JP2022072071A - 表皮基底ニッチ保護剤、表皮基底ニッチ保護用医薬組成物および表皮基底ニッチ保護用化粧料 - Google Patents

表皮基底ニッチ保護剤、表皮基底ニッチ保護用医薬組成物および表皮基底ニッチ保護用化粧料 Download PDF

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純 佐々木
Jun Sasaki
知性 下野
Chisei Shimono
啓友 田中
Hirotomo Tanaka
俊治 服部
Toshiharu Hattori
一乘 水野
Kazunori Mizuno
▲隆▼男 伊藤
Takao Ito
剛一 松田
Koichi Matsuda
絵巳 溝呂木
Emi Mizorogi
真男 沢田
Masao Sawada
卓司 山本
Takuji Yamamoto
清俊 関口
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Abstract

【課題】ラミニンフラグメントを含む表皮基底ニッチ保護剤、表皮基底ニッチ保護用医薬組成物、表皮基底ニッチ保護用化粧料を提供する。【解決手段】インテグリン結合部位を含むラミニンフラグメント、またはその誘導体を有効成分として含有する。ラミニンフラグメントとして例えばラミニン511のE8フラグメントを好適に使用することができる。E8フラグメントは皮膚浸透性を有して表皮基底ニッチを保護し、UV照射による皮膚ダメージの際にも表皮幹細胞数を増加させ、表皮細胞の未分化状態を維持することができ、ダメージ皮膚の代謝維持回復を誘導する。【選択図】なし

Description

特許法第30条第2項適用申請有り 刊行物:日本動物実験代替法学会第32回大会プログラム・講演要旨集、発行日:令和1年10月31日(添付資料1:日本動物実験代替法学会第32回大会プログラム・講演要旨集の表紙、第29、36、及び146頁、並びに奥付の写し) 集会名:日本動物実験代替法学会第32回大会、開催日:令和1年11月20日~22日(添付資料1) 刊行物:第52回日本結合組織学会学術大会プログラム・抄録集、発行日:令和2年9月9日(添付資料2:第52回日本結合組織学会学術大会プログラム・抄録集の表紙、第18~20、及び120頁、並びに奥付の写し) 集会名:第52回日本結合組織学会学術大会、開催日:令和2年9月19日~20日(添付資料2) ウェブサイトのアドレス:http://ifscc2020.com/virtual_congress.html、ウェブサイトの掲載日:令和2年10月14日(添付資料3:第31回国際化粧品技術者会連盟横浜大会2020のウェブサイト及び公開論文の写し) 集会名:第31回国際化粧品技術者会連盟横浜大会2020、開催日:令和2年10月21日~30日(添付資料3)
本発明は、インテグリン結合部位を含むラミニンフラグメント等を有効成分として含有する表皮基底ニッチ保護剤、表皮基底ニッチ保護用医薬組成物および表皮基底ニッチ保護用化粧料に関する。
ヒトの皮膚は表皮と真皮から構成され、表皮と真皮の接合部には、表皮基底膜が存在する。表皮基底膜は、結合組織の線維と基質の特別な集合組織で、細胞外マトリックスタンパク質がシート状に配列した構造物である。表皮は、成熟段階によって異なる形態の角化細胞が層状に配列した多層であり、深部から基底層、有棘層、顆粒層、角層と称呼される。表皮幹細胞は基底層に表皮基底細胞と混在して表皮基底膜に接して分布している。生体内において、基底膜とその近傍細胞、基底膜近傍の細胞外マトリックスは、相互作用しながら、表皮幹細胞の性質を維持するために必要な細胞周囲微細環境を形成している(表皮基底ニッチと呼称)。表皮基底膜は、力学的強度の確保、細胞の分化形質の発現や維持に影響を与える。例えば、前記基底細胞が表皮基底膜に結合しているというシグナルによって基底細胞として増殖する形質を維持することができ、基底細胞が表皮基底膜から脱着することは基底細胞の分化誘導シグナルの一つとなる。表皮基底膜およびその直下の結合組織は、加齢とともに構造変化が起こる。皮膚が紫外線照射等により傷害を受けると、光老化が促進されるだけでなく、日々の表皮のターンオーバーに乱れが生じ、肌あれ等が引き起こされる。このように、皮膚表皮基底細胞が規則正しく表皮基底膜に結合し、細胞と細胞周囲微細環境の相互作用からなる、基底膜近傍の細胞環境(表皮基底ニッチ)が安定充分に維持されていることが、正常な皮膚機能の発現に不可欠である。
ラミニンは、表皮基底膜細胞外マトリックスの主要構成成分である。非特許文献1には、ラミニンが表皮基底膜形成促進活性を有し、培養液に精製ラミニンを添加すると表皮基底膜形成が促進され、表皮基底細胞直下に電子顕微鏡にて観察される電子密度の高い表皮基底膜構造がより頻度高く観察されたと報告している(非特許文献1)。
ラミニン511は、細胞表面のインテグリンα6β1と結合し、発生期の表皮基底膜成分として、未分化細胞の生存に大きく関わることが知られる。また、皮膚において、ラミニン511は、表皮と真皮の境界に存在する表皮幹細胞の恒常性維持に関わる可能性も示唆されている。表皮基底幹細胞マーカーであるMCSP(Melanoma-associated chondroitin sulfate proteoglycan)抗体を用いて表皮基底細胞を可視化したところ、MCSP陽性表皮基底幹細胞数と表皮基底膜付近に存在するラミニン511の発現量とが相関するとの報告もある(特許文献1)。特許文献1の図4は、ヒト皮膚組織培養によりラミニン511が減少するが、MMP阻害剤(N-hydroxy-2(R)-[[(4-methoxy- phenyl)sulfonyl](3-picolyl)amino]-3-methylbutanamide hydrochloride)及びヘパラナーゼ阻害剤を添加するとラミニン511が増強されることを示している。候補薬剤を含む培養培地中で表皮細胞を培養し、表皮細胞におけるラミニン511の発現量を測定して対照のラミニン511発現量と比較すれば、候補薬剤がラミニン511発現促進効果を有するかを判定できるという。特許文献1の実施例6では、1-(2-ヒドロキシエチル)-2-イミダゾリジノン(HEI)を含む培地でヒト腹部の皮膚サンプルを5日間培養したところ、HEI非投与の対照ではラミニン511量およびMCSP陽性細胞数が減少したが、HEI投与系ではラミニン511量および表皮基底膜上のMCSP陽性細胞数が維持されたという。
ここにラミニンは、図10Aに示すようにα、β、γ鎖がコイルドコイル領域で会合した十字架状の分子であり、各鎖に数種が存在するため、5種のα鎖(LAMA1~5)、4種のβ鎖(LAMB1~4)、3種のγ鎖(LAMC1~3)を組み合わせて称呼され、ラミニン511はラミニンα5β1γ1を意味する。ラミニンのリガンドとしてインテグリンがあり、膜を貫通した細胞外領域の頭部側にリガンド認識スポットを形成している。このリガンド認識スポットにラミニンが結合することで基底細胞が表皮基底膜に接着し、インテグリンとの結合を通じて生存・増殖を促すシグナルが細胞に伝達される。
ヒトラミニンα5β1γ1のインテグリン結合領域として、E8フラグメントが知られている。細胞がラミニン511を認識する主な受容体は、α6β1インテグリンであり、α6β1インテグリンがラミニン511を認識するためには、ラミニンα5鎖にある球状ドメインと、ラミニンγ1鎖のカルボキシル末端側にあるグルタミン酸が重要な部位となる。E8フラグメントは断片でありながらそれらの重要な部位をもつため、ラミニン511の全長分子と同様、α6β1インテグリンとの結合能を持ち、細胞に様々なシグナルを伝える機能を有している。また、E8フラグメントは、ES/iPS細胞の培養で細胞の未分化状態の維持や増殖の誘導が報告されている(非特許文献2)。この事実を応用し、E8フラグメントを使用したヒト多能性幹細胞培養用培養基材がある(特許文献2)。E8フラグメントをコーディングした培養基材によれば、フィーダーフリー(Feeder-Free)条件を満たす培養環境で、分化多能性を保持したままヒト多能性幹細胞を維持培養することができる。iPS細胞やES細胞の培養へのE8フラグメントの有効性は既報である(非特許文献3)。
また、ラミニンやそのフラグメントは多能性幹細胞の分化制御にも使用されている。例えば、ラミニンまたはそのフラグメントの存在下に多能性幹細胞を分化誘導することを特徴とする、多能性幹細胞の分化制御方法がある(特許文献3)。分化誘導時に存在させるラミニンの種類を変更することで、得られる細胞集団における分化細胞の比率を制御できるという。実施例ではラミニン111のE8フラグメントをコーティングした培養容器にヒトiPS細胞株(201B7)を播種し、分化培地、角膜上皮維持培地で培養して分化誘導している。
国際公開第2018/074606号 特開2011-78370号公報 国際公開第2018/143312号
天野聡、「初期老化の兆候としての表皮基底膜ダメージと表皮基底膜ケアのキー物質としてのラミニン5*」、J. Soc. Cosmet. Chem. Japan. Vol. 35, No. 1 2001) Taniguchi Y, Ido H, Sanzen N, Hayashi M, Sato-Nishiuchi R, Futaki S, Sekiguchi K."The C-terminal region of laminin beta chains modulates the integrin binding affinities of laminins" J. Biol Chem. 284, 7820-7831 (2009) Miyazaki T, Futaki S, Suemori H, Taniguchi Y, Yamada M, Kawasaki M, Hayashi M, Kumagai H, Nakatsuji N, Sekiguchi K, Kawase E. "Laminin E8 fragments support efficient adhesion and expansion of dissociated human pluripotent stem cells" Nat Commun. 3, 1236 (2012)
外界からのストレス、例えば露光による表皮基底膜構造の断裂や多重化などのダメージは、加齢とともに蓄積され、長期的な表皮基底膜のダメージにより真皮の構造異常が蓄積され、しわやたるみが誘導される。前記特許文献1では、ラミニン511産生促進効果のある薬剤をスクリーニングし、海藻エキス(アルジェレックス)にはヘパラナーゼ遺伝子の発現を有意に低減させる等の効果があると記載する。しかしながら、海藻エキス以外にも皮膚組織を正常に維持し、特に紫外線等によるダメージを受けた場合にも、表皮幹細胞数の減少を抑制し、表皮細胞の未分化を維持し皮膚再生機能を発揮しうる、表皮基底ニッチ保護剤の開発が望まれる。
上記現状に鑑み、本発明は、表皮幹細胞の減少を抑制し皮膚機能を維持・改善しうる表皮基底ニッチ保護剤、表皮基底ニッチ保護用医薬組成物および表皮基底ニッチ保護用化粧料を提供することを課題とする。
本発明者らは、インテグリン結合部位を含むラミニンフラグメントをUV照射した皮膚表面に塗布したところ、表皮から内部に浸透して表皮幹細胞数の減少を抑制しまたは増加させること、未分化細胞を老化条件で培養しても未分化能を維持すること、これにより皮膚弾力性を確保し、皮膚異方性を抑制しうることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち本発明は、インテグリン結合部位を含むラミニンフラグメント、またはその誘導体を有効成分として含有する、表皮基底ニッチ保護剤を提供するものである。
また、前記ラミニンフラグメントが、ラミニン511のE8フラグメント、ラミニン521のE8フラグメント、ラミニン332のE8フラグメント、ラミニン311のE8フラグメント、ラミニン411のE8フラグメントのいずれかであることを特徴とする、上記表皮基底ニッチ保護剤を提供するものである。
また、前記誘導体が、α鎖、β鎖、γ鎖のいずれかに、炭素数1~10の置換基を有していてもよいアルキル基、炭素数1~10の置換基を有していてもよいエステル、エーテル、または細胞外マトリックス成分のフラグメントが結合したものである、上記表皮基底ニッチ保護剤を提供するものである。
更に本発明は、上記表皮基底ニッチ保護剤を含有する、表皮基底ニッチ保護用医薬組成物を提供するものである。
また本発明は、上記表皮基底ニッチ保護剤を含有する、表皮基底ニッチ保護用化粧料を提供するものである。
本発明によれば、インテグリン結合部位を含むラミニンフラグメント、またはその誘導体を有効成分として含む表皮基底ニッチ保護剤が提供される。
実施例1の結果を示す図である。Aは、実施例1の実験手順を説明する図であり、Bは、UVB照射後の腹部皮膚サンプル表面にラミニン511E8フラグメント(LN511E8またはLN)を添加し、器官培養した皮膚組織の経時的表面状態を示す図である。 図2は、実施例2の結果を示す図である。Aは、UVB照射後の腹部皮膚表面にラミニン511E8フラグメント(LN)を塗布と未塗布で培養した培養サンプルの断面の顕微鏡図である。Bは、ラミニン511 E8フラグメント(LN-511E8)の添加有無による表皮層の厚さを統計的に分析した結果を示す図である。 図3は、実施例3の結果を示す図である。Aは、腹部皮膚表面にRPE標識済のラミニン511E8フラグメント(プレラベルLN-511E8)を添加、腹部皮膚を器官培養した後、固定切片化したものを表皮幹細胞マーカーで染色した図(断面図)であり、Bは、ラミニン511E8フラグメント(LN)添加の有無で表皮幹細胞マーカーの経時的変化を統計的に分析した結果を示す図である。 図4は、実施例4の結果を示す図である。UVB未照射のまぶた皮膚サンプル表面に対し、RPE標識ラミニン511E8フラグメント(LN-511E8)を添加、およびRPE標識ラミニン511 E8フラグメント(LN-511E8)無添加でまぶた皮膚器官培養し、表皮幹細胞マーカーで染色したサンプルの断面図である。 図5は、実施例5の結果を示す図である。Aは、腹部皮膚表面にラミニン511E8フラグメント(LN511E8)を添加、腹部皮膚を器官培養後、固定切片化したサンプルを、表皮基底膜をIV型コラーゲン抗体で染色観察した図であり、Bは、同切片サンプルを表皮幹細胞マーカーで染色観察した図である。 図6は、実施例6の結果を示す図である。RPE標識Laminin-511(Pre-label laminin511)(800kDa)とラミニン511E8フラグメント(Pre-label laminin511E8)(150kDa)の表皮浸透を観察した組織断面図である。 図7は、実施例7の結果を示す図である。未分化細胞であるHPEKp細胞を老化培地で培養した際のラミニン511E8フラグメント(LN511E8)添加または未添加の未分化表皮細胞マーカー数を統計的に分析した結果を示す図である。 図8は、ラミニン511E8フラグメント(ラミニンE8)添加または未添加の実施例8の結果を示す図である。 図9は、実施例9の結果を示す、ヒト試験の結果を示す図であり、ラミニン511E8フラグメント(LN-511E8)添加または未添加(placebo)の結果を示す図である。 Aは、細胞表面のラミニン受容体であるインテグリンと、インテグリンに結合するラミニンを説明する図であり、Bは、ラミニンのインテグリン結合部位を説明する図である。
本発明の第1は、インテグリン結合部位を含むラミニンフラグメント、またはその誘導体を有効成分として含有する、表皮基底ニッチ保護剤である。
ヒト表皮基底膜は表皮と真皮の接合部にシート状に存在し、表皮基底膜上に基底細胞が配列して真皮・表皮結合部を形成している。紫外線、老化、その他のストレスにより基底層を構成する基底細胞と表皮基底膜が害されると、基底細胞に存在する表皮未分化幹細胞の維持が不全となり、表皮基底膜構造の断裂や表皮細胞層の代謝不全が発生する。本開示における「表皮基底ニッチ」とは、表皮幹細胞を含む、細胞と細胞周囲の微小環境を意味する。
本開示の表皮基底ニッチ保護剤は、インテグリン結合部位を含むラミニンフラグメントまたはその誘導体を有効成分とすることを特徴とする。従来から、ラミニンが細胞表面受容体のインテグリンと相互作用し、上皮細胞の機能維持や増殖・分化誘導の制御に寄与することは公知であった。しかしながら、後記する実施例に示すように、800kDaのラミニン511を表皮に投与しても表皮基底層に浸透することはできなかった。これに対し150kDaのインテグリン結合部位を含むラミニンフラグメントは、表皮から内部に浸透し、表皮基底層に到達し、表皮幹細胞の増殖、老化条件での未分化能の維持に寄与することが判明した。なお、上記特許文献1は、薬剤を投与してラミニン511発現促進効果を測定するものであり、ラミニン511を投与するものではない。また、特許文献2に示すように、インテグリン結合部位を含むラミニンフラグメントとして、ヒトラミニン511のE8フラグメントは公知であるが、培養容器にコーティングして使用するものであり、生体組織に直接使用する例は存在しなかった。
ラミニン511は、図10Aに示すように、α5鎖、β1鎖、γ1鎖がコイルドコイル領域で会合した十字架状の分子であり、α5鎖C末端側に3つの球状ドメイン(LG1-3)と2つの球状ドメイン(LG4-5)とを含み、前記3つの球状ドメイン(LG1-3)がインテグリン結合部位として機能し、三つ葉状に会合してその底面側でインテグリンと結合すると考えられている。
本開示で使用できるインテグリン結合部位を含むラミニンフラグメントとしては、インテグリン結合能を有するラミニンのフラグメントであればよく、動物由来に限定されず、遺伝子組み換え等で調製したものであってもよい。従来からインテグリン結合部位を含むラミニンフラグメントとして、マウスラミニン111をエラスターゼで消化して得られた、ヘテロ三量体を形成しているE8フラグメントがある(Edgar D et al.,J.Cell Biol.,105:589-598,1987)。
図10Bに示すように、ラミニン511E8フラグメントは、球状ドメイン1-3が結合したα5鎖のC末端、β1鎖のC末端およびγ1鎖のC末端で構成される三量体である。球状ドメイン1-3がインテグリン結合部位に相当する。本開示においては、便宜のため、ラミニンの種類にかかわらず、ラミニンのα鎖C末端、β鎖C末端、およびγ鎖C末端の三量体で構成される、インテグリン結合部位を含むフラグメントを「E8フラグメント」と称する。ラミニンアイソフォームを特定する場合には、E8フラグメントの前にラミニンアイソフォームを記載する。例えばラミニン332のE8フラグメントは、ラミニン332E8フラグメントとする。また、C末端に球状ドメイン1-3を含むα鎖のC末端フラグメントを「α鎖E8」と称し、β鎖のC末端フラグメントを「β鎖E8」と称し、およびγ鎖のC末端フラグメントを「γ鎖E8」と称する。
ラミニンは、ラミニンアイソフォームごとに異なるインテグリン結合特異性を示し、対応するインテグリンを発現する細胞に対する強い接着活性を発揮することができる。本開示において、E8フラグメントとしては、α6β1インテグリン、α6β4インテグリン、α7β1インテグリン、α3β1インテグリンに結合しうるものを好ましく使用することができる。このようなインテグリンに対する結合能を有する点で、E8フラグメントとしては、ラミニン511、521、411、421、332、311、321、211、221、213、111、121のE8フラグメントなどを使用することが好ましい。なお、本開示において「ラミニンアイソフォーム」は、特に記載のない限り、ヒトのラミニンの名称とする。ただし、E8フラグメントは、ヒトラミニンアイソフォームと実質的に同等の作用を奏することを前提に、ヒト以外の動物のアイソフォームのE8フラグメントであってもよい。
本開示で使用するE8フラグメントは、好ましくはヒト、マウス、ラット、ウシ、ブタ等の哺乳類由来のものを、エラスターゼ、その他の酵素で消化して製造することができる。また、公知の遺伝子組換え技術を適宜用いることにより製造してもよい。ラミニン511E8フラグメントの製造方法としては、例えば、ヒトラミニン511のα鎖、β鎖およびγ鎖の各タンパク質をコードするDNAをそれぞれ取得して所定の長さに切りだし、これをそれぞれ発現ベクターに挿入し、得られた3種類の発現ベクターを適切な宿主細胞に共導入して発現させ、3量体を形成しているタンパク質を公知の方法で精製することにより製造できる。E8フラグメントの製造方法としては、例えば井戸ら(Hiroyuki Ido et al., The Journal of Biological Chemistry, 282, 11144-11154, 2007)の方法が挙げられるが、これに限定されない。本開示において、E8フラグメントはその生物学的活性を維持したまま、1個またはそれ以上のアミノ酸残基が修飾された修飾型であってもよい。なお、主要な哺乳動物のラミニンを構成するα鎖、β鎖、γ鎖をコードする遺伝子の塩基配列情報および各鎖のアミノ酸配列情報は、公知のデータベース(GenBank等)から取得することができる。
本開示で使用するE8フラグメントの分子量に限定はないが、100~600kDa、好ましくは120~400kDa、より好ましくは120~300kDaである。分子量の調整は、ラミニンのα鎖、β鎖およびγ鎖の各タンパク質をコードするDNAを所定の長さに切りだして所望の分子量となるようにα鎖E8、β鎖E8、γ鎖E8をコードするDNAを調製し、これを遺伝子組み換えによりE8フラグメントを製造することで達成できる。ラミニン511は約800kDaであるが、後記する実施例に示すように、ラミニン511を表皮に投与しても表皮基底層に浸透することはできなかった。これに対し150kDaのラミニン511E8フラグメントは、表皮から内部に浸透し、表皮基底層に到達し、基底幹細胞などに作用することができた。
なお、E8フラグメントとして、株式会社ニッピ社製の「iMatrix-511」(150kDa)、「iMatrix-511MG」(150kDa)、「iMatrix-511 silk」(150kDa)、「iMatrix-411」(150kDa)、「iMatrix-221」(150kDa)などがある。
本開示で使用するE8フラグメントは、E8フラグメントの誘導体であってもよい。例えば、E8フラグメントに親油性基を導入することで組織親和性を向上させ、表皮基底膜近傍への浸透を促進することができる。また、表皮基底ニッチとの親和性を高めることができる。
親油性誘導体としては、炭素数1~10の置換基を有していてもよいアルキル基、炭素数1~10の置換基を有していてもよいエステル、エーテルがある。置換基としては、炭酸エステル、アミド、チオエーテル、チオエステル、有機酸、オキシム及びイミンなどを例示することができる。E8フラグメントを構成するα鎖E8領域、β鎖E8領域、またはγ鎖E8領域を構成するアミノ酸に、共有結合、エーテル結合、チオエーテル結合、エステル結合、チオエステル結合、炭酸結合、カルバミン酸結合、リン酸結合、及びオキシム結合で結合したもの例示することができる。
また、E8フラグメントの誘導体としては、細胞外マトリックス成分のフラグメントが結合した誘導タンパク質であってもよい。このような細胞外マトリックス成分のフラグメントとしては、コラーゲンの機能性ドメイン、BMP2(Bone Morphogenetic Protein-2)の機能性ドメイン、BMP4(Bone Morphogenetic Protein-4)の機能性ドメイン、bFGF(basic Fibroblast Growth Factor)の機能性ドメイン、ニドゲンの機能性ドメイン、パールカンのGAGドメインなどがある。細胞外マトリックスの機能性ドメインをE8フラグメントに付加した融合蛋白質もE8フラグメントの誘導体として使用することができる。なお、これらは公知の遺伝子工学によって製造することができる。
本開示の表皮基底ニッチ保護剤は、上記E8フラグメントやその誘導体を有効成分として含有する。その他、表皮基底膜近傍の構成成分として、例えば、IV型コラーゲン、V型コラーゲン、VI型コラーゲン、VII型コラーゲン、XII型コラーゲン、XIV型コラーゲン、XVII型コラーゲン、XVIII型コラーゲン、BMP2、BMP4、bFGF、パールカン、ニドゲンなどを、本開示の表皮基底ニッチ保護剤の効果を損なわない範囲で配合することができる。
更に、添加成分として、通常製剤化に用いられている賦形剤、pH調整剤、着色剤、矯味剤等の成分を用いることができる。また、適用方法に応じて、適宜所望の剤形に製剤化することができる。例えば、液剤、噴霧剤、軟膏剤、貼付剤等に、製剤化することができる。本開示の表皮基底ニッチ保護剤の投与量は、剤型、用法、患者の年齢、性別、疾患の程度、その他の条件等に応じて適宜設定することができる。
本開示の表皮基底ニッチ保護剤は、後記する実施例に示すように、UV照射による損傷を受けた皮膚において、表皮基底ニッチを保護することでダメージを受けた表皮幹細胞を回復させ、表皮基底膜近傍の細胞周囲微細環境を修復し、表皮細胞層の代謝を回復して皮膚の表皮層の菲薄化を抑制し、角質層の黒ずみを回復することができる。皮膚は、日光によってもUVによるダメージを受けるが、本開示の表皮基底ニッチ保護剤は日光被ばくによる表皮幹細胞ダメージの回復を通じて表皮基底膜の回復、表皮層の菲薄化阻止、皮膚バリア機能の回復、を発揮することができる。表皮幹細胞に対する表皮基底ニッチ保護剤の効果は細胞培養実験において、細胞老化に対抗して幹細胞の未分化性能を維持する効果があることが判明している。
作用機序の詳細は不明であるが、E8フラグメントは、表皮から表皮基底膜に浸透し、UV照射や老化などのダメージのある環境下で劣化、減少した表皮幹細胞を回復、増加させる。表皮幹細胞は角化細胞に分化増殖して順次、基底層、有棘層、顆粒層、角層を形成するため、表皮幹細胞の回復はUVダメージ環境下での表皮菲薄化を抑制すると推定される。また、同時に老化などのダメージ環境下で未分化細胞の未分化能を維持しうることも、表皮菲薄化を抑制していると推定される。この様に、E8フラグメントが表皮幹細胞に及ぼす効果は表皮細胞群の代謝活性化と回復を生むと推察され、紫外線等の皮膚刺激に起因した皮膚ダメージの予防と回復に繋がる。更に、UVダメージ由来のプロテアーゼ活性化により崩壊した表皮基底膜においても、幹細胞由来の表皮基底細胞が分泌する表皮基底膜構成タンパク質の供給が回復、表皮基底膜の修復がおこる。これらの結果、ヒト皮膚に投与すると皮膚の弾力性の低下を抑制し、キメを細かく均一に保つことができる。
よって、本開示の表皮基底ニッチ保護剤は、表皮幹細胞数増加剤、表皮基底ニッチ安定化剤、皮膚老化防止剤、皮膚再生促進剤等として使用することができる。
本開示の第2は、上記表皮基底ニッチ保護剤を含有する、表皮基底ニッチ保護用医薬組成物である。上記したように、本開示の表皮基底ニッチ保護剤は、紫外線等による皮膚への刺激に起因した皮膚のダメージを予防し、皮膚組織の表皮幹細胞数を増加させ、表皮層の菲薄化を抑制して皮膚バリアの維持機能を発揮することができる。このため、上記表皮基底ニッチ保護剤を含有することで、医薬組成物を調製することができる。
本開示の表皮基底ニッチ保護用医薬組成物は、経皮、筋肉内、静脈内など、任意の経路で投与することができるが、皮膚に直接作用される観点からは、経皮投与で投与することが好ましい。経皮投与で投与するための、皮膚外用剤、皮膚パッチなどに剤形されることが好ましい。特に皮膚外用剤に配合することができる。これらの医薬組成物には、例えば亜硫酸水素ナトリウム、アスコルビン酸、トコフェロール、ジブチルヒドロキシトルエン、エデト酸ナトリウム水和物、ベンゾトリアゾールなどの酸化防止剤、モノステアリン酸グリセリン、モノステアリン酸ソルビタン、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、ポリソルベート60などの界面活性剤、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸プロピル、フェノキシエタノール、チモールなどの保存剤、クエン酸水和物、クエン酸ナトリウム水和物、乳酸、ジイソプロパノールアミン、酢酸、酢酸ナトリウム水和物などのpH調整剤、増粘剤、アルコール類、着色剤、香料、水、溶媒、油性成分、紫外線吸収剤、ゲル化剤、保湿剤、美白剤、細胞賦活剤、各種皮膚栄養成分、その他の成分を含むことができる。
本開示の第3は、上記表皮基底ニッチ保護剤を含有する、表皮基底ニッチ保護用化粧料である。本開示の表皮基底ニッチ保護剤が配合された化粧料は、表皮基底ニッチを保護し、安定化させ、表皮幹細胞の減少を抑制し、または増加を促進させる。および、表皮幹細胞に対して未分化能を維持し、抗老化作用または抗紫外線作用を発揮することができる。化粧料としては、任意の化粧料に配合することができ、例えば美容液、化粧水、乳液、クリーム、ボディミルク、入浴剤、日焼け止め、化粧下地、メークアップ商品、ローション、アフターシェービングクリームなどに使用することができる。
本開示の表皮基底ニッチ保護用化粧料には、その効果を損なわない限り、前記した、通常の化粧品、医薬部外品、医薬品などに配合される成分を含むことができる。
本開示の表皮基底ニッチ保護用化粧料は、E8フラグメントの投与により、後記する実施例に示すように、皮膚の弾力性の低下を抑制し、キメの異方性指数の増加を抑制する。これは、E8フラグメントによる表皮基底ニッチの保護作用により、表皮幹細胞が増加し、および表皮細胞の未分化能が維持に起因すると考えられる。表皮幹細胞の減少は表皮の老化現象に関わり、表皮老化により、潤いの低下、肌荒れ、色むら、及び皮膚のハリの低下などが挙げられる。本開示の表皮基底ニッチ保護用化粧料によれば、表皮幹細胞の数の減少抑制または増加促進によりこれらの老化現象を抑制することができる。
次に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これらの実施例は何ら本発明を制限するものではない。
(実施例1)
細胞組織が生きたまま空輸された腹部皮膚サンプル(年齢:40代、50代、60代、70代)をUVB(20mJ/cm)で照射処理した後、器官培養を行った。器官培養は全て、気液界面培養を用い、ヒト皮膚組織維持用培地(BPI社 Skin Culture Medium 「MIL218C」)中で、37℃、5%CO環境下で行った。培養の際に、ラミニン511E8フラグメント(株式会社ニッピ、商品名「iMatrix-511」、以下、LN511-E8と略称する。)を皮膚サンプルに1μg/cm/dayとなるように添加した。
UVB照射処理を行った40代女性の腹部皮膚サンプルに対し、LN511-E8を1μg/cm/day添加して培養する工程を図1Aに示す。また、腹部皮膚サンプルの培養後1日目、3日目、10日目、14日目の表面状態を図1Bに示す。なお、LN511-E8を添加せずに同量の生理的食塩水を添加して培養した対照例の結果を合わせて図1Bに示す。対照例の腹部皮膚サンプル(a-d)では、UVB照射ダメージによる黒ずみが継時的に角質で蓄積した。一方、LN511-E8を添加した腹部皮膚サンプル(e-h)は、UVB照射ダメージによる角質層の黒ずみが比較例よりも軽減していた。なお、図示しないが、50代、60代、70代の腹部皮膚サンプルでも同様の結果が得られた。
LN511-E8は、UVB照射による損傷を受けた腹部皮膚のダメージを軽減し、角質層の黒ずみを抑制する効果を有した。
(実施例2)
実施例1で使用した40代女性の腹部皮膚サンプルの断面を顕微鏡観察した。結果を図2に示す。図2Aの上段は、LN511-E8添加なしの対照例であり、図2Aの下段はLN511-E8添加例の結果である。対照例では、経時的に暗色で示される表皮層の厚さが薄くなる傾向が観察された。一方、LN511-E8添加例では、表皮層の厚さが保たれた。なお、層の厚さは、BZ-X800(キーエンス社)の画像解析ソフトを用い、表層の範囲を面積指定して取り込み、測定した値である。この結果をn=3で統計グラフ化した。結果を図2Bに示す。LN511-E8添加例では、培養3日目から14日目まで、t-検定による統計的有意差が検出された。
UVB照射後の腹部皮膚は器官培養において、経時的に表皮層菲薄化が観察されたが、皮膚表面にLN511-E8を塗布することにより、表皮層菲薄化は抑えられ、表皮層厚さの維持が観察される。このことはUVB照射による損傷を受けた腹部皮膚のダメージをLN511-E8塗布が軽減したと考察される。対照に対する表皮厚さは、LN511-E8を皮膚表面に塗布した皮膚器官培養後、3日目には統計的有意差をもって菲薄化が抑制され、その効果は培養14日目には維持された。
(実施例3)
40代女性の腹部皮膚サンプルを使用し、LN511-E8に代えてRPE(蛍光分子、R-フィコエリスリン)でプレラベルしたLN511-E8を使用した以外は実施例1と同様に培養し、実施例2と同様に組織を採取し固定、切片を作成した。サンプル切片を表皮幹細胞マーカー(MCSP)の抗体で染色した後、細胞核をDAPIで染色し、共焦点レーザー顕微鏡で観察した。プレラベルLN511-E8投与例の結果を図3Aに示す。培養3日目の図3Aのa図に示すように、プレラベルLN511-E8は腹部皮膚サンプルの表面から吸収され内部に浸透し(白色、細胞核は暗灰色)、経時的に表皮基底膜部分(白色、白矢印で示す)に蓄積した(図3Aのa、b、c)。また、表皮幹細胞も経時的に増加することが観察された(図3Aのd、e、f、輝白部分、細胞核は暗灰色)。
共焦点レーザー走査顕微鏡、FV1000(オリンパス社)を用いて蛍光画像を取得後、ImageJソフトウェアを用い各画像の蛍光強度を画像解析し、表皮幹細胞の増殖をn=3で評価した。UV未照射の培養前表皮のMSCP陽性細胞数を100%として換算した経時変化の結果を図3Bに示す。MSCP陽性細胞の数は、RPE標識LN511-E8添加群で培養7日後、10日後、14日後においてRPE標識LN511-E8を投与しなかった対照例よりt-検定による統計的有意差な増加が観察された。このことから、LN511-E8はUVB照射による皮膚組織の表皮幹細胞数を増加する効果を有することが判明した。
(実施例4)
生きたまま空輸されたまぶた皮膚サンプル(年齢70代)を用い、UVB処理を行わなかったこと以外は実施例1と同様に操作して、器官培養を行った。培養の際に、RPE標識LN511-E8をまぶた皮膚サンプルに1μg/cm/dayとなるように添加した。対照例として、RPE標識LN511-E8に代えて同量の生理食塩水を投与した。次いで、実施例3と同様にして切片を採取し、E-カドヘリン抗体で染色した後、共焦点レーザー顕微鏡で観察した。なお、E-cadherinは、細胞間接着構造を構成するタンパク質であり、E-cadherinの消失は表皮バリア機能の消失を示す。結果を図4に示す。図4の上段2段はE-cadherin染色、図4の下段2段はRPE標識LN511-E8添加の顕微鏡図であり、a、b、c、g、h、iは対照例、d、e、f、j、k、lはRPE標識LN511-E8添加例である。
図4に示すように、対照例では、E-cadherin抗体染色で示される表皮バリアの破壊が観察された(a-c輝白)。一方、RPE標識LN511-E8投与例では、対照例で生じた表皮バリアの破壊が抑制され、むしろE-cadherin抗体染色で示される表皮バリアの回復が観察された(図4d-f)。また、培養の経過とともにRPE標識LN511-E8が表皮から浸透し、図4のl図の矢印で示す表皮基底膜への蓄積が観察された(図4j-l)。なお、実施例1と相違してまぶた皮膚サンプルにはUVB処理を行っていないが、まぶたは自然光(日光)に曝される部位である。したがって、実施例4は、LN511-E8による、日光被ばくによる皮膚劣化の抑制を評価するものといえる。図4に示すように、LN511-E8は、日光被ばくによる表皮層の菲薄化を阻止し、皮膚バリア回復機能を有すると考えられた。
(実施例5)
40代女性の腹部皮膚サンプルを使用し、実施例1と同様に培養し、実施例3と同様にして切片を採取し、表皮基底膜をIV型コラーゲン抗体で染色した後、共焦点レーザー顕微鏡で観察した。結果を図5Aに示す。図5Aのa図、およびe図に示す矢印は、表皮基底膜を示す。対照例では、UVB照射により培養の経過に従い表皮基底膜の崩壊が進む(図5A、a-d)が、LN511-E8投与例では、培養の経過に従い白色△で示す表皮基底膜の回復が確認された(図5A、e-h)。
また、図5Aに示す組織の隣接切片を切り出し、表皮幹細胞マーカー(MCSP)の抗体および、E-カドヘリン抗体で染色し、共焦点レーザー顕微鏡で表皮バリアを観察したものである。結果を図5Bに示す。B1はE-カドヘリン抗体で染色、B2はMCSP抗体の染色像であり、上段は対照例、下段はLN511-E8投与例である。対照例に示すように、UVB照射組織では、経時的にE-カドヘリン抗体染色で示される表皮バリアの崩壊が進むが(図5B1、a-d)、LN511-E8添加例では、E-カドヘリン抗体染色で示される表皮バリアは崩壊せず維持されることが観察された(図5B1、e-h)。また、対照例では培養の経過に伴って幹細胞が減少するが(図5B2、a-d)、LN511-E8添加例では、むしろ幹細胞数の増加が観察された(図5B2、e-h)。
(実施例6)
実施例3と同様にして40代女性の腹部皮膚サンプルを使用し、RPE標識LN511-E8を添加して同様に培養した。なお、対照として全長Laminin-511(800kDa)にRPE標識したRPE標識Laminin-511を同量(6.67pmol)添加し、培養した。培養組織から経時的に組織片を切り出し、固定、凍結切片を作成した後、共焦点レーザー顕微鏡で観察した。結果を図6に示す。図6のa図はRPE標識Laminin-511添加例であり、図6のb図はRPE標識LN511-E8添加例である。a図に示すように、RPE標識Laminin-511添加例では、Laminin-511(800kDa)が表皮表面に留まるが表皮の内部への浸透は観察されなかった。これに対し、RPE標識LN511-E8例ではLN511-E8(150kDa)の表皮浸透が観察された(図6a輝白色部分)。
(実施例7)
poly-D-lysineコートした10穴スライドグラスにHPEKp細胞(passage6)を1×10cells播種し、一晩培養して接着させた。このスライドグラスに老化誘導培地(VitroAge培地)を滴下し、LN511-E8の有無、および異なるカルシウム濃度で培養した。結果を図7Aに示す。LN511-E8を添加しない対照例では、HPEKp細胞は未分化形態(丸形)を維持できず、扁平化、敷石形態を示した。また、カルシウム濃度依存的にHPEKp細胞はより強い突起伸長、扁平化などの分化形態を示した。一方、LN511-E8添加例では、いずれのカルシウム濃度でも、対照と比較してHPEKp細胞が丸い未分化形態を示した。このようにLN511-E8は、老化培地およびカルシウムによる扁平化、敷石形態などのHPEKp細胞の細胞分化を抑制した。
また、poly-D-lysineコートした10穴スライドグラスにHPEKp細胞(passage6)を1×10cells播種し、老化誘導培地(VitroAge培地)にLN511-E8を1.6μg/ml、カルシウム0または1mMの条件で48時間培養した。対照例としてLN511-E8に代えて同量の生理食塩水を添加した。培養後に4%PFAで固定し、MCSP抗体で染色した。結果を図7Bに示す。図7Bでは、MCSP陽性細胞が白色、MCSP陰性細胞が黒色で示されている。1視野における白色細胞と黒色細胞の比率を観察すると、表皮幹細胞マーカーであるMCSP陽性細胞と、細胞核染色が共局在している部分が多いほど細胞の未分化度が保たれているといえる。図7B下段カラムはLN511-E8未添加群であるが、カルシウム濃度1mMでは白色細胞が減り、黒色細胞が増加していた。この傾向はLN511-E8添加でも観察された。一方、図7B上段カラムで見られるように、LN511-E8添加では対照例と比較し1mMカルシウムで黒色細胞は出現するものの、白色に対してその出現は低く、HPEKp細胞の未分化度が高いまま維持されていることが観察された。
(実施例8)
poly-D-lysineコートした10穴スライドグラスにHPEKp細胞(passage6)を1×10cells播種し、老化誘導培地(VitroAge培地、カルシウム1mM含有)にLN511-E8を1.6μg/mlを添加して48時間培養し、培養後に4%PFAで固定し、P63抗体で染色した。各サンプルのウェル内からランダムに3視野を選択して撮影し、ImageJソフトウェアで画像解析によるp63陽性細胞率の定量評価を行った。なお、p63は基底細胞特異的マーカーである。
結果を図8に示す。LN511-E8添加によって、添加前と比較してp63陽性細胞の割合にt-検定による統計的有意差が検出された。これらの前駆細胞培養実験から、LN511-E8は未分化細胞であるHPEKp細胞を老化条件で培養した場合に未分化状態維持を誘導することが示された。幹細胞は、分化しながら未分化能も保ち増殖する特性を有する。ラミニン511は、細胞表面のインテグリンα6β1と結合し、表皮基底膜成分として、未分化細胞の生存に大きく関わることが知られる。インテグリン結合部位を含むラミニンフラグメントであるLN511-E8は、表皮に投与すると表皮基底膜近傍に移行することで、老化条件でも細胞の未分化維持を補助することが示唆された。
(実施例9)
皮膚に対する、LN511-E8の効能を、ヒト試験で評価した。試験は30代、40代、50代のヒト女性各11人を被験者として合計33人で実施した。試験試料の長期使用による、皮膚の乾燥、くすみ、シミ、ハリ不足、シワ等の肌改善作用を評価することを試験目的とした。試験試料は、ラミニン511E8フラグメント(株式会社ニッピ、商品名「iMatrix-511」)を含有する下記組成の試験配合製剤、および下記組成のプラセボ製剤を使用した。試験配合製剤およびプラセボ製剤は株式会社コスモステクニカルセンターで調製した。なお、試験配合製剤に含まれるLN511-E8の最終濃度は5μg/mLである。
Figure 2022072071000001

Figure 2022072071000002
被験者は、本試験参加を事前に文書で同意した者を対象とした。試験期間は、2020年2月25日から2020年5月20日までの12週間とした。各被験者は1日2回(朝、晩)の洗顔後に試験配合製剤またはプラセボ製剤を12週間連続使用した。洗顔後、試験配合製剤またはプラセボ製剤を1プッシュ(約0.5g程度)手にとり、指定された側(右または左)全体になじませた。その後普段使用しているスキンケアを実施した。測定は株式会社コスモステクニカルセンター測定室にて実施した。被験者は指定の洗浄料にて被験部位を洗浄後、室温20~22°C、相対湿度40~60%に保たれた評価室にて20分間馴化し、測定を開始した。被験部位は、割り付けられた左右の全顔とした。
図9Aは、キュートメーターで測定した皮膚の粘弾性値の結果である。
試験配合製剤またはプラセボ製剤を4週間投与した後、各測定日に被験部位(口元)の皮膚粘弾性を、キュートメーターMPA580(C+K electronic GmbH.)を用いて、皮膚の粘弾性値を測定した。皮膚粘弾性が高いほど皮膚は良い質感であるといえる。4週後、プラセボ製剤と比較して、試験配合製剤では、統計的有意差をもって皮膚粘弾性が高い結果となった。
図9Bは、皮膚異方性の測定結果である。皮膚異方性(水分量・キメ)測定では、各測定日に、左右のほお骨近傍の1.2×1.5cmエリアをEpsilon E100(Biox Syetems Ltd,England)を用いて1回測定し画像の取得を行った。各被験部位の角層水分量の変化は、測定パラメータであるεの数値を用いた。キメに関してはAnisotropy Index(%):異方性指数および特定サイズごとの分布値を用い、異方性指数の変化により肌のきめを評価した。肌理のサイズを5段階(0~29、30~59、60~89、90~119、120<、単位:ピクセル)に分け、各ゾーンの数を数えて評価した。小ゾーン数が増えるに従い、キメは良い状態であると評価される。大きい異方性指数はキメの不規則性を示し、異方性指数が小さいほどよりキメの細かい肌の質感を示す。図9Bに示すように、試験配合製剤を4週間使用した後、プラセボ製剤と比較したところ、試験配合製剤では、統計的有意差(p<0.05)をもって異方性指数が小さい値となった。
表3に、投与4週後と12週後の皮膚異方性の測定結果を示す。プラセボ製剤では、投与4週後および12週後に統計的有意差をもって、投与開始前と比較して異方性指数が増加したが、試験配合製剤では投与4週後および12週後のいずれも異方性指数の変動は観察されなかった。一方、プラセボ製剤に対する試験配合製剤の異方性指数を算出したところ、投与12週後において、プラセボ製剤と比較して統計的有意差(p<0.05)をもって異方性指数の減少が観察された。
Figure 2022072071000003
本発明の表皮基底ニッチ保護剤は、インテグリン結合部位を含むラミニンフラグメント、またはその誘導体を有効成分に含むことで、表皮幹細胞の増加、表皮層の菲薄化を抑制し、皮膚バリア機能を回復させることができ、表皮基底ニッチ保護用医薬組成物や表皮基底ニッチ保護用化粧料としても有用である。

Claims (5)

  1. インテグリン結合部位を含むラミニンフラグメント、またはその誘導体を有効成分として含有する、表皮基底ニッチ保護剤。
  2. 前記ラミニンフラグメントが、ラミニン511のE8フラグメント、ラミニン521のE8フラグメント、ラミニン332のE8フラグメント、ラミニン311のE8フラグメント、ラミニン411のE8フラグメントのいずれかであることを特徴とする、請求項1に記載の表皮基底ニッチ保護剤。
  3. 前記誘導体が、α鎖、β鎖、γ鎖のいずれかに、炭素数1~10の置換基を有していてもよいアルキル基、炭素数1~10の置換基を有していてもよいエステル、エーテル、または細胞外マトリックス成分のフラグメントが結合したものである、請求項1または2に記載の表皮基底ニッチ保護剤。
  4. 請求項1~3いずれかに記載の表皮基底ニッチ保護剤を含有する、表皮基底ニッチ保護用医薬組成物。
  5. 請求項1~3いずれかに記載の表皮基底ニッチ保護剤を含有する、表皮基底ニッチ保護用化粧料。
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