JP2022187990A - 新規抗肥満・抗糖尿病プロバイオティクス - Google Patents
新規抗肥満・抗糖尿病プロバイオティクス Download PDFInfo
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Abstract
【課題】本発明は、新規抗肥満・抗糖尿病プロバイオティクスの提供を目的とする。【解決手段】2型糖尿病もしくは肥満の予防および/または治療のための、アリスティペス属細菌を含む組成物。または、2型糖尿病または肥満の検出のための、ドレア属細菌または該細菌のゲノムDNAの一部を含む組成物。【選択図】なし
Description
新規性喪失の例外適用申請有り
本発明は、新規抗肥満・抗糖尿病プロバイオティクスに関する。より詳細には、本発明は、2型糖尿病もしくは肥満の予防および/または治療のための、アリスティペス属細菌を含む組成物、または、2型糖尿病または肥満の検出のための、ドレア属細菌または該細菌のゲノムDNAの一部を含む組成物に関する。
インスリン抵抗性(IR)は、メタボリックシンドローム(MetS)および2型糖尿病(T2D)の主要な病態生理である。IRは、長期にわたる慢性的な軽度の炎症と栄養過剰による酸化ストレスに起因し、IR自体がアテローム性動脈硬化症(ASCVD)などの重大な合併症の危険因子であることが、多くの研究より明らかとなっている。一方、腸内微生物叢がヒトとマウスの肥満とIRの病理に関与していることが示唆されている(非特許文献1)。特に、近年の次世代シークエンシング技術の進歩によって、ショットガンメタゲノムシークエンシングが実現可能となり、集団における、培養不可能な菌株を含む腸内微生物との関連への理解が進められている(非特許文献2)。
2型糖尿病・肥満者における腸管内糖代謝に関与する細菌を同定し制御することで、食事由来の代謝物産生量を調整し、結果として宿主に吸収される栄養素を抑制することが可能であると考えられ、肥満などの代謝異常と関連があるヒト腸内細菌として、ドレア属、ヒト腸内細菌の優勢菌であるアリスティペス属がヒト腸内代謝状態と関連していることが報告されている(非特許文献3)。しかしながら、現在までに報告されているプロバイオティクスは2型糖尿病や肥満などの代謝疾患に対して効果が限定的であることがメタアナリシスで報告されている(非特許文献4)。その一因として、ヒト腸内細菌の代謝が宿主の疾患にどのような影響を与えるか、その機序が示されていない点が課題である。
J. Qin et al., A metagenome-wide association study of gut microbiota in type 2 diabetes. Nature. 490, 55-60 (2012).
L. B. Thingholm et al., Obese Individuals with and without Type 2 Diabetes Show Different Gut Microbial Functional Capacity and Composition. Cell Host Microbe. 26, 252-264.e10 (2019).
B. D. Piening, et al., Integrative Personal Omics Profiles during Periods of Weight Gain and Loss. Cell Syst. 6, 157-170.e8 (2018).
Tao YW et al., Effects of probiotics on type II diabetes mellitus: a meta-analysis. J Transl Med. 2020 Jan 17;18(1):30.
近年、主要栄養素、すなわちアミノ酸、脂肪、炭水化物の代謝における腸内微生物の役割が強調されており、これらは、糖尿病、肥満、心臓代謝性疾患の病態生理に影響を与える可能性がある。たとえば、アミノ酸とその誘導体、特に分岐鎖アミノ酸(BCAA)は、ヒトのIRと内臓脂肪症を悪化させることが示され、いくつかの報告は、これが腸内微生物に部分的に由来することが示唆されている。同様に、マウスとヒトでASCVDを促進する脂質代謝産物であるトリメチルアミンの産生は、腸内微生物酵素によって媒介される。これらの研究は、宿主の病態生理における腸内微生物由来代謝物の重要性を示すものである。共生生物の炭水化物代謝は、宿主の総エネルギー量の最大10%に寄与することが示唆されており、肥満および糖尿病の病因に関係する。しかし、メタゲノムまたは小規模のメタボローム研究に限定された証拠しかないため、メカニズムの関連性は不明であった。微生物由来の代謝物は、人間の病理に影響を与える直接的かつ重要な要因であることを考えると、マルチプラットフォームのメタボロミクス技術を、ホスト由来のサンプル、例えば血漿サンプルだけでなく、糞便サンプルにも適用するべきであり、それがメタゲノム情報を補完する可能性がある。本発明の課題は、網羅的代謝物解析を含むオミクス解析を行うヒトサンプルの大規模試験により代謝性疾患と微生物の炭水化物代謝物に関与する新しい宿主-微生物の相互作用を明らかにし、新規抗肥満・抗糖尿病プロバイオティクスを提供することである。
本発明者らは、IRにおける腸内微生物叢の役割を広範囲かつ包括的に調べるため、メタボロミクス、メタゲノミクス、トランスクリプトミクスを統合したマルチオミクスプラットフォームを、健康で新たに糖尿病予備軍と診断された個人のコホートに適用するヒトサンプルの大規模試験を行った。具体的には、ヒト代謝疾患に関与する腸内細菌と、該腸内細菌が産生する代謝物の候補を同定した。健常者、肥満者、前糖尿病者(糖尿病予備軍)を含む306名の血漿・糞便サンプルを収集し、腸内細菌および代謝物を網羅的に解析した。該解析手法を用いて研究を進める中で、発明者らは、ヒトサンプルを用いた解析により、腸管内糖代謝がインスリン抵抗性やメタボリック症候群など、2型糖尿病・肥満の基礎となる病態に関与することを示し、同代謝に関与する細菌としてドレア属(Drea)、アリスティペス属(Alistipes)、バクテロイデス属(Bacteroides)を同定した。更に、インスリン抵抗性の被験者で減少していたアリスティペス属の細菌を高脂肪食給餌マウスに投与すると、インスリン抵抗性を改善させることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は以下の通りである。
[1] 2型糖尿病もしくは肥満の予防および/または治療のための、アリスティペス属及び/又はバクテロイデス属細菌を含む組成物。
[2] 前記アリスティペス属細菌が、アリスティペス・インディスティンクタス(Alistipes indistinctus)またはアリスティペス・ファインゴルディ(Alistipes finegoldii)である、[1]に記載の組成物。
[3]前記バクテロイデス属細菌が、バクテロイデス・シータイオタオミクロン(Bacteroides thetaiotaomicron)である、[1]に記載の組成物。
[4] 前記組成物が、経口投与可能である、[1]、[2]又は[3]に記載の組成物。
[5] 前記組成物が、食品または補助食品である、[3]に記載の組成物。
[6] 2型糖尿病または肥満の検出のための、ドレア属細菌または該細菌のゲノムDNAの一部を含む組成物。
[7] 前記細菌が、以下の工程:
(i)健常者および対象者の糞便を含むサンプルを収集する工程、
(ii)工程(i)で収集したサンプルについて、腸内細菌叢および細菌代謝物をプロファイリングして相関解析を行う工程、
(iii)工程(ii)の相関解析の結果、有意差を示した細菌を宿主に効果を示す細菌と決定する工程
を含むヒトサンプルの大規模試験によって同定された細菌である、[1]~[5]のいずれかに記載の組成物。
[8] 前記ヒト大規模試験が、さらに(iv)血漿を含む検体を収集して血漿代謝物との相関解析を行い、有意差を示した細菌を宿主に効果を示す細菌と決定する工程
を含む、[7]に記載の組成物。
[9] 前記対象者が、肥満者および/または耐糖能異常者である、[7]または[8]に記載の組成物。
[10] 前記細菌代謝物が、炭水化物代謝物である、[7]~[9]のいずれかに記載の組成物。
[1] 2型糖尿病もしくは肥満の予防および/または治療のための、アリスティペス属及び/又はバクテロイデス属細菌を含む組成物。
[2] 前記アリスティペス属細菌が、アリスティペス・インディスティンクタス(Alistipes indistinctus)またはアリスティペス・ファインゴルディ(Alistipes finegoldii)である、[1]に記載の組成物。
[3]前記バクテロイデス属細菌が、バクテロイデス・シータイオタオミクロン(Bacteroides thetaiotaomicron)である、[1]に記載の組成物。
[4] 前記組成物が、経口投与可能である、[1]、[2]又は[3]に記載の組成物。
[5] 前記組成物が、食品または補助食品である、[3]に記載の組成物。
[6] 2型糖尿病または肥満の検出のための、ドレア属細菌または該細菌のゲノムDNAの一部を含む組成物。
[7] 前記細菌が、以下の工程:
(i)健常者および対象者の糞便を含むサンプルを収集する工程、
(ii)工程(i)で収集したサンプルについて、腸内細菌叢および細菌代謝物をプロファイリングして相関解析を行う工程、
(iii)工程(ii)の相関解析の結果、有意差を示した細菌を宿主に効果を示す細菌と決定する工程
を含むヒトサンプルの大規模試験によって同定された細菌である、[1]~[5]のいずれかに記載の組成物。
[8] 前記ヒト大規模試験が、さらに(iv)血漿を含む検体を収集して血漿代謝物との相関解析を行い、有意差を示した細菌を宿主に効果を示す細菌と決定する工程
を含む、[7]に記載の組成物。
[9] 前記対象者が、肥満者および/または耐糖能異常者である、[7]または[8]に記載の組成物。
[10] 前記細菌代謝物が、炭水化物代謝物である、[7]~[9]のいずれかに記載の組成物。
本発明によれば、新規抗肥満・抗糖尿病プロバイオティクスが提供される。一態様において、2型糖尿病もしくは肥満の予防および/または治療のための、アリスティペス属細菌を含む組成物を提供する。本発明は従来技術と異なり、ヒトサンプルの大規模試験から同定された細菌であること、ヒト腸内での代謝に準拠した細菌であることから、過去のプロバイオティクスとは異なり、より代謝異常の発症・増悪メカニズムに基づいた新しい治療・予防戦略を提供することを可能とする。
1.アリスティペス属細菌
本発明は、2型糖尿病もしくは肥満の予防および/または治療のための、アリスティペス属細菌を含む組成物(以下、「本発明のアリスティペス属細菌組成物」ともいう。)を提供する。
本発明は、2型糖尿病もしくは肥満の予防および/または治療のための、アリスティペス属細菌を含む組成物(以下、「本発明のアリスティペス属細菌組成物」ともいう。)を提供する。
アリスティペス属細菌は、主に医療の臨床サンプルから分離された比較的新しい属の細菌であり、以前はバクテロイデス属に分類されていた。人間の腸の微生物叢から分離されているが、この属のさまざまな種が虫垂炎、腹部および直腸の膿瘍を患う患者から分離されている。また、アリスティペス属細菌が肝線維症、大腸炎、心血管疾患などのいくつかの疾患に対して保護効果を有する可能性があることを示す研究報告もある。例えば、以下に示す種が存在するが、これらに限定されない:アリスティペス・ファインゴルディ(Alistipes finegoldii)、アリスティペス・インディスティンクタス(Alistipes indistinctus)、アリスティペス・オンデルドンキイ(Alistipes onderdonkii)、アリスティペス・ピュトレディニス(Alistipes putredinis)、アリスティペス・セネガレンシス(Alistipes senegalensis)、アリスティペス・シャヒイ(Alistipes shahii)。好ましくは、アリスティペス・ファインゴルディ、アリスティペス・インディスティンクタスであり、より好ましくは、アリスティペス・インディスティンクタスである。
2型糖尿病は、血液中のブドウ糖(血糖)が正常より多くなる疾患であり、血糖値を高いまま放置すると、徐々に全身の血管や神経が障害され、種々の合併症を引き起こす。2型糖尿病は体質(遺伝)や高カロリー食、高脂肪食、運動不足などが原因と考えられ、その結果、インスリン分泌量やインスリン感受性(IS)が低下し、インスリンの作用不足が生じる。糖分を含む食べ物は唾液や消化酵素でブドウ糖に分解され、小腸から血液中に吸収される。食事によって血液中のブドウ糖が増えると、膵臓からインスリンが分泌され、ブドウ糖が筋肉などに送り込まれエネルギーとして利用されるが、「インスリンの作用不足」が起こると、血液中のブドウ糖を適切に処理することができなくなり、血糖値の高い状態が続くようになる。「インスリンの作用不足」には2つの原因があり、1つは、膵臓の働きが弱くなりインスリンの分泌量が低下するため(インスリン分泌低下)、もう1つは肝臓や筋肉などの組織がインスリンの働きに対して鈍感になり、インスリンがある程度分泌されているのに効きにくくなる(インスリン抵抗性)ことが原因である。
前糖尿病状態(prediabetes)とは、空腹時もしくは食後の血糖値が正常値と異常値(糖尿病と判断される値)の間にある状態をいう。放置すると糖尿病になる確率が高まる。糖尿病予備軍、境界型糖尿病ともいわれる。前糖尿病状態は体内のインスリンの分泌量が少ない場合や、インスリンの働きが悪くなり血中の糖の量が増加した場合(高血糖状態の場合)に起こる。例えば、空腹時の血糖値が110~125mg/dl、もしくは経口ブドウ糖負荷試験を実施後2時間経過した後の血糖値が140~199mg/dlの場合に診断される。
肥満とは、体重が多いだけではなく、体脂肪が過剰に蓄積した状態を言う。肥満は、糖尿病や脂質異常症・高血圧症・心血管疾患などの生活習慣病をはじめとして数多くの疾患の原因となるため、健康づくりにおいて肥満の予防・対策は重要な位置づけを持つ。肥満度の判定には、国際的な標準指標であるBMI(Body Mass Index)=[体重(kg)]÷[身長(m)2]が用いられる。男女とも標準とされるBMIは22.0であり、「脂肪組織に脂肪が過剰に蓄積した状態で、体格指数(BMI)25以上のもの」が肥満と定義される。
「2型糖尿病もしくは肥満が食餌により誘導される」とは、本明細書において、脂肪(特に飽和脂肪)や状況に応じて炭水化物の過剰な食物性摂取により生じたインスリン抵抗性および体重増加として定義する。所与の対象者について、過剰な食物性摂取、特に脂肪及び状況に応じて炭水化物の過剰な食物性摂取とは、当該対象者の生理学的要求を満たしエネルギーバランスを維持するに必要な量より多い量の食物(diet)、特に脂肪及び状況に応じて炭水化物の消費をいう。対象者における食物誘因性インスリン抵抗性または体重増加の低減(又は予防)に対する処置の効果は、当該処置を受けた対象者で観察されたインスリン抵抗性および体重増加と、当該処置を受けていないが、同じ食物を与えられ身体的活動が同レベルである同じ対象者で観察されたインスリン抵抗性または体重増加とを比較することによって評価することができる。
本明細書において、「インスリン抵抗性を改善する」とは、対象者において上記のような所与の食物により誘導されるインスリン抵抗性のレベルを、アリスティペス属細菌を含む組成物を投与していない対象において該食物により誘導されるインスリン抵抗性のレベルと比較して、回復又は減少させることを意味する。対象におけるインスリン抵抗性を評価する試験は、当該分野において公知である(例えば、Ferrannini E, Mari A. How to measure insulin sensitivity. J Hypertens. 1998 Jul;16(7):895-906.を参照)。対象におけるインスリン抵抗性のレベルは、当該分野において公知の任意のインスリン抵抗性指標 (例えば、インスリン抵抗性の恒常性モデル評価;HOMA-IR)を用いて簡便に推定することができる。
本発明はまた、対象において、食物誘因インスリン抵抗性または体重増加に起因する病状の治療、予防又は緩和に使用する、アリスティペス属細菌を含む組成物を包含する。食物誘因インスリン抵抗性または食物誘因体重増加に由来する病状の例は、過体重、肥満、及び関連する疾患(例えば、2型糖尿病、耐糖能異常症(糖尿病予備軍ともいう)、非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)、高血圧、アテローム性動脈硬化症(ASCVD))である。
本発明の1つの態様は、アリスティペス属細菌を含む組成物を、対象において食物誘因体重増加を減少させ、食物誘因インスリン抵抗性を改善し、状況に応じて炎症を緩和する組成物として使用すること、または対象を処置するために本発明の組成物を使用することである。本発明の別の態様は、アリスティペス属細菌またはその代謝産物を、腸内産生物、例えば、糞便中に検出することによって、対象が2型糖尿病または肥満であることを予測する診断マーカーとしてアリスティペス属細菌を含む組成物を使用することである。アリスティペス属細菌またはその代謝産物を腸内産生物中に検出することには、定性的に、検出できるか、または、検出できないか、をいうことがある。あるいは、アリスティペス属細菌またはその代謝産物を腸内産生物中に検出することには、定量的に、他の健常者、肥満者および/もしくは耐糖能異常者と比較した存在量、検出頻度または検出量もしくは検出濃度の相対値もしくは絶対値を決定することを含む。アリスティペス属細菌またはその代謝産物を腸内産生物中に検出することによって、食物誘因インスリン抵抗性または食物誘因体重増加に由来する病状を診断することも本発明に含む。さらに本発明のさらに別の態様は、アリスティペス属細菌またはその代謝産物を、腸内産生物、例えば、糞便中に検出したうえで、アリスティペス属細菌またはその代謝産物が健常者より不足しているときには投与して補う等によって、腸内におけるアリスティペス属細菌またはその代謝産物を定性的または定量的に制御するために使用することをいう。
本発明の1つの態様は、アリスティペス属細菌を含む組成物を、対象において食物誘因体重増加を減少させ、食物誘因インスリン抵抗性を改善し、状況に応じて炎症を緩和する組成物として使用すること、または対象を処置するために本発明の組成物を使用することである。本発明の別の態様は、アリスティペス属細菌またはその代謝産物を、腸内産生物、例えば、糞便中に検出することによって、対象が2型糖尿病または肥満であることを予測する診断マーカーとしてアリスティペス属細菌を含む組成物を使用することである。アリスティペス属細菌またはその代謝産物を腸内産生物中に検出することには、定性的に、検出できるか、または、検出できないか、をいうことがある。あるいは、アリスティペス属細菌またはその代謝産物を腸内産生物中に検出することには、定量的に、他の健常者、肥満者および/もしくは耐糖能異常者と比較した存在量、検出頻度または検出量もしくは検出濃度の相対値もしくは絶対値を決定することを含む。アリスティペス属細菌またはその代謝産物を腸内産生物中に検出することによって、食物誘因インスリン抵抗性または食物誘因体重増加に由来する病状を診断することも本発明に含む。さらに本発明のさらに別の態様は、アリスティペス属細菌またはその代謝産物を、腸内産生物、例えば、糞便中に検出したうえで、アリスティペス属細菌またはその代謝産物が健常者より不足しているときには投与して補う等によって、腸内におけるアリスティペス属細菌またはその代謝産物を定性的または定量的に制御するために使用することをいう。
用語「処置」または「処置する」は、本明細書中で互換性をもって用いられ、これらの用語は、有益な結果または目的とする結果を得るための方法を表わすことができる。これには治療上の有益性および/または予防上の有益性が含まれるが、これらに限定されない。治療上の有益性は治療される原障害の根絶または改善を意味することができる。同様に、治療上の有益性は、対象がなお原障害に罹患している可能性があるにもかかわらず、対象において改善がみられるように原障害に関連する1以上の生理的症状を根絶または改善することにより達成できる。予防効果は、疾患または状態の出現を遅延、阻止または排除すること、疾患または状態の症状の発症を遅延または排除すること、疾患または状態の進行を遅延、停止または反転させること、あるいはそのいずれかの組み合わせを含んでもよい。予防効果を得るために、特定の疾患を発症するリスクをもつ対象、またはある疾患の1以上の生理的症状を報告している対象は、この疾患の診断がなされていないとしても処置を受けることができる。
本発明の組成物は、投与、特に経口投与に適切な任意の形態であることができる。この形態には、例えば、固体、半固体、液体及び粉体が含まれる。本発明の組成物において、好ましくは、この菌株は生菌または凍結乾燥製剤である。
アリスティペス属細菌が生菌であるとき、組成物は、乾燥重量1gあたり、代表的には105~1013コロニー形成単位(cfu)、好ましくは少なくとも106cfu、より好ましくは少なくとも107cfu、更により好ましくは少なくとも108cfu、最も好ましくは少なくとも109cfuを含んでもよい。液体組成物の場合、一般には104~1012コロニー形成単位(cfu)、好ましくは少なくとも105cfu、より好ましくは少なくとも106cfu、更により好ましくは少なくとも107cfu、最も好ましくは少なくとも109cfu/mLに相当する。アリスティペス属細菌が生菌でないとき、組成物は、乾燥重量1gあたり、代表的には105~1013コロニー形成単位(cfu)の生菌に相当するアリスティペス属細菌DNAを含むことがある。
本発明の組成物は、単独で使用してもよいし、他の腸内細菌、例えば乳酸菌との組み合わせで使用してもよい。
本発明の組成物には、医薬、食品、補助食品および機能性食品として流通され使用される組成物が含まれる。「補助食品」とは、食料品に通常使用される化合物から作製され、錠剤、粉体、カプセル、頓服水剤その他の通常は食物と関係付けられない任意の形態であり、健康に有益な効果を有する製品をいう。「機能性食品」は、健康に有益な効果を有する食物である。特に、補助食品及び機能性食品は、疾患、例えば慢性疾患に対して、生理学的効果、保護的または治療的効果を有することがある。
用語「投与」は、「経口投与」、すなわち対象が本発明に従う菌株若しくは該菌株を含む組成物を経口摂取することを意味するか、又は「直接投与」、すなわち本発明に従う菌株若しくは該菌株を含む組成物をインサイチュに、特に大腸鏡検査により、若しくは坐剤を介して直腸に、直接投与することを意味するものとする。好ましくは、経口投与である。本発明の組成物は、ゼラチンカプセル、カプセル、錠剤、粉剤、顆粒若しくは経口溶液又は坐剤の形態であってもよい。投与は、単回投与または複数回投与のいずれであってもよい。複数回投与の場合には、1日に1回または2~5回の投与を、毎日か、2、3、4、5または6日ごとか、1、2、3、4、5、6、7または8週間ごとかに投与することがある。治療有効量の決定は、本明細書で提供した詳細な開示を考慮すれば特に、当業者に十分に理解される。
2.バクテロイデス属細菌
本発明は、2型糖尿病もしくは肥満の予防および/または治療のための、バクテロイデス属細菌を含む組成物(以下、「本発明のバクテロイデス属細菌組成物」ともいう。)を提供する。
本発明は、2型糖尿病もしくは肥満の予防および/または治療のための、バクテロイデス属細菌を含む組成物(以下、「本発明のバクテロイデス属細菌組成物」ともいう。)を提供する。
バクテロイデス属細菌は、細胞膜にスフィンゴ脂質が含まれているという特徴があり、口腔内から腸内細菌叢を構成する細菌の優勢菌のひとつで大量に存在する。バクテロイデス属菌は腸管免疫系に対して免疫修飾作用を有する。例えば、以下に示す種が存在するが、これらに限定されない:バクテロイデス・シータイオタオミクロン(Bacteroides thetaiotaomicron)、バクテロイデス・キシラニソルベンス(Bacteroides xylanisolvens)、バクテロイデス・オバータス(Bacteroides ovatus)、バクテロイデス・カカエ(Bacteroides caccae)。好ましくは、バクテロイデス・シータイオタオミクロンである。
本発明はまた、対象において、食物誘因インスリン抵抗性または体重増加に起因する病状の治療、予防又は緩和に使用する、バクテロイデス属細菌を含む組成物を包含する。食物誘因インスリン抵抗性または食物誘因体重増加に由来する病状の例は、過体重、肥満、及び関連する疾患(例えば、2型糖尿病、耐糖能異常症(糖尿病予備軍ともいう)、非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)、高血圧、アテローム性動脈硬化症(ASCVD))である。本発明のバクテロイデス属細菌を含む組成物は、本発明のアリスティペス属細菌を含む組成物と併用することがある。
本発明の1つの態様は、バクテロイデス属細菌を含む組成物を、対象において食物誘因体重増加を減少させ、食物誘因インスリン抵抗性を改善し、状況に応じて炎症を緩和する組成物として使用すること、または対象を処置するために本発明の組成物を使用することである。本発明のバクテロイデス属細菌を含む組成物は、本発明のアリスティペス属細菌を含む組成物と併用することがある。本発明の別の態様は、バクテロイデス属細菌またはその代謝産物を、腸内産生物、例えば、糞便中に検出することによって、対象が2型糖尿病または肥満であることを予測する診断マーカーとしてバクテロイデス属細菌を含む組成物を使用することである。バクテロイデス属細菌またはその代謝産物を腸内産生物中に検出することには、定性的に、検出できるか、または、検出できないか、を決定することを含む。あるいは、バクテロイデス属細菌またはその代謝産物を腸内産生物中に検出することには、定量的に、他の健常者、肥満者および/もしくは耐糖能異常者と比較した存在量、検出頻度または検出量もしくは検出濃度の相対値もしくは絶対値を決定することを含む。バクテロイデス属細菌またはその代謝産物を腸内産生物中に検出することによって、食物誘因インスリン抵抗性または食物誘因体重増加に由来する病状を診断することも本発明に含む。さらに本発明のさらに別の態様は、バクテロイデス属細菌またはその代謝産物を、腸内産生物、例えば、糞便中に検出したうえで、バクテロイデス属細菌またはその代謝産物が健常者より不足しているときには投与して補う等によって、腸内におけるバクテロイデス属細菌またはその代謝産物を定性的または定量的に制御するために使用することをいう。
本発明の1つの態様は、バクテロイデス属細菌を含む組成物を、対象において食物誘因体重増加を減少させ、食物誘因インスリン抵抗性を改善し、状況に応じて炎症を緩和する組成物として使用すること、または対象を処置するために本発明の組成物を使用することである。本発明のバクテロイデス属細菌を含む組成物は、本発明のアリスティペス属細菌を含む組成物と併用することがある。本発明の別の態様は、バクテロイデス属細菌またはその代謝産物を、腸内産生物、例えば、糞便中に検出することによって、対象が2型糖尿病または肥満であることを予測する診断マーカーとしてバクテロイデス属細菌を含む組成物を使用することである。バクテロイデス属細菌またはその代謝産物を腸内産生物中に検出することには、定性的に、検出できるか、または、検出できないか、を決定することを含む。あるいは、バクテロイデス属細菌またはその代謝産物を腸内産生物中に検出することには、定量的に、他の健常者、肥満者および/もしくは耐糖能異常者と比較した存在量、検出頻度または検出量もしくは検出濃度の相対値もしくは絶対値を決定することを含む。バクテロイデス属細菌またはその代謝産物を腸内産生物中に検出することによって、食物誘因インスリン抵抗性または食物誘因体重増加に由来する病状を診断することも本発明に含む。さらに本発明のさらに別の態様は、バクテロイデス属細菌またはその代謝産物を、腸内産生物、例えば、糞便中に検出したうえで、バクテロイデス属細菌またはその代謝産物が健常者より不足しているときには投与して補う等によって、腸内におけるバクテロイデス属細菌またはその代謝産物を定性的または定量的に制御するために使用することをいう。
3.ドレア属細菌
本発明は、2型糖尿病または肥満の予防のための、ドレア属細菌または該細菌のゲノムDNAの一部を含む組成物を提供する。
本発明は、2型糖尿病または肥満の予防のための、ドレア属細菌または該細菌のゲノムDNAの一部を含む組成物を提供する。
ドレア属細菌は、腸内細菌の一種であり、一般には日和見菌と分類されている。日和見菌とは、腸内善玉菌、悪玉菌のどちらでもない、勢いの強い方に味方する細菌をいい、例えば、非病原性大腸菌、クリストリジウム、ストレプトコッカス、ドレア、バクテロイデスが挙げられる。ドレア属細菌には、例えば、以下に示す種が存在するが、これらに限定されない:ドレア・フォルミシジェネランス(Dorea formicigenrans)、ドレア・ロンギカテナ(Dorea longicatena)。好ましくは、ドレア・フォルミシジェネランスまたはドレア・ロンギカテナである。
本明細書において、「2型糖尿病または肥満の検出のための、ドレア属細菌または該細菌のゲノムDNAの一部を含む組成物」とは、ドレア属細菌または該細菌のゲノムDNAの一部を、腸内産生物、例えば、糞便中に検出することによって、対象が2型糖尿病または肥満であることを予測する診断マーカーとしての使用をいう。ドレア属細菌または該細菌のゲノムDNAの一部を腸内産生物中に検出することには、定性的に、検出できるか、または、検出できないか、を決定することを含む。あるいは、ドレア属細菌または該細菌のゲノムDNAの一部を腸内産生物中に検出することには、定量的に、他の健常者、肥満者および/もしくは耐糖能異常者と比較した存在量の相対値もしくは絶対値を決定することを含む。前記組成物において、「該細菌のゲノムDNAの一部」は、ドレア属細菌ゲノムを特異的に検出することができる、ドレア属細菌ゲノムDNAのいずれかのDNA鎖と特異的に雑種形成できる1本鎖デオキシリボオリゴヌクレオチドまたは修飾オリゴヌクレオチドか、ドレア属細菌ゲノムDNAの一部をPCR法その他の方法によって増幅することができるプライマー対かを含む。本発明の代替的な態様は、対象の腸内産生物サンプル中のドレア属細菌の存在量を決定し、該存在量が健常者の腸内産生物サンプル中のドレア属細菌の存在量より多いとき、前記対象が2型糖尿病または肥満を罹患するリスクが高いと判定する、2型糖尿病または肥満のリスク検出方法である。前記方法において、「腸内産生物中のドレア属細菌の存在量を決定する工程」とは、ドレア属細菌の存在量を腸内産生物マイクロバイオームのメタゲノムショットガンライブラリー構築およびシークエンシング解析、および/または16S rRNA遺伝子アンプリコンシークエンシング解析によって決定することをいう。以下の実施例に示すとおり、ドレア属細菌の存在量はIRで増加することが示されている。そこで、ドレア属細菌の存在量が健常者の腸内産生物サンプル中のドレア属細菌の存在量より多い場合に、前記対象が2型糖尿病または肥満を罹患するリスクが高いと判定する。本発明のさらに別の態様は、ドレア属細菌またはその代謝産物を、腸内産生物、例えば、糞便中に検出したうえで、ドレア属細菌またはその代謝産物が健常者より不足しているときには投与して補う等によって、腸内におけるドレア属細菌またはその代謝産物を定性的または定量的に制御するために使用することを含む。
本発明はまた、(i)健常者および対象者の糞便を含むサンプルを収集する工程、(ii)工程(i)で収集したサンプルについて、腸内細菌叢および細菌代謝物をプロファイリングして相関解析を行う工程、および(iii)工程(ii)の相関解析の結果、有意差を示した細菌を宿主に効果を示す細菌と決定する工程を含むヒト大規模試験によって同定された細菌を含む組成物を提供する。
本明細書において、「対象」、「個体」または「個人」は、互換性をもって用いられる。「対象」は発現した遺伝子材料を含む生体であってよい。生体は植物、動物、またはたとえば細菌、細菌性プラスミド、ウイルス、真菌および原虫を含めた微生物であってもよい。対象は、in vivo採取した、または培養した、生体の組織、細胞およびそれらの後代であってもよい。好ましくは、対象は哺乳動物である。より好ましくは、ヒトである。対象はある疾患のリスクが高いと診断され、またはその疑いがあってもよい。ある場合には、対象は必ずしもその疾患のリスクが高いと診断されておらず、またはその疑いがなくてもよい。
生体サンプルは、対象の身体のいずれかのマイクロバイオームからのいずれかのサンプルタイプであってよい。本開示に使用できるマイクロバイオームの幾つかの例には、皮膚マイクロバイオーム、消化管マイクロバイオーム、鼻腔マイクロバイオームおよび口腔マイクロバイオームが含まれる。好ましくは、消化管マイクロバイオームである。適用に応じて、生体サンプルは、全血、血清、血漿、粘液、唾液、頬スワブ、尿、糞便、細胞、組織、体液、またはその組み合わせであってもよい。好ましくは、糞便、または血漿である。より好ましくは、糞便である。なお、本明細書において「糞便」は、排泄後の糞便の他、消化管内容物も含む。
マイクロバイオームは、健康な個体の種々の身体部位に生息する数兆個の微生物叢(細菌叢ともいう)をいう。腸内細菌叢には、約40兆個の細菌が存在していることが報告されている。マイクロバイオーム部位の幾つかの例には、皮膚、消化管、口腔、結膜、および膣が含まれる。これらのマイクロバイオームの役割ならびにそれらがどのようにして生理および疾患に影響を及ぼすかをより良く理解するために、どのような微生物がマイクロバイオームを構成しているか、それらがどのように相互作用し、あるいは個体の健康状態および臨床応答に影響を及ぼすかを分析することができる。
細菌種の系統学的分類に関する分野の現在の一つのスタンダードは、16SリボソームRNA(rRNA)遺伝子のDNAシークエンシングによるものである。例えば、16S rRNAはすべての細菌に全般的に存在し、系統分類を区別するために使用できる9つの可変領域を含むので、分類のための標的として選択することができる。
細菌代謝物とは、細菌が代謝作用によって産生する物質(細菌発酵物ともいう)をいい、例えば、炭水化物代謝物、脂質代謝物、アミノ酸代謝物、ポリアミン類、コリン代謝物、ビタミンなどが挙げられる。炭水化物代謝物としては、単糖類や二糖類などの糖類代謝物が挙げられ、具体的には、グルコース、フルクトース、ガラクトース、キシロースなどの単糖類、またはマルトースやスクロースなどの二糖類が挙げられるがこれらに限定されない。脂質代謝物には、短鎖脂肪酸、中鎖脂肪酸、長鎖脂肪酸などが挙げられ、好ましくは、短鎖脂肪酸であり、主要な構成物は、酢酸、プロピオン酸、酪酸であるが、これらに限定されない。
「腸内細菌叢および細菌代謝物をプロファイリングして相関解析を行う」とは、例えば、腸内細菌叢の16S rRNA遺伝子シークエンシングデータと腸内細菌代謝物のメタボローム解析データを組み合わせることで、腸内細菌叢の構成やその機能を網羅的に統合解析することをいう。質量分析装置によって得られた代謝物質プロファイルと、次世代シークエンサーによって得られた腸内細菌叢プロファイルに対して、各々の階層における独立した解析と、両データの時系列を伴った統合解析を行ってもよい。これにより、対象の腸内環境の特徴を明らかにするとともに、個々の細菌種と代謝物質との相関について網羅的に解析し、その制御につながる手がかりを得ることができる。さらに、細菌の組成、保有遺伝子解析をメタゲノム、細菌の遺伝子発現解析をトランスクリプトーム、腸内代謝物の解析をメタボロームにより行い、全体像を多次元相関解析マルチオミクスとして解析することができる。解析手法は、以下の実施例に示す方法以外に、公知の解析手法(例えば、大野ら、実験医学 29:2937-2942. 2011)を使用することができる。
本明細書において、ヒト大規模試験とは、例えば100人~500人の対象に対する試験をいう。試験対象は、好ましくは、200人以上、より好ましくは300人以上である。試験対象の上限は、200人、300人、400人またはそれ以上が好ましい。試験対象の上限は1000人、2000人、10000人、20000人またはそれ以上であってもかまわない。具体的には、実施例に示すように、例えば以下の試験が挙げられるが、これに限定されない:ヒトにおいて腸内細菌がどのように代謝異常に影響するかを調べるため、健常者、肥満者、耐糖能異常者(前糖尿病患者)を含む306名の血漿・糞便サンプルを収集し、腸内細菌および代謝物を解析する。糖尿病治療薬による腸内細菌に対する影響を除くため、未治療の耐糖能異常者のみを対象とすることができる。
本発明において、アリスティペス属細菌、バクテロイデス属細菌および/またはドレア属細菌の糞便サンプルからの検出には、以下で詳しく説明する、糞便マイクロバイオームのメタゲノムショットガンライブラリー構築およびシークエンシング解析による検出方法や、16S rRNA遺伝子アンプリコンシークエンシング解析による検出方法を用いることができる。代替的には、アリスティペス属細菌、バクテロイデス属細菌またはドレア属細菌に共通する特異的ゲノム配列か、アリスティペス属細菌、バクテロイデス属細菌またはドレア属細菌の個々の種に特異的なゲノム配列かを標的とするプライマーまたはプローブを用いるPCRその他の増幅技術による検出方法が、アリスティペス属細菌、バクテロイデス属細菌および/またはドレア属細菌の糞便サンプルからの検出に用いることができる。前記プライマーまたはプローブを用いる検出方法には、前記プライマーまたはプローブをDNAチップ等の固体支持体に不動化して蛍光、発光、呈色、表面プラズモン共鳴その他の手段で検出する方法も含む。
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、これらは単なる例示であって本発明の範囲を何ら限定するものではない。
(材料および方法)
研究参加者とデータ収集
東京大学医学部附属病院の健康診断において、2014年から2016年まで研究参加者を募集した。応募者は20歳から75歳までの日本人男性と女性であった。除外基準は以下の通り。糖尿病の確定診断、糖尿病および/または消化器系疾患薬の日常的な服用、サンプル収集2週間前以内での抗生物質の投与または内服、およびサンプル収集3か月以内で体重が3kg減少した人。研究内容を詳細に説明した後、参加者から書面による同意を得て健康診断を実施した。
参加者の臨床的特徴を統一するために、臨床データに基づいて、約100人の正常、100人の肥満、100人の糖尿病予備軍の個人を募集することを計画し、参加者の数がほぼ目標に達したときに募集を停止した。サンプルサイズは、糖尿病患者の微生物の識別特性(signature)を示す、以前のメタゲノム研究に基づいて決定した。その結果、事前にターゲットを絞ったグループの112、100、および101人の個人を登録した。その内、2名は研究同意を撤回した。また、5名は糞便サンプルを提供しなかった。以上より、身体検査、臨床検査、糞便16S rRNA遺伝子シークエンシングと水溶性代謝物のメタボローム分析のための糞便サンプリング、および血漿代謝物分析のための血漿サンプリングを受けた306人の個人が本研究に含まれた。サンプルが限られているため、290人の糞便メタゲノムデータが利用可能であり、282人の血漿サイトカインおよびインスリンデータが利用可能であった。すべての臨床データと血漿サンプルは、健康診断時に病院で収集した。糞便サンプルは、通院当日または自宅で採取し、健康診断の前後1~2日以内に、凍結状態で直ちに病院に送付した。血液サンプルを直ちに遠心分離して血漿を収集した。血漿および糞便サンプルは、サンプルの準備と分析まで-80℃で保存した。本研究は、理化学研究所と東京大学の倫理審査委員会によって承認され、各施設のガイドラインに従って実施した。
研究参加者とデータ収集
東京大学医学部附属病院の健康診断において、2014年から2016年まで研究参加者を募集した。応募者は20歳から75歳までの日本人男性と女性であった。除外基準は以下の通り。糖尿病の確定診断、糖尿病および/または消化器系疾患薬の日常的な服用、サンプル収集2週間前以内での抗生物質の投与または内服、およびサンプル収集3か月以内で体重が3kg減少した人。研究内容を詳細に説明した後、参加者から書面による同意を得て健康診断を実施した。
参加者の臨床的特徴を統一するために、臨床データに基づいて、約100人の正常、100人の肥満、100人の糖尿病予備軍の個人を募集することを計画し、参加者の数がほぼ目標に達したときに募集を停止した。サンプルサイズは、糖尿病患者の微生物の識別特性(signature)を示す、以前のメタゲノム研究に基づいて決定した。その結果、事前にターゲットを絞ったグループの112、100、および101人の個人を登録した。その内、2名は研究同意を撤回した。また、5名は糞便サンプルを提供しなかった。以上より、身体検査、臨床検査、糞便16S rRNA遺伝子シークエンシングと水溶性代謝物のメタボローム分析のための糞便サンプリング、および血漿代謝物分析のための血漿サンプリングを受けた306人の個人が本研究に含まれた。サンプルが限られているため、290人の糞便メタゲノムデータが利用可能であり、282人の血漿サイトカインおよびインスリンデータが利用可能であった。すべての臨床データと血漿サンプルは、健康診断時に病院で収集した。糞便サンプルは、通院当日または自宅で採取し、健康診断の前後1~2日以内に、凍結状態で直ちに病院に送付した。血液サンプルを直ちに遠心分離して血漿を収集した。血漿および糞便サンプルは、サンプルの準備と分析まで-80℃で保存した。本研究は、理化学研究所と東京大学の倫理審査委員会によって承認され、各施設のガイドラインに従って実施した。
表現型の結果
本研究で使用した表現型の結果は以下の通りである。最初に、日本人集団に設定されている、HOMA-IR ≧ 2.5として定義されるインスリン抵抗性(IR)を使用した。インスリン感受性(IS)はHOMA-IR ≦ 1.6と定義した。HOMA-IRの計算は以下の通り。空腹時血漿インスリン(μU/mL)×空腹時血漿グルコース(mg/dL)/405。血漿インスリンのデータが限られているため、この表現型は282人に利用可能であった。次に、メタボリックシンドローム(MetS)を使用した。MetSの診断は、日本の基準(Y. Matsuzawa, Metabolic Syndrome - Definition and Diagnostic Criteria in Japan. J. Atheroscler. Thromb. 12, 301 (2005).)に基づく。男性は腹囲85 cm以上、女性は90 cm以上が診断の前提条件である。また、診断には以下の3つの臨床異常値のうち2つが必要である。トリグリセリド ≧ 150 mg/dLおよび/またはHDLコレステロール < 40 mg/dLとして定義される脂質異常症、収縮期血圧 ≧ 130 mmHgおよび/または拡張期血圧 ≧ 85 mmHgとして定義される高血圧、および空腹時血糖 ≧ 110 mg/dLとして定義される空腹時高血糖。
本研究で使用した表現型の結果は以下の通りである。最初に、日本人集団に設定されている、HOMA-IR ≧ 2.5として定義されるインスリン抵抗性(IR)を使用した。インスリン感受性(IS)はHOMA-IR ≦ 1.6と定義した。HOMA-IRの計算は以下の通り。空腹時血漿インスリン(μU/mL)×空腹時血漿グルコース(mg/dL)/405。血漿インスリンのデータが限られているため、この表現型は282人に利用可能であった。次に、メタボリックシンドローム(MetS)を使用した。MetSの診断は、日本の基準(Y. Matsuzawa, Metabolic Syndrome - Definition and Diagnostic Criteria in Japan. J. Atheroscler. Thromb. 12, 301 (2005).)に基づく。男性は腹囲85 cm以上、女性は90 cm以上が診断の前提条件である。また、診断には以下の3つの臨床異常値のうち2つが必要である。トリグリセリド ≧ 150 mg/dLおよび/またはHDLコレステロール < 40 mg/dLとして定義される脂質異常症、収縮期血圧 ≧ 130 mmHgおよび/または拡張期血圧 ≧ 85 mmHgとして定義される高血圧、および空腹時血糖 ≧ 110 mg/dLとして定義される空腹時高血糖。
血漿サイトカインの測定
血漿サイトカインは、Human Adipokine Magnetic Bead Panel 2(Millipore、HADK2MAG-61K)およびHuman Obesity Premixed Magnetic Luminex Performance Assay Kit(R&D、FCSTM08)を使用して、製造元の指示に従って測定した。検出下限未満のデータはゼロとみなし、検出上限を超えるデータは分析したサイトカインの最高値とみなした。
血漿サイトカインは、Human Adipokine Magnetic Bead Panel 2(Millipore、HADK2MAG-61K)およびHuman Obesity Premixed Magnetic Luminex Performance Assay Kit(R&D、FCSTM08)を使用して、製造元の指示に従って測定した。検出下限未満のデータはゼロとみなし、検出上限を超えるデータは分析したサイトカインの最高値とみなした。
糞便サンプルの準備
糞便のアリコート(5g)を30mLのメタノールとブレンドし、100μmのメッシュフィルターでろ過して、激しくボルテックスして食物残留物を除去した。ろ液を15,000×g、4℃で10分間遠心分離し、上清(メタノール抽出物)をメタボローム分析に使用した。糞便マイクロバイオームのDNAをペレットから採取した。
糞便のアリコート(5g)を30mLのメタノールとブレンドし、100μmのメッシュフィルターでろ過して、激しくボルテックスして食物残留物を除去した。ろ液を15,000×g、4℃で10分間遠心分離し、上清(メタノール抽出物)をメタボローム分析に使用した。糞便マイクロバイオームのDNAをペレットから採取した。
糞便および血漿サンプルの水溶性代謝物の抽出と測定
水溶性代謝物の抽出は、Nishiumi S.らによる以前の記載(S.Nishiumi et al., Metabolomics. 6,518-528(2010))に変更を加えて行った。血漿のアリコート(10μL)に、150μLのメタノール、125μLのMilli-Q水、15μLの内部標準溶液(1mmol/Lの2-イソプロピルリンゴ酸)および60μLのCHCl3を添加した。糞便サンプルには、メタノール抽出物のアリコート(25μL)に、125μLのメタノール、内部標準(100μmol/Lの2-イソプロピルリンゴ酸)を含む150μLのMilli-Q水、および60μLのCHCl3を添加した。溶液を1,200rpm、37℃で30分間振とうした。16,000×g、室温で5分間遠心分離した後、250μLの上清を新しいチューブに移し、200μLのMilli-Q水を加えた。混合後、溶液を16,000×g、5分間室温で遠心分離し、250μLの上清を新しいチューブに移した。サンプルを、真空エバポレーターを使用して40℃で20分間蒸発乾固し、凍結乾燥機を使用して凍結乾燥した。乾燥抽出物を、最初に、ピリジンに溶解した40μLの20mg/mLメトキシアミン塩酸塩(Sigma-Aldrich)でメトキシム化し、1,200rpm、90分間30℃で振とうした。次に、溶液を20μLのN-メチル-N-トリメチルシリル-トリフルオロアセトアミド(MSTFA、GL Science)を用いて、37℃で30分間、1,200rpmで振とうしながらシリル化した。誘導体化後、サンプルを16,000×gで5分間、室温で遠心分離し、上清をガラスバイアルに移した。キャピラリーカラム(BPX5、SGE Analytical Science)を備えたShimadzu GCMS-TQ8030トリプル四重極質量分析計(Shimadzu)でガスクロマトグラフィー-タンデム質量分析(GC/MS/MS)プラットフォームを使用して分析した。GCオーブンのプログラムは以下の通り:60℃を2分間保持し、330℃(15℃/分)に上げ、最後に330℃を3.45分間保持した。GCは、39cm/秒に設定した不変線速度モードで操作した。検出器とインジェクターの温度は、それぞれ200℃と250℃であった。注入量は、1:30のスプリット比で1μLに設定した。SCFAの抽出と測定は、既報((Y.Sato et al., J. Dev. Orig. Health Dis.10, 659-666(2019))に変更を加えた。血漿のアリコート(90μL)に、内部標準(2mM[1,2-13C2]アセテート、2mM[2H7]ブチレート、および2mMクロトネート)を含む10μLのMilli-Q水を加えた。糞便サンプルには、メタノール抽出物のアリコート(25μL)に内部標準を含む10μLのMilli-Q水を加え、次に、40℃で遠心濃縮し、100μLのMilli-Q水で再構成した。この溶液に50μLの塩酸(HCl)および200μLのジエチルエーテルを加え、よく混合した。3,000×gで10分間遠心分離した後、80μLの有機層をガラスバイアルに移し、16μLのN-tert-ブチルジメチルシリル-N-トリフルオロアセトアミド(MTBSTFA、Sigma-Aldrich)を添加してサンプルを誘導体化した。バイアルを80℃で20分間インキュベートし、注入前に48時間静置した。キャピラリカラム(BPX5)を備えたShimadzu GCMS-TQ8030トリプル四重極質量分析計を使用して分析した。GCオーブンのプログラムは以下の通り:60℃を3分間保持し、130℃(8℃/分)に上げ、330℃(3℃/分)に上げて最後に330℃を3分間保持した。検出器とインジェクターの温度は、それぞれ230℃と250℃であった。GCは、40cm/秒に設定した不変線速度モードで操作した。注入量は、1:30のスプリット比で1μLに設定した。データはLabSolutions Insight(Shimadzu)によって処理し、濃度を計算した。
水溶性代謝物の抽出は、Nishiumi S.らによる以前の記載(S.Nishiumi et al., Metabolomics. 6,518-528(2010))に変更を加えて行った。血漿のアリコート(10μL)に、150μLのメタノール、125μLのMilli-Q水、15μLの内部標準溶液(1mmol/Lの2-イソプロピルリンゴ酸)および60μLのCHCl3を添加した。糞便サンプルには、メタノール抽出物のアリコート(25μL)に、125μLのメタノール、内部標準(100μmol/Lの2-イソプロピルリンゴ酸)を含む150μLのMilli-Q水、および60μLのCHCl3を添加した。溶液を1,200rpm、37℃で30分間振とうした。16,000×g、室温で5分間遠心分離した後、250μLの上清を新しいチューブに移し、200μLのMilli-Q水を加えた。混合後、溶液を16,000×g、5分間室温で遠心分離し、250μLの上清を新しいチューブに移した。サンプルを、真空エバポレーターを使用して40℃で20分間蒸発乾固し、凍結乾燥機を使用して凍結乾燥した。乾燥抽出物を、最初に、ピリジンに溶解した40μLの20mg/mLメトキシアミン塩酸塩(Sigma-Aldrich)でメトキシム化し、1,200rpm、90分間30℃で振とうした。次に、溶液を20μLのN-メチル-N-トリメチルシリル-トリフルオロアセトアミド(MSTFA、GL Science)を用いて、37℃で30分間、1,200rpmで振とうしながらシリル化した。誘導体化後、サンプルを16,000×gで5分間、室温で遠心分離し、上清をガラスバイアルに移した。キャピラリーカラム(BPX5、SGE Analytical Science)を備えたShimadzu GCMS-TQ8030トリプル四重極質量分析計(Shimadzu)でガスクロマトグラフィー-タンデム質量分析(GC/MS/MS)プラットフォームを使用して分析した。GCオーブンのプログラムは以下の通り:60℃を2分間保持し、330℃(15℃/分)に上げ、最後に330℃を3.45分間保持した。GCは、39cm/秒に設定した不変線速度モードで操作した。検出器とインジェクターの温度は、それぞれ200℃と250℃であった。注入量は、1:30のスプリット比で1μLに設定した。SCFAの抽出と測定は、既報((Y.Sato et al., J. Dev. Orig. Health Dis.10, 659-666(2019))に変更を加えた。血漿のアリコート(90μL)に、内部標準(2mM[1,2-13C2]アセテート、2mM[2H7]ブチレート、および2mMクロトネート)を含む10μLのMilli-Q水を加えた。糞便サンプルには、メタノール抽出物のアリコート(25μL)に内部標準を含む10μLのMilli-Q水を加え、次に、40℃で遠心濃縮し、100μLのMilli-Q水で再構成した。この溶液に50μLの塩酸(HCl)および200μLのジエチルエーテルを加え、よく混合した。3,000×gで10分間遠心分離した後、80μLの有機層をガラスバイアルに移し、16μLのN-tert-ブチルジメチルシリル-N-トリフルオロアセトアミド(MTBSTFA、Sigma-Aldrich)を添加してサンプルを誘導体化した。バイアルを80℃で20分間インキュベートし、注入前に48時間静置した。キャピラリカラム(BPX5)を備えたShimadzu GCMS-TQ8030トリプル四重極質量分析計を使用して分析した。GCオーブンのプログラムは以下の通り:60℃を3分間保持し、130℃(8℃/分)に上げ、330℃(3℃/分)に上げて最後に330℃を3分間保持した。検出器とインジェクターの温度は、それぞれ230℃と250℃であった。GCは、40cm/秒に設定した不変線速度モードで操作した。注入量は、1:30のスプリット比で1μLに設定した。データはLabSolutions Insight(Shimadzu)によって処理し、濃度を計算した。
糞便および血漿サンプルのリピドミクス
リピドミクス(脂質代謝物分析)は、以前に報告された研究(H.Tsugawa et al., Nat. Biotechnol., in press, doi:10.1038/s41587-020-0531-2)に従って実施した。LC-MSグレードのメタノール、イソプロパノール、クロロホルム、およびアセトニトリルを和光(東京、日本)から購入した。酢酸アンモニウムとEDTAを、それぞれ和光と同仁堂(東京、日本)から購入した。Milli-Q水を、Millipore(Merck、Massachusetts、US)から購入した。EquiSPLASHを、Avanti Polar Lipids(Alabama、US)から購入した。パルミチン酸-d3およびステアリン酸-d3を、Olbracht Serdary Research Laboratories(Toronto、ON、Canada)から購入した。
リピドミクス(脂質代謝物分析)は、以前に報告された研究(H.Tsugawa et al., Nat. Biotechnol., in press, doi:10.1038/s41587-020-0531-2)に従って実施した。LC-MSグレードのメタノール、イソプロパノール、クロロホルム、およびアセトニトリルを和光(東京、日本)から購入した。酢酸アンモニウムとEDTAを、それぞれ和光と同仁堂(東京、日本)から購入した。Milli-Q水を、Millipore(Merck、Massachusetts、US)から購入した。EquiSPLASHを、Avanti Polar Lipids(Alabama、US)から購入した。パルミチン酸-d3およびステアリン酸-d3を、Olbracht Serdary Research Laboratories(Toronto、ON、Canada)から購入した。
血漿脂質抽出には、20μLのヒト血漿サンプルのアリコートを、5μLのEquiSPLASH(Avanti Polar Lipids,Inc.)、10μMのパルミチン酸-d3、および10μMのステアリン酸を含む200μLのメタノールに添加して、10秒間ボルテックスした。次に、100μLのクロロホルムを加え、10秒間ボルテックスした。室温で2時間インキュベートした後、溶媒チューブを2000×g、10分間20℃で遠心分離した。200μLの上清をLC-MSバイアル(Agilent Technologies)に移した。糞便脂質抽出には、2mLガラス管内で5μLのEquiSPLASH、10μMのパルミチン酸-d3、および10μMのステアリン酸-d3を含む145μLのメタノールに、50μLのメタノール抽出物を添加し、10秒間ボルテックスした。次に、100μLのクロロホルムを加え、10秒間ボルテックスした。室温で1時間インキュベートした後、20μLの水を加え、10秒間ボルテックスした。室温で10分間インキュベートした後、溶媒を2000×g、4℃で10分間遠心分離し、上清をLC-MSバイアルに移した。すべてのサンプルを4つのバッチと5つのバッチに分割し、血漿と糞便の分析のためにランダム化した後、バッチごとにそれぞれ70~80と55~60のサンプルとした。各バッチについて、一連のサンプルを準備し、その後のLC-MS/MS測定を実行した。品質管理(QC)サンプルを、最初のバッチ対象から同量の血漿を混合することによって準備した。生物学的サンプルの代わりに同量の水を使用して、手順ブランクを調製した。ブランクサンプルを各分析バッチの最初と最後に分析し、10個の研究サンプルごとにQCサンプルを注入した。
LCシステムを、Waters Acquity UPLCシステムで構成した。脂質を、Acquity UPLC Peptide BEH C18カラム(50×2.1mm;1.7μm)(Waters, Milford, MA, USA)で分離した。カラムを、0.3mL/minの流速、45℃で維持した。移動相は、(A)ギ酸アンモニウム(5mM)と10nM EDTAを含む1:1:3(v/v/v)アセトニトリル:メタノール:水、および(B)ギ酸アンモニウム(5 mM)と10nM EDTAを含む100%イソプロパノールで構成した。生物学的サンプルに応じて0.5~3μLのサンプル量を、注入に使用した。分離は以下の勾配で行った:0分0%(B);1分0%(B);5分40%(B);7.5分64%(B);12分64%(B);12.5分82.5%(B);19分85%(B);20分95%(B);20.1分0%(B);および25分0%(B)。サンプル温度を4℃に維持した。
脂質の質量分析検出を、四重極/タイムオブフライト質量分析計TripleTOF 6600(SCIEX, Framingham, MA, USA)で実行した。すべての分析は、MS1の高分解能モード(半値全幅(FWHM)~35,000)およびMS2の高感度モード(~20,000 FWHM)で実行した。データ依存MS/MS取得(DDA)を使用した。パラメーターは、MS1およびMS2の質量範囲であり、m/z 70~1250;MS1蓄積時間、250ms;MS2蓄積時間、100ms;衝突エネルギー、+40/-42 eV;衝突エネルギーの広がり、15eV;サイクルタイム、1300ms;カーテンガス、30;イオン源ガス1、40(+)/50(-);イオン源ガス2、80(+)/50(-);温度、250℃(+)/300℃(-);フローティングイオンスプレー電圧、+5.5/-4.5kV;デクラスタリング電位、80V。他のDDAパラメーターは、従属プロダクトイオンスキャン数、16;強度しきい値、100cps;プリカーサーイオンの排除時間、0秒。質量許容値、20ppm;イグノアピーク、m/z 200以内;およびダイナミックバックグラウンド減算、Trueであった。質量キャリブレーションは、calibration delivery system(CDS)を介してAPCI positive/negative calibration solution を使用して自動的に実行した。
MS-DIALバージョン4.16を以下のパラメーターで使用した。設定したパラメーターは以下の通り:(データ収集)RT開始、1.0分;保持時間終了、18分;MS1およびMS2の質量レンジ開始、0Da;MS1およびMS2の質量レンジ終了、2000Da;MS1許容値、0.01Da;MS2許容値、0.025D;(ピーク検出)最小ピーク高、3000振幅;マススライス幅、0.1Da;平滑化法、線形加重移動平均;平滑化レベル、3スキャン;最小ピーク幅、5スキャン;エクスクルージョンマスリスト、なし;(識別)保持時間許容値、1.5分;MS1の正確な質量許容値、0.01 Da;MS2の正確な質量許容値、0.05Da;識別スコアのカットオフ、70%;すべての脂質サブクラスを検索スペースとして使用した;(アライメント)保持時間許容値、0.15分;MS1許容値、0.015Da。他のパラメーターにはデフォルト値を使用した。
代謝物のクラスタリング
糞便の代謝物について、品質管理に合格し複数のサンプルで検出された110の水溶性代謝物および2654の脂質代謝物を選択して、クラスタリング解析を行った。Rパッケージ「WGCNA」を使用して、これらの代謝物をその共存在量に基づいてクラスター化した。以下のパラメーターを分析に使用した。水溶性代謝物には、ソフトしきい値β=12、最小クラスターサイズ=3、ディープスプリット=4、カット高=0.9999、PAMクラスタリング=F。脂質代謝物には、ソフトしきい値β=14、最小クラスターサイズ=20、ディープスプリット=4、カット高=0.999、PAMクラスタリング=F。WGCNAではすべての代謝物をクラスタリングできなかったため、基準に適合しなかった残りの代謝物は、その後、バイウェイト中間相関(biweight midcorrelation)に基づいてクラスタリングした。以下のパラメーターを、二次クラスタリングに使用した。水溶性代謝物には、最小クラスターサイズ=3、ディープスプリット=4、カット高=0.9999、PAMクラスタリング=F。脂質代謝物には、最小クラスターサイズ=6、ディープスプリット=4、カット高=0.999、PAMクラスタリング=F。バイウェイト中間相関が0.8を超えるクラスターをマージした。各クラスターの一次主成分(PC1)を、WGCNAの「moduleEigengenes」コマンドを使用して計算し、以降の分析のためにクラスターの代表値として使用した。クラスターに含まれる代表的な代謝物クラスをそのクラスターのアノテーションとして記載した。
糞便の代謝物について、品質管理に合格し複数のサンプルで検出された110の水溶性代謝物および2654の脂質代謝物を選択して、クラスタリング解析を行った。Rパッケージ「WGCNA」を使用して、これらの代謝物をその共存在量に基づいてクラスター化した。以下のパラメーターを分析に使用した。水溶性代謝物には、ソフトしきい値β=12、最小クラスターサイズ=3、ディープスプリット=4、カット高=0.9999、PAMクラスタリング=F。脂質代謝物には、ソフトしきい値β=14、最小クラスターサイズ=20、ディープスプリット=4、カット高=0.999、PAMクラスタリング=F。WGCNAではすべての代謝物をクラスタリングできなかったため、基準に適合しなかった残りの代謝物は、その後、バイウェイト中間相関(biweight midcorrelation)に基づいてクラスタリングした。以下のパラメーターを、二次クラスタリングに使用した。水溶性代謝物には、最小クラスターサイズ=3、ディープスプリット=4、カット高=0.9999、PAMクラスタリング=F。脂質代謝物には、最小クラスターサイズ=6、ディープスプリット=4、カット高=0.999、PAMクラスタリング=F。バイウェイト中間相関が0.8を超えるクラスターをマージした。各クラスターの一次主成分(PC1)を、WGCNAの「moduleEigengenes」コマンドを使用して計算し、以降の分析のためにクラスターの代表値として使用した。クラスターに含まれる代表的な代謝物クラスをそのクラスターのアノテーションとして記載した。
糞便サンプルからのDNA抽出
別途記載される詳細な方法(T. Kato et al., DNA Res. 21, 469-480 (2014))をわずかに変更した。DNA抽出の前に、糞便ペレットをPBSで1回洗浄し、10 mM Tris-HCl / 20 mM EDTAバッファー(pH 8.0)に懸濁した。続いて、リゾチーム(Sigma)、アクロモペプチダーゼ(Wako)、およびプロテイナーゼK(Merck)を細胞溶解用サンプルに添加した。DNAをフェノール/クロロホルム抽出法で回収した。抽出DNAを精製するために、RNAをRNase(ニッポンジーン)で消化した。次に、ポリエチレングリコール6000溶液(Hampton research)を含む溶液でDNAを沈殿させた。DNA濃度を、Quant-iT PicoGreenを使用して定量化した。
別途記載される詳細な方法(T. Kato et al., DNA Res. 21, 469-480 (2014))をわずかに変更した。DNA抽出の前に、糞便ペレットをPBSで1回洗浄し、10 mM Tris-HCl / 20 mM EDTAバッファー(pH 8.0)に懸濁した。続いて、リゾチーム(Sigma)、アクロモペプチダーゼ(Wako)、およびプロテイナーゼK(Merck)を細胞溶解用サンプルに添加した。DNAをフェノール/クロロホルム抽出法で回収した。抽出DNAを精製するために、RNAをRNase(ニッポンジーン)で消化した。次に、ポリエチレングリコール6000溶液(Hampton research)を含む溶液でDNAを沈殿させた。DNA濃度を、Quant-iT PicoGreenを使用して定量化した。
ショットガンメタゲノムシークエンス
メタゲノムショットガンライブラリー(挿入サイズ500bp)は、TruSeq Nano DNAキット(Illumina)を使用して調製し、Illumina NovaSeqプラットフォームでシークエンスした。品質フィルタリング後、ヒトゲノム(HG19)にマッピングされたリード(read)とphiXバクテリオファージゲノムを削除した。各個人について、フィルターを通過したNovaSeqリードは、MEGAHIT(v1.2.4)を使用してアセンブルした。Prodigal(v2.6.3)を使用して、コンティグ(≧ 500bp)およびシングルトン(≧ 300bp)のタンパク質コーディング遺伝子(≧ 100bp)を予測した。最後に、95%のヌクレオチド同一性と90%の長範囲カットオフ(length coverage cut-off)を備えたCD-HITを使用して、予測遺伝子をクラスター化することにより、290人のサンプルから6,458,217個の非冗長遺伝子を特定した。非冗長遺伝子の機能アサインメントを、DIAMOND(e-value≦1.0e-5)を使用してKyoto Encyclopedia of Genes and Genomes(KEGG)データベース(リリース2019-10-07)に対して実行し、KEGGオルソロジー遺伝子(KO)を得た。真核生物の遺伝子と相関するベストヒットの遺伝子は、さらなる分析から除外した。
メタゲノムショットガンライブラリー(挿入サイズ500bp)は、TruSeq Nano DNAキット(Illumina)を使用して調製し、Illumina NovaSeqプラットフォームでシークエンスした。品質フィルタリング後、ヒトゲノム(HG19)にマッピングされたリード(read)とphiXバクテリオファージゲノムを削除した。各個人について、フィルターを通過したNovaSeqリードは、MEGAHIT(v1.2.4)を使用してアセンブルした。Prodigal(v2.6.3)を使用して、コンティグ(≧ 500bp)およびシングルトン(≧ 300bp)のタンパク質コーディング遺伝子(≧ 100bp)を予測した。最後に、95%のヌクレオチド同一性と90%の長範囲カットオフ(length coverage cut-off)を備えたCD-HITを使用して、予測遺伝子をクラスター化することにより、290人のサンプルから6,458,217個の非冗長遺伝子を特定した。非冗長遺伝子の機能アサインメントを、DIAMOND(e-value≦1.0e-5)を使用してKyoto Encyclopedia of Genes and Genomes(KEGG)データベース(リリース2019-10-07)に対して実行し、KEGGオルソロジー遺伝子(KO)を得た。真核生物の遺伝子と相関するベストヒットの遺伝子は、さらなる分析から除外した。
メタゲノムのアノーテッド遺伝子の定量化
Bowtie2を使用して個人あたり100万のメタゲノムリードを、95%の同一性カットオフにてリフェレンス遺伝子カタログにマッピングした。リファレンス遺伝子カタログは本研究における非冗長遺伝子、およびIGC(J. Li et al., Nat. Biotechnol. 32, 834-841 (2014))とJPGM(S. Nishijima et al., DNA Res. 23, 125-133 (2016))における非冗長遺伝子を統合したものを使用した。複数の遺伝子に等しくマッピングしたリードの数を、リファレンスゲノムへのマッピング分析に対して行ったように、遺伝子に一意にマッピングしたリードの数の割合によって正規化した。KOの割合は、それらにマッピングしたリード数から計算した。KEGG経路の濃縮分析には、有意かつ正に(負に)関連付けたKOにより、KOにリンクしたすべての上流経路に+1(-1)を与え、そのポイントを経路内のKOの数に対する比率としてまとめた。
Bowtie2を使用して個人あたり100万のメタゲノムリードを、95%の同一性カットオフにてリフェレンス遺伝子カタログにマッピングした。リファレンス遺伝子カタログは本研究における非冗長遺伝子、およびIGC(J. Li et al., Nat. Biotechnol. 32, 834-841 (2014))とJPGM(S. Nishijima et al., DNA Res. 23, 125-133 (2016))における非冗長遺伝子を統合したものを使用した。複数の遺伝子に等しくマッピングしたリードの数を、リファレンスゲノムへのマッピング分析に対して行ったように、遺伝子に一意にマッピングしたリードの数の割合によって正規化した。KOの割合は、それらにマッピングしたリード数から計算した。KEGG経路の濃縮分析には、有意かつ正に(負に)関連付けたKOにより、KOにリンクしたすべての上流経路に+1(-1)を与え、そのポイントを経路内のKOの数に対する比率としてまとめた。
16S rRNA遺伝子アンプリコンシークエンシング解析
糞便サンプルDNAを16S rRNA遺伝子の可変領域V1-V2をターゲットとしてバーコード付プライマーを用いたPCRで増幅した。PCRアンプリコンはAMPure XPマグネティックビーズ (Beckman Coulter, Inc.)で精製し、Quant-iT PicoGreen dsDNAアッセイキット (Life Technologies Japan, Ltd.)で定量した。等量のPCRアンプリコンをミックスし、MiSeq (Illumina)でシークエンシングを実施した。シークエンシングリードはbcl2fastqを使用しバーコードに応じてサンプル毎に振り分けた。次に、フォワード、リバース双方のプライマー配列がないリードは除外された。その後、平均quality値 < 25でリードをフィルターし、キメラ配列を除外した。16Sデータベースは公共データベース(Ribosomal Database Project (RDP) v. 10.27, CORE (microbiome.osu.edu/), NCBI FTP site (ftp://ftp.ncbi.nih.gov/genbank/, December 2011))をもとに作成された。操作的分類単位(OTU)クラスタリングとUniFrac解析は上記のフィルター後のリードを3000本ランダムに選択して実施した。その後、UCLUST(www.drive5.com/) を使用して選択された全リードを97%の相同性をしきい値としたOTUクラスタリグした。OTUの代表配列はGLSEARCHプログラムと上記の16Sデータベースを用いて相同性検索を実施し分類した。
糞便サンプルDNAを16S rRNA遺伝子の可変領域V1-V2をターゲットとしてバーコード付プライマーを用いたPCRで増幅した。PCRアンプリコンはAMPure XPマグネティックビーズ (Beckman Coulter, Inc.)で精製し、Quant-iT PicoGreen dsDNAアッセイキット (Life Technologies Japan, Ltd.)で定量した。等量のPCRアンプリコンをミックスし、MiSeq (Illumina)でシークエンシングを実施した。シークエンシングリードはbcl2fastqを使用しバーコードに応じてサンプル毎に振り分けた。次に、フォワード、リバース双方のプライマー配列がないリードは除外された。その後、平均quality値 < 25でリードをフィルターし、キメラ配列を除外した。16Sデータベースは公共データベース(Ribosomal Database Project (RDP) v. 10.27, CORE (microbiome.osu.edu/), NCBI FTP site (ftp://ftp.ncbi.nih.gov/genbank/, December 2011))をもとに作成された。操作的分類単位(OTU)クラスタリングとUniFrac解析は上記のフィルター後のリードを3000本ランダムに選択して実施した。その後、UCLUST(www.drive5.com/) を使用して選択された全リードを97%の相同性をしきい値としたOTUクラスタリグした。OTUの代表配列はGLSEARCHプログラムと上記の16Sデータベースを用いて相同性検索を実施し分類した。
培養実験
アリスティペス・ファインゴルディ(JCM16770)、アリスティペス・インディスティンクタス(JCM16068)、バクテロイデス・シータイオタオミクロン、バクテロイデス・キシラニソルベンス、パラバクテロイデス・メルダエ(Parabacteroides merdae)、クロストリジウム・スパイロフォルメ(Clostridium spiroforme)、フィーカリバクテリウム・プラウスニッツィイ(Faecalibacterium prausnitzii)、ドレア・フォルミシジェネランス(JCM31256)、およびドレア・ロンギカテナ(JCM11232)を、理研バイオリソースリサーチセンターから入手した。すべての細菌は、短鎖脂肪酸を含むYCFA培地(JCM培地No. 1130)で培養した。無細胞上清中の代謝物を測定するために、YCFA培地で増殖した細菌を実験培地(YCFA培地)に接種し、24時間培養した。サンプルを遠心分離し、無細胞上清を収集して分析した。上記の通り、水溶性代謝物を測定するためにGC-MSを実施した。
アリスティペス・ファインゴルディ(JCM16770)、アリスティペス・インディスティンクタス(JCM16068)、バクテロイデス・シータイオタオミクロン、バクテロイデス・キシラニソルベンス、パラバクテロイデス・メルダエ(Parabacteroides merdae)、クロストリジウム・スパイロフォルメ(Clostridium spiroforme)、フィーカリバクテリウム・プラウスニッツィイ(Faecalibacterium prausnitzii)、ドレア・フォルミシジェネランス(JCM31256)、およびドレア・ロンギカテナ(JCM11232)を、理研バイオリソースリサーチセンターから入手した。すべての細菌は、短鎖脂肪酸を含むYCFA培地(JCM培地No. 1130)で培養した。無細胞上清中の代謝物を測定するために、YCFA培地で増殖した細菌を実験培地(YCFA培地)に接種し、24時間培養した。サンプルを遠心分離し、無細胞上清を収集して分析した。上記の通り、水溶性代謝物を測定するためにGC-MSを実施した。
動物実験
6週齢のC57BL6/N雄性マウスを日本クレアから購入した。マウスに、細菌投与3週間前からQuick Fat(日本クレア)を与え、細菌投与中の3週間も継続した。アリスティペス・インディスティンクタス(JCM16068)をYCFA培地で一晩培養し、PBSで濃度を2.5×108CFU/mL に調整した。細菌および陰性対照であるPBSを、マウスあたり200μLの用量で経口投与した。細菌とPBSを週に2~3回、3週間与えた。強制経口投与の前に、週に2~3回体重を測定した。インスリン負荷試験を、細菌投与開始3週間後に実施した。マウスを、インスリン注射5時間前から絶食にして、続いて0.85 U/kgのインスリン(シグマ)を腹腔内投与した。尾静脈から血糖を採取し、グルコカード(アークレイ)を用いて連続測定した。剖検時に、イソフルラン(MSD)を使用してマウスを麻酔し、盲腸より腸管内容物を採取した。すべての実験手順は、理化学研究所および横浜市立大学の動物実験委員会によって承認され、それに従って実施した。
6週齢のC57BL6/N雄性マウスを日本クレアから購入した。マウスに、細菌投与3週間前からQuick Fat(日本クレア)を与え、細菌投与中の3週間も継続した。アリスティペス・インディスティンクタス(JCM16068)をYCFA培地で一晩培養し、PBSで濃度を2.5×108CFU/mL に調整した。細菌および陰性対照であるPBSを、マウスあたり200μLの用量で経口投与した。細菌とPBSを週に2~3回、3週間与えた。強制経口投与の前に、週に2~3回体重を測定した。インスリン負荷試験を、細菌投与開始3週間後に実施した。マウスを、インスリン注射5時間前から絶食にして、続いて0.85 U/kgのインスリン(シグマ)を腹腔内投与した。尾静脈から血糖を採取し、グルコカード(アークレイ)を用いて連続測定した。剖検時に、イソフルラン(MSD)を使用してマウスを麻酔し、盲腸より腸管内容物を採取した。すべての実験手順は、理化学研究所および横浜市立大学の動物実験委員会によって承認され、それに従って実施した。
統計分析
一般的な統計的比較には、Wilcoxon順位和検定を2つのグループの比較に使用し、Kruskal-Wallis検定とそれに続くDunnの事後分析を3つ以上のグループの比較に使用した。スピアマンの順位相関を使用して相関を評価した。インスリン負荷試験などの時系列データの比較には、二元配置分散解析を使用した。0.05未満のP値は有意とみなした。多重検定修正には、Rコマンド「p.adjust」を使用したBenjamini-Hochberg手順によりp値を修正した。
一般的な統計的比較には、Wilcoxon順位和検定を2つのグループの比較に使用し、Kruskal-Wallis検定とそれに続くDunnの事後分析を3つ以上のグループの比較に使用した。スピアマンの順位相関を使用して相関を評価した。インスリン負荷試験などの時系列データの比較には、二元配置分散解析を使用した。0.05未満のP値は有意とみなした。多重検定修正には、Rコマンド「p.adjust」を使用したBenjamini-Hochberg手順によりp値を修正した。
属レベルの微生物の共存在ネットワークを構築するために、50%以上の参加者で観察された属レベルの微生物を選択し、初期設定を備えた、RパッケージCCREPE(Compositionality Corrected by REnormalization and PErmutation)を使用して相関を計算した。q値が0.2未満の相互作用をフィルタリングしてさらに分析した。互いに正に関連する微生物を、独立の共存在微生物グループのメンバーとして決定した。研究参加者の微生物プロファイルを特徴づけるために、Rパッケージpheatmapのward.D機能を使用して、4つの共存在グループの20属の存在量に基づいて個人をクラスター化した。参加者の3つの異なるクラスターを決定し、AからCのこれら3つのグループ間で、Cochran-Armitage検定を使用してIR比率を比較した。HOMA-IRなどの他の臨床パラメーターも、Kruskal-Wallis検定とそれに続くDunnの事後分析を使用して比較した。微生物代謝産物ネットワークを視覚化するために、IS関連共存在グループ(バクテロイデス目(Bacteroidales) + クロストリジウム目(Clostridiales)クラスター)およびIR関連グループ(ラクノスピラ科(Lachnospiraceae)、コリオバクテリア科(Coriobacteriaceae) + ビフィドバクテリア科(Bifidobacteriaceae)、およびその他のクラスター)を、ISとIR関連の水溶性代謝物と脂質代謝物との相関を別々に分析した。q値が0.05未満のスピアマン相関を、ネットワーク分析のためにフィルタリングした。ネットワークを、Cytoscape ver. 3.7.0.を使用して視覚化した。
宿主の炎症特性と糞便代謝物との関連を評価するために、本研究で測定した10個のサイトカインに基づいたPCAの一次主成分である、サイトカインスコアを最初に計算した。サイトカインスコアを、IRに関連する15種類の糞便炭水化物代謝物間で、年齢、性別、BMI、およびFBGによって調整した、部分的なスピアマン相関についてテストし、多重検定のために修正した。
オミクスデータの相関ベースのネットワークを構築および視覚化するために、ISまたはIRに関連する代謝物、転写産物、および微生物を選択した。データを標準化し、与えられたすべての要因間の年齢、性別、BMI、およびFBGによって調整した部分的なスピアマンの順位相関を計算した。q値が0.2未満の相関は、視覚化のためにフィルタリングした。微生物代謝物ネットワークのように、ネットワークをCytoscape ver. 3.7.0を使用して視覚化した。
実施例1 マルチオミクスデータの研究設定および概要
本研究では、東京大学医学部附属病院の年一回の健康診断で募集した20歳から75歳(中央値61歳)の男女306人(男性70.9%)を分析した(図1A)。コホートには、約100人の正常血糖、100人の肥満、100人の糖尿病予備軍の個人を採用するように設定した。糖尿病の確定診断を受けた個人は、高血糖の長期的な影響を避けるために研究から除外した。同様に、糖尿病薬を服用している人、および腸疾患薬を日常的に服用している人も、腸の微生物群を汚染することが報告されている薬物服用者として除外した。除外基準の詳細を、本明細書実施例の(材料および方法)のセクションに記載する。その結果、本研究は比較的健康な個人を含んでいた。中央値(IQR)ボディマス指数(BMI)、空腹時血糖(FBG)およびHbA1cは、それぞれ、24.9(22.2-27.1)kg/m2、96(91-105)mg/dLおよび5.8(5.5-6.1)%であった。本研究において主に分析した臨床表現型はIRであり、HOMA-IR ≧ 2.5として定義した。また、観察を裏付けるために、MetSとの関連を分析した。腸内微生物情報は、16S rRNA遺伝子アンプリコンシークエンスとメタゲノムショットガンシークエンスによって取得した。腸内微生物482種のデータが得られた。相対存在量が80%を超えるコア属は26種類で、共存在グループは4種類であった。2つの質量分析ベースの分析プラットフォームを使用した非標的メタボロミクスによって、195種類および100種類の糞便および血漿水溶性代謝物、および2654種類および635種類の糞便および血漿脂質代謝物に関する情報をそれぞれ作製した。以下の分析には、サンプルの75%以上で検出されたものを含有した(本明細書実施例の「(材料および方法」)のセクションを参照)。ホストトランスクリプトーム情報を、Cap Analysis of Gene Expression (CAGE) method(M Kanamori-Katayama et al., Genome Res. 21, 1150-1159 (2011))を使用して取得した。14614個の遺伝子についての転写量を解析できた。マルチオミクス分析の概略フローチャートを図1Bに示した。まず、糞便のメタボロミクスおよびメタゲノムデータを使用して、IRおよびMetSの微生物識別特性を定義することを目指した。次に、IRとMetSの病態生理に影響を与える宿主と微生物の代謝物間の相互作用の可能性の特定を試みた。糞便のメタボロームデータとメタゲノムデータは、それらの相関に基づいたクラスター(CAG)に要約し、糞便データを機能モジュール、すなわちKEGGオルソログおよび経路にそれぞれ要約した。水溶性CAGは18個、脂質CAGは105個、KEGGオルソログは6711個であった。表現型および微生物関連代謝物を、宿主サイトカイン、メタボロームおよびトランスクリプトーム変化との相関についてさらに分析した。最後に、候補微生物と代謝物の代謝効果を調べるために、いくつかの実験を実施した。
本研究では、東京大学医学部附属病院の年一回の健康診断で募集した20歳から75歳(中央値61歳)の男女306人(男性70.9%)を分析した(図1A)。コホートには、約100人の正常血糖、100人の肥満、100人の糖尿病予備軍の個人を採用するように設定した。糖尿病の確定診断を受けた個人は、高血糖の長期的な影響を避けるために研究から除外した。同様に、糖尿病薬を服用している人、および腸疾患薬を日常的に服用している人も、腸の微生物群を汚染することが報告されている薬物服用者として除外した。除外基準の詳細を、本明細書実施例の(材料および方法)のセクションに記載する。その結果、本研究は比較的健康な個人を含んでいた。中央値(IQR)ボディマス指数(BMI)、空腹時血糖(FBG)およびHbA1cは、それぞれ、24.9(22.2-27.1)kg/m2、96(91-105)mg/dLおよび5.8(5.5-6.1)%であった。本研究において主に分析した臨床表現型はIRであり、HOMA-IR ≧ 2.5として定義した。また、観察を裏付けるために、MetSとの関連を分析した。腸内微生物情報は、16S rRNA遺伝子アンプリコンシークエンスとメタゲノムショットガンシークエンスによって取得した。腸内微生物482種のデータが得られた。相対存在量が80%を超えるコア属は26種類で、共存在グループは4種類であった。2つの質量分析ベースの分析プラットフォームを使用した非標的メタボロミクスによって、195種類および100種類の糞便および血漿水溶性代謝物、および2654種類および635種類の糞便および血漿脂質代謝物に関する情報をそれぞれ作製した。以下の分析には、サンプルの75%以上で検出されたものを含有した(本明細書実施例の「(材料および方法」)のセクションを参照)。ホストトランスクリプトーム情報を、Cap Analysis of Gene Expression (CAGE) method(M Kanamori-Katayama et al., Genome Res. 21, 1150-1159 (2011))を使用して取得した。14614個の遺伝子についての転写量を解析できた。マルチオミクス分析の概略フローチャートを図1Bに示した。まず、糞便のメタボロミクスおよびメタゲノムデータを使用して、IRおよびMetSの微生物識別特性を定義することを目指した。次に、IRとMetSの病態生理に影響を与える宿主と微生物の代謝物間の相互作用の可能性の特定を試みた。糞便のメタボロームデータとメタゲノムデータは、それらの相関に基づいたクラスター(CAG)に要約し、糞便データを機能モジュール、すなわちKEGGオルソログおよび経路にそれぞれ要約した。水溶性CAGは18個、脂質CAGは105個、KEGGオルソログは6711個であった。表現型および微生物関連代謝物を、宿主サイトカイン、メタボロームおよびトランスクリプトーム変化との相関についてさらに分析した。最後に、候補微生物と代謝物の代謝効果を調べるために、いくつかの実験を実施した。
実施例2 糞便中の炭水化物代謝物はIRで変化する
次に、糞便メタボロミクスが代謝性疾患の病因に機構的な手がかりを与えるか否かを検討した。質量分析技術と以下のデータ分析の違いのため、水溶性代謝物と脂質代謝物の分析は別個に解析した(詳細は、材料および方法を参照されたい)。
次に、糞便メタボロミクスが代謝性疾患の病因に機構的な手がかりを与えるか否かを検討した。質量分析技術と以下のデータ分析の違いのため、水溶性代謝物と脂質代謝物の分析は別個に解析した(詳細は、材料および方法を参照されたい)。
炭水化物代謝物、主に単糖類を含むCAG(例えば、hydrophilic CAG 5、12、および15)が最も強くIRおよびMetSに関連していた(図2A)。また、主要な多糖類発酵産物である短鎖脂肪酸を含むCAG(hydrophilic CAG8)も特にIRで増加していた。IRとMetSの両方との有意な関連を示した、CAG 5、12、および15の代謝物のKEGG経路分析)により、代謝物が実際に炭水化物代謝に関与することが明らかとなった。具体的には、グルコース、フルクトース、ガラクトース、キシロースなどの単糖類が、IRで有意に増加することを見出した(図2B~E)。対照的に、マルトースやスクロースなどの二糖類は、IRまたはMetSとの関連が弱いか、まったくないことを示し(図2FおよびG)、これらの糖が単糖類に分解されることを意味する。
実施例3 IRにおける微生物と代謝物の相互作用
次に、炭水化物発酵産物の産生における腸内微生物叢の関与および、IRとMetSで増加した特定の脂質代謝物について調査した。最初に、これらの表現型に関連する腸内微生物叢の変化を評価した。16S rRNA遺伝子シークエンシングデータを使用し、その共存在(相関)に基づいて研究参加者の属レベルのマイクロバイオームをプロファイルした。その結果、バクテロイデス目 + クロストリジウム目、ラクノスピラ科、コリオバクテリア科+ ビフィドバクテリア科、およびその他を特徴とする4つの細菌グループを特定した。さらに、微生物プロファイルに基づいて、参加者の3つのクラスターAからCを特定した(図3A)。クラスターAの個人は、バクテロイデス目+クロストリジウム目グループの微生物をより多く保有し、クラスターCの個人は、ラクノスピラ科グループの細菌種をより多く保有していた。特に、IR(図3A、p =0.025)とHOMA-IR(図3B)の比率は、ラクノスピラ科グループをより多く保有するクラスターCで有意に高かった。トリグリセリド(TG)、HDL-C、アディポネクチンなど、IRとMetSに関連する他の代謝パラメーターは、クラスターAとCの間で異なっていた(図3B)。具体的には、ラクノスピラ科のドレア・フォルミシジェネランス(Dorea formicigenerans)種の存在量がIRで増加し、リケネラ科(Rikenellaceae)のアリスティペス(Alistipes)属は負の関連を示した。インスリン感受性の改善作用があるアディポネクチンは、反対方向にこれらの属との相関を示した。これらの知見は、本コホートのISおよびIR関連微生物を特徴づける。
次に、炭水化物発酵産物の産生における腸内微生物叢の関与および、IRとMetSで増加した特定の脂質代謝物について調査した。最初に、これらの表現型に関連する腸内微生物叢の変化を評価した。16S rRNA遺伝子シークエンシングデータを使用し、その共存在(相関)に基づいて研究参加者の属レベルのマイクロバイオームをプロファイルした。その結果、バクテロイデス目 + クロストリジウム目、ラクノスピラ科、コリオバクテリア科+ ビフィドバクテリア科、およびその他を特徴とする4つの細菌グループを特定した。さらに、微生物プロファイルに基づいて、参加者の3つのクラスターAからCを特定した(図3A)。クラスターAの個人は、バクテロイデス目+クロストリジウム目グループの微生物をより多く保有し、クラスターCの個人は、ラクノスピラ科グループの細菌種をより多く保有していた。特に、IR(図3A、p =0.025)とHOMA-IR(図3B)の比率は、ラクノスピラ科グループをより多く保有するクラスターCで有意に高かった。トリグリセリド(TG)、HDL-C、アディポネクチンなど、IRとMetSに関連する他の代謝パラメーターは、クラスターAとCの間で異なっていた(図3B)。具体的には、ラクノスピラ科のドレア・フォルミシジェネランス(Dorea formicigenerans)種の存在量がIRで増加し、リケネラ科(Rikenellaceae)のアリスティペス(Alistipes)属は負の関連を示した。インスリン感受性の改善作用があるアディポネクチンは、反対方向にこれらの属との相関を示した。これらの知見は、本コホートのISおよびIR関連微生物を特徴づける。
次に、腸内微生物とIR関連の糞便代謝物との相互作用を分析した。スピアマン相関に基づくネットワークによって、糞便の炭水化物代謝物がIRと正に相関するドレア属、コプロコッカス(Coprococcus)属、およびブラウチア(Blautia)属などのラクノスピラ科(Lachnospiraceae)グループもしくはコリンゼラ(Collinsella)属などのコリオバクテリア科+ ビフィドバクテリア科グループに属する細菌種と正の相関があり(図3C)、IRと負に相関するアリスティペス属、バクテロイデス属、およびパラバクテロイデス属などのバクテロイデス目+クロストリジウム目グループのいくつかの属と負の相関があることが示唆された。これらの知見により、IR関連代謝物が腸内微生物と正または負に関連することが示唆される。
ドレア属、コリンゼラ属、アリスティペス属、バクテロイデス属など、本研究で示唆されたIRおよびIS関連細菌はまた、中国のコホートにおいて肥満およびやせ腸内微生物叢として示されている(Liu, R., Hong, J., Xu, X. et al. Gut microbiome and serum metabolome alterations in obesity and after weight-loss intervention. Nat Med 23, 859-868 (2017).)。さらに、以前の研究では、いくつかのラクノスピラ科の種が炭水化物発酵に関与していることが示唆されている(H. J. Flint, K. P. Scott, S. H. Duncan, P. Louis, E. Forano, Microbial degradation of complex carbohydrates in the gut. Gut Microbes. 3 (2012)、M. Vacca et al., The Controversial Role of Human Gut Lachnospiraceae. Microorganisms. 8, 573 (2020).)。対照的に、L. A. David et al.( Diet rapidly and reproducibly alters the human gut microbiome. Nature. 505, 559-563 (2014).)によると、アリスティペス属は胆汁酸に耐性があり、多糖類が豊富な食事ではなく動物ベースの食事で増加し、この属はIS対象(B. D. Piening, W. Zhou, T. L. Mclaughlin, G. M. Weinstock, M. P. Snyder, Integrative Personal Omics Profiles during Periods of Weight Gain and Loss. Cell Syst. 6, 157-170.e8 (2018).)と痩せたマウス(V. K. Ridaura et al., Gut microbiota from twins discordant for obesity modulate metabolism in mice. Science. 341 (2013), doi:10.1126/science.1241214.)に豊富に含まれていた。これらの先行研究は、主要栄養素に関する微生物機能がISおよびIR関連代謝物の産生に関与している可能性を提起する。
この仮説に取り組むために、ショットガンメタゲノミクスにより腸内微生物の機能を調べた。糞便の炭水化物代謝物に正に関連するKEGGオルソログは、ホスホトランスフェラーゼシステム(PTS)、デンプンおよびスクロース代謝、ならびにガラクトース代謝などの炭水化物代謝に関連する経路において実際に豊富であった(図3D)。さらに、これらの経路はHOMA-IR、TG、BMIと正の関連があり、アディポネクチンとは逆に負の相関を認めた。対照的に、アミノ酸とエネルギー代謝(例えば、解糖/糖新生およびクエン酸回路)を伴うKEGG経路は、糞便中の炭水化物代謝物と負の関連があった。一貫して、ドレア属やBlautiaなどのIR関連細菌は、PTSやガラクトース代謝などの炭水化物代謝に関連するKEGG経路と正の関連があり、アリスティペス属などのIS関連細菌はクエン酸回路と正の関連があり(図3E~G)、IRにおける糞便の炭水化物代謝の全体的な変化を示唆している。メタゲノム分析とメタボローム分析の間のこれらの一貫した関連は、糞便単糖類の増加が、IRにおける微生物機能の異常に部分的に起因することを示唆している。
実施例4 実験モデルにおけるISおよびIR関連微生物の役割
ヒトのマルチオミクス分析に関するこれらの発見から、腸内微生物発酵産物とIRの宿主病態生理学との間の関連が明らかとなった。腸内微生物叢、炭水化物利用および代謝性疾患の間の因果関係を処理するために、ISおよびIRを代表するいくつかのヒト糞便由来微生物の細菌培養における炭水化物代謝を最初に分析した。無細胞上清のメタボロームの全体像が、ISに関連するアリスティペスグループ、すなわちアリスティペス・ファインゴルディ(AF、JCM16770)およびアリスティペス・インディスティンクタス(AI、JCM16068))、ならびにIRに関連するドレアグループ、すなわちドレア・フォルミシジェネランス(DF、JCM31256)およびドレア・ロンギカテナ(DL、JCM11232)との間で、明確に異なることを、PCAプロットは示す(図4A)。二糖類(すなわち、マルトース、ラクトース、トレハロース、およびセロビオース)は、2つのドレアグループで実質的に低かった(図4B~E)。グルコースはすべての細菌によって消費されたが、マンノースなどの他の単糖類は2つのアリスティペスグループで比較的低かった(図4F~I)。特に、コハク酸、リンゴ酸、2-ケトグルタル酸、およびフマル酸などのクエン酸回路中間体は、アリスティペス株によって豊富に産生されたが、ドレア株ではそうではなく(図4J~M)、これは、メタゲノム分析の結果と一致している(図3G)。これらの知見は、ISおよびIR関連微生物を代表するアリスティペスとドレアが、異なる方法で炭水化物を代謝することを示している。
ヒトのマルチオミクス分析に関するこれらの発見から、腸内微生物発酵産物とIRの宿主病態生理学との間の関連が明らかとなった。腸内微生物叢、炭水化物利用および代謝性疾患の間の因果関係を処理するために、ISおよびIRを代表するいくつかのヒト糞便由来微生物の細菌培養における炭水化物代謝を最初に分析した。無細胞上清のメタボロームの全体像が、ISに関連するアリスティペスグループ、すなわちアリスティペス・ファインゴルディ(AF、JCM16770)およびアリスティペス・インディスティンクタス(AI、JCM16068))、ならびにIRに関連するドレアグループ、すなわちドレア・フォルミシジェネランス(DF、JCM31256)およびドレア・ロンギカテナ(DL、JCM11232)との間で、明確に異なることを、PCAプロットは示す(図4A)。二糖類(すなわち、マルトース、ラクトース、トレハロース、およびセロビオース)は、2つのドレアグループで実質的に低かった(図4B~E)。グルコースはすべての細菌によって消費されたが、マンノースなどの他の単糖類は2つのアリスティペスグループで比較的低かった(図4F~I)。特に、コハク酸、リンゴ酸、2-ケトグルタル酸、およびフマル酸などのクエン酸回路中間体は、アリスティペス株によって豊富に産生されたが、ドレア株ではそうではなく(図4J~M)、これは、メタゲノム分析の結果と一致している(図3G)。これらの知見は、ISおよびIR関連微生物を代表するアリスティペスとドレアが、異なる方法で炭水化物を代謝することを示している。
最後に、肥満マウスモデルにおけるIS関連微生物のIRにおける治療効果を検証した。高脂肪食(HFD)を与えたC57BL/6Nマウスに、AI、アリスティペス・ファインゴルディ(AF)、バクテロイデス・シータイオタオミクロン(BT)、バクテロイデス・キシラニソルベンス(BX)、またはPBSのいずれかを、3週間で6~9回、強制経口投与した。細菌投与後の高脂肪食摂食に伴う体重増加はAI投与により軽度改善した(図5A)。より顕著な変化として、インスリン負荷試験により、HFDを与えたマウスのインスリン抵抗性をAI、AFおよびBTが改善したことも明らかになった(図5BおよびC)。フルクトース、マンノースの盲腸内濃度はAIで有意に低下していた(図5DおよびE)。また、フルクトース、マンノース、グルコース、タガトース、およびプシコースなどの盲腸内濃度は、インスリン負荷試験のAUCと正の相関があった(図5F~J)。アリスティペス・インディスティンクタス(AI)、アリスティペス・ファインゴルディ(AF)、バクテロイデス・シータイオタオミクロン(BT)、バクテロイデス・キシラニソルベンス(BX)、パラバクテロイデス・メルダエ(PM)、クロストリジウム・スパイロフォルメ(CS)、フィーカリバクテリウム・プラウスニッツィイ(FP)またはVehicle(菌体の溶媒)の投与開始4週間後の食後血糖値は、AI、AFおよびBTで有意に低下させた(図5K)。
また、アリスティペス・インディスティンクタス(AI)、アリスティペス・ファインゴルディ(AF)またはVehicle(菌体の溶媒)を投与したマウスにインシュリンを注射して5分後の肝臓(上)および精巣上体脂肪(eWAT、下)におけるAktタンパク質の473位のセリン(S473)でリン酸化されたAktタンパク質(p-Akt)および全Aktタンパク質のウェスタンブロット(図6A)と、該ウェスタンブロットのデンシトメトリー解析に基づく肝臓(図6B)および精巣上体脂肪(図6C)のAktバンドのデンシトメトリー測定値に対して正規化されたp-Aktバンドのデンシトメトリー測定値の相対値から、AIおよびAFがAktタンパク質のリン酸化をVehicleより亢進させた。これはAIおよびAFがインシュリン抵抗性を改善させることをシグナル伝達レベルで実証する結果である。
さらに、アリスティペス・インディスティンクタス(AI)を投与したマウスでは、Vehicle(菌体の溶媒)を投与したマウスと比較して、血清中のHDL-コレステロール(HDL-C)レベルの上昇(図7A)、トリグリセリド類(TG)レベルの低下(図7B)、およびアジポネクチンレベルの上昇(図7C)が認められた。この結果は、AIが、インシュリン抵抗性改善能のある血清成分を増大させ、インシュリン抵抗性悪化につながる血清成分を低減させることを生化学的に実証する結果である。
また、アリスティペス・インディスティンクタス(AI)を投与したマウスでは、Vehicle(菌体の溶媒)を投与したマウスと比較して、血清中のフルクトース(図8A)、ラムノース(図8B)およびグルコース-6-リン酸(図8C)のレベルがいずれも有意に低下した。この結果は、AIが、インシュリン抵抗性悪化につながる血清糖類濃度を低減させることを生化学的に実証する結果である。特にフルクトースは盲腸でも濃度が低下しており(図5D)、AIが、脂肪増加に寄与する糖類を低減させることを確認する結果である。
全体として、これらの知見は、特定の微生物による腸内微生物の炭水化物代謝が、IRおよび代謝異常に関連している、ヒトコホートデータと一致する。
本発明の新規抗肥満・抗糖尿病プロバイオティクスは、ヒトの大規模試験から同定された細菌であること、ヒト腸内代謝に準拠した細菌であることから、過去のプロバイオティクスとは異なり、より代謝異常の発症・増悪メカニズムに基づいた新しい治療・予防法を提供することが可能な点できわめて有用である。本発明のプロバイオティクスは、生菌または凍結乾燥製剤としての利用が可能であり、予防および/または治療剤としての用途に加えて食品または補助食品としても使用可能な点で有用である。
Claims (12)
- 2型糖尿病もしくは肥満の予防および/または治療のための、アリスティペス属細菌及び/又はバクテロイデス属細菌を含む組成物。
- 前記アリスティペス属細菌が、アリスティペス・インディスティンクタス(Alistipes indistinctus)またはアリスティペス・ファインゴルディ(Alistipes finegoldii)である、請求項1に記載の組成物。
- 前記バクテロイデス属細菌が、バクテロイデス・シータイオタオミクロン(Bacteroides thetaiotaomicron)である、請求項1に記載の組成物。
- 前記組成物が、経口投与可能である、請求項1、2または3に記載の組成物。
- 前記組成物が、食品または補助食品である、請求項4に記載の組成物。
- 2型糖尿病または肥満の検出のための、ドレア属細菌または該細菌のゲノムDNAの一部を含む組成物。
- 前記細菌が、以下の工程:
(i)健常者および対象者の糞便を含むサンプルを収集する工程、
(ii)工程(i)で収集したサンプルについて、腸内細菌叢および細菌代謝物をプロファイリングして相関解析を行う工程、および
(iii)工程(ii)の相関解析の結果、有意差を示した細菌を宿主に効果を示す細菌と決定する工程
を含むヒトサンプルの大規模試験によって同定された細菌である、請求項1~3のいずれか1項に記載の組成物。 - 前記細菌が、以下の工程:
(i)健常者および対象者の糞便を含むサンプルを収集する工程、
(ii)工程(i)で収集したサンプルについて、腸内細菌叢および細菌代謝物をプロファイリングして相関解析を行う工程、
(iii)工程(ii)の相関解析の結果、有意差を示した細菌を宿主に効果を示す細菌と決定する工程、および
(iv)血漿を含むサンプルを収集して血漿代謝物との相関解析を行い、有意差を示した微生物を宿主に効果を示す微生物と決定する工程
を含むヒトサンプルの大規模試験によって同定された細菌である、請求項1~3のいずれか1項に記載の組成物。 - 前記細菌が、以下の工程:
(i)健常者および対象者の糞便を含むサンプルを収集する工程、
(ii)工程(i)で収集したサンプルについて、腸内細菌叢および細菌代謝物をプロファイリングして相関解析を行う工程、および
(iii)工程(ii)の相関解析の結果、有意差を示した細菌を宿主に効果を示す細菌と決定する工程
を含むヒトサンプルの大規模試験によって同定された細菌であり、前記対象者が、肥満者および/または耐糖能異常者である、請求項1~3のいずれか1項に記載の組成物。 - 前記細菌が、以下の工程:
(i)健常者および対象者の糞便を含む検体サンプルを収集する工程、
(ii)工程(i)で収集した検体サンプルについて、腸内細菌叢および細菌代謝物をプロファイリングして相関解析を行う工程、
(iii)工程(ii)の相関解析の結果、有意差を示した細菌を宿主に効果を示す細菌と決定する工程、および
(iv)血漿を含む検体サンプルを収集して血漿代謝物との相関解析を行い、有意差を示した微生物を宿主に効果を示す微生物と決定する工程
を含む、ヒト検体サンプルの網羅的解析大規模試験によって同定された細菌であり、前記対象者が、肥満者および/または耐糖能異常者である、請求項1~3のいずれか1項に記載の組成物。 - 前記細菌が、以下の工程:
(i)健常者および対象者の糞便を含むサンプルを収集する工程、
(ii)工程(i)で収集したサンプルについて、腸内細菌叢および細菌代謝物をプロファイリングして相関解析を行う工程、および
(iii)工程(ii)の相関解析の結果、有意差を示した細菌を宿主に効果を示す細菌と決定する工程
を含むヒトサンプルの大規模試験によって同定された細菌であり、前記細菌代謝物が、炭水化物代謝物である、請求項1~3のいずれか1項に記載の組成物。 - 前記細菌が、以下の工程:
(i)健常者および対象者の糞便を含むサンプルを収集する工程、
(ii)工程(i)で収集したサンプルについて、腸内細菌叢および細菌代謝物をプロファイリングして相関解析を行う工程、および
(iii)工程(ii)の相関解析の結果、有意差を示した細菌を宿主に効果を示す細菌と決定する工程、および
(iv)血漿を含む検体サンプルを収集して血漿代謝物との相関解析を行い、有意差を示した微生物を宿主に効果を示す微生物と決定する工程
を含むヒトサンプルの大規模試験によって同定された細菌であり、前記細菌代謝物が、炭水化物代謝物である、請求項1~3のいずれか1項に記載の組成物。
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Cited By (1)
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WO2024048449A1 (ja) * | 2022-08-29 | 2024-03-07 | 株式会社ヤクルト本社 | 腸内細菌を有効成分とする抗肥満剤およびその作製方法 |
-
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WO2024048449A1 (ja) * | 2022-08-29 | 2024-03-07 | 株式会社ヤクルト本社 | 腸内細菌を有効成分とする抗肥満剤およびその作製方法 |
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