JP2023003756A - 消化管の栄養吸収を改善する漢方薬組成物、その製造方法及び使用 - Google Patents

消化管の栄養吸収を改善する漢方薬組成物、その製造方法及び使用 Download PDF

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Abstract

【課題】消化管の栄養吸収を改善する漢方薬組成物、その製造方法及び使用を提供する。【解決手段】漢方薬組成物は、オタネニンジン及びビンロウを含み、オタネニンジンとビンロウとの質量比が100:1~1:2である。【効果】本発明の漢方薬組成物は、処方が簡単であり、消化管の栄養吸収を改善する効果を有し、オタネニンジンはTRPV1の発現を調整することにより、胃腸粘膜組織の炎症を緩和し、粘膜の血流量を高めることができ、これにより消化管を保護する作用を発揮し、かつ、オタネニンジンのTRPV1調整レベルは消化管平滑筋の収縮運動と関連し、ビンロウは消化管副交感神経を興奮させ、平滑筋収縮を増強することができ、ビンロウとオタネニンジンを特定の質量比で配合することにより、消化管の栄養吸収を促進し、腫瘍、多臓器機能障害症候群(MODS)、糖尿病などの臨床難治性疾患に新しい解決手段を提供する。【選択図】なし

Description

本発明は、漢方薬の技術分野に関し、具体的には、消化管の栄養吸収を改善する漢方薬組成物、その製造方法及び使用に関する。
腸管は、消化器官の中で最も長い管路であり、十二指腸、空腸、回腸、盲腸、結腸及び直腸を含み、全長が約7mであり、空腸と回腸は腹部中央にあり、その周囲が結腸で囲まれている。腸管の機能としては、小腸粘膜層の表面は腸絨毛で覆われており、主に食物の消化と吸収の役割を果たし、各種の消化液は小腸でび汁をブドウ糖、アミノ酸に分解し、食物を消化吸収した後、残りのものは糞便になり、左半結腸に貯蔵されて体外に排出される。
消化管は多くの疾患の進展過程において最も早く損傷する器官であり、同時に、ほとんどの合併症のプロモータでもある。医学の発展に従って、消化管の栄養吸収は疾患の治療及び予後と密接に関連することを見出した。ある研究により、栄養レベルは、90%の腫瘍患者の生活レベルに影響する独立予測因子であることを示している。疾患自体又は治療の副反応により、患者の消費するエネルギーは、補充されるエネルギーよりも大きくなってしまうことが多く、更に患者を負の窒素状態にさせやすく、生体の消費が多すぎて、病状の悪化及び合併症の発生を招きやすく、その結果、患者の生活水準を深刻に低下させるだけでなく、患者の生命を直接脅かす。栄養サポートは上記の疾患の患者にとって極めて重要であり、長期間の栄養不良は合併症の発生率、再入院率、死亡率の増加を引き起こすことがある。しかし、病的状態では、疾患による胃腸粘膜損傷、消化機序障害、胃腸動力不足、胃腸ホルモン分泌異常などは、よく胃腸機能異常を引き起こし、栄養吸収障害を招く。
西洋医学による栄養吸収障害の治療では、病状に応じて薬を投与し、栄養補助剤及び消化器系疾患の治療に関連する化学薬を使用する場合が多く、しかし、これらの薬物のほとんどは副作用が多くて大きく、すでに多種の化学薬は国外で何度も警告され、さらに使用制限が提案され、また、病因を取り除くことができないため、栄養補助剤の使用による効果も理想的ではない。漢方薬は、胃腸機能異常による栄養吸収障害を治療する点で確実な治療効果があり、しかも不良反応が小さく、臨床でますます重視化されている。現在、有効に開発され、スクリーニングされた漢方薬の作用機序は、主に消化管の神経伝達物質、脳-腸ペプチド、Cajal間質細胞及び胃腸の電気活動の調整に基づくものである。栄養吸収障害の生理学的・病理学的研究の発展に従って、未来、漢方医学理論の指導の下で、現代科学技術を基として、メカニズムが明確で、治療効果が顕著で、不良反応が小さい栄養吸収促進漢方薬は多くの患者に応用することが期待できる。
TRPV1は、一過性受容体電位型チャネルのサブタイプの一つであり、最初にラット後根神経節ニューロンに発見され、TRPV1に対する研究の発展に従い、消化管系において、消化管筋層、粘膜層、胃洞、胃壁細胞及びその他の消化管の部位のすべてに分布しており、消化管疾患の発生、進行及び調整作用と密接に関係する可能性があることを見出した。現在、漢方薬によるTRPV1の制御については、消化管の栄養吸収を促進する点に関する研究がなく、かつ、漢方薬用の植物中に活性成分の不確定性が存在し、TRPV1の特性、構造及び機能に対する制御の生体における具体的な生理学的作用や作用機序及び病的状態下の調整動向はまだ不明である。
本発明の目的は、上記従来技術の欠点を解決するために、処方が簡単であり、TRPV1の発現を調整することで消化管の栄養吸収を改善する効果を奏し、かつ、オタネニンジンとビンロウとの相乗作用を利用することにより、消化管の栄養吸収を改善する点では、従来の漢方薬の古典的な処方よりも好適な効果を有する、消化管の栄養吸収を改善する漢方薬組成物、その製造方法及び使用を提供する。
第1の態様によれば、本発明は、漢方薬組成物の消化管吸収改善薬の製造における使用を提供し、前記漢方薬組成物がオタネニンジン及びビンロウを含み、前記オタネニンジンとビンロウとの質量比が100:1~1:2である。
本発明者による複数回の実験の結果、オタネニンジンとビンロウとを特定の質量比で配合してなる漢方薬組成物は、TRPV1発現を調整することで、消化管の栄養吸収を改善する作用を果たし、ここで、オタネニンジンは、TRPV1の発現を調整することにより胃腸粘膜組織の炎症を緩和し、粘膜の血流量を高めることができ、これにより消化管を保護する作用を発揮し、ビンロウは、消化管副交感神経を興奮させ、平滑筋収縮を増強することができる。本発明の漢方薬組成物は、腫瘍、多臓器機能障害症候群(MODS)、糖尿病などの臨床難治性疾患の治療に新しい解決手段を提供する。
本発明に係る前記漢方薬組成物の消化管吸収改善薬の製造における使用の好ましい実施形態として、前記オタネニンジンとビンロウとの質量比が10:1~1:2である。
オタネニンジンとビンロウとの質量比が10:1~1:2である場合、消化管の栄養吸収を改善する効果がより高く、胃腸粘膜組織の炎症を効果的に緩和し、粘膜の血流量を高め、消化管副交感神経を興奮させ、平滑筋収縮を増強する。
本発明に係る前記漢方薬組成物の消化管吸収改善薬の製造における使用の好ましい実施形態として、前記オタネニンジンとビンロウとの質量比が1:1である。
第2の態様によれば、本発明は、上記の漢方薬組成物を含む医薬製剤を提供する。
本発明に係る医薬製剤の好ましい実施形態として、前記医薬製剤は、薬学的に許容可能な担体をさらに含む。
より好ましくは、前記医薬製剤は、錠剤、糖衣錠、フィルムコーティング錠、腸溶錠、カプセル剤、硬カプセル剤、軟カプセル剤、経口液剤、バッカル剤、顆粒剤、沖剤、丸薬、散剤、膏剤、懸濁剤、粉末剤、液剤、注射剤、坐剤、軟膏剤、硬膏剤、クリーム剤、スプレー剤、ドロップ剤、及び貼付剤であってもよい。
医薬製剤とする場合、単位用量の薬剤は、本発明の漢方薬組成物の活性物質を0.1~1000mg含有してもよく、残りは薬学的に許容可能な担体であり、薬学的に許容可能な担体は、重量基準で製剤の全量の0.01~99.99%であってもよい。
好ましくは、前記医薬製剤は経口製剤とする。
本発明に係る医薬製剤の好ましい実施形態として、前記担体は、ステビオシド、デキストリン、及びショ糖のうちの少なくとも1種を含む。
本発明では、担体は、ステビオシド、デキストリン、及びショ糖に加えて、マンニトール、ソルビトール、ピロ亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、塩酸システイン、メチオニン、ビタミンC、EDTA二ナトリウム、EDTAカルシウムナトリウム、一価のアルカリ金属の炭酸塩、酢酸塩、リン酸塩又はその水溶液、塩酸、酢酸、硫酸、リン酸、アミノ酸、塩化ナトリウム、塩化カリウム、乳酸ナトリウム、キシリトール、マルトース、ブドウ糖、果糖、デキストラン、グリシン、デンプン、乳糖、マンノトール、ケイ素誘導体、セルロース及びその誘導体、アルギン酸塩、ゼラチン、ポリビニルビロリドン、グリセリン、ツイーン80、寒天、炭酸カルシウム、界面活性剤、ポリエチレングリコール、リン脂質類材料、カオリン、タルク、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウムのうちの少なくとも1種であってもよい。
第3の態様によれば、本発明は、
オタネニンジンとビンロウを秤量して、8~12倍の重量の水を加えて、浸漬して蒸留し、揮発油を収集してからろ過し、薬残渣と薬液を得るステップS1と、
ステップS1で調製された薬残渣に4~6倍の重量の水を加えて0.5~1.5時間煎じ、ろ過し、薬液を合わせるステップS2と、
合わせた薬液を60℃における相対密度が1.07~1.12となるように減圧濃縮させ、55体積%のエタノールを加えて抽出し、静置し、ろ過して混合液を得て、アルコール臭がなくなるまでエタノールを回収し、混合液を60℃における相対密度が1.28~1.33となるように濃縮させるステップS3と、
ステップS1で調製された揮発油を加え、均一に混合して乾燥して漢方薬組成物を得るステップS4と、を含む上記の漢方薬組成物の製造方法を提供する。
より好ましくは、ステップS1では、10倍の重量の水を加え、ステップS2では、5倍の重量の水を加えて1時間煎じる。
本発明に係る漢方薬組成物の製造方法の好ましい実施形態として、前記ステップS1での蒸留時間は2.5時間である。
第4の態様によれば、本発明は、上記製造方法で製造された漢方薬組成物を提供する。
第5の態様によれば、本発明は、上記漢方薬組成物によるTRPV1の発現の調整の、消化管の栄養吸収の改善における使用を提供する。
第6の態様によれば、本発明は、腫瘍、多臓器機能障害症候群及び糖尿病を治療するための漢方薬組成物を提供する。
従来技術と比較して、本発明は以下の有益な効果を有する。
本発明は、消化管の栄養吸収を改善する漢方薬組成物、その製造方法及び使用を提供し、この漢方薬組成物は、オタネニンジン及びビンロウを含み、ここで、オタネニンジンはTRPV1の発現を調整することにより、胃腸粘膜組織の炎症を緩和し、粘膜の血流量を高めることができ、これにより消化管を保護する作用を発揮し、かつ、オタネニンジンのTRPV1調整レベルは消化管平滑筋の収縮運動と関連し、ビンロウは消化管副交感神経を興奮させ、平滑筋収縮を増強することができ、ビンロウとオタネニンジンを特定の質量比で配合することにより、消化管の栄養吸収を改善する。
本発明の目的、技術的解決手段及び利点をよりよく説明するために、以下、具体的な実施例を参照しながら本発明をさらに説明する。
以下の実施例及び比較例では、特に断らない限り、使用する実験方法は、いずれも常套の方法であり、使用する材料、試薬などはすべて市販品として入手できる。
実施例1.漢方薬組成物及びその製造方法
本発明の漢方薬組成物は、重量基準で、成分として、オタネニンジン20gとビンロウ0.2gとを含む。
本発明の漢方薬組成物の製造方法は、
オタネニンジンとビンロウを秤量して、10倍の重量の水を加えて、浸漬して2.5時間蒸留し、揮発油を収集してからろ過し、薬残渣と薬液を得るステップS1と、
ステップS1で調製された薬残渣に5倍の重量の水を加えて1時間煎じ、ろ過し、薬液を合わせるステップS2と、
合わせた薬液を60℃における相対密度が1.07~1.12となるように減圧濃縮させ、55体積%のエタノールを加えて抽出し、24時間静置し、ろ過して混合液を得て、アルコール臭がなくなるまでエタノールを回収し、混合液を60℃における相対密度が1.28~1.33となるように濃縮させるステップS3と、
ステップS1で調製された揮発油を加え、ステビオシド、デキストリン、ショ糖を適量で加え、均一に混合して造粒し、60℃~70℃で乾燥させて前記漢方薬組成物を得るステップS4と、を含む。
実施例2.漢方薬組成物及びその製造方法
本発明の漢方薬組成物は、重量基準で、成分として、オタネニンジン20gとビンロウ2gとを含む。
本実施例の漢方薬組成物の製造方法は実施例1と同様である。
実施例3.漢方薬組成物及びその製造方法
本発明の漢方薬組成物は、重量基準で、成分として、オタネニンジン20gとビンロウ20gとを含む。
本実施例の漢方薬組成物の製造方法は実施例1と同様である。
実施例4.漢方薬組成物及びその製造方法
本発明の漢方薬組成物は、重量基準で、成分として、オタネニンジン20gとビンロウ40gとを含む。
本実施例の漢方薬組成物の製造方法は実施例1と同様である。
比較例1
漢方薬組成物におけるオタネニンジンは20g、ビンロウは0.1gであったこと以外、実施例3と同様である。
比較例2
漢方薬組成物におけるオタネニンジンは20g、ビンロウは200gであったこと以外、実施例3と同様である。
比較例3
漢方薬組成物にビンロウを含有しなかったこと以外、実施例3と同様である。
比較例4
漢方薬組成物にオタネニンジンを含有しなかったこと以外、実施例3と同様である。
実施例5.医薬製剤
上記実施例1~4のいずれか1つの漢方薬組成物及び薬学的に許容可能な担体を含む医薬製剤である。
前記医薬製剤は、錠剤、糖衣錠、フィルムコーティング錠、腸溶錠、カプセル剤、硬カプセル剤、軟カプセル剤、経口液剤、バッカル剤、顆粒剤、沖剤、丸薬、散剤、膏剤、懸濁剤、粉末剤、液剤、注射剤、坐剤、軟膏剤、硬膏剤、クリーム剤、スプレー剤、ドロップ剤、及び貼付剤であってもよい。医薬製剤とする場合、単位用量の薬剤は、本発明の漢方薬組成物の活性物質を0.1~1000mg含有することができ、残りは薬学的に許容可能な担体であり、この薬学的に許容可能な担体は、重量基準で製剤の全量の0.01~99.99%であってもよい。
本発明では、担体は、ステビオシド、デキストリン、及びショ糖に加えて、マンニトール、ソルビトール、ピロ亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、塩酸システイン、メチオニン、ビタミンC、EDTA二ナトリウム、EDTAカルシウムナトリウム、一価のアルカリ金属の炭酸塩、酢酸塩、リン酸塩又はその水溶液、塩酸、酢酸、硫酸、リン酸、アミノ酸、塩化ナトリウム、塩化カリウム、乳酸ナトリウム、キシリトール、マルトース、ブドウ糖、果糖、デキストラン、グリシン、デンプン、乳糖、マンノトール、ケイ素誘導体、セルロース及びその誘導体、アルギン酸塩、ゼラチン、ポリビニルビロリドン、グリセリン、ツイーン80、寒天、炭酸カルシウム、界面活性剤、ポリエチレングリコール、リン脂質類材料、カオリン、タルク、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウムのうちの少なくとも1種であってもよい。
試験例1.過敏性腸症候群の内臓知覚過敏ラットのTRPV1の発現に対する漢方薬組成物の影響の実験
新生ラットは、空白群、モデル群、各実施例及び比較例群というn群にランダムに分け、各群は10匹とした。Alchaer直腸酢酸刺激法を参照して過敏性腸症候群(IBS)モデルを作成し、すなわち、生後8日目の子ラットに対して直腸酢酸刺激モデリングを開始し、氷酢酸を用いて0.5%酢酸溶液を調製し、持続硬膜外カテーテルを注射器に接続し、カテーテルの末端をパラフィン油で潤滑して、子ラットの肛門から直腸に2cm軽く挿入し、酢酸溶液をゆっくり注入して20s保留した。空白群を除くn-1群のラットに対して、連続的に注腸モデリング14dを行った。
モデリングの間、空白群を除いて、各群に2mg/kg体重の溶媒を腹腔に注射した(酢酸刺激前30min)。7週齢の時、ラットの平均体重は(200±25)gであり、8週目から、空白群、モデル群は毎日2mLの脱イオン水を胃に注入し、治療群は毎日それぞれ5.0g/kgの用量で薬物を胃に注入した(脱イオン水で2mlまで希釈し、用量は200gのラットと体重60kgの成人を基準として換算したものである)。各群に対して、上記胃への注入は4週間持続した。
ラットの首を切断して殺し、氷上で速やかにL5~S1脊髄後根神経節、胃粘膜及び結腸組織(長さ約1cm)を採取し、標本を-70℃の冷蔵庫で保存して使用に備えた。測定の際には、Trizolで組織トータルRNAを抽出し、DEPC処理水で溶解し、-80℃で保存した。紫外分光光度計を用いて260nmと280nmでのRNA濃度をそれぞれ検出し、比が1.8~2.0である場合は、純度が高かった。逆転写反応キットの操作ステップに従って、37℃ 15min、85℃ 5sという反応条件で逆転写してcDNAを合成し、-20℃で保存した。製造したcDNAについて、SYBR Green Mix、上流プライマーおよび下流プライマー、RoxDye(II)、ddHO、cDNAテンプレートという増幅系で、95℃ 30s、95℃ 3s、60℃ 30s、40サイクルという増幅条件でリアルタイムPCR増幅を行った。反応終了後、データについて、RT-PCR検出装置に付属したソフトウェア(ABI Prism 7500 SDS Software)を用いてPCR過程中の各サンプルのサイクル数閾値(CT値)を分析した。ΔΔCT法によりターゲット遺伝子の相対発現量を分析することができ、一般的には、正常又は陰性のものを対照サンプルとした。各群のラットのTRPV1 mRNAの相対発現量の結果を表1に示す。
TRPV1 mRNA相対発現量=2-ΔΔCT、ΔCT=ターゲット遺伝子のCT値-内部標準(GAPDH)のCT値、ΔΔCT=ターゲットサンプルのΔCT-対照サンプルのΔCT。
Figure 2023003756000001
表1のデータから分かるように、実施例1~4及び比較例1~4で製造された漢方薬組成物を用いたラットのTRPV1 mRNA発現はいずれもモデル群よりも有意に高かく、その中でも、実施例1~4で製造された漢方薬組成物によるTRPV1 mRNA発現のアップレギュレーションが四磨湯の場合よりも更に明らかであり、これは、オタネニンジンとビンロウとの質量比が100:1~1:2である場合、TRPV1 mRNAの発現のアップレギュレーションは更に明らかであり、オタネニンジンとビンロウとの質量比が1:1である場合、後根神経節、胃粘膜及び結腸中のTRPV1 mRNAの発現量は最も高いことを示す。
比較例1~4で製造された漢方薬組成物は、オタネニンジンとビンロウとの質量比を変化させたものであり、それによるTRPV1 mRNA発現のアップレギュレーションは実施例1~4で製造された漢方薬組成物の場合よりも低く、これは、オタネニンジンとビンロウとのいずれの質量比でも本発明のTRPV1 mRNA発現をアップレギュレートする効果を達成できるわけではないことを示す。
試験例2.マウスの胃遠位筋細胞に対する漢方薬組成物の影響の実験
8~12週齢の野生型の体重18~25gのC57BL/6マウスを用い、飼育室の明暗周期を12時間、室温を22~24℃に制御した。それぞれのマウスに対して、毎日5.0g/kgの用量で実施例1~4の漢方薬組成物、四磨湯、及びモサプリドを胃に注入した。
4週間後、マウスをジエチルエーテル吸入で麻酔し、保持台に四肢を固定し、腹部の毛を剃り、ヨードフォア消毒後に眼科剪刀を用いて腹腔を開いた。遠位胃を十分に露出させた後、マイクロ応力センサを針付きナイロン糸(0#)で胃体(胃洞上5mm)と胃洞(幽門から5mm)漿膜に貼り付けて固定した。皮下を経て電極ワイヤを頸部背部に導出し、その後、腹腔を閉じた。マウス覚醒15min後、電極ワイヤをそれぞれ生理記録装置に接続し、胃収縮運動を記録した。
頸椎脱臼方法によりマウスを殺し、その胃組織を迅速に取り出した。マウスの遠位胃平滑筋組織の全層標本を作製し、PBSで3回洗浄した後、4℃のパラホルムアルデヒドで20min固定した後、PBSで3回、毎回5min洗浄した。0.3%Triton Xを含むPBS溶液を用いて室温で30min易透化し、その後、0.01mol/LのPBS溶液で十分に5分×3回リンスし、1%BSA溶液に入れて37℃で1時間密閉し、ろ紙で少し乾かした後、1:100C-kit(c-19)ヤギ抗ウサギポリクローナルIgG抗体溶液に入れて、4℃で一晩インキュベートした。0.01mol/LのPBS溶液で5分×3回十分にリンスした。ろ紙で少し乾かした後、1:400 AF594標識ロバ抗ウサギ二次抗体に入れて、溶液にて37℃で1時間インキュベートした。0.01mol/LのPBS溶液で5分×3回十分にリンスした。組織切片をピックアップ法によりスライドガラス上に敷き、DAPIを含む蛍光消光防止剤を滴下し、GVA水溶性封入剤で封入し、レーザー共焦点顕微鏡の20×対物レンズで胃体と胃洞全筋層のc-kit陽性細胞の細胞発現を観察した。
実験の結果により、本発明の実施例1~4で製造された漢方薬組成物を胃に注入したマウスは、遠位胃の収縮が増強し、収縮の振幅や頻度が四磨湯又はモサプリドを与えたマウスの場合よりも強く、また、本発明の実施例1~4で製造された組成物を胃に注入したマウスは、平滑筋同士の間には、大量のc-kit陽性のICC細胞が多極形態を呈して、軸索が相互に連結され、豊富で緻密なICC-MYネットワークが形成され、胃体と胃洞の単位体積当たりのc-Kit陽性のICC-MY細胞の密度が有意に上昇した。このことから、本発明の漢方薬組成物は、TRPV1通路を介して媒介し、C57BL/6マウスの胃腸平滑筋運動のペースメーカー細胞の遠位胃における分布に影響を与え、C57BL/6マウスの遠位胃平滑筋細胞膜を脱分極させ、収縮運動を発生させる可能性があることが明らかになった。
試験例3.消化管機能障害モデルマウスの胃腸吸収に対する漢方薬組成物の影響の実験
動物の群分け及びモデリング:新生マウスは、空白群、モデル群、陽性薬モサプリド対照群、各実施例群及び比較例群というn群にランダムに分け、各群は10匹とした。以下のような胃腸機能障害総合法を用いてモデリング処理を行い、すなわち、マウスを自作のモデリングボックス(T23±2℃、R80±5%)で飼育し、毎日朝9時前に4℃の氷生理食塩水(0.4ml/匹)を胃に注入し、9:00~17:00にマウスを深さ0.5cmの水中に立たせて、17時後に調理済みラード(0.4ml/匹)を胃に注入した。空白群を除く他の群は、1週間連続してモデリングした。
モデリングが終わった翌日、モデル群と空白群について、マウスを殺して材料を採取した。薬物投与群について、5.0g/kgの用量で3日間連続して薬物投与した後、マウスを殺して材料を採取した。材料採取前の12時間にマウスが断食したが断水せず、投与群に最終投与から30min後、0.4ml/匹の投与量でマウスに3%D-キシロース溶液を投与し、40min後、0.8ml/匹で1g/mlの半固形ペーストを胃に投与し、20min後眼球から採血して殺した。血液を試験管に入れて、室温で1時間静置し、回転速度2000rpmで10min遠心分離し、血清を取って冷蔵庫(-20℃)で保存した。採血後、肝臓を採取して錫箔で包んで、冷蔵庫(-20℃)で保存した。また、幽門下端部と噴門部を同時に結紮し、胃と小腸を取り出し、胃総重量と胃正味重量を秤量し、かつ、小腸全長と黒色半固形ペーストの前縁から幽門までの距離を測定し、併せて記録した。
計算式:胃残留率(%)=(胃総重量-胃正味重量)/注入した半固形ペーストの質量×100%、小腸推進率(intestinal propulsion rate)(%)=カーボンペーストの小腸内推進距離/小腸全長×100%。血清を取り出し、常温に回復させた後、D-キシロースキットの操作要求に厳格にしたがって、D-キシロース含有量を測定した。
結果を表2に示す。
Figure 2023003756000002
表2のデータから分かるように、本発明の実施例1~4及び比較例1~4で製造された漢方薬組成物を利用した場合は、マウスの胃残留率、腸推進率及びD-キシロースの吸収がいずれもモデル群の場合よりも優れており、特に、オタネニンジンとビンロウとの質量比が100:1~1:2である場合、マウスの胃残留率、腸推進率及びD-キシロースの吸収の改善効果は四磨湯及びモサプリド群の場合よりも優れており、特にオタネニンジンとビンロウとの質量比が1:1である場合、消化管機能障害モデルマウスの胃腸吸収改善効果が最も高かった。
比較例1(オタネニンジンとビンロウとの質量比は200:1)、比較例2(オタネニンジンとビンロウとの質量比は1:10)及び比較例3(ビンロウを含まない)で製造された漢方薬組成物を用いたマウスは、胃残留率、腸推進率及びD-キシロース吸収の効果が、実施例1~4で製造された漢方薬組成物を使用する場合よりも低く、消化管機能障害モデルマウスの胃腸吸収改善効果が実施例1~4の場合よりも低く、比較例4(オタネニンジンを含まない)で製造された漢方薬組成物の場合も、実施例1~4で製造された漢方薬組成物の場合よりも低く、消化管機能障害モデルマウスの胃腸吸収改善効果が比較例1~3で製造された漢方薬組成物の場合よりも低く、このことから、オタネニンジンとビンロウとの質量比の範囲が任意に選択できるものではないことが明らかになった。本発明のオタネニンジンは、TRPV1の発現を調整することにより、胃腸粘膜組織の炎症を緩和し、粘膜血流量を高めることができ、これにより、消化管を保護する作用を発揮する。また、オタネニンジンのTRPV1調整レベルは消化管平滑筋の収縮運動と関連し、ビンロウは消化管副交感神経を興奮させ、平滑筋収縮を増強することができ、ビンロウとオタネニンジンとを特定の質量比(100:1~1:2)で配合すると、消化管の栄養吸収をよりよく改善する。本発明の漢方薬組成物は、消化管吸収改善の点では従来の漢方薬の古典的な処方よりも優れた効果を有し、腫瘍、多臓器機能障害症候群(MODS)、糖尿病などの臨床難治性疾患に新しい解決手段を提供する。
なお、上記の実施例は、本発明の技術的解決手段を説明するためのものであり、本発明の特許範囲を限定するものではなく、好ましい実施例を参照して本発明を詳細に説明したが、当業者は、本発明の技術的解決手段の主旨及び範囲から逸脱することなく、本発明の技術的解決手段について修正又は同等置換を行うことができる。

Claims (10)

  1. 消化管吸収を改善する漢方薬組成物であって、
    オタネニンジン及びビンロウを含み、前記オタネニンジンとビンロウとの質量比が100:1~1:2である、ことを特徴とする漢方薬組成物。
  2. 前記オタネニンジンとビンロウとの質量比が10:1~1:2である、ことを特徴とする請求項1に記載の漢方薬組成物。
  3. 前記オタネニンジンとビンロウとの質量比が1:1である、ことを特徴とする請求項2に記載の漢方薬組成物。
  4. 医薬製剤であって、
    請求項1に記載の漢方薬組成物を含むことを特徴とする医薬製剤。
  5. 薬学的に許容可能な担体をさらに含む、ことを特徴とする請求項4に記載の医薬製剤。
  6. 漢方薬組成物の製造方法であって、
    オタネニンジンとビンロウを秤量して、8~12倍の重量の水を加えて、浸漬して蒸留し、揮発油を収集してからろ過し、薬残渣と薬液を得るステップS1と、
    ステップS1で調製された薬残渣に4~6倍の重量の水を加えて0.5~1.5時間煎じ、ろ過し、薬液を合わせるステップS2と、
    合わせた薬液を60℃における相対密度が1.07~1.12となるように減圧濃縮させ、55体積%のエタノールを加えて抽出し、静置し、ろ過して混合液を得て、アルコール臭がなくなるまでエタノールを回収し、混合液を60℃における相対密度が1.28~1.33となるように濃縮させるステップS3と、
    ステップS1で調製された揮発油を加え、均一に混合して乾燥して漢方薬組成物を得るステップS4と、を含む、ことを特徴とする漢方薬組成物の製造方法。
  7. 前記ステップS1の蒸留時間は2.5時間である、ことを特徴とする請求項6に記載の製造方法。
  8. 請求項6又は7に記載の製造方法により製造された漢方薬組成物。
  9. 請求項8に記載の漢方薬組成物によるTRPV1の発現の調整の、消化管の栄養吸収の改善における使用。
  10. 腫瘍、多臓器機能障害症候群及び糖尿病を治療するための、請求項8に記載の漢方薬組成物。
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