JP2023035358A - 共重合体の製造方法並びにその共重合体を含む材料 - Google Patents

共重合体の製造方法並びにその共重合体を含む材料 Download PDF

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Abstract

【課題】本発明は、基材の表面にタンパク質や脂質の付着抑制効果を付与できる共重合体の製造方法並びにその共重合体を含む材料を提供することを目的としている。【解決手段】工程1及び工程2を含む共重合体の製造方法であって、前記工程2で用いる2種類以上のモノマーは、親水性モノマー及び疎水性モノマーを含み、前記親水性モノマーはアミド基を含み、前記疎水性モノマーはカルボン酸ビニルエステルを含む、共重合体の製造方法。工程1:基材と開始剤を結合する工程。工程2:前記工程1の後、2種類以上のモノマーを接触させ、光又は熱を加えてグラフト重合する工程。【選択図】なし

Description

本発明は、基材の表面にタンパク質や脂質の付着抑制効果を付与できる共重合体の製造方法並びにその共重合体を含む材料に関するものである。
繊維、医療等、種々の分野において、基材表面のタンパク質や脂質の付着が課題となっている。例えば、衣料等繊維の分野では、繊維構造物の表面への物質付着に起因する汚れ、さらには、付着した物質の酸化に起因する黄ばみが課題となっており、改善要求のニーズが高い。一方で、医療の分野では、医療デバイスに用いられる基材の表面に血液・体液のような生体成分が接触すると、デバイスが異物として認識され、血小板やタンパク質の付着、デバイスの性能低下、さらには生体反応を惹起し、深刻な問題となる。
かかる問題に対して、基材表面にタンパク質や脂質の付着抑制効果を有する共重合体を付与することにより解決が試みられており、様々な検討がなされている。例えば、特許文献1及び2には、中空糸膜からなる基材の表面に、タンパク質や血小板付着抑制性能を有するビニルピロリドン/酢酸ビニルの共重合体を、水中での放射線照射により架橋固定化する方法が報告されている。一方で、特許文献3には、ビニルピロリドン/プロパン酸ビニルの共重合体に官能基を導入し、基材と化学固定化する方法が報告されている。
特許第4888559号公報 特許第5857407号公報 国際公開2018/061916号公報
しかしながら、特許文献1及び2に記載の方法では、基材の種類によっては、放射線照射により劣化し、デバイスとして十分な強度を保持できなくなったり、着色したりするという問題があった。また、特許文献3に記載の方法では、導入できる官能基量が限られていたり、官能基量が多すぎるとタンパク質等の付着が誘発されたりするという問題があった。
本発明は、上記方法とは異なる共重合体の製造方法により、基材の表面にタンパク質や脂質の付着抑制効果を付与した材料を提供することを目的とする。
本発明者らは上記課題を解決すべく、鋭意検討を進めた結果、タンパク質や脂質の付着が大きく抑制される、以下の製造方法並びに材料を見出した。
(1) 工程1及び工程2を含む共重合体の製造方法であって、
前記工程2で用いる2種類以上のモノマーは、親水性モノマー及び疎水性モノマーを含み、
前記親水性モノマーはアミド基を含み、前記疎水性モノマーはカルボン酸ビニルエステルを含む、共重合体の製造方法。
工程1:基材と開始剤を結合する工程。
工程2:前記工程1の後、2種類以上のモノマーを接触させ、光又は熱を加えてグラフト重合する工程。
(2) 前記開始剤は、カルボキシ基、アミノ基、及び水酸基からなる群より選ばれる少なくとも1つの官能基を含む、(1)に記載の共重合体の製造方法。
(3) 前記親水性モノマーはビニルピロリドンを含む、(1)又は(2)に記載の共重合体の製造方法。
(4) 前記疎水性モノマーは、酢酸ビニル、プロパン酸ビニル、酪酸ビニル、ペンタン酸ビニル、ピバル酸ビニル、及びヘキサン酸ビニルからなる群より選ばれる少なくとも1つを含む、(1)~(3)のいずれかに記載の製造方法。
(5) 基材、開始剤部位、及び共重合体を含む材料であって、
前記基材と前記開始剤部位は結合し、
前記開始剤部位と前記共重合体は結合し、
前記共重合体は、親水性モノマーユニット及び疎水性モノマーユニットを含み、
前記親水性モノマーユニットはアミド基を含み、
前記疎水性モノマーユニットはカルボン酸ビニルエステルユニットを含む、
材料。
(6) 前記基材と前記開始剤部位は、エステル結合又はアミド結合により結合している、(5)に記載の材料。
(7) 前記親水性モノマーユニットはビニルピロリドンユニットを含む、(5)又は(6)に記載の材料。
(8)
前記疎水性モノマーユニットは、酢酸ビニルユニット、プロパン酸ビニルユニット、酪酸ビニルユニット、ペンタン酸ビニルユニット、ピバル酸ビニルユニット、及びヘキサン酸ビニルユニットからなる群より選ばれる少なくとも1つを含む、(5)~(7)のいずれかに記載の材料。
本発明の方法により製造された共重合体並びに本発明の材料は、優れたタンパク質や脂質の付着抑制効果を有する。
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の製造方法は、工程1及び工程2を含み、上記工程2で用いる2種類以上のモノマーは、親水性モノマー及び疎水性モノマーを含み、上記親水性モノマーはアミド基を含み、上記疎水性モノマーはカルボン酸ビニルエステルを含むことを特徴とする、共重合体の製造方法である。
工程1:基材と開始剤を結合する工程。
工程2:上記工程1の後、2種類以上のモノマーを接触させ、光又は熱を加えてグラフト重合する工程。
また本発明の材料は、基材、開始剤部位、及び共重合体を含む材料であって、前記基材と前記開始剤部位は結合し、前記開始剤部位と前記共重合体は結合し、前記共重合体は、親水性モノマーユニット及び疎水性モノマーユニットを含み、前記親水性モノマーユニットはアミド基を含み、前記疎水性モノマーユニットはカルボン酸ビニルエステルユニットを含む、材料である。
このような本発明の材料は、上述の本発明の製造方法によって好適に製造する事ができるが、本発明の材料の製造方法は、これに限定されるものではなく、工程1や工程2を含まない、他の方法によって製造することも可能である。

まず、本発明の製造方法や本発明の材料において用いられる用語の意味を下記する。
「共重合体」とは、2種類以上のモノマーを共重合して得られる高分子化合物をいう。
「親水性モノマー」とは、それ単独の重合体が水に易溶であるモノマーと定義する。ここで、水に易溶とは、20℃の純水100gに対する溶解度が1gを超えることをいい、10g以上が好ましい。
「親水性モノマーユニット」とは、重合体中の親水性モノマー由来の繰り返し単位を意味する。
「疎水性モノマー」とは、それ単独の重合体では水に難溶または不溶である繰り返し単位と定義する。ここで、水に難溶または不溶とは、20℃の純水100gに対する溶解度が1g以下のことをいう。
「疎水性モノマーユニット」とは、重合体中の疎水性モノマー由来の繰り返し単位を意味する。
「基材」とは、開始剤並びに共重合体を付与する前から存在する材料にあたる。なお、開始剤並びに共重合体を有さない材料の場合、「基材」は材料そのものを指す。
「開始剤」とは、光、熱又は放射線の刺激により分解して、ラジカル又はイオン(カチオン、アニオン)を発生させる化合物を意味する。
「開始剤部位」とは、開始剤が分解して生じた残留部位を意味する。特に、本発明の製造方法を用いて得られる本発明の材料においては、工程1や工程2を経て、基材との結合や共重合体との重合を経て分解した開始剤の残留部分を意味する。

以下、本発明の製造方法及び本発明の材料について、詳細を記載する。
本発明における基材は、特に限定されるものではないが、材料に十分な強度を持たせる点から、金属で構成される基材又は疎水性ポリマーで構成される基材が好ましい。
基材が疎水性ポリマーで構成される場合、基材を構成する疎水性ポリマーとしては、例えばポリエステル系ポリマー、延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレン、ポリウレタン、ポリエーテルウレタン、ポリアミド、塩化ビニル系ポリマー、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリメチルメタクリレート等が基材として好ましい。この中でも、汎用性が高いという観点から、上記基材は、ポリエステル系ポリマー、すなわち、主鎖にエステル結合を含む繰り返し単位を有するポリマーであることがより好ましい。例えば、ポリエチレンテレフタレート(以下、「PET」)、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート及びポリブチレンナフタレート等が挙げられ、この中でもPETは汎用性が高くより好ましい。
疎水性ポリマーとは、そのポリマーの数平均分子量を1,000以上50,000以下とした際、20℃の純水100gに対する溶解度が0.1g以下のポリマーのことを指す。
例えば、上記疎水性ポリマーがウレタン基等の官能基を有する場合、水酸基等を有する開始剤を縮合させ、基材の表面に固定化することが可能である。
疎水性ポリマーが官能基を有しない場合でも、プラズマやコロナ等で基材の表面を処理することで官能基を導入することにより、開始剤を基材の表面に固定化することが可能である。
また、ポリエステル系ポリマーからなる基材である場合、特に限定されるものではないが、酸又はアルカリ処理により基材の表面のエステル結合を加水分解させ、基材の表面に生じたカルボキシル基と上記開始剤中の官能基とを縮合反応させ、固定化させることもできる。
基材が金属やガラスで構成される場合、プラズマやコロナ等で基材の表面を処理することで基材に官能基を導入することにより、開始剤を基材の表面に固定化することが可能である。
また、金属やガラスを濃硫酸と過酸化水素水の混合溶液(以下、「ピランハ溶液」とも記す)に浸漬することで、水酸基を基材の表面に導入することも可能である。この方法の場合、濃硫酸と過酸化水素水の割合は、80/20~60/40vol%の範囲にあることが好ましい。また、浸漬中の混合溶液の液温は、官能基の生成を進行しやすくする観点から30℃以上が好ましく、基材に変形等ダメージを与えない観点から80℃以下が好ましい。浸漬する時間としては10分以上12時間以下であることが好ましく、1時間以上6時間以下であることがより好ましい。

前述のとおり「開始剤」とは、光、熱又は放射線の刺激により分解して、ラジカル又はイオン(カチオン、アニオン)を発生させる化合物を意味する。本発明においてはラジカル、カチオン、アニオンのいずれを発生する開始剤を用いても良いが、モノマーの分解を起こしにくいという点で、ラジカル重合開始剤が好適に使用される。
上記開始剤は、基材に結合しやすいことから、カルボキシ基、アミノ基、及び水酸基からなる群より選ばれる少なくとも1つの官能基を含むことが好ましい。カルボキシ基を含む開始剤としては、4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)、2,2’-アゾビス[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン]、2-ベンゾイル安息香酸ベンゾフェノン-2-カルボン酸、アミノ基を含む開始剤としては、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]、水酸基を含む開始剤としては、2,2’-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、4,4’-ジヒドロキシベンゾフェノンが挙げられる。なお、上記官能基は塩を形成していてもよく、例えば、上記アミノ基は塩素イオンと塩を形成しうる。また、上記開始剤は、水和物を形成していてもよい。さらに、上記開始剤は、1分子中に官能基を1個のみ有していても、複数個有していてもよい。
本発明の共重合体の製造方法は、基材と開始剤を結合する工程1を含む。工程1では、例えば、カルボキシ基を含む開始剤と水酸基を導入した基材、アミノ基を含む開始剤とカルボキシ基を導入した基材、水酸基を含む開始剤とカルボキシ基を導入した基材などについて、各官能基同士を縮合反応させ、基材と開始剤を結合させることができる。
従って、本方法により製造された本発明の材料は、基材と開始剤部位は、エステル結合又はアミド結合により結合していることが好ましい。エステル結合は、カルボキシ基と水酸基との縮合反応により形成できる。また、アミド基は、アミノ基とカルボキシ基との縮合反応により形成できる。溶液中で縮合反応を行う場合、上記開始剤の濃度は、0.1~10wt%の範囲であることが好ましく、0.5~5wt%の範囲であることがより好ましい。
工程1において、基材と開始剤の官能基同士の縮合反応により、開始剤と基材を結合する場合、反応を進行させる観点から縮合剤を用いることが好ましい。上記縮合剤の種類は、特に限定されるものではないが、例えば、N,N’-ジシクロヘキシルカルボジイミド、N,N’-ジイソプロピルカルボジイミド、1-エーテル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド、1-エーテル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩、1,3-ビス(2,2-ジメチル-1,3-ジオキソラン-4-イルメチル)カルボジイミド、N-{3-(ジメチルアミノ)プロピル-}-N’-エチルカルボジイミド、N-{3-(ジメチルアミノ)プロピル-}-N’-エチルカルボジイミドメチオダイド、N-tert-ブチル-N’-エチルカルボジイミド、N-シクロヘキシル-N’-(2-モルフォィノエチル)カルボジイミド、メソ-p-トルエンスルフォネート、N,N’-ジ-tert-ブチルカルボジイミド又はN,N’-ジ-p-トリカルボジイミド等のカルボジイミド系化合物や、4(-4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルフォリニウムクロリドn水和物等のトリアジン系化合物が挙げられる
上記縮合剤の濃度は、溶液全体に対し、0.01~5wt%の範囲であることが好ましく、0.1~1wt%の範囲であることがより好ましい。
なお、上記縮合剤は、脱水縮合促進剤と共に用いてもよい。用いられる脱水縮合促進剤は、特に限定されるものではないが、例えば、ピリジン、4-ジメチルアミノピリジン、トリエチルアミン、イソプロピルアミン、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール又はN-ヒドロキシコハク酸イミドが挙げられる。
工程1の縮合反応に用いる反応溶媒としては、基材を溶解せず、開始剤並びに縮合剤を溶解する溶媒であることが好ましい。基材の種類にもよるが、例えば、ジオキサン若しくはテトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒、N,N-ジメチルホルムアミド等のアミド系溶媒、ジメチルスルホキシド等のスルホキシド系溶媒、ベンゼン若しくはトルエン等の芳香族炭化水素系溶媒、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、アミルアルコール若しくはヘキサノール等のアルコール系溶媒又は水等が用いられるが、毒性が少ないことから、アルコール系溶媒又は水を用いることが好ましい。
また、工程1の縮合反応中の液温は、反応を進行させる観点から20℃以上が好ましく、30℃以上がより好ましい。また、開始剤を分解させない観点から60℃以下が好ましく、50℃以下がより好ましい。反応させる時間は、0.5~12時間の範囲であることが好ましく、1時間~8時間の範囲であることがより好ましい。
本発明の共重合体の製造方法は、工程1の後、2種類以上のモノマーを接触させ、光又は熱を加えてグラフト重合する工程2を含む。ここで「グラフト重合」とは、基材に結合した開始剤が分解して生じた開始剤部位を起点として、モノマーが連鎖的に結合していき、高分子が重合される反応を意味する。
本発明の共重合体の製造方法では、2種類以上のモノマーは、親水性モノマー及び疎水性モノマーを含む。親水性モノマーを含むことにより、製造された共重合体の親水性が向上し、脂質やタンパク質の付着が抑制される。また、疎水性モノマーを含むことにより、製造された共重合体の親水性が強すぎず、タンパク質等の生体成分の構造を変性させる虞が少ない。
本発明において、工程2で用いる親水性モノマーは、アミド基を含む。そのため本発明の材料においても、本発明の材料中の共重合体は、親水性モノマーユニット及び疎水性モノマーユニットを含み、その親水性モノマーユニットはアミド基を含む。ここでアミド基は、親水性を有し、脂質の付着抑制効果を有する。一方で、親水性が強すぎないため、タンパク質のようにイオン性基を有する生体成分を吸着する虞も少ない。
工程2で用いるアミド基を含む親水性モノマーとしては、例えば、ビニルピロリドン、ビニルカプロラクタム、N-ビニルアセトアミド、N-ビニルプロピルアミド、N-メチルアクリルアミド、N-ブチルアクリルアミド等が挙げられるが、後述の疎水性モノマーと共重合しやすい観点から、親水性モノマーはビニルピロリドンを含むことが好ましい。そのため同様の理由で、本発明の製造方法等により製造される本発明の材料は、重合体中に親水性モノマーユニットを有するが、その親水性モノマーユニットは、アミド基を有する。上記アミド基を有する親水性モノマーユニットとしては、ビニルピロリドンユニット、ビニルカプロラクタムユニット、N-ビニルアセトアミドユニット、N-ビニルプロピルアミドユニット、N-メチルアクリルアミドユニット、N-ブチルアクリルアミドユニット等が挙げられるが、親水性モノマーユニットはビニルピロリドンユニットを含むことが好ましい。
一方で、本発明において、工程2で用いる疎水性モノマーはカルボン酸ビニルエステルを含む。ここでカルボン酸ビニルエステルとは、カルボン酸とビニルアルコールがエステル結合により縮合している構造を有するモノマーである。モノマーの疎水性が強すぎない観点から、疎水性モノマーが含むカルボン酸ビニルエステルは、酢酸ビニル、プロパン酸ビニル、酪酸ビニル、ペンタン酸ビニル、ピバル酸ビニル、及びヘキサン酸ビニルからなる群より選ばれる少なくとも1つを含むことが好ましい。そのため、同様の理由で、本発明の製造方法等により製造される本発明の材料は、共重合体中に疎水性モノマーユニットを有するが、その疎水性モノマーユニットは、カルボン酸ビニルエステルユニットを含む。カルボン酸ビニルエステルユニットとしては、酢酸ビニルユニット、プロパン酸ビニルユニット、酪酸ビニルユニット、ペンタン酸ビニルユニット、ピバル酸ビニルユニット、及びヘキサン酸ビニルユニットからなる群より選ばれる少なくとも1つを含むことが好ましい。これらの中でも、共重合体全体の疎水性、親水性のバランスがとりやすい点から、本発明の製造方法に用いられるカルボン酸ビニルエステルは、プロパン酸ビニル、酪酸ビニル、ペンタン酸ビニル、及びピバル酸ビニルからなる群より選ばれる少なくとも1つを含むことがより好ましい。つまり本発明の材料中のカルボン酸ビニルエステルユニットとしては、プロパン酸ビニルユニット、酪酸ビニルユニット、ペンタン酸ビニルユニット、及びピバル酸ビニルユニットからなる群より選ばれる少なくとも1つを含むことがより好ましい。
工程2においてグラフト重合を行う際、生成した共重合体に適度な親水性を付与する観点から、親水性モノマーと疎水性モノマーの仕込み比は、90/10~30/70mol%の範囲であることが好ましい。また、全モノマーと重合溶媒の仕込み比は、10/90~70/30wt%の範囲であることが好ましい。
工程2において熱を加えてグラフト重合を行う場合、反応中の液温は、開始剤を効率よく分解し、重合を開始させる観点から、40~90℃の範囲であることが好ましく、50~80℃の範囲であることがより好ましい。反応時間は、0.5~12時間の範囲とすることが好ましく、1~8時間の範囲とすることがより好ましい。
工程2において光を加えてグラフト重合を行う場合、主に250~400nmの紫外線領域の波長を用いることが好ましい。光源としては、例えば、水銀ランプ、高圧水銀ランプ、キセノンランプ、カーボンアークランプが用いられる。照射時間は、通常、10秒~60分の範囲であることが好ましく、0.5~30分の範囲であることがより好ましい。
本発明において、グラフト重合は、光を加えても、熱を加えても良いが、光により劣化する可能性のある基材を用いる場合には、熱を加えてグラフト重合する方法が好ましい。
上記グラフト重合反応に用いる重合溶媒は、モノマーと相溶する溶媒であれば特に限定はされず、例えば、ジオキサン若しくはテトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒、N,N-ジメチルホルムアミド等のアミド系溶媒、ジメチルスルホキシド等のスルホキシド系溶媒、ベンゼン若しくはトルエン等の芳香族炭化水素系溶媒、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、アミルアルコール若しくはヘキサノール等のアルコール系溶媒又は水等が用いられるが、上記親水性モノマーと疎水性モノマーの両方との相溶性がよいことから、エーテル系溶媒又はアルコール系溶媒を用いることが好ましい。
本発明の製造方法により得られた重合体や本発明の材料に対するタンパク質の付着性は、タンパク質の一種であるアルブミンを用いた後述の方法により評価できる。本評価において、タンパク質付着量は、10.0μg/cm以下が好ましく、6.0μg/cm以下がより好ましい。付着量の下限は、0μg/cmである。
また、本発明において、脂質の付着性は、脂質の一種であるパルミチン酸メチルを用いた後述の方法により評価できる。
基材の表面に共重合体がグラフトされているか否かは、水の静的接触角が減少したことによって確認できる。上記接触角は、後述の液滴法により測定するが、表面に適度な親水性を持たせる観点から、5~70度の範囲にあるとことが好ましく、10~50度の範囲にあることがより好ましい。なお、基材の表面に共重合体がグラフトされているか否かは、X線光電子分光法や飛行時間型二次イオン質量分析法等の表面化学分析によっても確認できる。
なお本発明の材料は前述のとおり、基材、開始剤部位、及び共重合体を含む材料であって、前記基材と前記開始剤部位は結合し、前記開始剤部位と前記共重合体は結合し、前記共重合体は、親水性モノマーユニット及び疎水性モノマーユニットを含み、前記親水性モノマーユニットはアミド基を含み、前記疎水性モノマーユニットはカルボン酸ビニルエステルユニットを含む、材料である。前述のとおり、本発明の材料の製造方法は特に限定されないが、本発明の重合体の製造方法により好適に得ることができる。
ここで本発明の材料は、基材、開始剤部位、及び共重合体を含み、その共重合体は、親水性モノマーユニット及び疎水性モノマーユニットを含むが、材料中のこのような共重合体は、本発明の製造方法中の工程2によって得ることができる。さらに本発明の材料中で、開始剤部位と共重合体が結合した態様も、本発明の製造方法中の工程2によって得ることができる。
また本発明の材料は、基材、開始剤部位、及び共重合体を含み、基材と開始剤部位は結合しているが、基材と開始剤部位が結合した材料は、本発明の製造方法中の工程1によって得ることができる。
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
<評価方法>
(1)タンパク質付着量測定
アルブミン0.1wt%リン酸緩衝液を調製し、対象サンプルを4時間浸漬した。サンプルを回収し、リン酸緩衝液で洗浄後、BCA試薬を1mL添加し、ただちにミクロミキサーにより60℃で1時間震盪した。発色したBCA試薬をピペットマンによりキュベットに取り出し、562nmの吸光度を測定した。検量線サンプル(Albuminstandard(和光純薬工業社製)を生理食塩水で希釈し、31.25~2000μg/mlに調整)についても、同様に測定を行った。検量線サンプルの吸光度から、対象サンプルのタンパク質付着量を求めた。
(2)脂質付着試験
パルミチン酸メチル0.2wt%水溶液を調製し、対象サンプルを4時間浸漬した。サンプルを回収し、純水で洗浄後、別の純水にサンプルを浸漬し、0℃にて12時間静置した。
その後、パルミチン酸メチル由来の白色結晶がはっきりと析出した場合は「×」、一部析出している場合は「△」、その他の場合は「○」と評価した。
(3)水の静的接触角測定
自動接触角計DropMasterDM500(協和界面科学社製)により、対象サンプル表面に水1000μLを着滴し、着水から1秒後の純水の接触角をカーブフィッティング法により画像解析し、水滴端部における高分子-水滴の界面と、水滴-空気の界面とのなす角θを求めた。25℃の空気中において、同一試料にて、3点測定を行い、角θの平均値を高分子における水の静的接触角として算出した。
(実施例1)
基材として、PET製のフィルム(縦:1cm×横1cm、以下、「PETフィルム」)を用いた。PETフィルムの表面にUV/オゾン処理を施し、カルボキシ基を形成させた。上記PETフィルムを、2,2’-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]5wt%、N,N’-ジイソプロピルカルボジイミド0.5wt%の水溶液10gに浸漬し、50℃で2時間反応させ、PETフィルムの表面に開始剤を結合させた。さらに、開始剤を結合したPETフィルムを、ビニルピロリドンモノマー1.0g、プロパン酸ビニルモノマー1.0g、エタノール3.0gの混合溶液に浸漬し、65℃で5時間反応させ、グラフト重合を行った。蒸留水で洗浄し、ビニルピロリドン/プロパン酸ビニル共重合体がグラフト重合されたPETフィルムを得た。
上記PETフィルムのタンパク質付着量は5.2μg/cmであった。また、脂質付着試験の結果は「〇」であった。さらに、水の静的接触角は40度であった。
(実施例2)
基材としてSUS304の板材(縦:1cm×横0.5cm、以下、「SUS板」)を用いた。まず、SUS板を蒸留水で超音波洗浄し、真空乾燥した。続いて、ピラニア溶液(硫酸/過酸化水素水=7/3vol)に40℃、1時間浸漬後、蒸留水で洗浄した。次に、4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)5wt%、N,N’-ジイソプロピルカルボジイミド0.5wt%の水溶液10gに浸漬し、40℃で6時間反応させ、SUS板の表面に開始剤を結合させた。さらに、開始剤を固定したSUS板を、ビニルピロリドンモノマー1.0g、プロパン酸ビニルモノマー1.0g、エタノール3.0gの混合溶液に浸漬し、65℃で5時間反応させ、グラフト重合を行った。蒸留水で洗浄し、ビニルピロリドン/プロパン酸ビニル共重合体がグラフト重合されたSUS板を得た。
上記SUS板のタンパク質付着量は5.0μg/cmであった。また、脂質付着試験の結果は「〇」であった。さらに、水の静的接触角は45度であった。
(比較例1)
実施例1におけるPETフィルムを、開始剤固定、グラフト重合を行わず、そのまま評価した。SUS板のタンパク質付着量は12.8μg/cmであった。また、脂質付着試験の結果は「×」であった。さらに、水の静的接触角は75度であった。
(比較例2)
実施例2におけるSUS板を、開始剤固定、グラフト重合を行わず、そのまま評価した。SUS板のタンパク質付着量は13.7μg/cmであった。また、脂質付着試験の結果は「×」であった。さらに、水の静的接触角は92度であった。
本発明により、脂質やタンパク質の付着を抑制する材料が得られる。

Claims (8)

  1. 工程1及び工程2を含む共重合体の製造方法であって、
    前記工程2で用いる2種類以上のモノマーは、親水性モノマー及び疎水性モノマーを含み、
    前記親水性モノマーはアミド基を含み、前記疎水性モノマーはカルボン酸ビニルエステルを含む、共重合体の製造方法。
    工程1:基材と開始剤を結合する工程。
    工程2:前記工程1の後、2種類以上のモノマーを接触させ、光又は熱を加えてグラフト重合する工程。
  2. 前記開始剤は、カルボキシ基、アミノ基、及び水酸基からなる群より選ばれる少なくとも1つの官能基を含む、請求項1に記載の共重合体の製造方法。
  3. 前記親水性モノマーはビニルピロリドンを含む、請求項1又は2に記載の共重合体の製造方法。
  4. 前記疎水性モノマーは、酢酸ビニル、プロパン酸ビニル、酪酸ビニル、ペンタン酸ビニル、ピバル酸ビニル、及びヘキサン酸ビニルからなる群より選ばれる少なくとも1つを含む、請求項1~3のいずれかに記載の製造方法。
  5. 基材、開始剤部位、及び共重合体を含む材料であって、
    前記基材と前記開始剤部位は結合し、
    前記開始剤部位と前記共重合体は結合し、
    前記共重合体は、親水性モノマーユニット及び疎水性モノマーユニットを含み、
    前記親水性モノマーユニットはアミド基を含み、
    前記疎水性モノマーユニットはカルボン酸ビニルエステルユニットを含む、
    材料。
  6. 前記基材と前記開始剤部位は、エステル結合又はアミド結合により結合している、請求項5に記載の材料。
  7. 前記親水性モノマーユニットはビニルピロリドンユニットを含む、請求項5又は6に記載の材料。
  8. 前記疎水性モノマーユニットは、酢酸ビニルユニット、プロパン酸ビニルユニット、酪酸ビニルユニット、ペンタン酸ビニルユニット、ピバル酸ビニルユニット、及びヘキサン酸ビニルユニットからなる群より選ばれる少なくとも1つを含む、請求項5~7のいずれかに記載の材料。
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