JP2022129192A - 遅延蛍光分子の物理量導出方法、遅延蛍光分子の設計方法、量子化学計算法の改良方法およびプログラム - Google Patents
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Abstract
【課題】実測値を用いてスピン軌道相互作用の大きさを導出することができ、また、逆項間交差のような遷移過程における活性化エネルギーEaを正しい値で導出できる物理量導出方法を提供すること。【解決手段】本発明の遅延蛍光分子の物理量導出方法は、遅延蛍光分子の過渡発光強度を温度を変えて測定することにより、項間交差および逆項間交差の少なくとも一方の絶対温度(T)と速度定数(kSC)の関係を取得し、項間交差の活性化エネルギー(EaISC)、逆項間交差の活性化エネルギー(EaRISC)、最低励起一重項エネルギーと最低励起三重項エネルギーの差(ΔE)、項間交差のスピン軌道相互作用強度(|<ψT|HSOC|ψS>|)および逆項間交差のスピン軌道相互作用強度(|<ψS|HSOC|ψT>|)からなる群より選択される1以上の物理量をマーカスプロットから導出する工程を含む。【選択図】なし
Description
本発明は、遅延蛍光分子の物理量をより正しい値で導出しうる遅延蛍光分子の物理量導出方法、その物理量導出方法を用いる遅延蛍光分子の設計方法および量子化学計算法の改良方法、並びに、これらの方法を実施するプログラムに関する。
高い発光効率を示す発光材料として熱活性化型の遅延蛍光材料が注目されている。熱活性化型の遅延蛍光材料は、励起三重項状態で熱エネルギーを吸収して三重項状態から一重項状態への逆項間交差を起こし、その励起一重項状態からの放射失活により発光(遅延蛍光発光)する発光材料であり、特に電流励起型の有機発光素子(OLED)において、通常の蛍光材料よりも効率よく発光できることが知られている。すなわち、電流励起された発光層では、スピン統計則にしたがって一重項励起子と三重項励起子が25:75の確率で生成する。そのため、直接励起により生成した一重項励起子のエネルギーのみが発光に利用される通常の蛍光材料では、生成確率が高い三重項励起子のエネルギーが無駄になり、高い発光効率が得られない。これに対して、遅延蛍光材料では、直接励起により生成した一重項励起子のエネルギーとともに、逆項間交差を介して生成した一重項励起子のエネルギーも蛍光発光に利用されるため、通常の蛍光材料に比べて、格段に高い発光効率を期待することができる。こうしたことから、さらなる発光効率の向上や安定性の改善に向けて、遅延蛍光材料の研究開発が盛んに進められている。
高い発光効率を示す遅延蛍光材料の開発には、三重項状態から一重項状態への逆項間交差が起こり易くなるような分子構造の設計、言い換えれば逆項間交差の速度定数kRISCが大きくなるような分子構造を設計することが重要になる。そのような点から、従来の遅延蛍光材料の分子設計においては、最低励起一重項エネルギー(ES1)と最低励起三重項エネルギー(ET1)の差(ΔEST)を小さくすることを基本指針として、電子ドナー性基と電子アクセプター性基をπスペーサを介して配置することや、これらの基の二面角を大きくする等の手法によりHOMO(最高被占軌道)とLUMO(最低空軌道)が分離した分子構造をとるような分子設計が行われていた。しかし、近年の精力的な研究により、kRISCを制御するには、ΔESTだけでなく、中間活性状態に励起するためのエネルギー(活性化エネルギーEa)やスピン軌道相互作用の大きさも考慮する必要があることが明らかになっている。ここで、逆項間交差の活性化エネルギーEaは、通常、下記式に基づいて、ln kRISCを縦軸、1/T(T:絶対温度)を横軸にしてプロットしたアレニウスプロットの近似線の傾きによって求められている(非特許文献1参照)。
式において、kRISCは逆項間交差速度定数、kBはボルツマン定数、Tは絶対温度、ΔEaは活性化エネルギー、Aは頻度因子を表す。
また、遅延蛍光材料を用いたOLED(TADF型OLED)については、デバイス寿命の改善も重要な開発課題とされている。ここで、TADF型OLEDの寿命を改善するには、反応性が高い励起三重項状態の寿命を短くすることが必要になる。こうした点から研究が進められた結果、三重項寿命が短い遅延蛍光材料の実現には、逆項間交差の速度定数(kRISC)、項間交差の速度定数(kISC)および励起一重項状態の放射失活の速度定数(kr)のバランスを考慮することが重要であることが明らかになっている。具体的には、krを損なうことなく、kRISCが大きくなるように分子設計を行うことが重要であるとされている。
Applied Physics Letter, 98, 083302 (2011)
上記のように、遅延蛍光材料の活性化エネルギーを指標にして分子設計を行う際、従来アレニウスプロットの傾きから求めた活性化エネルギーEaが用いられている。しかし、本発明者らが検討を行ったところ、アレニウスの式のln Aには温度依存性があり、上記のアレニウスプロットによる活性化エネルギーEaはln Aの温度依存性によって正しく見積もられておらず、遅延蛍光分子の実際の遷移状態を正しく示していないことが判明した。そして、特に逆項間交差のような活性化エネルギーが小さい系では、温度の影響が無視できないエネルギー差として顕著に現れることが判明した。
また、上記のように、遅延蛍光材料のkRISCの制御には、スピン軌道相互作用の大きさを考慮する必要がある。しかし、スピン軌道相互作用の大きさについては、密度汎関数法(DFT)計算で見積もることは可能であるが、実測値を用いてスピン軌道相互作用の大きさを導出する方法は見出されていないのが実情である。
また、上記のように、遅延蛍光材料のkRISCの制御には、スピン軌道相互作用の大きさを考慮する必要がある。しかし、スピン軌道相互作用の大きさについては、密度汎関数法(DFT)計算で見積もることは可能であるが、実測値を用いてスピン軌道相互作用の大きさを導出する方法は見出されていないのが実情である。
そこで本発明者らは、このような従来技術の課題を解決するために、実測値を用いてスピン軌道相互作用の大きさを導出することができ、また、逆項間交差のような遷移過程における活性化エネルギーEaを正しい値で導出できる物理量導出方法を提供することを目的として検討を進めた。
上記の課題を解決するために鋭意検討を行った結果、本発明者らは、マーカスの基礎方程式から導いたアレニウスプロットの変形式に基づいて、ln √T・kSCを1/Tに対してプロットしたプロット図(T:絶対温度、kSC:項間交差または逆項間交差の速度定数)を用いることにより、遅延蛍光分子の各種物理量をより正しい値で導出できることを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて提案されたものであり、具体的に、以下の構成を有する。
[1] 遅延蛍光分子の過渡発光強度を温度を変えて測定することにより、項間交差および逆項間交差の少なくとも一方の絶対温度(T)と速度定数(kSC)の関係を取得し、項間交差の活性化エネルギー(Ea
ISC)、逆項間交差の活性化エネルギー(Ea
RISC)、最低励起一重項エネルギーと最低励起三重項エネルギーの差(ΔE)、項間交差のスピン軌道相互作用強度(|<ψT|HSOC|ψS>|)および逆項間交差のスピン軌道相互作用強度(|<ψS|HSOC|ψT>|)からなる群より選択される1以上の物理量をマーカスプロットから導出する工程を含む、遅延蛍光分子の物理量導出方法。
[2] 前記マーカスプロットは、下記式(1)のln √T・kSCを縦軸、1/Tを横軸にしてプロットしたプロット図である、[1]に記載の遅延蛍光分子の物理量導出方法。
[式(1)において、Tは絶対温度、kSCはT[K]で測定した項間交差または逆項間交差の速度定数、kBはボルツマン定数、Eaは活性化エネルギー、h´はディラック定数、πは円周率、λは再配向エネルギー、|<ψf|HSOC|ψi>|はスピン軌道相互作用強度を表す。]
[3] 項間交差の活性化エネルギー(Ea ISC)を導出する、[1]または[2]に記載の遅延蛍光分子の物理量導出方法。
[4] 項間交差の活性化エネルギー(Ea ISC)を下記式(2a)の計算により導出する、[1]~[3]のいずれか1項に記載の遅延蛍光分子の物理量導出方法。
式(2a)
Ea ISC=αISC×(-kB)
[式(2a)において、Ea ISCは項間交差の活性化エネルギー、αISCは項間交差の絶対温度(T)と速度定数(kISC)の関係に基づいて作成したマーカスプロットの傾き、kBはボルツマン定数を表す。]
[5] 逆項間交差の活性化エネルギー(Ea RISC)を導出する、[1]~[4]のいずれか1項に記載の遅延蛍光分子の物理量導出方法。
[6] 逆項間交差の活性化エネルギー(Ea RISC)を下記式(2b)の計算により導出する、[1]~[5]のいずれか1項に記載の遅延蛍光分子の物理量導出方法。
式(2b)
Ea RISC=αRISC×(-kB)
[式(2b)において、Ea RISCは逆項間交差の活性化エネルギー、αRISCは逆項間交差の絶対温度(T)と速度定数(kRISC)の関係に基づいて作成したマーカスプロットの傾き、kBはボルツマン定数を表す。]
[7] 最低励起一重項エネルギーと最低励起三重項エネルギーの差(ΔEST)を導出する、[1]~[6]のいずれか1項に記載の遅延蛍光分子の物理量導出方法。
[8] 最低励起一重項エネルギーと最低励起三重項エネルギーの差(ΔEST)を下記式(3)の計算により導出する、[1]~[7]のいずれか1項に記載の遅延蛍光分子の物理量導出方法。
式(3)
ΔEST=Ea RISC-Ea ISC
[式(3)において、ΔESTは最低励起一重項エネルギーと最低励起三重項エネルギーの差、Ea RISCはマーカスプロットから導出した逆項間交差の活性化エネルギー、Ea ISCはマーカスプロットから導出した項間交差の活性化エネルギーを表す。]
[9] 項間交差のスピン軌道相互作用強度(|<ψT|HSOC|ψS>|)を導出する、[1]~[8]のいずれか1項に記載の遅延蛍光分子の物理量導出方法。
[10] 項間交差のスピン軌道相互作用強度(|<ψT|HSOC|ψS>|)を下記式(4a)の計算により導出する、[1]~[9]のいずれか1項に記載の遅延蛍光分子の物理量導出方法。
[式(4a)において、|<ψT|HSOC|ψS>|は項間交差のスピン軌道相互作用強度、ln βISCは項間交差の絶対温度(T)と速度定数(kISC)の関係に基づいて作成したマーカスプロットの縦軸切片、πは円周率、h´はディラック定数、λは再配向エネルギー、kBはボルツマン定数を表す。]
[11] 逆項間交差のスピン軌道相互作用強度(|<ψS|HSOC|ψT>|)を導出する、[1]~[10]のいずれか1項に記載の遅延蛍光分子の導出方法。
[12] 逆項間交差のスピン軌道相互作用強度(|<ψS|HSOC|ψT>|)を下記式の計算により導出する、[1]~[11]のいずれか1項に記載の遅延蛍光分子の導出方法。
[式(4b)において、|<ψS|HSOC|ψT>|は逆項間交差のスピン軌道相互作用強度、ln βRISCは逆項間交差の絶対温度(T)と速度定数(kRISC)の関係に基づいて作成したマーカスプロットの縦軸切片、πは円周率、h´はディラック定数、λは再配向エネルギー、kBはボルツマン定数を表す。]
[13] 式(4a)の再配向エネルギー(λ)として、下記式(5a)の計算により求めた項間交差の再配向エネルギー(λISC)を用いる、[10]に記載の遅延蛍光分子の物理量導出方法。
[式(5a)において、λISCは項間交差の再配向エネルギー、Ea
ISCはマーカスプロットから導出した項間交差の活性化エネルギー、ΔESTは最低励起一重項エネルギーと最低励起三重項エネルギーの差を表す。]
[14] 式(4b)の再配向エネルギー(λ)として、下記式(5b)の計算により求めた逆項間交差の再配向エネルギー(λRISC)を用いる、[12]に記載の遅延蛍光分子の導出方法。
[式(5b)において、λRISCは逆項間交差の再配向エネルギー、Ea
RISCはマーカスプロットから導出した逆項間交差の活性化エネルギー、ΔESTは最低励起一重項エネルギーと最低励起三重項エネルギーの差を表す。]
[15] 再配向エネルギーの2つの計算値のうち、ΔESTの値以上である計算値を再配向エネルギー(λ)として用いる、[13]または[14]に記載の遅延蛍光分子の物理量導出方法。
[16] ΔESTとして、下記式(3)の計算により求めた値を用いる、[13]~[15]のいずれか1項に記載の遅延蛍光分子の物理量導出方法。
式(3)
ΔEST=Ea RISC-Ea ISC
[式(3)において、ΔESTは最低励起一重項エネルギーと最低励起三重項エネルギーの差、Ea RISCはマーカスプロットから導出した逆項間交差の活性化エネルギー、Ea ISCはマーカスプロットから導出した項間交差の活性化エネルギーを表す。]
[17] 特定の構造を有する遅延蛍光分子について[1]~[16]のいずれか1項の方法により1以上の物理量を導出し、分子構造の一部を変更した遅延蛍光分子について[1]~[16]のいずれか1項の方法により前記1以上の物理量を導出し、導出した物理量に基づく評価を行ってより評価が高い遅延蛍光分子を選択する工程を1回以上行う、ことを含む、遅延蛍光分子の設計方法。
[18] 前記1以上の物理量が逆項間交差のスピン軌道相互作用強度((|<ψS|HSOC|ψT>|))を含む、[17]に記載の遅延蛍光分子の設計方法。
[19] 前記1以上の物理量が逆項間交差の活性化エネルギー(Ea RISC)を含む、[17]または[18]に記載の遅延蛍光分子の設計方法。
[20] 前記1以上の物理量が最低励起一重項エネルギーと最低励起三重項エネルギーの差(ΔEST)を含む、[17]~[19]のいずれか1項に記載の遅延蛍光分子の設計方法。
[21] 下記(A)~(C)の少なくとも2つを満たす遅延蛍光分子を、より評価が高い遅延蛍光分子として選択する、[17]~[20]のいずれか1項に記載の遅延蛍光分子の設計方法。
(A)逆項間交差のスピン軌道相互作用強度(|<ψS|HSOC|ψT>|)がより大きいこと
(B)逆項間交差の活性化エネルギー(Ea RISC)がより小さいこと
(C)最低励起一重項エネルギーと最低励起三重項エネルギーの差(ΔEST)がより小さいこと
[22] 遅延蛍光分子の項間交差の活性化エネルギー(Ea ISC)、逆項間交差の活性化エネルギー(Ea RISC)、最低励起一重項エネルギーと最低励起三重項エネルギーの差(ΔEST)、再配向エネルギー(λ)、項間交差のスピン軌道相互作用強度(|<ψT|HSOC|ψS>|)および逆項間交差のスピン軌道相互作用強度(|<ψS|HSOC|ψT>|)からなる群より選択された物理量を、特定の量子化学計算法により導出し、一部を変更した量子化学計算法により前記選択された物理量を導出し、前記遅延蛍光分子について[1]~[16]のいずれか1項に記載の方法により得た物理量に近い方の量子化学計算法を選択する工程を1回以上行う、
ことを含む、量子化学計算法の改良方法。
[23][1]~[22]のいずれか1項に記載の方法を実施するプログラム。
[2] 前記マーカスプロットは、下記式(1)のln √T・kSCを縦軸、1/Tを横軸にしてプロットしたプロット図である、[1]に記載の遅延蛍光分子の物理量導出方法。
[3] 項間交差の活性化エネルギー(Ea ISC)を導出する、[1]または[2]に記載の遅延蛍光分子の物理量導出方法。
[4] 項間交差の活性化エネルギー(Ea ISC)を下記式(2a)の計算により導出する、[1]~[3]のいずれか1項に記載の遅延蛍光分子の物理量導出方法。
式(2a)
Ea ISC=αISC×(-kB)
[式(2a)において、Ea ISCは項間交差の活性化エネルギー、αISCは項間交差の絶対温度(T)と速度定数(kISC)の関係に基づいて作成したマーカスプロットの傾き、kBはボルツマン定数を表す。]
[5] 逆項間交差の活性化エネルギー(Ea RISC)を導出する、[1]~[4]のいずれか1項に記載の遅延蛍光分子の物理量導出方法。
[6] 逆項間交差の活性化エネルギー(Ea RISC)を下記式(2b)の計算により導出する、[1]~[5]のいずれか1項に記載の遅延蛍光分子の物理量導出方法。
式(2b)
Ea RISC=αRISC×(-kB)
[式(2b)において、Ea RISCは逆項間交差の活性化エネルギー、αRISCは逆項間交差の絶対温度(T)と速度定数(kRISC)の関係に基づいて作成したマーカスプロットの傾き、kBはボルツマン定数を表す。]
[7] 最低励起一重項エネルギーと最低励起三重項エネルギーの差(ΔEST)を導出する、[1]~[6]のいずれか1項に記載の遅延蛍光分子の物理量導出方法。
[8] 最低励起一重項エネルギーと最低励起三重項エネルギーの差(ΔEST)を下記式(3)の計算により導出する、[1]~[7]のいずれか1項に記載の遅延蛍光分子の物理量導出方法。
式(3)
ΔEST=Ea RISC-Ea ISC
[式(3)において、ΔESTは最低励起一重項エネルギーと最低励起三重項エネルギーの差、Ea RISCはマーカスプロットから導出した逆項間交差の活性化エネルギー、Ea ISCはマーカスプロットから導出した項間交差の活性化エネルギーを表す。]
[9] 項間交差のスピン軌道相互作用強度(|<ψT|HSOC|ψS>|)を導出する、[1]~[8]のいずれか1項に記載の遅延蛍光分子の物理量導出方法。
[10] 項間交差のスピン軌道相互作用強度(|<ψT|HSOC|ψS>|)を下記式(4a)の計算により導出する、[1]~[9]のいずれか1項に記載の遅延蛍光分子の物理量導出方法。
[11] 逆項間交差のスピン軌道相互作用強度(|<ψS|HSOC|ψT>|)を導出する、[1]~[10]のいずれか1項に記載の遅延蛍光分子の導出方法。
[12] 逆項間交差のスピン軌道相互作用強度(|<ψS|HSOC|ψT>|)を下記式の計算により導出する、[1]~[11]のいずれか1項に記載の遅延蛍光分子の導出方法。
[13] 式(4a)の再配向エネルギー(λ)として、下記式(5a)の計算により求めた項間交差の再配向エネルギー(λISC)を用いる、[10]に記載の遅延蛍光分子の物理量導出方法。
[14] 式(4b)の再配向エネルギー(λ)として、下記式(5b)の計算により求めた逆項間交差の再配向エネルギー(λRISC)を用いる、[12]に記載の遅延蛍光分子の導出方法。
[15] 再配向エネルギーの2つの計算値のうち、ΔESTの値以上である計算値を再配向エネルギー(λ)として用いる、[13]または[14]に記載の遅延蛍光分子の物理量導出方法。
[16] ΔESTとして、下記式(3)の計算により求めた値を用いる、[13]~[15]のいずれか1項に記載の遅延蛍光分子の物理量導出方法。
式(3)
ΔEST=Ea RISC-Ea ISC
[式(3)において、ΔESTは最低励起一重項エネルギーと最低励起三重項エネルギーの差、Ea RISCはマーカスプロットから導出した逆項間交差の活性化エネルギー、Ea ISCはマーカスプロットから導出した項間交差の活性化エネルギーを表す。]
[17] 特定の構造を有する遅延蛍光分子について[1]~[16]のいずれか1項の方法により1以上の物理量を導出し、分子構造の一部を変更した遅延蛍光分子について[1]~[16]のいずれか1項の方法により前記1以上の物理量を導出し、導出した物理量に基づく評価を行ってより評価が高い遅延蛍光分子を選択する工程を1回以上行う、ことを含む、遅延蛍光分子の設計方法。
[18] 前記1以上の物理量が逆項間交差のスピン軌道相互作用強度((|<ψS|HSOC|ψT>|))を含む、[17]に記載の遅延蛍光分子の設計方法。
[19] 前記1以上の物理量が逆項間交差の活性化エネルギー(Ea RISC)を含む、[17]または[18]に記載の遅延蛍光分子の設計方法。
[20] 前記1以上の物理量が最低励起一重項エネルギーと最低励起三重項エネルギーの差(ΔEST)を含む、[17]~[19]のいずれか1項に記載の遅延蛍光分子の設計方法。
[21] 下記(A)~(C)の少なくとも2つを満たす遅延蛍光分子を、より評価が高い遅延蛍光分子として選択する、[17]~[20]のいずれか1項に記載の遅延蛍光分子の設計方法。
(A)逆項間交差のスピン軌道相互作用強度(|<ψS|HSOC|ψT>|)がより大きいこと
(B)逆項間交差の活性化エネルギー(Ea RISC)がより小さいこと
(C)最低励起一重項エネルギーと最低励起三重項エネルギーの差(ΔEST)がより小さいこと
[22] 遅延蛍光分子の項間交差の活性化エネルギー(Ea ISC)、逆項間交差の活性化エネルギー(Ea RISC)、最低励起一重項エネルギーと最低励起三重項エネルギーの差(ΔEST)、再配向エネルギー(λ)、項間交差のスピン軌道相互作用強度(|<ψT|HSOC|ψS>|)および逆項間交差のスピン軌道相互作用強度(|<ψS|HSOC|ψT>|)からなる群より選択された物理量を、特定の量子化学計算法により導出し、一部を変更した量子化学計算法により前記選択された物理量を導出し、前記遅延蛍光分子について[1]~[16]のいずれか1項に記載の方法により得た物理量に近い方の量子化学計算法を選択する工程を1回以上行う、
ことを含む、量子化学計算法の改良方法。
[23][1]~[22]のいずれか1項に記載の方法を実施するプログラム。
本発明の遅延蛍光分子の物理量導出方法によれば、遅延蛍光分子の項間交差および逆項間交差の各活性化エネルギー(Ea
ISC、Ea
RISC)、最低励起一重項エネルギーと最低励起三重項エネルギーの差(ΔEST)、項間交差および逆項間交差の各スピン軌道相互作用強度(|<ψT|HSOC|ψS>|、|<ψS|HSOC|ψT>|)を、実測した温度(T)と速度定数(kSC)の関係に基づいて正しい値で導出することができる。そのため、本発明の物理量導出方法で導出した物理量を指標にすることにより、所望の特性を有する遅延蛍光分子を確実に設計することができ、また、特定の量子化学計算法を、遅延蛍光分子の遷移過程を正しく反映した物理量が算出されるものに確実に改良することができる。
以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。なお、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は「~」前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。また、本明細書における「温度」は、特段の記載がない限り、絶対温度[K]であることとする。本発明に用いられる化合物の分子内に存在する水素原子の同位体種は特に限定されず、例えば分子内の水素原子がすべて1Hであってもよいし、一部または全部が2H(重水素d)であってもよい。
[遅延蛍光材料の物理量導出方法]
本発明の遅延蛍光材料の物理量導出方法は、遅延蛍光分子の過渡発光強度を温度を変えて測定することにより、項間交差および逆項間交差の少なくとも一方の温度(T)と速度定数(kSC)の関係を取得し、項間交差の活性化エネルギー(Ea ISC)、逆項間交差の活性化エネルギー(Ea RISC)、最低励起一重項エネルギーと最低励起三重項エネルギーの差(ΔEST)、項間交差のスピン軌道相互作用強度(|<ψT|HSOC|ψS>|)および逆項間交差のスピン軌道相互作用強度(|<ψS|HSOC|ψT>|)からなる群より選択される1以上の物理量をマーカスプロットから導出する工程を含む方法である。
本発明の遅延蛍光材料の物理量導出方法は、遅延蛍光分子の過渡発光強度を温度を変えて測定することにより、項間交差および逆項間交差の少なくとも一方の温度(T)と速度定数(kSC)の関係を取得し、項間交差の活性化エネルギー(Ea ISC)、逆項間交差の活性化エネルギー(Ea RISC)、最低励起一重項エネルギーと最低励起三重項エネルギーの差(ΔEST)、項間交差のスピン軌道相互作用強度(|<ψT|HSOC|ψS>|)および逆項間交差のスピン軌道相互作用強度(|<ψS|HSOC|ψT>|)からなる群より選択される1以上の物理量をマーカスプロットから導出する工程を含む方法である。
本発明における「遅延蛍光分子」とは、励起三重項状態から励起一重項状態への逆項間交差と、その励起一重項状態から基底状態への放射失活を起こして遅延蛍光を発光しうる分子であり、逆項間交差が熱エネルギーの吸収に起因して起こる、熱活性化型遅延蛍光材料であることが好ましい。また、本発明における遅延蛍光分子は、励起一重項状態から励起三重項状態への項間交差などの、その他の遷移を起こすものであってもよい。ここで、遅延蛍光は、通常、直接励起により生じた励起一重項状態からの蛍光よりも遅れて観測される。そのため、「遅延蛍光分子」であることは、293Kで発光寿命が短い蛍光と、発光寿命が長い蛍光(遅延蛍光)の両方が観測されることをもって判別することができる。具体的には、発光寿命(τ)が200ns(ナノ秒)以上である蛍光は「遅延蛍光」であるが、本発明における「遅延蛍光分子」は、発光寿命(τ)が200ns未満の遅延蛍光を放射するものであってもよい。遅延蛍光分子の例については、下記の<遅延蛍光分子>の欄を参照することができる。
本発明における「過渡発光強度」とは、対象となる遅延蛍光分子を含む測定試料に励起光を照射した後、その発光強度の時間変化を測定することで得られる、時間依存の発光強度を意味する。速度定数(kSC)は、過渡発光強度から求まる発光寿命および発光量子収率を測定し、得られる初期蛍光減衰速度定数と遅延蛍光減衰速度定数およびそれぞれの成分の発光量子収率を文献(例えばMasui et al., Org. Electron. 14, 2721-2726 (2013))で与えられる速度式に代入するか、速度定数をフィッティングパラメーターとして用いたカーブフィッティングにより取得することができる。過渡発光強度の測定試料は、遅延蛍光分子を溶解させた溶液であってもよいし、遅延蛍光分子のみからなる薄膜であってもよいし、遅延蛍光分子とホスト材料を含む混合膜であってもよい。
過渡発光強度を測定する際の温度Tは、例えば5~500Kの範囲や、200~300Kの範囲とすることが好ましく、これらの温度範囲で5~50K刻みに測定温度を設定して過渡発光強度を測定することが好ましい。
過渡発光強度を測定する際の温度Tは、例えば5~500Kの範囲や、200~300Kの範囲とすることが好ましく、これらの温度範囲で5~50K刻みに測定温度を設定して過渡発光強度を測定することが好ましい。
本発明における「マーカスプロット」とは、下記式(1)のln √T・kSCを縦軸、1/Tを横軸にしてプロットしたプロット図のことを意味する。
式(1)において、Tは絶対温度、kSCはT[K]で測定した項間交差または逆項間交差の速度定数を表す。すなわち、TおよびkSCは、対象となる遅延蛍光分子について、過渡発光強度を測定することにより取得した温度(T)と速度定数(kSC)の対応関係にあるものである。kBはボルツマン定数、Eaは活性化エネルギー、h´はディラック定数、πは円周率、λは再配向エネルギーを表す。|<ψf|HSOC|ψi>|はブラ-ケット表記法による行列要素で、摂動HSOCによって始状態iから終状態fへの遷移しやすさを表す。本発明では、「|<ψf|HSOC|ψi>|」をスピン軌道相互作用強度といい、特に励起一重項状態(S)から励起三重項状態(T)への項間交差におけるスピン軌道相互作用強度を「|<ψT|HSOC|ψS>|」、励起三重項状態(T)から励起一重項状態(S)への逆項間交差におけるスピン軌道相互作用強度を「|<ψS|HSOC|ψT>|」と表記することとする。
本発明で用いるマーカスプロットの式(1)は、下記式(14)で示されるマーカスの基礎方程式から導いたアレニウスプロットの変形式(下記式(1a))を一般化したものである。
以下において、式(1)を導いたプロセスを、最低励起三重項状態(T1)から最低励起一重項状態(S1)への逆項間交差に関する物理量を求める場合を例にして説明する。
従来、遅延蛍光材料の材料設計の基本となる指針は、最低励起一重項エネルギー(ES1)と最低励起三重項エネルギー(ET1)のエネルギー差(ΔEST)を小さくすることであるとされていた。これは、遅延蛍光材料において重要な逆項間交差の活性化エネルギーが小さければ、大きな逆項間交差速度定数kRISCが得られるとの考えによる。そのため、kRISCは経験的なアレニウスの式を用いて、しばしば次のように記述される。
以下において、式(1)を導いたプロセスを、最低励起三重項状態(T1)から最低励起一重項状態(S1)への逆項間交差に関する物理量を求める場合を例にして説明する。
従来、遅延蛍光材料の材料設計の基本となる指針は、最低励起一重項エネルギー(ES1)と最低励起三重項エネルギー(ET1)のエネルギー差(ΔEST)を小さくすることであるとされていた。これは、遅延蛍光材料において重要な逆項間交差の活性化エネルギーが小さければ、大きな逆項間交差速度定数kRISCが得られるとの考えによる。そのため、kRISCは経験的なアレニウスの式を用いて、しばしば次のように記述される。
式(6)において、Aは頻度因子、kBはボルツマン定数、Tは絶対温度を表す。
ΔESTを小さくするためには、(a)電子ドナー性ユニットと電子アクセプター性ユニットを連結した電荷移動(CT)型の発光性分子とし、それぞれの部位が最高被占軌道(HOMO)と最低空軌道(LUMO)を担うように設計し、その上で(b)HOMOとLUMOの軌道の重なりを小さくするため、電子ドナー性ユニットと電子アクセプター性ユニットの間の結合の二面角を大きくしたり、πスペーサーを導入したりすることでユニット間のπ共役を小さくする。これは、下記式(7)、(8)で示されるように、ΔESTがHOMOとLUMOの軌道の重なりの2倍に比例することに基づいている。
ΔESTを小さくするためには、(a)電子ドナー性ユニットと電子アクセプター性ユニットを連結した電荷移動(CT)型の発光性分子とし、それぞれの部位が最高被占軌道(HOMO)と最低空軌道(LUMO)を担うように設計し、その上で(b)HOMOとLUMOの軌道の重なりを小さくするため、電子ドナー性ユニットと電子アクセプター性ユニットの間の結合の二面角を大きくしたり、πスペーサーを導入したりすることでユニット間のπ共役を小さくする。これは、下記式(7)、(8)で示されるように、ΔESTがHOMOとLUMOの軌道の重なりの2倍に比例することに基づいている。
式(8)において、ψHとψLはHOMOとLUMOの空間分布、r1とr2は位置ベクトルを表す。
一方、発光量子収率(ΦPL)は励起一重項状態(S1)と基底状態(S0)のHOMOとLUMOの空間振動子強度(f)に依存する。そして、下記式(9)、(10)で示されるように、空間振動子強度fは、HOMOとLUMOの軌道の重なりの大きさの二乗に比例するため、ΔESTを小さくするためにHOMOとLUMOの軌道の重なりを小さくしすぎると発光効率が悪くなってしまう。
一方、発光量子収率(ΦPL)は励起一重項状態(S1)と基底状態(S0)のHOMOとLUMOの空間振動子強度(f)に依存する。そして、下記式(9)、(10)で示されるように、空間振動子強度fは、HOMOとLUMOの軌道の重なりの大きさの二乗に比例するため、ΔESTを小さくするためにHOMOとLUMOの軌道の重なりを小さくしすぎると発光効率が悪くなってしまう。
式(9)および式(10)において、Qは遷移双極子モーメントを表す。
これは、高い発光性を得るためには、(c)電子ドナー性ユニットと電子アクセプター性ユニットの間の二面角の大きさやπスペーサーの有無などを調整することで、HOMOとLUMOの軌道の重なりをある程度担保することが必要であることを意味している。すなわち高い発光性を示す遅延蛍光材料を開発するためには、小さなΔESTと大きな振動子強度fという、相反する2つのファクターを満足するように、精緻な分子設計が必要となる。
報告されている遅延蛍光材料材料のkRISCをΔESTに対してプロットすると、同じΔESTを持つ化合物でもkRISCが大きく異なることがわかる。これは、kRISCがΔESTだけでなく、pre-factor Aに大きく依存していることを示している。一方、逆項間交差過程は、量子系のあるエネルギー固有状態(T1)から別の固有状態(S1)へ遷移する過程であることから、kRISCはフェルミの黄金律を用いて以下のように記述することができる。
これは、高い発光性を得るためには、(c)電子ドナー性ユニットと電子アクセプター性ユニットの間の二面角の大きさやπスペーサーの有無などを調整することで、HOMOとLUMOの軌道の重なりをある程度担保することが必要であることを意味している。すなわち高い発光性を示す遅延蛍光材料を開発するためには、小さなΔESTと大きな振動子強度fという、相反する2つのファクターを満足するように、精緻な分子設計が必要となる。
報告されている遅延蛍光材料材料のkRISCをΔESTに対してプロットすると、同じΔESTを持つ化合物でもkRISCが大きく異なることがわかる。これは、kRISCがΔESTだけでなく、pre-factor Aに大きく依存していることを示している。一方、逆項間交差過程は、量子系のあるエネルギー固有状態(T1)から別の固有状態(S1)へ遷移する過程であることから、kRISCはフェルミの黄金律を用いて以下のように記述することができる。
式(11)において、h´はディラック定数、ρは状態密度で、Boltzmann因子のかかった遷移の始状態-終状態間の全体のFranck-Condon因子を表す。ψS1およψT1はそれぞれS1とT1の分子軌道の波動関数、HSOCはスピン軌道相互作用のハミルトニアンで、|<ψS1|HSOC|ψT1>|はブラ-ケット表記法による行列要素で、摂動HSOCによってT1からS1への遷移しやすさを表す。
すなわち、式(6)の頻度因子Aにはフェルミの黄金律が含まれており、次のように記述できる。
すなわち、式(6)の頻度因子Aにはフェルミの黄金律が含まれており、次のように記述できる。
式(12)において、Ea
RISCは逆項間交差の活性化エネルギーを表す。ΔESTではなく、Ea
RISCとした理由は、最近の遅延蛍光材料のメカニズムの理解の進展により高次三重項励起状態(Tn)が中間遷移状態として重要な役割を果たしていることが明らかになっており、逆項間交差過程の活性化エネルギーはΔESTではなく、中間状態のエネルギー準位を考慮する必要があることに因る。
化学結合の形成および開裂を伴う反応についてはアイリングの遷移状態理論が知られているが、化学結合の形成および開裂を伴わない電子移動については、マーカス理論が適用される。これら二つの理論は経験的なアレニウスの式に等価な指数関数型の反応速度式を与える。
化学結合の形成および開裂を伴う反応についてはアイリングの遷移状態理論が知られているが、化学結合の形成および開裂を伴わない電子移動については、マーカス理論が適用される。これら二つの理論は経験的なアレニウスの式に等価な指数関数型の反応速度式を与える。
式(13)において、kETは電子移動反応の速度定数、ΔGキはギブズの活性化エネルギーを表す。
マーカス理論では電子の飛び移りの前後において遊離溶媒分子(外圏)および溶媒和分子(内圏型)などの環境において、熱的に誘起される構造安定化(再配向)が独立して考えられる。電子移動反応はすなわち電荷の再配置を意味しており、双極子を持つ溶媒分子の場合、電荷の作る電場の向きによって再配向される。電子の移動速度は巨大な分子の運動よりはるかに速く、電子移動する分子や溶媒分子の原子核配置は電子移動前後でほとんど変化しない(フランク・コンドンの原理)。加えて、電子の飛び移りは量子力学に支配され、飛び移りの「最中」に系のエネルギーも不変でなければならない。これは、分子内電荷移動系である遅延蛍光材料の逆項間交差プロセスにも適応できる。T1の最安定構造にある分子は熱運動によって軌道遷移が可能な構造になる。分子の構造は軌道の遷移前後においてほとんど変化せず、軌道の遷移途中で系のエネルギーは不変である。分子や溶媒分子の原子核配置は電荷の移動後に再配向し、S1の最安定構造となる。
半古典ランダウ・ツェナー理論を適用して得られるマーカスの基礎方程式は以下のように記述される。
マーカス理論では電子の飛び移りの前後において遊離溶媒分子(外圏)および溶媒和分子(内圏型)などの環境において、熱的に誘起される構造安定化(再配向)が独立して考えられる。電子移動反応はすなわち電荷の再配置を意味しており、双極子を持つ溶媒分子の場合、電荷の作る電場の向きによって再配向される。電子の移動速度は巨大な分子の運動よりはるかに速く、電子移動する分子や溶媒分子の原子核配置は電子移動前後でほとんど変化しない(フランク・コンドンの原理)。加えて、電子の飛び移りは量子力学に支配され、飛び移りの「最中」に系のエネルギーも不変でなければならない。これは、分子内電荷移動系である遅延蛍光材料の逆項間交差プロセスにも適応できる。T1の最安定構造にある分子は熱運動によって軌道遷移が可能な構造になる。分子の構造は軌道の遷移前後においてほとんど変化せず、軌道の遷移途中で系のエネルギーは不変である。分子や溶媒分子の原子核配置は電荷の移動後に再配向し、S1の最安定構造となる。
半古典ランダウ・ツェナー理論を適用して得られるマーカスの基礎方程式は以下のように記述される。
式(14)において、kETは電子移動反応速度定数、|HAB|は始状態と終状態の電子カップリング、λは内圏および外圏双方を含む再配向エネルギー、ΔG0は電子移動反応による総ギブズエネルギー変化(反応ギブスエネルギー)、kBはボルツマン定数、Tは絶対温度を表す。
仮想的なマーカスの放物線において、素電荷の移動における活性化ギブスエネルギー(ΔGキ)は再配向エネルギー(λ)と反応ギブスエネルギー(ΔG0)から以下のように記述される。
仮想的なマーカスの放物線において、素電荷の移動における活性化ギブスエネルギー(ΔGキ)は再配向エネルギー(λ)と反応ギブスエネルギー(ΔG0)から以下のように記述される。
式(14)は式(15)により、ΔGキで記述することができ、逆項間交差過程においてΔGキ≡Ea
RISCより、式(12)に等価な以下の関係が導かれる。
式(16)を変形して一次式として記述すると、本発明の物理量導出方法において、逆項間交差の物理量の導出に用いるマーカスプロットの式(1a)が導かれる。
ここで、式(1a)をアレニウスプロットの式のように、左辺がln kRISCとなるように変形すると、下記式(1b)が導かれる。
式(1b)において、枠で囲った部分はアレニウスの式のln Aに対応する。このように、ln AはTを含むことから、実際には温度依存性があり、温度が上がるとプロットが負に変動することを意味している。そのため、アレニウスプロットでは、ln Aの温度依存性がプロットの傾きに反映されてしまい活性化エネルギーEaを正しく導くことができず、特に、逆項間交差や項間交差のような活性化エネルギーが小さい系の活性化エネルギーを見積もる場合には、その温度の影響が無視できないエネルギー差として顕著に現れてしまう。これに対して、本発明で用いるマーカスプロットでは、ln √Tを左辺に移項してプロットするため、その温度の影響がプロットの傾きから取り除かれて活性化エネルギーEaを正しい値で導出することができる。
次に、本発明の物理量導出方法の工程を説明する。本発明の物理量導出方法の工程は、対象となる遅延蛍光分子のマーカスプロットを作成するマーカスプロット作成工程と、そのマーカスプロットから物理量を導出する物理量導出工程により行うことができる。以下、各工程について詳細に説明する。
[1]マーカスプロット作成工程
この工程では、遅延蛍光分子の過渡発光強度を温度を変えて測定することにより、項間交差および逆項間交差の少なくとも一方の温度(T)と速度定数(kSC)の関係を取得してマーカスプロットを作成する。ここで、本明細書では、速度定数(kSC)のうち、項間交差速度定数を「kISC」、逆項間交差速度定数を「kRISC」と表記する。
過渡発光強度の説明と測定温度の好ましい範囲、速度定数(kSC)の導出方法については、上記の記載を参照することができる。
項間交差は、最低励起一重項状態(S1)から最低励起三重項状態(T1)への項間交差であってもよいし、高次励起一重項状態(Sn)から最低励起三重項状態(T1)、最低励起一重項状態(S1)から高次励起三重項状態(Tn)、高次励起一重項状態(Sn)から高次励起三重項状態(Tn)などの項間交差であってもよい。逆項間交差は、最低励起三重項状態(T1)から最低励起一重項状態(S1)への逆項間交差であってもよいし、高次励起三重項状態(Tn)から最低励起一重項状態(S1)、最低励起三重項状態(T1)から高次励起一重項状態(Sn)、高次励起三重項状態(Tn)から高次励起一重項状態(Sn)などの逆項間交差であってもよい。
この工程では、遅延蛍光分子の過渡発光強度を温度を変えて測定することにより、項間交差および逆項間交差の少なくとも一方の温度(T)と速度定数(kSC)の関係を取得してマーカスプロットを作成する。ここで、本明細書では、速度定数(kSC)のうち、項間交差速度定数を「kISC」、逆項間交差速度定数を「kRISC」と表記する。
過渡発光強度の説明と測定温度の好ましい範囲、速度定数(kSC)の導出方法については、上記の記載を参照することができる。
項間交差は、最低励起一重項状態(S1)から最低励起三重項状態(T1)への項間交差であってもよいし、高次励起一重項状態(Sn)から最低励起三重項状態(T1)、最低励起一重項状態(S1)から高次励起三重項状態(Tn)、高次励起一重項状態(Sn)から高次励起三重項状態(Tn)などの項間交差であってもよい。逆項間交差は、最低励起三重項状態(T1)から最低励起一重項状態(S1)への逆項間交差であってもよいし、高次励起三重項状態(Tn)から最低励起一重項状態(S1)、最低励起三重項状態(T1)から高次励起一重項状態(Sn)、高次励起三重項状態(Tn)から高次励起一重項状態(Sn)などの逆項間交差であってもよい。
次に、取得した各温度(T)と速度定数(kSC)の関係に基づいて、測定温度毎にln √T・kSCおよび1/Tを求め、ln √T・kSCを縦軸、1/Tを横軸としてプロットすることによりマーカスプロットを得る。マーカスプロットの参考例として、下記式で表される4CzIPNとその重水素置換体(4CzIPN-d)の項間交差(ISC)および逆項間交差(RISC)のマーカスプロットをそれぞれ図2と図1に示す。なお、これらの図における速度定数kISC、kRISCは実験値であり、算出に際してMasui, K., Nakanotani, H. & Adachi, C. Analysis of exciton annihilation in high-efficiency sky-blue organic light-emitting diodes with thermally activated delayed fluorescence. Org. Electron. 14, 2721-2726 (2013)の導出を用いた。
[2]物理量導出工程
この工程では、工程[1]で作成したマーカスプロットから、項間交差の活性化エネルギー(Ea ISC)、逆項間交差の活性化エネルギー(Ea RISC)、最低励起一重項エネルギーと最低励起三重項エネルギーの差(ΔEST)、項間交差のスピン軌道相互作用強度(|<ψT|HSOC|ψS>|)および逆項間交差のスピン軌道相互作用強度(|<ψS|HSOC|ψT>|)からなる群より選択される1以上の物理量を導出する。
まず、作成したマーカスプロットの近似線を引き、その近似線の一次関数式y=α・x+ln βを求める。ここでは、項間交差速度定数kISCを用いて作成したマーカスプロットの近似線の傾きαを「αISC」、その縦軸切片を「ln βISC」と表記し、逆項間交差速度定数kRISCを用いて作成したマーカスプロットの近似線の傾きαを「αRISC」、その縦軸切片を「ln βRISC」と表記する。マーカスプロットの近似線は、例えば最小二乗フィッティング法により引くことができる。
次に、マーカスプロットから求めた一次関数式の傾きαと縦軸切片ln βを用いて物理量を導出する。
この工程では、工程[1]で作成したマーカスプロットから、項間交差の活性化エネルギー(Ea ISC)、逆項間交差の活性化エネルギー(Ea RISC)、最低励起一重項エネルギーと最低励起三重項エネルギーの差(ΔEST)、項間交差のスピン軌道相互作用強度(|<ψT|HSOC|ψS>|)および逆項間交差のスピン軌道相互作用強度(|<ψS|HSOC|ψT>|)からなる群より選択される1以上の物理量を導出する。
まず、作成したマーカスプロットの近似線を引き、その近似線の一次関数式y=α・x+ln βを求める。ここでは、項間交差速度定数kISCを用いて作成したマーカスプロットの近似線の傾きαを「αISC」、その縦軸切片を「ln βISC」と表記し、逆項間交差速度定数kRISCを用いて作成したマーカスプロットの近似線の傾きαを「αRISC」、その縦軸切片を「ln βRISC」と表記する。マーカスプロットの近似線は、例えば最小二乗フィッティング法により引くことができる。
次に、マーカスプロットから求めた一次関数式の傾きαと縦軸切片ln βを用いて物理量を導出する。
活性化エネルギー(E a )の導出
マーカスプロットの一次関数式の傾きαは、式(1)の右辺の(-Ea/kB)に対応する。したがって、傾きαと-kBの積を計算することにより、活性化エネルギー(Ea)を求めることができる。具体的には、下記式(2a)を計算することにより、項間交差の活性化エネルギー(Ea ISC)を求めることができ、下記式(2b)を計算することにより、逆項間交差の活性化エネルギー(Ea RISC)を求めることができる。
式(2a)
Ea ISC=αISC×(-kB)
式(2b)
Ea RISC=αRISC×(-kB)
式(2a)および式(2b)において、kBはボルツマン定数を表す。式(2a)において、Ea ISCは項間交差の活性化エネルギー、αISCは絶対温度(T)と項間交差速度定数(kISC)の関係に基づいて作成したマーカスプロットの傾きを表す。式(2b)において、Ea RISCは逆項間交差の活性化エネルギー、αRISCは絶対温度(T)と逆項間交差速度定数(kRISC)の関係に基づいて作成したマーカスプロットの傾きを表す。
こうして導出される活性化エネルギー(Ea ISC、Ea RISC)は、ln √T・kSCを1/Tに対してプロットしたマーカスプロットの傾きαを用いて求めたものであるため、温度の影響が除去されて、アレニウスプロットに基づく活性化エネルギーよりも、遅延蛍光分子の遷移状態を正しく反映する。そのため、高い発光効率や短い三重項寿命を示す遅延蛍光分子の設計指標として効果的に利用することができる。
マーカスプロットの一次関数式の傾きαは、式(1)の右辺の(-Ea/kB)に対応する。したがって、傾きαと-kBの積を計算することにより、活性化エネルギー(Ea)を求めることができる。具体的には、下記式(2a)を計算することにより、項間交差の活性化エネルギー(Ea ISC)を求めることができ、下記式(2b)を計算することにより、逆項間交差の活性化エネルギー(Ea RISC)を求めることができる。
式(2a)
Ea ISC=αISC×(-kB)
式(2b)
Ea RISC=αRISC×(-kB)
式(2a)および式(2b)において、kBはボルツマン定数を表す。式(2a)において、Ea ISCは項間交差の活性化エネルギー、αISCは絶対温度(T)と項間交差速度定数(kISC)の関係に基づいて作成したマーカスプロットの傾きを表す。式(2b)において、Ea RISCは逆項間交差の活性化エネルギー、αRISCは絶対温度(T)と逆項間交差速度定数(kRISC)の関係に基づいて作成したマーカスプロットの傾きを表す。
こうして導出される活性化エネルギー(Ea ISC、Ea RISC)は、ln √T・kSCを1/Tに対してプロットしたマーカスプロットの傾きαを用いて求めたものであるため、温度の影響が除去されて、アレニウスプロットに基づく活性化エネルギーよりも、遅延蛍光分子の遷移状態を正しく反映する。そのため、高い発光効率や短い三重項寿命を示す遅延蛍光分子の設計指標として効果的に利用することができる。
最低励起一重項エネルギーと最低励起三重項エネルギーのエネルギー差(ΔE ST )の導出
ΔESTは遅延蛍光分子の発光スペクトルから見積もることができるが、マーカスプロットから導出した活性化エネルギー(Ea ISC、Ea RISC)を用いて下記式(3)により算出することができる。
式(3)
ΔEST=Ea RISC-Ea ISC
式(3)において、ΔESTは最低励起一重項エネルギーと最低励起三重項エネルギーのエネルギー差、Ea ISCはマーカスプロットから導出した項間交差の活性化エネルギー、Ea RISCはマーカスプロットから導出した逆項間交差の活性化エネルギーを表す。
励起一重項状態S1と励起三重項状態T1の各エネルギーは、蛍光ピークと燐光ピークの立ち上がり波長を用いて議論されることが多い。しかし、発光スペクトルから求めた値は正しくないことに注意する必要がある。これは、ヤブロンスキー図で基底状態S0のエネルギーを固定していることに問題がある。特に励起状態と基底状態の構造が大きく異なる場合、S1およびT1からS0に落ちた後の振動緩和分のエネルギーが考慮されていないので、スペクトルのエネルギー差から見積もったΔESTが過大に見積もられている可能性が高い。S1とT1の間で遷移した場合、項間交差および逆項間交差に関わらず最安定状態間の再配向エネルギーの大きさは同じであるべきである。実際、ΔEST=Ea RISC-Ea ISCとして再配向エネルギーを計算すると、項間交差と逆項間交差とで同じ再配向エネルギーλが算出される(後掲の計算例(2-2)参照)。このことから、マーカスプロットによって導出される値を用いたEa RISC-Ea ISCの計算値は、ΔESTとしてより適切であると言える。
ΔESTは遅延蛍光分子の発光スペクトルから見積もることができるが、マーカスプロットから導出した活性化エネルギー(Ea ISC、Ea RISC)を用いて下記式(3)により算出することができる。
式(3)
ΔEST=Ea RISC-Ea ISC
式(3)において、ΔESTは最低励起一重項エネルギーと最低励起三重項エネルギーのエネルギー差、Ea ISCはマーカスプロットから導出した項間交差の活性化エネルギー、Ea RISCはマーカスプロットから導出した逆項間交差の活性化エネルギーを表す。
励起一重項状態S1と励起三重項状態T1の各エネルギーは、蛍光ピークと燐光ピークの立ち上がり波長を用いて議論されることが多い。しかし、発光スペクトルから求めた値は正しくないことに注意する必要がある。これは、ヤブロンスキー図で基底状態S0のエネルギーを固定していることに問題がある。特に励起状態と基底状態の構造が大きく異なる場合、S1およびT1からS0に落ちた後の振動緩和分のエネルギーが考慮されていないので、スペクトルのエネルギー差から見積もったΔESTが過大に見積もられている可能性が高い。S1とT1の間で遷移した場合、項間交差および逆項間交差に関わらず最安定状態間の再配向エネルギーの大きさは同じであるべきである。実際、ΔEST=Ea RISC-Ea ISCとして再配向エネルギーを計算すると、項間交差と逆項間交差とで同じ再配向エネルギーλが算出される(後掲の計算例(2-2)参照)。このことから、マーカスプロットによって導出される値を用いたEa RISC-Ea ISCの計算値は、ΔESTとしてより適切であると言える。
スピン軌道相互作用強度(|<ψ f |H SOC |ψ i >|)の導出
マーカスプロットの一次関数式の縦軸切片ln βは、式(1)の右辺の自然対数部分に対応する。したがって、この自然対数部分と縦軸切片ln βの等式を変形した下記式(4c)や、下記式(4c)の両辺を1/2乗した下記式(4d)を計算することにより、スピン軌道相互作用強度(|<ψf|HSOC|ψi>|)を求めることができる。
マーカスプロットの一次関数式の縦軸切片ln βは、式(1)の右辺の自然対数部分に対応する。したがって、この自然対数部分と縦軸切片ln βの等式を変形した下記式(4c)や、下記式(4c)の両辺を1/2乗した下記式(4d)を計算することにより、スピン軌道相互作用強度(|<ψf|HSOC|ψi>|)を求めることができる。
式(4c)、(4d)において、|<ψf|HSOC|ψi>|、π、h´、λ、kBの定義については、式(1)の各定義を参照することができる。ln βはマーカスプロットの縦軸切片を表す。
具体的には、下記式(4a)を計算することにより、項間交差のスピン軌道相互作用強度(|<ψT|HSOC|ψS>|)を求めることができ、下記式(4b)を計算することにより、逆項間交差のスピン軌道相互作用強度(|<ψS|HSOC|ψT>|)を求めることができる。
式(4a)において、|<ψT|HSOC|ψS>|は項間交差のスピン軌道相互作用強度、ln βISCは絶対温度(T)と項間交差速度定数(kISC)の関係に基づいて作成したマーカスプロットの縦軸切片、πは円周率、h´はディラック定数、λは再配向エネルギー、kBはボルツマン定数を表す。
式(4b)において、|<ψS|HSOC|ψT>|は逆項間交差のスピン軌道相互作用強度、ln βRISCは絶対温度(T)と逆項間交差速度定数(kRISC)の関係に基づいて作成したマーカスプロットの縦軸切片、πは円周率、h´はディラック定数、λは再配向エネルギー、kBはボルツマン定数を表す。
ここで、式(1)、(4a)~(4d)の再配向エネルギー(λ)は、上記の式(15)から導かれる下記式(5d)を用いて算出することができる。
すなわち、ΔESTは始状態と終状態のエネルギー差に相当するため、電子移動反応による総ギブスエネルギーの変化量ΔG0と等価(ΔG0≡ΔEST)である。したがって、式(15)のΔG0はΔESTで置き換えることができ、これにより下記式(5c)が導かれる。
すなわち、ΔESTは始状態と終状態のエネルギー差に相当するため、電子移動反応による総ギブスエネルギーの変化量ΔG0と等価(ΔG0≡ΔEST)である。したがって、式(15)のΔG0はΔESTで置き換えることができ、これにより下記式(5c)が導かれる。
さらに、式(5c)を下記計算プロセスで変形することにより、下記式(5d)が導かれる。
そして、式(5d)のEa、ΔESTに、それぞれマーカスプロットから導出した活性化エネルギー(Ea
ISCまたはEa
RISC)とΔESTの値を代入して計算することにより、スピン軌道相互作用強度(|<ψT|HSOC|ψS>|、|<ψS|HSOC|ψT>|)を導出するための再配向エネルギー(λ)を求めることができる。
具体的には、下記式(5a)を計算することにより、項間交差のスピン軌道相互作用強度(|<ψT|HSOC|ψS>|)を導出するための再配向エネルギー(λISC)を求めることができ、下記式(5b)を計算することにより、逆項間交差のスピン軌道相互作用強度(|<ψS|HSOC|ψT>|)を導出するための再配向エネルギー(λRISC)を求めることができる。
式(5a)において、λISCは項間交差の再配向エネルギー、Ea
ISCはマーカスプロットから導出した項間交差の活性化エネルギー、ΔESTは最低励起一重項エネルギーと最低励起三重項エネルギーの差を表す。
式(5b)において、λRISCは逆項間交差の再配向エネルギー、Ea
RISCはマーカスプロットから導出した逆項間交差の活性化エネルギー、ΔESTは最低励起一重項エネルギーと最低励起三重項エネルギーの差を表す。
式(5a)および式(5b)において、ΔESTは発光スペクトルから見積もった値であってもよいし、ΔEST=Ea
RISC-Ea
ISCの計算(Ea
RISCおよびEa
ISCはアレニウスプロットから求めた値でもよい)により求めた値であってもよい。ΔESTの計算式の定義については、上記の式(3)の定義を参照することができる。
また、式(5a)および式(5b)では、それぞれ「±」を「+」とした場合と「-」とした場合とで、2通りの値が導かれる。ここで、マーカス理論の正常領域(吸熱領域)では、再配向エネルギーλとΔESTはλ≧ΔESTの関係にあるため、2つの値のうち、λISC≧ΔEST、λRISC≧ΔESTの関係を満たす値を選択して、式(4a)のスピン軌道相互作用強度(|<|<ψT|HSOC|ψS>|)と式(4b)のスピン軌道相互作用強度|<ψS|HSOC|ψT>|)を求めることが好ましい。
こうして導出されるスピン軌道相互作用強度は、実測された温度(T)と速度定数(kSC)の関係に基づいて作成したマーカスプロットから求めたものであるため、項間交差および逆効果交差の実際のスピン軌道相互作用強度を正しく反映する。そのため、高い発光効率や短い三重項寿命を示す遅延蛍光分子の設計指標として効果的に利用することができる。
また、スピン軌道相互作用強度については、これまではエネルギー準位などの寄与を含むkRISCの値から推察するしかなく、密度汎関数理論(DFT)によって求まる値がどの程度実際の系に則しているかについては、議論することができなかった。このように、実測値に基づいてスピン軌道相互作用強度を算出できることは、DFT計算と実際の系を強固に結び付け、より高度な遅延蛍光分子のデザインが期待できる点で意義が大きい。。
こうして導出されるスピン軌道相互作用強度は、実測された温度(T)と速度定数(kSC)の関係に基づいて作成したマーカスプロットから求めたものであるため、項間交差および逆効果交差の実際のスピン軌道相互作用強度を正しく反映する。そのため、高い発光効率や短い三重項寿命を示す遅延蛍光分子の設計指標として効果的に利用することができる。
また、スピン軌道相互作用強度については、これまではエネルギー準位などの寄与を含むkRISCの値から推察するしかなく、密度汎関数理論(DFT)によって求まる値がどの程度実際の系に則しているかについては、議論することができなかった。このように、実測値に基づいてスピン軌道相互作用強度を算出できることは、DFT計算と実際の系を強固に結び付け、より高度な遅延蛍光分子のデザインが期待できる点で意義が大きい。。
以上のように、本発明の物理量導出方法によれば、遅延蛍光分子の物理量を、実測値を用いて正しい値で導出することができるため、計算科学の結果と実際の物性が強く結びつけられ、より精緻な遅延蛍光材料の分子設計が可能になる。これにより、短い三重項寿命を持つ遅延蛍光材料の開発を促進することができる。
<計算例>
以下において、本発明の物理量導出方法で行う計算を、図1に示すマーカスプロットから各物理量を導出する場合を例にして具体的に説明する。
以下において、本発明の物理量導出方法で行う計算を、図1に示すマーカスプロットから各物理量を導出する場合を例にして具体的に説明する。
計算例1:活性化エネルギー(E a )の計算
項間交差および逆項間交差の各活性化エネルギー(Ea ISC、Ea RISC)は、マーカスプロットの近似線の傾きαISC、αRISCとボルツマン定数kBの各値を式(2a)、(2b)に代入して計算することにより求めることができる。図1から、αISCは-916.36、αRISCはー1183.3であり、ボルツマン定数kBは8.6171×10-5 [eV/K]である。活性化エネルギー(Ea)の計算結果を下記に示す。
項間交差の活性化エネルギー(Ea ISC): 0.078966 eV
逆項間交差の活性化エネルギー(Ea RISC): 0.101969 eV
項間交差および逆項間交差の各活性化エネルギー(Ea ISC、Ea RISC)は、マーカスプロットの近似線の傾きαISC、αRISCとボルツマン定数kBの各値を式(2a)、(2b)に代入して計算することにより求めることができる。図1から、αISCは-916.36、αRISCはー1183.3であり、ボルツマン定数kBは8.6171×10-5 [eV/K]である。活性化エネルギー(Ea)の計算結果を下記に示す。
項間交差の活性化エネルギー(Ea ISC): 0.078966 eV
逆項間交差の活性化エネルギー(Ea RISC): 0.101969 eV
計算例2:スピン軌道相互作用強度(|<ψ f |H SOC |ψ i >|)の計算
項間交差のスピン軌道相互作用強度(|<ψT|HSOC|ψS>|)は、マーカスプロットの近似線の縦軸切片ln βISC、ディラック定数h´、式(5a)で算出した再配向エネルギーλISCおよびボルツマン定数kBの各値を式(4a)に代入して計算することにより求めることができる。また、逆項間交差のスピン軌道相互作用強度(|<ψS|HSOC|ψT>|)は、マーカスプロットの近似線の縦軸切片ln βRISC、ディラック定数h´、式(5b)で算出した再配向エネルギーλRISCおよびボルツマン定数kBの各値を式(4b)に代入して計算することにより求めることができる。
ここで、再配向エネルギー(λISC、λRISC)を算出する際、式(5a)、(5b)のΔESTに代入する値は、発光スペクトルから見積もったΔESTであってもよいし、ΔEST=Ea RISC-Ea ISCの計算値を代入してもよい。以下に、それぞれのΔESTを用いて再配向エネルギーλを求め、そのλを用いてスピン軌道相互作用強度を計算した結果を示す。
項間交差のスピン軌道相互作用強度(|<ψT|HSOC|ψS>|)は、マーカスプロットの近似線の縦軸切片ln βISC、ディラック定数h´、式(5a)で算出した再配向エネルギーλISCおよびボルツマン定数kBの各値を式(4a)に代入して計算することにより求めることができる。また、逆項間交差のスピン軌道相互作用強度(|<ψS|HSOC|ψT>|)は、マーカスプロットの近似線の縦軸切片ln βRISC、ディラック定数h´、式(5b)で算出した再配向エネルギーλRISCおよびボルツマン定数kBの各値を式(4b)に代入して計算することにより求めることができる。
ここで、再配向エネルギー(λISC、λRISC)を算出する際、式(5a)、(5b)のΔESTに代入する値は、発光スペクトルから見積もったΔESTであってもよいし、ΔEST=Ea RISC-Ea ISCの計算値を代入してもよい。以下に、それぞれのΔESTを用いて再配向エネルギーλを求め、そのλを用いてスピン軌道相互作用強度を計算した結果を示す。
(2-1)発光スペクトルから見積もったΔESTを用いる再配向エネルギーλとスピン軌道相互作用強度(|<ψf|HSOC|ψi>|)の計算
4CzIPN-dの発光スペクトルから見積もったΔESTは0.04eVであった。ここで、ΔESTは、具体的には4CzIPN-dの蛍光ピークの立ち上がり波長をエネルギー値に変換して求めた最低励起一重項エネルギー(ES1)と、その燐光ピークの立ち上がり波長をエネルギー値に変換して求めた最低励起三重項エネルギー(ET1)を用い、ES1-ET1を計算することにより求めた。このΔESTの測定値と、計算例1で求めた活性化エネルギーEaの値(Ea ISC:0.078966 eV、Ea RISC:0.101969 eV)を式(5a)、(5b)に代入して計算すると、再配向エネルギー(λISC、λRISC)が下記の値で算出される。λISC、λRISCの計算値において、左側の値は式(5a)、(5b)の「±」を「+」として計算した値であり、右側の値は式(5a)、(5b)の「±」を「-」として計算した値である。
項間交差の再配向エネルギーλISC:0.391779 eV, 0.004084 eV
逆項間交差の再配向エネルギーλRISC:0.322921 eV, 0.004955 eV
ここで、ΔESTと再配向エネルギー(λ)はλ≧ΔESTの関係にあるため、左側の大きい値が適切な再配向エネルギーであると判断される。
4CzIPN-dの発光スペクトルから見積もったΔESTは0.04eVであった。ここで、ΔESTは、具体的には4CzIPN-dの蛍光ピークの立ち上がり波長をエネルギー値に変換して求めた最低励起一重項エネルギー(ES1)と、その燐光ピークの立ち上がり波長をエネルギー値に変換して求めた最低励起三重項エネルギー(ET1)を用い、ES1-ET1を計算することにより求めた。このΔESTの測定値と、計算例1で求めた活性化エネルギーEaの値(Ea ISC:0.078966 eV、Ea RISC:0.101969 eV)を式(5a)、(5b)に代入して計算すると、再配向エネルギー(λISC、λRISC)が下記の値で算出される。λISC、λRISCの計算値において、左側の値は式(5a)、(5b)の「±」を「+」として計算した値であり、右側の値は式(5a)、(5b)の「±」を「-」として計算した値である。
項間交差の再配向エネルギーλISC:0.391779 eV, 0.004084 eV
逆項間交差の再配向エネルギーλRISC:0.322921 eV, 0.004955 eV
ここで、ΔESTと再配向エネルギー(λ)はλ≧ΔESTの関係にあるため、左側の大きい値が適切な再配向エネルギーであると判断される。
次に、適切であると判断した各再配向エネルギー(λISC、λRISC)を用い、式(4a)、(4b)を計算することでスピン軌道相互作用強度(|<ψT1|HSOC|ψS1>|、|<ψS1|HSOC|ψT1>|)を求める。図1から、項間交差の縦軸切片ln βISCは27.97、逆項間交差の縦軸切片ln βRISCは20.486、ディラック定数h´は6.582119569×10-16 [eV s]、ボルツマン定数kBは8.6171×10-5[eV/K]である。計算の結果、スピン軌道相互作用強度が下記の値(14.036 cm-1、0.317 cm-1)で算出される。なお、丸括弧内の数値は、参考のため、再配向エネルギー(λRISC、λISC)として右側の値を用いて計算したスピン軌道相互作用の大きさである。
項間交差の|<ψT1|HSOC|ψS1>|: 14.036 cm-1 (4.485 cm-1)
逆項間交差の|<ψS1|HSOC|ψT1>|:0.317 cm-1 (0.112 cm-1)
項間交差の|<ψT1|HSOC|ψS1>|: 14.036 cm-1 (4.485 cm-1)
逆項間交差の|<ψS1|HSOC|ψT1>|:0.317 cm-1 (0.112 cm-1)
(2-2)Ea
RISC-Ea
ISCの計算で求めたΔESTを用いる再配向エネルギーλとスピン軌道相互作用強度(|<ψf|HSOC|ψi>|)の計算
計算例1で求めた活性化エネルギー(Ea)の値は、Ea RISC:0.101969 eV、Ea ISC:0.078966 eVであり、Ea RISC-Ea ISCは約0.023eVと算出される。このΔESTの計算値と、計算例1で求めた活性化エネルギー(Ea)の値を式(5a)、(5b)に代入して計算すると、再配向エネルギー(λISC、λRISC)が下記の値で算出される。下記のλISC、λRISCの計算値において、左側の値は式(5a)、(5b)の「±」を「+」として計算した値であり、右側の値は式(5a)、(5b)の「±」を「-」として計算した値である。
項間交差の再配向エネルギーλISC:0.360401 eV, 0.001468 eV
逆項間交差の再配向エネルギーλRISC:0.360401 eV, 0.001468 eV
ここで、ΔESTと再配向エネルギーλはλ≧ΔESTの関係にあるため、左側の大きい値が適切な再配向エネルギーであると判断される。また、このようにEa RISC-Ea ISCをΔESTとして算出された再配向エネルギー(λ)は、逆項間交差と項間交差で一致していることから、より合理的な数値であると判断される。
計算例1で求めた活性化エネルギー(Ea)の値は、Ea RISC:0.101969 eV、Ea ISC:0.078966 eVであり、Ea RISC-Ea ISCは約0.023eVと算出される。このΔESTの計算値と、計算例1で求めた活性化エネルギー(Ea)の値を式(5a)、(5b)に代入して計算すると、再配向エネルギー(λISC、λRISC)が下記の値で算出される。下記のλISC、λRISCの計算値において、左側の値は式(5a)、(5b)の「±」を「+」として計算した値であり、右側の値は式(5a)、(5b)の「±」を「-」として計算した値である。
項間交差の再配向エネルギーλISC:0.360401 eV, 0.001468 eV
逆項間交差の再配向エネルギーλRISC:0.360401 eV, 0.001468 eV
ここで、ΔESTと再配向エネルギーλはλ≧ΔESTの関係にあるため、左側の大きい値が適切な再配向エネルギーであると判断される。また、このようにEa RISC-Ea ISCをΔESTとして算出された再配向エネルギー(λ)は、逆項間交差と項間交差で一致していることから、より合理的な数値であると判断される。
次に、適切であると判断した各再配向エネルギー(λISC、λRISC)を用いて、式(4a)、(4b)を計算することでスピン軌道相互作用強度(|<ψT1|HSOC|ψS1>|、|<ψS1|HSOC|ψT1>|)を求める。ln βISC、ln βRISC、ディラック定数h´およびボルツマン定数kBの各値は、(2-1)の欄の記載を参照することができる。計算の結果、スピン軌道相互作用強度が下記の値(13.746 cm-1、0.326 cm-1)で算出される。なお、丸括弧内の数値は、参考のため、各再配向エネルギー(λISC、λRISC)として右側の値を用いて計算したスピン軌道相互作用の大きさである。
項間交差の|<ψT1|HSOC|ψS1>|: 13.746 cm-1 (3.473 cm-1)
逆項間交差の|<ψS1|HSOC|ψT1>|:0.326 cm-1 (0.082 cm-1)
上記の計算例で導出した4CzIPN-dの物理量と、同様にして導出した4CzIPNの物理量を表1に実施例としてまとめて示す。なお、再配向エネルギー(λISC、λRISC)およびスピン軌道相互作用強度(|<ψT1|HSOC|ψS1>|、|<ψS1|HSOC|ψT1>|)は、ΔESTとしてEa RISC-Ea ISCの計算値を用いた値、すなわち計算例(2-2)の計算結果である。また、逆項間交差速度定数kRISCは300Kにおける値である。表1にはアレニウスプロットから導出した物理量(比較例)と、文献(Noda, H., Chen, X.-K., Nakanotani, H., Hosokai, T., Miyajima, M., Notsuka, N., Kashima, Y., Breda, J.-L., Adachi, C. Critical role of intermediate electronic states for spin-flip processes in charge-transfer-type organic molecules with multiple donors and acceptors, Nat. Mater. 18, 1084-1090 (2019))に記載の|<ψS|HSOC|ψT>|も併せて掲載している。表1から明らかなように、アレニウスプロットから導出した|<ψS1|HSOC|ψT1>|は文献値から大きく外れていたが、本発明にしたがってマーカスプロットから導出した|<ψS1|HSOC|ψT1>|は文献値とよく一致した。
項間交差の|<ψT1|HSOC|ψS1>|: 13.746 cm-1 (3.473 cm-1)
逆項間交差の|<ψS1|HSOC|ψT1>|:0.326 cm-1 (0.082 cm-1)
上記の計算例で導出した4CzIPN-dの物理量と、同様にして導出した4CzIPNの物理量を表1に実施例としてまとめて示す。なお、再配向エネルギー(λISC、λRISC)およびスピン軌道相互作用強度(|<ψT1|HSOC|ψS1>|、|<ψS1|HSOC|ψT1>|)は、ΔESTとしてEa RISC-Ea ISCの計算値を用いた値、すなわち計算例(2-2)の計算結果である。また、逆項間交差速度定数kRISCは300Kにおける値である。表1にはアレニウスプロットから導出した物理量(比較例)と、文献(Noda, H., Chen, X.-K., Nakanotani, H., Hosokai, T., Miyajima, M., Notsuka, N., Kashima, Y., Breda, J.-L., Adachi, C. Critical role of intermediate electronic states for spin-flip processes in charge-transfer-type organic molecules with multiple donors and acceptors, Nat. Mater. 18, 1084-1090 (2019))に記載の|<ψS|HSOC|ψT>|も併せて掲載している。表1から明らかなように、アレニウスプロットから導出した|<ψS1|HSOC|ψT1>|は文献値から大きく外れていたが、本発明にしたがってマーカスプロットから導出した|<ψS1|HSOC|ψT1>|は文献値とよく一致した。
ここで、上記の計算例では、項間交差と逆項間交差でスピン軌道相互作用強度が異なる値になっている。この点については、例えば<ψS1|HSOC|ψT1>が、|ψT1>にHSOCが作用したとき、<ψS1|に至る寄与のみを取り出すという意味であることから不自然ではない。すなわち、HSOCが同じであったとしても、HSOC|ψT1>が<ψS1|に至る確率と、HSOC|ψS1>が<ψT1|に至る確率が異なっていれば項間交差と逆項間交差でスピン軌道相互作用強度は異なる値になる。実際に、ΔEST≒0eVのような系においても多くの場合は、kISC>>kRISCであり、これは|<ψT1|HSOC|ψS1>|>|<ψS1|HSOC|ψT1>|に起因するといえる。
[遅延蛍光分子の設計方法]
次に、本発明の遅延蛍光分子の設計方法について説明する。
本発明の遅延蛍光分子の設計方法は、特定の構造を有する遅延蛍光分子について、本発明の物理量導出方法により1以上の物理量を導出し、分子構造の一部を変更した遅延蛍光分子について本発明の物理量導出方法により、1以上の物理量を導出し、導出した物理量に基づく評価を行ってより評価が高い遅延蛍光分子を選択する工程を1回以上行う、ことを含む方法である。
「本発明の物理量導出方法」および「遅延蛍光分子」の説明については、[遅延蛍光分子の物理量導出方法]の欄の記載を参照することができる。
分子構造の一部を変更した遅延蛍光分子における分子構造の「変更」の例として、例えば環骨格の水素原子を置換基や重水素で置換することや、環骨格の置換基を他の置換基に変更すること、環骨格構成原子を他の原子で置き換えること等が挙げられる。置換基の説明については、<遅延蛍光分子>の欄に記載した電子ドナー性基、電子アクセプター性基についての記載を参照することができる。環骨格構成原子を他の原子で置き換える変更例としては、環骨格構成原子である炭素原子をヘテロ原子で置き換える態様が挙げられる。ヘテロ原子としては、窒素原子、酸素原子、硫黄原子等が挙げられる。分子構造の変更は、これらの変更のいずれか1つであってもよいし、2つ以上の変更を組み合わせても良い。
遅延蛍光分子について導出する物理量は、1つであっても2つ以上であってもよい。導出する物理量は、具体的には項間交差の活性化エネルギー(Ea ISC)、逆項間交差の活性化エネルギー(Ea RISC)、最低励起一重項エネルギーと最低励起三重項エネルギーの差(ΔEST)、項間交差のスピン軌道相互作用強度(|<ψT|HSOC|ψS>|)および逆項間交差のスピン軌道相互作用強度(|<ψS|HSOC|ψT>|)からなる群より選択される1以上の物理量である。導出する物理量は、逆項間交差のスピン軌道相互作用強度(|<ψS|HSOC|ψT>|)、逆項間交差の活性化エネルギー(Ea RISC)および最低励起一重項エネルギーと最低励起三重項エネルギーの差(ΔEST)の少なくとも1つを含むことが好ましく、これらの全てを含んでいてもよい。
遅延蛍光分子の選択指針は、遅延蛍光分子に求める特性によっても異なるが、例えば下記(A)~(C)の少なくとも2つを満たす遅延蛍光分子を、より評価が高い遅延蛍光分子として選択することが好ましい。また、少なくとも下記(A)を満たす遅延蛍光分子、または、少なくとも下記(B)を満たす遅延蛍光分子を、より評価が高い遅延蛍光分子として選択することも好ましい。下記(A)~(C)を満たすことは逆項間交差が起こる確率が高いことを意味している。そのため、この選択指針で遅延蛍光分子を選択することにより、高い発光効率や短い三重項寿命を示す遅延蛍光分子を設計することができる。
(A)逆項間交差のスピン軌道相互作用強度(|<ψT|HSOC|ψS>|)がより大きいこと
(B)逆項間交差の活性化エネルギー(Ea RISC)がより小さいこと
(C)最低励起一重項エネルギーと最低励起三重項エネルギーの差(ΔEST)がより小さいこと
次に、本発明の遅延蛍光分子の設計方法について説明する。
本発明の遅延蛍光分子の設計方法は、特定の構造を有する遅延蛍光分子について、本発明の物理量導出方法により1以上の物理量を導出し、分子構造の一部を変更した遅延蛍光分子について本発明の物理量導出方法により、1以上の物理量を導出し、導出した物理量に基づく評価を行ってより評価が高い遅延蛍光分子を選択する工程を1回以上行う、ことを含む方法である。
「本発明の物理量導出方法」および「遅延蛍光分子」の説明については、[遅延蛍光分子の物理量導出方法]の欄の記載を参照することができる。
分子構造の一部を変更した遅延蛍光分子における分子構造の「変更」の例として、例えば環骨格の水素原子を置換基や重水素で置換することや、環骨格の置換基を他の置換基に変更すること、環骨格構成原子を他の原子で置き換えること等が挙げられる。置換基の説明については、<遅延蛍光分子>の欄に記載した電子ドナー性基、電子アクセプター性基についての記載を参照することができる。環骨格構成原子を他の原子で置き換える変更例としては、環骨格構成原子である炭素原子をヘテロ原子で置き換える態様が挙げられる。ヘテロ原子としては、窒素原子、酸素原子、硫黄原子等が挙げられる。分子構造の変更は、これらの変更のいずれか1つであってもよいし、2つ以上の変更を組み合わせても良い。
遅延蛍光分子について導出する物理量は、1つであっても2つ以上であってもよい。導出する物理量は、具体的には項間交差の活性化エネルギー(Ea ISC)、逆項間交差の活性化エネルギー(Ea RISC)、最低励起一重項エネルギーと最低励起三重項エネルギーの差(ΔEST)、項間交差のスピン軌道相互作用強度(|<ψT|HSOC|ψS>|)および逆項間交差のスピン軌道相互作用強度(|<ψS|HSOC|ψT>|)からなる群より選択される1以上の物理量である。導出する物理量は、逆項間交差のスピン軌道相互作用強度(|<ψS|HSOC|ψT>|)、逆項間交差の活性化エネルギー(Ea RISC)および最低励起一重項エネルギーと最低励起三重項エネルギーの差(ΔEST)の少なくとも1つを含むことが好ましく、これらの全てを含んでいてもよい。
遅延蛍光分子の選択指針は、遅延蛍光分子に求める特性によっても異なるが、例えば下記(A)~(C)の少なくとも2つを満たす遅延蛍光分子を、より評価が高い遅延蛍光分子として選択することが好ましい。また、少なくとも下記(A)を満たす遅延蛍光分子、または、少なくとも下記(B)を満たす遅延蛍光分子を、より評価が高い遅延蛍光分子として選択することも好ましい。下記(A)~(C)を満たすことは逆項間交差が起こる確率が高いことを意味している。そのため、この選択指針で遅延蛍光分子を選択することにより、高い発光効率や短い三重項寿命を示す遅延蛍光分子を設計することができる。
(A)逆項間交差のスピン軌道相互作用強度(|<ψT|HSOC|ψS>|)がより大きいこと
(B)逆項間交差の活性化エネルギー(Ea RISC)がより小さいこと
(C)最低励起一重項エネルギーと最低励起三重項エネルギーの差(ΔEST)がより小さいこと
[量子化学計算法の改良方法]
次に、本発明の量子化学計算法の改良方法について説明する。
本発明の量子化学計算法の改良方法は、遅延蛍光分子の項間交差の活性化エネルギー(Ea ISC)、逆項間交差の活性化エネルギー(Ea RISC)、最低励起一重項エネルギーと最低励起三重項エネルギーの差(ΔEST)、再配向エネルギー(λ)、項間交差のスピン軌道相互作用強度(|<ψT|HSOC|ψS>|)および逆項間交差のスピン軌道相互作用強度(|<ψS|HSOC|ψT>|)からなる群より選択された物理量を、特定の量子化学計算法により導出し、一部を変更した量子化学計算法により前記選択された物理量を導出し、前記遅延蛍光分子について本発明の物理量導出方法により得た物理量に近い方の量子化学計算法を選択する工程を1回以上行う方法である。
「本発明の物理量導出方法」および「遅延蛍光分子」の説明については、上記の[遅延蛍光分子の物理量導出方法]の欄の記載を参照することができる。
本発明で改良する量子化学計算法は、対象となる遅延蛍光分子の原子の電子分布(原子軌道)や原子座標から、その項間交差および逆項間交差の活性化エネルギー(Ea ISC、Ea RISC)、最低励起一重項エネルギーと最低励起三重項エネルギーの差(ΔEST)、再配向エネルギー(λ)、項間交差および逆項間交差のスピン軌道相互作用強度(|<ψT|HSOC|ψS>|、|<ψS|HSOC|ψT>|)の少なくとも1つを導出しうる量子化学計算法、または、その導出のための計算の一部を実施するのに用いうる量子化学計算法であればよく、特に制限はない。具体例として、密度汎関数法(DFT法)、Hartree-Fock法、摂動法、結合クラスター法、配置間相互作用法、半経験的分子軌道法、 多配置自己無撞着法、量子化学複合手法等を挙げることができる。
一部を変更した量子化学計算法における「変更」の例として、半経験的分子軌道法において経験的パラメータを変更する、DFT法においてより計算コストの高い基底関数、汎関数を用いる、多配置参照二次摂動法などのより高精度な計算手法を用いる等の変更を挙げることができる。量子化学計算法に行う変更は、これらの変更のいずれか1つであってもよいし、2つ以上の変更を組み合わせても良い。
本発明の物理量導出方法で導出される物理量は、実測した温度(T)と速度定数(kSC)の関係に基づき、ln √Tを変数に含めるマーカスプロットから導出した物理量であるため、遅延蛍光分子の遷移過程を正しく反映したものである。そのため、特定の量子化学計算法と、その一部を変更した量子化学計算法を比較して、本発明の物理量導出方法で導出される物理量に近い物理量が導出される量子化学計算法を選択する工程を1回以上行うことにより、その特定の量子化学計算法を遅延蛍光分子の遷移過程を正しく反映した物理量が導出されるものに改良することができる。
次に、本発明の量子化学計算法の改良方法について説明する。
本発明の量子化学計算法の改良方法は、遅延蛍光分子の項間交差の活性化エネルギー(Ea ISC)、逆項間交差の活性化エネルギー(Ea RISC)、最低励起一重項エネルギーと最低励起三重項エネルギーの差(ΔEST)、再配向エネルギー(λ)、項間交差のスピン軌道相互作用強度(|<ψT|HSOC|ψS>|)および逆項間交差のスピン軌道相互作用強度(|<ψS|HSOC|ψT>|)からなる群より選択された物理量を、特定の量子化学計算法により導出し、一部を変更した量子化学計算法により前記選択された物理量を導出し、前記遅延蛍光分子について本発明の物理量導出方法により得た物理量に近い方の量子化学計算法を選択する工程を1回以上行う方法である。
「本発明の物理量導出方法」および「遅延蛍光分子」の説明については、上記の[遅延蛍光分子の物理量導出方法]の欄の記載を参照することができる。
本発明で改良する量子化学計算法は、対象となる遅延蛍光分子の原子の電子分布(原子軌道)や原子座標から、その項間交差および逆項間交差の活性化エネルギー(Ea ISC、Ea RISC)、最低励起一重項エネルギーと最低励起三重項エネルギーの差(ΔEST)、再配向エネルギー(λ)、項間交差および逆項間交差のスピン軌道相互作用強度(|<ψT|HSOC|ψS>|、|<ψS|HSOC|ψT>|)の少なくとも1つを導出しうる量子化学計算法、または、その導出のための計算の一部を実施するのに用いうる量子化学計算法であればよく、特に制限はない。具体例として、密度汎関数法(DFT法)、Hartree-Fock法、摂動法、結合クラスター法、配置間相互作用法、半経験的分子軌道法、 多配置自己無撞着法、量子化学複合手法等を挙げることができる。
一部を変更した量子化学計算法における「変更」の例として、半経験的分子軌道法において経験的パラメータを変更する、DFT法においてより計算コストの高い基底関数、汎関数を用いる、多配置参照二次摂動法などのより高精度な計算手法を用いる等の変更を挙げることができる。量子化学計算法に行う変更は、これらの変更のいずれか1つであってもよいし、2つ以上の変更を組み合わせても良い。
本発明の物理量導出方法で導出される物理量は、実測した温度(T)と速度定数(kSC)の関係に基づき、ln √Tを変数に含めるマーカスプロットから導出した物理量であるため、遅延蛍光分子の遷移過程を正しく反映したものである。そのため、特定の量子化学計算法と、その一部を変更した量子化学計算法を比較して、本発明の物理量導出方法で導出される物理量に近い物理量が導出される量子化学計算法を選択する工程を1回以上行うことにより、その特定の量子化学計算法を遅延蛍光分子の遷移過程を正しく反映した物理量が導出されるものに改良することができる。
[プログラム]
本発明のプログラムは、本発明の遅延蛍光分子の物理量導出方法、本発明の遅延蛍光分子の設計方法および本発明の量子化学計算法の改良方法のいずれかを実施するプログラムである。
各方法については、上記の[遅延蛍光分子の物理量導出方法]、[遅延蛍光分子の設計方法]および[量子化学計算法の改良方法]の欄の記載を参照することができる。
本発明のプログラムは、本発明の遅延蛍光分子の物理量導出方法、本発明の遅延蛍光分子の設計方法および本発明の量子化学計算法の改良方法のいずれかを実施するプログラムである。
各方法については、上記の[遅延蛍光分子の物理量導出方法]、[遅延蛍光分子の設計方法]および[量子化学計算法の改良方法]の欄の記載を参照することができる。
<遅延蛍光分子>
本発明で対象とする遅延蛍光分子は、[遅延蛍光分子の物理量導出方法]の欄に記載した遅延蛍光分子であれば特に制限されない。具体例として、環骨格と、該環骨格に電子ドナー性基と電子アクセプター性基が結合した構造を有するドナー・アクセプター型の遅延蛍光分子およびヘテロ原子による多重共鳴効果を用いた遅延蛍光分子を挙げることができる。
環骨格の例として、芳香環を挙げることができる。芳香環は芳香族炭化水素環であっても芳香族複素環であってもよい。芳香族炭化水素環の炭素数は特に制限されず、例えば6~40程度である。また、芳香族複素環のヘテロ原子として、ホウ素原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子を挙げることができる。芳香族複素環の炭素数は特に制限されず、例えば3~40程度である。
「電子ドナー性基」とはハメットのσp値が負である置換基を意味し、「電子アクセプター性基」とはハメットのσp値が正である置換基を意味する。ハメットのσp値に関する説明と置換基の具体例については、Hansch,C.et.al.,Chem.Rev.,91,165-195(1991)のσp値に関する記載と置換基の例を参照することができる。電子ドナー性基および電子アクセプター性基は単結合で環骨格に結合していてもよいし、アルキレン基、アリーレン基、ヘテロアリーレン基などの連結基を介して環骨格に連結していてもよい。
本発明で対象とする遅延蛍光分子は、[遅延蛍光分子の物理量導出方法]の欄に記載した遅延蛍光分子であれば特に制限されない。具体例として、環骨格と、該環骨格に電子ドナー性基と電子アクセプター性基が結合した構造を有するドナー・アクセプター型の遅延蛍光分子およびヘテロ原子による多重共鳴効果を用いた遅延蛍光分子を挙げることができる。
環骨格の例として、芳香環を挙げることができる。芳香環は芳香族炭化水素環であっても芳香族複素環であってもよい。芳香族炭化水素環の炭素数は特に制限されず、例えば6~40程度である。また、芳香族複素環のヘテロ原子として、ホウ素原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子を挙げることができる。芳香族複素環の炭素数は特に制限されず、例えば3~40程度である。
「電子ドナー性基」とはハメットのσp値が負である置換基を意味し、「電子アクセプター性基」とはハメットのσp値が正である置換基を意味する。ハメットのσp値に関する説明と置換基の具体例については、Hansch,C.et.al.,Chem.Rev.,91,165-195(1991)のσp値に関する記載と置換基の例を参照することができる。電子ドナー性基および電子アクセプター性基は単結合で環骨格に結合していてもよいし、アルキレン基、アリーレン基、ヘテロアリーレン基などの連結基を介して環骨格に連結していてもよい。
本発明の遅延蛍光分子の物理量導出方法によれば、項間交差および逆項間交差における活性化エネルギーEa、ΔESTおよびスピン軌道相互作用強度(|<ψf|HSOC|ψi>|)を、実測値を用いて正しい値で導出することができる。そのため、本発明の物理量導出方法で導出した物理量を指標にすることにより、所望の特性を有する遅延蛍光分子を確実に設計することができ、また、特定の量子化学計算法を、遅延蛍光分子の遷移過程を正しく反映した物理量が算出されるものに確実に改良することができる。このため、本発明は産業上の利用可能性が高い。
Claims (23)
- 遅延蛍光分子の過渡発光強度を温度を変えて測定することにより、項間交差および逆項間交差の少なくとも一方の絶対温度(T)と速度定数(kSC)の関係を取得し、
項間交差の活性化エネルギー(Ea ISC)、逆項間交差の活性化エネルギー(Ea RISC)、最低励起一重項エネルギーと最低励起三重項エネルギーの差(ΔE)、項間交差のスピン軌道相互作用強度(|<ψT|HSOC|ψS>|)および逆項間交差のスピン軌道相互作用強度(|<ψS|HSOC|ψT>|)からなる群より選択される1以上の物理量をマーカスプロットから導出する工程を含む、遅延蛍光分子の物理量導出方法。 - 項間交差の活性化エネルギー(Ea ISC)を導出する、請求項1または2に記載の遅延蛍光分子の物理量導出方法。
- 項間交差の活性化エネルギー(Ea ISC)を下記式(2a)の計算により導出する、請求項1~3のいずれか1項に記載の遅延蛍光分子の物理量導出方法。
式(2a)
Ea ISC=αISC×(-kB)
[式(2a)において、Ea ISCは項間交差の活性化エネルギー、αISCは項間交差の絶対温度(T)と速度定数(kISC)の関係に基づいて作成したマーカスプロットの傾き、kBはボルツマン定数を表す。] - 逆項間交差の活性化エネルギー(Ea RISC)を導出する、請求項1~4のいずれか1項に記載の遅延蛍光分子の物理量導出方法。
- 逆項間交差の活性化エネルギー(Ea RISC)を下記式(2b)の計算により導出する、請求項1~5のいずれか1項に記載の遅延蛍光分子の物理量導出方法。
式(2b)
Ea RISC=αRISC×(-kB)
[式(2b)において、Ea RISCは逆項間交差の活性化エネルギー、αRISCは逆項間交差の絶対温度(T)と速度定数(kRISC)の関係に基づいて作成したマーカスプロットの傾き、kBはボルツマン定数を表す。] - 最低励起一重項エネルギーと最低励起三重項エネルギーの差(ΔEST)を導出する、請求項1~6のいずれか1項に記載の遅延蛍光分子の物理量導出方法。
- 最低励起一重項エネルギーと最低励起三重項エネルギーの差(ΔEST)を下記式(3)の計算により導出する、請求項1~7のいずれか1項に記載の遅延蛍光分子の物理量導出方法。
式(3)
ΔEST=Ea RISC-Ea ISC
[式(3)において、ΔESTは最低励起一重項エネルギーと最低励起三重項エネルギーの差、Ea RISCはマーカスプロットから導出した逆項間交差の活性化エネルギー、Ea ISCはマーカスプロットから導出した項間交差の活性化エネルギーを表す。] - 項間交差のスピン軌道相互作用強度(|<ψT|HSOC|ψS>|)を導出する、請求項1~8のいずれか1項に記載の遅延蛍光分子の物理量導出方法。
- 逆項間交差のスピン軌道相互作用強度(|<ψS|HSOC|ψT>|)を導出する、請求項1~10のいずれか1項に記載の遅延蛍光分子の導出方法。
- 再配向エネルギーの2つの計算値のうち、ΔESTの値以上である計算値を再配向エネルギー(λ)として用いる、請求項13または14に記載の遅延蛍光分子の物理量導出方法。
- ΔESTとして、下記式(3)の計算により求めた値を用いる、請求項13~15のいずれか1項に記載の遅延蛍光分子の物理量導出方法。
式(3)
ΔEST=Ea RISC-Ea ISC
[式(3)において、ΔESTは最低励起一重項エネルギーと最低励起三重項エネルギーの差、Ea RISCはマーカスプロットから導出した逆項間交差の活性化エネルギー、Ea ISCはマーカスプロットから導出した項間交差の活性化エネルギーを表す。] - 特定の構造を有する遅延蛍光分子について請求項1~16のいずれか1項の方法により1以上の物理量を導出し、
分子構造の一部を変更した遅延蛍光分子について請求項1~16のいずれか1項の方法により前記1以上の物理量を導出し、導出した物理量に基づく評価を行ってより評価が高い遅延蛍光分子を選択する工程を1回以上行う、
ことを含む、遅延蛍光分子の設計方法。 - 前記1以上の物理量が逆項間交差のスピン軌道相互作用強度((|<ψS|HSOC|ψT>|))を含む、請求項17に記載の遅延蛍光分子の設計方法。
- 前記1以上の物理量が逆項間交差の活性化エネルギー(Ea RISC)を含む、請求項17または18に記載の遅延蛍光分子の設計方法。
- 前記1以上の物理量が最低励起一重項エネルギーと最低励起三重項エネルギーの差(ΔEST)を含む、請求項17~19のいずれか1項に記載の遅延蛍光分子の設計方法。
- 下記(A)~(C)の少なくとも2つを満たす遅延蛍光分子を、より評価が高い遅延蛍光分子として選択する、請求項17~20のいずれか1項に記載の遅延蛍光分子の設計方法。
(A)逆項間交差のスピン軌道相互作用強度(|<ψS|HSOC|ψT>|)がより大きいこと
(B)逆項間交差の活性化エネルギー(Ea RISC)がより小さいこと
(C)最低励起一重項エネルギーと最低励起三重項エネルギーの差(ΔEST)がより小さいこと - 遅延蛍光分子の項間交差の活性化エネルギー(Ea ISC)、逆項間交差の活性化エネルギー(Ea RISC)、最低励起一重項エネルギーと最低励起三重項エネルギーの差(ΔEST)、再配向エネルギー(λ)、項間交差のスピン軌道相互作用強度(|<ψT|HSOC|ψS>|)および逆項間交差のスピン軌道相互作用強度(|<ψS|HSOC|ψT>|)からなる群より選択された物理量を、特定の量子化学計算法により導出し、
一部を変更した量子化学計算法により前記選択された物理量を導出し、前記遅延蛍光分子について請求項1~16のいずれか1項に記載の方法により得た物理量に近い方の量子化学計算法を選択する工程を1回以上行う、
ことを含む、量子化学計算法の改良方法。 - 請求項1~22のいずれか1項に記載の方法を実施するプログラム。
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JP2021027797A JP2022129192A (ja) | 2021-02-24 | 2021-02-24 | 遅延蛍光分子の物理量導出方法、遅延蛍光分子の設計方法、量子化学計算法の改良方法およびプログラム |
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WO2023167273A1 (ja) * | 2022-03-04 | 2023-09-07 | 株式会社Kyulux | 有機発光素子、遅延蛍光材料の評価方法、遅延蛍光材料の設計方法、有機発光素子の設計方法、およびプログラム |
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