内で複合糖質として存在する糖鎖としては、N-結合型糖鎖、O-結合型糖鎖等が挙げられる。N-結合型糖鎖としては、例えば、高マンノース(ハイマンノース)型、複合(コンプレックス)型、混成(ハイブリッド)型の糖鎖が挙げられる。
なお、SARSコロナウイルス-2のスパイクタンパク質のサブユニット(S1及びS2)は、22のN-結合型グリコシル化部位を有することが知られている(例えば、参考文献1(Shajahan A et al., “Deducing the N- and O-glycosylation profile of the spike protein of novel coronavirus SARS-CoV-2.”, Glycobiology, pp. 1-8, 2020, doi: 10.1093/glycob/cwaa042.)、参考文献2(Walls AC et al., “Structure, Function, and Antigenicity of the SARSCoV-2 Spike Glycoprotein”, Cell, Vol. 180, pp. 281-292, 2020.)、及び参考文献3(Watanabe Y et al., “Site-specific glycan analysis of the SARS-CoV-2 spike”, Science, Vol. 369, Issue 6501, pp. 330-333, 2020.)等参照)。
抗原タンパク質は、SARSコロナウイルス-2のスパイクタンパク質のS1サブユニットの少なくとも一部を含めばよく、SARSコロナウイルス-2のスパイクタンパク質の全長を含んでもよく、S1サブユニットの少なくとも一部を含む部分タンパク質であってもよい。中でも、SARSコロナウイルス-2のスパイクタンパク質の319番目から589番目までのアミノ酸残基(アミノ酸配列:配列番号1)からなる部分タンパク質を含むことが好ましい。
これらの中でも、本実施形態のワクチン組成物において、抗原タンパク質として、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質が好ましく用いられる。
本実施形態のワクチン組成物において、抗原タンパク質の含有量は、抗原タンパクの構造にもよるが、ヒアルロン酸誘導体成分の質量に対して、0.001質量以上10,000質量%以下とすることができ、0.1質量%以上1000質量%以下が好ましく、1.0質量%以上100.0質量%以下であることがより好ましく、1.5質量%以上50.0質量%以下であることがさらに好ましく、3.0質量%以上30.0質量%以下であることが特に好ましく、5.0質量%以上20.0質量%以下であることが最も好ましい。
抗原タンパク質の含有量は、ワクチン組成物の100質量部に対しては、0.0001質量部以上1.00質量部以下であることが好ましく、0.001質量部以上0.100質量部以下であることがより好ましく、0.002質量部以上0.500質量部以下であることがさらに好ましい。
抗原タンパク質の含有量が上記下限値以上であることで、より効果的に免疫を誘導することができ、一方で、上記上限値以下であることで、抗原タンパク質をヒアルロン酸誘導体成分に封入し、より安定的な構造とすることができる。
<ヒアルロン酸誘導体成分>
ヒアルロン酸誘導体成分は、ヒアルロン酸及びヒアルロン酸誘導体を含む。
ヒアルロン酸誘導体において、ステリル基は、ヒアルロン酸に対して直接的に結合していてもよく、リンカーを解して結合されていてもよい。
ここでいう「リンカー」とは、遺伝子工学により導入し得る任意のペプチドリンカー、又は合成化合物リンカーを用いることができるが、ヒアルロン酸誘導体においては、ペプチドリンカーが好ましい。ペプチドリンカーの長さは特に限定されず、目的に応じて当業者が適宜選択することが可能であるが、好ましい長さは2アミノ酸以上(上限は特に限定されないが、通常、30アミノ酸以下、好ましくは20アミノ酸以下)であり、特に好ましくは15アミノ酸である。ヒアルロン酸誘導体に含まれるペプチドリンカーは、全て同じ長さのペプチドリンカーを用いてもよく、異なる長さのペプチドリンカーを用いてもよい。
[ステリル基]
本明細書において使用される「ステリル基」という用語は、ステロイド骨格を有する基であれば特に制限されない。ここでステロイドとしては、具体的には、コレステロール、コレスタノール、カンペスタノール、エルゴスタノール、スチグマスタノール、コプロスタノール、スチグマステロール、シトステロール、ラノステロール、エルゴステロール、シミアレノール、胆汁酸、テストステロン、エストラジオール、プロゲストロン、コルチゾール、コルチゾン、アルドステロン、コルチコステロン、デオキシコルチステロン等が挙げられる。ステリル基としては、コレステリル基、スチグマステリル基、ラノステリル基、エルゴステリル基等が挙げられ、中でも、コレステリル基(特に、コレスタ-5-エン-3β-イル基)が好ましい。
ヒアルロン酸誘導体の分子量は特に限定はされないが、ヒアルロン酸誘導体1分子あたりのステリル基導入数を増やし、抗原タンパク質との複合体を形成する観点、また、分子の絡み合いを高め、血中での滞留性を高める観点からは、分子量の比較的大きいヒアルロン酸誘導体が好ましい。このようなヒアルロン酸誘導体の分子量としては、4000(4k)以上1,000,000(1,000k)以下が好ましく、5k以上500k以下がより好ましく、7k以上300k以下がさらに好ましく、7k以上100k以下が特に好ましい。ヒアルロン酸誘導体の分子量が上記下限値以上であることで、分子の絡み合いをより高め、血中での滞留性をより高めることができる。一方、ヒアルロン酸誘導体の分子量が上記上限値以下であることで、粘度の上昇を抑制でき、より高濃度のヒアルロン酸誘導体をワクチン組成物中に溶解させることができる。ヒアルロン酸誘導体の分子量は、一般的には、対応する分子量を有する原料を使用することにより調節することができる。
ここでいう、「ヒアルロン酸誘導体の分子量」は、サイズ排除クロマトグラフィー多角度光散乱検出器(SEC-MALS)により決定された重量平均分子量である。具体的には、後述する実施例に記載された方法に従って測定することができる。
好ましいヒアルロン酸誘導体として具体的には、例えば、下記一般式(I)で表される繰り返し単位(以下、「繰り返し単位(I)」と称する場合がある)を1以上有するヒアルロン酸誘導体等が挙げられる。
Figure 2023089973000003
(式中、R、R、R、及びRは、それぞれ独立に、水素原子、C1-6アルキル、ホルミル及びC1-6アルキルカルボニルからなる群より選択され;
Zは、直接結合、又は2個以上30個以下の任意のアミノ酸残基からなるペプチドリンカーを表し;
は、以下の式:
-NR-R、
-NR-COO-R、
-NR-CO-R、
-NR-CO-NR-R、
-COO-R、
-O-COO-R、
-S-R、
-CO-Y-S-R、
-O-CO-Y-S-R、
-NR-CO-Y-S-R、及び
-S-S-R、
で表される基からなる群より選択される基であり;
、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、C1-20アルキル、アミノC2-20アルキル及びヒドロキシC2-20アルキルからなる群より選択され、ここで当該基のアルキル部分は、-O-及び-NR-からなる群より選択される基が挿入されていてもよく;
は、水素原子、C1-12アルキル、アミノC2-12アルキル及びヒドロキシC2-12アルキルからなる群より選択され、当該基のアルキル部分は-O-及び-NH-からなる群より選択される基が挿入されていてもよく;
Rは、ステリル基であり;
Yは、C2-30アルキレン、又は-(CHCHO)-CHCH-であり、ここで、当該アルキレンは、-O-、-NR-及び-S-S-からなる群より選択される基が挿入されていてもよく;
は、水素原子、C1-20アルキル、アミノC2-20アルキル及びヒドロキシC2-20アルキルからなる群より選択され、当該基のアルキル部分は-O-及び-NH-からなる群より選択される基が挿入されていてもよく;
は、C1-5アルキレンであり;
は、C2-8アルキレン又はC2-8アルケニレンであり;
mは、1以上100以下の整数である。)
ヒアルロン酸誘導体は、下記一般式(Ia)で表される繰り返し単位(以下、「繰り返し単位(Ia)」と称する場合がある)を、1以上有するヒアルロン酸誘導体を含むことが好ましい。
Figure 2023089973000004
(式中、R、R、R、及びRは、それぞれ独立に、水素原子、C1-6アルキル、ホルミル及びC1-6アルキルカルボニルからなる群より選択され;
Xは、-NR-Y-NR-COO-Rで表される疎水性基であり;
及びRは、それぞれ独立に、水素原子及びC1-6アルキルからなる群より選択され;
Rは、ステリル基であり;
Yは、C2-30アルキレン、又は-(CHCHO)-CHCH-であり、
mは、1以上100以下の整数である。)
ここで、ヒアルロン酸誘導体に繰り返し単位(I)又は繰り返し単位(Ia)がそれぞれ2以上含まれる場合に、当該繰り返し単位は同一であってもよく、異なっていてもよい。
ヒアルロン酸誘導体は、繰り返し単位(I)又は繰り返し単位(Ia)以外の位置において、修飾されていてもよく、例えば、ヒドロキシ基は-O(C1-6アルキル)、-O(ホルミル)、-O(C1-6アルキルカルボニル)等に変換されていてもよく、カルボキシ基は、アミド又はエステルに変換されていてもよく、塩を形成していてもよい。
[繰り返し単位(I)]
一般式(I)中の基「-Z-N(R)Y-X」は、以下の式:
-NH-(CHmz-NH-R;
-NH-(CHmz-NH-COO-R;
-NH-(CHCHO)-CHCH-NH-COO-R;
-NH-(CHmz-COO-R;
-NH-(CHCHO)-CHCH-COO-R、
-NH-(CHmz-O-COO-R;
-NH-(CHCHO)-CHCH-O-COO-R、
-NH-(CHmz-S-R;
-NH-(CHCHO)-CHCH-S-R;
-NH-(CHmz-O-CO-CH(R)-CH-S-R;
-NH-(CHmz-NHCO-CH(R)-CH-S-R;
-NH-(CHCHO)-CHCH-NHCO-CH(R)-CH-S-R;
-NH-(CHCHO)-CHCH-O-CO-CH(R)-CH-S-R;
-NH-(CHmz-S-S-R;及び
-Z-NR-Y-NR-COO-R
(ここで、mzは、2以上30以下の整数であり、Rは、水素原子又はメチル基であり、R及びmは、本明細書で既に定義したとおりである。)
で表される基からなる群より選択される基を含む。
当該基としては、
-NH-(CHmz-NH-COO-R;
-NH-(CHCHO)-CHCH-NH-COO-R;及び
-NH-(CHmz-S-S-R
(ここで、mz、R、及びmは、本明細書で既に定義したとおりである。)
からなる群より選択される基が好ましい。
(Z)
一般式(I)において、Zは直接結合であることが好ましい。また、別の態様において、Zがペプチドリンカーである場合に、Xは-NR-COO-Rであることが好ましい。さらに、別の態様において、Zは、-NH-[CH(-Z)-CONH]n-1-CH(-Z)-CO-で表されるペプチドリンカーであってもよく、ここで、nは2以上30以下の整数であり、Zは、それぞれ独立に、HN-CH(-Z)-COOHとして表されるα-アミノ酸中の置換基を表す。当該ペプチドリンカーは、N末端にてグルクロン酸部分のカルボキシ基に結合し、C末端にて基-N(-R)-Y-Xに結合する。当該ペプチドリンカーのアミノ酸残基として利用できるアミノ酸の例としてはα-アミノ酸、例えばアラニン、アルギニン、アスパラギン(Asn)、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸、グリシン(Gly)、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン(Leu)、リジン、メチオニン、フェニルアラニン(Phe)、プロリン、セリン、スレオニン、トリプトファン、チロシン、バリンといった天然型(L型)のアミノ酸、それらのD体等が挙げられ、合成されたアミノ酸を含む全てのα-アミノ酸を用いることができる。すなわち、Zとしては、例えば、-CH、HNC(NH)NH(CH-、HNCOCH-等が挙げられる。また、n個のZは、同一でも異なっていてもよい。nは、2以上30以下の整数であるが、2以上10以下が好ましく、2以上4以下がより好ましい。ペプチドリンカーの好ましい例としては、例えば、-Gly-Phe-Leu-Gly-、-Asn-Phe-Phe-、-Phe-Phe-、Phe-Gly-等が挙げられる。
(Y)
一般式(I)において、Yは-(CHn1-及び-(CHCHO)m1-CHCH-(ここで、n1は、2以上20以下の整数であり、2以上15以下の整数が好ましく、2以上12以下の整数がより好ましく、2以上6以下の整数がさらに好ましい。m1は、1以上4以下の整数である)からなる群より選択される基が好ましい。具体的には、-(CH-、-(CH-、-(CH-、-(CH12-、又は、-(CHCHO)-CHCH-が好ましい。また、純水中乃至低塩濃度下では高い溶解性を実現させつつ、生理食塩濃度下では高い沈殿形成能を示させるという観点からは、Yは-(CH-、-(CH-、-(CH-及び-(CH12-からなる群より選択される基が好ましく、-(CH-がより好ましい。
Yは、例えば、-CHCHO-CHCH-S-S-CHCHO-CHCH-、-(CHCHO)-CHCH-S-S-CHCHO-CHCH-、-CHCHO-CHCH-S-S-(CHCHO)-CHCH-、-(CHCHO)-CHCH-S-S-(CHCHO)-CHCH-等であってもよい。
(Y
としては、-CH-又は-CH-CH-が好ましい。
(Y
としては、-CH-CH-、-CH(CH)CH-、2-ブテン-1,4-ジイル、ヘプタ-2,4-ジエン-1,6-ジイル又はオクタ-2,4,6-トリエン-1,8-ジイルが好ましく、-CH-CH-又は-CH(CH)CH-がより好ましい。
基「-Z-N(R)Y-X」の具体例としては、-NH-(CH-NH-CO-コレステリル、-NH-(CH-NH-(CH-NH-(CH-NH-COO-コレステリル、-NH-(CH-NH-(CH-NH-(CH-NH-COO-コレステリル、-NH-(CH-NH-(CH-NH-COO-コレステリル、-NH-(CH-N(-(CH-NH)-COO-コレステリル、-NH-(CH-NH-(CH-N(-(CH-NH)-COO-コレステリル、-NH-(CH-NH-(CH-N(-(CH-NH-(CH-NH)-COO-コレステリル、-NH-(CH-NH-(CH-N(-(CH-NH)-CO-NH-コレステリル、-NH-(CH-NH-(CH-N(-(CH-NH)-CO-コレステリル、-NH-(CH-NH-(CH-N(-(CH-NH)-コレステリル等が挙げられる。好ましい基「-Z-N(R)Y-X」としては、R、R及びRが、水素原子であり、Yが、直鎖状のC2-30アルキレン又は-(CHCHO)-CHCH-であり、Yが、直鎖状のC1-5アルキレンであるか、又はYが、直鎖状のC2-8アルキレン若しくは直鎖状のC2-8アルケニレンである。
[繰り返し単位(Ia)]
一般式(Ia)において、Xは、-NH-(CH-NH-COO-コレステリル、-NH-(CH-NH-COO-コレステリル、-NH-(CH12-NH-COO-コレステリル又は-NH-(CHCHO)-CHCH-NH-COO-コレステリルが好ましく、-NH-(CH-NH-COO-コレステリル、-NH-(CH-NH-COO-コレステリル又は-NH-(CHCHO)-CHCH-NH-COO-コレステリルがより好ましい。
ヒアルロン酸誘導体は、繰り返し単位(I)に加えて、一般式(II)で表される繰り返し単位(以下、「繰り返し単位(II)」と称する場合がある)を更に含むことができる。
Figure 2023089973000005
(式中、R1a、R2a、R3a、及びR4aは、それぞれ独立に、水素原子、C1-6アルキル、ホルミル及びC1-6アルキルカルボニルからなる群より選択され;
は、ヒドロキシ及び-O-Qからなる群より選択され;ここで、Qは、カウンターカチオンである。)
ここで、ヒアルロン酸誘導体に繰り返し単位(II)が2以上含まれる場合に、当該繰り返し単位は同一であってもよく、異なっていてもよい。
別の態様において、ヒアルロン酸誘導体は、繰り返し単位(I)、繰り返し単位(Ia)及び繰り返し単位(II)から実質的になるヒアルロン酸誘導体であってもよい。
[繰り返し単位(II)]
一般式(II)において、Qはカルボキシ基と水中で塩を形成するカウンターカチオンであれば特に限定されず、2価以上の場合は価数に応じて複数のカルボキシ基と塩を形成する。カウンターカチオンの例としては、リチウムイオン、ナトリウムイオン、ルビジウムイオン、セシウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン等の金属イオン;式:N(式中、R、R、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子及びC1-6アルキルからなる群より選択される)で表されるアンモニウムイオン等が挙げられる。中でも、Qは、ナトリウムイオン、カリウムイオン、又はテトラアルキルアンモニウムイオン(例えば、テトラn-ブチルアンモニウムイオン等)が好ましい。R、R、R及びRは、C1-6アルキルからなる群より選択される同一の基であることが好ましく、n-ブチル基が好ましい。
、R、R、及びR、並びにR1a、R2a、R3a、及びR4aは、全て水素原子であることが好ましい。また、R及びRは、いずれも水素原子であることが好ましい。
中でも、ヒアルロン酸誘導体は、繰り返し単位(I)及び繰り返し単位(II)から実質的になるヒアルロン酸誘導体であることが好ましい。ヒアルロン酸誘導体は、当該誘導体に含まれるD-グルクロン酸とN-アセチル-D-グルコサミンとから成る二糖の繰り返し単位のうちの、例えば80%以上が、好ましくは90%以上が、より好ましくは95%以上が繰り返し単位(I)及び繰り返し単位(II)である。ヒアルロン酸誘導体は、繰り返し単位(I)及び繰り返し単位(II)のみから構成されていてもよい。
本実施形態のワクチン組成物において、ヒアルロン酸誘導体成分の含有量は、特に限定されないが、例えば、ワクチン組成物の100質量部に対して、0.01質量部以上50.00質量部以下であることが好ましく、0.10質量部以上25.00質量部以下であることがより好ましく、0.20質量部以上10.00質量部以下であることがさらに好ましい。
<アジュバント>
本実施形態のワクチン組成物は、上記抗原タンパク質及び上記ヒアルロン酸誘導体成分に加えて、アジュバントを更に含むことが好ましい。これにより、後述する実施例に示すように、より効果的に免疫(特に液性免疫)を誘導することができる。
なお、一般に、液性免疫とは、B細胞と抗体が中心となる免疫機構のことをいう。ヘルパーT細胞(Th2細胞)の産生するサイトカインにより、B細胞が刺激されることで、B細胞が形質細胞へと分化し、大量の抗体を産生し、抗体は体液中を循環して全身に広がる。また、刺激されたB細胞の一部は、抗原の情報を記憶しているメモリーB細胞となって、再度の感染の際には、最初の反応より迅速に、そしてより抗原に親和性が高い抗体を大量に産生することができる。一方、細胞性免疫とは、病原体そのものやウイルス感染細胞、癌細胞等の異物の排除において、細胞を主なエフェクターとして免疫機構のことをいう。マクロファージ、細胞傷害性T細胞(CTL、キラーT細胞)、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)等の免疫担当細胞自体による排除機構である。
アジュバントとしては、ワクチンに通常用いられるものであれば特に限定されないが、例えば、アルミニウム塩、スクアレン、自然免疫受容体に対するリガンド等が挙げられる。
ここでいう「リガンド」とは、受容体に特異的に結合するものを意味し、特に、受容体に特異的に結合して、種々の生理作用を示す物質を用いることができる。このような物質を「アゴニスト」ともいう。
自然免疫受容体としては、例えば、トール様受容体(toll-like receptor;TLR)、RIG-I様受容体(RIG-I-like receptor;RLR)、NOD様受容体(NOD-like receptor;NLR)、C型レクチン受容体(C-type lectin receptor;CLR)等が挙げられる。
TLRリガンドとしては、例えば、TLR-2、TLR-3、TLR-4、TLR-5、TLR-6、TLR-7、TLR-8及びTLR-9からなる群より選択される少なくとも1種のTLRと相互作用するものを適宜選択すればよい。
TLR-2リガンドとしては、例えば、Pam3CSK4等が挙げられる。
TLR-3リガンドとしては、例えば、ポリICLC、ポリイノシン:ポリシチジル酸(ポリI:C)等が挙げられる。
TLR-4リガンドとしては、例えば、R型リポ多糖、S型リポ多糖、パクリタキセル(Paclitaxel)、リピドA、モノホスホリルリピドA等が挙げられる。
TLR-5リガンドとしては、例えば、フラジェリン(Flagellin)等が挙げられる。
TLR-2及びTLR-6リガンドとしては、例えば、MALP-2等が挙げられる。
TLR-7及びTLR-8リガンドとしては、例えば、レシキモド(R848)、イミキモド(imiquimod、R837)、ガルジキモド(gardiquimod)、ロキソリビン(loxoribine)等が挙げられる。
TLR-9リガンドとしては、例えば、CpGオリゴデオキシヌクレオチド等が挙げられる。
中でも、アジュバントとしては、抗原提示機能をより向上できることから、アニオン性化合物が好ましく、CpGオリゴデオキシヌクレオチドがより好ましい。
CpGオリゴデオキシヌクレオチドとしては、例えば、CpG-ODN 1826、CpG-K3等が挙げられる。
<その他添加剤>
本実施形態のワクチン組成物は、単独で投与することもでき、或いは、薬理学上許容されうる担体とともに常套手段に従って、医薬組成物として、使用することができる。医薬組成物として使用する場合は、例えば、上記ワクチン組成物と、水若しくはそれ以外の生理学的に許容し得る液(例えば、生理食塩水、含水エタノール、リン酸緩衝生理食塩水(PBS))等とを、混合してもよく、生理学的に許容し得る賦形剤、ベヒクル、防腐剤、安定剤、結合剤、凍結乾燥補助剤等を含むこともできる。
防腐剤としては、例えば、ベンザルコニウム塩化物、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸プロピル、クロロブタノール、ソルビン酸、アルキルポリアミノエチルグリシン等が挙げられる。
安定化剤としては、例えば、エデト酸ナトリウム水和物、ポリビニルピロリドン(ポビドン)、ポリソルベート80等が挙げられる。
<ワクチン組成物の製造方法>
本実施形態のワクチン組成物は、ヒアルロン酸誘導体成分を製造した後に、当該ヒアルロン酸誘導体成分に抗原タンパク質や、必要に応じてアジュバントやその他添加剤を添加することで、製造することができる。
まず、ヒアルロン酸誘導体成分の製造方法としては、例えば、グルクロン酸のカルボキシ基をアミドに変換し、ステリル基を導入することで、ヒアルロン酸及びヒアルロン酸誘導体を含むヒアルロン酸誘導体成分が得られる。また、原料のヒアルロン酸又はその誘導体に対して、反応させるステリル基を有する化合物の配合量を調整することで、ステリル基導入率を30%以上60%以下とすることができる。
グルクロン酸のカルボキシ基をアミドに変換して、ステリル基を導入する方法として具体的には、例えば、原料のヒアルロン酸又はその誘導体、好ましくは、繰り返し単位(II)のみから構成されるヒアルロン酸又はその誘導体を、テトラアルキルアンモニウム塩(例えば、テトラブチルアンモニウム(TBA)塩)にイオン交換し、適当な縮合剤存在下、溶媒中で当該ヒアルロン酸塩と、式:「HNR-Y-NR-R、NHR-Y-NR-COO-R、HNR-Y-NR-COO-R、HNR-Y-NR-CO-R、HNR-Y-NR-CO-NR-R、HNR-Y-COO-R、HNR-Y-O-COO-R、HNR-Y-S-R、HNR-Y-CO-Y-S-R、HNR-Y-O-CO-Y-S-R、HNR-Y-NR-CO-Y-S-R、HNR-Y-S-S-R、又は-Z-NR-Y-NR-COO-R(式中、R、R、R、Y、Y、Y、Z及びRは本明細書で既に定義したとおりである)」で表されるステリル基(特に、コレステリル基)を導入したアミンと、を反応させる方法が挙げられる。
上記の反応において使用することができる縮合剤は特に限定されず、例えば、4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン)-4-メチルモルホリウム(DMT-MM)、N,N’-カルボニルジイミダゾール(CDI)、N,N’-ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、N-エトキシカルボニル-2-エトキシ-1,2-ジヒドロキノリン(EEDQ)、2-ベンゾトリアゾール-1,1,3,3-テトラメチルウロニウム4フッ化ホウ酸塩(TBTU)、3,4-ジヒドロ-3-ヒドロキシ-4-オキソ-1,2,3-ベンゾトリアジン(HODhbt)、ベンゾトリアゾール-1-オキシ-トリス-ピロリジノ-ホスホニウム6フッ化リン酸塩(PyBOP)、ベンゾトリアゾール-1-イル-オキシ-トリス(ジメチルアミノ)ホスホニウム ヘキサフルオロホスフェート(BOP)、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)等が挙げられる。
特に、限定はされないが、DMT-MMは水及び有機溶媒の混合溶媒中でも反応が高効率に進む点において好ましい。また、DMT-MMを縮合剤として使用することにより、多数のヒドロキシ基が共存する系において、エステル結合形成を抑えつつ、高選択的にアミノ基とカルボキシ基によるアミド結合形成を行うことができる。この縮合剤の使用により、例えば、溶媒であるアルコールがヒアルロン酸部分のカルボキシ基と反応することや、ヒアルロン酸部分に同時に存在するカルボキシ基とヒドロキシ基とが、分子内又は分子間で結合して、望まない架橋を形成してしまうことを防ぐことができる。
ステリル基導入反応において用いる溶媒としては、水、DMSO、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソプロパノール、多価アルコール、アセトニトリル、DMF、THF、ジクロロメタン、クロロホルム、ヘキサン、ジエチルエーテル、酢酸エチル、及びこれらの混合溶媒等が挙げられる。多価アルコールとしては、2価のアルコールであってもよく、3価のアルコールであってもよい。2価のアルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール等が挙げられる。3価のアルコールとしては、例えば、グリセリン、トリメチロールプロパン等が挙げられる。
或いは、原料のヒアルロン酸又はその誘導体を、テトラアルキルアンモニウム塩(例えば、テトラブチルアンモニウム(TBA)塩)にイオン交換し、適当な縮合剤存在下、溶媒中で当該ヒアルロン酸塩とスペーサー部分を反応させ(この際、必要に応じて保護及び脱保護反応を行ってもよい)、原料のヒアルロン酸又はその誘導体のカルボキシ基(-COOH)を変換し、その後に適当な試薬と反応させてもよい。カルボキシ基から誘導される基と、反応試薬の組み合わせの例を以下に示す。
-CONR-Y-NRH + Hal-R;
-CONR-Y-NRH + Hal-COOR;
-CONR-Y-NRH + HOCO-R;
-CONR-Y-NRH + Hal-CO-R;
-CONR-Y-NR-COOH + HNR-R;
-CONR-Y-NR-CO-NRH + Hal-R;
-CONR-Y-NRH + HOCO-NR-R;
-CONR-Y-NRH + Hal-CO-NR-R;
-CONR-Y-COOH + HO-R;
-CONR-Y-OH + Hal-COO-R;
-CONR-Y-OCOOH + HO-R;
-CONR-Y-OCOOH + Hal-R;
-CONR-Y-OCO-Hal + HO-R;
-CONR-Y-SH + Hal-R;
-CONR-Y-Hal + HS-R;
-CONR-Y-CO-Y-Hal + HS-R;
-CONR-Y-CO-Y-SH + Hal-R;
-CONR-Y-O-CO-CH=CH + HS-R;
-CONR-Y-NR-CO-CH(CH)=CH + HS-R;
-CONR-Y-SH + HS-R;
-COZ-OH + HNR-Y-NR-COO-R;
-COZ-NR-Y-NRH + Hal-COO-R
(式中、R、R、R、Y、Y、Y、及びZは本明細書で既に定義したとおりであり、Halは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素からなる群より選択されるハロゲン原子を表す)。
反応様式としては、脱ハロゲン化水素反応、縮合反応、脱水反応、マイケル付加等の求核付加反応、酸化的なジスルフィド形成反応等が挙げられ、これらは周知な反応であり、当業者が適宜選択し、好ましい反応条件を見出して行うことができる。変換体又は反応物がカルボキシ基を有する場合は、N-ヒドロキシコハク酸イミド(以下、「NHS」とも称す)エステルとし、反応させてもよい。
また、原料のヒアルロン酸又はその誘導体のカルボキシ基に、2-アミノエチル2-ピリジルジスルフィドを反応させて、末端に脱離基で修飾されたメルカプト基を有するスペーサーが導入されたヒアルロン酸誘導体を調製し、これにチオコレステロールを求核置換反応させてジスルフィド結合を形成する方法が挙げられる。
さらに、ヒアルロン酸又はその誘導体のカルボキシ基にスペーサーの一部を導入したものと、ステリル基にスペーサーの一部を導入したものを調製し、これらを反応させる方法も挙げられる。具体例の一部は上述したが、さらに、Yに-S-S-が挿入されている場合は、ヒアルロン酸のカルボキシ基に、末端にメルカプト基を有するスペーサーが導入されたヒアルロン酸誘導体と、末端にメルカプト基を有するスペーサーが導入されたステリル基をそれぞれ調製し、これらを酸化的に反応させてジスルフィド結合を形成させる方法も挙げられる。このとき、一方のメルカプト基を2-メルカプトピリジンと反応させてジスルフィドとした後に、他方のメルカプト基と置換させることもできる。
また、ヒアルロン酸誘導体を調製後、さらに他の置換基を導入してもよい。例えば、繰り返し単位(I)、及び繰り返し単位(II)から実質的になるヒアルロン酸誘導体におけるカルボキシ基の0.1%以上99.5%以下、好ましくは40%以上65%以下を、-CO-X、[ここで、Xは、以下の基:
-NH-(CHp1-O-CO-C(R17)=CH
-NH-(CHp1-O-CO-CH(R17)-CH-S-CH-CH(OH)-CH(OH)-CH-SH;
-NH-(CHp1-SH;
-NH-(CHp1-NH-CO-C(R17)=CH
-NH-(CHp1-NH-C(=NH)-(CH-SH;
-NH-(CHp1-NH-CO-(CH-SH;
-NH-(CHp1-NH-CO-CH(R17)-CH-S-CH-CH(OH)-CH(OH)-CH-SH;
-NH-(CHp1-NH-CO-CH(NH)-CH-SH;
-NH-(CHp1-NH-CO-CH(NH)-(CH-SH;
-NH-NH-CO-(CH-CO-NH-NH-C(=NH)-(CH-SH;
-NH-(CH-CH-O)-CH-CH-O-CO-C(R17)=CH
-NH-(CH-CH-O)-CH-CH-O-CO-CH(R17)-CH-S-CH-CH(OH)-CH(OH)-CH-SH;
-NH-(CH-CH-O)-CH-CH-SH;
-NH-(CH-CH-O)-CH-CH-NH-CO-C(R17)=CH
-NH-(CH-CH-O)-CH-CH-NH-C(=NH)-(CH-SH;
-NH-(CH-CH-O)-CH-CH-NH-CO-(CH-SH;
-NH-(CH-CH-O)-CH-CH-NH-CO-CH(R17)-CH-S-CH-CH(OH)-CH(OH)-CH-SH;
-NH-(CH-CH-O)-CH-CH-NH-CO-CH(NH)-CH-SH;
-NH-(CH-CH-O)-CH-CH-NH-CO-CH(NH)-(CH-SH;
-NH-CH(COH)-(CH)-SH;
-NH-CH(COH)-(CH-SH;及び
-NH-CH(COH)-(CH-CONH-CH(CONH-CH-COH)-CH-SH
(ここで、R17は、水素原子又はC1-6アルキル基であり、p1は2以上10以下の整数、qは1以上200以下の整数、rは1以上3以下の整数を、それぞれ表す)からなる群より選択される]
に変換することで、分子内或いは他分子を含めた分子間で化学的に架橋させてゲル化することもできる。
次いで、ヒアルロン酸誘導体をゲル化させて得られる溶液、又は、ヒアルロン酸誘導体のゲルの乾燥物を水等に溶解又は分散させた溶液と、抗原タンパク質を水等に溶解又は分散させた溶液や、必要に応じて、アジュバント及びその他添加剤を水等に溶解又は分散させた溶液と、を混合する(以下、「混合工程」と称する場合がある)。混合工程において、ヒアルロン酸誘導体のステリル基と、抗原タンパク質との疎水性相互作用により、ステリル基及び抗原タンパク質が内部に存在し、一方で、ヒアルロン酸に由来する親水性部位が外縁部に存在する構造からなる、抗原タンパク質-ヒアルロン酸誘導体複合体が形成される。
混合工程において、抗原タンパク質の疎水部をやや露出し、ヒアルロン酸誘導体と相互作用しやすくする観点から、温度を25℃以上65℃以下とすることが好ましく、30℃以上55℃以下とすることがより好ましく、33℃以上40℃以下とすることがさらに好ましい。或いは、抗原タンパク質の構造及び特性のよって、最適な温度を適宜設定することができる。
混合工程において、時間は特に限定されないが、例えば、30分間以上24時間以下とすることができ、1時間以上10時間以下とすることができる。
混合工程の後に、乾燥工程を行ってもよい。乾燥方法としては、例えば通風乾燥、恒温槽中での乾燥、減圧乾燥、熱風循環式乾燥、凍結乾燥等が挙げられる。中でも、凍結乾燥が好ましい。凍結乾燥を行う場合に、ワクチン組成物は、凍結乾燥時における抗原タンパク質-ヒアルロン酸誘導体複合体が形成する微粒子の粒径の増大をより効果的に抑制する観点から、凍結保護剤を更に含むことが好ましい。
凍結保護剤は、「凍結保護剤」又は「凍結乾燥保護剤」として知られているものであれば特に限定されず、例えば、二糖類、ソルビトール、デキストラン、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、グリセロール、ポリビニルピロリドン、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。
二糖類としては特に限定されず、例えば、スクロース、ラクツロース、ラクトース、マルトース、トレハロース、セロビオース、コージビオース、ニゲロース、イソマルトース、イソトレハロース、ネオトレハロース、ソホロース、ラミナリビオース、ゲンチオビオース、ツラノース、マルツロース、パラチノース、ゲンチオビウロース、マンノビオース、メリビオース、メリビウロース、ネオラクトース、ガラクトスクロース、シラビオース、ネオヘスペリドース、ルチノース、ルチヌロース、ビシアノース、キシロビオース、プリメベロース等が挙げられる。中でも、凍結保護剤として広く使用されていることから、スクロース、トレハロース、マルトース、又はラクトースが好ましい。また、医薬品添加物としての使用実績や、凍結乾燥時におけるヒアルロン酸誘導体が形成する微粒子の粒径の増大をより効果的に抑制する観点から、スクロースがより好ましい。
凍結保護剤は、上記混合工程の前に、ヒアルロン酸誘導体成分又は抗原タンパク質に予め混合してもよく、或いは、上記混合工程の間に、又は、上記混合工程の後に、ワクチン組成物に混合してもよい。凍結保護剤は、固体の状態で添加してもよく、水等の溶媒に溶解した状態で添加してもよい。
凍結保護剤の添加量は特に限定されないが、ヒアルロン酸誘導体成分100質量部に対して、20質量部以上が好ましい。凍結保護剤の添加量が上記下限値以上であることで、より十分な粒径増大抑制効果が得られる。一方、凍結保護剤の添加量の上限は特に限定されないが、例えば、100,000質量部とすることができる。
凍結乾燥において使用する装置も特に限定されず、例えば、市販の凍結乾燥機を用いることができる。中でも、真空度を制御する観点からは、凍結乾燥中に装置内の真空度をモニタリングできる凍結乾燥機が好ましく、また、品温を制御する観点からは、棚式凍結乾燥機が好ましい。
本実施形態のワクチン組成物としては、製剤化したものを用いてもよい。製剤の形態としては、固体、半固体又は液体の形態とすることができる。
固体の場合、粉末、顆粒、丸剤、ペレット、タブレット、カプセル等の形態が挙げられる。中でも、固体としては、凍結乾燥粉末であることが好ましい。本実施形態のワクチン組成物を凍結乾燥粉末とすることで、後述する実施例に示すように、保存安定性を向上させることができる。
半固体の場合、ゲル等の形態が挙げられる。
液体の場合、粉末を水又はリン酸緩衝生理食塩水(PBS)等の緩衝液により希釈又は懸濁した懸濁液等の形態が挙げられる。
<投与方法>
本実施形態のワクチン組成物を投与する対象は、ヒトを含む哺乳類に分類される動物(サル、マーモセット、マウス、ラット、ウシ、ウマ、ネコ、イヌ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウサギ等)が挙げられる。
投与経路は、例えば、髄腔内注射、動脈内注射、静脈内注射、皮下注射等の他、鼻腔内的、経気管支的、経肺的、筋内的、経皮的、又は経口的に当業者に公知の方法により行なうことができる。中でも、皮下注射又は筋肉内注射が好ましい。
本実施形態のワクチン組成物において、非経口的に投与する場合、その投与量は、投与対象の種類(年齢や性別等も含む)等を考慮して適宜選択することができるが、一般的に例えばヒト(体重60kgとして)においては、1回あたり、抗原タンパク質の量として、5μg以上1mg以下とすることができ、10μg以上500μg以下とすることができる。
投与回数は、上述した投与量の単回投与であってもよく、上述した投与量を、1週間、2週間、3週間、4週間、1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、又は半年毎に1回等、2回以上の複数回投与であってもよい。
≪その他実施形態≫
一実施形態において、本発明は、上記ワクチン組成物の有効量を、患者又は患畜に投与することを含む、新型コロナウイルス感染症の予防方法を提供する。
なお、新型コロナウイルス感染症(COVID-19;Coronavirus disease 2019)は、SARSコロナウイルス-2に起因する感染症である。
また、ここでいう「有効量」とは、予防に有効な量、すなわち、新型コロナウイルス感染症の発症予防に適する量が包含される。
一実施形態において、本発明は、新型コロナウイルス感染症の予防のための組成物であって、上記抗原タンパク質-ヒアルロン酸誘導体複合体を含む、組成物を提供する。
一実施形態において、本発明は、ワクチン組成物を製造するための、上記抗原タンパク質-ヒアルロン酸誘導体複合体の使用を提供する。
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、これらは本発明の範囲を実施例に制限することを意図したものではない。
<ヒアルロン酸誘導体成分の製造>
[製造例1-1]
(ヒアルロン酸誘導体H1の製造)
ヒアルロン酸誘導体を次の工程1~工程3に従って調製した。
1.工程1
(コレステリル 6-アミノヘキシルカーバメート塩酸塩の合成)
コレステリル 6-アミノヘキシルカーバメート塩酸塩(Chol塩酸塩)を次に示す工程1-1、続いて工程1-2に従って合成した。
(1)工程1-1
コレステリルクロロホルメート(3.37g、7.5mmol)の無水ジクロロメタン(20mL)の溶液に、アルゴン雰囲気下、トリエチルアミン(TEA、1.05mL)を加えて撹拌した。氷冷下で、6-(t-ブトキシカルボニル)アミノ-1-アミノヘキサン(1.12mL、5mmol)を滴下して加え、そのまま氷冷下で30分間攪拌後、室温まで昇温し、当該混合物を一晩撹拌した。反応混合物を、超純水及び飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧下で溶媒を留去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:酢酸エチル:n-ヘキサン=1:4)で精製し、目的物のフラクションを合わせて溶媒を減圧下留去した。
(2)工程1-2
得られた残渣を酢酸エチル(40mL)に溶解し、4N塩酸/酢酸エチル溶液(40mL)を加えて室温で一晩撹拌した。生じた沈殿物を遠心分離により回収した。得られた固体を酢酸エチルにて4回洗浄後、減圧下で乾燥し、コレステリル 6-アミノヘキシルカーバメート塩酸塩(Chol塩酸塩)1.2gを得た。
2.工程2
(ヒアルロン酸のテトラブチルアンモニウム(TBA)塩の調製)
ヒアルロン酸のTBA塩(HA-TBA)を次に示す工程2-1、続いて工程2-2に従って調製した。
(1)工程2-1
DOWEX(登録商標)50WX-8-400(アルドリッチ社製)を超純水に懸濁させ、デカンテーションにより樹脂を超純水で3回程度洗浄した。40wt%テトラブチルアンモニウムヒドロキシド水溶液(TBA-OH)(アルドリッチ社製)を樹脂のカチオン交換能に対し約1.5倍モル等量加え、30分間撹拌した。余剰のTBA-OH溶液をデカンテーションにより除去した後、さらに過剰の超純水で洗浄することで、TBA塩化したカチオン交換樹脂を得た。
(2)工程2-2
分子量10,000(10kDa)の原料ヒアルロン酸ナトリウム塩(HA-Na)を15mg/mLの濃度で超純水に溶解した。「(1)工程2-1」でTBA塩化したカチオン交換樹脂の懸濁液をHAユニット(ユニット分子量401.3)のモル数に対し樹脂のイオン交換能換算で5倍モル等量添加した。15分間撹拌した後、0.45μmのフィルターを用いて濾過を行い、濾液を凍結乾燥し、ヒアルロン酸のTBA塩(HA-TBA)を白色固体として得た。
3.工程3
「2.(2)工程2-2」で調製したHA-TBAの無水DMSO溶液(10mg/mL)を調製した。その後、「1.工程1」で合成したHA-TBA中に存在する二糖繰り返し単位(HAユニット)に対するChol塩酸塩の添加量がモル比で44/100となるように添加した。次に、HAユニットに対する4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウムクロリド(DMT-MM)の添加量がモル比で48/100となるように加え、室温で一晩撹拌した。反応溶液は、0.3M 酢酸アンモニア/DMSO溶液、0.15M NaCl水溶液、超純水の順で透析(スペクトラポア7、分画分子量(MWCO):2,000)した。得られた透析液を凍結乾燥して目的物(HA-C-Chol:HA-1)を白色固体として得た。生成物のH-NMRスペクトルにおいて、N-アセチル-D-グルコサミンのアセチル基由来のピーク(COCH、1.6ppm以上2.0ppm以下、3H)、コレステリル基中のメチル基由来のピーク(CH、0.7ppm、3H)が確認され、コレステロール導入率は42%であった。また、サイズ排除クロマトグラフィー多角度光散乱検出器(SEC-MALS)により決定された、ヒアルロン酸誘導体の重量平均分子量は、12,000であった。なお、ヒアルロン酸誘導体の重量平均分子量は、以下の方法を用いて測定した。
(ヒアルロン酸誘導体の分子量)
ヒアルロン酸誘導体の分子量は、サイズ排除クロマトグラフィー多角度光散乱検出器(SEC-MALS)により決定された重量平均分子量である。ヒアルロン酸誘導体組成物(20mg)を超純水(10mL)に溶解して室温で12時間以上撹拌し、ヒアルロン酸誘導体組成物水溶液(2mg/mL)を得た。このヒアルロン酸誘導体組成物水溶液(750μL)に対して300mM ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン(HP-β-CD)水溶液(750μL)加えて振とう機を用いて10秒間混合し、37℃にて1時間インキュベートした。そして、得られた試料をSEC-MALS測定に供して重量平均分子量を決定した。SEC-MALS測定の条件を以下に示す。
(測定条件)
カラム:TSKgel GMPWXL(東ソー株式会社製)2本
カラム温度:30℃
溶離液:10mM HP-β-CD入りリン酸緩衝生理食塩水(pH7.4)
流速:1mL/分
注入量:200μL
<抗原タンパク質の製造>
[製造例2-1]
抗原タンパク質は、以下のようにして作製した。
SARS-CoV-2スパイクタンパク質(Genbankアクセッション番号YP_009724390)のS1タンパク質の受容体結合領域を含む領域(RBD;319番目のアミノ酸から589番目のアミノ酸まで;配列番号1)において、N末端に自身の分泌シグナルペプチド(SP;1番目のアミノ酸から13番目のアミノ酸まで;配列番号2)を付加し、且つ、C末端にG196タグ(DLVPR;配列番号5)及びHisタグ(HHHHHH;配列番号6)を融合したタンパク質(アミノ酸配列:配列番号7)をコードし、且つ、ヒト用にコドンを最適化した人工遺伝子(配列番号8)を合成した。次いで、5’末端及び3’末端に付加したBamHI切断配列及びEcoRI切断配列を用いて、発現ベクターpMabProtein-Kan(mAbProtein)のマルチクローニングサイトに挿入して、抗原タンパク質発現ベクターを作製した。
作製した抗原タンパク質発現ベクターを、動物細胞に導入した後、分泌タンパク質として発現させ、培養上清を回収し、Ni-NTAアガロース(QIAGEN、30230)を用いて精製した。精製したタンパク質はリン酸緩衝液で透析後、フィルター滅菌した。SDS-ポリアクリルアミドゲルを用いて精製タンパク質を電気泳動したところ、予想される分子サイズより泳動度が遅かったため、予想通り糖鎖修飾を受けていると推測できた。
<ワクチン組成物の製造>
[実施例1]
(ワクチン組成物の製造)
製造例1-1で得られたヒアルロン酸誘導体成分HA-1を5mg/mL、スクロース10質量%となるように水へ溶解させた。別の容器にて、抗原タンパク質の濃度が0.33mg/mL、10mMリン酸緩衝液、9.6質量%スクロースとなるように希釈して、抗原タンパク質の水溶液を得た。室温で、ヒアルロン酸誘導体成分HA-1水溶液と抗原タンパク質の水溶液を容量比で1:1の割合で混合し、37℃で4時間インキュベートすることで、抗原タンパク質-ヒアルロン酸誘導体複合体を含むワクチン組成物を得た。ワクチン組成物100質量部に対する、ヒアルロン酸誘導体の含有量は0.25質量部、抗原タンパクの含有量は0.0165質量部、スクロースの含有量は 9.8質量部、リン酸緩衝液の濃度は5mMであった。
[実施例2]
(アジュバント含有ワクチン組成物の製造)
製造例1-1で得られたヒアルロン酸誘導体成分HA-1を5mg/mL、スクロース12.8質%となるように水へ溶解させた。別の容器にて、抗原タンパク質の濃度が0.66mg/mL、20mMリン酸緩衝液、12.8%スクロースとなるように希釈して、抗原タンパク質の水溶液を得た。CpG-ODN 1826水溶液は100μMとなるように調整した。
室温で、ヒアルロン酸誘導体成分HA-1水溶液、抗原タンパク質の水溶液を容量比で2:1の割合で混合し、37℃で4時間インキュベートすることで、抗原タンパク質-ヒアルロン酸誘導体複合体を含むワクチン組成物を得た。得られたワクチン組成物に各アジュバント水溶液を容量比で3:1の比で混合することで、各アジュバント含有ワクチン組成物を得た。このアジュバント含有ワクチン組成物100質量部に対する、ヒアルロン酸誘導体の含有量は0.25質量部、抗原タンパク質の含有量は0.0165質量部、スクロースの含有量は 9.8質量部、リン酸緩衝液の濃度は5mM、アジュバントの濃度は、25μMであった。
[実施例3]
(アジュバント含有ワクチン組成物の凍結乾燥粉末の再溶解液の製造)
実施例2で得られたCpG-ODN 1826含有ワクチン組成物2mLを6mLの滅菌バイアルに入れ、-80℃で凍結後、減圧することで凍結乾燥を行い、CpG-ODN 1826含有ワクチン組成物の凍結乾燥粉末を得た。
また、得られた凍結乾燥粉末を注射用水にて総容量2mLの水溶液に戻すことで、CpG-ODN 1826含有ワクチン組成物の再溶解液を得た。このCpG-ODN 1826含有ワクチン組成物の凍結乾燥粉末の再溶解液100質量部に対する、ヒアルロン酸誘導体の含有量は0.25質量部、抗原タンパク質の含有量は0.0165質量部、スクロースの含有量は 9.8質量部、リン酸緩衝液の濃度は5mM、アジュバントの濃度は25μMであった。
[比較例1]
ワクチン組成物100質量部に対する、抗原タンパクの含有量は0.0165質量部、スクロースの含有量は 9.8質量部、リン酸緩衝液の濃度は5mMとなるように調整し、ワクチン組成物を得た。
[複合化の確認]
以下の測定により抗原タンパク質がすべてヒアルロン酸誘導体成分に複合化されていることを確認した。
(評価方法)
実施例1のワクチン組成物、実施例2のアジュバント含有ワクチン組成物、実施例3のアジュバント含有ワクチン組成物の凍結乾燥粉末の再溶解液、及び比較例1のワクチン組成物、ヒアルロン酸誘導体成分HA-1の2.5mg/mL溶液を以下の測定条件にて測定した。
(測定条件)
カラム:TSKgel G2000SWXL(東ソー株式会社製)
カラム温度:30℃
溶離液:10mM リン酸緩衝液(pH7.4)
流速:1mL/分
注入量:100μL
(結果)
比較例1では、9.4分に抗原タンパクに由来するピークが確認されるのに対し、実施例1、実施例2、及び実施例3の組成物では、9.4分に抗原タンパクに由来するピークは確認されず、6.0分にヒアルロン酸誘導体成分に由来する成分のピークが、ヒアルロン酸誘導体成分HA-1のみの溶液と比較して面積値が増大しており、ヒアルロン酸誘導体成分HA-1に完全に複合化されていることがわかった。
[試験例1]
(マウス皮下投与による抗体産生能亢進効果の評価)
実施例1及び2で作製した各ワクチン組成物を用いて、抗体産生能の亢進効果を評価した。処方は、下記表1及び表2に示すとおりである。1回目の投与から10日後に、同量を皮下投与した(すなわち、投与回数は2回とした)。なお、表1及び表2は、別日に独立して行った試験である。そのため、表1及び表2において、試験4の処方は、同一であるが、使用したELISAのロットが異なることから、結果に多少の差異がみられた。
表1において、試験2~試験5では、実施例1のワクチン組成物と同時にアジュバント溶液も皮下投与した。使用したアジュバント溶液中の各アジュバントの濃度は、以下に示すとおりである。すなわち、アルミニウム塩ではImject Alum(Thermo Scientific社製、水酸化アルミニウム40mg/mLと水酸化マグネシウム40mg/mLの混合液)を用いた。また、スクアレンは原液をそのまま用い、CpG-ODN 1826では100μM、CpG-K3では100μMであった。
Figure 2023089973000006
Figure 2023089973000007
(抗体産生能の評価方法)
抗体産生能の評価方法は、以下に示すとおりである。
酵素結合免疫吸着法(enzyme-linked immunosorbent assay、以下ELISAという。)により、上記試験1~7及び比較試験1の処方の溶液を皮下投与したマウスから採取した産生抗体を含む各血清(2回目の接種から10日後に採取)を評価した。抗原として、SARS-CoV-2スパイクタンパク質が固定化されている、SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗体測定プレート(mAbProtein、E-S-002)に、産生抗体を含む各血清(500倍希釈)を添加して抗原抗体反応を行なった。洗浄後に酵素標識した抗マウスIgG抗体(Jackson ImmunoResearch Laboratories)を添加してプレートリーダーで吸光度(波長450nm、バックグランド波長620nm)を測定し、抗体価を吸光度(OD)として決定した。陰性コントロール血清として、処理前のマウス血清を使用した。発色時間は、遮光して25℃、15分とし、その他すべて同一条件下で行った。結果を上記表1及び表2に示す。
表1及び表2に示すように、ヒアルロン酸誘導体成分を含まない比較試験1と比較して、試験1~試験7ではすべて高い抗体価を示すことがわかった。このことから、ヒアルロン酸誘導体成分の液性免疫活性能が示された。
また、アジュバントとして、CpGを用いた場合には、さらに高い抗体価を示し、より好適な組成であることがわかった。
また、表2に示すように、CpGを予め加えた単一溶液として投与したほうがより高い抗体産生が確認され、また、凍結乾燥粉末とした後、再懸濁した溶液を接種したほうが、さらに高い抗体産生が確認された。これにより、CpGを予め加えた単一溶液とし、且つ、凍結乾燥粉末とした後、再懸濁することが、ワクチンとしてより高い抗体産生能を示すことが明らかとなった。
(平均粒子径の評価方法)
実施例1のワクチン組成物、実施例2のアジュバント含有ワクチン組成物、及び実施例3のアジュバント含有ワクチン組成物の凍結乾燥粉末の再溶解液をヒアルロン酸誘導体成分が2mg/mLになるように超純水で希釈後、20mmol/L リン酸緩衝液(pH7.4)で2倍希釈した後に以下条件でDLS測定を行った。
(測定条件)
DLS装置:大塚電子製、ELSZ2000
セル:微量粒径セル
温度:37℃
ヒアルロン酸誘導体組成物の濃度:1mg/mL
Figure 2023089973000008
(抗体解析の評価方法)
感染阻害実験によるウイルス中和活性を測定することにより、上記試験4の処方の溶液を皮下投与したマウスから採取した産生抗体を含む血清の抗体価を評価した。具体的には、上記血清を用いて、SARS-CoV-2(JPN/TY-WK-521株、GenBank:LC522975.1)の、Vero E6細胞への感染阻害実験を封じ込めレベルP3で行なった。上記血清を、20倍から5,120倍までの2倍段階希釈したサンプルを用いて、ウイルスのみの感染時のプラーク数から50%減少した希釈倍率により阻害活性を評価した。阻害活性は、50% Plaque Reduction Neutralization Test(PRNT50)で評価を行った。
その結果、ウイルスのみの感染時のプラーク数から50%減少した希釈倍率は、20~80倍であり、良好な阻害活性が確認された。
(長期抗体維持能の評価方法)
上記2回目の投与から1年(365日経過)後に、上記「抗体産生能の評価方法」と同様の方法を用いて、1年経過後の血清(上記2回目の接種から1年(365日経過)後)の抗体価を評価した。結果を以下の表4に示す。
Figure 2023089973000009
(免疫記憶能の評価方法1)
上記2回目の接種から1年(365日経過)後に、抗体価が0.1以下になったものを選定し、そのマウスに、同じワクチン組成物の皮下投与試験を行った。投与した処方は、下記表5に示すとおりである。1回目の接種から10日後に、同量を皮下投与した。上記「抗体産生能の評価方法」と同様の方法を用いて、血清中の(投与前(上記2回目の接種から1年(365日経過)後)中の抗体価を評価した。そのうち抗体価が0.1以下のものを選定し、同じワクチン組成物を皮下投与した(すなわち、投与回数は3回とした)。10日後、上記「抗体産生能の評価方法」と同様の方法を用いて、血清中(上記3回目の接種から10日後)中の抗体価を評価した。結果を以下の表5に示す。
Figure 2023089973000010
表4及び表5に示すように、ヒアルロン酸誘導体成分を含まない比較試験2と比較して、試験8~試験9では、長期間抗体産生能が維持されていることがわかった。また、上記2回目の接種から1年経過後に投与することで、抗体価の上昇が見られたことから、長期間免疫記憶が維持されていることが明らかとなった。
また、アジュバントとして、CpGを用いた場合でも、長期間高い抗体価を維持できることがわかった。
(免疫記憶能の評価方法2)
上記2回目の接種から3か月(90日経過)後に、抗体価が0.1以下になったものを選定し、そのマウスに、同じワクチン組成物の皮下投与試験を行った。投与した処方は、下記表6に示すとおりである。1回目の接種から10日後に、同量を皮下投与した。上記「抗体産生能の評価方法」と同様の方法を用いて、血清中(上記2回目の接種から3か月(90日経過)後)の抗体価を評価した。そのうち抗体価が0.1以下のものを選定し、表6の処方(3回目接種)に示すワクチン組成物を皮下投与した(すなわち、投与回数は3回とした)。10日後、3か月後、6か月後、上記「抗体産生能の評価方法」と同様の方法を用いて、血清中(上記3回目の接種から10日後、3か月後、6か月後)の抗体価を評価した。結果を以下の表6に示す。
Figure 2023089973000011
これにより、免疫記憶後に抗体価を上昇させた場合でも、長期に抗体価を維持できることがわかった。
<蛍光修飾ヒアルロン酸誘導体成分の製造>
[製造例1-2]
(蛍光(Cy5)修飾ヒアルロン酸誘導体成分HK1の製造)
Chol塩酸塩を添加する前に、HAユニットに対するCy-5amineの添加量がモル比で4/100となるように添加した後、HAユニットに対するDMT-MMの添加量がモル比で6/100となるように加え、室温で一晩撹拌し反応すること以外は、製造例1-1に記載のヒアルロン酸誘導体成分HA-1の製造方法と同様の方法で蛍光修飾ヒアルロン酸誘導体成分HK1を得た。
<蛍光修飾抗原タンパク質の製造>
[製造例2-2]
(蛍光(FITC)修飾抗原タンパク質SJKの製造)
フルオレセイン標識用キット-NH2(同仁化学研究所)を用いて、キットマニュアルに従い蛍光ラベル化を行った。使用した抗原タンパク溶液は0.5mg/mLであった。最終的には10mMのリン酸緩衝液に溶解し、回収した。得られた溶液を抗原タンパクSJK水溶液として用いた。
<蛍光修飾ワクチン組成物の製造>
[実施例4]
(蛍光修飾ワクチン組成物HK1SJK-1の製造)
蛍光修飾ヒアルロン酸誘導体成分HK1の濃度が2.5mg/mL、蛍光修飾抗原タンパク質SJKの濃度が0.165mg/mLとなるように、5mM リン酸緩衝液及び9.8質量%スクロース含有水溶液に溶解し、37℃4時間インキュベートを行い、蛍光修飾ワクチン組成物HK1SJK-1を作製した。
[試験例2]
(リンパ節移行性の評価)
次いで、ワクチン組成物のリンパ節移行性を評価した。
なお、比較試験2に用いる溶液として、蛍光修飾抗原タンパク質SJKの濃度が0.165mg/mLとなるように、5mM リン酸緩衝液及び9.8質量%スクロース含有水溶液に溶解し、蛍光修飾抗原タンパク質溶液SJK-1を予め作製した。
CDF1マウス背部右下へ蛍光修飾抗原タンパク質溶液SJK-1、又は、蛍光修飾ワクチン組成物HK1SJK-1(それぞれ100μL)を皮下投与し、6時間後又は1日後に所属リンパ節である鼠径リンパ節、及び、投与箇所を含む背部皮膚を回収した。IVIS(In Vivo Imaging System)により鼠径リンパ節と皮膚の蛍光強度を測定した。また、共焦点レーザー顕微鏡により、投与側の鼠径リンパ節を三次元観察した。鼠径リンパ節における蛍光強度測定の結果を図1(A)(蛍光(FITC)修飾抗原タンパク質SJK)及び図1(B)(蛍光(Cy5)修飾ヒアルロン酸誘導体成分HK1)に、皮膚における蛍光強度測定の結果を図2(A)(蛍光(FITC)修飾抗原タンパク質SJK)及び図2(B)(蛍光(Cy5)修飾ヒアルロン酸誘導体成分HK1)に、鼠径リンパ節の共焦点レーザー顕微鏡による三次元観察像を図3(A)(蛍光(FITC)修飾抗原タンパク質SJK)及び図3(B)(蛍光(Cy5)修飾ヒアルロン酸誘導体成分HK1)に示す。
図1に示すように、蛍光修飾抗原タンパク質溶液SJK-1は所属リンパ節での蛍光が殆ど観測されず、リンパ節移行性に乏しいことが示された。その一方で、蛍光修飾ワクチン組成物HK1SJK-1は、FITC及びCy5由来の強い蛍光が観測され、抗原タンパク質のヒアルロン酸誘導体による複合化により、リンパ節への抗原送達性が向上したことが示された。また、投与24時間後においても蛍光修飾ヒアルロン酸誘導体成分HK1は鼠径リンパ節へ滞留していることが示された。
図2に示すように、皮下における滞留性に関しても同様であり、ヒアルロン酸誘導体成分HK1による抗原複合化により、皮下での拡散が抑制され、抗原の皮下滞留性が向上したことが示された。
図3に示すように、共焦点レーザー顕微鏡による三次元観察により、蛍光修飾抗原タンパク質SJK、及び、蛍光修飾ヒアルロン酸誘導体成分HK1のリンパ節内分布を観察したところ、IVISの結果と同様に、蛍光修飾抗原タンパク質溶液SJK-1投与群では蛍光が観察されなかった。一方で、蛍光修飾ワクチン組成物HK1SJK-1投与群では、蛍光修飾抗原タンパク質SJK、及び、蛍光修飾ヒアルロン酸誘導体成分HK1が共にリンパ節内部に浸潤していることが示された。また、それらの蛍光は共局在しており、蛍光修飾ワクチン組成物HK1SJK-1は、複合体の状態を保持してリンパ節内部へ浸潤していることが明らかとなった。
<ワクチン組成物の製造2>
[実施例5]
(ワクチン組成物の凍結乾燥粉末の再溶解液の製造)
実施例1で得られたワクチン組成物2mLを6mLの滅菌バイアルに入れ、-80℃で凍結後、減圧することで凍結乾燥を行い、ワクチン組成物の凍結乾燥粉末を得た。
得られたワクチン組成物の凍結乾燥粉末を、25℃28日間又は40℃30日間保存した。
得られた保存後の凍結乾燥粉末を注射用水にて総容量2mLの水溶液に戻すことで、ワクチン組成物の再溶解液を得た。このワクチン組成物の凍結乾燥粉末の再溶解液100質量部に対する、ヒアルロン酸誘導体の含有量は0.25質量部、抗原タンパク質の含有量は0.0165質量部、スクロースの含有量は 9.8質量部、リン酸緩衝液の濃度は5mMであった。
[試験例3]
(マウス皮下投与による抗体産生能亢進効果の評価2)
実施例5で得られた再溶解液を用いて、抗体産生能の亢進効果を評価した(試験12、13)。比較試験4として、比較試験1と同じ組成の溶液を調整し投与した。1回目の投与から10日後に、同量を皮下投与した(すなわち、投与回数は2回とした)。2回目の投与から10日経過後に、後述する10-2.1抗体を用いた以外は上記試験例1に記載の「抗体産生能の評価方法」と同様の方法を用いて、10日経過後の血清の抗体価を評価した。結果を以下の表7に示す。
Figure 2023089973000012
表7に示すように、ヒアルロン酸誘導体成分を含まない比較試験4と比較して、試験12~13では、高い抗体価を示すことがわかった。
(検量線に用いる抗体の検討)
発明者らは、スパイクタンパク質をマウスに免疫し、モノクローナル抗体を得て、その立体構造を認識し捕捉できる抗体を免疫沈降法により更に選別し、多数の抗体を得た。中でも、スパイクタンパク質を効率よく認識する10-2.1抗体を標準抗体とした検量線を使用することにより、抗体価を正確に評価することができた。
検体と同時に、標準抗体10-2.1(後述)は1,000ng/mLから2.1ng/mLまで段階希釈し、上記試験例1に記載の「抗体産生能の評価方法」と同様の方法を用いて、測定を行った。標準抗体の段階希釈を検量線として、Prism(GraphPad Software)等の解析ソフトを用いて、定量化することができた。
10-2.1を標準抗体として使用するにあたり、遺伝子解析の結果を以下に示す。ハイブリドーマ10-2.1からRNAを抽出後、oligo-dTプライマーを用いて逆転写しcDNAを作成した。合成したcDNAを、H鎖及びL鎖のプライマーセットを用いて、ダイレクトシークエンス法により超可変領域の抗体遺伝子の配列、及びアミノ酸配列を決定した。用いたプライマー配列は以下のとおりである。なお、下線部は制限酵素の認識サイトを示す。すなわち、配列番号9及び11の「ggatcc」はBamHIサイトであり、配列番号10及び12の「gaattc」はEcoRIサイトである。
Figure 2023089973000013
ハイブリドーマ10-2.1抗体のH鎖のアミノ酸配列(配列番号13)、塩基配列(
配列番号14)、L鎖のアミノ酸配列(配列番号15)、塩基配列(配列番号16)を決
定した。また、CDRのアミノ酸配列を表9に、塩基配列を表10に示す。
Figure 2023089973000014
Figure 2023089973000015
本実施形態のワクチン組成物によれば、ポリエチレングリコール鎖を使用せず、且つ、従来よりも免疫記憶の期間が向上したワクチン組成物を提供することができる。

Claims (9)

  1. SARSコロナウイルス-2のスパイクタンパク質のS1サブユニットの少なくとも一部を含む、抗原タンパク質と、
    ヒアルロン酸及びステリル基が導入されたヒアルロン酸誘導体を含む、ヒアルロン酸誘導体成分と、
    を含み、
    前記ヒアルロン酸誘導体が、下記一般式(I)で表される繰り返し単位を1以上有し、
    前記ヒアルロン酸及び前記ヒアルロン酸誘導体に由来する二糖の繰り返し単位に対する、前記ステリル基の導入率が30%以上60%以下である、ワクチン組成物。
    Figure 2023089973000016
    (式中、R、R、R、及びRは、それぞれ独立に、水素原子、C1-6アルキル、ホルミル及びC1-6アルキルカルボニルからなる群より選択され;
    Zは、直接結合、又は2個以上30個以下の任意のアミノ酸残基からなるペプチドリンカーを表し;
    は、以下の式:
    -NR-R、
    -NR-COO-R、
    -NR-CO-R、
    -NR-CO-NR-R、
    -COO-R、
    -O-COO-R、
    -S-R、
    -CO-Y-S-R、
    -O-CO-Y-S-R、
    -NR-CO-Y-S-R、及び
    -S-S-R、
    で表される基からなる群より選択される基であり;
    、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、C1-20アルキル、アミノC2-20アルキル及びヒドロキシC2-20アルキルからなる群より選択され、ここで当該基のアルキル部分は、-O-及び-NR-からなる群より選択される基が挿入されていてもよく;
    は、水素原子、C1-12アルキル、アミノC2-12アルキル及びヒドロキシC2-12アルキルからなる群より選択され、当該基のアルキル部分は-O-及び-NH-からなる群より選択される基が挿入されていてもよく;
    Rは、ステリル基であり;
    Yは、C2-30アルキレン、又は-(CHCHO)-CHCH-であり、ここで、当該アルキレンは、-O-、-NR-及び-S-S-からなる群より選択される基が挿入されていてもよく;
    は、水素原子、C1-20アルキル、アミノC2-20アルキル及びヒドロキシC2-20アルキルからなる群より選択され、当該基のアルキル部分は-O-及び-NH-からなる群より選択される基が挿入されていてもよく;
    は、C1-5アルキレンであり;
    は、C2-8アルキレン又はC2-8アルケニレンであり;
    mは、1以上100以下の整数である。)
  2. 皮下注射又は筋肉内注射によって投与される、請求項1に記載のワクチン組成物。
  3. 前記抗原タンパク質が、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなる、請求項1又は2に記載のワクチン組成物。
  4. アジュバントを更に含む、請求項1又は2に記載のワクチン組成物。
  5. 前記アジュバントがアニオン性化合物である、請求項4に記載のワクチン組成物。
  6. 前記アジュバントがCpGオリゴデオキシヌクレオチドである、請求項5に記載のワクチン組成物。
  7. 前記ステリル基がコレステリル基である、請求項1又は2に記載のワクチン組成物。
  8. 凍結乾燥粉末である、請求項1又は2に記載のワクチン組成物。
  9. 前記ヒアルロン酸誘導体の分子量が4,000以上1,000,000以下である、請求項1又は2に記載のワクチン組成物。
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