JP2023015939A - 穿刺血を溶血および希釈を行うデバイス、およびそれを用いた糖化ヘモグロビン分析方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】HPLC法のA1c測定装置であっても、穿刺血を容易に溶血/希釈を行うデバイス、および方法を提供する。【解決手段】穿刺血を毛細管現象にて吸い上げることができる樹脂製円錐状又は角錐状のチップと、前記チップを収納できる容器と、前記容器を密閉できる蓋体から構成される、穿刺血を採取し、溶血および希釈することができるチップセットであり、前記容器は、前記チップの最大外径より0.5~5mm大きい内径であり、前記容器内に、前記チップが収納できる高さを有する円柱状であり、前記容器の上面から5~15mmの位置に鍔を有する、ことを特徴とする、穿刺血を採取し、溶血および希釈することができるチップセットおよび前記チップを用いた穿刺血を採取、溶血/希釈する方法によりグリコヘモグロビン(A1c%)を測定する。【選択図】図7
Description
ヘモグロビンA1c(以下A1c、SA1cとも略す)は、糖尿病の診断指標として用いられる値である。A1cの測定は、その検査件数(規模)や要求される精度等によりいくつかの手法がある。大別すると免疫法とHPLC法というふたつの方法がある。免疫法は、抗体を用いた免疫化学的な手法での計測であり、HPLC(High Performance Liquid Chromatography:高速液体クロマトグラフィー)法は、カラムと呼ばれる装置に高圧で検体を流し、親和力の差や、荷電状態に応じて血液成分を分離し定量する手法であり、最も高精度な手法とされている。何れの方法でも、患者の静脈血を採取し、溶血/希釈操作を行った後に、測定系に供するものである。
簡易的な免疫法では、使い捨ての「穿刺器具」により、指等から数マイクから数十マイクロリッタの血液を採取して行うのが一般的である。一方、HPLC法では5~10mL程度の採血管に採血した検体を使用する。この場合、採血管の全血を、測定機器に備えられた溶血/希釈機構により、自動で処理された後に分析に供される。
また、HPLC法では、前記のように、採血管を取り扱うことが多いが、簡易的な免疫法のような「穿刺血」を直接取り扱うことはない。
HPLC法でのA1cの測定は、電荷の違いによるイオン交換の原理に基づいた手法と、特異的な吸脱着によるアフィニティの原理に基づいた手法がある。図1に、得られるクロマトグラムを模式的に示す。図1aはイオン交換法、図1bはアフィニティ法での結果である。また左図はA1cが低値、右図はA1cが高値の場合である。いずれの場合でも糖尿病の指標であるA1c%は、全ヘモグロビンに対する糖化ヘモグロビン(A1c)の比率で算出される。つまり、全ピーク面積に対する、糖化ヘモグロビン(A1c)ピーク面積(塗潰しピーク)の比率で算出される。
このことから、一般的なHPLCでの定量と異なり、カラムへの注入量が多少変動しても定量値への影響は少ない。つまり、血液検体を測定する場合の、希釈精度はあまり要求されず、多少の変動が生じても結果として得られるA1c%には影響がない。
本発明は、前記課題を解決するためになされたものであり、HPLC法のA1c測定装置であっても、穿刺血を容易に溶血/希釈を行うデバイス、および方法を提供するものである。
HPLC法によるA1cの測定を行う場合、複数の検体を搭載できる「ラック」に乗せて、検体のサンプリング位置まで移動させ、順次、分析カラムに注入し分析を行っていく。図2にHPLC法によるA1c測定装置の構成の一例を示す。
HPLC法では、大まかには、複数の溶出力の異なる溶離液(1)を切り替えて送液できるポンプ(3)、検体を分析カラム(6)に注入するための試料注入バルブ(31)、分離の度合いを検出する可視光検出器(7)から成る。前記試料注入バルブ(31)は一定量の検体を保持できる試料ループ(32)を有している。
検体注入機構は、前記注入バルブ(31)の他、全血検体を溶血/希釈するための希釈槽(35)、溶血/希釈液の添加や検体を吸引するための計量ポンプ(37)を備える。
血液分析の分野では、静脈血2~10mLの採血管にて採血し、そのまま分析計で測定される場合が多い。HPLC法でのA1c測定の場合も同様であり、採血管を「ラック」に搭載し、自動で前処理等を行い、分析計に導入される。A1c測定の場合は、全血を微量サンプリングし、自動で溶血および希釈操作が行われ、その一部を分析カラムに注入し、分析される。
但し、以下のような場合は、用手法で検体を溶血および希釈を行った後、分析計にかける。
(1)採血管での採血が困難な患者または検体、(2)凍結乾燥状態の検体(キャリブレーション試料、コントロール試料等)
この場合、0.5mL程度調整すれば測定可能であり、2mL程度の「希釈容器」に入れ、「ラック」に搭載し、分析計にかける。この場合は、前述の「前処理」はスキップされる。そのため、HPLC法によるA1c測定を行う分析計では、自動で検体が「採血管」か「希釈容器」を、装置側で識別できることが要求される。
(1)採血管での採血が困難な患者または検体、(2)凍結乾燥状態の検体(キャリブレーション試料、コントロール試料等)
この場合、0.5mL程度調整すれば測定可能であり、2mL程度の「希釈容器」に入れ、「ラック」に搭載し、分析計にかける。この場合は、前述の「前処理」はスキップされる。そのため、HPLC法によるA1c測定を行う分析計では、自動で検体が「採血管」か「希釈容器」を、装置側で識別できることが要求される。
その一つの手法として、検体の高さで判別が可能となる。図3を基に説明する。通常、採血管は80mm以上の長さがあることから、高さ60mm程度のラックを用いることを前提に説明する。この場合、採血管の約25mm程度がラックの上面からはみ出る形となる。「希釈容器」の形状は「鍔」を有した形とし、ラックの上面に10mm程度はみ出る形状とする。検出できる高さ位置の異なる「センサ」を2ヶ所に配する。第一のセンサは希釈容器では「未反応」、採血管では「反応」の高さ位置、第二のセンサは希釈容器では「反応」、採血管でも「反応」の高さ位置に配し、その応答の組み合わせで、検体種別の識別ができる。この高さを検知するセンサは、接触式のセンサでも、光学的に判別できるセンサでも良く、特に限定されない。
図4のごとく、ラックに搭載され、高さ検知の位置に移送した際、第一のセンサが「反応」、第二のセンサが「反応」となった場合は、検体は「採血管」と判定され、サンプリング位置に移動し、微量の血液検体をサンプリングし、自動で溶血/希釈操作され、その一部を分析カラムに注入されA1cを測定する。
図6のごとく、ラックに搭載され、高さ検知の位置に移送した際、第一のセンサが「未反応」、第二のセンサが「反応」となった場合は、検体は「希釈済み検体(希釈容器)」と判定され、サンプリング位置に移動し、一定量をサンプリングし、分析カラムに注入されA1cを測定する。
また、第一のセンサ、第二センサともが「未反応」の場合は、ラックに検体が搭載されていないと判定され、測定はスキップされる。第一のセンサが「反応」、第二のセンサが「未反応」の場合は、「エラー」と判定される。
また、臨床診断分野では患者情報等を電子的に記録したり、省力化や検体の取違防止のためにバーコードやQRコード(登録商標)を用いることが多い。HPLC法でのA1c測定においても、検体にバーコードを貼り付け、測定装置で自動読み取りさせることが多くなっている。採血管を使用する場合、長さが100~130mm程度であり、十分にバーコードを添付する領域を確保することができる(図11a、b参照)。一方、希釈検体の場合、容器が小さく、バーコードを添付する領域を確保することができない。
前述したが、穿刺血をHPLC法でA1cを測定する場合、図5のごとく、用手法で行う必要がある。
前述したが、穿刺血をHPLC法でA1cを測定する場合、図5のごとく、用手法で行う必要がある。
まず、穿刺器具にて指等を穿刺し、1~50μL程度の血液を出す。微量血が採取できる「キャピラリー」等により10μL吸い上げ、事前に溶血/希釈液を一定量を分注した希釈カップに押し出す。ピペットによる吸引/吐出等により溶血/希釈を行い、測定用のラックに搭載してHPLC法によるA1cの測定を行う。非常に手間であり、またバーコード管理ができないため、検体の取り違い等の人為的なミスを完全には排除できない。どうしても、バーコード管理がしたい場合は、図11bのごとく、円柱状のアダプターにバーコードを添付し、その上に、希釈済み検体を載せて行う。
以下に本発明の詳細について説明する。まず、第一の様態について説明する。
穿刺血を毛細管現象にて吸い上げることができる樹脂製円錐状又は角錐状のチップと、
前記チップを収納できる容器と、
前記容器を密閉できる蓋体から構成される、穿刺血を採取し、溶血および希釈することができるチップセットであり、
前記容器の内径が、前記チップの最大外径より0.5~5mm大きい内径であり、
前記容器内に、前記チップが収納できる高さを有する円柱状であり、
前記容器の上面から5~15mmの位置に鍔を有する、
ことを特徴とする、穿刺血を採取し、溶血および希釈することができるチップセット。
まず、穿刺器具にて指等を穿刺し、穿刺血を出す。
穿刺血を毛細管現象にて吸い上げることができる樹脂製円錐状又は角錐状のチップと、
前記チップを収納できる容器と、
前記容器を密閉できる蓋体から構成される、穿刺血を採取し、溶血および希釈することができるチップセットであり、
前記容器の内径が、前記チップの最大外径より0.5~5mm大きい内径であり、
前記容器内に、前記チップが収納できる高さを有する円柱状であり、
前記容器の上面から5~15mmの位置に鍔を有する、
ことを特徴とする、穿刺血を採取し、溶血および希釈することができるチップセット。
まず、穿刺器具にて指等を穿刺し、穿刺血を出す。
第一の工程として、
前記チップにて、穿刺血を毛細管現象にて一定量吸い上げる。採取する血液量は10~50μLの範囲が良いが、溶血/希釈液の量を勘案して決定することが望ましく、15μL程度が好適である。
前記チップにて、穿刺血を毛細管現象にて一定量吸い上げる。採取する血液量は10~50μLの範囲が良いが、溶血/希釈液の量を勘案して決定することが望ましく、15μL程度が好適である。
第二の工程として、
事前に一定量の溶血/希釈液が分注された溶血/希釈容器に、穿刺血を吸い上げたチップを挿入し、蓋をする。溶血/希釈液の量は採血量と勘案して決定することが望ましく、最終的な希釈率が1/150程度のなるようにするのが好適である。工程2での採血量が15μLの場合は、溶血/希釈液量は2500μLが好適となる。前記溶血/希釈液は、測定に用いる分析機器に適応していれば良く、組成等に制限はない。
事前に一定量の溶血/希釈液が分注された溶血/希釈容器に、穿刺血を吸い上げたチップを挿入し、蓋をする。溶血/希釈液の量は採血量と勘案して決定することが望ましく、最終的な希釈率が1/150程度のなるようにするのが好適である。工程2での採血量が15μLの場合は、溶血/希釈液量は2500μLが好適となる。前記溶血/希釈液は、測定に用いる分析機器に適応していれば良く、組成等に制限はない。
第三の工程として、
密閉された前記容器を転倒攪拌し、穿刺血を溶血/希釈させる。前記容器の内径は、チップの最大外径より0.2~5mm程度大きいことから、容器内面とチップに隙間があり、前記の採血用のチップは樹脂製であり比重が軽いことから、転倒攪拌により液中を上下に移動することとなり、溶血/希釈を効率的に行うことができる。
密閉された前記容器を転倒攪拌し、穿刺血を溶血/希釈させる。前記容器の内径は、チップの最大外径より0.2~5mm程度大きいことから、容器内面とチップに隙間があり、前記の採血用のチップは樹脂製であり比重が軽いことから、転倒攪拌により液中を上下に移動することとなり、溶血/希釈を効率的に行うことができる。
また、前記工程までで調製された「希釈済みの試料」を、
第四の工程として、
蓋を外し、前記採血用チップが入った状態で、前記容器をそのまま、A1c測定用のラックに搭載し、HPLC法によるA1cの測定を行う。
前記で処理された容器が、ラックに搭載され、検体種別の判定を行うポジションまで順次移動される。ここでは、前記容器は「鍔」を有していることから、鍔から上の部分、約10mm程度がはみ出す形となる。高さセンサ1は「未反応」し、高さセンサ2は「反応」となり、希釈済み検体として判別される。そのため、サンプリングニードルが約ラック上面から20mm下までしか降下しないで、希釈済みの検体を吸引し「前処理なし」で分析カラムに注入され、分析に供される。
第四の工程として、
蓋を外し、前記採血用チップが入った状態で、前記容器をそのまま、A1c測定用のラックに搭載し、HPLC法によるA1cの測定を行う。
前記で処理された容器が、ラックに搭載され、検体種別の判定を行うポジションまで順次移動される。ここでは、前記容器は「鍔」を有していることから、鍔から上の部分、約10mm程度がはみ出す形となる。高さセンサ1は「未反応」し、高さセンサ2は「反応」となり、希釈済み検体として判別される。そのため、サンプリングニードルが約ラック上面から20mm下までしか降下しないで、希釈済みの検体を吸引し「前処理なし」で分析カラムに注入され、分析に供される。
サンプリングニードルが降下の過程で、容器内に浮遊している採血チップはニードルの先端により押し下げられるが、検体の吸引には支障がない。
この際、転倒攪拌により、容器内の採血チップが、容器の内面に張り付いた状態になったり、斜めになったりすることが多々あるが、ニードルの降下の過程で供に押し下げられ、中心位置になることから、検体の吸引には支障がないことも、本発明の大きな特徴である(図10参照)。
この際、転倒攪拌により、容器内の採血チップが、容器の内面に張り付いた状態になったり、斜めになったりすることが多々あるが、ニードルの降下の過程で供に押し下げられ、中心位置になることから、検体の吸引には支障がないことも、本発明の大きな特徴である(図10参照)。
また、本発明の容器は、ラックから下に出る長さが45mm程度あり、図11cのごとく、バーコードを添付することも可能であり、分析機器側で自動読み取り/管理が可能となることも、本発明の大きな特徴である。
本発明の、溶血/希釈容器は前述の形態に限定されるものではなく、同じ効果が得られる形態であれば良い。例えば、図12cのように、前述の容器形状と同じでありながら、「鍔」のない構造でもより。その場合、容器がラックの上面からの高さが、高さセンサ2に反応し、高さセンサ1に反応しない高さになるように、ラックと容器の間にスペーサを挿入すれば、同じ効果が得られる(様態2)。また、図12dのように、採血管と同様にラック底面に着く長さであり、ラック上面より上の部分の高さが、高さセンサ2に反応し、高さセンサ1に反応しない長さの容器であれば、「鍔」のない構造でも良く、同じ効果が得られる(様態3)。
以下に本発明を詳細に説明する。但し本発明は異なる形態による実施が可能であり、以下に示す実施形態、実施例の例示にのみ限定されるものでは無い。
本実施例では、以下の形態の採血用チップ、溶血/希釈容器を用いた(図13参照)。採血用チップは樹脂製で、全長が40mm、最大外径が10mmの円錐状のものを用いた。
溶血/希釈容器は、全長が53mm、内径が13.2mmの円柱状であり、底面から約45mmの位置に鍔(外径13.2mm)が付いた形状のものを用いた。容器容量は最大で3mLである。
この溶血/希釈容器に採血用チップを挿入した場合、1.6mm程度のクリアランスがある。
溶血/希釈液は東ソー(株)製グリコヘモグロビン分析計専用の試薬を使用した。
(実施例1)
まず、本発明でのチップによる採血および溶血/希釈方法の精度の検証を行った。ここでは、穿刺血の代わりに採血管で採取した全血を微小容器に50μL程度点滴し、穿刺血を模して行った(図14参照)。
この溶血/希釈容器に採血用チップを挿入した場合、1.6mm程度のクリアランスがある。
溶血/希釈液は東ソー(株)製グリコヘモグロビン分析計専用の試薬を使用した。
(実施例1)
まず、本発明でのチップによる採血および溶血/希釈方法の精度の検証を行った。ここでは、穿刺血の代わりに採血管で採取した全血を微小容器に50μL程度点滴し、穿刺血を模して行った(図14参照)。
以下の手順で検証を実施した。
予め、前記の溶血/希釈容器に溶血/希釈液を2.5mL分注しておく。点滴された検体に、採血チップを横から当て、先端から約10mmまで検体を吸わせる。採血されたチップを前記容器に挿入し、キャップを閉めたうえ、数回、転倒混和を行う。
予め、前記の溶血/希釈容器に溶血/希釈液を2.5mL分注しておく。点滴された検体に、採血チップを横から当て、先端から約10mmまで検体を吸わせる。採血されたチップを前記容器に挿入し、キャップを閉めたうえ、数回、転倒混和を行う。
この場合、容器内径とチップ外径に、1.6mm程度のクリアランスがあるため、転倒混和により、血液を含んだチップが上下に移動し、液と混ざり合い、溶血/希釈が行える。分光光度計用のセルに、前記の希釈検体を一定量分注し、可視吸収スペクトルの測定を行った。この操作を10回行い、精度の検証を行った。また、希釈の度合い(希釈率)を算出するため、同じ検体を用手法により、50倍、100倍、150倍、200倍に希釈し、同様に可視吸収スペクトルの測定を行った。
図16aに本発明の手法で得られた可視光領域の吸収スペクトル(10データ重ね書き)、図16b、表1に540nmおよび、575nmでの吸光度を示す。また図15aに用手法で希釈した検体のスペクトル、図15b、表2に希釈率に対する吸光度の関係(検量線)を示す。
なお、分光光度計は、島津製作所製のUV-2600を使用した。
用手法で得られた検量線から、本発明のチップによる採血および溶血/希釈方法では、約150倍希釈が実現できていることが算出できる。また、濃度の再現性に関しては、6.5%程度有していることが分かった。
用手法で得られた検量線から、本発明のチップによる採血および溶血/希釈方法では、約150倍希釈が実現できていることが算出できる。また、濃度の再現性に関しては、6.5%程度有していることが分かった。
一般的なHPLCでの定量分析では再現性が6%は、大きな値で許容されないことが多いが、A1cの測定では、面積%で評価するため、希釈率が6%変動しても、最終的に得られるA1c%には影響しない。溶血/希釈の精度としては問題ない。
(実施例2)
ここでは、実際にHPLC法によるグリコヘモグロビン分析計を使用して、本発明の有用性を検証した。グリコヘモグロビン分析計として、東ソー(株)製「グリコヘモグロビン分析計GHbVIII」を使用した。また、溶離液、溶血/希釈液、カラム等は、同社から販売されている専用の品をそのまま使用した。
(実施例2)
ここでは、実際にHPLC法によるグリコヘモグロビン分析計を使用して、本発明の有用性を検証した。グリコヘモグロビン分析計として、東ソー(株)製「グリコヘモグロビン分析計GHbVIII」を使用した。また、溶離液、溶血/希釈液、カラム等は、同社から販売されている専用の品をそのまま使用した。
本「グリコヘモグロビン分析計GHbVIII」は、採血管(全血)と希釈済み検体の2種類を取り扱うことができる。本装置は、10検体搭載可能なラック(17)に検体を入れ、ラックローダ(13)に配する。分析の指示によりラックローダが駆動し、順次検体をサンプルリング位置に移動させ、ニードルにより検体をサンプリングし、分析に供する機構である(図17参照)。サンプルリング位置の手前には、高さセンサが2ヶ所に配されており、検体種別を判別させている。ラック(17)の高さは65mmである。
第一の高さセンサは、底面から70mm、第二の高さセンサは、底面から80mmに配されており、検体が通過する際に、センサフラグが検体に接触するか否かの応答の組み合わせで、採血管(全血)と希釈済み検体を判別している。
採血管は75mm~100mmまでが搭載可能。希釈検体は、図6のごとく、専用の樹脂製容器(全長約40mm、容量2mL)に分注して使用する仕様である。本希釈検体用容器は鍔の付いた形状をしており、ラックに搭載した場合、約10mmがラックの上に出るように設計されている。つまり、希釈検体用容器をラックに搭載した場合、鍔の最上面は、底面から約750mmとなる。一方採血管をラックに搭載した場合、採血管の最上面は20mm~40mmとなる。
希釈検体容器の場合、高さセンサ2のみが応答し、採血管の場合は、高さセンサ1と2の両方が応答する。この違いにより、検体種を判定し、ニードルの降下位置も決定される。希釈検体容器と判定された場合は、ニードルは希釈容器の底面近くまでしか降下せず(ラック底面から45mmの位置)、希釈された試料を100μL程度吸引し、その一部(数μL程度)分析カラムへと導入される。一方、採血管と判定された場合は、ニードルは採血管の底面近くまで降下し(ラック底面から25mmの位置)、全血を数μL吸引し、さらに、搭載された自動希釈機構により溶血/希釈処理をされた後、その一部(数μL程度)を分析カラムへと導入される。
一方、本発明の溶血/希釈容器を使用した場合、底面から約45mmの位置に鍔(外径13.2mm)が付いた形状であるため、ラックに搭載した場合、鍔部がラックに引っ掛かり、約13mmがラックの上に出ることとなる。
ラック底面からの高さは約75mmとなる。
ラック底面からの高さは約75mmとなる。
つまり、前述の本装置専用の希釈検体用容器と同様に、検体種別検知の際は、高さセンサ1のみが応答し、「希釈済み検体」と認識され、ニードルは、ラック底面から45mmの位置まで降下し、希釈された試料を100μL程度吸引し、その一部(数μL程度)分析カラムへと導入されることとなる。
容器内に挿入された採血チップは樹脂製であることから、溶血/希釈液に浮いた状態になる。または、容器内面と液密着し、想定より上に張り付いた状態になったり、容器内面と斜めに液密着し中心位置がズレたりする。しかしながら、ニードルが降下する際に、チップを押し下げることになるため、中心位置がずれた場合であっても、ニードル最降下点では、チップは中心位置になり、正常にサンプリングすることができる。
実施例1と同様に本発明の方法により、血液を採取し、溶血/希釈した容器を「グリコヘモグロビン分析計GHbVIII」に搭載し、測定を行った。図25、表3に本発明の手法による測定結果と、従来の用手法による結果を示す。なお、参考のため、採血管から直接サンプリングし、装置の自動希釈機構により溶血/希釈して測定した結果を合わせて示す。
図25aの※1が採血管から直接サンプリングし、装置の自動希釈機構により溶血/希釈して測定した結果(クロマトグラム)、※2が、従来の用手法による結果(クロマトグラム)、※3が、本発明の手法による測定結果(クロマトグラム)である。本発明の方法(※3)が、若干強度が低くなっているものの、いずれの測定方法であっても、同様のパターンを示していることが分かる。分かりやすいように、A1cピークの出力が「50」となるように規格化して比較すると、3つのデータは完全に同じパターンであることが分かる(図25b)。
表3は、各成分の面積および、総面積から算出されたA1c%を示す。各測定法により、総面積が異なるものの、A1c%は全て同等の値を示していることから、本発明の方法で測定することに問題がないことを示唆している。
また、図26、表4に本法の再現性を示す。図26は本発明の方法で10回測定し、得られたクロマトグラムを重ね書いた図である。表4はA1cピークの面積、総面積、A1c%を示している。なお、図26aは生データ、図26bは前述と同様にA1cピークの出力が「50」となるように規格化した図である。ここから分かるように、A1cピーク、総面積の再現性は4%程度と若干悪いものの、最終的に算出されるA1c%の再現性は0.7%と良好な値と示している。HPLC法でのA1c%測定方法で要求されることが多いCv1.0%以下を達成できており、本発明の有用性を示した結果となった。
また、臨床診断分野では患者情報等を電子的に記録したり、省力化や検体の取違防止のためにバーコードやQRコード(登録商標)を用いることが多い。HPLC法でのA1c測定においても、検体にバーコードを貼り付け、測定装置で自動で読み取らせることが多くなっている。
採血管を使用する場合、長さが100~130mm程度であり、十分にバーコードを添付する領域を確保することができる(図11a参照)。一方、希釈検体の場合、容器が小さく、バーコードを添付する領域を確保することができない。そのため、希釈検体でバーコードを必要とする場合は、苦肉の策として、図11bのように円管のアダプターにバーコードを添付し、その上に希釈容器をセットする方法がとられる。この方法は、手間がかかり、コストアップにも繋がるため、凍結乾燥品であるキャリブレーション用検体またはコントロール検体にしか使われないことが多い。
本発明の希釈溶血容器は、全長で55mm、鍔以下の長さも50mmあることから、バーコードを添付することが可能であることから、実際の患者検体を測定する際でも適用することができることも、有用性の一つである(図11c参照)。
図28は、バーコードを本容器に貼り付け、実際に測定した例である。aはバーコード、bは読み取り結果(レポート)である。このように、正確にバーコードを読み取ることができる。
本実施例では、検体を10本搭載できる検体ラックを使用した東ソー(株)製グリコヘモグロビン分析計GHbVIIIを例として記載したが、例えば、同じ東ソー(株)製グリコヘモグロビン分析計GHbXは、図29に示すような回転テーブルに検体を搭載し、回転動作で順次、検体吸引位置に搬送するタイプでも、同様な効果が得られ、検体を搭載するラックの構造を、駆動方式を限定するものではない。
また、免疫法では、穿刺血を対象とするPOCT機器(Point of care testing)も多く市販されるようになってきた。
機種により、測定のプロセスは異なるものの、「穿刺血を採取する第一の工程」、「溶血、希釈を行う第二の工程」、「測定の第三の工程」から成る。
第一の工程は、患者本人または医療従事者が用手法で行われ、
第二の工程は、患者本人または医療従事者が用手法、または、機器側で自動で行われ、
第三の工程は、装置側で行われることとなる。
機種により、測定のプロセスは異なるものの、「穿刺血を採取する第一の工程」、「溶血、希釈を行う第二の工程」、「測定の第三の工程」から成る。
第一の工程は、患者本人または医療従事者が用手法で行われ、
第二の工程は、患者本人または医療従事者が用手法、または、機器側で自動で行われ、
第三の工程は、装置側で行われることとなる。
これらの一連の操作は、できるだけ簡便、安価であることが望まれる。また、第二の工程は、人為的なミス防止や、感染リスクの低減のため、できるだけ、機器側で自動で行われることが望ましい。
ここまで、本発明の手法をHPLC法によるA1c測定への適用の有用性を説明してきたが、前述の免疫法(POCT)、酵素法、電気泳動法においても、第二の工程に適用することができ、A1cの測定法を限定するものではない。本発明の溶血/希釈の工程は、密閉系で行われ、測定装置にセットする場合にも、採血チップを排除することなく、キャップを外すのみで良く、感染のリスクも低減することができる。
1.溶離液
2.溶血洗浄液
3.送液機構
4.自動検体希釈機構
5.検体注入機構
6.分析カラム
7.可視光検出器
8.検体搬送ラック
9.ドレイン
10.検体高さセンサ1
11.検体高さセンサ2
12.検体吸引位置
13.検体搬送機構
14.採血管
15.希釈検体用容器
16.測定部
17.溶血/希釈容器
18.蓋体
19.穿刺血採血チップ
20.サンプリングニードル
21.穿刺器具
22.スペーサ
23.鍔(突起)
24.バーコードリーダー
25.バーコード
26.アダプター
27.ターンテーブル
28.サンプルホルダー
29.溶離液開閉機構
30.送液ポンプ
31.注入バルブ
32.試料保持ループ
33.溶血洗浄液切り替え機構
34.恒温槽
35.溶血/希釈槽
36.脱気装置
37.計量ポンプ
2.溶血洗浄液
3.送液機構
4.自動検体希釈機構
5.検体注入機構
6.分析カラム
7.可視光検出器
8.検体搬送ラック
9.ドレイン
10.検体高さセンサ1
11.検体高さセンサ2
12.検体吸引位置
13.検体搬送機構
14.採血管
15.希釈検体用容器
16.測定部
17.溶血/希釈容器
18.蓋体
19.穿刺血採血チップ
20.サンプリングニードル
21.穿刺器具
22.スペーサ
23.鍔(突起)
24.バーコードリーダー
25.バーコード
26.アダプター
27.ターンテーブル
28.サンプルホルダー
29.溶離液開閉機構
30.送液ポンプ
31.注入バルブ
32.試料保持ループ
33.溶血洗浄液切り替え機構
34.恒温槽
35.溶血/希釈槽
36.脱気装置
37.計量ポンプ
Claims (8)
- 穿刺血を毛細管現象にて吸い上げることができる樹脂製円錐状又は角錐状のチップと、
前記チップを収納できる容器と、
前記容器を密閉できる蓋体から構成される、穿刺血を採取し、溶血および希釈することができるチップセットであり、
前記容器は、前記チップの最大外径より0.5~5mm大きい内径であり、
前記容器内に、前記チップが収納できる高さを有する円柱状であり、
前記容器の上面から5~15mmの位置に鍔を有する、
ことを特徴とする、穿刺血を採取し、溶血および希釈することができるチップセット。 - 穿刺器具にて指等を穿刺することで得られる穿刺血を、
前記チップにて、穿刺血を毛細管現象にて吸い上げる第一の工程と、
事前に一定量の溶血/希釈液が分注された前記容器に、穿刺血を吸い上げた前記チップを挿入し、前記蓋体にて蓋をする第二の工程と、
密閉された前記容器を転倒攪拌し、穿刺血を溶血/希釈させる第三の工程とからなる、穿刺血を採取、溶血/希釈する方法。 - 請求項2で調製された溶血/希釈された検体を、液体クロマトグラフィー法を原理とするグリコヘモグロビン測定装置に搭載し、グリコヘモグロビン(A1c%)を測定する方法。
- 前記液体クロマトグラフィー法を原理とするグリコヘモグロビン測定装置にて、1以上の検体が搭載可能なラックに、検体を搭載し、前記ラックを機械的に移動し、検体サンプリング位置まで移送させ、前記検体が「採血管」か「その他の容器」かを自動で識別し、その識別された結果を基に、「採血管」の場合は、検体を吸引後、自動で溶血/希釈操作を実施し、分析カラムに注入し、「その他の容器」の場合、検体を吸引後、溶血/希釈操作を経ずにそのまま分析カラムに注入することを特徴とする請求項3に記載の方法。
- 前記液体クロマトグラフィー法を原理とするグリコヘモグロビン測定装置にて、1以上の検体が搭載可能な回転式テーブルに、検体を搭載し、前記回転テーブルが回転し、検体サンプリング位置まで移送させ、前記検体が「採血管」か「その他の容器」かを自動で識別し、その識別された結果を基に、「採血管」の場合は、検体を吸引後、自動で溶血/希釈操作を実施し、分析カラムに注入し、「その他の容器」の場合、検体を吸引後、溶血/希釈操作を経ずにそのまま分析カラムに注入することを特徴とする請求項3に記載の方法。
- 請求項2で調製された溶血/希釈された検体を、免疫法を原理とするグリコヘモグロビン測定装置に搭載し、グリコヘモグロビン(A1c%)を測定する方法。
- 請求項2で調製された溶血/希釈された検体を、酵素法を原理とするグリコヘモグロビン測定装置に搭載し、グリコヘモグロビン(A1c%)を測定する方法。
- 請求項2で調製された溶血/希釈された検体を、電気泳動法を原理とするグリコヘモグロビン測定装置に搭載し、グリコヘモグロビン(A1c%)を測定する方法。
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