JP2022097130A - 光変調素子、ホログラム撮像装置、及び像再構成装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】光利用効率が高く、画質の良好なホログラムを撮像し、3次元情報を精度よく再構成することができる光変調素子、ホログラム撮像装置、及び像再構成装置を提供する。【解決手段】インコヒーレントな光波を第1分割光と第2分割光に分割し、これら2つの光波の複素振幅分布に互いに異なる球面位相を付与し、前記第1分割光と前記第2分割光を互いに干渉させてホログラムを形成し、撮像するホログラム撮像装置において、第1の方向には周期的に変化し、第1の方向と直交する第2の方向には一定の2階調の位相分布を、前記第1分割光と前記第2分割光それぞれに付与し、この周期的な位相分布に起因して生じる回折光を利用して、3枚のホログラムを撮像素子の撮像面上に形成させ、前記3枚のホログラムを同時に取得することを特徴とする。【選択図】図1
Description
本発明は、光変調素子、ホログラム撮像装置、及び像再構成装置に関し、特に、インコヒーレントホログラフィによる撮像技術に関連する光変調素子、ホログラム撮像装置、及び像再構成装置に関する。
ホログラフィは物体の3次元情報を取得・再構成する技術である。特に、インコヒーレントホログラフィの技術では、太陽光や一般的な屋内の照明光、蛍光などの空間的なコヒーレンスが低い光源で物体のホログラムを撮像でき、自然光環境下での立体撮像を実現可能という特徴がある。このことから、インコヒーレントホログラフィでは、レーザー光源を用いる立体撮像手法を導入する際に検討するべきアイセーフの問題を考慮する必要がなく、受動的な立体撮像手法を実現できる有力な候補である。
一般に、ホログラフィで3次元情報を取得するためには、位相情報或いは複素振幅情報(位相情報と振幅情報を合わせたもの)の検出が必要である。その情報の検出に、位相シフト法がよく用いられる(例えば、特許文献1)。位相シフト法とは、光の位相シフト量(つまり縞の明暗の位置)が異なる、複数枚のホログラムを撮像し、これらを解析することで、位相情報或いは複素振幅情報を検出する技術である。
位相シフト法に必要な複数枚のホログラムを撮像する際に、ピエゾ素子や液晶などの空間光変調器等を用いて、逐次的に光の位相をシフトさせて、その都度、ホログラムを撮像する時分割の位相シフト法(例えば、特許文献1、非特許文献1)がよく利用されている。しかし、この方法では、位相情報或いは複素振幅情報を検出するために複数回の撮像が必要であるため、動画撮像には適用困難である。
そこで、動画撮像にも適用するために、位相シフト法に必要な複数枚のホログラムを一括に撮像する空間分割の位相シフト法が提案されている(特許文献2)。特許文献2では、撮像対象物体から反射、透過、散乱してきた光を、市松状に変化した構造を有する光変調素子により変調する。この光変調素子は、市松状の位相分布を光に付与する。市松状に変化する位相分布を付与された光は、4つに分割され、それぞれ異なる位相シフト量が付与され、さらに、市松状の位相分布の周期に対応した4つの方向に伝搬する。これにより、位相シフト法に必要な4枚のホログラムを撮像素子面上に同時に形成させることができ、一度の撮像で4枚のホログラムを一括に撮像することができる。
Myung K. Kim, "Full color natural light holographic camera," Optics Express, vol. 21, (2013), pp. 9636-9642
Joseph W. Goodman, "Introduction to Fourier Optics," -3rd edition, p. 214
しかしながら、市松状に変化した光変調素子を用いる場合、入射光を4つに分割しているため、理想的に光を変調できたとしても、各ホログラムにおける入射光の光利用効率は100×1/4=25%になる。また、厳密には、市松状に変化した光変調素子で光を変調する際に、高周波成分の光も発生してしまう。特許文献2の市松状に変化した光変調素子の場合、各ホログラムにおける入射光の光利用効率は、理論的には約16%である。そして、この(25%-16%)のエネルギーは高周波成分に相当しており、4枚のホログラムに寄与しない。これに加え、市松状に変化した光変調素子に欠陥が生じている場合には不要な0次光成分が発生してしまう。また、光変調素子の特性、加工誤差にも起因して、さらに各ホログラムの光利用効率が低下してしまう。
光利用効率が低下すると、主に2つの問題を引き起こす。一つは、撮像素子で撮像する際に光量の減少に伴う信号対雑音比の低下が原因で、撮像素子のノイズの影響が顕著になり、立体映像の画質が低下する。もう一つは、ホログラム撮像時に光量を補うために、露光時間を長く設定する必要があり、その露光時間に対して動きが速い撮像対象・動的な現象を撮像する際には、立体映像がぼやけてしまう。
従って、上記のような問題点に鑑みてなされた本発明の目的は、従来技術よりも光利用効率が高い空間分割位相シフト法を実現する光変調素子、及び、当該空間分割位相シフト法を利用して、画質の良好なホログラムを撮像し、3次元情報を精度よく再構成することができる、ホログラム撮像装置及び像再構成装置を提供することにある。
上記課題を解決するために本発明に係るホログラム撮像装置は、インコヒーレントな光波を第1分割光と第2分割光に分割し、これら2つの光波の複素振幅分布に互いに異なる球面位相を付与し、前記第1分割光と前記第2分割光を互いに干渉させてホログラムを形成し、撮像するホログラム撮像装置において、第1の方向には周期的に変化し、第1の方向と直交する第2の方向には一定の2階調の位相分布を、前記第1分割光と前記第2分割光それぞれに付与し、この周期的な位相分布に起因して生じる回折光を利用して、3枚のホログラムを撮像素子の撮像面上に形成させ、前記3枚のホログラムを同時に取得することを特徴とする。
また、前記ホログラム撮像装置は、第1の方向には周期的に変化し、第1の方向と直交する第2の方向には一定の2階調の位相分布を光に付与する光変調素子を2枚備え、一方の光変調素子で前記第1分割光を変調し、他方の光変調素子で前記第2分割光を変調し、変調する際に、他方の光変調素子の位相分布が一方の光変調素子の位相分布に対して第1の方向にずれている2枚の光変調素子を用いて変調する、又は、一方の光変調素子と前記第1分割光との位置関係と、他方の光変調素子と前記第2分割光との位置関係を、第1の方向にずらして配置して変調することが望ましい。
また、前記ホログラム撮像装置は、前記第1分割光と前記第2分割光を互いに回転方向の異なる円偏光にする手段と、第1の方向には周期的に変化し、第1の方向と直交する第2の方向には一定の2階調の位相分布を光に付与する光変調素子であって、各円偏光をそれぞれ3方向に分割する光変調素子と、3つの領域を透過軸の方向が互いに異なる偏光子で構成した3領域分割偏光子とを備え、前記3領域分割偏光子の各領域に3方向に分割された円偏光をそれぞれ対応させて透過させることが望ましい。
また、前記ホログラム撮像装置は、前記第1分割光及び前記第2分割光を互いに回転方向の異なる円偏光にする手段が、伝搬してくる光を透過させる、斜め45度の方向に透過軸を有する直線偏光子と、前記直線偏光子を透過した直線偏光を変調する複屈折レンズと、前記複屈折レンズを透過した光を円偏光に変換する4分の1波長板とを備えることが望ましい。
また、前記ホログラム撮像装置は、伝搬してくる光を透過させる、斜め45度の方向に透過軸を有する直線偏光子と、前記直線偏光子を透過した直線偏光を変調する複屈折レンズと、光の1方向の電場ベクトルに対して、第1の方向に周期的に変化し第1の方向と直交する第2の方向には一定の2階調の位相分布を付与し、前記1方向の電場ベクトルと直交する方向の電場ベクトルに対して、位相分布が第1の方向に沿ってずれた、第1の方向に周期的に変化し第1の方向と直交する第2の方向には一定の2階調の位相分布を付与する光変調素子であって、前記複屈折レンズを透過した垂直直線偏光と水平直線偏光をそれぞれ3方向に分割する光変調素子と、前記光変調素子で3方向に分割された垂直直線偏光と水平直線偏光を透過させる直線偏光子とを備えることが望ましい。
また、前記ホログラム撮像装置は、前記光変調素子が、レンズの位相分布を重畳した反射型或いは透過型の光変調素子であることが望ましい。
上記課題を解決するために本発明に係る像再構成装置は、前記ホログラム撮影装置で撮影したホログラムの画像データを入力とし、前記画像データから3枚の個別のホログラムを抽出し、位相シフト法により複素振幅分布を求め、伝搬計算により像を再構成することを特徴とする。
また、前記像再構成装置は、あらかじめ取得しておいた光変調素子の0次光と±1次光の光強度又は回折効率の比を用いて、ホログラムの強度を補正した位相シフト法により複素振幅分布を求めることが望ましい。
上記課題を解決するために本発明に係る光変調素子は、光の1方向の電場ベクトルに対して、第1の方向に周期的に変化し第1の方向と直交する第2の方向には一定の2階調の位相分布を付与し、前記1方向の電場ベクトルと直交する方向の電場ベクトルに対して、位相分布が第1の方向に沿ってずれた、第1の方向に周期的に変化し第1の方向と直交する第2の方向には一定の2階調の位相分布を付与する光変調素子であって、進相軸又は遅相軸の向きが互いに異なる4種類の移相子が第1の方向に所定の順番で繰り返し配置されており、第1の方向に沿った位相分布のずれをs、2諧調の位相分布の幅をd1、d2とするとき、4種類の移相子の幅はそれぞれ、s,d1-s,s,d2-sであることを特徴とする。
本発明の光変調素子、ホログラム撮像装置、及び像再構成装置によれば、従来技術よりも光利用効率が高く、画質の良好なホログラムを撮像し、3次元情報を精度よく再構成することができる。
以下、本発明について、図面を用いて説明する。図1は、本発明のホログラム撮像装置及び像再生装置の概念図である。本発明は、インコヒーレント光を用いる干渉計を構築し、これをホログラム撮像装置とする。
本発明のホログラム撮像装置は、インコヒーレント光の分割手段2と、球面位相変調素子3,4と、光変調素子5,6と、光の合波手段7と、撮像素子8とを備えており、さらに、像再構成装置を構成するための演算装置10を備えている。
ホログラムを撮像する過程の概要を説明する。物体(撮像対象物体)1を光で照明し、その透過光、反射光、或いは蛍光、自発光を、分割手段2により、2つに分割する。光を分割する手段としては、例えば、ビームスプリッターや、偏光の直交性を利用することが可能である。分割した後の2つの光を、それぞれ第1分割光、第2分割光とする。
第1分割光と第2分割光それぞれを、位相分布の曲率半径が異なる球面位相変調素子3,4を用いて変調する。球面位相変調素子3,4としては、例えば、一般的なレンズの他、複屈折レンズ、空間光変調器で実現したフレネル回折レンズ、偏光回折レンズ、偏光ディレクトフラットレンズ等が挙げられる。
その後、光に位相分布を付与する機能を有する光変調素子5,6で、第1分割光、第2分割光にそれぞれ所定の位相分布を付与する。光変調素子5,6は、後に詳述するが、入射光に対して、第1の方向には周期的に変化し、第1の方向と直交する第2の方向には一定の2階調の位相分布を付与する機能を有する。ここでは、光変調素子5の位相分布を“位相分布1”とし、光変調素子6の位相分布を“位相分布2”とする。なお、各分割光に付与する位相分布は、逆になってもよい。
光変調素子5,6で変調された後、第1分割光と第2分割光はそれぞれ、3つに分割される。3つに分割される光は、光変調素子5,6で付与した周期的な位相変化に起因する回折現象に由来しており、2階調で変化する位相分布の0次光成分、±1次光成分の回折光に対応している。その後、これらの光を合波手段7で合波する。光を合波する手段としては、例えば、ビームスプリッター等を利用することが可能である。
その後、第1分割光と第2分割光を撮像素子8の撮像面上で干渉させる。撮像面上では、3枚のホログラムが形成される。撮像素子8でこれを一括に(同時に)撮像し、撮影画像9(すなわち、3つのホログラム)を得る。ホログラム撮像装置としては、例えば、この撮影画像9を記録媒体に記録・保存することができる。更に、この撮影画像9を像再構成装置である演算装置10に転送し、信号処理を施すことで、撮像対象物体の立体像を再構成することができる。
なお、図1では、1台の撮像素子で3枚のホログラムを撮影しているが、3台の撮像素子を並べて配置し、各撮像素子で1枚ずつホログラムを撮影してもよい。複数の撮像素子を用いた場合でも、3つのホログラムを同時に取得することが望ましい。像再構成の信号処理の内容については後述する。
本発明では、ホログラムを形成させるための光を3方向に分割するため、特許文献2の市松状の格子を用いて光を4方向に分割する手法と比べて、光の利用効率が高い。理論的には、各ホログラムにおける入射光の光利用効率は、約29%改善可能である。さらに、光学系が比較的小型であり、構築が容易となる。
本発明の光学系に用いる光変調素子5,6について説明する。図2は、ホログラム撮像装置の光変調素子が光に付与する位相分布の例であり、図2(a)は光変調素子5を、図2(b)は光変調素子6を示している。光変調素子5,6は、ホログラムを形成させる第1分割光と第2分割光に対して、1軸方向(第1の方向、ここではx方向)に周期的に変化する位相分布を付与し、1軸方向と直交する方向(第2の方向、ここではy方向)には一定の位相分布を与える。
光変調素子5,6は、d1の幅の領域51,61で位相+Δφを光に付与し、d2の幅の領域52,62で位相-Δφを光に付与し、光変調素子5,6の全体は、周期d1+d2で1軸方向(x方向)に変化する2階調の位相分布である。例えば、図2(a)の位相分布を第1分割光に付与し、図2(b)の位相分布を第2分割光に付与する。なお、図2(a)と図2(b)の位相分布は本質的に同じものであるが、図2(b)は、図2(a)に対して、位相分布が変化している方向(x方向)に沿ってsだけずれている。sずらすことで生じる影響及び必要性については後述する。
このように、本発明の光学系に用いる光変調素子5,6は、入射光に対して、1軸方向(第1の方向)には周期的に変化し、これと直交する方向(第2の方向)には一定の2階調の位相分布を付与する機能を有する。光変調素子5,6で変調された第1分割光及び第2分割光は、それぞれの分割光と同質の3つの光に分割される。これらを一括に干渉させて、撮像することで、比較的高い光利用効率で複素振幅分布の解析に必要な3枚のホログラムを取得することができる。
図3は、光変調素子5の構造の例を示す平面図と断面図である。図2(a)の位相分布を付与する機能を有する光変調素子5は、例えば、1軸方向(第1の方向、ここではx方向)に周期的な凹凸構造の変化を有する反射型又は透過型の回折格子を用いることができる。また、x軸方向に周期的な光学的構造を有し、y軸方向に一様な光学的構造を有する素子を作製することで実現することができる。
図3(a)は、x軸方向に凹凸の周期構造が形成されており、それと直交するy方向には構造の変化がない。これは、屈折率が等方的な材料でできた回折格子に相当している。光変調素子を透過するz方向の光は、所定の屈折率の物質を通過する距離の違いにより、異なる位相が与えられる。例えば、凹の部分53で+Δφ(又は、-Δφ)の位相を付与し、凸の部分54で-Δφ(又は、+Δφ)の位相を付与する。
図3(b)は、波長と同程度、或いは波長以下の大きさのナノロッドを形成させたメタサーフェスであり、x軸方向にはナノロッド直径が異なるものが周期的に配列され、y方向には直径が同じナノロッドが配列されている。例えば、直径が小さいナノロッドが配置された領域55で+Δφ(又は、-Δφ)の位相を付与し、直径が大きいナノロッドが配置された領域56で-Δφ(又は、+Δφ)の位相を付与する。なお、メタサーフェスの構造に関しては、ナノロッド以外にもさまざま構造を適用しうるが、特定の形状に限定するものではなく、図2の位相分布を付与できれば、どのような構造でもよい。例えば、撮像対象の光の波長と同程度、或いはそれ以下の大きさのナノピラー、ナノブロック等で構成される素子を用いてもよい。
図3(a)と図3(b)の光変調素子5を比較すると、図3(a)の方が、図3(b)よりも加工が比較的に容易で大型の素子を作製しやすい。しかし、図3(a)では、入射角度が大きい光が入射する場合に、凹凸構造の段差が大きいことで凸構造の側面で光が全反射や屈折を生じ、光の利用効率が低下する。つまり、光の入射角依存性が強い。一方で、図3(b)では、図3(a)よりも加工が困難であるが、波長程度、或いは波長以下の大きさの凹凸が配置されているため、全反射や不要な屈折が抑えられ、入射角依存性が低く、光の利用効率を高くすることができる。
次に、図1のホログラム撮像装置を実現する光学系について詳述する。
(第1の実施形態)
図4は、第1の実施形態のホログラム撮像装置の例である。第1の実施形態は、図2の位相分布を付与する透過型の光変調素子5,6を用いて、マッハツェンダー干渉計に基づきホログラム撮像装置を構成したものである。
図4は、第1の実施形態のホログラム撮像装置の例である。第1の実施形態は、図2の位相分布を付与する透過型の光変調素子5,6を用いて、マッハツェンダー干渉計に基づきホログラム撮像装置を構成したものである。
図4のホログラム撮像装置は、倍率調整用レンズ11と、波長フィルター12と、ビームスプリッター2と、球面位相変調素子3と、ミラー13,14と、光変調素子5,6と、ビームスプリッター7と、撮像素子8とを備えている。
倍率調整用レンズ11は、物体1からの透過光、反射光、或いは蛍光、等の自発光を屈折させて、所望の大きさの像となるように倍率を拡大・縮小して調整を行う。なお、倍率調整用レンズ11の使用は任意である。
波長フィルター12は、光のバンドパスフィルタであり、インコヒーレントな光波の特定の帯域の光のみを透過させ、時間的コヒーレンスを向上させる。透過する光の波長幅は、例えば、1nm~100nmである。なお、波長フィルター12の使用は任意である。波長フィルター12は、立体映像の空間分解能を向上したい場合に用いる。
ビームスプリッター2は、光の分割手段として機能し、波長フィルター12を透過した光を、第1分割光と第2分割光に分割する。第1分割光は球面位相変調素子3に向かって進み、第2分割光はミラー14に向かって進む。
球面位相変調素子3は、例えば、一般的なレンズで構成され、第1分割光に対して所定の球面位相を付与する。球面位相変調素子3は、複屈折レンズ、フレネル回折レンズ、偏光回折レンズ、偏光ディレクトフラットレンズ等であってもよい。なお、図4では、ビームスプリッター2で分波した後、一方の光路(第1分割光)にのみ、球面位相変調素子3としてレンズを用いているが、レンズを配置していない光路の方は、曲率が無限小の変調を行っていることと同等であり、第1分割光と第2分割光に、互いに異なる曲率半径の位相分布が与えられることとなるので、ホログラムの形成に問題とならない。球面位相変調素子を他方の光路(第2分割光)のみに設けてもよく、両方の光路に異なる球面位相変調素子3,4を設けてもよい。
ミラー13は、球面位相変調素子3を透過した第1分割光を所定の角度で反射し、光変調素子5に向かわせる。また、ミラー14は、ビームスプリッター2からの第2分割光を所定の角度で反射し、光変調素子6に向かわせる。
光変調素子5は透過型の素子であって、透過する第1分割光に対して、図2(a)に示す位相分布を与える。このとき、第1分割光は回折により、位相分布の0次光成分、及び±1次光成分に対応する3つの光に分割されて、ビームスプリッター7へ向かう。同様に、光変調素子6も透過型の素子であって、透過する第2分割光に対して、図2(b)に示す位相分布を与える。このとき、第2分割光は回折により、位相分布の0次光成分、及び±1次光成分に対応する3つの光に分割されて、ビームスプリッター7へ向かう。光変調素子5,6は、回折により光を3分割する機能と、後述のように、第1分割光と第2分割光に対して、位相シフトを与える機能とを有している。
ビームスプリッター7は、光の合波手段として機能する。すなわち、第1分割光に対しては入射したままの方向で透過させ、第2分割光に対しては反射して90度方向を変える。これにより、第1分割光と第2分割光は合波されて、共に、撮像素子8に向かう。
撮像素子8の撮像面上では、3枚のホログラムが形成され(図1の撮影画像9のイメージを参照)、これを撮像素子8で撮像する。
この撮影画像9から、3枚のホログラムを抽出する。中央部のホログラムに付与される位相シフト量を基準とすると、左右の各ホログラムに付与される、位相シフト量ΔφL、ΔφRは、次式(1)、(2)であらわされる。
ΔφL、ΔφR≠0であれば、3ステップの位相シフト法のアルゴリズムを適用することで、撮像対象物体1の3次元情報が反映された複素振幅分布が得られる。なお、ΔφL、ΔφRは上式からわかるように、光変調素子5,6の位相分布のずれsにより調整することができる。高精度に位相シフト法を適用するためには、s=±(d1+d2)/2或いはs=±2(d1+d2)/3とすることが望ましい。すなわち、sは、1軸方向の周期に対して、半分、或いは2/3の長さが望ましい。また、d1=d2のときに、かつd1とd2が光の波長に対して十分に大きい場合には、非特許文献2に記載の回折効率の理論式より、Δφを0.3196πradとすると、理論的には3枚のホログラムを同等の強度で形成できる。
本実施形態においては、光変調素子(第1の方向には周期的に変化し、第1の方向と直交する第2の方向には一定の2階調の位相分布を光に付与する光変調素子)5,6を用いており、他方の光変調素子6の位相分布が一方の光変調素子5の位相分布に対して第1の方向にsずれている2枚の光変調素子を用いて変調している。しかし、これに代えて、同一の光変調素子を2枚用い、一方の光変調素子と第1分割光との位置関係と、他方の光変調素子と第2分割光との位置関係とを第1の方向(位相が周期的に変化している方向)にずらして配置して変調してもよい。
(第2の実施形態)
図5は、第2の実施形態のホログラム撮像装置の例である。第2の実施形態は、図2の位相分布を付与する反射型の光変調素子5,6を用いて、マイケルソン干渉計に基づきホログラム撮像装置を構成したものである。
図5は、第2の実施形態のホログラム撮像装置の例である。第2の実施形態は、図2の位相分布を付与する反射型の光変調素子5,6を用いて、マイケルソン干渉計に基づきホログラム撮像装置を構成したものである。
図5のホログラム撮像装置は、倍率調整用レンズ11と、波長フィルター12と、ビームスプリッター2(7)と、球面位相変調素子4と、光変調素子5,6と、撮像素子8とを備えている。図4のホログラム撮像装置と共通する構成については、説明を簡略化する。
倍率調整用レンズ11は、物体1の像を所望の大きさとなるように倍率の調整を行う。また、波長フィルター12は、インコヒーレントな光波の特定の帯域の光のみを透過させる。なお、倍率調整用レンズ11及び波長フィルター12の使用は任意である。
ビームスプリッター2(7)は、光の分割手段2及び合波手段7として機能する。すなわち、ビームスプリッター2(7)は、波長フィルター12を透過した光を第1分割光と第2分割光に分割する。そして、第1分割光は光変調素子5に向かって進み、第2分割光は球面位相変調素子4及び光変調素子6に向かって進む。また、ビームスプリッター2(7)は、光変調素子5,6で反射された第1分割光と第2分割光を合波する。そして、合波された第1分割光と第2分割光は撮像素子8に向かう。
球面位相変調素子4は、例えば、レンズで構成され、第2分割光に対して所定の球面位相を付与する。球面位相変調素子を第1分割光側に設けてもよく、両方の光路に異なる球面位相変調素子3,4を設けてもよい。
光変調素子5,6は反射型の素子であり、光変調素子5は反射した第1分割光に対して、図2(a)に示す位相分布を与え、光変調素子6は反射した第2分割光に対して、図2(b)に示す位相分布を与える。また、第1分割光及び第2分割光は回折により、それぞれ3つの光に分割され、ビームスプリッター7を経て撮像素子8へ向かう。光変調素子5,6は、回折により光を3分割する機能と、第1分割光と第2分割光に対して、位相シフトを与える機能とを有している。
分割光を反射型の光変調素子5,6で変調する本光学系を用いた場合でも、第1の実施形態と同様に3枚のホログラムを撮像素子8の撮像面上で形成させることができる。なお、3枚のホログラムに付与される位相シフト量の考え方は、第1の実施形態と同じである。
本実施形態においては、反射型の光変調素子(第1の方向には周期的に変化し、第1の方向と直交する第2の方向には一定の2階調の位相分布を反射光に付与する光変調素子)5,6を用いており、他方の光変調素子6の位相分布が一方の光変調素子5の位相分布に対して第1の方向にsずれている2枚の光変調素子を用いて変調している。しかし、これに代えて、同一の光変調素子を2枚用い、一方の光変調素子と第1分割光との位置関係と、他方の光変調素子と第2分割光との位置関係とを第1の方向(位相が周期的に変化している方向)にずらして配置して変調してもよい。
(第3の実施形態)
図6は、第3の実施形態のホログラム撮像装置の例である。第3の実施形態は、単一の光路の干渉計によりホログラム撮像装置を構成したものである。図4、図5は2光路の干渉計に基づいているが、光路が2つに分けられてしまうため、振動や空気の揺らぎの影響を受けやすい。図6の干渉計を用いることで、単一の共通光路で、図2(a)又は図2(b)の位相分布を付与する光変調素子を一つだけ用い、第1及び第2の実施形態と同様の3枚のホログラムを撮像することができる。
図6は、第3の実施形態のホログラム撮像装置の例である。第3の実施形態は、単一の光路の干渉計によりホログラム撮像装置を構成したものである。図4、図5は2光路の干渉計に基づいているが、光路が2つに分けられてしまうため、振動や空気の揺らぎの影響を受けやすい。図6の干渉計を用いることで、単一の共通光路で、図2(a)又は図2(b)の位相分布を付与する光変調素子を一つだけ用い、第1及び第2の実施形態と同様の3枚のホログラムを撮像することができる。
図6のホログラム撮像装置は、倍率調整用レンズ11と、直線偏光子15と、複屈折レンズ16と、4分の1波長板17と、光変調素子5と、3領域分割偏光子18と、撮像素子8とを備えており、さらに、像再構成装置を構成するための演算装置10を備えている。図4,5のホログラム撮像装置と共通する構成については、説明を簡略化する。
倍率調整用レンズ11は、物体1の像を所望の大きさとなるように倍率の調整を行う。倍率調整用レンズ11の使用は任意である。
直線偏光子15は、斜め45度の方向に透過軸を有する直線偏光子である。物体1から伝搬してくる光を、直線偏光子15に透過させると、斜め45度の直線偏光となる。斜め45度の直線偏光は、垂直直線偏光と水平直線偏光の重ね合わせとして考えることができ、垂直直線偏光と水平直線偏光の一方を第1分割光、他方を第2分割光とする。
複屈折レンズ16は、光学的異方性を有するレンズであり、偏光方向により屈折率が変化する。斜め45度の直線偏光を、複屈折レンズ16で変調することにより、垂直直線偏光と水平直線偏光、すなわち、第1分割光と第2分割光のそれぞれに、曲率半径が異なる球面位相を付与することができる。
4分の1波長板17は、直線偏光を円偏光又は楕円偏光に変える。すなわち、第1分割光及び第2分割光を、進相軸又は遅相軸が45度傾いた4分の1波長板17に入射させることにより、直交する2つの直線偏光(垂直直線偏光と水平直線偏光)が直交する2つの円偏光(左回り円偏光と右回り円偏光)に変換される。
光変調素子5は、例えば、図2(a)の位相分布1を付与する光変調素子である。光変調素子5により、2つの円偏光を変調する。その結果、第1分割光と第2分割光である左回り・右回りの円偏光は、それぞれ3つずつに分割される。これらの光を3領域分割偏光子18に入射させる。なお、本実施形態では、光変調素子5は、入射光を3分割する素子として用いられており、2つの分割光に位相シフトを与えるものではない。
図7は、3領域分割偏光子18の透過軸の例を示す図である。3領域分割偏光子18は、図7に示すように、透過軸が異なる3枚の直線偏光子181,182,183で構成される。3領域分割偏光子18の3つの領域に、3分割された円偏光をそれぞれ対応させて透過させる。偏光子の透過軸の角度に応じて、第1分割光(左回り円偏光)と第2分割光(右回り円偏光)は異なる位相シフトを生じ、偏光状態が同じで位相が異なる2つの直線偏光として直線偏光子181~183からそれぞれ出力される。
この3領域分割偏光子18を通過した後に、直線偏光となった第1分割光と第2分割光は互いに干渉し、撮像素子8の撮像面上に位相シフト量が異なる3枚のホログラムが、一括に形成される。したがって、本実施形態においても、撮像素子8による1回の撮影で、位相シフト法に必要な3枚のホログラムを同時に得ることができる。撮像されたホログラムの画像データ(撮影画像9)は演算装置10に伝送される。
図4と図5の2枚の光変調素子を用いる光学系と異なり、本実施形態の光学系では、ホログラムに付与される位相シフト量は以下のように決定される。3領域分割偏光子18の中心の偏光子182の透過軸の角度を基準とし、左隣、右隣の偏光子181,183の角度を-θ,+θそれぞれ回転させると、中心のホログラムに付与させる位相シフト量を基準として、左右に形成されるホログラムそれぞれに、ΔφL=-2θ、ΔφR=+2θの位相シフト量が付与される。高精度に位相シフト法を適用するためには、θ=±π/4或いはθ=±π/3とすることが望ましい。また、複屈折レンズ16と4分の1波長板17のかわりに、偏光回折レンズ或いは偏光ディレクトフラットレンズを用いてもよい。なお、光変調素子5が反射型の素子である場合には、光変調素子5の前にビームスプリッターを配置すればよい。
本実施形態は、第1分割光及び第2分割光を互いに回転方向の異なる円偏光にする手段を用い、図2の位相分布を付与する光変調素子を1枚用いて円偏光の光波を変調してそれぞれ3方向に分割し、3方向に分割された円偏光を透過軸の方向が互いに異なる3つの偏光子で構成した3領域分割偏光子の各領域に透過させ、3つのホログラムを同時に取得するものである。図4及び図5の2光路の干渉計の構成と比較して、本実施形態では、単一光路で光学系を構築でき、振動や空気の揺らぎ等の外乱やノイズに対して高い堅牢性がある。
(第4の実施形態)
図8は、第4の実施形態のホログラム撮像装置の例である。第4の実施形態は、単一の光路の干渉計によりホログラム撮像装置を構成した別の例である。
図8は、第4の実施形態のホログラム撮像装置の例である。第4の実施形態は、単一の光路の干渉計によりホログラム撮像装置を構成した別の例である。
図8のホログラム撮像装置は、倍率調整用レンズ11と、直線偏光子15と、複屈折レンズ16と、光変調素子(偏光回折格子)19と、直線偏光子20と、撮像素子8とを備えており、さらに、像再構成装置を構成するための演算装置10を備えている。図4~6のホログラム撮像装置と共通する構成については、説明を簡略化する。
第3の実施形態(図6)の光学系では4分の1波長板17が必要であったが、本実施形態の光学系では不要であり、光学素子の枚数を低減できるため、光の反射・吸収が抑えられ、光利用効率が比較的高い。また、3領域分割偏光子18ではなく、通常の直線偏光子20を撮像素子8の前に設置するため、光学系の構築が比較的容易である。
倍率調整用レンズ11は、物体1の像を所望の大きさとなるように倍率の調整を行う。また、直線偏光子15は、物体1から伝搬してくる光を斜め45度の直線偏光とする。これにより、第1分割光(垂直直線偏光)と第2分割光(水平直線偏光)を生成する。そして、複屈折レンズ16は、垂直直線偏光と水平直線偏光、すなわち、第1分割光と第2分割光のそれぞれに、曲率半径が異なる球面位相を付与する。
光変調素子(偏光回折格子)19は、光変調素子5(図2(a))と光変調素子6(図2(b))の位相分布の両方を、直交する2つの直線偏光に付与する。すなわち、光の1方向の電場ベクトルに対して、第1の方向に周期的に変化し第1の方向と直交する第2の方向には一定の2階調の位相分布を付与し、1方向の電場ベクトルと直交する方向の電場ベクトルに対して、位相分布が第1の方向に沿ってずれた、第1の方向に周期的に変化し第1の方向と直交する第2の方向には一定の2階調の位相分布を付与する光変調素子である。さらに、複屈折レンズ16を透過した第1分割光と第2分割光(垂直直線偏光と水平直線偏光)をそれぞれ3方向に分割する。
その後、直線偏光子20により、3方向に分割された第1分割光と第2分割光は偏光方向が揃った直線偏光となり、互いに干渉して撮像素子8の撮像面上に位相シフト量が異なる3枚のホログラムが、一括に形成される。よって、撮像素子8による1回の撮影で、位相シフト法に必要な3枚のホログラムを同時に得ることができる。撮像されたホログラムの画像データ(撮影画像9)は演算装置10に伝送される。
図9は、本発明の光変調素子(偏光回折格子)19の光学特性を説明する図である。図9(a)に示されるように、光変調素子19は、それぞれ特性の異なる4種類の移相子により構成される。A,B,C,Dの各領域は、進相軸又は遅相軸の向きが異なる移相子の機能を有しており、4種類の移相子が第1の方向に所定の順番で繰り返し配置されている。第1の方向に沿った位相分布のずれをs、2諧調の位相分布の幅をd1、d2とするとき、領域A,B,C,Dの幅は、それぞれ、s,d1-s,s,d2-sである。また、各移相子の特性は、ジョーンズ行列を用いると以下の(3)~(6)式のように表される。
ここで、Kは光変調素子自体の屈折率と吸収係数に起因する複素振幅値の変化を与える定数であり、iは虚数、ψは任意の回転角度、Δは進相軸と遅相軸の位相差、つまり、水平直線偏光と垂直直線偏光の位相のずれ量をあらわす。図9のd1,d2,sは、図2と同様に設定することが望ましく、特に、d1=d2のときに、かつd1とd2が光の波長に対して十分に大きい場合には、Δを0.6391πradとすると、理論的には3枚のホログラムを同等の強度で形成できる。高精度に位相シフト法を適用するためには、s=±(d1+d2)/2或いはs=±2(d1+d2)/3とすることが望ましい。
図9(b)は、図9(a)の機能を実現する素子の概念図であり、網掛けの線の方向が、移相子の進相軸又は遅相軸の向きを表している。図9(b)では、ψ=0の場合のものを示しており、進相軸、遅相軸が45度ずつ異なっていることがわかる。なお、光変調素子19は、反射型・透過型のいずれであってもよい。本素子は、液晶高分子、高分子の配向膜、光学結晶、構造複屈折、メタサーフェス等を用いることで作製することができ、素子の材質・構造の形状に関しても無数のアプローチが存在する。上述の説明に基づき、図2に対応する位相分布を付与できれば、本素子の作製技術、方法、材料、形状に関して限定するものではない。
本実施形態の光変調素子(偏光回折格子)19は、1枚の光変調素子で、図2(a)及び図2(b)の1軸方向に変化する位相分布を第1分割光と第2分割光にそれぞれ付与するものである。この光変調素子19を1枚用いて光を変調し、この変調後の光波の直交する2つ電場ベクトルをそれぞれ第1分割光、第2分割光として扱い、これらの光波を直線偏光子に透過させた後、干渉させることで、共通光路の干渉計で構築されるホログラム撮像装置を構成することができる。
本実施形態の構成は、第3の実施形態の単一光路の干渉計の構成と比較して、入射光の偏光状態が円偏光である必要がないために、光学素子の数を削減でき、光利用効率が高く、より高精度にホログラムを撮像できる。
各実施形態の光学系では、ぞれぞれの光路で球面位相を付与するためのレンズを配置しているが、レンズと同じ機能を有する位相分布を、図2の位相分布に重ね合わせた位相分布を光変調素子で付与してもよい。この場合の光変調素子に関して、具体例は明示しないが、実現したい光の位相量に応じて、構造を変化させればよく、本明細書の開示及び公知技術に基づいて作製可能である。また構造の選択肢としても無数に存在するため、それらを限定するのではなく、1軸方向に周期的に変化する2階調の位相と、レンズの位相が重畳していればよい。このことにより、すべての撮像装置で、光学系の構成の簡略化、光利用効率の改善が可能である。
また、本発明では、素子の加工精度に応じて、ホログラムの強度値がばらつく恐れがあるが、後述する位相シフト法のアルゴリズムを適用することにより、高精度な像を得ることができる。以上から、本発明はより実用的なホログラム撮像装置を提供することができる。
(第5の実施形態)
次に、本発明の像再構成装置による、3次元情報を再構成する処理について説明する。像再構成装置は、本発明のホログラム撮影装置で撮影したホログラムの画像データを入力とする。
次に、本発明の像再構成装置による、3次元情報を再構成する処理について説明する。像再構成装置は、本発明のホログラム撮影装置で撮影したホログラムの画像データを入力とする。
第1乃至第4の実施形態のいずれの光学系を用いた場合でも、撮像素子8の撮像面上で形成される3枚のホログラムは本質的に同じであり、像再構成装置(演算装置)10で行う信号処理はすべての光学系で共通である。まず、撮影画像9から、3枚のホログラムを独立して切り出す。このとき、3枚のホログラムを、位置を合わせながら切り出す必要があるが、相関演算を利用することで、高精度にホログラムを抽出することができる。これらに対して、3ステップの位相シフト法を適用することで、物体から伝搬してきた光の複素振幅分布o(x,y)を得る。
この際に、もし光変調素子に作製誤差が生じている場合、入射光に付与される位相分布が設計値とずれてしまい、入射光を3分割する際に各光波に対して、光強度のばらつきを生じさせる。この光強度のばらつきが生じていると、撮像素子8上で形成されるホログラムの強度にもずれが生じてしまう。このような状況で、通常の3ステップの位相シフト法のアルゴリズムを適用してしまうと、計測誤差が大きくなり、撮像対象物体の画質が著しく低下する。このように、光変調素子の作製誤差が大きく、その影響が無視できない場合には、撮像する前にあらかじめ光変調素子からの0次光と±1次光の光強度或いは回折効率の比の情報を計測・取得しておき、その強度差を補正した位相シフト法のアルゴリズムの信号処理により、画質を改善することが可能である。
具体的には、次の(7)式を用いた3ステップ位相シフト法を用いる。
ここで、IC(x,y)、IL(x,y)、IR(x,y)はそれぞれ、撮像素子8の撮像面上で形成される中央部、左側、右側に形成されるホログラムの強度分布であり、φC、φL、φRはそれぞれのホログラムに付与されている位相シフト量をあらわす。αとβは、それぞれ光変調素子の-1次光と0次光の回折効率の比、+1次光と0次光の回折効率の比である。αとβの値は、あらかじめ、回折効率を測定することにより測定することができる。作製誤差が十分に小さい、或いは、その影響を無視できる場合には、α=β=1とすれば、通常の3ステップの位相シフト法と同等である。o(x,y)は、撮像素子面上での、物体から伝搬してきた光の複素振幅分布である。(7)式に基づくアルゴリズムを用いることで、光変調素子の作製誤差に対してロバストに、物体からの光波の複素振幅分布を測定することができる。
o(x,y)から物体の3次元情報を再構成する過程は、特許文献2に記載されている方法と同様であり、演算装置内で伝搬計算を適用することにより、物体の像が得られる。
(実施例と効果の検証)
実施例として、図6の光学系に基づきホログラムを撮像・再構成し、その結果を以下に示す。
実施例として、図6の光学系に基づきホログラムを撮像・再構成し、その結果を以下に示す。
光源の波長は633nmとし、光変調素子としては、d1=d2=19.5μm、s=13μm、Δφ=0.3196πradとした。
本実施例では、図10に示す“1”、“2”の物体を撮像対象とした。“1”、“2”の物体の大きさはそれぞれ、117μm×188.5μm、123.5μm×175.5μmである。“1”の物体を基準とすると、“2”の物体の面内方向の中心位置は、(x=364μm、y=-318.5μm)である。また、物体“1”と“2”の間の奥行(z)方向の距離は、20mmである。なお、図10の各画面は概念的なものであり、物体“1”、“2”が上記の位置で光を反射又は発光し、他の領域(黒で示されている。)は透光性であればよい。これらを3次元物体として、本発明のホログラム撮影装置で撮影した。以下、各図の画像は、シミュレーションで作成した。
ホログラム撮像装置の撮像素子8で撮像したホログラム(強度画像)を図11に示す。図11より、縞の明暗の位置が異なる3枚のホログラムが形成されていることがわかる。演算装置10により、図11の強度画像から3枚のホログラムを個別に抽出する。この際に、3枚のホログラムに面内ずれが生じないように、正確に抽出する必要がある。このことを実現するために、相関演算を用いる。以下ではマッチドフィルターを用いた場合の説明を記載するが、位相限定相関等、他の相関演算を用いてもよい。3つのホログラムの内、任意の1枚のホログラムを、ケラレが生じないように切り出し、これをテンプレート画像t(x,y)とする。なお、t(x,y)は必要に応じて、ゼロパディングの信号処理により後述するi(x,y)と同じ画素数の画像にする。図11の強度画像をi(x,y)とすると、相関の演算は、次式(8)で与えられる。
ここで、I(u,v)、T(u,v)はそれぞれi(x,y)、t(x,y)のフーリエスペクトルであり、*は複素共役を示す。FT[…]はフーリエ変換演算子である。なお、(8)式においては、逆フーリエ変換を行っても、実質的に同等である。演算の結果、p(x,y)には、各ホログラムの中心位置に明確なピークが生じる。p(x,y)のピーク位置から、3つのホログラムの相対的な位置情報を取得する。この位置情報を参照することにより、面内ずれを十分に抑制でき、3枚のホログラムを正確に抽出することができる。さらに、ホログラム切り出し位置をピクセル単位で微調整し、正確に3枚のホログラムが重なる位置を探す。以上の処理は、ホログラム撮像装置を構築後、校正の処理として1度だけ行っておけばよく、必ずしも撮像の度に必要な処理ではない。
3枚の抽出したホログラムに対して、(7)式のアルゴリズムを適用することで、複素振幅分布o(x,y)が得られる。なお、本検証で用いた光変調素子は理想的に作製できているものとしてシミュレーションを行っているため、3枚のホログラム間で強度差は生じることはなく、(7)式中のαとβは1である。複素振幅分布o(x,y)に対して伝搬計算を適用することにより任意のz面における光分布o’(x,y)を再構成することができる。伝搬計算は以下の(9)式により与えられる。
ここでFT-1[…]は逆フーリエ変換演算子である。λは光源の波長である。撮像対象物体の奥行方向の配置位置zsが既知の場合に、撮像対象物体にフォーカスが合った像を得るためには、(9)式のzrを次式(10)に従うように設定すればよい。
ここで、fd1、fd2は第1分割光と第2分割光それぞれに付与する球面位相であるレンズの焦点距離、zhは複屈折レンズと撮像素子の間の距離であり、zdは次式(11)により与えられる。
f0は倍率調整用レンズの焦点距離であり、dは倍率調整用レンズ11と複屈折レンズ16の間の距離である。本実施例では、f0=250mm、d=100mm、fd1=500mm、fd2 → ∞(球面位相を付加しないことに相当)、zh=300mmとしている。“1”、“2”の配置位置zs=280、300mmの情報を参照し、対象物体を再構成した結果を図12に示す。“1”、“2”の物体のそれぞれにフォーカス位置を合わせることに成功していることがわかる。物体“1”にフォーカス位置を合わせた場合には、物体“2”の像がぼやける。同様に、物体“2”にフォーカス位置を合わせた場合には、フォーカス位置と異なる面に配置された物体の像がぼやける。
以上の実施例では、光変調素子が理想的に作製できている場合のものであったが、以下に光変調素子に作製誤差が生じ、光に付与する位相Δφが目的の値からずれている場合の影響と、(7)式による改善結果について示す。
目的のΔφの値を0.3196πradとし、その値から+15%の位相ずれが発生している場合、つまり、実際に光に付与される位相Δφが0.36754πradの場合、撮像素子8で撮像される(撮像面上で形成される)ホログラム(強度画像)は、図13となる。図11の結果と比較すると、中心部分のホログラムの明るさが左右のホログラムよりも低下していることがわかる。
これらのホログラムを上述の手順で切り出し、一般的に知られている3ステップの位相シフト((7)式において、α=β=1としたもの)を適用して、像を再構成した結果を図14(a)に示す。図12の再構成結果と比較すると、背景ノイズが強く発生していることがわかる。
このノイズを低減するために、本発明の光変調素子の0次光と±1次光の光強度又は回折効率の比でホログラムの強度分布を補正する位相シフト法を用いる。中心部分のホログラムの強度と、左右のホログラムの強度比は、あらかじめ、作製した光変調素子の0次光成分、±1次光成分の回折効率を測定しておけば、αとβが求められる。この光学系において既知の情報であるαとβを用いて、(7)式を適用することができる。その結果、図14(b)の像が得られる。
図14(a)の結果と比較すると、図14(b)は背景ノイズが十分に低減できていることがわかる。以上から、(7)式のアルゴリズムを用いることで、光変調素子に作製誤差が生じていても、高品質な像が再構成できることを確認した。以上のように、本発明により単一光路の光学系を実現でき、一度の撮像で3次元情報を撮像・再構成することが可能である。
上記の実施形態では、ホログラム撮影装置及び像再構成装置の構成と動作について説明したが、本発明はこれに限らず、ホログラム撮影方法及び像再構成方法として構成されてもよい。
なお、上述した像再構成装置(演算装置)10として機能させるためにコンピュータを好適に用いることができ、そのようなコンピュータは、像再構成装置の各演算手順を実現する処理内容を記述したプログラムを該コンピュータの記憶部に格納しておき、該コンピュータのCPUによってこのプログラムを読み出して実行させることで実現することができる。なお、このプログラムは、コンピュータ読取り可能な記録媒体に記録可能である。
上述の実施形態は代表的な例として説明したが、本発明の趣旨及び範囲内で、多くの変更及び置換ができることは当業者に明らかである。したがって、本発明は、上述の実施形態によって制限するものと解するべきではなく、特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形や変更が可能である。例えば、実施形態に記載の複数の構成要素を1つに組み合わせたり、あるいは1つの構成要素を分割したりすることが可能である。
本発明は、立体映像のカメラとして用いることができ、蛍光3次元顕微鏡など、干渉計測・分析装置等に応用可能である。
1 撮像対象物体
2 ビームスプリッター(分割手段)
3 球面位相変調素
4 球面位相変調素
5 光変調素子
6 光変調素子
7 ビームスプリッター(合波手段)
8 撮像素子
9 撮影画像
10 演算装置
11 倍率調整用レンズ
12 波長フィルター
13 ミラー
14 ミラー
15 直線偏光子
16 複屈折レンズ
17 4分の1波長板
18 3領域分割偏光子
19 光変調素子(偏光回折格子)
20 直線偏光子
2 ビームスプリッター(分割手段)
3 球面位相変調素
4 球面位相変調素
5 光変調素子
6 光変調素子
7 ビームスプリッター(合波手段)
8 撮像素子
9 撮影画像
10 演算装置
11 倍率調整用レンズ
12 波長フィルター
13 ミラー
14 ミラー
15 直線偏光子
16 複屈折レンズ
17 4分の1波長板
18 3領域分割偏光子
19 光変調素子(偏光回折格子)
20 直線偏光子
Claims (9)
- インコヒーレントな光波を第1分割光と第2分割光に分割し、これら2つの光波の複素振幅分布に互いに異なる球面位相を付与し、前記第1分割光と前記第2分割光を互いに干渉させてホログラムを形成し、撮像するホログラム撮像装置において、
第1の方向には周期的に変化し、第1の方向と直交する第2の方向には一定の2階調の位相分布を、前記第1分割光と前記第2分割光それぞれに付与し、この周期的な位相分布に起因して生じる回折光を利用して、3枚のホログラムを撮像素子の撮像面上に形成させ、前記3枚のホログラムを同時に取得することを特徴とする、ホログラム撮像装置。 - 請求項1に記載のホログラム撮像装置において、
第1の方向には周期的に変化し、第1の方向と直交する第2の方向には一定の2階調の位相分布を光に付与する光変調素子を2枚備え、一方の光変調素子で前記第1分割光を変調し、他方の光変調素子で前記第2分割光を変調し、
変調する際に、他方の光変調素子の位相分布が一方の光変調素子の位相分布に対して第1の方向にずれている2枚の光変調素子を用いて変調する、又は、一方の光変調素子と前記第1分割光との位置関係と、他方の光変調素子と前記第2分割光との位置関係を、第1の方向にずらして配置して変調することを特徴とする、ホログラム撮像装置。 - 請求項1に記載のホログラム撮像装置において、
前記第1分割光と前記第2分割光を互いに回転方向の異なる円偏光にする手段と、
第1の方向には周期的に変化し、第1の方向と直交する第2の方向には一定の2階調の位相分布を光に付与する光変調素子であって、各円偏光をそれぞれ3方向に分割する光変調素子と、
3つの領域を透過軸の方向が互いに異なる偏光子で構成した3領域分割偏光子と
を備え、前記3領域分割偏光子の各領域に3方向に分割された円偏光をそれぞれ対応させて透過させることを特徴とする、ホログラム撮像装置。 - 請求項3に記載のホログラム撮像装置において、
前記第1分割光及び前記第2分割光を互いに回転方向の異なる円偏光にする手段は、
伝搬してくる光を透過させる、斜め45度の方向に透過軸を有する直線偏光子と、
前記直線偏光子を透過した直線偏光を変調する複屈折レンズと、
前記複屈折レンズを透過した光を円偏光に変換する4分の1波長板と
を備えることを特徴とする、ホログラム撮像装置。 - 請求項1に記載のホログラム撮像装置において、
伝搬してくる光を透過させる、斜め45度の方向に透過軸を有する直線偏光子と、
前記直線偏光子を透過した直線偏光を変調する複屈折レンズと、
光の1方向の電場ベクトルに対して、第1の方向に周期的に変化し第1の方向と直交する第2の方向には一定の2階調の位相分布を付与し、前記1方向の電場ベクトルと直交する方向の電場ベクトルに対して、位相分布が第1の方向に沿ってずれた、第1の方向に周期的に変化し第1の方向と直交する第2の方向には一定の2階調の位相分布を付与する光変調素子であって、前記複屈折レンズを透過した垂直直線偏光と水平直線偏光をそれぞれ3方向に分割する光変調素子と、
前記光変調素子で3方向に分割された垂直直線偏光と水平直線偏光を透過させる直線偏光子と
を備えることを特徴とする、ホログラム撮像装置。 - 請求項2乃至5のいずれか一項に記載のホログラム撮像装置において、
前記光変調素子は、レンズの位相分布を重畳した反射型或いは透過型の光変調素子であることを特徴とする、ホログラム撮像装置。 - 請求項1乃至6のいずれか一項に記載のホログラム撮影装置で撮影したホログラムの画像データを入力とし、前記画像データから3枚の個別のホログラムを抽出し、位相シフト法により複素振幅分布を求め、伝搬計算により像を再構成することを特徴とする、像再構成装置。
- 請求項7に記載の像再構成装置において、
あらかじめ取得しておいた光変調素子の0次光と±1次光の光強度又は回折効率の比を用いて、ホログラムの強度を補正した位相シフト法により複素振幅分布を求めることを特徴とする、像再構成装置。 - 光の1方向の電場ベクトルに対して、第1の方向に周期的に変化し第1の方向と直交する第2の方向には一定の2階調の位相分布を付与し、前記1方向の電場ベクトルと直交する方向の電場ベクトルに対して、位相分布が第1の方向に沿ってずれた、第1の方向に周期的に変化し第1の方向と直交する第2の方向には一定の2階調の位相分布を付与する光変調素子であって、
進相軸又は遅相軸の向きが互いに異なる4種類の移相子が第1の方向に所定の順番で繰り返し配置されており、第1の方向に沿った位相分布のずれをs、2諧調の位相分布の幅をd1、d2とするとき、4種類の移相子の幅はそれぞれ、s,d1-s,s,d2-sであることを特徴とする、光変調素子。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2020210531A JP2022097130A (ja) | 2020-12-18 | 2020-12-18 | 光変調素子、ホログラム撮像装置、及び像再構成装置 |
Applications Claiming Priority (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
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JP2020210531A JP2022097130A (ja) | 2020-12-18 | 2020-12-18 | 光変調素子、ホログラム撮像装置、及び像再構成装置 |
Publications (1)
Publication Number | Publication Date |
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JP2022097130A true JP2022097130A (ja) | 2022-06-30 |
Family
ID=82165268
Family Applications (1)
Application Number | Title | Priority Date | Filing Date |
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JP2020210531A Pending JP2022097130A (ja) | 2020-12-18 | 2020-12-18 | 光変調素子、ホログラム撮像装置、及び像再構成装置 |
Country Status (1)
Country | Link |
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JP (1) | JP2022097130A (ja) |
-
2020
- 2020-12-18 JP JP2020210531A patent/JP2022097130A/ja active Pending
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