JP2022163703A - 緩衝系人工血管 - Google Patents

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Abstract

【課題】 人工血管の内腔を流れる血液を動脈性血液動態から健常な静脈壁が許容できる範囲まで緩衝・低下させ(血液動態の低圧緩衝)つつ下流静脈に送達することにより、内膜肥厚を防止できる緩衝系人工血管を提供する。【解決手段】 本発明の緩衝系人工血管は、動脈から静脈に流入する血液動態を緩衝する機能を備える緩衝系人工血管であって、前記血流を緩衝する機能が、動脈側から流入する血液の圧力と圧の拍動性変化、及び/又は、流速と流速の変化の大きさを減少させて静脈側に流出させる機能である。【選択図】 図1

Description

本発明は、緩衝系人工血管に関し、特に、動脈と静脈間に造設する短絡路(シャント)として好適に利用可能な緩衝系人工血管に関する。
大動脈から分岐した動脈系の大部分は筋性動脈からなる。この筋性動脈は、一部の動脈を除いて大動脈から始まり中小動脈を経て細動脈へ流れ込む直前の小さな小動脈までの動脈を構成し、これら筋性動脈は、拍動性血圧と血流を減衰緩衝させずに手足の末端部の細動脈(内径100~数100μ)へ送達することを使命とする血管である。つまり、例えば内直径25mm程度の腹部の大動脈から手足の内直径1mmの動脈までの間、血管内腔はどんどん小さくなり、血管壁はどんどん薄くなるが、血圧、脈拍の大きさや平均流速は大動脈と殆ど変わらず120/80mmHgが維持される(非特許文献1参照。)。もし大動脈から手足の内径1mmの動脈の間の何れかの部位で仮に血圧、脈圧や血流が緩衝されて減衰低下すれば、手足は酸素や栄養の供給が低下して壊死してしまう。つまり天然の動脈は高い血圧で高速で流れる拍動性の動脈血流を決して減衰緩衝しないように機能している。
従来の人工血管は、この天然の筋性動脈のこの機能を代替するために使われるのであるから、人工血管は血流の血圧や拍動を減衰させることは起こさないように血圧と拍動を保持しつつ、下流に繋がれている天然の動脈まで十分な血流を下流へ送達させる機能を備えている。すなわち、血流を送達する時に人工血管内部を流れる血流が血圧や脈拍を緩衝しない様に設計されて作られている。
このように、従来の人工血管は、緩衝機能を備えず、むしろ、緩衝機能を排除しているのである。
動脈の壁は厚く丈夫で、内部血流の拍動性高圧がかかっても壁の脈動変化は少なく(平滑筋層の粘性による)、壁脈動による乱流発生や擦り応力の激しい変動は少ない。
他方、壁の薄く柔らかい静脈の壁は、例え下肢の静脈うっ滞のような動脈圧に比較して非常に弱い静脈圧の上昇(亢進)状態に曝されただけでも、静脈瘤や静脈血栓症、更には静脈うっ滞による組織壊死等の深刻な病態を容易に生じるほど、静脈内圧亢進に対する静脈壁の抵抗力は弱い。
従って、動静脈シャント(動脈から静脈に直接に流入する短絡路)により動脈血が動脈から毛細血管を介さずに直接に静脈側に流入して、静脈壁が脈動性の高い血圧で高速の血流に直接に曝されると、壁の激しい脈動性運動による血液乱流や血管壁への応力の激しい変動が生じる。この激しい変動は、特に動脈(あるいは人工血管)と静脈との吻合部では動脈側と静脈側の間の剛性の差異が著しい(コンプライアンス・ミスマッチ)ために、顕著である。
そのため、従来の人工血管を、動脈と静脈間に造設する短絡路(シャント)として使用する場合には、以下に詳述するように、局所的あるいは全身的病態を引き起こすリスクがある。
重篤な腎臓疾患等の患者に対しては、患者の体内から血液を取り出し、透析器で老廃物や余分な水分、ミネラルなどを取り除いた後、再び患者の体内に戻す血液透析治療が定期的に行われる。
血液透析を行う際には、通常静脈に専用の針を穿刺するが、普通の静脈の血流では透析を施工するのに十分な血流が得られないため、血流の豊富な動脈から一部血流を静脈に流し、透析を施行できるような静脈血管にする必要がある。このような血管をブラッドアクセスと呼ぶ。
ブラッドアクセスは、通常四肢の皮膚を切開して動脈と静脈を露出し、動脈に小切開を加えてそこに静脈を吻合し、この吻合口を通して動脈の血流を一部静脈へ流す短絡路(シャント)を造設する。この時に、動脈の小切開部分に人工血管の一方端を吻合し、人工血管の他方端を静脈に吻合して動脈と静脈との間に人工血管を設け、この人工血管を介して動脈の血流を一部静脈へ流す場合がある。
動脈側の血流の動態を述べると、血圧が高く大きな圧差の拍動(大きな脈圧)を持ち、かつ流速も非常に早くかつ流速変化も大きく拍動する(以下の文章では、上述の様な動脈血に特徴的な血液動態を「動脈性(の)血液動態」と述べることがある。)。それに比較して静脈側の血液の動態は、圧が低く拍動性の圧変化も小さく、かつ血液の平均流速も遅く流速変化も小である(以下の文章では、上述の様な静脈血に特徴的な血液動態を「静脈性(の)血液動態」と述べることがある。シャント造設部においては、動脈の壁あるいは動脈に吻合した人工血管の壁に比較して静脈の壁は剛性が非常に低く、両者の剛性の差異が著しい。そのため、正常状態では静脈の壁に作用しない動脈性血液動態を持つ動脈血液が人工血管の出口から壁が薄く剛性の低い静脈に流入すると、正常状態では起こらない血液乱流や静脈壁の脈動変化が起こってしまう。つまり正常状態では起こらない応力が作用する状態と言い換えても良い。その正常ではない状態に対する生体側の反応として、静脈に内膜肥厚が生じて、狭窄、閉塞や静脈瘤、内部血栓などの正常ではない変化すなわち病態変化を容易に生じる。さらに、シャント血流状態を生体に負担の大きな状態のまま調節できないと、より広範な局所的(下流静脈の瘤形成や狭窄など)或いは全身的(過剰シャント血流によるスチール症候群や過循環による心不全など)病態を引き起こす。
生体側の条件がよければ、生体の防御適応反応として、静脈壁の剛性変化などによる適切なリモデリングが起こり、内膜肥厚による狭窄や閉塞等を免れる場合や、シャント血流状態を生体に負担のない状態に自己調節できる場合もある。しかし、シャント血流量や吻合部の形状等の局所的条件や全身的条件(糖尿病、高血圧、動脈硬化や血液性状等)が悪い場合には、適切な防御適応反応が生じる範囲を超えて病的な生体反応となり、局所的全身的病態を引き起こすこととなる。特に人工血管は天然の動脈より剛性が高いので、静脈との剛性の差異が顕著で上記の適切な防御適応反応が起こらず、上記の局所的あるいは全身的病態を起こすことが多い。
このような病態を防止するために、血管バンディングが行われている(非特許文献2)。特許文献1には、外科用インプラントとして使用する天然静脈を補強するための被覆物であって、シームレス、チューブ状、実質的にパイルレスであるニット生地を形成することによって作られる編織物ネットの被覆物が開示されている。特許文献2及び3には、生体内分解性ポリマーの拘束性繊維マトリクスによりラッピングされた動静脈グラフト(AVG)は、頸動脈動脈と類似する拍動性の放射状偏位が見られたことが開示されている。
しかし、上記のような血管バンディングでは、内膜肥厚等の病変を十分に防止することができなかった(非特許文献2)。
特表2004-535896号公報 特表2010-516437号公報 特表2013-509258号公報
前田信治:教育講座:血液のレオロジーと生理機能 第1回:血行力学の基礎と血液粘性 日生誌234-244,66,7-8,2004 春口洋昭「I Blood Access血流不全に伴う諸問題」,日本透析医学会誌 Vol.15,No.1,68-70,2000
従来の血管バンディングでは、補強された静脈壁は天然の動脈壁の様な構造に改変(動脈化)されるが、上述のように天然の動脈は高い血圧で高速で流れる拍動性の動脈血流を決して減衰緩衝しないように機能しているので、補強部位を通過してから補強されていない静脈に血液が流れる際に血圧と脈動は緩衝されずにそのまま下流に送達されてしまい、解決するべき課題が下流側に先送りされるだけで、内膜肥厚の要因の根本的な解消とはなっていない。これを解消するには、吻合部から下流にかけて、動脈性血液動態(高圧で大きな拍動性圧変化を持ち、流速も早く流速変化も大きい血液動態)を徐々に緩衝・低下させ、最下流の静脈側は静脈性血液動態の(平均流速が十分に低下して流速変化も平坦でかつ血圧も十分に低く圧変化の小さな)血流しか静脈壁に作用しない状態にする必要がある。
本発明は上記事情を考慮した発明であって、人工血管の内腔を流れる血液を動脈性血液動態から健常な静脈壁が許容できる範囲まで緩衝・低下させ(血液動態の低圧緩衝)つつ下流静脈に送達することにより、内膜肥厚を防止できる緩衝系人工血管を提供することを目的とする。
本発明者は、鋭意検討を行った結果、以下の構成を採用することにより、上記課題を解決することができることを見出した。
すなわち、本発明の緩衝系人工血管は、動脈から静脈に流入する血液動態を緩衝する機能を備える緩衝系人工血管であって、前記血流を緩衝する機能が、動脈側から流入する血液の圧力と圧の拍動性変化、及び/又は、流速と流速の変化の大きさを減少させて静脈側に流出させる低圧緩衝機能であることを特徴とする。
本発明の緩衝系人工血管の代表的な一例は、動脈と静脈間に造設されるシャントであるが、そのほか、動脈と静脈間に造設されたシャント造設部位より下流側の静脈が動脈性血流による狭窄等の病的変化を起こした部位、あるいはその様な病的変化を起こす危険性のある部位に造設される場合なども含む。
本発明の緩衝系人工血管の緩衝円筒は、その上流側の通常流路部とは異なり、緩衝円筒の内腔を流れる血液によるせん断応力や人工血管壁に直交する圧、および血液の血流量、流速や拍動に伴う変化幅が傾斜的に変化する様な特徴を持つ。すなわち緩衝円筒の内腔を流れる血液の動脈性血液動態を緩衝・低下させつつ下流静脈に送達する機能を備えている。この機能によって、その下流側に吻合された静脈壁の弾性の不適合、血液の乱流や高流速を抑制し、内膜肥厚や血栓形成による血管内腔の狭窄・閉塞を防止することができる。
本発明の緩衝系人工血管は、上記の性能を発揮する作用機構として、本発明の以下の2つの作用を挙げることができる。
その第一は、緩衝系人工血管を作成する時点でこの人工血管に賦与された物理的な構造自体による動脈性血液動態を緩衝する働きによるものであって、謂わば「物理学的緩衝作用」という事が出来る。その第二は、この緩衝系人工血管の弾性等がシャント静脈に生物学的に作用して静脈自体が自身の構造と機能を緩衝系血管に改変(リモデリング)することを誘導する働きであって、謂わば「生物学的緩衝作用」という事が出来る。
緩衝系血管は、上記の「物理学的緩衝作用」と「生物学的緩衝作用」の一方のみでも効果を発揮するが、実際に生体に応用した場合には、双方が作用して緩衝効果を挙げる場合が多いと考えられる。本文書では、判りやすい説明の為に、両者を分けて説明する。
前者の「物理学的緩衝作用」について先に以下に説明し、後者の「生物学的緩衝作用」については後に述べることとする。
本発明の第1の実施形態に係る緩衝系人工血管を示す全体図である。 本発明の第1の実施形態に係る緩衝系人工血管を示す側面図である。 本発明の第2の実施形態に係る緩衝系人工血管を示す側面図である。 本発明の第3の実施形態に係る緩衝系人工血管を示す側面図である。 本発明の第4の実施形態に係る緩衝系人工血管を示す側面図である。 本発明の第5の実施形態に係る緩衝系人工血管を示す側面図である。 本発明の第6の実施形態に係る緩衝系人工血管を示す側面図である。 本発明の第6の実施形態に係る緩衝系人工血管の緩衝円筒の断面図である。 本発明の第7の実施形態に係る緩衝系人工血管を示す側面図である。 本発明の第7の実施形態に係る緩衝系人工血管の緩衝円筒の断面図である。 弾性指数の測定サンプルを示す斜視図である。 弾性指数の測定サンプルを上方から見た平面図である。 実施例で作製した人工血管の形状を示す側面図である。 実施例で作製した人工血管の形状を示す側面図である。 実施例で作製した人工血管の形状を示す側面図である。 実施例で作製した人工血管の形状を示す側面図である。 実施例で作製した人工血管の形状を示す側面図である。 実施例で作製した人工血管の形状を示す側面図である。 実施例で作製した人工血管の形状を示す側面図である。 実施例で作製した人工血管の形状を示す側面図である。 実施例で作製した人工血管の形状を示す側面図である。 実施例で作製した人工血管の形状を示す側面図である。 実施例で作製した人工血管の形状を示す側面図である。 実施例で作製した人工血管の形状を示す側面図である。 実施例で作製した人工血管の形状を示す側面図である。 実施例の動物実験で作製した動物実験AVシャントの説明図である。 ラッパ型緩衝円筒の基本形状を示す側面図である。 ラッパ型緩衝円筒における緩衝円筒の相対的長さの説明図である。 実施例27の評価試験におけるEvG染色写真である。
以下、本発明に係る緩衝系人工血管の好ましい実施形態について、適宜図面を参照しつつ、詳しく説明するが、本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更実施し得る。
〔第1の実施形態〕
図1,2に、本発明の第1の実施形態である緩衝系人工血管1を示す。
緩衝系人工血管1は、全体として管状であり、両端は開放されている。緩衝系人工血管1の一方端は動脈Aの小切開部に吻合され、他方端は静脈Vに吻合され、これにより、緩衝系人工血管1が動脈Aと静脈V間に造設されている。
図1中の白抜きの矢印は、血液の流れを示している。動脈Aから、血液の一部が緩衝系人工血管1に流れ込み、緩衝系人工血管1を通過して、動脈性血液動態から健常な静脈壁が許容できる範囲まで緩衝・低下され、そののち、静脈Vへと流出する。人工透析器Dから脱血・返血を行うことができる。
緩衝系人工血管1の材質は、一般的な人工血管と同様の材質で良い。
具体的には、緩衝系人工血管1の材質として、合成ポリマー、天然ポリマー、それらのハイブリッドなどのいずれでもよく、また、織物、編物、不織布やスポンジ状などの多孔質であってもよい。
合成ポリマーとしては、例えば、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフッ素系ポリマー、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド、アクリル系ポリマー、PEEK等の芳香族ポリエーテルケトン系樹脂、ポリエーテルポリアミド系樹脂、ポリエステルポリオール等のポリエステル系エラストマー、ポリイミド系樹脂、アクリル系ポリマー、ポリウレタン、シリコンなどが挙げられ、これらの共重合体であってもよい。また、生体内分解性素材、例えば、生体内吸収性ポリマーであるポリ乳酸、ポリグリコール酸、カプロラクタム、ポリブチレンサクシネート、ポリヒドロキシアルカン酸等の脂肪族ポリエステル;ポリエチレングリコール等の脂肪族ポリエーテル;ポリビニルアルコールなどや、これらの共重合体でもあってもよい。
天然ポリマーとしては、例えば、シルク、コットン、蒟蒻成分や蜘蛛糸成分に加えて、生体内吸収性のエラスチン、アルギン酸、キトサン、コラーゲン、ゼラチンなどが挙げられる。
弾性を持つ繊維としては、天然のエラストマー以外に、合成繊維ではウレタン系やシリコン系以外にもポリトリメチレン・テレフタレート繊維やポリブチレンテレフタレート繊維、更に2種類の異なるポリマーを複合させたサイドバイサイド型繊維であっても良いし、ウーリー加工された繊維(糸)を用いてもよい。
更に生体内吸収性の素材や金属を用いても良い。
なお、ウーリー加工された繊維を用いる場合、ポリアミド(ナイロン)製、ポリエステル(テトロン)製、あるいは、生体吸収性のポリ乳酸製のものが好適に用いられる。
緩衝系人工血管1は、緩衝機能を有する緩衝円筒10を備えている。緩衝系人工血管は、この緩衝円筒10の単独で構成されていても良いが、本実施形態のように、それ以外の通常流路部20との両方で構成されていても良い。
通常流路部20は、緩衝系人工血管1の基本形状をなし、この通常流路部20に対し、管壁の厚みを薄くしたり、径の大きさや径の断面形状を変更したり、材料を変更したりすることにより、原則として静脈V側に緩衝円筒10が連続的に形成されている。
通常流路部20の内径、外径や厚みなどの寸法は、一般的な人工血管と同様で良く、生体内における使用部位や材質などによっても異なるが、例えば、内径2~8mm、外径3.5~11mm、厚み0.5~2mm程度とすることができる。人工透析に利用する場合、人工透析は週3回が原則であるので、太い針で週3回×2か所を刺し続けても劣化しない強度と厚みを持たせる。
静脈V側の緩衝円筒10は、なるべく静脈Vに近い位置に形成することが好ましいが、必ずしもこれに拘らない。なるべく静脈Vに近い位置に形成することが好ましい理由は、脱血は、通常、緩衝円筒10を通過する前の通常流路部20が利用されることになるところ、静脈V側の緩衝円筒10が静脈Vから離れるほど、脱血に利用する領域が短くなってしまうことが多いからである。必ずしも拘らない理由は、時には全身病態や局所病態によっては、逆が望ましい場合があるからである。
静脈V側の緩衝円筒10は、静脈V側に動脈A側から静脈V側にかけて拡径した拡径部11を備える。
拡径部11において拡径していることにより、動脈A側から流入する血液は、動脈性血液動態が緩衝されて、静脈V側から流出することになる。
拡径部11の径変化の程度については、特に限定するわけではないが、例えば、動脈A側の最小径に対し、静脈V側の最大径を1.01~5倍程度とすることができるが、より好ましくは1.2~2.5倍である。また、拡径角度を1~90°程度とすることができるが、より好ましくは10~70°であり更に好ましくは15~60°である。壁の弾性等にもよるが径変化の程度が大きすぎると、乱流等の不都合を生じる恐れがある。壁の弾性等にもよるが径変化の程度が小さすぎると、緩衝効果が不十分となる恐れがある。また径の変化する角度は円滑に変化する曲線であることが望ましいが、その理由は乱流の防止効果に優れるためである。
緩衝円筒10は、また、通常経路部20よりも弾力性に富む(伸びやすい)弾性部12となっている。このことも、動脈性血液動態の緩衝・低減に有効である。
弾力性を高めるための方法としては、例えば、緩衝円筒10の厚みを通常経路部20よりも薄くする方法が挙げられる。具体的な方法としては、例えば、緩衝系人工血管1の成形時に、緩衝円筒10の厚みを周囲よりも肉薄とする方法や、緩衝系人工血管1を部分的に積層構造とする方法(例えば、ポリウレタンなどの弾力性に富む樹脂材料を肉薄に成形して、ベースとなる全体形状を作製した上で、緩衝円筒10以外にフッ素系ポリマーなどの樹脂材料を積層して肉厚とする方法)などが挙げられる。
なお、本実施形態における工夫は、拡径部においてなされているが、この工夫は拡径部でないストレートの管腔部分になされていてもよい。
〔第2の実施形態〕
図3に、本発明の第2の実施形態である緩衝系人工血管2を示す。
緩衝系人工血管2の緩衝円筒10は、拡径部11より上流側に、径を小さくした狭小部13を備える。
その他の構成は、緩衝系人工血管1と共通であり、説明を割愛する。
ここで、動脈血圧は心拍出量(Q)×末梢抵抗(R)で表現されるが、ポアズイユの法則により末梢抵抗(R)は血液の粘度(η)に比例し,血管の半径(r)の4乗に逆比例する(教育講座:血液のレオロジーと生理機能、第1回:血行力学の基礎と血液粘度:前田信治、日本生理学雑誌 Vol.66,No.7・8、234-244、2004)。つまり、天然の動脈やそれより剛性の高い人工血管では、血管径が10%縮小すると抵抗が(1/0.9)^4≒1.5倍となり、血管径が10%拡大すると抵抗は(1.0/1.1)^4≒0.68倍=68%となる。
非常に模式的かつ単純化した説明を以下に述べる。
第一例として、天然の動脈に従来型の人工血管を側端吻合して作製された動静脈シャントの場合を考える。従来型人工血管の内径は多くは6mmであり、十分に長いこの従来型人工血管の最下流端には静脈が端々吻合される。この静脈は周囲組織を取り除いて静脈壁組織のみとし、かつ通常の動脈血圧を加えれば6mm以上に拡張する。従来型人工血管は、血圧や血流を緩衝する機能を持たない様に設計されているので、この人工血管の最下流部(すなわち人工血管から静脈へ血流が流出する部位)では動脈性血液動態は全く緩衝されずに静脈壁に作用し、静脈壁が動脈性血液動態の血圧脈動により拡張と収縮を繰り返して拍動して静脈径が変化する。一般に生理的状態(自然で健康な正常な状態を医学的には生理的状態と呼ぶ。正常でない異常な状態は病理的状態と呼ばれる。)での静脈血の流速と抵抗は、動脈性血流動態下に比較して非常に小さい。そのため、吻合部静脈へ作用する動脈性血流動態下での静脈壁に作用する応力とその変化は、生理的状態の場合より非常に大である。この異常な状態すなわち病理的状態に置かれた静脈壁は、病理的反応の結果として、内膜肥厚や狭窄等の病的変化を生ずる大きな原因となりうる。
第二例として、十分に長い従来型人工血管の最下流部に10%だけ拡張した径を持つ短い拡径部(緩衝部)を付与した緩衝系人工血管を考察する。この場合は、従来型の人工血管の下流側に拡径部を設置し、その更に下流端に、前記の従来型人工血管の場合と同じような静脈が端々吻合されている場合である。拡径部より上流側の大部分を占める従来型血管の径がこの人工血管の事実上の抵抗を決めているので、拡径部へ流入する直前の従来型人工血管部分における血流動態は拡径部の有無では殆ど変わらず、第一例の従来型人工血管の最下流部分と殆ど変わらないと仮定できる。拡径部への流入部前の部分に比較して、拡径部(すなわち血管径が10%拡張した緩衝部分)では、抵抗が68%まで減少する。しかしこの部分の抵抗は、この拡径部の下流端に吻合された静脈の抵抗に比較すれば大であり、かつ血流はこの拡径部より上流の十分に長い従来型人工血管の抵抗と全身の血圧に規定されるところが大なので、拡径部では血圧と血流は、上流の従来型人工血管部位と静脈部位の中間に導かれる。すなわちこれが拡径部位における血流状態の緩衝効果である。極めて大雑把な推定が許されるならば、抵抗の低下を指標にした血圧と血流の変化は68%程度まで低下される緩衝効果が期待される。
第三例として、十分に長い従来型人工血管の下流側に径を10%小さくした十分に短い狭小部分を設置し、更にその直ぐ下流端を従来型人工血管より10%径を拡張した拡径部位を持つ緩衝系人工血管を考察する。人工血管の全体的血流量は、狭小部の存在による抵抗の増加により(きわめて大雑把に推測すると従来型人工血管の場合の1/1.5≒67%まで)減少するが、血圧は全身血圧に規定されるところが大であるので血圧の変化は小さく、抵抗の増大と従来型人工血管の部分を流れる平均流速の減少(すなわち人工血管全体の流量)が優位な変化である。その後、拡径部分(従来型人工血管部分に比較して1.1倍拡径、狭小部に比較して1.1×1.1倍)の効果により、拡径部では血圧と流速は、従来型人工血管の部位と静脈部位の中間に導かれる。この拡径部位は、血流動態から比べると、第二例と同じサイズの「緩衝池」であるが、狭小部から流れ込む血流動態が「より小さな川」となっているので、拡径部の緩衝効果は相対的により大きな緩衝効果を発揮し、第二例に比較して大きな緩衝効果を示し、動脈性血流動態は大雑把には45%くらいまでの緩衝が期待される。
第四例として、従来型人工血管の下流側に従来型人工血管より10%径を拡張した拡径部位を持ち、更にその直ぐ下流側に拡径部位よりも径を小さくした比較的狭小部分を設置した緩衝系人工血管を考察する。10%径を拡張した拡径部位は動脈性血流の流入に伴い緩衝機能を果たす「緩衝池」として作用する一方、その下流側の比較的狭小部分は「出口側水門」として作用して、緩衝池の緩衝効果を更に高める作用を果たす。この場合、緩衝池として作用する拡径部位とその下流側の「出口側水門」として作用する比較的狭小部分が適度な弾力性を持つ場合に、その緩衝効果は最も高められる。
以上の様に、狭小部とその下流に拡径部を設置したり、逆に拡径部の下流に狭小部を設置するなど、拡径部と狭小部とを適切に組み合わせると、緩衝効果はより高くなる。
従って、拡径、弾性変化に加え、狭小部13を設けることにより、動脈性血液動態の緩衝・低減効果をさらに高めることができる。
また、このように複数の緩衝手段を組み合わせることで、単一の緩衝手段に依存する場合と比べて、乱流などの発生リスクを抑えつつ、高い緩衝効果を得ることができる。効率的に緩衝効果を得ることができることで、緩衝円筒10の長さを短くでき、穿刺に使用される通常流路部20を長く確保することができる。
狭小部13の径変化については、特に限定するわけではないが、例えば、狭小部13中央の最小径を、通常経路部20の内径の99%~5%程度とすることができるが、より好ましくは90%~30%程度、更に好ましくは80%~40%程度である。径変化が急激すぎると、乱流等の不都合を生じる恐れがある。径変化の程度が小さすぎると、緩衝効果が不十分となる恐れがある。
〔第3の実施形態〕
図4に、本発明の第3の実施形態である緩衝系人工血管3を示す。
緩衝系人工血管3は、静脈V側だけでなく動脈A側にも緩衝円筒10が形成されており、この動脈A側の緩衝円筒10として、静脈V側から動脈A側にかけて縮径した狭小部13を備える。狭小部13の動脈A側の端部は開口し、動脈Aの小切開部と吻合される。
このように、動脈側に狭小部を設けても良い。
〔第4の実施形態〕
図5に、本発明の第4の実施形態である緩衝系人工血管4を示す。
緩衝系人工血管4は、拡径部11の内腔がスパイラル状となっている。
その他の構成は、緩衝系人工血管1と共通であり、説明を割愛する。
緩衝系人工血管4は、拡径部11の内腔がスパイラル状となっているので、拡径、弾性変化による緩衝効果に加え、動脈性血液動態の緩衝・低減効果をさらに高めることができる。
上述したように、複数の緩衝手段を組み合わせることで、単一の緩衝手段に依存する場合と比べて、乱流などの発生リスクを抑えつつ、高い緩衝効果を得ることができ、それにより、緩衝円筒10の長さを短くして、穿刺に使用できる通常流路部20を長く確保することができる。
なお、本実施形態における工夫は拡径部においてなされているが、この工夫は拡径部でないストレートの管腔部分になされていてもよい。
〔第5の実施形態〕
図6に、本発明の第5の実施形態である緩衝系人工血管5を示す。
緩衝系人工血管5は、緩衝円筒10において、弾性の異なる部分がパッチ状に組み合わされている。弾力性に富む(伸びやすい)複数の弾性部12,12・・・を有する点で、緩衝系人工血管1と異なる。すなわち、緩衝系人工血管1では、緩衝円筒10全体が弾力性に富むのに対し、緩衝系人工血管5では、緩衝円筒10に、部分的に複数の弾性部12,12・・・が配置されており、弾性部12,12・・・とそれ以外の部分がパッチ状に混在している。弾性部12,12・・・は、緩衝系人工血管1と同様、弾性部11の厚みを周囲よりも薄くしたり、材料を変えたりといった方法で形成することができる。
緩衝系人工血管5では、複数の弾性部12,12・・・は菱形状となっているが、その他の形状であっても構わない。ただし、バランスよく緩衝効果を発揮させ、乱流等を生じさせないようにするという観点から、ある程度規則性のある形状・配置とすることが好ましい。
なお、本実施形態における工夫は拡径部においてなされているが、この工夫は拡径部でないストレートの管腔部分になされていてもよい。
〔第6の実施形態〕
図7,8に、本発明の第6の実施形態である緩衝系人工血管6を示す。図8(a)~(c)は、それぞれ、図7におけるa-a断面、b-b断面、c-c断面である。
緩衝系人工血管6は、緩衝系人工血管1に別種の工夫を施したものである。
緩衝系人工血管6の拡径部11は、図8(b)、(c)に示すように、断面が楕円形状であり、長径側の管壁を厚く、短径側の管壁を薄くしている。
短径側の薄い管壁で緩衝効果を発揮させ、一方で、長径側の厚い管壁で血管の圧迫、狭窄、閉塞という一連のリスクを予防することを意図している。短径側ではなく長径側の管壁を厚くしているのは、通常の人工血管の設置法では、長径側の管壁が薄いと、緩衝された血液は流速も遅くなりがちで、その部分が圧迫され、狭窄されると、容易に血栓を形成し、最悪の場合には恒久的に閉塞する危険が増すからである。
しかし、この逆(長径側の管壁を厚く、短径側の管壁を薄く)でも良い。その意図は、時には、皮膚と筋膜の位置関係で、通常とは逆の設置がなされる場合があるからである。 なお、本実施形態における工夫は、拡径部においてなされているが、この工夫は拡径部でないストレートの管腔部分になされていてもよい。
〔第7の実施形態〕
図9,10に、本発明の第7の実施形態である緩衝系人工血管7を示す。図10(a)~(c)は、それぞれ、図9におけるa-a断面、b-b断面、c-c断面、d-d断面である。
緩衝系人工血管7は、緩衝系人工血管6と似た構成であるが、長径側の管壁の厚みを徐々に変化させている点が異なっている。図10(c)、(d)に示すように、長径側のうち、図で見て上側に位置する管壁は、c-c断面では肉薄となり、徐々に厚みを変化させ、d-d断面で肉厚となっている。図で見て下側に位置する管壁は、上側に位置する管壁と逆で、c-c断面では肉厚となり、徐々に厚みを変化させ、d-d断面で肉薄となっており、全体としてはバランスがとられている。
〔緩衝系人工血管における好ましい条件〕
<X%弾性指数>
上記各実施形態の説明において、緩衝円筒10の弾力性に言及したが、この弾力性については、以下の「X%弾性指数」を指標とすることができる。本発明において、「X%弾性指数」は、以下に定義される値を指すものとする。
(X%弾性指数の測定方法)
X%弾性指数は、緩衝円筒の軸方向の長さ5mmのサンプルについて、内径が自然状態からX%拡張したときの弾性指数を求めたものである。弾性指数の測定方法を、図11,12を参照しつつ説明する。図11は弾性指数の測定サンプル100の斜視図を表し、図12は図11に示した測定サンプル100を上方から見たときの平面図を表す。
[測定方法]
緩衝円筒を軸方向に5mmの部分までを切り出して、軸方向の長さ5mmの筒状サンプル100を用意する。筒状サンプル100の切り出しは、軸方向と直角の切断面、すなわち周方向の切線に沿って全周切り出して、軸方向長さが5mmでかつ全周に亘って連続した筒状サンプル100が得られるように行う。但し、緩衝円筒に切り目が形成され、当該切り目に沿って壁を離開可能となっている緩衝系人工血管においては、この切り目部分において壁が不連続となるために「全周性に亘って連続した筒状サンプル」を作製できないので、壁の切り目部分を除いては全周性に亘って連続した筒状サンプルを切り出す。
筒状サンプル100の内腔に、筒状サンプル100の軸方向と平行に直径dが0.75mmの第1ピン101と第2ピン102を挿通する。第1ピン101を固定し、第2ピン102を筒状サンプル100の径方向の外方に力Fで引っ張り、第1ピン101と第2ピン102との間の距離をLとしたとき、πd+2Lが筒状サンプル100の自然状態における周長の(1+0.01X)倍となったときの力F1+0.01Xをひずみ[((1+0.01X)-1.0)/1.0]で除して得られる値をX%弾性指数とする。
ここで、第1ピン101と第2ピン102との間の距離Lは、図12に示すように第1ピン101及び第2ピン102の中心からの距離とする。筒状サンプル100の内径は、第1ピン101の円周πdの1/2と、第2ピン102の円周πdの1/2と、第1ピン101と第2ピン102との間の距離Lの2倍との合計、すなわちπd+2Lと等しい。例えば、筒状サンプル100の内径が自然状態から30%拡張したとき、すなわちπd+2Lが筒状サンプル100の自然状態における周長の1.3倍となったときの第2ピン102を引っ張る力F1.3をひずみ[(1.3-1.0)/1.0]で除することで、30%弾性指数を得ることができる。
筒状サンプルを用いた上記測定方法によっては、測定が困難である場合は、筒状サンプルに代えて、これを展開した帯状サンプルを用いて、X%弾性指数を測定することができる。
具体的には、筒状サンプルを展開して帯状サンプルを準備し、その長手方向両端を、それぞれ、2つの治具で把持し、外方に引っ張る。治具に力がかからない状態(自然状態)で治具の把持位置の間の距離(L)を記録し、次に力を加えて牽引したときの治具間の把持位置の間の距離(L+S)を求める。L+SからLを差し引いた値SをLで除した値(S÷L×100=X)すなわちひずみ(X)を算出する。またその状態、すなわち帯状サンプルの両端が牽引されて治具の把持位置の間の距離が自然状態の治具間距離の(1+0.01X)倍となったときの力F1+0.01Xをひずみ[((1+0.01X)-1.0)/1.0]で除して得られる値を得る。この数値を2倍した数値が、筒状サンプルを用いた上記測定方法で得られるX%弾性指数に相当する。
例えば、後述の実施例30では、筒状サンプルを用いた上記測定方法が出来ないので、その弾性指数の測定においては、これを、以下に述べる測定法を行った。すなわち熱処理してチューブ状にした形状のままでその一本のジグザグの鉄線の両端を2つの治具で把持し、この治具をジグザグの鉄線を直線化する方向に牽引した。まず治具に力がかからない状態(自然状態)で治具の把持位置の間の距離(L)を記録し、次に力を加えて牽引した時の治具間の把持位置の間の距離(L+S)を求めた。L+SからLを差し引いた値SをLで除した値(S÷L×100=X)すなわちひずみ(X)を算出した。またその状態、すなわちジグザグの鉄線が牽引されて治具の把持位置の間の距離が自然状態の治具間距離の(1+0.01X)倍となったときの力F1+0.01Xをひずみ[((1+0.01X)-1.0)/1.0]で除して得られる値を2倍した数値を、X%弾性指数とした。
緩衝円筒からサンプルを切り出す際に、切り出す部分によって値が異なるときは、最も低いサンプルにおける値を、当該緩衝円筒のX%弾性指数とする。
また、測定に供する緩衝円筒が、例えばラッパ状であったりして軸方向の長さが5mmの筒状サンプルが均一なサンプルとして切り出せない場合は、この測定したい箇所と同様に作製した直円筒状の緩衝円筒を用意し、この緩衝円筒の軸方向の長さが5mmとなるサンプルについて、上記の方法で弾性指数を測定すればよい。
また測定に供する緩衝円筒が、例えば補強材や支持体(サポート)と呼ばれる螺旋状補強材で補強されている人工血管や編み布や織り布で作製されている人工血管では、軸方向の長さが5mmの筒状サンプルを切り出して引張すると支持体や布地がほつれる場合が多い。そこでこの場合は、軸方向の長さが適切な長さYmm(たとえば25mm)の筒状サンプルを切り出して上記の方法で弾性指数を測定し、その値をY/5(たとえばY=25ならば25mm÷5mm=5)で除して、5mm当たりの弾性指数を求めればよい。
上記にて定義されるX%弾性指数の中でも、30%弾性指数、60%弾性指数及び100%弾性指数が指標として特に有用である。その理由は以下のとおりである。
まず、30%弾性指数の設定理由を以下に述べる。
本発明者らは予備的検討として、ヒトの動静脈シャントと同様の実験モデルとして、イヌの頸動脈と頸静脈の間に動静脈シャントを作製し、この動静脈シャントを通って動脈血流が動脈側から静脈側に流入した際の、静脈側の拡張に関して実験を行った。
動静脈シャントを形成するに際し、内腔が円形で径が一定の丈夫な、つまり全く管壁の弾性が無い、長さ60mmのアルミニュームのチューブを静脈に被せておいて、動静脈シャントを作製した。このアルミチューブは、壁が渦巻状または螺旋状に重層しており、狭い範囲なら内径を自由に変化・設定することが可能である。次にこのアルミチューブを動脈につないだ静脈の最上流側のシャント静脈の部分に移動させて、静脈の全周を長さ60mmに渡って被覆した。この状態で、上流の動脈に血管鉗子を装着して動脈血流を遮断し、静脈内部には若干の血液が流れ去らずに残存している状態(以下、自然状態と記載することがある)における静脈外径を測定した。次に血管鉗子を外してシャント上流側の動脈から静脈内へ動脈圧を流入させた。その後速やかに、このチューブで被覆された部分のすぐ下流の部位の静脈の外径を測定した。次に、この静脈外径を測定した部位において、ここを流れる動脈性血流動態が緩衝されているか否かを、超音波血流計で評価判断した。その結果、被覆したアルミチューブの内径を、自然状態の静脈の外径の1.3倍以上に設定した場合、すなわちチューブの内径と自然状態の静脈壁の間の遊びを、自然状態の静脈径の30%以上に設定した場合には、チューブの被覆部分のすぐ下流部位における血流動態は緩衝されていた。一方、被せたチューブの内径を、自然状態の静脈の外径の1.15倍以内に設定した場合、すなわちチューブの内径と静脈壁の間の遊びを自然状態の静脈径の30%の2/3倍(=20%)以下に設定した場合には、緩衝効果が認められない場合があった。この実験結果は一つの参考でしかないが、動脈圧血流の緩衝を考察する場合、自然状態の静脈が元の径より1.3倍以上に拡張する場合には、それより拡張が軽度であるよりも血管壁の弾性による緩衝効果が認められやすいと考えられた。本発明者らはこのデータを目安として、緩衝系血管の弾性指数として、内径が30%拡張した状態の弾性指数(30%弾性指数)を以て、人工血管の拡張が比較的小の状態で緩衝機能に関与する血管壁弾性の指標として有用であると判断した。
なお、静脈の拡張は外径の拡張を以て測定したが、内径を以て測定しても、血管壁が元の大きさから拡張した度合い(%)は変わらないので、弾性指数の測定に際しては、内径の拡張を指標にした。
次に、100%弾性指数の設定理由について述べる。
30%弾性指数の設定の実験と同様にイヌに動静脈シャントを形成し、自然状態の静脈の外径を測定した。次に、静脈側にアルミチューブを全く被せない状態で、上流の動脈に装着して動脈血流を遮断していた血管鉗子を外して、シャント上流側の動脈から動静脈シャントを通って静脈内へ動脈血流を流入させ、シャントのすぐ下流側の静脈が流入血により拡張するのを確認した。その後速やかに、シャントのすぐ下流側の静脈径を測定した。その結果、動脈血流が流入した静脈径は、自然状態の静脈径の2倍以上(拡張幅が自然状態より100%増加した状態)までは必ず拡張することを観測した。しかし自然状態の3倍(拡張幅が自然状態より200%増加した状態)以上に拡張する場合は半数以下であった。そこで、自然状態の静脈径の2倍拡張した場合の弾性指数である100%弾性指数を以て、静脈が強く拡張した場合に緩衝効果に関与する血管壁の弾性指数として有用であると判断した。
次に、60%弾性指数の設定理由について述べる。
動脈にかかる動脈性血圧は脈動する血圧として、非常に高い血圧(心臓の収縮期圧)から比較的低い血圧(心臓の拡張期圧)へ交互に移行する脈動性波動として作用する。既に述べたように30%弾性指数については、緩衝系血管の弾性指数として、内径が30%拡張した状態の弾性指数(30%弾性指数)を以て、人工血管の拡張が比較的小の状態、敢て謂わば比較的低い血圧の状態に対する緩衝機能に関与する血管壁弾性の指標として有用であると判断した。更に、自然状態の静脈径の2倍拡張した場合の弾性指数である100%弾性指数を以て、静脈が強く拡張した状態、敢て謂わば高い血圧が作用する状態において緩衝効果に関与する血管壁の弾性指数として有用であると判断した。緩衝血管系の動脈血流の緩衝は、実際にはこの両者の中間の状態におけるあらゆる血圧が作用した状態、すなわち30%から100%の間のあらゆる拡張状態における緩衝効果の総合的結果である。そこでさらに別の観点からの緩衝機能に関与する血管弾性の指標として、すなわち全体的な平均的拡張状態、敢て謂わば全体的な平均的血圧状態において緩衝効果に関与する血管壁の弾性指数として、30%と100%のほぼ中間である60%弾性指数が有用と判断した。
緩衝円筒10の弾性力(伸びやすさ)によって、緩衝効果を得るためには、上記にて定義される緩衝円筒10の30%弾性指数が、11N以下であることが好ましく、より望ましくは例えば内径や壁弾性の変化が全くせずストレートという不利な条件の緩衝円筒でも均一な壁の弾性のみで緩衝効果を示すには1.6N以下である。
緩衝円筒10の30%弾性指数は、より低い方が緩衝効果の発揮には有利である。
また、緩衝円筒10の100%弾性指数も低い方が緩衝効果の発揮には有利であり、例えば、7.5N以下が望ましく、より望ましくは例えば内径や壁弾性の変化が全くせずストレートという不利な条件の緩衝円筒でも均一な壁の弾性のみで緩衝効果を示すには6.5N以下であり、更に望ましくは2.5以下である。
更に、緩衝円筒10の60%弾性指数も低い方が緩衝効果の発揮には有利であり、4.6N以下が望ましく、より望ましくは例えば内径や壁弾性の全く変化しないストレートという不利な条件の緩衝円筒でも均一な壁の弾性のみで緩衝効果を示すには3.2N以下であって、更に望ましくは1.6N以下である。
ただし、例えば、拡径部を設けるなど、緩衝機能を付与する他の手段と組み合わせた態様では、上記各好適範囲を超える場合でも所期の緩衝機能を発揮させることができる場合もある。
なお、緩衝機能を発揮するには30%弾性指数の下限は限りなく0に近くても良い。
30%弾性指数、60%弾性指数及び100%弾性指数以外を目安とすることもでき、例えば、全く同じ内径の直円筒チューブでかつ壁弾性も均一な緩衝円筒10の150%弾性指数についていえば、より低い方が緩衝効果の発揮には有利であり、均一な壁の弾性のみで緩衝効果を示すという不利な条件の緩衝円筒では9.8N以下が望ましく、より望ましくは8.4N以下で、更に望ましくは4.6N以下である。
<緩衝円筒の長さ>
緩衝円筒は、一定程度の長さを有することが望ましい。その目安として、本発明では、緩衝円筒の軸方向の長さXmmと血液流入部の内直径Φとの比R(=X/Φ)を指標とすることができる。緩衝円筒の軸方向の長さXは、ラッパ型緩衝円筒に関する後述の図23から分かるように、緩衝円筒の一方端と他方端のそれぞれについて、軸方向に直交する筒状の切断面を考え、それらの2平面間の距離を測定すればよい。ラッパ型緩衝円筒のような形状では、Xが0mmとなる場合もあり得る。
Rは、1以上が好ましく、より好ましくは1.2以上であり、さらに好ましくは1.5以上である。
ただし、緩衝円筒10が弾性力に富む(伸びやすい)場合や、拡径部を設けている場合など、緩衝機能を付与する他の手段と組み合わせた態様では、Rが1未満でも所期の緩衝機能を発揮させることができる場合もある。
緩衝円筒は必ずしも正確な円筒形である必要は無い。例えば、人工血管たる管状血液流路を構成する壁のある部分だけに、管腔外方向に瘤状に膨隆突出した形状を持つ場合では、この瘤状部分を含む管状血液流路全体が緩衝円筒を意味する。また短い緩衝円筒が複数存在する場合には、それらの短い緩衝円筒の各々の長さの合計の長さが緩衝円筒の長さを意味する。
〔その他の実施形態〕
本発明は、上記第1~第7の実施形態に限定されるものではなく、また、後述する実施例にも限定されない。
例えば、上記第1~第7の実施形態の各緩衝系人工血管は、いずれも、緩衝円筒10と通常流路部20を備えるものであったが、通常流路部20を備えないものであっても良い。すなわち、緩衝系人工血管全体(動脈との吻合部から静脈との吻合に至るまでの全体)が、緩衝円筒10で形成されてもよい。この場合にも、動脈側から流入する血液の圧力と圧の拍動性変化や、流速と流速の変化の大きさを減少させて静脈側に流出させることができる。
以上述べた「物理学的緩衝作用」を持つ緩衝系人工血管は、その下流側に吻合された天然の静脈の壁を「生物学的緩衝作用」としてリモデリングする効果をも示す。特に吻合された天然の静脈壁の人工血管寄りの長さ15mmくらいの範囲はその顕微鏡的所見(後述する所見)を明瞭に認める事が多い。
しかし「生物学的緩衝作用」については、次に述べるように、シャント静脈の壁の外側や内腔側に緩衝円筒を設置して静脈壁と重層した場合に、より典型的にその「生物学的緩衝作用」を発揮させることができる。そこで、次に述べる「生物学的緩衝作用」の説明では、この様な静脈壁と重層して設置する使用法を例に挙げて説明する。本緩衝系血管は、上記の様な設置方法をすることで、その弾性等の物理的特性の作用により緩衝系人工血管の緩衝円筒として作用させることができ(物理学的緩衝作用)、また同時に重層する天然の静脈壁の生体反応をその弾性等の物理的特性の作用により誘導して静脈壁を緩衝系血管にリモデリングさせて(生物学的緩衝作用)、両者の総合的作用によって緩衝系人工血管としてより優れた緩衝円筒とすることが期待できるのである。
〔生物学的緩衝作用〕
これまでは、本発明の緩衝系人工血管の作用について、「物理学的緩衝作用」の観点から述べたが、次に「生物学的緩衝作用」の観点から、本発明の緩衝作用について述べる。
本発明の緩衝系人工血管は、その生物学的緩衝作用により、シャント造設部の天然の静脈の壁に、通常静脈の平滑筋層に比較して豊富な弾性線維を含み通常動脈の平滑筋層より薄い平滑筋層と、その外側に弾性線維を豊富に含み前述の平滑筋層よりも厚いコラーゲン線維層という2層構造を傾斜的に形成させることにより、シャント造設部の静脈自体を天然の緩衝系血管にリモデリングすることができる(緩衝系人工血管の「生物学的緩衝作用」)。このように、シャント造設部の天然の静脈が、弾性繊維に富んだ平滑筋層と、この平滑筋層よりも厚く弾性線維を豊富に含むコラーゲン線維層の二層を有する天然の緩衝系血管にリモデリングすることが人工血管により誘導されて、この誘導された天然の緩衝系血管により、動静脈吻合部及び人工血管静脈吻合部等における高く拍動性で高速血流の動脈性血液動態が下流に向けて徐々に緩衝され、最終的に静脈性血液動態に移行するという低圧緩衝作用が可能となる。その結果、血液乱流や静脈壁の脈動変化が抑制され、内膜肥厚や血栓形成等の病的変化を防止することができる。
上記に関連して、緩衝系血管と通常の動脈との相違を以下に詳しく説明する。
動脈や静脈等の血管壁は内膜、中膜、外膜の三層から構成される。その中で、内膜は抗凝固性には大いに寄与するが力学的な寄与は極めて小である。人工透析のシャント造設部に用いられる四肢の動脈は通常の動脈としての典型的な筋性動脈で、若干の弾性線維と豊富な平滑筋を含む中膜と、その外側の弾性線維とコラーゲン線維等からなる外膜の二つの層が主要な力学的構成要素である。
この内で、比較的少ない弾性線維は、その弾力性により、動脈の拍動性の高い血圧に抵抗してこれを緩和するゴム管の如き緩衝機能を持つ。
一方、平滑筋層は、特に通常の動脈である筋性動脈では、拍動する高圧の動脈性血液動態に抗して血管壁の脈動変化が少なく乱流発生や擦り応力の変動が起こらないように、平滑筋層は特に厚い。この豊富な平滑筋は、筋肉であるため、能動的な力学的機能を持ち、動脈血圧に抵抗しつつ血管を締め付ける一方、他方では高く拍動性の動脈血圧を減衰させる事なく末梢まで送達する積極的・能動的な機能を有する。この動脈の豊富な平滑筋の圧送達機能のために、筋性動脈では、内径がcm単位の大動脈から1ミリの数分の一の小動脈に至るまで、その血圧はほとんど変わらない。すなわち通常の動脈(「平滑筋>弾性線維」の構成)は、豊富な平滑筋の働きにより、拍動性で高い動脈圧を緩衝する機能は持たない。
以上の様に通常の動脈である筋性動脈は、非常に豊富な平滑筋と比較的少ない弾性線維(すなわち「平滑筋>弾性線維」)の構成を持ち、動脈性血液動態に対する剛性が高い。
他方の静脈は、血管壁自体が薄い上に動脈のような厚い平滑筋層及び弾性線維層を持たず、剛性が低い。そのため、もし仮に、動静脈シャントを介して動脈から直接に静脈に動脈血が流入するという自然には存在しない血流状態が起きれば、静脈側はこの状態に適応する事が困難な場合が多く、内膜肥厚等の病理的生体反応病変が生じることは既に述べた。これをシャント造設部の静脈自体の作用によって防止するには、シャント造設部の静脈において、吻合部すなわち静脈の最上流部には100%の拍動性動脈圧の作用にも耐え、この部位より下流側の静脈に向かうに連れて徐々に血圧と拍動性、そして最高流速を減衰・低下させ、最下流の静脈においては拍動性のほとんど無い低圧の静脈性血液動態へまで変化させる血管、すなわち低圧緩衝系血管に、シャント造設部の静脈自体がリモデリングされる必要がある。
シャント部分に使われる四肢動脈の様な通常の動脈は筋性動脈であって、非常に豊富な平滑筋と比較的少ない弾性線維(すなわち「平滑筋>弾性線維」)の構成を持ち、動脈性血液動態に対する剛性が高いことは、既に述べた。
一方、シャント部分の天然の静脈が緩衝系血管にリモデリングされた状態では、弾性線維と平滑筋の割合は通常動脈とは全く逆転しており、非常に豊富な弾性線維と比較的薄い平滑筋層(「弾性線維>平滑筋」)の構成を持つ。そのため緩衝系血管では、平滑筋層が担う圧送達機能は非常に低下し、一方で弾性繊維が担う圧緩衝機能は非常に優位である。緩衝系血管では、上記の「弾性線維>平滑筋」の構成を保ちつつ、すなわち緩衝機能を保ちつつ、天然の血管壁全体が徐々に薄くなり静脈へ移行する、すなわち緩衝された圧の低下に従って徐々に通常静脈へ移行するという、特徴的形態を持つ(低圧緩衝系血管)。
他方、外科用インプラントとして使用される天然静脈を補強するための被覆物による従来の血管バンディング法の様な静脈壁の動脈様の変化は、動脈化(動脈へのリモデリング)であって、それは低圧緩衝系血管へのリモデリングではない。従来の血管バンディング法では、静脈の動脈化が徐々に弱くなり下流で全く通常の静脈へと自然に移行しても、その「平滑筋>弾性線維」の構成のままで徐々に薄くなって静脈へ移行することを意味することから、この「動脈化」した静脈は緩衝機能を持たない。そのために、動脈性血液動態による高い拍動性血圧と高速の血流がシャント下流の静脈壁にまで作用して、下流側の静脈の病的な変化を引き起こす結果になる。この点が、緩衝系血管が徐々に薄くなり通常静脈へ移行する場合と、通常の動脈様の変化が徐々に薄くなって通常静脈へ移行する場合との明確な機能的な相違である。
更に特記すべきは、低圧緩衝系血管の定義においては、上記の「弾性線維>平滑筋」の構成という形態学的変化は、必要条件ではあるが十分条件ではない。緩衝系血管と定義できるためには、この形態学的特徴に加えて、血流測定による血液動態の低圧緩衝が実際の観測により証明されることが必要である。
この「生物学的緩衝作用」、つまり静脈自体を緩衝系血管にリモデリングする作用は、適切な血流緩衝機能を持つ緩衝系人工血管を静脈壁と重層させて設置することにより、より顕著に達成されることを本発明者らは見出した。更にその応用として、血流動態を緩衝出来る適度な弾性と形態を持つ緩衝系人工血管として、既に述べた「物理学的緩衝作用」を持つ本発明の緩衝系人工血管を、静脈壁と重層させて、外置ステントとして静脈壁の外周側に並置するか、あるいは内腔側に内置ステントとして並置するか、あるいはその両方に並置する工夫を行った。この並置緩衝系人工血管を重層させる工夫により、重層並置された緩衝系人工血管の作用で静脈壁は1~4週間で低圧緩衝系血管にリモデリングされる。その結果、先に並置した緩衝系人工血管の緩衝機能に加えて、緩衝系血管にリモデリングされた静脈壁の緩衝機能が機能する事に拠り、全体的な緩衝機能はより適切に機能することになる。この重層並置される緩衝系人工血管を生体内吸収性の素材で作製すれば、生体内吸収性素材の並置緩衝系人工血管が徐々に分解・吸収されるに従い、緩衝系血管にリモデリングされている静脈の緩衝機能が増強し、並置緩衝系人工血管が吸収されて消滅した後には、残された天然の静脈を緩衝系血管として単独で緩衝効果を発揮させることができる。
以上のように、本発明の緩衝系人工血管は、それ自体で緩衝機能を発揮するだけでなく、他の部材や生体組織などとの協働により緩衝機能を発揮するものであっても良い。
上記の「生物学的緩衝作用」に有利な構成として、例えば螺旋状の形状などの形状に切り目を入れるという単純な方法が有効である。一方、直線状の切り目は、この部分の静脈壁が直線状に拡張や硬化等の変化をする場合があるので、あまり望ましくない。
本発明の緩衝系人工血管は、このような切り目を入れた緩衝系人工血管を含む。
具体的には、本発明の緩衝系人工血管は、動脈から静脈に流入する血液動態を緩衝する機能を有する緩衝円筒に、人工血管壁を離開可能とする切り目が形成されているものをも含む。切り目の形状としては、例えば、螺旋状の形状が挙げられるが、これに限定されるものではない。
上記の切り目を持つ緩衝系人工血管は、切り目に沿って壁を離開可能となっているので、シャント静脈の壁の外側に巻き付けて設置することができ、この設置により人工血管としての外置ステント状弾性体として血管の人工的な外壁を形成し、この外壁が内側の静脈と重層することにより天然の静脈壁自体も緩衝系血管にリモデリングされ(生物学的緩衝作用)、その結果、巻き付けた外壁と内側の静脈壁の全体を緩衝系人工血管の緩衝円筒として作製することができる。
上記緩衝系人工血管は、また、シャント部位とその流域の血管の内腔側に設置することができ、この設置により人工血管としての内置ステント状弾性体として人工的な血管の最内層壁を形成し、この最内層壁が外側の血管壁と重層することにより天然の静脈壁自体も緩衝系血管にリモデリングされ(生物学的緩衝作用)、その結果、血管壁の外壁と内側の切り目を入れた緩衝系人工血管の全体を緩衝系人工血管の緩衝円筒として機能させることができる。内腔に設置される緩衝系人工血管は切り目の有無は問わないが、この内で切り目のある緩衝系人工血管は、切り目が入っていることで、細長く変形させることができるため、血管内腔への挿入が容易であるとともに、内腔で適当な外径に復元させることが容易にできる。
上記において、緩衝系人工血管は、切り目が形成された緩衝円筒が、少なくとも一部において、30%弾性指数が3.1N以下、60%弾性指数が4.2N以下、100%弾性指数が6.2N以下、150%弾性指数が8.9N以下の少なくともいずれかの条件を満たすことが好ましい。
切り目が形成された緩衝円筒も他の緩衝円筒と同様に、特に限定するわけではないが、その全部または一部を、例えば、生体吸収性素材又は金属で形成することができる。
以下、本発明に係る緩衝系人工血管について、実施例及び比較例を示す。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
なお、以下の実施例及び比較例に関し、参考図として、図13~28を示すが、これらは、形状の概念図であって実測の形状とは限らない。各図において、符号T,Kは、それぞれ、通常経路部、緩衝円筒を表す。
また、下記において、30%弾性指数、60%弾性指数、100%弾性指数と150%弾性指数は、上述の測定方法によって測定した値であり、荷重測定は、以下の測定機器類を用いて行った。
荷重測定機器:卓上型荷重測定器MODEL-1356R(AIKOH ENGINEERING社)
フォースゲージ:MODEL-RX-10(AIKOH ENGINEERING社)
ハードウェア:Powerlab2/26(AD Instrument社)
ソフトウェア:Labchart(AD Instrument社)
更に、実施例1~実施例24は、主に「物理学的緩衝作用」の観点からの実施例提示であり、実施例25以降は主に「生物学的緩衝作用」の観点からの実施例提示である。
〔実施例1〕
以下の手順により、図13に示す形状の緩衝系人工血管を作製した。
モノフィラメントのポリウレタン繊維を回転している外径6mmの鉄芯周囲に円筒状に巻き付けた。この操作中、一方側に多くの繊維が巻き付く様に、逆の側には巻き付く繊維が徐々に少なくなる様に鉄芯のトラバースを調節した。その後加熱熔着処理をして、内径6mmのポリウレタンチューブを作製した。このチューブの長さ60mmの部分を切り出し、壁の厚い側の端を上流側とする緩衝円筒とした。
従来型の人工血管である市販品の人工血管(Distaflo(登録商標)、C.R.Bard,Inc.製、サポートあり)の中央部分の内径6mmの部分を長さ14cmに切り取って、これに緩衝円筒の上流側端を端々に接着吻合した。これを、緩衝円筒を持つ緩衝系人工血管として実験に使用した。
〔実施例2〕
以下の手順により、図14に示す形状の緩衝系人工血管を作製した。
ホットコイニング法によりラッパ型の形状(図14)のPTFEチューブを作製した。アニーリング後のチューブの長さは60mm、内径は円形で、一方端の内径は6mmで他方端の内径は8~10mmと各種のものを作製した。そのうち、実施例2では他方端内径が8mmのものを使用した。このチューブを内径6mmの側の端を上流側端とする緩衝円筒として、実施例1と同様に、緩衝円筒を持つ緩衝系人工血管を得た。
〔実施例3〕
以下の手順により、図15に示す形状の緩衝系人工血管を作製した。
外径が6mmのアルミ管を変形して、一方端側の断面は外径6mmの円形のままであるが、他端側へ行くほど断面形状を長円形に近い丸みを持つ長四角形へと徐々に形状変化が強くなる芯型を作製した。この芯型にポリウレタンとナイロンのサポート糸で編んだ網を巻き付け、この上からシリコンゴムを塗り付けた。シリコンゴムの壁の厚さは、円形断面端側は、壁の厚さは全周に亘り均一の厚さとしたが、他方端側は壁の厚さは全周の部分により異なり、長円断面の短軸端側は厚さを薄くした。この筒を長さ60mmに切り出して、断面形状が円形の側の端を上流側端とする緩衝円筒とし、実施例1と同様に、緩衝円筒を持つ緩衝系人工血管を得た。本緩衝円筒は、動脈血の内圧変化により断面形状が長円形(図15右下)から円形(図15右上)へと変動する。
このサポート糸を構成する弾性特性の異なる2種類の繊維の組み合わせについて述べると、ポリウレタンモノフィラメントは柔らかく非常に伸びやすいが、これに巻き付けたナイロンの糸は伸縮性に乏しい。それで血圧によってポリウレタンモノフィラメントが伸びても、伸びが小の場合はナイロン糸の巻き付け部分に余裕がありポリウレタン糸は自由に伸びて人工血管が拡張する。しかしより大きな血圧がかかりポリウレタンの伸びが更に大となって人工血管の内腔がさらに拡張しようとすると、ナイロン糸の巻き付け部分の余裕が限界に達してナイロン糸に張力がかかり、ポリウレタン糸の伸びを制限する。このように、伸びやすい性質の糸を伸びにくい性質の糸によりサポートをすることにより、伸びやすい限界を調節することができる。この効果により、一定の血圧までは緩衝円筒が容易に拡張して大きな緩衝効果を発揮するが、それ以上の血圧に対しては緩衝円筒の拡張に制限を加えて過剰な緩衝円筒の拡張を調節し、ひいては適切な緩衝効果を持たせるという利点を賦与することができる。
〔実施例4〕
以下の手順により、図16に示す形状の緩衝系人工血管を作製した。
ホットコイニング法により、図16の様な長さ60mmのPTFEのチューブを作製した。アニーリング後の一方端側の断端は円形で内径は6mm(周長約18.8mm)で、他方端の断面形状は長円形に近い丸みを持つ長四角形で周長は25~40mmである。実施例4はこの内で他方端の周長が25mmのものを使用した。PTFEの壁の厚さは、円形断面の全周に亘り均一の厚さとした。このチューブを、断面形状が内径6mmの円形の側を上流部とする緩衝円筒として、実施例1と同様に、緩衝円筒を持つ緩衝系人工血管を得た。
〔実施例5〕
以下の手順により、図17に示す形状の緩衝系人工血管を作製した。
内径6mmのシリコンゴムチューブを外径6mmの鉄芯に被せたものに、外側から太さ0.8mmのポリプロピレンモノフィラメント糸をピッチ6mmの螺旋状に巻き付け、接着固定して補強した。長さ60mmのチューブを切り取ったものを緩衝円筒として、実施例1と同様に、緩衝円筒を持つ緩衝系人工血管を得た。本緩衝円筒は、動脈圧の内圧変化により螺旋状に変動する。
〔実施例6〕
以下の手順により、図18に示す形状の緩衝系人工血管を作製した。
ホットコイニング法により、図18の様な長さ60mmのPTFEのチューブを作製した。アニーリング後の一方端側の断端は円形で内径は6mm(周長約18.8mm)で、他方端の断面形状は長円形に近い丸みを持つ長四角形で周長は25mmから40mmの各種のものを作製した。実施例6はこの内で他方端の周長が25mmのものを使用した。PTFEの壁の厚さは、円形断面端側より他方端側へ行くにつれて壁の厚さが漸減する。また軸方向に直行する断面では、壁の厚さは周の部分により異なり、長円の短軸端側は厚さをより薄くした。緩衝円筒の仕様に際しては、このチューブの断面形状が円形の側の端を上流側として用い、実施例1と同様に、緩衝円筒を持つ緩衝系人工血管を得た。本緩衝円筒は、動脈血の内圧変化により断面形状が長円形から円形へと変動する。
〔実施例7〕
以下の手順により、図19に示す形状の緩衝系人工血管を作製した。
回転している外径6mmの鉄芯の表面に食塩顆粒のスペーサーを振りかけながらモノフィラメントのポリウレタン糸を鉄芯周囲に円筒状に巻き付けた。この操作中、鉄芯の両端側に多くの繊維が巻き付く様に、逆に中央部には巻き付く繊維が徐々に少なくなる様に鉄芯のトラバースを調節し、食塩顆粒は中央部に多く振りかけて、中央部を空隙率の高い多孔体とした。スペーサーを流水中で洗浄除去し、その後熔着処理をして、内径6mmのポリウレタンチューブを作製した。このチューブの、中央部の長さ60mmの部分を切り出し、壁の厚い側の端を上流端とする緩衝円筒として、実施例1と同様に、緩衝円筒を持つ緩衝系人工血管を得た。本緩衝円筒は、動脈血の内圧変化により壁の薄い中央部の断面形状が拡張して変動する。
本実施例の緩衝円筒の下流側の肉厚部の機能について以下に簡単に説明する。緩衝円筒中央部の壁はより薄いので動脈性血流の流入に伴い拡張して緩衝機能を果たす「緩衝池」として作用する。その下流側の部分も弾力性に富む素材のポリウレタンから成るので弾力性を持つが、壁の厚さは緩衝円筒中央部に比較すると厚いので、緩衝円筒中央部に比較すれば弾力性に乏しい。そこでこの下流側の壁の厚い部分は、この緩衝池の比較的柔軟な「出口側水門」として作用して、緩衝池の緩衝効果を更に高める作用を果たす。
〔実施例8〕
以下の手順により、図20に示す形状の緩衝系人工血管を作製した。
外径8mmのアルミ棒を削って、深さ2mmの溝を2条、ピッチ16mmの回転方向を同方向とした螺旋状に180度対面する面に彫りこんだ。この2条の同方向の螺旋溝を持つアルミ棒を回転させつつ、モノフィラメントのポリエステル糸を円筒状に巻き付けた。この操作中、ポリエステルチューブに抗血液凝固剤含有糊を吹き付けて糸と糸を固着させ、更に溝に沿って太さ1mmのアルミ針金を巻き付けて圧迫した。この操作を2回繰り返して、チューブの螺旋状ひだを形成したのち、チューブを長さ60mmに切り取り緩衝円筒として、実施例1と同様に、緩衝円筒を持つ緩衝系人工血管を得た。本緩衝円筒は、動脈圧の内圧変化により螺旋状に内径が変動する。
〔実施例9〕
以下の手順により、図21に示す形状の緩衝系人工血管を作製した。
シリコンゴムを外径6mmの鉄芯周囲に層状に塗り付けて、ほぼ4層からなり、各層が相互にズレる筒状の重層構造体を得た。また、この操作中、円筒の軸方向の全体に均等な厚さにゴムが層を形成する様に調節した。この内径6mmで壁の厚さ一定のシリコンゴム製チューブから長さ60mmのチューブを切り取ったものを緩衝円筒として、実施例1と同様に、層がズレ緩衝円筒を持つ緩衝系人工血管を得た。
この緩衝系人工血管は、各層が相互にズレるので、脈圧により各層間のズレが生じて緩衝効果を得られる。
〔実施例10〕
以下の手順により、図22に示す形状の緩衝系人工血管を作製した。
ウーリーナイロン繊維をホールガーメント法で編んだ内径5mmの円筒体を得た。
この円筒体を50mmの長さに切断したものを、外径6mmの鉄芯に2重に被せたのち、この2重になった部分の一端に前記円筒体を20mmに切断したものを、さらに被せて、一端から20mm部分は3重の層、残りの30mmは2重の層となるようにした。
このようにして得た一端部が3重構造、他端部が2重構造をした長さ50mmの円筒の網布の編み目を抗血液凝固剤含有糊で処理して平滑化して、重層構造体を得た。これを壁の3重層側の端を上流側端とする緩衝円筒として、実施例1と同様に、緩衝円筒を持つ緩衝系人工血管を得た。重層した層は脈圧によりズレて緩衝効果を増強する事ができる。
また、上記緩衝円筒は、内径を100秒間に130%まで拡張した後、その外力を取り去ると200秒以内に内径が125%以下の内径に復元した。
さらに、上記緩衝円筒は、mm単位という小口径の円筒体を基本形とする複雑な形状でもシームレスで編むことが可能な緯編技術であるホールガーメント法で編まれるので、径方向へ伸縮する可動性を求められ、かつ内径や壁の形状が変化する。
なお、比較のため、ウーリー加工されていないナイロン繊維を用いた以外は同様にして比較用緩衝円筒を作製したところ、比較用緩衝円筒は、内径を100秒間に130%まで拡張した後、その外力を取り去ると200秒以内に内径が125%以下の内径に復元しなかった。
〔実施例11〕
以下の手順により、図17に示す形状の緩衝系人工血管を作製した。
内径6mmのポリウレタンチューブを外径6mmの鉄芯に被せたものに、外側から太さ1.1mmのシリコンゴムモノフィラメント糸をピッチ6mmの螺旋状に巻き付け、接着固定して補強した。長さ60mmのチューブを切り取ったものを緩衝円筒として、実施例1と同様に、緩衝円筒を持つ緩衝系人工血管を得た。本チューブは、動脈圧の内圧変化により螺旋状に拡張部が変動する。
〔実施例12〕
以下の手順により、図24に示す形状の緩衝系人工血管を作製した。
ホットコイニング法により、アニーリング後の一方端の内径が6mmで、図23に示すように他方端に向かってラッパ型に内径が開きつつ、壁の厚さが徐々に薄く変化していくPTFE製のラッパ型チューブを作製した。このラッパ型チューブでは、実施例6の様な、軸方向に垂直な断面の側面側(実施例6では長円形断面の短軸方向)の壁の厚さが長軸方向の壁の厚さより薄くなる様な変化は無い。このラッパ型チューブを図24の様に切り取って、口径の小の側の端を上流側とする緩衝円筒として、実施例1と同様に、緩衝円筒を持つ緩衝系人工血管を得た。実施例12の場合は、Xの距離をX÷Φ=Rが1.6すなわちX=9.6mmとした。
〔実施例13〕
実施例12と同様に作製したラッパ型チューブを図24の様に切り取って口径の小の側の端を上流側とする緩衝円筒として、実施例1と同様に、緩衝円筒を持つ緩衝系人工血管を得た。実施例13の場合は、Xの距離をX÷Φ=Rが1.5すなわちX=9mmとした。
〔実施例14〕
図23の内腔と同様の形状のラッパ型の芯型の周囲にシリコンゴムを塗り付けて図23と同様のラッパ型チューブを作製した。この際、ラッパの開く側へのシリコンゴムの厚さを図23の様に漸減させた。このラッパ型チューブを図24の様に切り取って口径の小の側の端を上流側とする緩衝円筒として、実施例1と同様に、緩衝円筒を持つ緩衝系人工血管を得た。実施例14の場合は、Xの距離をX÷Φ=Rが1すなわちX=6mmとした。
〔実施例15〕
ポリウレタンモノフィラメントを、図23の内腔と同様のラッパ型形状の芯型に巻き付けてラッパ型チューブを作製した。この際、ラッパの開く側へのポリウレタンモノフィラメントの巻き付けた厚さを図23の様に漸減させた。熔着処理後、このラッパ型チューブを図25の様に切り取って断端の径が小の側の端を上流側とする緩衝円筒として、実施例1と同様に、緩衝円筒を持つ緩衝系人工血管を得た。実施例15の場合は、Xの距離をX÷Φ=Rが0すなわちX=0mmとした。
〔実施例16〕
ホットコイニング法により、アニーリング後の一方端の内径が6mmで、図18に示すように他方端に向かってラッパ型に内径が開きつつ、ラッパ型チューブの長円形の短軸側の壁の厚さが長円形の長軸側より一層薄く変化するPTFE製のラッパ型の円筒を作製した。このラッパ型チューブを図24の様に切り取って口径の小の側の端を上流側とする緩衝円筒として、実施例1と同様に、緩衝円筒を持つ緩衝系人工血管を得た。実施例16の場合は、Xの距離をX÷Φ=Rが1.2すなわちX=7.2mmとした。
〔実施例17〕
実施例16と同様にしてPTFE製のラッパ型チューブを作製した。このラッパ型チューブを図24の様に切り取って口径の小の側の端を上流側とする緩衝円筒として、実施例1と同様に、緩衝円筒を持つ緩衝系人工血管を得た。実施例17の場合は、Xの距離をX÷Φ=Rが1すなわちX=6mmとした。
〔実施例18〕
実施例16と同様にしてPTFE製のラッパ型チューブを作製した。このラッパ型チューブを図25の様に切り取って断端の径の小の側の端を上流側とする緩衝円筒として、実施例1と同様に、緩衝円筒を持つ緩衝系人工血管を得た。実施例18の場合は、Xの距離をX÷Φ=Rが0すなわちX=0mmとした。
〔実施例19〕
ポリウレタンモノフィラメントに極細テトロン糸を巻き付けたサポート糸を用いて編んだ長さ60mmの網を、外径6mmのアルミ管に巻き付けた。
つぎに、長さ30mmの網を上記アルミ管に巻き付けた網の一端部に巻き付けたのち、さらに、長さ15mmの網を2重になった層状網部の一端部に2重に巻き付けて、下流側の長さ30mmの部分を1重に、中央部網の長さ15mmの部分を2重に、最上流側の長さ15mmの部分を4重に作製した。なお、網の断端は加熱固定した。このように作製した重層構造部を有する内径6mmのチューブの上からアルギン酸を噴霧してカルシウムで架橋固定して、4重層側の端を上流側端とする緩衝円筒を作製した。この緩衝円筒を持つ緩衝系人工血管を、実施例1と同様に作製し実施例19とした。重層構造部は脈圧により層が互いにズレて緩衝効果が増強される。
〔実施例20〕
ポリウレタンモノフィラメントに極細テトロン糸を巻き付けたサポート糸を用いて編んだ網を、外径6mmのアルミ管に巻き付けた。この際、網の巻き付けは、実施例19とは異なり全長に渡って均一に2重とした。網の断端は加熱固定した。このように作製した内径6mmのチューブの上からアルギン酸を噴霧してカルシウムで架橋固定し、長さ60mmに切り出して緩衝円筒を作製した。この緩衝円筒を持つ緩衝系人工血管を、実施例1と同様に作製し、これを実施例20とした。
〔実施例21〕
ウーリー加工したポリエステル糸で編んだ内径8mmの筒状体を、外径6mmのアルミ管に被せたのち、アルミ管の軸方向に縮めて蛇腹状筒状体とした。
この蛇腹状筒状体をアルミ管に被せた状態でアルギン酸を作用させカルシウムで架橋固定した。架橋固定されて蛇腹形状に保持された蛇腹状筒状体を長さ60mmに切り出して緩衝円筒を得た。そして、この緩衝円筒を持つ緩衝系人工血管を、実施例1と同様に作製し、これを実施例21とした。この緩衝円筒は、蛇腹状をしているので、脈圧により伸縮することによって緩衝効果が増強される。
〔実施例22〕
外径6mmのアルミ管の表面にポリウレタン糸を均一に巻き付け、加熱固定した。このチューブを長さ60mmに切り出して緩衝円筒とした。この緩衝円筒を持つ緩衝系人工血管を、実施例1と同様に作製し、これを実施例22とした。
〔実施例23〕
外径が6mmのアルミ管の芯型にシリコンゴム(KE-4896,信越化学株式会社)を均一に塗り付けた。このチューブを長さ60mmに切り出して緩衝円筒とした。この緩衝円筒を持つ緩衝系人工血管を、実施例1と同様に作製し、これを実施例23とした。
〔実施例24〕
外径6mmのアルミチューブの中央部の周囲全周に樹脂粘土を塗布して長さ50mmに渡り外径を8mmとした部分を作製した。その後、アルミチューブ全体に液状の型取り用ウレタン樹脂(グミーキャストゼロ、日新レジン株式会社)を均一に塗り付け、その直後のウレタンが液状の時期に、ポリプロピレンモノフィラメント補強材を20mm/周のピッチで全長に巻き付け、更にこの上から先に巻きつけたポリプロピレンモノフィラメントを埋め込むように型取り用ウレタン樹脂を均一に塗り付けた。ウレタン樹脂がグミ状に硬化した後、アルミチューブと樹脂粘土を除去して、中央部の長さ50mmの部分が内径8mmで、その両端側が内径6mmの部分を持ち、ポリプロピレンモノフィラメントで補強されたチューブを作製した。このチューブから、内径8mm長さ50mmの中央部と、その両端に連なるそれぞれ長さ5mmで内径6mmの両端部とからなる全長60mmの部分を切り出して、長さ60mmの補強されたチューブを得た。このチューブを緩衝円筒とし、実施例1と同様に、緩衝円筒を持つ緩衝系人工血管を得た。
この巻き付けたポリプロピレンモノフィラメントは比較的伸びにくい素材であって、太さが0.2mmから1.0mmへ徐々に太くなって再び徐々に0.2mmまで細くなるという変化を、長さ20mmの間隔の間に繰り返す形状を持つ。そのため、動脈性血流動態が作用して、非常に柔らかく伸びやすいポリウレタン壁が腔外方向へ広がって内腔が拡張する。一方ポリプロピレンによる螺旋状の補強部分すなわち内腔拡張に抵抗する螺旋状の弁状部分がある。この両者の相互作用により血管壁は螺旋状の管腔に拡張して緩衝効果を増強する。この際に、ポリプロピレンの太さに従って螺旋の弁の高さが異なるため、内腔側へ突出する弁状の螺旋構造は、補強材が細い部分では突出が小で補強材が太い部分では突出が大である三日月状弁の連なった螺旋弁を形成する。同時にポリプロピレンの補強材は、この緩衝円筒の柔らかいウレタン壁が捻じれや外圧により狭窄・閉塞したりする危険を防止する効果を持つ。
〔実施例25〕
乳酸75%とカプロラクタム25%の共重合体(以下、LA/CLと記載する場合がある)からなる医療用の生体吸収性縫合糸(ラクロン(登録商標)、(株)河野製作所、市川市より購入)の一号糸を四重にしたものを準備して、外径6mm、長さ60mmのアルミチューブに二重の糸同士を互いに重なりあう逆方向の螺旋状に交互に巻き付けた。この際、アルミチューブの一方端側は、隣り合う糸が互いに接するように間隔を詰めて巻き始め、徐々に糸の間隔を開けて、反対側端では糸の間隔が2.5mmとなるように調節した。熱処理によりLA/CL縫合糸の螺旋状形態を安定化させ、この長さ60mmで内径6mmの互いに逆向きの2重螺旋形状の部分を、静脈に重層並置する緩衝系人工血管として制作した。動物実験における実施では、他の実施例と同じ従来型の人工血管の中央部分の内径6mmの部分を長さ14cmに切り取って、この人工血管を用いて外頸静脈と総頸動脈の間に通常の人工血管を用いた動静脈シャントを造設した。このシャントの人工血管と吻合した静脈壁の外側に、吻合部から下流側に向かって60mmの部位に、静脈壁と重層する様に巻き付けた。巻き付けの際は、螺旋状LA/CL縫合糸が密な端を人工血管側すなわち血流上流側に配置し、螺旋状LA/CL縫合糸が疎な端をその反対側すなわち血流下流側に配置して、60mmの逆向き2重螺旋状の緩衝系人工血管として設置した。別途、LA/CLを100mg/mlの濃度で1、3-ジオキソランに溶解した糊(以下、LA/CL糊と言う場合がある)を準備し、この糊で2本の逆向き螺旋状のLA/CL糸が交差する点を接着固定した。本緩衝系人工血管は静脈壁とハイブリッドした円筒状の緩衝系血管として機能する。
〔実施例26〕
ポリグリコール酸からなる医療用の生体吸収性不織布(ネオベール(登録商標)、R015Gタイプ、グンゼ(株)、大阪市、より購入)の表面にスラリー状リン酸カルシウムを担持させたものを幅20mmの螺旋形のテープ状に切って、このテープを外径6mm、長さ60mmのアルミチューブに螺旋状に巻き付けた。この際、アルミチューブの一方端側は、テープが完全に四重になるように重ね、徐々にテープの重なりを減少させて、反対側端では二重となるように調節した。熱処理によりテープの螺旋状形態を安定化させる際に、上流側に設置される部位をより強く加熱処理した。この長さ60mmで内径6mmの螺旋状部分を、静脈に重層並置する緩衝系人工血管として制作した。
動物実験では、他の実施例と同じ従来型の人工血管の中央部分の内径6mmの部分を長さ14cmに切り取って、この人工血管を用いて外頸静脈と総頸動脈の間に従来型の人工血管を用いた動静脈シャントを造設した。このシャントの人工血管と吻合した静脈壁の外側であって、吻合部から下流側に向かって60mmの部位に、螺旋形テープ状の緩衝系人工血管を、静脈壁と重層する様に巻き付けた。巻き付けの際は、螺旋状テープの重なりが四重の端を人工血管側すなわち血流上流側に配置し、螺旋状テープの重なりが一重の端をその反対側すなわち血流下流側に配置して、60mmの螺旋状の緩衝系人工血管として設置した。
最後に、螺旋形テープの巻き付け状態を調整して、所望のシャント血流状態にあることを超音波血計で確認し、この状態を保持する様にアルギン酸ナトリウム(スノーアルギンL、富士化学工業(株)、和歌山市、から購入)の水溶液20mg/mlを均一に散布した。均一に散布した理由は、上流部では豊富にあるリン酸カルシウムによりアルギン酸の架橋が強くなり、下流部ではリン酸カルシウムが少ないので架橋が弱くなるように、調節するためである。
本緩衝円筒は静脈壁とハイブリッドした円筒状の緩衝系血管として機能する。
〔実施例27〕
緩衝円筒の素材として、二種類のアルギン酸ナトリウム水溶液を準備した。すなわち高粘度アルギン酸ナトリウムとしてスノーアルギンM、低粘度アルギン酸ナトリウムとしては、スノーアルギンSL(共に富士化学工業(株))を各々濃度20mg/mlの水溶液として準備した。また架橋剤としては、グルコン酸カルシウム(カルチコール、日医工(株)の20倍希釈液を準備した。
動物実験では、他の実施例と同じ従来型の人工血管の中央部分の内径6mmの部分を長さ14cmに切り取って、この人工血管を用いて外頸静脈と総頸動脈の間に従来型の人工血管を用いた動静脈シャントを造設した。シャントの従来型人工血管と吻合した静脈壁の吻合部から下流側に向かって60mmの部位の静脈壁周域に、上記のアルギン酸ナトリウム水溶液とグルコン酸カルシウム水溶液を同時に、三回以上に分割して散布した。この際、従来型人工血管に近い側(上流側)には高粘度アルギン酸ナトリウムを多く散布し、その反対側(下流側)には低粘度アルギン酸ナトリウムを多く散布した。また、分割して散布する間に、超音波血流計によって所望の血流状態を確認し、その所望の状態が保持できるように、アルギン酸とグルコン酸カルシウムの投与を調節した。
本緩衝円筒は静脈壁とハイブリッドした円筒状の緩衝系血管として機能する。
〔実施例28〕
ポリエステル製の従来型人工血管である市販品の人工血管(ダクロン(登録商標)人工血管(日本ライフライン社製、J-Graft,Shield Neo S)内径7mmを長さ60mmに切断して、熱メスを使って螺旋状に切り目を入れて第一の螺旋形テープを作成した。その際、螺旋のピッチは5mmとした。次に同様の螺旋形テープであるが、螺旋の方向が逆方向の螺旋形テープ(第二の螺旋形テープ)を作成した。これらは、螺旋に切り目の縁は外側に反らせて、切り目の断端部はシリコンゴム(KE-4896, 信越化学株式会社)で丸く縁取りした。これら螺旋形テープは、内径6mmのアルミチューブに緊密に巻き付け加熱処理を行い、形状を安定化させた。
動物実験では、他の実施例と同じ従来型の人工血管の中央部分の内径6mmの部分を長さ14cmに切り取って、この人工血管を用いて外頸静脈と総頸動脈の間に従来型の人工血管を用いた動静脈シャントを造設した。このシャントの人工血管と吻合した静脈壁の外側の吻合部から下流側に向かって60mmの部位に、第一の螺旋形テープを静脈壁と重層する様に巻き付けた。また従来型人工血管の下流側端と螺旋形テープの上流側端が5mmの長さだけ重複する様に巻き付けた。このさらに外側に、第一の螺旋形テープに重層させて第二の反対方向巻き螺旋形テープを同様に巻き付け、結局二つの螺旋形テープを重ねて60mmの緩衝円筒として設置した。面ファスナーにより螺旋形テープ上流端と従来型人工血管下流端との重複部分を固定した。最後に、超音波血流計によって所望の血流状態を確認し、その所望の状態が保持できるように、二つの螺旋形テープの巻き付け具合と面ファスナーを調整した。
本緩衝円筒は静脈壁とハイブリッドした円筒状の緩衝系血管として機能する。
〔実施例29〕
ePTFE製の従来型の人工血管である市販品の人工血管人工血管(Distaflo(登録商標)、C.R. Bard,Inc.製、サポートあり)を用い、その中央部分のストレートで内径6mmの部分を長さ65mmに切り取って、実施例28と同様の螺旋形テープを作成した。ただし螺旋形状のピッチは長い側端の5mmから徐々に短くなり短い側端では2.5mmとした。形状の安定化と周囲組織の保護の為に切り目の断端部をシリコンゴム(KE-4896)で丸く縁取りした。
動物実験では、他の実施例と同じ従来型の人工血管の中央部分の内径6mmの部分を長さ14cmに切り取って、この人工血管を用いて外頸静脈と総頸動脈の間に従来型の人工血管を用いた動静脈シャントを造設した。このシャントの人工血管と吻合した静脈壁の外側の吻合部から下流側に向かって60mmの部位に、螺旋形テープを静脈壁と重層する様に巻き付けた。巻き付けの際は、螺旋のピッチが短い側の端を従来型人工血管側すなわち血流上流側に配置し、螺旋のピッチが長い側の端をその反対側すなわち血流下流側に配置し、また従来型人工血管の下流側端と螺旋形テープの上流側端が5mmの長さだけ重複する様に巻き付けた。最後に、超音波血流計によって所望の血流状態を確認し、その所望の状態が保持できるように螺旋形テープの巻き付け具合を調整し、この巻き付け状態を保つように、螺旋形テープの壁同士を、最上流部から20mm刻みに4箇所、ピッチを描く円周の12時方向、4時方向、8時方向、12時の順番に、濃度100mg/mlのLA/CL糊で接着固定した。また従来型人工血管の下流側端と螺旋形テープの上流側端の重複部分は、全周に亘ってLA/CL糊で接着固定した。
本緩衝系人工血管は静脈壁とハイブリッドして円筒状の緩衝系血管として機能する。
なおLA/CL糊の様な生体分解性素材を用いることで、LA/CL糊が血圧により螺旋形テープが徐々に緩むのを防止し、その間も徐々にLA/CL糊の分解が進む一方で生物学的緩衝作用が成熟し、その結果、物理的緩衝作用が徐々に生物学的緩衝作用に置き換わることで、総合的緩衝作用の自己調節機能がより高度になることが期待できる。
〔実施例30〕
径0.098mmのステンレス製ばね用鋼線(SUS304、NAS304-0.1、星和鋼線(株)大阪市、より購入)を折り曲げて、長さ35mmごとにジグザグの逆方向に180度折り曲げを11回行う形状に加工した。この折り曲げは、U字型180度折り曲げ→V字型180度折り曲げ→U字型180度折り曲げと、交互に折り曲げ、U字型折り曲げが6個とその間にV字型折り曲げが挟まるような形状とした。このジグザグの鉄線を外径5mmの鉄芯の周囲に巻き付け、その際にU字型折り曲げが一方向を向いて揃い、逆方向にV字型折り曲げが揃うように巻き付け、これを熱処理により形状を安定化させて、針金の表面にシリコンゴム(KE-4896)を塗り、こうしてジグザグのバネ状鉄線で形成された長さ35mmで内径6mmのチューブを得た。このチューブのシリコンゴムでコーティングされたバネ状鉄線のチューブの周囲を、エチレン-ビニルアルコール共重合体の多孔膜で被覆し、静脈の内腔側に重層並置する緩衝円筒として制作した。
動物実験では、他の実施例と同じ従来型の人工血管の中央部分の内径6mmの部分を長さ14cmに切り取って、この従来型人工血管を用いて外頸静脈と総頸動脈の間に従来型人工血管を用いた動静脈シャントを造設した。すなわちこのシャントの従来型人工血管の下流端から下流側に向かって35mmの部位の静脈壁の内腔側に、緩衝円筒として設置した。チューブのV字型折り曲げ部側の長さ5mmの部分は、従来型の人工血管下流端の壁の内腔側に重層させて、バネの弾性で従来型人工血管下流端側に固定させた。チューブの逆側端であるU字型折り曲げ部側の長さ30mmの部分は、下流側である静脈壁側に重層する様に設置し、バネの弾性により静脈壁を緩く拡張する様に設置した。設置後はバイアスピリン主体の血液抗凝固療法を行った。
本緩衝円筒は静脈壁とハイブリッドして円筒状の緩衝系血管として機能する。
〔実施例31〕
実施例30で使用したものより細い径0.02mmのステンレス製ばね用鋼線(SUS304,751107)を、外径が平均6mm(短径4mm×長径8mm)の長円から正円形で外径7mmに傾斜的に移行する長さ60mmの鉄芯に巻き付けてコイル状ばねを作成した。鋼線の巻き方は、径6mmの側では1巻き目の終わりの鋼線が巻き始めの鋼線に接して長円を描くように巻き、その後は螺旋のピッチを徐々に長くなる螺旋状に円形に巻いて、径が7mmの反対側の端ではピッチを10mmとした。ピッチが10mmの側の鋼鋼の先端が静脈壁に接触しないための工夫として、線線の末端は径が2mmの渦巻き状に丸めた。これを熱処理により形状を安定化させて、針金の表面にシリコンゴム(KE-4896)を塗り、長さ60mmの螺旋状チューブを作成した。
動物実験では実施例30とは異なり、従来型人工血管を用いない動静脈シャントの自己血管の静脈吻合部上流端から下流側に向かって60mmの部位の静脈壁の内腔側に、径6mmの側を上流側にして緩衝系人工血管として設置した。設置後はバイアスピリン主体の血液抗凝固療法を行った。
本緩衝円筒は静脈壁とハイブリッドして円筒状の緩衝系血管として機能する。
〔比較例1〕
従来型の人工血管である市販品の人工血管(Venaflo(登録商標)、C.R.Bard,Inc.製、内径6mm、サポートなし)を用い、その中央部分の内径6mmの部分を長さ20cmに切り取って比較例1の人工血管として使用した。
形状としては、図21に示す直円筒形である。
〔比較例2〕
従来型の人工血管である市販品の人工血管(Distaflo(登録商標)、C.R. Bard,Inc.製、サポートあり)の中央部分の内径6mmの部分を長さ20cmに切り取って比較例2の人工血管として使用した。
形状としては、図17に示す補強された直円筒形である。
〔比較例3〕
実施例12と同様に、ホットコイニング法により、図23に示すようにラッパ型の壁の厚さが徐々に薄く変化していくPTFE製のラッパ型チューブを作製した。このラッパ型チューブを図24の様に切り取って、断端の径が小の側を緩衝円筒の上流側とする緩衝円筒を作製した。比較例3の場合は、Xの距離をX÷Φ=Rが1.2すなわちX=7.2mmとした。従来型の人工血管である市販品の人工血管(Distaflo(登録商標)、C.R.Bard,Inc.製、サポートあり)の中央部分の内径6mmの部分にこの緩衝円筒上流端を接着固定して、緩衝円筒の内で全周性円筒部と従来型人工血管の総計の長さが20cmとなる部位で従来型人工血管を切断し、この20cmの部分を比較例3の人工血管として使用した。
〔比較例4〕
比較例3と同様に、ホットコイニング法により、図23に示すようにラッパ型の壁の厚さが徐々に薄く変化しいくPTFE製のラッパ型チューブを作製した。このラッパ型チューブを図24の様に切り取って断端の径が小の側を緩衝円筒の上流側とする緩衝円筒を作製した。比較例4の場合は、Xの距離をX÷Φ=Rが1すなわちX=6mmとした。従来型の人工血管である市販品の人工血管(Distaflo(登録商標)、C.R.Bard,Inc.製、サポートあり)の中央部分の内径6mmの部分にこの緩衝円筒上流端を接着固定して、緩衝円筒の内で全周性円筒部と従来型人工血管の総計の長さが20cmとなる部位で従来型人工血管を切断し、この20cmの部分を比較例4の人工血管として使用した。
〔比較例5〕
比較例3と同様に、ホットコイニング法により、図23に示すようにラッパ型の壁の厚さが徐々に薄く変化していくPTFE製のラッパ型チューブを作製した。このラッパ型チューブを図25の様に切り取って、断端の周径が小の側を緩衝円筒の上流側とする緩衝円筒を作製した。比較例5の場合は、Xの距離をX÷Φ=Rが0すなわちX=0mmとした。従来型の人工血管である市販品の人工血管(Distaflo(登録商標)、C.R.Bard,Inc.製、サポートあり)の中央部分の内径6mmの部分にこの緩衝円筒上流端を接着固定して、緩衝円筒の内で全周性円筒部と従来型人工血管の総計の長さが20cmとなる部位で従来型人工血管を切断し、この20cmの部分を比較例5の人工血管として使用した。
〔比較例6〕
従来型の人工血管である市販品の人工血管(Distaflo(登録商標)、C.R.Bard,Inc.製、サポートあり)のカフ付き部分を含めて全周性円筒部の長さが20cmとなる部位で従来型人工血管を切断し、この20cmの部分を内径6mmの比較例6の人工血管として使用した(Distaflo(登録商標)は、カフの25cm上流の部分から内径に1mmのテーパーがあるため、”内径7mm規格”の人工血管においてのカフの上流側20cmの内径は6mmである。)。比較例6の場合は、Xの距離をX÷Φ=Rを1.2とした。
〔比較例7〕
従来型の人工血管である市販品の人工血管(Distaflo(登録商標)、C.R.Bard,Inc.製、サポートあり)のカフの一部の末端を切除し、残りのカフ部分を含めて全周性円筒部の長さが20cmとなる部位で従来型人工血管を切断し、この20cmの部分を内径6mmの比較例7の人工血管として使用した(Distaflo(登録商標)は、カフの25cm上流の部分から内径に1mmのテーパーがあるため、”内径7mm規格”の人工血管においてのカフの上流側20cmの内径は6mmである。)。比較例7の場合は、Xの距離をX÷Φ=Rを1.0とした。
〔比較例8〕
従来型の人工血管である市販品の人工血管(Distaflo(登録商標)、C.R.Bard,Inc.製、サポートあり)のカフ部分の一部を図25の様に切除短縮し、ラッパ型断端の対側端を上流側とする緩衝円筒とした。比較例8の場合は、Xの距離をX÷Φ=Rが0すなわちX=0mmとした。全周性円筒部の長さが20cmで内径6mmの部分を使用した(Distaflo(登録商標)は、カフの25cm上流の部分から内径に1mmのテーパーがあるため、”内径7mm規格”の人工血管においてのカフの上流側20cmの内径は6mmである。)。
〔比較例9〕
従来型の人工血管である市販品の人工血管(Venaflo(登録商標)、C.R.Bard,Inc.製 サポートなし)のカフ付き部分を含む部分の全周性円筒部の長さが20cmの部分を、比較例9の人工血管として使用した。
〔比較例10〕
比較例は市販の内径6mm、長さ20cmのポリウレタン製チューブに補強材を加えた人工血管(ソラテック人工血管、コード番号38435,モデル番号10002-6020-002、株式会社グッドマン(名古屋市)が販売)の両端部分を60mmの長さに切り出して、長さ140mmの比較例1と同じ人工血管の下流側に接続して、全長200mmの長さを持つ比較例10の人工血管とした。
〔比較例11〕
従来型の人工血管である市販品の人工血管(ダクロン(登録商標)人工血管(日本ライフライン社製、J-Graft,Shield Neo S)内径7mmを長さ60mmに切断して、これを比較例11の「外側重層並置型」の緩衝円筒として用いた。すなわち、他の実施例と同じ従来型の人工血管の中央部分の内径6mmの部分を長さ14cmに切り取って、この人工血管を用いて外頸静脈と総頸動脈の間に従来型人工血管を用いた動静脈シャントを造設した。次にこのシャントの従来型人工血管の下流端から下流側に向かって60mmの部位の静脈壁の外周に天然の静脈壁に重層させて並置する緩衝系円筒として設置した。
〔動物実験〕
上記各実施例及び比較例の人工血管を用いて、以下のとおり、動物実験を行った。
体重12~16kgの1歳前後のオスあるいはメスのビーグル犬を実験動物(以下、イヌと省略する。)として使用した。実験期間中、イヌは個別に飼育し、実験前1週間以上は標準条件で飼育し、標準イヌ飼料と水を自由に摂取させた。
<実験方法>
以下のすべての外科的処置は、単一の外科チームにより無菌的条件で実施した。イヌを35mg/kgのペントバルビタール静脈内麻酔により基礎麻酔して、イヌの気管内に呼吸用チューブを挿管し、40%酸素とセボフルラン又はイソフルランの吸入麻酔で全身麻酔した。全身麻酔下で、イヌを頸部伸展位に固定し、腹部体毛を剃毛した。5%クロルヘキシジンを含む80%エタノール液で皮膚を清浄化し、10%ポビドンヨード液で消毒した。
右あるいは左側頸部に15cmの縦皮膚創を置いて、筋膜と筋肉を分け、外頸静脈と総頸動脈を露出した。外頸静脈と総頸動脈の間に図26の様な吻合形態のシャントを造設した。シャント増設後は、生来の解剖学的構造に従って筋膜や皮膚を縫合し、手術創を閉鎖した。
但し、表6に記載した実施例25~31と比較例11に関しては、各々の製作法の段落に記載の設置法で設置した。
手術時および術後に経時的(原則として4週毎)に、総頸動脈の吻合部の心臓側と頭側、人工血管の動脈吻合部側端、人工血管の中間部位、静脈の人工血管との吻合部側端、静脈の人工血管との吻合部より下流側すなわち心臓側、の各部位において、シャント形成前、シャント形成後に、超音波断層画像装置により観察し所見を記録した。観察記録項目は、血管内直径、血管壁の異常所見(異常な壁肥厚や壁面不整を含む)、内腔の狭窄・閉塞や血栓形成の有無、血流による血管壁の拍動状態等である。また同部位において超音波ドップラー血流計により、血液の流速とその波形変化を測定記録し、血管内径と流速の波形から、内蔵ソフトウェアを用いて、時間当たりの血流量を求めた。
手術後12週間から18ヶ月間にわたり、上記と同様の検査を行った後、イヌを100mg/kgのペントバルビタール静脈内注射により安楽死させ、剖検を行った。シャント部位を切開して、人工血管を移植した部分の血管系とその周辺部の組織を含めて一塊となる状態で外科的に切除し、肉眼的、顕微鏡的に検査する切除標本とした。
この切除標本を肉眼的評価と実体顕微鏡的評価を行った。評価項目は、超音波断層画像装置によって行った評価項目と原則的に同様としたが、必要に応じて他の病理学的評価も追加した。
この評価の後、10%中性ホルマリン液中で固定して、標準的手法により厚さ4μmの顕微鏡的薄切標本とし、ヘマトキシリン・エオジン染色(HE染色)とエラスチカ-ファンギーソン(EvG)染色により染色し、光学顕微鏡で観察した。
<実験結果>
実験結果を以下に示す。
総合判定の結果は、後述の評価基準の説明のごとく、評価項目(ア)から(エ)の全てを満たした場合を総合判定の成功例(表の〇)と判定し、それ以外の場合を総合判定の失敗例(表の×)と判定した。但し、表6に記載の実施例25~31と比較例11については、評価項目(ア)から(エ)に加えて(オ)も含む全てを満たした場合を総合判定の成功例(表の〇)と判定し、それ以外の場合を総合判定の失敗例(表の×)と判定した。
(実験結果1:形状と緩衝効果の評価)
人工血管の緩衝機能について、緩衝円筒の形状を指標にして評価検討した。
その結果は、下表1に示すとおりである。
Figure 2022163703000002
上記表1の結果より、実施例1~実施例11で示された様々な形状で緩衝効果が認められた。緩衝効果は、実施例1~実施例11の各形状の内で同一のものを複数設置したり、実施例1~実施例11の他の各形状同士を適宜組み合わせても緩衝効果を発揮することが出来る。一方、従来の人工血管(比較例1、比較例2)の様な弾性指数の高いePTFE製の直円筒形では、緩衝効果が認められなかった。
(実験結果2:30%弾性指数による緩衝効果の評価)
内径6mmの長さ60mmの直円筒形の緩衝円筒について、30%弾性指数を指標にして緩衝機能を検討した。なお、実施例8において、螺旋状突起の高さは内腔直径に含めない。
結果は、下表2に示すとおりである。
Figure 2022163703000003
実施例1、5、7~11で示された30%弾性指数の0.08~10.1Nの広範な領域で緩衝効果が認められた。一方従来の人工血管(比較例1、比較例2)である30%弾性指数が13.6N以上の場合では、緩衝効果が認められなかった。
実施例1、5、7~11は、全て、ストレートの形状を持ち、従来の人工血管よりも柔らかい壁で構成されており、壁の柔らかさが緩衝効果に寄与しているが、これに加えて、以下に述べる因子も緩衝効果に寄与していると推測される。
・実施例7
一般に動脈では血液の拍動性送達として内圧の高い部位が上流側から下流側に移動・伝達されるが、それに伴い血管壁が拡張する部位が下流に移動・伝達するという波動状の内腔拡張がみられる。実施例7の人工血管では、チューブの中間に弾性値の小の部分(30%弾性指数が0.08Nと最も柔らかい部分)を設けたため、内圧が掛かるとその部分の拡張が他の部分よりも大きくなり、波動状の内圧亢進に合わせて脈動状に拡張を繰り返す減圧室(緩衝池)の効果を持つ。この緩衝池の下流側にある30%弾性指数が0.9Nと比較的大きい部分は、緩衝池の出口の水門の作用をして、緩衝池の効果を増強する。これらの効果により緩衝効果が増強された。
・実施例1
前述の様に、動脈の拍動性の血液送達により内圧の高い部位が上流側から下流側に移動し、それに伴い血管壁の拡張部位が下流に移動・伝達される波動状の内腔拡張がみられる。実施例1の人工血管は、下流側に向かって徐々に壁の厚さが減少して、徐々に柔らかい性状に変化している。本実施例1の人工血管では、最上流部(最も動脈側)の30%弾性指数は4.5Nで、最下流部(最も静脈側)の30%弾性指数は3.9Nである。そのため、その柔らかさの性状変化による波動状の内腔拡張は、下流ほど大きく拡張する。この様に、波動状の内腔拡張が下流ほど大きくなる効果が出て、緩衝効果を増強した。
なお、柔らかさの変化に大きな段差があると、この段差部分では波動状の内腔拡張に大きな不連続変化を生じて、この部分で大きな血流乱流を生じやすく、乱流は血栓形成の原因となる。逆に柔らかさを徐々に変化させると、波動状拡張が円滑に移動・伝達され、大きな不連続的変化が起こらないので血液乱流が小さく、その結果、血栓形成等の危険が小になるという利点がある。
・実施例9
実施例9の人工血管は、上述のとおり、鉄心周囲にシリコンゴムを層状に塗り付けて作製したものである。緩衝円筒の形状は直円筒形で壁の弾性も均一である。
・実施例10
実施例10の人工血管は、壁の厚さを下流に向かって2段階に薄くしている。そのため、実施例1と同じ効果が生じた。それに加えて、この編みは非常に疎であり、その疎な網目の窓の開口を柔いグルコマンナン糊(抗凝固剤含有)で封じている。この疎な網目を封じているグルコマンナンの窓が内圧を受けて外部へ突出する(図6に類似の構造である。内腔自体は拡張しないが窓の部分のみは圧を受けて外部へ拡張・突出する。)ことにより、緩衝効果が増強された。
・実施例8
内腔に螺旋状の溝をつける事により、血流を螺旋状に流して緩衝効果を高めた。図5と同様の効果である。
・実施例11,実施例5
実施例8と類似であるが、伸びにくい繊維の螺旋状の圧迫・補強材を外側に設置している。既述のように、動脈では血液の拍動性送達として内圧の高い部位が生じ、それに伴う血管壁の内腔拡張がみられる。ある程度の柔らかさを持つ血管壁に、外側から螺旋状の圧迫・補強材を設置しておくと、内圧によるこの内腔拡張により、螺旋状の拡張抑制部分が形成される。その結果、外側への拍動性内腔拡張効果に加えて、血流が螺旋状になり、図5と同様に緩衝効果を高めることが出来る。なお、表2に記載した30%弾性指数は、壁の素材に比較して伸びにくい螺旋状の補強材(実施例5では壁素材はシリコンゴムで補強材はポリプロピレンモノフィラメント繊維、実施例11では壁素材がポリウレタンで補強材がシリコンゴム)の弾性が寄与するところが大であって、壁素材の30%弾性指数は表2に記載の弾性指数よりも遥かに小である。
なお比較例2も螺旋状補強(サポート)を持つが、壁の素材が硬いので動脈圧により壁が拡張せず、実施例11や実施例5に見られる緩衝効果は発揮されない。ちなみに実施例2は、人工血管が捻じれたり外部から圧迫されたときに血管壁が「へしゃげ」て内腔が狭窄・閉鎖して血栓形成や血行が途絶する危険を防止する目的で設置されているものである。
実施例11、実施例24や実施例5の圧迫・補強材は、人工血管の捻れや圧迫による血栓形成や血行の危険を防止する効果も併せ持つことは言うまでもない。(柔らかい血管壁を持つ緩衝系血管は、人工血管の捻じれや圧迫による血栓形成や血行途絶の危険を考慮する必要があるので、この効果は非常に有用である。)
(実験結果3:ラッパ型緩衝円筒の緩衝円筒の相対的長さRと30%弾性指数を指標にした緩衝効果)
ラッパ型緩衝円筒の緩衝円筒の相対的長さRと30%弾性指数を指標にした緩衝効果を検討した。
その結果は、下表3に示すとおりである。
Figure 2022163703000004
(1)図27の様な形態のラッパ型緩衝円筒の緩衝円筒の相対的長さと緩衝効果について検討した。図28に示した緩衝円筒の軸方向の長さXと血液流入部の内直径Φとの比R(=X÷Φ)を緩衝円筒の相対的な長さの指標とした。同じ素材のPTFEで30%弾性指数が同じ11.8Nのラッパ型緩衝円筒であっても、緩衝円筒の相対的な長さR=X÷Φ≧1.5の場合(実施例12と13)では緩衝効果が認められているが、R=X÷Φ≦1.2の場合(比較例3~比較例5)は緩衝効果が認められていない。更にR=X÷Φ≦1.2の場合、素材がePTFEで30%弾性指数が12.0N以上とより高い比較例6~比較例9では緩衝効果が認められなかった。このことは、上記のラッパ状の形状で30%弾性指数が11.8N以上の場合には、緩衝円筒の相対的な長さR≧1.5という条件を満たせば緩衝効果を発揮できることを示している。
(2)ラッパ型緩衝円筒の30%弾性指数と緩衝効果について検討した。30%弾性率が低く7Nの場合の実施例14(R=1)や、3.9Nの場合の実施例15(R=0)の様に、R<1.5でも、緩衝効果が認められた。一方、緩衝円筒の相対的長さRが同じ様にR<1.5であっても、緩衝円筒の30%弾性指数が11.8N以上と高値の場合(比較例3~比較例9)には緩衝効果が認められなかった。すなわち、緩衝円筒の相対的な長さR<1.5の緩衝円筒が緩衝効果を発揮する条件として、30%弾性指数がより低いことが必要で、R=1の場合には30%弾性指数が7N以下、R=0の場合には30%弾性指数が3.9以下では緩衝効果があることを示している。
(実験結果4:ラッパ型緩衝円筒の壁の厚さの変化と緩衝効果)
ラッパ型緩衝円筒の壁の厚さの変化と緩衝効果を検討した。
その結果は、下表4に示すとおりである。
Figure 2022163703000005
緩衝円筒の相対的長さR≦1.2の場合について、ラッパ型緩衝円筒壁の厚さの変化と緩衝効果について検討した。同じ素材のPTFEのラッパ型緩衝円筒であって、かつ緩衝円筒の相対的長さR≦1.2の場合を検討すると、その相対的長さの値に関わらず、軸方向に直行する同一断面のなかで側面方向の壁の厚さを薄くする変化を付けた場合(実施例16~実施例18)には緩衝効果が認められている。しかし一方、同一断面で側面の壁の厚さが上記の変化がない形状を持つときは、緩衝円筒の相対的長さR≦1.2の場合にはその相対的長さの値に関わらず緩衝効果は認められなかった(比較例3~比較例5)。
(実験結果5:60%,100%及び150%弾性指数による緩衝効果の評価)
60%,100%及び150%弾性指数の実施例と比較例を下の表に示した。その評価方法は、30%弾性指数における評価法と同じである。
Figure 2022163703000006
表5の実施例24は、形状はストレートで内径が6mm、長さが60mmであるが、壁の弾性が螺旋状に変化する緩衝円筒を持つものである。この螺旋状の変化が緩衝効果を増強していると考えられるが、これを考慮すると、緩衝効果を持つためには緩衝円筒の壁の60%弾性指数が4.6N以下、あるいは100%弾性指数が7.5N以下、あるいは150%弾性指数が9.8N以下(実施例23)の少なくとも一つの条件を満たすことが必要である。
表5の実施例20、21,22,23はストレートでかつ形状や弾性の変化等が全くない場合、つまり均一な壁の弾性のみで緩衝効果を示す場合の実験結果である。この結果を参考にすれば、均一な壁の弾性のみで緩衝効果を示す場合の指標は、内径6mmで長さ60mmの緩衝円筒では、最低限の条件として60%弾性指数3.2N以下、100%弾性指数6.5N以下、150%弾性指数9.8N以下のいずれかを満たしていることが望ましく、より望ましくは最低限60%弾性指数1.6N以下、100%弾性指数2.5N以下、150%弾性指数8.4N以下のいずれかを満たしていることであって、更に望ましくは、最低限60%弾性指数0.8N以下、100%弾性指数1.5N以下、150%弾性指数4.6N以下のいずれかを満たしていることである。
従来の人工血管を用いた比較例10,1,2では、各弾性指数が上記の各条件を満たしておらず、緩衝効果が認められなかった。
(実験結果6:重層並置型の緩衝円筒による緩衝効果の評価)
重層並置型の緩衝円筒による緩衝効果を下表に示す。
Figure 2022163703000007
表6の実施例は、いずれも静脈壁に重層して並置される重層並置型の緩衝円筒を持つ緩衝系人工血管であって、設置した緩衝円筒の「物理学的緩衝作用」に加えて天然静脈のリモデリングという「生物学的緩衝作用」が顕著にみられるハイブリッド型の緩衝系人工血管である。
この内の実施例25~29は、静脈壁の外周側に静脈壁と重層させて並置される「外側重層並置型」あるいは「外側ステント型」とも呼ぶべき型である。その緩衝円筒の形状は、設置後は断面が円や楕円等の所望の筒の形状を成す。しかし設置の前の形状は、円筒部の壁の不連続線、すなわち円筒の一方端から始まり連続して他方端に至る切れ目を持つ。この切れ目の効用は、再設置や設置状態の調整が可能な点である。
もし「切れ目」が無ければ、再設置に際しては従来型人工血管と静脈との連続性を一度破壊して新たな緩衝円筒を静脈外周に再設置し、その設置後に人工血管と静脈を再吻合する必要がある。しかし「切れ目」があれば、設置に際しては、例えば円筒を一枚のコイル状テープの形状に開くことが出来て、このテープを静脈壁の外周に「被せる」あるいは「巻き付ける」ことにより設置が可能で、人工血管と静脈の連続性を断つ必要もなく、再吻合も不要である。また設置状態の調整に関しては、既に述べたように、設置時に超音波血流系を用いて血流状態を評価しつつ「切れ目」を利用して設置状態を調整し、所望の血流状態を実現する適正な設置状態に調整することが可能である。
また、もし設置した「切れ目の無い」型の緩衝円筒が、例えば「緩すぎ」るなどの適正でない設置状態により所望の血流状態の実現が期待できない場合にも、先に設置した「切れ目の無い」型緩衝円筒の上に「切れ目型」緩衝円筒の一部あるいは全部を重層して被せる事により、「緩すぎ」などの設置状態を修正して所望の血流状態を実現する適正な設置状態へと調整することが可能である。
表6に記載の残りの実施例30と31は、静脈壁の内腔側に静脈壁と重層させて並置される「内側重層並置型」あるいは「内側ステント型」とも呼ぶべき型である。この型も、必ずしも「切れ目」を入れずとも、縦軸方向に引き延ばせば細長い形状に変形が可能で、血管壁を穿刺して小孔を確保すれば切れ目がなくとも細長い形状に変形して静脈内腔への再設置や設置状態の再調整が可能であるが、実施例30と31は「切れ目」を持つ。
動物実験の評価の結果は、総合判定で、実施例25~31の何れもが、項目別の判定結果の(ア)~(エ)のみならず(オ)も全て満たし、緩衝系人工血管の緩衝効果を認め有効性が確認され、生物学的緩衝作用が確認された。
特に実施例26では、12カ月後の評価時に、PGA不織布とアルギン酸はほぼ分解・吸収されており、緩衝系血管にリモデリングされた天然の静脈が単独で緩衝機能を発揮していることが示された。
以上の実験結果から、静脈壁と重層並置される型の緩衝円筒が緩衝効果を示す最低限の条件として、緩衝円筒の壁の30%弾性指数3.1N以下、60%弾性指数4.2N以下、100%弾性指数6.2N以下、150%弾性指数8.9N以下のいずれかを満たしていることが望ましく、より望ましくは最低限30%弾性指数1.5N以下、60%弾性指数1.6N以下、100%弾性指数3.3N以下、150%弾性指数8.2N以下のいずれかを満たしていることであって、更に望ましくは、最低限30%弾性指数0.53N以下、60%弾性指数1.4N以下、100%弾性指数2.7N以下、150%弾性指数3.9N以下のいずれかを満たしていることである。
従来から市販されている人工血管を用いた比較例11では、各弾性指数が上記の各条件を満たしておらず、緩衝効果が認められなかった。
<動物実験の評価>
以下の基準で、シャント造設部に間置した人工血管が低圧系緩衝血管として作用し、シャント部位血管の病的変化を防止したか否かを評価判定した。
ビーグル犬(体重12~16kg)を用いた。頸動脈と頸静脈との間に図26に示す吻合形態の人工血管を使用したシャントを造設し、経過観察した。観察期間はカラードップラー血流計とカラードップラー超音波断層画像診断装置により下記の判定を行った。また観察期間終了時にはイヌを安楽死せしめ、評価判定を行った。
安楽死せしめたイヌのシャント造設部の血管系を摘出した。頸動脈、人工血管全長、および吻合部直下から血流方向に70mmまでの静脈を含む血管系を摘出状態に加えて内腔を開いた状態でも、肉眼的および10倍までの実体顕微鏡下に観察評価した。次に摘出した血管系の血管壁を通常の厚さ4μmの薄片顕微鏡標本に作製しヘマトキシリン・エオジン染色とエラスチカ・ファンギーソン(EvG)染色により染色し、光学顕微鏡で観察した。
<評価基準>
下記の(ア)~(エ)の各評価項目の全てを満たす場合に、シャント造設部に間置した人工血管が低圧緩衝血管として作用し、シャント部位血管の病的変化を防止した成功例と(表1における○)と総合判定し、それ以外は失敗例(表1における×)と総合判定した。
(ア)図26に示した超音波カラードップラー血流計の測定において、(1)頸動脈の血流が、頸動脈と人工血管の吻合部の中枢側すなわち頸動脈の心臓側(図26の血流測定部位1)でも、また末梢側すなわち頸動脈の頭側(図26の測定部位2)でも、両部位において心臓側から頭側への順行性の流れであること、かつ、(2)動脈性の拍動性血流が緩衝されている所見として、上流側である頸動脈(図26の血流測定部位1)の血流に比べて、下流側である人工血管に吻合した頸静脈(図26の血流測定部位3)においては、血流の平均速度と血流拍動の平均変化量の両者が共に半分以下の数値になっていること。
(イ)超音波断層画像診断において、血管内腔が開存し、血管壁がスムーズであること、かつ、人工血管から頸静脈の内腔に、血流に影響する病的な所見として内膜肥厚や血栓形成、内腔狭窄、静脈瘤形成等がないこと。
(ウ)剖検肉眼見として、血管内腔が開存し、血管壁に静脈瘤や不自然な凹凸がなくスムーズであること、かつ、血流に影響する病的な所見として内膜肥厚や血栓形成、内腔狭窄等がないこと。
(エ)実体顕微鏡的および通常の光学顕微鏡的な所見としても、血管内腔が開存し、血管壁に静脈瘤や不自然な凹凸がなくスムーズであること、かつ、血流に影響する病的な所見として内膜肥厚、血栓形成等や狭窄がないこと。
但し、成功例と判定された実験例において、「生物学的緩衝効果」が認められたと判定する場合には、(オ)として次に述べる顕微鏡所見をも併せて認められなければならない。
(オ)シャント造設部の静脈を摘出して静脈をヘマトキシリン・エオジン染色とエラスチカ-ファンギーソン(EvG)染色により染色し顕微鏡的観察する。観察部位は、シャント造設部の静脈に重層させた緩衝系血管の緩衝円筒の上流側端から血流の下流方向に向かって10mmまでの間の部分、緩衝円筒の他方端から血流の上流方向に向かって10mmまでの間の部分、および両者の丁度中間の位置の10mmに含まれる部分の3か所とする。血管の断面を光学顕微鏡で観察し、上記の3カ所の観察部位の何れにおいても次の(A)と(B)の二つの所見を認めること。(A)内腔側に豊富な弾性線維を含む平滑筋層を有し、その外側にコラーゲン線維を含む弾性線維層有する2層構造を認めること。(B)かつ各観察部位で内側の平滑筋層よりも外側のコラーゲン線維を含む弾性線維層の厚みが厚いこと。
<代表的な実施例・比較例についての実験結果の詳細>
代表的な実施例・比較例について、参考のため、実験結果の詳細を示す。
(実施例1)
(1)項目別の評価結果
(ア)超音波ドップラー血流計による評価
Figure 2022163703000008
(イ)超音波断層画像診断:異常所見なし。
(ウ)剖検肉眼所見:異常所見なし。
(エ)顕微鏡所見:異常所見なし。
(2)総合判定
緩衝系人工血管の緩衝効果を認め、有効性が確認された。
(実施例2)
(1)項目別の評価結果
(ア)超音波ドップラー血流計による評価
Figure 2022163703000009
(イ)超音波断層画像診断:異常所見なし。
(ウ)剖検肉眼所見:異常所見なし。
(エ)顕微鏡所見:異常所見なし。
(2)総合判定
緩衝系人工血管の緩衝効果を認め、有効性が確認された。
(実施例5)
(1)項目別の評価結果
(ア)超音波ドップラー血流計による評価
Figure 2022163703000010
(イ)超音波断層画像診断:異常所見なし。
(ウ)剖検肉眼所見:異常所見なし。
(エ)顕微鏡所見:異常所見なし。
(2)総合判定
緩衝系人工血管の緩衝効果を認め、有効性が確認された。
(実施例9)
(1)項目別の評価結果
(ア)超音波ドップラー血流計による評価
Figure 2022163703000011
(イ)超音波断層画像診断:異常所見なし。
(ウ)剖検肉眼所見:異常所見なし。
(エ)顕微鏡所見:異常所見なし。
(2)総合判定
緩衝系人工血管の緩衝効果を認め、有効性が確認された。
(実施例12)
(1)項目別の評価結果
(ア)超音波ドップラー血流計による評価
Figure 2022163703000012
(イ)超音波断層画像診断:異常所見なし。
(ウ)剖検肉眼所見:異常所見なし。
(エ)顕微鏡所見:異常所見なし。
(2)総合判定
緩衝系人工血管の緩衝効果を認め、有効性が確認された。
(実施例16)
(1)項目別の評価結果
(ア)超音波ドップラー血流計による評価
Figure 2022163703000013
(イ)超音波断層画像診断:異常所見なし。
(ウ)剖検肉眼所見:異常所見なし。
(エ)顕微鏡所見:異常所見なし。
(2)総合判定
緩衝系人工血管の緩衝効果を認め、有効性が確認された。
(実施例27)
(1)項目別の評価結果
(ア)超音波ドップラー血流計による評価
Figure 2022163703000014
(イ)超音波断層画像診断:異常所見なし。
(ウ)剖検肉眼所見:異常所見なし。
(エ)顕微鏡所見:異常所見なし。
(オ)顕微鏡所見:所定の3カ所の観察部位の何れの部位でも(A)と(B)の所見を認め、低圧緩衝血管系へのリモデリングと判断された。
(A)緩衝円筒中央部のEvG染色写真(図29)を提示した。内腔側に豊富な弾性線維を含む平滑筋層を有し、その外側にコラーゲン線維を含む弾性線維層を有する2層構造を認めた。
(B)3つの観察部位の平滑筋とコラーゲンを含む弾性繊維層の厚さの表(表14)を提示した。
Figure 2022163703000015
3つの何れの観察部位でも、平滑筋層の厚さよりも弾性繊維層の厚さが厚かった。
(2)総合判定
緩衝系人工血管の緩衝効果を認め、有効性が確認された。
生物学的緩衝作用が作用したことが確認された。
(比較例1)
(1)項目別の評価結果
(ア)超音波ドップラー血流計による評価
Figure 2022163703000016
(イ)超音波断層画像診断:静脈壁の肥厚と顕著な静脈瘤を認め、瘤内部に血栓あり。
(ウ)剖検肉眼所見:静脈側に顕著な静脈瘤を認め内部に血栓あり。
(エ)顕微鏡所見:静脈壁の肥厚と静脈瘤を認める。
(2)総合判定
シャント血管の緩衝効果は認められず、無効であった。
(比較例2)
(1)項目別の評価結果
(ア)超音波ドップラー血流計による評価
Figure 2022163703000017
(イ)超音波断層画像診断:人工血管内腔から静脈内腔は完全閉塞。
(ウ)剖検肉眼所見:人工血管内腔から静脈内腔は完全閉塞。
(エ)顕微鏡所見:病的内膜肥厚と陳旧性血栓を静脈内に認め、このために内腔は完全に閉塞したと判断された。
(2)総合判定
緩衝効果がないため内膜肥厚を生じてシャント血管が完全閉塞した。無効であった。
(比較例3)
(1)項目別の評価結果
(ア)超音波ドップラー血流計による評価
Figure 2022163703000018
(イ)超音波断層画像診断:静脈壁の肥厚と顕著な静脈瘤を認める。
(ウ)剖検肉眼所見:静脈壁の肥厚凹凸と顕著な静脈瘤を認める。
(エ)顕微鏡所見:静脈の病的内膜肥厚と静脈瘤を認める。
(2)総合判定
シャント血管の緩衝効果は認められず、無効であった。
1~7 緩衝系人工血管
10 緩衝円筒
20 通常経路部

Claims (23)

  1. 動脈から静脈に流入する血液動態を緩衝する機能を備える緩衝系人工血管であって、
    前記血流を緩衝する機能が、動脈側から流入する血液の圧力と圧の拍動性変化、及び/又は、流速と流速の変化の大きさを減少させて静脈側に流出させる機能である、
    緩衝系人工血管。
  2. 動脈から静脈に流入する血液動態を緩衝する機能を備える緩衝系人工血管であって、
    前記血流を緩衝する機能が、動脈側から流入する血液の圧力と圧の拍動性変化、及び流速と流速の変化の大きさを減少させて静脈側に流出させる機能である、
    緩衝系人工血管。
  3. 動脈から静脈に流入する血液動態を緩衝する機能を備える緩衝系人工血管であって、
    動脈から静脈に流入する血液動態を緩衝する機能を有する緩衝円筒からなるか、又は、前記緩衝円筒をその一部に備え、
    前記緩衝円筒は、30%弾性指数が10.1N以下である部分を持つ、
    請求項1又は2に記載の緩衝系人工血管。
  4. 動脈から静脈に流入する血液動態を緩衝する機能を備える緩衝系人工血管であって、
    動脈から静脈に流入する血液動態を緩衝する機能を有する緩衝円筒からなるか、又は、前記緩衝円筒をその一部に備え、
    前記緩衝円筒は、100%弾性指数が7.5N以下である部分を持つ、
    請求項1から3までのいずれかに記載の緩衝系人工血管。
  5. 動脈から静脈に流入する血液動態を緩衝する機能を備える緩衝系人工血管であって、
    動脈から静脈に流入する血液動態を緩衝する機能を有する緩衝円筒からなるか、又は、前記緩衝円筒をその一部に備え、
    前記緩衝円筒は、60%弾性指数が4.6N以下である部分を持つ、
    請求項1から4までのいずれかに記載の緩衝系人工血管。
  6. 動脈から静脈に流入する血液動態を緩衝する機能を備える緩衝系人工血管であって、
    動脈から静脈に流入する血液動態を緩衝する機能を有する緩衝円筒からなるか、又は、前記緩衝円筒をその一部に備え、
    前記緩衝円筒は、150%弾性指数が9.8N以下である部分を持つ、
    請求項1から5までのいずれかに記載の緩衝系人工血管。
  7. 動脈から静脈に流入する血液動態を緩衝する機能を備える緩衝系人工血管であって、
    動脈から静脈に流入する血液動態を緩衝する機能を有する緩衝円筒からなるか、又は、前記緩衝円筒をその一部に備え、
    前記緩衝円筒において、動脈側の人工血管壁の弾性指数に比較して、その部分より静脈側における人工血管壁の弾性指数の方が、より小であるという人工血管壁を持つ、
    請求項1から6までのいずれかに記載の緩衝系人工血管。
  8. 動脈から静脈に流入する血液動態を緩衝する機能を備える緩衝系人工血管であって、
    動脈から静脈に流入する血液動態を緩衝する機能を有する緩衝円筒からなるか、又は、前記緩衝円筒をその一部に備え、
    前記緩衝円筒において、動脈側の人工血管壁の弾性指数に比較して、その部分より静脈側における人工血管壁の弾性指数の方が、より大であるという人工血管壁を持つ、請求項1から7までのいずれかに記載の緩衝系人工血管。
  9. 動脈から静脈に流入する血液動態を緩衝する機能を備える緩衝系人工血管であって、
    動脈から静脈に流入する血液動態を緩衝する機能を有する緩衝円筒からなるか、又は、前記緩衝円筒をその一部に備え、
    前記緩衝円筒は、動脈側から静脈側に向かって内径が拡径している部分、及び/又は、動脈側から静脈側に向かって内径が縮径した狭小部分を持つ、請求項1から8までのいずれかに記載の緩衝系人工血管。
  10. 動脈から静脈に流入する血液動態を緩衝する機能を備える緩衝系人工血管であって、
    動脈から静脈に流入する血液動態を緩衝する機能を有する緩衝円筒からなるか、又は、前記緩衝円筒をその一部に備え、
    前記緩衝円筒は、内腔がスパイラル形状となっている、
    請求項1から9までのいずれかに記載の緩衝系人工血管。
  11. 前記緩衝円筒において、弾性の異なる部分がパッチ状に組み合わされている、請求項3から10までのいずれかに記載の緩衝系人工血管。
  12. 前記緩衝円筒が、楕円形状の断面部分を備え、前記楕円形状は、その長径側の管壁の厚みと短径側の管壁の厚みが異なる、請求項3から11までのいずれかに記載の緩衝系人工血管。
  13. 前記緩衝円筒は、軸方向において管壁の厚みが変化している、請求項3から12までのいずれかに記載の緩衝系人工血管。
  14. 前記緩衝円筒は、軸方向の長さをXmm、血液流入部の内直径をΦmmとするとき、その比R(=X/Φ)が1以上である、請求項3から13までのいずれかに記載の緩衝系人工血管。
  15. 人工血管の材料として弾性特性の異なる2種類以上の繊維を含む、請求項1から14までのいずれかに記載の緩衝系人工血管。
  16. 人工血管の材料としてエラストマーを含む、請求項1から15までのいずれかに記載の緩衝系人工血管。
  17. 人工血管の材料として生体内分解性素材を含む、請求項1から16までのいずれかに記載の緩衝系人工血管。
  18. 人工血管壁が、連続あるいは断続した螺旋状あるいは節状の補強構造あるいは弁状構造を持つ、請求項1から17までのいずれかに記載の緩衝系人工血管。
  19. 人工血管壁の一部あるいは全てに、2層以上に重層した重層構造部を持ち、この重層構造部は、重なる層が相互にズレる構造を持つ、請求項1から18までのいずれかに記載の緩衝系人工血管。
  20. 動脈から静脈に流入する血液動態を緩衝する機能を有する緩衝円筒に、人工血管壁を離開可能とする切り目が形成されている、請求項1から19までのいずれかに記載の緩衝系人工血管。
  21. 切り目が形成された緩衝円筒が、少なくとも一部において、30%弾性指数が3.1N以下、60%弾性指数が4.2N以下、100%弾性指数が6.2N以下、150%弾性指数が8.9N以下の少なくともいずれかの条件を満たす、請求項20に記載の緩衝系人工血管。
  22. 切り目が形成された緩衝円筒の少なくとも一部が生体吸収性素材又は金属からなる、請求項20又は21に記載の緩衝系人工血管。
  23. 動脈から静脈に流入する血液動態を緩衝する機能を備える緩衝系人工血管であって、
    動脈から静脈に流入する血液動態を緩衝する機能を有する緩衝円筒からなるか、又は、前記緩衝円筒をその一部に備え、
    前記緩衝円筒は、一定の強さの外力により内径が100秒間に130%まで拡張した場合、その外力を取り去ったのちに200秒以内に内径125%より小さな内径まで復元する弾性を持つか、及び/又は、一定の強さの外力により内径が100秒間に80%まで縮小した場合、その外力を取り去ったのちに200秒以内に内径85%より大きな内径まで復元する弾性を持つ、請求項1から22までのいずれかに記載の緩衝系人工血管。
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