JP2022170126A - 未分化度の高い細胞の濃縮方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】再生医療用途の細胞の調製において、大量の細胞から目的の細胞を短時間で分離精製し、かつ目的とする細胞の細胞密度を濃縮した状態で取得可能な技術を提供すること。【解決手段】フコース結合性タンパク質が水に不溶性の担体に固定化されてなる吸着剤を用い、未分化度の異なる細胞集団を含む細胞懸濁液を当該吸着剤に接触させてフコース結合性タンパク質に結合する細胞を吸着剤に結合させたのち、細胞が結合した吸着剤にフコース含有水溶液を接触させて脱着した細胞を回収することにより、前記課題を解決する。【選択図】 なし

Description

本発明はフコース結合性タンパク質を水不溶性の担体に固定化した吸着剤を用いた細胞濃縮方法であり、吸着剤へ細胞を接触させたのち、フコース含有水溶液液を作用させて吸着剤に結合した細胞を脱着させることで、未分化度の高い細胞のみを選択的に濃縮する方法に関する。
グラム陰性細菌(Burkholderia cenocepacia)が産生するBC2L-CレクチンのN末端ドメインに由来するBC2LCNは、フコース残基を含む糖鎖への結合親和性を有するタンパク質であり、例えば、非特許文献1、特許文献1および特許文献2に記載の未分化糖鎖マーカーとして知られているHタイプ1型糖鎖(Fucα1-2Galβ1-3GlcNAc)およびHタイプ3型糖鎖(Fucα1-2Galβ1-3GalNAc)以外に、ルイスY型糖鎖(Fucα1-2Galβ1-4(Fucα1-3)GlcNAc)やルイスX型糖鎖(Galβ1-4(Fucα1-3)GlcNAc)等のフコース残基を含む複数種の糖鎖に高い結合親和性を有することが知られている(非特許文献2)。また、BC2LCNは、Hタイプ1型糖鎖およびHタイプ3型糖鎖が高発現している未分化状態のヒトiPS細胞やヒトES細胞には結合するが、ヒト体細胞には結合しないことが知られている(非特許文献3)。さらに、BC2LCNは前記未分化糖鎖マーカーに結合性を有することから、例えば、未分化糖鎖マーカーを含む複合糖質の検出や、ヒトiPS細胞やヒトES細胞等の未分化細胞の検出に使用されている(特許文献1および特許文献2)。また、Hタイプ1型糖鎖はSSEA-5として特定のがん細胞に高発現していることが知られている(非特許文献4)。
BC2LCNは既知の未分化細胞検出用抗体である抗Nanog抗体等と同等の未分化幹細胞検出能をもっているものの(特許文献2)、BC2LCNと未分化細胞の糖鎖の結合は静電相互作用によるものであり、結合の強さは溶媒や塩濃度等の外環境の影響を受ける。このため、実験条件によっては前記未分化細胞および/または前記未分化糖鎖マーカーを含む複合糖質の検出において、当該糖鎖とBC2LCNの結合親和性が低くなる可能性が考えられることから、前記未分化糖鎖マーカーへの結合親和性が向上したBC2LCNが求められている。BC2LCNを水不溶性担体に固定化した吸着剤を利用した細胞分離方法としては、ヒトiPS細胞などの未分化細胞を除去する細胞分離方法が知られているほか(特許文献3)、さらに吸着剤に結合した未分化細胞を剥離回収する方法が知られている(特許文献4)。
一般的に、細胞の分離および回収操作においては、細胞回収時の細胞の生存率や細胞播種後の増殖性が細胞の品質に関わる重要な要因であり、特に再生医療用途などにおいて大量細胞から特定の細胞を精製する場合、コストや時間の制約を受けることから、より簡便かつ短時間で簡便かつ短時間のプロセスで、細胞機能を維持した状態での細胞濃縮方法が求められている。また、細胞は低濃度で希釈した状態では浸透圧の低下により細胞死が起きやすいことから、可能な限り細胞の分離プロセスにおいて、目的細胞が高濃度で含まれる細胞懸濁液を得ることが必要とされている。
しかしながら、これらの特許文献に開示されている方法では、Hタイプ1型糖鎖およびHタイプ3型糖鎖を発現している細胞と、発現していない細胞の異種細胞混合物より、Hタイプ1型糖鎖およびHタイプ3型糖鎖を発現している細胞のみを分離することはできたが、分離対象となるHタイプ1型糖鎖およびHタイプ3型糖鎖を発現している細胞を、処理した異種細胞混合物中の細胞密度よりも高濃度の状態で細胞液を取得する方法は確立されていなかった。また、一般的な細胞濃縮方法として知られる遠心分離操作では、それぞれの細胞を濃縮することはできるが、未分化度の異なる異種細胞混合物から、未分化度の高い細胞のみを細胞比率を向上した状態で取得することはできなかった。また、遠心分離操作においては細胞にかかる重力負荷のために細胞へのダメージが懸念され、回収細胞における細胞回収率の低下、および生存率の低下が大きな問題となっていた。
加えて、一般的に知られている細胞分離方法である、磁気ビーズによる細胞分離方法(非特許文献5)では、特定の細胞の濃縮は可能であるものの、磁気ビーズが細胞へ接着することによる細胞ダメージや、異物混入といった品質管理上の問題があり、回収した細胞の増殖性・分化指向性への影響が懸念されていた。また、セルソーターによる細胞のソーティング(非特許文献5)、細胞ローリングカラムによる細胞分離方法(非特許文献6)などにおいては、高価な装置を必要とし、大量の細胞処理には多大な時間を要するために細胞生存率が低下する、細胞キャリア液の液量が多い状態での分離に適していることから、細胞の濃縮自体には適さないといった大きな問題点があった。
しかるに現状では、再生医療用途に向け、大量の細胞から目的の細胞を短時間で精度良く分離し、なおかつ細胞密度を濃縮した状態で取得する技術の開発が強く求められていた。
WO2013/065302号 WO2013/128914号 特開2018-134073号公報 特開2019-000063号公報
Tateno,H等,Stem Cells Transl Med.2013,2(4):265-273. Sulak,O等,Structure.2010,18(1):59-72. Tateno,H等,J Biol Chem.2011,286(23):20345-20353. Tang,C等,Nat Biotechnol.2011,29(9):829-835. Fong CY等,Stem Cell Rev Rep.2009,5(1):72-80. Mahara,A等,J Biomater Sci Polym Ed.2014,25(14-15):1590-1601.
本発明の課題は、再生医療用途の細胞の調製において、大量の細胞から目的の細胞を短時間で分離精製し、かつ目的とする細胞の細胞密度を濃縮した状態で取得可能な技術を提供することである。具体的には、細胞表面に存在する未分化マーカー、例えばFucα1-2Galβ1-3GlcNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-3GalNAcからなる構造を含む糖鎖等の発現量の異なる異種細胞集団から、これら未分化マーカーの発現量が高い細胞のみを濃縮する技術を提供することである。より具体的には、フコース結合性タンパク質を水不溶性担体に固定化した吸着剤に細胞集団を接触させたのち、吸着剤に接触させた細胞の細胞液量よりも、少ない液量のフコース含有水溶液を用いて吸着剤に結合した細胞を脱着させることにより、目的の細胞群を簡便に効率良く濃縮する技術を提供することである。
本発明者らは、前記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、フコース結合性タンパク質を水不溶性担体に固定化した吸着剤に、細胞表面に存在する未分化マーカーであるFucα1-2Galβ1-3GlcNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-3GalNAcからなる構造を含む糖鎖等の発現量の異なる異種細胞集団を接触させ、まずこの未分化マーカー発現性が高い細胞群を吸着剤に結合させ、吸着剤に吸着しなかった未分化マーカー発現性が低い細胞群を回収し、次に、未分化マーカー発現性が高い細胞群が結合した吸着剤に、吸着剤に接触させた異種細胞集団の細胞液量よりも少ない液量のフコース含有水溶液を作用させて、吸着剤に結合した細胞を脱着回収することで、細胞表面に存在する未分化マーカーの発現量の高い細胞のみを細胞集団から高濃度の状態で濃縮回収可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下の[1]から[8]に記載した発明を包含するものである。
[1]
フコース結合性タンパク質が水に不溶性の担体に固定化されてなる吸着剤を用いる細胞の濃縮方法であって、未分化度の異なる細胞集団を含む細胞懸濁液を吸着剤に接触させてフコース結合性タンパク質に結合する細胞を吸着剤に結合させる工程と、細胞が結合した吸着剤にフコース含有水溶液を接触させ脱着した細胞を取得する工程とを含む、未分化度の高い細胞の濃縮方法。
[2]
未分化度の異なる細胞集団を含む細胞懸濁液を吸着剤に接触させてフコース結合性タンパク質に結合する細胞を吸着剤に結合させる工程と、細胞が結合した吸着剤に、前記工程で接触させた未分化度の異なる細胞集団の細胞液量よりも少ない液量のフコース含有水溶液を接触させ未分化度の高い細胞を脱着回収する、前記[1]に記載の方法。
[3]
未分化度の異なる細胞集団が、Fucα1-2Galβ1-3GlcNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-3GalNAcからなる構造を含む糖鎖の発現量が異なる異種細胞の混合物である、前記[1]または[2]に記載の方法。
[4]
Fucα1-2Galβ1-3GlcNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-3GalNAcからなる構造を含む糖鎖の発現量の異なる異種細胞群から、当該糖鎖の発現量の高い細胞種の細胞比率が向上し、かつ当該糖鎖の発現量の高い細胞種の細胞密度が、吸着剤に接触させる前の未分化度の異なる細胞集団を含む細胞懸濁液よりも高い細胞懸濁液を得る、前記[1]から[3]のいずれかに記載の方法。
[5]
Fucα1-2Galβ1-3GlcNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-3GalNAcからなる構造を含む糖鎖を有する細胞が、ヒトiPS細胞である、前記[1]から[4]のいずれかに記載の方法。
[6]
フコース結合性タンパク質が以下の(a)から(d)のいずれかである、前記[1]から[5]のいずれかに記載の方法。
(a)配列番号1で示されるアミノ酸配列の1番目のプロリン残基からX番目のアミノ酸残基までのアミノ酸配列を含むフコース結合性タンパク質であって、Xが120以上の整数である、フコース結合性タンパク質。
(b)配列番号1で示されるアミノ酸配列の1番目のプロリン残基からX番目のアミノ酸残基までのアミノ酸配列において、1個または複数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含むフコース結合性タンパク質であって、かつ、Fucα1-2Galβ1-3GlcNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-3GalNAcからなる構造を含む糖鎖への結合親和性を有し、Xが120以上の整数である、フコース結合性タンパク質。
(c)配列番号1で示されるアミノ酸配列の1番目のプロリン残基からX番目のアミノ酸残基までのアミノ酸配列において、以下の(1)から(3)に記載のアミノ酸置換のいずれか1つ以上を含むアミノ酸配列を含み、Xが120以上の整数である、フコース結合性タンパク質
(1)配列番号1で示されるアミノ酸配列の39番目のグルタミン残基の、ロイシン残基への置換
(2)配列番号1で示されるアミノ酸配列の72番目のシステイン残基の、グリシン残基およびアラニン残基から選ばれる1種類のアミノ酸残基への置換
(3)配列番号1で示されるアミノ酸配列の65番目のグルタミン残基の、ロイシン残基への置換
(d)前記(c)のフコース結合性タンパク質のアミノ酸配列において、配列番号1の39番目、65番目および72番目以外の領域に1個若しくは複数個のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、Fucα1-2Galβ1-3GlcNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-3GalNAcからなる構造を含む糖鎖への結合親和性を有する、フコース結合性タンパク質。
[7]
フコース結合性タンパク質が、以下の(e)から(h)のいずれかである、前記[1]から[5]のいずれかに記載の方法。
(e)配列番号1で示されるアミノ酸配列の1番目のプロリン残基からX番目のアミノ酸残基までのアミノ酸配列に対し、さらにN末端にポリヒスチジン配列を含むオリゴペプチドが付加され、かつC末端にシステインを含むオリゴペプチドが付加されたアミノ酸配列からなり、Xが120以上の整数である、フコース結合性タンパク質。
(f)配列番号1で示されるアミノ酸配列の1番目のプロリン残基からX番目のアミノ酸残基までのアミノ酸配列において、1個または複数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列に対し、さらにN末端にポリヒスチジン配列が付加され、かつC末端にシステインを含むオリゴペプチドが付加されたアミノ酸配列からなり、Fucα1-2Galβ1-3GlcNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-3GalNAcからなる構造を含む糖鎖への結合親和性を有し、Xが120以上の整数である、フコース結合性タンパク質。
(g)配列番号1で示されるアミノ酸配列の1番目のプロリン残基からX番目のアミノ酸残基までのアミノ酸配列に対し、さらにN末端にポリヒスチジン配列を含むオリゴペプチドが付加され、かつC末端にシステインを含むオリゴペプチドが付加されたアミノ酸配列において、以下の(4)から(6)に記載のアミノ酸置換のいずれか1つ以上を含むアミノ酸配列を含み、Xが120以上の整数である、フコース結合性タンパク質
(4)配列番号1で示されるアミノ酸配列の39番目のグルタミン残基の、ロイシン残基への置換
(5)配列番号1で示されるアミノ酸配列の72番目のシステイン残基の、グリシン残基およびアラニン残基から選ばれる1種類のアミノ酸残基への置換
(6)配列番号1で示されるアミノ酸配列の65番目のグルタミン残基の、ロイシン残基への置換
(h)前記(g)のフコース結合性タンパク質のアミノ酸配列において、配列番号1の39番目、65番目および72番目以外の領域に1個若しくは複数個のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入若しくは付加されたアミノ酸配列に対し、さらにN末端にポリヒスチジン配列を含むオリゴペプチドが付加され、かつC末端にシステインを含むオリゴペプチドが付加されたアミノ酸配列からなり、Fucα1-2Galβ1-3GlcNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-3GalNAcからなる構造を含む糖鎖への結合親和性を有する、フコース結合性タンパク質。
[8]
カラムに充填してなる吸着剤を用いることを特徴とする、前記[1]から[7]のいずれかに記載の方法。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の未分化度の高い細胞を濃縮方法(以降、本発明の細胞濃縮方法と略する場合もある)は、フコース結合性タンパク質を水不溶性担体に固定化した吸着剤に、未分化度の異なる異種細胞の細胞集団を接触させたのち、吸着剤に結合しなかった細胞群をまず分離し、次に吸着剤に結合した細胞を、吸着剤に接触させた細胞液量よりも少ない液量のフコース含有水溶液を用いて脱着する工程を含む方法である。本発明において、未分化度の高い細胞の濃縮とは、分離対象となる異種細胞混合物中における未分化度の高い細胞の細胞比率よりも、未分化度の高い細胞の細胞比率が向上した細胞懸濁液を取得することであり、かつ、目的とする未分化度の高い細胞の細胞密度を向上した細胞懸濁液を取得することである。
本発明において、未分化マーカーとは、細胞表面に存在する未分化度の指標となる分子のことであり、具体的には上記のフコース結合性タンパク質が結合し得る、フコース含有糖鎖として知られているHタイプ1型糖鎖構造、Hタイプ3型糖鎖構造、ルイスY型糖鎖構造、および/またはルイスb型糖鎖構造を含む糖鎖を有するFucα1-2Galβ1-3GlcNAcからなる構造を含む糖鎖および/またはFucα1-2Galβ1-3GalNAcからなる構造を含む糖鎖を例示することができる。また、本発明における未分化マーカーは、上記糖鎖構造のみに限定されず、一般的に細胞表面の未分化マーカーとして知られているTRA-1-60、TRA-1-81やSSEA-3、SSEA-4、SSEA-5などの糖鎖であっても良い。
本発明において、未分化度の異なる細胞とは、細胞表面における前記未分化マーカーの発現性が異なるものを言う。未分化マーカーとして前記フコース結合性タンパク質が結合し得る糖鎖を例とした場合、未分化マーカー分子を有する細胞の割合については、例えばK562細胞(ヒト慢性骨髄性白血病)やNHDF細胞(ヒト皮膚線維芽細胞)には前記フコース結合性タンパク質と結合する糖鎖を有する細胞が細胞集団に存在しないことが知られている。また2102Ep細胞(ヒト胚性腫瘍細胞)などは、細胞集団のうち5割から8割程度が前記フコース結合性タンパク質と結合する糖鎖を発現しており、またヒトiPS細胞201B7株(以下、201B7細胞と略す)では、ほぼ100%に近い細胞が前記フコース結合性タンパク質と結合する糖鎖を発現していることが知られている。
このように種類の異なる細胞種(以下、異種細胞と略す)では未分化マーカー分子を有する細胞の割合は異なると考えられる。また、異種細胞の未分化度の比較において、仮にそれぞれの細胞種が、前記フコース結合性タンパクと結合する糖鎖を同じ割合の細胞数で発現しているとしても、異種細胞であれば細胞表面に存在する未分化マーカー分子の個数や密度は異なると考えられる。また、異種細胞のさらに別の形態のひとつとして、単一の細胞種であっても、個々の細胞ごとに細胞表面に存在する未分化マーカー分子の個数や密度が異なるものが混在する場合も含まれる。例えば未分化マーカーが前記フコース結合性タンパク質と結合し得る糖鎖である場合、例えばヒトiPS細胞である201B7細胞の場合、前述のようにほぼ100%に近い細胞が前記フコース結合性タンパクと結合する糖鎖を発現していることが知られているものの、培養状態によっては未分化度の低い未分化逸脱細胞が存在することが知られている。この場合も、本発明においては、201B7細胞と未分化逸脱201B7細胞は単一の細胞種であっても異種細胞と考えることができる。本発明では、これらいずれの形態の異種細胞混合物であっても濃縮対象とすることが可能であり、目的とする未分化度の高い細胞以外の夾雑細胞を除去し、なおかつ目的とする未分化度の高い細胞を高濃度で取得することができる。
本発明の細胞濃縮方法は、フコース結合性タンパク質を水不溶性担体に固定化した吸着剤に細胞集団を接触させたのち、吸着剤に結合しない細胞群をまず分離し、次いで吸着剤に結合した細胞にフコース含有水溶液を接触させ、脱着した細胞群を取得する工程を含む。この細胞脱着工程においては、溶液中のフコース分子が細胞表面のフコース結合性糖鎖と結合することで、吸着剤のフコース結合性タンパク質と細胞間の結合が解離し、吸着剤に結合した細胞が脱着するものと考えられる。なお、フコース含有水溶液を調製する溶液としては、細胞の生存性に支障があるものでなければ特に限定されず、水、MACS緩衝液((リン酸緩衝液であるPBSに0.5%(w/v)bovine serum albumin(以下、BSAと略す。)と2mM エチレンジアミン四酢酸(以下、EDTAと略す。)を添加したもの))、またはマンニトール水溶液など、様々な溶媒を用いることが可能である。また、フコース含有水溶液の組成は必要に応じ適宜調整することが可能であり、例えば細胞が脱着しにくい場合は、マンニトールの濃度を0.5~0.7Mにすることで浸透圧による細胞収縮を起こしたり、10mM程度のEDTAを添加して細胞の吸着剤への非特異吸着を抑制することで、細胞の脱着を促進することが可能である。その他にも、細胞の生存率を高める試薬を添加することや、pHの変動を抑制するために緩衝液をベース液に用いることも可能である。
本発明におけるフコース含有水溶液のフコース濃度としては、20mM~1.0Mが好ましく、40mM~800mMがさらに好ましく、60mM~700mMが最も好ましい。また水溶液に用いるフコースの構造に関しては、D体、L体のいずれでも構わないが、自然界に一般的に存在するL体を使用することが経済面から好ましい。 本発明の細胞濃縮方法は、濃縮対象となる細胞を含む異種細胞混合物を懸濁した細胞液の細胞液量よりも、少ない液量のフコース含有水溶液を用いて目的の未分化度の高い細胞を脱着させることで濃縮することを特徴とする。本発明においては、吸着剤に接触させる異種細胞混合物を懸濁した細胞液の細胞密度や細胞液量は特に限定されないが、例えば10^3個/mLから10^4個/mLの低い細胞密度の細胞液を1mL~100mL程度、吸着剤を充填したカラムに通液して処理することも可能である。この場合、吸着剤に吸着した未分化度の高い細胞を脱着および濃縮するために、例えば処理対象となる細胞液量の1/10量である0.1mL~10mLのフコース含有水溶液を用いることができ、処理対象となる異種細胞混合物中の細胞比率および細胞密度よりも高い状態での、未分化度の高い細胞の濃縮が可能である。
本発明の細胞濃縮方法は、カラム状に充填してなる吸着剤を用いることで、大量の細胞液を連続して通液処理することができるため、特に培養基材からトリプシンなどの酵素を用いて回収した培養細胞の懸濁液など、細胞密度が低く液量が多いような細胞液から、直接目的の細胞を濃縮する場合において極めて有効な手段である。培地や細胞懸濁液に含まれる夾雑成分が、未分化度の高い細胞と吸着剤の結合を妨げると考えられる場合は、回収した細胞液を適宜MACS緩衝液などで希釈した上で、吸着剤との接触を行えば良い。
本発明の細胞濃縮方法は、細胞密度が高い状態で目的の未分化度の高い細胞を回収することで細胞懸濁液中の細胞の浸透圧を好適な状態に保つことができ、生存性の高い高品質な細胞を得ることが可能である。このため、細胞活性の低下に伴う増殖性や分化志向性の低下を抑制することができ、精製・濃縮した細胞を未分化維持培養あるいは分化誘導培養などに用いる際の、細胞調製方法としても極めて有効な手段である。
次に、本発明の細胞濃縮方法におけるフコース結合性タンパク質について説明する。本発明の細胞濃縮方法におけるフコース結合性タンパク質とは、Hタイプ1型糖鎖(Fucα1-2Galβ1-3GlcNAc)、Hタイプ3型糖鎖(Fucα1-2Galβ1-3GalNAc)、ルイスY型糖鎖(Fucα1-2Galβ1-4(Fucα1-3)GlcNAc)、ルイスb型糖鎖(Fucα1-2Galβ1-3(Fucα1-4)GlcNAc)等のフコース含有糖鎖への結合性を有するタンパク質であり、前述した組換えBC2LCNレクチンも本発明の細胞濃縮方法におけるフコース結合性タンパク質に含まれる。本発明の細胞濃縮方法におけるフコース結合性タンパク質は、具体的には、(a):配列番号1で示される組換えBC2LCNレクチンのアミノ酸配列(GenPeptに登録番号WP_006490828として登録されているアミノ酸配列の2番目から156番目までのアミノ酸配列と一致する。)のうち1番目のプロリンからX番目のアミノ酸までのアミノ酸配列を含むタンパク質であって、Xが120以上の整数であるタンパク質、または(b):配列番号1で示されるアミノ酸配列の1番目のプロリンからX番目のアミノ酸までのアミノ酸配列において、1個若しくは複数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、Hタイプ1型糖鎖および/またはHタイプ3型糖鎖への結合性を有し、Xが120以上の整数であるタンパク質を、大腸菌の形質転換体で組換えタンパク質として発現させたものである。
本発明の細胞濃縮方法におけるフコース結合性タンパク質は、前記フコース含有糖鎖、特にFucα1-2Galβ1-3GlcNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-3GalNAcからなる構造を含む糖鎖への結合性を有している限り、配列番号1で示されるアミノ酸配列の1番目のプロリンからX番目のアミノ酸までのアミノ酸配列において、1個若しくは複数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加してもよく、例えば15個以下、好ましくは10個以下のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加してもよい。また、Xは120以上155以下であってよく、125以上155以下であってよい。特開2020-25535に開示されているように、本発明の細胞濃縮方法におけるフコース結合性タンパク質は、配列番号1で示されるアミノ酸配列のC末端側の複数個のアミノ酸残基を欠失させることにより、当該アミノ酸残基を欠失させない場合に比べて大腸菌の形質転換体で製造した場合の生産性(発現量)を向上させることができる。
また、本発明の細胞濃縮方法におけるフコース結合性タンパク質は、熱に対する安定性を向上させる点で、(i)配列番号1で示されるアミノ酸配列の39番目のグルタミン残基のロイシン残基への置換、(ii)配列番号1で示されるアミノ酸配列の72番目のシステイン残基のグリシン残基および/またはアラニン残基から選ばれる1種類のアミノ酸残基への置換、(iii)配列番号1で示されるアミノ酸配列の65番目のグルタミン残基の、ロイシン残基への置換、のいずれか1つ以上を含んでいてもよい。特開2020-25535に開示されているように、前記(i)から(iii)に記載のアミノ酸置換を行うことにより、本発明の細胞濃縮方法におけるフコース結合性タンパク質の熱に対する安定性を向上させることができる。前記(i)から(iii)に記載のアミノ酸置換は、単独であっても複数を組み合わせても熱に対する安定性の向上に効果があるが、熱に対する安定性をさらに向上させることができる点で、前記(i)から(iii)に記載のアミノ酸置換を複数組合せることがより好ましい。さらに、本発明の細胞濃縮方法におけるフコース結合性タンパク質は、Fucα1-2Galβ1-3GlcNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-3GalNAcからなる構造を含む糖鎖への結合性を有している限り、配列番号1で示されるアミノ酸配列の1番目のプロリンからX番目のアミノ酸までのアミノ酸配列において、前記(i)から(iii)の置換により置換された位置以外の領域に1個若しくは複数個のアミノ酸残基を欠失、置換若しくは挿入してもよく、例えば15個以下、好ましくは10個以下のアミノ酸残基を欠失、置換若しくは挿入してもよい。
本発明の細胞濃縮方法におけるフコース結合性タンパク質の具体例としては、配列番号1、配列番号2(配列番号1で示されるアミノ酸配列のうち1番目から127番目までのアミノ酸配列)、配列番号3(配列番号2の72番目のシステイン残基をグリシン残基に置換したアミノ酸配列)、配列番号4(配列番号2の39番目のグルタミン残基をロイシン残基に、72番目のシステイン残基をグリシン残基に置換したアミノ酸配列)、配列番号5(配列番号2の39番目のグルタミン残基をロイシン残基に、65番目のグルタミン残基をロイシン残基に、72番目のシステイン残基をグリシン残基に置換したアミノ酸配列)、配列番号6(配列番号1で示されるアミノ酸配列のN末端にポリヒスチジン配列を含むオリゴペプチドを、C末端にシステイン残基を含むオリゴペプチドを付加したアミノ酸配)、配列番号7(配列番号2で示されるアミノ酸配列のN末端にポリヒスチジン配列を含むオリゴペプチドを、C末端にシステイン残基を含むオリゴペプチドを付加したアミノ酸配)、配列番号8(配列番号3で示されるアミノ酸配列のN末端にポリヒスチジン配列を含むオリゴペプチドを、C末端にシステイン残基を含むオリゴペプチドを付加したアミノ酸配)、配列番号9(配列番号4で示されるアミノ酸配列のN末端にポリヒスチジン配列を含むオリゴペプチドを、C末端にシステイン残基を含むオリゴペプチドを付加したアミノ酸配)および配列番号10(配列番号5で示されるアミノ酸配列のN末端にポリヒスチジン配列を含むオリゴペプチドを、C末端にシステイン残基を含むオリゴペプチドを付加したアミノ酸配)のいずれかで示されるフコース結合性タンパク質を挙げることができる。
本発明の細胞濃縮方法におけるフコース結合性タンパク質は、Fucα1-2Galβ1-3GlcNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-3GalNAcからなる構造を含む糖鎖への結合性を有している限り、そのN末端側および/またはC末端側に、フコース結合性タンパク質を検出する際に有用な付加的なアミノ酸配列を有していてもよい。前記付加的なアミノ酸配列としては、ポリヒスチジン配列を含むオリゴペプチド、グルタチオンS-トランスフェラーゼ(以下、GSTとする。)、マルトース結合タンパク質、セルロース結合性ドメイン、mycタグ、FLAGタグ等が挙げられる。
これらの付加的なアミノ酸配列の中では、大腸菌を用いて製造した場合の生産性が高く、蛍光標識した抗ポリヒスチジン抗体あるいは抗GST抗体を用いることでフコース結合性タンパク質の検出が容易に行える点で、ポリヒスチジン配列を含むオリゴペプチドあるいはGSTであることが好ましく、ポリヒスチジン配列を含むオリゴペプチドであることがより好ましい。ポリヒスチジン配列を含むオリゴペプチドにおけるヒスチジンの繰返し配列数特に制限はないが、ヒスチジンの繰返し配列が短い場合は抗ポリヒスチジン抗体による検出が困難となり、長い場合は、フコース結合性タンパク質の前記糖鎖への結合性が損なわれる可能性がある。従って、ポリヒスチジン配列を含むオリゴペプチドにおけるヒスチジンの繰返し配列数の長さはヒスチジンが5個から15個からなる繰返し配列であることが好ましく、5個から10個からなる繰返し配列であることがより好ましい。前記ポリヒスチジン配列を含むオリゴペプチドがフコース結合性タンパク質に付加する位置に特に制限はなく、N末端側とC末端側の双方、または、N末端側或いはC末端側のいずれかであってもよいが、抗ポリヒスチジン抗体による検出が効率的に行える点で、前記ポリヒスチジン配列を含むオリゴペプチドはフコース結合性タンパク質のN末端側に付加されていることが好ましい。
さらに、本発明の細胞濃縮方法におけるフコース結合性タンパク質は、そのN末端側および/またはC末端側に、フコース結合性タンパク質を水不溶性の担体に固定化する際に有用な、システイン残基またはリジン残基を含むオリゴペプチドからなる付加的なアミノ酸配列(以下、担体固定化用タグと呼ぶ。)を有していても良い。フコース結合性タンパク質を担体に固定化することで、例えば、特許文献3に記載されているヒトiPS細胞等の未分化細胞を除去するための未分化細胞吸着剤を作製することができる。前記担体固定化用タグの長さは、フコース結合性タンパク質がFucα1-2Galβ1-3GlcNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-3GalNAcからなる構造を含む糖鎖への結合性を有している限り、特に制限はない。担体固定化用タグとしては、水不溶性担体への固定化が高選択的かつ高効率に行える点で、システイン残基を1つ以上含む2から10アミノ酸残基からなるオリゴペプチドが好ましく、具体的には、「Gly-Gly-Cys」の3アミノ酸残基からなるオリゴペプチド、「Ala-Ser-Gly-Gly-Cys」の5アミノ酸残基からなるオリゴペプチドおよび「Gly-Gly-Gly-Ser-Gly-Gly-Cys」の7アミノ酸残基からなるオリゴペプチドを例示することができる。前記システインを1つ以上含むオリゴペプチドがフコース結合性タンパク質に付加する位置に特に制限はなく、N末端側とC末端側の双方、N末端側或いはC末端側のいずれかであってもよいが、フコース結合性タンパク質の担体への固定化が効率的に行える点、さらにはフコース結合性タンパク質の活性中心から離れるため結合活性を阻害しにくいという点において、前記システイン残基を1つ以上含むオリゴペプチドはフコース結合性タンパク質のC末端側に付加されていることが好ましい。
本発明の細胞濃縮方法におけるフコース結合性タンパク質のN末端側には、宿主での効率的な発現を促すためのシグナルペプチドを付加してもよい。宿主が大腸菌の場合における前記シグナルペプチドとしては、PelB、DsbA、MalE、TorT等といったペリプラズムにタンパク質を分泌させるシグナルペプチドを例示することができる。本発明の細胞濃縮方法におけるフコース結合性タンパク質をコードするDNAは、公知の方法により調製することができる。
前記DNAの調製法として、本発明の細胞濃縮方法におけるフコース結合性タンパク質のアミノ酸配列から塩基配列に変換し、当該塩基配列を含むDNAを人工的に合成する方法や、本発明の細胞濃縮方法におけるフコース結合性タンパク質をコードするDNAを直接人工的に調製する方法、またはBurkholderia cenocepaciaのゲノムDNA等からPCR法などのDNA増幅法を用いて調製する方法を例示することができる。なお、当該調製法において、前記塩基配列を設計する際は、形質転換する大腸菌におけるコドンの使用頻度を考慮することが好ましく、例えば、アルギニン(Arg)ではAGA、AGG、CGGまたはCGAが、イソロイシン(Ile)ではATAが、ロイシン(Leu)ではCTAが、グリシン(Gly)ではGGAが、プロリン(Pro)ではCCCが、それぞれ使用頻度が少ないコドン(レアコドン)であるため、これらのコドン以外のコドンを選択して変換することが好ましい。コドンの使用頻度の解析は公的データベース(例えば、かずさDNA研究所のホームページにあるCodon Usage Database、http://www.kazusa.or.jp/codon/、アクセス日:2020年5月7日)を利用することによっても可能である。
前記方法により調製したフコース結合性タンパク質をコードするDNAを用いて大腸菌を形質転換するには、当該DNAそのものを用いて形質転換してもよいが、例えば、原核細胞や真核細胞の形質転換に通常用いるバクテリオファージ、コスミドまたはプラスミド等を基にしたベクター中の適切な位置に当該DNAを挿入して発現ベクターとし、それを用いて形質転換することが、安定した形質転換が実施できる点で好ましい。ここで、適切な位置とは、発現ベクターの複製機能、所望の抗生物質マーカー、および伝達性に関わる領域を破壊しない位置を意味する。またベクターに当該DNAを挿入する際は、発現に必要なプロモータといった機能性DNAに連結される状態でベクターに挿入することが好ましい。前記発現ベクターとして使用するベクターは、宿主内で安定に存在し複製できるものであれば特に制限はなく、pETベクター、pUCベクター、pTrcベクター、pCDFベクター、pBBRベクター等が例示できる。また、前記プロモータとしては、trpプロモータ、tacプロモータ、trcプロモータ、lacプロモータ、T7プロモータ、recAプロモータ、lppプロモータ、さらにはλファージのλPLプロモータ、λPRプロモータ等を挙げることができる。前記発現ベクターを用いて宿主である大腸菌を形質転換するには、当業者が通常用いる方法で行えばよく、例えば、宿主として大腸菌JM109株、大腸菌BL21(DE3)株、大腸菌NiCo21(DE3)株、大腸菌W3110株などを選択する場合には、公知の文献(例えば、Molecular Cloning,Cold Spring Harbor Laboratory,256,1992)に記載の方法等を使用することができる。
次に、本発明におけるフコース結合性タンパク質の製造方法について説明する。本発明におけるフコース結合性タンパク質は、前記形質転換体を培養することでフコース結合性タンパク質を生産する工程(以下、第1工程という。)と、得られた培養物からフコース結合性タンパク質を回収する工程(以下、第2工程という。)の2つの工程を含む工程により製造することができる。なお本明細書において、培養物とは、培養された形質転換体の細胞自体や細胞分泌物のほか、培養に用いた培地等も含まれる。前記第1工程では、形質転換体をその培養に適した培地で培養すればよい。
例えば、宿主として大腸菌を用いた場合、必要な栄養源を補ったTerrific Broth(TB)培地、Luria-Bertani(LB)培地等を使用することが好ましい。発現ベクターが薬剤耐性遺伝子を含む場合、その遺伝子に対応した薬剤を培地に添加して第1工程を実施すれば、形質転換体の選択的増殖が可能となり、例えば、当該発現ベクターがカナマイシン耐性遺伝子を含んでいる場合は、培地にカナマイシンを添加することが好ましい。培養温度は利用する宿主に関して一般的に知られた温度であればよく、例えば宿主が大腸菌である場合、10℃から40℃、好ましくは20℃から37℃であり、フコース結合性タンパク質の製造量等を勘案しつつ、適宜決定すればよい。
また、培地のpHは、利用する宿主に関して一般的に知られたpH範囲とすればよく、例えば宿主が大腸菌である場合、pH6.8からpH7.4の範囲、好ましくはpH7.0前後であり、フコース結合性タンパク質の製造量等を勘案しつつ、適宜決定すればよい。発現ベクターに誘導性のプロモータを導入した場合は、フコース結合性タンパク質が良好に製造可能な条件下で培地に誘導剤を添加してその発現を誘導すればよい。好ましい誘導剤としては、例えば、tacプロモータやlacプロモータを使用する場合はisopropyl-β-D-thiogalactopyranoside(IPTG)を挙げることができ、その添加濃度は0.005mMから1.0mMの範囲、好ましくは0.01mMから0.5mMの範囲である。IPTG添加による発現誘導は、利用する宿主に関して一般的に知られた条件で行なえばよい。
前記第2工程では、第1工程で得られた培養物から一般的に知られた回収方法によってフコース結合性タンパク質を回収する。例えば、フコース結合性タンパク質が培養液中に分泌生産される場合は細胞を遠心分離操作によって分離し、得られる培養上清からフコース結合性タンパク質を回収すればよく、細胞内(原核生物においてはペリプラズムも含む)に発現する場合は、遠心分離操作により細胞を集めた後、酵素処理剤や界面活性剤等を添加する等により細胞を破砕し、細胞破砕液からフコース結合性タンパク質を回収すればよい。また、フコース結合性タンパク質の純度を向上させたい場合には、当該技術分野において公知の方法を用いればよく、一例として、液体クロマトグラフィーを用いた分離精製法を挙げることができる。液体クロマトグラフィーとしては、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等を使用することが好ましく、これらのクロマトグラフィーを組み合わせて行なうことがより好ましい。
また、前記クロマトグラフィーにより精製したフコース結合性タンパク質の純度および分子量は当該技術分野において公知の方法を用いて調べればよく、一例として、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)法やゲルろ過クロマトグラフィー法を挙げることができる。
本発明におけるフコース結合性タンパク質の糖鎖への結合親和性は、Enzyme-linked immunosorbent assay法や表面プラズモン共鳴法等により評価することができる。一例として、表面プラズモン共鳴法について説明する。表面プラズモン共鳴法による結合親和性評価は、例えば、Biacore T200機器(Cytiva製)を用い、アナライトをフコース結合性タンパク質、固相を糖鎖(Fucα1-2Galβ1-3GlcNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-3GalNAcからなる構造を含む糖鎖)として測定することができる。糖鎖を固定したセンサーチップの作製は、ビオチン標識糖鎖を利用して、ストレプトアビジンをコートしたセンサーチップ(Sensor Chip SA、Cytiva製)や、デキストランがコートされたセンサーチップ(Sensor Chip CM5、Cytiva製)にあらかじめストレプトアビジンを固定したものを利用して行うことができる。また、結合性親和評価は当該機器に付属のカイネティクス解析プログラムを利用して行うことができる。
次に、本発明の細胞濃縮方法における吸着剤について説明する。本発明の細胞濃縮方法における吸着剤に使用する水不溶性担体の原料に特に制限はなく、シリカゲルや金薄膜を蒸着させたガラスなどの無機系担体、アガロース、セルロース、キチン、キトサン等の多糖類を原料とした水に不溶性の多糖系担体およびそれらを架橋剤で架橋した架橋多糖系担体、デキストラン、プルラン、デンプン、アルギン酸塩、カラギーナン等の水溶性多糖類を架橋剤で架橋した架橋多糖系担体、ポリ(メタ)アクリレート、ポリビニルアルコール、ポリウレタン、ポリスチレン等の合成高分子系担体およびそれらを架橋剤で架橋した架橋合成高分子系担体を例示することができる。これらの担体の中では、水酸基を有し、後述する親水性高分子による修飾が容易に行える点で、アガロース、セルロース、デキストラン、プルラン等の電荷をもたない多糖系担体およびそれらを架橋剤で架橋した架橋多糖系担体や、ポリ(メタ)アクリレートやポリウレタン等の親水性合成高分子系担体およびそれらを架橋剤で架橋した架橋親水性合成高分子系担体が好ましい。また、吸着剤に使用する水不溶性担体は、細胞の非特異吸着を抑制する点で、前記の水不溶性担体表面が親水性高分子で修飾されていることが好ましく、親水性高分子が水不溶性担体に共有結合で固定されていることがより好ましい。
水不溶性担体の表面を修飾する親水性高分子としては、アガロース、セルロース、デキストラン、プルラン、デンプン等の中性多糖類や、ポリ(2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート)やポリビニルアルコール等の水酸基を有する合成高分子を例示することができる。これら親水性高分子の中では、親水性が高く、不溶性担体表面への共有結合による固定が容易に行える点で、デキストラン、プルランおよびデンプンなどの中性多糖類が好ましく、デキストランおよびプルランがより好ましい。デキストランおよびプルランの分子量に特に制限はないが、不溶性担体表面の親水性修飾が十分に行える点で、数平均分子量が10,000から1,000,000のものが好ましい。吸着剤に使用する水不溶性担体の形状に特に制限はなく、粒子状、スポンジ状、平膜状、平板状、中空状、繊維状のいずれであってもよいが、吸着剤への細胞吸着を効率的に行える点で粒子状の担体であることが好ましく、真球状の粒子状担体であることがより好ましい。
本発明の細胞濃縮方法における吸着剤に使用する水不溶性担体の、水に膨潤させた状態での平均粒径(メジアン径)は、担体から製造される吸着剤をカラムに充填した場合に濃縮対象の細胞が吸着剤表面と十分接触し、かつ吸着剤に結合しない細胞が吸着剤間の隙間を淀みなく通過できる点で、好ましくは100μm以上1000μm以下であり、より好ましくは100μm以上500μm以下であり、さらに好ましくは150μm以上300μm以下である。
粒径が100μm未満の場合には、吸着剤に結合しない細胞が吸着剤間の隙間を通過しづらくなり、細胞の回収率が低下する。また、粒径が1000μm超の場合には、吸着剤に結合する細胞と吸着剤表面の接触が不十分となり、吸着剤に結合する細胞と結合しない細胞の分離効率が低下する。不溶性担体の粒径は、例えば、ベックマンコールター(株)製の精密粒度分布測定装置(製品名「Multisizer 3」)などを用いて測定することができる。あるいは、光学顕微鏡を用いて目盛り付きスライドグラスの画像を撮影したのち、同じ倍率で測定対象の複数個の粒子の画像を撮影し、物差しを用いて撮影した複数個の担体の粒径を測定し、その平均値を算出することで求めることができる。
吸着剤に使用する水不溶性担体の細孔の有無に特に制限はなく、多孔性または無孔性のいずれであってもよい。また、本発明の吸着剤に使用する水不溶性担体は、本発明の吸着剤に使用するフコース結合性タンパク質を担体に固定化するための活性官能基導入が容易に行える点で、水酸基を有する粒子状担体であることが好ましい。さらに、本発明の吸着剤に使用する水不溶性担体は市販品を使用してもよく、例えば、ポリ(メタ)アクリレートを原料としたトヨパール(東ソー製)、アガロースを原料としたSepharose(GEヘルスケア製)、セルロースを原料としたセルフィア(旭化成製)等を使用することができる。
本発明の細胞濃縮方法における吸着剤は、水不溶性担体から反応性水不溶性担体を製造する工程(以下、工程Xとする。)と、該反応性水不溶性担体にフコース結合性タンパク質を作用させて固定化する工程(以下、工程Yとする。)の2つの工程を含む工程により製造することができる。以下に工程Xと工程Yの詳細を説明する。
工程Xは、水不溶性担体にフコース結合性タンパク質を固定化するための反応性官能基を導入して反応性水不溶性担体を製造する工程である。水不溶性担体に本発明のフコース結合性タンパク質を固定化するため反応性官能基は、一般的なタンパク質固定化用の官能基であれば特に制限されず、エポキシ基、ホルミル基、カルボキシル基、活性エステル基、アミノ基、マレイミド基、ハロアセチル基等を例示することができる。水不溶性担体に前記官能基を導入する方法は、一般的な官能基導入方法であれば特に制限はされず、例えば、特許文献3に記載されている方法に従って行えばよい。
工程Yは、工程Xで製造した反応性水不溶性担体に、本発明におけるフコース結合性タンパク質を固定化する工程である。工程Xで得られた反応性水不溶性担体にフコース結合性タンパク質を固定化する方法は、一般的なタンパク質の固定化方法であれば特に制限はされず、例えば、特許文献3に記載されている方法に従って行えばよい。
水不溶性担体へのフコース結合性タンパク質の固定化量は、本発明の細胞濃縮方法において濃縮対象となる細胞とフコース結合性タンパク質との結合性を考慮したうえで適宜設定すればよく、1mLの水不溶性担体あたり0.01mg以上50mg以下が好ましく、0.05mg以上30mg以下がより好ましい。また、水不溶性担体へのフコース結合性タンパク質の固定化量は、固定化反応時の前記タンパク質の使用量や水不溶性担体への活性官能基導入量を調節することにより調整することができる。フコース結合性タンパク質の水不溶性担体への固定化量は、固定化反応液および反応後の洗浄液を回収して未反応のフコース結合性タンパク質量を求めたのち、固定化反応に使用したフコース結合性タンパク質量から未反応の本発明のフコース結合性タンパク質量を差し引くことで算出することができる。
また、前述したように、本発明における吸着剤に使用する水不溶性担体は、細胞の非特異吸着を抑制する点で、親水性高分子が共有結合で固定されていることが好ましいことから、吸着剤を製造する場合には、前記工程Xで本発明のフコース結合性タンパク質を固定化するための官能基を導入する前に、水不溶性担体に親水性高分子を共有結合で固定することもできる。水不溶性担体に親水性高分子を共有結合で固定する方法は、一般的な共有結合形成反応であれば特に制限はなく、例えば、水不溶性担体表面の水酸基とエピクロロヒドリン、エチレングリコールジグリシジルエーテル、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル等のエポキシ基含有化合物を塩基性条件下で反応させることで水不溶性担体にエポキシ基を導入したのち、エポキシ基と親水性高分子の水酸基を塩基性条件下で反応させる方法を挙げることができる。
本発明の細胞濃縮方法は、フコース結合性タンパク質を水不溶性担体に固定化した吸着剤を用いることで、Fucα1-2Galβ1-3GlcNAcからなる構造を含む糖鎖および/またはFucα1-2Galβ1-3GalNAcからなる構造を含む糖鎖を有する細胞、特にヒトiPS細胞の濃縮にとりわけ有効な細胞濃縮方法である。本発明の細胞濃縮方法により、Fucα1-2Galβ1-3GlcNAcからなる構造を含む糖鎖および/またはFucα1-2Galβ1-3GalNAcからなる構造を含む糖鎖を有さない夾雑細胞、および/またはヒトiPS細胞の培養中に生じる未分化逸脱細胞を除去でき、なおかつFucα1-2Galβ1-3GlcNAcからなる構造を含む糖鎖および/またはFucα1-2Galβ1-3GalNAcからなる構造を含む糖鎖の発現性、つまり未分化度が高い、高品質なヒトiPS細胞を細胞比率、細胞密度共に高い状態で得ることができる。また、本発明の細胞濃縮方法は既存の方法である磁気ビーズによる細胞分離・濃縮方法、セルソーターによる細胞のソーティング、細胞ローリングカラムによる細胞分離・濃縮方法と比べ、大量の細胞を簡便に短時間で処理することができ、なおかつ未分化度の高い細胞を細胞密度が高い状態で取得することで、細胞の生存率が高い状態で回収することが可能であり、細胞分離プロセスに起因する細胞死や細胞活性低下を最小限にとどめることが出来る。本発明は、特に再生医療用途に向けた、生存性・分化志向性に優れた高品質なヒトiPS細胞の大量精製にきわめて有効な手段である。
実施例1における、各細胞画分における201B7細胞とヒト間葉系幹細胞の密度を示したグラフである。 実施例1における、各細胞画分における201B7細胞とヒト間葉系幹細胞の細胞比率を示したグラフである。 実施例2における、各細胞画分における201B7細胞とK562細胞の密度を示したグラフである。 実施例2における、各細胞画分における201B7細胞とK562細胞の細胞比率を示したグラフである。 実施例3における、各細胞画分における201B7細胞と2102Ep細胞の密度を示したグラフである。 実施例3における、各細胞画分における201B7細胞と2102Ep細胞の細胞比率を示したグラフである。
以下、作製例、実施例をあげて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
作製例1 吸着剤127Q39L/C72Gの作製
特開2020-025535の実施例34に記載の方法に従い、フコース結合性タンパク質127Q39L/C72G(配列番号9で示されるアミノ酸配列)を水不溶性担体に固定化した吸着剤127Q39L/C72Gを作製した。
実施例1 フコース結合性タンパク質を固定化した吸着剤による201B7細胞とヒト間葉系幹細胞の混合物からの201B7細胞の濃縮
実施例1は、前記作製例1で製造した吸着剤を利用した、201B7細胞とヒト間葉系幹細胞の混合物からの201B7細胞の濃縮方法に関するものである。
(1)吸着剤を充填したカラムの作製
2.5mL容シリンジ(テルモ製)と注射針(テルモ製、22G)の間に目開き40μ
Mのポリエステルメッシュフィルター(BioLab製)を装着したカラムを作製した。
次に、作製例1で作製した吸着剤127Q39LC72GをMACS緩衝液で置換したのち、12時間以上放置後の吸着剤の沈降体積が50%となるように調整した吸着剤の50%懸濁液を調製し、作製したカラムに1.0mLを添加して、各吸着剤をカラムに充填した(吸着剤容量:500μL)。同一のカラムを2本準備した。
(2)201B7細胞の培養と細胞懸濁液の調製
Fucα1-2Galβ1-3GlcNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-3GalNAcからなる構造を含む糖鎖を有するヒトiPS細胞として、iPSアカデミアジャパン社からライセンスを受け、購入したヒトiPS細胞201B7株(以下、201B7細胞と略する場合もある。)を用いた。
201B7細胞の培養は、接着培養用シャーレ(コーニング製)を用いて、以下の方法で行った。予め調製したiMatrix-511(ニッピ製)をD-PBS(-)に3μg/mLで希釈した溶液をシャーレに添加して4℃で一晩以上放置することにより、シャーレ培養面へのiMatrix-511のコーティングを行った。コーティングを行ったシャーレのiMatrix-511溶液を廃棄したのち、iPS細胞培養用培地であるStemFit AK02N培地(味の素製)を添加して洗浄後、凍結バイアルより解凍した201B7細胞を、ロックインヒビター(Y-27632:富士フイルム和光純薬製)を10μM添加した同培地に懸濁して播種した。5%CO2雰囲気下、37℃で一晩培養後、Y-27632を含むStemFit AK02N培地を廃棄し、Y-27632を含まないStemFit AK02N培地へと培地交換を行い、適切な細胞密度になったところで、細胞回収と継代を行った。
次に、Cell Tracker Orange(サーモフィッシャーサイエンティフィック製)を用いた201B7細胞の蛍光染色は以下の方法で行った。まず、シャーレ中の培地を廃棄後、無血清のRPMI 1640培地(富士フイルム和光純薬製)を添加して細胞をリンス後、培地を吸引廃棄した。次にCell Tracker Orangeを無血清のRPMI 1640培地に終濃度10μMで溶解した溶液を添加し、5%CO2雰囲気下、37℃で1時間培養した。蛍光試薬液を廃棄後、StemFit AK02N培地を添加し、5%CO2雰囲気下、37℃で1時間培養した。培地を廃棄後、StemFit AK02N培地を添加し、5%CO2雰囲気下、37℃で一晩培養した。
次に、細胞の回収と細胞懸濁液の調製を以下の方法で行った。シャーレにD-PBS(-)を添加して細胞をリンスしたのち、D-PBS(-)を廃棄する操作を2回繰り返して細胞を洗浄後、CTS TrypLE Select Enzyme(サーモフィッシャーサイエンティフィック製)とVersene Solution(サーモフィッシャーサイエンティフィック製)を1:1で混合した剥離溶液を添加して5%CO2雰囲気下、37℃で10分間放置した。細胞が丸く剥がれつつあるのを確認したのち、剥離溶液中にてピペッティングを繰り返すことで細胞を剥離し、50mLチューブ中に回収した。回収した細胞を遠心分離して沈降後、細胞をMACS緩衝液で懸濁し、再度遠心分離して上清を廃棄することで細胞を洗浄した。細胞洗浄操作を2回繰り返したのち、MACS緩衝液で懸濁し、セルストレーナーを用いてろ過することにより、Cell Tracker Orangeで染色した201B7細胞の細胞懸濁液を調製した。得られた201B7細胞液は一部を分取し、10倍希釈して血球計算盤にて細胞密度の算出を行った。以下、この細胞密度を元にして、細胞密度×カラムへのアプライ細胞液量から、カラムへの細胞添加量を算出した。
(3)ヒト間葉系幹細胞の培養と細胞懸濁液の調製
ヒト間葉系幹細胞UE6E7T-2(以下、ヒト間葉系幹細胞と記載する。)はJCRB細胞バンクより入手した。また、培養は以下の手順で行った。接着性細胞であるヒト間葉系幹細胞は、10%FBS(Biological Industries製)と4mM L-グルタミン(富士フイルム和光純薬製)および抗生物質溶液(ペニシリン-ストレプトマイシン溶液、富士フイルム和光純薬製)を添加したD-MEM培地(Low Glucose、シグマアルドリッチ製)を用い、直径6cmの接着培養用シャーレ(コーニング製)または直径10cmの接着培養用シャーレ(コーニング製)に細胞を播種し、5%CO2雰囲気下、37℃で培養した。次に、Cell Tracker Red(サーモフィッシャーサイエンティフィック製)を用いたヒト間葉系幹細胞の蛍光染色は以下の方法で行った。ヒト間葉系幹細胞を培養中のシャーレ内の培地を廃棄後、無血清のRPMI 1640培地を添加して細胞を洗浄したのち、無血清のRPMI 1640培地を廃棄した。次に、Cell Tracker Redを最終濃度が10μMとなるように無血清のRPMI 1640培地に溶解した液を添加し、5%CO2雰囲気下、37℃で1時間培養した。前記蛍光試薬液を廃棄後、10%FBSと4mM L-グルタミンおよび抗生物質溶液を添加したD-MEM培地を添加し、5%CO2雰囲気下、37℃で1時間培養した。次に、培地を廃棄したのち、再び新しい10%FBSと4mM L-グルタミンおよび抗生物質溶液を添加したD-MEM培地を添加し、5%CO2雰囲気下、37℃で一晩培養した。
次に、細胞の回収と細胞懸濁液の調製を以下の方法で行った。細胞培養中のシャーレ内の培地を廃棄してD-PBS(-)を添加したのち、細胞を洗浄してD-PBS(-)を廃棄した。次に、適当量のAccutase(イノベーティブセルテクノロジー製)を添加し、数分間放置することでヒト間葉系幹細胞を剥離させ、50mLチューブへと回収した。回収した細胞を遠心分離して沈降後、細胞をMACS緩衝液で懸濁し、再度遠心分離して上清を廃棄することで細胞を洗浄した。細胞洗浄操作を2回繰り返したのち、MACS緩衝液で懸濁し、セルストレーナーを用いてろ過することにより、Cell Tracker Redで染色したヒト間葉系幹細胞の細胞懸濁液を調製した。得られたヒト間葉系幹細胞液は一部を分取し、10倍希釈して血球計算盤にて細胞密度の算出を行った。以下、この細胞密度を元にして、細胞密度×カラムへのアプライ細胞液量から、カラムへの細胞添加量を算出した。
(4)吸着剤を充填したカラムを用いた細胞の吸着と脱着
前記の方法で調製した201B7細胞とヒト間葉系幹細胞を混合し、MACS緩衝液で希釈することで、細胞懸濁液量10mL、添加細胞数が201B7細胞は4.9x10^6個(細胞密度:4.9x10^5/mL)、ヒト間葉系幹細胞は2.4x10^6個(細胞密度:2.4x10^5/mL)となるように、細胞比率を201B7細胞:ヒト間葉系幹細胞=66.8%:33.2%で調整し、吸着剤127Q39LC72Gを充填したカラムのうち1本を垂直に立てた状態で、カラム上部より添加した。カラム下部の22Gシリンジ針より、流出細胞液10mLを分取した(以下、流出細胞液-1と記載する)。次に受器を交換後、カラム上部より、0.2M フコースと10mM EDTAを添加したMACS緩衝液2mLを添加することで、カラム下部のシリンジ針より、計2mLの細胞液を回収した(以下、脱着細胞液-1と記載する。)。脱着細胞液-1をエッペンドルフチューブに分取したのち、遠心し上清を廃棄した。
次にエッペンドルフチューブで得られた細胞ペレットを4mLのMACS緩衝液に再懸濁したのち、吸着剤127Q39LC72Gを充填したもう1本のカラムを垂直に立てた状態で、カラム上部より4mLの細胞懸濁液を全て添加した。カラム下部のシリンジ針より4mLの流出細胞液を分取した(以下、流出細胞液-2と記載する。)。次に受器を交換後、カラム上部より、0.2M フコースと10mM EDTAを添加したMACS緩衝液2mLを添加することで、カラム下部のシリンジ針より、計2mLの脱着細胞液を回収した(以下、脱着細胞液-2と記載する。)。
(5)201B7細胞とヒト間葉系幹細胞の細胞密度・細胞比率の測定
上記の操作により得られた、流出細胞液-1、2および脱着細胞液-1、2にMACS緩衝液を加えて希釈したのち、それぞれ2mLをセルストレーナー・キャップ付き5mLポリスチレンラウンドチューブ(日本BD製)に分取した。細胞数計測用内部標準ビーズとしてCountBright Absolute Counting Beads(インビトロゲン製)を50μL、および細胞生死判定試薬として7-AADを50μL添加した後、セルソーターBD FACSAria(日本BD製)にて細胞数の測定を行った。各細胞液中に含まれる201B7細胞とヒト間葉系幹細胞の細胞数はドットプロットで得られた内部標準ビーズの粒子数を元に、比例計算により算出した(この細胞数をそれぞれ流出細胞数-1、2および脱着細胞数-1、2とする。)。流出細胞液-1、2および脱着細胞液-1、2における各細胞の回収率は、流出細胞数-1、2および脱着細胞数-1、2を1本目のカラムへアプライした各細胞数で除することにより算出した。また、各細胞の細胞密度は、流出細胞数-1、2および脱着細胞数-1、2をそれぞれの液量で除することにより算出した。
算出した結果を表1、図1、図2に示す。脱着細胞液-1、2ではアプライ細胞よりも201B7細胞の細胞密度および細胞比率が高くなっており、未分化度の高い細胞である201B7細胞が濃縮されていることが明らかとなった。すなわち、フコース結合性タンパク質を水不溶性担体に固定化した吸着剤に、201B7細胞とヒト間葉系幹細胞の混合細胞液を接触させ、吸着剤に結合した細胞を吸着剤に接触させた細胞液量よりも少ない液量のフコース液で脱着させ回収することにより、未分化度の高い細胞である201B7細胞が細胞密度および細胞比率が向上した状態で濃縮できることが証明された。
Figure 2022170126000001
実施例2 フコース結合性タンパク質を固定化した吸着剤による201B7細胞とK562細胞の混合物からの201B7細胞の濃縮
実施例2は、前記作製例1で製造した吸着剤を利用した、201B7細胞とK562細胞の混合物からの201B7細胞の濃縮方法に関するものである。
(1)吸着剤を充填したカラムの作製
実施例1(1)と同様の方法で行った。
(2)201B7細胞の培養と細胞懸濁液の調製
201B7細胞の培養と蛍光染色、および細胞懸濁液の調製は実施例1(2)と同様の方法で行った。
(3)K562細胞の培養と細胞懸濁液の調製
Fucα1-2Galβ1-3GlcNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-3GalNAcからなる構造を含む糖鎖を有さないヒト慢性骨髄性白血病細胞であるK562細胞(JCRB0019)はJCRB細胞バンクより入手した。また、培養は以下の手順で行った。浮遊性細胞であるK562細胞は、10%FBS(Biological Industries製)および抗生物質溶液(ペニシリン-ストレプトマイシン溶液、富士フイルム和光純薬製)を添加したRPMI 1640培地を用い、直径6cmの浮遊培養用シャーレ(住友ベークライト製)または直径10cmの浮遊培養用シャーレ(住友ベークライト製)に細胞を播種し、5%CO2雰囲気下、37℃で培養した。
次に、細胞の回収と細胞懸濁液の調製を以下の方法で行った。細胞培養中のシャーレからK562細胞を50mLチューブへと回収した。回収した細胞を遠心分離して沈降させて上清を廃棄した後、MACS緩衝液を追加して懸濁し、再度遠心分離して上清を廃棄することで細胞を洗浄した。この細胞洗浄操作を2回繰り返したのち、MACS緩衝液で懸濁し、セルストレーナーを用いてろ過することにより、K562細胞の細胞懸濁液を調製した。得られたK562細胞液は一部を分取し、10倍希釈して血球計算盤にて細胞密度の算出を行った。以下、この細胞密度を元にして、細胞密度×カラムへのアプライ細胞液量から、カラムへの細胞添加量を算出した。
(4)吸着剤を充填したカラムを用いた細胞の吸着と脱着
前記の方法で調製した201B7細胞懸濁液とK562細胞の懸濁液を、細胞液量10mL、添加細胞数が201B7細胞は5.1x10^6個(細胞密度:5.1x10^5個/mL)、K562細胞は2.3x10^7個(細胞密度:2.3x10^6個/mL)となるように混合した細胞懸濁液を調製した(細胞比率は201B7細胞:K562細胞=18.0%:82.0%)。吸着剤127Q39LC72Gを充填したカラムのうち1本を垂直に立てた状態で、この混合細胞懸濁液をカラム上部より添加した。カラム下部のシリンジ針より、流出細胞液10mLを分取した(以下、流出細胞液-1と記載する)。次に、カラム上部より、0.2M フコースと10mM EDTAを添加したMACS緩衝液2mLを添加することで、カラム下部のシリンジ針より、計2mLの細胞液を回収した(以下、脱着細胞液-1と記載する。)。脱着細胞液-1をエッペンドルフチューブに分取したのち、遠心し上清を廃棄した。次に細胞ペレットにMACS緩衝液を添加して4mLの懸濁液としたのち、もう1本の吸着剤127Q39LC72Gを充填したカラムを垂直に立てた状態で、カラム上部より4mLの細胞懸濁液を全て添加した。カラム下部のシリンジ針より4mLの流出細胞液を分取した(以下、流出細胞液-2と記載する。)。次に、カラム上部より、0.2M フコースと10mM EDTAを添加したMACS緩衝液2mLを添加することで、カラム下部のシリンジ針より、計2mLの脱着細胞液を回収した(以下、脱着細胞液-2と記載する。)。
(5)201B7細胞とK562細胞の細胞密度・細胞比率の測定
前記操作により得られた、流出細胞液-1、2および脱着細胞液-1、2に適当量のMACS緩衝液を加えて希釈したのち、それぞれ2mLをセルストレーナー・キャップ付き5mLポリスチレンラウンドチューブ(日本BD製)に分取した。細胞数計測用内部標準ビーズとしてCountBright Absolute Counting Beads(インビトロゲン製)を50μL、および細胞生死判定試薬として7-AADを50μL添加した後、セルソーターBD FACSAria(日本BD製)にて細胞数の測定を行った。各細胞液中に含まれる201B7細胞とK562細胞の細胞数はドットプロットで得られた内部標準ビーズの粒子数を元に、比例計算により算出した(この細胞数をそれぞれ流出細胞数-1、2および脱着細胞数-1、2とする。)。流出細胞液-1、2および脱着細胞液-1、2における各細胞の回収率は、流出細胞数-1、2および脱着細胞数-1、2を1本目のカラムへアプライした各細胞数で除することにより算出した。また、各細胞の細胞密度は、流出細胞数-1、2および脱着細胞数-1、2をそれぞれの液量で除することにより算出した。
測定の結果を表2、図3、図4に示す。
以上の結果から、脱着細胞液-1、2ではアプライ細胞よりも201B7細胞の細胞密度・細胞比率が高くなっており、未分化度の高い細胞である201B7細胞が濃縮されていることが明らかとなった。すなわち、フコース結合性タンパク質を水不溶性担体に固定化した吸着剤に、201B7細胞とK562細胞の混合細胞液を接触させ、吸着剤に結合した細胞を吸着剤に接触させた細胞液量よりも少ない液量のフコース液で脱着させ回収することにより、未分化度の高い細胞である201B7細胞が細胞密度・細胞比率が向上した状態で濃縮できることが証明された。
Figure 2022170126000002
実施例3 フコース結合性タンパク質を固定化した吸着剤による201B7細胞と2102Ep細胞の混合物からの201B7細胞の濃縮
実施例3は、前記作製例1で製造した吸着剤を利用した、201B7細胞と2102Ep細胞の混合物からの201B7細胞の濃縮方法に関するものである。
(1)吸着剤を充填したカラムの作製
実施例1(1)と同様の方法で行った。
(2)201B7細胞の培養と細胞懸濁液の調製
201B7細胞の培養と蛍光染色、細胞懸濁液の調製は実施例1(2)と同様の方法で行った。
(3)2102Ep細胞の培養と細胞懸濁液の調製
Fucα1-2Galβ1-3GlcNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-3GalNAcからなる構造を含む糖鎖を有するヒト胎児性がん細胞である2102Ep細胞(Embryonal Carcinoma Cells Cl.4/D3細胞はコスモバイオより入手した。
接着性細胞である2102Ep細胞は、10%FBS(Biological Industries製)と抗生物質溶液(ペニシリン-ストレプトマイシン溶液、富士フイルム和光純薬製)を添加したD-MEM培地(High Glucose、富士フイルム和光純薬製)を用い、直径6cmの接着培養用シャーレ(コーニング製)または直径10cmの接着培養用シャーレ(コーニング製)に細胞を播種し、5%CO2雰囲気下、37℃で培養した。次に、Cell Tracker Greenを用いた2102Ep細胞の蛍光染色は以下の方法で行った。2102Ep細胞を培養中のシャーレ内の培地を廃棄後、無血清のRPMI 1640培地(富士フイルム和光純薬製)を添加して細胞を洗浄したのち、無血清のRPMI 1640培地を廃棄した。次に、Cell Tracker Greenを最終濃度が0.3μMとなるように無血清のRPMI 1640培地に溶解した液を添加し、5%CO2雰囲気下、37℃で1時間培養した。前記蛍光試薬液を廃棄後、10%FBSと抗生物質溶液を添加したD-MEM培地を添加し、5%CO2雰囲気下、37℃で1時間培養した。次に、10%FBSと抗生物質溶液を添加したD-MEM培地を廃棄したのち、再び新しい10%FBSと抗生物質溶液を添加したD-MEM培地を添加し、5%CO2雰囲気下、37℃で一晩培養した。
次に、細胞の回収と細胞懸濁液の調製を以下の方法で行った。細胞培養中のシャーレ内の培地を廃棄してD-PBS(-)を添加したのち、細胞を洗浄してD-PBS(-)を廃棄した。次に、適当量のAccutase(イノベーティブセルテクノロジー製)を添加し、数分間放置することで2102Ep細胞を脱着させ、50mLチューブへと回収した。回収した細胞を遠心分離して沈降後、細胞をMACS緩衝液で懸濁し、再度遠心分離して上清を廃棄することで細胞を洗浄した。細胞洗浄操作を2回繰り返したのち、MACS緩衝液で懸濁し、セルストレーナーを用いてろ過することにより、Cell Tracker Greenで染色した2102Ep細胞の細胞懸濁液を調製した。得られた2102Ep細胞液は一部を分取し、10倍希釈して血球計算盤にて細胞密度の算出を行った。以下、この細胞密度を元にして、細胞密度×カラムへのアプライ細胞液量から、カラムへの細胞添加量を算出した。
(4)吸着剤を充填したカラムを用いた細胞の吸着と脱着
前記の方法で調製した201B7細胞と2102Ep細胞を、添加細胞数が201B7細胞は4.7x10^6個(細胞密度:4.7x10^5/mL)、2102Ep細胞は5.6x10^6個(細胞密度:5.6x10^5/mL)となるようにMACS緩衝液で総量10mLとなるように希釈し、混合細胞懸濁液を調製した(細胞比率は201B7細胞:2102Ep細胞=45.8%:54.2%)。この混合細胞懸濁液を、吸着剤127Q39LC72Gを充填したカラムのうち1本を垂直に立てた状態で、カラム上部より添加した。カラム下部のシリンジ針より、流出細胞液10mLを分取した(以下、流出細胞液-1と記載する)。次に、カラム上部より、0.2M フコースと10mM EDTAを添加したMACS緩衝液2mLを添加することで、カラム下部のシリンジ針より、計2mLの細胞懸濁液を回収した(以下、脱着細胞液-1と記載する。)。脱着細胞液-1をエッペンドルフチューブに分取したのち、遠心し上清を廃棄した。次にエッペンドルフチューブ中の細胞ペレットにMACS緩衝液を追加し4mLの細胞懸濁液を調製したのち、吸着剤127Q39LC72Gを充填したもう1本のカラムを垂直に立てた状態で、カラム上部より4mLの細胞懸濁液を全て添加した。カラム下部のシリンジ針より4mLの細胞懸濁液を分取した(以下、流出細胞液-2と記載する。)。次に、カラム上部より、0.2M フコースと10mM EDTAを添加したMACS緩衝液2mLを添加することで、カラム下部のシリンジ針より、計2mLの細胞懸濁液を回収した(以下、脱着細胞液-2と記載する。)。
(5)201B7細胞と2102Ep細胞の細胞密度・細胞比率の測定
前記操作により得られた、流出細胞液-1、2および脱着細胞液-1、2にMACS緩衝液を加えて希釈したのち、それぞれ2mLをセルストレーナー・キャップ付き5mLポリスチレンラウンドチューブ(日本BD製)に分取した。細胞数計測用内部標準ビーズとしてCountBright Absolute Counting Beads(インビトロゲン製)を50μL、および細胞生死判定試薬として7-AADを50μL添加した後、セルソーターBD FACSAria(日本BD製)にて細胞数の測定を行った。各細胞液中に含まれる201B7細胞と2102EP細胞の細胞数はドットプロットで得られた内部標準ビーズの粒子数を元に、比例計算により算出した(この細胞数をそれぞれ流出細胞数-1、2および脱着細胞数-1、2とする。)。流出細胞液-1、2および脱着細胞液-1、2における各細胞の回収率は、流出細胞数-1、2および脱着細胞数-1、2を1本目のカラムへアプライした各細胞数で除することにより算出した。また、各細胞の細胞密度は、流出細胞数-1、2および脱着細胞数-1、2をそれぞれの液量で除することにより算出した。
測定の結果を表3、図5、図6に示す。
この結果から、脱着細胞液-1、2ではアプライ細胞よりも201B7細胞の細胞密度・細胞比率が高くなっており、未分化度の高い細胞である201B7細胞が濃縮されていることが明らかとなった。すなわち、フコース結合性タンパク質を水不溶性担体に固定化した吸着剤に、201B7細胞と2102Ep細胞の混合細胞液を接触させ、吸着剤に結合した細胞を吸着剤に接触させた細胞液量よりも少ない液量のフコース液で脱着させ回収することにより、よりFucα1-2Galβ1-3GlcNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-3GalNAcからなる構造を含む糖鎖の発現性が高い、未分化度の高い細胞である201B7細胞が細胞密度・細胞比率が向上した状態で濃縮できることが証明された。
Figure 2022170126000003

Claims (8)

  1. フコース結合性タンパク質が水に不溶性の担体に固定化されてなる吸着剤を用いる細胞の濃縮方法であって、未分化度の異なる細胞集団を含む細胞懸濁液を吸着剤に接触させてフコース結合性タンパク質に結合する細胞を吸着剤に結合させる工程と、細胞が結合した吸着剤にフコース含有水溶液を接触させ脱着した細胞を取得する工程とを含む、未分化度の高い細胞の濃縮方法。
  2. 未分化度の異なる細胞集団を含む細胞懸濁液を吸着剤に接触させてフコース結合性タンパク質に結合する細胞を吸着剤に結合させる工程と、細胞が結合した吸着剤に、前記工程で接触させた未分化度の異なる細胞集団の細胞液量よりも少ない液量のフコース含有水溶液を接触させ未分化度の高い細胞を脱着回収する、請求項1に記載の方法。
  3. 未分化度の異なる細胞集団が、Fucα1-2Galβ1-3GlcNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-3GalNAcからなる構造を含む糖鎖の発現量が異なる異種細胞の混合物である、請求項1から2のいずれかに記載の方法。
  4. Fucα1-2Galβ1-3GlcNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-3GalNAcからなる構造を含む糖鎖の発現量の異なる異種細胞群から、当該糖鎖の発現量の高い細胞種の細胞比率が向上し、かつ当該糖鎖の発現量の高い細胞種の細胞密度が、吸着剤に接触させる前の未分化度の異なる細胞集団を含む細胞懸濁液よりも高い細胞懸濁液を得る、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
  5. Fucα1-2Galβ1-3GlcNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-3GalNAcからなる構造を含む糖鎖を有する細胞が、ヒトiPS細胞である、請求項1から4のいずれかに記載の方法。
  6. フコース結合性タンパク質が以下の(a)から(d)のいずれかである、請求項1から5のいずれかに記載の方法。
    (a)配列番号1で示されるアミノ酸配列の1番目のプロリン残基からX番目のアミノ酸残基までのアミノ酸配列を含むフコース結合性タンパク質であって、Xが120以上の整数である、フコース結合性タンパク質。
    (b)配列番号1で示されるアミノ酸配列の1番目のプロリン残基からX番目のアミノ酸残基までのアミノ酸配列において、1個または複数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含むフコース結合性タンパク質であって、かつ、Fucα1-2Galβ1-3GlcNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-3GalNAcからなる構造を含む糖鎖への結合親和性を有し、Xが120以上の整数である、フコース結合性タンパク質。
    (c)配列番号1で示されるアミノ酸配列の1番目のプロリン残基からX番目のアミノ酸残基までのアミノ酸配列において、以下の(1)から(3)に記載のアミノ酸置換のいずれか1つ以上を含むアミノ酸配列を含み、Xが120以上の整数である、フコース結合性タンパク質
    (1)配列番号1で示されるアミノ酸配列の39番目のグルタミン残基の、ロイシン残基への置換
    (2)配列番号1で示されるアミノ酸配列の72番目のシステイン残基の、グリシン残基およびアラニン残基から選ばれる1種類のアミノ酸残基への置換
    (3)配列番号1で示されるアミノ酸配列の65番目のグルタミン残基の、ロイシン残基への置換
    (d)前記(c)のフコース結合性タンパク質のアミノ酸配列において、配列番号1の39番目、65番目および72番目以外の領域に1個若しくは複数個のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、Fucα1-2Galβ1-3GlcNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-3GalNAcからなる構造を含む糖鎖への結合親和性を有する、フコース結合性タンパク質。
  7. フコース結合性タンパク質が、以下の(e)から(h)のいずれかである、請求項1から5のいずれかに記載の方法。
    (e)配列番号1で示されるアミノ酸配列の1番目のプロリン残基からX番目のアミノ酸残基までのアミノ酸配列に対し、さらにN末端にポリヒスチジン配列を含むオリゴペプチドが付加され、かつC末端にシステインを含むオリゴペプチドが付加されたアミノ酸配列からなり、Xが120以上の整数である、フコース結合性タンパク質。
    (f)配列番号1で示されるアミノ酸配列の1番目のプロリン残基からX番目のアミノ酸残基までのアミノ酸配列において、1個または複数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列に対し、さらにN末端にポリヒスチジン配列が付加され、かつC末端にシステインを含むオリゴペプチドが付加されたアミノ酸配列からなり、Fucα1-2Galβ1-3GlcNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-3GalNAcからなる構造を含む糖鎖への結合親和性を有し、Xが120以上の整数である、フコース結合性タンパク質。
    (g)配列番号1で示されるアミノ酸配列の1番目のプロリン残基からX番目のアミノ酸残基までのアミノ酸配列に対し、さらにN末端にポリヒスチジン配列を含むオリゴペプチドが付加され、かつC末端にシステインを含むオリゴペプチドが付加されたアミノ酸配列において、以下の(4)から(6)に記載のアミノ酸置換のいずれか1つ以上を含むアミノ酸配列を含み、Xが120以上の整数である、フコース結合性タンパク質
    (4)配列番号1で示されるアミノ酸配列の39番目のグルタミン残基の、ロイシン残基への置換
    (5)配列番号1で示されるアミノ酸配列の72番目のシステイン残基の、グリシン残基およびアラニン残基から選ばれる1種類のアミノ酸残基への置換
    (6)配列番号1で示されるアミノ酸配列の65番目のグルタミン残基の、ロイシン残基への置換
    (h)前記(g)のフコース結合性タンパク質のアミノ酸配列において、配列番号1の39番目、65番目および72番目以外の領域に1個若しくは複数個のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入若しくは付加されたアミノ酸配列に対し、さらにN末端にポリヒスチジン配列を含むオリゴペプチドが付加され、かつC末端にシステインを含むオリゴペプチドが付加されたアミノ酸配列からなり、Fucα1-2Galβ1-3GlcNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-3GalNAcからなる構造を含む糖鎖への結合親和性を有する、フコース結合性タンパク質。
  8. カラムに充填してなる吸着剤を用いることを特徴とする、請求項1から7のいずれかに記載の方法。
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