JP2022109143A - ウイルス濃縮用材料 - Google Patents

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Ryota Shiiba
武彦 植松
Takehiko Uematsu
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Akira Kumagai
佑太 松村
Yuta Matsumura
卓人 東條
Takahito Tojo
篤 長見
Atsushi Nagami
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Abstract

【課題】ウイルスを簡便に濃縮し、検出感度を高めることが可能なウイルス濃縮用材料、それを用いたウイルス濃縮キット、ウイルス検査キット、ウイルス濃縮方法、及びウイルス検査方法の提供に関する。【解決手段】本発明の一形態に係るウイルス濃縮用材料は、繊維を有する繊維集合体と、前記繊維の表面に固定された、標的ウイルスに対する抗体と、を備える。前記繊維のメジアン繊維径は、20μm未満である。【選択図】図1

Description

本発明は、検査対象液中のウイルスを濃縮することが可能なウイルス濃縮用材料、その製造方法、それを用いたウイルス濃縮キット、ウイルス検査キット、ウイルス濃縮方法及びウイルス検査方法に関する。
ウイルスによる感染症の診断及び治療を行うために、患者から検体を採取してウイルス検査が行われる。感染の有無を判断可能なウイルス検査としては、検体からウイルスの遺伝子(核酸)を検出する遺伝子検査、検体からウイルスに特異的な抗体を用いてウイルスに特異的な蛋白質を検出する抗原検査等が挙げられる。
一方で、各検査方法は検出限界を有しており、当該検出限界以下の少量のウイルスは検出が困難となる。ウイルス検査の検出感度を高める方法として、検体中のウイルスを濃縮する試みがなされている。例えば、特許文献1には、表面に標的ウイルスに対する抗体を有するウイルス濃縮用材料が記載されている。
特開2002-78485号公報
近年、COVID-19等のウイルスによる感染症の拡大の防止が急務となっている。これに伴い、感染初期や無症状の患者の検体を含む多くの検体から、高い感度でウイルスを検出したいという要請が高まっている。このため、特許文献1に記載のウイルス濃縮用材料よりも高い濃縮率で、簡便かつ迅速にウイルスを濃縮し、ウイルスの検出感度を高めるための技術が望まれている。
本発明の課題は、ウイルスを簡便に濃縮し、検出感度を高めることが可能なウイルス濃縮用材料、その製造方法、それを用いたウイルス濃縮キット、ウイルス検査キット、ウイルス濃縮方法、及びウイルス検査方法の提供に関する。
本発明の一形態に係るウイルス濃縮用材料は、
繊維を有する繊維集合体と、
前記繊維の表面に固定された、標的ウイルスに対する抗体と、
を備える。
前記繊維のメジアン繊維径は、20μm未満である。
本発明の他の特徴は、特許請求の範囲及び以下の説明から明らかになるであろう。
本発明のウイルス濃縮用材料等によれば、ウイルスを簡便に濃縮し、検出感度を高めることが可能である。
本発明の一実施形態に係るウイルス濃縮用材料を示す模式的な正面図及びその一部を拡大する拡大図である。 本発明の他の実施形態に係るウイルス濃縮用材料を示す図であり、(A)~(D)は当該ウイルス濃縮用材料の製造過程を示す図、(E)は当該ウイルス濃縮用材料を示す正面図及びその一部を拡大する拡大図である。 本発明の他の実施形態に係るウイルス濃縮用材料を示す図であり、(A)及び(B)は当該ウイルス濃縮用材料の製造過程を示す図、(C)は当該ウイルス濃縮用材料を示す正面図及びその一部を拡大する拡大図である。 (A)は、本発明の他の実施形態に係るウイルス濃縮用材料を示す模式的な正面図及びその一部を拡大する拡大図であり、(B)は上記ウイルス濃縮用材料の保持部材の側面図である。 本発明の他の実施形態に係るウイルス濃縮用材料を示す模式的な斜視図及びその一部を拡大する拡大図である。 本発明の他の実施形態に係るウイルス濃縮用材料を示す模式的な正面図及びその一部を拡大する拡大図である。 本発明のウイルス濃縮用材料を用いたウイルスの濃縮原理を説明するための模式的な図である。 (A)は、本発明の一実施形態に係るウイルス濃縮用材料の製造方法を示すフロー図であり、(B)及び(C)は、それぞれ他の実施形態に係るウイルス濃縮用材料の製造方法を示すフロー図である。 本発明の一実施形態に係るウイルス濃縮用材料の製造に用いられる繊維製造装置を示す模式的な図である。 本発明の一実施形態に係るウイルス濃縮用材料を含むウイルス濃縮キット及びウイルス検査キットを示す模式的な図である。 本発明の他の実施形態に係るウイルス濃縮用材料を含むウイルス濃縮キット及びウイルス検査キットを示す模式的な図である。 (A)は、本発明の一実施形態に係るウイルス濃縮方法を示すフロー図であり、(B)及び(C)は、それぞれ他の実施形態に係るウイルス濃縮方法を示すフロー図である。 (A)は、本発明の一実施形態に係るウイルス検査方法を示すフロー図であり、(B)は他の実施形態に係るウイルス検査方法を示すフロー図である。 本発明の試験例1に係る結果を示すグラフであり、実施例i及び比較例i~iiiのサンプルに接触させたSARS-CoV-2のS1タンパク質分散液の上清中におけるS1タンパク質量を、ELISAによって検出した結果を示すグラフである。同グラフにおいて、横軸は各サンプル、縦軸は吸光度を示す。 本発明の試験例2に係る結果を示すグラフであり、各VHH抗体付き繊維集合体サンプルに結合したSARS-CoV-2のS1タンパク質量をELISAによって検出した結果を示すグラフである。同グラフにおいて、横軸は各サンプル、縦軸は吸光度を示す。 本発明の試験例3に係る結果を示すグラフであり、VHH抗体付き繊維集合体であるサンプル1~3に対するSARS-CoV-2シュードウイルスの吸着率の結果を示すグラフである。同グラフにおいて、横軸は各サンプル、縦軸はSARS-CoV-2シュードウイルスの吸着率を示す。 本発明の試験例4に係る結果を示すグラフであり、各繊維集合体サンプルの1gあたりに固定化されたVHH抗体の量をSDS-PAGEによって測定し、バンド強度を数値化した結果を示すグラフである。同グラフにおいて、横軸は各サンプル、縦軸はバンド強度を示す。
本明細書において、数値の限界値や範囲が記載されている場合には、その端点を含む。また、数値的な限界又は範囲に含まれるすべての値及びサブレンジは、明示的に書き出す場合と同様に、具体的に記載しているものとする。
本明細書において、単数で記載されている名詞は、「1つ以上」の意味を包含するものとする。
本発明の多数の修正および変形は、明らかに、以下の教示に照らして可能である。したがって、添付の特許請求の範囲の範囲内で、本発明は、本明細書に具体的に記載されている以外の方法で実施され得ることが理解される。
本明細書に記載の全ての特許文献及び参考文献は、長々と記載されている場合と同様に、この参照により本明細書に完全に組み込まれる。
[ウイルス濃縮用材料]
本発明のウイルス濃縮用材料は、ウイルス検査のための検査対象液中の標的ウイルスを簡便に濃縮し、かつ、検出感度を高めることが可能な材料である。
本発明のウイルス検査は、抗原検査及び遺伝子検査を含む。抗原検査は、ウイルスの有するタンパク質あるいはタンパク質の断片を検出する検査である。遺伝子検査は、ウイルスの遺伝子(核酸)を検出する検査である。
なお、本明細書において、「ウイルス検査」を単に「検査」とも称する。
また、本明細書において、「標的ウイルス」を単に「ウイルス」とも称する。
本発明の「検査対象液」とは、ウイルス検査の対象となる液であり、検査対象から採取された液状の検体又は検体を含む液を意味する。
本発明において「濃縮」とは、検査対象液からウイルス濃度のより高いウイルス含有液を生成するための操作であり、具体的には、本発明のウイルス濃縮用材料に検査対象液中のウイルスを集合及び結合させる操作を意味する。
本発明において「濃縮率」とは、検査対象液中のウイルス濃度に対する、濃縮後のウイルス含有液のウイルス濃度の比率を意味する。
本発明の一実施形態において、ウイルス濃縮用材料1は、繊維Fを有する繊維集合体2と、繊維Fの表面に固定された、標的ウイルスに対する抗体3と、を備える。この例は図1に示される。図1の拡大図に示すように、抗体3は繊維Fの表面に密に配置されていることが好ましい。
図1では、ウイルス濃縮用材料1が綿棒状の構成を有する例を示すが、後述するようにこれに限定されない。
(繊維集合体)
繊維集合体2は、一定の形状を保持することが可能な繊維Fの集合体である。繊維集合体2は、成形を容易にする観点から、繊維Fが塊状となった綿状、又はシート状であることが好ましい。
繊維集合体2が綿状の場合、繊維集合体2は、例えば、球体、楕円体若しくはこれらに類する形状、多面体若しくはこれに類する形状、錐体若しくはこれに類する形状、又はその他の形状から選択される任意の形状を有する。繊維集合体2は、これらのうち2以上の形状の構造体が組み合わされた構成を有していてもよい。
繊維集合体2がシート状の場合は、例えば、不織布、織布、編み地又はそれらの積層体で構成され、後述する繊維集合体2の比表面積を高める観点から、好ましくは不織布又はその積層体で構成される。シート状の繊維集合体2は、例えば、円形、楕円形若しくはこれらに類する形状、多角形状若しくはこれに類する形状、又はその他の形状から選択される任意の平面形状を有する。シート状の繊維集合体2は、広げた状態で用いられてもよく、あるいは、折り曲げ等によって変形された状態で用いられてもよい。
繊維集合体2のサイズは、検査対象液の量や検査対象液を収容する容器の容量等を鑑みて適宜設定できる。例えば、繊維集合体2が綿状の場合、繊維集合体2の最も長い部分の長さは、好ましくは1mm以上、より好ましくは3mm以上であり、好ましくは20mm以下、より好ましくは30mm以下である。繊維集合体2がシート状の場合、繊維集合体2の最も長い部分の長さは、好ましくは1mm以上、より好ましくは5mm以上であり、好ましくは30mm以下、より好ましくは20mm以下である。繊維集合体2の質量は、好ましくは0.1mg以上、より好ましくは1mg以上であり、好ましくは30mg以下、より好ましくは10mg以下である。
繊維集合体2は、繊維Fの表面に多くの抗体3を固定し、多くのウイルスを結合可能とする観点から、繊維径が極めて細い繊維Fにより形成される。具体的に、繊維Fのメジアン繊維径は、20μm未満である。これにより、後述する繊維集合体2の比表面積が高められ、単位質量あたりの繊維集合体2に固定可能な抗体3の量が向上する。
より詳細に、繊維Fのメジアン繊維径は、十分な比表面積を得て少ない繊維集合体量でより多くのウイルスを結合できるようにする観点から、好ましくは2μm以下、より好ましくは1μm以下、さらに好ましくは0.8μm以下である。
繊維Fのメジアン繊維径は、繊維集合体2の強度を高め、繊維集合体2の構造を維持することで、繊維集合体2の細孔構造の容積・表面積を高く維持し、より多くのウイルスと結合しやすくする観点から、好ましくは0.01μm以上、より好ましくは0.05μm以上、さらに好ましくは0.1μm以上である。
本発明の「繊維径」とは、円相当直径を意味し、「メジアン繊維径」とは、以下の方法で算出した繊維径を意味する。
繊維の繊維径は、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)の観察による二次元画像から繊維の塊、繊維の交差部分、ポリマー液滴といった欠陥を除いた繊維を任意に500本選び出し、繊維の長手方向に直交する線を引いたときの長さを繊維径として直接読み取ることで測定することができる。測定した500本の繊維径の分布からメジアン繊維径を求めることができる。
本発明の繊維Fは、確実に比表面積を高める観点から、均一性の高い繊維径を有することが好ましい。このような観点から、繊維集合体2に含まれる繊維Fの繊維径の分散値は、好ましくは0.5以上、より好ましくは1以上であり、好ましくは2.5以下、より好ましくは2以下である。
本発明の繊維径の分散値は、上述のように500本の繊維の繊維径を測定し、これらの測定値から以下の式(1)に基づいて算出することができる。
分散値=|累積頻度90%径-累積頻度10%径|÷メジアン径(累積頻度50%径)
…(1)
繊維Fの比表面積は、表面により多くの抗体3を固定可能とする観点から、好ましくは1m/g以上、好ましくは1.5m/g以上、より好ましくは2m/g以上である。
繊維Fの比表面積は、抗体3を表面に担持しやすい構成を得る観点から、好ましくは50m/g以下、好ましくは30m/g以下、より好ましくは10m/g以下である。
繊維Fの比表面積とは、細孔径0.1μm~100μmにおける細孔容量から算出される繊維集合体2の単位質量あたりの表面積を意味する。
繊維Fの比表面積を高めることで、単位質量あたりの繊維Fの表面、つまり抗体3の固定可能な領域が大きくなる。これにより、単位質量あたりの繊維集合体2に、より多くの抗体3が固定され、繊維集合体2のウイルスの結合量が向上する。したがって、繊維集合体2を用いて検査対象液を濃縮することで、より多くのウイルスが繊維集合体2に集められ、後述するようにウイルスの濃縮率が向上する。
繊維Fの比表面積は、JIS R 1655に規定される水銀圧入法に準じて、以下の方法で測定することができる。詳細には、測定対象から0.02gの繊維集合体を測定サンプルとして切り出す。該測定サンプルを入れた測定セルを水銀ポロシメーター(オートポアIV9500、マイクロメリティックス社製)にセットし、測定環境22℃、65%RH、水銀の表面張力γ:480dyn/cm、接触角θ:140°、水銀注入圧力Pの測定範囲:0psia(0MPa)以上60000psia(413.685MPa)以下の条件で、水銀注入圧力Pを所定の範囲内で上昇させていったときの該測定サンプルの累積細孔容積V(mL/g)を測定する。次いで、下記の式(2)に従って換算した換算細孔径D(μm)を横軸に、log微分細孔容積(dV/d(logD);mL/g)との関係を縦軸にプロットし、細孔容積分布を得る。つまり、換算細孔径Dを横軸にとり、累積細孔容積Vを細孔径Dの対数値で微分した細孔容積を縦軸にとって、細孔容積分布を得る。
D=4γcosθ/P …(2)
(γ:水銀の表面張力、θ:接触角、P:水銀注入圧力)
ここで得られた換算細孔径と該換算細孔径における細孔容量から該換算細孔径における細孔形状を円柱近似して表面積を求め、各換算細孔径ごとの表面積の積分値を測定サンプル重量で除した値を比表面積とする。
繊維集合体2は、繊維Fの基材として、繊維Fを形成可能な合成樹脂、又はセルロース等の天然繊維を含むことが好ましい。
当該合成樹脂は、熱可塑性樹脂又はその他の樹脂から選ばれる1種又は2種以上を含む。
熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリイミド系樹脂、芳香族ポリエーテルケトン系樹脂、ポリカーボネート樹脂等が挙げられる。これらの樹脂は一種を単独で、又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
ポリオレフィン系樹脂としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、エチレン-α-オレフィンコポリマー、エチレン-プロピレンコポリマー等が挙げられる。
ポリエステル系樹脂としては、ポリエチレンテフタレート、ポリテトラメチレンテフタレート、ポリブチレンテフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリヒドロキシ酪酸、ポリヒドロキシアルカノエート、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリ乳酸及び乳酸-ヒドロキシカルボン酸コポリマー等のポリ乳酸系樹脂、ポリブチレンナフタレート、液晶ポリマー等が挙げられる。
ポリアミド系樹脂としては、ナイロン6及びナイロン66、アラミド等が挙げられる。
ビニル系樹脂としては、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、酢酸ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラール等が挙げられる。
アクリル系樹脂としては、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸樹脂、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸及びポリメタクリル酸エステル等が挙げられる。
ポリイミド系樹脂としては、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂等が挙げられる。
芳香族ポリエーテルケトン系樹脂としては、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエテーテルエーテルケトンケトン等が挙げられる。
ニトリル系樹脂としては、ポリアクリロニトリル樹脂等が挙げられる。
上記材料の他、繊維集合体2は、特開2020-90097号公報の段落0040~0042に挙げられている繊維を形成可能な高分子化合物を含んでいてもよい。
繊維集合体2が熱可塑性樹脂を含むことで、熱融着によりバインダー等を使うことなく接着、賦形が可能となる等の効果を有する。
繊維集合体2は、天然繊維よりも容易に繊維Fを細径化する観点から、繊維Fの基材として、熱可塑性樹脂を含むことが好ましい。さらに、熱可塑性樹脂を用いて溶融電界紡糸法で繊維集合体2を形成すると、更に細径化させることができ、好ましい。
溶融電界紡糸法とは、高電圧が印加されている状態で繊維の原料となる樹脂を含む溶融液を電界中へ吐出することによって、吐出された溶融液が細長く引き伸ばされ、繊維径が細い繊維を形成することができる方法である。溶融電界紡糸法の詳細については後述する。
繊維集合体2の原料として熱可塑性樹脂を用いることで、加熱によって上記樹脂を含む溶融液が生成され、溶融電界紡糸法を用いて細径化した繊維Fが形成され得る。
<樹脂組成物中の熱可塑性樹脂の含有量の測定方法>
樹脂組成物中の熱可塑性樹脂の含有量は、以下の方法で測定することができる。具体的には、樹脂組成物をNMR(核磁気共鳴)分析、IR(赤外分光)分析等の各種分析に供して、これらの分析によって得られる各シグナル、スペクトルの位置に基づいて、分子骨格の構造及び分子構造の末端の官能基構造を同定する。これによって、含有する樹脂の種類を同定し、各種熱可塑性樹脂に相当する分子構造を示す測定値の強度から各種樹脂組成部中に含まれる熱可塑性樹脂の量を算出する。そして、該算出値を合計することにより樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂の含有量を測定することができる。
繊維集合体2が熱可塑性樹脂を含む場合、溶融電界紡糸法を安定的に実施する観点から、繊維集合体2の総質量に対する熱可塑性樹脂の含有量は、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは93質量%以上である。
また、後述する添加剤等を添加してより細径化及び/又は安定化した繊維Fを形成する観点から、繊維集合体2の総質量に対する熱可塑性樹脂の含有量は、好ましくは100質量%以下、より好ましくは99質量%以下、さらに好ましくは97質量%以下である。
さらに、繊維集合体2は、溶融電界紡糸法において安定した繊維形成性を得る観点から、繊維Fの基材として、ポリオレフィン樹脂を含むことがより好ましい。ポリオレフィン樹脂は、融点を有する樹脂である。「融点を有する」樹脂とは、示差走査熱量測定法(DSC法)において、測定対象の樹脂を加熱していったときに、該樹脂が熱分解する前に、固体から液体へ相変化することに起因する吸熱ピークを示す樹脂のことである。
ポリオレフィン樹脂の重量平均分子量は、好ましくは1万以上、さらに好ましくは4万以上、また、好ましくは15万以下、さらに好ましくは10万以下である。重量平均分子量は、例えば特開2014-129614号公報に記載の高温サイズ排除型クロマトグラフィー(高温SEC)法又は高温ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(高温GPC)法を用い、重量平均分子量が既知であり且つ重量平均分子量がそれぞれ異なるポリスチレン標準試料(例えば、東ソー株式会社製の単分散ポリスチレン(型番:F450、F288、F128、F80、F40、F20、F10、F4、F1、A5000、A2500、A1000、A500及びA300))を前記高温SEC法又は高温GPC法に供して分子量較正曲線を予め作成し、該較正曲線と測定試料の結果とを比較することによって測定することができる。なお、ポリオレフィン樹脂の重量平均分子量の測定には、ポリオレフィン樹脂の溶離液にオルソジクロロベンゼンを用い、溶解温度を140~150℃として溶解したポリプロピレン樹脂の溶解液を用いて測定を行う。
ポリオレフィン樹脂としては、例えばポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン-α-オレフィンコポリマー樹脂、エチレン-プロピレンコポリマー等が挙げられる。これらの樹脂は一種を単独で、又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
特に、繊維集合体2は、繊維Fの基材として、ポリプロピレン樹脂を含むことがより好ましい。これにより、溶融電界紡糸法による繊維Fの形成を効率よく行うことができる。
上記熱可塑性樹脂に加えて、繊維集合体2は、繊維Fの添加剤として、下記成分(A)及び下記成分(B)から選ばれる1種又は2種以上を含むことが好ましい。これにより、詳細を後述するように、溶融電界紡糸法を用いてより細径化した繊維Fを形成することができる。
(A)アニオン性界面活性剤
(B)成分(A)以外の可塑剤、ポリオレフィンワックス及び石油ワックスから選ばれる1種又は2種以上
上記添加剤の好ましい組み合わせとして、繊維集合体2は、下記成分(A)及び下記成分(B)を含む。これにより、成分(A)及び成分(B)のそれぞれが協働し、より細径化及び均一化した繊維Fが形成される。
成分(A)は、一般的に疎水性であるポリオレフィン樹脂等の熱可塑性樹脂を改質して、電場中で高い帯電量を発現させて細径の繊維を電界紡糸可能にするとともに、紡糸された繊維の表面物性を親水性にするために用いられる。熱可塑性樹脂の帯電量をより向上させて紡糸性を高める観点から、成分(A)は、その融点が、併用される熱可塑性樹脂の融点以下であることが好ましい。なお、繊維に発現する親水性とは、水又は水性液への繊維の分散性が高くなること、及び繊維間での水又は水性液の保持性が高くなることを意味する。
本発明に用いられる成分(A)の中では、硫酸エステル塩やスルホン酸塩が特に好ましい。硫酸エステル塩とは、分子構造中の末端にアルキル基を有し、且つ分子構造中の任意の位置に硫酸基を有する有機化合物の塩を意味する。このような硫酸エステル塩としては、例えば、高級アルコール硫酸エステル塩(R-O-SOM)等のアルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩(R-O-(CHCHO)-SOM)等のアルキルエーテル硫酸塩等が挙げられる。これらは単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
スルホン酸塩とは、分子構造の任意の位置にスルホン酸基を有する塩を意味する。
本発明におけるスルホン酸塩は、有機スルホン酸塩であることが好ましい。有機スルホン酸塩とは、分子構造中の末端にアルキル基又は芳香環の少なくともいずれか1つを有する、及び/又は、分子構造中の一部にアルキレン基を有するスルホン酸塩である。
さらに、有機スルホン酸塩は、分子構造中の末端にアルキル基を有する、及び/又は、分子構造中の一部にアルキレン基を有することが好ましい。加えて、有機スルホン酸塩は、分子構造中に塩構造をもったスルホン酸基を有することがより好ましい。
本発明に用いられる有機スルホン酸塩としては、例えば、アルキルスルホン酸塩(R-SOM)、アルキルベンゼンスルホン酸塩(R-Ph-SOM)、アルキルナフタレンスルホン酸塩(R-Np-SOM)、オレフィンスルホン酸塩(R-CH=CH-(CH-SOM及びR-CH(-OH)(CH-SOM)、アルキルスルホこはく酸塩(R-OOC-CH-CH(-SOM)-COOM)、ジアルキルスルホこはく酸塩(R-OOC-CH-CH(-SOM)-COO-R)、α-スルホ脂肪酸エステル塩(R-CH(-SOM)-COO-CH)、アシルイセチオン酸塩(R-CO-O-(CHCH)-SOM)、アシルタウリン塩(R-CO-NH-(CH-SOM)、アシルアルキルタウリン塩(R-CO-N(-R')-(CH-SOM)等のN‐アルキル‐N‐アシルアミノアルキルスルホン酸塩、β‐ナフタレンスルホン酸塩ホルマリン縮合物(M-OS-Np-(CH-Np(-SOM))-H)等が挙げられる。これらは単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
上述した硫酸エステル塩及びスルホン酸塩において、Rは、直鎖又は分枝鎖のアルキル基を表し、その炭素数は好ましくは8以上、より好ましくは10以上、さらに好ましくは12以上であり、好ましくは22以下、より好ましくは20以下、さらに好ましくは18以下である。R'は、直鎖又は分枝鎖のアルキル基を表し、その炭素数は好ましくは5以下である。Phは、置換されていてもよいフェニル基を表す。Npは、置換されていてもよいナフチル基を表す。Mは一価の陽イオンを表し、好ましくは金属イオンであり、さらに好ましくはナトリウムイオンである。nは、好ましくは6以上、より好ましくは8以上、さらに好ましくは10以上の数であり、好ましくは24以下、より好ましくは22以下、さらに好ましくは20以下の数を表す。これらの硫酸エステル塩及びスルホン酸塩は、これらのうち一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせた混合物として用いてもよい。
これらの硫酸エステル塩及びスルホン酸塩のうち、アルキル硫酸塩、アルキルエーテル硫酸塩、アルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、オレフィンスルホン酸塩、及びN‐アルキル‐N‐アシルアミノアルキルスルホン酸塩のうち少なくとも一種を用いることが好ましく、アシルアルキルタウリン塩を用いることがさらに好ましい。成分(A)としてこのような成分を用いることによって、細い繊維径を有する繊維Fを一層効率よく溶融電界紡糸することができるとともに、紡糸された繊維Fの表面に親水性が付与されたものとなる。加えて、繊維径が均一化され、繊維集合体2の比表面積がより効果的に向上する。
成分(A)として有機スルホン酸塩を用いる場合、有機スルホン酸塩の繊維集合体2の総質量に対する含有量は、樹脂を改質して、電場中で高い帯電量を発現させて細径の繊維Fを電界紡糸可能にするとともに、紡糸された繊維Fの表面物性を親水化することが可能となる観点から、好ましくは0質量%超、より好ましくは3質量%以上、さらに好ましくは4質量%以上である。
また、細径の繊維Fの形成を可能とする観点から、好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは8質量%以下である。
成分(A)以外の可塑剤、ポリオレフィンワックス及び石油ワックスから選ばれる1種又は2種以上である成分(B)は、上記熱可塑性樹脂を溶融して電界紡糸に供するときに、溶融した熱可塑性樹脂の流動性を高めて、より細径の繊維を製造可能にするために用いられるものである。
成分(B)は、その重量平均分子量がポリオレフィン樹脂等の熱可塑性樹脂よりも小さいものであることが好ましく、特に成分(B)としてポリオレフィンワックスを用いる場合には、好ましくは600以上、より好ましくは1000以上、さらに好ましくは1000超、一層好ましくは2000以上、また、好ましくは20000以下、より好ましくは10000以下、さらに好ましくは9000以下、一層好ましくは8000以下のものである。重量平均分子量は、ポリオレフィンワックスについては例えば上述したポリオレフィン樹脂と同様の方法で測定することができる。
石油ワックスの重量平均分子量も、ポリオレフィン樹脂等の熱可塑性樹脂よりも小さいものであり、好ましくは100以上、より好ましくは200以上、更に好ましくは250以上、一層好ましくは300以上、また、好ましくは1000以下、より好ましくは1000未満、更に好ましくは900以下、一層好ましくは800以下のものである。石油ワックスの重量平均分子量は、例えばガスクロマトグラフィー質量分析(GC-MS)法(GC-MS装置、日本電子株式会社製、型番:JMS-T100GC)で測定することができる。
可塑剤とは、高分子や合成樹脂に流動性を与え成形しやすくしたり、成形品に柔軟性を与えたりするために添加される物質を言い、嵩高い側鎖を有し、極性部と非極性部を有する化合物が用いられる。本発明に用いられる可塑剤は、例えば脂肪酸エステル、アルキルグリセリド、フタル酸エステル、トリメリット酸エステル、リン酸エステル、クエン酸エステル、エポキシ化植物油、低分子ポリエステルから選ばれる1種又は2種以上を含むことが好ましい。中でも脂肪酸エステル、アルキルグリセリド、クエン酸エステルから選ばれる1種又は2種以上を含むことがより好ましい。このうち脂肪酸エステルは炭素数14から22までの飽和脂肪酸のいずれかと炭素数14から22までを有するアルコールのいずれかで形成されるものを含むことが更に好ましい。アルキルグリセリドは炭素数14から22までの飽和脂肪酸のいずれかとのトリグリセリドを含むことが更に好ましい。クエン酸エステルは炭素数14から22までを有するアルコールとのトリエステルを含むことが更に好ましい。
本発明に用いられるポリオレフィンワックスは、直鎖若しくは分枝鎖又は環式若しくは非環式の脂肪族飽和炭化水素の一種以上からなる合成物を指すものであり、好ましくは直鎖又は分枝鎖であり且つ非環式のアルカンである。ポリオレフィンワックスとしては、例えば、H-(CH-CH-Hで表されるポリエチレンワックス、H-(CH-CH(CH))-Hで表されるポリプロピレンワックス、H-(CH-CH-(CH-CH(CH))-H、H-(CH-CH(CH))-(CH-CH-H及びH-(CH-CH-CH-CH(CH))-Hで表されるエチレン‐プロピレン共重合ワックス等が挙げられる。これらは単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
上述したポリオレフィンワックスの各化学式において、qは、好ましくは24以上、より好ましくは48以上、さらに好ましくは100以上の数であり、また好ましくは500以下、より好ましくは250以下、さらに好ましくは220以下の数を表す。r及びsは、それぞれ正の数であり、r及びsの総和として、好ましくは24以上、より好ましくは48以上、さらに好ましくは100以上の数であり、また好ましくは500以下、より好ましくは250以下、さらに好ましくは220以下の数を表す。tは、好ましくは12以上、より好ましくは24以上、さらに好ましくは50以上の数であり、また好ましくは250以下、より好ましくは125以下、さらに好ましくは110以下の数を表す。
本発明に用いられる石油ワックスは、常温で固体の炭化水素であり、好ましくは直鎖若しくは分枝鎖又は環式若しくは非環式の脂肪族飽和炭化水素の一種以上から構成されおり、例えば、JIS K2235-1991で規定される石油ワックス等が挙げられる。その中でも、直鎖の脂肪族飽和炭化水素を主として含むパラフィンワックス、直鎖、分枝鎖及び環式の脂肪族飽和炭化水素をそれぞれ含むマイクロクリスタリンワックス等から選ばれる一又は複数を含むことが好ましい。これらは単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
これらのポリオレフィンワックス及び石油ワックスのうち、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、エチレン‐プロピレン共重合ワックス、エチレンワックス、パラフィンワックスのうち少なくとも一種を用いることが好ましく、ポリプロピレンワックス又はエチレン‐プロピレン共重合ワックス、の少なくとも一種を用いることがさらに好ましい。成分(B)としてこのような成分を用いることによって、繊維Fの原料を溶融して溶融電界紡糸に用いるときに、溶融液の流動性を高めて吐出及び延伸を効率よく行うことができ、その結果、より細径化かつ均一化された繊維を高い生産効率で製造することができる。
上記添加剤に替えて又は上記添加剤に加えて、繊維集合体2は、繊維Fの添加剤として、ヒンダードアミン系化合物及び/又はトリアジン系化合物を含んでいることが好ましい。ヒンダードアミン系化合物及び/又はトリアジン系化合物は、光安定剤として、製造後の繊維Fの品質の安定化に寄与する。
ヒンダードアミン系化合物は、2,2,6,6,-テトラメチル-4-ピペリジンを基本骨格とする化合物であり、熱や光に安定で,高分子化合物を着色しないという利点を有する。ヒンダードアミン系化合物としては、テトラキス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)ブタン-1,2,3,4-テトラカルボキシレート等が挙げられる。
トリアジン系化合物は、複素環式化合物の一種で、3個の窒素を含む不飽和の6員環構造を有する化合物である。トリアジン系化合物としては、1,2,3-トリアジン、1,2,4-トリアジン、1,3,5-トリアジン等が挙げられる。
ヒンダードアミン系化合物及び/又はトリアジン系化合物の繊維集合体2の総質量に対する含有量は、製造後の繊維Fの品質の安定化を実現できる観点から、好ましくは0質量%超、より好ましくは3質量%以上、さらに好ましくは5質量%以上である。
また、細径の繊維Fを形成可能とする観点から、好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは8質量%以下である。
繊維集合体2は、上記以外の添加剤をさらに含んでいてもよい。当該添加剤としては、例えば酸化防止剤、上記以外の光安定剤、紫外線吸収剤、及び金属不活性剤などが挙げられる。酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、フォスファイト系酸化防止剤及びチオ系酸化防止剤などが例示できる。光安定剤及び紫外線吸収剤としては、ニッケル錯化合物、ベンゾトリアゾール類、ベンゾフェノン類などが例示できる。金属不活性剤としては、フォスフォン類、エポキシ類、トリアゾール類、ヒドラジド類、オキサミド類等が挙げられる。これらの添加剤は、単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。繊維集合体2がこれらの添加剤を含む場合、繊維集合体2に含まれる上記添加剤の含有量は、0.01質量%以上であることが好ましく、0.05質量%以上であることがより好ましく、また、10質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましい。
なお、繊維Fが含む樹脂や添加剤の含有量や分子構造は、NMR、各種クロマトグラフィー、IR分析等の公知の技術やその組み合わせによって分子構造を特定し同定することができる。また、添加物の含有量は、上記の測定手段によって、上記の分子構造を示す部分の測定値の強度で測定することができる。
また添加剤は、測定対象となる繊維から添加剤を各種溶剤でソックスレー抽出・濃縮し、該濃縮液を熱分解ガスクロマトグラフ(GC-MS)分析を行うこともできる。ここで得られたマススペクトルより化合物を同定するとともに、含有量を算出することもできる。
繊維集合体2は、上記の各材料に加えて、表面改質剤をさらに含んでいることが好ましい。表面改質剤は、製造後の繊維F又は繊維集合体2の表面を改質し、水に対する濡れ性を高める材料である。繊維集合体2が表面改質剤を含むことで、繊維Fの表面に多くの抗体3を固定できるとともに、検査対象液との接触時に、より多くのウイルスを抗体3に吸着させることができる。
繊維集合体2は、表面改質剤として、アニオン性ポリマー及び/又はカチオン性ポリマーを含んでいることが好ましい。
本発明のアニオン性ポリマーはアニオン性基を有し、該アニオン性基としては、カルボキシ基(-COOM)、スルホン酸基(-SOM)、リン酸基(-OPO)等の解離して水素イオンが放出されることにより酸性を呈する基、又はそれらの解離したイオン形(-COO、-SO 、-OPO 2-、-OPO M)等が挙げられる。上記化学式中、Mは、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム又は有機アンモニウムを示す。
アニオン性ポリマーは、好ましくは酸性基を有するモノマー由来の構成単位を含むアニオン性ポリマーCI(以下、「アニオン性ポリマーCI」ともいう)である。
酸性基を有するモノマーは、好ましくはカルボキシ基を有するモノマーであり、より好ましくは、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸及び2-メタクリロイルオキシメチルコハク酸から選ばれる少なくとも1種であり、更に好ましくは(メタ)アクリル酸である。
ここで、「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸及びメタクリル酸から選ばれる少なくとも1種を意味する。
アニオン性ポリマーCIは、更に酸性基を有するモノマー以外の他のモノマー由来の構成単位を含む共重合体であることが好ましい。他のモノマーとしては、脂肪族アルコール由来の炭化水素基を有する(メタ)アクリレート、芳香族基含有モノマーやオレフィン等の疎水性モノマー;ノニオン性モノマーなどが挙げられる。
ここで、「(メタ)アクリレート」は、アクリレート及びメタクリレートから選ばれる1種以上を意味する。
脂肪族アルコール由来の炭化水素基を有する(メタ)アクリレートは、好ましくは炭素数1以上22以下、より好ましくは1以上12以下、更に好ましくは1以上8以下の脂肪族アルコール由来の炭化水素基を有するものである。該(メタ)アクリレートとしては、直鎖アルキル基を有する(メタ)アクリレート、分岐鎖アルキル基を有する(メタ)アクリレート、脂環式アルキル基を有する(メタ)アクリレート等が挙げられる。
芳香族基含有モノマーは、好ましくは、ヘテロ原子を含む置換基を有していてもよい、炭素数6以上22以下の芳香族基を有するビニルモノマーであり、より好ましくはスチレン系モノマー及び芳香族基含有(メタ)アクリレートから選ばれる少なくとも1種である。
スチレン系モノマーとしては、スチレン、α-メチルスチレン、2-メチルスチレン、ビニルトルエン、ジビニルベンゼン等が挙げられる。
芳香族基含有(メタ)アクリレートとしては、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
アニオン性ポリマーCIにおけるノニオン性モノマーとしては、(メタ)アクリルアミド;N-ビニル-2-ピロリドン;N-アルキル(メタ)アクリルアミド;ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート(n=2~30、nは当該オキシアルキレン基の平均付加モル数を示す。以下も同様である。);アルコキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート(n=1~30);フェノキシ(エチレングリコール・プロピレングリコール共重合)(n=1~30、その中のエチレングリコール:n=1~29)(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
他にβ-ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、リグニンスルホン酸及びそれらの塩なども挙げられる。
前述の各モノマーは、それぞれ単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
商業的に入手しうるアニオン性ポリマーCIとしては、デモールN、デモールP、デモールEP、ポイズ520、ポイズ521、ポイズ530(以上、花王株式会社)、ウルトラホールド8、ウルトラホールドストロング、ウルトラホールドパワー(以上、BASFジャパン株式会社)、アンフォーマーV-42(ナショナルスターチ社)等のアクリル酸/アクリル酸アルキルエステル/(N-アルキル)アクリルアミド共重合体;カーボポール980、981(以上、Lubrizol Advanced Materials社)等のカルボキシビニルポリマー;ダイヤホールド(三菱化学株式会社)等の(メタ)アクリル酸/(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体;プラスサイズL-53P、L-75CB、L-9540B、L-6466、L-3200B(互応化学工業株式会社)等の(アクリル酸/ジアセトンアクリルアミド)コポリマーAMP又は(アクリル酸/アクリル酸アルキルエステル/ジアセトンアクリルアミド)コポリマーAMP;ルビフレックスVBM35(BASF社)等の(メタ)アクリル酸/アクリル酸アルキルエステル/ポリビニルピロリドン共重合体等が挙げられる。
本発明においてカチオン性ポリマーの「カチオン性」とは、未中和のポリマーを脱イオン水に分散又は溶解させた場合、pHが7より大となること、第4級アンモニウム基等を有するポリマーの場合はその対イオンを水酸化物イオンとして脱イオン水に分散又は溶解させた場合、pHが7より大となること、又はポリマー等が脱イオン水に不溶であり、pHが明確に測定できない場合には、脱イオン水に分散させた分散体のゼータ電位が正となることをいう。
カチオン性ポリマーは、好ましくは、第1~3級アミノ基、第4級アンモニウム基、ヒドラジノ基等の塩基性基を有し、より好ましくは第4級アンモニウム基を有する。
なお、塩基性基は、塩酸、硫酸、硝酸、酢酸、ギ酸、マレイン酸、フマル酸、クエン酸、酒石酸、アジピン酸、乳酸等の酸で中和されたものを含む。
カチオン性ポリマーとしては、天然系カチオン性ポリマー、合成系カチオン性ポリマーが挙げられる。
天然系カチオン性ポリマーは、天然物から抽出、精製等の操作により得られるポリマー及び該ポリマーを化学的に修飾したものであり、ポリマー骨格にグルコース残基を有するものが挙げられる。具体的には、カチオン化グアガム;カチオン化タラガム;カチオン化ローカストビーンガム;カチオン化セルロース;カチオン化ヒドロキシアルキルセルロース;カチオン性澱粉などが挙げられる。
合成系カチオン性ポリマーとしては、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン又はそれらの酸中和物、ポリグリコール-ポリアミン縮合物、カチオン性ポリビニルアルコール、カチオン性ポリビニルピロリドン、カチオン性シリコーンポリマー、2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート重合体又はそれらの酸中和物、2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート/ラウリルメタクリレート共重合体、ポリ(トリメチル-2-メタクリロイルオキシエチルアンモニウムクロリド)、アミン/エピクロロヒドリン共重合体、N,N-ジメチルアミノエチルメタクリル酸ジエチル硫酸塩/ビニルピロリドン共重合体、N,N-ジメチルアミノエチルメタクリル酸ジエチル硫酸塩/N,N-ジメチルアクリルアミド/ジメタクリル酸ポリエチレングリコール共重合体、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド/アクリルアミド共重合体、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド/二酸化硫黄共重合体、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド/ヒドロキシエチルセルロース共重合体、1-アリル-3-メチルイミダゾリウムクロリド/ビニルピロリドン共重合体、アルキルアミノ(メタ)アクリレート/ビニルピロリドン共重合体、アルキルアミノ(メタ)アクリレート/ビニルピロリドン/ビニルカプロラクタム共重合体、(3-(メタ)アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロリド/ビニルピロリドン共重合体、アルキルアミノアルキルアクリルアミド/アルキルアクリルアミド/(メタ)アクリレート/ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート共重合体、等が挙げられる。これらは、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
中でも、好ましくは塩基性基を有するモノマー由来の構成単位を含むカチオン性ポリマーCII(以下、「カチオン性ポリマーCII」ともいう)である。
カチオン性ポリマーCIIは、塩基性基を有するモノマー由来の構成単位を含む。該塩基性基としては、前述と同じものが挙げられる。
塩基性基を有するモノマーとしては、アルキルアミノ(メタ)アクリレート;N,N-ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート;N-[3-(ジメチルアミノ)プロピル](メタ)アクリルアミド;ジアリルジアルキルアンモニウムなどのアミノ基含有モノマー、その酸中和物又は四級化物が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
酸中和するための酸としては、塩酸、硫酸、硝酸、酢酸、ギ酸、マレイン酸、フマル酸、クエン酸、酒石酸、アジピン酸、乳酸等が挙げられ、四級化剤としては、塩化メチル、塩化エチル、臭化メチル、ヨウ化メチル等のハロゲン化アルキル、硫酸ジメチル、硫酸ジエチル、硫酸ジ-n-プロピル等のアルキル化剤が挙げられる。
また、該塩基性基を有するモノマーと、アクリル酸アルキルエステル又はメタアクリル酸アルキルエステルとの共重合体もカチオン性ポリマーCIIの好ましい例として挙げられる。
繊維集合体2は、表面改質剤として、アニオン性ポリマー及び/又はカチオン性ポリマーに加えて、さらにこれらを錯体化可能な金属イオンを含んでいることが好ましい。本発明の表面改質剤として用いられる金属イオンとしては、ニッケルイオン、コバルトイオン及び銅イオンが挙げられ、特にニッケルイオンが好ましい。
本発明の繊維Fは、繊維集合体2において、互いに融着し、及び/又は絡み合っていることが好ましい。
「融着」とは、繊維F同士が溶融して接着した状態を意味する。
「絡み合い」とは、繊維F同士が互いに絡んだ状態を意味する。
さらに、繊維集合体2が、繊維Fの表面又は繊維F間に接着剤を含んでおらず、融着及び又は絡み合いによって形状を保持していることが好ましい。本発明の繊維Fは、非常に細い径を有するため、特に融着や絡み合いが起きやすい。したがって、繊維集合体2は、接着剤を含まずとも良好に形状を保持することが可能となる。
これにより、繊維Fの表面に接着剤が存在しない状態となり、抗体3のウイルス結合活性が維持される。したがって、繊維集合体2による高いウイルス結合量が維持され、ウイルスの濃縮率がより確実に向上する。また、接着剤を用いないことでウイルス検査をより精度よく実施することができ、ウイルス濃縮用材料1が医療用の材料としてより適したものとなる。
(ウイルス濃縮用材料の具体的な構成例)
本発明のウイルス濃縮用材料1は、繊維集合体2を検査対象液に接触可能とする観点から、種々の構成を採り得る。
ウイルス濃縮用材料1は、繊維集合体2と、抗体3と、に加えて、繊維集合体2を保持する一端部4aと、一端部4aから延びる延在部4bと、を含む保持部材4をさらに備えていてもよい。その例は図1~図4に示されている。
延在部4bは、一端部4aから1又は複数の方向に延びる長い形状を有し、好ましくは一端部4aから一方向に延びる形状を有する。延在部4bは、全体として長く延びていればよく、一部が湾曲若しくは屈曲している形状、一部が太くなっている形状、一部にスリットや突起等の構造を有する形状、及び分岐している形状等を有していてもよい。
延在部4bは、ヒトが指でつまめる大きさであることが好ましい。
保持部材4は、具体的には、剛体又は弾性部材等で構成された棒、不織布等のシート材等で構成されることが好ましい。
「一端部4aが繊維集合体2を保持する」とは、一端部4aが、少なくとも濃縮処理の間、繊維集合体2と接続された状態を維持できることを意味する。
保持部材4は、ウイルス濃縮用材料1の使用時において、例えば一端部4a側で繊維集合体2を保持しつつ、延在部4bをユーザに把持される。これにより、保持部材4を把持した当該ユーザが、検査対象液に、繊維集合体2を衛生的に接触させることができる。
保持部材4を備えたウイルス濃縮用材料1は、繊維集合体2と保持部材4とが一体に接続されていてもよい。
本明細書において、「保持部材4が繊維集合体2に接続される」とは、保持部材4と繊維集合体2が分離不可能に一体化することを意味する。
一実施形態において、ウイルス濃縮用材料1が綿棒状に構成される。この例において、繊維集合体2は綿状であり、保持部材4は紙、木材又はプラスチック等で形成された棒であり得る。一端部4aは、繊維集合体2に覆われた状態となる。その例は図1に示されている。
「棒」とは、全体として細長い構造物を意味する。棒状の延在部4bは、長手方向に直交する断面が一様な棒に限定されず、一部が太くなっている形態、一部にスリットや突起等の構造を有する形態、一部が湾曲若しくは屈曲している形態、及び分岐している形態等を含む。
繊維集合体2と保持部材4との接続方法は限定されないが、保持部材4は、接着剤を介さずに繊維集合体2を保持することが好ましく、保持部材4表面に繊維集合体2が直接接して保持されていることが好ましい。この場合、繊維集合体2は、一端部4aに繊維Fが絡み付くことによって保持部材4に接続される。繊維集合体2では、繊維Fの繊維径が細いため、繊維Fが保持部材4の周りに絡み付きやすく、接着剤を含まずとも保持部材4との接続状態を維持することが可能となる。これにより、接着剤による繊維集合体2のウイルス結合量の低下が抑制されるとともに、ウイルス濃縮用材料1が医療用の材料としてより適したものとなる。
繊維集合体2と保持部材4とが一体に接続されたウイルス濃縮用材料1は、他の実施形態として、積層構造を有するシート状の繊維集合体2を備えていてもよい。繊維集合体2は、好ましくは、保持部材4の一端部4aの表裏を覆うように積層されている。繊維集合体2は、積層構造を維持するとともに、後述する貫通孔4dを介して保持部材4に接続される観点から、貫通孔4dを挟んで対向する繊維集合体2同士が貫通孔4dを介して接合された接合部4eを含むことが好ましい。この例は、図2(E)に示されている。
図2(E)に示す構成を実現するため、ウイルス濃縮用材料1は、図2(A)に示すように、一端部4aに貫通孔4dを含む棒状の保持部材4を備えることが好ましい。貫通孔4dの平面形状は特に限定されず、図2(A)に示すような矩形状の他、円形状、楕円形状等の任意の形状を採り得る。
図2(E)に示すウイルス濃縮用材料1の作製方法の一例について説明する。
まず、図2(A)に示すような棒状の保持部材4を準備する。この保持部材4は、プラスチック、紙、又は木材等で構成され得るが、成形性の観点から、プラスチックで構成されることが好ましい。
そして、図2(B)及び(C)に示すように、この保持部材4の貫通孔4dを覆うように、シート状の繊維集合体2が折り畳まれて配置される。
そして、図2(D)に示すように、貫通孔4dを挟んで対向する繊維集合体2同士が、貫通孔4dを介して接合され、接合部4eが形成される。接合部4eは、熱シール又は超音波シール等による融着によって形成されることが好ましい。これにより、保持部材4と繊維集合体2とが接続される。
そして、図2(D)の繊維集合体2の周縁部を切除することにより、図2(E)の構成のウイルス濃縮用材料1が作製される。
さらに他の実施形態として、ウイルス濃縮用材料1は、シート材を有する延在部4bを含む保持部材4を備えていてもよい。延在部4bは、典型的には細長い形状の1又は2以上のシート材を含み、好ましくはシート材の積層構造を有する。当該シート材は、不織布、織布、又は紙等で構成され得るが、後述する接合部4jを容易に形成する観点から、不織布で構成されることが好ましい。なお、延在部4bに用いられる「不織布」は、本発明の繊維集合体2とは異なる構成を有する不織布である。
この実施形態において、繊維集合体2は、典型的にはシート状であって、好ましくは積層構造を有する。この例は、図3(C)に示されている。
図3(C)に示すウイルス濃縮用材料1の作製方法の一例について説明する。
図3(A)に示すように、延在部4bに用いられるシート材4fと、シート状の繊維集合体2とが積層され、積層体4gが形成される。シート状の繊維集合体2の一部は、シート材4fの一端部4hと重なるように配置される。
続いて、図3(B)に示すように、シート材4fと繊維集合体2とを接合する接合部4jが形成される。接合部4jは、熱シール又は超音波シール等による融着によって形成されることが好ましい。接合部4jは、上記一方向に沿って、シート材4fから繊維集合体2まで延びることが好ましい。
接合部4jに沿って、積層体4gの上記一方向の全長にわたって切断することで、図3(C)に示すウイルス濃縮用材料1が作製される。
上記製造方法により、図3(C)に示すウイルス濃縮用材料1は、延在部4bから繊維集合体2まで延びる接合部4jを含む。この接合部4jは、好ましくはウイルス濃縮用材料1の側縁部に沿って配置される。この例では、接合部4jにより、保持部材4と繊維集合体2とが接続される。
さらに他の実施形態として、保持部材4は、一端部4aに形成された、繊維集合体2の取り付けが可能な取付部4cを含んでいてもよい。
本明細書において、「保持部材4が繊維集合体2に取り付けられる」とは、保持部材4が、分離可能な状態で繊維集合体2に取り付けられることを意味する。
一実施形態において、取付部4cは、繊維集合体2を挟むことが可能なスリットで構成される。繊維集合体2は、例えば、取付部4cのスリットに挟まれることが可能なシート状に構成される。その例は図4に示されている。
取付部4cは、スリットに限定されず、繊維集合体2を取り付けることが可能な種々の形態を採り得る。例えば取付部4cは、繊維集合体2の一部に挿入可能な突起を含んでいてもよい。あるいは、取付部4cは、繊維集合体2を挟むことが可能なクリップ状構造を含んでいてもよい。取付部4cは、繊維を挟むことが可能なクリップ状構造を含んでいてもよい。
保持部材4は、取付部4cを容易に成形する観点から、プラスチックで形成されることが好ましい。
この例において、ウイルス濃縮用材料1は、繊維集合体2と保持部材4とが分離された状態で製造、流通及び保存され、使用時に、ユーザによって保持部材4が繊維集合体2に取り付けられる。これによっても、繊維集合体2が接着剤を介さずに保持部材4に取り付けられるため、接着剤による繊維集合体2のウイルス結合量の低下が抑制されるとともに、ウイルス濃縮用材料1が医療用の材料としてより適したものとなる。さらに、ウイルス濃縮用材料1の製造過程において保持部材4と繊維集合体2とを接続する工程が不要となり、製造効率が高められる。
さらに他の実施形態として、ウイルス濃縮用材料1は、保持部材4を備えず、繊維集合体2と、抗体3と、で構成されてもよい。図5に示す例では、繊維集合体2がシート状に構成され、図6に示す例では、繊維集合体2が綿状に構成される。これらの構成のウイルス濃縮用材料1でも、繊維集合体2をピンセット等の器具で摘まんで、検査対象液と接触させることができる。このような構成のウイルス濃縮用材料1により、製造コストを低減できるとともに、製造効率がより高められる。
(抗体)
本発明の抗体3は、繊維Fの表面に固定される。抗体3により、検査対象液中のウイルスが繊維集合体2に結合し、繊維集合体2がウイルスに対する結合能を発揮できる。この繊維集合体2のウイルス結合能によって、検査対象液中のウイルスが繊維集合体2上に吸着し、ウイルスが濃縮される。以下、抗体3の構成について説明する。
本発明の抗体3は、標的ウイルスのタンパク質の一部と特異的に結合することが可能なCDRを含む構造ドメインを有する。CDR(Complementarity Determining Region;相補性決定領域)とは、配列可変な抗原認識部位又はランダム配列領域を含み、超可変領域とも言われる。CDRのアミノ酸配列等により、標的ウイルスへの結合性が制御される。
抗体3が認識可能なタンパク質としては、例えば、標的ウイルスのスパイクタンパク質(Sタンパク質)、ヌクレオチドタンパク質(Nタンパク質)、エンベロープタンパク質(Eタンパク質)、マトリックスタンパク質等が挙げられる。ウイルスそのものを吸着させるためには、抗体3は、ウイルスの表面に存在しているスパイクタンパク質に結合することが好ましく、スパイクタンパク質のS1タンパク質に結合することがより好ましい。
「抗体3が繊維Fの表面に固定される」とは、ウイルス濃縮用材料1の保存及び流通時、及び検査対象液への繊維集合体2の接触時に、多くの抗体3が繊維Fから脱離しないで繊維Fの表面に担持されている状態を意味する。ウイルス結合活性を有する多くの抗体3を繊維Fの表面に固定する観点から、抗体3は、抗体3の分子と繊維Fに含まれる分子との親和性を利用して繊維Fに固定されることが好ましい。当該親和性を利用した抗体3と繊維Fとの結合方法としては、例えば、共有結合、疎水結合、水素結合、静電結合、その他の分子間力(ファン・デル・ワールス力)による結合が挙げられる。
抗体3は、ウイルスの繊維Fへの吸着率を向上させる観点から、標的ウイルスへの結合活性が高い状態で繊維Fの表面に固定されることが好ましい。このような観点から、抗体3は、CDRがウイルスと結合可能な配向で繊維Fの表面に固定されることが好ましい。このため、抗体3は、CDRから立体構造上離れているC末端側で繊維Fに固定されることがより好ましい。
抗体3の繊維Fの表面に対する配向性を制御する観点から、抗体3は、タグペプチドを介して繊維Fの表面に配置されていることが好ましい。当該タグペプチドは、抗体3のアフィニティタグとして機能し、繊維Fと親和性の高いアミノ酸配列を有する。当該タグペプチドは、抗体3をより好ましい配向に制御する観点から、抗体3のC末端に結合していることがより好ましい。これにより、抗体3のC末端側がタグペプチドを介して繊維Fの表面に固定され、CDRが外側を向き、抗体3が標的ウイルスと結合しやすい配向となる。
より具体的に、当該タグペプチドは、配列番号1~16で示されるアミノ酸配列から選ばれる1種又は2種以上のアミノ酸配列を含んでいることが好ましい。配列番号1~15で示されるアミノ酸配列を有するタグペプチドは、特にポリプロピレンとの親和性が高いため、繊維Fがポリプロピレンを有する場合に、抗体3の配向性がより確実に制御される。配列番号16で示されるアミノ酸配列を有するタグペプチドは、特にニッケルやコバルト、銅などの金属イオンとの親和性が高いため、繊維Fがニッケルやコバルト、銅などの金属イオンを有する場合に、抗体3の配向性がより確実に制御される。
ここで、配列番号1で示されるアミノ酸配列はTSDIKSRSPHHRである。配列番号2で示されるアミノ酸配列はMPAVMSSAQVPRである。配列番号3で示されるアミノ酸配列はSMKYSHSTAPALである。配列番号4で示されるアミノ酸配列はLYARDVSRYWHVである。配列番号5で示されるアミノ酸配列はHTQNMRMYEPWFである。配列番号6で示されるアミノ酸配列はLPPGSLAである。配列番号7で示されるアミノ酸配列はNQSFLPLDFPFRである。配列番号8で示されるアミノ酸配列はSILSTMSPHGATである。配列番号9で示されるアミノ酸配列はSCTLERCMYRNGである。配列番号10で示されるアミノ酸配列はNFLGAVAKGAIHである。配列番号11で示されるアミノ酸配列はHVSTTDLLGPRRである。配列番号12で示されるアミノ酸配列はDYHDPSLPTLRKである。配列番号13で示されるアミノ酸配列はGNNPLHVHHDKRである。配列番号14で示されるアミノ酸配列はVCSPCGPVPPAKである。配列番号15で示されるアミノ酸配列はRFFDSEFDVAFHである。配列番号16で示されるアミノ酸配列はHHHHHHである。
抗体3をより好ましい配向に制御する観点から、タグペプチドはヒンジペプチドを介して抗体3のC末端に結合していることが好ましい。より具体的に、当該ヒンジペプチドは、配列番号17~19で示されるアミノ酸配列から選ばれる1種又は2種以上のアミノ酸配列を含んでいることが好ましい。ここで、配列番号17で示されるアミノ酸配列はEPKTPKPQSである。配列番号18で示されるアミノ酸配列はGGGである。配列番号19で示されるアミノ酸配列はGGGSである。
ウイルス濃縮用材料1によってウイルスの濃縮率を向上させる観点からは、多くの抗体3が繊維集合体2に固定されていることが好ましい。このような観点から、抗体3が固定された繊維集合体2の1g当たりにおける抗体3の含有量は、好ましくは1mg/g以上、より好ましくは1.5mg/g以上、さらに好ましくは3mg/g以上である。また、繊維Fの表面における抗体3の密度を適切に制御し、抗体3のウイルスとの結合活性を確保する観点や製造コストの観点から、抗体3が固定された繊維集合体2の1g当たりにおける抗体3の含有量は、好ましくは60mg/g以下、より好ましくは30mg/g以下、さらに好ましくは15mg/g以下である。
なお、「抗体3が固定された繊維集合体2の1g当たりにおける抗体3の含有量」とは、抗体3及びそれが固定された繊維集合体2全体の1g当たりにおける抗体3の含有量を意味するものとする。
抗体3の含有量は、以下のように測定することができる。繊維集合体2から抗体3を界面活性剤溶液等の公知のタンパク質溶出液で溶出し、溶出された抗体溶液中の抗体濃度を測定することで求めることができる。抗体濃度は、公知のタンパク質濃度測定法で求めることができるが、抗体特異的な測定法である、抗体測定用ELISAキットや電気泳動後にタンパク質染色液で染色後、抗体3のバンドの量を定量することで求めることが好ましい。
抗体3は、具体的には、IgG抗体、重鎖抗体、及びフラグメント抗体から選ばれる1種又は2種以上であることが好ましい。
IgG抗体は、重鎖(VH)及び軽鎖(LH)からなり、重鎖及び軽鎖がそれぞれCDR1,CDR2,CDR3の3つのCDRを有する。
重鎖抗体は、重鎖のみからなり、CDR1,CDR2,CDR3の3つのCDRを有する。
フラグメント抗体は、酵素や遺伝子工学的な手法を用いて断片化された抗体であり、Fab、F(ab')、Fv、VHH抗体等を含む。
特に、抗体3としてフラグメント抗体を用いることで、IgG抗体よりも抗体3の分子量を小さくことができ、より多くの抗体3を繊維Fの表面に固定することができる。したがって、繊維集合体2のウイルス結合量が向上し、ウイルスの濃縮率がより確実に向上する。
さらに、抗体3は、フラグメント抗体の中でもVHH抗体であることがより好ましい。VHH抗体は、重鎖抗体のフラグメント抗体であって、ラクダ科動物の血清中から見出されたシングルドメイン抗体である。VHH抗体は、CDR1,CDR2,CDR3の3つのCDRを含む構造ドメインを有する。当該構造ドメインにおいて、3つのCDRは、例えば、N末端側からCDR1、CDR2、CDR3の順で存在する。
また、IgG抗体は動物培養細胞を用いて生産する必要があるが、VHH抗体は大腸菌や酵母で生産できる。また、VHH抗体は、遺伝子工学的に改変が容易であり、上述のタグ(ペプチド)の導入等が容易である。さらに、VHH抗体は、熱などに対しても耐性が高く、安定した結合活性を維持できる。これらの特徴から、抗体3としてVHH抗体を用いることで、安定した濃縮能を有するウイルス濃縮用材料1を高い生産性で得ることができる。
抗体3の標的ウイルスは、ヒト及び家畜への感染が報告されている病原性のウイルスであり、ウイルス検査の必要性が高い、コロナウイルス、インフルエンザウイルス、ノロウイルス、ロタウイルス、アデノウイルス、及びサポウイルスから選ばれる1種又は2種以上であることが好ましい。
特に、抗体3の標的ウイルスは、コロナウイルスに属するSARS-CoV-2であることがより好ましい。SARS-CoV-2は、急性呼吸器疾患(COVID-19)の原因となるウイルスである。本発明によって検査対象液中のSARS-CoV-2を簡便かつ高い濃縮率で濃縮することで、ウイルス検査におけるSARS-CoV-2の検出感度が向上する。これにより、感染初期の患者や無症状の患者に対してもCOVID-19が診断される可能性が高まる。さらに、後述するように、本発明では非常に迅速かつ簡便に標的ウイルスの濃縮が可能となり、検査効率が高められる。したがって、本発明により、SARS-CoV-2の感染防止策が適切に講じられ、COVID-19の拡大防止に貢献できる。
抗体3の標的ウイルスがSARS-CoV-2である場合、抗体3は、CDR1,CDR2及びCDR3を含む下記1)、2)又は3)の構造ドメインを1つ以上有することが好ましい。
1)の構造ドメインは、配列番号20で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR1と、
配列番号21で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR2と、
配列番号22で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR3と、を含む。
ここで、配列番号20で示されるアミノ酸配列はGSTFSDYVMAであり、配列番号21で示されるアミノ酸配列はTISRNGGTTTであり、配列番号22で示されるアミノ酸配列はVGGDGDSである。これらのCDR配列を有する抗体としてはCoVHH1(配列番号23)がある。
2)の構造ドメインは、配列番号24で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR1と、
配列番号25で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR2と、
配列番号26で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR3と、を含む。
ここで、配列番号24で示されるアミノ酸配列はDQIFDNYNMAであり、配列番号25で示されるアミノ酸配列はALSWGDSNTGであり、配列番号26で示されるアミノ酸配列はVTWLRGDYである。これらCDRを有する抗体としてはCoVHH-E5(配列番号27)がある。
3)の構造ドメインは、配列番号28で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR1と、
配列番号29で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR2と、
配列番号30で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR3と、を含む。
ここで、配列番号28で示されるアミノ酸配列はGTIFSTNAMSであり、配列番号29で示されるアミノ酸配列はAITSGGNTNであり、配列番号30に示されるアミノ酸配列はPGVVTGSYDVRNYである。これらCDRを有する抗体としてはCoVHH-E9(配列番号31)がある。
上記配列番号20~22、配列番号24~26、及び配列番号28~30で示される各アミノ酸配列において1個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDRは、配列番号20~22、配列番号24~26、及び配列番号28~30で示されるアミノ酸配列からなるCDRに変異が導入されたCDRを意味する。また、CDR1、CDR2、CDR3に変異が導入されていても、SARS-CoV-2に対する結合能を有している限り、本発明の抗体のCDRに包含される。
ここで、好ましい置換として、極性や大きさが類似のアミノ酸への置換が挙げられる。上記好ましい置換の例としては、スレオニン残基のアスパラギン残基、イソロイシン残基またはメチオニン残基への置換、フェニルアラニン残基のイソロイシン残基への置換、セリン残基のアルギニン残基またはアスパラギン残基への置換、アラニン残基のスレオニン残基への置換、アルギニン残基のセリン残基への置換、アスパラギン残基のチロシン残基への置換、グリシン残基のセリン残基への置換、バリン残基のフェニルアラニン残基またはイソロイシン残基への置換、アスパラギン酸残基のグリシン残基またはバリン残基への置換、が挙げられる。
置換されるアミノ酸の位置及び置換後のアミノ酸の種類は、特に限定されないが、以下に好ましい例を挙げる。
1)の構造ドメインにおいて、アミノ酸が置換される好ましい位置として、CDR1においては3、4、5又は10番目が挙げられ、CDR2においては3、4、5、6、7、8、9又は10番目が挙げられ、CDR3においては1、2、3又は4番目が挙げられる。
1)の構造ドメインにおいて、置換されるアミノ酸の位置及び置換後のアミノ酸の種類は、特に以下の組み合わせが好ましい。
CDR1においては、3番目のスレオニン残基のアスパラギン残基への置換、4番目のフェニルアラニン残基のイソロイシン残基への置換、5番目のセリン残基のアルギニン残基への置換、10番目のアラニン残基のスレオニン残基への置換、が好ましい。
CDR2においては、3番目のセリン残基のアスパラギン残基への置換、4番目のアルギニン残基のセリン残基への置換、5番目のアスパラギン残基のチロシン残基への置換、6番目のグリシン残基のセリン残基への置換、7番目のグリシン残基のセリン残基への置換、8番目のスレオニン残基のメチオニン残基への置換、9番目のスレオニン残基のイソロイシン残基への置換、10番目のスレオニン残基のメチオニン残基への置換、が好ましい。
CDR3においては、1番目のバリン残基のフェニルアラニン残基またはイソロイシン残基への置換、2番目のグリシン残基のアルギニン残基への置換、3番目のグリシン残基のバリン残基への置換、4番目のアスパラギン酸残基のグリシン残基またはバリン残基への置換、が好ましい。
さらに、抗体3は、上記アミノ酸配列のCDR1,CDR2及びCDR3を含む構造ドメインを有するVHH抗体であることがより好ましい。これにより、SARS-CoV-2に対する特異的な結合活性を有しつつ、VHH抗体の上記利点を有する抗体3が得られる。したがって、SARS-CoV-2に対して結合能を有するウイルス濃縮用材料1を、高い生産効率で得ることができる。
(ウイルス濃縮用材料を用いた濃縮原理及び作用効果)
図7を用いて、以上の構成を有するウイルス濃縮用材料1の、ウイルス検査における濃縮原理及び典型的な作用効果について説明する。
図7(A)は、検査対象液L中にウイルスVが分散している状態を示す。検査対象液Lは、容器等に採取された状態でもよいし、検査対象の表面に付着した状態でもよい。
図7(B)では、繊維集合体2を検査対象液Lと接触させる。図7(B)では、説明のため、繊維集合体2の一部の繊維Fを示している。繊維集合体2には、抗体(図7において図示せず)が固定されているため、当該抗体を介して検査対象液L中のウイルスVが繊維Fの表面に選択的に結合する。これにより、検査対象液L中のウイルスVが繊維集合体2上に集合した状態となる。つまり、検査対象液L中のウイルスVが繊維集合体2によって濃縮される。
そして、図7(C)に示すように、繊維集合体2を検査対象液Lから分離する。これにより、濃縮されたウイルスVが検査対象液Lから分離され、濃縮処理が完了する。
繊維集合体2に結合したウイルスVは、例えば、ウイルス抽出液等によって繊維集合体2から分離され、ウイルス検査の試料として利用される。
繊維集合体2がウイルスVを選択的に結合して濃縮することで、ウイルス抽出液等の濃縮後のウイルス含有液におけるウイルスVの濃度が高められる。
ウイルスVの濃縮率を高める観点から、本発明のウイルス濃縮用材料1では、繊維集合体2が非常に細い径の繊維Fを有し、高い比表面積を有することが好ましい。これにより、繊維集合体2の単位質量あたりに固定される抗体3の量が多くなり、繊維集合体2の単位質量あたりに結合するウイルスVの量が高められる。
また、例えば、質量(サイズ)が一定であっても、単位質量あたりに結合可能なウイルスVの量がより高い繊維集合体2を形成することができる。この結果、一定量のウイルス抽出液を用いる場合でも、検査対象液Lからより多くのウイルスVを当該ウイルス抽出液に移動させることができ、当該ウイルス抽出液におけるウイルスVの濃度が高められる。これにより、ウイルスVの高濃度化が実現する。
さらに、例えば、繊維集合体2の単位質量あたりに結合可能なウイルスVの量を維持しつつ、質量(サイズ)の小さい繊維集合体2を形成することもできる。これにより、繊維集合体2が浸漬可能なウイルス抽出液の容積を低減させることができる。仮に、同一量のウイルスVを抽出するためのウイルス抽出液の容積が10倍少なければ、濃縮率は10倍となる。したがって、このような観点からも、ウイルスVの高濃度化が可能となる。
ウイルスVの濃度を高めることで、ウイルス検査の検出感度が高められ、ウイルス検査の信頼性が高められる。さらに、ウイルスの保持量の少ない、感染初期の患者や無症状の患者の検体からもウイルスを検出できる可能性がある。これにより、検査結果に基づいて、感染防止策がより適切に講じられ、ウイルス感染症の拡大が防止される。
本発明のウイルス濃縮用材料1を用いることで、繊維集合体2を検査対象液Lに接触させることを主体とする簡単なステップでウイルスVの濃縮ができる。これにより、ウイルスVの濃縮のための特殊な装置や技術が不要となり、多様な場所において、かつ多様な作業者(ユーザ)によって、ウイルスVの濃縮処理が可能となる。さらに、ウイルスVの濃縮が短時間で完了する。したがって、本発明のウイルス濃縮用材料1によれば、迅速かつ大量に、適切なウイルス検査の結果が得られ、ウイルス検査の効率化に大きく寄与できる。この結果、感染防止策がより適切に講じられ、ウイルス感染症の拡大が防止される。
[ウイルス濃縮用材料の製造方法]
本発明のウイルス濃縮用材料は、一実施形態において、以下のように製造される。
本発明のウイルス濃縮用材料の製造方法は、
繊維を有する繊維集合体を形成する工程(S11)と、
標的ウイルスの抗体を含む抗体含有液に、繊維集合体を接触させることで、繊維の表面に抗体を固定する工程(S12)と、
抗体含有液に接触させた繊維集合体を乾燥させる工程(S13)と、
を含む。この製造方法の例は、図8(A)に示されている。
他の実施形態として、本発明のウイルス濃縮用材料の製造方法は、上記工程S11~S13に加えて、保持部材を繊維集合体に接続する工程(S14)を含んでいてもよい。この製造方法の例は、図8(B)に示されている。
他の実施形態として、本発明のウイルス濃縮用材料の製造方法は、上記工程S11~S13、又は上記工程S11~S14に加えて、表面改質剤溶液に繊維集合体を接触させる工程(S15)を含んでいてもよい。この製造方法の例は、図8(C)に示されている。
(繊維集合体の形成工程(S11))
繊維集合体2の繊維Fは、細径の繊維を形成するための公知の紡糸法によって形成され、例えば、電界紡糸法(エレクトロスピニング)又は溶融電界紡糸法によって形成されることが好ましい。繊維Fは、細径の繊維をより生産性高く、且つ安定的に形成する観点から、溶融電界紡糸法によって形成されることがより好ましい。溶融電界紡糸法は、繊維の原料となる樹脂の溶融液を電場中に吐出して電界紡糸法により紡糸する方法であり、例えば特開2020-105458号公報の段落0048~0058に記載の方法を適用することができる。
以下、溶融電界紡糸法によって繊維Fを形成する例について説明する。
図9に模式的に示すように、繊維製造装置10は、例えば、原料供給部10Aと、電極部10Bと、流体噴射部10Cと、捕集部10Dと、を備える。同図には、相互に直交するX軸及びY軸が記載されている。
原料供給部10Aと電極部10Bとは、X軸方向に相互に対向して配置される。原料供給部10Aと電極部10Bとの間の領域は、電場が発生する電場発生領域となる。
流体噴射部10Cと捕集部10Dとは、電場発生領域を挟んでY軸方向に相互に対向して配置される。
原料供給部10Aは、熱可塑性樹脂等を含む原料組成物を供給するホッパー19と、ホッパー19に接続された溶融液生成部11と、生成された溶融液を吐出する吐出ノズル12と、を有する。
なお、溶融電界紡糸法による原料組成物の変質は実質的にないので、原料である原料組成物の組成と、製造物である繊維Fの組成とは実質的に同一である。つまり、原料組成物の組成は、上述の繊維F又は繊維集合体2の組成と同一の組成を有していればよい。
溶融液生成部11は、ホッパー19から供給された原料組成物を加熱溶融して、原料組成物の溶融液Rを生成する。溶融液Rは、スクリュー等によって吐出ノズル12に供給される。
吐出ノズル12は、溶融液Rを電場中に吐出する部材であり、ノズルベース13と吐出ノズル先端部14とを有する。ノズルベース13と吐出ノズル先端部14は、例えば金属などの導電性材料によって構成され得るが、溶融液生成部11への電圧の印加を防止するため、図示しない絶縁性部材によって電気的に絶縁されていてもよい。吐出ノズル先端部14は、接地されている。吐出ノズル先端部14は、溶融液Rの流動性を維持するために、ヒータ(図示せず)等によって加熱されていてもよい。
電極部10Bは、吐出ノズル12とX軸方向に対向して配置された帯電電極21と、これに接続された高電圧発生装置22と、を含む。
高電圧発生装置22によって帯電電極21に高電圧が印加されると、電極部10Bと吐出ノズル12との間に電場が発生する。これにより、この電場中に吐出された溶融液Rが帯電し得る。
流体噴射部10Cは、電場に対してY軸方向に空気流Aを噴射することが可能な流体噴射装置23を有する。空気流Aは、例えば所定の温度以上に加熱されていてもよい。
捕集部10Dは、空気流Aによって搬送され引き伸ばされた繊維Fを捕集することが可能に構成される。捕集部10Dは、流体噴射装置23とY軸方向に対向して配置された捕集シート24と、捕集シート24に接続された捕集電極27と、捕集電極27に接続された高電圧発生装置26と、捕集シート24を搬送する搬送コンベア25と、を有している。
高電圧発生装置26は、捕集電極27に対して高電圧を印加する。これにより、捕集電極27が負に帯電する。なお、捕集部10Dは、高電圧発生装置26を有さず、捕集電極27が接地されていてもよい。
捕集シート24は、捕集電極27に引き寄せされた繊維Fを表面に堆積させる。捕集シート24は、例えば長尺の樹脂製シートであり、原反ロール24aから繰り出されて搬送コンベア25に搬送される。
以上の構成の繊維製造装置10を用いた繊維Fの形成方法について説明する。
まず、ホッパー19に充填された原料組成物が溶融液生成部11において溶融し、溶融液Rが生成される。生成された溶融液Rは、吐出ノズル12から電場に向けて吐出される。
電極部10Bには高電圧が印加され、吐出ノズル12が接地されていることで、電極部10Bと吐出ノズル12との間に電場が発生する。電場に溶融液Rが吐出されることで、溶融液Rが帯電する。帯電した溶融液Rは、溶融液R自体に発生した自己反発力によって延伸されるとともに、帯電電極21に向けて電気的引力によって引き寄せされる。その際に、溶融液Rは、引力と自己反発力とによる延伸を繰り返して細い径の繊維状となり得る。
さらに流体噴射部10Cの流体噴射装置23が、電場に吐出された溶融液Rに向けてY軸方向に空気流Aを吹き付ける。これにより、電場に吐出された溶融液Rがさらに延伸され、さらに細い径の繊維を形成しながらY軸方向に搬送される。この過程で引き伸ばされた繊維状の溶融液Rが固化し、繊維Fが形成される。形成された繊維Fは、捕集部10Dの捕集シート24に捕集される。
以上のような方法により、非常に細い径の繊維を形成することができる。なお、溶融電界紡糸法による繊維製造装置10は、図9に示す例に限定されず、例えば、特開2019-49078号公報の図2、特開2016-204816号公報の図1~6等に記載の構成を有していてもよい。
本発明では、上述のように、繊維Fの原料組成物が熱可塑性樹脂、好ましくはポリオレフィン樹脂、より好ましくはポリプロピレン樹脂を含むことで、溶融電界紡糸法の適用に適した溶融液Rが生成されやすくなり、繊維Fがより細径化される。
また、原料組成物が硫酸エステル塩及び/又はスルホン酸塩を含むことで、電場中に吐出された溶融液Rの帯電量が高められ、電界紡糸によって繊維Fがより一層細径化される。
また、原料組成物が可塑剤、ポリオレフィンワックス及び石油ワックスから選ばれる1種又は2種以上を含むことで、溶融液Rの流動性が高められ、繊維Fがより一層細径化される。
また、原料組成物がヒンダードアミン系化合物及び/又はトリアジン系化合物を含むことで、製造後の繊維Fの光安定性が高められる。
捕集部10Dによって捕集された繊維Fは、捕集シート24等に堆積された堆積物の状態で、綿状又はシート状の繊維集合体2として用いられてもよい。あるいは、繊維Fの堆積物は、加熱、プレス又は積層の少なくとも1つの方法によって、綿状又はシート状に成形され、繊維集合体2が形成されてもよい。また、繊維Fを用いて公知の方法により織布や不織布を形成することで、シート状の繊維集合体2が成形されてもよい。
なお、繊維集合体2の成形は、後述するように、保持部材4の接続時に行われてもよい。
(抗体含有液と繊維集合体との接触工程(S12))
続いて、形成された繊維集合体2を、抗体3を含む抗体含有液に接触させる。これにより、繊維Fの表面に抗体3が固定される。
繊維集合体2は、抗体含有液に浸漬させてもよい。あるいは、繊維集合体2に抗体含有液を噴霧等することで、繊維集合体2を抗体含有液と接触させてもよい。
抗体含有液は、例えば緩衝液に抗体3を分散させた液とすることができる。
抗体3は、例えば、共有結合、疎水結合、水素結合、静電結合、その他の分子間力(ファン・デル・ワールス力)による結合等によって、繊維F上に固定される。上述のように、抗体3は、配向性を制御する観点から、繊維Fと親和性の高いペプチド(アフィニティタグ)を介して繊維Fの表面に結合することがより好ましい。
抗体含有液は、繊維Fの親疎水性を制御して抗体3と繊維Fとの親和性を高める観点から、抗体3の他、界面活性剤、エタノール、緩衝液から選ばれる1種又は2種以上を含んでいてもよい。界面活性剤としては、抗体機能を低下させない観点から、非イオン界面活性剤が好ましく、アルキルグリコシドやポリオキシエチレンアルキルエーテル等が挙げられる。
抗体含有液における抗体3の濃度は、繊維F上に十分な量の抗体3を結合させる観点から、好ましくは0.01mg/L以上、より好ましくは0.1mg/L以上である。
また、コストを抑える観点から、好ましくは10mg/L以下、より好ましくは1mg/L以下である。
抗体含有液中に繊維集合体2を浸漬させる場合の浸漬時間は、繊維F上に十分な量の抗体3を結合させる観点から、好ましくは1時間以上、より好ましくは3時間以上、さらに好ましくは6時間以上である。
また、生産性を高める観点から、好ましくは36時間以下、より好ましくは24時間以下、さらに好ましくは18時間以下である。
本工程における抗体含有液の温度は、繊維Fに対して抗体3を効率よく固定させるとともに、抗体3及び繊維Fの変性を防止する観点から、好ましくは4℃以上40℃以下である。
標的ウイルスに対する抗体3は、市販品であってもよく、あるいは公知の方法により作製されてもよい。例えば、VHH抗体の作製方法としては、ペプチド固相合成法とネイティブ・ケミカル・リゲーション(Native Chemical Ligation;NCL)法を組み合わせて作製することや遺伝子工学的に作製することができるが、本発明の抗体3をコードする核酸を適当なベクターに組み込んで、これを宿主細胞に導入し、組換え抗体として産生させる方法が好ましい。
組換え抗体として産生において使用される宿主細胞としては、例えば、大腸菌、枯草菌、カビ、動物細胞、植物細胞、バキュロウイルス/昆虫細胞または酵母細胞等が挙げられる。抗体を発現させるための発現ベクターは、各種宿主細胞に適したベクターを用いることができる。発現ベクターとしては、例えば、pBR322、pBR325、pUC12、pUC13等の大腸菌由来のベクター;pUB110、pTP5、pC194等の枯草菌由来のベクター;pHY300PLK等の大腸菌と枯草菌で共用することができるシャトルベクター;pSH19、pSH15等の酵母由来ベクター;λファージ等のバクテリオファージ;アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レンチウイルス、ワクシニアウイルス、バキュロウイルス等のウイルス;及びこれらを改変したベクター等を用いることができる。
これらの発現ベクターは、各々のベクターに適した、複製開始点、選択マーカー及びプロモーターを有しており、必要に応じて、エンハンサー、転写集結配列(ターミネーター)、リボソーム結合部位及びポリアデニル化シグナル等を有していてもよい。
さらに、発現ベクターには、上述の繊維Fと親和性の高いタグペプチド(アフィニティタグ)を発現させるための塩基配列が挿入されていてもよい。
また、発現ベクターには、発現したポリペプチドの精製を容易にするため、FLAGタグ、Hisタグ、HAタグ及びGSTタグなどを融合させて発現させるための塩基配列が挿入されていてもよい。なお、上述のように、Hisタグは、アフィニティタグとして用いられてもよい。
さらに、発現ベクターには、タグペプチドを抗体3のC末端に結合されるためのヒンジペプチド(例えば、配列番号17~19)を発現させるための塩基配列が挿入されていてもよい。
発現させた本発明の抗体3を培養菌体または培養細胞から抽出する際には、培養後、公知の方法で菌体または培養細胞を集め、これを適当な緩衝液に懸濁し、超音波、リゾチーム及び/または凍結融解などによって菌体または細胞を破壊したのち、遠心分離や濾過により、可溶性抽出液を取得する。得られた抽出液から、公知の分離・精製法を適切に組み合わせて目的の抗体を取得することができる。また抗体3を細胞外へ分泌生産する宿主を用いた場合は、培養液より遠心分離や濾過により培養上清を取得する。得られた培養上清から公知の分離・精製法を適切に組み合わせて目的の抗体を取得することができる。
公知の分離、精製法としては、塩析や溶媒沈澱法などの溶解度を利用する方法、透析法、
限外ろ過法、ゲルろ過法、SDS-PAGE等の主として分子量の差を利用する方法、イオン交換クロマトグラフィーなどの電荷の差を利用する方法、アフィニティークロマトグラフィーなどの特異的親和性を利用する方法、逆相高速液体クロマトグラフィーなどの疎水性の差を利用する方法または等電点電気泳動法などの等電点の差を利用する方法などが用いられる。
(乾燥工程(S13))
本工程では、抗体含有液に接触させた繊維集合体2を乾燥させる。これにより、本発明のウイルス濃縮用材料1が製造される。
本工程では、公知の乾燥方法により繊維集合体2を乾燥することができ、例えば、風乾、加熱による乾燥、自然乾燥等から選ばれる1又は2以上の方法を用いることができる。このうち、抗体3及び繊維Fの変性を防止しつつ、生産性を高める観点から、風乾が好ましく用いられる。乾燥温度は、抗体3及び繊維Fの変性を防止する観点から、好ましくは4℃以上40℃以下である。
(保持部材の接続工程(S14))
本発明のウイルス濃縮用材料の製造方法は、保持部材4を繊維集合体2に接続する工程を含んでいてもよい。
本工程は、繊維集合体2の形成工程後に行われる。本工程は、抗体含有液と繊維集合体2との接触工程(S12)の前、乾燥工程(S13)の前、乾燥工程(S13)の後、のいずれかにおいて行われるが、好ましくは、図8(B)に示す例のように、抗体含有液と繊維集合体2との接触工程(S12)の前に行われる。
本工程では、一例として、棒状の保持部材4の一端部4aに解繊された繊維集合体2を巻き付ける。この際、保持部材4は、接着剤を介して、又は接着剤を介さずに、繊維集合体2に接続される。本工程では、抗体3の標的ウイルスに対する結合活性を維持する観点から、保持部材4が、接着剤を介さずに繊維集合体2に接続されることが好ましい。本発明の繊維Fは、上述のように非常に細い径を有するため、繊維Fの絡み合いによって良好に保持部材4に巻き付けられる。
保持部材4の一端部4aに巻き付けられた繊維集合体2は、加熱及び/又はプレス等の方法によって所望の形状に成形されてもよい。この際も、繊維集合体2は、糊等の接着剤を用いずに成形されることが好ましい。
他の例としては、図2において説明したように、保持部材4の一端部4aに位置する貫通孔4dを挟んでシート状の繊維集合体2を積層し、積層された繊維集合体2を、貫通孔4dを介して接合することによって、保持部材4を繊維集合体2に接続してもよい。
また他の例としては、図3において説明したように、保持部材4を形成するシート材4fと繊維集合体2とを、重ねた状態で接合することで、保持部材4を繊維集合体2に接続してもよい。
(表面改質剤溶液と繊維集合体との接触工程(S15))
繊維集合体2が表面改質剤を含む場合は、抗体含有液と繊維集合体との接触工程(S12)の前に、形成された繊維集合体2を、表面改質剤溶液に接触させる。これにより、繊維Fの表面に表面改質剤が固定される。また、本工程は、保持部材4の接続工程(S14)が行われる場合は、その前、又はその後のいずれにおいて行われてもよいが、好ましくは、当該接続工程(S14)の後に行われる。
繊維集合体2は、表面改質剤溶液に浸漬させてもよい。あるいは、繊維集合体2に表面改質剤溶液を噴霧等することで、繊維集合体2を表面改質剤溶液と接触させてもよい。
表面改質剤溶液は、例えば緩衝液に表面改質剤を溶解させた液とすることができる。
表面改質剤溶液における表面改質剤溶液の濃度は、繊維F上に十分な量の表面改質剤溶液を結合させる観点から、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上である。
また、コストを抑える観点から、当該濃度は、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下である。
表面改質剤溶液に繊維集合体2を浸漬させる場合の浸漬時間は、繊維F上に十分な量の表面改質剤を結合させる観点から、好ましくは1分間以上、より好ましくは3分間以上である。
また、生産性を高める観点から、好ましくは10時間以下、より好ましく3時間以下である。
本工程における抗体含有液の温度は、繊維Fに対して表面改質剤を効率よく固定させるとともに、繊維Fの変性を防止する観点から、好ましくは4℃以上40℃以下である。
また、1種類の表面改質剤を繊維F上に固定化後、別の表面改質剤の固定化を行ってもよい。表面改質剤の固定化後は繊維集合体2を脱イオン水等で洗浄することが好ましい。
[ウイルス濃縮キット]
本発明のウイルス濃縮用材料は、ウイルス検査において検査対象液中のウイルスを濃縮するためのウイルス濃縮キットに用いられてもよい。
本発明のウイルス濃縮キット5は、ウイルス濃縮用材料1と、容器6と、を備えることが好ましい。
ウイルス濃縮用材料1は、上述の「ウイルス濃縮用材料」の項において説明した構成を有し、具体的には、繊維Fを有する繊維集合体2と、繊維Fの表面に固定された標的ウイルスに対する抗体3と、を有する。
さらに、ウイルス濃縮用材料1は、繊維集合体2を保持する保持部材4を有していてもよい。これにより、ウイルス濃縮キット5のユーザが、保持部材4を把持して繊維集合体2を検査対象液に接触させることができ、衛生的かつ簡便に濃縮処理を行うことができる。
ウイルス濃縮キット5において、保持部材4は、繊維集合体2に接続された状態でセットされていてもよい。その例は、図10に示されている。
また、繊維集合体2とは分離した状態でセットされていてもよい。この例では、ウイルス濃縮キット5のユーザが、濃縮処理の前に、保持部材4の取付部4cに繊維集合体2を取り付けることで、保持部材4が繊維集合体2を保持可能となる。その例は、図11に示されている。
なお、ウイルス濃縮キット5のウイルス濃縮用材料1は、保持部材4を有さなくてもよい。
容器6は、標的ウイルスの検査のための検査対象液を収容可能な容器であり、好ましくは滅菌された容器である。容器6は、例えば、唾液等の検査対象液を採取するための検体採取容器、又は検体採取具によって採取された検体が処理された検体処理液を収容可能な容器であり、検体採取容器であることが好ましい。
容器6は、滅菌可能な材料で構成されていればよく、例えばプラスチック、ガラス等で構成される。
容器6は、繊維集合体2の挿入及び取り出しが可能なサイズで構成され、その容量は、好ましくは1mL以上、より好ましくは5mL以上であり、現実的には50mL以下、又は15mL以下である。容器6は、具体的には、遠沈管、コップ等で構成される。容器6において、「繊維集合体2の挿入及び取り出しが可能である」とは、繊維集合体2が、ウイルスに対する濃縮能を損なうことなく、容器6の内部まで挿入可能であり、かつ、容器6の内部から取り出されることを意味する。
上記構成のウイルス濃縮キット5によれば、ウイルス濃縮用材料1と容器6とが提供される。これにより、ウイルスの濃縮処理がより簡便に行われるとともに、当該濃縮処理におけるウイルスの濃縮率が高められる。
[ウイルス検査キット]
本発明のウイルス濃縮用材料は、ウイルス検査のためのウイルス検査キットに用いられてもよい。
本発明のウイルス検査キット7は、ウイルス濃縮用材料1と、容器6と、検査試薬8と、を備えることが好ましい。この例は、図10及び図11に示されている。
ウイルス濃縮用材料1及び容器6は、「ウイルス濃縮用材料」及び「ウイルス濃縮キット」の項で説明した構成を有するため、説明を省略する。
本発明のウイルス検査キット7は、ウイルスを検出可能なウイルス検査を行うためのキットである。本発明のウイルス検査キット7の対象となるウイルス検査としては、抗原検査及び遺伝子検査が挙げられる。
抗原検査は、ELISA法、イムノクロマト法等の抗原抗体反応を利用した方法が挙げられる。
遺伝子検査としては、PCR法、リアルタイムPCR法、LAMP法等が挙げられる。
検査試薬8は、繊維集合体2に付着した検査対象液を用いて標的ウイルスを検出するための検査試薬であり、1又は複数の検査試薬を含んでいてもよい。
検査試薬8は、例えば、抗体3に結合されたウイルスを抗体3から分離するためのウイルス抽出液を含んでいてもよい。ウイルス抽出液は、例えば、界面活性剤、緩衝液等を含む。ウイルス抽出液によって繊維集合体2からウイルスが分離されることで、濃縮されたウイルスを用いてウイルス検査の試料を容易に調製することができる。
例えば、ELISA法を対象とする検査試薬8は、上記ウイルス抽出液、酵素標識抗体含有液、基質液、洗浄液、希釈液等から選択された1又は2以上の試薬を含んでいてもよい。
例えば、イムノクロマト法を対象とする検査試薬8は、上記ウイルス抽出液を含んでいてもよい。
遺伝子検査を対象とする検査試薬8は、例えば、上記ウイルス抽出液、ウイルスから核酸を抽出する核酸抽出液、核酸増幅用試薬等から選択された1又は2以上の試薬を含んでいてもよい。
さらに、本発明のウイルス検査キット7は、必要に応じて、ウイルス検査に用いられる検査器具を含んでいてもよい。当該検査器具としては、イムノクロマト法に用いられる抗体等を含むセルロース膜、検査試料滴下用のチップ、検査用プレート等が挙げられる。
[ウイルス濃縮方法]
本発明のウイルス濃縮方法は、本発明のウイルス濃縮用材料1を準備する工程(S20)と、繊維集合体2を検査対象液と接触させることで、検査対象液中の標的ウイルスを濃縮する工程(S21)と、を含む。この例は、図12(A)に示されている。
本発明のウイルス濃縮方法において、検査対象液は、生体由来の採取物を検体として含んでいてもよく、あるいは非生体由来の検体を含んでいてもよい。非生体由来の検体の例については、後述する。
上記生体由来の採取物としては、例えば、気管スワブ、鼻腔拭い液、咽頭拭い液、鼻腔洗浄液、鼻腔吸引液、鼻汁鼻かみ液、唾液、痰、血液、血清、尿、糞便、組織、細胞、組織又は細胞の破砕物等が挙げられる。
採取物が固形物を含む場合は、検査対象液は、当該固形物を適当な検体処理液によって懸濁させた液体であってもよい。
検査対象液は、気管スワブ、鼻腔拭い液、咽頭拭い液、鼻腔洗浄液、鼻腔吸引液、鼻汁鼻かみ液、唾液、痰、血液、血清、尿等から選ばれる1又は2以上の生体の体液を含んでいるのが好ましく、詳細を後述するように、唾液を含んでいるのがより好ましい。なお、この場合、検査対象液中のウイルスの濃度をより高める観点から、検査対象液が唾液そのものであることがより一層好ましい。
本発明のウイルス濃縮方法は、好ましくは、
(1)容器に採取された検査対象液中のウイルスを繊維集合体2により濃縮する方法、
(2)検査対象を繊維集合体2により拭い、検査対象液中のウイルスを濃縮する方法、
の少なくとも一方を含む。以下、(1)を実施形態1、(2)を実施形態2として、それぞれ説明する。
(1)実施形態1
本実施形態のウイルス濃縮方法は、例えば、本発明のウイルス濃縮用材料1を準備する工程(S20)と、容器に検査対象液を採取する工程(S22)と、濃縮工程(S21)と、を含む。この例は、図12(B)に示されている。
(検体採取工程(S22))
本工程では、公知の方法により容器に検査対象液を採取する。
容器は、十分な量の検査対象液を収容可能であり、かつ、繊維集合体の挿入及び取り出しが可能なサイズを有する。容器の容量は、好ましくは1mL以上、より好ましくは5mL以上であり、好ましくは50mL以下、より好ましくは15mL以下である。容器は、具体的には、遠沈管、コップ等で構成される。容器としては、好ましくは、本発明のウイルス濃縮キットに含まれる容器を用いることができる。
検査対象液の採取方法は、検体の種類により適切な方法を選択することができる。
例えば、検査対象液が唾液、痰等の体液を含む場合は、容器に直接体液を採取してもよい。
あるいは、綿棒、スワブ又はシリンジ等の検体採取具を用いて採取した採取物を容器に入れてもよい。この場合、採取物が液体の場合は、当該採取物を検査対象液として用いてもよいし、当該採取物に適当な処理液を加えて検査対象液を調製してもよい。
本実施形態において、検査対象液は、生体の体液として唾液を含むことがより好ましい。これにより、検査対象が苦痛を伴うことなく検体を採取することができる。また、検査対象である被験者自身で検体を採取することが可能となり、検体採取時における医療従事者への感染が抑制される。さらに、検体の採取時に飛沫が飛ぶ可能性が低減され、これによっても周囲への感染が抑制される。
本実施形態では、検査対象液が唾液を含む場合であっても、後述する濃縮工程によって十分にウイルスが濃縮されるため、検出感度の良好なウイルス検査を行うことができる。
(濃縮工程(S21))
本実施形態の濃縮工程では、容器に採取された検査対象液に繊維集合体2を浸すことで、検査対象液中の標的ウイルスを濃縮する。
本工程では、例えば、ウイルス濃縮用材料1のユーザが、繊維集合体2に接続された保持部材4を把持して、検査対象液に繊維集合体2を浸してもよい。繊維集合体2と保持部材4が分離されている場合は、濃縮工程の前に、保持部材4を繊維集合体2に取り付ける工程が行われてもよい。あるいは、当該ユーザが、保持部材4を有さない繊維集合体2をピンセット等で把持して、検査対象液に繊維集合体2を浸してもよい。
検査対象液に繊維集合体2を浸すことで、図7を用いて説明したように、繊維集合体2の表面に固定された抗体3に、検査対象液中のウイルスが結合する。これにより、検査対象液中のウイルスが繊維集合体2上に集められ、当該ウイルスが濃縮される。
濃縮率を高める観点から、繊維集合体2は、検査対象液中で攪拌されてもよい。これにより、検査対象液中におけるウイルスと繊維集合体2との接触機会が高められ、繊維集合体2上により多くのウイルスが結合され得る。
浸漬時間は、繊維集合体2と検査対象液中のウイルスとを十分に接触させるとともに、濃縮工程を効率よく行う観点から、好ましくは60秒以上、より好ましくは300秒以上であり、好ましくは900秒以下、より好ましくは600秒以下である。
繊維集合体2の浸漬後、繊維集合体2を検査対象液から分離する。これにより、繊維集合体2上に集められたウイルスも検査対象液から分離され、検査試料として利用可能となる。
上記実施形態のウイルス濃縮方法では、本発明のウイルス濃縮用材料1を用いることで、繊維集合体2の単位質量あたりに結合するウイルス量が非常に多くなり、ウイルスの濃縮率が向上する。したがって、上記濃縮工程によって濃縮されたウイルスをウイルス検査に用いることで、検査試料におけるウイルス濃度が向上し、ウイルス検査の検出感度が向上する。
また、上記ウイルス濃縮方法では、繊維集合体2を検査対象液に浸すといった非常に簡便な操作でウイルスの濃縮が行われる。これにより、迅速かつ大量に、適切なウイルス検査の結果が得られ、ウイルス検査の効率化に大きく寄与できる。この結果、感染防止策がより適切に講じられ、ウイルス感染症の拡大が防止される。
(2)実施形態2
本実施形態の濃縮工程では、検査対象液が付着した検査対象を繊維集合体2で拭うことで、検査対象液中の標的ウイルスを濃縮する(S21)。この例は、図12(A)及び(C)に示されている。
「検査対象」とは、検査の対象となる検体の採取元を意味し、ヒト(被験者)及び家畜等の生体の一部、並びに非生体を含む。
本工程では、例えば、ウイルス濃縮用材料1のユーザが、繊維集合体2に取り付けられた保持部材4を把持して、検査対象を繊維集合体2で拭ってもよい。繊維集合体2と保持部材4が分離された状態の場合は、濃縮工程の前に、保持部材4を繊維集合体2に取り付ける工程が行われてもよい。あるいは、当該ユーザが、保持部材4を有さない繊維集合体2をピンセット等で把持して、検査対象を繊維集合体2で拭ってもよい。
検査対象が生体の場合には、例えば、検査対象液である体液が付着した検査対象を上記繊維集合体2で拭う。当該体液が付着した検査対象としては、鼻腔、咽頭等が挙げられる。これにより、体液中のウイルスが繊維集合体2に結合し、ウイルスが濃縮される。
一方、本実施形態では、検査対象が非生体の固体であってもよい。非生体の固体としては、例えば、ドアノブ、机、便器、キーボード等の操作盤、マウス等の入力装置、スイッチ、床、壁等が挙げられる。
この場合は、濃縮工程の前に、繊維集合体2又は固体の表面を、検査対象液の媒体で濡らす工程(S23)をさらに含み、濃縮工程では、当該固体の表面を繊維集合体2で拭ってもよい。この例は、図12(C)に示されている。
検査対象液の媒体は、検査対象液に含まれる液体であって、検査対象上のウイルスと繊維集合体2に固定された抗体3との結合を可能とする液体である。当該媒体は、例えば、PBS(Phosphate-buffered saline)等の緩衝液やTween20、Tween80等の界面活性剤、あるいはエタノール等の有機溶媒から選ばれる1種又は2種以上の成分を含む。
繊維集合体2を媒体で濡らす方法としては、例えば、上記媒体に繊維集合体2を浸漬させる方法、上記媒体を繊維集合体2に噴霧する方法等が挙げられる。
上記固体の表面を媒体で濡らす方法としては、例えば、上記媒体を上記固体の表面に噴霧する方法、上記媒体を上記固体の表面に注ぐ方法等が挙げられる。
繊維集合体2又は固体の表面を上記媒体で濡らした後に、固体の表面を繊維集合体2で拭うことで、媒体で濡れた状態の繊維集合体2にウイルスが結合し得る。この繊維集合体2に付着したウイルス及び媒体を含む液体が、検査対象液として扱われる。
本実施形態のウイルス濃縮方法では、本発明のウイルス濃縮用材料1の繊維集合体2によって検査対象を拭うことで、従来用いられていた検体採取方法と比較して、より多くのウイルスを採取することができる。これにより、ウイルスが効率よく濃縮され、ウイルス検査の検出感度が高められる。
さらに、多くの人が接触する可能性のあるドアノブ、机、操作盤等の非生体の固体に対しても、容易に、かつ高い感度でウイルス検査を行うことができる。したがって、本発明は感染源の特定等の疫学的調査にも有用であり、感染拡大の防止に大きく貢献できる。
[ウイルス検査方法]
本発明は、さらに、ウイルス検査方法を提供する。
本発明のウイルス検査方法は、本発明のウイルス濃縮用材料1を準備する工程(S20)と、繊維集合体2を検査対象液と接触させることで、検査対象液中の標的ウイルスを濃縮する工程(S21)と、濃縮された標的ウイルスを検出する工程(S31)と、を含む。この例は、図13(A)に示されている。
さらに、本発明のウイルス検査方法は、上記検出工程の前に、検査対象液と接触させた繊維集合体2から標的ウイルスを抽出する工程(S32)を含んでもよい。この例は、図13(B)に示されている。
上記ウイルスの濃縮工程は、上述の「ウイルス濃縮方法」の項において説明した濃縮工程と同様であるため、説明を省略する。
(抽出工程(S32))
本工程では、濃縮工程後の繊維集合体2から、公知のウイルス抽出方法を用いてウイルスを抽出することができる。
例えば、濃縮工程後の繊維集合体2を、公知のウイルス抽出液に浸すことで、ウイルスが繊維集合体2から分離され、抽出される。当該ウイルス抽出液は、例えば、界面活性剤、緩衝液等を含む。本工程では、必要に応じて、ウイルス抽出液中における繊維集合体2の攪拌、ウイルス抽出液の加熱等が行われてもよい。
抽出工程後のウイルス抽出液は、そのままウイルスの検出工程に用いられてもよいし、さらに希釈液等によって調製されてもよい。
本発明のウイルス検査方法が上記抽出工程を含むことで、濃縮後のウイルスが繊維集合体2から分離され、検出工程において取り扱いやすくなる。
(検出工程(S31))
本工程では、濃縮工程後の繊維集合体から、公知のウイルス検出方法を用いてウイルスを検出することができる。
本工程におけるウイルス検出方法は、抗原検査によるウイルスタンパク質の検出方法、又は遺伝子検査による核酸の検出方法を含む。
抗原検査は、ELISA法、イムノクロマト法等の抗原抗体反応を利用した方法が挙げられる。
遺伝子検査としては、PCR法、リアルタイムPCR法、LAMP法等が挙げられる。
抗原検査によってウイルスタンパク質を検出する場合には、例えば、濃縮後のウイルス抽出液に対して、当該ウイルスのタンパク質に結合可能な抗体を反応させ、ウイルスを検出することができる。
遺伝子検査によってウイルスを検出する場合には、例えば、濃縮後のウイルス抽出液又はウイルスが結合した繊維集合体に対して核酸抽出処理を行い、当該抽出された核酸を用いて核酸増幅処理を行い、当該ウイルスの核酸を検出することができる。
本発明のウイルス検査方法では、本発明のウイルス濃縮用材料1を用いることで、上述のようにウイルスの濃縮率が向上し、ウイルス検査の感度が高められる。さらに、簡便な操作で迅速にウイルスが濃縮されることで、大量の検体のウイルス検査が可能となり、感染防止策がより適切に講じられる。したがって、本発明は、感染防止の拡大に大きく貢献できる。
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
例えば、繊維集合体2の形状は、図1~6に示すものに限定されず、種々の形状を採り得る。例えば、繊維集合体2は、表面に視認可能な凹凸を有していてもよい。
また、保持部材4の構成も図1~4に示すものに限定されず、繊維集合体2の保持及びユーザによる把持が可能な種々の形状を採り得る。
また、ウイルス濃縮キット5及びウイルス検査キット7は、図10及び図11に示した例に限定されず、本発明に包含される種々の形態のウイルス濃縮用材料1を備えていてもよい。
なお、本発明は、以下のような構成も採り得る。
<1>
繊維を有する繊維集合体と、
前記繊維の表面に固定された、標的ウイルスに対する抗体と、
を備え、
前記繊維のメジアン繊維径は、20μm未満である
ウイルス濃縮用材料。
<2>
前記繊維のメジアン繊維径は、2μm以下、好ましくは1μm以下、より好ましくは0.8μm以下である
<1>に記載のウイルス濃縮用材料。
<3>
前記繊維のメジアン繊維径は、0.01μm以上、好ましくは0.05μm以上、より好ましくは0.1μm以上である
<2>に記載のウイルス濃縮用材料。
<4>
前記繊維集合体の比表面積は、1m/g以上、好ましくは1.5m/g以上、より好ましくは2m/g以上である
<1>から<3>のいずれか1つに記載のウイルス濃縮用材料。
<5>
前記繊維集合体の比表面積は、50m/g以下、好ましくは30m/g以下、より好ましくは10m/g以下である
<4>に記載のウイルス濃縮用材料。
<6>
前記繊維集合体は、前記繊維の基材として、熱可塑性樹脂を含み、好ましくはポリオレフィン樹脂を含み、より好ましくはポリプロピレンを含む
<1>から<5>のいずれか1つに記載のウイルス濃縮用材料。
<7>
前記繊維集合体は、前記繊維の基材として、熱可塑性樹脂を含み、
前記繊維集合体の総質量に対する前記熱可塑性樹脂の含有量が80質量%以上、好ましくは90質量%以上、より好ましくは93質量%以上である
<1>から<6>のいずれか1つに記載のウイルス濃縮用材料。
<8>
前記繊維集合体は、前記繊維の基材として、熱可塑性樹脂を含み、
前記繊維集合体の総質量に対する前記熱可塑性樹脂の含有量が100質量%以下、好ましくは99質量%以下、より好ましくは97質量%以下である
<1>から<7>のいずれか1つに記載のウイルス濃縮用材料。
<9>
前記繊維集合体は、前記繊維の添加剤として、下記成分(A)及び下記成分(B)から選ばれる1種又は2種以上を含み、好ましくは下記成分(A)及び下記成分(B)を含み、より好ましくは下記成分(A)及び石油ワックスを含む
<6>から<8>のいずれか1つに記載のウイルス濃縮用材料。
(A)アニオン性界面活性剤
(B)成分(A)以外の可塑剤、ポリオレフィンワックス及び石油ワックスから選ばれる1種又は2種以上
<10>
前記成分(A)は、硫酸エステル塩及び/又はスルホン酸塩を含む
前記<9>に記載のウイルス濃縮用材料。
<11>
前記スルホン酸塩は有機スルホン酸塩であり、
該有機スルホン酸塩の前記繊維集合体の総質量に対する含有量は、好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは8質量%以下である
前記<10>に記載のウイルス濃縮用材料。
<12>
前記スルホン酸塩は有機スルホン酸塩であり、
該有機スルホン酸塩の前記繊維集合体の総質量に対する含有量は、好ましくは0質量%超、より好ましくは3質量%以上、さらに好ましくは5質量%以上である
<10>又は<11>に記載のウイルス濃縮用材料。
<13>
前記有機スルホン酸塩は、分子構造中の末端にアルキル基を有する、及び/又は、分子構造中の一部にアルキレン基を有し、好ましくは分子構造中に塩構造をもったスルホン酸基を有する
<11>又は<12>に記載のウイルス濃縮用材料。
<14>
前記有機スルホン酸塩は、アシルアルキルタウリン塩である
前記<13>に記載のウイルス濃縮用材料。
<15>
前記繊維集合体は、前記繊維の添加剤として、ヒンダードアミン系化合物及び/又はトリアジン系化合物を含み、
ヒンダードアミン系化合物及び/又はトリアジン系化合物の前記繊維集合体の総質量に対する含有量は、好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは8質量%以下である
<6>から<14>のいずれか1つに記載のウイルス濃縮用材料。
<16>
前記繊維集合体は、前記繊維の添加剤として、ヒンダードアミン系化合物及び/又はトリアジン系化合物を含み、
ヒンダードアミン系化合物及び/又はトリアジン系化合物の前記繊維集合体の総質量に対する含有量は、好ましくは0質量%超、より好ましくは3質量%以上、さらに好ましくは5質量%以上である
<6>から<15>のいずれか1つに記載のウイルス濃縮用材料。
<17>
前記繊維集合体は、表面改質剤として、アニオン性ポリマー及び/又はカチオン性ポリマーを含んでおり、好ましくは、表面改質剤として、前記アニオン性ポリマー及び/又は前記カチオン性ポリマーを錯体化可能な金属イオンをさらに含んでおり、より好ましくは、前記金属イオンとして、ニッケルイオン、コバルトイオン及び銅イオンの少なくとも1つを含む
<6>から<16>のいずれか1つに記載のウイルス濃縮用材料。
<18>
前記繊維集合体において、前記繊維は互いに融着し、及び/又は絡み合っており、好ましくは、前記繊維集合体が、前記繊維の表面又は前記繊維間に接着剤を含んでいない
<1>から<17>のいずれか1つに記載のウイルス濃縮用材料。
<19>
前記ウイルス濃縮用材料は、
前記繊維集合体を保持する一端部と、前記一端部から延びる延在部と、を有する保持部材をさらに備える
<1>から<18>のいずれか1つに記載のウイルス濃縮用材料。
<20>
前記抗体は、タグペプチドを介して前記繊維の表面に配置されており、好ましくは、前記タグペプチドは前記抗体のC末端に結合しており、より好ましくは、前記タグペプチドは、配列番号1~16で示されるアミノ酸配列から選ばれる1種又は2種以上のアミノ酸配列を含む
<1>から<19>のいずれか1つに記載のウイルス濃縮用材料。
<21>
前記抗体が固定された前記繊維集合体の1g当たりにおける前記抗体の含有量は、1mg/g以上、好ましくは1.5mg/g以上、より好ましくは3mg/g以上である
<1>から<20>のいずれか1つに記載のウイルス濃縮用材料。
<22>
前記抗体が固定された前記繊維集合体の1g当たりにおける前記抗体の含有量は、60mg/g以下、好ましくは30mg/g以下、より好ましくは15mg/g以下である
<21>に記載のウイルス濃縮用材料。
<23>
前記抗体は、IgG抗体、重鎖抗体、及びフラグメント抗体から選ばれる1種又は2種以上であり、好ましくはVHH抗体である
<1>から<22>のいずれか1つに記載のウイルス濃縮用材料。
<24>
前記抗体は、下記1)、2)又は3)の構造ドメインを1つ以上有する
<23>に記載のウイルス濃縮用材料。
1)配列番号20で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR1と、配列番号21で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR2と、配列番号22で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR3と、を含む、構造ドメイン
2)配列番号24で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR1と、配列番号25で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR2と、配列番号26で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR3と、を含む、構造ドメイン
3)配列番号28で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR1と、配列番号29で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR2と、配列番号30で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR3と、を含む、構造ドメイン
<25>
前記標的ウイルスは、ヒト及び家畜への感染が報告されている病原性のウイルスであり、好ましくはコロナウイルス、インフルエンザウイルス、ノロウイルス、ロタウイルス、アデノウイルス、及びサポウイルスから選ばれる1種又は2種以上であり、より好ましくはSARS-CoV-2である
<1>から<24>のいずれか1つに記載のウイルス濃縮用材料。
<26>
メジアン繊維径が20μm未満である繊維を有する繊維集合体を形成し、
標的ウイルスに対する抗体を含む抗体含有液に、前記繊維集合体を接触させることで、前記繊維の表面に前記抗体を固定し、
前記抗体含有液に接触させた前記繊維集合体を乾燥させる
ウイルス濃縮用材料の製造方法。
<27>
繊維を有する繊維集合体と、前記繊維の表面に固定された標的ウイルスに対する抗体と、を有し、前記繊維のメジアン繊維径が20μm未満である、ウイルス濃縮用材料と、
前記標的ウイルスの検査のための検査対象液を収容可能であり、前記繊維集合体の挿入及び取り出しが可能な容器と、
を備えたウイルス濃縮キット。
<28>
前記ウイルス濃縮用材料は、
前記繊維集合体を保持する一端部と、前記一端部から延びる延在部と、を有する保持部材をさらに有する
<27>に記載のウイルス濃縮キット。
<29>
繊維を有する繊維集合体と、前記繊維の表面に固定された標的ウイルスに対する抗体と、を有し、前記繊維のメジアン繊維径が20μm未満である、ウイルス濃縮用材料と、
前記標的ウイルスの検査のための検査対象液を収容可能であり、前記繊維集合体の挿入及び取り出しが可能な容器と、
前記繊維集合体に付着した前記検査対象液を用いて前記標的ウイルスを検出するための検査試薬と、
を備えたウイルス検査キット。
<30>
繊維を有する繊維集合体と、前記繊維の表面に固定された標的ウイルスに対する抗体と、を有し、前記繊維のメジアン繊維径が20μm未満である、ウイルス濃縮用材料を準備し、
前記繊維集合体を、前記標的ウイルスの検査のための検査対象液と接触させることで、前記検査対象液中の前記標的ウイルスを濃縮する
ウイルス濃縮方法。
<31>
前記ウイルス濃縮方法は、
前記濃縮工程前に、容器に前記検査対象液を採取する工程をさらに含み、
前記濃縮工程では、
前記容器に採取された前記検査対象液に前記繊維集合体を浸すことで、前記検査対象液中の前記標的ウイルスを濃縮する
<30>に記載のウイルス濃縮方法。
<32>
前記検査対象液が、生体の体液を含む
<30>又は<31>に記載のウイルス濃縮方法。
<33>
前記検査対象液が、唾液を含む
<32>に記載のウイルス濃縮方法。
<34>
前記濃縮工程では、
前記検査対象液が付着した前記標的ウイルスの検査対象を前記繊維集合体で拭うことで、前記検査対象液中の前記標的ウイルスを濃縮する
<30>に記載のウイルス濃縮方法。
<35>
前記検査対象は、非生体の固体であり、
前記濃縮工程の前に、
前記繊維集合体又は前記固体の表面を、前記検査対象液の媒体で濡らす工程をさらに含み、
前記濃縮工程では、前記固体の表面を前記繊維集合体で拭う
<34>に記載のウイルス濃縮方法。
<36>
繊維を有する繊維集合体と、前記繊維の表面に固定された標的ウイルスに対する抗体と、を有し、前記繊維のメジアン繊維径が20μm未満である、ウイルス濃縮用材料を準備し、
前記繊維集合体を、前記標的ウイルスの検査のための検査対象液と接触させることで、前記検査対象液中の前記標的ウイルスを濃縮し、
濃縮された前記標的ウイルスを検出する
ウイルス検査方法。
<37>
前記ウイルス検査方法は、
前記濃縮工程前に、容器に前記検査対象液を採取する工程をさらに含み、
前記濃縮工程では、
前記容器に採取された前記検査対象液に前記繊維集合体を浸すことで、前記検査対象液中の前記標的ウイルスを濃縮する
<36>に記載のウイルス検査方法。
<38>
前記ウイルス検査方法は、
前記検出工程の前に、前記検査対象液と接触させた前記繊維集合体から前記標的ウイルスを抽出する工程を含む
<36>又は<37>に記載のウイルス検査方法。
<試験例1:抗体付き繊維集合体の濃縮能の検討>
試験例1として、標的ウイルスに対する抗体を固定化した繊維集合体を用いて、当該ウイルスのタンパク質の濃縮が可能か否か、検討した。
[繊維集合体の作製]
(繊維集合体サンプルa)
図9に示す繊維製造装置10を用いて、原料の熱可塑性樹脂として、95質量%のポリプロピレン(PP;PolyMirae社製、MF650Y)と、5質量%のアシルアルキルタウリン塩(N-ステアロイル-N-メチルタウリンナトリウム(NSMT);日光ケミカルズ株式会社製、ニッコールSMT)とを溶融液生成部11内に供給し、これらを溶融液生成部11内で加熱溶融混練した後、繊維を製造した。製造条件は以下のとおりとした。
・製造環境:27℃、50%RH
・溶融液生成部11内の加熱温度:220℃
・溶融液Rの吐出量:1g/min
・吐出ノズル先端部14(ステンレス製)への印加電圧:0kV(アースに接地されている。)
・帯電電極21(80mm×80mm、厚さ10mm、ステンレス製)への印加電圧:-40kV
・吐出ノズル先端部14と捕集部10Dとの間の距離:600mm
・流体噴射部10Cから噴出される空気流の温度:350℃
・流体噴射部10Cから噴出される空気流の流量:320L/min
捕集された繊維は、210mm×297mm(JIS A4サイズ)に回収した。回収した繊維を、ハンドプレス機を用いて常温で10MPa、10秒間プレスすることで、不織布シート状の繊維集合体サンプルaを作製した。
(繊維集合体サンプルb)
市販のポリプロピレンスパンボンド不織布(旭化成株式会社製エルタスP3015、坪量15g/m)を繊維集合体サンプルbとした。
[メジアン繊維径の測定]
繊維集合体サンプルa及びbのメジアン繊維径を以下のように測定した。
走査型電子顕微鏡(株式会社日立ハイテク製S-4300SE/N)を用いて各繊維集合体サンプルを観察し、繊維の塊、繊維の交差部分といった欠陥を除いた繊維を任意に500本選び出した。画像処理ソフト(三谷商事株式会社製WinROOF2013)を用いて各繊維の長手方向に直交する線を引いたときの長さを繊維径として測定した。測定した500本の繊維径の分布から、平均繊維径(メジアン繊維径)を算出した。
その結果、繊維集合体サンプルaのメジアン繊維径は、0.5μmであった。
繊維集合体サンプルbのメジアン繊維径は、20μmであった。
[抗体の作製]
抗SARS-CoV-2抗体であるVHH抗体を作製した。VHH抗体は、標的分子として、SARS-CoV-2(2019-nCoV)Spike Protein(S1 Subunit,His Tag)(Hisタグ付きS1タンパク質、Sino Biological)を用い、cDNAディスプレイを用いてスクリーニングされたものである。
作製されたVHH抗体は、CoVHH1、CoVHH-E5、CoVHH-E9である。
(遺伝子人工合成)
Hisタグ付きCoVHH1をコードする塩基を人工合成した。合成されるCoVHH1のアミノ酸配列は、配列番号23のC末端側に配列番号17のヒンジ配列を介したHisタグ配列(配列番号16)が付与された配列番号32となる。そのため、Hisタグ付きCoVHH1発現用の人工合成遺伝子は、配列番号32をコードする塩基配列の3'末端に終止コドンが付与された配列番号33となる。さらに、Hisタグ付きCoVHH1発現用の人工合成遺伝子をプラスミドベクターに挿入するための配列として、配列番号33に対して、GCAGCTCTTGCAGCA(配列番号34)が5'末端に、TCTATTAAACTAGTT(配列番号35)が3'末端に付加されたものをユーロフィン社で人工合成し、実験に供した。
Hisタグ付きCoVHH-E5をコードする塩基を人工合成した。合成されるCoVHH-E5のアミノ酸配列は、配列番号27のC末端側に配列番号19のヒンジ配列を介したHisタグ配列(配列番号16)が付与された配列番号36となる。そのため、CoVHH-E5発現用の人工合成遺伝子は、配列番号36をコードする塩基配列の3'末端に終止コドンが付与された配列番号37となる。さらに、CoVHH-E5発現用の人工合成遺伝子をプラスミドベクターに挿入するための配列として、配列番号37に対して、GCAGCTCTTGCAGCA(配列番号34)が5'末端に、TCTATTAAACTAGTT(配列番号35)が3'末端に付加されたものをユーロフィン社で人工合成し、実験に供した。
Hisタグ付きCoVHH-E9をコードする塩基を人工合成した。合成されるCoVHH-E9のアミノ酸配列は、配列番号31のC末端側に配列番号19のヒンジ配列を介したHisタグ配列(配列番号16)が付与された配列番号9となる。そのため、CoVHH-E9発現用の人工合成遺伝子は、配列番号38をコードする塩基配列の3'末端に終止コドンが付与された配列番号39となる。さらに、CoVHH-E9発現用の人工合成遺伝子をプラスミドベクターに挿入するための配列として、配列番号39に対して、GCAGCTCTTGCAGCA(配列番号34)が5'末端に、TCTATTAAACTAGTT(配列番号35)が3'末端に付加されたものをユーロフィン社で人工合成し、実験に供した。
(Hisタグ付きVHH発現用プラスミドの構築)
pHY300PLKをベースとして作製された組換えプラスミドpHY-S237(特開2014-158430)をテンプレートとし、5'-GATCCCCGGGAATTCCTGTTATAAAAAAAGG-3'(配列番号40)と5'-ATGATGTTAAGAAAGAAAACAAAGCAG-3'(配列番号41)のプライマーセットとPrimeSTAR Max DNAポリメラーゼ(TaKaRa)を用いたPCRによりプラスミド配列を増幅した。168株のゲノムをテンプレートとし、5'-GAATTCCCGGGGATCTAAGAAAAGTGATTCTGGGAGAG-3'(配列番号42)と5'-CTTTCTTAACATCATAGTAGTTCACCACCTTTTCCC-3'(配列番号43)のプライマーセットを用いたPCRによりspoVG遺伝子由来のプロモーターDNAを増幅した。得られたプロモーターDNAを、In-Fusion HD Cloning Kit(Takara)を用いてプラスミド配列に組み込み、spoVGプロモーターと連結されたVHH発現用プラスミドを構築した。5'-TGCTGCAAGAGCTGCCGGAAATAAA-3'(配列番号44)及び5'-TCTATTAAACTAGTTATAGGG-3'(配列番号45)のプライマーセットとPrimeSTAR Max DNAポリメラーゼ(TaKaRa)を用いたPCRによりプラスミド配列を増幅した。得られたPCR断片に、上記人工合成遺伝子を含むDNAをIn-Fusion HD Cloning Kit(Takara)を用いて組み込み、人工合成VHH遺伝子を含むVHH発現用プラスミドを構築した。このHisタグ付きCoVHH発現用プラスミドをそれぞれCoVHH1-His-pHY、CoVHH-E5-His-pHY、CoVHH-E9-His-pHYと呼ぶ。
(組換え枯草菌の作製)
Bacillus subtiliS158株から、特開2006-174707号公報の段落0043から0048に記載されている方法に従って、細胞外プロテアーゼ遺伝子(epr、wprA、mpr、nprB、bpr、nprE、vpr及びaprE)を欠損させ、さらに特許第4336082の段落0026から0029に記載されている方法に従い、胞子形成に関与するsigF遺伝子を欠損させた。得られた細胞外プロテアーゼ多重欠損株をDpr8ΔsigFと記載する。枯草菌株Dpr8ΔsigFへのプラスミド導入は以下に示すプロトプラスト法によって行った。1mLのLB液体培地にグリセロールストックした枯草菌を植菌し、30℃、210rpmで一晩振とう培養した。翌日、新たな1mLのLB液体培地にこの培養液を10μL植菌し、37℃、210rpmで約2時間振とう培養した。この培養液を1.5mLチューブに回収し、1,2000rpmで5分間遠心し、上清を除去したペレットをLysozyme(SIGMA)4mg/mLを含むSMMP500μLに懸濁し、37℃で1時間インキュベートした。次いで、3,500rpmで10分間遠心し、上清を除去したペレットをSMMP400μLに懸濁した。この懸濁液33μLをプラスミドと混合し、さらに40%PEGを100μL添加してボルテックスした。この液にSMMPを350μL加えて転倒混和し、30℃、210rpmで1時間振とうした後、DM3寒天培地プレートに全量塗布し、30℃で2~3日間インキュベートした。
(VHH産生)
作製した組換え枯草菌を1mLの50ppmテトラサイクリンを含むLB培地に植菌し、32℃で一晩往復振とうし、前培養液とした。Dpr9ΔsigFは、前培養液をひだ付き三角フラスコに入れた20mLの2×L-mal培地に1%接種し、30℃で72時間振とう培養した。培養終了時の培養液をマイクロチューブにて4℃、15,000rpm、5分間遠心し、上清を回収した。VHHについてはNi-NTAアガロースビーズ(富士フィルム和光純薬)を用い、キットのプロトコルに従って精製した。溶出液にはPBS(30mM イミダゾール)を用いた。
その結果、CoVHH1、CoVHH-E5及びCoVHH-E9が合成されていることが確認された。
[抗体の固定化]
作製された繊維集合体サンプルa及びbに対して、産生されたVHH抗体を固定した。
PBSにCoVHH1溶液を加え、100μg/mLの濃度のCoVHH1含有液を調製した。なお、抗体濃度の定量は、バイオラッドプロテインアッセイキット(BIO-RAD)を用いて測定を行った。1枚の直径6mmの円形状に切断した繊維集合体サンプルa及びb当たり0.1mLのCoVHH1含有液を加え、4℃で一晩静置した。
これにより、抗体付き繊維集合体サンプルが作製された。
繊維集合体サンプルaにHisタグ付きCoVHH1を固定化したサンプルを、実施例iとした。
繊維集合体サンプルbにHisタグ付きCoVHH1を固定化したサンプルを、比較例iとした。
なお、CoVHH1を固定化しなかった繊維集合体サンプルaを、比較例iiとした。
CoVHH1を固定化しなかった繊維集合体サンプルbを、比較例iiiとした。
[ウイルスS1タンパク質分散液への繊維集合体の浸漬]
Nunc-Immuno(商標)Plate II(Thermo Fisher Scientific)の各ウェルに200μLのBlocking Reagent(コスモバイオ)を添加し、4℃で一晩静置した後、200μLのPBSTで3回洗浄した。S1タンパク質(SARS-CoV-2(2019-nCoV)Spike S1-Fc Recombinant Protein、Sino Biological)にPBSを添加し、500ng/mLの濃度のS1タンパク質分散液を調製した。当該S1タンパク質分散液は、ブロッキングした各ウェルに100μLずつ添加した。
実施例i及び比較例i~iiiのサンプルを、S1タンパク質分散液が添加された各ウェルに加え、室温において1時間インキュベートした。その後、実施例i及び比較例i~iiiの各サンプルを各ウェルから取り出した。
なお、ネガティブコントロールとして、S1タンパク質を含んでいない100μLのPBSが添加されたウェルを準備し、当該ウェルにも実施例i及び比較例i~iiiのサンプルを加え、室温において1時間静置した後、これらのサンプルを取り出した。
[ELISA]
実施例i及び比較例i~iiiのサンプルが取り出されたS1タンパク質分散液中の上清におけるS1タンパク質量を測定するため、ELISAを行った。
PBSで10μg/mLに調製したHisタグ付きCoVHH1溶液を、100μLずつNunc-Immuno(商標)Plate II(Thermo Fisher Scientific)の各ウェルに添加し、シーリング後、4℃で一晩静置した。ピペットを用いてウェルに吸着しなかったHisタグ付きCoVHH1を取り除いた後、200μLの5%スキムミルク/PBST(0.05% Tween20含有PBS)を添加し、室温で1時間インキュベートした。ピペットを用いて丁寧にスキムミルクを取り除いた後、200μLのPBST(0.05% Tween20含有PBS)を添加し、ピペットを用いて丁寧に取り除いた。この洗浄操作は3回行った。Hisタグ付きCoVHH1を固相化した各ウェルに対して、S1タンパク質分散液中の上清を添加し、室温で1時間インキュベートした。ピペットを用いて丁寧にS1タンパク質分散液中の上清を取り除いた後、200μLのPBST(0.05% Tween20含有PBS)を添加し、ピペットを用いて丁寧に取り除いた。この洗浄操作は3回行った。続いて、上清中のS1タンパク質の検出には、標識抗体(Goat Anti-Human IgG Fc(HRP)、Abcam)を用いた。PBSTにより標識抗体溶液を1/5000に希釈し、各ウェルに100μLずつ添加した後、室温で1時間インキュベートした。ピペットを用いて丁寧に標識抗体溶液を取り除いた後、200μLのPBST(0.05% Tween20含有PBS)を添加し、ピペットを用いて丁寧に取り除いた。この洗浄操作は4回行った。発色基質はOPD Substrate Tablets(Thermo Fisher Scientific)1錠を9mLの脱イオン水で溶解させ、ウェルへ添加する直前に1mLのStable Peroxide Substrate Buffer(10X)(Thermo Fisher Scientific)と混合し調製した。各ウェルに100μLの発色基質を添加し、遮光下で30分間インキュベートした後、直ちにMicroplate Reader Infinite M1000 PRO(TECAN)を用いて吸光度450nmを測定した。S1タンパク質のサンプルへの吸着率は、各サンプルの吸光度値をサンプルなしウェル(ネガティブコントロール)の吸光度値で割った値により算出した。
その結果、図14に示すように、実施例iのサンプルに接触させたS1タンパク質分散液の上清中における吸光度が、比較例i~iiiと比較して大きく低下していることが確認された。この結果は、実施例iのサンプルが比較例i~iiiのサンプルよりも多くのS1タンパク質を吸着したことを示しており、繊維経が小さい繊維集合体にHisタグ付きCoVHH1を固相化することで、S1タンパク質の吸着率が大幅に向上することがわかった。
<試験例2:親和性ペプチドを用いた抗体の配向制御の検討>
続いて、VHH抗体(CoVHH1、CoVHH-E5、CoVHH-E9)のC末端に異なる配列の親和性ペプチド(アフィニティタグ)Pep1~Pep3を付与し、当該親和性ペプチドによって抗体が配向制御され、S1タンパク質に対する結合能が維持されるか否かについて検討した。
[抗体の作製]
(ペプチドPep1付きCoVHH1の作製)
ペプチドPep1付きCoVHH1の作製は、試験例1の「抗体の作製」に準じて行った。
合成されるCoVHH1のアミノ酸配列は、配列番号23のC末端側に配列番号18のヒンジ配列を介してタグペプチド(配列番号2)が付与された配列番号46となる。このタグペプチドを、ペプチドPep1又はPep1タグと呼ぶ。そのため、ペプチドPep1付きCoVHH1発現用の人工合成遺伝子は、配列番号46をコードする塩基配列の3'末端に終止コドンが付与された配列番号47となる。
さらに、ペプチドPep1付きCoVHH1発現用の人工合成遺伝子をプラスミドベクターに挿入するため、CoVHH1-His-pHYをテンプレートとし、配列番号48(5'-GCAGCTCTTGCAGCAGCTGAAGTGCAACTGGTTGAG-3')及び配列番号49(5'-AACTAGTTTAATAGATTATCTCGGAACTTGTGCTGATGACATAACTGCAGGCATGCCTCCACCTGAACTCACGGTTACCTGAG-3')のプライマーセットとPrimeSTAR Max DNAポリメラーゼ(TaKaRa)を用いたPCRによりプラスミド配列を増幅した。得られたPCR断片を、試験例1にて構築したVHH発現用プラスミドのPCR断片にIn-Fusion HD Cloning Kit(Takara)を用いて組み込み、人工合成VHH遺伝子を含むVHH発現用プラスミドを構築した。
枯草菌株へのプラスミド導入は、試験例1の「組換え枯草菌の作製」と同様に行った。
組換え枯草菌によるVHH抗体は、以下のように作製された。試験例1と同様の培養に供した後、培養液を7500rpmで5分間遠心して培養上清を得た。得られた培養上清をヴィスキングチューブ(分画分子量3500)(アズワン株式会社)に入れ、イミダゾールを30mM含むPBS中で透析を行い、目的タンパク質を含む溶液を得た。また、SDS-PAGEにより目的タンパク質を検出した。
その結果、ペプチドPep1付きCoVHH1が合成されていることが確認された。
(ペプチドPep2付きCoVHH-E5の作製)
ペプチドPep2付きCoVHH-E5は以下の通りに作製された。
合成されるCoVHH-E5のアミノ酸配列は、配列番号27のC末端側に配列番号18のヒンジ配列を介したタグペプチド(配列番号1)が付与された配列番号50となる。このタグペプチドを、ペプチドPep2又はPep2タグと呼ぶ。そのため、ペプチドPep2付きCoVHH-E5発現用の人工合成遺伝子は、配列番号50をコードする塩基配列の3'末端に終止コドンが付与された配列番号51となる。
さらに、ペプチドPep2付きCoVHH-E5発現用の人工合成遺伝子をプラスミドベクターに挿入するため、CoVHH-E5-His-pHYをテンプレートとし、配列番号52(5'- GCAGCTCTTGCAGCAGCAGAAGTTCAACTGGTTG-3')及び配列番号53(5'- AACTAGTTTAATAGATTAACGATGATGCGGTGATCTTGATTTGATATCGCTCGTGCCTCCACCAGATGAAACTGTAACTTGTG-3')のプライマーセットとPrimeSTAR Max DNAポリメラーゼ(TaKaRa)を用いたPCRによりプラスミド配列を増幅した。得られたPCR断片を、試験例1にて構築したVHH発現用プラスミドのPCR断片にIn-Fusion HD Cloning Kit(Takara)を用いて組み込み、人工合成VHH遺伝子を含むVHH発現用プラスミドを構築した。
枯草菌株へのプラスミド導入は、試験例1の「組換え枯草菌の作製」と同様に行った。
組換え枯草菌によるVHH抗体は、以下のように作製された。試験例1と同様の培養に供した後、培養液を7500rpmで5分間遠心して培養上清を得た。得られた培養上清をヴィスキングチューブ(分画分子量3500)(アズワン株式会社)に入れ、イミダゾールを30mM含むPBS中で透析を行い、目的タンパク質を含む溶液を得た。また、SDS-PAGEにより目的タンパク質を検出した。
その結果、ペプチドPep2付きCoVHH1が合成されていることが確認された。
(ペプチドPep1付きCoVHH-E9の作製)
ペプチドPep1付きCoVHH-E9は以下の通りに作製された。
合成されるCoVHH-E9のアミノ酸配列は、配列番号31のC末端側に配列番号18のヒンジ配列を介したタグペプチド(配列番号2)が付与された配列番号54となる。そのため、ペプチドPep1付きCoVHH-E9発現用の人工合成遺伝子は、配列番号54をコードする塩基配列の3'末端に終止コドンが付与された配列番号55となる。
さらに、ペプチドPep1付きCoVHH-E9発現用の人工合成遺伝子をプラスミドベクターに挿入するため、CoVHH-E9-His-pHYをテンプレートとし、配列番号52(5'- GCAGCTCTTGCAGCAGCAGAAGTTCAACTGGTTG-3')及び配列番号56(5'- AACTAGTTTAATAGATTATCTCGGAACTTGTGCTGATGACATAACTGCAGGCATGCCTCCACCAGATGAAACTGTAACTTGTG-3')のプライマーセットとPrimeSTAR Max DNAポリメラーゼ(TaKaRa)を用いたPCRによりPep2付きCoVHH9遺伝子断片を増幅した。得られたPCR断片を、試験例1にて構築したVHH発現用プラスミドのPCR断片にInーFusion HD Cloning Kit(Takara)を用いて組み込み、Pep1付きCoVHH-E9発現用プラスミドを構築した。
枯草菌株へのプラスミド導入は、試験例1の「組換え枯草菌の作製」と同様に行った。
組換え枯草菌によるVHH抗体は、以下のように作製された。試験例1と同様の培養に供した後、培養液を7500rpmで5分間遠心して培養上清を得た。得られた培養上清をヴィスキングチューブ(分画分子量3500)(アズワン)に入れ、イミダゾールを30mM含むPBS中で透析を行い、目的タンパク質を含む溶液を得た。SDS-PAGEにより目的タンパク質を確認した。
(ペプチドPep3付きCoVHH-E9の作製)
ペプチドPep3付きCoVHH-E9は以下の通りに作製された。
合成されるCoVHH-E9のアミノ酸配列は、配列番号31のC末端側に配列番号18のヒンジ配列を介したタグペプチド(配列番号4)が付与された配列番号57となる。このタグペプチドを、ペプチドPep3又はPep3タグと呼ぶ。そのため、ペプチドPep3付きCoVHH-E9発現用の人工合成遺伝子は、配列番号57をコードする塩基配列の3'末端に終止コドンが付与された配列番号58となる。
さらに、ペプチドPep3付きCoVHH-E9発現用の人工合成遺伝子をプラスミドベクターに挿入するため、CoVHH-E9-His-pHYをテンプレートとし、配列番号52(5'- GCAGCTCTTGCAGCAGCAGAAGTTCAACTGGTTG-3')及び配列番号59(5'- AACTAGTTTAATAGATTAAACATGCCAATATCTTGAAACATCTCTTGCATACAGGCCTCCTCCAGATGAAACTGTAACTTGTG-3')のプライマーセットとPrimeSTAR Max DNAポリメラーゼ(TaKaRa)を用いたPCRによりPep3付きCoVHH9遺伝子断片を増幅した。得られたPCR断片を、試験例1にて構築したVHH発現用プラスミドのPCR断片にInーFusion HD Cloning Kit(Takara)を用いて組み込み、Pep3付きCoVHH-E9発現用プラスミドを構築した。
枯草菌株へのプラスミド導入は、試験例1の「組換え枯草菌の作製」と同様に行った。
組換え枯草菌によるVHH抗体は、以下のように作製された。試験例1と同様の培養に供した後、培養液を7500rpmで5分間遠心して培養上清を得た。得られた培養上清をヴィスキングチューブ(分画分子量3500)(アズワン)に入れ、イミダゾールを30mM含むPBS中で透析を行い、目的タンパク質を含む溶液を得た。SDS-PAGEにより目的タンパク質を確認した。
[抗体の固定化]
Hisタグ付きCoVHH1、Pep1タグ付きCoVHH1、Hisタグ付きCoVHH―E5、Pep2タグ付きCoVHH―E5、Hisタグ付きCoVHH―E9、Pep1タグ付きCoVHH1、Pep3タグ付きCoVHH―E9を用いた。PBSで100μg/mLの各抗体サンプル溶液を調製した。直径6mmの円形状に切断した繊維集合体サンプルaを、繊維集合体サンプル1枚当たり0.1mLの抗体サンプル溶液に浸漬させ、4℃で一晩静置した。これにより、抗体付き繊維集合体サンプルを得た。
[抗体の結合活性の評価]
イムノプレート(Thermo Fisher Scientific)の各ウェルに200μLのBlocking Reagent(コスモバイオ)を添加し、4℃で一晩静置した。これにより、各ウェルをブロッキングした。ブロッキングした各ウェルに、抗体付き繊維集合体サンプルを1つずつ入れた後、200μLのBlocking Reagent(コスモバイオ)を添加し、室温で1時間静置し、200μLのPBSTで3回洗浄した。
S1タンパク質(SARS-CoV-2 (2019-nCoV) Spike S1-Fc Recombinant Protein、Sino Biological)にPBSTを添加し、500ng/mLの濃度のS1タンパク質分散液を調製した。ネガティブコントロールとして、PBSTを用いた。当該S1タンパク質分散液またはPBSTをブロッキング済みの抗体付き繊維集合体サンプルの入った各ウェルに添加し、室温で1時間インキュベートした後、200μLのPBSTで3回洗浄した。
Goat Anti-Human IgG Fc (HRP)(アブカム)をBlocking Reagentを用いて、10000分の1になるように調整した。100μLの希釈済み抗体溶液を添加し、室温で1時間インキュベートした後、200μLのPBSTで4回洗浄した。発色基質はOPDタブレット(Thermo Fisher Scientific)をStable Peroxide Substrate Buffer(Thermo Fisher Scientific)で溶解し調製した。各ウェルに100μLの発色基質を添加し,遮光下で20分間インキュベートした後、直ちにMicroplate Reader Infinite M1000 PRO(TECAN)を用いて吸光度450nmを測定した。
その結果、図15に示すように、Hisタグ付きの各種VHHと比較して、Pep1付きCoVHH1、Pep2付きCoVHH-E5、Pep1付きCoVHH-E9またはPep3付きCoVHH-E9の方が、繊維集合体サンプル上におけるS1タンパク質に対する結合能が向上することが確認された。そのため、ポリプロピレンとの親和性の高いペプチドタグをVHHに付与することで、繊維上におけるVHHの配向性が制御され、VHHの結合性能が向上することがわかった。
<試験例3:抗体付き繊維集合体の濃縮率の検討>
複数の抗体付き繊維集合体を含むサンプルを作製し、これらのSARS-CoV-2シュードウイルスの吸着率について評価した。
[抗体付き繊維集合体の作製]
(サンプル1)
抗体付き繊維集合体のサンプルとして、表1に示すように、抗体としてCoVHH1、担体として綿状の繊維集合体を含む綿棒状の材料を有する、抗体付き繊維集合体のサンプル1を作製した。
試験例1の繊維集合体サンプルaを、5cm角の正方形状に切断したものに対し、以下の表面改質処理を行い、繊維集合体サンプルcを作製した。繊維集合体サンプルcのメジアン繊維径は、0.5μmであった。
この表面改質処理を、「表面改質処理A」と称する。
表1に示すように、表面改質処理Aでは、表面改質剤として、特殊ポリカルボン酸型高分子界面活性剤であるデモールEP(花王株式会社製)及び塩化ニッケルIIを準備した。
表面改質処理Aとしては、以下の処理を行った。繊維集合体サンプルaを1%デモールEP水溶液(pH8に調整)に浸漬し、室温で60分間撹拌した。処理後の繊維集合体サンプルを脱イオン水で洗浄後、100mMの塩化ニッケル(II)水溶液に浸漬し、室温で10分間撹拌し、繊維集合体サンプルcを作製した。
続いて、試験例1の「抗体の作製」と同様に、ヒンジペプチドを介してC末端にHisタグを付与したHisタグ付きCoVHH1を作製した。
続いて、Hisタグ付きCoVHH1を繊維集合体の表面に固定化した。PBSで0.5mg/mLのHisタグ付きCoVHH1溶液を調製した。当該繊維集合体サンプルを1.25cm角に切断し、Hisタグ付きCoVHH1溶液に浸漬し、4℃で一晩静置することで抗体付き繊維集合体サンプルを作製した。各溶液から各繊維集合体サンプルを取り出し、100μLの3%BSA/PBS溶液に浸漬し、室温で2時間インキュベートした。抗体付き繊維集合体サンプルは、0.5mg/mLのHisタグ付きCoVHH1を含む3%BSA/PBS溶液に浸漬した。その後、溶液から各サンプルを取り出した。
得られた抗体付き繊維集合体サンプル1では、ニッケルイオンとHisタグの結合により、Hisタグ付きCoVHH1が繊維集合体の表面に固定化されていると考えられる。
(サンプル2)
表1に示すように、サンプル1とは異なる表面改質処理(表面改質処理Bとする)を行った以外は、サンプル1と同様に抗体付き繊維集合体のサンプル2を作製した。
繊維集合体サンプルaに表面改質処理Bを行ったものを、「繊維集合体サンプルd」と称する。繊維集合体サンプルdのメジアン繊維径は、0.5μmであった。
表1に示すように、表面改質処理Bでは、表面改質剤として、ポリマーA(花王株式会社製、2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート/ラウリルメタクリレート共重合体、重合モル比9/1、分子量約15000)、特殊ポリカルボン酸型高分子界面活性剤であるポイズ521(花王株式会社製)、及び塩化ニッケル(II)を用いた。
表面改質処理Bとしては、繊維集合体サンプルaを1%ポリマーA水溶液(pH8に調整)に浸漬し、室温で60分間撹拌した。処理後の繊維集合体サンプルaを脱イオン水で洗浄後、1%ポイズ521水溶液(pH8に調整)に浸漬し、室温で10分間撹拌した。処理後の繊維集合体サンプルaを脱イオン水で洗浄後、100mMの塩化ニッケル(II)水溶液に浸漬し、室温で10分間撹拌し、繊維集合体サンプルdを作製した。
得られた抗体付き繊維集合体サンプル2では、ニッケルイオンとHisタグの結合により、Hisタグ付きCoVHH1が繊維集合体の表面に固定化されていると考えられる。
(サンプル3)
表1に示すように、繊維集合体に表面改質処理を行わなかった以外は、サンプル1と同様に抗体付き繊維集合体のサンプル3を作製した。
[吸着率の評価]
サンプル1~3を用いて、以下のようにSARS-CoV-2シュードウイルスの吸着率を測定した。
(ウイルス含有溶液への繊維集合体の浸漬)
シリンジ内部にサンプル1~2を入れ、圧縮することで余分な溶液を脱水したのち、各サンプル4枚を1.5mLチューブ(Protein LoBind tube、Eppendorf)に入れ、PBSで10000倍に希釈したSARS-CoV-2シュードウイルス(SARS-CoV-2_S pseudotyped lentivirus(Luciferase)、Vector Builder)溶液を500μL加え、室温でインキュベートした。サンプル3については、サンプル8枚に対して1mLのSARS-CoV-2シュードウイルス溶液を加えた。その後、SARS-CoV-2シュードウイルス溶液を加えてから10分後の溶液の上清を回収した。
(吸着率の測定)
繊維集合体サンプルとの接触前後の溶液中のSARS-CoV-2シュードウイルス量を定量することにより、各種繊維集合体サンプルのSARS-CoV-2シュードウイルスに対する吸着率を求めた。各溶液中のSARS-CoV-2シュードウイルス量を測定するため、Droplet Digital PCR(ddPCR)を用いて、SARS-CoV-2シュードウイルス内の遺伝子コピー数の定量を行った。ddPCRにはQX200 AutoDG Droplet Digital PCR system(Bio-Rad)を用いた。まず、ドロップレットを作成した。1サンプルあたり11μLのddPCR EvaGreen Supermix(x2)(Bio-Rad)、0.3μLの10μM Forward primer、0.3μLの10μM Reverse primer、9.3μLのNuclease free water、1.1μLのSARS-CoV-2シュードウイルス溶液を混合し、ドロップレット反応液を調製した。プライマーはLuci1F(5'-CGACAAGGATATGGGCTCAC-3':配列番号60)とLuci1R(5'-TTCGCCTCTCTGATTAACGC-3':配列番号61)を用いた。Buffer Controlは、11 μLのddPCR Buffer Control Kit for EvaGreen(x2)(Bio-Rad)、そして11μLのNuclease free waterを混合し調製した。反応液を22μLずつ96wellプレートに添加後、PX1 PCR Plate Sealer(Bio-Rad)を用いて180℃、5秒間の設定でホイルヒートシールによりシーリングし、AutoDG(Bio-Rad)を用いてドロップレットを作製した。全ドロップレットの作製が完了後、30分以内にドロップレットプレートにホイルヒートシールでシーリングした。次のPCRサイクリングは、シーリング後30分以内に実施した。PCRは、ProFlex PCR System(Life technologies)を用いて、95℃で5分間の後、95℃で30秒間と58℃で1分間を40サイクル、その後4℃で5分間、90℃で5分間、4℃でインキュベートの条件で行った。Ramp rateは2℃/秒に設定した。PCR後、ドロップレットプレートをプレートホルダーにセットし、Droplet Reader(Bio-Rad)を用いて陽性および陰性ドロップレットをカウントした。データ解析にはQuantaSoft(Bio-Rad)を用いた。Thresholdは5,000に設定した。
得られた定量値から求められた各サンプルの吸着率は、表1及び図16に示す結果となった。この結果から、繊維表面を改質したサンプル1~2の吸着率は、未改質のサンプル3に比べて大幅に向上することがわかった。
Figure 2022109143000002
<試験例4:繊維集合体への抗体の固定化量の検討>
異なる複数の繊維集合体サンプルに対する、抗体の固定化量について検討した。
[サンプルの準備]
試験例1と同様の繊維集合体サンプルa及びbを準備した。繊維集合体サンプルaのメジアン繊維径は、0.5μmであった。繊維集合体サンプルbのメジアン繊維径は、20μmであった。
試験例3と同様の繊維集合体サンプルc及びdを準備した。繊維集合体サンプルc及びdのメジアン繊維径は、0.5μmであった。
抗体としては、上述のHisタグ付きCoVHH1、ペプチドPep2付きCoVHH1を用いた。抗体の固定化は、試験例1の「抗体の固定化」と同様に行った。
以下の組み合わせの抗体付き繊維集合体のサンプル1~6を準備した。
表面改質処理Aを行った繊維集合体サンプルcに、Hisタグ付きCoVHH1を固定したサンプルを、試験例3と同様に、サンプル1とする。
表面改質処理Bを行った繊維集合体サンプルdに、Hisタグ付きCoVHH1を固定したサンプルを、試験例3と同様に、サンプル2とする。
表面改質処理を行っていない繊維集合体サンプルaに、Hisタグ付きCoVHH1を固定したサンプルを、試験例3と同様に、サンプル3とする。
表面改質処理を行っていない繊維集合体サンプルaに、ペプチドPep2付きCoVHH1を固定したサンプルを、サンプル4とする。
表面改質処理を行っていない繊維集合体サンプルbに、Hisタグ付きCoVHH1を固定したサンプルを、サンプル5とする。
表面改質処理を行っていない繊維集合体サンプルbに、ペプチドPep2付きCoVHH1を固定したサンプルを、サンプル6とする。
また、抗体の固定化を行っていない繊維集合体サンプルを準備した。
表面改質処理Aを行った繊維集合体サンプルcを、本試験例ではサンプル7とする。
表面改質処理Bを行った繊維集合体サンプルdを、本試験例ではサンプル8とする。
表面改質処理を行っていない繊維集合体サンプルaを、本試験例ではサンプル9とする。
表面改質処理を行っていない繊維集合体サンプルbを、本試験例ではサンプル10とする。
上記サンプル1~10のうち、サンプル1~4が本発明の実施例に相当し、サンプル5~10が比較例に相当する。
[抗体の含有量の測定]
抗体含有量の測定は、上記サンプル1~10からタンパク質を抽出し、SDS-PAGEによる分析を行った後、得られたVHHのバンド強度をImage Jによって数値化することで行った。
(繊維集合体からの固定化抗体の抽出)
6mm径に裁断した上記サンプル1~10の各2枚を50μLの抽出液(NuPAGE LDS Sample Buffer-Invitrogen、NuPAGE Sample Reducing Agent-Invitrogen)に浸漬し、70℃10分間の加熱処理によって繊維集合体に固定化された抗体を抽出した。得られた抽出液に対して、SDS-PAGEによる解析を行った。
(SDS-PAGE)
20μLの抽出液を泳動用ゲル(NuPAGE 10%Bis-Tris gel-Invitrogen)の各ウェルにアプライし、PowerEase 90W-Invitrogenを用いて電気泳動を行った(泳動条件:200V 35分間、泳動用緩衝液:NuPAGE MES SDS Running Buffer-Invitrogen)。その後、ゲルをGelCode Blue Stain Reagent(Thermo Fisher Scientific)を用いて染色し、目的タンパク質のバンドを確認した。
(Image Jによるバンド強度の数値化)
SDS-PAGEの結果は画像処理ソフトImage Jを用いて解析を行った。一定の範囲内の画像強度の平均値を算出する機能を用いて、バンド強度の数値化を行った。その結果を、図17に示す。
この結果、本発明の実施例である、0.5μmのメジアン繊維径を有するサンプル1~4は、20μmのメジアン繊維径を有するサンプル5~6と比較して、多くの抗体が固定化されていることがわかった。さらに、サンプル1~4の中でも、表面改質処理を行ったサンプル1~2は、表面改質処理を行っていないサンプル3~4よりも多くの抗体が固定化されていることがわかった。
1…ウイルス濃縮用材料
2…繊維集合体
3…抗体
F…繊維

Claims (17)

  1. 繊維を有する繊維集合体と、
    前記繊維の表面に固定された、標的ウイルスに対する抗体と、
    を備え、
    前記繊維のメジアン繊維径は、20μm未満である
    ウイルス濃縮用材料。
  2. 前記繊維のメジアン繊維径は、1μm以下である
    請求項1に記載のウイルス濃縮用材料。
  3. 前記繊維集合体の比表面積は、1m/g以上である
    請求項1又は2に記載のウイルス濃縮用材料。
  4. 前記繊維集合体は、前記繊維の基材として、熱可塑性樹脂を含む
    請求項1から3のいずれか一項に記載のウイルス濃縮用材料。
  5. 前記抗体は、ペプチドを介して前記繊維の表面に配置されている
    請求項1から4のいずれか一項に記載のウイルス濃縮用材料。
  6. 前記ペプチドは、前記抗体のC末端に結合している
    請求項5に記載のウイルス濃縮用材料。
  7. 前記ペプチドは、配列番号1~16で示されるアミノ酸配列から選ばれる1種又は2種以上のアミノ酸配列を含む
    請求項6に記載のウイルス濃縮用材料。
  8. 前記抗体が固定された前記繊維集合体の1g当たりにおける前記抗体の含有量は、1mg/g以上である
    請求項1から7のいずれか一項に記載のウイルス濃縮用材料。
  9. 前記抗体は、IgG抗体、重鎖抗体、及びフラグメント抗体から選ばれる1種又は2種以上である
    請求項1から8のいずれか一項に記載のウイルス濃縮用材料。
  10. 前記抗体は、VHH抗体である
    請求項9に記載のウイルス濃縮用材料。
  11. 前記標的ウイルスは、ヒト及び家畜への感染が報告されている病原性のウイルスである
    請求項1から10のいずれか一項に記載のウイルス濃縮用材料。
  12. 繊維を有する繊維集合体と、前記繊維の表面に固定された標的ウイルスに対する抗体と、を有し、前記繊維のメジアン繊維径が20μm未満である、ウイルス濃縮用材料と、
    前記標的ウイルスの検査のための検査対象液を収容可能であり、前記繊維集合体の挿入及び取り出しが可能な容器と、
    を備えたウイルス濃縮キット。
  13. 繊維を有する繊維集合体と、前記繊維の表面に固定された標的ウイルスに対する抗体と、を有し、前記繊維のメジアン繊維径が20μm未満である、ウイルス濃縮用材料と、
    前記標的ウイルスの検査のための検査対象液を収容可能であり、前記繊維集合体の挿入及び取り出しが可能な容器と、
    前記繊維集合体に付着した前記検査対象液を用いて前記標的ウイルスを検出するための検査試薬と、
    を備えたウイルス検査キット。
  14. 繊維を有する繊維集合体と、前記繊維の表面に固定された標的ウイルスに対する抗体と、を有し、前記繊維のメジアン繊維径が20μm未満である、ウイルス濃縮用材料を準備し、
    前記繊維集合体を、前記標的ウイルスの検査のための検査対象液と接触させることで、前記検査対象液中の前記標的ウイルスを濃縮する
    ウイルス濃縮方法。
  15. 前記検査対象液が、唾液を含む
    請求項14に記載のウイルス濃縮方法。
  16. 繊維を有する繊維集合体と、前記繊維の表面に固定された標的ウイルスに対する抗体と、を有し、前記繊維のメジアン繊維径が20μm未満である、ウイルス濃縮用材料を準備し、
    前記繊維集合体を、前記標的ウイルスの検査のための検査対象液と接触させることで、前記検査対象液中の前記標的ウイルスを濃縮し、
    濃縮された前記標的ウイルスを検出する
    ウイルス検査方法。
  17. メジアン繊維径が20μm未満である繊維を有する繊維集合体を形成し、
    標的ウイルスに対する抗体を含む抗体含有液に、前記繊維集合体を接触させることで、前記繊維の表面に前記抗体を固定し、
    前記抗体含有液に接触させた前記繊維集合体を乾燥させる
    ウイルス濃縮用材料の製造方法。
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