JP2023024002A - 正極前駆体及びその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】正極活物質と、負極のプレドープ源となるアルカリ金属炭酸塩を含む正極前駆体であって、プレドープ時の効率が良く、かつ、プレドープ後の正極電極の厚膜化が可能な正極前駆体を提供すること。【解決手段】正極活物質、アルカリ金属炭酸塩、及び電解質を含む正極活物質層が、正極集電体の片面または両面上に配置された正極前駆体。上記正極活物質層は、その全計質量を基準として、アルカリ金属炭酸塩を5質量%以上50質量%以下含有する。【選択図】なし

Description

本開示は正極前駆体及びその製造方法等に関する。
近年、地球環境の保全及び省資源を目指すエネルギーの有効利用の観点から、風力発電の電力平滑化システム又は深夜電力貯蔵システム、太陽光発電技術に基づく家庭用分散型蓄電システム、電気自動車用の蓄電システム等が注目を集めている。
これらの蓄電システムに用いられる電池の第一の要求事項は、エネルギー密度が高いことである。このような要求に対応可能な高エネルギー密度電池の有力候補として、リチウムイオン二次電池の開発が精力的に進められている。
第二の要求事項は、出力特性が高いことである。例えば、高効率エンジンと蓄電システムとの組み合わせ(例えば、ハイブリッド電気自動車)又は燃料電池と蓄電システムとの組み合わせ(例えば、燃料電池電気自動車)において、加速時には蓄電システムにおける高出力放電特性が要求されている。現在、高出力蓄電デバイスとしては、電気二重層キャパシタ、ニッケル水素電池等が開発されている。
電気二重層キャパシタのうち、電極に活性炭を用いたものは、0.5~1kW/L程度の出力特性を有する。この電気二重層キャパシタは、耐久性(サイクル特性及び高温保存特性)も高く、上記高出力が要求される分野で最適のデバイスと考えられてきた。しかしながら、そのエネルギー密度は1~5Wh/L程度に過ぎない。そのため、更なるエネルギー密度の向上が必要である。
他方、現在ハイブリッド電気自動車で採用されているニッケル水素電池は、電気二重層キャパシタと同等の高出力を有し、かつ160Wh/L程度のエネルギー密度を有している。しかしながら、そのエネルギー密度及び出力をより一層高めるとともに、耐久性(特に、高温における安定性)を高めるための研究が精力的に進められている。
また、リチウムイオン二次電池(非水系リチウム蓄電素子の一種)においても、高出力化に向けての研究が進められている。例えば、放電深度(蓄電素子の放電容量の何%を放電した状態かを示す値)50%において3kW/Lを超える高出力が得られるリチウムイオン二次電池が開発されている。しかしながら、そのエネルギー密度は100Wh/L以下であり、リチウムイオン二次電池の最大の特徴である高エネルギー密度を敢えて抑制した設計となっている。また、その耐久性(サイクル特性及び高温保存特性)については、電気二重層キャパシタに比べ劣る。そのため、実用的な耐久性を持たせるためには、放電深度が0~100%の範囲よりも狭い範囲での使用となる。実際に使用できる容量は更に小さくなるから、耐久性をより一層向上させるための研究が精力的に進められている。
上記のように、高エネルギー密度、高出力特性、及び高耐久性を兼ね備えた蓄電素子の実用化が強く求められており、様々な開発が盛んに行われている。
特許文献1には、正極前駆体に含有されたアルカリ金属炭酸塩の分解を促進し、高容量かつ高出力なリチウムイオンキャパシタを提供することができる正極前駆体が提案されている。特許文献2には、リチウムニッケル複合酸化物に金属リン酸塩を被覆し、高ニッケル比率材料によるリチウムイオン二次電池の高エネルギー密度化が提案されている。
国際公開第2017/126687号 国際公開第2020/183612号
E.P.Barrett, L.G.Joyner and P.Halenda, "The Determination of Pore Volume and Area Distributions in Porous Substances. I. Computations from Nitrogen Isotherms", J.Am.Chem.Soc., (1951), 73(1), pp.373-380 B.C.Lippens, J.H.de Boer, "Studies on Pore Systems in Catalysts", J.Catalysis, (1965), 4, pp.319-323 R.S.Mikhail, S.Brunauer, E.E.Bodor, "Investigations of a Complete Pore Structure Analysis", J.Colloid Interface Sci., (1968), 26, pp.45-53
特許文献1及び2に記載されるような従来の正極前駆体は、正極活物質、導電助剤、及び結着剤等を、溶媒と一緒に混練してスラリーを得る工程と、当該スラリーを金属基材(例えば、集電体)に塗布する工程と、これを乾燥させて溶媒を蒸発させる工程と、必要に応じて所定の膜厚までプレスする工程とを含む方法で作製されている。その後、電極を切断し、これを他の構成部材と一緒に、例えばアルミラミネートなどで包装し、電解質を含侵させて封止することにより、蓄電デバイスを製造している。このような従来の正極前駆体の製造方法には、得られる正極の膜厚(厚膜化)に限界があり、そのためエネルギー密度の向上が不十分であり、また、膜厚を上げるために絶縁体である結着剤が増えることで出力特性の低下を引き起こすことがある。
本開示は、正極活物質と、負極のプレドープ源となるアルカリ金属炭酸塩を含む正極前駆体であって、プレドープ時の効率が良く、かつ、プレドープ後の正極電極の厚膜化が可能な正極前駆体を提供することを目的の一つとする。
本開示の実施形態の例を列記する。
[1]
正極活物質と、アルカリ金属炭酸塩と、電解質を溶解した電解液とを含む正極活物質層が、正極集電体の片面または両面上に配置された正極前駆体であって、上記正極活物質層は、上記正極活物質層の全質量を基準として、上記アルカリ金属炭酸塩を5質量%以上50質量%以下含有する、正極前駆体。
[2]
上記正極活物質層のNMP含有量が、上記正極活物質層の全質量を基準として、0ppm以上、1000ppm以下である、項目1に記載の正極前駆体。
[3]
上記正極前駆体は結着剤を含まない、項目1又は2に記載の正極前駆体。
[4]
上記正極活物質が、活性炭及び/又はリチウム遷移金属酸化物であり、
上記リチウム遷移金属酸化物が、LiNiCoAl(1-a-b)(aおよびbは、0.02<a<0.97、0.02<b<0.97を満たす。)、LiNiCoMn(1-c-d)(cおよびdは、0.02<c<0.97、0.02<d<0.97を満たす。)、LiCoO、LiMn、またはLiFePO(xは、0≦x≦1を満たす。)、LiMnPO(xは、0≦x≦1を満たす)、およびLi(PO(zは、0≦z≦3を満たす。)からなる群より選択される少なくとも一種である、項目1~3のいずれか一項に記載の正極前駆体。
[5]
上記アルカリ金属炭酸塩は、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、および炭酸カリウムからなる群より選択される少なくとも一種である、項目1~4のいずれか一項に記載の正極前駆体。
[6]
正極活物質と、アルカリ金属炭酸塩と、電解質を溶解した電解液とを含む、正極活物質層形成用の塗布体であって、
上記塗布体は、上記塗布体の全質量を基準として、上記電解液を5質量%以上80質量%以下含有し、
上記正極活物質は、活性炭および/またはリチウム遷移金属酸化物であり、
上記アルカリ金属炭酸塩が、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、および炭酸カリウムからなる群より選択される少なくとも一種である、塗布体。
[7]
項目1~5のいずれか一項に記載の正極前駆体と、負極と、アルカリ金属イオンを含む電解液とを有する、非水系アルカリ金属蓄電素子前駆体。
[8]
項目7に記載の非水系アルカリ金属蓄電素子前駆体のドープエージング後の非水系アルカリ金属蓄電素子を含む、蓄電モジュール。
[9]
電力回生アシストシステム、電力負荷平準化システム、無停電電源システム、非接触給電システム、エナジーハーベストシステム、蓄電システム、太陽光発電蓄電システム、電動パワーステアリングシステム、非常用電源システム、インホイールモーターシステム、アイドリングストップシステム、電気自動車、プラグインハイブリッド自動車、ハイブリッド自動車、電動バイク、急速充電システム、またはスマートグリッドシステムである、項目8に記載の蓄電モジュール。
[10]
項目6に記載の塗布体を正極集電体上に配置することによって正極活物質層を形成する工程を含む、正極前駆体を製造する方法であって、上記方法は、上記形成する工程の後に乾燥工程を含まない、方法。
本開示によれば、正極活物質と、負極のプレドープ源となるアルカリ金属炭酸塩を含む正極前駆体であって、プレドープ時の効率が良く、かつ、プレドープ後の正極電極の厚膜化が可能な正極前駆体を提供することができる。
以下、本開示の実施形態(以下、「本実施形態」という。)を詳細に説明するが、本開示は本実施形態に限定されるものではない。本実施形態の各数値範囲における上限値及び下限値は任意に組み合わせて任意の数値範囲を構成することができる。
《正極前駆体》
本開示における正極前駆体は、正極集電体と、その上に配置された、より詳細には、その片面又は両面上に設けられた、正極活物質を含む正極活物質層とを有する。正極前駆体の正極活物質層は、正極活物質と、アルカリ金属炭酸塩と、電解質を溶解した電解液とを含み、所望により導電助剤(フィラー)などを含有することができる。本開示では、蓄電素子組み立て工程内で、負極にアルカリ金属イオンをプレドープすることが好ましく、そのプレドープ方法としては、アルカリ金属炭酸塩を含む正極前駆体、負極、セパレータ、外装体、及び非水系電解液を用いて蓄電素子を組み立てた後に、正極前駆体と負極との間に電圧を印加することが好ましい。アルカリ金属炭酸塩は、正極前駆体中にいかなる態様で含まれていてもよく、例えばアルカリ金属炭酸塩として含まれてよい。例えば、アルカリ金属炭酸塩は、正極集電体と正極活物質層との間に存在してよく、正極活物質層の表面上に存在してよい。アルカリ金属炭酸塩は正極前駆体の正極集電体上に形成された正極活物質層に含有されることが好ましい。本開示では、アルカリ金属ドープ工程前における正極を「正極前駆体」、アルカリ金属ドープ工程によってプレドープした後における正極を「正極」と定義する。
〈正極活物質層とその組成〉
正極活物質層は、正極活物質、アルカリ金属炭酸塩、及び電解質を溶解した電解液とを含む。正極活物質層は、これら以外に、必要に応じて、後述の任意成分を含んでいてもよい。
正極活物質層は、正極活物質層の全質量を基準として、正極活物質を、好ましくは10質量%以上85質量%以下、より好ましくは15質量%以上80質量%以下、更に好ましくは20質量%以上75質量%以下含有する。正極活物質層は、正極活物質層の全質量を基準として、アルカリ金属炭酸塩を、好ましくは5質量%以上50質量%以下、より好ましくは10質量%以上40質量%以下、更に好ましくは10質量%以上30質量%以下含有する。正極活物質層は、正極活物質層の全質量を基準として、任意に導電助剤を、好ましくは1質量%以上20質量%以下、より好ましくは1質量%以上15質量%以下、更に好ましくは1質量%以上10質量%以下含有する。正極活物質層は、正極活物質層の全質量を基準として、電解液を、好ましくは5質量%以上80質量%以下、より好ましくは10質量%以上75質量%以下、更に好ましくは15質量%以上70質量%以下含有する。
正極活物質層中の正極活物質が10質量%以上であることは、正極活物質とアルカリ金属炭酸塩の接触面積が増えるため、プレドープ工程においてアルカリ金属炭酸塩の酸化反応が促進し、短時間でプレドープをすることができるので好ましい。また、正極活物質層中の正極活物質が85質量%以下であることで、プレドープが効率的に進むので好ましい。正極活物質層中のアルカリ金属炭酸塩が5質量%以上であることで、負極にプレドープされるリチウムイオンの量が増大する。また、正極活物質層中のアルカリ金属炭酸塩が50質量%以下であることで、非水系アルカリ金属蓄電素子を低抵抗化することができる。正極活物質層中の導電助剤が1質量%以上であることは、高入力の観点で好ましい。また、正極活物質層中の導電助剤が20質量%以下であることで、正極活物質の含有割合を多くでき、正極活物質層体積当たりのエネルギー密度を向上させることができる。正極活物質層中の電解液が5質量%以上であることで、後述する正極活物質層形成用の塗布体の流動性が向上し、正極活物質層の形成が容易となる。また、正極活物質層中の電解液が65質量%以下であることで、塗布体の流動性が高すぎず、粘土状になるため正極活物質層の形成が容易となる。
正極活物質層は、プレドープ後の正極電極を厚膜化する観点から、電解液以外の液体成分を含有しないことが好ましい。液体成分としては、従来の正極活物質層の形成に用いられる分散媒体、例えば、水、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)等が挙げられる。しかしながら、正極活物質層は、NMPを含有してもよい。正極活物質層がNMPを含有する場合、その含有量は、正極活物質層の全質量を基準として、好ましくは0ppm以上1000ppm以下であると、低抵抗となり非水系アルカリ金属蓄電素子の自己放電特性を抑制することができるという点で好ましい。
正極活物質層は、得られる電池の出力特性を向上させる観点から、結着剤を含有しないことが好ましい。結着剤としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ素ゴム、ラテックス、アクリル重合体等が挙げられる。
〈正極活物質〉
正極活物質は、炭素材料および/またはリチウム遷移金属酸化物を含むことが好ましい。この炭素材料としては、活性炭が好ましい。このリチウム遷移金属酸化物としては、リチウムイオン電池で使用される既知の材料を使用することができる。正極活物質には1種類以上のリチウム遷移金属酸化物を混合して使用してもよい。
活性炭を正極活物質として用いる場合、活性炭の種類及びその原料には特に制限はないが、高い入出力特性と、高いエネルギー密度とを両立させるために、活性炭の細孔を最適に制御することが好ましい。具体的には、BJH法により算出した直径20Å以上500Å以下の細孔に由来するメソ孔量をV1(cc/g)、MP法により算出した直径20Å未満の細孔に由来するマイクロ孔量をV2(cc/g)とするとき、
(1)高い入出力特性のためには、0.3<V1≦0.8、及び0.5≦V2≦1.0を満たし、かつ、BET法により測定される比表面積が1,500m/g以上3,000m/g以下である活性炭(以下、活性炭1ともいう。)が好ましく、また、
(2)高いエネルギー密度を得るためには、0.8<V1≦2.5、及び0.8<V2≦3.0を満たし、かつ、BET法により測定される比表面積が2,300m/g以上4,000m/g以下である活性炭(以下、活性炭2ともいう。)が好ましい。
本開示における活物質のBET比表面積及びメソ孔量、マイクロ孔量、平均細孔径は、それぞれ以下の方法によって求められる値である。試料を200℃で一昼夜真空乾燥し、窒素を吸着質として吸脱着の等温線の測定を行なう。ここで得られる吸着側の等温線を用いて、BET比表面積はBET多点法又はBET1点法により、メソ孔量はBJH法により、マイクロ孔量はMP法により、それぞれ算出される。BJH法は一般的にメソ孔の解析に用いられる計算方法で、Barrett,Joyner, Halendaらにより提唱されたものである(非特許文献1)。また、MP法とは、「t-プロット法」(非特許文献2)を利用して、マイクロ孔容積、マイクロ孔面積、及びマイクロ孔の分布を求める方法を意味し、R.S.Mikhail,Brunauer,Bodorにより考案された方法である(非特許文献3)。また、平均細孔径とは、液体窒素温度下で、各相対圧力下における窒素ガスの各平衡吸着量を測定して得られる、試料の質量当たりの全細孔容積を上記BET比表面積で除して求めたものを指す。尚、上記のV1が上限値でV2が下限値である場合のほか、それぞれの上限値と下限値を任意に組み合わせてもよい。
(活性炭1)
活性炭1のメソ孔量V1は、正極材料を蓄電素子に組み込んだときの入出力特性を大きくする点で、0.3cc/gより大きい値であることが好ましい。V1は、正極の嵩密度の低下を抑える点から、0.8cc/g以下であることが好ましい。V1は、より好ましくは0.35cc/g以上0.7cc/g以下、更に好ましくは0.4cc/g以上0.6cc/g以下である。
活性炭1のマイクロ孔量V2は、活性炭の比表面積を大きくし、容量を増加させるために、0.5cc/g以上であることが好ましい。V2は、活性炭の嵩を抑え、電極としての密度を増加させ、単位体積当たりの容量を増加させるという点から、1.0cc/g以下であることが好ましい。V2は、より好ましくは0.6cc/g以上1.0cc/g以下、更に好ましくは0.8cc/g以上1.0cc/g以下である。
マイクロ孔量V2に対するメソ孔量V1の比(V1/V2)は、0.3≦V1/V2≦0.9の範囲であることが好ましい。すなわち、高容量を維持しながら出力特性の低下を抑えることができる程度に、マイクロ孔量に対するメソ孔量の割合を大きくするという点から、V1/V2が0.3以上であることが好ましい。一方で、高出力特性を維持しながら容量の低下を抑えることができる程度に、メソ孔量に対するマイクロ孔量の割合を大きくするという点から、V1/V2は0.9以下であることが好ましい。より好ましいV1/V2の範囲は0.4≦V1/V2≦0.7、更に好ましいV1/V2の範囲は0.55≦V1/V2≦0.7である。
活性炭1の平均細孔径は、得られる蓄電素子の出力を最大にする点から、17Å以上であることが好ましく、18Å以上であることがより好ましく、20Å以上であることが最も好ましい。また容量を最大にする点から、活性炭1の平均細孔径は25Å以下であることが好ましい。
活性炭1のBET比表面積は、1,500m/g以上3,000m/g以下であることが好ましく、1,500m/g以上2,500m/g以下であることがより好ましい。BET比表面積が1,500m/g以上の場合には、良好なエネルギー密度が得られ易く、他方、BET比表面積が3,000m/g以下の場合には、電極の強度を保つために結着剤を多量に入れる必要がないので、電極体積当たりの性能が高くなる。
活性炭1は、例えば、以下に説明する原料及び処理方法を用いて得ることができる。活性炭1の原料として用いられる炭素源は、特に限定されるものではない。例えば、木材、木粉、ヤシ殻、パルプ製造時の副産物、バガス、廃糖蜜等の植物系原料;泥炭、亜炭、褐炭、瀝青炭、無煙炭、石油蒸留残渣成分、石油ピッチ、コークス、コールタール等の化石系原料;フェノール樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、レゾルシノール樹脂、セルロイド、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂等の各種合成樹脂;ポリブチレン、ポリブタジエン、ポリクロロプレン等の合成ゴム;その他の合成木材、合成パルプ等、及びこれらの炭化物が挙げられる。これらの原料の中でも、量産対応及びコストの観点から、ヤシ殻、木粉等の植物系原料、及びそれらの炭化物が好ましく、ヤシ殻炭化物が特に好ましい。
これらの原料を活性炭1とするための炭化及び賦活の方式としては、例えば、固定床方式、移動床方式、流動床方式、スラリー方式、ロータリーキルン方式等の既知の方式を採用できる。
これらの原料の炭化方法としては、窒素、二酸化炭素、ヘリウム、アルゴン、キセノン、ネオン、一酸化炭素、燃焼排ガス等の不活性ガス、又はこれらの不活性ガスを主成分とした他のガスとの混合ガスを使用して、400~700℃(好ましくは450~600℃)程度において、30分~10時間程度に亘って焼成する方法が挙げられる。
上記で説明された炭化方法により得られた炭化物の賦活方法としては、水蒸気、二酸化炭素、酸素等の賦活ガスを用いて焼成するガス賦活法が好ましく用いられる。これらのうち、賦活ガスとして、水蒸気又は二酸化炭素を使用する方法が好ましい。この賦活方法では、賦活ガスを0.5~3.0kg/h(好ましくは0.7~2.0kg/h)の割合で供給しながら、得られた炭化物を3~12時間(好ましくは5~11時間、更に好ましくは6~10時間)掛けて800~1,000℃まで昇温して賦活するのが好ましい。
更に、上記で説明された炭化物の賦活処理に先立ち、予め炭化物を1次賦活してもよい。この1次賦活では、通常、炭素材料を水蒸気、二酸化炭素、酸素等の賦活ガスを用いて、900℃未満の温度で焼成してガス賦活する方法が、好ましく採用できる。上記で説明された炭化方法における焼成温度及び焼成時間と、賦活方法における賦活ガス供給量、昇温速度及び最高賦活温度とを適宜組み合わせることにより、活性炭1を製造することができる。
活性炭1の平均粒子径(本明細書では、平均粒子径Y1と呼ばれることもある)は、2~20μmであることが好ましい。平均粒子径が2μm以上であると、活物質層の密度が高いために電極体積当たりの容量が高くなる傾向がある。なお、平均粒子径が小さいと耐久性が低いという欠点を招来する場合があるが、平均粒子径が2μm以上であればそのような欠点が生じ難い。一方で、平均粒子径が20μm以下であると、高速充放電には適合し易くなる傾向がある。活性炭1の平均粒子径は、より好ましくは2~15μmであり、更に好ましくは3~10μmである。
(活性炭2)
活性炭2のメソ孔量V1は、正極材料を蓄電素子に組み込んだときの出力特性を大きくする観点から、0.8cc/gより大きい値であることが好ましい。V1は、蓄電素子の容量の低下を抑える観点から、2.5cc/g以下であることが好ましい。V1は、より好ましくは1.00cc/g以上2.0cc/g以下、さらに好ましくは、1.2cc/g以上1.8cc/g以下である。
活性炭2のマイクロ孔量V2は、活性炭の比表面積を大きくし、容量を増加させるために、0.8cc/gより大きい値であることが好ましい。V2は、活性炭の電極としての密度を増加させ、単位体積当たりの容量を増加させるという観点から、3.0cc/g以下であることが好ましい。V2は、より好ましくは1.0cc/gより大きく2.5cc/g以下、更に好ましくは1.5cc/g以上2.5cc/g以下である。
上述したメソ孔量及びマイクロ孔量を有する活性炭2は、従来の電気二重層キャパシタ又はリチウムイオンキャパシタ用として使用されていた活性炭よりもBET比表面積が高いものである。活性炭2のBET比表面積の具体的な値は、2,300m/g以上4,000m/g以下であることが好ましく、3,000m/g以上4,000m/g以下であることがより好ましく、3,200m/g以上3,800m/g以下であることがさらに好ましい。BET比表面積が2,300m/g以上の場合には、良好なエネルギー密度が得られ易く、BET比表面積が4,000m/g以下の場合には、電極の強度を保つために結着剤を多量に入れる必要がないので、電極体積当たりの性能が高くなる。
活性炭2は、例えば以下に説明するような原料及び処理方法を用いて得ることができる。活性炭2の原料として用いられる炭素質材料としては、通常活性炭原料として用いられる炭素源であれば特に限定されるものではなく、例えば、木材、木粉、ヤシ殻等の植物系原料;石油ピッチ、コークス等の化石系原料;フェノール樹脂、フラン樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、レゾルシノール樹脂等の各種合成樹脂等が挙げられる。これらの原料の中でも、フェノール樹脂、及びフラン樹脂は、高比表面積の活性炭を作製するのに適しており特に好ましい。
これらの原料を炭化する方式、或いは賦活処理時の加熱方法としては、例えば、固定床方式、移動床方式、流動床方式、スラリー方式、ロータリーキルン方式等の公知の方式が挙げられる。加熱時の雰囲気は窒素、二酸化炭素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス、又はこれらの不活性ガスを主成分として他のガスとの混合したガスが用いられる。炭化温度は400~700℃程度で0.5~10時間程度焼成する方法が一般的である。
炭化物の賦活方法としては、水蒸気、二酸化炭素、酸素等の賦活ガスを用いて焼成するガス賦活法、及びアルカリ金属化合物と混合した後に加熱処理を行うアルカリ金属賦活法があるが、高比表面積の活性炭を作製するにはアルカリ金属賦活法が好ましい。この賦活方法では、炭化物とKOH、NaOH等のアルカリ金属化合物との質量比が1:1以上(アルカリ金属化合物の量が、炭化物の量と同じかこれよりも多い量)となるように混合した後に、不活性ガス雰囲気下で600~900℃の範囲において、0.5~5時間加熱を行い、その後アルカリ金属化合物を酸及び水により洗浄除去し、更に乾燥を行う。
マイクロ孔量を大きくし、メソ孔量を大きくしないためには、賦活する際に炭化物の量を多めにしてKOHと混合するとよい。マイクロ孔量及びメソ孔量の双方を大きくするためには、KOHの量を多めに使用するとよい。また、主としてメソ孔量を大きくするためには、アルカリ賦活処理を行った後に水蒸気賦活を行うことが好ましい。
活性炭2の平均粒子径(本明細書では、平均粒子径Y1と呼ばれることもある)は2μm以上20μm以下であることが好ましい。より好ましくは3μm以上10μm以下である。
(活性炭の使用)
活性炭1及び2は、それぞれ、1種の活性炭であってもよいし、2種以上の活性炭の混合物であって、上記の各々の特性値を混合物全体として示すものであってもよい。活性炭1及び2は、これらのうちのいずれか一方を選択して使用してもよいし、両者を混合して使用してもよい。
正極活物質は、活性炭1及び2以外の材料(例えば、上記で説明された特定のV1及び/若しくはV2を有さない活性炭、又は活性炭以外の材料(例えば、導電性高分子等))を含んでもよい。
(リチウム遷移金属酸化物)
リチウム遷移金属酸化物は、リチウムを吸蔵及び放出可能な遷移金属酸化物を含む。正極活物質として用いられる遷移金属酸化物には、特に制限はない。遷移金属酸化物としては、例えば、コバルト、ニッケル、マンガン、鉄、バナジウム、及びクロムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を含む酸化物が挙げられる。遷移金属酸化物として具体的には、下記式:
LiCoO{式中、xは0≦x≦1を満たす。}、
LiNiO{式中、xは0≦x≦1を満たす。}、
LiNi(1-y){式中、Mは、Co、Mn、Al、Fe、Mg、及びTiからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素であり、xは0≦x≦1を満たし、かつyは0.05<y<0.97を満たす。}、
LiNi1/3Co1/3Mn1/3{式中、xは0≦x≦1を満たす。}、
LiMnO{式中、xは0≦x≦1を満たす。}、
α-LiFeO{式中、xは0≦x≦1を満たす。}、
LiVO{式中、xは0≦x≦1を満たす。}、
LiCrO{式中、xは0≦x≦1を満たす。}、
LiFePO{式中、xは0≦x≦1を満たす。}、
LiMnPO{式中、xは0≦x≦1を満たす。}、
Li(PO{式中、zは0≦z≦3を満たす。}、
LiMn{式中、xは0≦x≦1を満たす。}、
LiMn(2-y){式中、Mは、Co、Mn、Al、Fe、Mg、及びTiからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素であり、xは0≦x≦1を満たし、かつyは0.05<y<0.97を満たす。}、
LiNiCoAl(1-a-b){式中、xは0≦x≦1を満たし、かつa及びbは0.05<a<0.97と0.05<b<0.97を満たす。}、
LiNiCoMn(1-c-d){式中、xは0≦x≦1を満たし、かつc及びdは0.05<c<0.97と0.05<d<0.97を満たす。}
で表される化合物等が挙げられる。これらの中でも、高容量、低抵抗、サイクル特性、アルカリ金属化合物の分解、及びプレドープ時の正極活物質の欠落の抑制の観点から、上記式LiNiCoAl(1-a-b)、LiNiCoMn(1-c-d)、LiCoO、LiMn、LiFePO、LiMnPO、又はLi(POで表される化合物が好ましい。
(正極活物質の組成)
正極活物質が、活性炭とリチウム遷移金属酸化物との両者を含む場合、活性炭は、正極活物質の全質量を基準として、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、更に好ましくは30質量%以上、好ましくは80質量%以下、より好ましくは75質量%以下、更に好ましくは70質量%以下である。一方、リチウム遷移金属酸化物は、正極活物質の全質量を基準として、好ましくは5質量%以上、より好ましくは25質量%以上、更に好ましくは45質量%以上、好ましくは75質量%以下、より好ましくは70質量%以下、更に好ましくは65質量%以下である。
〈アルカリ金属炭酸塩〉
正極活物質とは異なるアルカリ金属炭酸塩が正極前駆体に含まれていれば、プレドープにてアルカリ金属炭酸塩がアルカリ金属のドーパント源となり、負極にプレドープができるため、遷移金属化合物に予めリチウムイオンが含まれていなくても(すなわち上記式においてx=0、又はz=0であっても)、非水系リチウム蓄電素子として電気化学的な充放電をすることができる。
アルカリ金属炭酸塩としては、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム及び炭酸カリウムから成る群から選ばれる少なくとも1つのアルカリ金属炭酸塩が、正極前駆体中で分解して陽イオンを放出し、負極で還元することでプレドープすることが可能であり、単位重量当たりの容量が高いという観点から好適に用いられ、炭酸リチウムがより好適に用いられる。
上記アルカリ金属炭酸塩の定量は、ICP-AES、原子吸光分析法、蛍光X線分析法、中性子放射化分析法、ICP-MS等により算出できる。
〈電解液〉
電解液は、溶媒中に溶解した電解質を含む。溶媒としては、非水溶媒を使用することができる。非水溶媒としては、環式炭酸アルキレン、非環式炭酸ジアルキルエステル、環状及び非環状エステル、環状及び非環状エーテル、アセタール、環状スルホン及びニトリルからなる群から選択される少なくとも一つが好ましい。環式炭酸アルキレンとしては、例えば、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ブチレン、及びその炭素化又はフッ素化誘導体等が挙げられる。非環式炭酸ジアルキルエステルとしては、例えば炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチル、炭酸ジプロピル、炭酸メチルプロピル、炭酸エチルプロピル、炭酸ジブチル、炭酸ブチルメチル、炭酸ブチルエチル、及び炭酸ブチルプロピル等が挙げられる。環状及び非環状エステルとしては、例えば、y-ブチロラクトン、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、及びプロピオン酸エチル等が挙げられる。環状及び非環状エーテルとしては、例えば、ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、テトラグリム、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン等が挙げられる。アセタールとしては、例えば、1,3-ジオキソラン、及び4-メチル-1,3-ジオキソラン等が挙げられる。環状スルホンとしては、例えば、スルホラン、及びメチルスルホランが挙げられる。ニトリルとしては、例えば、アセトニトリル、及びプロピオニトリル等が挙げられる。
電解質としては、アルカリ金属塩を使用することができる。上記のような非水溶媒に溶解するアルカリ金属イオンを含む電解質塩としては、例えば、MをLi、Na、K、RbまたはCsとして、MFSI、MBF、MPF、MClO、LiB(C、LiBF(C)等を用いることができる。非水系電解液は、少なくとも1種以上のアルカリ金属イオンを含有することが好ましく、2種以上のアルカリ金属塩を含有していてもよいし、アルカリ金属塩およびベリリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、ストロンチウム塩、バリウム塩から選ばれるアルカリ土類金属塩を含有していてもよい。非水系電解液中に2種以上のアルカリ金属塩を含有する場合、ストークス半径の異なる陽イオンが非水系電解液中に存在することで低温下での粘度上昇を抑制することができるため、非水系アルカリ金属蓄電素子の低温特性が向上する。非水系電解液中に上記アルカリ金属イオン以外のアルカリ土類金属イオンを含有する場合、非水系アルカリ金属蓄電素子を高容量化することができる。
上記2種以上のアルカリ金属塩を非水系電解液中に含有させる方法、またはアルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩を非水系電解液中に含有させる方法は、特に限定されないが、例えば、非水系電解液中に、予め2種以上のアルカリ金属イオンからなるアルカリ金属塩を溶解する方法、及び非水系電解液中に、予めアルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩を溶解する方法が挙げられる。また、正極前駆体中に、下記式におけるMをNa、K、Rb、およびCsから選ばれる1種以上として、
CO等の炭酸塩;
O等の酸化物;
MOH等の水酸化物;
MFやMCl等のハロゲン化物;
RCOOM(式中、RはH、アルキル基、またはアリール基である)等のカルボン酸塩;および
BeCO、MgCO、CaCO、SrCO、またはBaCOから選ばれるアルカリ土類金属炭酸塩、ならびにアルカリ土類金属酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、アルカリ土類金属ハロゲン化物、およびアルカリ土類金属カルボン酸塩
等から選択される1種または2種以上含有させておき、後述のプレドープにて分解する方法等も挙げられる。
電解液における電解質塩濃度は、0.5~2.0mol/Lの範囲が好ましい。0.5mol/L以上の電解質塩濃度では、アニオンが十分に存在し、非水系アルカリ金属蓄電素子の容量が維持される。一方で、2.0mol/L以下の電解質塩濃度では、塩が電解液中で十分に溶解し、電解液の適切な粘度および伝導度が保たれる。非水系電解液中に2種以上のアルカリ金属塩を含有する場合、またはアルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩を含有する場合、これらの塩濃度の合計値が0.5mol/L以上であることが好ましく、0.5~2.0mol/Lの範囲であることがより好ましい。
非水系電解液に含まれる水分量は0ppm以上、500ppm以下であることが好ましい。水分量が0ppm以上であれば、正極前駆体中のアルカリ金属炭酸塩が僅かに溶解できるため、プレドープを温和な条件で行うことができるために高容量化、および低抵抗化できる。水分量が500ppm以下であれば、電解質の分解が抑制されることで高温保存特性が向上する。電解液中の水分量は上述のカールフィッシャー法で測定できる。
〈正極活物質層のその他の成分〉
正極前駆体の正極活物質層は、正極活物質、アルカリ金属炭酸塩、及び電解液の他に、導電性フィラーなどの導電助剤を含んでいてもよい。
導電助剤は、例えば導電性フィラーなどを含むことができる。導電性フィラーとしては、正極活物質よりも導電性の高い導電性炭素質材料を挙げることができる。このような導電性フィラーとしては、例えば、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、気相成長炭素繊維、黒鉛、鱗片状黒鉛、カーボンナノチューブ、グラフェン、これらの混合物等が好ましい。正極前駆体の正極活物質層における導電性フィラーの混合量は、正極活物質100質量部に対して、0~20質量部が好ましく、1~15質量部の範囲がより好ましい。導電性フィラーは高入力の観点からは混合する方が好ましい。導電性フィラーの混合量が20質量部以下であれば、正極活物質層における正極活物質の含有割合を多くでき、正極活物質層体積当たりのエネルギー密度が向上するため好ましい。
〈正極集電体〉
正極集電体を構成する材料としては、電子伝導性が高く、電解液への溶出及び電解質又はイオンとの反応等による劣化が起こらない材料であれば特に制限はないが、金属箔が好ましい。非水系リチウム蓄電素子における正極集電体としては、アルミニウム箔がより好ましい。
金属箔は凹凸又は貫通孔を持たない通常の金属箔でもよいし、エンボス加工、ケミカルエッチング、電解析出法、ブラスト加工等を施した凹凸を有する金属箔でもよいし、エキスパンドメタル、パンチングメタル、エッチング箔等の貫通孔を有する金属箔でもよい。
後述されるプレドープ処理の観点からは、無孔状のアルミニウム箔が更に好ましく、アルミニウム箔の表面が粗面化されていることが特に好ましい。
正極集電体の厚みは、正極の形状及び強度を十分に保持できれば特に制限はないが、例えば、1~100μmが好ましい。
金属箔の表面に、例えば黒鉛、鱗片状黒鉛、カーボンナノチューブ、グラフェン、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、気相成長炭素繊維等の導電性材料を含むアンカー層を設けることが好ましい。アンカー層を設けることで正極集電体と正極活物質層間の電気伝導が向上し、低抵抗化できる。アンカー層の厚みは、正極集電体の片面当たり0.1μm以上5μm以下であることが好ましい。
〈正極前駆体の製造方法〉
本開示の正極前駆体の製造方法は、正極活物質及びアルカリ金属炭酸塩、並びに必要に応じて使用されるその他の任意成分を、電解質を含む電解液に溶解して塗布体を得る工程と、この塗布体を正極集電体上の片面又は両面に塗工して塗膜(正極活物質層)を形成する工程とを含む。方法は、塗膜(正極活物質層)を形成した後に、乾燥工程を含まないことが好ましい。「乾燥工程を含まない」とは、塗布体中に含まれる液体成分を、液体成分の全質量を基準として、10質量%以上減少させないことを意味する。方法は、必要に応じて、得られた正極前駆体にプレスを施して、正極活物質層の膜厚又は嵩密度を調整してもよい。上記の塗布体を用いることによって、溶媒を蒸発させる乾燥工程を行う必要がないため、正極活物質層を厚膜化することが可能である。
本開示では、塗布体に流動性を与える材料として、電解液以外の液体成分を含まないことが好ましい。乾燥工程を経ずに塗布体から正極前駆体を形成する場合、塗布体の組成割合は、正極前駆体の組成割合に対応することとなる。したがって、塗布体における固形成分及び電解液の含有量は、上記〈正極活物質層とその組成〉の欄で説明した範囲と同様であってよい。すなわち、塗布体は、塗布体の全質量を基準として、正極活物質を、好ましくは10質量%以上85質量%以下、より好ましくは15質量%以上80質量%以下、更に好ましくは20質量%以上75質量%以下含有する。塗布体は、塗布体の全質量を基準として、アルカリ金属炭酸塩を、好ましくは5質量%以上50質量%以下、より好ましくは10質量%以上40質量%以下、更に好ましくは10質量%以上30質量%以下含有する。塗布体は、塗布体の全質量を基準として、任意に導電助剤を、好ましくは1質量%以上20質量%以下、より好ましくは1質量%以上15質量%以下、更に好ましくは1質量%以上10質量%以下含有する。塗布体は、塗布体の全質量を基準として、電解液を、好ましくは5質量%以上80質量%以下、より好ましくは10質量%以上75質量%以下、更に好ましくは15質量%以上70質量%以下含有する。
〈正極前駆体の塗布体の製造方法〉
正極前駆体の塗布体は、正極活物質を含む各種材料粉末の一部若しくは全部をドライブレンドし、次いで電解質を含む電解液を追加することにより製造することができる。あるいは、電解質を含む電解液の中に、正極活物質を含む各種材料粉末を追加して調製してもよい。ドライブレンド法として、例えばボールミル等を使用して正極活物質及びアルカリ金属炭酸塩、並びに必要に応じて導電性フィラーなどの助剤を予備混合して、導電性の低いアルカリ金属炭酸塩に導電材をコーティングさせてもよい。これにより、後述のプレドープにおいて正極前駆体でアルカリ金属炭酸塩が分解し易くなる。
正極前駆体の塗布体の調製は、好適には多軸分散機、プラネタリーミキサー、薄膜旋回型高速ミキサー、遠心分離遊星形ミキサー等の分散機等を用いることが出来る。より好適には電解質を含む電解液を少量ずつ添加し、固形分を徐々に下げて分散させる方法である。良好な分散状態を得るためには、分散時の固形分(撹拌工程数)を分けて、回転数、分散時間を調整して分散させることが好ましい。
〈正極活物質層の厚み〉
正極活物質層の厚みは、正極集電体の片面当たり、好ましくは90μm以上500μm以下、より好ましくは95μm以上450μm以下、更に好ましくは100μm以上400μm以下である。正極活物質層の厚さが90μm以上であれば、十分な充放電容量を発現することができる。他方、正極活物質層の厚さが500μm以下であれば、電極内のイオン拡散抵抗を低く維持することができる。そのため、十分な出力特性が得られるとともに、セル体積を縮小することができ、従ってエネルギー密度を高めることができる。なお、集電体が貫通孔又は凹凸を有する場合における正極活物質層の厚さとは、集電体の貫通孔又は凹凸を有していない部分における、片面当たりの正極活物質層の厚さの平均値をいう。
《負極》
負極は、負極集電体と、その片面又は両面に存在する負極活物質層とを有する。
〈負極活物質層〉
負極活物質層は、アルカリ金属イオンを吸蔵・放出できる負極活物質を含み、これ以外に、必要に応じて、導電性フィラー、結着剤、分散剤等の任意成分を含んでよい。また、本技術のように、水などの溶媒や結着剤などを含まず、電解質を含んでいてもよい。正極活物質層は、水などの溶媒や結着剤を含まないことが好ましいのに対して、負極活物質層は、水などの溶媒や結着剤を含んでもよく、含まなくともよい。活物質層が水などの溶媒や結着剤を含まない塗布体で形成される場合、厚膜化が容易となることから、電極設計上、負極活物質層も正極同様、水などの溶媒や結着剤を含まない塗布体を用いることが好ましい。
〈負極活物質〉
負極活物質は、アルカリ金属イオンを吸蔵・放出可能な物質を用いることができる。具体的には、炭素材料、チタン酸化物、ケイ素、ケイ素酸化物、ケイ素合金、ケイ素化合物、錫及び錫化合物等が例示される。好ましくは負極活物質の総量に対する炭素材料の含有率が50質量%以上であり、より好ましくは70質量%以上である。炭素材料の含有率が100質量%であることができるが、他の材料の併用による効果を良好に得る観点から、例えば、90質量%以下であることが好ましく、80質量%以下でもよい。炭素材料の含有率の範囲の上限と下限は、任意に組み合わせることができる。
炭素材料としては、例えば、難黒鉛化性炭素材料;易黒鉛化性炭素材料;カーボンブラック;カーボンナノ粒子;活性炭;人造黒鉛;天然黒鉛;黒鉛化メソフェーズカーボン小球体;黒鉛ウイスカ;ポリアセン系物質等のアモルファス炭素質材料;石油系のピッチ、石炭系のピッチ、メソカーボンマイクロビーズ、コークス、合成樹脂(例えばフェノール樹脂等)等の炭素前駆体を熱処理して得られる炭素質材料;フルフリルアルコール樹脂又はノボラック樹脂の熱分解物;フラーレン;カーボンナノフォーン;及びこれらの複合炭素材料を挙げることができる。
複合炭素材料のBET比表面積は、100m/g以上350m/g以下であることが好ましく、より好ましくは150m/g以上300m/g以下である。BET比表面積が100m/g以上であれば、アルカリ金属イオンのプレドープ量を十分大きくできるため、負極活物質層を薄膜化することができる。また、BET比表面積が350m/g以下であれば、負極活物質層の塗工性に優れる。
複合炭素材料は、リチウム金属を対極に用いて、測定温度25℃において、電流値0.5mA/cmで電圧値が0.01Vになるまで定電流充電を行った後、電流値が0.01mA/cmになるまで定電圧充電を行った時の初回の充電容量が、複合炭素材料単位質量当たり300mAh/g以上1,600mAh/g以下であることが好ましく、より好ましくは、400mAh/g以上1,500mAh/g以下であり、更に好ましくは、500mAh/g以上1,450mAh/g以下である。初回の充電容量が300mAh/g以上であれば、アルカリ金属イオンのプレドープ量を十分大きくできるため、負極活物質層を薄膜化した場合であっても、高い出力特性を有することができる。また、初回の充電容量が1,600mAh/g以下であれば、複合炭素材料にアルカリ金属イオンをドープ・脱ドープさせる際の複合炭素材料の膨潤・収縮が小さくなり、負極の強度が保たれる。
上述した負極活物質は、良好な内部抵抗値を得る観点から、下記の条件(1)及び(2)を満たす複合多孔質材料であることが特に好ましい。
(1)前述のBJH法で算出されたメソ孔量(直径が2nm以上50nm以下である細孔の量)Vm1(cc/g)が、0.01≦Vm1<0.10の条件を満たす。
(2)前述のMP法で算出されたマイクロ孔量(直径が2nm未満である細孔の量)Vm2(cc/g)が、0.01≦Vm2<0.30の条件を満たす。
負極活物質は粒子状であることが好ましい。
負極活物質はケイ素、ケイ素酸化物、ケイ素合金及びケイ素化合物、並びに錫及び錫化合物である場合、その粒子径は、0.1μm以上30μm以下であることが好ましい。この粒子径が0.1μm以上であれば、電解液との接触面積が増えるために非水系リチウム蓄電素子の抵抗を下げることができる。また、この粒子径が30μm以下であれば、充放電に伴う負極へのアルカリ金属イオンのドープ・脱ドープに起因する負極の膨潤・収縮が小さくなり、負極の強度が保たれる。ケイ素、ケイ素酸化物、ケイ素合金及びケイ素化合物、並びに錫及び錫化合物は、分級機内臓のジェットミル、撹拌型ボールミル等を用いて粉砕することにより、微粒子化することができる。粉砕機は遠心力分級機を備えており、窒素、アルゴン等の不活性ガス環境下で粉砕された微粒子はサイクロン又は集塵機で捕集することができる。
負極前駆体の負極活物質層における負極活物質の含有割合は、負極活物質層の全質量を位基準として、70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましい。
〈負極活物質層のその他の成分〉
負極活物質層は、必要に応じて、負極活物質の他に、結着剤、導電性フィラー、分散剤等の任意成分を含んでよい。また、本開示の好ましい実施形態における正極活物質層と同様に、水などの溶媒や結着剤などを含まない、電解質を含む電解液を用いて負極活物質層を作製してもよい。
結着剤としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ素ゴム、ラテックス、アクリル重合体等を使用することができる。負極活物質層における結着剤の使用量は、負極活物質100質量部に対して、3~25質量部が好ましく、5~20質量部の範囲がより好ましい。結着剤の使用量が負極活物質100質量部に対して3質量部未満の場合、負極(前駆体)における集電体と負極活物質層との間に十分な密着性を確保することができず、集電体と活物質層間との界面抵抗が上昇する。一方、結着剤の使用量が負極活物質100質量部に対して25質量部より大きい場合には、負極(前駆体)の活物質表面を結着剤が過剰に覆ってしまい、活物質細孔内のイオンの拡散抵抗が上昇する。
上記導電性フィラーは、負極活物質よりも導電性の高い導電性炭素質材料から成ることが好ましい。このような導電性フィラーとしては、例えば、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、気相成長炭素繊維、黒鉛、カーボンナノチューブ、これらの混合物等が好ましい。負極活物質層における導電性フィラーの混合量は、負極活物質100質量部に対して、20質量部以下が好ましく、1~15質量部の範囲がより好ましい。導電性フィラーは、高入力の観点からは負極活物質層に混合した方が好ましいが、混合量が20質量部よりも多くなると、負極活物質層における負極活物質の含有量が少なくなるために、体積当たりのエネルギー密度が低下するので好ましくない。
上記電解質は、アルカリ金属塩を電解質として含む。非水溶媒としては、例えば、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ブチレン、及びその炭素化又はフッ素化誘導体、及び非環式炭酸ジアルキルエステルの族、例えば炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチル、炭酸ジプロピル、炭酸メチルプロピル、炭酸エチルプロピル、炭酸ジブチル、炭酸ブチルメチル、炭酸ブチルエチル、炭酸ブチルプロピル、y-ブチロラクトン、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,3-ジオキソラン、4-メチル-1,3-ジオキソラン、ジエチルエーテル、スルホラン、メチルスルホラン、アセトニトリル、プロピオノニトリル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、炭酸ジメチル、テトラグリムなどが挙げられる。
〈負極集電体〉
負極集電体を構成する材料としては、電子伝導性が高く、電解液への溶出及び電解質又はイオンとの反応等による劣化が起こりにくい金属箔であることが好ましい。このような金属箔としては、特に制限はなく、例えば、アルミニウム箔、銅箔、ニッケル箔、ステンレス鋼箔等が挙げられる。非水系リチウム蓄電素子における負極集電体としては、銅箔が好ましい。金属箔は凹凸又は貫通孔を持たない通常の金属箔でもよいし、エンボス加工、ケミカルエッチング、電解析出法、ブラスト加工等を施した凹凸を有する金属箔でもよいし、エキスパンドメタル、パンチングメタル、エッチング箔等の貫通孔を有する金属箔でもよい。負極集電体の厚みは、負極の形状及び強度を十分に保持できれば特に制限はないが、例えば、1~100μmである。
〈負極の製造〉
負極は、負極集電体の片面上又は両面上に負極活物質層を有する。典型的な態様において、負極活物質層は負極集電体に固着している。負極は、既知のリチウムイオン電池、電気二重層キャパシタ等における電極の製造技術によって製造することが可能である。例えば、負極活物質を含む各種材料を水又は有機溶剤中に分散又は溶解してスラリー状の塗工液を調製し、この塗工液を負極集電体上の片面又は両面に塗工して塗膜を形成し、これを乾燥することにより負極を得ることができる。さらに得られた負極にプレスを施して、負極活物質層の膜厚又は嵩密度を調整してもよい。また、正極前駆体の製造条件と同様に、電解質を含む電解液に溶解して粘土状に調製し、この粘度状固形物の塗布体を負極電体上の片面又は両面に塗工して塗膜を形成し、乾燥工程を経ずに負極を得ても構わない。さらに必要に応じて得られた負極にプレスを施して、負極活物質層の膜厚又は嵩密度を調整してもよい。
負極活物質層の厚さは、好ましくは片面当たり10μm以上300μm以下であり、より好ましくは20μm以上350μm以下である。この厚さが10μm以上であれば、良好な充放電容量を発現することができる。他方、この厚さが350μm以下であれば、セル体積を縮小することができるから、エネルギー密度を高めることができる。集電体に孔がある場合には、負極の活物質層の厚さとは、それぞれ、集電体の孔を有していない部分の片面当たりの厚さの平均値をいう。
本開示の正極前駆体と組み合わせる負極は、固形分(質量%)/材料真密度(g/cc)で表される真密度(cc/g)と、1/電極嵩密度(g/cc)で表される実体積(cc/g)とから算出される空孔率(%)=(1-真密度/実体積)*100が、50%以上であることが好ましい。
《セパレータ》
正極前駆体及び負極は、セパレータを介して積層又は捲回され、正極前駆体、負極及びセパレータを有する電極積層体が形成される。
セパレータとしては、リチウムイオン二次電池に用いられるポリエチレン製の微多孔膜若しくはポリプロピレン製の微多孔膜、又は電気二重層キャパシタで用いられるセルロース製の不織紙等を用いることができる。これらのセパレータの片面または両面に、有機または無機の微粒子からなる膜が積層されていてもよい。また、セパレータの内部に有機または無機の微粒子が含まれていてもよい。
セパレータの厚みは5μm以上35μm以下が好ましい。5μm以上の厚みとすることにより、内部のマイクロショートによる自己放電が小さくなる傾向があるため好ましい。他方、35μm以下の厚みとすることにより、蓄電素子の出力特性が高くなる傾向があるため好ましい。
有機または無機の微粒子からなる膜の厚みは、1μm以上10μm以下が好ましい。1μm以上の厚みとすることにより、内部のマイクロショートによる自己放電が小さくなる傾向があるため好ましい。他方、10μm以下の厚みとすることにより、蓄電素子の出力特性が高くなる傾向があるため好ましい。
《外装体》
電極積層体は、一般に、外装体内に収容される。外装体としては、金属缶、ラミネートフィルム等を使用できる。金属缶としては、アルミニウム製のものが好ましい。金属缶は、例えば、角形、丸型、円筒型などの形態でよい。ラミネートフィルムとしては、金属箔と樹脂フィルムとを積層したフィルムが好ましく、外層樹脂フィルム/金属箔/内装樹脂フィルムから成る3層構成のものが例示される。外層樹脂フィルムは、接触等により金属箔が損傷を受けることを防止するためのものであり、ナイロン又はポリエステル等の樹脂が好適に使用できる。金属箔は水分及びガスの透過を防ぐためのものであり、銅、アルミニウム、ステンレス等の箔が好適に使用できる。また、内装樹脂フィルムは、内部に収納する電解液から金属箔を保護するとともに、外装体のヒートシール時に溶融封口させるためのものであり、ポリオレフィン、酸変性ポリオレフィン等が好適に使用できる。
《非水系リチウム蓄電素子の製造方法》
非水系リチウム蓄電素子は、一般に、正極と、負極と、セパレータと、電解液とを主な構成要素とする。電解液としては、アルカリ金属イオンを含む有機溶媒(以下、「非水系電解液」ともいう。)を用いることができる。
〈組立工程〉
一実施形態において、組立工程では、例えば、枚葉の形状にカットした正極前駆体及び負極を、セパレータを介して積層して成る積層体に、正極端子及び負極端子を接続して、電極積層体を作製する。別の実施形態において、組立工程では、正極前駆体及び負極を、セパレータを介して積層及び捲回した捲回体に正極端子及び負極端子を接続して、電極捲回体を作製してもよい。電極捲回体の形状は円筒型であっても、扁平型であってもよい。正極端子及び負極端子の接続の方法は特に限定されないが、抵抗溶接、超音波溶接などの方法を用いることができる。
〈封止工程〉
組立工程後に、外装体が開口した状態の電極体を減圧しながら封止することで密閉することで、非水系アルカリ金属蓄電素子前駆体(すなわち、アルカリ金属ドープ工程を行う前の非水系アルカリ金属蓄電素子)を製造することができる。
〈アルカリ金属ドープ工程〉
アルカリ金属ドープ工程では、非水系アルカリ金属蓄電素子前駆体の正極前駆体と負極との間に電圧を印加して、正極前駆体中のアルカリ金属炭酸塩を分解してアルカリ金属イオンを放出し、負極でアルカリ金属イオンを還元することにより負極活物質層にアルカリ金属イオンをプレドープすることが好ましい。アルカリ金属ドープ工程において、正極前駆体中のアルカリ炭酸塩の酸化分解に伴い、CO等のガスが発生する。そのため、電圧を印加する際には、発生したガスを外装体の外部に放出する手段を講ずることが好ましい。この手段としては、例えば、外装体の一部を開口させた状態で電圧を印加する方法;外装体の一部に予めガス抜き弁、ガス透過フィルム等の適宜のガス放出手段を設置した状態で電圧を印加する方法;等を挙げることができる。
〈エージング工程〉
アルカリ金属ドープ工程後に、電極体にエージングを行うことが好ましい。エージング工程では、電解液中の溶媒が負極で分解し、負極表面にアルカリ金属イオン透過性の固体高分子被膜が形成される。エージングの方法としては、特に制限されないが、例えば高温環境下で電解液中の溶媒を反応させる方法等を用いることができる。
〈ガス抜き工程〉
エージング工程後に、更にガス抜きを行い、電解液、正極、及び負極中に残存しているガスを確実に除去することが好ましい。電解液、正極、及び負極の少なくとも一部にガスが残存している状態では、イオン伝導が阻害されるため、得られる非水系リチウム蓄電素子の抵抗が上昇してしまう。ガス抜きの方法としては、特に制限されないが、例えば、外装体を開口した状態で電極積層体を減圧チャンバーに設置し、真空ポンプを用いてチャンバー内を減圧状態にする方法等を用いることができる。ガス抜き後、外装体をシールすることにより外装体を密閉し、非水系リチウム蓄電素子を作製することができる。
《非水系アルカリ金属蓄電素子の用途》
本開示の複数個の非水系アルカリ金属蓄電素子を直列または並列に接続することにより蓄電モジュールを作製することができる。本開示の非水系アルカリ金属蓄電素子および蓄電モジュールは、高い入出力特性と高温での安全性とを両立することができる。そのため、電力回生アシストシステム、電力負荷平準化システム、無停電電源システム、非接触給電システム、エナジーハーベストシステム、蓄電システム、太陽光発電蓄電システム、電動パワーステアリングシステム、非常用電源システム、インホイールモーターシステム、アイドリングストップシステム、急速充電システム、スマートグリッドシステム等に使用されることができる。
蓄電システムは太陽光発電または風力発電等の自然発電に、電力負荷平準化システムはマイクログリッド等に、無停電電源システムは工場の生産設備等に、それぞれ好適に利用される。非接触給電システムにおいて、非水系アルカリ金属蓄電素子は、マイクロ波送電または電界共鳴等の電圧変動の平準化およびエネルギーの蓄電のために;エナジーハーベストシステムにおいて、非水系アルカリ金属蓄電素子は、振動発電等で発電した電力を使用するために、それぞれ好適に利用される。
蓄電システムにおいては、セルスタックとして、複数個の非水系アルカリ金属蓄電素子が直列または並列に接続されるか、または非水系アルカリ金属蓄電素子と、鉛電池、ニッケル水素電池、リチウムイオン二次電池または燃料電池とが直列または並列に接続される。また、本開示の非水系アルカリ金属蓄電素子は、高い入出力特性と高温での安全性とを両立することができるので、例えば、電気自動車、プラグインハイブリッド自動車、ハイブリッド自動車、電動バイク等の乗り物に搭載されることができる。上記で説明された電力回生アシストシステム、電動パワーステアリングシステム、非常用電源システム、インホイールモーターシステム、アイドリングストップシステム、またはこれらの組み合わせが、乗り物に好適に搭載される。
以下、実施例および比較例を示して本開示の実施形態を具体的に説明する。しかしながら本開示は、以下の実施例および比較例により、何ら限定されるものではない。
《測定及び評価方法》
〈静電容量〉
本明細書では、容量Qa(mAh)とは、以下の方法によって得られる値である。先ず、非水系アルカリ金属蓄電素子と対応するセルを25℃に設定した恒温槽内で、2Cの電流値で4.0Vに到達するまで定電流充電を行い、続いて4.0Vの定電圧を印加する定電圧充電を合計で30分行う。その後、2.0Vまで2Cの電流値で定電流放電を施した際の容量をQa(mAh)とする。ここで電流の放電レート(「Cレート」とも呼ばれる)とは、放電容量に対する放電時の電流の相対的な比率であり、一般に、上限電圧から下限電圧まで定電流放電を行う際、1時間で放電が完了する電流値のことを1Cという。本明細書では、上限電圧4.0Vから下限電圧2.0Vまで定電流放電を行う際に1時間で放電が完了する電流値のことを1Cとする。
〈内部抵抗〉
本明細書では、内部抵抗Ra(mΩ)とは、以下の方法によって得られる値である。先ず、非水系アルカリ金属蓄電素子を25℃に設定した恒温槽内で、20Cの電流値で4.0Vに到達するまで定電流充電し、続いて4.0Vの定電圧を印加する定電圧充電を合計で30分間行う。続いて、サンプリング間隔を0.05秒とし、20Cの電流値で2.0Vまで定電流放電を行って、放電カーブ(時間-電圧)を得る。この放電カーブにおいて、放電時間1秒および2秒の時点における電圧値から、直線近似にて外挿して得られる放電時間=0秒における電圧をEoとしたときに、降下電圧ΔE=4.0-EoからRa=ΔE/(20Cの電流値)として算出される値を、内部抵抗Ra(mΩ)とする。
〈電極中のアルカリ金属炭酸塩の同定方法〉
正極または正極前駆体の正極活物質層中のアルカリ金属炭酸塩の定量は、固体NMR、XRD、TOF-SIMS、AES、TPD/MS、DSC、ICP-MS等の適宜の分析方法によって行うことができる。本明細書では、定量性の点で、ICP-MS(誘導結合プラズマ質量分析)によってアルカリ金属炭酸塩の定量を行う。ICP-MS分析では、正極前駆体または正極の正極活物質層の一部を掻き取ったものを試料とする。この試料を精秤のうえ、王水、濃硝酸、濃塩酸等の適宜の強酸で酸分解して、酸濃度2質量%程度に純水で希釈して測定液を得る。測定液には、適当な内部標準元素を加えて定量性を向上させてもよい。内部標準元素としては、例えば、Be、Li、Sc、Co、Y、Rh、In、Tl、Bi等が用いられる。この測定液について、ICP-MS分析を行い、標準液を用いて作成した検量線により、当該試料中のアルカリ金属炭酸塩量を定量し、元の試料質量で割り付けることにより、正極活物質中のアルカリ金属炭酸塩濃度を算出することができる。
〈電極中のNMPの同定方法〉
正極または正極前駆体の正極活物質層中のN-メチル-2-ピロリドン(NMP)の定量は、25℃環境下、正極活物質層の50~100倍の重量のエタノールに正極または正極前駆体を24時間含侵させてNMPを抽出し、その後GC/MSを測定し、予め作成した検量線に基づいて定量することができる。NMPの含有量は、正極活物質層の重量を100%として0.1%(1000ppm)以下であることが好ましい。NMPが0.1%以下であれば、低抵抗となり非水系アルカリ金属蓄電素子の自己放電特性を抑制することができる。
《製造例》
〈正極活物質の調製〉
破砕されたヤシ殻炭化物を小型炭化炉内へ入れ、窒素雰囲気下、500℃で3時間炭化処理して炭化物を得た。得られた炭化物を賦活炉内へ入れ、予熱炉で加温した水蒸気を1kg/hで賦活炉内へ導入し、900℃まで8時間かけて昇温して賦活した。賦活後の炭化物を取り出し、窒素雰囲気下で冷却して、賦活された活性炭を得た。得られた賦活された活性炭を10時間通水洗浄した後に水切りし、115℃に保持された電気乾燥機内で10時間乾燥した後に、ボールミルで1時間粉砕を行うことにより、活性炭1を得た。島津製作所社製レーザー回折式粒度分布測定装置(SALD-2000J)を用いて、活性炭1の平均粒子径を測定した結果、5.5μmであった。また、ユアサアイオニクス社製細孔分布測定装置(AUTOSORB-1 AS-1-MP)を用いて、活性炭1の細孔分布を測定した。その結果、BET比表面積が2,360m/g、メソ孔量(V)が0.52cc/g、マイクロ孔量(V)が0.88cc/g、V/V=0.59であった。
〈正極前駆体の製造例1〉
正極活物質として活性炭1を50.0質量部、アルカリ金属炭酸塩として炭酸リチウムを15.0質量部、導電性フィラーとしてアセチレンブラック(AB)を3.0質量部の固形物に、電解液として1M-LiBF6エチレンカーボネート(EC):ジエチルカーボネート(DEC)=1:1(体積比)を32.0質量部少量ずつ添加し、その混合物をシンキー社製の自転公転ミキサー「泡とり練太郎(登録商標)」を用いて、2,000rpmの回転速度で合計5分間分散して、固形分68質量部の塗布体を得た。得られた塗布体を、厚さ15μmのアルミニウム箔の片面に、4.4cm×9.4cm×0.015cm(縦×横×深さ)の治具内に塗布し、乾燥工程、プレス工程を経ずに正極前駆体1を得た。小野計器社製膜厚計Linear Gauge Sensor GS-551を用いて、得られた正極前駆体1の全厚を任意の10か所で測定し、その平均値からアルミニウム箔の膜厚を減じて正極活物質層の膜厚を求めたところ、正極前駆体1の正極活物質層の膜厚は、150μmであった。上述の方法に従い正極前駆体1中のNMP量を測定したところ、NMPの濃度は0質量%であった。アルカリ金属炭酸塩の量は、正極活物質層の全質量を基準として、15.0質量%であった。
〈正極前駆体の製造例2〉
用いる治具の深さが0.006cmであること以外は正極前駆体の製造例1と同様の手順で、膜厚65μmの正極前駆体2を製造した。上述の方法に従い正極前駆体2中のNMP量を測定したところ、NMPの濃度は0質量%であった。アルカリ金属炭酸塩の量は、正極活物質層の全質量を基準として、15.0質量%であった。
〈正極前駆体の製造例3〉
正極活物質として活性炭1を65.0質量部、アルカリ金属炭酸塩として炭酸リチウムを25.0質量部、導電性フィラーとしてアセチレンブラック(AB)を3.0質量部、分散剤としてPVP(ポリビニルピロリドン)を1.5質量部、および結着剤としてアクリルラテックス(LTX)を3.5質量部、カルボキシメチルセルロース(CMC)を2質量部、ならびに固形分の質量割合が26.5%になるように蒸留水を混合し、その混合物をシンキー社製の自転公転ミキサー「泡とり練太郎(登録商標)」を用いて、2,000rpmの回転速度で10分間分散して正極塗工液を得た。ドクターブレードを用いて、厚さ15μmのアルミニウム箔の片面に正極塗工液を塗工し、50℃に加熱したホットプレートで10分間乾燥した後、ロールプレス機を用いて圧力6kN/cm、プレス部の表面温度25℃の条件でプレスすることにより、正極前駆体3を得た。小野計器社製膜厚計Linear Gauge Sensor GS-551を用いて、得られた正極前駆体3の全厚を任意の10か所で測定し、その平均値からアルミニウム箔の膜厚を減じて」正極活物質層の膜厚を求めたところ、正極前駆体3の正極活物質層の膜厚は、60μmであった。上述の方法に従い正極前駆体3中のNMP量を測定したところ、NMPの濃度は0質量%であった。アルカリ金属炭酸塩の量は、正極活物質層の全質量を基準として、25.0質量%であった。
〈正極前駆体の製造例4〉
正極活物質として活性炭1を58.0質量部、アルカリ金属炭酸塩として炭酸リチウムを25.0質量部、導電性フィラーとしてケッチェンブラック(KB)を3.0質量部、分散剤としてPVP(ポリビニルピロリドン)を2.0質量部、結着剤としてPVDF(ポリフッ化ビニリデン)溶液を12質量部、ならびに固形分の質量割合が22.0%になるようにNMPを混合し、その混合物をPRIMIX社製の薄膜旋回型高速ミキサー「フィルミックス(登録商標)」を用いて、周速17m/sの条件で分散して正極塗工液を得た。ドクターブレードを用いて、厚さ15μmのアルミニウム箔の片面に正極塗工液を塗工し、60℃に加熱したホットプレートで10分間乾燥した後、120℃の恒温槽で30min乾燥した。その後ロールプレス機を用いて圧力6kN/cm、プレス部の表面温度25℃の条件でプレスすることにより、正極前駆体4を得た。小野計器社製膜厚計Linear Gauge Sensor GS-551を用いて、得られた正極前駆体4の全厚を任意の10か所で測定し、その平均値からアルミニウム箔の膜厚を減じて」正極活物質層の膜厚を求めたところ、正極前駆体4の正極活物質層の膜厚は、60μmであった。上述の方法に従い正極前駆体4中のNMP量を測定したところ、NMPの濃度は0.2質量%であった。アルカリ金属炭酸塩の量は、正極活物質層の全質量を基準として、25.0質量%であった。
〈負極の製造例1〉
平均粒子径4.5μmの天然黒鉛を60質量部、アセチレンブラックを10質量部、の固形物に、電解液として1M-LiBF6エチレンカーボネート(EC):ジエチルカーボネート(DEC)=1:1(体積比)を30.0質量部少量ずつ添加し、その混合物をシンキー社製の自転公転ミキサー「泡とり練太郎(登録商標)」を用いて、2,000rpmの回転速度で合計5分間分散して、固形分70質量部の塗布体を得た。得られた塗布体を、厚さ10μmの電解銅箔の片面に4.5cm×9.5cm×0.010cmの治具内に塗布し、乾燥工程、プレス工程を経ずに負極1を得た。小野計器社製膜厚計Linear Gauge Sensor GS-551を用いて、得られた負極1の全厚を任意の10か所で測定し、その平均値から銅箔の膜厚を減じて負極活物質層の膜厚を求めたところ、負極1の負極活物質層の膜厚は、100μmであった。
〈負極の製造例2〉
平均粒子径4.5μmの人造黒鉛を84.0質量部、アセチレンブラック(AB)を10.0質量部、カルボキシメチルセルロース(CMC)を3.0質量部、およびスチレンブタジエンゴム(SBR)を3.0質量部、ならびに蒸留水を混合し、固形分の質量割合が36.5質量%の混合物を得た。得られた混合物を、シンキー社製の自転公転ミキサー「泡とり練太郎(登録商標)」を用いて、2,000rpmの回転速度にて10分間分散して、負極塗工液を得た。得られた負極塗工液を厚さ10μmの電解銅箔の片面に、ドクターブレードを用いて負極塗工液を塗工し、50℃に加熱したホットプレートで10分間乾燥した。次いでロールプレス機を用いて、圧力5kN/cm、プレス部の表面温度25℃の条件でプレスすることにより、負極2を製造した。小野計器社製の膜厚計「Linear Gauge Sensor GS-551」を用いて、負極2の全厚を任意の10か所で測定し、その平均値から電解銅箔の厚さを減じて負極活物質層の膜厚を求めたところ、負極2の負極活物質層の膜厚は、30μmであった。得られた負極2を負極活物質層が4.5cm×9.5cmの大きさになるよう1枚切り出した。
〈負極の製造例3〉
平均粒子径4.5μmの天然黒鉛を84質量部、アセチレンブラックを10質量部、及びPVdF(ポリフッ化ビニリデン)を6質量部、ならびに固形分の質量割合が24.5%になるようにNMP(N-メチル-2-ピロリドン)を混合し、その混合物をPRIMIX社製の薄膜旋回型高速ミキサー「フィルミックス(登録商標)」を用いて、周速17m/sの条件で分散して負極塗工液を得た。ドクターブレードを用いて、厚さ10μmの電解銅箔の片面に負極塗工液を塗工速度1m/sの条件で塗工し、乾燥温度120℃で乾燥して負極3を得た。ロールプレス機を用いて圧力5kN/cm、プレス部の表面温度25℃の条件でプレスした。プレスされた負極3の全厚を、小野計器社製膜厚計Linear Gauge Sensor GS-551を用いて、負極3の任意の10か所で測定した。得られた測定結果より、負極3の負極活物質層の膜厚は片面当たり30μmであった。
〈実施例1〉
(組立工程及び封止工程)
正極前駆体1及び負極1の製造に用いた電解液と同じ電解液にあらかじめ含侵させた4.7cm×9.8cmのポリエチレン製のセパレータ(旭化成株式会社製、厚み15μm)を1枚用意した。これを用いて、正極前駆体1、セパレータ、負極1の順に、セパレータを挟んで正極活物質層と負極活物質層とが対向するように積層し、電極積層体を得た。得られた電極積層体に正極端子及び負極端子を超音波溶接し、アルミラミネート包材で形成された容器に入れ、電極端子部を含む3辺をヒートシールによりシールした。得られて電極積層体を減圧シール機に入れ、-95kPaに減圧した状態で、180℃で10秒間、0.1MPaの圧力でシールすることによりアルミラミネート包材を封止して、電極積層体を得た。
(アルカリ金属ドープ工程)
封止された電極積層体を、温度40℃にて、電流値50mAで電圧4.5Vに到達するまで定電流充電を行った後、続けて4.5V定電圧充電を2時間継続する手法により、初期充電を行い、負極にアルカリ金属ドープ工程を行った。
(エージング工程)
アルカリ金属ドープ工程後の電極積層体をドライボックスから取り出し、25℃環境下にて、50mAで電圧4.0Vに到達するまで定電流放電を行った後、4.0Vでの定電流放電を1時間行うことにより、電圧を4.0Vに調整した。続いて、電極体を60℃の恒温槽中に12時間保管した。
(ガス抜き工程)
エージング後、温度25℃、露点-40℃のドライエアー環境下にて、外装体の一部を開封して、電極積層体を取出した。取り出した電極積層体を、減圧チャンバーの中に入れ、ダイヤフラムポンプを用いて大気圧から-80kPaまで3分間かけて減圧した後、3分間かけて大気圧に戻す工程を合計3回繰り返した。その後、電極積層体を外装体内に戻し入れ、減圧シール機を用いて、-90kPaに減圧した後、200℃で10秒間、0.1MPaの圧力でシールして外装体を封止することにより、非水系アルカリ金属蓄電素子を製造した。
(静電容量Qaおよび内部抵抗Raの測定)
得られた非水系アルカリ金属蓄電素子の内の1個について、25℃に設定した恒温槽内で、アスカ電子株式会社製の充放電装置(5V,10A)を用い、上述の方法により静電容量Qaおよび内部抵抗Raを測定したところ、Qaは15.28mAh、Raは70.2mΩであった。これらの値は、初期静電容量Qaおよび初期内部抵抗Raとして、表1に示した。
(正極中のアルカリ金属炭酸塩の定量)
上記アルゴンボックス中でEMC洗浄後に得られた正極について、上述の方法に従い、正極中のアルカリ金属炭酸塩を測定したところ、アルカリ金属炭酸塩の濃度は3.0質量%であった。
〈実施例2〉
(組立工程及び封止工程)
4.7cm×9.8cmのポリエチレン製のセパレータ(旭化成株式会社製、厚み15μm)を1枚用意した。これを用いて、正極前駆体2、セパレータ、負極2の順に、セパレータを挟んで正極活物質層と負極活物質層とが対向するように積層し、電極積層体を得た。得られた電極体に正極端子および負極端子を超音波溶接し、アルミラミネート包材で形成された外装体に入れ、電極端子部を含む3辺をヒートシールによりシールした。大気圧下、温度25℃、露点-40℃以下のドライエアー環境下にて、電極積層体を収納した外装体内に、電解液として1M-LiBF6エチレンカーボネート(EC):ジエチルカーボネート(DEC)=1:1(体積比)を約2.5g注入した。続いて、電極積層体および電解液を収納している外装体を減圧チャンバーの中に入れ、大気圧から-87kPaまで減圧した後、大気圧に戻し、5分間静置した。その後、チャンバー内の外装体を大気圧から-87kPaまで減圧した後、大気圧に戻す工程を4回繰り返した後、大気圧下にて15分間静置した。以上の工程により、1M-LiBF6エチレンカーボネート(EC):ジエチルカーボネート(DEC)=1:1(体積比)を電極積層体に含浸させた。その後、電解液を含浸させた電極積層体を減圧シール機に入れ、-95kPaに減圧した状態で、180℃で10秒間、0.1MPaの圧力でシールすることにより外装体を封止した。以降の工程(アルカリ金属ドープ工程~ガス抜き工程)は、全て実施例1と同様にして非水系アルカリ金属蓄電素子を製造し、評価した。
〈比較例1〉
正極前駆体3を使用したこと以外は全て実施例2と同様にして非水系アルカリ金属蓄電素子を製造し、評価した。
〈比較例2〉
正極前駆体4、及び負極3を用いたこと以外は実施例2と同様にして非水系アルカリ金属蓄電素子を製造し、評価した。
Figure 2023024002000001

Claims (10)

  1. 正極活物質と、アルカリ金属炭酸塩と、電解質を溶解した電解液とを含む正極活物質層が、正極集電体の片面または両面上に配置された正極前駆体であって、前記正極活物質層は、前記正極活物質層の全質量を基準として、前記アルカリ金属炭酸塩を5質量%以上50質量%以下含有する、正極前駆体。
  2. 前記正極活物質層のNMP含有量が、前記正極活物質層の全質量を基準として、0ppm以上、1000ppm以下である、請求項1に記載の正極前駆体。
  3. 前記正極前駆体は結着剤を含まない、請求項1又は2に記載の正極前駆体。
  4. 前記正極活物質が、活性炭及び/又はリチウム遷移金属酸化物であり、
    前記リチウム遷移金属酸化物が、LiNiCoAl(1-a-b)(aおよびbは、0.02<a<0.97、0.02<b<0.97を満たす。)、LiNiCoMn(1-c-d)(cおよびdは、0.02<c<0.97、0.02<d<0.97を満たす。)、LiCoO、LiMn、またはLiFePO(xは、0≦x≦1を満たす。)、LiMnPO(xは、0≦x≦1を満たす)、およびLi(PO(zは、0≦z≦3を満たす。)からなる群より選択される少なくとも一種である、請求項1~3のいずれか一項に記載の正極前駆体。
  5. 前記アルカリ金属炭酸塩は、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、および炭酸カリウムからなる群より選択される少なくとも一種である、請求項1~4のいずれか一項に記載の正極前駆体。
  6. 正極活物質と、アルカリ金属炭酸塩と、電解質を溶解した電解液とを含む、正極活物質層形成用の塗布体であって、
    前記塗布体は、前記塗布体の全質量を基準として、前記電解液を5質量%以上80質量%以下含有し、
    前記正極活物質は、活性炭および/またはリチウム遷移金属酸化物であり、
    前記アルカリ金属炭酸塩が、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、および炭酸カリウムからなる群より選択される少なくとも一種である、塗布体。
  7. 請求項1~5のいずれか一項に記載の正極前駆体と、負極と、アルカリ金属イオンを含む電解液とを有する、非水系アルカリ金属蓄電素子前駆体。
  8. 請求項7に記載の非水系アルカリ金属蓄電素子前駆体のドープエージング後の非水系アルカリ金属蓄電素子を含む、蓄電モジュール。
  9. 電力回生アシストシステム、電力負荷平準化システム、無停電電源システム、非接触給電システム、エナジーハーベストシステム、蓄電システム、太陽光発電蓄電システム、電動パワーステアリングシステム、非常用電源システム、インホイールモーターシステム、アイドリングストップシステム、電気自動車、プラグインハイブリッド自動車、ハイブリッド自動車、電動バイク、急速充電システム、またはスマートグリッドシステムである、請求項8に記載の蓄電モジュール。
  10. 請求項6に記載の塗布体を正極集電体上に配置することによって正極活物質層を形成する工程を含む、正極前駆体を製造する方法であって、上記方法は、上記する工程の後に乾燥工程を含まない、方法。
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