JP2022147150A - 摩耗境界決定装置 - Google Patents

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Yoshinori Imoto
佑典 鬼頭
Yusuke Kito
雅人 蔦岡
Masato Tsutaoka
隼樹 酒井
Hayaki Sakai
孝幸 東
Takayuki Azuma
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Abstract

【課題】初期摩耗領域から定常摩耗領域に遷移する境界点(タイミング)を精度良く決定する技術を提供すること。【解決手段】工具の摩耗における初期摩耗領域と定常摩耗領域との境界点を決定する摩耗境界決定装置であって、切削量に対する摩耗量を示す測定点であって、初期摩耗領域と定常摩耗領域とのいずれかに含まれる、切削量が互いに異なる複数の測定点を取得する取得部と、複数の測定点を用いて、切削量で表される境界点を決定する境界決定部と、を備え、境界決定部は、測定開始時を1番目の測定点、測定終了時をN(Nは、4以上の自然数)番目の測定点とした場合、1番目からM(Mは、3以上の自然数)番目までの測定点について、切削量と摩耗量との相関の程度を示す相関度の算出を、Mの値を変更して複数回実行することにより、複数の相関度を求める第1ステップを実行し、複数の相関度を用いて、境界点を決定する。【選択図】図3

Description

本開示は、摩耗境界決定装置に関する。
従来、工具の摩耗量の予測が試みられている(例えば、特許文献1)。摩耗する過程には、初期摩耗領域および定常摩耗領域があることが知られている。特許文献1には、初期摩耗領域から定常摩耗領域に渡って、加工開始時点からの経過時間と摩耗量との関係を表す1つの関係式を用いて、摩耗量を予測する技術が開示されている。
国際公開WO2019/176773号公報
しかしながら、初期摩耗領域においては、経過時間に対する摩耗量のバラツキが大きいことが知られている。このため、初期摩耗領域と定常摩耗領域と、について、同じ関係式を用いて摩耗予測を行うと、予測精度が低下するおそれがある。そこで、初期摩耗領域と定常摩耗領域とのそれぞれに適した摩耗予測を行うために、初期摩耗領域から定常摩耗領域に遷移する境界点(タイミング)を精度良く決定する技術が要請されている。
本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
(1)本開示の一形態によれば、摩耗境界決定装置が提供される。この摩耗境界決定装置は、工具の摩耗における初期摩耗領域と定常摩耗領域との境界点を決定する摩耗境界決定装置であって、切削量に対する摩耗量を示す測定点であって、前記初期摩耗領域と前記定常摩耗領域とのいずれかに含まれる、前記切削量が互いに異なる複数の前記測定点を取得する取得部と、前記複数の測定点を用いて、前記切削量で表される前記境界点を決定する境界決定部と、を備え、前記境界決定部は、測定開始時を1番目の前記測定点、測定終了時をN(Nは、4以上の自然数)番目の前記測定点とした場合、1番目からM(Mは、3以上の自然数)番目までの前記測定点について、前記切削量と前記摩耗量との相関の程度を示す相関度の算出を、前記Mの値を変更して複数回実行することにより、複数の前記相関度を求める第1ステップを実行し、前記複数の相関度を用いて、前記境界点を決定する。摩耗曲線において、初期摩耗領域から定常摩耗領域に遷移する境界点の前後では、単位切削量当たりの摩耗量の傾向が変化する。例えば、初期摩耗領域における単位切削量当たりの摩耗量よりも定常摩耗領域における単位切削量当たりの摩耗量は、減少する傾向にある。よって、この形態によれば、単位切削量当たりの摩耗量の変化が反映された相関度を用いて境界点が決定されるため、境界点を精度良く決定することができる。
(2)上記形態にて、前記境界決定部は、前記第1ステップにて、第1近似線と、前記相関度としての第1決定係数とを算出してもよい。この形態によれば、単位切削量当たりの摩耗量の傾向をより反映することができ、境界点を精度良く決定することができる。
(3)上記形態にて、前記第1近似線は、回帰直線であってもよい。この形態によれば、第1近似線を回帰直線とすることにより、単位切削量当たりの摩耗量の傾向が変化する境界点を精度良く求めることができる。
(4)上記形態にて、前記境界決定部は、さらに、N番目から(N-L)(Lは、2以上の自然数)番目までの前記測定点についての第2近似線と、第2決定係数との算出を、前記Lの値を変更して複数回実行することにより、複数の前記第2近似線と複数の前記第2決定係数とを求める第2ステップと、前記複数の第1決定係数のうち、最大である最大第1決定係数に対応する前記第1近似線と、前記複数の第2決定係数のうち、最大である最大第2決定係数に対応する前記第2近似線との交点の前記切削量を前記境界点に決定する第3ステップと、を実行してもよい。この形態によれば、境界点を一義的に決定することができる。
(5)上記形態にて、前記第2近似線は、回帰直線であってもよい。この形態によれば、単位切削量当たりの摩耗量の増加量が、初期摩耗領域と、定常摩耗領域とで異なる事象を反映することができるため、境界点を精度良く求めることができる。
(6)上記形態にて、前記境界決定部は、さらに、前記複数の相関度のうち、最大である最大相関度を1とした場合の前記相関度の比率を前記複数の相関度の各々について算出し、前記比率が基準値以上である前記相関度に対応する前記Mに対応する前記切削量を前記境界点に決定する第4ステップを実行してもよい。この形態によれば、相関度用いて、境界点を決定することができる。
(7)上記形態にて、前記境界決定部は、前記第1ステップにて、前記相関度としての第1決定係数を算出し、前記基準値は0.9であってもよい。この形態によれば、精度良く境界点を決定することができる。
(8)上記形態にて、さらに、前記境界決定部が決定した前記境界点を含む情報を機械学習モデルの教師データとして用いるために記憶する記憶部を有しても良い。この形態によれば、境界点を含む情報を機械学習モデルに入力することで機械学習を実行できる。つまり、境界点の予測精度が良い教師データが用いられることにより、摩耗量予測の精度を向上させることができる。
本開示は、摩耗境界決定装置以外の種々の形態で実現することも可能である。例えば、摩耗境界決定方法および摩耗境界決定方法を実現するコンピュータプログラム、そのコンピュータプログラムを記録した一時的でない記録媒体などの形態で実現することができる。
摩耗境界決定装置のブロック図である。 切削工具の摩耗曲線を示す図である。 境界決定処理のフローチャートである。 加工個数に対する摩耗量を測定したデータを示す図である。 データと共に第1近似線を示す図である。 測定点の個数と第1決定係数との関係を示す図である。 測定点の個数と第2決定係数との関係を示す図である。 最大第1決定係数に対応する第1近似線と、最大第2決定係数に対応する第2近似線とを示す図である。 第2実施形態に係る境界決定処理のフローチャートである。 比率と加工個数との関係を示すグラフである。
A.第1実施形態:
図1は、摩耗境界決定装置100のブロック図である。摩耗境界決定装置100は、CPU(central processing unit)11と、記憶部12と、ディスプレイ20と、入力操作部30とを備えるコンピュータとして構成されている。CPU11は、プロセッサなどで実現される。記憶部12は、RAM(Random access memory)およびROM(Read only memory)などで実現される。ディスプレイ20は、例えば液晶ディスプレイであり、CPU11の指令に応じて、情報を表示する。入力操作部30は、例えばキーボードおよびマウスを有し、作業者からの指示を受け付ける。記憶部12は、後述する摩耗境界決定処理の実行プログラムなどのプログラムが記憶されている。CPU11は、記憶部12に記憶されているプログラムを実行することによって、ディスプレイ20などの各部を制御する。さらに、CPU11は、記憶部12に記憶されているプログラムを実行することにより、取得部41および境界決定部42として機能する。取得部41は、切削量に対する摩耗量を示す測定点であって、初期摩耗領域と定常摩耗領域とのいずれかに含まれる、切削量が互いに異なる複数の測定点を取得する。ここで、切削量とは、典型的には、切削距離であり、切削距離に換算することができる、例えば、切削時間や、後述する加工個数などを含む。境界決定部42は、複数の測定点を用いて、切削量で表される境界点を決定する。ここで、境界点とは、初期摩耗領域から定常摩耗領域へ遷移するタイミングであり、切削量で表される点である。境界決定部42が決定した境界点を含む情報は、機械学習モデルの教師データとして用いるために、記憶部12に記憶される。
図2は、切削工具の摩耗曲線WCを示す図である。図2の横軸は切削距離であり、図2の縦軸は、摩耗量である。一般に、摩耗曲線WCは、初期摩耗領域と、定常摩耗領域と、終期摩耗領域とに分けられる。単位切削距離当たりの摩耗量の増加量は、定常摩耗領域に対して、初期摩耗領域と、終期摩耗領域とで大きい。終期摩耗領域では、単位切削距離当たりの摩耗量の増加量が急激に増加するため、実際に工具が使用される際には、終期摩耗領域に入る前に、工具が交換される場合が多い。具体的には、工具の交換の目安となる基準切削距離CDthが実験などにより、予め定められている。そして、工具の切削距離が終期摩耗領域に遷移する前の基準切削距離CDth以上となると、工具が交換される。
摩耗量に影響を与える要因には、例えば、切込み深さ、送り量、面圧などの加工条件、温度などの環境条件、工具および切削対象物の材料などがある。定常摩耗領域における摩耗予測は、理論式およびFEM(Finite Element Method)解析などを用いて試みられている。理論式では、例えば、切削工具が受ける圧力と、温度と、材料により導出される係数となどに基づいて、摩耗量が算出される。対して、初期摩耗領域における摩耗については、摩耗量に影響を与える要因を特定しづらい。詳述すると、切削機の状態や、工具の馴染み方などにより、摩耗量がばらつく。このため、理論式を用いた摩耗予測では、予測精度の向上が難しいと考えられる。そこで、発明者らは、初期摩耗領域における摩耗予測に機械学習を用いることを考案した。具体的には、測定した切削量に対する摩耗量のデータと、例えば加工条件、環境条件、材料などの条件とを含む情報を機械学習モデルの教師データにして、機械学習モデルに学習させる。そして、学習済の機械学習モデルに、加工条件、環境条件、材料などの条件を入力することで、例えば境界点が予測(出力)される。予測された境界点を用いて初期摩耗領域を特定することで精度の良く摩耗予測を行うことができる。なお、機械学習モデルは、予測した境界点を出力するだけでなく、予測した境界点から初期摩耗領域を特定して、予めプログラムされた関係式を用いて初期摩耗領域の摩耗予測を出力してもよい。初期摩耗領域および定常摩耗領域のそれぞれについて、上記の摩耗予測を行うことにより、工具寿命を予測することができる。
ところで、初期摩耗領域から定常摩耗領域に遷移する境界点を決定する判断基準は定められていない。このため、実際には作業者が、切削量に対する摩耗量のデータを見て決定する場合が多い。この場合、同じデータであっても、決定する作業者が異なると、決定される境界点が異なるおそれがある。このように、境界点が規則的に決定されない場合、教師データの精度が落ち、摩耗予測の精度が落ちるおそれがある。そこで、発明者らは、境界点を規則的に決定するための境界決定処理を考案した。これによれば、境界点が規則的に決定されるため、教師データの精度を向上させ、摩耗予測の精度を向上させることができる。境界決定処理では、初期摩耗領域から定常摩耗領域までの切削量に対する摩耗量のデータ、つまり終期摩耗領域を含まないデータが用いられる。上記のように、定常摩耗領域から終期摩耗領域に遷移する境界点の範囲は、予め実験などにより求めることができる。本実施形態に係る境界決定処理では、定常摩耗領域から終期摩耗領域に遷移する境界点の範囲より前の切削量までのデータが用いられる。
図3は、境界決定部42が行う境界決定処理のフローチャートである。境界決定部42は、取得部41からN個の測定点を含むデータを受け取ると、境界決定処理を開始する。ここで、Nは、4以上の自然数である。以下、処理対象が図4に示すような31個の測定点を含むデータである場合を例示しながら説明する。
図4は、同一の切削工具について、切削量としての加工個数に対する摩耗量を測定したデータである。データ取得に用いられた切削工具は、スカイビング工具であるが、その他の切削工具についても、本処理を適用することができる。図4の横軸は加工個数であり、縦軸は摩耗量[μm]である。データは、切削対象物に対して、同じ加工条件で同じ加工が行われて取得されたため、横軸の加工個数は、切削距離と同等である。図4に示すように、15個から30個までの付近で、単位加工個数当たりの摩耗量の増加量が緩やかになっており、15個から30個までの付近に境界点があることがわかる。また、図4に示すデータは、初期摩耗領域から定常摩耗領域までの測定点を含むデータであることがわかる。
図3に示すように、境界決定部42は、本処理ルーチンに使用する変数である変数Mおよび変数Lを初期値に設定する(ステップS10)。変数Mは、3以上の自然数に設定される。変数Lは、2以上の自然数に設定される。本実施形態では、変数Mの初期値は10であり、変数Lの初期値は9である。また、境界決定部42は、ステップS10において、本処理ルーチンに使用する定数である定数C1、定数C2、定数Nの値を設定する。本実施形態では、定数C1は31に設定され、定数C2は30に設定され、定数Nは31に設定される。境界決定部42は、変数Mが定数C1以上であるか否かを判断する(ステップS12)。変数Mが定数C1以上でない、すなわち変数Mが定数C1未満であると判断すると(ステップS12:NO)、境界決定部42は、1番目からM番目までの測定点の第1近似線Y1と、相関度としての第1決定係数R1とを算出し、記憶部12に記憶する(ステップS14)。本実施形態では、第1近似線Y1は、最小二乗法を用いて求められる回帰直線であり、第1決定係数R1は、回帰直線の決定係数である。1番目の測定点は、測定開始時の測定点である。N番目の測定点は、測定終了時の測定点である。本実施形態では、Nは31であり、31番目の測定点が測定終了時の測定点である。
図5は、データと共に第1近似線Y1を示す図である。図5には、データの1番目の測定点から10番目の測定点までの第1近似線Y1(10)と、1番目の測定点から11番目の測定点までの第1近似線Y1(11)とが示されている。また、図5では、10番目までの測定点は黒丸で示され、11番目の測定点を白丸で示されている。図5に示すように、1番目から11番目までの加工個数の範囲では、単位加工個数当たりの摩耗量の増加量が同一直線に沿うように変化している。
図3に示すように、境界決定部42は、変数Mをインクリメントし(ステップS16)、変数Mが定数C1以上であると判断するまで、ステップS14を繰り返し実行する。これにより、変数Mの値が変更されて、ステップS14が複数回実行される。変数Mが定数C1以上であると判断すると(ステップS12:YES)、境界決定部42は、ステップS18へ移行する。ステップS12と、ステップS14と、ステップS16とを第1ステップとも呼ぶ。
境界決定部42は、変数Lが定数C2以上であるか否かを判断する(ステップS18)。変数Lが定数C2以上でない、すなわち変数Lが定数C2未満であると判断すると(ステップS18:NO)、境界決定部42は、N番目から(N-L)番目までの測定点の第2近似線Y2と、第2決定係数R2とを算出し、記憶部12に記憶する(ステップS20)。本実施形態では、第2近似線Y2は、最小二乗法を用いて求められる回帰直線であり、第2決定係数R2は、回帰直線の決定係数である。
境界決定部42は、変数Lをインクリメントし(ステップS22)、変数Lが定数C2以上であると判断するまで、ステップS20を繰り返し実行する。これにより、変数Lの値が変更されて、ステップS20が複数回実行される。変数Lが定数C2以上であると判断すると(ステップS18:YES)、境界決定部42は、ステップS24へ移行する。ステップS18と、ステップS20と、ステップS22とを第2ステップとも呼ぶ。
図4には、31番目の測定点から22番目の測定点までの第2近似線Y2(10)と、31番目の測定点から21番目の測定点までの第2近似線Y2(11)と、31番目の測定点から1番目の測定点までの第2近似線Y2(31)とが示されている。また、図4では、21番目を除く測定点は黒丸で示し、21番目の測定点を白丸で示している。図4に示すように、31番目から21番目までの加工個数の範囲では、単位加工個数当たりの摩耗量の増加量が概ね同一直線に沿うように変化している。これに対して、31番目の測定点から1番目の測定点までの、すなわち全ての測定点の第2近似線Y2(31)は、単位加工個数当たりの摩耗量の増加量の傾向を反映していない線となっている。
図6は、第1近似線Y1が求められた測定点の個数と第1決定係数R1との関係を示す図である。図6の横軸は、第1近似線Y1が求められた測定点の個数である。図6の縦軸は、第1決定係数R1である。測定点の個数が、20個程度より小さい範囲では、第1決定係数R1が0.9以上であり、第1近似線Y1が、単位加工個数当たりの摩耗量の増加量を良好に表していることがわかる。
図7は、第2近似線Y2が求められた測定点の個数と第2決定係数R2との関係を示す図である。図7の横軸は、第2近似線Y2が求められた測定点の個数である。図7の縦軸は、第2決定係数R2である。測定点の個数が15個以上の範囲では、第2決定係数R2が0.7程度である。測定点の個数が15個より小さい範囲では、第2決定係数R2が0.7より小さい。測定点の個数が15個より小さい範囲で第2決定係数R2の値が小さくなるのは、図4に示すように、測定点のバラツキが大きいためであると考えられる。
図3に示すように、境界決定部42は、第1決定係数R1が最大である最大第1決定係数に対応する第1近似線Y1と、第2決定係数R2が最大である最大第2決定係数に対応する第2近似線Y2との交点の加工個数を境界点に決定する(ステップS24)。ステップS24を第3ステップとも呼ぶ。
図8は、測定点と共に、最大第1決定係数に対応する第1近似線Y1(R1:max)と、最大第2決定係数に対応する第2近似線Y2(R2:max)とを示す図である。図8の横軸は、加工個数であり、図8の縦軸は、摩耗量である。図8に示すデータでは、第1近似線Y1(R1:max)と第2近似線Y2(R2:max)との交点である境界点を示す加工個数は、15個であると求められる。上記のように、例示したデータでは、15個から30個までの付近に境界点があるため、本処理ルーチンによれば、境界点を精度良く求めることができることが示されている。
図3に示すように、境界決定部42は、境界点を含む情報を機械学習モデルの教師データとして用いるために記憶部12に記憶し(ステップS40)、本処理ルーチンを終了する。ここで、情報には、測定開始時から境界点までの加工個数と摩耗量との関係を示すデータと、上記のように、例えば加工条件、環境条件、材料などの条件とが含まれる。これにより、境界点を含む情報を機械学習モデルの教師データとして用いることができる。
なお、変数Mの初期値は、回帰直線を求める測定点の最小個数を設定するために用いられる。最小個数が2個の場合、第1決定係数R1は1となり、図3のステップS24において、最大第1決定係数に対応する第1近似線Y1(R1:max)として抽出されてしまう。そこで、変数Mを3以上の自然数に設定することにより、ステップS24において、単位加工個数当たりの摩耗量の増加量の傾向を反映した第1近似線Y1を抽出することができる。変数Lについても同様である。
以上、説明した第1実施形態によれば、切削量と摩耗量との相関の程度を示す相関度を用いて境界点を決定することにより、境界点を精度良く決定することができる。また、相関度として第1決定係数R1を用いることにより、単位切削量当たりの摩耗量の傾向をより反映することができ、境界点を精度良く決定することができる。また、第1近似線Y1を回帰直線とすることにより、摩耗曲線WCにおいて、単位切削量当たりの摩耗量の増加量が減少する境界点を精度良く求めることができる。また、最大第1決定係数に対応する第1近似線Y1(R1:max)と、最大第2決定係数に対応する第2近似線Y2(R2:max)との交点の切削量を境界点に決定することより、境界点を一義的に決定することができる。また、第2近似線Y2を回帰直線とすることにより、摩耗曲線WCにおいて、単位切削量当たりの摩耗量の増加量が減少する境界点を精度良く求めることができる。また、境界決定部が決定した境界点を含む情報は、機械学習モデルの教師データとして用いるために記憶部12に記憶される。これにより、境界決定部が決定した境界点を含む情報を機械学習に用いることができる。この情報には、精度良く決定された境界点までの加工個数と摩耗量との関係を示す初期摩耗領域におけるデータが含まれるため、摩耗量予測の精度を向上させることができる。
B.第2実施形態:
図9は、第2実施形態に係る境界決定処理のフローチャートである。図9を用いて、第2実施形態に係る境界決定処理について説明する。第1実施形態に係る境界決定処理と同じ処理ステップには、同じ符号を付し、詳細な説明は適宜省略する。境界決定部42は、変数Mが定数C1以上であると判断すると(ステップS12:YES)、各第1決定係数R1について、最大相関度としての最大第1決定係数を1とした場合の比率を算出する(ステップS30)。上記のように、最大第1決定係数とは、複数の第1決定係数R1のうち最大である第1決定係数R1である。境界決定部42は、比率が基準値である0.9以上である第1決定係数R1に対応する変数Mに対応する加工個数を境界点に決定する(ステップS32)。ステップS32を第4ステップとも呼ぶ。具体的には、比率が基準値である0.9以上である第1決定係数R1が求められた複数の測定点のうち、最大である加工個数を境界点に決定する。図2に示す摩耗曲線WCにおいて、単位切削量当たりの摩耗量の増加量は、初期摩耗領域から定常摩耗領域に遷移すると減少する。よって、第1近似線Y1の対象となる測定点を増やしていくと、第1決定係数R1の値は、境界点付近から小さくなっていく。ここで、発明者らは、比率が基準値以上である第1決定係数R1に対応する変数Mに対応する加工個数が、境界点となっていることを見出した。そこで、比率が基準値以上である第1決定係数R1に対応する変数Mに対応する加工個数を境界点に決定することで、境界点を精度良く決定することができる。また、本実施形態に係る境界決定処理によれば、第1実施形態に係る境界決定処理と比較して、定常摩耗領域における測定点の個数が少なくても、境界点を決定することができる。第1実施形態に係る境界決定処理では、第2近似線Y2を算出するために、十分な個数の定常摩耗領域における測定点を取得する必要があるが、本実施形態では、第2近似線Y2を算出する必要がないからである。
なお、比率が0.9以上である第1決定係数R1が複数ある場合には、このうちの何れか一つが、境界点の決定に使用される第1決定係数R1として抽出される。そして、抽出された第1決定係数R1に対応する変数Mに対応する加工個数が境界点に決定される。抽出する方法としては、例えば、第1決定係数R1が基準値に最も近い第1決定係数R1を抽出する方法、変数Mの値が最大である第1決定係数R1を抽出する方法が挙げられる。これとは別に、比率が0.9以上である複数の第1決定係数R1の各々に対応する変数Mの平均値が境界点に決定されてもよい。
図10は、第1実施形態で例示したデータと同じデータについての、比率と加工個数との関係を示しグラフである。図10の横軸は比率である。図10の縦軸は、第1決定係数R1に対応する変数Mの値、すなわち、加工個数である。図10に示すように、比率が0.9以上となる加工個数は、概ね20個以上30個以下である。図4に示すように、本実施形態で例示するデータでは、加工個数が15個以上30個以下の範囲に境界点がある。よって、本実施形態の境界決定処理によれば、境界値を精度良く決定することができることが示されている。
図9に示すように、境界決定部42は、境界点を含む情報を機械学習モデルの教師データとして用いるために記憶部12に記憶し(ステップS40)、本処理ルーチンを終了する。これにより、境界点を含む情報を機械学習モデルの教師データとして用いることができる。
以上、説明した第2実施形態によれば、切削量と摩耗量との相関の程度を示す相関度を用いて、境界点を決定することにより、境界点を精度良く決定することができる。また、相関度として第1決定係数R1を用いることにより、単位切削量当たりの摩耗量の傾向をより反映することができ、境界点を精度良く決定することができる。また、第1近似線Y1を回帰直線とすることにより、摩耗曲線WCにおいて、単位切削量当たりの摩耗量の増加量が減少する境界点を精度良く求めることができる。また、最大第1決定係数を1とした場合の第1決定係数R1の比率が基準値以上である第1決定係数R1に対応する変数Mに対応する切削量を境界点に決定する。これによれば、第1近似線Y1を用いて、境界点を決定することができる。また、基準値を0.9とすることにより、精度良く境界点を決定することができる。
C.他の実施形態:
(C1)上記実施形態に係る境界決定処理では、第1近似線Y1として、回帰直線が算出されている。これとは別に、第1近似線Y1として、回帰曲線が算出されてもよい。回帰曲線の種類は、特に限定されず、多項式の関数でもよく、対数関数でもよい。第2近似線Y2についても同様である。第1近似線Y1の式の種類にかかわらず、上記実施形態に係る境界決定処理によれば、単位切削量当たりの摩耗量の増加量が、初期摩耗領域と定常摩耗領域とで異なる傾向を示すという事象を反映することができるため、境界点を精度良く決定することができる。
(C2)上記第1実施形態に係る境界決定処理では、第1近似線Y1を算出した後に、第2近似線Y2の算出を行う。第1近似線Y1の算出と、第2近似線Y2の算出との順番は、どちらが先でもよく、並行して行われてもよい。また、上記実施形態では、測定点のデータが取得された後に、境界決定処理が行われる。境界決定処理の開始時期は、上記に限られず、データの取得と、境界決定処理の処理ステップとが、並行して行われてもよい。
(C3)上記実施形態では、第1近似線Y1の対象となる測定点の個数の最大値を規定する定数C1は、31に設定される。定数C1の値は、これに限定されない。定数C2についても同様である。
(C4)上記実施形態に係る境界決定処理では、初期摩耗領域から定常摩耗領域へ遷移する境界点が決定される。境界決定処理を、定常摩耗領域から終期摩耗領域へ遷移する境界点の決定に適用してもよい。単位切削量当たりの摩耗量の増加量は、定常摩耗領域と終期摩耗領域とで異なる傾向を示すため、本願の方法を適用することにより、定常摩耗領域から終期摩耗領域へ遷移する境界点を精度良く決定することができる。定常摩耗領域から終期摩耗領域へ遷移する境界点を予測することにより、終期摩耗領域との境界点近くまで、工具を使用することができる。
(C5)上記実施形態では、境界決定部42は、取得部41からN個の測定点を含むデータを受け取ると、境界決定処理を開始する。これとは別に、測定点の測定と、相関度の算出とを並行して行い、順次算出される相関度を用いて境界点を決定する構成としてもよい。具体的には、予め定められた回数、例えば10回の測定が行われ、10個の測定点を含むデータを受け取ると、境界決定部42は、例えば相関度しての第1決定係数R1とを算出する。次に、工具を用いて加工対象物に対して切削を行う切削部が1回以上の切削加工を行うと、境界決定部42は、新たに測定された測定点を含むデータについて、第1決定係数R1を算出する。そして、加工個数と、順次算出される第1決定係数R1との関係を用いて、境界点を決定する。具体的には、上記のように、初期摩耗領域から定常摩耗領域に遷移する境界点では、第1決定係数R1は小さくなるため、第1決定係数R1が減少し始める時点に対応する対応個数を境界点とする。第1決定係数R1が減少し始める時点としては、(A)第1決定係数R1が、基準値、例えば0.9以下となった時点に対応する加工個数、(B)前回算出された第1決定係数R1と今回算出された第1決定係数R1との差が基準値よりも大きくなった時点に対応する加工個数を挙げることができる。定常摩耗領域から終期摩耗領域に遷移する境界点についても、同様の構成を適用することができる。この場合には、さらに、定常摩耗領域から終期摩耗領域に遷移したと判断した時点で、工具交換の促す旨のメッセージを報知する構成とするとよい。定常摩耗領域から終期摩耗領域に遷移したと判断した時点とは、上記の第1決定係数R1が減少し始める時点を特定した時点を指す。工具交換の促す旨のメッセージを報知する構成として、具体的には、ディスプレイ20にメッセージを表示する構成、切削部に加工の中断を促す信号を送信する構成を挙げることができる。この構成によれば、切削部による加工と並行して境界点を決定することができるため、定常摩耗領域の終期まで工具を使用することができる。よって、ランニングコストを低減することができる。
(C6)上記第1実施形態のステップS14およびステップS20では、相関度としての決定係数が算出される。決定係数と、相関係数または相関係数の二乗とに相関がある場合には、決定係数に代えて、相関度として、相関係数または相関係数の二乗を算出してもよい。そして、ステップS14およびステップS20において、相関度として相関係数が算出された場合には、ステップS24において、相関係数が最大である第1近似線Y1と、相関係数が最大である第2近似線Y2との交点を境界点にしてもよい。ステップS14およびステップS20において、相関度として相関係数の二乗が算出された場合には、ステップS24において、相関係数の二乗が最大である第1近似線Y1と、相関係数が最大である第2近似線Y2との交点を境界点にしてもよい。
(C7)上記第2実施形態のステップS14では、相関度としての決定係数が算出される。これに対して、第2実施形態のステップS14にて、相関度としての相関係数を算出する構成としてもよい。この場合、ステップS30では、最大相関度としての、最大の相関係数を1とした場合の比率を算出してもよい。ステップS32では、比率が基準値以上の相関係数に対応する変数Mに対応する加工個数を境界点に決定してもよい。相関係数は、加工個数と摩耗量との相関の程度を表す。よって、相関係数を使用した場合にも、単位切削量当たりの摩耗量の傾向が変化する境界点を精度良く決定することができる。
本開示は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
11…CPU、12…記憶部、20…ディスプレイ、30…入力操作部、41…取得部、42…境界決定部、100…摩耗境界決定装置、C1,C2,N…定数、M,L…変数、R1…第1決定係数、R2…第2決定係数、WC…摩耗曲線、Y1…第1近似線、Y2…第2近似線

Claims (8)

  1. 工具の摩耗における初期摩耗領域と定常摩耗領域との境界点を決定する摩耗境界決定装置であって、
    切削量に対する摩耗量を示す測定点であって、前記初期摩耗領域と前記定常摩耗領域とのいずれかに含まれる、前記切削量が互いに異なる複数の前記測定点を取得する取得部と、
    前記複数の測定点を用いて、前記切削量で表される前記境界点を決定する境界決定部と、を備え、
    前記境界決定部は、
    測定開始時を1番目の前記測定点、測定終了時をN(Nは、4以上の自然数)番目の前記測定点とした場合、1番目からM(Mは、3以上の自然数)番目までの前記測定点について、前記切削量と前記摩耗量との相関の程度を示す相関度の算出を、前記Mの値を変更して複数回実行することにより、複数の前記相関度を求める第1ステップを実行し、
    前記複数の相関度を用いて、前記境界点を決定する、摩耗境界決定装置。
  2. 請求項1に記載の摩耗境界決定装置であって、
    前記境界決定部は、前記第1ステップにて、
    第1近似線と、前記相関度としての第1決定係数とを算出する、摩耗境界決定装置。
  3. 請求項2に記載の摩耗境界決定装置であって、
    前記第1近似線は、回帰直線である、摩耗境界決定装置。
  4. 請求項2または3に記載の摩耗境界決定装置であって、
    前記境界決定部は、さらに、
    N番目から(N-L)(Lは、2以上の自然数)番目までの前記測定点についての第2近似線と、第2決定係数との算出を、前記Lの値を変更して複数回実行することにより、複数の前記第2近似線と複数の前記第2決定係数とを求める第2ステップと、
    前記複数の第1決定係数のうち、最大である最大第1決定係数に対応する前記第1近似線と、前記複数の第2決定係数のうち、最大である最大第2決定係数に対応する前記第2近似線との交点の前記切削量を前記境界点に決定する第3ステップと、を実行する、摩耗境界決定装置。
  5. 請求項4に記載の摩耗境界決定装置であって、
    前記第2近似線は、回帰直線である、摩耗境界決定装置。
  6. 請求項1に記載の摩耗境界決定装置であって、
    前記境界決定部は、さらに、
    前記複数の相関度のうち、最大である最大相関度を1とした場合の前記相関度の比率を前記複数の相関度の各々について算出し、前記比率が基準値以上である前記相関度に対応する前記Mに対応する前記切削量を前記境界点に決定する第4ステップを実行する、摩耗境界決定装置。
  7. 請求項6に記載の摩耗境界決定装置であって、
    前記境界決定部は、前記第1ステップにて、前記相関度としての第1決定係数を算出し、
    前記基準値は0.9である、摩耗境界決定装置。
  8. 請求項1から請求項7までのいずれか一項に記載の摩耗境界決定装置であって、さらに、
    前記境界決定部が決定した前記境界点を含む情報を機械学習モデルの教師データとして用いるために記憶する記憶部を有する、摩耗境界決定装置。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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WO2023145731A1 (ja) * 2022-01-26 2023-08-03 京セラ株式会社 摩耗量予測装置、摩耗量予測方法、制御プログラム、および記録媒体

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* Cited by examiner, † Cited by third party
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WO2023145731A1 (ja) * 2022-01-26 2023-08-03 京セラ株式会社 摩耗量予測装置、摩耗量予測方法、制御プログラム、および記録媒体

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