JP2023070661A - ベータコロナウイルスの不活化抗原 - Google Patents

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Abstract

【課題】不活化前から安全性が高められているウイルス株を元株として用いた不活化ワクチンを提供する。【解決手段】以下の変異を有する構造タンパク質及び/又は非構造タンパク質を含むベータコロナウイルスの不活化抗原を含む不活化ワクチン:NSP3における、特定の配列の第404位のV、第445位のL、第1792位のK、及び/又は第1832位のDに相当する部位の変異;NSP14における、特定の配列の第248位のG、第416位のG、及び/又は第504位のAに相当する部位の変異;NSP16における、特定の配列の第67位のVに相当する部位の変異;スパイクにおける、特定の配列の第54位のL、第739位のT、及び/又は第879位のAに相当する部位の変異、;エンベロープにおける、特定の配列の第28位のLに相当する部位の変異、並びに/若しくは、ヌクレオカプシドにおける、特定の配列の第2位のSに相当する部位の変異。【選択図】なし

Description

特許法第30条第2項適用申請有り ▲1▼集会名:第7回日経・FT感染症会議 開催場所:https://channel.nikkei.co.jp/kansen2020/2563.html(オンライン開催・発表会場URL) 開催日:令和2年11月6日~7日 ▲2▼刊行物名:第24回日本ワクチン学会学術集会 プログラム・抄録集 第64頁 発行者名:日本ワクチン学会 発行日:令和2年11月17日 ▲3▼集会名:第24回日本ワクチン学会学術集会 開催場所:https://www.cs-oto.com/jsvac24/web.html(オンライン開催) 開催日:令和2年12月19日~20日 ▲4▼ウェブサイト名:bioRxiv 掲載アドレス:https://doi.org/10.1101/2021.02.15.430863 掲載日:令和3年2月16日 ▲5▼刊行物名:日本薬学会第141年会(広島)Web要旨集 27V07-pm15頁 発行者名:公益社団法人日本薬学会 掲載日:令和3年3月5日
特許法第30条第2項適用申請有り ▲6▼集会名:日本薬学会第141年会(広島) 開催場所:https://www.rogbank.jp/3/3/index.html?id=WGtXADLWxPKrlPKpoY2Y7hCu2016(オンライン開催) 開催日:令和3年3月26日~29日 ▲7▼刊行物名:日刊工業新聞第11頁 発行者名:株式会社日刊工業新聞社 発行日:令和3年7月2日 ▲8▼ウェブサイト名:Vaccine 掲載アドレス:https://doi.org/10.1016/j.vaccine.2021.08.018 掲載日:令和3年8月11日 ▲9▼ウェブサイト名:医薬経済WEB 掲載アドレス:https://risfax.co.jp/iyakukeizai/173815 掲載日:令和3年10月15日 ▲10▼集会名:第68回日本ウイルス学会学術集会 開催場所:https://www.rogbank.jp/3/6/index.html?id=jsv68m4yz9bY2w6AF7Z7LWgUEp214 (録画配信によるオンライン開催・発表会場URL及びオンデマンド配信URL) 開催日:令和3年11月16日~18日(録画配信) 令和3年12月18日~26日(オンデマンド配信)
特許法第30条第2項適用申請有り ▲11▼集会名:第69回日本実験動物学会総会 開催場所:仙台国際センター(宮城県仙台市青葉区青葉山無番地) 開催日:令和4年5月18日~20日 ▲12▼ウェブサイト名:第69回日本ウイルス学会学術集会 電子抄録 掲載アドレス:https://confit.atlas.jp/guide/event/jsv69/top 発行日:令和4年10月14日 ▲13▼ウェブサイト名:iScience 掲載アドレス:https://www.cell.com/iscience/fulltext/S2589-0042(22)01684-4 https://www.cell.com/cms/10.1016/j.isci.2022.105412/attachment/c812f4f3-5f32-4a69-a482-d9653eb25b17/mmc1.pdf(Supplemental Information) 掲載日:令和4年10月20日
本発明は、ベータコロナウイルスの不活化抗原に関する。
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)による感染症(COVID-19)はパンデミックを引き起こし、今なお社会的な問題となっている。本感染症に対するワクチンとしては、ロシアで承認されたアデノウイルスベクターワクチンであるスプートニクV(非特許文献1)を皮切りとして、アデノウイルスベクターワクチン及びmRNAワクチンといった遺伝子ワクチンが承認され、世界中で接種が進められている。
THE LANCET, VOLUME 396, ISSUE 10255, P887-897, SEPTEMBER 26,2020
しかしながら、遺伝子ワクチンは従来型のワクチンとは異なる次世代型のワクチンであり、発熱及び血栓症等の副反応が報告されている。このため、引き続き新たなワクチン開発は重要だと考えられる。不活化ワクチンは伝統的なワクチンの一つであり、大量に培養したウイルスを化学的な処理等により感染性を失わせ、これにより得られる不活化ウイルス粒子又はタンパク質をワクチン抗原とする。
不活化ワクチンを製造する際には、ウイルスの大量培養を必要とする。SARS-CoV-2に対する不活化ワクチンを製造するために、野生型のSARS-CoV-2を使用すると、製造業務に従事する者に対する感染リスクが深刻である。また、ウイルスの感染性を失わせる処理が不十分な場合、製品中に微量ながら強毒性の生残ウイルスが混入し、同様の感染リスクがある。
そこで本発明は、上記リスクに鑑み、不活化前から安全性が高められているウイルス株をシード株(以下、元株ともいう)として用いた不活化抗原及び当該抗原を含む不活化ワクチンを提供することを目的とする。
本発明者は鋭意検討の結果、所定の変異を有するSARS-CoV-2が、ヒトの体温(いわゆる下気道温度)での増殖性が制限され低温(典型的にはヒトの上気道温度以下)特異的に増殖能を有する特性(以下において、「温度感受性」と記載する。)を獲得していること、及び、当該所定の変異が、ベータコロナウイルス一般において温度感受性をもたらし、不活化抗原の製造に伴うリスク低減に寄与し得ることを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて、さらに検討を重ねることにより完成された発明である。すなわち、本発明は以下に掲げる態様の発明を提供する。
項1. 以下の(a)~(m)の少なくともいずれかの変異を有する構造タンパク質及び/又は非構造タンパク質を含むベータコロナウイルス温度感受性株の不活化抗原:
(a)NSP3における、配列番号1に示すアミノ酸配列の第404位のバリンに相当するアミノ酸残基の変異、
(b)NSP3における、配列番号1に示すアミノ酸配列の第445位のロイシンに相当するアミノ酸残基の変異、
(c)NSP3における、配列番号1に示すアミノ酸配列の第1792位のリシンに相当するアミノ酸残基の変異、
(d)NSP3における、配列番号1に示すアミノ酸配列の第1832位のアスパラギン酸に相当するアミノ酸残基の変異、
(e)NSP14における、配列番号2に示すアミノ酸配列の第248位のグリシンに相当するアミノ酸残基の変異、
(f)NSP14における、配列番号2に示すアミノ酸配列の第416位のグリシンに相当するアミノ酸残基の変異、
(g)NSP14における、配列番号2に示すアミノ酸配列の第504位のアラニンに相当するアミノ酸残基の変異、
(h)NSP16における、配列番号3に示すアミノ酸配列の第67位のバリンに相当するアミノ酸残基の変異、
(i)スパイクにおける、配列番号4に示すアミノ酸配列の第54位のロイシンに相当するアミノ酸残基の変異、
(j)スパイクにおける、配列番号4に示すアミノ酸配列の第739位のトレオニンに相当するアミノ酸残基の変異、
(k)スパイクにおける、配列番号4に示すアミノ酸配列の第879位のアラニンに相当するアミノ酸残基の変異、
(l)エンベロープにおける、配列番号5に示すアミノ酸配列の第28位のロイシンに相当するアミノ酸残基の変異、及び
(m)ヌクレオカプシドにおける、配列番号6に示すアミノ酸配列の第2位のセリンに相当するアミノ酸残基の変異。
上記項1の発明の具体例として、以下の発明が挙げられる。
以下の(I-1)~(I-6)、(II)及び(III)の少なくともいずかのポリペプチドからなる構造タンパク質及び/又は非構造タンパク質を含むベータコロナウイルス温度感受性株の不活化抗原:
(I-1)配列番号1に示すアミノ酸配列において、第404位バリンの変異(a’)、第445位ロイシンの変異(b’)、第1792位リシンの変異(c’)、及び第1832位アスパラギン酸の変異(d’)の少なくともいずれかの変異を有するアミノ酸配列からなるポリペプチド(NSP3)、
(I-2)配列番号2に示すアミノ酸配列において、第248位グリシンの変異(e’)、第416位グリシンの変異(f’)、及び第504位アラニンの変異(g’)の少なくともいずれかの変異を有するアミノ酸配列からなるポリペプチド(NSP14)、
(I-3)配列番号3に示すアミノ酸配列において、第67位バリンの変異(h’)を有するアミノ酸配列からなるポリペプチド(NSP16)、
(I-4)配列番号4に示すアミノ酸配列において、第54位ロイシンの変異(i’)、第739位トレオニンの変異(j’)、及び第879位アラニンの変異(k’)の少なくともいずれかの変異を有するアミノ酸配列からなるポリペプチド(スパイク)、
(I-5)配列番号5に示すアミノ酸配列において、第28位ロイシンの変異(l’)を有するアミノ酸配列からなるポリペプチド(エンベロープ)、
(I-6)配列番号6に示すアミノ酸配列において、第2位セリンの変異(m’)を有するアミノ酸配列からなるポリペプチド(ヌクレオカプシド);
(II)前記(I-1)~(I-6)のポリペプチドのアミノ酸配列において、前記変異(a’)~(m’)に係るアミノ酸残基以外の1個又は複数個のアミノ酸残基が、置換、付加、挿入又は欠失されてなり、温度感受性能を獲得したベータコロナウイルスを構成するポリペプチド;
(III)前記(I-1)~(I-6)のポリペプチドのアミノ酸配列における前記変異(a’)~(m’)に係るアミノ酸残基を除いたアミノ酸配列の配列同一性が50%以上であり、温度感受性を獲得したベータコロナウイルスを構成するポリペプチド。
項2. 前記ベータコロナウイルスが、SARS-CoV-2である、項1に記載のウイルス温度感受性株の不活化抗原。
項3. 前記(a)の変異がアラニンへの置換であり、前記(b)の変異がフェニルアラニンへの置換であり、前記(c)の変異がアルギニンへの置換であり、前記(d)の変異がアスパラギンへの置換であり、前記(e)の変異がバリンへの置換であり、前記(f)の変異がセリンへの置換であり、前記(g)の変異がバリンへの置換であり、前記(h)の変異がイソロイシンへの置換であり、前記(i)の変異がトリプトファンへの置換であり、及び/又は、前記(j)の変異がリシンへの置換であり、前記(k)の変異がバリンへの置換であり、前記(l)の変異がプロリンへの置換であり、及び/又は、前記(m)の変異がフェニルアラニンへの置換である、項1又は2に記載の不活化抗原。
項4. 前記ベータコロナウイルス温度感受性株が、前記(b)の変異、前記(e)の変異と前記(f)の変異との組み合わせ、並びに/若しくは前記(h)の変異を有する非構造タンパク質を含む、項1又は2に記載の不活化抗原。
項5. 前記ベータコロナウイルス温度感受性株が、前記(b)の変異、前記(e)の変異と前記(f)の変異との組み合わせ、並びに/若しくは前記(h)の変異を有する非構造タンパク質を含む、項3に記載の不活化抗原。
項6. 項1、2又は5に記載の不活化抗原を含む、不活化ワクチン。
項7. 項3に記載の不活化抗原を含む、不活化ワクチン。
項8. 項4に記載の不活化抗原を含む、不活化ワクチン。
項9. 以下の(a)~(m)の少なくともいずれかの変異を有する構造タンパク質及び/又は非構造タンパク質を含むベータコロナウイルス温度感受性株を不活化する工程を含む、不活化抗原の製造方法:
(a)NSP3における、配列番号1に示すアミノ酸配列の第404位のバリンに相当するアミノ酸残基の変異、
(b)NSP3における、配列番号1に示すアミノ酸配列の第445位のロイシンに相当するアミノ酸残基の変異、
(c)NSP3における、配列番号1に示すアミノ酸配列の第1792位のリシンに相当するアミノ酸残基の変異、
(d)NSP3における、配列番号1に示すアミノ酸配列の第1832位のアスパラギン酸に相当するアミノ酸残基の変異、
(e)NSP14における、配列番号2に示すアミノ酸配列の第248位のグリシンに相当するアミノ酸残基の変異、
(f)NSP14における、配列番号2に示すアミノ酸配列の第416位のグリシンに相当するアミノ酸残基の変異、
(g)NSP14における、配列番号2に示すアミノ酸配列の第504位のアラニンに相当するアミノ酸残基の変異、
(h)NSP16における、配列番号3に示すアミノ酸配列の第67位のバリンに相当するアミノ酸残基の変異、
(i)スパイクにおける、配列番号4に示すアミノ酸配列の第54位のロイシンに相当するアミノ酸残基の変異、
(j)スパイクにおける、配列番号4に示すアミノ酸配列の第739位のトレオニンに相当するアミノ酸残基の変異、
(k)スパイクにおける、配列番号4に示すアミノ酸配列の第879位のアラニンに相当するアミノ酸残基の変異、
(l)エンベロープにおける、配列番号5に示すアミノ酸配列の第28位のロイシンに相当するアミノ酸残基の変異、及び
(m)ヌクレオカプシドにおける、配列番号6に示すアミノ酸配列の第2位のセリンに相当するアミノ酸残基の変異。
項10. 前記不活化する工程を、物理的処理又は化学的処理によって行う、項9に記載の製造方法。
項11. 前記化学的処理を、β-プロピオラクトンを用いて行う、項10に記載の製造方法。
本発明によれば、不活化前から安全性が高められているウイルス株を元株として用いた不活化抗原及び当該抗原を含む不活化ワクチンが提供される。
SARS-CoV-2の温度感受性化方法を示す。 SARS-CoV-2の温度感受性の確認結果(CPE像)を示す。 各々のウイルス株の変異解析結果を示す。 温度感受性株(A50-18)の復帰変異の可能性がある株によるCPE像を示す。 温度感受性株(A50-18)の復帰変異の可能性がある株によるCPE像を示す。 温度感受性株(A50-18)における変異を導入した組換えウイルスの温度感受性の確認結果を示す。 温度感受性株(A50-18)における変異を導入した組換えウイルスの温度感受性の確認結果を示す。 温度感受性株(A50-18)の増殖性解析結果を示す。 温度感受性株(A50-18)の増殖性解析結果を示す。 SARS-CoV-2感染ハムスターの体重変動を示す。 SARS-CoV-2感染ハムスターの体重変動を示す。 肺内又は鼻腔洗浄液のウイルス量を示す。 SARS-CoV-2感染ハムスターの肺画像を示す。 SARS-CoV-2感染ハムスターの肺組織学的解析結果を示す。 SARS-CoV-2感染ハムスターの肺組織学的解析結果(HE染色及びIHC染色)を示す。 SARS-CoV-2再感染ハムスターの体重変動を示す。 SARS-CoV-2感染後のハムスターの体重変動を示す。 SARS-CoV-2感染後の回復ハムスター血清の中和抗体価を示す。 SARS-CoV-2の温度感受性化方法(G~L50シリーズ)を示す。 SARS-CoV-2の温度感受性の確認結果(CPE像)を示す。 追加分離株(H50-11、L50-33、L50-40)の変異解析結果を示す。 温度感受性株(H50-11)の復帰変異の可能性がある株によるCPE像を示す。 温度感受性株(L50-33、L50-40)の復帰変異の可能性がある株によるCPE像を示す。 温度感受性株(H50-11、L50-33、L50-40)に関連して見出された塩基配列の欠失を示す。 図17で示した塩基配列の欠失及びそれにコードされるアミノ酸配列の欠失の概要図を示す。 温度感受性株(H50-11、L50-33、L50-40)の増殖性解析結果を示す。 SARS-CoV-2感染ハムスターの体重変動を示す。 SARS-CoV-2感染ハムスターの肺重量を示す。 肺内又は鼻腔洗浄液のウイルス量を示す。 SARS-CoV-2再感染ハムスターの体重変動を示す。 SARS-CoV-2感染後ハムスター血清の中和抗体価を示す。 温度感受性株の、SARS-CoV-2変異株に対する中和活性評価を示す。 温度感受性株の投与経路による免疫誘導能の比較を示す。 温度感受性株の投与量による免疫誘導能の比較を示す。 温度感受性株の、SARS-CoV-2変異株に対する中和活性評価を示す。 温度感受性株の、SARS-CoV-2変異株に対する中和活性評価を示す。 SARS-CoV-2温度感受性株の不活化抗原のSDS-PAGE電気泳動図及びウエスタンブロッティング(WB)図を示す。 不活化抗原免疫血清の中和抗体価を示す。 不活化抗原免疫ハムスターの感染試験結果を示す。 rTS-all株不活化抗原のSDS-PAGE電気泳動図及びウエスタンブロッティング(WB)図を示す。 rTS-all株の不活化抗原免疫血清の中和抗体価を示す。 rTS-all株の不活化抗原免疫ハムスターの感染試験結果を示す。
1.不活化ワクチン
本発明の不活化ワクチンは、所定の変異を有する構造タンパク質及び/又は非構造タンパク質を含むベータコロナウイルスであって、温度感受性であるもの(以下において、「ベータコロナウイルス温度感受性株」とも記載する。)の不活化抗原を含むことを特徴とする。
1-1.有効成分(不活化抗原)
本発明の不活化ワクチンの有効成分は、ベータコロナウイルス温度感受性株の不活化抗原である。
コロナウイルスは、形態学的には、直径約100~200nmの球形で、表面に突起を有する。コロナウイルスは、ウイルス学的には、ニドウイルス目・コロナウイルス亜科・コロナウイルス科に分類される。脂質二重膜のエンベロープの中に、ヌクレオカプシドタンパク質(以下において、「ヌクレオカプシド」又は「Nucleocapsid」ともいう)に巻きついたプラス鎖の一本鎖RNAのゲノムがあり、エンベロープの表面にはスパイクタンパク質(以下において、「スパイク」又は「Spike」ともいう)、エンベロープタンパク質(以下において、「エンベロープ」又は「Envelope」ともいう)、メンブレンタンパク質(以下において、「メンブレン」又は「Membrane」ともいう)が配置されている。ウイルスゲノムの大きさは、RNAウイルスの中で最長の約30kbである。ヌクレオカプシド、スパイク、エンベロープ及びメンブレンが、コロナウイルスの構造タンパク質である。NSP1~NSP16が、コロナウイルスの非構造タンパク質である。
コロナウイルスは遺伝学的特徴から、アルファ、ベータ、ガンマ、デルタのグループに分類される。ヒトに感染するコロナウイルスとしては、風邪の原因ウイルスとしてヒトコロナウイルス229E、OC43、NL63、HKU-1の4種類、並びに、重篤な肺炎を引き起こす2002年に発生した重症急性呼吸器症候群(SARS)コロナウイルス及び2012年に発生した中東呼吸器症候群(MERS)コロナウイルスが知られている。アルファコロナウイルス属にはヒトコロナウイルス229E及びNL63が分類され、ベータコロナウイルス属にはヒトコロナウイルスOC43、HKU-1、SARSコロナウイルス及びMERSコロナウイルスが分類される。
2019年武漢にて発生した新型コロナウイルス感染症の原因ウイルスとして、SARSコロナウイルスに分類されるSARS-CoV-2が分離及び同定されている。SARS-CoV-2は、初期の武漢株から変異を繰り返しており、英国で検出された株、南アフリカで検出された株、インドで検出された株などの変異株が見つかっている。いまだ検出されていない変異株や、今後新たに変異株が発生する可能性も考えられる。本発明において、ベータコロナウイルス属に含まれるウイルスには、上記のSARS-CoV-2の株に限定されず、それ以外の全てのベータコロナウイルス(例えば、今後新たに検出される他のSARS-CoV-2変異株及びSARS-CoV-2以外のベータコロナウイルス、並びに、SARS-CoV-2又はSARS-CoV-2以外のベータコロナウイルスのスパイクタンパク質を、他のSARS-CoV-2及びSARS-CoV-2以外のベータコロナウイルス(今後新たに検出されるウイルスを含む)の少なくともいずれかのスパイクタンパク質に入れ替えた組換えウイルスなど)も含まれる。
有効成分の元株であるベータコロナウイルス温度感受性株が有する当該所定の変異について、下記表1に基づいて説明する。表1に示される「変異」は、温度感受性能を獲得するための変異を指す。また、表1において、「変異後アミノ酸」及び「NC_045512(NCBI)のSARS-CoV-2の変異体の場合」に示す事項は例示である。
Figure 2023070661000001
本発明におけるベータコロナウイルス温度感受性株が有する当該所定の変異は、以下の(a)~(m)の少なくともいずれかの変異である。
(a)NSP3における、配列番号1に示すアミノ酸配列の第404位のバリンに相当するアミノ酸残基の変異、
(b)NSP3における、配列番号1に示すアミノ酸配列の第445位のロイシンに相当するアミノ酸残基の変異、
(c)NSP3における、配列番号1に示すアミノ酸配列の第1792位のリシンに相当するアミノ酸残基の変異、
(d)NSP3における、配列番号1に示すアミノ酸配列の第1832位のアスパラギン酸に相当するアミノ酸残基の変異、
(e)NSP14における、配列番号2に示すアミノ酸配列の第248位のグリシンに相当するアミノ酸残基の変異、
(f)NSP14における、配列番号2に示すアミノ酸配列の第416位のグリシンに相当するアミノ酸残基の変異、
(g)NSP14における、配列番号2に示すアミノ酸配列の第504位のアラニンに相当するアミノ酸残基の変異、
(h)NSP16における、配列番号3に示すアミノ酸配列の第67位のバリンに相当するアミノ酸残基の変異、
(i)スパイクにおける、配列番号4に示すアミノ酸配列の第54位のロイシンに相当するアミノ酸残基の変異、
(j)スパイクにおける、配列番号4に示すアミノ酸配列の第739位のトレオニンに相当するアミノ酸残基の変異、
(k)スパイクにおける、配列番号4に示すアミノ酸配列の第879位のアラニンに相当するアミノ酸残基の変異、
(l)エンベロープにおける、配列番号5に示すアミノ酸配列の第28位のロイシンに相当するアミノ酸残基の変異、及び
(m)ヌクレオカプシドにおける、配列番号6に示すアミノ酸配列の第2位のセリンに相当するアミノ酸残基の変異。
配列番号1は、NC_045512(NCBI)のSARS-CoV-2におけるNSP3のアミノ酸配列であり;配列番号2は、NC_045512(NCBI)のSARS-CoV-2におけるNSP14のアミノ酸配列であり;配列番号3は、NC_045512(NCBI)のSARS-CoV-2におけるNSP16のアミノ酸配列であり;配列番号4は、NC_045512(NCBI)のSARS-CoV-2におけるスパイクのアミノ酸配列であり;配列番号5は、NC_045512(NCBI)のSARS-CoV-2におけるエンベロープのアミノ酸配列であり;配列番号6は、NC_045512(NCBI)のSARS-CoV-2におけるヌクレオカプシドのアミノ酸配列である。
「相当するアミノ酸残基」とは、本発明におけるベータコロナウイルス温度感受性株がNC_045512(NCBI)のSARS-CoV-2の変異株である場合は、配列番号1~6のアミノ酸配列中の、上記所定位置に存在するアミノ酸残基をいい、本発明におけるベータコロナウイルス温度感受性株が上記変異株以外の他のベータコロナウイルスの変異株である場合は、他のベータコロナウイルスが有するポリペプチドの上記配列番号1~6に対応するアミノ酸配列中の、上記所定位置に対応する位置に存在するアミノ酸残基をいう。当該対応する位置は、NC_045512(NCBI)のSARS-CoV-2の配列番号1~6のタンパク質と、配列番号1~6のタンパク質に対応する他のベータコロナウイルスのタンパク質についてアミノ酸配列のアラインメントを行うことで、特定することができる。
本発明におけるウイルス温度感受性株は、配列番号1~6のアミノ酸配列における上記所定位置に対応するアミノ酸残基が変異していればよいため、NC_045512(NCBI)に収載されている特定のSARS-CoV-2の変異株に限定されるものではなく、他のベータコロナウイルスの変異株(つまり、他の任意のSARS-CoV-2の変異株及びベータコロナウイルス属に含まれるSARS-CoV-2以外のウイルスの変異株)を含む。NC_045512(NCBI)に収載されている特定のSARS-CoV-2の変異株とは、当該特定のSARS-CoV-2における配列番号1~6で表されるアミノ酸配列中の上記所定位置の少なくともいずれかのアミノ酸残基が変異した変異株であり、他のベータコロナウイルスの変異株とは、他の任意のSARS-CoV-2の変異株(つまり、他の任意のSARS-CoV-2における上記配列番号1~6に対応するアミノ酸配列中の、上記所定位置に対応するアミノ酸残基が変異した変異株)と、ベータコロナウイルス属に含まれるSARS-CoV-2以外のウイルスの変異株(つまり、ベータコロナウイルス属に含まれるSARS-CoV-2以外のウイルスにおける上記配列番号1~6に対応するアミノ酸配列中の、上記所定位置に対応するアミノ酸残基が変異した変異株)との両方をいう。他の任意のSARS-CoV-2の変異株及びベータコロナウイルス属に含まれるSARS-CoV-2以外のウイルスの変異株には、SARS-CoV-2又はSARS-CoV-2以外のベータコロナウイルスのスパイクタンパク質を、他のSARS-CoV-2及びSARS-CoV-2以外のベータコロナウイルス(今後新たに検出されるウイルスを含む)の少なくともいずれかのスパイクタンパク質に入れ替えた組換えウイルスの変異株も含まれる。
他のベータコロナウイルスの変異株における上記配列番号1~6に対応するアミノ酸配列は、それぞれ、ポリペプチドの特性に大きく影響しない限り、配列番号1~6に示すアミノ酸配列と相違していることが許容される。ポリペプチドの特性に大きく影響しないとは、それぞれの構造タンパク質及び/又は非構造タンパク質としての機能を保った状態をいう。具体的には、上記の配列番号1~6における変異に対応するアミノ酸残基以外の部位(以下において、「任意相違部位」とも記載する。)において、配列番号1~6との相違が許容される。許容される相違には、置換、付加、挿入、及び欠失の中から選択される1種類の相違(例えば置換)であってもよいし、2種以上の相違(例えば、置換及び挿入)を含んでいてもよい。他の任意のSARS-CoV-2における上記配列番号1~6に対応するアミノ酸配列と、配列番号1~6に示すアミノ酸配列との任意相違部位のみを比較して算出される配列同一性としては、50%以上であればよい。他の任意のSARS-CoV-2においては、当該配列同一性としては、好ましくは60%以上又は70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは85%以上又は90%以上、一層好ましくは95%以上、96%以上、97%以上、又は98%以上、より一層好ましくは99%以上、特に好ましくは99.3%以上、99.5%以上、99.7%以上、99.9%以上が挙げられる。残りの任意のベータコロナウイルスにおいては、当該配列同一性としては、好ましくは60%以上が挙げられる。ここで、「配列同一性」とは、BLASTPACKAGE[sgi32 bit edition,Version 2.0.12;available from National Center for Biotechnology Information(NCBI)]のbl2seq program(Tatiana A.Tatsusova,Thomas L.Madden,FEMS Microbiol.Lett.,Vol.174,p247-250,1999)により得られるアミノ酸配列の同一性の値を示す。パラメーターは、Gap insertion Cost value:11、Gap extension Cost value:1に設定すればよい。
つまり、本発明におけるベータコロナウイルス温度感受性株は、より具体的には以下の通りである:
以下の(I-1)~(I-6)、(II)及び(III)の少なくともいずかのポリペプチドからなる構造タンパク質及び/又は非構造タンパク質を含む、ベータコロナウイルス温度感受性株:
(I-1)配列番号1に示すアミノ酸配列において、第404位バリンの変異(a’)、第445位ロイシンの変異(b’)、第1792位リシンの変異(c’)、及び第1832位アスパラギン酸の変異(d’)の少なくともいずれかの変異を有するアミノ酸配列からなるポリペプチド(NSP3)、
(I-2)配列番号2に示すアミノ酸配列において、第248位グリシンの変異(e’)、第416位グリシンの変異(f’)、及び第504位アラニンの変異(g’)の少なくともいずれかの変異を有するアミノ酸配列からなるポリペプチド(NSP14)、
(I-3)配列番号3に示すアミノ酸配列において、第67位バリンの変異(h’)を有するアミノ酸配列からなるポリペプチド(NSP16)、
(I-4)配列番号4に示すアミノ酸配列において、第54位ロイシンの変異(i’)、第739位トレオニンの変異(j’)、及び第879位アラニンの変異(k’)の少なくともいずれかの変異を有するアミノ酸配列からなるポリペプチド(スパイク)、
(I-5)配列番号5に示すアミノ酸配列において、第28位ロイシンの変異(l’)を有するアミノ酸配列からなるポリペプチド(エンベロープ)、
(I-6)配列番号6に示すアミノ酸配列において、第2位セリンの変異(m’)を有するアミノ酸配列からなるポリペプチド(ヌクレオカプシド);
(II)前記(I-1)~(I-6)のポリペプチドのアミノ酸配列において、前記変異(a’)~(m’)に係るアミノ酸残基以外の1個又は複数個のアミノ酸残基が、置換、付加、挿入又は欠失されてなり、温度感受性能を獲得したベータコロナウイルスを構成するポリペプチド;
(III)前記(I-1)~(I-6)のポリペプチドのアミノ酸配列における前記変異(a’)~(m’)に係るアミノ酸残基を除いたアミノ酸配列の配列同一性が50%以上であり、温度感受性能を獲得したベータコロナウイルスを構成するポリペプチド。
上記(a’)~(m’)の変異は、それぞれ、(a)~(m)の変異が具体的に配列番号1~6のアミノ酸配列に存在する場合の変異を指す。つまり、上記(I-1)~(I-6)のポリペプチドは、NC_045512(NCBI)のSARS-CoV-2が有する配列番号1~6のアミノ酸配列からなるポリペプチドに、変異(a’)~(m’)の少なくともいずれかの変異が導入されたものである。また、上記(II)及び(III)のポリペプチドは、他のベータコロナウイルスが有する配列番号1~6のアミノ酸配列に対応するアミノ酸配列からなるポリペプチドに、上述の変異(a)~(m)の少なくともいずれかの変異が導入されたものである。上記(II)及び(III)のポリペプチドの配列同一性の好ましい範囲は、既に述べた通りである。
このような変異を有することで、ベータコロナウイルスは、温度感受性特性を獲得することができる。本発明におけるウイルス温度感受性株は、ヒトの下気道温度での増殖能が、ヒトの下気道温度よりも低い温度での増殖能よりも少なくとも低下しており、好ましくは、ヒトの下気道温度での増殖能を有しない。本発明において、温度感受性は、ヒトの下気道温度にてウイルス温度感受性株をMOI=0.01でVero細胞に感染させた後、ヒトの下気道温度にて1日培養させた後の培養上清中のウイルス力価(TCID50/mL)が、ヒトの上気道温度にてウイルス温度感受性株をMOI=0.01でVero細胞に感染させた後、ヒトの上気道温度にて1日培養させた後の培養上清中のウイルス力価と比較して、例えば、102以上、好ましくは103以上減少していることにより確認することができる。
典型的には、本発明におけるウイルス温度感受性株は、ヒトの下気道温度での増殖能が、上記(a)~(m)のいずれの変異も有しない場合におけるヒトの下気道温度での増殖能に比べて低下している。このことは、ヒトの下気道温度にてウイルス温度感受性株をMOI=0.01でVero細胞に感染させた後、ヒトの下気道温度にて1日培養させた後の培養上清中のウイルス力価(TCID50/mL)が、ヒトの下気道温度にて上記(a)~(m)のいずれの変異も有しない株をMOI=0.01でVero細胞に感染させた後、ヒトの下気道温度にて1日培養させた後の培養上清中のウイルス力価と比較して、例えば、102以上、好ましくは103以上減少していることにより確認することができる。
ヒトの下気道温度の代表例としては約37℃が挙げられ、具体的には後述の上気道温度より高い温度、好ましくは36~38℃、より好ましくは36.5~37.5℃又は37~38℃が挙げられる。また、本発明におけるウイルス温度感受性株は、ヒトの下気道温度未満の温度での増殖能は有していてもよい。例えば、ヒトの下気道温度より低い温度としては、例えばヒトの上気道温度(具体例として、約32℃~35.5℃)を包含していてもよい。
上記の(a)~(m)の変異は、ウイルスが細胞に感染する際に重要な、ウイルス表面に存在するスパイクタンパク質の受容体結合ドメイン上には存在しない。そのため、NC_045512(NCBI)に収載されている特定のSARS-CoV-2だけでなく、他のベータコロナウイルスにおいても、上記の(a)~(m)の少なくともいずれかの変異を導入することで、温度感受性化することができると合理的に予想される。つまり、世界的な感染症の流行により、ウイルスの免疫原性が変化するような変異が生じた場合においても、当該変異ウイルスにさらに上記の(a)~(m)の少なくともいずれかの変異を導入することで、当該変異ウイルスに対して温度感受性を付与できると合理的に予想される。
本発明におけるベータコロナウイルス温度感受性株の典型例においては、上記の(a)~(m)の変異の中でも、少なくとも、変異(b)、変異(e)と変異(f)との組み合わせ、及び/又は変異(h)を含む。変異(b)、変異(e)と変異(f)との組み合わせ、変異(h)は、本発明におけるベータコロナウイルス温度感受性株の温度感受性の責任変異である。当該典型例においては、当該責任変異以外の他の変異(つまり、変異(a),(c),(d),(g),(i)~(m))は、当該責任変異に加えて含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。
上記(a)の変異はバリン以外のアミノ酸残基への置換であればよく、上記(b)の変異はロイシン以外のアミノ酸残基への置換であればよく、上記(c)の変異はリシン以外のアミノ酸残基への置換であればよく、上記(d)の変異はアスパラギン酸以外のアミノ酸残基への置換であればよく、上記(e)の変異はグリシン以外のアミノ酸残基への置換であればよく、上記(f)の変異はグリシン以外のアミノ酸残基への置換であればよく、上記(g)の変異はアラニン以外のアミノ酸残基への置換であればよく、上記(h)の変異はバリン以外のアミノ酸残基への置換であればよく、上記(i)の変異はロイシン以外のアミノ酸残基への置換であればよく、上記(j)の変異はトレオニン以外のアミノ酸残基への置換であればよく、上記(k)の変異はアラニン以外のアミノ酸残基への置換であればよく、上記(l)の変異はロイシン以外のアミノ酸残基への置換であればよく、上記(m)の変異はセリン以外のアミノ酸残基への置換であればよい。
本発明におけるウイルス温度感受性株の好ましい例においては、前記(a)の変異はアラニンへの置換であり、前記(b)の変異はフェニルアラニンへの置換であり、前記(c)の変異はアルギニンへの置換であり、前記(d)の変異はアスパラギンへの置換であり、前記(e)の変異はバリンへの置換であり、前記(f)の変異はセリンへの置換であり、前記(g)の変異はバリンへの置換であり、前記(h)の変異はイソロイシンへの置換であり、前記(i)の変異はトリプトファンへの置換であり、前記(j)の変異はリシンへの置換であり、前記(k)の変異はバリンへの置換であり、前記(l)の変異はプロリンへの置換であり、及び/又は、前記(m)の変異はフェニルアラニンへの置換である。
本発明におけるウイルス温度感受性株の別の例においては、前記置換は、いわゆる保存的置換であってもよい。保存的置換とは、構造及び/又は特性の類似したアミノ酸で置換されることをいい、例えば、保存的置換の例として、置換前のアミノ酸が非極性アミノ酸であれば他の非極性アミノ酸へ置換、置換前のアミノ酸が非電荷アミノ酸であれば他の非電荷アミノ酸へ置換、置換前のアミノ酸が酸性アミノ酸であれば他の酸性アミノ酸へ置換、及び置換前のアミノ酸が塩基性アミノ酸であれば他の塩基性アミノ酸へ置換されることが挙げられる。なお、一般的に、「非極性アミノ酸」には、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、メチオニン、フェニルアラニン、及びトリプトファンが含まれ、「非電荷アミノ酸」には、グリシン、セリン、トレオニン、システイン、チロシン、アスパラギン、及びグルタミンが含まれ、「酸性アミノ酸」には、アスパラギン酸及びグルタミン酸が含まれ、「塩基性アミノ酸」には、リジン、アルギニン、及びヒスチジンが含まれる。
本発明におけるウイルス温度感受性株のより好ましい例としては、NC_045512(NCBI)に収載されているSARS-CoV-2の変異株であって、前記(a)の変異(つまり(a’)の変異)が、NSP3における、配列番号1に示すアミノ酸配列の第404位のバリンのアラニンへの置換(V404A)であり;前記(b)の変異(つまり(b’)の変異)が、NSP3における、配列番号1に示すアミノ酸配列の第445位のロイシンのフェニルアラニンへの置換(L445F)であり;前記(c)の変異(つまり(c’)の変異)が、NSP3における、配列番号1に示すアミノ酸配列の第1792位のリシンのアルギニンへの置換(K1792R)であり;前記(d)の変異(つまり(d’)の変異)が、NSP3における、配列番号1に示すアミノ酸配列の第1832位のアスパラギン酸のアスパラギンへの置換(D1832N)であり;前記(e)の変異(つまり(e’)の変異)が、NSP14における、配列番号2に示すアミノ酸配列の第248位のグリシンのバリンへの置換(G248V)であり;前記(f)の変異(つまり(f’)の変異)が、NSP14における、配列番号2に示すアミノ酸配列の第416位のグリシンのセリンへの置換(G416S)であり;前記(g)の変異(つまり(g’)の変異)が、NSP14における、配列番号2に示すアミノ酸配列の第504位のアラニンのバリンへの置換(A504V)であり;前記(h)の変異(つまり(h’)の変異)が、NSP16における、配列番号3に示すアミノ酸配列の第67位のバリンのイソロイシンへの置換(V67I)であり;前記(i)の変異(つまり(i’)の変異)が、スパイクにおける、配列番号4に示すアミノ酸配列の第54位のロイシンのトリプトファンへの置換(L54W)であり;前記(j)の変異(つまり(j’)の変異)が、スパイクにおける、配列番号4に示すアミノ酸配列の第739位のトレオニンのリシンへの置換(T739K)であり;前記(k)の変異(つまり(k’)の変異)が、スパイクにおける、配列番号4に示すアミノ酸配列の第879位のアラニンのバリンへの置換(A879V)であり;前記(l)の変異(つまり(l’)の変異)が、エンベロープにおける、配列番号5に示すアミノ酸配列の第28位のロイシンのプロリンへの置換(L28P)であり;及び/又は、前記(m)の変異(つまり(m’)の変異)が、ヌクレオカプシドにおける、配列番号6に示すアミノ酸配列の第2位のセリンのフェニルアラニンへの置換(S2F)であるものが挙げられる。
本発明におけるベータコロナウイルス温度感受性株は、さらに、配列番号7に示す塩基配列にコードされるアミノ酸配列を欠失していてもよい。配列番号7に示す塩基配列は、NC_045512(NCBI)のSARS-CoV-2のオープンリーディングフレームの一部である。
本発明におけるウイルス温度感受性株の特に好ましい例としては、以下の株が挙げられる。
・責任変異として、前記(e)の変異(好ましくは(e’)の変異及び/又はG248V)及び前記(f)の変異(好ましくは(f’)の変異及び/又はG416S)を有する株;若しくはさらに他の変異として、前記(g)の変異(好ましくは(g’)の変異及び/又はA504V)、前記(k)の変異(好ましくは(k’)の変異及び/又はA879V)、前記(l)の変異(好ましくは(l’)の変異及び/又はL28P)、及び前記(m)の変異(好ましくは(m’)の変異及び/又はS2F)を有する株
・責任変異として、前記(h)の変異(好ましくは(h’)の変異及び/又はV67I)を有する株;若しくはさらに他の変異として、前記(a)の変異(好ましくは(a’)の変異及び/又はV404A)、前記(d)の変異(好ましくは(d’)の変異及び/又はD1832N)、前記(j)の変異(好ましくは(j’)の変異及び/又はT739K)を有する株;若しくはさらに配列番号7に示す塩基配列にコードされるアミノ酸配列の欠失を有する株
・責任変異として、前記(b)の変異(好ましくは(b’)の変異及び/又はL445F)を有する株;若しくはさらに他の変異として、前記(c)の変異(好ましくは(c’)の変異及び/又はK1792R)を有する株;若しくはさらに前記(i)の変異(好ましくは(i’)の変異及び/又はL54W)を有する株;若しくはさらに配列番号7に示す塩基配列にコードされるアミノ酸配列の欠失を有する株
有効成分であるベータコロナウイルス温度感受性株の不活化抗原は、上記ベータコロナウイルス温度感受性株が不活化されたものであり、その具体的形態は、全粒子及びスプリットのいずれであってもよい。ベータコロナウイルス温度感受性株を不活化する方法については、「2.不活化ワクチンの製造方法」で述べる通りである。
1-2.他の成分
本発明の不活化ワクチンには、上記の有効成分の他に、目的及び用途等に応じて、アジュバント、緩衝剤、等張化剤、無痛化剤、防腐剤、抗酸化剤、矯臭剤、光吸収色素、安定化剤、炭水化物、カゼイン消化物、各種ビタミン等の他の成分を含むことができる。
アジュバントとしては、例えば、動物油(スクアレン等)又はそれらの硬化油;植物油(パーム油、ヒマシ油等)又はそれらの硬化油;無水マンニトール・オレイン酸エステル、流動パラフィン、ポリブテン、カプリル酸、オレイン酸、高級脂肪酸エステル等を含む油性アジュバント;PCPP、サポニン、グルコン酸マンガン、グルコン酸カルシウム、グリセロリン酸マンガン、可溶性酢酸アルミニウム、サリチル酸アルミニウム、アクリル酸コポリマー、メタクリル酸コポリマー、無水マレイン酸コポリマー、アルケニル誘導体ポリマー、水中油型エマルジョン、第四級アンモニウム塩を含有するカチオン脂質等の水溶性アジュバント;水酸化アルミニウム(ミョウバン)、リン酸アルミニウム、硫酸アルミニウム等のアルミニウム塩又はその組み合わせ、水酸化ナトリウム等の沈降性アジュバント;コレラ毒素、大腸菌易熱性毒素などの微生物由来毒素成分;その他の成分(ベントナイト、ムラミルジペプチド誘導体、インターロイキン等)が挙げられる。
緩衝剤の例としては、リン酸塩、酢酸塩、炭酸塩、クエン酸塩等の緩衝液等が挙げられる。等張化剤の例としては、塩化ナトリウム、グリセリン、D-マンニトール等が挙げられる。無痛化剤の例としては、ベンジルアルコール等が挙げられる。防腐剤の例としては、チメロサール、パラオキシ安息香酸エステル類、フェノキシエタノール、クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール、デヒドロ酢酸、ソルビン酸、抗生物質、合成抗菌剤等が挙げられる。抗酸化剤の例としては、亜硫酸塩、アスコルビン酸等が挙げられる。
光吸収色素の例としては、リボフラビン、アデニン、アデノシン等が挙げられる。安定化剤の例としては、キレート剤、還元剤等が挙げられる。炭水化物の例としては、ソルビトール、ラクトース、マンニトール、デンプン、シュークロース、グルコース、デキストラン等が挙げられる。
さらに、本発明の不活化ワクチンは、COVID-19等のベータコロナウイルス感染症以外の他の疾患を発症するウイルス又は細菌に対する1又は複数の他のワクチンを含んでいてもよい。つまり、本発明のワクチンは、他のワクチンを含む混合ワクチンとして調製されてもよい。
1-3.剤型
本発明の不活化ワクチンの剤型については特に限定されず、投与方法及び保存条件等に基づいて適宜決定することができる。剤型の具体例としては、液体製剤及び固体製剤等が挙げられ、より具体的には、錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、丸剤、液剤、シロップ剤等の経口投与剤;凍結乾燥製剤等の乾燥製剤、注射剤、噴霧剤、貼付剤等の非経口投与剤(具体的には、筋肉内投与剤、皮内投与剤、皮下投与剤、経鼻投与剤、経皮投与剤等)が挙げられる。
1-4.投与方法
本発明の不活化ワクチンの投与方法としては特に限定されず、筋肉、腹腔内、皮内及び皮下等の注射投与、鼻腔及び口腔からの吸入投与、並びに経口投与等のいずれであってもよいが、好ましくは筋肉、皮内及び皮下等の注射投与(筋肉内投与、皮内投与及び皮下投与)、鼻腔からの吸入投与(経鼻投与)、皮膚からの吸収投与(経皮投与)が挙げられ、より好ましくは、経鼻投与が挙げられる。
1-5.標的とするウイルス
本発明の不活化ワクチンは、SARS-CoV-2の初期の武漢株だけでなく、2020年9月に英国で検出され、2020年10月に南アフリカで検出された変異株、及びその他の公知の変異株、並びにその他未だ検出されていない未知の変異株を含む、広範囲のSARS-CoV-2関連株及びベータコロナウイルス属に含まれるSARS-CoV-2以外のウイルスにも有効であることが合理的に期待できる。従って、本発明の不活化ワクチンは、ベータコロナウイルスを標的とする。
1-6.適用対象
本発明の不活化ワクチンの適用対象としては、ベータコロナウイルス感染による諸症状を引き起こしうる対象(好ましくはSARS-CoV-2感染によりCOVID-19症状を引き起こしうる対象)であれば特に限定されず、例えば哺乳類が挙げられ、より具体的には、ヒト;イヌ及びネコ等の愛玩動物;ネズミ、マウス、ハムスター等の実験動物等が挙げられる。
1-7.用量
本発明の不活化ワクチンの用量としては特に限定されず、有効成分の種類、投与方法、投与対象(年齢、体重、性別、基礎疾患の有無等の条件)に応じて適宜決定することができる。例えば、ヒトに対する用量として、全粒子の不活化抗原として5ug/dose以上、好ましくは10ug/dose以上が挙げられる。また、本発明のワクチンのヒトに対する用量としては、全粒子 の不活化抗原として1×104ug/dose以下、好ましくは1×103ug/dose以下が挙げられる。
2.不活化ワクチンの製造方法
本発明の不活化ワクチンの製造方法は、ベータコロナウイルス温度感受性株を不活化する工程を含むことを特徴とする。また、本発明の不活化ワクチンの製造方法は、ベータコロナウイルス温度感受性株を作製する工程をさらに含んでもよい。
2-1.ベータコロナウイルス温度感受性株の作製工程
ベータコロナウイルス温度感受性株の作製方法としては、特に限定されず、上記「1-1.有効成分」で述べたアミノ酸配列情報に基づいて当業者が適宜決定することができる。例えば、比較的安価にかつロット差の少ないワクチンを製造する観点から、好ましくは、細菌人工染色体(BAC)又はイースト人工染色体(YAC)などの人工染色体、若しくはベータコロナウイルスのゲノムフラグメントを用いたCPER法などを利用したリバースジェネティクス法が挙げられる。
リバースジェネティクス法によるウイルスの再構築方法においては、まず、ベータコロナウイルス温度感受性株の、上記(a)~(m)のいずれの変異も有しない株(親株)のゲノムをクローニングする。この際に使用する親株としては、ベータコロナウイルスであればよく、具体的には、上記のNC_045512(NCBI)に収載されている特定のSARS-CoV-2、上記の他の任意のSARS-CoV-2、及びベータコロナウイルス属に含まれるSARS-CoV-2以外のウイルスからなる群より選択することができる。
さらに、リバースジェネティクス法において人工染色体を利用する場合、ウイルスゲノムの全長DNAをBAC DNA又はYAC DNAなどにクローニングし、ウイルスの配列の上流に真核細胞用の転写プロモーター配列を挿入する。プロモーター配列としてはCMVプロモーター及びCAGプロモーターなどが挙げられる。ウイルスの配列の下流にはリボザイム配列並びにポリA配列を挿入する。リボザイム配列としてはD型肝炎ウイルスリボザイム及びハンマーヘッドリボザイムなどが挙げられる。ポリA配列としてはシミアン40ウイルスのポリAなどが挙げられる。
一方、リバースジェネティクス法においてCPER法を利用する場合、ウイルスゲノムの全長DNAを複数のフラグメント断片に分けて、クローニングする。フラグメント断片を獲得する方法としては、核酸の人工合成法、上記人工染色体又はフラグメント断片をクローニングしたプラスミドをテンプレートとするPCR法などが挙げられる。
上記の手法によりクローニングされたウイルスゲノムに対して上記(a)~(m)の少なくともいずれかの変異を導入するには、ダブルクロスオーバー及びλ/REDリコンビネーション等の相同組換え法、オーバーラップPCR法、CRISPR/Cas9法など、公知の点変異導入法を用いることができる。
続いて、変異を導入した人工染色体を宿主細胞にトランスフェクションし、組換えウイルスを再構築させる。CPER法によるリバースジェネティクス法の場合、変異を導入したフラグメントをDNAポリメラーゼを用いた反応により連結した後、宿主細胞にトランスフェクションすることで、組換えウイルスを再構築させる。トランスフェクションの方法としても特に限定されず、公知の方法を用いることができる。また、宿主についても特に限定されず、公知の細胞を用いることができる。
続いて、再構築した組換えウイルスを培養細胞に添加して、組換えウイルスを継代培養する。その際に用いる培養細胞としても特に限定されないが、例えば、Vero細胞、VeroE6細胞、TMPRESS2の発現を補ったVero細胞、TMPRESS2の発現を補ったVeroE6細胞、Calu-3細胞、ACE2の発現を補った293T細胞、BHK細胞、104C1細胞、マウス神経芽細胞腫由来NA細胞等が挙げられる。ウイルスの回収は、遠心分離及び膜ろ過など、公知の方法により行うことができる。また、回収したウイルスをさらに培養細胞に添加することにより、組換えウイルスの大量生産が可能になる。
2-2.不活化工程
ベータコロナウイルス温度感受性株を不活化する工程では、一般的な不活化ワクチンの製造方法において採用されるウイルス不活化方法を特に制限なく用いることができる。つまり、不活化する工程は、物理的処理又は化学的処理によって行うことができる。
物理的処理は、ベータコロナウイルス温度感受性株の培養液に対して行うことができ、具体的には、紫外線照射、X線照射、熱処理、超音波処理等が挙げられる。化学的処理は、ベータコロナウイルス温度感受性株の培養液に対して行うことができ、化学的処理に用いられる不活化剤としては、β-プロピオラクトン等のアルキル化剤;ホルマリン、クロロホルム等の有機溶媒;酢酸等の酸が挙げられる。
不活化する工程において行われる上記処理の中でも、好ましくは化学的処理が挙げられ、より好ましくはアルキル化剤による処理が挙げられ、より好ましくはβ-プロピオラクトンによる処理が挙げられる。上記の不活化工程にて、全粒子の不活化抗原を取得できる。なお、全粒子は、粒子の全ての構成要素が揃っていればよく、その形態としては、粒子構造が完全に保たれていてもよいし、不活化工程及び/又は不活化工程の前後に行われる任意の工程において目的外で部分的又は完全な破砕を受けていてもよい。部分的又は完全な破砕を受けた形態の全粒子は、全粒子の破砕物から目的の表面抗原のみを分離回収して得られた部分構造物であるスプリットとは区別される。
2-3.他の工程
本発明の不活化ワクチンの製造方法では、上記不活化工程に加えて、任意の他の工程を含むことができる。
他の工程の例としては、不活化工程の前に行われる、ベータコロナウイルス温度感受性株を培養する工程(温度感受性株培養工程)ベータコロナウイルス温度感受性株を精製する工程(温度感受性株精製工程)、不活化工程の後に行われる、不活化抗原を精製する工程(不活化抗原精製工程)が挙げられる。
また、他の工程の例としては、不活化されたベータコロナウイルス温度感受性株(不活化抗原)を、エーテル又は界面活性剤等を用いて破砕する工程(破砕工程)、及び破砕工程で破砕物として生じた表面抗原(スプリット)を精製する工程(スプリット精製工程)も挙げられる。当該破砕工程は、上記の不活化工程と同時に行われてもよいし、上記の不活化工程後に行われてもよい。当該破砕工程が上記の不活化工程後に行われる場合、不活化工程と破砕工程の間に、上記の不活化抗原精製工程を行うことができる。
上記の温度感受性株精製工程、不活化抗原精製工程、及びスプリット精製工程はいずれも、精製対象物を膜ろ過又は遠心分離等により回収及び精製することにより行うことができる。
上記のようにして精製された全粒子又はスプリットを不活化抗原(有効成分)とし、必要に応じて配合される上記「1-2.他の成分」を用い、通常の製剤化手法に従って上記「1-3.剤型」に製剤化すればよい。
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
[試験例1]
[試験例1-1]SARS-CoV-2の温度感受性化株A50-18株の分離
図1の手法に基づき、SARS-CoV-2の臨床分離株(B-1株)(LC603286、本実施例において、B-1株、野生株(臨床分離株)、又は欧州型野生株(B-1株)ともいう)に、2種類の突然変異誘導剤5-fluorouracil(以下、5-FU)及び5-azacytidine(以下、5-AZA)を添加することで、32℃にて馴化させたA~F50シリーズ及びA~F500シリーズのウイルス集団を取得した。更に、各々のウイルス集団の継代を複数回行い、得られた406の候補株の中から、32℃で増殖できる一方、37℃で増殖性が著しく低下しているウイルス株(A50-18株。以下においてTs株と記載する場合もある。)を見出し、分離、選択した(図2)。
[試験例1-2]次世代シーケンスによる温度感受性株A50-18株の解析
(1-2-1)各々のウイルス株の変異解析
次世代シークエンサーを用いて、以下のウイルス株の変異解析を行った。SARS-CoV-2を感染させたVero細胞の培養上清からRNAを抽出することで、当該解析を行った。Referenceとして、武漢臨床分離株であるWuhan-Hu-1(NC045512)を用いた。
B-1 :野生株(臨床分離株)
A50-18 :温度感受性株
F50-37 :非温度感受性株
C500-1 :非温度感受性株
F500-53 :非温度感受性株
F500-40 :非温度感受性株
F500-2 :非温度感受性株
(B-1以外は、変異誘導させたウイルス)
(1-2-2)温度感受性株の変異
(1-2-1)より、図3Aの解析結果を取得した。D614Gの点変異はB-1株にも見られるため、温度感受性株の特徴的な点変異ではなく、一方、温度感受性株(A50-18)の特徴的な点変異として、NSP14のG248V、G416S、A504V、SpikeのA879V、EnvelopeのL28P、及びNucleocapsidのS2Fが見出された。
(1-2-3)復帰変異株の解析1
「復帰変異」とは、変異したウイルスに更なる変異が入ることにより、変異する前の最初のウイルスと同じ表現型に戻ることをいう。本明細書においては、「復帰変異」は、温度感受性株に更なる変異が入ることで、温度感受性の特性が失われることをいう。更なる変異は、温度感受性化した際に入った変異箇所のアミノ酸が、変異前のアミノ酸に戻ることを含む。
B-1株又はA50-18株をMOI=0.01にてVero細胞に感染させ、32℃、34℃、37℃での増殖性を評価した結果、A50-18株の中から、37℃の増殖性が回復しているサンプル(以下、「復帰変異株」という)を見出した。復帰変異株では、温度感受性を獲得した温度感受性株(A50-18株)が有する変異のうち、一部のアミノ酸残基が、変異前のアミノ酸に復帰変異(以下、単に「復帰変異」という)することで、温度感受性が低下し、37℃の増殖性が回復したと思われる。このことを示すCPE像を図3Bに示す。得られたサンプルのシークエンスを確認したところ、NSP14におけるG248Vの変異が野生型のGに復帰変異している一方、NSP14におけるG416S、A504V及びEnvelopeにおけるL28Pの変異は維持されていることが明らかとなった。このことから、NSP14のG248V変異が温度感受性に寄与する責任変異であることが示唆された。
(1-2-4)分離株の復帰変異の解析2
A50-18株をmoi=1にてVero細胞に感染させ、37℃、38℃での増殖性を評価した。その結果、37℃および38℃での増殖性が回復しているサンプル(復帰変異株)を見出した。取得した復帰変異株を37℃で3日培養した後のCPE像を図3Cに示す。得られた復帰変異株のシークエンスを確認したところ、以下<1>及び<2>の2種類の復帰パターンが見出された。
<1>NSP14におけるG248Vの変異が野生型のGに復帰変異している一方でG416SやA504Vの変異は維持
<2>NSP14におけるG416Sの変異が野生型のGに復帰変異している一方でG248VやA504Vの変異は維持
NSP14のG248VとG416Sのうち、少なくとも1つが復帰変異すると温度感受性を失ったことから、NSP14のG248V変異とG416S変異の組み合わせが温度感受性に寄与する責任変異であることが示唆された。
(1-2-5)野生型に変異を導入した組換えウイルスの解析
野生型のSARS-CoV-2全ゲノムを有するBAC DNAに対し、A50-18株由来のNSP14、Spike、Nucleocapsid、Envelopeを相同組換えにより導入した。得られた組換えBAC DNAを293T細胞にtransfectionすることでウイルスを再構築した。組換えウイルスをVero細胞に感染させ、37℃と32℃でのCPEを観察することで温度感受性を評価した。その結果を図3Dに示す。A50-18株由来のNSP14を導入することで、37℃培養時にCPEを示さない温度感受性株が得られたことから、NSP14が温度感受性に寄与する責任変異であることが明らかとなった。一方で、A50-18株由来のEnvelopeを導入しても温度感受性にはならなかったことから、Envelopeの変異は温度感受性に寄与していないと考えられる。
(1-2-6)野生型に変異を導入した組換えウイルスの解析2
CPER法にて、NSP14の変異を導入したウイルスを再構築した。以下の各々のNSP14の変異を有する、3種類の組換えウイルスを再構築した。
・G248Vのみ
・G416Sのみ
・G248V及びG416S(以下において、「二重変異株」とも記載する。)
それぞれの組換えウイルスをVero細胞に感染させ、37℃又は32℃で3日間培養後のCPEを観察した。図3Eより、G248Vのみ変異を有するウイルス、及びG416Sのみ変異を有するウイルスでは、37℃及び32℃にてB-1株と同様、CPEが観察されたため、温度感受性化されていないことがわかった。一方で、G248V及びG416Sの変異を有する二重変異株のウイルスでは、32℃にてCPEが観察されたが、37℃ではCPEがわずかに観察された程度で、32℃と比べ明らかにCPEが弱くなっていた。上記結果より、G248V及びG416Sの変異を有することで、37℃でのウイルス増殖性が低下し、温度感受性化することが明らかとなった。これより、NSP14のG248V変異とG416S変異の組み合わせが、温度感受性に寄与する責任変異であることがわかった。
(1-2-6)サンガーシークエンスによる温度感受性株の解析
サンガーシークエンスを用いて、A50-18株の変異解析を行った。SARS-CoV-2を感染させたVero細胞の培養上清からRNAを抽出することで当該解析を行った。その結果、後述試験例2-2の(2-2-5)で認められたような欠失は見いだされなかった。
(1-2-7)温度感受性株の変異まとめ
温度感受性株A50-18株では、下記表2に示す通り、表示の配列番号のアミノ酸配列においてチェックマークを付した変異が見出され、その中で、二重チェックマークを付した変異が責任変異として見出された。また、下記表2に示すとおり、NSP14の責任変異のみを有する二重変異株も温度感受性株であることを見出された。
Figure 2023070661000002
[試験例1-3]温度感受性株A50-18株の増殖性解析
(1-3-1)32℃及び37℃における解析
臨床分離株(B-1株)及び温度感受性株(A50-18株)を、MOI=0.01又は0.1の条件下で、6well plateを用いて、Vero細胞に感染させた(N=3)。37℃又は32℃で培養させた後、0~5dpiにて、それぞれの培養上清を回収した。0~5dpiの培養上清ウイルス力価をTCID50/mLにて、Vero細胞を用いて測定した。結果を図4Aに示した。
図4Aより、A50-18株は37℃における感染後3日目のウイルス力価が検出限界以下であり、37℃での増殖性が著しく低下していることがわかった。
(1-3-2)32℃、34℃及び37℃における解析
臨床分離株(B-1株)及び温度感受性株(A50-18株)を、MOI=0.01の条件下で、6well plateを用いて、Vero細胞に感染させた(N=3)。37℃、34℃又は32℃で培養させた後、0~5dpiにて、それぞれの培養上清を回収した。0~5dpiの培養上清ウイルス力価をTCID50/mLにて、Vero細胞を用いて測定した。結果を図4Bに示した。
図4Bより、A50-18株は32℃、34℃で臨床分離株と同程度に増殖する一方、37℃での増殖性を著しく欠損していることがわかった。
[試験例1-4]温度感受性株A50-18株の病原性解析
(1-4-1)SARS-CoV-2感染ハムスターの体重変動
4週齢雄性シリアンハムスター (n=4) を一週間飼育した後、臨床分離株(B-1株)及び温度感受性株(A50-18株)(1x104 or 1x106 TCID50)を100 μLの用量で経鼻投与し、10日間の体重変動を観察した。同用量のD-MEM培地を経鼻投与した群を非感染コントロール (MOCK)とした。結果を図5に示した。A50-18株を感染させた際に体重減少はみられず、病原性が著しく低いことが示唆された。
(1-4-2)SARS-CoV-2感染ハムスターの肺内又は鼻腔内のウイルス量
4週齢雄性シリアンハムスター (n=3) を一週間飼育した後、臨床分離株(B-1株)及び温度感受性株(A50-18株)(1x106 TCID50)を100 μLの用量で経鼻投与した。3日間の体重変動を観察した結果を図6に示した。3 dpiにてハムスターを安楽死させた後、鼻腔洗浄液をD-PBS 1mLで回収した。また、ハムスターの肺を摘出し、右肺を破砕、D-MEM 1 mLによる懸濁の後、遠心分離にて上清を肺破砕液として回収した。これらの鼻腔洗浄液及び肺破砕液中のウイルス量をVero細胞にてプラークフォーメーションアッセイにて評価した結果を図7に示した。更に、摘出した左肺を10%ホルマリンにて固定し、撮影したものを図8に示した。
図7より、鼻腔洗浄液ではB-1株とA50-18株でウイルス量に差がみられない一方、肺内ではA50-18株のウイルスが顕著に少ないことがわかった。また、図8より、B-1株が感染し、体重が減少しているハムスターは肺に膨潤や黒色変がみられる一方で、A50-18株感染ハムスターは体重変動や肺に著変はみられないことがわかった。以上の結果より、温度感受性株は上気道で増殖する一方、下気道では増殖することができない弱毒株であると推定される。
(1-4-3)SARS-CoV-2感染ハムスターの組織学的解析
(1-4-2)にて実施したハムスターへの感染実験により得られたホルマリン固定肺から切片を作製し、HE染色することによりSARS-CoV-2感染による肺の組織学的な病原性を解析した。その結果を図9に示した。
図9に示す通り、臨床分離株(B-1株)に感染したハムスターから得られた肺において、赤血球の浸潤や肺胞構造の崩壊が観察された。一方で、温度感受性株(A50-18株)感染ハムスターの肺では、これらのような激しい病状は観察されなかった。このことからも、A50-18株は感染時に肺にて激しい炎症を誘発せず、病原性が低いことが強く示唆された。
(1-4-4)免疫化学染色によるSARS-CoV-2感染ハムスターの組織学的解析
(1-4-3)にて観察された組織学的な病原性について、ウイルスの増殖と病原性の関連性を評価するため、免疫化学染色を行う事でウイルスタンパク質を検出した。4週齢雄性シリアンハムスター (B-1, A50-18: n=5, MOCK: n=3) を一週間飼育した後、臨床分離株(B-1株)及び温度感受性株(A50-18株)(1x106 TCID50)を100 μLの用量で経鼻投与した。3 dpiにてハムスターを安楽死させた後、摘出した左肺を10%ホルマリンにて固定し、連続切片を作製した。得られた連続切片についてHE染色並びに免疫化学染色(Immunohistochemistry(IHC)染色ともいう)を実施した。免疫化学染色にはウサギ抗スパイクポリクローナル抗体(Sinobiological: 40589-T62)を用いた。HE染色像及び免疫化学染色像を図10に示す。(1-4-3)と同様にB-1株感染ハムスターでは赤血球の浸潤や肺胞構造の崩壊がみられ、免疫化学染色にて広範囲にスパイクタンパク質が検出された。一方で、A50-18株感染ハムスターではこのような組織障害は見られず、スパイクタンパク質も局所的に限られた領域でのみ検出された。これらの結果からも、B-1株は肺組織中においてウイルスが顕著に増殖して組織障害性を示している一方で、A50-18株は肺組織中で効率的にウイルスが増殖できず、肺組織障害性が低いことが明らかとなった。
[試験例1-5]温度感受性株A50-18株の免疫原性解析
(1-5-1)温度感受性株感染ハムスターへの野生株攻撃試験
次の手順で、温度感受性株感染ハムスターへの野生株(臨床分離株)攻撃試験を行った。
4週齢雄性シリアンハムスター (n=4) を一週間飼育した後、臨床分離株(B-1株)又は温度感受性株(A50-18株)(1x104 or 1x106 TCID50)を100 μLの用量で経鼻投与した。21日後、再度臨床分離株(B-1株)(1x106 TCID50)を100 μLの用量で経鼻投与し、10日間の体重変動を観察した。この際に、同週齢の感染未経験ハムスター (n=3)をナイーブコントロールとして用いた。その結果を図11に示した。
図11に示す通り、ナイーブハムスターはB-1株の感染により、体重の減少が観察された一方で、B-1株又はA50-18株に1度感染したハムスターは体重が減少することがなかった。このことから、野生株であるB-1株だけでなく、病原性の低いA50-18株による感染においても、感染防御に寄与する免疫を誘導することが明らかとなった。
(1-5-2)温度感受性株感染ハムスターの中和抗体誘導解析
4週齢雄性シリアンハムスター (n=5) を一週間飼育した後、臨床分離株(B-1株)又は温度感受性株(A50-18株)(1x106 TCID50)を100 μLの用量で経鼻投与した。感染後の体重変動を図12に示す。これまでの結果と同様に、B-1株の感染により体重が減少する一方、A50-18株の感染では体重の減少は観察されなかった。
感染後21日時点にて、全血を採取し、血清を分離したのち、56℃で30分間熱による血清の非働化を行った。100 TCID50のB-1株と段階希釈した非働化血清を混和し、37℃で1時間反応させた。反応後の培養液をVero細胞に播種し、37℃培養の後、CPEを観察することでウイルスの中和活性を評価した。CPEを生じない最高の希釈倍率を中和抗体価(Neutralizing antibody titer)とした。結果を図13に示す。非感染ハムスターの血清はB-1株に対する中和活性を示さない一方で、B-1株又はA50-18株感染ハムスター血清は中和抗体を誘導できていることが明らかとなった。
[試験例2]
[試験例2-1]SARS-CoV-2温度感受性株H50-11株,L50-33株,L50-40株の追加分離
更なる候補株の分離を目的とし、図14の手法にて温度感受性株の分離を行った。SARS-CoV-2の臨床分離株(B-1株)をVero細胞に感染させ、突然変異誘導剤5-FUを添加した状態で、32℃にて馴化させたG~L50シリーズのウイルス集団を取得した。更に、各々のウイルス集団の継代を複数回行い、得られた253の株の中から、32℃で増殖できる一方で、37℃で増殖性が著しく低下しているウイルス株(H50-11株, L50-33株, L50-40株)を見出し、分離、選択した(図15)。
[試験例2-2]次世代シーケンスによる温度感受性追加分離株H50-11株,L50-33株,L50-40株の解析
(2-2-1)追加分離株の変異解析法
次世代シークエンサーを用いて、以下のウイルス株の変異解析を行った。SARS-CoV-2を感染させたVero細胞の培養上清からRNAを抽出することで、当該解析を行った。Referenceとして、武漢臨床分離株であるWuhan-Hu-1(NC045512)を用いた。
H50-11株: 温度感受性株
L50-33株: 温度感受性株
L50-40株: 温度感受性株
(2-2-2)温度感受性株変異解析結果
(2-2-1)にて、図16Aの解析結果を取得した。H50-11株の特徴的な点変異として、NSP3のV404A及びD1832N、NSP16のV67I、並びにSpikeのT739Kが見出された。また、L50-33株の特徴的な点変異として、NSP3のL445F、K1792Rが、L50-40株の特徴的な点変異として、NSP3のL445F、K1792R、SpikeのL54Wが見出された。
(2-2-3)追加分離株の復帰変異株の解析(H50-11株)
H50-11株をmoi=1にてVero細胞に感染させ、37℃、38℃での増殖性を評価した。その結果、37℃および38℃での増殖性が回復しているサンプル(復帰変異株)を見出した。取得した復帰変異株を38℃で3日培養した後のCPE像を図16Bに示す。得られたサンプルのシークエンスを確認したところ、NSP16 V67Iの変異が野生型のVに復帰変異している一方、その他のアミノ酸変異は維持されていた。このことから、NSP16のV67I変異が温度感受性に寄与する責任変異であることが示唆された。
(2-2-4)追加分離株の復帰変異株の解析(L50-33株及びL50-40株)
L50-33株及びL50-40株をMOI=0.01にてVero細胞に感染させ、32℃、34℃、37℃での増殖性を評価した。その結果、L50-33株及びL50-40株の中から、37℃の増殖性が回復しているサンプル(以下、復帰変異株)を見出した。それぞれの株を37℃で3日培養した後のCPE像を図16Cに示す。L50-33株及びL50-40株の復帰変異株を、それぞれ、L50-33株 Rev1、2及びL50-40株 Rev1、2と示す。得られたサンプルのシークエンスを確認したところ、NSP3におけるL445Fの変異が野生型のL又はCに変異している一方、NSP3におけるK1792Rの変異は維持されていることが明らかとなった。このことから、NSP3のL445F変異が温度感受性に寄与する責任変異である可能性が示唆された。
(2-2-5)サンガーシークエンスによる温度感受性株の解析
サンガーシークエンスを用いて、H50-11株、L50-33株及びL50-40株の変異解析を行った。SARS-CoV-2を感染させたVero細胞の培養上清からRNAを抽出することで当該解析を行った。
その結果、3株すべてに、図17に示すような27549~28251位の塩基配列(配列番号7)の欠失が見出された。27549~28251位の塩基配列の欠失及びそれにコードされるアミノ酸配列の欠失の概要図を図18に示す。また、図18において、ORF7aは27394~27759位の塩基配列であり、ORF7bは27756~27887位の塩基配列であり、ORF8は27894~28259位の塩基配列である。
図18に示す通り27549~28251位の塩基配列領域は、ORF7aの一部分(53番目から末端のアミノ酸配列。以下同様)、ORF7b全体、及びORF8の大部分のアミノ酸配列に該当する。本領域の欠失はフレームシフトを伴うため、ORF7aの1-52番目のアミノ酸配列と、ORF8の3’末端8塩基および遺伝子間領域とヌクレオカプシドの塩基配列がコードするアミノ酸配列が融合したタンパク質が産生されたと考えられた。また、ORF7bは全体が欠失し、ORF8の本来の配列も欠失した。
(2-2-6)温度感受性株の変異まとめ
温度感受性株H50-11株、L50-33株及びL50-40株では、下記表3に示す通り、表示の配列番号のアミノ酸配列においてチェックマークを付した変異が見出され、その中で、二重チェックマークを付した変異が責任変異として見出された。
Figure 2023070661000003
[試験例3]追加分離株H50-11株,L50-33株,L50-40株の増殖性解析
追加分離株を、MOI=0.01の条件下でVero細胞に感染させた(N=3)。37℃、34℃又は32℃で培養後、0~5 d.p.i.において、それぞれの培養上清を回収した。これらの培養上清ウイルス力価をTCID50/mLにて、Vero細胞を用いて測定した。その結果を図19に示す。これにより、得られた追加分離株は、32℃、34℃で増殖性を示す一方、37℃では増殖性が低下した。
[試験例4]各温度感受性株の病原性解析
(4-1) 温度感受性株感染ハムスターの体重変動
4週齢雄性シリアンハムスター (n=5) を一週間飼育した後、臨床分離株(B-1株)又は温度感受性株(A50-18株、L50-33株、L50-40株、H50-11株)(3x105 TCID50)を100 μLの用量で経鼻投与し、10日間の体重変動を観察した。同用量のD-MEM培地を経鼻投与した群を非感染コントロール(MOCK)とした。結果を図20に示した。B-1株を感染させたハムスターでは7日間で20%程度の体重低下が認められたのに対し、温度感受性株を感染させたハムスターではすべての群で顕著な体重低下はみられず、病原性が著しく低いことが示唆された。
(4-2) 温度感受性株感染ハムスターの肺内又は鼻腔内のウイルス量
4週齢雄性シリアンハムスター (n=5) を一週間飼育した後、臨床分離株(B-1株)又は温度感受性株(A50-18株、L50-33株、L50-40株、H50-11株)(3x105 TCID50)を100 μLの用量で経鼻投与した。3 dpiにてハムスターを安楽死させた後、鼻腔洗浄液をD-PBS 1mLで回収した。また、ハムスターの肺を摘出し、肺重量を測定したのち、右肺を破砕、D-MEM 1 mLによる懸濁の後、遠心分離にて上清を肺破砕液として回収した。ハムスターの総体重あたりの肺重量を図21に示した。またこれらの鼻腔洗浄液及び肺破砕液中のウイルス量をVero細胞にてプラークフォーメーションアッセイにて評価した結果を図22に示した。
ハムスターの総体重量あたりの肺重量を比較した結果、B-1株感染ハムスターは肺重量が増加しており、炎症などにより肺が膨潤していることが強く示唆された。一方で、温度感受性株感染ハムスターではこのような肺重量の増加は観察されなかった。また、鼻腔洗浄液中のウイルス量を比較した結果、B-1株感染ハムスターとH50-11株を除く温度感受性株感染ハムスターでは顕著な差がなく、H50-11株感染ハムスターは鼻腔洗浄液中のウイルス量が少なかった。更に、温度感受性株感染ハムスターはB-1株感染ハムスターより顕著に肺内ウイルス量が少ないことが明らかとなった。これらの結果から、各温度感受性株は試験例1におけるA50-18株と同様に下気道では増殖することができない弱毒株であることが推察された。
[試験例5]各温度感受性株の免疫原性解析
(5-1) 温度感受性株感染ハムスターへの野生株攻撃試験
4週齢雄性シリアンハムスター (n=5) を一週間飼育した後、臨床分離株(B-1株)又は温度感受性株(A50-18株、L50-33株、L50-40株、H50-11株)(3x105 TCID50)を100 μLの用量で経鼻投与した。21日後、再度臨床分離株(B-1株)(3x105 TCID50)を100 μLの用量で経鼻投与し、9日間の体重変動を観察した。この際に、同週齢の感染未経験ハムスター (n=5)をナイーブコントロールとして用いた。その結果を図23に示した。ナイーブハムスターはB-1株の感染により、体重の減少が観察された一方で、B-1株および各温度感受性株に1度感染したハムスターの体重は減少しなかった。このことから、野生株であるB-1株だけでなく、病原性の低い各温度感受性株による感染においても、感染防御に寄与する免疫を誘導できることが明らかとなった。
(5-2) 温度感受性株感染ハムスターの中和抗体誘導解析
4週齢雄性シリアンハムスター (n=5) を一週間飼育した後、臨床分離株(B-1株)又は温度感受性株(A50-18株、L50-33株、L50-40株、H50-11株)(3x105 TCID50)を100 μLの用量で経鼻投与した。20日後に部分採血を実施し、得られた血清を用いて臨床分離株(B-1株)に対する中和活性を測定した。中和活性の測定方法は(1-5-2)と同様の手法を用いた。測定結果を図24に示す。B-1株の感染のみならず、各温度感受性株感染ハムスターでも中和活性を有する抗体が誘導されることが明らかとなった。
[試験例6]SARS-CoV-2変異株への有効性解析
(6-1) 温度感受性株感染ハムスター血清のSARS-CoV-2変異株に対する中和活性評価
4週齢雄性シリアンハムスター(n=3又は5)を一週間飼育した後、臨床分離株(B-1株)又は温度感受性株(A50-18株)(3x105 TCID50)を100 μLの用量で経鼻投与した。感染後3週間のハムスターから部分採血を実施し、得られた血清を用いてSARS-CoV-2欧州型臨床分離株(B-1)およびブラジル型変異株(hCoV-19/Japan/TY7-503/2021株)の生ウイルスに対する中和活性を測定した結果を図25に示す。中和活性の測定方法は(1-5-2)と同様の手法を用いた。B-1株や温度感受性株に感染したハムスターはブラジル型変異株に対しても中和活性を示すことが明らかとなった。このことから、温度感受性株はSARS-CoV-2変異株に対しても有効である可能性が考えられた。
[試験例7]投与経路、投与量の比較検討実験
(7-1) 投与経路による免疫誘導能の比較
4週齢雄性シリアンハムスター(n=5)を一週間飼育した後、臨床分離株(B-1株)又は温度感受性株(A50-18株)(3x105 TCID50)を100 μLの用量で経鼻、又は皮下投与した。未処置群をナイーブコントロール(naive)とした。3週間後、ハムスターから部分採血により得られた血清を用いて、SARS-CoV-2ブラジル型変異株(hCoV-19/Japan/TY7-503/2021株)に対する中和活性を評価した。中和活性の測定方法は(1-5-2)と同様の手法を用いた。中和活性の結果を図26に示した。i.nは経鼻投与、S.Cは皮下投与を示す。B-1株やA50-18株の経鼻投与では生ウイルスに対して中和抗体を誘導できた。皮下投与については、試験した用量ではほとんど中和抗体を誘導できなかったが、経鼻投与での結果に鑑みると、用量を増やすと皮下投与でも中和抗体を誘導できると考えられた。
(7-2) 投与量による免疫誘導能の比較
4週齢雄性シリアンハムスター (n=5) を一週間飼育した後、温度感受性株(A50-18株)を経鼻、又は皮下投与した。投与量を表4に示す。
Figure 2023070661000004
感染後3週間のハムスターから部分採血を実施し、得られた血清を用いてSARS-CoV-2ブラジル型変異株(hCoV-19/Japan/TY7-503/2021株)の生ウイルスに対する中和活性を測定した結果を図27に示す。i.nは経鼻投与、S.Cは皮下投与を示す。中和活性の測定方法は(1-5-2)と同様の手法を用いた。(7-1)と同様に、経鼻投与では1x102 TCID50/10 μLの低用量投与群でも中和抗体価の上昇が観察された。このことから、温度感受性株は少量の鼻腔投与でも十分な免疫を誘導できる可能性が示唆された。皮下投与については、試験した用量ではほとんど中和抗体を誘導できなかったが、経鼻投与での結果に鑑みると、用量を増やすと皮下投与でも中和抗体を誘導できると考えられた。
[試験例8]SARS-CoV-2変異株への有効性解析
4週齢雄性シリアンハムスター (n=4) を一週間飼育した後、1x104 TCID50又は1x102 TCID50の温度感受性株(A50-18株)を10 μLの用量で経鼻投与した。感染後3週間のハムスターから部分採血を実施し、得られた血清を用いてSARS-CoV-2 欧州型野生株(B-1株)、インド型変異株(自家分離株)、ブラジル型変異株(hCoV-19/Japan/TY7-503/2021株)の生ウイルスに対する中和活性を測定した結果を図28に示す。中和活性の測定方法は(1-5-2)と同様の手法を用いた。A50-18株を少量経鼻投与した個体でも、親株であり野生型であるB-1株のみならず、インド型変異株やブラジル型変異株に対する中和抗体を用量依存的に誘導できることが明らかとなった。
また、各個体の血清の各株に対する中和抗体価を比較した結果を図29に示す。ブラジル型変異株に対しては一部の個体で中和抗体価の減少がみられるものの、すべての個体で中和抗体を保有していることが明らかとなった。これらの結果から温度感受性株の経鼻投与による免疫は交差防御を示す可能性が示唆された。
[試験例9]SARS-CoV-2温度感受性株の不活化
SARS-CoV-2温度感受性株であるA50-18株をVero細胞にMOI=0.01にて感染させ、32℃,CO2:5%条件下で3日間培養した。培養上清を遠心分離(1600×g,室温,10分)した上清にβ-プロピオラクトンを0.025v/v%となるように添加し、4℃で24時間静置することでウイルスを不活化した。その後、37℃で2時間静置することにより、β-プロピオラクトンを加水分解した。得られた不活化ウイルス液を20重量%ショ糖クッション超遠心分離(175000×g,4℃,2時間)により濃縮した後、15重量%~60重量%ショ糖溶液による密度勾配遠心により分画、精製した。得られた抗原タンパク質1.5μgをSDS-PAGE展開した後、CBB染色した結果、ならびに抗原タンパク質0.5μgをSDS-PAGE展開及びウェスタンブロッティング(WB)した後に抗Spike(RBD)抗体(Sino40592-T62)及び抗Membrane抗体(NB100-56569)を用いて各種SARS-CoV-2のタンパク質を検出した結果を図30に示す。CBB染色にて観察されているメインバンドは分子量からSARS-CoV-2の構造タンパク質の1つであるヌクレオカプシドであると思われる。また、WBの結果、本精製抗原は中和抗体の標的となるスパイクタンパク質及びウイルスの構造タンパク質であるメンブレンタンパク質を含んでいることが明らかとなった。
[試験例10]SARS-CoV-2温度感受性株の不活化抗原の中和活性
雄性シリアンハムスター4週齢を1週間飼育したのち、試験例9の方法でSARS-CoV-2 B-1株およびA50-18株から作製した不活化抗原(全粒子)を1μg(Low)又は3μg(High)用い、抗原と水酸化アルミニウムアジュバント(Alum)とが1:5の比率(重量比率)となるように混合し、筋肉内投与した。その後、2週間後に再度同用量にて免疫した。2回目の免疫の後、ハムスターから部分採血を実施し、免疫血清を獲得した。免疫血清を56℃で1時間反応させることで非働化したのち、段階希釈した血清を100 TCID50のSARS-CoV-2 B-1株と混合し、37℃で1時間インキュベートした。血清とウイルスの混合物をVero細胞に播種し、37℃、CO25%で一週間培養した際のCPE像を観察することで血清の生ウイルスに対する中和活性を評価した。CPEが見られない血清の最大希釈倍率を中和抗体価とした結果を図31に示す。また、部分採血の後、同ハムスターに1x105 TCID50のSARS-CoV-2を経鼻感染させ、体重変動を観察した。その結果を図32に示す。
図31の結果から、SARS-CoV-2 温度感受性株A50-18株から作製した不活化抗原が、親株である臨床分離株B-1株から作製した不活化抗原と同程度の中和抗体を誘導することが示唆された。また、図32の結果から、免疫群はネガティブコントロールであるアルミニウムアジュバントのみの接種群と比較して、B-1株の経鼻感染時に体重低下が緩やかであることが明らかとなった。これらの結果から、SARS-CoV-2 温度感受性株A50-18株は、不活化抗原を作成する際の元株として、臨床分離株(野生株)とそん色ない効果を示す可能性が示唆された。また、本発明で見出された温度感受性株の変異や温度感受性の責任変異は、免疫原となるスパイクタンパク質のS1ドメインやRBDにはないため、A50-18株以外の温度感受性株の不活化抗原であっても、A50-18株と同等の免疫原性を示すと合理的に推認される。
[試験例11]SARS-CoV-2温度感受性株(rTs-all株)の不活化
(11-1)rTs-all株の作出
SARS-CoV-2温度感受性株であるrTs-all株をCPER反応によって作出した。
CPERを用いたリバースジェネティクス法により、複数の温度感受性変異と欠失を有する株を構築した (Torii et al. cell report 2020)。SARS-CoV-2 B-1株のゲノムを断片化し、プラスミドにクローニングした。inverse PCRを用いて、クローニングされたフラグメントに目的の変異を導入した。野生型のフラグメントをクローニングしたプラスミドをテンプレートとして、PCRによりSARS-CoV-2野生型ゲノム断片フラグメントを獲得した。また、変異が導入されたプラスミド、又は目的の変異を有するSARS-CoV-2変異株のゲノムをテンプレートとして、PCR又はRT-PCRを行うことでSARS-CoV-2変異型ゲノム断片フラグメントを得た。
得られた断片フラグメント及びCMV promoterを含むリンカーフラグメントを混合し、PrimeStar GXL polymeraseを用いてCPERを行う事で、複数の断片を環状化した。反応液をBHK/hACE2細胞にトランスフェクションし、32℃で培養を行うことで目的のrTs-all株を再構築した。rTs-all株には、表5に示す通り、(b’)の変異、(e’)及び(f’)の変異の組み合わせ、(h’)の変異、及び27549~28251位の塩基配列(配列番号7)の欠失が導入された。
Figure 2023070661000005
(11-2)rTs-all株の不活化
rTs-all株をVero細胞にMOI=0.1にて感染させ、32℃, 5% CO2条件下で3日間培養した。培養上清を遠心分離(1630×g, RT, 10 min)した上清にβ-プロピオラクトンを0.025 v/v%となるように添加し、4℃で24時間静置することでウイルスを不活化した。その後、37℃で2時間撹拌することにより、β-プロピオラクトンを分解した。得られた不活化ウイルス液を20%ショ糖クッション超遠心分離(170000×g, 4℃, 2h)により濃縮した後、15%~60%ショ糖溶液による密度勾配遠心(150000×g, 4℃, 2h)により分画した。得られた遠心画分のうち、不活化ウイルス粒子を含む画分を30 mL PBSに懸濁し、超遠心分離(150000×g, 4℃, 2h)により目的タンパク質を沈降した。ペレットを800 μL PBSにて懸濁し、不活化抗原タンパク質とした。
得られた抗原タンパク質1.9 μgをSDS-PAGE展開した後にCBB染色した結果、およびウエスタンブロッティングした後に抗Nucleocapsid抗体(Novus Biologicals, NB100-56576)を用いて検出した結果を図33示す。CBB染色ではSARS-CoV-2の各種構造タンパク質が検出された。ウエスタンブロッティングでも、粒子中にNucleocapsidが含まれることを確認した。
本試験例では、不活化処理をβ-プロピオラクトンを用いて行ったが、他の不活化方法であっても、上記と同様の結果が類推できる。
[試験例12]SARS-CoV-2温度感受性株(rTs-all株)の中和活性
5週齢の雄性シリアンハムスター(n=5)に、SARS-CoV-2 rTs-all株から作製した不活化抗原3 μgと水酸化アルミニウムアジュバント15 μgの混合物、又はSARS-CoV-2 Spikeタンパク質(Sino Biological,Inc.,40589-V08H8)10 μgと水酸化アルミニウムアジュバント50 μgの混合物を筋肉内投与した。陽性対照群として、5週齢の雄性シリアンハムスター(n=5)にSARS-CoV-2 rTs-all株(TCID50)を100 μLの用量で経鼻投与した。初回免疫から3週間後、不活化抗原免疫群およびSpikeタンパク質免疫群には、同用量の抗原を追加免疫した。
追加免疫の2週間後、ハムスターから部分採血を実施し、免疫血清を取得した。この免疫血清を56℃で30分間反応させることで、非働化した。中和抗体価の測定のため、段階希釈した血清を100 TCID50のSARS-CoV-2 B-1株と混合し、37℃で1時間、インキュベートした。血清ウイルス混合液をVero細胞に播種し、37℃,5% CO2で6日間培養した際のCPE像を観察することで、血清の生ウイルスに対する中和活性を評価した。CPEが見られない血清の最大希釈倍率を中和抗体価とした結果を図34に示した。
また、追加免疫から2週間後に、同ハムスターに3×105 TCID50のSARS-CoV-2 B-1株を経鼻感染させ、体重変動を観察した。その結果を図35に示した。
図34より、rTs-all株の不活化抗原の2回免疫は、生ウイルス(rTs-all株)の1回感染と同程度の中和抗体を誘導した。加えて、Spikeタンパク質免疫と比較しても同程度の中和抗体価を誘導した。
さらに、図35より、免疫したハムスターにB-1株を感染させると、ネガティブコントロールであるナイーブ群が体重を低下したのに対して、不活化抗原免疫群は生ウイルス(rTs-all)感染群、Spikeタンパク質免疫群と同定度の推移で体重を維持した。これらの結果から、SARS-CoV-2 温度感受性株rTs-all株は、不活化抗原を作成する際の元株として、有用であると考えられる。また、温度感受性株の不活化抗原は、Spikeタンパク質と同等の効果を示し、有用なワクチン抗原になると類推できる。

Claims (11)

  1. 以下の(a)~(m)の少なくともいずれかの変異を有する構造タンパク質及び/又は非構造タンパク質を含むベータコロナウイルス温度感受性株の不活化抗原:
    (a)NSP3における、配列番号1に示すアミノ酸配列の第404位のバリンに相当するアミノ酸残基の変異、
    (b)NSP3における、配列番号1に示すアミノ酸配列の第445位のロイシンに相当するアミノ酸残基の変異、
    (c)NSP3における、配列番号1に示すアミノ酸配列の第1792位のリシンに相当するアミノ酸残基の変異、
    (d)NSP3における、配列番号1に示すアミノ酸配列の第1832位のアスパラギン酸に相当するアミノ酸残基の変異、
    (e)NSP14における、配列番号2に示すアミノ酸配列の第248位のグリシンに相当するアミノ酸残基の変異、
    (f)NSP14における、配列番号2に示すアミノ酸配列の第416位のグリシンに相当するアミノ酸残基の変異、
    (g)NSP14における、配列番号2に示すアミノ酸配列の第504位のアラニンに相当するアミノ酸残基の変異、
    (h)NSP16における、配列番号3に示すアミノ酸配列の第67位のバリンに相当するアミノ酸残基の変異、
    (i)スパイクにおける、配列番号4に示すアミノ酸配列の第54位のロイシンに相当するアミノ酸残基の変異、
    (j)スパイクにおける、配列番号4に示すアミノ酸配列の第739位のトレオニンに相当するアミノ酸残基の変異、
    (k)スパイクにおける、配列番号4に示すアミノ酸配列の第879位のアラニンに相当するアミノ酸残基の変異、
    (l)エンベロープにおける、配列番号5に示すアミノ酸配列の第28位のロイシンに相当するアミノ酸残基の変異、及び
    (m)ヌクレオカプシドにおける、配列番号6に示すアミノ酸配列の第2位のセリンに相当するアミノ酸残基の変異。
  2. 前記ベータコロナウイルスが、SARS-CoV-2である、請求項1に記載のウイルス温度感受性株の不活化抗原。
  3. 前記(a)の変異がアラニンへの置換であり、前記(b)の変異がフェニルアラニンへの置換であり、前記(c)の変異がアルギニンへの置換であり、前記(d)の変異がアスパラギンへの置換であり、前記(e)の変異がバリンへの置換であり、前記(f)の変異がセリンへの置換であり、前記(g)の変異がバリンへの置換であり、前記(h)の変異がイソロイシンへの置換であり、前記(i)の変異がトリプトファンへの置換であり、及び/又は、前記(j)の変異がリシンへの置換であり、前記(k)の変異がバリンへの置換であり、前記(l)の変異がプロリンへの置換であり、及び/又は、前記(m)の変異がフェニルアラニンへの置換である、請求項1に記載の不活化抗原。
  4. 前記ベータコロナウイルス温度感受性株が、前記(b)の変異、前記(e)の変異と前記(f)の変異との組み合わせ、並びに/若しくは前記(h)の変異を有する非構造タンパク質を含む、請求項1に記載の不活化抗原。
  5. 前記ベータコロナウイルス温度感受性株が、前記(b)の変異、前記(e)の変異と前記(f)の変異との組み合わせ、並びに/若しくは前記(h)の変異を有する非構造タンパク質を含む、請求項3に記載の不活化抗原。
  6. 請求項1、2又は5に記載の不活化抗原を含む、不活化ワクチン。
  7. 請求項3に記載の不活化抗原を含む、不活化ワクチン。
  8. 請求項4に記載の不活化抗原を含む、不活化ワクチン。
  9. 以下の(a)~(m)の少なくともいずれかの変異を有する構造タンパク質及び/又は非構造タンパク質を含むベータコロナウイルス温度感受性株を不活化する工程を含む、不活化抗原の製造方法:
    (a)NSP3における、配列番号1に示すアミノ酸配列の第404位のバリンに相当するアミノ酸残基の変異、
    (b)NSP3における、配列番号1に示すアミノ酸配列の第445位のロイシンに相当するアミノ酸残基の変異、
    (c)NSP3における、配列番号1に示すアミノ酸配列の第1792位のリシンに相当するアミノ酸残基の変異、
    (d)NSP3における、配列番号1に示すアミノ酸配列の第1832位のアスパラギン酸に相当するアミノ酸残基の変異、
    (e)NSP14における、配列番号2に示すアミノ酸配列の第248位のグリシンに相当するアミノ酸残基の変異、
    (f)NSP14における、配列番号2に示すアミノ酸配列の第416位のグリシンに相当するアミノ酸残基の変異、
    (g)NSP14における、配列番号2に示すアミノ酸配列の第504位のアラニンに相当するアミノ酸残基の変異、
    (h)NSP16における、配列番号3に示すアミノ酸配列の第67位のバリンに相当するアミノ酸残基の変異、
    (i)スパイクにおける、配列番号4に示すアミノ酸配列の第54位のロイシンに相当するアミノ酸残基の変異、
    (j)スパイクにおける、配列番号4に示すアミノ酸配列の第739位のトレオニンに相当するアミノ酸残基の変異、
    (k)スパイクにおける、配列番号4に示すアミノ酸配列の第879位のアラニンに相当するアミノ酸残基の変異、
    (l)エンベロープにおける、配列番号5に示すアミノ酸配列の第28位のロイシンに相当するアミノ酸残基の変異、及び
    (m)ヌクレオカプシドにおける、配列番号6に示すアミノ酸配列の第2位のセリンに相当するアミノ酸残基の変異。
  10. 前記不活化する工程を、物理的処理又は化学的処理によって行う、請求項9に記載の製造方法。
  11. 前記化学的処理を、β-プロピオラクトンを用いて行う、請求項10に記載の製造方法。
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