JP2023066707A - 湿式摩擦材、および湿式摩擦材を用いた湿式摩擦板 - Google Patents
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Abstract
【課題】 湿式クラッチ或いは湿式ブレーキに用いられる湿式摩擦材であって、熱伝導性が向上し、係合する相手側プレートへの攻撃性を低減し、該相手側プレートの耐久性を向上させることができる湿式摩擦材を提供すること。【解決手段】 繊維基材と充填剤とを用いて形成された基材ペーパーと、基材ペーパーを硬化させるための結合材とを含み、係合する相手側部材との摩擦摺動面を含む表層部が、表層部以外の部分よりも、カーボン粒子と珪藻土粒子とが混合された混合粒子が多いことを特徴とする湿式摩擦材。【選択図】図1
Description
本発明は、自動車等の自動変速機に組み込まれる湿式クラッチ或いは湿式ブレーキに用いられる湿式摩擦材と、当該湿式摩擦材を用いた湿式摩擦板に関する。
近年、車両の動力源の電動化が進んでいる。動力源を電動モータとすると、従来の動力源と比較して、自動変速機は高速回転の環境となる場合がある。このような高速回転の環境下においては、湿式クラッチ或いは湿式ブレーキの湿式摩擦材は過大に蓄熱される懸念がある。
特許文献1には、表層部にカーボン粉体を添加し、最表面上からカーボン粒を除去することにより使用中のカーボン粒の脱落を防止すると共に、該最表面の直下にカーボン粒の多い層を形成し、これにより摩擦特性の変化を防止して耐久性の向上を図った湿式摩擦材が記載されている。
しかしながら、特許文献1には、湿式摩擦材の周辺部材、例えば湿式摩擦材と係合する相手側部材への攻撃性の低減については言及されていない。したがって特許文献1に記載の湿式摩擦材を高速回転の環境下で用いた場合には、湿式摩擦材と係合する相手側部材への攻撃性が懸念される。
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、湿式クラッチ或いは湿式ブレーキに用いられる湿式摩擦材であって、熱伝導性が向上し、係合する相手側プレートへの攻撃性を低減し、該相手側プレートの耐久性を向上させることができる湿式摩擦材を提供することを課題とする。
上記課題を解決するために、本発明に係る湿式摩擦材は、
繊維基材と充填剤とを用いて形成された基材ペーパーと、
前記基材ペーパーを硬化させるための結合材とを含み、
係合する相手側部材との摩擦摺動面を含む表層部が、前記表層部以外の部分よりも、カーボン粒子と珪藻土粒子とが混合された混合粒子が多いことを特徴とする。
繊維基材と充填剤とを用いて形成された基材ペーパーと、
前記基材ペーパーを硬化させるための結合材とを含み、
係合する相手側部材との摩擦摺動面を含む表層部が、前記表層部以外の部分よりも、カーボン粒子と珪藻土粒子とが混合された混合粒子が多いことを特徴とする。
本発明によれば、湿式クラッチ或いは湿式ブレーキに用いられる湿式摩擦材であって、熱伝導性が向上し、係合する相手側プレートへの攻撃性を低減し、該相手側プレートの耐久性を向上させることができる湿式摩擦材を提供することができる。
以下、本発明の実施形態に係る湿式摩擦材および湿式摩擦板について説明する。
図1(a)は本実施形態に係る湿式摩擦材を用いた湿式摩擦板を模式的に示す正面図であり、図1(b)は、図1(a)のb-b矢視拡大断面図であり、湿式摩擦材の断面を模式的に示している。
図1(a)は本実施形態に係る湿式摩擦材を用いた湿式摩擦板を模式的に示す正面図であり、図1(b)は、図1(a)のb-b矢視拡大断面図であり、湿式摩擦材の断面を模式的に示している。
本実施形態に係る湿式摩擦材1は、自動車等の車両の自動変速機等に組み込まれる湿式クラッチ(図示省略)或いは湿式ブレーキ(図示省略)に用いられるものである。本実施形態に係る湿式摩擦材1は、カーボン粒子と珪藻土粒子とが所定割合で混合された混合粒子を含んでいる。なお、以降の説明において「カーボン粒子と珪藻土粒子とが所定割合で混合された混合粒子」のことを単に「混合粒子」と略記することもある。
本実施形態に係る湿式摩擦材1は、係合する相手側プレートとの摩擦摺動面8を含む表層部9が、芯金5と接する接着面10を含む下層部11と比べて、混合粒子が多く存在する構成となっている。具体的には、湿式摩擦材1は、表層部9に含まれている混合粒子の重量が、下層部11に含まれている混合粒子の重量の2倍以上となるように構成されている。ここで下層部11とは、表層部9以外の湿式摩擦材1の部分のことである。カーボン粒子と珪藻土粒子との混合粒子は、表層面すなわち摩擦摺動面8に存在するだけでなく、表層面から湿式摩擦材1の内部に浸透している。混合粒子が多く存在する範囲は、摩擦摺動面8から所定の深さ範囲に亘っている。言い換えると、混合粒子が多く存在する表層部9は、摩擦摺動面8の全範囲において所定の厚さを有している。本実施形態においては、表層部9は、摩擦摺動面8からの厚さが20μm以上100μm以下の範囲となるように構成されている。このような、混合粒子が多く存在する表層部9を有する本実施形態に係る湿式摩擦材1、および湿式摩擦材1を用いた湿式摩擦板3の製法について説明する。
まず、繊維基材に充填材や摩擦調整剤を配合したものを抄紙して、抄紙体を作製する。
繊維基材としては、熱伝導性の高い無機化合物、例えばケイ素系、アルミナ系等の無機化合物を含む繊維、アラミド繊維、カーボン繊維などの有機繊維の一種又は複数を用いることができる。本実施形態においては、アラミド繊維と、カーボン系材料であるカーボン繊維とを用いて繊維基材を構成している。
繊維基材としては、熱伝導性の高い無機化合物、例えばケイ素系、アルミナ系等の無機化合物を含む繊維、アラミド繊維、カーボン繊維などの有機繊維の一種又は複数を用いることができる。本実施形態においては、アラミド繊維と、カーボン系材料であるカーボン繊維とを用いて繊維基材を構成している。
充填材、摩擦調整剤としては、例えば、カーボン、炭酸カルシウム等の無機化合物、合成ゴム等の有機化合物の一種又は複数を用いることができる。本実施形態においては、充填材としてカーボン系材料であるグラファイトを用いている。
このように、本実施形態においては、アラミド繊維とカーボン繊維とを用いた繊維基材に、充填材としてグラファイトを配合したものを、従来と同様に抄紙して抄紙体を作製している。
このように、本実施形態においては、アラミド繊維とカーボン繊維とを用いた繊維基材に、充填材としてグラファイトを配合したものを、従来と同様に抄紙して抄紙体を作製している。
本実施形態においては、このようにして得られた抄紙体の一方の面側、すなわち湿式摩擦材として相手側プレートと係合する面側に、カーボン粒子と珪藻土粒子とが混合された混合粉体を添加する。抄紙体には多くの空隙が存在するため、混合粉体の一部は表層面に留まらずに抄紙体の内部へ浸透していく。抄紙体は、繊維基材、充填剤、摩擦調整剤により作られた複雑な構造をしているため、抄紙体の空隙は、表層面から下層部11に向けて直線状に貫通しているものはない。このため、最も外側となる最表面から20~100μmの深さ範囲に、表層面より添加した混合粒子が多く配合される。なお、最表面から20~100μmの深さ範囲よりも深い部分にも混合粒子は浸透するが、その重量は、最表面から20~100μmの深さ範囲に配合される混合粒子の重量の50%以下となっている。
こうして、相手側プレートと摩擦接触する摩擦摺動面8を含む表層部9に、カーボン粒子と珪藻土粒子とが混合された混合粒子が多く存在する基材ペーパーが得られる。その後、基材ペーパーに結合材として、例えば熱硬化性樹脂等を含浸させ、硬化させることにより、本実施形態の湿式摩擦材1が造られる。湿式摩擦板3は、上記製法によって造られた湿式摩擦材1を所定の形状に打ち抜き、次いで熱プレスによって、接着剤を塗布した基板である環状の芯金5と一体化することにより造られる。
混合粒子を形成するカーボン粒子および珪藻土粒子は、それぞれ所定の範囲の粒径を有している。具体的には、カーボン粒子の粒径をX(単位はマイクロメートル、以下「μm」と表わす。)とすると、Xは次の式(1)で表される範囲であることが好ましい。
(1)30(μm)≦X≦100(μm)
ここで、Xが30(μm)よりも小さいと、湿式摩擦材1の摩擦特性を低下させてしまう虞がある。一方、Xが100(μm)よりも大きくなると、湿式摩擦材1の耐熱性が低下してしまう虞がある。
(1)30(μm)≦X≦100(μm)
ここで、Xが30(μm)よりも小さいと、湿式摩擦材1の摩擦特性を低下させてしまう虞がある。一方、Xが100(μm)よりも大きくなると、湿式摩擦材1の耐熱性が低下してしまう虞がある。
混合粒子を形成するカーボン粒子は、式(1)の範囲内の粒径を有するものであれば、同一の粒径のものを用いることもできるし、様々な粒径のものを混在させて用いることもできる。様々な粒径のものを混在させて用いる場合は、例えば、後述する実施例のように、個々の粒子は式(1)の範囲内の粒径を有すると共に、平均粒径を所定の値(例えば50μm)とすることができる。
また、珪藻土粒子の粒径をY(単位はマイクロメートル、以下「μm」と表わす。)とすると、Yは次の式(2)で表される範囲であることが好ましい。
(2)5(μm)≦Y≦30(μm)
ここで、Yが5(μm)よりも小さいと、湿式摩擦材1への定着性が悪化し、湿式摩擦材1から剥がれ落ちてしまう虞がある。一方、Yが30(μm)よりも大きくなると、湿式摩擦材1の摩擦特性を低下させてしまう虞がある。
(2)5(μm)≦Y≦30(μm)
ここで、Yが5(μm)よりも小さいと、湿式摩擦材1への定着性が悪化し、湿式摩擦材1から剥がれ落ちてしまう虞がある。一方、Yが30(μm)よりも大きくなると、湿式摩擦材1の摩擦特性を低下させてしまう虞がある。
混合粒子を形成する珪藻土粒子は、式(2)の範囲内の粒径を有するものであれば、同一の粒径のものを用いることもできるし、様々な粒径のものを混在させて用いることもできる。様々な粒径のものを混在させて用いる場合は、例えば、後述する実施例のように、個々の粒子は式(2)の範囲内の粒径を有すると共に、平均粒径を所定の値(例えば10μm)とすることができる。
上述したように、混合粒子が多く存在する表層部9は摩擦摺動面8からの厚さが20μm以上100μm以下の範囲となるように形成されている。また、混合粒子を構成するカーボン粒子の粒径および珪藻土粒子の粒径は、それぞれ式(1)および式(2)に示す範囲である。したがって摩擦摺動面8からの厚さが30μmよりも小さい表層部9の部分は、混合粒子の珪藻土粒子が多く存在する。また、摩擦摺動面8からの厚さが30μm以上100μm以下である表層部9の部分は、混合粒子の珪藻土粒子が多く存在する場合と、混合粒子のカーボン粒子が多く存在する場合と、混合粒子のカーボン粒子と珪藻土粒子の両方の粒子が同じ量で存在する場合とがある。
以上説明したように、本実施形態の湿式摩擦材1は、係合する相手側プレートとの摩擦摺動面8を含む表層部9にカーボン粒子と珪藻土粒子とが混合された混合粒子が多く存在し、更にこれらのカーボン粒子および珪藻土粒子は、それぞれ適切な粒径を有している。このような構成により、本実施形態の湿式摩擦材1は、熱伝導率が向上し、湿式摩擦材1の過大な蓄熱を防止することができる。その結果、湿式摩擦材1の蓄熱による、係合する相手側プレートの焼き付きや熱変形等を防止することができる。すなわち、本実施形態の湿式摩擦材1は、係合する相手側プレートへの攻撃性を低減することができる。したがって本実施形態の湿式摩擦材1によれば、係合する相手側プレートの耐久性を向上させることができる。
また、本実施形態の湿式摩擦材1は、湿式摩擦材1自体の熱伝導性が向上するので、湿式クラッチまたはブレーキとして使用される湿式摩擦材1の面積を小さくすることができる。ここで湿式摩擦材1の面積を小さくするとは、例えば、湿式摩擦材1の外径を従来の湿式摩擦材の外径と同じ寸法とした場合、本実施形態の湿式摩擦材1は従来の湿式摩擦材よりも内径を大きくすることができるということである。また、例えば、本実施形態の湿式摩擦材1の内径を従来の湿式摩擦材の内径と同じ寸法とした場合、本実施形態の湿式摩擦材1は従来の湿式摩擦材よりも外径を小さくすることができるということである。この場合、湿式クラッチまたはブレーキを小型化することができる。
(実施例)
次に、本実施形態に係る湿式摩擦材の実施例と、当該実施例および比較例を用いた評価について説明する。なお、以下の評価は、本実施形態に係る湿式摩擦材を湿式クラッチとして用いた場合の評価であるが、本実施形態に係る湿式摩擦材を湿式ブレーキとして用いても同様である。
次に、本実施形態に係る湿式摩擦材の実施例と、当該実施例および比較例を用いた評価について説明する。なお、以下の評価は、本実施形態に係る湿式摩擦材を湿式クラッチとして用いた場合の評価であるが、本実施形態に係る湿式摩擦材を湿式ブレーキとして用いても同様である。
上述した製法によって実施例に係る湿式摩擦材と、比較例に係る湿式摩擦材とを得た。表1および表2に、実施例1、実施例2、および比較例に係る湿式摩擦材のそれぞれの成分の構成比を示す。なお、構成比は重量の割合を示している。
表1は、各実施例および比較例における表層部に存在するカーボン粒子と珪藻土粒子との構成比と、表層部に存在するカーボン粒子および珪藻土粒子のそれぞれの平均粒径とを示す。表1に示すように、比較例の表層部は、珪藻土粒子を含まず、カーボン粒子のみが存在している。これに対し、実施例1および実施例2の表層部は、珪藻土粒子を所定割合含み、カーボン粒子と珪藻土粒子とが混合された混合粒子が存在している。カーボン粒子は、比較例、実施例1、および実施例2のすべてにおいて、平均粒径が50μmとなるものを用いている。また、実施例1および実施例2において、珪藻土粒子は、平均粒径が10μmとなるものを用いている。
表2は、各実施例および比較例におけるカーボン粒子および珪藻土粒子以外の成分の構成比を示す。表2に示すように、各実施例および比較例とも、カーボン粒子および珪藻土粒子以外の成分の構成比は同じである。
次に、各実施例および比較例に係る湿式摩擦材を用いた高エネルギーヒートスポット評価について説明する。
高エネルギーヒートスポット評価は、表3に示す評価条件にて、各実施例に係る湿式摩擦材を接着した湿式クラッチ板と、該湿式クラッチ板と係合する相手側プレートとの係合、解放のサイクルを所定回数実施し、相手側プレートを冷却した後、目視にて相手側プレートの焼き付き状況すなわちヒートスポットの有無を確認した。比較例に係る湿式摩擦材についても同様に実施した。
高エネルギーヒートスポット評価は、表3に示す評価条件にて、各実施例に係る湿式摩擦材を接着した湿式クラッチ板と、該湿式クラッチ板と係合する相手側プレートとの係合、解放のサイクルを所定回数実施し、相手側プレートを冷却した後、目視にて相手側プレートの焼き付き状況すなわちヒートスポットの有無を確認した。比較例に係る湿式摩擦材についても同様に実施した。
図2は、相手側プレートの焼き付き状況を示す図であり、図2(a)は比較例に係る湿式摩擦材と係合する相手側プレートの表面の部分を示し、図2(b)は実施例1に係る湿式摩擦材と係合する相手側プレートの表面の部分を示し、図2(c)は実施例2に係る湿式摩擦材と係合する相手側プレートの表面の部分を示している。
図2(a)に示すように、比較例に係る湿式摩擦材と係合する相手側プレートの表面にはヒートスポット7の発生が広い範囲で認められる。これに対し、図2(b)に示す実施例1に係る湿式摩擦材と係合する相手側プレートの表面には、ヒートスポット7の発生が認められない。また、図2(c)に示す実施例2に係る湿式摩擦材と係合する相手側プレートの表面には、ヒートスポット7の発生は認められるが、図2(a)に示す比較例と比べて僅かな範囲である。これより、実施例1、2に係る湿式摩擦材は、相手側プレートとの係合、解放による蓄熱が抑制され、蓄熱による相手側プレートへの焼き付き、熱変形等の影響を抑制する効果が認められる。
以上説明したように、本実施形態によれば、湿式クラッチ或いは湿式ブレーキに用いられる湿式摩擦材であって、熱伝導性が向上し、係合する相手側プレートへの攻撃性を低減し、該相手側プレートの耐久性を向上させることができる湿式摩擦材を提供することができる。
1 湿式摩擦材
3 湿式摩擦板
5 芯金
7 ヒートスポット
8 摩擦摺動面
9 表層部
10 接着面
11 下層部
3 湿式摩擦板
5 芯金
7 ヒートスポット
8 摩擦摺動面
9 表層部
10 接着面
11 下層部
Claims (4)
- 繊維基材と充填剤とを用いて形成された基材ペーパーと、
前記基材ペーパーを硬化させるための結合材とを含み、
係合する相手側部材との摩擦摺動面を含む表層部が、前記表層部以外の部分よりも、カーボン粒子と珪藻土粒子とが混合された混合粒子が多いことを特徴とする湿式摩擦材。 - 前記カーボン粒子の粒径は、30μm以上100μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の湿式摩擦材。
- 前記珪藻土粒子の粒径は、5μm以上30μm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の湿式摩擦材。
- 請求項1から3の何れか一項に記載の湿式摩擦材を有することを特徴とする湿式摩擦板。
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