特許文献1には、BIAを用いて患者の状態および回復傾向などを推定する方法が記載されている。また、特許文献2には、BIAを用いて患者の行動体力を評価する方法が記載されている。
特許文献1に記載の方法では筋肉を量の観点から評価し、特許文献2に記載の方法では筋肉を質の観点から評価している。
しかし、筋肉を量の観点または質の観点だけから評価した場合には、筋肉の状態の変化について、精度の高い判断を行えない。
一般的に、怪我が発生してから回復するまでの経過として、急性期、回復期、維持期といった段階を経ることが知られている。そこで筋肉の状態を量の観点または質の観点から観察することによって、怪我の発生から回復までの経過においてどの段階にあるかを推定することができる。この推定において、怪我の種類および程度等によって、量の観点における変化と質の観点における変化とでは、変化が起きるタイミング、変化の方向、大きさおよび変化の速度等が異なることを、本発明者らは認識した。また、筋肉を量の観点または質の観点だけから評価した場合には、怪我が発生してから回復するまでの経過においてどの段階であるかを正確に推定するには改善の余地があることを、本発明者らは認識した。
そこで本発明者らは上記課題に鑑み、BIA技術を用いて筋肉の状態の変化を量および質の双方の観点から判定することで、怪我(麻痺を含む。以下同様)の発生、怪我の程度、怪我の回復の程度を推定する測定装置を発明した。
一態様の測定装置は、被測定者の身体の一以上の部位の電気抵抗値を取得する電気抵抗値取得部と、前記被測定者の身体の一以上の部位の電気抵抗値に基づいて、前記被測定者の筋肉の量的指標値と質的指標値とを算出する算出部と、前記算出した量的指標値と質的指標値に基づいて、前記電気抵抗値を取得した部位における怪我の発生、怪我の程度および怪我の回復の程度のうちいずれか一以上の推定を行う推定部と、を有している。
怪我や麻痺により生じる筋肉の異常状態は、筋肉を量の観点から評価したときと、筋肉を質の観点から評価したときでは同じような相関関係があるわけではない。たとえば、急性期は、受傷による炎症や浮腫により、筋肉量を示す指標値は一時的に増加するのに対し、筋肉の質(筋質)は、炎症等により細胞外水分量が増加するため筋質を示す指標値は低下する。怪我の程度が小さい場合、本人が怪我に気づかず運動を継続することもある。筋肉を量の観点のみから評価した場合、急性期直後に量的指標値が微増したとしてもそれを運動の効果と勘違いし、怪我の発生を正確に評価できない可能性がある。また、運動を継続することで、怪我によって生じた炎症が改善しないと、量的指標値が微増した状態で急性期直後以降も減少しないため、この段階でも怪我の発生を正確に評価できない可能性がある。その一方、怪我による炎症によって細胞外液量が増加することによって、筋肉の質的指標値は減少する。そのため、本発明のように、筋肉の量的指標値と質的指標値の双方で評価をすることで、筋肉の量的指標値のみで評価した場合と比較して、怪我の発生を正確に評価できる。
怪我の急性期後半には廃用性萎縮により筋肉量を示す指標値は低下し、リハビリとともに徐々に回復をする。また筋肉を動かせないことによる筋細胞径の低下により筋質を示す指標値は低下し、リハビリにより筋肉を動かすことで筋線維径も太くなる。このように怪我からの回復期には、リハビリなどによって筋肉の量的指標値および質的指標値が増加していくが、必ずしも筋肉の量的指標値及び質的指標値が同じタイミングで怪我の発生前の水準に戻るわけではない。質的指標値が先行して怪我の発生前の水準に戻ることがある。筋肉を質的指標値のみで評価した場合には、筋肉量が怪我の発生前よりも少ない状態であるにもかからず、怪我の発生前と同じ筋肉の状態であると評価してしまう可能性がある。この場合、一般に、筋肉量と力は比例するが、筋肉量は怪我の発生前の水準には戻っていないため、怪我の発生前と同じ力が出せない可能性がある。このように、筋肉の量的指標値と質的指標値の双方で評価する場合には、筋肉の質的指標値のみで評価した場合と比較して、怪我の回復の程度を正確に評価できる。
本発明の測定装置のように、量的指標値および質的指標値の双方を用いることで怪我の発生、怪我の程度、怪我の回復の程度を精度よく推定できる。
上記の測定装置において、前記推定部は、受傷前後および/または前記被測定者の身体の左右での量的指標値および質的指標値とを比較することで、前記推定を行ってもよい。
上記の測定装置において、前記推定部は、前記算出部で算出した量的指標値および質的指標値と、正常時の量的指標値および質的指標値とを比較することで、前記推定を行ってもよい。
上記の測定装置において、前記推定部は、前記正常時の量的指標値および質的指標値として、受傷前の所定期間の量的指標値および質的指標値に基づいて所定の演算をした演算値を用いてもよい。
上記の測定装置において、前記推定部は、前記正常時の量的指標値および質的指標値として、前記電気抵抗値を取得した部位に対応する左右反対側の部位の量的指標値および質的指標値を用いてもよい。
これらの発明の処理によって、具体的な怪我の程度を推定することができる。
上記の測定装置において、前記推定部は、前記算出部で算出した複数の量的指標値および質的指標値に基づいて所定の演算をした演算値に基づいて、正常時の量的指標値および質的指標値とを比較することで、前記推定を行ってもよい。
複数の量的指標値、質的指標値を用いることによって、偶発的なエラーや一時的な炎症などによる指標値の変化をノイズとして除去することができる。また、被測定者の測定の際の姿勢などによる測定値の誤差または異常を吸収することもできる。
上記の測定装置において、前記推定部は、前記算出部で算出した複数の量的指標値および質的指標値に基づいて、所定以上の変化を検出することで、怪我の発生、怪我の程度および怪我の回復の程度のうちいずれか一以上の推定を行ってもよい。
これらの態様によっても、偶発的なエラーや一時的な炎症などによる指標値の変化をノイズとして除去することができる。また、高齢者やスポーツ選手のように怪我の発生そのものに気づきにくい人に、怪我の発生を推定し、報知することができる。
上記の測定装置において、前記推定部は、前記算出部で算出した量的指標値および質的指標値と、回復曲線とに基づいて比較することで全快までの期間を推定し、少なくとも2点間の量的指標値および質的指標値により回復速度を算出し、前記回復速度に基づいて前記推定した全快までの期間を補正することで、回復期間を推定してもよい。
これらの発明の処理によって、怪我の回復の程度を推定することができる。
上記の測定装置において、前記推定部は、前記量的指標値により推定した回復期間と、前記質的指標値により推定した回復期間とに基づいて演算することにより、回復期間を推定してもよい。
これらの発明の処理によって、より精度よく怪我の回復の程度を推定することができる。
上記の測定装置において、前記推定部は、少なくとも、前記量的指標値の増加または前記質的指標値の減少に基づいて怪我の発生を推定してもよい。
被測定者が気づきにくい怪我であっても、量的指標値および質的指標値の一方のみを用いて評価する場合と比較して、怪我の発生を精度よく推定することができる。
上記の測定装置において、推定部は、前記量的指標値および前記質的指標値の双方が正常時の状態に戻ったときに、怪我が回復したと判定してもよい。
質的指標値のみから判定している場合には、質的指標値が量的指標値に先行して怪我の発生前の水準に戻った場合、怪我が回復したと判定してしまう。しかし力と比例する筋肉量を示す量的指標値は怪我の発生前の水準に戻っていないので、かかる状態を怪我の回復と判定しても、筋肉が怪我の発生前と同水準にあるわけではない。そこで、この発明のように、量的指標値および質的指標値の双方から推定することによって、いずれか一方のみから評価する場合よりも、怪我の回復の程度を正確に判定することができる。
上記の測定装置は、一態様のプログラムをコンピュータに読み込ませて実行することで実現することができる。すなわち、コンピュータを、被測定者の身体の一以上の部位の電気抵抗値を取得する電気抵抗値取得部、前記被測定者の身体の一以上の部位の電気抵抗値に基づいて、前記被測定者の筋肉の量的指標値と質的指標値とを算出する算出部、前記算出した量的指標値と質的指標値に基づいて、前記電気抵抗値を取得した部位における怪我の発生、怪我の程度および怪我の回復の程度のうちいずれか一以上の推定を行う推定部、として機能させるプログラムである。
本発明の測定装置を利用することで、怪我の発生、怪我の程度、怪我の回復の程度を精度よく推定することができる。
本発明の測定装置1の概略構成図の一例を図1に示す。測定装置1は、被測定者に微弱電流を流すことで、インピーダンス、リアクタンス、レジスタンスなどの身体の電気抵抗値を測定する装置である。
測定装置1は、本体部2と右ハンドグリップ3Rと左ハンドグリップ3Lとを備える。本体部2は、被測定者が載る載台20と報知部21と体重測定部22と電気抵抗値取得部23と算出部24と推定部25と記憶部26とを備える。被測定者は、裸足で載台20の上に立ち、右手で右ハンドグリップ3Rを、左手で左ハンドグリップ3Lをそれぞれ把持することで、体組成を測定することが好ましいが、載台20のみを用い右ハンドグリップ3Rおよび左ハンドグリップ3Lを用いない、あるいは載台20を用いずに右ハンドグリップ3Rおよび左ハンドグリップ3Lのみを用いるようにしてもよい。また、被測定者の全身を測定するタイプの測定装置に限らず、上腕の一部または腹部の一部等の局所の電気抵抗値を測定するタイプの測定値であってもよい。
載台20には右足通電電極201Rと右足測定電極202Rと左足通電電極201Lと左足測定電極202Lとを備えている。また、右ハンドグリップ3Rは右手通電電極31Rと右手測定電極32Rとを備えており、左ハンドグリップ3Lは、左手通電電極31Lと左手測定電極32Lとを備えている。
報知部21は、算出部24などで演算処理をした結果、推定部25での推定結果などの報知を行う装置である。報知を行う装置としては、たとえば液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイなどの表示装置のほか、スピーカなどの音声出力装置などがある。また、報知を行う装置は、被測定者が利用するスマートフォンやタブレット型コンピュータなどの可搬型通信端末に通知をする通信装置などであってもよい。
体重測定部22は、被測定者の体重を測定するためのロードセルを備えている。ロードセルは荷重に応じて変形する金属部材の起歪体と、起歪体に貼られる歪みゲージとによって構成される。被測定者が載台20の上に載ると、被測定者の荷重によってロードセルの起歪体が撓んで歪みゲージが伸縮する。歪みゲージの抵抗値(出力値)は、その伸縮に応じて変化する。
電気抵抗値取得部23は、各通電電極から被測定者の身体の所定部位に所定の周波数の微弱電流を流すことにより測定された電流経路に生じる電位差と、電流とに基づいて電気抵抗値を測定し、取得する。
被測定者の全身および各身体部位のインピーダンス(生体インピーダンス)などの電気抵抗値の測定は、たとえば以下のようにして行う。
(1)全身の生体インピーダンスの測定では、左手通電電極31L及び左足通電電極201Lを用いて電流を供給し、左手、左腕、胸部、腹部、左脚部、左足を流れる電流経路において、その左手に接触している左手測定電極32Lと左足に接触している左足測定電極202Lとの間の電位差を測定する。
(2)右脚の生体インピーダンスの測定では、右手通電電極31R及び右足通電電極201Rを用いて電流を供給し、右手、右腕、胸部、腹部、右脚部、右足を流れる電流経路において、その左足に接触している左足測定電極202Lと右足に接触している右足測定電極202Rとの間の電位差を測定する。
(3)左脚の生体インピーダンスの測定では、左手通電電極31L及び左足通電電極201Lを用いて電流を供給し、左手、左腕、胸部、腹部、左脚部、左足を流れる電流経路において、その左足に接触している左足測定電極202Lと右足に接触している右足測定電極202Rとの間の電位差を測定する。
(4)右腕の生体インピーダンスの測定では、右手通電電極31R及び右足通電電極201Rを用いて電流を供給し、右手、右腕、胸部、腹部、右脚部、右足を流れる電流経路において、その左手に接触している左手測定電極32Lと右手に接触している右手測定電極32Rとの間の電位差を測定する。
(5)左腕の生体インピーダンスの測定では、左手通電電極31L及び左足通電電極201Lを用いて電流を供給し、左手、左腕、胸部、腹部、左脚部、左足を流れる電流経路において、その左手に接触している左手測定電極32Lと右手に接触している右手測定電極32Rとの間の電位差を測定する。
電気抵抗値取得部23は、一つの周波数の微弱電流を流すほか、低周波電流、高周波電流のように複数の周波数の電流を流してもよい。また、測定する電気抵抗値も、インピーダンスのみならず、リアクタンスとレジスタンスとを別々に電気抵抗値として測定してもよい。なお、電気抵抗値取得部23は、測定装置1に備えられるほか、測定装置1以外に備えられ、測定装置1で測定した電気抵抗値を取得してもよい。
算出部24は、被測定者の年齢、性別、身長の情報のほか、体重測定部22で測定した被測定者の体重と、電気抵抗値取得部23で取得した電気抵抗値とを所定の推定式に適用して演算することで、全身および/または身体部位ごとの体組成の測定値を算出する。推定式の一例としては、回帰式を用いることができる。算出部24は、体組成の測定値として、脂肪率、脂肪量、除脂肪量、筋肉量、筋質、内臓脂肪量、内臓脂肪レベル、内臓脂肪面積、皮下脂肪量、基礎代謝量、骨量、体水分率、BMI、細胞内液量、細胞外液量等を算出する。体組成測定値の演算に関する処理としては、一般の体組成計と同様の処理を用いることができる。体組成の測定値は、筋肉の量または筋肉の質を示す指標値を含んでいる。筋肉の量を示す指標値としては、上述の筋肉量を用いてもよいし、インピーダンス、抵抗、インピーダンスインデックスなどの測定値を用いて筋肉の量を示す指標値を別に算出してもよい。筋肉を量的観点から示す指標値を総称して量的指標値という。また、筋肉の質を示す指標値としては、上述の筋質を用いてもよいし、リアクタンス、位相角(Phase angle)、リアクタンスとレジスタンスの比、異なる周波数のインピーダンス比などの測定値を用いて筋質を示す指標値を別に算出してもよい。筋肉を質的観点から示す指標値を総称して質的指標値という。被測定者の年齢、性別、身長の情報は、被測定者から入力を受け付けてもよいし、被測定者が所持するデバイスにあらかじめ記憶しておき、それらから情報の入力を受け付けてもよい。また、後述する記憶部26に、被測定者の年齢、性別、身長の情報などを記憶しておき、それらを所定の操作で呼び出して処理に用いてもよい。筋肉の量的指標値および質的指標値は、電気抵抗値取得部23で取得した電気抵抗値を用いて、直接的または間接的に算出できればよい。直接的に算出する例としては、上述のリアクタンス、位相角(Phase angle)、リアクタンスとレジスタンスの比、異なる周波数のインピーダンス比などの測定値があり、間接的に算出する例としては、筋肉量等の体組成の測定値がある。いずれの例も、電気抵抗値に基づいて筋肉の量的指標値および質的指標値を算出するものである。
推定部25は、算出部24で電気抵抗値から直接的または間接的に算出した量的指標値と質的指標値とを用いて、筋肉の状態を量的観点および質的観点から比較し、怪我の程度、怪我の発生、怪我の回復の程度のうちいずれか一以上を推定する。なお、本発明における怪我とは、筋肉、骨、神経などの身体を構成する部位に何らかの損傷が発生することによって、筋肉の正常な状態に対して何らかの影響が及ぶものであればよい。また、本発明においては、身体を構成する部位に直接的に損傷が発生する場合に限らず、脳等の他の部位の損傷によって身体の部位に麻痺等の不具合が発生し、筋肉の正常状態に対して何らかの影響が及ぶ場合も含むものである。
怪我をしてから回復するまで、量的指標値と質的指標値は図3のグラフ(標準的な回復曲線)に示すように変化する。なお、回復曲線とは、一般的なリハビリ等の治療または介入を行った際の時間経過と、筋肉の量的指標値および質的指標値との関係を示すグラフであって、たとえば時間経過とともに筋肉の量的指標値および質的指標値で表される怪我の回復度合いを示す曲線である。また指標値と怪我の関係を図4の表に示す。受傷時における量的指標値、質的指標値のバランスの変化と、量的指標値と質的指標値についての左右のバランス、受傷前後でのバランスとを組み合わせて、怪我の程度および/または怪我の回復の程度を推定する。怪我の程度の推定としては、あらかじめ定めた複数の怪我の程度のランク、たとえば軽傷、中傷、重傷のうちどこに属するかを推定する。また怪我の回復の程度としては、怪我の全快までの日数や期間を推定する。
まず、推定部25が怪我の程度の推定を行う場合を説明する。
推定部25が怪我の程度の推定を行う場合には、推定部25は、体組成の測定値における量的指標値と質的指標値を用いて、受傷前後の量的指標値、質的指標値のバランスの変化および/または身体の左右での、受傷時における量的指標値、質的指標値のバランスの変化により推定する。怪我の程度の推定を行う場合の一例を図5および図6に示す。図5は量的指標値に基づく場合であり、図6は質的指標値に基づく場合を示している。
すなわち、推定部25は、算出部24で算出した量的指標値、質的指標値について、それぞれの指標値の正常時の値と比較して、その乖離によって、怪我の程度を推定する。正常時の量的指標値、質的指標値の算出方法は、受傷前後での比較を行う場合には、受傷前の一定期間の量的指標値、質的指標値を抽出し、平均、測定日に近い日付に重み付けをした移動平均、その標準偏差などによって得られる演算値を用いる。また、身体の左右での比較を行う場合には、非受傷側(受傷していない側)の量的指標値、質的指標値を用いる。
より具体的には、受傷前後での比較を行う場合には、後述する記憶部26に記憶している被測定者の受傷前の量的指標値、質的指標値を抽出し、抽出した受傷前の量的指標値、質的指標値について、平均、測定日に近い日付に重み付けをした移動平均、その標準偏差などの所定の演算によって得られる演算値を算出する。そして、算出した演算値と、受傷後に算出部24で算出した量的指標値、質的指標値との比較を行う。この比較は、たとえば受傷後の量的指標値、質的指標値について、受傷前の演算値に対する割合の算出により行え、受傷前との乖離により怪我の程度を推定する。たとえば、乖離が10%程度であれば軽傷、30%程度であれば中傷、50%程度あれば重傷といったように推定する。また、受傷後の量的指標値、質的指標値について、受傷前に対する量的指標値、質的指標値に対する割合を評価することで、怪我の程度を推定してもよい。一例としては、
(受傷前の量的指標値または質的指標値)÷(受傷後の量的指標値または質的指標値)×100
を演算してその結果によって怪我の程度を推定してもよい。
受傷前後での比較を行う場合には、さらに、受傷後に算出部24で算出した1回の量的指標値、質的指標値で、受傷前の量的指標値、質的指標値と比較するのではなく、受傷後に算出部24で算出した複数回の量的指標値、質的指標値を用いて、受傷前の量的指標値、質的指標値と比較するようにしてもよい。この場合、受傷後に算出部24で算出した複数回の量的指標値、質的指標値の平均、重み付けをした移動平均、その標準偏差などの所定の演算をした演算値で比較をしてもよいし、数値の変化(傾きまたは差分)で判定してもよい。
怪我や麻痺により生じる筋肉の異常状態は、筋肉を量の観点から評価したときと、筋肉を質の観点から評価したときでは同じような相関関係があるわけではない。たとえば、急性期は、受傷による炎症や浮腫により、筋肉量を示す指標値は一時的に増加するのに対し、筋肉の質(筋質)は、炎症等により細胞外水分量が増加するため筋質を示す指標値は低下する。怪我の程度が小さい場合、本人が怪我に気づかず運動を継続することもある。筋肉を量の観点のみから評価した場合、量的指標値が急性期直後に微増したとしてもそれを運動の効果と勘違いし、怪我の発生を正確に評価できない可能性がある。また、運動を継続することで、怪我によって生じた炎症が改善しないと、図7に示すように、量的指標値が微増した状態で急性期直後以降も減少しないため、この段階でも怪我の発生を正確に評価できない可能性がある。その一方、怪我による炎症によって細胞外液量が増加することによって、筋肉の質的指標値は減少する。そのため、本発明のように、筋肉の量的指標値と質的指標値の双方で評価をすることで、筋肉の量的指標値のみで評価した場合と比較して、怪我の発生を正確に評価できる。
怪我からの回復期には廃用性萎縮により筋肉量を示す指標値は低下し、リハビリとともに徐々に回復をする。また筋肉を動かせないことによる筋細胞径の低下により筋質を示す指標値は低下し、リハビリにより筋肉を動かすことで筋線維径も太くなる。すなわち、怪我からの回復期には、リハビリなどによって筋肉の量的指標値および質的指標値が増加していくが、必ずしも筋肉の量的指標値および質的指標値が同じタイミングで怪我の発生前の水準に戻るわけではない。図8に示すように、質的指標値が先行して怪我の発生前の水準に戻ることがある。筋肉の質的指標値のみで評価した場合には、筋肉量が怪我の発生前よりも少ない状態であるにもかからず、怪我の発生前と同じ筋肉の状態であると評価してしまう可能性がある。筋肉量と力は比例するため、怪我の発生前と同じ力が出せない可能性がある。このように、筋肉の量的指標値と質的指標値の双方で評価する場合には、筋肉の質的指標値のみで評価した場合と比較して、怪我の回復の程度を正確に評価できる。さらにいえば、機能面まで含めた怪我の回復の程度を正確に評価することができる。
以上のように、推定部25によって、量的指標値および質的指標値の双方を用いることで怪我の発生、怪我の程度、怪我の回復の程度を精度よく推定できる。
被測定者が怪我をしたことを把握していた場合には、その怪我の発生(怪我の有無)と、怪我の部位などの情報の入力を受け付けてもよい。推定部25は、受傷日の前から一定期間の量的指標値、質的指標値を抽出する。抽出した受傷前における量的指標値、質的指標値の平均、測定日に近い日付に重み付けをした移動平均、その標準偏差など所定の演算によって得られる演算値について、受傷前の演算値に対する割合を算出し、受傷前との乖離により、怪我の程度を推定する。
また被測定者が怪我をしたことを把握していない場合、たとえば被測定者が高齢者やスポーツ選手などの場合には怪我に気づかない場合もある。そして被測定者が怪我の発生を認識していないことから、怪我の発生と、怪我の部位などの情報の入力を受け付けることはできない。この場合、ある一時点の量的指標値、質的指標値の数値からだけで怪我の発生を正確に特定するのは困難である。そのため、複数回の量的指標値、質的指標値の数値の変化を検出することによって、怪我の発生およびその程度を推定することができる。なお、同じ時点における複数回の量的指標値、質的指標値の測定結果を用いて、怪我の発生およびその程度を推定してもよい。測定日から一定期間前までの量的指標値、質的指標値を抽出する。抽出した量的指標値、質的指標値について、所定以上の数値の変化(所定以上の傾き)を検出した場合には、怪我があったと判定する。そして、数値の変化の前までの量的指標値、質的指標値を受傷前、数値の変化以後の量的指標値、質的指標値を受傷後の量的指標値、質的指標値として、上述のような処理をすることで、怪我の程度を推定してもよい。
怪我の発生を推定した場合には、推定部25が報知部21を介して被測定者に対して報知し、怪我があったことの確認を受け付けてもよい。
推定部25が、身体の左右での比較を行う場合には、受傷側の量的指標値と質的指標値と、非受傷側の量的指標値と質的指標値とを用いて、受傷側を非受傷側に対する割合で算出し、非受傷側との乖離により、怪我の程度を推定する。たとえば乖離が10%程度であれば軽傷、30%程度であれば中傷、50%程度あれば重傷といったように推定する。すなわち、非受傷側を筋肉の正常時の量的指標値、質的指標値とみなして、受傷側との比較に用いることができる。また、受傷前の身体の左側と受傷後の身体の左側、受傷前の身体の右側と受傷後の身体の右側におけるそれぞれの指標値を比較することで怪我の程度を推定してもよい。
推定部25は、身体の左右での比較と受傷前後の比較とを組み合わせてもよい。たとえば身体の左側を損傷した場合の受傷後の身体の左側と受傷前の身体の右側、あるいは身体の右側を損傷した場合の受傷後の身体の右側と受傷前の身体の左側におけるそれぞれの指標値を比較することで怪我の程度を推定してもよい。
さらに、量的指標値、質的指標値について、左右の部位ごとに量的指標値、質的指標値に基づく演算値の算出、乖離の推定を行ってもよい。
つぎに推定部25が怪我の回復の程度の推定を行う場合を説明する。この処理を模式的に示すのが図9および図10である。
記憶部26には、あらかじめ標準的な回復曲線を記憶させておく。そして推定部25は、算出部24で算出した各指標値と、正常時(受傷前)の各指標値との差を算出し、記憶部26に記憶した回復曲線と比較することで、全快までの期間を推定する(図9)。そして、前回の測定値と今回の測定値とを用いた回復程度の割合(%/日数)から回復速度を算出し、全快までの期間を長くする、短くする補正を行うことで、被測定者のその指標値における回復期間を推定する(図10)。この際に、前回の測定値に対する変動度合い(回復度合い)を点数化してもよい。そして、量的指標値、質的指標値のそれぞれについて、上述の処理を実行することで、指標値ごとの回復期間を推定する。
量的指標値での回復期間、質的指標値での回復期間について、それぞれ重み付けをした演算を行うことで、最終的な回復期間を算出する。たとえば、量的指標値と質的指標値とについて同等の重み付けとする場合、
0.5×量的指標値による回復期間+0.5×質的指標値による回復期間
で算出する。
また、量的指標値と質的指標値について異なる重み付けをしてもよい。たとえば量的指標値と質的指標値について、その回復速度が異なる場合、その割合に応じた重み付けとしてもよい。たとえば、正常時(標準的な回復曲線)に対して量的指標値の回復速度が6割、質的指標値の回復速度が3割であった場合、
6÷(6+3)×量的指標値による回復期間+3÷(6+3)×質的指標値による回復期間
で算出する。推定部25は、それ以外の重み付けを用いてもよい。
以上のように算出することで、推定部25は怪我の回復の程度の推定を行える。
算出部24や推定部25は、本体部2における所定の演算処理装置が所定のコンピュータプログラムを実行することで実現できる。
記憶部26は、本発明の測定装置1における演算処理装置で実行するコンピュータプログラムやそのコンピュータプログラムの処理で演算するための情報などを記憶している。たとえば算出部24で用いる推定式や、推定部25で実行する算出式などを実行するコンピュータプログラム、被測定者の年齢、性別、身長、算出部24で算出した体組成の値、標準的な回復曲線など、本発明の処理に必要な情報などを記憶している。記憶部26は、SSD、HDDなどの記憶媒体によって構成される。記憶部26は、本体部2に対して着脱可能な可搬型の記憶媒体であってもよい。演算処理装置は、記憶部26に対して情報の読出し、書き込みを行う。なお、報知部21、演算処理装置および記憶装置は、一体となってタブレット型コンピュータ、スマートフォンなどで構成されていてもよい。コンピュータプログラムは、あらかじめ記憶部26に記憶されていてもよいし、演算処理装置がネットワークを介してダウンロードして記憶部26に記憶してもよいし、可搬型の記憶媒体を介して記憶部26に記憶させてもよい。
なお、測定装置1は、サーバなどのほかの情報処理装置との通信機能を有していてもよい。
つぎに本発明の測定装置1を用いた場合の処理の一例を図2のフローチャートを用いて説明する。
まず測定装置1を利用する際に、被測定者または医師などの第三者の測定者は、たとえば報知部21を介して、被測定者の年齢、性別、身長の情報の入力を行う。この入力を算出部24で受け付ける(S100)。また、受傷部位がわかっている場合には、被測定者または医師などの第三者は、受傷部位、受傷日などの情報を入力する。この入力を推定部25で受け付ける。これらの入力は、被測定者自らが行ってもよいし、あるいは、医師、看護師、臨床検査技師などをはじめとした医療従事者などの、測定を行う第三者が被測定者から聴取をして入力を行ってもよい。
被測定者は、測定装置1の載台20に、右足を右足通電電極201Rと右足測定電極202Rの上に、左足を左足通電電極201Lと左足測定電極202Lの上に位置するように裸足でのる。また右手では右ハンドグリップ3Rを握り、左手では左ハンドグリップ3Lを握る。電気抵抗値取得部23は、各通電電極から被測定者の身体の所定部位に一または複数の周波数の微弱電流を流し、電流経路に生じる電位差を測定し、取得する。そして測定した電位差および電流に基づいて電気抵抗値を算出する(S110)。さらに、体重測定部22で被測定者の体重を測定する(S120)。
そして、算出部24は、被測定者の年齢、性別、身長、被測定者の体重、電気抵抗値取得部23で取得した電気抵抗値を、所定の推定式(アルゴリズム)に適用して演算することで、全身および/または身体部位ごとの体組成の測定値を算出する(S130)。
S130において、算出部24が体組成の測定値を算出すると、推定部25は、算出部24で算出した体組成の測定値における量的指標値と質的指標値とを用いて、筋肉の状態を量的観点および質的観点から比較し、怪我の程度および/または怪我の回復の程度を推定する(S140)。
推定部25による怪我の程度および/または怪我の回復の程度は、報知部21を介して被測定者に対して報知する(S150)。たとえば報知部21が表示装置の場合、図11に示すような表示をする。
以上の処理によって、被測定者の怪我の程度、怪我の回復の程度などを推定し、被測定者に報知することができる。また、被測定者が、高齢者やスポーツ選手など、怪我の発生に気づきにくい人の場合には、怪我の発生およびその程度を認識させることができる。
なお、上述のS100からS120の処理とS130およびS140の処理とについては、任意の順番で行ってよい。被測定者に対して情報を知らせる方法としては、報知部21における表示のほか、音声や振動など各種の方法で報知してもよい。
また、怪我の発生や怪我の部位などの情報の入力を受け付けていない場合であっても、推定部25が、複数回の量的指標値、質的指標値の数値の変化を検出することによって、怪我の発生およびその程度を推定することができる。すなわち、推定部25が測定日から一定期間前までの量的指標値、質的指標値を抽出し、抽出した量的指標値、質的指標値について、所定以上の数値の変化(所定以上の傾き)を検出した場合には、怪我があったと判定する。そして、数値の変化の前までの量的指標値、質的指標値を受傷前、数値の変化以後の量的指標値、質的指標値を受傷後の量的指標値、質的指標値として、上述のS140における処理を行うことで、怪我の程度を推定してもよい。
推定部25が怪我の発生を推定した場合には、図12に示すように、怪我が発生したことを示す表示をしてもよい。
このように、怪我の発生を自動的に推定することによって、被測定者が怪我をしたことを認識していない場合であっても、怪我の発生の可能性を被測定者に認識させることができる。
上述の実施例では、S100で入力する情報を、被測定者や医療従事者などの第三者が入力を行う場合を説明したが、被測定者が所持する任意のデバイスにそれらの情報を記憶しておき、測定装置1が接触通信または非接触通信によりデバイスからそれらの情報を受け付けることで、入力を不要としてもよい。
この場合、測定装置1は、測定装置1にデバイスが接触することでデバイスと通信をし、または通信圏内にデバイスが位置することで非接触でデバイスと通信をし、デバイスからS100における情報を受け付けて、以後の処理を自動的に実行するように構成してもよい。
本実施例の処理について、たとえばデバイスが近距離無線通信(NFC)が可能なスマートフォンなどの可搬型通信端末の場合、当該スマートフォンに所定のアプリケーションソフトウェアをインストールしておく。そしてこのアプリケーションソフトウェアが参照する所定の記憶手段に、被測定者の年齢、性別、身長、などの情報をあらかじめ記憶しておく。被測定者が載台20に載った場合に、スマートフォンを測定装置1の所定箇所に近づけると、スマートフォンと測定装置1との間で近距離無線通信を開始し、アプリケーションソフトウェアが参照する記憶手段から被測定者の年齢、性別、身長などを読出し、読み出した情報を測定装置1に送る。
これらの情報を受け付けた測定装置1は、算出部24による体組成の算出処理、推定部25による筋肉の状態の推定の処理を自動的に実行する。
また、被測定者の年齢、性別、身長などの情報は、被測定者の識別情報に対応づけて測定装置1の記憶手段に記憶していてもよい。この場合、測定装置1において被測定者であることの認証処理を認証部(図示せず)において行うと、認証した被測定者の識別情報に基づいて、被測定者の年齢、性別、身長などの情報を記憶手段から読出し、読み出した情報に基づいて、測定装置1は、算出部24による体組成の算出処理、推定部25による筋肉の状態の推定の処理を自動的に実行する。なお、被測定者の年齢、性別、身長などの情報は、スマートフォンなどの可搬型通信端末や測定装置1のほか、データベースなど任意の記憶手段に記憶していてよい。またこのデータベースはクラウド上にあってもよい。
被測定者であることの認証処理は、たとえば被測定者の顔、指紋、掌紋などの生体情報を読み取る生体認証で行うほか、IDとパスワードに基づく認証、被測定者が所持するカードやスマートフォンなどの可搬型通信端末に記憶した認証情報を受け取る方法など、各種の認証処理の方法を用いることができる。
このような処理とすることで、被測定者はスマートフォンを測定装置1の所定箇所に近づけるだけで、体組成の算出処理、推定部25での処理を実行させることができる。
なお近距離無線通信は、Bluetooth(登録商標)、ZigBee(登録商標、FeliCa(登録商標)、RFIDなどのそれぞれの通信規格で実現することができる。
本発明の測定装置1は、報知部21を介して、被測定者が所持する任意のデバイスに、算出部24で算出した体組成の値、推定部25での推定結果などを出力するようにしてもよい。
算出部24で算出した体組成の測定値、推定部25での怪我の程度、怪我の回復の程度の推定結果は、測定装置1からデバイスに対して送り、被測定者はデバイスを閲覧することで、体組成の測定値、推定部25での怪我の程度、怪我の回復の程度を知ることができる。
上述の各実施例では、上述の筋肉の正常時の量的指標値、質的指標値について、被測定者自身の量的指標値、質的指標値を用いる場合を説明したが、一以上の人間(被測定者を含んでも含まなくてもよい)の統計データに基づく量的指標値、質的指標値を用い、それを比較対象としてもよい。この場合、さらに身長、体重、性別、年齢、運動習慣別などの情報について統計データに含まれていてもよい。
性別、年齢、身長、体重、運動頻度、強度がわかることによって、体組成の測定値における筋肉量などの量的指標値、筋質などの質的指標値は推定することができる。そのため、そこから推定された数値と比較することで、怪我の程度、怪我の回復の程度を推定してもよい。
また本発明の測定装置1を使用した直後は、被測定者の十分な数の測定結果が記憶されていない場合もある。そのため、使用開始から一定期間は、受傷時の量的指標値、質的指標値の変化から統計的に推定される全治期間を記憶させておき、それに基づいて、怪我の回復の程度を推定するようにしてもよい。
上述の各実施態様の別の例として、電気抵抗値取得部23、算出部24、推定部25、記憶部26などの機能については、測定装置1に備えるのではなく、測定装置1で測定した測定値を取得することで、測定装置1とは異なる装置、たとえばスマートフォン若しくはタブレット型コンピュータなどの可搬型通信端末またはサーバを含む情報処理装置などにおいて、アプリケーションプログラムとして実現してもよい。この場合、測定装置1には体重測定部22、電気抵抗値取得部23を備え、体重測定部22で測定した体重、電気抵抗値取得部23で測定した電気抵抗値を、上述のコンピュータで取得し、そのコンピュータのアプリケーションプログラムで実現する算出部24、推定部25などにおいて上述と同様の処理を実行する。