JP2022151662A - 炭素繊維層を固定する補助糸およびシート状基材、ならびにそれらを用いた炭素繊維複合材料 - Google Patents

炭素繊維層を固定する補助糸およびシート状基材、ならびにそれらを用いた炭素繊維複合材料 Download PDF

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Abstract

【課題】炭素繊維層を補助糸で固定してなるシート状基材における、基材の製織性や形態安定性を維持しながら、高い変形性を付与することのできる補助糸を提供する。また、補助糸を用い、炭素繊維層を固定したシート状基材を提供する。また、かかるシート状基材を用いた炭素繊維複合材料を提供する。【解決手段】並行に引き揃えられた炭素繊維束からなる炭素繊維層を固定するための補助糸であって、繊度が30~60dtex、熱可塑性樹脂からなるマルチフィラメント捲縮糸で構成され、かつ、初期長さL0(mm)の前記マルチフィラメント捲縮糸に30mg/dtexの張力をかけたときの長さL1(mm)と、前記張力を除荷したときの長さL2(mm)が、0.3<(L1-L0)/L1<0.8、かつ0.5<(L1-L2)/(L1-L0)<1、を満たす関係にあることを特徴とする補助糸である。【選択図】図1

Description

本発明は、炭素繊維束を固定するための補助糸、および炭素繊維を補助糸で固定したシート状基材と、炭素繊維複合材料に関する。
炭素繊維と樹脂からなる炭素繊維複合材料(Carbon Fiber Reinforced Plastics:CFRP)は、軽量かつ高強度という特性から、航空、宇宙、自動車用途などに広く用いられている。CFRPの生産性と高強度を両立する成形法として、例えばレジン・トランスファー・モールディング法(Resin Transfer Molding:RTM)やVaRTM法(Vacuum assisted Resin Transfer Molding)等のように、炭素繊維からなる炭素繊維積層体にあとから樹脂を含浸・硬化させる成形法が挙げられる。RTM法は、マトリックス樹脂を予備含浸していないドライな炭素繊維束群で構成されるシート状基材からなる炭素繊維積層体を、成形型に配置して、液状で低粘度のマトリックス樹脂を注入することにより、後からマトリックス樹脂を含浸・固化させてCFRPを製造する成形法である。
炭素繊維積層体は、炭素繊維束群から構成される一定幅のシート形態をしたシート状基材から所望の形状を切り出したものを三次元形状に賦形、固着することで形成される。
シート状基材の形態は様々なものがあるが、例えば炭素繊維層からなる織物や、並行に引き揃えられた炭素繊維束を補助糸で固定した形態が挙げられる。炭素繊維束を補助糸で固定した形態の一つとして、例えば特許文献1(特開2010-37694号公報)では多数本の炭素繊維糸条が並行にシート状に配列されたものを経方向、緯方向に延在する補助糸で固定した、一方向織物が開示されている。また、特許文献2(特開2002-264235号公報)では、多数本の炭素繊維糸条が並行にシート状に配列されて層構成をなし、該層を繊維の配向角度を変えて2層以上交差積層され、該複数の層がステッチ糸で一体化されてなる、ノンクリンプファブリック(NCF)と称される多軸ステッチ布帛が開示されている。これらの補助糸で炭素繊維層を固定したシート状基材では、炭素繊維層からなる織布と比較して、強化繊維糸条がクリンプすること無く真直であるため、それにより引張や圧縮などのFRPの力学特性が向上することに特徴がある。さらに、補助糸を適用したシート状基材は織布に比べて、積層して炭素繊維積層体とする際に炭素繊維の配向角をより自由に設定できるため、CFRPの設計自由度の向上を可能にする。
しかしながら上記のような補助糸で炭素繊維層を固定したシート状基材は、炭素繊維層からなる織物に比べて変形性に劣り、構造物の形状に賦形する際に皺や並行に配列された炭素繊維層の間の隙間(目隙)等の欠陥が生じやすくなる。
これらの欠陥は、補助糸による炭素繊維層の拘束によるものであり、一般的には補助糸による炭素繊維層の固定方法、すなわち補助糸の縫い付け間隔や、縫い付けパターン等を変更することで改善を図っている。縫い付けパターンは、例えば特許文献3(特開2003-20542号公報)に開示されるような単環縫いやトリコット編みが挙げられる。
特開2010-37694号公報 特開2002-264235号公報 特開2003-20542号公報 特開2015-86488号公報
しかしながら、補助糸による炭素繊維層の固定方法を変更する場合、例えば縫い付けパターンを変更すると、補助糸から炭素繊維束へ負荷される荷重の方向や大きさが変わるため炭素繊維束の形態も変化してしまい、CFRPとしたときの機械特性へ影響を及ぼす。
縫い付けパターンを変更せず、基材の変形性を向上する手段として、補助糸の伸張性を上げることが挙げられるが、単に伸びやすい補助糸を用いる場合、基材の形態安定性が低下するため、取り扱いが困難になるという問題があった。
熱可塑樹脂製繊維に伸張性と収縮性をともに付与する方法として、例えば特許文献4(特開2015-86488号公報)に開示されているような熱可塑樹脂製繊維を、クリンプを有する形態に加工することで、伸縮性を発現させる捲縮加工が知られている。しかし従来技術では捲縮加工により製造された捲縮糸は、クリンプによる嵩高性を活かしカーペット用や衣料用繊維としての適用が主であった。また、炭素繊維強化基材へ補助糸として適用するに際し、基材の変形性と取り扱い性を両立するのに必要な特性が明確になっていないという問題があった。
本発明は、かかる従来技術の課題を解決するものであり、具体的には、炭素繊維層を補助糸で固定してなるシート状基材における、基材の製織性や形態安定性を維持しながら、高い変形性を付与することのできる補助糸を提供するものである。また、補助糸を用い、炭素繊維層を固定したシート状基材を提供するものである。また、かかるシート状基材を用いた炭素繊維複合材料を提供するものである。
上記課題を解決するために、本発明は以下の構成を採る。
(1)並行に引き揃えられた炭素繊維束からなる炭素繊維層を固定するための補助糸であって、繊度が30~60dtex、熱可塑性樹脂からなるマルチフィラメント捲縮糸で構成され、かつ、初期長さL0(mm)の前記マルチフィラメント捲縮糸に30mg/dtexの張力をかけたときの長さL1(mm)と、前記張力を除荷したときの長さL2(mm)が以下の(A)かつ(B)を満たす関係にあることを特徴とする補助糸。
(A)0.3<(L1-L0)/L1<0.8
(B)0.5<(L1-L2)/(L1-L0)<1
(2)前記マルチフィラメント捲縮糸が5~20本のフィラメントで構成されたものであることを特徴とする(1)に記載の補助糸。
(3)前記フィラメントの繊維径が5~30μmの範囲であることを特徴とする(1)または(2)に記載の補助糸。
(4)前記マルチフィラメント捲縮糸が有撚であることを特徴とする(1)~(3)のいずれかに記載の補助糸。
(5)前記マルチフィラメント捲縮糸にかけられた撚りの数が、前記マルチフィラメント捲縮糸1mあたり200回以上であることを特徴とする(1)~(4)のいずれかに記載の補助糸。
(6)前記熱可塑性樹脂がポリアミド6樹脂、ポリアミド6-6樹脂、ポリアミド6-10樹脂、ポリアミド6-12樹脂、ポリアミド6-I樹脂、ポリアミド11樹脂、ポリアミド12樹脂から選ばれる少なくとも2つのポリアミド成分を含む共重合ポリアミド樹脂であることを特徴とする、(1)~(5)のいずれかに記載の補助糸。
(7)融点が120℃~160℃であることを特徴とする(1)~(6)のいずれかに記載の補助糸。
(8)並行に引き揃えられた炭素繊維束からなる炭素繊維層を(1)~(7)のいずれかに記載の補助糸で固定されたものであることを特徴とするシート状基材。
(9)前記シート状基材は、少なくとも2層以上の炭素繊維層が前記補助糸で固定されたものであることを特徴とする(8)に記載のシート状基材。
(10)(8)、または(9)に記載のシート状基材を1層以上積層した強化繊維積層体にエポキシ樹脂を注入、硬化させてなる炭素繊維複合材料。
本発明によれば、以下に説明するとおり、炭素繊維層を固定しシート状基材にする際に用いることで、基材の形態安定性と高い変形性を両立して付与できるマルチフィラメント捲縮糸を提供でき、また、このマルチフィラメント捲縮糸を補助糸として適用した、形態安定性と高い変形性を両立するシート状基材を提供できる。また、このシート状基材を用いた、複雑形状においても賦形結果のない、品位良好な炭素繊維複合材料を提供できる。
本発明に係る補助糸の一態様を説明する概略図である。 本発明に係る補助糸の伸縮性を説明する概略図である。 本発明に係るシート状基材の一態様を説明する概略斜視図である。 本発明に係るシート状基材の一態様を説明する概略斜視図である。 本発明の実施例におけるシート状基材の変形性評価方法の概略断面図である。 本発明の実施例におけるシート状基材の剛軟度測定方法の概略断面図である。
以下、本発明の実施形態の例を、図面を参照しながら説明する。
本発明に係る補助糸1は、並行に引き揃えられた炭素繊維束からなる炭素繊維層を固定するための補助糸であって、繊度が30~60dtex、熱可塑性樹脂からなるマルチフィラメント捲縮糸で構成され、かつ、初期長さL0(mm)の前記マルチフィラメント捲縮糸に30mg/dtexの張力をかけたときの長さL1(mm)と、前記張力を除荷したときの長さL2(mm)が以下の(1)かつ(2)を満たす関係にあることを特徴とする補助糸である。
(1)0.3<(L1-L0)/L1<0.8
(2)0.5<(L1-L2)/(L1-L0)<1。
本発明に係る補助糸1の一態様を説明する概略図を図1に示す。本発明に係る補助糸はマルチフィラメント捲縮糸であり、繊度が30~60dtexであることが重要である。好ましくは30~50dtex程度である。繊度が30dtex未満になると、炭素繊維層を固定する際に糸切れが生じやすくなり、工程通過性が低下する。一方で繊度が60dtexを超えると、補助糸の曲げ剛性が高くなるため炭素繊維層を固定する際の縫い付けピッチを細かくすることが困難になり、シート状基材の形態安定性が低下する。また、補助糸の繊度が大きいと炭素繊維層を固定する際に隣接する炭素繊維層が補助糸に押しのけられることでうねりやすくなるため、樹脂を注入して炭素繊維複合材料とした際に力学物性が低下する懸念がある。
ここで本発明における繊度は、次のようにJIS L1013(2010)に準じて測定して得られた値である。まず、係る補助糸を90cm長に切断する。次に、小数点以下5桁までのグラム数を測定できる電子天秤を用いて、5本のサンプルについて質量を測定し、1000m当たりの重量に換算した値を平均化したものを繊度とする。
本発明に係る補助糸は複数のフィラメント11で構成(マルチフィラメント)されており、捲縮加工が施されている。捲縮加工方法は制限されず、仮撚加工、機械的押込み加工、流体押込み加工、ニット・デニット、空気噴射法、収縮差混繊などから選択することができる。また、仮撚加工の場合はフリクション式、ピン式、などが適用でき、原糸のポリマーや、所望の生産速度に応じて選択すればよい。
本発明に係る補助糸は、以下の式(1)かつ式(2)を満たすことが重要である。
0.3<(L1-L0)/L1<0.8・・・(1)
0.5<(L1-L2)/(L1-L0)<1・・・(2)。
図2に示すようにL1は、初期長さL0の補助糸1に張力F=30mg/dtexをかけたときの長さであり、L2は張力Fを除荷したときの長さである。すなわち、式(1)は補助糸1に張力Fをかけたときの伸長率であり、補助糸1の伸びやすさの指標である。本発明の補助糸では0.3<(L1-L0)/L1<0.8であることが重要であり、好ましくは0.3<(L1-L0)/L1<0.7であり、より好ましくは0.5<(L1-L0)/L1<0.7である。(L1-L0)/L1が0.3以下になると、炭素繊維層に補助糸として縫い付けてシート状基材とした際に、シートの変形性向上効果が小さくなる。一方、(L1-L0)/L1が0.8以上になると、伸張性が高すぎるため補助糸として炭素繊維層を固定する際の張力制御が困難になり、製織性が悪化する。
本発明では、式(1)と同時に式(2)を満たすことが重要である。式(2)は補助糸1に張力Fをかけたときの回復率であり、補助糸1に張力を付与した後にどこまで収縮するかの指標である。本発明に係る補助糸で炭素繊維層を固定してシート状基材にする際、固定時にはかかる補助糸に張力が付与された状態で行われた後、シート状基材の中では張力が除荷された状態で安定する。このとき、シート状基材の変形性を発現するには補助糸が伸長できる必要があるため、張力が付与された状態から回復し、伸びしろを有していることが重要である。本発明にかかる補助糸では0.5<(L1-L2)/(L1-L0)<1であることが重要であり、好ましくは0.5<(L1-L2)/(L1-L0)<0.8、より好ましくは0.6<(L1-L2)/(L1-L0)<0.8である。(L1-L2)/(L1-L0)が0.5以下になると、かかる補助糸で炭素繊維層を固定しシート状基材を製作した際に、固定後にかかる補助糸の伸張性が不足し、シート状基材の変形性向上効果が小さくなる。また(L1-L2)/(L1-L0)が1以上になると、かかる補助糸で炭素繊維層を固定しシート状基材を製作した際に、かかる補助糸が過剰に収縮するため炭素繊維層の形態が崩れやすくなる。
ここで、L1、L2の求め方をより詳細に述べる。まず、かかる補助糸を任意の初期長さL0に切断する。次に、初期長さL0の補助糸の片方の端部を固定し、もう片方の端部に30mg/dtexで荷重Fを付与する。荷重付与後、30秒経過後の長さをL1とする。L1測定後に荷重Fを除荷し、30秒経過した後の長さをL2として測定する。
本発明にかかる補助糸を構成するマルチフィラメント捲縮糸は複数本(N本)のフィラメント11から構成され、N=5~20本であることが好ましい。これにより、かかる補助糸で並行に引き揃えられた炭素繊維束からなる炭素繊維層を固定しシート状基材を製作すると、複数のフィラメント11間、および補助糸と周囲の炭素繊維束との間に空隙が形成されやすく、RTMやVaRTM成形時に高い樹脂含浸性を得ることができる。言い換えると、母材樹脂を基材に注入するために必要な時間が短縮されるため、炭素繊維強化複合材料の生産性を向上させることが出来る。一方で、本発明にかかる補助糸を構成するマルチフィラメント捲縮糸が4本以下のフィラメントから構成され、シート状基材の補助糸として用いた場合、補助糸内部の空隙が小さくなり、かつ周囲の炭素繊維束と密着しやすくなるため、樹脂含浸性が低下する。また、前記マルチフィラメント捲縮糸が20本より多くのフィラメントから構成された場合、シート状基材の補助糸として用いた場合、成形時の樹脂含浸性は向上するものの、フィラメント数が増えることで樹脂とマルチフィラメント捲縮糸の間の界面が増え、炭素繊維複合材料の物性が低下しやすくなるため好ましくない。
また、本発明にかかる補助糸を用いたシート状基材の含浸性をより効果的に向上させるためには、補助糸を構成するフィラメントの直径は5~30μmの範囲であることが望ましい。5μmより小さくなると、フィラメント間の隙間が小さくなるため期待される含浸性向上効果が得られなくなる。また30μmを超えるとかかるフィラメントで構成されるマルチフィラメントの径が過剰に大きくなるため、炭素繊維の真直性が損なわれ、力学特性が低下する。
また、さらに本発明にかかる補助糸を用いたシート状基材の含浸性を向上するため、該補助糸1を構成するマルチフィラメント捲縮糸は、捲縮加工された複数のフィラメントに撚りがかかっていること(有撚)が好ましい。撚りがかけられることで、かかるマルチフィラメント捲縮糸からなる補助糸で並行に引き揃えられた炭素繊維束からなる炭素繊維層を固定したシート状基材を重ねた強化繊維積層体を注入成形時に圧縮した場合においても、撚りの周辺に空隙を残すことができるため、樹脂の含浸性を向上することができる。
本発明においては、かかる補助糸の長さ1mあたりの撚り数は200回以上が好ましい。撚り数が200回以上となると、かかる補助糸で炭素繊維層を固定したシート状基材を重ねた強化繊維積層体を注入成形時に圧縮した場合により安定して撚りの周辺に空隙を残すことができるため、樹脂の含浸性をシート状基材全体で均一に向上することができる。撚り数が200回を下回ると、例えばかかる補助糸を炭素繊維束と直交する緯糸として用いる場合に、炭素繊維束の表層に実質的に撚りが存在しない箇所が形成されやすく、注入成形時にフィラメント間の空隙が潰れやすくなり、含浸性がばらつくことがある。撚り数の上限は特に制限はなく、補助糸の繊維径、材質等によって定めることができる。
本発明における撚り数は、検ねん器を用い、つかみ間隔を50cmとしてJIS L1013(2010)に定められた荷重で試料を取り付け、撚り数を測定し、2倍して1m当たりの撚り数を求める。本発明では、20回の測定の平均値を撚り数として用いた。
本発明にかかる補助糸を構成する材料は熱可塑性樹脂であることが重要である。具体的には、ポリエステル(PET)樹脂、ポリプロピレン(PP)樹脂、ポリエチレン(PE)樹脂、ポリフェニレン・サルファイド(PPS)樹脂、ポリエチレン・ナフタレート(PEN)樹脂、液晶ポリマー(LCP)樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリフェニレン・サルファイド樹脂、ポリケトン樹脂、ポリアミド樹脂、及びそれらの混合物から選定することができるが、特にじん性の高いポリアミド樹脂を選択すると、かかる補助糸を適用したシート状基材間の層間を強化し、炭素繊維複合材料の耐衝撃性等の特性を向上することができるため好ましい。ポリアミド樹脂としては、ポリアミド6樹脂、ポリアミド6-6樹脂、ポリアミド6-10樹脂、ポリアミド6-12樹脂、ポリアミド6-I樹脂、ポリアミド11樹脂、ポリアミド12樹脂から選ばれる少なくとも2つのポリアミド成分を含む共重合ポリアミド樹脂を用いることが、耐衝撃性向上の観点から特に好ましい。
また、本発明にかかる補助糸の融点Tmは、120℃~160℃の範囲にあることが好ましい。融点Tmは、示差走査熱量計(DSC)を用いて、JIS K 7121(1987)に従い10℃/分の昇温速度で測定した値を指す。一般的にRTMやVaRTM成形に用いられるエポキシ樹脂は、80~120℃程度に加熱された状態でシート状基材を積層した強化繊維積層体に注入され、硬化時には180℃程度に昇温し保持される。かかる補助糸の融点Tmが120℃より低くなると、樹脂注入時に軟化・溶融し、樹脂流路を閉塞するため未含浸等の成形欠陥の原因となるため好ましくない。また、Tmが160℃を超えると、エポキシ樹脂の硬化時に溶融できず、補助糸とエポキシ樹脂の接着性が低下し、物性低下を引き起こす可能性があるため好ましくない。
次に、かかる補助糸を補助糸として適用したシート状基材について詳細に説明する。本発明にかかる補助糸を適用したシート状基材2は、図3に一例を示すように、炭素繊維束が並行に引きそろえられた炭素繊維層21が少なくとも1層あり、本発明にかかる補助糸22によって固定・一体化してシート状となっている。炭素繊維層21としては、織物(一方向性、二方向性、多軸)、編物、組物、一方向に引き揃えられたシート(一方向シート)、一方向シートを2層以上重ね合わせた多軸シート等が挙げられる。これらを補助糸で固定・一体化した例としては、一方向シートを補助糸の緯糸と経糸で織ることで固定した一方向織物や、一方向シートを2層以上重ね合わせた多軸シートを補助糸(ステッチ糸)により縫い合わせて固定・一体化した布帛であるNCF(Non crimp fabric)が挙げられる。特にNCFは各層の強化繊維がほとんど屈曲しないため、樹脂注入後の成形品の力学特性に優れ、かつ複数の層を同時に配置できるため配置効率が良いため、特に輸送機器(特に航空機)の大型の構造(特に一次構造)部材に強化繊維複合材料を用いる場合には、好ましい。図3では、補助糸22は直線(チェーン)状の形態を記載しているがこれに限らず、トリコットや、これらを組み合わせた形態等をとることができる。これらのシート状基材では、上記で説明した、伸縮性を両立する本発明にかかる補助糸を用いて固定されることによって、基材の裁断時や、裁断された基材を運搬するときなどは、取り扱い性が良好であるにも関わらず、所望の形状に賦形する際には高い変形性を示し、皺が形成されないシート状基材が得られる。
本発明にかかるシート状基材は、かかる補助糸22の配列方向X1の剛軟度が750mN・cm以下であることが好ましい。これにより、かかるシート状基材を所望の形状に賦形する際の変形性が向上し、皺を形成しにくく追従することが可能になる。ここで補助糸22の配列方向X1とは、図3のように炭素繊維層21を固定・一体化する補助糸22が延在する方向であって、配列方向X1の剛軟度とは、以下に述べる方法で剛軟度を測定する際に、シート状基材をX1方向へ曲げて測定した値である。なお、X1方向の剛軟度は小さければ小さいほどシート状基材の変形性は向上するが、シート状基材の形態安定性など、取り扱い性との両立のため50mN・cm以上が好ましく、より好ましくは100m・cm以上である。
本発明にかかる剛軟度は、JIS L 1913の41.5°カンチレバー法に従って測定する。シート状基材から、試験を行う方向を長片とした25x250mmの長方形の試料を採取する。例えば上記のX1方向の剛軟度を測定する場合は、X1方向を長片として採取する。次いで、一端が41.5°の傾斜を持つ水平台の上に試料を置き、斜面の方向に滑らせ、試験片の一端が斜面に接した時の滑り量2Cを計測し、次の式(3)で剛軟度Gを算出する。
G=mxCx10-3 ・・・式(3)
ここでGは剛軟度(mN・cm)、mは試料の単位面積当たりの質量(g/m)、Cは滑り量2Cの半分の値(cm)である。
また本発明にかかるシート状基材は、前記補助糸の配列方向X1に対して直交する方向Y1の剛軟度が50mN・cm以上であることが好ましい。これにより、かかるシート状基材の裁断や運搬などのハンドリング時に形態が崩れにくく、高い取り扱い性を発現できる。配列方向X1に対して直交する方向Y1の剛軟度は、シート状基材から長片をY1方向にして試料を採取し、上述の方法で測定することで得ることができる。配列方向X1に対して直交する方向Y1の剛軟度は、シート状基材の変形性を損なわないよう、1,000mN・cm以下が好ましく、より好ましくは750mN・cm以下、さらに好ましくは500mN・cm以下である。
本発明にかかるシート状基材としての2軸のNCF基材の一態様を示す概略斜視図を図4に示す。NCF基材61の下面から、まず長さ方向イに対して斜め方向(バイアス方向)に多数本の強化繊維糸条が並行に配列して+α゜層62を構成し、次いで斜め方向に多数本の強化繊維糸条が並行に配列して-α゜層64を構成し、互いに配列方向が異なる2つの層が積層された状態で、本発明にかかる補助糸(ステッチ糸)66でこれら2層が縫合一体化されている。縫合一体化にあたってのステッチ糸66が形成する縫い組織としては、例えば単環縫い、1/1のトリコット編みが挙げられるが、これに限定されるものではない。
ここで、図4に示したNCF基材61の強化繊維の構成は+α゜層/-α゜層の2層構成について説明したが、これに限定するものではない。たとえば0°層/90°層、+α°層/-α°層、0°層/+α°層などからなる2層、+α°層/0°層/-α°層、+α°層/-α°層/0°層などからなる3層、また、0°層/+α°層/0°層/-α°層/90°層/-α°層/0°層/+α°層/0°層のように、0°層が多く含まれるような、0゜、+α゜、-α゜、90゜の4方向を含むものであってもよい。また、0゜、+α゜、-α゜、90゜のいずれかを含むものであってもよい。なお、バイアス角α゜は、ステッチ布帛をFRPの長さ方向に積層し、強化繊維による剪断補強を効果的に行う観点から45゜±5°が好ましい。
本発明に係る炭素繊維としては、用途に応じてあらゆる種類の炭素繊維を用いることが可能であるが、耐衝撃性の点から高くとも400GPaの引張弾性率を有する炭素繊維であることが好ましい。また、強度の観点からは、高い剛性および機械強度を有する複合材料が得られることから、引張強度が4.4GPa以上6.5GPa以下の炭素繊維であることが好ましい。また、引張伸度も重要な要素であり、1.7%以上2.3%以下の高強度高伸度炭素繊維であることが好ましい。従って、引張弾性率が少なくとも230GPaであり、引張強度が少なくとも4.4GPaであり、引張伸度が少なくとも1.7%であるという特性を兼ね備えた炭素繊維が最も適している。
炭素繊維の市販品としては、“トレカ(登録商標)”T800G-24K、“トレカ(登録商標)”T800S-24K、“トレカ(登録商標)”T700G-24K、“トレカ(登録商標)”T300-3K、および“トレカ(登録商標)”T700S-12K(以上東レ(株)製)等が挙げられる。
本発明では、上記に説明したシート状基材を1層以上積層した強化繊維積層体にエポキシ樹脂を注入し、硬化させることで炭素繊維複合材料を得ることができる。本発明にかかる補助糸をかかるシート状基材に適用することでシート状基材の変形性が向上し、複雑な形状であっても良好に賦形できるため皺等の発生がなく、本発明で得られる炭素繊維複合材料は賦形による欠陥が形成されないため力学物性や寸法精度に優れる。
本発明にかかる補助糸とシート状基材について、実施例に基づいて説明する。
(実施例1)
(補助糸)
フィラメント数が8本、融点140℃の、ポリアミド6とポリアミド12からなる共重合ポリアミド製マルチフィラメントに仮撚加工による捲縮加工を施した後、撚りをかけることで、補助糸を製作した。製作した補助糸の特性を評価した結果、繊度は40dtexであり、初期長さL0=50cmの前記マルチフィラメント捲縮糸に30mg/detexの荷重をかけた際の長さL1は125cm、除荷した後の長さL2は75cmとなり、伸長率(L1-L0)/L1=0.6、回復率(L1-L2)/(L1-L0)=0.7であった。また、検ねん機を用いて測定した撚り数は1m辺り215回であった。
(試験用の直行2軸NCF模擬基材の製作)
作業台の上で、ボビンから繰り出した炭素繊維束(東レ製T800S-24K)を所定の長さに切り出し、束がねじれないように注意しながら、およそ500mm×500mmの範囲に並行に引き揃えた。引き揃えた炭素繊維束群の端部をマスキングテープにより固定し、1層の炭素繊維層を製作した。
1層目の炭素繊維層の上に、2層目の炭素繊維層を、1層目の繊維方向に対し直交する向きに配置した。合計2層のシートを重ねた後、これらシートの位置がずれないように、端部をマスキングテープにより固定し、直交2軸シートを製作した。
続いて、製作した直交2軸シートに対し、下側の炭素繊維層(1層目)の繊維方向を90°、上側の炭素繊維層(2層目)の繊維方向を0°とした場合に、45°の方向に沿って、前記マルチフィラメント捲縮糸からなる補助糸により縫いとめて固定した。補助糸を縫いとめる作業は、家庭用のミシンを用いて、縫い目の間隔がおよそ3mm、列間隔がおよそ5mmとなるように、設定し、直線縫いをした。なお、補助糸の目付は3g/mとした。シート状基材の縫い付け作業時に糸切れは生じず、本実施例のマルチフィラメント捲縮糸が製織性に優れていることを確認した。
外周を固定しているマスキングテープ部の内側を、炭素繊維層の繊維方向が、切り出す辺に+45°もしくは-45°となるように400mm×400mmに切り出し、所謂[+45°/-45°]の直交2軸NCFを模擬したシート状基材を製作した。シート状基材の単位面積当たりの質量mは600g/mであった。
(基材の変形性評価)
製作したシート状基材の変形性の評価方法を、図5に概略断面図にて示す。シート状基材を1枚、アクリル製の孔付きブランクホルダー31にて50kPaの力で挟み、シート状基材1の半径60mmの半球状の金属製の型32で1mm/secの速度で押し込む。シート状基材の、半球型32と接する面と反対の観察方向33からシート状基材の状態を観察したところ、目視できる皺は発生しておらず、良好な変形性であることを確認した。また、基材の裁断から変形性評価において、運搬等の取り扱い時に基材の形態が崩れることはなく、基材の取り扱い性に優れていることを確認した。
(基材の剛軟度評価)
製作したシート状基材から、直線縫いをされた補助糸の延在方向(配列方向)X1と、X1に直交する方向Y1それぞれを長辺として25x250mmの試料を各6枚採取し、剛軟度測定を行った。測定方法の概略断面図を図6に示す。まず、図6(a)のように41.5°の角度の斜面41と、水平なプラットフォーム42を有する剛軟度測定台4を準備した。用いた剛軟度測定台4のプラットフォーム42には、シート状基材の粘着を防ぐため厚みが30μmのPTFEフィルム(日東電工株式会社製、ニトフロンNo.900UL)が貼り付けられている。このプラットフォーム42の上に試料43を、試料の端部431とプラットフォームの端部421が一致するように配置する。次いで、図6(b)のように試料3をプラットフォームの端部421から斜面41に向かって滑らせ、試料43の端部431が斜面41に触れるまでに試料3が初期位置44から移動した量として滑り量2Cを、プラットフォーム42上に取り付けた定規で読み取り、式(3)を用いて剛軟度を算出し、6枚の試料の結果を平均することでX1方向の剛軟度とY1方向の剛軟度を得た。本実施例における、補助糸の配列方向X1の剛軟度は400mN・cmであり、X1方向の剛軟度の好ましい範囲である750mN・cm以下であることを確認した。また、本実施例における、補助糸の配列方向X1に直交する方向Y1の剛軟度は150mN・cmであり、Y1方向の剛軟度の好ましい範囲である50mN・cm以上であることを確認した。
(実施例2~3、比較例1~4)
補助糸の捲縮加工条件および繊度を変更し、シート状基材を縫い付ける際の製織性、基材の取り扱い性、基材の変形性について評価を行った、実施例1~3、および比較例1~4の各条件と評価結果を表1に示す。伸長率が0.3<(L1-L0)/L1<0.8、かつ、回復率が0.5<(L1-L2)/(L1-L0)<1を満たす実施例1~3では全項目で良好な結果を得た。伸長率を0.4に下げた実施例2では半球型32で基材を押し込んだ際、補助糸近辺で炭素繊維が微小にクリンプしたが、外観や物性上問題が生じないレベルであった。剛軟度は、X1方向は500mN・cmであり、X1方向の剛軟度の好ましい範囲である750mN・cm以下であること、Y1方向は200mN・cmであり、Y1方向の剛軟度の好ましい範囲である50mN・cm以上であることを確認した。また、回復率を0.55に低下させた実施例3では、基材の運搬時に柔軟な印象はあるものの、炭素繊維束の配向ズレ等は生じなかった。剛軟度は、X1方向は300mN・cmであり、X1方向の剛軟度の好ましい範囲である750mN・cm以下であること、Y1方向は85mN・cmであり、Y1方向の剛軟度の好ましい範囲である50mN・cm以上であることを確認した。
捲縮加工を施さない補助糸である比較例1では、基材の取り扱い性に問題はないものの、製織時に糸切れが頻発したほか、基材に半球型を押し込んだ際、許容できないレベルの大きな皺が発生し、変形性が低いことを確認した。また、X1方向の剛軟度は1000mN・cmであり、X1方向の剛軟度の好ましい範囲である750mN・cm以下を外れ、剛直な基材となった。また、伸長率を低くした比較例2では基材の変形性が低下し、X1方向の剛軟度も850mN・cmであり、X1方向の剛軟度の好ましい範囲である750mN・cm以下を外れた。一方で、伸長率を極端に高くした比較例3においては、補助糸が伸びすぎることによって製織時の張力が不安定となり、これに応じて基材の取り扱い時に局所的に形態が崩れしまい、取り扱い性が低下した。Y1方向の剛軟度は30mN・cmとなり、Y1方向の剛軟度の好ましい範囲である50mN・cm以上を外れた。ただし、X1方向の剛軟度は200mN・cmとなりX1方向の剛軟度の好ましい範囲である750mN・cm以下となり、変形性評価においても良好な変形性を発現した。さらに、繊度を30dtexよりも低くした比較例4においては、製織時に糸切れが頻発したことに加え、基材の変形性評価時に半球型を押し込んだ際に、基材の変形中に補助糸が破断し、拘束がなくなった炭素繊維層が乱れる事象が発生した。
Figure 2022151662000002
本発明で得られる、特に、航空機や自動車、船舶等向けの大型部材や、風車ブレードのような一般産業用途の部材にも好適である。
1:補助糸
11:フィラメント
2:シート状基材
21:炭素繊維層
22:補助糸
31:ブランクホルダー
32:半球状の金属製の型
33:観察方向
4:剛軟度測定台
41:41.5°の角度の斜面
42:プラットフォーム
421:プラットフォームの端部
43:試料
431:試料の端部
44:初期位置
61:NCF基材
62:+α°層
63:90°層
64:-α°層
65:0°層
66:ステッチ糸

Claims (12)

  1. 並行に引き揃えられた炭素繊維束からなる炭素繊維層を固定するための補助糸であって、繊度が30~60dtex、熱可塑性樹脂からなるマルチフィラメント捲縮糸で構成され、かつ、初期長さL0(mm)の前記マルチフィラメント捲縮糸に30mg/dtexの張力をかけたときの長さL1(mm)と、前記張力を除荷したときの長さL2(mm)が以下の(1)かつ(2)を満たす関係にあることを特徴とする補助糸。
    (1)0.3<(L1-L0)/L1<0.8
    (2)0.5<(L1-L2)/(L1-L0)<1
  2. 前記マルチフィラメント捲縮糸が5~20本のフィラメントで構成されたものであることを特徴とする請求項1に記載の補助糸。
  3. 前記フィラメントの繊維径が5~30μmの範囲であることを特徴とする請求項1または2に記載の補助糸。
  4. 前記マルチフィラメント捲縮糸が有撚であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の補助糸。
  5. 前記マルチフィラメント捲縮糸にかけられた撚りの数が、前記マルチフィラメント捲縮糸1mあたり200回以上であることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の補助糸。
  6. 前記熱可塑性樹脂がポリアミド6樹脂、ポリアミド6-6樹脂、ポリアミド6-10樹脂、ポリアミド6-12樹脂、ポリアミド6-I樹脂、ポリアミド11樹脂、ポリアミド12樹脂から選ばれる少なくとも2つのポリアミド成分を含む共重合ポリアミド樹脂であることを特徴とする、請求項1~5のいずれかに記載の補助糸。
  7. 融点が120℃~160℃であることを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載の補助糸。
  8. 並行に引き揃えられた炭素繊維束からなる炭素繊維層を請求項1~7のいずれかに記載の補助糸で固定されたものであることを特徴とするシート状基材。
  9. 前記シート状基材は、少なくとも2層以上の炭素繊維層が前記補助糸で固定されたものであることを特徴とする請求項8に記載のシート状基材。
  10. 前記シート状基材は、前記補助糸の配列方向X1の剛軟度が750mN・cm以下であることを特徴とする、請求項8または9に記載のシート状基材。
  11. 前記シート状基材は、前記補助糸の配列方向X1に対して直交する方向Y1の剛軟度が50mN・cm以上であることを特徴とする、請求項8~10のいずれかに記載のシート状基材。
  12. 請求項8~11のいずれかに記載のシート状基材を1層以上積層した強化繊維積層体にエポキシ樹脂を注入、硬化させてなる炭素繊維複合材料。
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