JP2022138410A - 対撚り線、通信用電線及びワイヤハーネス - Google Patents
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Abstract
【課題】温度が変化しても特性インピーダンスの変動を抑える。【解決手段】通信用電線1Aは、単線又は撚線で構成され、引張強さが600MPa以上であり、破断伸びが1%以上7%未満であり、断面積が0.35mm2以下である導体111と、前記導体の外周を被覆するポリオレフィン系樹脂で形成された絶縁被覆112と、を有する絶縁電線11A、11Bを備え、絶縁電線11A、11Bが対撚りされている対撚り線2を構成している。対撚り線2は、ポリオレフィン系樹脂で形成されたシース12Aで被覆されている。【選択図】図1
Description
本発明は、対撚り線、通信用電線及びワイヤハーネスに関する。
自動車内の通信に用いられる電線の発明として、例えば、特許文献1~11に開示された電線がある。特許文献1~10には、引っ張り強さが400MPa以上であり、破断伸びが7%以上の導体と、当該導体を被覆する絶縁被覆とを備える電線を撚り合わせ、特性インピーダンスが100Ω±10Ωの範囲である通信用電線が開示されている。特許文献11には、Sn-Cu合金であって錫の含有率を0.2~1.5wt%とした導体を撚り合わせた車両内情報伝送用電線が開示されている。
自動車内の高速通信に用いられる電線においては、特性インピーダンスの厳しい管理が必要である。例えば、車載Ethernet(登録商標)である100BASE-T1では、特性インピーダンスとして100Ω±10Ωが規定されている。また、100BASE-T1では、使用温度領域の全域で特性インピーダンスが100Ω±10Ωの範囲内であることが必要とされている。
しかしながら、自動車内に配索された電線は、温度が上昇すると絶縁被覆の誘電率が変化するため、特性インピーダンスが変化する。この特性インピーダンスの変化量が大きいと、特性インピーダンスが100Ω±10Ωの範囲から外れる虞がある。
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、温度が変化しても特性インピーダンスの変動を抑える技術を提供することを目的とする。
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の一態様に係る対撚り線は、単線又は撚線で構成され、引張強さが600MPa以上であり、破断伸びが1%以上7%未満であり、断面積が0.35mm2以下である導体と、前記導体の外周を被覆するポリオレフィン系樹脂で形成された絶縁被覆と、を有する電線を備え、前記電線が対撚りされていることを特徴とする。
本発明の一態様に係る通信用電線は、上記の対撚り線と、上記対撚り線の外周を覆うポリオレフィン系樹脂のシースと、を備えることを特徴とする。
本発明の一態様に係るワイヤハーネスは、上記の対撚り線又は上記の通信用電線を含み、自動車に配索されることを特徴とする。
本発明によれば、温度が変化しても特性インピーダンスの変動を抑えるという効果を奏する。
以下、添付図面を参照しながら、本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態により本発明が限定されるものではない。また、図面の記載において、同一又は対応する要素には適宜同一の符号を付している。さらに、図面は模式的なものであり、各要素の寸法の関係などは、現実のものとは異なる場合があることに留意する必要がある。図面の相互間においても、互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている場合がある。
図1は、本発明の一実施形態に係る通信用電線1Aの断面図である。通信用電線1Aは、100Ω±10Ωの範囲の特性インピーダンスを有している。通信用電線1Aは、例えば自動車に配索され、配索された自動車においてイーサネット(登録商標)の規格に従った通信に用いられる。
通信用電線1Aは、絶縁電線11A、絶縁電線11B、及びシース12Aで構成されている。絶縁電線11Aと絶縁電線11Bは、対撚りされて対撚り線2を構成し、対撚り線2は、シース12Aで被覆されている。
(シース)
シース12Aは、対撚り線2の保護や対撚り線2の対撚りの安定化、対撚り線2と周囲環境との距離の確保に寄与するものである。シース12Aは、ポリオレフィン系樹脂をベース材とした樹脂で形成されているのが好ましい。本実施例では、シース12Aは、ポリオレフィン系樹脂をベースとし、難燃剤や酸化防止材を添加したハロゲンフリー材で形成されている。シース12Aの形状は、中空のパイプ型であり、径方向の断面の厚みを0.75mmとし、外径を3.2mmとしている。
シース12Aは、対撚り線2の保護や対撚り線2の対撚りの安定化、対撚り線2と周囲環境との距離の確保に寄与するものである。シース12Aは、ポリオレフィン系樹脂をベース材とした樹脂で形成されているのが好ましい。本実施例では、シース12Aは、ポリオレフィン系樹脂をベースとし、難燃剤や酸化防止材を添加したハロゲンフリー材で形成されている。シース12Aの形状は、中空のパイプ型であり、径方向の断面の厚みを0.75mmとし、外径を3.2mmとしている。
シース12Aの硬さについては、柔らかすぎると摩耗や変形などの問題が発生する虞があり、硬すぎると温度が上昇したときに対撚り線2が開かなくなるため、望ましい硬度の範囲がある。本実施例では、シース12Aは、JIS K 6253-3に従ってタイプDのデュロメータで測定したときに硬度がD25~D70の範囲内であるのが好ましく、D40~D60の範囲内であるのがより好ましい。
なお、対撚り線2を保護するシースは、図1に示すパイプ型のシース12Aに替えて、中空ではない充実型のシースとしてもよい。図2は、充実型のシース12Bを備える通信用電線1Bの断面図である。また、対撚り線2とシース12A、12Bとの間にテープ等の介在があってもよい。シースを充実型のシース12Bとする場合、シース12Bの硬度は、JIS K 6253-3に従ってタイプDのデュロメータで測定したときにD30~D40の範囲内であるのが好ましい。
(絶縁電線)
絶縁電線11Aは、導体111と絶縁被覆112で構成されている。導体111は、S撚りされた7本の素線1111を圧縮して形成された圧縮導体を焼鈍したものである。導体111は、撚線の一例である。この圧縮導体に対して行う焼鈍については、圧縮導体の引張り強さが600MPa~1200MPaの範囲内であり、破断伸びが1%以上、且つ7%未満となるように、加熱の温度、加熱時間、加熱後の温度保持時間、冷却時間を設定して焼鈍を行うのが好ましい。本実施例では、焼鈍を行った導体111の引張り強さは800MPaであり、破断伸びは2.5%である。導体111の径方向の断面積は、特性インピーダンスを100Ω±10Ωとするために、0.05mm2(0.05sq)以上、且つ0.35mm2(0.35sq)以下とするのが好ましい。また、自動車に配索したときの軽量化や細径化の観点から、導体111の径方向の断面積を0.22mm2(0.22sq)未満とするのが好ましく、0.13mm2(0.13sq)とするのがより好ましい。なお、撚線である導体111を構成する素線1111の本数は、7本に限定されるものではなく、他の本数であってもよい。また、導体111は、撚られたものではなく単線であってもよい。
絶縁電線11Aは、導体111と絶縁被覆112で構成されている。導体111は、S撚りされた7本の素線1111を圧縮して形成された圧縮導体を焼鈍したものである。導体111は、撚線の一例である。この圧縮導体に対して行う焼鈍については、圧縮導体の引張り強さが600MPa~1200MPaの範囲内であり、破断伸びが1%以上、且つ7%未満となるように、加熱の温度、加熱時間、加熱後の温度保持時間、冷却時間を設定して焼鈍を行うのが好ましい。本実施例では、焼鈍を行った導体111の引張り強さは800MPaであり、破断伸びは2.5%である。導体111の径方向の断面積は、特性インピーダンスを100Ω±10Ωとするために、0.05mm2(0.05sq)以上、且つ0.35mm2(0.35sq)以下とするのが好ましい。また、自動車に配索したときの軽量化や細径化の観点から、導体111の径方向の断面積を0.22mm2(0.22sq)未満とするのが好ましく、0.13mm2(0.13sq)とするのがより好ましい。なお、撚線である導体111を構成する素線1111の本数は、7本に限定されるものではなく、他の本数であってもよい。また、導体111は、撚られたものではなく単線であってもよい。
素線1111は、錫の濃度が0.7質量%の銅合金で形成されている。なお、素線1111における錫の濃度は、0.4質量%以上、且つ0.8%以下が望ましく、より好ましくは、0.6質量%以上、且つ0.8質量%以下であるのが望ましい。また、素線1111は、銀の濃度が1質量%以上、且つ4質量%以下の銅合金であってもよい。なお、絶縁電線11Bは、絶縁電線11Aと同じ構成であるため、その説明を省略する。
絶縁被覆112は、誘電率が低い樹脂であるのが好ましく、例えば、PE(ポリエチレン)、EVA(エチレン酢酸ビニル)又はPP(ポリプロピレン)等のポリオレフィン系樹脂をベース材とした樹脂で形成されている。本実施例では、絶縁被覆112は、PPをベースとし、難燃剤や酸化防止材を添加したハロゲンフリー材で形成されている。
絶縁被覆112の厚さは、通信用電線1Aの特性インピーダンスが100Ω±10Ωとなるように、本実施例では、導体111の直径や後述するシース12Aの厚さと合わせて0.2mmとした。
絶縁被覆112の硬さについては、通信用電線1A、1Bが自動車に配索されて温度が上昇したときに塑性変形を起こさない程度の硬さであるのが好ましく、例えば、パイプ型のシース12Aを備える通信用電線1Aにおいては、絶縁被覆112の硬さは、シース12Aと同等であるのが好ましい。充実型のシース12Bを備える通信用電線1Bにおいては、絶縁被覆112の硬さは、シース12Bと同等であるのが好ましい。
(対撚り線)
図3は、対撚り線2の撚り方を示す図である。対撚り線2は、絶縁電線11Aと絶縁電線11Bをダブルツイストバンチャー型の撚線機で対撚りした撚線である。本実施例では、対撚り線2は、ピッチが20mmであり、Z撚りで撚られている。
図3は、対撚り線2の撚り方を示す図である。対撚り線2は、絶縁電線11Aと絶縁電線11Bをダブルツイストバンチャー型の撚線機で対撚りした撚線である。本実施例では、対撚り線2は、ピッチが20mmであり、Z撚りで撚られている。
ところで、絶縁電線11Aと絶縁電線11Bとを撚り合わせる場合、単に撚り合わせると絶縁電線11Aと絶縁電線11Bのそれぞれが捻じれた状態で撚り合わされてしまい、この捻じれが撚りを解く力が働くため、対撚り線2がばらけやすくなる。
したがって本実施例では、絶縁電線11Aと絶縁電線11Bとを撚り合わせながら、その撚り合わせの回転方向とは逆の回転方向(すなわち、撚り合わせによる絶縁電線11Aの捻じれと絶縁電線11Bの捻じれを緩和する回転方向)に、絶縁電線11Aと絶縁電線11Bのそれぞれをひねって回転させるという、いわゆる撚り返しを施して、捻じれを防止している。
ここで、撚り合わせの回転角Xと撚り返しの回転角Yとの比Y/Xを、撚り返し率と称する。すなわち絶縁電線11Aと絶縁電線11Bに撚り返しが全く施されておらず、絶縁電線11Aと絶縁電線11Bが捩じれたままの状態では、撚り返し率の値は0%であり、撚り返しが施され、絶縁電線11A自体の捻じれと絶縁電線11B自体の捩じれが全くない状態では撚り返し率の値は100%である。本実施例では、対撚り線2の撚り返し率は、100%としている。撚り返し率を100%とすることにより、絶縁電線11Aと絶縁電線11Bがばらけにくくなっている。
(通信用電線の作用及び効果)
通信用電線1A、1Bの温度が上昇すると、シース12A、12B及び絶縁被覆112の誘電率が上昇するため、シース12A、12B及び絶縁被覆112は、通信用電線1A、1Bの特性インピーダンスを低下させるように作用する。
通信用電線1A、1Bの温度が上昇すると、シース12A、12B及び絶縁被覆112の誘電率が上昇するため、シース12A、12B及び絶縁被覆112は、通信用電線1A、1Bの特性インピーダンスを低下させるように作用する。
一方、対撚り線2においては、温度が上昇すると絶縁電線11A、11Bが膨張する。絶縁電線11A、11Bが膨張すると、絶縁電線11A、11Bの引張り強さが600MPa以上と硬いため、対撚りされている絶縁電線11A、11Bの線間がシース12A、12Bの抑え込みに抗して開く。この対撚り線2の線間の開きは、通信用電線1A、1Bの特性インピーダンスを上昇させるように作用する。
このように通信用電線1A、1Bにおいては、温度が上昇すると特性インピーダンスを低下させる作用と上昇させる作用が生じ、一方の作用が他方の作用を相殺するため、温度上昇による特性インピーダンスの変化が抑えられる。
(評価)
前述した通信用電線1A、1Bについて温度上昇による特性インピーダンスの変化を評価した。この評価に際し、通信用電線1Aの構成を備える実施例1、2を作成し、通信用電線1Bの構成を備える実施例3、4を作成した。また、実施例1、2との比較のために比較例1、2、5を作成し、実施例3、4との比較のために比較例3、4を作成した。
前述した通信用電線1A、1Bについて温度上昇による特性インピーダンスの変化を評価した。この評価に際し、通信用電線1Aの構成を備える実施例1、2を作成し、通信用電線1Bの構成を備える実施例3、4を作成した。また、実施例1、2との比較のために比較例1、2、5を作成し、実施例3、4との比較のために比較例3、4を作成した。
実施例1~4においては、素線1111を錫の濃度が0.7質量%の銅合金で形成し、焼鈍を行った導体111の引張り強さを800MPaとし、破断伸びを2.5%とした。また、実施例1~4においては、導体111の径方向の断面積を、0.13mm2(0.13sq)とした。実施例1~4の絶縁被覆112については、PP(ポリプロピレン)をベースとして難燃剤や酸化防止材を添加したハロゲンフリー材で形成し、径方向の厚さを0.2mmとした。
実施例1~4に係るシース12A、12Bについては、ポリオレフィン系樹脂をベースとしたハロゲンフリー材で形成し、径方向の厚さを0.75mmとした。実施例1~4に係るシース12A、12Bの外径と硬度については、実施例1のシース12Aは、外径を3.2mmとし、デュロメータ(HDD)で測定したときの硬度をD55とした。実施例2のシース12Aは、外径を2.5mmとし、デュロメータ(HDD)で測定したときの硬度をD55とした。実施例3のシース12Bは、外径を3.2mmとし、デュロメータ(HDD)で測定したときの硬度を実施例1、2より柔らかいD45とした。実施例4のシース12Bは、外径を2.5mmとし、デュロメータ(HDD)で測定したときの硬度を実施例1、2より柔らかいD45とした。
比較例1~4においては、素線1111をタフピッチ銅で形成し、焼鈍を行った導体111の引張り強さを200MPaとし、破断伸びを20%とした。また、比較例1~4においては、導体111の径方向の断面積を、0.13mm2(0.13sq)とした。比較例1~4の絶縁被覆112については、PP(ポリプロピレン)をベースとして難燃剤や酸化防止材を添加したハロゲンフリー材で形成し、径方向の厚さを0.2mmとした。
比較例1~4に係るシース12A、12Bについては、実施例1~4と同じく、ポリオレフィン系樹脂をベースとしたハロゲンフリー材で形成し、径方向の厚さを0.75mmとした。比較例1~5に係るシース12A、12Bの外径と硬度については、比較例1のシース12Aは、外径を3.2mmとし、デュロメータ(HDD)で測定したときの硬度をD55とした。比較例2のシース12Aは、外径を2.5mmとし、デュロメータ(HDD)で測定したときの硬度をD55とした。比較例3のシース12Bは、外径を3.2mmとし、硬度をDyyとした。比較例4のシース12Bは、外径を2.5mmとし、デュロメータ(HDD)で測定したときの硬度をD45とした。
比較例5においては、素線1111を錫の濃度が0.7質量%の銅合金で形成し、焼鈍を行った導体111の引張り強さを450MPaとし、破断伸びを3%とした。また、比較例5においては、導体111の径方向の断面積を、0.13mm2(0.13sq)とした。比較例5の絶縁被覆112については、PP(ポリプロピレン)をベースとして難燃剤や酸化防止材を添加したハロゲンフリー材で形成し、径方向の厚さを0.2mmとした。比較例5のシース12Aについては、ポリオレフィン系樹脂をベースとしたハロゲンフリー材で形成し、径方向の厚さを0.75mmとし、外径を3.2mmとし、デュロメータ(HDD)で測定したときの硬度をD55とした。
実施例1~4及び比較例1~5の特性インピーダンスの測定については、実施例1~4及び比較例1~5のそれぞれを10m採取し、キーサイト・テクノロジー株式会社のE5071C ENAベクトル・ネットワーク・アナライザを用いてTDR法(Time Domain Reflectometry)により測定した。TDR法による測定については、実施例1~4及び比較例1~5のそれぞれについて、測定に用いるパルス信号の立ち上がり時間を700psとし、10mのうちの中央の8m分の値を平均したものを特性インピーダンスとした。また、温度変化による特性インピーダンスの変化を観察するため、実施例1~4及び比較例1~5のそれぞれについて、周囲の温度を室温(23℃)、-40℃、105℃として特性インピーダンスを測定した。
実施例1~4及び比較例1~5の構成と特性インピーダンスの測定結果を表1に示す。また、実施例1~4及び比較例1~5の温度が上昇したときについて、対撚り線2を構成する絶縁電線11A、11Bの線間の開き、シース12A、12Bによる絶縁電線11A、11Bの抑え込み、シース12A、12Bの誘電率の変化、絶縁被覆112の誘電率の変化のそれぞれについて、特性インピーダンスに対する作用の程度を表2に示す。表2における「+」は特性インピーダンスを上昇させることを示しており、「+」の数が多くなるほど特性インピーダンスを上昇させる作用が大きいことを示している。また、表2における「-」は特性インピーダンスを低下させることを示しており、「-」の数が多くなるほど特性インピーダンスを低下させる作用が大きいことを示している。
表1においては、室温から高温になったときの特性インピーダンスの変化の抑制について、特性インピーダンスの変化量が-2Ω<変化量<+2Ωである場合を最も良好な「◎」とし、2Ω≦変化量である場合を次点の「○」とし、-4Ω<変化量≦-2Ωである場合を「〇」より悪い「△」とし、変化量≦-4Ωである場合を「△」より悪い「×」とした。
なお、通信用電線1A、1Bは、自動車用のワイヤハーネスとして使用されることを想定している。自動車用のワイヤハーネスとして通信用電線1A、1Bを使用した場合、通信用電線1A、1Bの周囲に他の電線や自動車の外装材、自動車の金属製のボディなどが近接し、これらの影響で特性インピーダンスが低下する。この特性インピーダンスの低下に対し、さらに高温への温度変化による特性インピーダンスの低下が加わることで、さらに特性インピーダンスの変化量が大きくなる。このため、実施例1~4及び比較例1~5の評価においては、特性インピーダンスの値が室温のときより低くなるほど悪いものと判定するようにしている。
表1に示すように、実施例1~4においては、室温から高温(105℃)に変化したときに特性インピーダンスの変化量が少なく、いずれも特性インピーダンスの変化量の抑制について良好な「◎」との結果が得られた。一方、比較例1~5においては、室温から高温(105℃)に変化したときに特性インピーダンスの変化量が-3Ω以上であり、特性インピーダンスの変化量の抑制について「△」又は「×」との結果となった。
次に、対撚り線2を構成する絶縁電線11A、11Bの線間の開き、シース12A、12Bによる絶縁電線11A、11Bの抑え込み、シース12A、12Bの誘電率の変化、絶縁被覆112の誘電率の変化のそれぞれについて、温度が上昇したときの特性インピーダンスに対する作用の程度について説明する。
まず、温度が上昇したときに特性インピーダンスを上昇させる作用については、対撚り線2を構成する絶縁電線11A、11Bの線間の開きを単体でみると、表2に示すように、「++++」となり、実施例1~4及び比較例1~5のいずれにおいても、特性インピーダンスを大きく上昇させるように作用する。
まず比較例1~5では、導体111がタフピッチ銅であって引張り強さが200MPaで、破断伸びが20%であり、実施例1~4より柔らかい。このため、温度が上昇してもシース12A、12Bによって絶縁電線11A、11Bの線間の開きが抑えられる。絶縁電線11A、11B線間の開きが抑えられることにより、特性インピーダンスの上昇が抑えられえるため、換言すると、シース12A、12Bによる絶縁電線11A、11Bの抑え込みは、相対的に特性インピーダンスを低下させる作用であって、この作用の程度は「---」と大きいものとなる。
また、比較例1~5においては、温度が上昇するとシース12A、12Bの誘電率が上昇し、特性インピーダンスが低下する。この作用の程度は、シース12A、12Bによる抑え込みによる作用より小さく、特性インピーダンスを低下させる作用の程度は「-」である。また、比較例1~5においては、温度が上昇すると絶縁被覆112の誘電率が上昇し、特性インピーダンスが低下する。この作用の程度は、シース12A、12Bによる抑え込みによる作用より小さく、シース12A、12Bの誘電率の上昇による作用より大きいものであり、特性インピーダンスを低下させる作用の程度は「-」である。
このように、比較例1~5においては、特性インピーダンスを上昇させる「+」の作用の程度の合計が4であるのに対し、特性インピーダンスを低下させる作用の程度の合計が7であるため、特性インピーダンスを上昇させようとする作用より低下させようとする作用のほうが大きく、特性インピーダンスの変動が大きくなっている。
一方、実施例1~4では、導体111が引張り強さを800MPaで、破断伸びを2.5%であり、比較例1~5より硬いものとなっている。このため、絶縁電線11A、11Bが線間を開こうとする力が比較例1~5より強く、温度が上昇したときにシース12A、12Bが抑える力に抗して絶縁電線11A、11Bの線間が比較例1~5より開くこととなる。絶縁電線11A、11B線間が開くことにより、相対的に特性インピーダンスを低下させる作用としては、程度が「-」と比較例1~5より小さいものとなる。
また、実施例1~4においては、温度が上昇するとシース12A、12Bの誘電率が上昇し、特性インピーダンスが低下する。この作用の程度は、シース12A、12Bによる抑え込みによる作用より小さく、特性インピーダンスを低下させる作用の程度は「-」である。また、実施例1~4においては、温度が上昇すると絶縁被覆112の誘電率が上昇し、特性インピーダンスが低下する。この作用の程度は、シース12A、12Bによる抑え込みによる作用より小さく、シース12A、12Bの誘電率の上昇による作用より大きいものであり、特性インピーダンスを低下させる作用の程度は「-」である。
このように、実施例1~4においては、特性インピーダンスを上昇させる「+」の作用の程度の合計が4であるのに対し、特性インピーダンスを低下させる「-」の作用の程度の合計が4つであるため、特性インピーダンスを上昇させようとする作用が低下させようとする作用により相殺され、特性インピーダンスの変動が抑えられている。
(ワイヤハーネス)
次に、通信用電線1A、1Bを自動車に配索した例について説明する。本発明の通信用電線1A、1Bは、通常のワイヤハーネスと組み合わせて使用できるほか、以下に説明する例にも使用できる。図4は、前述した実施例に係る通信用電線1A又は通信用電線1Bの配索を模式的に示す平面図である。図4に示す自動車1000は、例えば、ハイブリッド車、電気自動車又は燃料電池車等を含む自動車である。自動車1000は、ワイヤハーネスの配索構造500を有する。
次に、通信用電線1A、1Bを自動車に配索した例について説明する。本発明の通信用電線1A、1Bは、通常のワイヤハーネスと組み合わせて使用できるほか、以下に説明する例にも使用できる。図4は、前述した実施例に係る通信用電線1A又は通信用電線1Bの配索を模式的に示す平面図である。図4に示す自動車1000は、例えば、ハイブリッド車、電気自動車又は燃料電池車等を含む自動車である。自動車1000は、ワイヤハーネスの配索構造500を有する。
配索構造500は、自動車1000が有する二次電池BATから供給される電力を電装品へ供給し、電装品を制御するECU(Electronic Control Unit)600と電装品との間で授受される信号を中継するシステムである。配索構造500は、複数の電気接続箱、及び複数のケーブルを有する。二次電池BATは、繰り返し充電及び放電が可能な二次電池である。二次電池BATの電圧は、例えば12V、24V、48Vなどであり、複数の電装品へ電力を供給する。なお、二次電池BATの位置は、図示した位置に限定されるものではない。
なお、図面が煩雑になるのを防ぐため、図4においては、電装品7101~710n(nは2以上の整数)と電装品7201~720m(mは2以上の整数)を図示し、他の電装品の図示を省略している。なお、図4は、配索を模式的に示す図であるため、電装品7101~電装品710nと電装品7201~720mの実際の配置位置は、図4に示す位置とは必ずしも一致しないことに留意されたい。
配索構造500は、複数のケーブルとして、ケーブルBW1、ケーブルBW2、ケーブルRW、ケーブルLW、ケーブルRW1、ケーブルLW1、ケーブルRW11及びケーブルLW11を有する。ケーブルRW、ケーブルLW、ケーブルRW1、ケーブルLW1、ケーブルRW11及びケーブルLW11のうち電装品とECUとの間の通信に用いられるケーブルは、前述の通信用電線1A又は通信用電線1Bを有するケーブルであり、ワイヤハーネスの一例である。
配索構造500は、複数の電気接続箱として、分配部FM、電気接続箱FR、電気接続箱FL、電気接続箱MR、電気接続箱ML、電気接続箱RR及び電気接続箱RLを有する。これらの電気接続箱は、電装品と電気接続箱を接続して電装品へ電力を供給する電線が接続される端子、電装品と電気接続箱を接続して電装品との間で信号を授受する通信用電線1A又は通信用電線1Bが接続される端子、電装品への電力供給を制御する制御部、リレー回路、ヒューズ、スイッチング回路、平滑回路などを有する。
分配部FMは、ケーブルBW1を介して二次電池BATに接続されており、ケーブルBW2を介してECU600に接続されている。また、分配部FMには、ケーブルRWとケーブルLWが接続されている。ケーブルRWは、電気接続箱FRに接続されている。ケーブルRWは、電気接続箱FRへ電力を供給し、ECU600と電装品との間で授受される信号を中継する。ケーブルLWは、電気接続箱FLに接続されている。ケーブルLWは、電気接続箱FLへ電力を供給し、ECU600と電装品との間で授受される信号を中継する。分配部FMは、二次電池BATに近い位置に配置されるのが好ましい。
電気接続箱FRは、自動車1000の前部右側に配置されており、ケーブルRWが接続されている。電気接続箱FRは、例えば自動車1000の前部に配置された電装品へ接続されており、ケーブルRWから供給される電力を接続されている電装品へ供給する。また、電気接続箱FRは、ケーブルRWを介してECU600と電装品との間で授受される信号を中継する。さらに電気接続箱FRには、自動車1000の右側に配置されたケーブルRW1が接続されている。ケーブルRW1は、電気接続箱FRから供給される電力を電気接続箱MRへ供給し、ECU600と電装品との間で授受される信号を中継する。
電気接続箱FLは、自動車1000の前部左側に配置されており、ケーブルLWが接続されている。電気接続箱FLは、例えば自動車1000の前部に配置された電装品へ接続されており、ケーブルLWから供給される電力を接続されている電装品へ供給する。また、電気接続箱FLは、ケーブルLWを介してECU600と電装品との間で授受される信号を中継する。さらに電気接続箱FLには、自動車1000の左側に配置されたケーブルLW1が接続されている。ケーブルLW1は、電気接続箱FLから供給される電力を電気接続箱MLへ供給し、ECU600と電装品との間で授受される信号を中継する。
電気接続箱MRは、自動車1000の右側でカウルの近傍に配置されており、ケーブルRW1が接続されている。電気接続箱MRは、例えば自動車1000のカウルの近傍や自動車1000の前部と後部との間に配置されている電装品へ接続されており、ケーブルRW1から供給される電力を接続されている電装品へ供給する。また、電気接続箱MRは、ケーブルRW、電気接続箱FR及びケーブルRW1を介してECU600と電装品との間で授受される信号を中継する。さらに電気接続箱MRには、自動車1000の右側に配置されたケーブルRW11が接続されている。ケーブルRW11は、電気接続箱MRから供給される電力を電気接続箱RRへ供給し、ECU600と電装品との間で授受される信号を中継する。
電気接続箱MLは、自動車1000の左側でカウルの近傍に配置されており、ケーブルLW1が接続されている。電気接続箱MLは、例えば自動車1000のカウルの近傍や自動車1000の前部と後部との間に配置されている電装品へ接続されており、ケーブルLW1から供給される電力を接続されている電装品へ供給する。また、電気接続箱MLは、ケーブルLW、電気接続箱FL及びケーブルLW1を介してECU600と電装品との間で授受される信号を中継する。さらに電気接続箱MLには、自動車1000の左側に配置されたケーブルLW11が接続されている。ケーブルLW11は、電気接続箱MLから供給される電力を電気接続箱RLへ供給し、ECU600と電装品との間で授受される信号を中継する。
電気接続箱RRは、自動車1000の後部右側に配置されており、ケーブルRW11が接続されている。電気接続箱RRは、例えば自動車1000の後部に配置されたn個の電装品7101~電装品710nへケーブルEW1で接続されており、ケーブルRW11から供給される電力を接続されている電装品7101~電装品710nへ供給する。また、電気接続箱RRは、ケーブルRW、電気接続箱FR、ケーブルRW1、電気接続箱MR及びケーブルRW11を介してECU600と電装品との間で授受される信号を中継する。ケーブルEW1は、枝線の一例である。
電気接続箱RLは、自動車1000の後部左側に配置されており、ケーブルLW11が接続されている。電気接続箱RLは、例えば自動車1000の後部に配置されたm個の電装品7201~電装品720mへケーブルEW2で接続されており、ケーブルLW11から供給される電力を接続されている電装品7201~電装品720mへ供給する。また、電気接続箱RLは、ケーブルLW、電気接続箱FL、ケーブルLW1、電気接続箱ML及びケーブルLW11を介してECU600と電装品との間で授受される信号を中継する。ケーブルEW2は、枝線の一例である。
配索構造500によれば、例えば、エンジンルームやルーフライニングの裏側等のように、高温になりやすい環境に配索された場合でも、ECU600と電装品とを接続する通信用電線1A又は通信用電線1Bの特性インピーダンスの変動を抑え、ECU600と電装品との間でイーサネット(登録商標)の規格にしたがった通信を行うことができる。
[変形例]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されることなく、他の様々な形態で実施可能である。例えば上述の実施形態を以下のように変形して本発明を実施してもよい。なお、上述した実施形態及び以下の変形例は、各々を組み合わせてもよい。上述した各実施形態及び各変形例の構成要素を適宜組み合わせて構成したものも本発明に含まれる。また、さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。よって、本発明のより広範な態様は、上記の実施の形態や変形例に限定されるものではなく、様々な変更が可能である。例えば、高温になりやすい環境(エンジンルームやルーフライニングの裏側等)における特性インピーダンスの変動抑制効果は、前述の配索構造以外であっても発揮される。
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されることなく、他の様々な形態で実施可能である。例えば上述の実施形態を以下のように変形して本発明を実施してもよい。なお、上述した実施形態及び以下の変形例は、各々を組み合わせてもよい。上述した各実施形態及び各変形例の構成要素を適宜組み合わせて構成したものも本発明に含まれる。また、さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。よって、本発明のより広範な態様は、上記の実施の形態や変形例に限定されるものではなく、様々な変更が可能である。例えば、高温になりやすい環境(エンジンルームやルーフライニングの裏側等)における特性インピーダンスの変動抑制効果は、前述の配索構造以外であっても発揮される。
図5は通信用電線の変形例を示す図である。図5に示す通信用電線1Cは、通信用電線1Bと比較すると、絶縁被覆112に替えて絶縁被覆112Aを備えている点で相違している。絶縁被覆112Aは、ポリオレフィン系樹脂をベース材とした樹脂で形成されている。絶縁被覆112Aは、絶縁被覆112がパイプ型であるのに対して充実型である点で相違している。
1A、1B 通信用電線
2 対撚り線
11A、11B 絶縁電線
12A、12B シース
111 導体
112 絶縁被覆
500 配索構造
600 ECU
7101~710n、7201~720m 電装品
1000 自動車
1111 素線
BAT 二次電池
BW1、BW2、EW1、EW2、RW1、LW1、RW11、LW11 ケーブル
FM 分配部
FR、MR、RR、FL、ML、RL 電気接続箱
2 対撚り線
11A、11B 絶縁電線
12A、12B シース
111 導体
112 絶縁被覆
500 配索構造
600 ECU
7101~710n、7201~720m 電装品
1000 自動車
1111 素線
BAT 二次電池
BW1、BW2、EW1、EW2、RW1、LW1、RW11、LW11 ケーブル
FM 分配部
FR、MR、RR、FL、ML、RL 電気接続箱
Claims (3)
- 単線又は撚線で構成され、引張強さが600MPa以上であり、破断伸びが1%以上7%未満であり、断面積が0.35mm2以下である導体と、前記導体の外周を被覆するポリオレフィン系樹脂で形成された絶縁被覆と、を有する電線を備え、
前記電線が対撚りされている対撚り線。 - 請求項1に記載の対撚り線と、
前記対撚り線の外周を覆うポリオレフィン系樹脂のシースと、
を備える通信用電線。 - 請求項1に記載の対撚り線又は請求項2に記載の通信用電線を含み、自動車に配索されるワイヤハーネス。
Priority Applications (1)
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JP2021038283A JP2022138410A (ja) | 2021-03-10 | 2021-03-10 | 対撚り線、通信用電線及びワイヤハーネス |
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Publications (1)
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