JP2022087173A - 電線検査システムおよび電線検査方法 - Google Patents

電線検査システムおよび電線検査方法 Download PDF

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Abstract

【課題】複数の電線の間に特性のばらつきがある場合でも、それらの電線における損傷の検出を、低コストで行うことができる電線検査システムおよび電線検査方法、またそのような電線検査システムおよび電線検査方法による検査を実施することができる電線を提供する。【解決手段】第一の時点において、複数の電線を含む電線群C1~C3に対して、電線検査によって得られる応答信号を、個体ごとに記憶する記憶部A1と、第一の時点よりも後の第二の時点において、電線群C1~C3の中から選択される対象電線C2に対して、電線検査を行う検査部A2と、前記対象電線C2に対して、第一の時点における前記応答信号を、前記記憶部A1から呼び出して、第二の時点で前記検査部A2によって取得した前記応答信号と比較し、該2つの応答信号に差が存在する場合に、前記対象電線C2に損傷が存在すると判定する解析部A3と、を有する電線検査システムAとする。【選択図】図1

Description

本開示は、電線検査システム、電線検査方法、および電線に関する。
種々の電気・電子機器や輸送用機器、建造物、公共設備等において、電線が搭載、また敷設されるが、電線の長期の使用に伴い、電線に、断線、短絡、外傷等の損傷が発生する場合がある。例えば、電線と周囲の物体との接触や摩擦に伴い、電線の外周に配置された絶縁被覆に損傷が生じる場合がある。損傷に起因して電線の性能に深刻な影響が及ぶのを回避するために、損傷の発生を、早期に、また敏感に検知することが望まれる。電線の損傷を検知するための方法は、特許文献1~24等に開示されている。
電線の損傷を検出する方法として、例えば特許文献11に、診断対象のケーブル経路において複数の区間ごとにパルス電気信号の伝播速度を設定する設定手段と、ケーブル経路内に送信されたパルス電気信号の反射特性の測定結果と、区間ごとに設定された伝播速度とから、ケーブル経路内の不具合箇所の位置を推定する推定手段と、を有するケーブル診断装置が開示されている。ここでは、区間ごとの伝播速度の設定に際しては、ケーブル経路の本数などのデータをCADによって読み込み込み設定するとともに、実験等によって、ケーブルの本数と伝播速度との関係を示すテーブルを予め用意し、ケーブル経路の各区間の本数に対応する伝播速度を自動的に設定している。
特開昭63-157067号公報 特開平4-326072号公報 特開平6-194401号公報 特開平7-262837号公報 特開平7-282644号公報 特開平8-184626号公報 特開平11-332086号公報 特開2001-14177号公報 特表2006-518030号公報 特開2007-305478号公報 特開2007-333468号公報 特開2001-141770号公報 特開2010-21049号公報 特開2011-217340号公報 特開2017-142961号公報 特開2019-128215号公報 特開2019-190875号公報 特開2020-15176号公報 米国特許第4988949号明細書 米国特許第6265880号明細書 米国特許出願公開第2003/206111号明細書 米国特許出願公開第2007/021941号明細書 米国特許出願公開第2010/253364号明細書 米国特許出願公開第2011/309845号明細書
電線の構成部材に検査信号を入力し、得られる応答信号に基づいて、損傷発生の有無の判定、また損傷発生箇所の特定を行う場合には、損傷が存在しない場合の応答信号との比較や、その電線が有する特性を考慮した演算が必要となる。この際、対比する応答信号や、演算の基礎として用いる電線特性として、事前の試験や理論に基づいて得られた基礎情報が用いられる。自動車に代表されるように、同種の装置が多数製造され、その装置に搭載される電線も同種のものが多数製造される場合には、上記で説明した特許文献11の例におけるケーブルの本数と伝播速度との関係を示すテーブルのように、損傷の検出に用いる基礎情報としては、同種の電線の各個体に対して、共通の基礎情報が適用されるのが一般的である。
しかし、同種の電線であっても、個体ごとに、製造公差内で特性のばらつきが存在し、共通の基礎情報を利用した検査では、損傷を正確に検出できない可能性がある。特に、電線における損傷が、表面部のみに留まる外傷等、応答信号に小さな変化しか与えないものである場合や、電線が、分岐部等、応答信号に影響を与える構造を有しており、それらの構造に由来する信号により、損傷による応答信号の変化が明瞭に認識されづらい場合等には、基礎情報を利用した損傷の検出が、難しくなる。
基礎情報を用いた比較や演算を利用する方法以外に、電線における損傷を検出する方法として、計測装置を電線に常時接続した状態とし、応答信号の検出を連続的に行うことも考えられる。時間の経過に伴って、応答信号に変化がないかどうかを監視し続けることで、電線に損傷が発生すれば、応答信号の変化によって、即時に検出することができる。各個体における応答信号の変化を経時的に監視するので、個体ごとに電線特性のばらつきがあったとしても、その影響を受けることなく、各個体における損傷の発生を、敏感に検出することができる。しかし、この場合には、電線の個体ごとに、計測装置を設ける必要があり、経済的合理性に欠ける。
以上に鑑み、複数の電線の間に特性のばらつきがある場合でも、それらの電線における損傷の検出を、低コストで行うことができる電線検査システムおよび電線検査方法、またそのような電線検査システムおよび電線検査方法による検査を実施することができる電線を提供することを課題とする。
本開示にかかる電線検査システムは、電線の損傷状態を検査するための電線検査システムであって、前記電線は、導体と、絶縁被覆と、を有する芯線と、前記芯線の構成部材と、前記芯線に沿って配置された前記芯線以外の部材と、の少なくとも一方より構成される損傷検知部と、を有し、前記損傷検知部は、検査信号として電気信号または光信号を入力して、応答信号を取得する電線検査を行った際に、前記電線の損傷状態によって、前記応答信号が変化し、前記電線検査システムは、第一の時点において、複数の前記電線を含む電線群に対して、前記電線検査によって得られる前記応答信号を、個体ごとに記憶する記憶部と、前記第一の時点よりも後の第二の時点において、前記電線群の中から選択される対象電線に対して、前記電線検査を行う検査部と、前記対象電線に対して、前記第一の時点における前記応答信号を、前記記憶部から呼び出して、前記第二の時点で前記検査部によって取得した前記応答信号と比較し、該2つの応答信号に差が存在する場合に、前記対象電線に損傷が存在すると判定する解析部と、を有する。
本開示にかかる電線検査方法は、前記電線検査システムを用いて、前記第一の時点において、前記電線群を構成する前記電線について、前記電線検査を行い、前記応答信号を取得する初期データ取得工程と、前記初期データ取得工程で取得した前記応答信号を、前記電線の個体ごとに、前記記憶部に記憶させるデータ記憶工程と、前記第二の時点において、前記検査部によって、前記対象電線に対して、前記電線検査を行う計測工程と、前記解析部によって、前記対象電線について、前記第一の時点で取得した前記応答信号を前記記憶部から呼び出して、前記第二の時点で前記計測工程において取得した前記応答信号と比較し、該2つの応答信号に差が存在する場合に、前記対象電線に損傷が発生していると判定する解析工程と、を実施する。
本開示にかかる第一の電線は、導体と、前記導体の外周を被覆し、表面に露出した絶縁被覆と、を有する芯線と、前記芯線の外周に配置された導電テープと、を有し、前記導電テープは、前記絶縁被覆の表面に、前記芯線の軸線方向に沿って螺旋状に巻き付けられており、前記導電テープの螺旋形状のターン間に、前記導電テープに占められない間隙を有する。
本開示にかかる第二の電線は、導体と、前記導体の外周を被覆し、表面に露出した絶縁被覆と、を有する芯線と、前記芯線の外周に配置された積層テープと、を備え、前記積層テープは、テープ状の絶縁体または半導体として構成された基材と、前記基材の両面にそれぞれ形成された導電性の被覆層と、を有する。
本開示にかかる電線検査システムおよび電線検査方法は、複数の電線の間に特性のばらつきがある場合でも、それらの電線における損傷の検出を、低コストで行うことができる電線検査システムおよび電線検査方法となる。また、本開示にかかる電線は、そのような電線検査システムおよび電線検査方法による検査を実施することができる電線となる。
図1は、本開示の一実施形態にかかる電線検査システムの構成を示す模式図である。 図2は、本開示の一実施形態にかかる電線検査方法を説明するフロー図である。 図3は、検査対象とする電線の一例を示す図である。 図4は、図3の電線に対する電線検査で得られる応答信号の例を示す図であり、図4Aは個体1に損傷が発生していない場合、図4Bは個体1に損傷が発生した場合、図4Cは個体1に損傷が発生した場合としていない場合の差分を示している。また、図4Dは損傷が発生していない個体1および個体2の応答信号の比較を示しており、図4Eは、損傷が発生していない個体1と個体2の応答信号の差分を示している。 図5は、本開示の第一の実施形態にかかる電線として、導電テープ巻き電線の構成を示す斜視図である。 図6A,6Bは、図5の導電テープ巻き電線を軸線方向に垂直に切断した断面を示す断面図であり、図6Aは導電テープに損傷が生じていない場合、図6Bは導電テープに損傷が生じている場合を示している。 図7A,7Bは、導電性層が芯線の全周に形成された電線について、軸線方向に垂直に切断した断面を示す断面図であり、図7Aは導電性層に損傷が生じていない場合、図7Bは導電性層に損傷が生じている場合を示している。 図8は、曲げを加えた図5の導電テープ巻き電線において、曲げの外側に外傷が形成された状態を示す斜視図である。 図9は、分岐を有する芯線を示す側面図である。 図10は、導電テープ巻き電線に対する検査を説明する模式図である。 図11Aは、本開示の第二の実施形態にかかる電線として、積層テープ巻き電線の構成を示す斜視図である。図11Bは、積層テープの積層構造を説明する断面図である。 図12は、直線状の導電テープ巻き電線に、模擬的な外傷を形成した場合について、特性インピーダンスの計測結果の一例を示す図である。 図13は、直線状の導電テープ巻き電線に外傷を形成する位置を変更した場合について、特性インピーダンスの計測結果を示す図である。 図14A~14Cは、分岐を有する導電テープ巻き電線に対して計測された、特性インピーダンスの計測結果を示す図であり、図14Aが外傷のない状態での計測結果、図14Bが外傷を形成した状態での計測結果、図14Cが差分信号を表示している。 図15A~15Cは、直線状の積層テープ巻き電線について、特性インピーダンスの計測結果を示す図である。図15Aが外傷のない状態での計測結果、図15Bが積層テープを破断させた状態での計測結果、図15Cが差分信号を表示している。 図16A~16Cは、直線状の積層テープ巻き電線について、特性インピーダンスの計測結果を示す図である。図16Aが外傷のない状態での計測結果、図16Bが積層テープの2層の導電層を短絡させた状態での計測結果、図16Cが差分信号を表示している。
[本開示の実施形態の説明]
最初に、本開示の実施態様を説明する。
本開示の電線検査システムは、電線の損傷状態を検査するための電線検査システムであって、前記電線は、導体と、絶縁被覆と、を有する芯線と、前記芯線の構成部材と、前記芯線に沿って配置された前記芯線以外の部材と、の少なくとも一方より構成される損傷検知部と、を有し、前記損傷検知部は、検査信号として電気信号または光信号を入力して、応答信号を取得する電線検査を行った際に、前記電線の損傷状態によって、前記応答信号が変化し、前記電線検査システムは、第一の時点において、複数の前記電線を含む電線群に対して、前記電線検査によって得られる前記応答信号を、個体ごとに記憶する記憶部と、前記第一の時点よりも後の第二の時点において、前記電線群の中から選択される対象電線に対して、前記電線検査を行う検査部と、前記対象電線に対して、前記第一の時点における前記応答信号を、前記記憶部から呼び出して、前記第二の時点で前記検査部によって取得した前記応答信号と比較し、該2つの応答信号に差が存在する場合に、前記対象電線に損傷が存在すると判定する解析部と、を有する。
上記電線の検査システムにおいては、第一の時点において、複数の電線を含む電線群に対して、電線検査によって得られる応答信号を個体ごとに記憶部に記憶しておき、第二の時点において、検査部にて、特定の対象電線に対して電線検査を行って得られた応答信号を、解析部にて、記憶部から呼び出したその対象電線に対応する第一の時点での応答信号と比較する。よって、第一の時点から第二の時点までの間に、その対象電線に損傷が発生していれば、応答信号の変化を検出することで、その損傷を検知することができる。記憶部において、第一の時点での応答信号を、電線の個体ごとに記憶しており、第二の時点で実際に検査を行った対象電線について、第一の時点における応答信号を記憶部から呼び出しているため、電線群を構成する電線の個体ごとに、応答信号にばらつきがあったとしても、そのばらつきに影響されることなく、各個体における損傷の検知を、第一の時点と第二の時点での応答信号の比較に基づいて、行うことができる。電線の応答信号を個体ごとに記憶部に記憶しておくことで、電線の各個体に、計測装置を常時接続しておき、応答信号を監視し続けるようなことは必要がない。よって、電線の個体ごとの応答信号の変化に基づく損傷の検出を、低コストで実施することができる。
ここで、前記記憶部は、前記検査部および前記解析部から離れた場所に備えられるとよい。記憶部を、情報管理サーバ等として、検査部および解析部から離れた場所に備えておくことで、多数の電線について、第一の時点での応答信号を、電線の個体と対応付けて記憶し、一元的に管理することができる。そして、様々な場所に設けられた検査部および解析部を用いて、多数の電線に対して個々に検査が行われた場合にも、個別の電線に対する第一の時点での応答信号を、記憶部から各場所の解析部に提供して、損傷の検出に利用させることができる。
前記解析部は、前記第一の時点における前記応答信号と、前記第二の時点における前記応答信号との差分を求め、前記差分に基づいて、該2つの応答信号に差が存在するか否かを判定するとよい。2つの応答信号の間の差分を求めることで、第一の時点と第二の時点の間に対象電線に損傷が生じ、応答信号に変化が生じている場合に、その変化を敏感に検出することができる。差分を利用することで、電線に、分岐部をはじめとして、応答信号にピークや波打ち等の構造を与える要素が含まれている場合でも、応答信号において、それらの要素による寄与を打ち消して、損傷による寄与を強調することができるからである。
前記損傷検知部は、相互に電気的に絶縁された2つの導電性部材を有し、前記電線検査においては、前記検査信号として交流成分を含んだ電気信号を用いて、前記応答信号として、前記2つの導電性部材の間の特性インピーダンスを、時間領域反射法または周波数領域反射法によって測定し、前記解析部は、前記第一の時点における前記応答信号と、前記第二の時点における前記応答信号との間に、前記応答信号上で差が生じている領域を、前記電線の軸線方向に沿った位置に対応づけ、その位置に損傷が発生していると判定するとよい。電線に含まれる2つの導電性部材の間の特性インピーダンスを計測することで、電線に損傷が発生した場合に、損傷による変化を敏感に検知することができる。特性インピーダンスの測定を、時間領域反射法または周波数領域反射法によって行うことで、応答信号上で特性インピーダンスに変化が生じている領域の情報から、適宜演算等を経て、電線の軸線方向に沿って損傷が発生している位置を、簡便に、また高精度に特定することができる。反射法による測定は、電線の一端に計測装置を接続するだけで行えるため、電線を簡単に取り外せない場合等においても、その場で簡便に損傷の検出を実行することができる。
この場合に、前記検査信号は、連続した周波数範囲にわたる成分を、周波数ごとに独立した強度で重畳したものであり、前記周波数範囲の中に、一部の周波数の成分が欠損しているか、周囲の周波数と比較して強度が不連続に小さくなった除外周波数を含んでおり、前記電線検査においては、前記応答信号として、前記2つの導電性部材の間の特性インピーダンスを、時間領域反射法によって測定するとよい。この場合には、特性インピーダンスに変化が観測される時間の情報を、電線上で損傷が形成された位置の情報に、直接的に変換できること等、時間領域反射法の長所と合わせて、外来のノイズの影響を低減して特性インピーダンスを計測できること等、異なる周波数成分を重畳した検査信号を用いることの長所を利用して、損傷の検出を行うことができる。特に、検査信号において、連続した周波数範囲の中で、一部の周波数成分が欠損しているか、低強度になっていることで、その周波数成分におけるノイズの影響を、効果的に低減することができる。
さらに、前記検査信号において、前記除外周波数は、前記対象電線の外部の発生源に由来し、前記対象電線の周囲を伝搬する電磁波の周波数を含んでいるとよい。すると、対象電線が、自動車の内部等、他の通信装置や通信用電線が近傍に存在する環境で使用される場合に、それら近傍の装置等の通信に利用される周波数を除外周波数として、検査信号の波形を設定することで、その検査信号を用いた特性インピーダンスの計測、さらにその計測結果に基づく損傷の検出を、近傍の装置等における通信に伴うノイズの影響を低減した状態で、実行することができる。
前記電線群は、同一種の前記電線を複数含んでいるとよい。同一種の電線であれば、電線検査を行った際の応答信号に、個体間で、大きな差は存在しないとしても、製造公差の範囲内でのばらつきは存在する。そこで、第一の時点において、各個体に対して得られた応答信号を、個体を識別して、記憶部に記憶しておくことで、第二の時点において電線検査が行われた特定の個体について、応答信号の比較に基づき、損傷の検出を、敏感に、また高精度に行うことが可能となる。
前記電線群を構成する前記電線は、中途に分岐部を有するとよい。電線に分岐部が存在すると、分岐部に由来して、検査信号や応答信号の挙動に大きな変化が生じる場合が多く、損傷による応答信号の変化が埋もれてしまいやすいが、対象電線について、第一の時点で取得された応答信号を呼び出して、第二の時点で取得された応答信号と比較することで、分岐部等に由来する信号成分の寄与があっても、損傷を正確に検出しやすくなる。
検査の対象となる前記電線は、前記芯線の外周に、螺旋状に巻き付けられた導電テープを有し、前記導電テープのターン間に、前記導電テープに占められない間隙を有しており、前記損傷検知部は、前記芯線の前記導体と、前記導電テープと、から構成され、前記電線検査において、前記検査信号として、交流成分を含んだ電気信号を用いて、前記応答信号として、前記導体と前記導電テープとの間の特性インピーダンスを計測するとよい。この場合には、電線に外傷が発生し、導電テープにも損傷が形成されると、導電テープと芯線を構成する導体との間の特性インピーダンスが変化する。導電テープが、ターン間に間隙を残して螺旋状に巻き付けられているため、電線の周方向に沿って、一部の領域にのみ、損傷が発生した場合でも、導電テープと芯線を構成する導体との間の静電容量が大きく変化する。その結果、導電テープと芯線の導体の間の特性インピーダンスに、大きな変化が生じうる。よって、導電テープと芯線の導体との間の特性インピーダンスを計測することで、電線に損傷が形成されたことを、敏感に検知することができる。
この場合に、前記芯線は、前記導体の外周に前記絶縁被覆を設けた絶縁電線を1本のみ含んだ単線構造を有しているとよい。単線構造の芯線の場合には、シールドケーブルやペアケーブル等の場合とは異なり、芯線の内部に、特性インピーダンスを計測しうる複数の導電性部材を有さず、芯線の内部で特性インピーダンスを計測し、損傷の検出に用いるようなことができない。しかし、芯線が単線構造を有する場合でも、芯線の外周に導電テープを巻き付けることで、特性インピーダンスに基づく損傷検知が可能になる。この場合には、損傷検知部として、芯線の導体自体も利用することになるので、損傷検知専用の部材としては、導電テープを芯線の外周に巻き付けるだけの簡素な構成で済む。
あるいは、検査の対象となる前記電線は、前記芯線の外周に配置された積層テープを有し、前記積層テープは、テープ状の絶縁体または半導体として構成された基材の両面に、導電性の被覆層を形成したものであり、前記損傷検知部は、前記積層テープの2層の前記被覆層から構成され、前記電線検査において、前記検査信号として、交流成分を含んだ電気信号を用いて、前記応答信号として、2層の前記被覆層の間の特性インピーダンスを計測するとよい。この場合には、電線に外傷が発生し、積層テープに、被覆層の破断や被覆層間での短絡等の損傷が形成されると、2層の被覆層の間の特性インピーダンスが変化する。よって、2層の被覆層の間の特性インピーダンスの変化を計測することで、電線に損傷が形成されたことを、敏感に検知することができる。積層テープに設けられた2層の被覆層の間で計測を行うので、積層テープを巻き付けるのみで、種々の形態の電線に対して、損傷検知機能を付与することができる。
この場合に、前記芯線は、複数を束にしたワイヤーハーネスの状態にあり、前記積層テープは、前記ワイヤーハーネス全体としての外周に、螺旋状に巻き付けられているとよい。すると、形状や太さ等、ワイヤーハーネスの構成によらず、ワイヤーハーネス全体としての外周への損傷の形成を、積層テープを用いて、敏感に検知することができる。
前記基材は、外部の環境によって、電気的特性が変化するものであるとよい。この場合には、外部の温度や湿度等、外部の環境の変化に伴う基材の電気的特性の変化によって、2層の被覆層の間の特性インピーダンスにも変化が生じる可能性がある。すると、物理的な損傷のみならず、温度や湿度等、外部環境の変化による電線への影響についても、検知することが可能となる。
本開示の電線検査方法は、前記電線検査システムを用いて、前記第一の時点において、前記電線群を構成する前記電線について、前記電線検査を行い、前記応答信号を取得する初期データ取得工程と、前記初期データ取得工程で取得した前記応答信号を、前記電線の個体ごとに、前記記憶部に記憶させるデータ記憶工程と、前記第二の時点において、前記検査部によって、前記対象電線に対して、前記電線検査を行う計測工程と、前記解析部によって、前記対象電線について、前記第一の時点で取得した前記応答信号を前記記憶部から呼び出して、前記第二の時点で前記計測工程において取得した前記応答信号と比較し、該2つの応答信号に差が存在する場合に、前記対象電線に損傷が発生していると判定する解析工程と、を実施する。
上記電線の検査方法においては、初期データ取得工程およびデータ記憶工程において、電線群を構成する各電線について、個体を識別して、電線検査で得られた応答信号を記憶部に記憶しておく。そして、検査工程において、特定の対象電線に対して電線検査を行ったうえで、解析工程において、記憶部からその対象電線に対応する応答信号を呼び出して、第一の時点と第二の時点における応答信号の比較を行う。よって、第一の時点から第二の時点までの間に、その対象電線に損傷が発生していれば、応答信号の変化を検出することで、その損傷を検知することができる。電線群を構成する電線の個体ごとに、応答信号にばらつきがあったとしても、そのばらつきに影響されることなく、各個体における損傷の検知を、第一の時点と第二の時点での応答信号の比較に基づいて、行うことができ、損傷の検出を、敏感に、また高精度に行うことができる。電線の個体ごとに、計測装置を常時接続して、応答信号を連続的に監視するようなことは必要がないため、個体ごとの応答信号の変化に基づく損傷の検出を、低コストで実施できる検査方法となる。
本開示の第一の電線は、導体と、前記導体の外周を被覆し、表面に露出した絶縁被覆と、を有する芯線と、前記芯線の外周に配置された導電テープと、を有し、前記導電テープは、前記絶縁被覆の表面に、前記芯線の軸線方向に沿って螺旋状に巻き付けられており、前記導電テープの螺旋形状のターン間に、前記導電テープに占められない間隙を有する。
上記第一の電線は、芯線の外周に、導電テープを巻き付けられており、導電テープに損傷が発生すると、導電テープと芯線を構成する導体との間の特性インピーダンスが変化する。外傷検知用の部材として、導電性を有する物質が、芯線の全周を連続して被覆するのではなく、導電テープが、ターン間に間隙を残して螺旋状に巻き付けられているため、電線の周方向に沿って、一部の領域にのみ、損傷が発生した場合でも、導電テープと芯線を構成する導体との間の静電容量が大きく変化する。その結果、導電テープと芯線の導体の間の特性インピーダンスに、大きな変化が生じうる。よって、導電テープと芯線の導体との間の特性インピーダンスを計測することで、電線に外傷が形成されたことを、敏感に検知することができる。
本開示の第二の電線は、導体と、前記導体の外周を被覆し、表面に露出した絶縁被覆と、を有する芯線と、前記芯線の外周に配置された積層テープと、を備え、前記積層テープは、テープ状の絶縁体または半導体として構成された基材と、前記基材の両面にそれぞれ形成された導電性の被覆層と、を有する。
上記第二の電線においては、積層テープに損傷が形成されると、2層の被覆層の間の特性インピーダンスが変化する。よって、2層の被覆層の間の特性インピーダンスの変化を計測することで、電線に損傷が形成されたことを、敏感に検知することができる。導体等、芯線の構成部材を損傷検出のために用いるのではなく、積層テープに設けられた2層の被覆層の間で、計測が完結するので、積層テープを巻き付けるのみで、複数の電線が束ねられたワイヤーハーネスの形態等、種々の形態をとる電線に対して、損傷検知機能を付与することができる。基材として、外部の環境の変化に伴って電気的特性が変化する材料を用いれば、物理的な損傷のみならず、温度や湿度等の環境変化による電線への影響についても、2層の被覆層の間の特性インピーダンスの変化として検知することができる。
[本開示の実施形態の詳細]
以下、図面を用いて、本開示の実施形態にかかる電線検査システム、電線検査方法、および電線について詳細に説明する。本開示の実施形態に係る電線検査システムは、電線の損傷状態を検査することができるシステムであり、本電線検査システムを用いて、本開示の実施形態にかかる電線検査方法を実行することができる。また、それら電線検査システムおよび電線検査方法を好適に適用できる電線の例が、本開示の実施形態にかかる電線となる。本明細書において、垂直、直交、直線状、螺旋状等、電線の構成部材の形状や配置を示す語には、幾何的に厳密な概念のみならず、電線において許容される範囲の誤差を含むものとする。
<検査対象の電線>
最初に、本開示の実施形態にかかる電線検査システムおよび電線検査方法において、検査の対象となる電線について説明する。検査対象となる電線は、通常の電線と同様に、導体と、導体の外周を被覆する絶縁被覆を有する芯線を含んでおり、さらに、損傷検知部を備えている。損傷検知部は、検査信号として電気信号または光信号を入力して、応答信号を取得する電線検査を行いうるものである。電線検査に際し、損傷検知部において得られる応答信号には、電線の損傷状態により、つまり電線への損傷の有無により、さらに好ましくは損傷の程度および位置により、変化が生じる。
損傷検知部は、芯線の構成部材と、芯線に沿って配置された芯線以外の部材と、の少なくとも一方より構成される。いずれの部材によって損傷検知部が構成されるかによって、以下の3つの形態に分類することができる。
(i)損傷検知部が、芯線の構成部材のみより構成される形態
芯線の各構成部材は、電力供給や信号伝達、ノイズ遮蔽等、電線本来の役割を担っているが、この形態においては、それら芯線の構成部材に、本来の役割に加えて、損傷検知部としての役割も担わせる。例えば、芯線を構成する導体等の導電性部材が、損傷検知部として機能する。損傷検知部として機能させる導電性部材の数は限定されるものではなく、例えば1つの導電性部材の一端から他端まで電気信号を通過させて、電線検査を行っても、相互に絶縁された2つの導電性部材の間の電気的特性を評価することで、電線検査を行ってもよい。2つの導電性部材を利用する形態の具体例としては、後の詳細な説明で例示しているツイストペア線(電線C)のように、芯線に含まれる2本の導体を損傷検知部として利用する形態や、同軸シールドケーブルにおいて、中心導体とシールド導体を損傷検知部として利用する形態を挙げることができる。
(ii)損傷検知部が芯線以外の部材のみから構成される形態
この場合には、芯線の構成部材は、損傷検知部としては利用されない。その代わりに、損傷検知に特化した部材が、芯線の外側に配置され、芯線とともに電線を構成している。例えば、芯線の外周に、導電性部材を含んだテープ体や線条体等を配置し、損傷検知部として利用する形態が考えられる。この場合にも、芯線の外側に配置した1つの導電性部材の一端から他端まで電気信号を通過させて、電線検査を行っても、芯線の外側に、相互に絶縁された2つの導電性部材を備えた部材を配置し、それら2つの導電性部材の間の電気的特性を評価することで、電線検査を行ってもよい。2つの導電性部材を有する損傷検知用部材を芯線の外周に配置する形態の具体例として、後に本開示の実施形態の第二の電線として説明する積層テープ巻き電線3を用いる形態、つまり2つの導電性被覆層を有する積層テープを芯線の外周に巻き付け、2つの導電性被覆層の間の電気的特性を評価する形態を挙げることができる。また、この形態(ii)を採用する場合には、検査信号として、電気信号ではなく、光信号を用いることもでき、例えば、光ファイバを芯線に並走させておき、光ファイバにおける光信号の伝送によって、電線検査を行うこともできる。
(iii)損傷検知部が芯線の構成部材と芯線以外の部材とから構成される形態
この場合には、芯線の構成部材と、芯線の外側に配置された部材とが、協働して損傷検知部として機能する。例えば、導体等、芯線を構成する導電性部材と、芯線の外周に配置された別の導電性の部材とが、損傷検知部を構成する場合が挙げられる。具体的な例としては、後に本開示の実施形態の第一の電線として説明する導電テープ巻き電線1を用いる形態、つまり芯線の外周に導電テープを巻き付け、その導電テープと芯線の導体の間の電気的特性を評価する形態を挙げることができる。
上記(i)~(iii)の形態のいずれにおいても、損傷検知部の具体的な構成に応じて、電線に形成された損傷、つまり断線や短絡、外傷等を検知することができるように、電線検査において計測する特性を選択すればよい。入力信号として電気信号を用いる場合に、計測対象とする特性、つまり応答信号として計測すべき特性としては、特性インピーダンス、あるいは、反射係数、コンダクタンス、キャパシタンス等、特性インピーダンスとの間に相関性を有する他の特性を例示することができる。それらの特性は、透過法によって計測しても、反射法によって計測してもよい。以下の説明では、主に特性インピーダンスを計測する場合について説明するが、特記しなくても、特性インピーダンスとの間に相関性を有する特性を、特性インピーダンスの代わりに計測対象として、電線検査に用いることができる。入力信号として光信号を用いる場合にも、応答信号として、光信号の透過や反射にかかる諸特性を計測することができる。
以下、電線検査システムおよび電線検査方法の説明においては、検査対象となる電線の例として、上記形態(i)に相当する、ツイストペア線を扱う。ツイストペア線においては、2本の絶縁電線が相互に撚り合わせられて、芯線を構成している。2本の絶縁電線を構成する導体に、交流成分を含む電気信号を検査信号として入力し、反射法によって、2本の導体の間の特性インピーダンスを応答信号として検出する形態を、以下で扱うものとする。ツイストペア線において、2本の導体の間の短絡等、損傷が発生すると、2本の導体の間の特性インピーダンスに、変化が生じる。
本開示の実施形態にかかる検査システムおよび検査方法による検査の対象とする電線の用途や使用箇所は、特に限定されるものではなく、各種電気・電子機器や、自動車や航空機等の輸送用機器の内部に搭載された電線、家屋やビル等の建造物に敷設された電線、送電線等の公共設備を構成する電線を例示することができる。ただし、下記で説明する検査システムおよび検査方法は、同種の電線が、広い地域で多数使用されている形態において、高い効果を発揮するものであり、電気・電子機器や輸送用機器等、量産される装置に搭載されたものであることが好ましい。以下では、自動車内に搭載された電線を想定して、説明を行う。
<電線検査システム>
次に、本開示の一実施形態にかかる電線検査システムについて説明する。
電線検査システムAの概略を、図1に示す。電線検査システムAは、記憶部A1と、検査部A2と、解析部A3と、を備えている。記憶部A1は、データを記憶することができる装置であり、情報管理サーバ等として構成されている。記憶部A1は、クラウドサーバとして構成されてもよい。検査部A2は、個別の電線に対して、電線検査、つまり電線への検査信号の入力と応答信号の取得を行うことができる計測装置として構成されている。解析部A3は、記憶部A1との間で、有線または無線の通信を行い(図中破線にて表示)、記憶部A1からデータを呼び出すとともに、その呼び出したデータと、検査部A2で取得されたデータとの比較を行うことができる装置である。解析部A3としては、検査部A2と一体に設けられたCPU、あるいは検査部A2の近傍に備えられて、検査部A2から有線または無線によってデータを入力することができるコンピュータ等を例示することができる。
記憶部A1は、検査部A2および解析部A3から、離れた場所に設けられることが好ましい。例えば、記憶部A1を、電線または自動車の製造事業者が管理するサーバ、またはクラウド上に備えておき、検査部A2および解析部A3を、カーディーラや車検工場等、検査事業者のもとに備えておく形態を挙げることができる。検査部A2および解析部A3は、多数設けることができ、広域に存在する多数の店舗、工場等に、それぞれ備えておけばよい。そして、それぞれの解析部A3が、インターネット等を介して、共通の記憶部A1と通信できるように構成しておけばよい。
記憶部A1は、多数の電線に対する電線検査によって取得された応答信号を、電線の個体ごとに記憶することができる。記憶部A1には、第一の時点において、多数の電線に対して取得された応答信号が記憶される。ここで、第一の時点とは、例えば、電線が製造されて、使用に供される前の初期状態を指す。初期状態において、電線または自動車の製造事業者が、電線の各個体について、検査部A2と同様の計測装置を用いて、電線検査、つまり検査信号の入力と応答信号の取得を行い、取得された応答信号を、記憶部A1に記憶させる。この際、多数の電線を含む電線群に対して得られた応答信号を、電線の個体ごとに記憶させる。つまり、電線群を構成する電線の各個体に対して得られた応答信号のそれぞれを、シリアルナンバー等により、電線の個体に紐づけて、個別に記憶させる。図1では、電線C1~C3の応答信号を、個別に記憶させた状態を示している(図1中、記憶部A1の右に表示した3つの波形)。ここで示している例では、応答信号としては、ツイストペア線として構成された各電線に対して測定された特性インピーダンスを想定している。
記憶部A1に応答信号を記憶される電線群は、同一種の電線を複数含んでいることが好ましい。同一種の電線とは、同一の設計に従って製造された、同一の構造を有する電線である。例えば、同一車種の同一の箇所に配策される電線として、多数の車両に搭載される電線が、電線群に含まれる。同一種の電線の複数の個体は、製造公差の範囲内で、構造および/または特性にばらつきを含んでいる可能性がある。それらのばらつきにより、同一種であっても、各個体の応答信号には、差が存在する場合がある(図4D参照)。記憶部A1においては、電線の個体ごとに応答信号を記憶するので、それらのばらつきに起因する差が応答信号に存在する場合でも、個体ごとの応答信号を、その差も含んだ状態で、そのまま記憶する。
検査部A2は、第一の時点よりも後の第二の時点において、電線群から選択される特定の対象電線に対して、電線検査を行う。例えば、電線を搭載した自動車の使用を開始した後に、定期的な車検等として実施される検査時が、第二の時点となる。この際、電線に対して、検査部A2を構成する計測装置が接続され、検査信号の入力と応答信号の取得が行われる。図示した例では、検査部A2は、ツイストペア線として構成された電線C2に対して、電線検査として、時間領域反射法による特性インピーダンスの測定を行う形態を想定している。
解析部A3は、検査部A2によって取得された応答信号を、検査部A2から読み込むことができる。また、解析部A3は、記憶部A1との間で通信を行い、記憶部A1に記憶された多数の応答信号の中から、特定の個体の電線に対応する応答信号を呼び出すことができる。検査時において、解析部A3は、検査部A2によって検査を行った個体について、記憶部A1から、初期状態の応答信号を呼び出す。図示した形態では、解析部A3は、記憶部A1に記憶された電線C1~C3の初期状態における応答信号の中から、検査対象となった電線C2の応答信号を呼び出す。
さらに、解析部A3は、その対象電線C2について、検査部A2によって取得された、その検査時における応答信号(C2a)と、記憶部A1から呼び出した初期状態における応答信号(C2b)とを比較する。そして、2つの応答信号C2a,C2bの間に、差が存在するか否かを判定する。そして、所定の水準以上の差が存在する場合には、対象電線C2に、初期状態には存在しなかった損傷が存在していると判定する。応答信号の比較に際し、解析部A3は、検査時の応答信号C2aと初期状態の応答信号C2bの差分を求め、その差分に基づいて、応答信号に差が存在するか否かを判定するものであるとよい。つまり、差分が、正方向または負方向に、所定の閾値以上の強度を示す場合に、損傷が存在していると判定するものであるとよい。さらに、解析部A3は、電線や電線検査の種類に応じて可能である場合には、応答信号の比較結果をさらに詳細に解析し、損傷の種類および/または損傷が形成された位置を特定できるものであれば、より好ましい。差分を用いた解析や、損傷の位置を特定する方法については、後に具体例とともに説明する。
<電線検査方法>
次に、上記電線検査システムAを利用した本開示の一実施形態にかかる電線検査方法について、簡単に説明する。図2に、本電線検査方法をフロー図にて示している。
本電線検査方法においては、第一の時点において、初期データ取得工程S1とデータ記憶工程S2とを実施する。また、第二の時点において、計測工程S3と解析工程S4とを実施する。第一の時点とは、電線を搭載した自動車を使用していない初期状態を指し、初期データ取得工程S1およびデータ記憶工程S2は、電線または自動車の製造事業者が実施する。一方、第二の時点とは、電線の使用を開始した後の検査時を指し、計測工程S3および解析工程S4は、カーディーラ、車検工場等において検査事業者が実施する。
初期データ取得工程S1においては、検査部A2と同様の計測装置を用いて、電線検査を行う。つまり、電線への検査信号の入力と応答信号の取得を行う。電線検査は、電線群を構成する複数の電線のそれぞれに対して実施する。図1で扱っている例では、ツイストペア線として構成された各電線(電線C1~C3)に対して、導体間の特性インピーダンスを計測する。
そして、データ記憶工程S2において、初期データ取得工程S1で取得した応答信号(特性インピーダンスの測定結果)を、電線の個体ごとに、記憶部A1に記憶させる。つまり、シリアルナンバー等によって、電線の各個体に紐づけた状態で、応答信号を記憶部A1に記憶させる。記憶部A1に応答信号を記憶させる電線群は、同一種の電線を複数含んでいることが好ましい。
その後、電線を搭載した自動車が使用に供され、定期的な車検等によって、検査時が到来する。すると、検査事業者が、計測工程S3を実施する。つまり、自動車内に配策された対象電線(電線C2)に検査部A2を接続して、電線検査を行い、応答信号を取得する。図1で扱っている例では、計測工程S3として、ツイストペア線の特性インピーダンスを測定し、測定結果を応答信号として取得する。
計測工程S3が完了すると、解析工程S4を実施する。解析工程S4においては、適宜、検査事業者が対象電線のシリアルナンバー等を解析部A3に入力することにより、解析部A3が、検査部A2によって検査を行った対象電線(C2)の個体識別情報を取得する。その後、解析部A3は、インターネット等を介して、記憶部A1との通信を行う。そして、個体識別情報に基づいて、記憶部A1に記憶された多数の電線(C1~C3)の応答信号の中から、対象電線(C2)についての初期状態の応答信号を、呼び出して、読み込む。
解析工程S4においては、さらに、解析部A3が、検査部A2によって取得された検査時における応答信号(C2a)と、記憶部A1から呼び出した初期状態の応答信号(C2b)を比較する。そして、適宜、2つの応答信号の間の差分を求めたうえで、2つの応答信号の間に、差が存在するか否かを判定する。2つの応答信号の間に、所定の水準以上、つまり誤差や無視しうる程度以上の差が存在する場合には、その対象電線に、初期状態には存在しなかった損傷が発生していると判定する。一方、2つの応答信号の間に所定の水準以上の差が存在しない場合には、問題となるような損傷が対象電線に発生していないと判定する。さらに、解析部A3は、電線や電線検査の種類に応じて可能である場合には、応答信号の比較結果をさらに詳細に解析し、損傷の種類および/または損傷が形成された位置の特定を行う。
<応答信号のばらつきと損傷による変化>
次に、電線の個体ごとの応答信号のばらつきと、損傷による応答信号の変化について説明する。ここでは、例として、図3について示すように、2か所(点Cp5および点Cp6)に分岐を有するツイストペア線として構成された電線Cに対して、時間領域反射法によって特性インピーダンスを計測する場合について、実際の測定結果の例を示しながら説明を行う。なお、ここで示す測定例は、時間領域反射法の中でも、後に説明するマルチキャリア時間領域反射法(MCTDR法)によって測定したものである。
図4Aに、損傷がない状態で、電線Cの基端Cp1に接続した計測装置(検査部)A2にて測定された特性インピーダンスを示す。図4Aおよび後に説明する図4B~4Eでは、時間軸を基端Cp1からの距離(単位:m)に変換したものを横軸に、特性インピーダンスを縦軸にとっている。縦軸の特性インピーダンスは、最小距離における値をゼロとした変化量で表示している。図4Aの計測結果は、電線Cに損傷がないにもかかわらず、大きく波打っている。この波打ち状の構造は、主に、2か所の分岐点Cp5,Cp6での反射によるものである。
図4Bに、電線Cの1つの端部Cp2において、損傷のモデルとして、2本の導体間に短絡を形成した場合について、特性インピーダンスの計測結果を示す。図4Aの計測結果と見比べると、波形に変化が見られる。この変化は、端部Cp2に短絡が形成されたことによるものである。図4Cに、図4Bの損傷形成後の波形から、図4Aの損傷形成前の波形を減じた差分の波形を示す。この差分の波形において、距離1.5mの近傍に、大きな負方向のピーク構造が見られる。このピーク構造を、損傷の形成による変化に対応付けることができる。実際に、損傷として短絡を形成した端部Cp2は、基端Cp1から1.5m離れており、差分においてピークが観測された位置と対応している。
次に、図4Aで測定の対象とした電線(個体1とする)と、同種の電線、つまり同じ設計に基づいて同様に製造した別の電線(個体2とする)についても、損傷のない状態で、同様に測定インピーダンスを測定した結果を示す。図4Dに、個体1と個体2について、特性インピーダンスの測定結果を合わせて示す。2つの個体の波形を見比べると、波打ちにおける信号強度の上昇および低下の傾向は類似しているものの、山や谷の位置や大きさ等、信号波形の詳細は、両者で異なっている。
図4Dの個体1の波形と個体2の波形の差分をとったものを、図4Eに示す。図4Eの差分信号には、大きな波打ち構造が見られている。その波打ち構造の中で、距離2mの近傍に、図4Cで観測されたのと類似した負のピーク構造が見られる。つまり、損傷のない同種の2つの異なる個体の電線に対して得られた計測結果の差分が、同一個体について、損傷が存在する場合と存在しない場合で得られた差分と、類似した形状および強度のピーク構造を示していると言える。
このことは、特性インピーダンスの計測結果に基づいて電線の損傷を検出しようとする場合に、同一個体について、損傷が形成されていない状態と損傷が形成された状態で、計測結果の比較を行わなければ、損傷の検出を正しく行うことができないことを意味する。仮に、個体2に対して損傷が形成されていない状態で得られた計測結果と、損傷が形成された個体1に対して得られた計測結果を比較しても、個体1の損傷を検出することは難しい。しかし、同一種の電線であっても、個体を識別して、図4Cのように、同じ個体の間で、初期状態と、初期状態から時間が経過した検査時とで、計測結果の比較を行えば、損傷が形成されたか否か、また損傷が形成された位置を検知することが可能となる。
上記で説明した本開示の実施形態にかかる電線検査システムおよび電線検査方法においては、初期状態において、複数の電線に対して得られた応答信号を、電線の個体ごとに記憶部A1に記憶しておき、検査時において、検査対象としている特定の対象電線に対して、その対象電線に対応する初期状態の応答信号を、記憶部A1から呼び出している。そして、呼び出した初期状態の応答信号を、その対象電線に対して検査時に取得された応答信号と比較している。このように、初期状態における応答信号の取得および記憶を、個体ごとに電線を識別して行い、検査時に検査を行った個体そのものについて、初期状態と検査時とで、応答信号を比較することで、図4Dに示したような個体間の応答信号のばらつきが存在していても、そのばらつきに影響されることなく、個体ごとに、損傷の有無を敏感に検知し、さらに損傷が形成された位置を特定することが可能となる。特に、同一種の電線が多数存在する場合に、それらの電線を含む電線群について、初期状態の応答信号を個体ごとに記憶しておき、多数の個体がそれぞれ検査を受ける際に、各個体に対応する応答信号を呼び出して比較を行えば、多数の電線のそれぞれに対して、高精度な損傷検査を行うことができる。
図3に示した電線Cのように、分岐等、周囲と不連続になった要素を電線が有している場合には、それらの要素が形成された箇所において、電気信号が反射を受け、応答信号上で、損傷箇所と類似した挙動を示すことが多い。そのような場合には、個体ごとの応答信号のばらつきが特に大きくなりやすい。さらに、損傷が軽微なものである場合には、応答信号上において、損傷に由来するピーク等の構造が、分岐等の不連続な要素に由来する構造に埋もれてしまい、判別しにくくなる場合がある。これらの場合には、個体ごとに初期状態の応答信号を記憶し、検査時の応答信号と比較することが、損傷の検出において、特に有効になる。さらに、初期状態の応答信号と検査時の応答信号の間で差分を求める差分検出法を利用すれば、検出精度を一層高めることができる。分岐等の不連続な要素による応答信号への寄与を、差分を取ることで、少なくとも部分的に打ち消すことができ、その結果として、損傷による応答信号上の構造が強調されるからである。
電線の個体の間における特性のばらつきを排除して、各個体における応答信号の変化から、損傷の発生を検知することができる他の方法として、各電線に、計測装置を常時接続したままにして、検査信号の入力と応答信号の取得を連続的に行い、応答信号の変化を監視し続ける方法が考えうる。しかし、この場合には、電線の個体ごと、つまり電線を搭載した車両ごとに計測装置を設置する必要があり、大きな費用を要することになる。これに対し、本実施形態にかかる電線検査システムおよび電線検査方法を利用すれば、計測装置は、製造事業者が初期状態において初期データの取得に用いるほかは、各検査事業者が、検査部A2として、1台ずつ保有すればよい。そして、電線検査を行う都度、各電線に対して、計測装置を接続して応答信号の取得を行い、電線検査が完了すれば、計測装置を取り外せばよい。このようにすることで、電線の損傷の検査に要するコストを抑えながら、電線の各個体について、特性のばらつきの影響を排除して、高精度な検査を行うことが可能となる。
さらに、本実施形態にかかる電線検査システムおよび電線検査方法においては、多数の電線に関する初期状態の応答信号の情報を、製造事業者の情報管理サーバ等よりなる共通の記憶部A1に集積している。そして、広域に分布した多数の検査事業者が、それぞれの解析部A3を介して、インターネット等によって、その共通の記憶部A1にアクセスし、記憶部A1に蓄積された多数の電線の初期状態における応答信号の中から、それぞれが検査の対象としている電線についての初期状態の応答信号を、呼び出すことができる。大規模な製造事業者が、電線の製造時や組み込み時に、応答信号を取得しておき、多数の電線に関する情報を、個体ごとに識別して、一元的に管理し、広域に分布する多数の検査事業者に対して利用可能としておくことで、電線の特性に関する情報の集積、管理、利用の各工程を、効率的に進めることができる。
本実施形態にかかる電線検査システムおよび電線検査方法において、電線検査を行う際の検査信号および応答信号の種類は、電線に設けられた損傷検知部の具体的な構成に応じて、適切に設定すればよいが、検査信号として、交流成分を含む電気信号を用いて、時間領域または周波数領域で、特性インピーダンス等、電気的特性の測定を行うことが好ましい。すると、電線において、損傷が存在する場合に、その損傷の存在を検知することに加え、電線の軸線方向に沿って、損傷が発生している位置を判別することができる。時間領域または周波数領域で測定された応答信号においては、初期状態と検査時との間で差が生じている応答信号上の領域を、電線の軸線方向に沿った位置に対応づけ、その位置に損傷が発生していると判定することができる。時間領域測定の場合は、検査信号の伝播速度に基づいて、時間軸を電線上の位置に変換することができる。一方、周波数領域測定の場合には、周波数軸に対して得られた検査信号を逆フーリエ変換することで、周波数の情報を、電線上の位置に変換することができる。
時間領域または周波数領域での測定を行うに際し、透過法によって測定を行っても、反射法によって測定を行っても、損傷の位置の特定を行うことができるが、特に反射法で測定を行うことが好ましい。反射法によって測定を行う場合には、電線の両端に計測装置を接続しなくても、一端にのみ計測装置を接続することができれば、電線検査を実施することができる。よって、電線が、車両の内部等において、容易にアクセスできない箇所に配置されている場合や、複雑な経路をとっている場合にも、電線の一端にさえ計測装置を接続することができれば、電線を取り外したり、障害物を除去したりすることなく、電線検査を行うことができる。次に、本開示の第一の実施形態にかかる電線として導電テープ巻き電線について説明する中で、時間領域反射法および周波数領域反射法を利用した、特性インピーダンスの計測についても、詳細に説明している。
<電線の構成の具体例>
以下に、上記で説明した電線検査システムおよび電線検査方法による検査の対象として好適に適用することができる電線の具体例を挙げる。ここでは、本開示の第一の実施形態にかかる電線としての導電テープ巻き電線1と、本開示の第二の実施形態にかかる電線としての積層テープ巻き電線3の2種の電線について、詳細に説明する。なお、これら2種の電線1,3に対しては、本開示の電線検査システムおよび電線検査方法を用いる以外の方法でも、損傷の検知を行うことができる。例えば、計測装置を常時接続したまま、電線検査を連続的に行う形態の損傷検知等も、適用することができる。そこで、以下では、必要に応じて、他の検査方法に関連する事項についても説明する。
[1]導電テープ巻き電線
まず、第一の実施形態にかかる電線として、導電テープ巻き電線1について説明する。
(導電テープ巻き電線の構成)
図5に、本開示の第一の実施形態にかかる電線として、導電テープ巻き電線1の斜視図を示す。また、図6Aに、導電テープ巻き電線1を軸線方向に垂直に切断した断面の一例を示す。
導電テープ巻き電線(以下、単に電線と称する場合がある)1は、芯線10と、芯線10の外周に配置された導電テープ20とを有している。芯線10は、電線1の本体となる部材であり、両端末間での電流や電圧の印加、また信号伝達を担う。同時に、芯線10と導電テープ20は、上記で説明した(iii)の形態の損傷検知部として機能し、導電テープ20が損傷を受けることで、電線1の表面に形成された外傷Dを検知する。
芯線10は、長尺状の導電性材料よりなる導体11と、導体11の外周を被覆する絶縁性材料よりなる絶縁被覆12とを有している。絶縁被覆12は、芯線10全体としての表面に露出しており、芯線10の外周面を構成している。図示した形態においては、芯線10は、導体11の外周に絶縁被覆12を設けた絶縁電線を、1本のみ含んだ単線構造を有している。そして、導体11の外周を直接被覆している絶縁被覆12の外周面に、直接接触して、導電テープ20が配置されている。
なお、芯線10の構造は、上記のような単線構造に限定されるものではなく、導体11と、導体11の外周を被覆し、表面に露出した絶縁被覆12とを有するものであれば、どのようなものであってもかまわない。芯線10として、既存の電線をそのまま流用することもできる。芯線10において、絶縁被覆12は、導体11の外周を直接被覆するものであっても、他の部材を介して導体11の外周を被覆するものであってもよい。また、導体11の本数や配置は、特に限定されるものではない。単線構造以外の芯線10の形態としては、絶縁電線の外周にシールド導体が配置され、その外周を絶縁被覆12で被覆したシールドケーブルの形態や、1対の絶縁電線を並列に配置したパラレルペア線や相互に撚り合わせたツイストペア線の外周を、外被としての絶縁被覆12で被覆したペアケーブルの形態等を、例示することができる。ただし、後に詳しく説明するように、芯線10が、単線構造のように、芯線10自体の構成部材の間で特性インピーダンスを計測できるものではなく、また外来のノイズの影響を受けやすい形態をとっている方が、導電テープ20の設置によって外傷Dの検知を行うことの意義が相対的に高くなるという観点で、好適である。芯線10は、図5,8,10に示すように、1本の直線状に形成されても、図9に示すように、途中に分岐部(13A~13C)を有していてもよい。
導電テープ20は、導電性を有するテープ体として構成されている。導電テープ20は、芯線10の絶縁被覆12の表面に接触した状態で、芯線10の軸線方向に沿った螺旋形状をとって、芯線10に巻き付けられている。導電テープ20は、螺旋形状において、隣接するターン間で、密接または重畳された状態で、隙間なく密に巻き付けられているのではなく、隣接するターン間に、導電テープ20に占められない間隙25を残した状態で、粗く巻き付けられている。ターン間の間隙25においては、芯線10の絶縁被覆12が、導電テープ20に被覆されずに、電線1全体としての表面に露出している。なお、導電テープ20の形状について、テープ体とは、金属線等、線条体とは区別されるものであり、厚さが幅よりも小さくなった、シート状の部材を指す。
導電テープ20は、導電性を有するものであれば、どのような材料より構成されてもよいが、金属材料を含んで構成されることが好ましい。この場合に、導電テープ20は、全域が金属材料よりなる金属箔の形態で形成されても、基材の表面に、金属材料の層が形成されたものであってもよい。基材を用いる場合に、基材の面のうち、少なくとも、芯線10に接触するのと反対側の面に、金属材料の層が形成されていれば、基材自体は、有機ポリマー材料等、絶縁性の材料より構成されてもよい。いずれの場合にも、導電テープ20を構成する金属材料の種類は、特に限定されるものではないが、導電性と強度に優れる等の観点から、銅または銅合金、アルミニウムまたはアルミニウム合金等を例示することができる。ただし、金属材料の酸化が深刻となると、導電テープ20が導電性を有することを原理の一部として利用する外傷の検出を、正確に行えなくなる可能性があるので、導電テープ20を構成する金属材料として、鉄および鉄合金は用いない方が好ましい。導電テープ20は、接着や融着により、芯線10の表面に固定されてもよい。
導電テープ20の厚さも、特に限定されるものではないが、薄いものであるほど、電線1の外傷検知における感度を高めることができる。具体的には、電線1に想定される外傷Dによって、破断が起こるか、破断までは起こらなくても、導電テープ20と導体11の間の静電容量に変化が生じる程度に、深く、また大面積の損傷D1が形成される程度に、導電テープ20が薄いものであるとよい。一方、螺旋形状での巻き付けに支障を生じないだけの強度を発揮できる程度には、導電テープ20が十分な厚さを有していることが好ましい。
芯線10の外周で導電テープ20が構成する螺旋形状のピッチや、導電テープ20の幅と間隙25の幅の比率は、特に限定されるものではない。しかし、図6Aに示すように、電線1の軸線方向に垂直に切断した断面において、導電テープ20が、芯線10の外周を全周にわたって被覆することなく、周方向に沿って一部の領域のみを被覆した状態となるように、十分に粗く、つまり、十分に大きいピッチで、また導電テープ20の幅に対して十分に間隙25の幅を大きくして、導電テープ20を巻き付ける必要がある。さらに好ましくは、芯線10の周長のうち、導電テープ20に被覆されずに間隙25として露出される領域の割合が、50%以上、さらには75%以上となるとよい。一方、螺旋形状のピッチは、図8,10に示すように、電線1において想定される外傷Dが、電線1の軸線方向に沿って、1ピッチ以上を占める程度に小さく形成することが好ましい。すると、電線1の軸線方向および周方向の多様な位置に外傷Dが形成された場合でも、その外傷Dが、導電テープ20が配置された箇所に重なりやすくなる。例えば、図8のように、電線1を曲げて配策する場合に、電線1の許容曲げ半径の1/3以下となるように、螺旋のピッチを設定すればよい。
導電テープ20は、他の部材に外周を被覆されず、電線1全体としての外表面に露出していることが好ましい。電線1が他の物体との接触や摩擦を起こした際に、導電テープ20に損傷D1が発生しやすく、外傷検出における感度が高くなるからである。ただし、他の物体との接触や摩擦によって容易に破損するほど、薄い層であれば、有機ポリマー等より構成された層が、導電テープ20を被覆していてもよい。
電線1において、導電テープ20は、芯線10の軸線方向に沿って、全域に設けても、一部の領域のみに設けてもよい。全域に設ける形態は、電線1の軸線方向に沿って、形成箇所を問わずに外傷Dを検出できる点で好ましく、一部の領域にのみ設ける形態は、導電テープ20の設置による電線1の製造コストや質量の増大を抑制できる点で好ましい。導電テープ20を一部の領域にのみ設ける場合には、芯線10に曲げが加えられる箇所等、他の部材との接触や摩擦によって外傷Dが発生しやすい箇所を含んで、導電テープ20を設けることが好ましい。図9に示すように、芯線10の中途部に分岐部13A~13Cを有している場合にも、分岐部13A~13Cのいずれかよりも先端側(後述する計測装置9を接続する側を基端1Aとして、その反対側)に、外傷Dが発生しやすい箇所が存在するのであれば、その分岐部よりも先端側の部位を含んで、導電テープ20を設けるとよい。
電線1の用途は限定されるものではなく、車両等、任意の機器内に配策したり、任意の建造物等に敷設したりして、用いればよい。ただし、電線1は、導電テープ20をアース電位(グラウンド電位)に電気的に接続せず、フロート状態として、使用することが好ましい。導電テープ20をフロート状態に保持しておくことで、芯線10とアース電位の間にスイッチを設けた場合のオン/オフ制御等、導体11とアース電位の間の電気接続状態が、導電テープ20を用いた外傷Dの検出に影響を与えにくいからである。
(電線検査の方法)
次に、導電テープ巻き電線1に対して行われる電線検査について、説明する。電線検査において、直接的に検出されるのは、導電テープ20に発生した損傷D1であるが、その導電テープ20の損傷D1を指標として、芯線10の絶縁被覆12に外傷Dが形成されていること、あるいは絶縁被覆12に外傷Dが形成される寸前の予兆段階にあることを検知するのを、電線検査の目的としている。
電線検査においては、導体11と導電テープ20との間の特性インピーダンスを計測する。そして、応答信号として得られた特性インピーダンスを、初期状態と検査時とで比較して、検査時において、電線1への外傷Dの形成の有無の判定を行う。さらに好ましくは、電線1の軸線方向に沿って外傷Dが形成されている位置の特定も行う。
電線検査は、図10に示すように、電線1の基端1Aにおいて、計測装置9(検査部A2に対応)を適宜接続し、芯線10を構成する導体11と、導電テープ20との間の特性インピーダンスを計測する。特性インピーダンスの計測は、時間領域反射法(Time Domain Reflectometry;TDR法)、または周波数領域反射法(Frequency Domain Reflectometry;FDR法)によって行うことが好ましい。
ここで、電線検査に関連して、導体11と導電テープ20の間の特性インピーダンスと、電線1の外傷Dとの関係について説明する。図6Aおよび図6Bに、電線1の断面を示している。図6Aでは、導電テープ20に損傷D1が発生していないが、図6Bでは、電線1に外傷Dが発生したことにより、その断面に対応する位置で、導電テープ20に損傷D1が発生している。導電テープ20に形成される損傷D1は、必ずしも導電テープ20の破断にまで達している必要はなく、傷が形成されているだけでもよいが、ここでは、分かりやすいように、断面の一部において、導電テープ20が破断している状態を示している。
芯線10の外周を被覆する導電テープ20と芯線10を構成する導体11は、絶縁性材料(誘電体)よりなる絶縁被覆12を挟んで対向しており、導電テープ20と導体11の間に、静電容量が規定される。静電容量は、誘電体を挟んで対向する導電性物質の面積との間に、正の相関を有する。よって、図6Aのように、導電テープ20が損傷D1を有していない場合に比べて、図6Bのように、導電テープ20に損傷D1が形成されている場合には、静電容量が小さくなる。導電テープ20と導体11の間の特性インピーダンスは、導電テープ20と導体11の間の静電容量による影響を大きく受ける。よって、導電テープ20に損傷D1が発生することで、導電テープ20と導体11との間の静電容量が変化すると、その結果として、導電テープ20と導体11の間の特性インピーダンスが変化することになる。
図7Aに示す電線100は、芯線10の外周に、全周にわたって連続した導電性材料の層120が設けられたものであるが、このように芯線10の全周に導電性層120が形成された場合にも、図7Bのように、その導電性層120に損傷D1が発生すると、理論的には、上記図6Bの場合と同様に、導電性層120と芯線10の導体11との間で、静電容量の大きさが変化しうる。もし、外傷Dが、電線100の外周のほぼ全周にわたって形成され、導電性層120にも、周方向のほぼ全域にわたって損傷D1が発生するとすれば、導電性層120と導体11の間の静電容量が大きく変化し、導電性層120と導体11の間の特性インピーダンスにも、顕著な変化が生じることになる。しかし、実際には、電線のほぼ全周にわたって外傷が発生するような事態は稀である。多くの場合、外部の物体との接触や摩擦による外傷Dは、図8,10に示すように、電線1の周方向に沿って一部の領域のみを占めて、しかし電線1の軸線方向に沿ってある程度の長さにわたって、形成される。そのような、電線1の周方向に沿って一部のみを占める外傷Dが形成される場合に、図7Aのように、導電性層120が芯線10の全周を被覆しているとすれば、導電性層120全体のうち、損傷D1が占める割合としては小さくなるため、損傷D1の発生に伴う静電容量の変化率(初期状態に対する変化量の割合)は、小さくなってしまう。その結果、損傷D1の形成に伴う特性インピーダンスの変化率も、小さくなってしまう。すると、特性インピーダンスの変化を検出することで、損傷D1の発生を検出しようとしても、感度良くその検出を行うのが難しくなる。
一方、図5のように、導電テープ20が、芯線10の外周に、ターン間に間隙25を残した状態で粗く巻かれ、図6Aのように、断面において、導電テープ20が、芯線10の外周の一部の領域しか占めていない場合には、図6Bに示すように、その導電テープ20に損傷D1が形成されると、初期状態で導電テープ20が被覆していた領域に対して、損傷D1が占める領域の割合が大きくなる。すると、導電テープ20と導体11の間の静電容量が、大きな変化率をもって変化することになる。その結果として、導電テープ20と導体11の間の特性インピーダンスも、大きな変化率を示すことになり、特性インピーダンスの変化を検出することで、損傷D1の形成を、敏感に検知することが可能となる。外傷Dが、電線1の周方向に沿って、一部の領域にのみ形成される場合でも、その外傷Dによって、導電テープ20に損傷D1が形成されれば、特性インピーダンスの変化として敏感に反映され、外傷Dの形成を検出することができる。また、損傷D1が軽微なものであっても、検出できる可能性が高くなる。
ただし、導電テープ20が、芯線10の外周に粗く巻かれ、ターン間に、導電テープ20に被覆されない間隙25が存在することで、図8,10に示すように、電線1の周方向に沿って一部の領域にのみ、外傷Dが形成される場合に、電線1の軸線方向に沿った外傷Dの長さが極端に短ければ、導電テープ20が配置された箇所に、外傷Dが掛からず、導電テープ20に損傷D1が形成されない可能性も排除できない。しかし、電線1が、周囲の物体との接触や摩擦によって外傷Dを形成される場合に、外傷Dは、電線1の長手方向に沿って、ある程度の長さにわたって形成される場合が多い。例えば、図8のように、電線1が、曲げを加えられた状態で、自動車内等に配策される場合に、電線1の曲げの外側の部位が、近傍に存在する物体(自動車のボディ等)に接触して、外傷Dが形成される可能性があるが、この場合には、曲げが形成された領域において、ある程度の長さを占めて、物体への接触が起こり、外傷Dが形成される場合が多い。よって、想定される外傷Dの長さが、導電テープ20の螺旋形状のピッチに対して十分長くなるように、螺旋ピッチを設定しておけば、外傷Dの長さ範囲の中のいずれかの箇所で、導電テープ20が配置された箇所に外傷Dが掛かり、導電テープ20に損傷D1を発生させるものとなる。すると、静電容量の変化を介して、導電テープ20と導体11の間の特性インピーダンスに変化が現れ、損傷D1の発生を検知することができる。
このように、導電テープ20を、芯線10の外周に、ターン間に間隙25を設けた粗い螺旋状に巻いておくことで、電線1に外傷Dが発生した際に、導電テープ20と導体11の間の特性インピーダンスの変化を検出することで、外傷Dの発生を敏感に検知することができる。芯線10の外周に巻き付けた導電テープ20に損傷D1が発生しているということは、芯線10の絶縁被覆12にも外傷Dが発生している蓋然性が高いことを意味し、導電テープ20に形成された損傷D1を検出することをもって、電線1の本体部たる芯線10に外傷Dが形成されている、あるいは本格的な外傷Dの形成に至る寸前の予兆段階にあることを、検知することができる。図10に示すように、直線状の電線1において、導電テープ20の損傷D1が、破断として形成される場合には、基本的には、特性インピーダンスの変化の方向は、損傷D1の形成に伴って、値が増大する方向となる。しかし、電線1の種類や形状、損傷D1の形態や形状等によっては、特性インピーダンスの変化が、増大、低下のいずれの方向に起こる場合もありうる。
以上のように、電線1において、導電テープ20と導体11の間の特性インピーダンスに変化が生じているか否かを調べることで、電線1に外傷Dが発生しているか否かを検知することができるが、特性インピーダンスの計測を、TDR法またはFDR法によって行うことで、外傷Dの形成の有無だけでなく、外傷Dが形成されている位置を、電線1の軸線方向に沿って特定することができる。図10に示すように、電線1の基端1A側で、導電テープ20と導体11の間の特性インピーダンスを測定すると、計測結果として、TDR法の場合は、特性インピーダンスの変動が、時間に対する関数として得られる。FDR法の場合には、特性インピーダンスの変動が、周波数に対する関数として得られる。いずれの場合にも、電線1の軸線方向の中途部において、導電テープ20に損傷D1が発生していると、その損傷D1の箇所で検査信号が反射を受ける。すると、時間軸上または周波数軸上で、その損傷D1に対応する位置において、特性インピーダンスが不連続に変化することになる。そこで、TDR法またはFDR法によって得られた計測結果で、特性インピーダンスの値が、周囲の領域における値から不連続に変化している領域、または、初期状態等、以前の測定時の値から変化している領域を、変化領域Rとして検出し、その変化領域Rに対応付けられる電線1上の位置に、外傷Dが形成されていると判定することができる。このようにして、電線1上への外傷Dの形成の有無だけでなく、外傷Dが形成されている位置も特定することができる。
図10では、TDR法を用いる場合について、電線1に形成される外傷Dと、得られる計測結果の関係を、模式的に示している。図の上部に、外傷Dを有する電線1を示し、下部に、その電線1に対してTDR法で得られる測定結果の一例を示している。測定結果において、実線は、電線1に外傷Dが形成されている場合、破線は、電線1に外傷Dが形成されていないとした場合を示している。
TDR法においては、基端1Aからの距離と、時間軸の値が、比例関係となる。図10において、計測結果は、横軸に時間を、縦軸に特性インピーダンスの測定値をとったものとなっているが、電線1上で、基端1Aから外傷Dが形成された地点までの距離に対応する領域に、周囲の領域にから不連続に立ち上がったピークPが観測される。周囲の領域にも、ノイズや、電線1上の外傷以外の要素に由来する微細なピーク状の構造は存在するが、芯線10が単純な直線状であれば、外傷Dに由来するピークPの高さは、それら外傷Dと無関係なピーク状構造よりも、明らかに大きくなる場合が多い。また、その外傷Dに由来するピークPが生じている領域において得られる測定値は、点線にて表示される、外傷Dが形成されていない初期状態における値と比較して、増大している。このように、周囲の領域における値と比較して不連続に特性インピーダンスが変化した領域、あるいは初期状態における値から特性インピーダンスが変化している領域を変化領域Rとして検出すれば、横軸上での変化領域Rの位置を、電線1上で、基端1Aからの外傷Dの位置に対応付けることができる。つまり、特性インピーダンス測定を通じて、外傷Dの存在を検知するのみならず、電線1の軸線方向に沿って、その外傷Dが形成された位置を特定することができる。後の実施例に示すように、おおむね200mm以内の誤差範囲で、外傷Dの位置を正確に特定することができる。図面の掲載は省略するが、FDR法の場合にも、横軸を周波数として、同様に、周囲の領域における値と比較して不連続に特性インピーダンスが変化した領域、または初期状態の値から変化した領域を、変化領域Rとして検出することで、電線1の軸線方向に沿って、その外傷Dが形成された位置を特定することができる。この場合には、特性インピーダンスが周波数の関数として得られ、逆フーリエ変換を行うことで、電線1の基端1Aからの距離の情報に変換することができる。
TDR法を用いる場合に、電線1の基端1Aに入力する検査信号は、典型的には、パルス矩形波である。しかし、TDR法を発展させた形態として、異なる周波数の成分を、所定の強度で重ね合わせて、矩形波以外の所定の波形とした検査信号を用いる形態も、好適に用いることができる。具体的には、検査信号として、連続した周波数範囲にわたる成分を、周波数ごとに独立した強度で重畳したものであるが、その連続した周波数範囲の中で、一部の周波数(除外周波数)の成分が欠損しているか、周囲の周波数と比較して強度が不連続に小さくなった電気信号を、用いることができる。そのような除外周波数を有する検査信号を用いる形態は、マルチキャリア時間領域反射法(Multicarrier Time Domain Reflectometry;MCTDR法)として知られており、例えば、米国特許出願公開第2011/035168号明細書に開示されている。検査信号において、各周波数成分の強度や、除外周波数の設定によって、測定ノイズの影響を低減して、反射成分の計測を行うことができる。
例えば、自動車内等、他の通信機器や通信用電線が近傍に存在する環境に、電線1を配策する場合には、電線1の外部の発生源に由来する電磁波が、電線1の周囲を伝搬している状態にある。この場合に、それらの電磁波の周波数を含むように、除外周波数を設定し、検査信号における寄与を排除または低減しておくことで、それらの周波数を有する成分が、特性インピーダンス測定の結果に、影響を与えにくくなる。その結果、電線1の近傍を伝搬する電磁波が、電線1における特性インピーダンスの計測結果にノイズを与えにくくなり、電線1における外傷Dの検知を、敏感に、また高精度に行うことが可能となる。MCTDR法は、計測結果と外傷Dが形成された位置との対応付けを直接的に行える点等、TDR法の長所と、ノイズに対する耐性等、FDR法の長所とを兼ね備えた測定法であると言える。
MCTDR法を含むTDR法、またはFDR法によって、電線1の外傷Dを検知する際に、外傷Dによる特性インピーダンスの変化が顕著であれば、特性インピーダンスを計測した計測結果そのものに基づいて、外傷Dを検知することができる。つまり、計測結果そのものを見て、周囲の領域と比較して値が不連続に変化している領域を探すか、あるいは、初期状態等、以前の計測結果と比較して、両者の間で値が変化している箇所を探すことで、外傷Dに対応するピークPを検出することができる。しかし、例えば、外傷Dが軽微である場合や、電線1が長い場合、また図9に芯線10’を示すように、電線1が分岐している場合等には、外傷Dに由来するピークPが、外傷D以外の要素に由来するピーク構造やノイズに埋もれてしまい、計測結果を直接見ただけでは、ピークPを明確に認知できない場合もある。そのような場合には、差分検出法を用いればよい。つまり、初期状態における特性インピーダンスの計測結果と、初期状態から時間が経過した後の特性インピーダンスの計測結果との差分を求め、差分の値が周囲の領域における値から不連続に変化している領域を、変化領域Rとして検出し、その変化領域Rを、外傷Dが存在する箇所に対応付ければよい。
上記で説明したように、導電テープ巻き電線1においては、芯線10はいかなる種類の電線よりなってもよいが、単線構造よりなることが、最も好ましい。シールドケーブルやペアケーブルの場合は、上記で形態(i)として説明したように、中心導体とシールド導体の間、あるいはペア線の相互間の特性インピーダンスを計測することで、外傷Dの検知を行うことも、考えられるが、単線構造の場合は、芯線10は、導電性部材として、導体11しか有さないので、外部に導電テープ20を巻き付けることによってはじめて、特性インピーダンスを利用した外傷Dの検知が可能となるからである。また、単線構造の場合は、導電テープ20を巻き付けることによって、ノイズの影響を低減して、感度良く外傷Dを検知できるようにする効果に優れる。つまり、シールドケーブルやペアケーブルの場合は、ノイズの影響を低減するための構造が内在しているため、安定した特性インピーダンスが得られやすいのに対し、単線構造の場合は、導体11とアース電位の間の特性インピーダンスが、非常に不安定となる。しかし、その単線構造を芯線10として、その芯線10の外周に導電テープ20を巻き付けることで、特性インピーダンスが安定化する。そのように特性インピーダンスが安定した状態で、外傷Dの検知を行うことで、感度良く特性インピーダンス値の変化を検出し、外傷Dの形成と対応付けることができる。
さらに、上記で説明したように、導電テープ20は、線条体とは区別されるものであり、本実施形態にかかる電線1においては、もっぱらテープ体として構成された導電テープ20を用いるが、導電テープ20の代わりに、金属線等、導電性の線条体を粗い螺旋状に巻き付けたとしても、外傷Dの検知を達成できる可能性はある。しかし、線条体を用いる場合には、芯線10の外周において、導電性材料が配置されている箇所と配置されていない箇所の間で、静電容量の差が大きくなりすぎ、特性インピーダンスが不安定化する。その結果として、高い位置分解能で、外傷Dを検出することが難しくなる。このような理由から、金属線等の線条体ではなくテープ体として構成された導電テープ20が用いられる。
特性インピーダンスの計測による外傷Dの検知を、電線1を機器等に配策した状態のままで行う場合に、検査対象の電線1に、検査信号以外の電圧や電流を印加しない静的な状態で、検査信号による特性インピーダンスの測定を行うことが、検査の感度および精度を高める点で、好ましい。上記で説明した電線検査システムおよび電線検査方法でも、そのように静的な状態で電線検査を行うことを、基本としている。しかし、特性インピーダンスの計測は、検査信号以外の電圧や電流を電線1に印加したままの状態でも行うことができる。例えば、電線1に計測装置9を常時接続した状態としておき、本来の芯線10の用途に応じた電流または電圧を印加した状態で、電線1を使用しながら、継続的に、特性インピーダンスの計測と、その計測結果に基づく外傷Dの検知を行う形態とすることができる。すると、電線1を使用しながら、外傷Dの形成をリアルタイムで監視し、外傷Dが形成されると、あるいは外傷形成の予兆段階に達すると、即座にそのことを検知できる。例えば、芯線10が単線構造を有している場合に、芯線10は、直流電流や直流電圧の印加に用いられる場合が多いが、その場合に、交流成分より構成された検査信号を入力することで、導体1への電流や電圧の印加を継続しながらでも、特性インピーダンスの計測を、好適に行うことができる。
[2]積層テープ巻き電線
次に、第二の実施形態にかかる電線として、積層テープ巻き電線3について、説明する。ここでは、上記導電テープ巻き電線1と共通する構成や検査方法、およびそれらによる効果については、説明を省略し、簡単に説明を行う。
(積層テープ巻き電線の構成)
図11Aに、積層テープ巻き電線3の概略を斜視図にて示す。積層テープ巻き電線3においては、芯線31の外周に、積層テープ40が、螺旋状に巻き付けられている。積層テープ40も、上記導電テープ20と同様に、1本の芯線31の外周に巻き付けてもよいが、好ましくは、図11Aに示すとおり、複数の芯線31が束にされたワイヤーハーネス30全体としての外周に、積層テープ40が巻き付けられた形態をとっているとよい。この場合には、いわば積層テープ巻きワイヤーハーネスの状態となるが、本明細書においては、そのような状態も含めて、積層テープ巻き電線3と称するものとする。積層テープ40は、芯線31の束(電線束)の外周に直接巻き付けられていても、チューブ等の外装材に電線束を収めたうえで、その外装材の外周に巻き付けられていてもよい。
積層テープ40は、図11Bに断面図(テープ長手方向に直交する断面)を示すように、テープ状の絶縁体または半導体よりなる基材41の両面にそれぞれ、導電性の被覆層42,42を形成したものとして構成されている。積層テープ40は、両面に設けられた被覆層42,42が、上記(ii)の形態の損傷検知部における2つの導電性部材として機能する。
積層テープ40において、基材41の構成材料は、絶縁体または半導体であれば、特に限定されるものではないが、可撓性を有するテープ状の絶縁体を用いる形態が好ましい。基材21の構成材料の好適な例として、不織布テープやポリマーテープを例示することができる。2層の被覆層42,42の間に距離を確保し、インピーダンス変化による損傷の検出を行いやすくする観点からは、基材41がある程度の厚みを有している方がよく、その観点から、基材41を不織布テープより形成する形態が特に好ましい。あるいは、基材41として、機能性材料を用いることもできる。機能性材料は、温度や湿度等、外部の環境によって、誘電率等、電気的特性が変化するものである。例えば、基材41として、吸湿性ポリマーのシートを用いれば、基材41が水に触れた際に、当該箇所の誘電率および導電率が変化することにより、インピーダンスが変化する。
被覆層42,42を構成する材料も、導電性材料であれば、特に限定されるものではないが、銅または銅合金、アルミニウムまたはアルミニウム合金等の金属を好適に用いることができる。基材41の両面に、被覆層42,42を形成する方法としては、金属シートの接着、金属蒸着、めっき等を挙げることができる。被覆層42,42の厚さは、特に限定されないが、積層テープ巻き電線3において想定される外傷によって、破断や短絡等を起こし、特性インピーダンスの変化が十分に生じる程度に薄いものであるとよい。
一方の被覆層42の面には、適宜、接着テープ43を設けることができる。接着テープ43を利用して、積層テープ40を、ワイヤーハーネス30の外周に巻きつけた状態に固定することができる。ワイヤーハーネス30を構成する電線束の外周に積層テープ40を直接巻き付ける場合に、接着テープ43を介して、電線束を積層テープ40で押さえ込むようにすれば、積層テープ40に、損傷検知部として役割と、電線束がばらけるのを抑える結束材としての役割を兼ねさせることもできる。
図11A,11Bに示した形態では、積層テープ40の幅方向両端部に、被覆層42,42が形成されず、基材41が露出した箇所が設けられているが、必ずしもこのように基材41を露出させる必要はなく、基材41の表面全域に被覆層42,42を設けてもよい。しかし、基材41の幅方向両端部に、被覆層42,42が設けられない領域を残しておくことで、両面の被覆層42,42が、積層テープ40の端縁の箇所で相互に接触し、意図しない短絡を起こす事態を、抑制することができる。また、基材41が、外部の環境に依存して電気的特性を変化させる機能性材料よりなる場合に、基材41を露出させ、外部の環境に直接接触させておくことで、外部の環境の変化を敏感に反映して、電気的特性の変化を起こしやすくなる。
積層テープ付き電線3において、積層テープ40は、電線束として構成されたワイヤーハーネス30の外周に、螺旋状に巻き付けられている。上記導電テープ巻き電線1における導電テープ20とは異なり、螺旋構造のターン間に間隙を設ける必要はない。ターン間に間隙を設けずに積層テープ40を巻き付けても、想定される損傷の長さよりも狭い幅の間隙を設けながら積層テープ40を巻き付けても、いずれでもよい。積層テープ40の層は、積層テープ巻き電線3全体としての外表面に露出していることが好ましい。
(電線検査の方法)
積層テープ巻き電線3においては、積層テープ40が有する2層の導電性被覆層42,42を損傷検知部として利用し、電線検査として、2層の被覆層42,42の間の特性インピーダンスを計測することで、損傷を検知することができる。電線検査において、直接的に検出されるのは、積層テープ40の被覆層41,41に発生した損傷であるが、その被覆層41,41における損傷を指標として、芯線31(またはワイヤーハーネス30)に外傷が形成されていること、あるいは外傷が形成される寸前の予兆段階にあることを検知するのを、電線検査の目的としている。
積層テープ巻き電線3に損傷が形成されていない状態では、積層テープ40を構成する2層の被覆層42,42は、基材41によって相互に絶縁された状態で、それぞれ積層テープ40の長手方向に沿った導電性の連続体として存在しており、基材41および被覆層42,42の材質や厚さ等によって定まるコンダクタンスを有している。ここで、積層テープ40に損傷が発生し、2層の被覆層42,42の間のコンダクタンスが変化すると、そのコンダクタンス成分の変化が、2層の被覆層42,42の間の特性インピーダンスの変化として、観測されることになる。例えば、積層テープ巻き電線3が、外部の物体との間に接触や摩擦を起こした場合等に、2層の被覆層42,42のうち少なくとも1層(通常は外側に向いた被覆層)が、積層テープ40の長手方向の中途部で、破断を起こしたとする。すると、2層の被覆層42,42の間のコンダクタンスが低下し、特性インピーダンスが上昇する。
積層テープ40の損傷として、被覆層42,42の破断以外にも、2層の被覆層42,42の間の短絡が想定される。例えば、積層テープ40に、金属片等、鋭利な導電体が外部から刺さり、積層テープ40を貫通した際に、その導電体を介して、2層の被覆層42,42が短絡することになる。あるいは、積層テープ40が、激しい摩擦や圧迫を受け、基材41の層にまで破断や損傷が発生し、基材41の両側の被覆層42,42が、局所的に基材41を介さずに相互に接触した場合にも、短絡が起こり得る。短絡が起こると、2層の被覆層42,42の間のコンダクタンスが上昇し、特性インピーダンスが低下する。
このように、電線検査として、積層テープ40を構成する2層の導電性被覆層42,42の間の特性インピーダンスを計測し、応答信号として得られた特性インピーダンスを、初期状態と、検査時とで比較することで、積層テープ40が巻き付けられた芯線31(またはワイヤーハーネス30)において、損傷を検知することができる。つまり、初期状態と検査時の特性インピーダンスの間に、差が生じている場合には、積層テープ40が巻き付けられた芯線31(またはワイヤーハーネス30)に、損傷が生じているか、あるいは損傷が形成される寸前の予兆段階にあることを、検知することができる。さらに、積層テープ巻き電線3が、直線状等、比較的単純な構造を有する場合には、特性インピーダンスの変化の方向によって、損傷の種類を推定することもできる。特性インピーダンスが上昇する方向に変化した場合には、積層テープ40の被覆層42,42に破断を生じさせるような損傷が起こっていると推定でき、特性インピーダンスが低下する方向に変化した場合には、被覆層42,42の間に短絡を生じさせるような損傷が起こっていると推定できる。
積層テープ巻き電線3においても、上記で説明した導電テープ巻き電線1の場合と同様に、適宜、差分検出法を利用することで、応答信号における変化が小さい場合や、分岐等、損傷以外に応答信号に変化を与える要素が存在する場合等にも、損傷の検出を、敏感に、また高精度に行うことが可能となる。また、導電テープ巻き電線1の場合と同様に、MCTDR法を含むTDR法や、FDR法を利用することで、損傷の有無だけでなく、損傷が検出された箇所の判別を行うこともできる。
積層テープ巻き電線3において、積層テープ40を構成する基材41が、機能性材料よりなり、温度や湿度等、外部の環境によって電気的特性を変化させるものである場合には、被覆層42,42に破断や短絡を引き起こす物理的損傷だけでなく、水濡れ等、外部の環境によって引き起こされる変化も、損傷として検出することができる。外部の環境の変化によって、誘電率等、基材41の電気的特性が変化すると、2層の被覆層42,42の間の特性インピーダンスにも変化が生じるからである。逆に、外部の環境の影響を受けずに、物理的損傷のみを検知したい場合には、基材41として、環境による電気的特性の変化が小さい材料を用いればよい。
また、ここでは、主に、基材41が絶縁体よりなる場合について説明しているが、半導体よりなる場合についても、同様にして、電線検査を実施し、損傷の検出を行うことができる。さらに、基材41が半導体よりなる形態において、計測装置を積層テープ40の2層の被覆層42,42に常時接続した状態にして、監視を継続する場合には、基材41が半導体であることを利用して、損傷検知の感度を高めることができる。具体的には、2層の被覆層42,42の間に、基材41を介して短絡しない程度の低電圧を印加した状態で、2層の被覆層42,42の間の特性インピーダンスを計測すればよい。この状態で、積層テープ40が圧迫等を受け、2層の被覆層42,42の間に絶縁破壊が起こると、2層の被覆層42,42の間で短絡が生じ、特性インピーダンスの変化として検出されることになる。よって、2層の被覆層42,42の物理的な相互接触による短絡に至らない程度の損傷であっても、敏感に検知することが可能となる。
積層テープ巻き電線3は、上記で説明した導電テープ巻き電線1とは異なり、損傷検知部として、芯線31の構成部材を利用せず、芯線31と別に設けた積層テープ40の構成部材のみで、損傷検知部を構成している。テープの構造としては、上記導電テープ20よりも、ここで用いている積層テープ40の方が、複雑になっているが、芯線31の構成部材を損傷検知部として用いないことにより、芯線31の種類や形態を問わずに、損傷検知機能を付与することができる。つまり、積層テープ40を外周に巻き付けることさえできれば、多様な構造や種類の芯線、またワイヤーハーネスに対して、損傷検知部を形成することができる。さらには、積層テープ40を用いた損傷検知は、芯線およびワイヤーハーネスの構成部材を利用するものではないので、電線やワイヤーハーネス以外の任意の長尺状の部材に積層テープ40を巻き付ければ、上記と同様に、その部材に対する損傷検知に用いることができる。
以下に実施例を示す。なお、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。
[1]導電テープ巻き電線について
まず、導電テープ巻き電線について、特性インピーダンスの計測による損傷の検知が行えるかを確認した。
[1-1]直線状の電線での外傷検知
まず、直線状の導電テープ巻き電線において、特性インピーダンスの計測を利用して、外傷の検知を行えるかを、確認した。
(試料の準備)
芯線として、全長10mの単線構造の電線を準備した。その芯線の外周に、銅箔よりなる導電テープを、粗い螺旋状に巻き付け、試料電線とした。螺旋のピッチは、10mmとした。導電テープの幅と、導電テープに占められない間隙の幅との比率は、ほぼ1:1とした。
上記試料電線において、基端から所定の距離の位置に、模擬的な外傷を形成した。つまり、所定の位置において、導電テープを1か所で破断させた。模擬的な外傷を形成する位置を、電線の軸線方向に沿って変更して、複数の試料電線を準備した。
(外傷の検知)
上記で準備した試料電線の基端において、芯線の導体と導電テープとの間の特性インピーダンスを計測した。計測は、MCTDR法によって行った。測定中、導電テープの電位は、フロート状態に保った。
(結果)
図12に、例として、試料電線の基端から232cmの位置に模擬的な外傷を形成した場合について、特性インピーダンスの計測結果を示す。図12および後に示す図13~図14Cでは、時間軸を基端からの距離に変換したものを横軸に、特性インピーダンスを縦軸にとっている。ただし、横軸に付した数値は、距離の絶対値を示すものではなく、距離に比例する量である。縦軸の特性インピーダンスは、距離ゼロにおける値をゼロとした変動量で表示している。
図12の計測結果を見ると、距離ゼロの近傍に、機器接続部に由来する大きな変動が見られる以外には、距離254cmに対応する位置に、周囲の領域から不連続に立ち上がった、明確なピーク構造が見られる。このピーク構造を、外傷による特性インピーダンスの変化に対応づけることができる。ピークトップの位置は、距離254cmとなっているが、実際に外傷を形成した232cmとの位置から、約20cmの誤差範囲に収まっている。この結果から、導電テープと、芯線を構成する導体との間で、特性インピーダンスを計測することで、外傷の形成を検知することができ、さらにその外傷の位置を高精度に特定できることが、確認される。
さらに、図13に、模擬的な外傷を形成する位置を変化させた場合の計測結果を、複数まとめて表示する。グラフ中の符号に対応して凡例中に記載した位置(基端からの距離)に、それぞれ外傷を形成している。図13によると、aからkへと、外傷の形成位置が基端から離れるほど、特性インピーダンスのピークトップの位置が、長距離側に移動している。それらピークトップの距離の値は、いずれも、実際に外傷を形成した位置と、おおむね20cmの誤差範囲で一致している。このことから、特性インピーダンスの計測を利用することで、約10m先の位置まで、傷の形成を検出し、さらに約20cmの分解能で、その傷の形成位置を特定できることが、確認される。ただし、aからkへと、外傷の形成位置が基端から離れるにつれ、ピークの高さが小さくなるとともに、ピークの幅が広くなっている。つまり、外傷の形成位置が基端から遠いほど、その検出感度と、位置の特定における分解能が低下する傾向にある。
[1-2]分岐を有する電線での外傷検知
次に、分岐を有する電線において、特性インピーダンスの計測を利用した外傷の検知を行えるかを、確認した。
(試料の準備)
芯線として、図9に示すような分岐構造を有する電線を準備した。ここでは、本線14の中途部に設けた3つの分岐部13A~13Cから、それぞれ枝線15A~15Cが分岐している。この芯線10’の本線14および枝線15A~15Cの各部に、導電テープを粗い螺旋状に巻き付け、試料電線とした。本線14および枝線15A~15Cのそれぞれに巻き付けた導電テープは、相互に電気的に接触させておいた。用いた導電テープの種類、螺旋のピッチ、導電テープと間隙との幅の比率は、上記試験[1-1]と同じとした。この試料電線の本線および各枝線の所定の位置に、導電テープを破断させた模擬的な外傷を形成した。
(外傷の検知)
上記試験[1-1]と同様に、MCTDR法による特性インピーダンスの計測を行った。
(結果)
図14Aに、外傷を形成していない場合について、計測結果を示す。一方、図14Bに、基端に最も近い分岐部13Aから延びている枝線15Aに外傷を形成した場合の計測結果を示す。分岐部13Aを挟んで、基端1Aから外傷形成箇所までの距離は、4.0mであった。
図14Aの外傷がない状態と、図14Bの外傷を形成した場合を見比べると、両者で、非常によく似たパターンの計測結果が得られている。図14Bに星印で表示した外傷形成箇所の近傍に、図14Aでは存在しない上向きのピークが見られており、このピークを、外傷の形成による特性インピーダンスの変化に対応づけることができる。しかし、このピーク以外にも、同程度、あるいはそれよりも大きな上下両方向のピーク構造が、多数出現しており、外傷の形成に対応するピークを、その他のピーク構造から明瞭に識別し、外傷の形成を同定することは、困難である。
図14Cに、図14Aと図14Bの計測結果の差分を示す。この差分は、図14Bの外傷形成後の特性インピーダンス値から、図14Aの外傷形成前の特性インピーダンス値を減算して得られたものである。図14Cの差分表示によると、図14Aや図14Bの計測結果において、短距離側の領域で目立っていたピーク構造が、消失している。一方で、星印で表示した外傷の形成位置には、上向きのピークが明瞭に残っている。
このように、特性インピーダンスの計測結果に対して、外傷形成前後の差分を取ることで、外傷形成に由来する特性インピーダンスの変化を明確に認識し、外傷に対応付けることができる。結果の図示は省略するが、基端側から2つ目の分岐部13Bから延出する枝線15Bに外傷を形成した場合についても、上記と同様に差分を利用することで、特性インピーダンスの変化に基づいて外傷を検出することができた。これらの結果から、芯線に分岐が存在する場合でも、芯線を構成する導体と導電テープの間の特性インピーダンスを計測することで、外傷を検知することができ、特に、外傷が形成されていない状態との差分を利用することで、外傷を高感度に検知できることが確認される。なお、基端側から3つ目の分岐部13Cを超えると、基端からの距離が大きすぎることにより、本線側と枝線側のいずれに外傷を設けた場合でも、外傷に対応する特性インピーダンスの変化を明確に検出することは困難であった。
[2]積層テープ巻き電線について
最後に、積層テープ巻き電線についても、損傷の検知が行えるかを確認した。
(試料の準備)
積層テープとして、絶縁性の不織布をテープ状に裁断し、厚さ0.1mm、幅8mmの銅テープで挟み込んだ。不織布テープと銅テープの間は、接着層によって接着した。この積層テープを、ワイヤーハーネスを模擬した樹脂ホース(外径10mm;長さ7m)の外周に、螺旋状に巻き付けた。積層テープは、樹脂ホースに対して、接着テープによって固定した。巻き付けに際し、螺旋のピッチは、約25mmとした。積層テープの幅と、積層テープに占められない間隙の幅との比率は、ほぼ1:1とした。
上記試料において、2種の模擬的な外傷を形成した。1種目の外傷としては、積層テープを構成する2層の銅テープのうち、外側の銅テープの層を、1か所で破断させた。破断の形成位置は、試料の基端から4.5mとした。2種目の外傷としては、積層テープに金属製のピンを1本貫通させて、2層の銅テープの間を電気的に短絡させた。短絡の形成位置は、試料の基端から5mとした。
(外傷の検知)
上記で準備した試料の基端において、積層テープを構成する2層の銅テープの間で、反射係数ρを計測した。計測は、MCTDR法によって行った。測定中、2層の銅テープの電位は、フロート状態に保った。なお、2層の銅テープ間の特性インピーダンスを、損傷のない箇所でZ、損傷が生じている箇所でZとすると、反射係数ρは、下の式(1)で表される。
ρ=(Z-Z)/(Z+Z) (1)
つまり、損傷箇所で特性インピーダンスが上昇すると、反射係数も上昇し、損傷箇所で特性インピーダンスが低下すると、反射係数も低下することになる。そこで、この試験においては、反射係数を、特性インピーダンスに代わる特性として、計測している。
(結果)
まず、外傷として銅テープに破断を形成した場合の結果について確認する。図15Aに破断形成前の正常時、図15Bに破断を形成した後の状態について、反射係数の計測結果を示す。なお、図15A~16Cでは、時間軸を基端からの距離(単位:m)に変換したものを横軸に、反射係数ρを縦軸にとっている。図15Bの破断形成後の計測結果を見ると、距離ゼロの近傍に、機器接続部に由来する大きな変動が見られるのに加え、距離4.5mの近傍に、図15Aの正常時の計測結果には見られない正方向のピークが生じている。図15Cに、破断形成後の反射係数の値から破断形成前の反射係数の値を減じた差分を示すが、差分において、その正方向のピーク構造が、一層明瞭になっている。
次に、外傷として銅テープに短絡を形成した場合の結果について確認する。図16Aに短絡形成前の正常時、図16Bに短絡を形成した後の状態について、反射係数の計測結果を示す。図16Bの短絡形成後の計測結果において、距離5mの近傍に、図16Aの正常時の計測結果には見られない負方向のピークが生じている。図16Cに、短絡形成後の反射係数の値から短絡形成前の反射係数の値を減じた差分を示すが、差分において、その負方向のピーク構造が、一層明瞭になっている。
このように、積層テープを巻き付けた試料において、外傷として銅テープに破断を形成した場合にも、短絡を形成した場合にも、反射係数の計測を行い、正常時の計測結果と比較することで、それらの損傷を検知することができる。損傷の位置も特定することができる。さらに、損傷として破断が形成される場合と、短絡が形成される場合とで、反射係数の変化の方向が逆になっており、変化の方向から、損傷の種類を推定できることが示される。銅テープに破断が生じた場合には、式(1)でZが無限大に発散することになり、反射係数ρが上昇する挙動が説明できる。一方、銅テープに短絡が生じた場合には、式(1)でZがゼロとなり、反射係数ρが低下する挙動が説明できる。
以上、本開示の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。また、上記で説明した導電テープ巻き電線および積層テープ巻き電線は、本開示の実施形態にかかる電線検査システムおよび電線検査方法による検査の対象となる場合以外にも、適用することができ、損傷の検出および位置の特定を簡素な構成で行うという課題を達成できるものとなる。
1 導電テープ巻き電線
1A 電線の基端
10,10’ 芯線
11 導体
12 絶縁被覆
13A~13C 分岐部
14 本線
15A~15C 枝線
20 導電テープ
25 間隙
3 積層テープ巻き電線
30 ワイヤーハーネス
31 芯線
40 積層テープ
41 基材
42 被覆層
43 接着テープ
9 計測装置
100 電線
120 導電性層
A 電線検査システム
A1 記憶部
A2 検査部
A3 解析部
C 電線
Cp1~Cp6 電線C上の点
C1~C3 電線
C2a 検査時の電線C2の応答信号
C2b 初期状態の電線C2の応答信号
D 外傷
D1 導電テープの損傷
P ピーク
R 変化領域
S1~S4 電線検査方法の各ステップ

Claims (5)

  1. 電線の損傷状態を検査するための電線検査システムであって、
    前記電線は、
    導体と、絶縁被覆と、を有する芯線と、
    前記芯線の構成部材と、前記芯線に沿って配置された前記芯線以外の部材と、の少なくとも一方より構成される損傷検知部と、を有し、
    前記損傷検知部は、相互に電気的に絶縁された2つの導電性部材を有し、検査信号として交流成分を含んだ電気信号を入力して、応答信号として、前記2つの導電性部材の間の特性インピーダンスを、時間領域反射法または周波数領域反射法によって測定する電線検査を行った際に、前記電線の損傷状態によって、前記応答信号が変化し、
    前記電線検査システムは、
    第一の時点において、複数の前記電線を含む電線群に対して、前記電線検査によって得られる前記応答信号を、個体ごとに記憶する記憶部と、
    前記第一の時点よりも後の第二の時点において、前記電線群の中から選択される対象電線に対して、前記電線検査を行う検査部と、
    前記対象電線に対して、前記第一の時点における前記応答信号を、前記記憶部から呼び出して、前記第二の時点で前記検査部によって取得した前記応答信号と比較し、該2つの応答信号に差が存在する場合に、前記対象電線に損傷が存在すると判定する解析部と、を有し、
    前記解析部は、前記第一の時点における前記応答信号と、前記第二の時点における前記応答信号との間に、前記応答信号上で差が生じている領域を、前記電線の軸線方向に沿った位置に対応づけ、その位置に損傷が発生していると判定する、電線検査システム。
  2. 前記検査信号は、連続した周波数範囲にわたる成分を、周波数ごとに独立した強度で重畳したものであり、前記周波数範囲の中に、一部の周波数の成分が欠損しているか、周囲の周波数と比較して強度が不連続に小さくなった除外周波数を含んでおり、
    前記電線検査においては、前記応答信号として、前記2つの導電性部材の間の特性インピーダンスを、時間領域反射法によって測定する、請求項1に記載の電線検査システム。
  3. 前記検査信号において、前記除外周波数は、前記対象電線の外部の発生源に由来し、前記対象電線の周囲を伝搬する電磁波の周波数を含んでいる、請求項2に記載の電線検査システム。
  4. 電線の損傷状態を検査するための電線検査システムであって、
    前記電線は、
    導体と、絶縁被覆と、を有する芯線と、
    前記芯線の外周に、螺旋状に巻き付けられた導電テープと、を有し、
    前記導電テープのターン間に、前記導電テープに占められない間隙を有しており、
    前記芯線の前記導体と、前記導電テープとから、損傷検知部が構成され、
    前記損傷検知部は、検査信号として交流成分を含んだ電気信号を入力して、応答信号として、前記導体と前記導電テープとの間の特性インピーダンスを計測する電線検査を行った際に、前記電線の損傷状態によって、前記応答信号が変化し、
    前記電線検査システムは、
    第一の時点において、複数の前記電線を含む電線群に対して、前記電線検査によって得られる前記応答信号を、個体ごとに記憶する記憶部と、
    前記第一の時点よりも後の第二の時点において、前記電線群の中から選択される対象電線に対して、前記電線検査を行う検査部と、
    前記対象電線に対して、前記第一の時点における前記応答信号を、前記記憶部から呼び出して、前記第二の時点で前記検査部によって取得した前記応答信号と比較し、該2つの応答信号に差が存在する場合に、前記対象電線に損傷が存在すると判定する解析部と、を有する、電線検査システム。
  5. 前記芯線は、前記導体の外周に前記絶縁被覆を設けた絶縁電線を1本のみ含んだ単線構造を有している、請求項4に記載の電線検査システム。
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