JP2022152279A - マイクロ繊維セルロースの製造方法、マイクロ繊維セルロース複合樹脂の製造方法、及びマイクロ繊維セルロース - Google Patents

マイクロ繊維セルロースの製造方法、マイクロ繊維セルロース複合樹脂の製造方法、及びマイクロ繊維セルロース Download PDF

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Kazuhiro Matsusue
貴章 今井
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Abstract

Figure 2022152279000001
【課題】変性処理の変性率が向上されて得られたマイクロ繊維セルロースの製造方法、及びマイクロ繊維セルロース複合樹脂の製造方法、マイクロ繊維セルロースを提供する。
【解決手段】上記課題は、セルロース原料を変性してカルバメート化セルロースを得る変性工程と、前記カルバメート化セルロースを解繊してマイクロ繊維セルロースを得る解繊工程を有し、前記変性工程は、セルロース原料に、尿素又はその誘導体と双性イオン化合物を添加して、100~300℃に加熱して行うものである、ことを特徴とするマイクロ繊維セルロースの製造方法、及び得られたマイクロ繊維セルロースと樹脂を混練してセルロース複合樹脂を得る混練工程を有する、ことを特徴とするセルロース複合樹脂の製造方法によって解決される。
【選択図】図1

Description

本発明は、マイクロ繊維セルロースの製造方法、マイクロ繊維セルロース複合樹脂の製造方法、及びマイクロ繊維セルロースに関するものである。
近年、原料パルプを解繊して得られるセルロースナノファイバーや、マイクロ繊維セルロース(ミクロフィブリル化セルロース)等の微細繊維は、樹脂の補強材としての使用が注目され、研究開発が進められている。微細繊維は、補強材として有用ではあるが、親水性であり、疎水性の性質を有する樹脂とは反発し合うので、そのことが、樹脂の補強材としての効果を十分に引き出せていないのではないかという問題がある。この問題に対しては、微細繊維に疎水基を付与する等の変性処理を行い、樹脂と同様の疎水性の性質を付与し、樹脂との親和性を高めることで補強効果を持たせるという技術が提案されている。
特許文献1は、微細繊維に疎水基を付与する技術として、「セルロース原料に疎水性基を有する炭素数が15以上の環状多塩基酸無水物(a)を付加してエステル化した変性セルロース原料(A)」を開示し、この変性セルロース原料(A)と分散用樹脂(B)とを含む変性セルロース原料含有樹脂組成物が、成形材料用樹脂に対する分散性や機械的強度に優れたものになる、との提案をしている。
特許文献2は、「水酸基を有するセルロースに無水多塩基酸構造を分子内に有する樹脂を反応させて変性セルロースを得る工程と、得られた変性セルロースを微細化処理する工程とを同一工程で行う変性セルロースナノファイバーの製造方法であって、該無水多塩基酸構造は、カルボキシル基が分子内で脱水縮合し環状構造を形成した環状無水多塩基酸構造であることを特徴とする変性セルロースナノファイバーの製造方法」に関する技術を提案し、この技術によれば、溶剤中に分散しやすい変性セルロースナノファイバーを簡便に製造できる、としている。
特開2016-216605号公報 WO2015/040884号
特許文献1は、酸無水物のセルロース原料に対する変性率(反応率)が所定範囲であることが望ましいとしているが、どのような製造方法を採れば、変性率を向上させることができるかに関して十分な考慮がなされていない。特許文献2は、セルロースと無水多塩基酸構造を分子内に有する樹脂とを所定の比率で反応させて、変性セルロースナノファイバーを製造するとしているが、これもまた変性率を向上させることに関しては、やはり十分な考慮がなされていない。これらの点を踏まえ、本発明者は、変性率をより向上させる余地があるのではないかと考え、本発明が解決しようとする課題を、変性処理の変性率が向上されたマイクロ繊維セルロース、マイクロ繊維セルロースの製造方法、及びマイクロ繊維セルロース複合樹脂の製造方法を提供することとする。
セルロースを変性させる手法の一例としては、セルロースと尿素を混ぜて加熱処理を行う手法を挙げることができる。この場合、セルロースと尿素の接触具合や加熱温度等が変性率を左右することになる。加熱温度を高めると尿素が活性化エネルギーを得て、セルロースとの化学反応が活発化して、変性率が向上する。しかしながら、その半面、熱によりセルロースが部分的に損傷してしまうおそれがある。損傷の多いセルロースは強度が弱く、樹脂の補強材としては不向きとなる場合がある。この点を踏まえ完成させた発明の態様が次に示すものである。
[第1の態様]
セルロース原料を変性してカルバメート化セルロースを得る変性工程と、
前記カルバメート化セルロースを解繊してマイクロ繊維セルロースを得る解繊工程を有し、
前記変性工程は、セルロース原料に、尿素又はその誘導体と双性イオン化合物を添加して、100~300℃に加熱して行うものである、
ことを特徴とするマイクロ繊維セルロースの製造方法。
変性工程で、尿素又はその誘導体と双性イオン化合物を添加して加熱すると、これらが深共晶溶媒のように振る舞う。この状態化では尿素又はその誘導体が反応性に富み、セルロース原料との反応が容易に進行する。したがって、反応系を過度に加熱することなく、変性率が相対的に高いカルバメート化セルロースを得ることができる。
[第2の態様]
前記セルロース原料がシート状のパルプである、
第1の態様のマイクロ繊維セルロースの製造方法。
セルロース原料の形態としては、スラリー状やシート状、繊維状、粉砕された、その他のパルプの形態を挙げることができるが、中でもシート状のパルプをセルロース原料に用いると、高い変性率のカルバメート化セルロースを相対的に短い反応時間で得ることができる。短時間でカルバメート化が進行するメカニズムは明らかではないが、おそらく熱の伝導性が一因ではないかと推測される。仮に所定の濃度のパルプが入った液体に熱を加えた場合を考えてみると、スラリー状や繊維状のパルプでは、個々のパルプは大きさが小さいので、パルプ間の熱の伝導が液体を介して行われることになる。液体が熱伝導性に乏しいものであれば、液中のパルプ全体に熱が伝わるのに一定の時間がかかることになる。一方で、シート状のパルプでは、個々のパルプは大きさが大きく、液体の熱伝導性にかかわらず、シート内で熱が直接伝わり、シート全体が短時間で化学反応が促進される温度に達するものと思われる。また、カルバメート化反応が促進される温度に晒される時間が少なければ、セルロースへのダメージが小さいので、結晶化度が相対的に高いマイクロ繊維セルロースを得ることができる。
[第3の態様]
前記双性イオン化合物がベタインである、
第1又は第2の態様のマイクロ繊維セルロースの製造方法。
双性イオン化合物がベタインであれば、尿素又はその誘導体と混合されて容易に深共晶溶媒となり、カルバメート化反応が促進される。
[第4の態様]
前記双性イオン化合物がトリメチルグリシン又はその誘導体である、
第1~第3の態様のいずれかの態様のマイクロ繊維セルロースの製造方法。
双性イオン化合物がトリメチルグリシン又はその誘導体であれば、尿素又はその誘導体と混合されて容易に深共晶溶媒となり、カルバメート化反応が促進される。
[第5の態様]
尿素又はその誘導体と双性イオン化合物を1:99~99:1の質量比で添加する、
第1~第4の態様のいずれかの態様のマイクロ繊維セルロースの製造方法。
当該態様の質量比で添加すれば、尿素又はその誘導体と双性イオン化合物とで生成される液体の融点が下がり、イソシアン酸が発生し易くなるのでセルロースのカルバメート化反応が促進される。
[第6の態様]
前記マイクロ繊維セルロースの平均繊維幅が0.1~20.0μmである、
第1~第5の態様のいずれかの態様のマイクロ繊維セルロースの製造方法。
マイクロ繊維セルロースが当該態様の平均繊維幅であれば、樹脂の補強材としての十分な強度が備わったものとなる。
[第7の態様]
前記変性工程は、1秒以上かつ2時間以下加熱して行う、
第1~第6の態様のいずれかの態様のマイクロ繊維セルロースの製造方法。
当該態様の加熱時間であれば、製造されるマイクロ繊維セルロースは、熱による損傷が少ないので、優れた強度を有するものとなる。
[第8の態様]
第1~第7の態様のいずれかの態様の製造方法によって得られたマイクロ繊維セルロースと樹脂を混練してセルロース複合樹脂を得る混練工程を有する、
ことを特徴とするセルロース複合樹脂の製造方法。
上記態様によって製造されたマイクロ繊維セルロースは、高い変性率で変性されて親水性が低下しており、疎水性の性質を有する樹脂と混練させたときの反発が抑制されるので、より均質な混ざり具合となる。
[第9の態様]
セルロース原料を変性してカルバメート化セルロースを得る変性工程と、
前記カルバメート化セルロースを解繊する解繊工程を有し、
前記変性工程は、セルロース原料に、尿素又はその誘導体と双性イオン化合物を添加して、100~300℃に加熱して行うものであり、
前記解繊工程によって得られ、結晶化度が50~95%である、
ことを特徴とするマイクロ繊維セルロース。
上記態様のマイクロ繊維セルロースは上記範囲の結晶化度を備えるので、樹脂の補強材として十分な強度を備えたものとなる。
本発明によると、変性処理の変性率が向上されたマイクロ繊維セルロース、マイクロ繊維セルロースの製造方法、及びマイクロ繊維セルロース複合樹脂の製造方法となる。
マイクロ繊維セルロースの製造方法の説明図である。
次に、発明を実施するための形態を説明する。なお、本実施の形態は、本発明の一例である。本発明の範囲は、本実施の形態の範囲に限定されない。
本形態のマイクロ繊維セルロースの製造方法は、セルロース原料を変性してカルバメート化セルロースを得る変性工程と、前記カルバメート化セルロースを解繊してマイクロ繊維セルロースを得る解繊工程を有し、前記変性工程は、セルロース原料に、尿素又はその誘導体と双性イオン化合物を添加して、100~300℃に加熱して行うものである、ことを特徴とする。以下、詳細に説明する。
(変性工程)
変性工程は、セルロース原料を変性させて、セルロース原料のヒドロキシ基がカルバメート基に置換されたカルバメート化セルロースを得る工程である。変性工程に用いるセルロース原料の形態としては、シート状のパルプ、スラリー化されたパルプ、粉砕されたパルプ、繊維状のパルプ等を例示できる。特にシート状のパルプであれば、セルロース原料全体に熱が伝わりやすいので、カルバメート化の反応効率がよく、加熱時間の短縮化が図られ好ましい。
セルロース原料をカルバメート化するのに用いられる反応物として、尿素又はその誘導体を例示できる。尿素又はその誘導体は、常温常圧下で固体であり、セルロース原料と化学反応させるには、加熱された反応系で行うことになる。しかしながら、加熱された反応系の下では、セルロース原料が部分的に熱により損傷してしまうおそれがある。そこで、本実施態様では、セルロース原料と、尿素又はその誘導体と双性イオン化合物が含まれた反応系で化学反応させる手法によって、過度に加熱せずにセルロース原料のカルバメート化を行っている。この手法によれば、尿素又はその誘導体と双性イオン化合物とが深共晶溶媒のように振る舞うので、過度の加熱を要することなくカルバメート化が促進される。
セルロース原料と尿素又はその誘導体の化学反応は、およそ次のとおりとなる。尿素又はその誘導体は加熱されると下記の反応式(1)に示すようにイソシアン酸及びアンモニアに分解される。イソシアン酸は反応性が高く不安定であり、例えば、下記の反応式(2)に示すように化学反応することで、セルロースのヒドロキシ基がカルバメート基に置換される。
NH2-CO-NH2 → H-N=C=O + NH3 …(1)
Cell-OH + H-N=C=O → Cell-O-CO-NH2 …(2)
尿素又はその誘導体と双性イオン化合物が共存した反応系では、上記反応式(1)の反応が起こりやすく、双性イオン化合物を有しない反応系よりも、イソシアン酸が多く生成される。そして、イソシアン酸がセルロース原料と容易に化学反応するので、カルバメート基に置換されたセルロースが多く生成する、すなわちセルロース原料の変性率が高まると考えられる。
変性工程では、尿素又はその誘導体と双性イオン化合物が添加されたセルロース原料を加熱する際の温度(加熱温度)を、好ましくは100℃以上、より好ましくは140℃以上、さらに好ましくは160℃以上とするとよい。加熱する温度が100℃を下回ると、上記カルバメート化反応が促進されにくい。一方、加熱温度は、好ましくは300℃以下、より好ましくは280℃以下、特に好ましくは260℃以下であるとよい。加熱温度が300℃を上回ると、セルロース原料が分解したり熱変性したりして、樹脂の補強効果が不十分となるおそれがある。
変性工程では、上記加熱温度の範囲で好ましくは1秒以上、より好ましくは5秒以上、特に好ましくは10秒以上加熱するとよい。加熱する時間が1秒を下回ると上記カルバメート化反応が促進されないおそれがある。他方、上記加熱温度の範囲で好ましくは2時間以下、より好ましくは1時間以下、特に好ましくは0.5時間以下、加熱するとよい。2時間加熱すればカルバメート化反応がほぼ完結するので、その時間を超えて加熱する利点が乏しい。セルロース原料がシート状のパルプである場合は、上記加熱温度の範囲で好ましくは60秒以下、より好ましくは30秒以下、特に好ましくは20秒以下に加熱するものとすることができる。セルロース原料がシート状のパルプであると、熱が容易に伝わるので、パルプ内及びパルプ間で温度差が小さく、セルロース原料全体においてカルバメート化反応が、ムラなく促進され比較的短時間で完結する。
変性工程においては、反応温度及び反応時間の他に、pHを調整することも化学反応が促進され好ましい。pHは、好ましくはpH8以上、より好ましくはpH9~13のアルカリ性条件であるとよい。又は、pH7以下、好ましくはpH3~7の酸性条件又は中性条件であるとよい。ただし、pH13を超えるアルカリ性条件であると、セルロース原料の平均繊維長が短くなり、樹脂の補強効果に劣る可能性がある。これに対し、pH9~13のアルカリ性条件であると、セルロース原料の反応性が高まり、尿素又はその誘導体への反応が促進され、効率良くカルバメート化反応するため、セルロース原料の平均繊維長を十分に確保することができる。他方、pH6以下の酸性条件であると、尿素又はその誘導体からイソシアン酸及びアンモニアに分解する反応が進み、セルロース原料への反応が促進され、効率良くカルバメート化反応するため、セルロース原料の平均繊維長を十分に確保することができる。ただし、酸性条件であるとセルロースの一部が酸加水分解する場合があるため、アルカリ性条件で加熱処理する方が好ましい。pHの調整は、混合物に酸性化合物(例えば、酢酸、クエン酸等。)やアルカリ性化合物(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム等。)を添加すること等によって行うことができる。
変性工程の加熱に用いる方式としては、例えば、熱風方式、高周波加熱方式、低周波加熱方式、ロータリーキルン方式、誘導加熱ロール方式、オイル加熱ロール方式、遠赤外線加熱方式、マイクロ波方式、等を使用することができる。
変性工程によって生成した生成物は、次工程に供するために洗浄してもよい。この洗浄は、水等で行えばよい。この洗浄によって残留している未反応の尿素又はその誘導体や副生成物等を除去することができる。
変性工程では、有機溶剤を加えて行うこともできるし、加えないで行うこともできる。有機溶剤を加える場合は、セルロース原料のヒドロキシ基との反応性を有しない有機溶剤を用いるとよい。有機溶剤としては、例えば、シクロヘキサン、トルエン、キシレンなどの炭化水素系溶媒、塩化メチレン、クロロホルム、ジクロロエタンなどのハロゲン系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶媒、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドンなどのアミド系溶媒、酢酸、プロピオン酸、酪酸などのカルボン酸系溶媒、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、イソプロピルエーテル、1,4-ジオキサンなどのエーテル系溶媒を挙げることができる。しかしながら、有機溶剤を加えると、反応系における尿素又はその誘導体の濃度が薄まり、反応物たるセルロース原料との遭遇率が低下し、カルバメート基の変性率の低下を招く場合があるため、有機溶剤を加える場合は、反応物それぞれの分率に注意を要する。
セルロース原料と、尿素又はその誘導体と双性イオン化合物とを反応させるには、例えば次のように行うことができる。先ず尿素又はその誘導体の水溶液に双性イオン化合物を混ぜて、尿素又はその誘導体と双性イオン化合物からなる溶液Aを得る。当該溶液Aにセルロース原料を浸漬させ、セルロース原料と溶液Aを十分に混ぜ合わせる。
ここで、発明者等は、研究を進める中でセルロース原料の変性率(カルバメート化率)が、反応物全体に占めるセルロース原料の濃度にある程度依存するとの知見を得た。その知見は、当該濃度が高いと変性率が高くなる傾向にあるが、ある一定以上当該濃度が高くなると尿素又はその誘導体に双性イオン化合物を均一に浸透させることが困難というものである。この傾向となる理由は、定かではないがおそらく、セルロース原料の濃度が変わることで、反応系全体の伝熱性能が変わることによるのではないかと推測される。反応物全体に占めるセルロース原料の濃度は、好ましくは1.0~99.0質量%、より好ましくは10.0~90.0質量%、当該セルロース原料の濃度が1.0質量%よりも低いと、変性率が低くなり、99.0質量%よりも高いと溶液Aとセルロース原料が十分に混ざり合わない。特にセルロース原料がシート状である場合は、反応物全体に占めるセルロース原料の濃度を50質量%以上としても、短時間で高い変性率を有するカルバメート化されたセルロースを得ることができる。ここで、反応物全体とは、変性工程のカルバメート反応に用いられる物質全体をいい、例えば、セルロース原料と尿素又はその誘導体と双性イオン化合物を用いてカルバメート反応を行う場合は、セルロース原料と尿素又はその誘導体と双性イオン化合物の全てをいう。
変性工程では、セルロース原料と、尿素又はその誘導体と双性イオン化合物が混合された状態でカルバメート化を行う。カルバメート化に先立って、反応物全体から水分を脱水や加熱等により除去しておくことが好ましい。尿素又はその誘導体と、双性イオン化合物との質量比は、好ましくは99~1:1~99、より好ましくは9~1:1~9とするとよい。尿素又はその誘導体と、双性イオン化合物との質量比が上記範囲から外れ、例えば尿素又はその誘導体の量に対して双性イオン化合物の量が多過ぎたり、少な過ぎたりすると、尿素又はその誘導体と双性イオン化合物を含む混合物が深共晶溶媒として振る舞い難くなり、セルロース原料の変性率が低いものとなる。
また、尿素又はその誘導体は水100質量部に対して50質量部以下となるように加えると、十分に尿素が水に溶解しセルロース原料へ均一に浸透し、セルロース原料の変性率が高くなり好ましい。
カルバメート化反応を行う場合、セルロース原料と尿素又はその誘導体との混合比は、固形分換算で尿素又はその誘導体1質量部に対してセルロース原料を好ましくは1~1,000質量部、より好ましくは10~100質量部、混合するとよい。尿素又はその誘導体1質量部に対してセルロース原料が1質量部未満だと、尿素又はその誘導体が過剰であり、1,000質量部超だとセルロース原料と尿素又はその誘導体とが十分に混ざり合わないおそれがある。
変性工程に用いられる尿素又はその誘導体としては、尿素、チオ尿素、ビウレット、フェニル尿素、ベンジル尿素、ジメチル尿素、ジエチル尿素、テトラメチル尿素、尿素の水素原子をアルキル基で置換した化合物等のから1種又は2種以上選択されたものを例示できる。特に尿素であれば、反応性及び作業性に優れるので好ましい。
変性工程に用いられる双性イオン化合物は、1分子内に正電荷と負電荷の両方を持つ化合物である。正電荷をもつ分子としては、第四級アンモニウムカチオン化合物、スルホニウム化合物、ホスホニウム化合物等を例示でき、負電荷をもつ分子としては、カルボニル化合物、スルホニル化合物、ホスフォニル化合物、塩化物等を例示できる。具体的に用いられるものとしては、ベタイン(例えば、アルキルベタイン、アミドベタイン、スルホベタイン、アルキルスルホベタイン)、グリシン、スルファミン酸、塩化コリン、トリメチルグリシン、シドノン、アミンオキシド、アゾキシ化合物、ニトリルオキシド、ニトリルイミド、ホスフィンオキシド、リンイリド、3-ヒドロキシ-2-(トリメチルアミニオ)プロパン酸イオン、ジメチル(2-ヒドロキシエチル)アミニオアセタート、及びこれらそれぞれの誘導体等を挙げることができる。取り扱い性、洗浄のし易さ、容易な深共晶溶媒化等の観点から、特にトリメチルグリシン又はその誘導体を用いるのが好ましい。
(解繊工程)
セルロース原料の解繊は、例えば、ビーター、高圧ホモジナイザー、高圧均質化装置等のホモジナイザー、グラインダー、摩砕機等の石臼式摩擦機、単軸混練機、多軸混練機、ニーダーリファイナー、ジェットミル等を使用してセルロース原料を叩解することによって行うことができる。特に、リファイナーやジェットミルを使用して行うと繊維の損傷が抑制でき、繊維が均質なものになるので好ましい。
セルロース原料を解繊して得られるマイクロ繊維セルロースの平均繊維長(単繊維の長さの平均)は、好ましくは0.10~2.00mm、より好ましくは0.12~1.50mm、特に好ましくは0.15~1.00mmである。平均繊維長が0.10mmを下回ると、繊維同士の三次元ネットワークを形成できず、複合樹脂の曲げ弾性率等が低下するおそれがあり、補強効果が向上しないとされる可能性がある。他方、平均繊維長が2.00mmを上回ると、原料パルプと変わらない長さのため補強効果が不十分となるおそれがある。
マイクロ繊維セルロースの平均繊維幅(平均繊維径ともいう。)は特に限定されないが、平均繊維幅が好ましくは0.1~20μm、より好ましくは0.2~15μm、好ましくは0.3超~10μmのマイクロ繊維セルロース(ミクロフィブリル化セルロース)となるように解繊するとよい。平均繊維幅が上記範囲であるマイクロ繊維セルロースは、複合化に用いられる樹脂を補強するのに適し、同マイクロ繊維セルロースを材料に製造された複合樹脂の強度は著しく向上する。なお、本実施形態において、平均繊維幅が上記範囲に解繊されたセルロースを、マイクロ繊維セルロース、あるいはミクロフィブリル化セルロース、あるいはMFCという。マイクロ繊維セルロースの平均繊維幅が0.1μm未満だと、もはやセルロースナノファイバーの同等物といえ、樹脂の強度(特に曲げ弾性率)の向上効果が十分に発揮されないおそれがある。また、解繊に多くの時間と大きなネルギーを要することとなり不経済である。さらに、繊維をスラリー状にしたとき脱水性が悪化する。脱水性の悪化は、繊維の乾燥物を得たいときに乾燥に大きなエネルギーが必要になるし、過大なエネルギーの付与は、繊維を傷める原因となり、樹脂の強度を向上する効果が奏されないおそれがある。特に、平均繊維幅が0.10μm未満になると、熱分解温度が著しく低下するため、耐熱性が低下し、樹脂との混練に不向きなものとなる。他方、マイクロ繊維セルロースの平均繊維幅が20μmを超えると、もはやパルプとの差がほとんどなく、補強効果が得られなくなるおそれがある。
本形態においてマイクロ繊維セルロースの平均繊維幅の測定方法は、次のとおりである。まず、固形分濃度0.01~0.1質量%の微細繊維の水分散液100mlをテフロン(登録商標)製メンブレンフィルターでろ過し、エタノール100mlで1回、t-ブタノール20mlで3回溶媒置換する。次に、凍結乾燥し、オスミウムコーティングして試料とする。この試料について、構成する繊維の幅に応じて3,000倍~30,000倍のいずれかの倍率で電子顕微鏡SEM画像による観察を行う。具体的には、観察画像に二本の対角線を引き、対角線の交点を通過する直線を任意に三本引く。さらに、この三本の直線と交錯する合計100本の繊維の幅を目視で計測する。そして、計測値の中位径を平均繊維幅とする。
前述したようにマイクロ繊維セルロースは、セルロース原料を解繊(微細化)することで得ることができる。セルロース原料に用いられる原料パルプとしては、例えば、広葉樹、針葉樹等を原料とする木材パルプ、ワラ・バガス・綿・麻・じん皮繊維等を原料とする非木材パルプ、回収古紙、損紙等を原料とする古紙パルプ(DIP)等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。なお、以上の各種原料は、例えば、セルロース系パウダーなどと言われる粉砕物(粉状物)の状態等であってもよい。ただし、不純物の混入を可及的に避けるために、原料パルプとしては、木材パルプを使用するのが好ましい。木材パルプとしては、例えば、広葉樹クラフトパルプ(LKP)、針葉樹クラフトパルプ(NKP)等の化学パルプ、機械パルプ(TMP)等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。
広葉樹クラフトパルプは、広葉樹晒クラフトパルプ、広葉樹未晒クラフトパルプ、広葉樹半晒クラフトパルプ等を用いることができる。針葉樹クラフトパルプは、針葉樹晒クラフトパルプ、針葉樹未晒クラフトパルプ、針葉樹半晒クラフトパルプを用いることができる。
機械パルプは、特に限定なく使用することができるが、例えば、ストーングランドパルプ(SGP)、加圧ストーングランドパルプ(PGW)、リファイナーグランドパルプ(RGP)、ケミグランドパルプ(CGP)、サーモグランドパルプ(TGP)、グランドパルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)、リファイナーメカニカルパルプ(RMP)、漂白サーモメカニカルパルプ(BTMP)等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。
セルロース原料(原料パルプ)は、解繊するに先立って化学的手法によって前処理することができる。化学的手法による前処理としては、例えば、酸による多糖の加水分解(酸処理)、酵素による多糖の加水分解(酵素処理)、アルカリによる多糖の膨潤(アルカリ処理)、酸化剤による多糖の酸化(酸化処理)、還元剤による多糖の還元(還元処理)等を例示することができる。これらの処理のうち特に酵素処理は繊維が傷まず好ましい。酵素処理に加えて酸処理、アルカリ処理、及び酸化処理の中から選択された1又は2以上の処理を施すと、解繊が容易になされ好ましい。
前処理は、セルロース原料(原料パルプ)の解繊を容易にする処理であり、セルロース原料のカルバメート化する変性工程の前に行ってもよいし、変性工程の後に前処理を行って、その後解繊する工程を行ってもよい。以下、酵素処理について詳細に説明する。
酵素処理に使用する酵素としては、セルラーゼ系酵素及びヘミセルラーゼ系酵素の少なくともいずれか一方を使用するのが好ましく、両方を併用するのがより好ましい。これらの酵素を使用すると、セルロース原料の解繊がより容易になる。なお、セルラーゼ系酵素は、水共存下でセルロースの分解を惹き起こす。また、ヘミセルラーゼ系酵素は、水共存下でヘミセルロースの分解を惹き起こす。
セルラーゼ系酵素としては、例えば、トリコデルマ(Trichoderma、糸状菌)属、アクレモニウム(Acremonium、糸状菌)属、アスペルギルス(Aspergillus、糸状菌)属、ファネロケエテ(Phanerochaete、担子菌)属、トラメテス(Trametes、担子菌)属、フーミコラ(Humicola、糸状菌)属、バチルス(Bacillus、細菌)属、スエヒロタケ(Schizophyllum、担子菌)属、ストレプトミセス(Streptomyces、細菌)属、シュードモナス(Pseudomonas、細菌)属などが産生する酵素を使用することができる。これらのセルラーゼ系酵素は、試薬や市販品として購入可能である。市販品としては、例えば、セルロイシンT2(エイチピィアイ社製)、メイセラ-ゼ(明治製菓社製)、ノボザイム188(ノボザイム社製)、マルティフェクトCX10L(ジェネンコア社製)、セルラーゼ系酵素GC220(ジェネンコア社製)等を例示することができる。
また、セルラーゼ系酵素としては、EG(エンドグルカナーゼ)及びCBH(セロビオハイドロラーゼ)を使用することもできる。EG及びCBHは、それぞれを単体で使用しても、混合して使用してもよい。また、ヘミセルラーゼ系酵素と混合して使用してもよい。
ヘミセルラーゼ系酵素としては、例えば、キシランを分解する酵素であるキシラナーゼ(xylanase)、マンナンを分解する酵素であるマンナーゼ(mannase)、アラバンを分解する酵素であるアラバナーゼ(arabanase)等を使用することができる。また、ペクチンを分解する酵素であるペクチナーゼも使用することができる。
ヘミセルロースは、植物細胞壁のセルロースミクロフィブリル間にあるペクチン類を除いた多糖類である。ヘミセルロースは多種多様で木材の種類や細胞壁の壁層間でも異なる。針葉樹の2次壁では、グルコマンナンが主成分であり、広葉樹の2次壁では4-O-メチルグルクロノキシランが主成分である。そこで、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)から微細繊維を得る場合は、マンナーゼを使用するのが好ましい。また、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)から微細繊維を得る場合は、キシラナーゼを使用するのが好ましい。
セルロース原料に対する酵素の添加量は、例えば、酵素の種類、原料となる木材の種類(針葉樹か広葉樹か)、機械パルプの種類等によって決まる。ただし、セルロース原料100質量部に対する酵素の添加量は、好ましくは0.1~3質量部、より好ましくは0.3~2.5質量部、特に好ましくは0.5~2質量部である。酵素の添加量が0.1質量部を下回ると、酵素の添加による効果が十分に得られないおそれがある。他方、酵素の添加量が3質量%を上回ると、セルロースが糖化され、セルロース原料の収率が低下するおそれがある。また、添加量の増量に見合う効果の向上を認めることができないとの問題もある。
酵素としてセルラーゼ系酵素を使用する場合、酵素処理時のpHは、酵素反応の反応性の観点から、弱酸性領域(pH=3.0~6.9)であるのが好ましい。他方、酵素としてヘミセルラーゼ系酵素を使用する場合、酵素処理時のpHは、弱アルカリ性領域(pH=7.1~10.0)であるのが好ましい。
酵素処理時の温度は、酵素としてセルラーゼ系酵素及びヘミセルラーゼ系酵素のいずれを使用する場合においても、好ましくは30~70℃、より好ましくは35~65℃、特に好ましくは40~60℃である。酵素処理時の温度が30℃以上であれば、酵素活性が活発化し易くなり、短時間で酵素処理が完結する。他方、酵素処理時の温度が70℃以下であれば、酵素の失活を防止することができる。
酵素処理の時間は、例えば、酵素の種類、酵素処理の温度、酵素処理時のpH等によって決まる。ただし、一般的な酵素処理の時間は、0.5~24時間である。
酵素処理した後には、酵素を失活させるのが好ましい。酵素を失活させる方法としては、例えば、アルカリ水溶液(好ましくはpH10以上、より好ましくはpH11以上)を添加する方法、80~100℃の熱水を添加する方法等が存在する。
次に、アルカリ処理の方法について説明する。解繊に先立ってアルカリ処理すると、パルプが持つヘミセルロースやセルロースの水酸基が一部解離し、分子がアニオン化することで分子内及び分子間水素結合が弱まり、解繊におけるセルロース原料の分散が促進される。
アルカリ処理に使用するアルカリとしては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム、アンモニア水溶液、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム、水酸化ベンジルトリメチルアンモニウム等の有機アルカリ等を使用することができる。ただし、製造コストの観点からは、水酸化ナトリウムを使用するのが好ましい。
以上解繊に先立つ前処理の一例を示したが、前処理を施すと、マイクロ繊維セルロースの保水度を低く、結晶化度を高くすることができ、かつ均質性を高くすることができる。マイクロ繊維セルロースの保水度が低いと脱水し易くなり、セルロース原料スラリーの脱水性が向上する。また、前処理をすると、パルプが持つヘミセルロースやセルロースの非晶領域が分解される。非晶領域が分解されると、解繊のエネルギーを低減することができ、解繊されたマイクロ繊維セルロースの均一性や分散性を向上することができる。ただし、前処理は、マイクロ繊維セルロースのアスペクト比を低下させるため、樹脂の補強材として使用する場合には、過度の前処理を避けるのが好ましい。
セルロース原料の平均繊維長は、好ましくは0.50~5.00mmである。当該平均繊維長が0.50mmを下回ると、解繊して得られたマイクロ繊維セルロースによる樹脂の補強効果が十分に得られないおそれがある。他方、当該 平均繊維長が5.00mmを上回ると、セルロース原料相互の解繊にかかるエネルギーが大きく、製造コストの面で不利となるおそれがある。
セルロース原料の平均繊維長は、例えば、原料パルプの選定、前処理、解繊等で任意に調整可能である。
本形態においてセルロース原料の平均繊維長は、バルメット社製の繊維分析計「FS5」によって測定した値である。
セルロース原料がシート状である場合のシートの坪量は、好ましくは10~1,000g/m2、より好ましくは50~800g/m2、であるとよい。セルロース原料の坪量が1,000g/m2を上回ると、変性工程の反応系において、熱の伝導性が相対的に低く、加熱に多くの時間を費やすこととなり、得られたカルバメート化セルロースにおけるカルバメート化の変性率が低くなってしまうおそれがある。当該坪量が上記範囲であれば、尿素が浸み込み易く、十分にカルバメート化されたセルロースを得ることができる。
解繊して得られたマイクロ繊維セルロースのファイン率は、10%以上であるのが好ましく、20~90%であるのがより好ましく、30~80%であるのが特に好ましい。ファイン率が90%を超えると、均質な繊維の割合が多く、複合樹脂中でマイクロ繊維セルロースが凝集し易くなり、補強効果に寄与し難くなる。ただし、ファイン率が10%未満となると、曲げ弾性率が不十分になる可能性がある。
また、解繊前のセルロース原料のファイン率も所定の範囲内としておくとより好ましいものとなる。具体的には、解繊前のセルロース原料のファイン率が、1%以上であるのが好ましく、3~20%であるのがより好ましく、5~18%であるのが特に好ましい。解繊前のセルロース原料のファイン率が上記範囲内であれば、マイクロ繊維セルロースのファイン率が30%以上になるように解繊したとしても繊維のダメージが少なく、樹脂の補強効果が向上すると考えられる。
ファイン率の調整は、酵素処理等の前処理によって行うことができる。ただし、特に酵素処理する場合は、繊維内の結合状態が部分的に破壊されてしまい、樹脂の補強効果が低下する場合がある。よって、酵素の添加率は、少なくした方がよく、例えば2質量%以下であるのが好ましく、1質量%以下であるのがより好ましく、0.5質量%以下であるのが特に好ましい。また、酵素処理しない(添加量0質量%)のも1つの選択枠である。
「ファイン率」とは、繊維長が0.2mm以下であるパルプ繊維の質量基準の割合をいう。このファイン率は、バルメット社製の繊維分析計「FS5」によって測定することができる。繊維分析計「FS5」は、希釈したセルロース繊維が繊維分析計内部の測定セルを通過する際の画像分析により高い精度でセルロース繊維の長さ、幅を測定できる
マイクロ繊維セルロースのアスペクト比は、好ましくは2~15,000、より好ましくは10~10,000である。アスペクト比が2を下回ると、三次元ネットワークを十分に構築することができないため、たとえ平均繊維長が0.10mm以上であるとしても、補強効果が不十分となるおそれがある。他方、アスペクト比が15,000を上回ると、マイクロ繊維セルロース相互の絡み合いが多くなり、樹脂中での分散が不十分となるおそれがある。
本形態においてアスペクト比とは、平均繊維長を平均繊維幅で除した値である。アスペクト比が大きいほど引っかかりが生じる箇所が多くなるため補強効果が上がるが、他方で引っかかりが多くなる分、樹脂の延性が低下するものと考えられる。
マイクロ繊維セルロースのフィブリル化率は、好ましくは1.0~30.0%、より好ましくは1.5~20.0%、特に好ましくは2.0~15.0%である。フィブリル化率が30.0%を上回ると、単位面積当たりのマイクロ繊維セルロースと水分子との結合が多く、脱水が困難になる可能性がある。他方、フィブリル化率が1.0%を下回ると、フィブリルは、水分子との結合量が少なく、水素結合によって形成される三次元ネットワークが強硬なものとならなくなるおそれがある。
本形態においてフィブリル化率は、バルメット社製の繊維分析計「FS5」によって測定した値をいう。
マイクロ繊維セルロースの結晶化度は、好ましくは50%以上、より好ましくは55%以上、特に好ましくは60%以上であるとよい。結晶化度が50%を下回ると、繊維自体の強度が低下して、樹脂の強度を向上することができなくなるおそれがある。また、結晶化度が50%を下回ると、カルバメート化されたマイクロ繊維セルロースの耐熱性が不十分になるおそれがある。結晶化度が低いと外部から加えられた熱によってただちにマイクロ繊維セルロースの熱分解反応が進んでしまう。他方、マイクロ繊維セルロースの結晶化度は、好ましくは95%以下、より好ましくは90%以下である。結晶化度が95%を上回ると、セルロース分子内及びセルロース分子間での水素結合の量が多くなり、分散性が劣るようになる。
マイクロ繊維セルロースの結晶化度は、例えば、原料パルプの選定、前処理、微細化処理で任意に調整可能である。
本実施形態において結晶化度は、JIS K 0131(1996)に準拠して測定した値である。
マイクロ繊維セルロースのパルプ粘度は、好ましくは2cps以上、より好ましくは4cps以上である。マイクロ繊維セルロースのパルプ粘度が2cpsを下回ると、マイクロ繊維セルロースの分散性が悪化するおそれがある。
本形態においてパルプ粘度は、TAPPI T 230に準拠して測定した値である。
マイクロ繊維セルロースのフリーネスは、好ましくは500ml以下、より好ましくは300ml以下、特に好ましくは100ml以下であるとよい。マイクロ繊維セルロースのフリーネスが500mlを上回ると、樹脂の強度向上効果が十分に得られなくなるおそれがある。
本形態においてフリーネスは、JIS P8121-2(2012)に準拠して測定した値である。
マイクロ繊維セルロースの固形分1%水分散液のゼータ電位は、好ましくは-150~20mV、より好ましくは-100~0mVである。ゼータ電位が-150mVを下回ると、樹脂との相溶性が著しく低下し補強効果が不十分となるおそれがある。他方、ゼータ電位が20mVを上回ると、分散安定性が低下するおそれがある。
マイクロ繊維セルロースの保水度は、好ましくは50~400%、より好ましくは90~350%である。保水度が50%を下回ると、セルロース原料の保水度と変わらず、補強効果が不十分となるおそれがある。他方、保水度が400%を上回ると、乾燥し難いものとなる。マイクロ繊維セルロースの保水度は、マイクロ繊維セルロースにおけるカルバメート基の変性率が高いほど、低くなる傾向にあるので、当該変性率を調節することで、保水度を所望の値にすることができる。
マイクロ繊維セルロースの保水度は、例えば、原料パルプの選定、前処理、解繊等で任意に調整可能である。
本形態において保水度は、JAPAN TAPPI No.26(2000)に準拠して測定した値である。
本実施形態において、カルバメート化されたマイクロ繊維セルロースは、カルバメート基を有する。ここで、カルバメート基は、-O-CO-NH-で表される基であり、例えば、-O-CO-NH2、-O-CONHR、-O-CO-NR2等で表わされる基を挙げることができる。カルバメート基は、下記の構造式(1)で示すことができる。
Figure 2022152279000002
ここでR(R1、R2)は、それぞれ独立して、飽和直鎖状炭化水素基、飽和分岐鎖状炭化水素基、飽和環状炭化水素基、不飽和直鎖状炭化水素基、不飽和分岐鎖状炭化水素基、芳香族基、及びこれらの誘導基の少なくともいずれかである。
飽和直鎖状炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等の炭素数1~10の直鎖状のアルキル基を挙げることができる。飽和分岐鎖状炭化水素基としては、例えば、イソプロピル基、sec-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基等の炭素数3~10の分岐鎖状アルキル基を挙げることができる。飽和環状炭化水素基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、ノルボルニル基等のシクロアルキル基を挙げることができる。不飽和直鎖状炭化水素基としては、例えば、エテニル基、プロペン-1-イル基、プロペン-3-イル基等の炭素数2~10の直鎖状のアルケニル基、エチニル基、プロピン-1-イル基、プロピン-3-イル基等の炭素数2~10の直鎖状のアルキニル基等を挙げることができる。不飽和分岐鎖状炭化水素基としては、例えば、プロペン-2-イル基、ブテン-2-イル基、ブテン-3-イル基等の炭素数3~10の分岐鎖状アルケニル基、ブチン-3-イル基等の炭素数4~10の分岐鎖状アルキニル基等を挙げることができる。芳香族基としては、例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等を挙げることができる。誘導基としては、例えば、上記飽和直鎖状炭化水素基、飽和分岐鎖状炭化水素基、飽和環状炭化水素基、不飽和直鎖状炭化水素基、不飽和分岐鎖状炭化水素基及び芳香族基が有する1又は複数の水素原子が、置換基(例えば、ヒドロキシ基、カルボキシ基、ハロゲン原子等)で置換された基を挙げることができる。
カルバメート基を有する(カルバメート基が導入された)マイクロ繊維セルロースは、極性基たるヒドロキシ基の一部又は全部が、相対的に非極性基であるカルバメート基に置換されている。カルバメート基を有するマイクロ繊維セルロースは、単体としてカルバメート化されていないマイクロ繊維セルロースよりも非極性的であり、すなわち疎水的であるので、疎水性の性質を有する樹脂等との反発が弱い。したがって、樹脂に混ぜたカルバメート基を有するマイクロ繊維セルロースは、相互に凝集し難く、分散性よく、樹脂に付着する。また、カルバメート基を有するマイクロ繊維セルロースのスラリーは、粘性が低く、ハンドリング性が良い。
マイクロ繊維セルロースのヒドロキシ基に対するカルバメート基の変性率(カルバメート化率)は、好ましくは0.1~5.0mmol/g、より好ましくは0.5~3.0mmol/gである。変性率を0.1mmol/g以上にすると、カルバメート基を導入した効果、特に樹脂の曲げ弾性率の向上効果が確実に奏せられる。これは、変性率が0.1mmol/g以上であるマイクロ繊維セルロースは、親水性が低下しているので樹脂との反発が弱く、樹脂に対して適度に分散するので、製造される複合樹脂単体において、局所的な強度の強弱が生じにくく、均質なものとなると考えられる。他方、カルバメート基の変性率が5.0mmol/gを超えると、複合樹脂の強度が低下する。これは、マイクロ繊維セルロースは、水素結合により強硬な三次元ネットワークが形成されるものであるが、カルバメート基の変性率が高すぎると、三次元ネットワーク形成に寄与するヒドロキシ基が相対的に減少するので、三次元ネットワークを強硬に形成することが困難になることによるものと考えられる。
本形態においてカルバメート基の変性率(mmol/g)とは、カルバメート基を有するマイクロ繊維セルロース1gあたりに含まれるカルバメート基の物質量をいう。カルバメート基の変性率は、カルバメート化したパルプ内に存在するN原子をケルダール法によって測定し、単位質量当たりのカルバメート化率を算出する。セルロースは、無水グルコースを構造単位とする重合体であり、一構造単位当たり3つのヒドロキシ基を有する。
(スラリー)
製造されたマイクロ繊維セルロースは、水系媒体中に分散させて分散液(スラリー)にしておくと保管、取り扱いが容易にでき好ましい。水系媒体は、全量が水であるのが特に好ましいが、一部が水と相溶性を有する液体である水系媒体を使用することができる。液体としては、炭素数3以下の低級アルコール類等を使用することができる。
スラリーの固形分濃度は、好ましくは0.1~10.0質量%、より好ましくは0.5~5.0質量%にしておくとよい。固形分濃度が0.1質量%を下回ると、複合樹脂の製造にスラリーを多量に用意することになり、煩雑であるし、脱水や乾燥する際に過大なエネルギーが必要となるおそれがある。他方、固形分濃度が10.0質量%を上回ると、スラリー自体の流動性が低下してしまい、均一に混合できなくなり使い勝手がよくない。
(酸変性樹脂)
マイクロ繊維セルロースは、好ましくは酸変性樹脂と混合する。酸変性樹脂を混合すると、酸基がカルバメート基の一部又は全部とイオン結合する。このイオン結合により、樹脂の補強効果が向上する。
酸変性樹脂としては、例えば、酸変性ポリオレフィン樹脂、酸変性エポキシ樹脂、酸変性スチレン系エラストマー樹脂等を使用することができる。ただし、酸変性ポリオレフィン樹脂を使用するのが好ましい。酸変性ポリオレフィン樹脂は、不飽和カルボン酸成分とポリオレフィン成分との共重合体である。
ポリオレフィン成分としては、例えば、エチレン、プロピレン、ブタジエン、イソプレン等のアルケンの重合体の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。ただし、好適には、プロピレンの重合体であるポリプロピレン樹脂を用いることが好ましい。
不飽和カルボン酸成分としては、例えば、無水マレイン酸類、無水フタル酸類、無水イタコン酸類、無水シトラコン酸類、無水クエン酸類等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。ただし、好適には、無水マレイン酸類を使用するのが好ましい。つまり、無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂を用いることが好ましい。
酸変性樹脂の混合量は、マイクロ繊維セルロース100質量部に対して、好ましくは0.1~1,000質量部、より好ましくは1~500質量部、特に好ましくは10~200質量部である。特に酸変性樹脂が無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂である場合は、好ましくは1~200質量部、より好ましくは10~100質量部である。酸性変性樹脂の混合量が0.1質量部を下回ると強度の向上が十分ではない。他方、混合量が1,000質量部を上回ると、過剰となり強度が低下する傾向となる。
無水マレイン酸変性ポリプロピレンの重量平均分子量は、例えば1,000~100,000、好ましくは3,000~50,000である。
また、無水マレイン酸変性ポリプロピレンの酸価は、0.5mgKOH/g以上、100mgKOH/g以下が好ましく、1mgKOH/g以上、50mgKOH/g以下がより好ましい。
さらに、酸変性樹脂のMFR(メルトフローレート)が2000g/10分(190℃/2.16kg)以下であるのが好ましく、1500g/10分以下であるのがより好ましく、500g/10分以下であるのが特に好ましい。MFRが2000g/10分を上回ると、マイクロ繊維セルロースの分散性が低下する可能性がある。
なお、酸価の測定は、JIS-K2501に準拠し、水酸化カリウムで滴定する。また、MFRの測定は、JIS-K7210に準拠し、190℃で2.16kgの荷重を載せ、10分間に流れ出る試料の重量で決める。
(分散剤)
本形態のマイクロ繊維セルロースは、好ましくは分散剤と混合しておくとよい。マイクロ繊維セルロースに分散剤が混在していると、マイクロ繊維セルロースが相互に凝集し難くなる。これは、分散剤がマイクロ繊維セルロース相互の水素結合を阻害する働きがあるからである。分散剤の混在により、マイクロ繊維セルロース及び樹脂の混練に際して、樹脂に対するマイクロ繊維セルロースの分散性が向上する。また、分散剤はマイクロ繊維セルロース及び樹脂の相溶性を向上させる役割も有する。
分散剤としては、芳香族類にアミン基及び/又は水酸基を有する化合物、脂肪族類にアミン基及び/又は水酸基を有する化合物が好ましい。
芳香族類にアミン基及び/又は水酸基を有する化合物としては、例えば、アニリン類、トルイジン類、トリメチルアニリン類、アニシジン類、チラミン類、ヒスタミン類、トリプタミン類、フェノール類、ジブチルヒドロキシトルエン類、ビスフェノールA類、クレゾール類、オイゲノール類、没食子酸類、グアイアコール類、ピクリン酸類、フェノールフタレイン類、セロトニン類、ドーパミン類、アドレナリン類、ノルアドレナリン類、チモール類、チロシン類、サリチル酸類、サリチル酸メチル類、アニスアルコール類、サリチルアルコール類、シナピルアルコール類、ジフェニドール類、ジフェニルメタノール類、シンナミルアルコール類、スコポラミン類、トリプトフォール類、バニリルアルコール類、3-フェニル‐1-プロパノール類、フェネチルアルコール類、フェノキシエタノール類、ベラトリルアルコール類、ベンジルアルコール類、ベンゾイン類、マンデル酸類、マンデロニトリル類、安息香酸類、フタル酸類、イソフタル酸類、テレフタル酸類、メリト酸類、ケイ皮酸類などが挙げられる。
脂肪族類にアミン基及び/又は水酸基を有する化合物としては、例えば、カプリルアルコール類、2-エチルヘキサノール類、ペラルゴンアルコール類、カプリンアルコール類、ウンデシルアルコール類、ラウリルアルコール類、トリデシルアルコール類、ミリスチルアルコール類、ペンタデシルアルコール類、セタノール類、ステアリルアルコール類、エライジルアルコール類、オレイルアルコール類、リノレイルアルコール類、メチルアミン類、ジメチルアミン類、トリメチルアミン類、エチルアミン類、ジエチルアミン類、エチレンジアミン類、トリエタノールアミン類、N,N-ジイソプロピルエチルアミン類、テトラメチルエチレンジアミン類、ヘキサメチレンジアミン類、スペルミジン類、スペルミン類、アマンタジン類、ギ酸類、酢酸類、プロピオン酸類、酪酸類、吉草酸類、カプロン酸類、エナント酸類、カプリル酸類、ペラルゴン酸類、カプリン酸類、ラウリン酸類、ミリスチン酸類、パルミチン酸類、マルガリン酸類、ステアリン酸類、オレイン酸類、リノール酸類、リノレン酸類、アラキドン酸類、エイコサペンタエン酸類、ドコサヘキサエン酸類、ソルビン酸類などが挙げられる。
分散剤の混合量は、マイクロ繊維セルロース100質量部に対して、好ましくは0.1~1,000質量部、より好ましくは1~500質量部、特に好ましくは10~200質量部である。分散剤の混合量が0.1質量部を下回ると、分散剤を加えた効果が弱く、樹脂の強度向上が十分になされないおそれがある。他方、混合量が1,000質量部を上回ると、過剰な分散剤によってマイクロ繊維セルロースの分散性が低下するおそれがある。
前述した酸変性樹脂は酸基とマイクロ繊維セルロースのカルバメート基とがイオン結合することで相溶性を向上し、もって補強効果を上げるためのものであり、分子量が大きいため混練用の樹脂とともに分散しやすい。分散剤は、マイクロ繊維セルロース間のヒドロキシ基相互に介在して凝集を防ぐものであり、また、分子量が酸変性樹脂に比べ小さいため、酸変性樹脂が入り込めないようなマイクロ繊維セルロース間の狭いスペースに入ることができ、マイクロ繊維セルロースの分散性を向上する役割を果たす。したがって、上記酸変性樹脂の分子量は、分散剤の分子量の2~2,000倍、好ましくは5~1,000倍であると好適である。
(粉末)
本形態のマイクロ繊維セルロースは、粉末と混合しておくと好適である。粉末と混合しておくことで、マイクロ繊維セルロースは凝集化が抑制され、樹脂の補強性を発揮できる形態とすることができる。マイクロ繊維セルロースは、樹脂と複合化するまでは、含有水分率を所定の範囲に調節しておくとよく、当該範囲を超えると水系媒体を除去する過程で、マイクロ繊維セルロースが相互に水素結合して凝集化してしまい、樹脂との分散性が悪化して、樹脂を補強する効果を十分に発揮できなくなる可能性がある。
用いる粉末は、マイクロ繊維セルロースとの反応性に乏しいものであるとよい。反応性に乏しいとは、化学的な反応、例えば共有結合、イオン結合、金属結合、水素結合、ファンデルワールス力による結合が促進し難い、ということを意味する。また、粉末とマイクロ繊維セルロースとが化学反応する際の活性化エネルギーが100kJ/molを超える粉末、ということもできる。
粉末は、無機性粉末や樹脂粉末を選択して用いることができるが、好ましくは無機性のものが良い。無機性粉末であれば、セルロースの繊維が有するカルボキシ基を水酸化物イオンへ解離させ難いので、反応抑制効果があり、好ましい。特に無機粉末であると、操業上有利である。というのも、マイクロ繊維セルロース含有物の含有水分率の調節手法としては、例えば、熱源である金属ドラムに、マイクロ繊維セルロースと粉末の混合液を直接あてて、乾燥する手法や、熱源に当該混合液を直接触れさせずに加温する手法等を、含有水分率の調製手法として挙げることができる。しかしながら、樹脂粉末を使用すると、加温した金属板(例えば、ヤンキードライヤー、シリンダードライヤー等。)に接触させて乾燥した際に、金属板表面に皮膜ができ熱伝導が悪化し、乾燥効率が著しく低下する懸念があり、無機性粉末であれば、このような問題が生じ難い。
粉末の平均粒子径は、1~10,000μmが好ましく、10~5,000μmがより好ましく、100~1,000μmが特に好ましい。平均粒子径が10,000μmを超えると、セルロースの繊維相互の間隙に入って凝集を阻害する効果が損なわれるおそれがある。平均粒子径が1μm未満であると、セルロースの繊維に対して粉末の粒子径が小さ過ぎ、セルロースの繊維相互の凝集化を阻害する効果が発揮されないおそれがある。
樹脂粉末は、物理的にセルロースの繊維相互の隙間に介在することで水素結合を阻害し、マイクロ繊維セルロースの分散性を向上する役割がある。一方で前述した酸変性樹脂は、酸基とマイクロ繊維セルロースのカルバメート基とをイオン結合することで相溶性を向上して補強効果を上げるものである。分散剤がマイクロ繊維セルロース相互の水素結合を阻害する作用は同じであるが、樹脂粉末は粒子径がマイクロオーダーであるため、物理的に介在して水素結合を抑制するものである。樹脂粉末は、分散性が分散剤に比べ低いものの、樹脂粉末自身が溶融してマトリックス化するため、物性低下に寄与しない。一方、分散剤は、粒子径が分子レベルであり、極めて小さいためマイクロ繊維セルロースを覆うようにして水素結合を阻害し、マイクロ繊維セルロースの分散性を向上する効果は高い。しかしながら、樹脂中に残り、物性低下をもたらす可能性がある。
粉末の平均粒子径は、粉体をそのまま又は水分散体の状態で粒度分布測定装置(例えば株式会社堀場製作所のレーザー回折・散乱式粒度分布測定器)を用いて測定される体積基準粒度分布から算出される中位径である。
無機粉末としては、例えば、Fe、Na、K、Cu、Mg、Ca、Zn、Ba、Al、Ti、ケイ素元素等の周期律表第I族~第VIII族中の金属元素の単体、酸化物、水酸化物、炭素塩、硫酸塩、ケイ酸塩、亜硫酸塩、これらの化合物よりなる各種粘土鉱物等を例示することができる。具体的には、例えば、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸ナトリウム、亜硫酸カルシウム、酸化亜鉛、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、ほう酸アルミニウム、アルミナ、酸化鉄、チタン酸カルシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、クレー、ワラストナイト、ガラスビーズ、ガラスパウダー、シリカゲル、乾式シリカ、コロイダルシリカ、珪砂、硅石、石英粉、珪藻土、ホワイトカーボン、ガラスファイバー等を例示することができる。これらの無機充填剤は、複数が含有されていてもよい。また、古紙パルプに含まれるものであってもよいし、製紙スラッジ中の無機物を再生したいわゆる再生填料等であってもよい。
製紙用の填料や顔料として好適に使用される炭酸カルシウム、タルク、ホワイトカーボン、クレー、焼成クレー、二酸化チタン、水酸化アルミニウム及び再生填料等の中から選択される少なくとも1種以上の無機粉末を使用するのが好ましく、炭酸カルシウム、タルク、クレーの中からから選択される少なくとも1種以上を使用するのがより好ましく、軽質炭酸カルシウム及び重質炭酸カルシウムの少なくともいずれか一方を使用するのが特に好ましい。炭酸カルシウム、タルク、クレーは、樹脂等のマトリックスとの複合化が容易であり、汎用的な無機材料であるため、用途の制限が生じることが少ない等のメリットがある。さらに、炭酸カルシウムは特に好ましい。軽質炭酸カルシウムの粉末は、サイズや形状を所望に制御でき、セルロース原料のサイズや形状に合わせて、間隙に入り込むよう成形して、セルロース原料相互の凝集を抑制する効果を生じ易くすることができる。また、重質炭酸カルシウムは、不定形であるので、スラリー中に様々なサイズの繊維が存在する場合でも、乾燥工程時に水系媒体が除去されて繊維が凝集する過程において、間隙に入り込んでセルロース原料相互の凝集を抑制することができる。
樹脂粉末に用いる樹脂は、特に限定されずに種々のものを用いることができるが、複合樹脂を得る際に使用する樹脂と同様のものを使用すると、一つの樹脂で用途を選択でき好ましい。
粉末の混合比は、マイクロ繊維セルロース1質量部に対して、好ましくは0.01~99質量部、より好ましくは0.05~19質量部、特に好ましくは0.1~9質量部である。マイクロ繊維セルロースに対する粉末の混合比が0.01質量部を下回ると、粉末が不足し、セルロース原料の間隙に入って凝集抑制する作用が不十分となるおそれがある。当該混合比が99質量部を上回ると、繊維が粉末に埋もれてしまい、マイクロ繊維セルロースと樹脂の混練工程に支障をきたすおそれがある。
粉末として例示した無機粉末及び樹脂粉末は双方を併用することもできる。無機粉末及び樹脂粉末を併用すると、無機粉体と樹脂粉末のどちらか一方が凝集する条件で混合した場合でも無機粉末及び樹脂粉末の双方を混合しておくことで、凝集化を防ぐ効果が発揮される。一般的に、粒子径が小さい粉末は相対的に表面積が大きく重力作用のほかに分子間力の作用を受け、凝集化し易い傾向にあるが、無機粉末及び樹脂粉末を併用すると、粒子径が小さい粉末相互の凝集化が抑制される。この観点より、無機粉末及び樹脂粉末を併用する場合、無機粉末の平均粒子径:樹脂粉末の平均粒子径の比は、1:0.1~1:10000が好ましく、1:1~1:1000がより好ましい。
本実施形態のマイクロ繊維セルロースの製造方法を図1を参照しつつ説明する。容器10にセルロース原料Cを入れ、尿素又はその誘導体U、双性イオン化合物Bを添加して混合し、これを乾燥・加熱Pして変性工程を行い、変性処理されたセルロース繊維を得る。その後、得られたセルロース繊維を解繊工程20に供して、マイクロ繊維セルロースXを得る。
(複合樹脂の製造方法)
樹脂との混練に供される、マイクロ繊維セルロース及び酸変性樹脂、分散剤、粉末等の混合物は、含有水分率を18%未満とする乾燥体としておくとよい。この乾燥体は、好ましくは粉砕して粉状物にする。粉状物の形態にすると、樹脂と混練して得られるマイクロ繊維セルロース複合樹脂の着色が低減される。一般にセルロース原料と樹脂から複合樹脂を製造すると、複合樹脂が黄色味がかった色彩を呈する。しかしながら、当該粉状物から製造された複合樹脂は、樹脂の本来の色彩に近い色彩を呈する。また、粉状物の形態であれば、容易に乾燥し、樹脂との混練に際してマイクロ繊維セルロースを敢えて乾燥させる必要がなく、混練の熱効率が良い。混合物に粉末や、分散剤が混合されている場合は、当該混合物を乾燥したとしても、マイクロ繊維セルロース(マイクロ繊維セルロース)が再分散しなくなるおそれが低い。
混合物を乾燥して乾燥体とする場合は、乾燥させる前に脱水して脱水物にするとよい。この脱水は、脱水装置を用いて行うことができる。脱水装置としては、例えば、ベルトプレス、スクリュープレス、フィルタープレス、ツインロール、ツインワイヤーフォーマ、バルブレスフィルタ、センターディスクフィルタ、膜処理、遠心分離機等を挙げることができる。
混合物、あるいは脱水物の乾燥は、乾燥装置を用いて行うことができる。乾燥装置としては、例えば、ロータリーキルン乾燥、円板式乾燥、気流式乾燥、媒体流動乾燥、スプレー乾燥、ドラム乾燥、スクリューコンベア乾燥、パドル式乾燥、一軸混練乾燥、多軸混練乾燥、真空乾燥、攪拌乾燥等を挙げることができる。
前述の乾燥体や脱水物の粉砕は、粉砕装置を用いて粉状物とすることができる。粉砕装置としては、例えば、ビーズミル、ニーダー、ディスパー、ツイストミル、カットミル、ハンマーミル等を挙げることができる。
粉状物は、平均粒子径が好ましくは10,000μm以下、より好ましくは10~5,000μm、特に好ましくは100~1,000μmであるとよい。平均粒子径が10,000μmを上回ると、容易な乾燥がなされないおそれがある。他方、平均粒子径の下限は厳密に定める必要はないが、例えば、平均粒子径が1μmを下回るものにすることは、大きなエネルギーが必要になるため、経済的でない。
粉状物の平均粒子径の制御は、分級装置(フィルター、サイクロン等)を使用した分級によることができる。
混合物(粉状物)の嵩比重は、好ましくは0.03~1.0、より好ましくは0.04~0.9、特に好ましくは0.05~0.8であるとよい。嵩比重が1.0を超えるとマイクロ繊維セルロース相互の水素結合により強固な凝集がなされ、樹脂中で分散させることが困難となる。他方、嵩比重が0.03を下回ると、混練工程で混合物とマイクロ繊維セルロースとに重力による分離作用が働き、優れた分散性が保たれず、補強効果に優れる複合樹脂や、補強効果に乏しい複合樹脂等が製造され、均質な製品にならないおそれがある。
嵩比重は、JIS K7365に準じて測定した値である。
混合物(マイクロ繊維セルロース含有物)の含有水分率は、好ましくは18%未満、より好ましくは0~17%、特に好ましくは0~16%である。含有水分率が18%以上になると、マイクロ繊維セルロース複合樹脂は、着色したものとなるおそれがある。特にカルバメート基の変性率を1mmol/g以上とする場合においては、着色を低減することができない可能性がある。
着色を低減するには、例えばセルロースの一構成物質であるヘミセルロース等(着色原因物質)を低分子化して水溶化し、カルバメート化セルロースの洗浄工程で着色原因物質を除去する手法を採り得る。着色原因物質がマイクロ繊維セルロースに残留していると、混練工程の際に、樹脂と着色原因物質とが接触して着色が顕著になってしまう。
含有水分率は、定温乾燥機を用いて、試料を105℃で6時間以上保持し質量の変動が認められなくなった時点の質量を乾燥後質量とし、下記式にて算出した値である。
含有水分率(%)=[(乾燥前質量-乾燥後質量)÷乾燥前質量]×100
(混練工程)
以上のようにして得たマイクロ繊維セルロース含有物(樹脂の補強材)は、樹脂と混練し、マイクロ繊維セルロース複合樹脂を得る。この混練は、例えば、ペレット状の樹脂と補強材とを混ぜ合わす方法によることのほか、樹脂をまず溶融し、この溶融物の中に補強材を添加するという方法によることもできる。なお、酸変性樹脂や分散剤等は、この段階で添加することもできる。
混練工程には、例えば、単軸混練機、又は二軸以上の多軸混練機、ミキシングロール、ニーダー、ロールミル、バンバリーミキサー、スクリュープレス、ディスパーザー等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。これらの中では、二軸以上の多軸混練機を使用することが好ましい。二軸以上の多軸混練機を2機以上、並列又は直列にして、使用しても良い。
混練工程の温度は、樹脂のガラス転移点以上であるとよく、樹脂の種類によって異なるが、80~350℃とするのが好ましく、90~300℃とするのがより好ましく、100~280℃とするのが特に好ましい。
樹脂としては、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂の少なくともいずれか一方を使用するのが好ましい。
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)等のポリオレフィン、脂肪族ポリエステル樹脂や芳香族ポリエステル樹脂等のポリエステル樹脂、ポリスチレン、メタアクリレート、アクリレート等のポリアクリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。
ただし、ポリオレフィン及びポリエステル樹脂の少なくともいずれか一方を使用するのが好ましい。また、ポリオレフィンとしては、ポリプロピレンを使用するのが好ましい。さらに、ポリエステル樹脂としては、脂肪族ポリエステル樹脂として、例えば、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン等を例示することができ、芳香族ポリエステル樹脂として、例えば、ポリエチレンテレフタレート等を例示することができるが、生分解性を有するポリエステル樹脂(単に「生分解性樹脂」ともいう。)を使用するのが好ましい。
生分解性樹脂としては、例えば、ヒドロキシカルボン酸系脂肪族ポリエステル、カプロラクトン系脂肪族ポリエステル、二塩基酸ポリエステル等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。
ヒドロキシカルボン酸系脂肪族ポリエステルとしては、例えば、乳酸、リンゴ酸、グルコース酸、3-ヒドロキシ酪酸等のヒドロキシカルボン酸の単独重合体や、これらのヒドロキシカルボン酸のうちの少なくとも1種を用いた共重合体等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。ただし、ポリ乳酸、乳酸と乳酸を除く上記ヒドロキシカルボン酸との共重合体、ポリカプロラクトン、上記ヒドロキシカルボン酸のうちの少なくとも1種とカプロラクトンとの共重合体を使用するのが好ましく、ポリ乳酸を使用するのが特に好ましい。この乳酸としては、例えば、L-乳酸やD-乳酸等を使用することができ、これらの乳酸を単独で使用しても、2種以上を選択して使用してもよい。
カプロラクトン系脂肪族ポリエステルとしては、例えば、ポリカプロラクトンの単独重合体や、ポリカプロラクトン等と上記ヒドロキシカルボン酸との共重合体等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。
二塩基酸ポリエステルとしては、例えば、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンアジペート等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。
生分解性樹脂は、1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、フラン樹脂、不飽和ポリエステル、ジアリルフタレート樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン系樹脂、シリコーン樹脂、熱硬化性ポリイミド系樹脂等を使用することができる。これらの樹脂は、単独で又は二種以上組み合わせて使用することができる。
樹脂には、無機充填剤が含有されていてもよく、無機充填剤としては、例えば、Fe、Na、K、Cu、Mg、Ca、Zn、Ba、Al、Ti、ケイ素元素等の周期律表第I族~第VIII族中の金属元素の単体、酸化物、水酸化物、炭素塩、硫酸塩、ケイ酸塩、亜硫酸塩、これらの化合物よりなる各種粘土鉱物等を例示することができる。
具体的には、例えば、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸ナトリウム、亜硫酸カルシウム、酸化亜鉛、シリカ、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、ほう酸アルミニウム、アルミナ、酸化鉄、チタン酸カルシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、クレーワラストナイト、ガラスビーズ、ガラスパウダー、珪砂、硅石、石英粉、珪藻土、ホワイトカーボン、ガラスファイバー等を例示することができる。これらの無機充填剤は、複数が含有されていてもよい。また、古紙パルプに含まれるものであってもよい。
マイクロ繊維セルロースと樹脂との配合比は、好ましくはマイクロ繊維セルロース:樹脂=1~99質量%:99~1質量%、より好ましくは5~95質量%:95~5質量%、さらに好ましくは10~90質量%:90~10質量%であるとよい。マイクロ繊維セルロースの割合が上記配合比の範囲よりも低いと、マイクロ繊維セルロースが少ないので、複合樹脂中の樹脂間をつなぐマイクロ繊維セルロースが相互に形成する三次元ネットワークの強度が弱く、樹脂の補強効果に乏しいものとなる。他方、マイクロ繊維セルロースの割合が上記配合率の範囲よりも高いと、マイクロ繊維セルロースが樹脂の補強効果を有しているとしても、樹脂本来に備わる強度が発揮されず、複合樹脂としたときに所望の強度が備わったものとならないおそれがある。
なお、最終的に得られる複合樹脂に含まれるマイクロ繊維セルロース及び樹脂の含有割合は、通常、マイクロ繊維セルロース及び樹脂の上記配合比と同じとなる。
マイクロ繊維セルロース及び樹脂の溶解パラメータ(cal/cm3)1/2(SP値)の差は、マイクロ繊維セルロースのSPMFC値、樹脂のSPPOL値とすると、SP値の差=SPMFC値-SPPOL値とすることができる。SP値の差は10~0.1が好ましく、8~0.5がより好ましく、5~1が特に好ましい。SP値の差が10を超えると、樹脂中におけるマイクロ繊維セルロースの分散性が不十分であり、補強効果を得ることはできない可能性がある。他方、SP値の差が0.1未満であるとマイクロ繊維セルロースが樹脂に溶解してしまい、フィラーとして機能せず、補強効果が得られない。樹脂(溶媒)のSPPOL値とマイクロ繊維セルロース(溶質)のSPMFC値の差が小さい程、補強効果が大きいといえる。
なお、溶解パラメータ(cal/cm3)1/2(SP値)とは、溶媒-溶質間に作用する分子間力を表す尺度であり、SP値が近い溶媒と溶質であるほど、溶解度が増す。
(成形工程)
マイクロ繊維セルロース含有物及び樹脂の混練物は、必要により再度混練する等した後、所望の形状に成形することができる。この成形の大きさや厚さ、形状等は、特に限定されず、例えば、シート状、ペレット状、粉末状、繊維状等とすることができる。
成形工程を行う際の温度は、樹脂のガラス転移点以上であるとよく、樹脂の種類によって異なるが、例えば90~260℃、好ましくは100~240℃であると十分な混練がなされ好ましい。
混練物の成形は、例えば、金型成形、射出成形、押出成形、中空成形、発泡成形等により行うことができる。また、混練物を紡糸して繊維状にし、植物材料等と混繊してマット形状、ボード形状とすることもできる。混繊は、例えば、エアーレイにより同時堆積させる方法等によることができる。混練物を成形する装置としては、例えば、射出成形機、吹込成形機、中空成形機、ブロー成形機、圧縮成形機、押出成形機、真空成形機、圧空成形機等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。
植物材料等として混繊するものの例としては、ケナフ、ジュート麻、マニラ麻、サイザル麻、雁皮、三椏、楮、バナナ、パイナップル、ココヤシ、トウモロコシ、サトウキビ、バガス、ヤシ、パピルス、葦、エスパルト、サバイグラス、麦、稲、竹、各種針葉樹(スギ及びヒノキ等)、広葉樹及び綿花などの各種植物体から得られた植物材料に由来する繊維を挙げることができる。
以上の成形は、混練に続いて行うことも、混練物をいったん冷却し、破砕機等を使用してチップ化した後、このチップを押出成形機や射出成形機等の成形機に投入して行うこともできる。もちろん、成形は、本発明の必須の要件ではない。
次に、本発明の実施例を説明する。セルロース原料として、シート状の水分率10%以下の針葉樹クラフトパルプ(NBKP)を用意した。このセルロース原料は、坪量が50~800g/m2となるものである。このセルロース原料に、20質量%尿素水溶液とベタインを含浸して混合物とし、これを105℃、6時間放置して乾燥させた。セルロース原料(針葉樹クラフトパルプ)、20質量%尿素水溶液、ベタインの各添加量(固形分換算の質量)は、[表1]に示すとおりである。その後、[表1]に記載の反応温度、反応時間で当該混合物を反応させ、カルバメート化セルロースを得た。得られたカルバメート化セルロースに蒸留水を加えて希釈し、攪拌し、脱水する洗浄作業を2回繰り返した。洗浄作業後のカルバメート化セルロースを、叩解機を用いてファイン率(繊維分析計「FS5」による繊維長分布測定で0.2mm以下の繊維の割合)が77%以上となるまで叩解して、カルバメート化されたマイクロ繊維セルロースを得た。セルロース原料(NBKP)の結晶化度及びカルバメート化セルロースについての結晶化度、マイクロ繊維セルロースについての変性率(カルバメート化率)を測定した。得られた結果を[表1]に示す。
Figure 2022152279000003
カルバメート化率については、以下の基準で評価した。
◎:カルバメート化率が1.80mmol/g以上である。
〇:カルバメート化率が1.25mmol/gを超え、1.80mmol/g未満である。
×:カルバメート化率が1.25mmol/g以下である。
また、試験例1の結晶化度について測定した結果は、カルバメート化する前のものが85%、カルバメート化セルロース(叩解する前のもの)が84%であり、カルバメート化の前後において結晶化度が大きく変化することはなかった。試験例4の結晶化度の結果についても、カルバメート化する前のものが85%、カルバメート化セルロース(叩解する前のもの)が84%であった。
本発明は、マイクロ繊維セルロースの製造方法及びマイクロ繊維セルロース複合樹脂の製造方法、マイクロ繊維セルロースとして利用可能である。

Claims (9)

  1. セルロース原料を変性してカルバメート化セルロースを得る変性工程と、
    前記カルバメート化セルロースを解繊してマイクロ繊維セルロースを得る解繊工程を有し、
    前記変性工程は、セルロース原料に、尿素又はその誘導体と双性イオン化合物を添加して、100~300℃に加熱して行うものである、
    ことを特徴とするマイクロ繊維セルロースの製造方法。
  2. 前記セルロース原料がシート状のパルプである、
    請求項1に記載のマイクロ繊維セルロースの製造方法。
  3. 前記双性イオン化合物がベタインである、
    請求項1又は請求項2に記載のマイクロ繊維セルロースの製造方法。
  4. 前記双性イオン化合物がトリメチルグリシン又はその誘導体である、
    請求項1~3のいずれか1項に記載のマイクロ繊維セルロースの製造方法。
  5. 尿素又はその誘導体と双性イオン化合物を1:99~99:1の質量比で添加する、
    請求項1~4のいずれか1項に記載のマイクロ繊維セルロースの製造方法。
  6. 前記マイクロ繊維セルロースの平均繊維幅が0.1~15μmである、
    請求項1~5のいずれか1項に記載のマイクロ繊維セルロースの製造方法。
  7. 前記変性工程は、1秒以上かつ2時間以下加熱して行う、
    請求項1~6のいずれか1項に記載のマイクロ繊維セルロースの製造方法。
  8. 請求項1~7のいずれか1項に記載の製造方法によって得られたマイクロ繊維セルロースと樹脂を混練してセルロース複合樹脂を得る混練工程を有する、
    ことを特徴とするセルロース複合樹脂の製造方法。
  9. セルロース原料を変性してカルバメート化セルロースを得る変性工程と、
    前記カルバメート化セルロースを解繊する解繊工程を有し、
    前記変性工程は、セルロース原料に、尿素又はその誘導体と双性イオン化合物を添加して、100~300℃に加熱して行うものであり、
    前記解繊工程によって得られ、結晶化度が50~95%である、
    ことを特徴とするマイクロ繊維セルロース。
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