JP2022190957A - 水性インクジェットインク、転写フィルム、印刷物およびその製造方法 - Google Patents

水性インクジェットインク、転写フィルム、印刷物およびその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】高い転写品位で皮革に直接転写することができ、ビーディングおよびひび割れの発生が抑制されており、耐ブロッキング性に優れる、転写フィルムの印刷層を形成可能な水性インクジェットインクであって、メンテナンス性に優れる水性インクジェットインクを提供する。【解決手段】少なくとも水(A)、顔料(B)、水溶性有機溶剤成分(C)、界面活性剤(D)、および樹脂微粒子(E)を含有する水性インクジェットインクであって、前記インクは、水溶性有機溶剤成分(C)として、12質量%以上20質量%以下の3-メトキシ-1-ブタノールと、1質量%以上8質量%以下のトリプロピレングリコールモノメチルエーテルと、3-メチル-1,5-ペンタンジオールと、炭素数3~5のジオール類と、を含有し、前記インク中の水溶性有機溶剤成分(C)の含有量が、25質量%以上である、水性インクジェットインクとする。【選択図】なし

Description

本発明は、転写フィルムの印刷層形成に好適に使用可能な水性インクジェットインクに関する。本発明はまた、転写フィルムに関する。本発明はまた、印刷物およびその製造方法に関する。
従来より、天然皮革、合成皮革、人工皮革、再生皮革等の皮革を加飾するために、文字、画像等を皮革表面に印刷することが行われている。皮革への印刷方法の一つとして、転写フィルムを用いた転写印刷法が知られている。
従来の皮革への転写印刷法の一つでは、少なくとも印刷層、接着層、およびポリウレタン層を備える転写フィルムを用いて、皮革表面全面への印刷が行われている(例えば、特許文献1~3参照)。これに対し近年、オンデマンドで皮革表面の一部を加飾可能な印刷方法への需要が増加しており、オンデマンドで皮革表面の一部に印刷可能な転写フィルムとして、印刷層および接着層を備える転写フィルムであって、それぞれの層がインクジェット法で形成された転写フィルムが開発されている(例えば、特許文献4および5参照)。
特開2007-111867号公報 特開2007-100289号公報 特許第3069064号公報 特開第6074563号公報 特開2013-141787号公報
しかしながら、従来技術の転写印刷法においては、印刷層を皮革に直接転写することはできず、印刷層は接着層を介して皮革に転写される。そのため、この接着層によって皮革の質感を損なう場合があるという問題があった。また、転写フィルムに接着層を設けることは、接着層形成工程が必要となり、転写フィルムの生産性の低下を招く。そのため、皮革に直接転写することができる印刷層を備える転写フィルムの開発が望まれている。
一方で、転写印刷法においては、転写フィルムの印刷層には、高い転写品位で転写可能であることに加え、ビーディングおよびひび割れが生じていないことや、転写フィルムを巻き取った際の耐ブロッキング性が求められている。また、転写フィルムの印刷層を形成するための水性インクジェットインクは、プリンタ内で一定期間放置されることがあるため、放置後でも安定して吐出できるようなメンテナンス性が求められている。
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、本発明は、高い転写品位で皮革に直接転写することができ、ビーディングおよびひび割れの発生が抑制されており、耐ブロッキング性に優れる、転写フィルムの印刷層を形成可能な水性インクジェットインクであって、メンテナンス性に優れる水性インクジェットインクを提供することを目的とする。
本発明に係る水性インクジェットインクは、少なくとも水(A)、顔料(B)、水溶性有機溶剤成分(C)、界面活性剤(D)、および樹脂微粒子(E)を含有する。前記インクは、水溶性有機溶剤成分(C)として、12質量%以上20質量%以下の3-メトキシ-1-ブタノールと、1質量%以上8質量%以下のトリプロピレングリコールモノメチルエーテルと、3-メチル-1,5-ペンタンジオールと、炭素数3~5のジオール類と、を含有する。前記インク中の水溶性有機溶剤成分(C)の含有量は、25質量%以上である。
別の側面から、本発明に係る転写フィルムは、上記の水性インクジェットインクにより形成された印刷層と、フィルム基材と、を有する。
別の側面から、本発明に係る印刷物は、上記の水性インクジェットインクにより形成された印刷層と、前記印刷層と接触する被転写体とを、備える。前記印刷層と接触する、前記被転写体の面の比誘電率が2.8以上5.5以下である。
別の側面から、本発明に係る印刷物の製造方法は、上記の転写フィルムを用意する工程と、前記転写フィルムの印刷層を、被転写体と接触するように配置する工程と、前記転写フィルムの印刷層側の圧力を、前記転写フィルムのフィルム基材側の圧力よりも低くして、前記転写フィルムの印刷層を、前記被転写体に密着させる工程と、を備える。
本発明によれば、高い転写品位で皮革に直接転写することができ、ビーディングおよびひび割れの発生が抑制されており、耐ブロッキング性に優れる、転写フィルムの印刷層を形成可能な水性インクジェットインクであって、メンテナンス性に優れる水性インクジェットインクを提供することができる。
本発明に係る水性インクジェットインクは、少なくとも水(A)、顔料(B)、水溶性有機溶剤成分(C)、界面活性剤(D)、および樹脂微粒子(E)を含有する。当該インクは、水溶性有機溶剤成分(C)として、12質量%以上20質量%以下の3-メトキシ-1-ブタノールと、1質量%以上8質量%以下のトリプロピレングリコールモノメチルエーテルと、3-メチル-1,5-ペンタンジオールと、炭素数3~5のジオール類と、を含有する。当該インク中の水溶性有機溶剤成分(C)の含有量は、25質量%以上である。
〔水(A)〕
本発明に係る水性インクジェットインクは、水(A)を含有する。水(A)を含有することにより、水性インクジェットインクは、環境負荷が小さいという利点を有する。使用される水(A)には特に制限はないが、不純物の混入を防止する観点から、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水、または超純水が好ましく、イオン交換水がより好ましい。
水性インクジェットインク中の水(A)の含有量は、40質量%以上が好ましく、45質量%以上がより好ましく、50質量%以上がさらに好ましい。一方、水(A)の含有量は、70質量%以下が好ましく、65質量%以下がより好ましく、63質量%以下がさらに好ましい。
〔顔料(B)〕
顔料(B)としては、無機顔料と有機顔料の何れも使用することができる。顔料(B)は、1種単独で、または2種以上を任意の比率で組み合わせて用いることができる。
有機顔料の例としては、アゾ顔料(例、アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料など)、多環式顔料(例、フタロシアニン顔料、ぺリレン顔料、ぺリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、インジゴ顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフラロン顔料など)、染料キレート(例、塩基性染料型キレート、酸性染料型キレートなど)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック等が挙げられる。
無機顔料の例としては、酸化チタン、亜鉛華、硫化亜鉛、鉛白、炭酸カルシウム、沈降性硫酸バリウム、ホワイトカーボン、アルミナホワイト、カオリンクレー、タルク、ベントナイト、黒色酸化鉄、カドミウムレッド、べんがら、モリブデンレッド、モリブデートオレンジ、クロムバーミリオン、黄鉛、カドミウムイエロー、黄色酸化鉄、チタンイエロー、酸化クロム、ビリジアン、チタンコバルトグリーン、コバルトグリーン、コバルトクロムグリーン、ビクトリアグリーン、群青、紺青、コバルトブルー、セルリアンブルー、コバルトシリカブルー、コバルト亜鉛シリカブルー、マンガンバイオレット、コバルトバイオレット等が挙げられる。
より具体的には、ブラック系顔料としては、例えば、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラック(C.I.ピグメントブラック7)類;銅、鉄(C.I.ピグメントブラック11)等の金属類;酸化チタン等の金属酸化物類;アニリンブラック(C.I.ピグメントブラック1)等の有機顔料が挙げられる。
シアン系顔料としては、例えば、C.I.ピグメントブルー1,2,3,15:1,15:3,15:4,15:6,16,21,22,60,64等が挙げられる。
マゼンタ系顔料としては、例えば、C.I.ピグメントレッド5,7,9,12,31,48,49,52,53,57,97,112,120,122,146,147,149,150,168,170,177,178,179,184,188,202,206,207,209,238,242,254,255,264,269,282;C.I.ピグメントバイオレット19,23,29,30,32,36,37,38,40,50等が挙げられる。
イエロー系顔料としては、例えば、C.I.ピグメントイエロー1,2,3,12,13,14,16,17,20,24,74,83,86,93,94,95,109,110,117,120,125,128,129,137,138,139,147,148,150,151,154,155,166,168,180,185,213等が挙げられる。
その他の色の顔料としては、例えば、C.I.ピグメントグリーン7,10,36;C.I.ピグメントブラウン3,5,25,26;C.I.ピグメントオレンジ2,5,7,13,14,15,16,24,34,36,38,40,43,62,63,64,71等が挙げられる。
また、表面に、カルボキシル基、スルホン酸基、ホスホン酸基、ヒドロキシル基等の親水性基を有する顔料(いわゆる「自己分散顔料」)を使用することができる。カーボンブラック系自己分散顔料としては、例えば、CAB-O-JET200、300、352K、400(以上、キャボット社製)等が挙げられる。シアン系自己分散顔料としては、例えば、CAB-O-JET250C、450C、554B(以上、キャボット社製)等が挙げられる。マゼンタ系自己分散顔料としては、例えば、CAB-O-JET260M、265M、465M(以上、キャボット社製)等が挙げられる。イエロー系自己分散顔料としては、例えば、CAB-O-JET270、470Y、740Y(以上、キャボット社製)等が挙げられる。分散剤を用いることなく水(A)に分散可能であることから、色材(B)としては、自己分散顔料が好ましい。
水性インクジェットインク中の顔料(B)の含有量は、固形分量(固形分濃度)として、0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましく、1質量%以上がさらに好ましい。一方、顔料(B)の含有量は、20質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましく、12質量%以下がさらに好ましい。
〔水溶性有機溶剤成分(C)〕
本明細書において、水溶性有機溶剤成分(C)を構成する「水溶性有機溶剤」とは、水に対する20℃における溶解度が500g/L以上である有機溶剤のことをいう。水溶性有機溶剤として好ましくは、20℃において水に任意の割合で均一に混和する有機溶剤である。
ここで用いられる水性インクジェットインクは、水溶性有機溶剤成分(C)として、置換ブタノールである3-メトキシ-1-ブタノールを、インク中、12質量%以上20質量%以下の含有量で含む。3-メトキシ-1-ブタノールは、水性インクジェットインクの初期乾燥速度を向上させる成分である。転写フィルムのフィルム基材は、水性インクジェットインクをはじき易い。そのため、インクジェットプリンタから基材フィルムに吐出されたインクドットが濡れ広がる前に隣接するドットが着弾し、ドット同士が合一してビーディング(不規則な隙間や濃度ムラ)が起こり得る。水性インクジェットインクの初期乾燥速度を向上させることでこのビーディングの発生を抑制することができる。3-メトキシ-1-ブタノールの含有量が12質量%未満だと、初期乾燥速度が遅くなり、ビーディングが発生して画像品位が低下する。ビーディングの発生をより高度に抑制する観点から、水性インクジェットインク中の3-メトキシ-1-ブタノールの含有量は、13質量%以上が好ましく、14質量%以上がより好ましい。一方、3-メトキシ-1-ブタノールの含有量が20質量%を超えると、初期乾燥速度が早くなり過ぎて、印刷層にひび割れが生じて画像品位が低下する。置換ブタノールの含有量は、19質量%以下が好ましく、18質量%以下がより好ましい。
また、ここで用いられる水性インクジェットインクは、水溶性有機溶剤成分(C)として、グリコールモノエーテル類であるトリプロピレングリコールモノメチルエーテルを、インク中、1質量%以上8質量%以下の含有量で含む。3-メトキシ-1-ブタノールのみを使用した場合には、3-メトキシ-1-ブタノールのみが優先的に乾燥されて、残ったドット同士が合一化してビーディングが起こり得る。トリプロピレングリコールモノメチルエーテルは、3-メトキシ-1-ブタノールよりも初期乾燥速度が遅く、後述のジオール類よりも初期乾燥速度が早い。3-メトキシ-1-ブタノールにトリプロピレングリコールモノメチルエーテルを併用することで、インクの初期乾燥速度を適正化することができる。トリプロピレングリコールモノメチルエーテルの含有量が1質量%未満だと、初期乾燥速度が不適切となり、ビーディングが発生して画像品位が低下する。ビーディングの発生をより高度に抑制する観点から、水性インクジェットインク中のトリプロピレングリコールモノメチルエーテルの含有量は、2質量%以上が好ましく、3質量%以上がより好ましい。一方、トリプロピレングリコールモノメチルエーテルの含有量が8質量%を超えると、初期乾燥速度が不適切となり、印刷層にひび割れが生じて画像品位が低下する。置換ブタノールの含有量は、7質量%以下が好ましく、6質量%以下がより好ましい。
また、ここで用いられる水性インクジェットインクは、水溶性有機溶剤成分(C)として、ジオール類である、3-メチル-1,5-ペンタンジオールと、炭素数3~5のジオール類とを含有する。水性インクジェットインクは、顔料(B)および樹脂微粒子(E)を含有しているため、プリンタ(特に、ワイパーおよびキャップ部)において完全に乾燥すると固形物を生じ、この固形物はインクに再溶解し難くノズル詰まり等の原因となり得る。しかしながら、水性インクジェットインクが、水溶性有機溶剤成分(C)のジオール類として、高沸点溶媒である3-メチル-1,5-ペンタンジオールを含有することにより、水性インクジェットインクは、プリンタにおいて乾固化することが抑制されてメンテナンス性が高くなる。より高いメンテナンス性の観点から、水性インクジェットインク中の3-メチル-1,5-ペンタンジオールの含有量は、2質量%以上が好ましく、3質量%以上がより好ましく、4質量%以上がさらに好ましい。一方、水性インクジェットインク中の3-メチル-1,5-ペンタンジオールの含有量は、11質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましく、9質量%以下がさらに好ましい。
一方で、水性インクジェットインクが、水溶性有機溶剤成分(C)のジオール類として、炭素数3~5のジオール類を含有することにより、高沸点溶媒である3-メチル-1,5-ペンタンジオールの乾燥性の低さを補うことができ、高い転写品位と耐ブロッキング性とを有する印刷層を形成することができる。炭素数3~5のジオール類の例としては、ジエチレングリコール(沸点:約244℃)、プロピレングリコール(沸点:約188℃)、1,3-プロパンジオール(沸点:約213℃)、1,2-ブタンジオール(沸点:約194℃)、2,3-ブタンジオール(沸点:約183℃)、1,3-ブタンジオール(沸点:約208℃)、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール(沸点:約208℃)、2-メチル-1,3-プロパンジオール(沸点:約213℃)、1,2-ペンタンジオール(沸点:約206℃)、2,4-ペンタンジオール(沸点:約201℃)、1,5-ペンタンジオール(沸点:約242℃)等が挙げられる。なかでも、沸点が200℃以上220℃以下のものが好ましい。また、炭素数3および4のジオールが好ましい。炭素数3~5のジオール類として特に好ましくは、1,3-プロパンジオール(沸点:約213℃)および2-メチル-1,3-プロパンジオール(沸点:約213℃)である。
より高い転写品位と耐ブロッキング性を有する印刷層を形成する観点から、水性インクジェットインク中の炭素数3~5のジオール類の含有量は、2質量%以上が好ましく、3質量%以上がより好ましく、4質量%以上がさらに好ましい。一方、水性インクジェットインク中の炭素数3~5のジオール類の含有量は、11質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましく、9質量%以下がさらに好ましい。
水性インクジェットインク中の3-メチル-1,5-ペンタンジオールと炭素数3~5のジオール類との合計含有量は、特に限定されないが、6質量%以上18質量%以下が好ましく、8質量%以上16質量%以下がより好ましく、10質量%以上14質量%以下がさらに好ましい。
3-メチル-1,5-ペンタンジオールと炭素数3~5のジオール類との質量比(3-メチル-1,5-ペンタンジオール:炭素数3~5のジオール類)は、特に限定されないが、1:5~5:1が好ましく、1:3~3:1がより好ましい。
水性インクジェットインクは、水溶性有機溶剤成分(C)として、上記以外の水溶性有機溶剤を含んでいてもよい。上記以外の水溶性有機溶剤としては、水性インクジェットインクの水溶性有機溶剤として公知のものを特に制限なく用いることができる。
上記以外の水溶性有機溶剤の例としては、3-メチル-1,5-ペンタンジオールおよび炭素数3~5のジオール類以外のジオール類が挙げられ、その具体例としては、エチレングリコール(沸点:約196℃)、トリエチレングリコール(沸点:約287℃)、ジプロピレングリコール(沸点:約230℃)、2-メチル-2,4-ペンタンジオール(沸点:約198℃)、1,2-ヘキサンジオール(沸点:約224℃)、1,6-ヘキサンジオール(沸点:約250℃)、2-エチルー1,3-ヘキサンジオール(沸点:約243℃)等が挙げられる。
上記以外の水溶性有機溶剤の別の例としては、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル以外のグリコールモノエーテル類が挙げられ、その具体例としては、トリエチレングリコールモノブチルエーテル(沸点:約278℃)、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(沸点:約190℃)、プロピレングリコール-n-ブチルエーテル(沸点:約171℃)、プロピレングリコール-t-ブチルエーテル(沸点:約153℃)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(沸点:約230℃)、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(沸点:約202℃)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(沸点:約194℃)、エチレングリコール-n-プロピルエーテル(沸点:約150℃)、エチレングリコール-n-ブチルエーテル(沸点:約171℃)等のグリコールモノエーテル類などが挙げられる。
水性インクジェットインク中の水溶性有機溶剤成分(C)の含有量(すなわち、水溶性有機溶剤成分(C)に該当する成分の合計含有量)が少な過ぎると、乾燥性および転写フィルムに対する濡れ性が低下する傾向にあり、ビーディングの発生、ひび割れの発生等の画像品位の低下を招く。そのため、水性インクジェットインク中の水溶性有機溶剤成分(C)の含有量は、25質量%以上であり、27質量%以上が好ましく、30質量%以上がより好ましい。一方、水溶性有機溶剤成分(C)の含有量が多すぎると、インク粘度が上昇する傾向にある。そのため、水溶性有機溶剤成分(C)の含有量は、55質量%以下が好ましく、45質量%以下がより好ましく、40質量%以下がさらに好ましい。
〔界面活性剤(D)〕
界面活性剤(D)として、水性インクジェットインクに使用される公知の界面活性剤を使用してよい。界面活性剤(D)の例としては、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤等が挙げられ、なかでも、ノニオン性界面活性剤が好ましい。
ノニオン性界面活性剤の例としては、ソルビット系界面活性剤、アセチレングリコール系界面活性剤、ソルビタン系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル系界面活性剤、フッ素系界面活性剤等が挙げられる。なかでも、少量で静的表面張力を調整できることから、シリコーン系界面活性剤が好ましい。
シリコーン系界面活性剤は、市販品としても入手可能である。市販品の例としては、BYK-306、BYK-307、BYK-333、BYK-345、BYK-346、BYK-347、BYK-348、BYK-349(以上、ビックケミー・ジャパン社製)、KF-351A、KF-352A、KF-353、KF-354L、KF-355A、KF-615A、KF-945、KF-640、KF-642、KF-643、KF-6020、X-22-4515、KF-6011、KF-6012、(以上、信越化学工業社製)、シルフェイスSAG002、SAG005、SAG503A、SAG008(以上、日信化学工業社製)等が挙げられる。界面活性剤(D)としては、ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤が特に好ましい。
インクジェットインク中の界面活性剤(D)の含有量は、使用する界面活性剤の種類に応じて、インクの表面張力および界面張力が適正化されるように適宜決定すればよい。水性インクジェットインク中の界面活性剤(D)の含有量は、好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上である。一方、当該含有量は、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3.0質量%以下、さらに好ましくは2.5質量%以下である。
〔樹脂微粒子(E)〕
本発明に用いられる樹脂微粒子(E)は、印刷層を皮革に直接印刷可能な限り、特に限定されない。被転写体(特に、皮革)への接着性に優れる印刷層をフィルム基材上に形成可能なことから、樹脂微粒子(E)としては、ウレタン樹脂微粒子が好ましい。
ウレタン樹脂微粒子のガラス転移温度(Tg)は特に限定されないが、印刷層に高い屈曲性と、被転写体(特に、皮革)への特に高い接着性とを付与できることから、好ましくは0℃以下であり、好ましくは-5℃以下であり、より好ましくは-10以下であり、さらに好ましくは-15℃以下である。ウレタン樹脂のガラス転移温度の下限には特に制限はない。ウレタン樹脂のガラス転移温度は、好ましくは-65℃以上、より好ましくは-55℃以上、さらに好ましくは-45℃以上である。なお、ガラス転移温度は、公知方法に従い測定することができ、例えば、示差走査熱量計(DSC)等の熱分析装置を用いて測定することができる。
ウレタン樹脂の種類は、ガラス転移温度が上記の範囲内である限り特に制限はない。ウレタン樹脂として好ましくは、モノマーとして無黄変型ポリイソシアネート化合物とカーボネートポリオール化合物とを用いたウレタン樹脂(すなわち、無黄変型ポリイソシアネート化合物とカーボネートポリオール化合物との重合物)である。このようなウレタン樹脂の例としては、第一工業製薬社製のスーパーフレックス420、420NS、460、460S、470、650などが挙げられる。
樹脂微粒子(E)の体積平均粒径は、特に制限はないが、10~1000nmが好ましく、10~200nmがより好ましく、10~50nmがさらに好ましい。なお、体積平均粒径は、例えば、粒度分布測定装置を用いて求めることができる。
樹脂微粒子(E)の含有量が少な過ぎると、被転写体(特に、皮革)への接着性が低くなるおそれがある。そのため、水性インクジェットインク中の樹脂微粒子(E)の含有量は、固形分量(固形分濃度)として、2.5質量%以上であり、好ましくは3.0質量%以上、より好ましくは3.5質量%以上である。一方、水性インクジェットインク中の樹脂微粒子(E)の含有量には特に制限はないが、15質量%以下が好ましく、12質量%以下がより好ましい。
樹脂微粒子(E)に対する顔料(B)の質量比(顔料(B)/樹脂微粒子(E))は、特に限定されない。転写品位、耐屈曲性、および被転写体(特に、皮革)への接着性が特に高いことから、当該質量比(顔料(B)/樹脂微粒子(E))は、5以下が好まく、4以下がより好ましく、3以下がさらに好ましい。
本発明に係る水性インクジェットインクは、転写フィルムの印刷層形成用途に好適である。本発明に係る水性インクジェットインクを用いてインクジェット法により、フィルム基材上に、ビーディングおよびひび割れの発生を抑制しつつ、印刷層を形成して転写フィルムを作製することができる。すなわち、本発明に係る水性インクジェットインクによれば、フィルム基材上に優れた画像品位で印刷層を形成することができる。フィルム基材上に形成された印刷層は、接着剤層を介することなく、すなわち、直接、皮革等の被転写体に転写することができ、このときの転写品位にも優れている。転写フィルムの印刷層は、転写フィルムを巻き取った際に、裏移り等が起こり難く、よって耐ブロッキング性にも優れている。本発明に係る水性インクジェットインクは、インクジェットプリンタにおいて一定期間放置されても、プリンタのノズルに対してクリーニング操作を行うことなく、あるいは最低限のクリーニング操作を行うことによって、ノズル詰まりを起こさず吐出可能であり、よってメンテナンス性に優れている。
加えて、本発明によれば、フィルム基材上に形成された印刷層を、直接皮革等の被転写体に転写することができるため、接着剤層等によって皮革等の質感が損なわれることがない。また、転写フィルムに接着剤層を設ける必要がないため、本発明に係る水性インクジェットインクによれば、フィルム基材上に印刷層を形成するだけで転写フィルムを製造することができる。したがって、本発明に係る水性インクジェットインクによれば、転写フィルムの生産性にも優れている。また、転写フィルムの印刷層がインクジェット方式で形成されるため、製造された転写フィルムは、オンデマンドで皮革表面の一部を加飾するのに非常に適しており、皮革表面全面を加飾するのにも使用可能である。
そこで別の観点から、本発明は、上記の水性インクジェットインクにより形成された印刷層と、フィルム基材と、を有する、転写フィルムである。
フィルム基材としては、皮革等の転写印刷法で用いられている公知の転写用のフィルム基材を用いてよい。フィルム基材は、ベースフィルムのみからなる単層構造であってよく、ベースフィルム上にその他の層が形成された複層構造であってもよい。フィルム基材は、ベースフィルムと、剥離コート層とを有する複層構造であることが好ましい。
ベースフィルムの例としては、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム等のポリエステル系フィルム;ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンフィルム等のポリオレフィン系フィルム;ジアセチルセルロースフィルム、トリアセチルセルロースフィルム等のセルロース系フィルム;ポリウレタン系フィルム;ポリアミド系フィルム;ポリイミド系フィルム;ポリアクリレート系フィルム;ポリメタクリレート系フィルム;ポリカーボネート系フィルム等の樹脂フィルムが挙げられる。なかでも、転写品位に優れることから、ポリエステル系フィルムが好ましく、ポリエチレンテレフタレートフィルムがより好ましい。したがって、本発明に係る転写フィルムのフィルム基材は、ポリエステル系フィルムを含むことが好ましい。また、ベースフィルムとして、伸張可能なもの(特に、ポリオレフィン系フィルム、ポリウレタン系フィルムなど)も好適に用いることができる。したがって、有利には、フィルム基材は、ポリエステル系フィルム、ポリオレフィン系フィルム、またはポリウレタン系フィルムを含む。
剥離コート層は、公知の複層構造の転写フィルムが有する剥離コート層と同様であってよい。剥離コート層は、シリコーン層であっても、非シリコーン層であってもよい。
フィルム基材が複層構造を有する場合、ベースフィルムおよび剥離コート層以外の層を有していてもよい。その例としては、帯電防止処理層などが挙げられる。
転写フィルムは、上記の水性インクジェットインクにより形成された印刷層を有する。よって、当該印刷層は、上記の水性インクジェットインクの乾燥物の層である。当該印刷層は、転写フィルムと接触している。
本発明に係る転写フィルムにおいては、接着層は必須ではない。よって、本発明に係る転写フィルムは、典型的には、フィルム基材および印刷層のみを備える。しかしながら、本発明に係る転写フィルムは、印刷層を保護することを目的として剥離ライナー等をさらに有していてもよい。
本発明に係る転写フィルムは、公知のインクジェット記録装置を用いて、上記のフィルム基材上にインクジェット方式で上記の水性インクジェットインクを吐出し、吐出された水性インクジェットインクを乾燥することにより、作製することができる。
転写フィルムの製造方法の好適な一例について説明する。当該好適な製造方法の一例は、フィルム基材を予備加熱する工程(予備加熱工程)と、予備加熱したフィルム基材に上記の水性インクジェットインクを吐出する工程(吐出工程)と、吐出された水性インクジェットインクを乾燥して、印刷層を形成する工程(乾燥工程)と、を備える。
予備加熱工程は、例えば、プレヒータ付きのインクジェット記録装置を用いて、当該プレヒータによってフィルム基材を加熱することにより、行うことができる。あるいは、インクジェット記録装置とは独立したヒータによってフィルム基材を加熱することにより、行うことができる。この加熱は、フィルム基材が35℃以上45℃以下の温度になるよう行うことが好ましい。予備加熱工程を行うことにより、フィルム基材上に形成される画像の品位をより高くすることができる。
吐出工程は、公知方法に従い、インクジェット記録装置のインクジェットヘッドから、フィルム基材の表面に水性インクジェットインクを吐出することにより、行うことができる。
乾燥工程は、例えば、ヒータ、ホットプレート等の加熱装置を用いて、吐出された水性インクジェットインクを加熱することにより行うことができる。なお、水性インクジェットインクに含まれる溶剤が印刷層に残存すると、被転写体への転写のために転写フィルムを加熱した際に、残存した溶剤が揮発して転写品位が低くなるおそれがある。そこで、乾燥温度は、好ましくは60℃以上120℃以下であり、より好ましくは80℃以上100℃以下である。乾燥時間は、乾燥温度に応じて適宜設定すればよく、例えば5分以上60分以下である。
本発明に係る転写フィルムは、公知の方法に従い、転写法による加飾用途に用いることができる。特に、本発明に係る転写フィルムによれば、天然皮革、合成皮革、人工皮革、再生皮革等の皮革へ、転写フィルムの印刷層を、接着層を用いることなく直接転写することができる。そして、転写を行った際には、転写品位に優れている。よって、本発明の転写フィルムは、皮革印刷用途に好適である。さらに、本発明に係る転写フィルムは、皮革を含め、表面の比誘電率が2.8以上5.5以下である物品に対して、優れた転写品位で加飾を行うことができる。本発明に係る転写フィルムは、印刷層の耐ブロッキング性にも優れている。
そこで、本発明は別の観点から、上記の水性インクジェットインクにより形成された印刷層と、当該印刷層と接触する被転写体と、を備え、当該印刷層と接触する当該被転写体の面の比誘電率が2.8以上5.5以下である、印刷物である。
表面の比誘電率が2.8以上5.5以下である被転写体の素材としては、例えば、ウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂(ABS樹脂)、ポリカーボネート、天然皮革などが挙げられる。ここで、ウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂、およびアクリル樹脂は、合成皮革/人工皮革用途に用いられている。そのため、被転写体は、ウレタン樹脂製、塩化ビニル樹脂製、アクリル樹脂製、または天然皮革製であることが好ましい。あるいは、被転写体は、天然皮革製、合成皮革製、または人工皮革製であることが好ましい。なお、被転写体の表面の比誘電率は、例えば、ASTM D150の変成器ブリッジ法に準拠して、測定周波数1MHzの条件で測定することができる。
また、被転写体は、少なくとも印刷層が転写される表面が2.8以上5.5以下であれば十分である。そこで、本発明の一実施形態においては、被転写体が、比誘電率が2.8以上5.5以下のコーティングを有する。被転写体は、少なくとも印刷層が転写されている部分にコーティングを有していてよい。このようなコーティングにより、比誘電率が2.8以上5.5以下の範囲外の物品に対しても、上記の転写フィルムによる加飾を行うことができる。
当該コーティングの素材は、比誘電率が2.8以上5.5以下である限り特に制限はない。好ましくは、塩化ビニル樹脂、ウレタン樹脂、およびアクリル樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂のコーティングである。
本発明に係る印刷物では、被転写体と、印刷層とが直接接触している。すなわち本発明に係る印刷物では、被転写体と、印刷層とが、接着層を介することなく接触している。よって、通常、本発明に係る印刷物は、被転写体の表面に印刷層を単層として有している。このため、被転写体の質感が損なわれていないという利点を有する。加えて、転写された印刷層は、特に、皮革に対する接着性が高い。そのため、本発明に係る印刷物においては、被転写体が、皮革製であることが有利である。
本発明に係る印刷物は、上述の転写フィルムを用いて作製することができる。例えば、次のようにして作製することができる。まず、印刷物の比誘電率が2.8以上5.5以下である面上に、転写フィルムを配置し、加熱しながら加圧して、転写フィルムの印刷層を被転写体に転写する。必要に応じ、転写された印刷層に加熱および加圧を行い、印刷層を定着させる。
以上の方法は、被転写体の表面が平坦な場合に、特に好適である。一方、被転写体が立体物である場合には、次の方法が好適である。なお、本明細書において「被転写体が立体物である」とは、転写フィルムの印刷層の表面を平面とした場合に、印刷層が転写される被転写体の面の少なくとも一部が、印刷層の表面に対して傾斜した面、または曲面を有している場合を指す。立体物としては、典型的には、一部に曲面、凸部、凹部、傾斜面等を有する物品が挙げられる。
その好適な方法は、上記の転写フィルムを用意する工程と、上記の転写フィルムの印刷層を、被転写体と接触するように配置する工程と、当該転写フィルムの印刷層側の圧力を、当該転写フィルムのフィルム基材側の圧力よりも低くして、当該転写フィルムの印刷層を、当該被転写体に密着させる工程と、を備える、印刷物の製造方法である。よって、別の側面から、本発明に係る印刷物の製造方法は、印刷物のこの製造方法である。
転写フィルムを用意する工程は、例えば、上述した転写フィルムの製造方法の好適な具体例を実施することにより、行うことができる。また、他者が上述の転写フィルムを製造し、それを購入する等によって用意してもよい。
被転写体を密着させる工程では、圧力差を利用して、転写フィルムの印刷層を、被転写体を密着させる。圧力差を生じさせる方法としては、転写フィルムの印刷層側の圧力を1気圧未満に減圧する方法、およびフィルム基材側の圧力を1気圧超えに加圧する方法が挙げられる。実施が容易なことから、転写フィルムの印刷層側の圧力を1気圧未満に減圧する方法が好ましい。密着工程は、転写フィルムを加熱して行うことが好ましい。加熱温度は、転写フィルムのフィルム基材および被転写体の構成材料に応じて適宜決定すればよく、例えば、110℃以上160℃以下である。
被転写体を密着させる工程は、例えば、被着体の表面に加飾フィルムを密着させて成形する公知の真空成形機を用いて行うことができる。具体的に例えば、真空成形機は、上下方向に開閉可能な密閉チャンバと、チャンバ下部に設けられたテーブルと、ヒータとを備える。真空成形機のテーブルに被転写体を配置した後、チャンバ下部およびチャンバ上部を、転写フィルムを挟みながら閉じる。これにより、チャンバ下部と転写シートに囲まれた密閉空間と、チャンバ上部と転写シートに囲まれた密閉空間が形成される。次いで、ヒータにより転写シートを加熱する。転写フィルムの印刷層側の圧力を1気圧未満に減圧する場合は、チャンバ下部と転写シートに囲まれた密閉空間を減圧する。一方、フィルム基材側の圧力を1気圧超えに加圧する場合は、チャンバ上部と転写シートに囲まれた密閉空間を加圧する。チャンバ上部と転写シートに囲まれた密閉空間と、チャンバ下部と転写シートに囲まれた密閉空間との圧力差を利用して、転写フィルムの印刷層を、被転写体に密着させる。これにより、転写シートの接着層を、被転写体に転写することができる。
ここで、フィルム基材が伸長可能であることが好ましく、このとき、フィルム基材がポリオレフィン系フィルムまたはポリウレタン系フィルムを含むことが好ましい。フィルム基材が伸長可能である場合、転写フィルムの印刷層と、被転写体とを容易により密着させることができる。なお、本明細書において「伸張可能」とは、転写温度においてASTM D882に従い測定される引張伸度が150%以上であることをいう。この引張伸度は、200%以上であることが好ましく、300%以上であることがより好ましく、500%以上であることがさらに好ましい。
より確実に転写させるために、密着工程の後、さらに減圧または加圧と、加熱とを行って印刷層を被転写体に定着させる工程を行ってもよい。この時の加熱温度は、被転写体の材料に応じて適宜決定すればよく、例えば、110℃以上160℃以下である。
その後、転写フィルムのフィルム基材を、被転写体から剥離させることにより、転写された印刷層を備える印刷物を得ることができる。
この印刷物の製造方法によれば、加飾すべき表面に凹凸や曲面を有するような立体物に対しても、一度の転写で加飾を行うことができる。なお、この印刷物の製造方法は、被転写体が立体物である場合において非常に有利であるが、被転写体は、立体物でなくてもよい。よって、この印刷物の製造方法によれば、被転写体の形状および加飾位置に対する制限が少なく、転写フィルムを用いて容易に印刷を行うことができる。特に、この印刷物の製造方法によれば、転写フィルムの用意も含めて、少ない工程数で転写法による印刷が可能である。
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
<実施例1~9および比較例1~8>
〔転写フィルムの作製〕
表1~4に記載の各成分を、各表に示す質量割合で均一に混合して、各実施例および各比較例のインクジェットインクセットを得た。なお、各インクジェットインクセットは、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、ブラック(K)、ホワイト(Wh)インクとから構成されている。このインクジェットインクセットをローランドディー.ジー.社製のインクジェットプリンタ「VS-3000i」に搭載させた。このプリンタのプレヒータの温度を40℃に設定し、パナック社製の離型転写用ポリエステルフィルム「パナピールTP-3」上に印刷を行った(この工程を「印刷工程」と呼ぶ)。印刷後のポリエステルフィルムを100℃に設定したホットプレート上で10分間乾燥した後、巻き取って、ポリエステルフィルム上に印刷層を備える転写フィルムを得た。
〔転写法による印刷〕
得られた転写フィルムの印刷層が帝人社製人工皮革「コードレ」と接触するように、転写フィルムと人工皮革とを重ね合わせた。これを、アイロンを用いて120℃で1分間プレスすることにより、印刷層を人工皮革に転写した。さらに、転写された印刷層の上にシリコンペーパーを載せ、アイロンを用いて120℃で1分間プレスすることにより、印刷層を人工皮革に定着させた。このようにして、印刷層が転写された人工皮革を得た。
以上の各実施例および各比較例について、下記の方法で、印刷層におけるビーディングの有無とひび割れの有無、水性インクジェットインクのメンテナンス性、印刷層の耐ブロッキング性と転写品位を評価した。
〔ビーディングの有無〕
印刷工程において転写フィルムに印刷する画像を、フルベタ画像とした。得られた転写フィルムの印刷層の画像におけるビーディングの有無を、下記の基準で評価した。結果を表に示す。
〇:画像にビーディングが見られない
△:画像の一部に濃淡が発生している
×:画像に顕著にビーディングが発生している
〔ひび割れの有無〕
印刷工程において転写フィルムに印刷する画像を、フルベタ画像とした。得られた転写フィルムの印刷層の画像におけるひび割れの有無を、下記の基準で評価した。結果を表に示す。
〇:画像にひび割れが見られない
△:画像のわずかな部分にひび割れが発生している
×:画像全体にひび割れが発生している
〔メンテナンス性〕
各実施例および各比較例のインクジェットインクセットを搭載した上記のプリンタを、電源をオフにした状態で1週間放置した。その後、上記と同様にして印刷を行い、ノズルからのインク吐出状態を調べた。さらに、ノズルのマニュアルクリーニングを行い、上記と同様にして印刷を行い、ノズルからのインク吐出状態を調べ、下記の基準で評価した。結果を表に示す。
〇:ノズルからインクの不吐出が見られない
△:インクの不吐出が見られるが、マニュアルクリーニングによってインクの不吐出の発生がなくなる
×:インクの不吐出が見られ、マニュアルクリーニングを行ってもインクの不吐出が発生する
〔耐ブロッキング性〕
転写フィルムの作製条件において、印刷後のポリエステルフィルムの100℃に設定したホットプレート上での乾燥時間を5分間に変更し、いったん巻き取った後、転写フィルムを巻き出して、ブロッキングの有無を下記の基準で評価した。結果を表に示す。
〇:ブロッキングが発生していない
×:印刷層の裏移りが見られ、ブロッキングが発生している
〔転写品位〕
転写工程において、印刷層がポリエステルフィルムから人工皮革に転写される状態について観察し、転写品位を以下の基準で評価した。結果を表に示す。
〇:印刷層全体がポリエステルフィルムから人工皮革に転写されている
×:印刷層の一部がポリエステルフィルムに残り、転写された印刷層に欠けが発生している
Figure 2022190957000001
Figure 2022190957000002
Figure 2022190957000003
Figure 2022190957000004
(各表中の各成分についての数値は、質量割合を示す。)
CAB-O-JET260C(キャボット社製):シアン系自己分散顔料(固形分10質量%の水性エマルジョン)
CAB-O-JET260M(キャボット社製):マゼンタ系自己分散顔料(固形分10質量%の水性エマルジョン)
CAB-O-JET270(キャボット社製):イエロー系自己分散顔料(固形分10質量%の水性エマルジョン)
CAB-O-JET300(キャボット社製):ブラック系自己分散顔料(固形分15質量%の水性エマルジョン)
WD-0024(テイカ社製):酸化チタン(固形分45%の水性エマルジョン)
SAG503A(日信化学工業社製):シリコーン系界面活性剤「シルフェイスSAG503A」
スーパーフレックス460(第一工業製薬社製):ウレタン樹脂の水性エマルジョン(樹脂Tg:-21℃、固形分38質量%)
ST053D(宇部興産社製):ウレタン樹脂の水性エマルジョン(固形分30質量%:ウレタン樹脂のTg=-20℃以下)
表1~4に示されるように、本発明の範囲内の実施例1~9の水性インクジェットインクセットを用いることにより、ビーディングおよびひび割れを抑制しつつ、高い転写品位で皮革に転写可能な印刷層を形成することができた。得られた転写フィルムの印刷層は、耐ブロッキング性に優れていた。また、本発明の範囲内の実施例1~9の水性インクジェットインクセットは、耐メンテナンス性に優れていた。
本発明は、皮革を含む、表面の比誘電率が2.8以上5.5以下である物品の加飾に非常に有用である。

Claims (14)

  1. 少なくとも水(A)、顔料(B)、水溶性有機溶剤成分(C)、界面活性剤(D)、および樹脂微粒子(E)を含有する水性インクジェットインクであって、
    前記インクは、水溶性有機溶剤成分(C)として、
    12質量%以上20質量%以下の3-メトキシ-1-ブタノールと、
    1質量%以上8質量%以下のトリプロピレングリコールモノメチルエーテルと、
    3-メチル-1,5-ペンタンジオールと、
    炭素数3~5のジオール類と、
    を含有し、
    前記インク中の水溶性有機溶剤成分(C)の含有量が、25質量%以上である、
    水性インクジェットインク。
  2. 前記インク中の3-メチル-1,5-ペンタンジオールの含有量が、2質量%以上10質量%以下であり、
    前記インク中の前記炭素数3~5のジオール類の含有量が、2質量%以上10質量%以下である、請求項1に記載の水性インクジェットインク。
  3. 前記樹脂微粒子(E)が、ウレタン樹脂微粒子である、請求項1または2に記載の水性インクジェットインク。
  4. 転写フィルムの印刷層形成用である、請求項1~3のいずれか1項に記載の水性インクジェットインク。
  5. 請求項1~4のいずれか1項に記載の水性インクジェットインクにより形成された印刷層と、
    フィルム基材と、を有する、転写フィルム。
  6. 前記フィルム基材が、ポリエステル系フィルム、ポリオレフィン系フィルム、またはポリウレタン系フィルムを含む、請求項5に記載の転写フィルム。
  7. 請求項1~4のいずれか1項に記載の水性インクジェットインクにより形成された印刷層と、
    前記印刷層と接触する被転写体とを、備え、
    前記印刷層と接触する、前記被転写体の面の比誘電率が2.8以上5.5以下である、印刷物。
  8. 前記被転写体が、ウレタン樹脂製、塩化ビニル樹脂製、アクリル樹脂製、または天然皮革製である、請求項7に記載の印刷物。
  9. 前記被転写体の面が、比誘電率が2.8以上5.5以下のコーティングを有する、請求項7に記載の印刷物。
  10. 前記コーティングが、塩化ビニル樹脂、ウレタン樹脂、およびアクリル樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂のコーティングである、請求項9に記載の印刷物。
  11. 請求項5または6に記載の転写フィルムを用意する工程と、
    前記転写フィルムの印刷層を、被転写体と接触するように配置する工程と、
    前記転写フィルムの印刷層側の圧力を、前記転写フィルムのフィルム基材側の圧力よりも低くして、前記転写フィルムの印刷層を、前記被転写体に密着させる工程と、
    を備える、印刷物の製造方法。
  12. 前記被転写体を密着させる工程において、前記転写フィルムの印刷層側の圧力を1気圧未満に減圧する、または前記転写フィルムのフィルム基材側の圧力を1気圧超えに加圧する、請求項11に記載の製造方法。
  13. 前記被転写物が、立体物である請求項11または12に記載の製造方法。
  14. 前記フィルム基材が、ポリオレフィン系フィルムまたはポリウレタン系フィルムを含み、伸長可能である、請求項11~13のいずれか1項に記載の製造方法。
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