以下に、実施の形態にかかる電子式回路遮断器を図面に基づいて詳細に説明する。
実施の形態1.
図1は、実施の形態1にかかる電子式回路遮断器の構成の一例を示す図である。図1に示すように、実施の形態1にかかる電子式回路遮断器100は、電源101と負荷102とを接続する電路103の開閉を行う。なお、電源101と負荷102とを接続する電路103は、例えば、3相3線式の電路、単相2線式の電路、単相3線式の電路、または3相4線式の電路などの交流電路である。負荷102は、例えば、1以上の電気機器または電気設備などを含む。以下において、電源101から電路103を介して負荷102へ流れる電流を負荷電流と記載する場合がある。
電子式回路遮断器100は、開閉接点1と、変流器2と、整流回路3と、電源回路4と、波形変換回路5と、引き外し回路6と、引き外し装置7と、時限特性設定部8と、熱エネルギー模擬回路9と、処理部10とを備える。
開閉接点1は、不図示の固定接点と不図示の可動接点とを含み、電路103を開閉する。開閉接点1における固定接点と可動接点との接触によって電路103が閉状態にされて電源101と負荷102とが接続され、固定接点と可動接点との開離によって電路103が開状態にされて電源101と負荷102との接続が遮断される。以下において、固定接点と可動接点との開離を開閉接点1の開離と記載する場合がある。
変流器2は、電路103に流れる電流を検出し、電路103に流れる電流に正比例する電流を出力する。変流器2は、例えば、電路103が挿通される環状鉄心と、環状鉄心に巻き付けられた二次側コイルとを有し、二次側コイルから電流を出力する。
整流回路3は、変流器2の二次側に接続され、変流器2の二次側から出力される電流を整流する。整流回路3は、例えば、ダイオードブリッジによって構成される。電源回路4は、整流回路3の出力側に接続され、整流回路3によって整流された電流から電子式回路遮断器100の処理部10などを動作させるための電源電圧を生成し、生成した電源電圧を出力する。
波形変換回路5は、整流回路3の出力側に接続され、整流回路3によって整流された変流器2の電流をアナログ電圧信号へ変換する。処理部10は、波形変換回路5から出力されるアナログ電圧信号に基づいて、引き外し信号を引き外し回路6へ出力する引き外し処理を行う。
処理部10は、過電流引き外し処理において、波形変換回路5から出力されるアナログ電圧信号に基づいて、電路103に流れる電流が電子式回路遮断器100において設定された過電流引き外しの時限特性を満たすか否かを判定する。そして、処理部10は、電路103に流れる電流が過電流引き外しの時限特性を満たすと判定した場合に、引き外し信号を引き外し回路6へ出力する。以下において、過電流引き外しの時限特性を引き外し時限特性と記載する場合がある。
引き外し回路6は、処理部10から引き外し信号が出力された場合に、引き外し装置7を駆動して開閉接点1の開離を引き外し装置7に実行させる。引き外し装置7は、例えば、電磁アクチュエータを含む。この場合、引き外し回路6は、処理部10から引き外し信号が出力された場合に、引き外し装置7の電磁アクチュエータを駆動することで、開閉接点1を開離させるトリップ動作を引き外し装置7に実行させることで、過電流引き外しを行う。
時限特性設定部8は、引き外し時限特性を設定する。時限特性設定部8は、固定抵抗81と、可変抵抗82とを備えており、時限特性設定部8において、可変抵抗82の抵抗値に応じた引き外し時限特性が設定される。固定抵抗81と可変抵抗82とは、電源電位とグランド電位との間に直列に接続されている。
図1に示す例では、固定抵抗81は、一端が電源回路4の正極に接続され、他端が可変抵抗82の一端に接続されている。また、可変抵抗82の他端は電源回路4の負極に接続されている。固定抵抗81と可変抵抗82との接続点の電圧値は、処理部10によって読み込まれ、読み込まれた電圧値が処理部10において引き外し時限特性の設定値である時限特性設定値として用いられる。
時限特性設定部8は、図1に示す構成に限定されない。例えば、時限特性設定部8は、固定抵抗81と可変抵抗82との接続点とグランド電位との間に固定抵抗81とは異なる固定抵抗と可変抵抗82とを直列に接続した構成であってもよい。
熱エネルギー模擬回路9は、電子式回路遮断器100に接続された負荷102に供給される電流によって電路103を構成する電線に蓄積される熱エネルギーを模擬するために用いられる。図1に示す例では、熱エネルギー模擬回路9は、コンデンサ91と、逆流防止用ダイオード92,93と、充電抵抗94と、放電抵抗95と、スイッチング素子96とを備える。
コンデンサ91の正極は、逆流防止用ダイオード92および充電抵抗94を介して処理部10に接続されている。そして、処理部10による過電流検出時に処理部10から過電流に応じて出力されるパルス電圧が逆流防止用ダイオード92および充電抵抗94を介してコンデンサ91へ印加される。これにより、熱エネルギー模擬回路9において、電路103に過電流が流れた場合に電路103を構成する電線に蓄積される熱エネルギーに対応する量の電荷がコンデンサ91に蓄積される。
これにより、コンデンサ91には、処理部10によって検出された過電流に応じた量の電荷が蓄積されてコンデンサ91が充電される。なお、コンデンサ91の負極は電源回路4の負極に接続され、逆流防止用ダイオード92は、コンデンサ91に蓄積された電荷が処理部10へ逆流しないように設けられている。
放電抵抗95は、コンデンサ91に並列に接続されている。放電抵抗95は、処理部10の電圧がコンデンサ91に印加されていない状態で、コンデンサ91に蓄積された電荷をコンデンサ91から放出させ、コンデンサ91の放電を行う。
スイッチング素子96の入力は処理部10に接続され、スイッチング素子96の出力は、コンデンサ91に並列に接続されている。スイッチング素子96は、処理部10から出力される電圧によってオン状態になり、コンデンサ91を瞬時に放電する。スイッチング素子96は、例えば、バイポーラトランジスタである。この場合、スイッチング素子96の入力は、ベースであり、スイッチング素子96の出力は、コレクタおよびエミッタである。
逆流防止用ダイオード93は、固定抵抗81と可変抵抗82との接続点と、コンデンサ91の正極との間に接続され、固定抵抗81と可変抵抗82との接続点からコンデンサ91の正極への電荷の逆流を防止する。コンデンサ91は、逆流防止用ダイオード93を介して、可変抵抗82に並列接続されているため、処理部10からコンデンサ91への充電が行われていない期間において、放電抵抗95と可変抵抗82とによってコンデンサ91の放電が行われる。
放電抵抗95および可変抵抗82は、電路103を構成する電線から過電流によって放出される熱エネルギーに対応する量の電荷がコンデンサ91から放出されるように抵抗値が選択される。これにより、電路103に流れる電流が過電流でなくなった場合に電路103を構成する電線から放出される熱エネルギーに対応する量の電荷がコンデンサ91から放出される。
処理部10は、第1のAD(Analog to Digital)変換部11と、第2のAD変換部12と、第3のAD変換部13と、実効値演算部14と、時限特性演算部15と、充電ポート16と、引き外し出力ポート17と、放電ポート18とを備える。処理部10は、例えば、マイクロコンピュータである。
第1のAD変換部11は、波形変換回路5から出力されるアナログ電圧信号を予め設定された周期でデジタル信号に変換し、変換したデジタル信号を出力する。第1のAD変換部11から出力されるデジタル信号は、電路103に流れる電流の瞬時値を示すデジタル信号である。
第2のAD変換部12は、熱エネルギー模擬回路9におけるコンデンサ91の電圧値を検出し、検出したコンデンサ91の電圧値をデジタル信号に変換する。第2のAD変換部12は、変換したデジタル信号を出力する。
第3のAD変換部13は、時限特性設定部8における固定抵抗81と可変抵抗82との接続点の電圧値を検出し、かかる接続点の電圧値をデジタル信号に変換する。第3のAD変換部13は、変換したデジタル信号を出力する。第3のAD変換部13から出力されるデジタル信号は、引き外し時限特性の設定値である時限特性設定値を示すデジタル信号である。
なお、図1に示す例では、第3のAD変換部13は、時限特性設定部8における可変抵抗82の両端電圧値を検出するが、かかる例に限定されない。例えば、固定抵抗81と可変抵抗82との接続点とグランド電位との間に固定抵抗81とは異なる固定抵抗と可変抵抗82とが直列に接続されているとする。この場合、固定抵抗81とは異なる固定抵抗の両端電圧値と可変抵抗82の両端電圧値とを加算した値が第3のAD変換部13によって検出される。
第1のAD変換部11は、予め設定されたサンプリング周期Δtで波形変換回路5のアナログ電圧信号をサンプリングしてデジタル信号へ変換する。そして、実効値演算部14は、予め設定された期間TAにおいて第1のAD変換部11から出力されるデジタル信号に基づいて、電路103に流れる電流の実効値である電流実効値をサンプリング周期Δt毎に算出する。
実効値演算部14は、例えば、下記式(1)の演算によって、電流実効値の2乗値を便宜的に電流実効値Iとして算出する。下記式(1)において、「I2」は、電流実効値の2乗値であり、「i」は、第1のAD変換部11から出力されるデジタル信号で示される電流瞬時値であり、「m」は、第1のAD変換部11による電流瞬時値のサンプリング数である。
図2は、実施の形態1にかかる電子式回路遮断器の実効値演算部による電流実効値の算出方法を説明するための図である。図2に示す例では、実効値演算部14は、予め設定された期間TAにおいて第1のAD変換部11からサンプリング周期Δtで出力されるデジタル信号で示される電流瞬時値を2乗移動平均することで、電流実効値の2乗値を求める。なお、実効値演算部14は、電流実効値の2乗値の平方根を算出して、電流実効値を求めることもできる。以下において、電流実効値の2乗値を電流実効値I2と記載する場合がある。
予め設定された期間TAは、電路103に流れる交流電流の周波数が50Hzである場合、電路103に流れる交流電流の2.5周期分の期間であり、電路103に流れる交流電流の60Hzの場合、電路103に流れる交流電流の3周期分の期間である。図2に示す例では、予め設定された期間TAにおけるサンプリング数mは、30であるが、かかる例に限定されない。
図1に示す時限特性演算部15は、実効値演算部14によって算出された電流実効値I2と定格電流値Ic2とを比較し、電流実効値I2が定格電流値Ic2を超えたか否かを処理周期毎に判定する。時限特性演算部15の処理周期は、サンプリング周期Δtと同じである。また、定格電流値Ic2は、定格電流値Icの2乗値である。
時限特性演算部15は、電流実効値I2が定格電流値Ic2を超えている期間は、電流実効値I2を累積することで、電流累積値を算出する。時限特性演算部15は、電流実効値I2が定格電流値Ic2を超えていない期間は、電流累積値から予め設定された値を処理周期毎に減算する。予め設定された値は、電路103に流れる電流が過電流の状態から定格電流値以下になったことによる電路103を構成する電線の熱エネルギーの減少を模擬した値に設定される。
なお、実効値演算部14は、電流実効値I2に代えて、電流実効値Iを算出することができる。この場合、時限特性演算部15は、電流実効値I2が定格電流値Ic2を超えているか否かに代えて、電流実効値Iが定格電流値Icを超えているか否かを判定して、電流累積値を算出する。
時限特性演算部15は、例えば、電流実効値I2を累積するための累積加算カウンタを有しており、かかる累積加算カウンタによって電流累積値の算出が行われる。この場合、時限特性演算部15は、電流実効値I2が定格電流値Ic2を超えている期間において、処理周期毎の電流実効値I2を累積加算カウンタで累積する。また、時限特性演算部15は、電流実効値I2が定格電流値Ic2を超えていない期間において、累積加算カウンタから電流累積値から予め設定された値を処理周期毎に減算する。
また、時限特性演算部15は、電流実効値I2が定格電流値Ic2を超えている期間において、定格電流値Ic2に対応するパルス電圧を充電ポート16から出力させてコンデンサ91を充電する。これにより、電路103を構成する電線から放出される熱エネルギーを模擬したコンデンサ91への充電が行われる。
充電ポート16から出力されるパルス電圧は、電路103を構成する電線から放出される熱エネルギーを模擬できるパルス長のパルス電圧であり、例えば、定格電流値Ic2に正比例するパルス電圧である。なお、充電ポート16の出力電圧が可変である場合、時限特性演算部15は、算出した電流累積値に応じた電圧を充電ポート16から出力させることもできる。
時限特性演算部15は、第3のAD変換部13から出力されるデジタル信号で示される時限特性設定値と累積電流値とを比較し、累積電流値が時限特性設定値以上になった場合に、引き外し出力ポート17から引き外し回路6へ引き外し信号を出力させる。これにより、引き外し装置7によってトリップ動作として過電流引き外しが実行される。
また、時限特性演算部15は、例えば、累積電流値が時限特性設定値以上になった場合に、放電ポート18からスイッチング素子96のベースへ放電信号を出力させる。スイッチング素子96のコレクタとエミッタとはコンデンサ91の両端に接続されており、放電ポート18から出力されると、スイッチング素子96がオン状態になるため、コンデンサ91の電圧が瞬間的に0[V]になる。
処理部10は、電源回路4から出力される電圧で動作するが、電路103に負荷電流が流れていない場合、変流器2から電流が出力されないため、整流回路3から電流が供給されないことから、処理部10を動作させるための電圧が電源回路4から供給できない。そのため、電路103に負荷電流が断続的に流れる場合、処理部10は、間欠的に動作し、オンオフを繰り返す。処理部10がオフ状態になった後に処理部10がオン状態になるまでの期間は処理部10によって把握できず、電路103を構成する電線に過電流によって蓄積された熱エネルギーの変化が不明になる。
そこで、上述したように、処理部10は、電源回路4からの電源電圧の供給が開始されて動作を開始する際に、熱エネルギー模擬回路9のコンデンサ91の電圧を読み取り、読み取ったコンデンサ91の電圧を用いて電流累積値の初期値を設定する。例えば、処理部10は、コンデンサ91の電圧値を電流累積値の初期値として設定することができる。
電子式回路遮断器100では、上述したように、時限特性設定部8の可変抵抗82は、逆流防止用ダイオード93を介してコンデンサ91と並列に接続され、コンデンサ91への充電が行われていない期間において、放電抵抗95と共にコンデンサ91の放電を行う。
そのため、電子式回路遮断器100では、時限特性設定部8で設定される時限特性設定値に対応してコンデンサ91の放電特性を変化させることができ、様々な断続的な負荷電流に対しても設定された時限特性設定値で精度よく過電流引き外しを行うことができる。以下、精度よく過電流引き外しをすることができる点について、具体的に説明する。
図3は、実施の形態1にかかる電子式回路遮断器の熱エネルギー模擬回路におけるコンデンサの充放電を説明するための図である。図3に示す例では、t1秒間の過電流オン期間とt2秒間の過電流オフ期間とを交互に繰り返す負荷102が電子式回路遮断器100に接続されている場合のコンデンサ91の電圧の変化を示している。過電流オン期間は、電路103に過電流が流れる期間であり、過電流オフ期間は、電路103に過電流が流れない期間である。
充電ポート16から出力されるパルス電圧が「VP」であるとすると、最初の過電流がt1秒間流れたときのコンデンサ91の充電後の電圧VCH1は、下記式(2)で表される。下記式(2)において、「CTM」はコンデンサ91の静電容量であり、「RCH」は、充電抵抗94の抵抗値である。
最初の過電流がt1秒間流れた後に電流がt2秒間流れない場合、コンデンサ91の放電がt2秒間行われる。t2秒間の放電後におけるコンデンサ91の電圧を「VTM1」とし、放電抵抗95と可変抵抗82との合成抵抗の抵抗値を「RTM」とすると、t2秒間の放電が行われたコンデンサ91の放電後の電圧VTM1は、下記式(3)で表される。
さらに2回目の過電流がt1秒間流れた後のコンデンサ91の充電後の電圧VCH2は、図3に示すように0Vから放電後の電圧VTM1までの充電時間をt3秒とすると、下記式(4)で表される。
また、放電後の電圧VTM1は、充電時間t3を用いて、下記式(5)で表される。
0Vから放電後の電圧VTM1までの充電時間t3は、上記式(5)を変形することで、下記式(6)で表される。かかる充電時間t3を上記式(4)に代入することで、2回目の過電流がt1秒間流れた後のコンデンサ91の充電後の電圧VCH2を算出することができる。
2回目の過電流がt1秒間流れた後に電流がt2秒間流れない場合、コンデンサ91の放電がt2秒間行われる。2回目の放電後におけるコンデンサ91の電圧を「VTM2」とすると、2回目の放電後の電圧VTM2は、2回目の充電後の電圧VCH2を上記式(3)に代入することで算出することができる。この場合、上記式(3)において、電圧VCH1が電圧VCH2に置き換えられ、電圧VTM1が電圧VTM2に置き換えられる。
2回目の放電後の電圧VTM2から、上記式(6)を用いて、t3を算出することで、上記式(4)を用いて、3回目の充電後の電圧VCH3を算出することができる。この場合、上記式(6),(5)において、電圧VTM1が電圧VTM2に置き換えられ、上記式(4)において、電圧VCH2が電圧VCH3に置き換えられる。このような算出を繰り返すことで、n回目の充電後の飽和電圧VCHnを算出することができる。実際には、充電後の電圧VCHが高くなってくると、放出される電荷も多くなるため、図3に示すように、n回目の充電後の飽和電圧VCHnは、ある電圧で飽和することとなる。
ここで、t1=1[秒]とし、t2=3[秒]とし、VP=3.3[V]とし、RCH=150[kΩ]とし、CTM=47[μF]とする。「VP」は、充電ポート16から出力されるパルス電圧であり、「RCH」は、放電抵抗95と可変抵抗82との合成抵抗の抵抗値であり、「CTM」はコンデンサ91の静電容量である。
また、可変抵抗82の抵抗値Rf=1[MΩ]のときの時限特性設定値がカウンタ値換算で2[V]であるとし、可変抵抗82の抵抗値Rf=13[MΩ]のときの時限特性設定値がカウンタ値換算で3[V]であるとする。また、計算を簡略化するため、電路103に過電流が流れているときは常に充電ポート16から電圧を出力しているものとする。
上述した条件において、従来の電子式回路遮断器の場合の動作と、実施の形態1にかかる電子式回路遮断器100の場合の動作とを説明する。まず、従来の電子式回路遮断器の場合の動作について説明する。なお、RDCH=1[MΩ]とする。「RDCH」は、放電抵抗95の抵抗値である。
従来の電子式回路遮断器の場合、放電抵抗95と可変抵抗82とは互いに独立している。そのため、合成抵抗の抵抗値RTMを放電抵抗95の抵抗値RDCHに置き換えた上記式(2)~(6)の演算により、コンデンサ91の飽和電圧VCHnは、約2.3[V]であり、約2.3[V]までコンデンサ91の充電が可能である。
そして、可変抵抗82の抵抗値Rfが1[MΩ]のときは、コンデンサ91の飽和電圧VCHnが時限特性設定値を超えるため、時限特性演算部15は、過電流引き外しを実行することができる。しかし、可変抵抗82の抵抗値Rfが13[MΩ]のとき、時限特性設定値は3[V]であるのに対して、コンデンサ91の飽和電圧VCHnは、約2.3[V]で時限特性設定値を超えないため、時限特性演算部15は、過電流引き外しを実行することができない。
次に、実施の形態1にかかる電子式回路遮断器100の場合の動作について説明する。可変抵抗82の抵抗値Rfが1[MΩ]であり、放電抵抗95の抵抗値RDCHが30[MΩ]であるとすると、可変抵抗82と放電抵抗95との合成抵抗の抵抗値RTMは、約1[MΩ]である。この場合、コンデンサ91の飽和電圧VCHnは、約2.3[V]であり、約2.3[V]までコンデンサ91の充電が可能である。したがって、電子式回路遮断器100は、従来の電子式回路遮断器の場合と同様に、時限特性演算部15は、過電流引き外しを実行することができる。
また、可変抵抗82の抵抗値Rfが13[MΩ]であり、放電抵抗95の抵抗値RDCHが30[MΩ]であるとすると、可変抵抗82と放電抵抗95との合成抵抗の抵抗値RTMは、約9[MΩ]である。この場合、上記式(2)~(6)により、コンデンサ91の飽和電圧VCHnは、約3.1[V]であり、約3.1[V]までコンデンサ91の充電が可能である。上述したように、可変抵抗82の抵抗値Rfが13[MΩ]のときの時限特性設定値はカウンタ値換算で3[V]であるため、コンデンサ91の飽和電圧VCHnが閾値を超えるため、時限特性演算部15は、過電流引き外しを実行することができる。
このように、電子式回路遮断器100では、可変抵抗82は、逆流防止用ダイオード93を介してコンデンサ91と並列に接続され、コンデンサ91への充電が行われていない期間において、放電抵抗95と共にコンデンサ91の放電を行う。そのため、電子式回路遮断器100では、時限特性設定部8で設定される時限特性設定値に対応してコンデンサ91の放電特性を変化させることができる。これにより、電子式回路遮断器100は、様々な断続的な負荷電流に対しても設定された時限特性設定値で精度よく過電流引き外しを実行することができる。
つづいて、フローチャートを用いて電子式回路遮断器100の処理部10による処理を説明する。図4は、実施の形態1にかかる電子式回路遮断器の処理部による処理の一例を示すフローチャートである。
図4に示すように、電子式回路遮断器100の処理部10は、電源回路4からの電源電圧の供給が開始されると、各種の初期設定を行い(ステップS10)、コンデンサ91の電圧値であるコンデンサ電圧値を読み込む(ステップS11)。そして、処理部10は、読み込んだコンデンサ電圧値または読み込んだコンデンサ電圧値に応じた値を電流累積値の初期値としてセットする(ステップS12)。
次に、処理部10は、電流実効値I2を算出し(ステップS13)、算出した電流実効値I2が定格電流値Ic2を超えているか否かを判定する(ステップS14)。処理部10は、電流実効値I2が定格電流値Ic2を超えていないと判定した場合(ステップS14:No)、累積加算カウンタの値である累積加算カウンタ値を減算し(ステップS15)、処理をステップS13に移行する。
また、処理部10は、電流実効値I2が定格電流値Ic2を超えていると判定した場合(ステップS14:Yes)、ステップS13で算出した電流実効値I2を累積加算カウンタ値に加算する(ステップS16)。
次に、処理部10は、累積加算カウンタ値が時限特性設定値以上であるか否かを判定する(ステップS17)。処理部10は、累積加算カウンタ値が時限特性設定値以上であると判定した場合(ステップS17:Yes)、引き外し信号を引き外し回路6へ出力する(ステップS18)。
処理部10は、累積加算カウンタ値が時限特性設定値以上ではないと判定した場合(ステップS17:No)、累積加算カウンタ値がコンデンサ電圧値以上であるか否かを判定する(ステップS19)。処理部10は、累積加算カウンタ値がコンデンサ電圧値以上ではないと判定した場合(ステップS19:No)、処理をステップS13に移行する。また、処理部10は、累積加算カウンタ値がコンデンサ電圧値以上であると判定した場合(ステップS19:Yes)、コンデンサ91にパルス電圧を出力してコンデンサ91を充電する(ステップS20)。
処理部10は、動作終了タイミングになったか否かを判定する(ステップS21)。処理部10は、電源回路4から出力される電圧が閾値以下になった場合に、動作終了タイミングになったと判定する。処理部10は、動作終了タイミングになっていないと判定した場合(ステップS21:No)、処理をステップS13に移行する。また、処理部10は、ステップS18の処理が終了した場合、または動作終了タイミングになったと判定した場合(ステップS21:Yes)、動作を停止し、図4に示す処理を終了する。
図5は、実施の形態1にかかる電子式回路遮断器の処理部のハードウェア構成の一例を示す図である。図5に示すように、電子式回路遮断器100の処理部10は、プロセッサ201と、メモリ202と、入出力部203とを備えるコンピュータを含む。
プロセッサ201、メモリ202、および入出力部203は、例えば、バス204によって互いに情報の送受信が可能である。第1のAD変換部11、第2のAD変換部12、第3のAD変換部13、充電ポート16、引き外し出力ポート17、および放電ポート18などは、入出力部203で実現される。プロセッサ201は、メモリ202に記憶されたプログラムを読み出して実行することによって、処理部10の機能を実行する。プロセッサ201は、例えば、処理回路の一例であり、CPU(Central Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)、およびシステムLSI(Large Scale Integration)のうち一つ以上を含む。
メモリ202は、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ、EPROM(Erasable Programmable Read Only Memory)、およびEEPROM(登録商標)(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)のうち一つ以上を含む。また、メモリ202は、コンピュータが読み取り可能なプログラムが記録された記録媒体を含む。かかる記録媒体は、不揮発性または揮発性の半導体メモリ、磁気ディスク、フレキシブルメモリ、光ディスク、コンパクトディスク、およびDVD(Digital Versatile Disc)のうち一つ以上を含む。なお、電子式回路遮断器100の処理部10は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)およびFPGA(Field Programmable Gate Array)などの集積回路を含んでいてもよい。
以上のように、実施の形態1にかかる電子式回路遮断器100は、開閉接点1と、引き外し装置7と、時限特性設定部8と、コンデンサ91と、放電抵抗95と、処理部10とを備える。開閉接点1は、電路103を開閉する。引き外し装置7は、開閉接点1を閉状態から開状態にする。時限特性設定部8は、電路に流れる過電流に応じて開閉接点1を閉状態から開状態にする過電流引き外しの時限特性設定値を、可変抵抗82の抵抗値により設定する。コンデンサ91は、過電流に応じた充電が行われる。放電抵抗95は、コンデンサ91に並列に接続されコンデンサ91の放電を行う。処理部10は、電路103に流れる電流が定格電流を超える期間の電流の累積値である電流累積値が時限特性設定値を超えると判定した場合に、引き外し装置7を制御して開閉接点1を閉状態から開状態にする過電流引き外し処理を行う。処理部10は、処理部10の動作開始時にコンデンサ91の電圧に基づいて、過電流引き外し処理における電流累積値の初期値を設定する。可変抵抗82は、逆流防止用ダイオード93を介してコンデンサ91に並列に接続される。これにより、電子式回路遮断器100は、過電流引き外しを設定された時限特性で精度よく行うことができる。
実施の形態2.
実施の形態2にかかる電子式回路遮断器は、熱エネルギー模擬回路のコンデンサへの充電用電源回路をさらに備える点、および熱エネルギー模擬回路のコンデンサへの充電回路を複数系統備える点で、実施の形態1にかかる電子式回路遮断器100と異なる。以下においては、実施の形態1と同様の機能を有する構成要素については同一符号を付して説明を省略し、実施の形態1の電子式回路遮断器100と異なる点を中心に説明する。
図6は、実施の形態2にかかる電子式回路遮断器の構成の一例を示す図である。図6に示す電子式回路遮断器100Aは、電源回路4、熱エネルギー模擬回路9、および処理部10に代えて、第1の電源回路4A、第2の電源回路4B、熱エネルギー模擬回路9A、および処理部10Aを備える点で、電子式回路遮断器100と異なる。
第1の電源回路4Aは、処理部10Aおよび時限特性設定部8へ電圧を供給する。第2の電源回路4Bは、熱エネルギー模擬回路9Aのコンデンサ91への充電用電源回路であり、熱エネルギー模擬回路9Aへ電圧を供給する。第2の電源回路4Bから出力される電圧は、第1の電源回路4Aから出力される電圧よりも高いため、熱エネルギー模擬回路9Aのコンデンサ91への充電を高速で行うことができる。
処理部10Aは、充電ポート16に代えて、第1の充電ポート16Aおよび第2の充電ポート16Bを備える。時限特性演算部15は、電流実効値I2が定格電流値Ic2を超えている期間において、定格電流値Ic2に対応するパルス電圧を第1の充電ポート16Aおよび第2の充電ポート16Bから出力させる。
熱エネルギー模擬回路9Aは、充電抵抗94および逆流防止用ダイオード92に代えて、第1の充電抵抗94A、第2の充電抵抗94B、第1のスイッチング素子97A、第2のスイッチング素子97B、および逆流防止用ダイオード98を備える点で、熱エネルギー模擬回路9と異なる。第1のスイッチング素子97Aおよび第2のスイッチング素子97Bは、MOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)であるが、バイポーラトランジスタなどであってもよい。
逆流防止用ダイオード98のアノードは、第2の電源回路4Bに接続され、第2の電源回路4Bから出力される電源電圧が印加される。逆流防止用ダイオード98のカソードは、第1のスイッチング素子97Aおよび第2のスイッチング素子97Bのドレインに接続されている。第1のスイッチング素子97Aのソースは、第1の充電抵抗94Aの一端に接続されている。
第2のスイッチング素子97Bのソースは、第2の充電抵抗94Bの一端に接続され、第1の充電抵抗94Aの他端および第2の充電抵抗94Bの他端はコンデンサ91の一端に接続されている。第1のスイッチング素子97Aのゲートは、第1の充電ポート16Aに接続されており、第2のスイッチング素子97Bのゲートは、第2の充電ポート16Bに接続されている。
第1のスイッチング素子97Aおよび第1の充電抵抗94Aによって、第1の充電回路が構成され、第2のスイッチング素子97Bおよび第2の充電抵抗94Bによって、第2の充電回路が構成される。このように、電子式回路遮断器100Aには2系統の充電回路が構成される。
時限特性演算部15は、第3のAD変換部13によってデジタル信号に変換された時限特性設定値に応じてパルス電圧を第1の充電ポート16Aまたは第2の充電ポート16B、またはその両方から出力させることで、第1の充電回路および第2の充電回路の一方または両方からコンデンサ91へ電流を供給させることができる。これにより、第1の充電回路および第2の充電回路は、第1の充電ポート16Aおよび第2の充電ポート16Bの出力特性によらず、過電流に応じたコンデンサ91への充電を高速に行うことができる。
なお、電子式回路遮断器100Aにおいて、第2の充電ポート16Bおよび第2の充電回路を設けない構成であってもよい。この場合であっても、第1の電源回路4Aよりも電圧が高い第2の電源回路4Bの電圧を使用してコンデンサ91の充電を行うことができるため、過電流に応じたコンデンサ91への充電を高速に行うことができる。
また、図6に示す電子式回路遮断器100Aでは、充電回路が第1の充電回路および第2の充電回路の2系統であるが、充電回路は3系統以上であってもよい。
実施の形態2にかかる電子式回路遮断器100Aの処理部10Aのハードウェア構成例は、図5に示す電子式回路遮断器100の処理部10のハードウェア構成と同じである。プロセッサ201は、メモリ202に記憶されたプログラムを読み出して実行することによって、処理部10Aの機能を実行することができる。
以上のように、実施の形態2にかかる電子式回路遮断器100Aは、処理部10Aを動作させるための第1の電源回路4Aと、コンデンサ91を充電するための第2の電源回路4Bとを備える。第2の電源回路4Bの出力電圧は、第1の電源回路4Aの出力電圧より高い。これにより、電子式回路遮断器100Aは、過電流に応じたコンデンサ91への充電を高速に行うことができ、過電流引き外しを設定された時限特性で精度よく行うことができる。
また、電子式回路遮断器100Aは、コンデンサ91を充電する複数系統の充電回路を備える。これにより、電子式回路遮断器100Aは、過電流に応じたコンデンサ91への充電をより高速に行うことができ、過電流引き外しを設定された時限特性で精度よく行うことができる。
以上の実施の形態に示した構成は、一例を示すものであり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、実施の形態同士を組み合わせることも可能であるし、要旨を逸脱しない範囲で、構成の一部を省略、変更することも可能である。