JP2022065545A - 免疫グロブリンA(IgA)の可変領域のアミノ酸配列の多様化を促進するための剤及び感染症を予防又は改善するための剤 - Google Patents

免疫グロブリンA(IgA)の可変領域のアミノ酸配列の多様化を促進するための剤及び感染症を予防又は改善するための剤 Download PDF

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Abstract

【課題】免疫グロブリンA(IgA)の可変領域のアミノ酸配列の多様化を促進するための剤、並びに幅広い病原体による感染症を予防又は改善することのできる剤を提供する。【解決手段】分泌型免疫グロブリンA(sIgA)の可変領域のアミノ酸配列の多様化を促進するための剤は、1-ケストースを有効成分とする。【選択図】図2

Description

本発明は、免疫グロブリンA(IgA)の可変領域のアミノ酸配列の多様化を促進するための剤及び感染症を予防又は改善するための剤に関する。
免疫グロブリンA(Immunoglobulin A:IgA)は、抗体の一種で、ヒトの体内ではIgGに次いで2番目に多い抗体である。特に、眼、鼻、喉、消化管などの外界と接する粘膜組織において、粘膜表面に分泌されるIgAは、分泌型IgA(sIgA)と呼ばれる。
sIgAは、未消化のタンパク質、病原菌、毒素などと結合し、それらの吸収を抑制することが報告されており、アレルギーや感染症の発症との関連性が注目されている。
IgAの機能を介してアレルギーや感染症を予防する物質について報告がなされてきた。
特許文献1には、1-ケストースによってIgAの産生を増強することでアレルギーの発症を予防する剤が開示されている。
特開2006-321786号公報
しかしながら、特許文献1の剤は、アレルギー予防に効果を有するものの、感染症への予防又は改善効果を有しない点で課題を残していた。また、IgAの産生を増強することでアレルギーの発症を予防するものの、多種多様な抗原によるアレルギーに対して一律に効果を有するか否かについては不明であった。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、免疫グロブリンA(IgA)の可変領域のアミノ酸配列の多様化を促進するための剤、並びに幅広い病原体による感染症を予防又は改善することのできる剤を提供することを目的とする。
上記目的を達成するため、本発明の第1の観点に係る免疫グロブリンA(IgA)の可変領域のアミノ酸配列の多様化を促進するための剤は、
1-ケストースを有効成分とする。
例えば、前記可変領域は、重鎖可変領域である。
例えば、前記重鎖可変領域は、重鎖相補性決定領域(CDR)3である。
例えば、前記IgAは、腸管分泌型IgAである。
例えば、アレルギーを予防又は改善するために用いられる。
本発明の第2の観点に係る感染症を予防又は改善するための剤は、
1-ケストースを有効成分とする。
本発明によれば、免疫グロブリンA(IgA)の可変領域のアミノ酸配列の多様化を促進するための剤、並びに幅広い病原体による感染症を予防又は改善することのできる剤を提供することができる。
IgAの構造を模式的に表す図である。 1-ケストース摂取によってマウスの盲腸、パイエル板、小腸及び脾臓におけるIgAのCDR3の多様化が促進されたことを表すグラフ図であり、横軸の「Con」は対照群、「Kes」はケストース群を表す。 1-ケストース摂取によってマウスの盲腸におけるIgAのCDR3の多様化が促進されたことを表すグラフ図であり、(a)は対照群、(b)はケストース群のグラフ図である。
まず、本発明による免疫グロブリンA(IgA)の可変領域のアミノ酸配列の多様化を促進するための剤について詳細に説明する。
本発明のIgAの可変領域のアミノ酸配列の多様化を促進するための剤は、1-ケストースを有効成分として含有する。IgAは、未消化のタンパク質、病原菌、毒素等と結合し、それらの吸収を抑制する作用を有する。したがって、本発明による剤は、IgAの可変領域のアミノ酸配列の多様化を促進することで、後述するように幅広い抗原や病原体による疾患、症状等を予防又は改善することができる。
免疫グロブリンA(Immunoglobulin A:IgA)は、抗体の一種で、ヒトの体内ではIgGに次いで2番目に多い抗体である。図1に示すように、IgAは、同じ構造をした2本の重鎖(H鎖)と2本の軽鎖(L鎖)とによって形成されている。H鎖及びL鎖のN末端側に存在する、VH及びVL領域は、IgAの「可変領域」と呼ばれており、構成するアミノ酸の種類、配列ともに多様性が見られる。この可変領域において超可変領域(相補性決定領域:complementarity determining region(CDR))と呼ばれる3つの小さな領域が存在している。CDRは5~10個のアミノ酸によって構成される短い配列であり、特にアミノ酸配列の多様性に富むことが知られている。CDRを構成するアミノ酸の種類及び配列の違いによって、認識する抗原が変化することから、CDRは抗原の特異性を決定づけているといえる。
本発明による剤は、IgAの可変領域のアミノ酸配列の多様化を促進する。本明細書において「IgAの可変領域のアミノ酸配列の多様化を促進する」とは、1-ケストースを摂取した個体由来のIgAの可変領域のアミノ酸配列と、1-ケストース非摂取又は摂取前の個体由来のIgAの可変領域のアミノ酸配列と、を比較した場合、後者より前者のほうで同一の配列の割合が減少し、異なる配列(特に、互いに類似度の低い配列)の割合が増大することを意味する。異なる配列の割合の増大の程度は、例えば、可変領域のアミノ酸配列の種類の数、可変領域のアミノ酸配列の同一性又は相同性、IgAの抗原特異性、抗原結合性の変化等を指標とすることができる。
「IgAの可変領域のアミノ酸配列の多様化を促進する」ことの確認方法は、例えば、後述の実施例に記載される方法が挙げられる。具体的には、1-ケストースを摂取した個体の組織からtotal RNAを抽出し、cDNAを調製する。調製したcDNAを鋳型として、IgA重鎖可変領域に特異的なプライマーを用いたPCRにより、IgAの可変領域であるVDJ遺伝子領域を網羅的に増幅し、次世代シーケンサー(NGS:Next Generation Sequencer)を用いて、その塩基配列を決定する。続いて、免疫グロブリン配列解析パイプラインを用いて得られた塩基配列データを解析し、アミノ酸配列及び各配列のリードカウントを計算し、種数を測定する。1-ケストース非摂取又は摂取前の個体由来の当該種数と比較し、1-ケストースを摂取した個体由来の当該種数が多い場合(diversity)に、またリードカウントが特定の配列に偏っていない場合(evenness)に、IgAの可変領域のアミノ酸配列の多様化が促進されたことを確認することができる。
本発明において、「IgAの可変領域」は、重鎖(H鎖)可変領域又は軽鎖(L鎖)可変領域のいずれであってもよいが、好ましくは重鎖(H鎖)可変領域である。また、「IgAの可変領域」は、重鎖(H鎖)相補性決定領域(CDR)1~3又は軽鎖(L鎖)相補性決定領域(CDR)1~3のいずれであってもよいが、好ましくは、抗原結合に最も寄与する重鎖(H鎖)相補性決定領域(CDR)3である。
本発明において、免疫グロブリンA(IgA)は、眼、鼻、喉、消化管等の外界と接する粘膜組織、脾臓などいずれの組織由来のIgAであってもよいが、好ましくは腸管分泌型IgAである。腸管を含む消化管等の外界と接する粘膜組織において、粘膜表面に分泌されるIgAは、分泌型IgA(sIgA)と呼ばれ、sIgAは、未消化のタンパク質、病原菌、毒素などと結合し、それらの吸収を抑制することが報告されている。
本発明のIgAの可変領域のアミノ酸配列の多様化を促進するための剤は、1-ケストースを有効成分として含有する。1-ケストースは、1分子のグルコースと2分子のフルクトースからなる三糖類のオリゴ糖である。1-ケストースは、スクロースを基質として、特開昭58-201980号公報に開示されているような酵素による酵素反応を行うことにより作ることができる。具体的には、まず、β-フルクトフラノシダーゼをスクロース溶液に添加し、37℃~50℃で20時間程度静置することにより酵素反応を行って、酵素反応液を得る。この酵素反応液は1-ケストースを相当量含む糖液であるため、これをそのまま、本発明に係る剤として用いることができる。
一方、1-ケストースを精製する場合は、酵素反応液を、特開2000-232878号公報で開示されているようなクロマト分離法に供することよって、1-ケストースと他の糖(ブドウ糖、果糖、ショ糖、4糖以上のオリゴ糖)とを分離して精製し、高純度1-ケストース溶液を得る。続いて、この高純度1-ケストース溶液を濃縮した後、特公平6-70075号公報に開示されているような結晶化法で結晶化することにより、1-ケストースを結晶として得ることができる。
また、1-ケストースは市販のフラクトオリゴ糖に含まれているため、これをそのまま、あるいは、フラクトオリゴ糖から上述の方法により1-ケストースを分離精製して用いてもよい。なお、本発明において、特定のオリゴ糖の「純度」とは、糖の総量を100%とした場合の、当該オリゴ糖の質量%をいう。
本発明の剤の投与剤型は任意であり、例えば、錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤等の経口用固形製剤(サプリメントを含む)、内服液剤、シロップ剤等の経口用液体製剤、注射剤などの非経口用液体製剤等に適宜調製することができる。また、適切なドラッグデリバリーシステム(DDS)を用いてもよい。また、医薬品又はサプリメント中に通常用いられる賦形剤、結合剤、滑沢剤、着色剤、崩壊剤、増粘剤、保存剤、安定化剤、pH調整剤等を添加することができる。また、本剤の投与方法についても任意であり、ヒト又は非ヒト哺乳動物に対し、経口投与、静脈内投与、腹腔内投与、皮内投与、舌下投与、局所投与等、適宜選択され得る。
本発明の剤の投与量及び投与間隔は、投与対象の年齢、体重、適応症状等によって適宜設定することができ、例えば、1日に1~3回投与であってもよいが、これに制限されるものではなく、また、食事中投与、食後投与、食前投与、食間投与、就寝前投与等のいずれも可能である。
本発明の剤を飲食品又は飼料に用いてもよい。この場合、顆粒状、粒状、ペースト状、ゲル状、固形状、液体状等の状態で用いることができる。また、飲食品中又は飼料中に含有させることが認められている賦形剤、結合剤、崩壊剤、増粘剤、分散剤、再吸収促進剤、矯味剤、緩衝剤、界面活性剤、溶解補助剤、保存剤、乳化剤、等張化剤、安定化剤、pH調製剤等を適宜含有させることができる。
本発明の剤を飲食品に用いる場合、摂取量及び摂取間隔は、摂取対象の年齢、体重、適応症状等によって適宜設定することができ、例えば、1日に1~3回摂取であってもよいが、これに制限されるものではない。また、アレルギー予防又は改善、感染症予防又は改善等をコンセプトとし、必要に応じてその旨を表示した飲食品、機能性食品、病者用食品、特定保健用食品等に応用することができる。
本発明の剤を飼料に用いる場合、例えば、哺乳類等の飼料、ペットフード、ペット用サプリメント等に使用することができる。
本発明の剤は、アレルギーを予防又は改善するために用いられてもよい。
本明細書において、アレルギーの「予防」には、アレルギーの発症を抑制する又は遅延させ、またその再発を抑制することが含まれる。また、アレルギーの「改善」には、アレルギーを完全に治療することの他、症状を緩和し、またその進行を抑制することも含まれる。
本発明の剤は、IgAの可変領域のアミノ酸配列の多様化を促進するため、幅広い抗原(アレルゲン)によるアレルギーを予防又は改善することができる。本明細書において「アレルギー」の疾患としては、特に限定されるものではないが、例えば、食物アレルギー、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎(花粉症)、アレルギー性結膜炎、 アレルギー性胃腸炎、気管支喘息、小児喘息、薬物アレルギー、蕁麻疹等を挙げることができる。
次に、本発明による感染症を予防又は改善するための剤について説明する。
本発明による感染症を予防又は改善するための剤は、1-ケストースを有効成分として含有する。1-ケストースの詳細については、前述のとおりである。また、「IgA」、「IgAの可変領域」、「IgAの可変領域のアミノ酸配列の多様化を促進する」等についても、前述のとおりである。
本明細書において、感染症の「予防」には、感染症の発症を抑制する又は遅延させ、またその再発を抑制することが含まれる。また、感染症の「改善」には、感染症を完全に治療することの他、症状を緩和し、またその進行を抑制することも含まれる。さらに、感染症の「改善又は予防」には、IgAの抗原結合能が低下することも含まれる。
特定の理論に縛られることを望むものではないが、本発明による感染症を予防又は改善するための剤は、IgAの可変領域のアミノ酸配列の多様化を促進することで、感染症の予防又は改善効果を奏し得る。本発明の剤は、幅広い病原体による感染症を予防又は改善することができる。ウイルス由来の感染症としては、例えば、インフルエンザ、ウイルス性肺炎、ウイルス性肝炎、ウイルス性髄膜炎、ウイルス性胃腸炎、ウイルス性結膜炎、後天性免疫不全症候群(AIDS)、成人T細胞白血病、エボラ出血熱、黄熱、風邪症候群、狂犬病、サイトメガロウイルス感染症、重症急性呼吸器症候群(SARS)、中東呼吸器症候群(MERS)、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)、新型ブニヤウイルス、重症熱性血小板減少症候群、進行性多巣性白質脳症、水痘・帯状疱疹、単純疱疹、手足口病、デング熱、ジカ熱、日本脳炎、伝染性紅斑、伝染性単核球症、天然痘、風疹、急性灰白髄炎(ポリオ)、麻疹、咽頭結膜熱(プール熱)、マールブルグ出血熱、腎症候性出血熱、ラッサ熱、流行性耳下腺炎、ウエストナイル熱、ヘルパンギーナ、チクングニア熱などが挙げられる。細菌由来の感染症としては、例えば、インフルエンザ菌、肺炎球菌、百日咳菌、破傷風菌、ジフテリア菌、結核菌、大腸菌、コレラ菌、サルモネラ菌、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌などによる感染症が挙げられる。
本発明の剤の投与剤型、投与量及び投与間隔の詳細については、前述同様である。また、本発明の剤を飲食品又は飼料に用いてもよく、その詳細についても、前述同様である。
以上説明したように、本発明のIgAの可変領域のアミノ酸配列の多様化を促進するための剤は、1-ケストースを有効成分として含有する。IgAは、未消化のタンパク質、病原菌、毒素等と結合し、それらの吸収を抑制する作用を有するため、本発明による剤は、IgAの可変領域のアミノ酸配列の多様化を促進することで、幅広い抗原(アレルゲン)によるアレルギーを予防又は改善することができる。
また、本発明による感染症を予防又は改善するための剤は、1-ケストースを有効成分として含有する。本発明の剤は、ウイルスや細菌など、幅広い病原体による感染症を予防又は改善することができる。
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
以下の実施例では、特段の記載のない限り、百分率(%)は質量%を示す。また、固形分濃度は、試料に含まれる可溶性固形分の含有量を表す。
4週齢のDBA/2雌性マウスを対照群及びケストース群の2群に分け、対照群には、一般的な精製飼料であるAIN-93Gのタンパク質を大豆タンパク質に置き換えた飼料(コントロール飼料)を与えた。一方で、ケストース群には、コントロール飼料中のコーンスターチを、1-ケストース含量が5%(w/w)となるように1-ケストースへ置き換えた飼料を与えた。飼育開始から10週間後に解剖を実施し、小腸、盲腸、脾臓及びパイエル板を採取した。
採取した組織からtotal RNAを抽出し、cDNAを調製した。調製したcDNAを鋳型として、IgAの可変領域であるVDJ遺伝子領域を網羅的に増幅し、次世代シーケンサー(NGS:Next Generation Sequencer)を用いて、その塩基配列を決定した。続いて、免疫グロブリン配列解析パイプラインを用いて得られた塩基配列データを解析し、VDJ遺伝子の連結部であるCDR3のアミノ酸配列及び各配列のリードカウントを計算した。
上記の各手法について以下詳細に説明する。
(1.1-ケストースの製造)
特公昭59-53834号公報(第2~3頁)及び特開2010-273580号公報(段落[0096])に記載の方法に準じて、スクロースを基質としてフラクトシルトランスフェラーゼの酵素反応を行い、1-ケストースを製造した。具体的には、まず、アスペルギルス・ニガーACE-2-1株(寄託番号:FERM P-5886)を酵素生産培地(5%スクロース、0.7%麦芽エキス、1%ポリペプトン、0.5%カルボキシメチルセルロース、0.3%NaCl)に植菌し、28℃で3日間培養した後、菌体を超音波で破砕して粗酵素液を調製した。45%スクロース水溶液(pH7.5)に、粗酵素液をスクロース1gあたり2.5単位の割合で添加して、40℃にて24時間反応させて酵素反応液を得た。酵素反応液を100℃で10分間加熱して酵素反応を停止させた後、ろ過してろ液を回収した。ろ液を定法により活性炭で脱色し、さらにイオン交換樹脂で脱塩して、これを1-ケストースを含有する糖液(供試試料)とした。
(2.次世代シーケンサー(NGS)を使用したアンプリコンディープシーケンスによるIgA重鎖可変領域のシーケンス分析)
(組織total RNAの抽出)
小腸及び盲腸は内容物を除去し、脾臓はそのままの状態で、5mm以下の横断組織片を切り取り、1.5mLチューブに移し、RNA抽出試薬であるTRIzol(Thermo Fisher Scientific)を1mL添加した後、速やかにバイオマッシャーを用いて組織を破砕した。また、小腸組織から、1つのパイエル板を含む5mm以下の横断組織片を切り取り、「パイエル板を含む小腸組織」として前述同様にRNAを抽出した。TRIzolに溶解されたRNAを、公知のクロロホルム処理・タンパク質除去、イソプロパノール沈殿により分離精製し、total RNAとして用いた。
抽出した各組織由来のtotal RNAについて、超微量分光光度計であるNanoDrop 2000 Spectrophotometer(Thermo Fisher Scientific)を用いて、total RNA溶液中のRNA濃度及び純度(A260/A280)を測定した(図示せず)。また、1%アガロースゲル電気泳動を行い、18S rRNA及び28S rRNAの存在を確認した(図示せず)。
(DNase処理による混入しているゲノムDNAの分解・除去)
前述のとおり抽出した各組織由来のtotal RNA 1~4μgに、10×DNase I Reaction Buffer(Invitrogen) 1.75μL、Recombinant DNaseI(amplification grade、1U/μL、Invitrogen) 1.75μL及びDEPC処理水を加えた。DEPC処理水は、溶液の液量が17.5μLになるように加えた。この溶液を室温で15分間静置した後、25mM EDTA 1.75μLを加え、65℃で10分間加温した。
(逆転写反応:oligo dT、cDNAプールの調製)
前述のとおりDNase処理した各組織由来のtotal RNA 11μL(RNA量が全個体で等しくなるようにDEPC処理水で希釈)に、Oligo(dT)12-18 Primer(0.5μg/μL、Invitrogen)を1μL添加し、70℃で10分間静置した後、氷上で3分間静置した。5×First Strand Buffer(Invitrogen) 4μL、0.1M DTT 2μL、10mM dNTPs Mix(TaKaRa) 1μLを加え混合した。逆転写酵素(RT)を加えるRT(+)と加えないRT(-)に分け、RT(+)には、逆転写酵素(RT)Super ScriptII(Invitrogen) 1μL、RT(-)にはDEPC処理水を1μL添加した後、42℃で50分間静置した。その後、70℃で15分間静置し、得られた溶液をcDNAプールとした。
(アンプリコンPCR:IgA可変領域のcDNAの増幅(アンプリコンの調製))
前述で得られた各組織由来のcDNAプールを用いて、IgA可変領域(VH領域から定常領域(Cα)領域)をPCRにより増幅した。IgAのH鎖の定常領域(Cα)とV遺伝子領域(VH)とに相補的なプライマーを用いた(Lindner et al.,2012)。プライマーの5’末端側に、次世代シークエンサーIllumina MiSeq用のオーバーハング配列を付加した。
・Forward(定常領域(Cα))
5’-TCGTCGGCAGCGTCAGATGTGTATAAGAGACAGGAGCTCGTGGGAGTGTCAGTG-3’(配列番号1)
(オーバーハング配列:(5’側から)「TCGTCGGCAGCGTCAGATGTGTATAAGAGACAG」)
・Reverse(マウスに固有のすべてのVH遺伝子、VH遺伝子の5’保存領域)
5’-GTCTCGTGGGCTCGGAGATGTGTATAAGAGACAGGAGGTGCAGCTGCAGGAGTCTGG-3’(配列番号2)
(オーバーハング配列:(5’側から)「GTCTCGTGGGCTCGGAGATGTGTATAAGAGACAG」)
各組織由来のcDNAの一定量(3μL)を鋳型に、DNAポリメラーゼであるPrimeSTAR HS DNA Polymerase(TaKaRa)を用いてマウスIgA重鎖の可変領域のcDNAを増幅した。
(PCR産物の精製(PCR Clean-UP 1))
前述のとおり増幅した各組織由来のcDNAについて、磁気ビーズAMPure XP beads(BECKMAN COULTER)を用いてプライマー及び塩類を除去し、PCRで得られた増幅DNA(アンプリコン)の精製を行なった。精製したDNA溶液を次のインデックスPCRの鋳型として用いた。
(インデックスPCRプライマー)
上記オーバーハング配列の5’側に個体・組織識別用のインデックス配列を付加したインデックスPCRプライマーを合成した。
・インデックスPCRプライマー(インデックス1)
5’-GTCTCGTGGGCTCGGAGATGTGTATAAGAGACAG CAAGCAGAAGACGGCATACGAGAT-3’(配列番号3)
(オーバーハング配列:(5’側から)「GTCTCGTGGGCTCGGAGATGTGTATAAGAGACAG」)
・インデックスPCRプライマー(インデックス2)
5’-TCGTCGGCAGCGTCAGATGTGTATAAGAGACAG AATGATACGGCGACCACCGAGATCTACAC-3’(配列番号4)
(オーバーハング配列:(5’側から)「TCGTCGGCAGCGTCAGATGTGTATAAGAGACAG」)
(インデックスPCR:インデックスタグを付加したアンプリコンの調製)
前述のとおり精製したアンプリコンPCR産物を鋳型に、DNAポリメラーゼであるPrimeSTAR HS DNA Polymerase(TaKaRa)を用いて、以下の反応液組成及び反応条件でインデックスPCRを行った。
(PCR産物の精製(PCR Clean-UP 2))
前述のPCR Clean-UP 1と同様、AMPure XP beadsを用いて、インデックスPCRで得られたPCR産物の精製を行った。
精製操作は、PCR Clean-UP 1と同様に行ったが、PCR Clean-UP 2では、インデックスPCR産物50μLに対し、AMPure XP beadsを56μL加えた。また、ビーズからのDNA溶出の際には、TEを27.5μL加え、25μLのDNA溶液を回収した。
(次世代シーケンサー(NGS)解析用サンプルの調製)
マウス各個体(3群、n=8/群)の小腸組織由来及び盲腸組織由来のcDNAから調製したインデックスタグ付きアンプリコンDNAサンプルを1つのチューブに、脾臓組織由来及びパイエル板由来のcDNAから調製したインデックスタグ付きアンプリコンDNAサンプルを別の1つのチューブに混合し、2サンプルとした。1サンプル(1チューブ)に含まれるDNAは、3群×8個体×2組織=48アンプリコンとなる。なお、アンプリコンPCR後にバンド強度から概算した各サンプル1μL中のDNA量をもとに、各サンプル中DNA量が10ngとなるように混合した。
(次世代シークエンサー(NGS)による塩基配列解析)
次世代シークエンサー(Illumina MiSeq 300PE)による塩基配列解析は、外部委託(北海道システム・サイエンス株式会社)により行った。Agilent 2200 TapeStation Systemによってアンプリコンの濃度測定・品質の確認を行った後、次世代シーケンサー(Illumina MiSeq 300PE)を使用して、以下の条件でシークエンス解析を行った。
解析方法:Paired end
読み取り塩基長:300塩基/リード
取得リード数:20万リードペア/2サンプル
平均取得リード数:10万リードペア(20万リード)
1サンプル(チューブ)には、インデックスタグを付した48のアンプリコン(3群×8個体×2組織)が含まれており、1アンプリコンあたり2000リードペア程度の塩基配列が得られることが想定された。
(3.免疫グロブリン配列分析パイプラインを使用したIgA重鎖VDJ配列レパートリー分析)
(IgA重鎖可変領域(VDJ領域)塩基配列のレパートリー解析)
次世代シーケンサー(Illumina MiSeq 300PE)によるPaired-endシーケンシングで得られた個体・組織ごとのIgA重鎖可変領域の塩基配列データ(FASTq file)をウェブサーバー上で公開されている免疫グロブリン配列解析パイプラインASAP(Front Immunol.2018 Jul 30;9:1686.doi:10.3389/fimmu.2018.01686.eCollection 2018.)を用いて以下の項目のデータを得た。
(1)CDR3 sequence read counts:VDJの各遺伝子断片の連結部近傍で超可変領域の一つで、抗原結合における相補性を決定する領域3(相補性決定部位3:CDR3)について、この領域のアミノ酸配列の種類とそれぞれのリードカウント
(2)IGH somatic hyper mutations:VDJ領域に見られる体細胞変異(生殖細胞系列との塩基配列の違い)のクローン(リード)ごとの数とクローン数
(3)IGH V-J usage:可変領域に動員されているVDJ遺伝子断片の種類(属するファミリーの種類)
前述のとおり次世代シーケンサーにより得られたデータを評価及び描出した。より具体的には、ヒートマップグラフィックス及び主成分分析(PCA)によるクラスタリング分析を、統計解析ソフトウェアRの統計・ggbiplotパッケージを使用して行った。2つのサンプル間の統計的有意性を、マンホイットニーU検定(ウィルコクソン符号順位検定)を使用して評価した。ボックスウィスカープロットでは、ボックスは25パーセンタイルから75パーセンタイルまで伸び、50パーセンタイルが内部に描画された。
(結果)
結果を図2及び図3に示す。図2において、縦軸は、重鎖のCDR3の種数を表す。また、図3において、縦軸はリードカウント(同じCDR3を持つreadの数)、横軸はCDR3配列の数(種類)を表す。なお、図2は、マウスの盲腸、パイエル板、小腸及び脾臓におけるIgAのVDJ遺伝子の連結部であるCDR3の種数を示し、図3は、図2に対応したマウスの盲腸におけるリードカウント及びCDR3配列の数を示す。採取したいずれの組織においても、VDJ遺伝子の連結部であるCDR3の種数は、対照群と比較してケストース群で多い傾向が見られた(図2)。特に、小腸においては、統計学的な有意差が確認された(図2)。また、対照群(図3(a))に比して、ケストース群(図3(b))では、CDR3配列の数(種類)が多いほう(グラフの右側)でのリードカウントが増えており、CDR3の配列の多様化が促進されたことが示された。
以上より、1-ケストースを摂取することで、各組織(特に腸管)におけるIgAの可変領域のアミノ酸配列の多様性が促進されることが示された。IgAの可変領域のアミノ酸配列の多様性が促進されることで、体内に侵入してきた多様な物質に対して結合・排出が可能となることから、幅広い種類のアレルギー及び感染症を予防又は改善できることが示された。

Claims (6)

  1. 1-ケストースを有効成分とする、免疫グロブリンA(IgA)の可変領域のアミノ酸配列の多様化を促進するための剤。
  2. 前記可変領域は、重鎖可変領域である、
    ことを特徴とする請求項1に記載の剤。
  3. 前記重鎖可変領域は、重鎖相補性決定領域(CDR)3である、
    ことを特徴とする請求項2に記載の剤。
  4. 前記IgAは、腸管分泌型IgAである、
    ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の剤。
  5. アレルギーを予防又は改善するために用いられる、
    ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の剤。
  6. 1-ケストースを有効成分とする、感染症を予防又は改善するための剤。
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