JP2022056005A - 鋼線とその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】高いヤング率の鋼線及びその製造方法を提案する。【解決手段】質量%で、C:0.40~1.50%、Si:0.02~2.50%、Mn:0.10~2.50%、P:0.05%以下、S:0.05%以下を含有し、残部Feおよび不純物よりなり、金属組織はフェライトとセメンタイトとの層状組織が面積率で60%以上占める鋼線であって、鋼線横断面の鋼線表面からD/4(D:線径)より深い中心部の任意の位置において、フェライトの<111>配向率が35%以上であり、鋼線横断面の鋼線表面からD/8(D:線径)までの表層部の任意の位置において、結晶方位が鋼線半径方向に対してランダム方位であり、鋼線のヤング率が、220GPa以上である鋼線及びその製造方法である。【選択図】なし

Description

本発明は、鋼線及びその製造方法に関する。
従来、自動車のディーゼルエンジンでは、サイドに配置されたカムシャフトの動きを、プッシュロッドによりエンジン上方のロッカアームに伝えてバルブの開閉を行っている。そのため、プッシュロッドの撓みはできるだけすくないほうがよい。このプッシュロッドには、高ヤング率の鋼線が利用されている。
これらの鋼線を製造するための加工法として古くからもっぱらダイスによる伸線加工が用いられており、例えば、素材のパテンティング条件、ダイス角度、各段減面率、等の伸線の条件による調整が行われている。
特許文献1では、過共析鋼の成分調整をして、パテンティング処理時の初析セメンタイトの析出を抑えることで、共析鋼と同様のパーライト組織を形成し、デラミネーション発生限界が高められるとしている。
特許文献2では、高炭素鋼線材を冷間で圧延又はローラーダイス引抜きすることで、延性の劣化なしに超高張力鋼線が得られるとしている。
特公平2-10220号公報 特公平7-65096号公報 特開2016-183357号公報
本発明者らは、新たに検討を進め、特許文献3として、等方的なヤング率及び優れた加工性を有する鋼線及びその製造方法を提案した。そして、さらに、本発明者らが検討を重ねた結果、異なる技術的なアプローチによる、高ヤング率の鋼線及びその製造方法を見出した。
つまり、本発明の課題は、高いヤング率の鋼線及びその製造方法を提供することである。
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、その趣旨とするところは次の通りである。
<1>
質量%で、
C:0.40~1.50%、
Si:0.02~2.50%、
Mn:0.10~2.50%、
P:0.05%以下、および
S:0.05%以下、
を含有し、残部Feおよび不純物からなり、金属組織はフェライトとセメンタイトとの層状組織が面積率で60%以上占める鋼線であって、
鋼線横断面の鋼線表面からD/4(D:線径)より深い中心部の任意の位置において、フェライトの<111>配向率が35%以上であり、
鋼線横断面の鋼線表面からD/8(D:線径)までの表層部の任意の位置において、結晶方位が鋼線半径方向に対してランダム方位であり、
鋼線のヤング率が、220GPa以上である、
鋼線。
<2>
質量%で、
Al:0.100%以下、
Cr:0.50%以下、
B :0.0030%以下、
Ti:0.020%以下、
Mo:0.030%以下、
V :0.50%以下、
Cu:0.10%以下、
Ni:0.10%以下、および
Nb:0.10%以下、
の1種又は2種以上を含有する<1>に記載の鋼線。
<3>
鋼線表面の周方向の中心線平均粗さ(Ra)が、20μm以下である<1>または<2>に記載の鋼線。
<4>
鋼線材を冷間伸長加工する工程であって、前記冷間伸長加工がロータリースエージング加工を含み、前記冷間伸長加工における鋼線材の全断面減少率の中の前記ロータリースエージング加工による鋼線材の断面減少率の占める割合が30%以上で、かつ前記冷間伸長加工を前記ロータリースエージング加工で仕上げる工程を有する、
<1>~<3>のいずれか1項に記載の鋼線の製造方法。
本発明によれば、高いヤング率の鋼線及びその製造方法を提供できる。
実施例で使用するロータリースエージングダイスを示す概略図である。図1(A)は、鋼線材の通材方向に平行な、ロータリースエージングダイスの平面図であり、図1(B)は、アプローチ部を示す図1(A)のB-B断面図であり、図1(C)は、ベアリング部を示す図1(A)のC-C断面図である。 実施例で使用するロータリースエージングダイスにおけるアプローチ部及びベアリング部を示す断面図である。 ロータリースエージング加工装置の一例を示す概略断面図である。 ロータリースエージング加工中に、鋼線材の鋼線材横断面の形状が変化する様子を示す模式図である。
以下、本発明の一例である実施形態について説明する。
なお、本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、特に指定しない限り、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。よって、例えば、0.65~1.50%は0.65%以上1.50%以下の範囲を意味する。
成分組成における「%」は、特に断らない限り、質量%を意味するものとする。
成分組成の元素の含有量は、元素量(例えば、C量、Si量等)と表記することがある。
「工程」との用語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
本実施形態の鋼線は、所定の成分組成を有し、下記(1)~(4)の構成を有する。
(1)フェライトとセメンタイトとの層状組織が面積率で60%以上占める。
(2)鋼線横断面の鋼線表面からD/4(D:線径)より深い中心部の任意の位置において、フェライトの〈111〉配向率が35%以上である。
(3)鋼線横断面の鋼線表面からD/8(D:線径)までの表層部の任意の位置において、結晶方位が鋼線半径方向に対してランダム方位である。
(4)鋼線のヤング率が、220GPa以上である。
本実施形態の鋼線は、上記構成により、高いヤング率の鋼線となる。
ここで、自動車のディーゼルエンジンにおいて、サイドに配置されたカムシャフトの動きをエンジン上方のロッカアームに伝えてバルブの開閉するプッシュロッドは、ヤング率が高くなれば、その分撓みが少なくなる。そのため、高いヤング率を有する本実施形態の鋼線を適用するのが有効である。
また、プッシュロッドは、エンジンのシリンダの横に設置されるため高温環境下に曝されるかたちとなる。一方、本実施形態の鋼線は、発現した高ヤング率が再結晶しない限り低下しない。この点でも、本実施形態の鋼線を適用するのが有効である。
また、本実施形態の鋼線は、従来の鋼線よりも高いヤング率を有するため、ピアノ線として同じ張力でフレームに張られていたとしても、ヤング率の変化によって、従来のピアノ線とは「高次倍音」の成分が異なる。それにより、音色に根本的な変化がもたらされると推測される。
このように、本実施形態の鋼線は、高いヤング率を有するため、ディーゼルエンジン用プッシュロッド、ピアノ線(ミュージックワイヤ)などへの適用に有用である。
以下、本実施形態の鋼線について詳細に説明する。
まず、最初に、本実施形態の鋼線の成分組成について述べる。
本実施形態に係る鋼線は、次の(A)又は(B)の鋼線が好ましい。
(A)C:0.40~1.50%、Si:0.02~2.50%、Mn:0.10~2.50%、P:0.05%以下、S:0.05%以下を含む鋼線。
(B)C:0.40~1.50%、Si:0.02~2.50%、Mn:0.10~2.50%、P:0.05%以下、およびS:0.05%以下と、Al:0.100%以下、Cr:0.50%以下、B :0.0030%以下、Ti:0.020%以下、Mo:0.030%以下、V :0.50%以下、Cu:0.10%以下、Ni:0.10%以下、およびNb:0.10%以下の1種又は2種以上と、を含む鋼線。
なお、本実施形態に係る鋼線は、(1)所定量で、C、Si、Mn、P、およびSを含み、残部がFeおよび不純物からなる鋼線、又は、(2)所定量で、C、Si、Mn、P、およびSと、Al、Cr、B、Ti、Mo、V、Cu、Ni、およびNb:0.10%以下の1種又は2種以上とを含み、Feおよび不純物からなる鋼線であってもよい。
ただし、Si、Mn、P、S、Al、Cr、B、Ti、Mo、V、Cu、Ni、およびNbは、任意元素である。つまり、これら任意元素は、添加しなくてもよい。そして、これら任意元素の1種又は2種以上を含有させる場合、元素の含有量の上限値は、0%超え後述する範囲の上限値以下が好ましく、後述する範囲がより好ましい。
C(炭素):0.40~1.50%
Cは、0.40%未満又は1.50%を超えると、ロータリースエージング加工による塑性流動の調整効果が発揮されず、高ヤング率の源である高いフェライトの<111>配向率を得ることができず、鋼線全体としてのヤング率も高められないため、除外する。よって、C量は、0.40~1.50%の範囲に制限する。C量は、より好ましくは0.65~1.10%、さらに好ましくは0.70~0.95%である。
Si(珪素):0.02~2.50%
Siは、パーライト中のフェライトを強化させ、鋼の脱酸に有効な元素である。また、パーライト変態時に整ったラメラ構造を形成させる効果がある。しかしながら、Si量が0.02%未満では上記の効果が期待できず、Si量が2.50%を越えるとその効果が飽和する。よって、Si量を0.02~2.50%の範囲に制限することが好ましい。Si量は、より好ましくは0.05~2.00%、さらに好ましくは0.10~1.20%、もっとも好ましくは0.20~0.50%である。
Mn(マンガン):0.10~2.50%
Mnは、脱酸、脱硫のために必要であるばかりでなく、鋼の焼入性を向上させ、熱処理後の鋼線の引張強度を高めるために有効な元素である。しかしながら、Mn量が0.10%未満では上記の効果が得られない。一方、Mn量が2.50%を超えるとMn偏析が生じ易く、鋼材の加工性が劣化し、伸長加工中の破断原因となるだけでなく、延性を劣化させてしまう。このため、Mn量を0.10~2.50%の範囲に限定することが好ましい。Mn量は、より好ましくは0.20~2.00%、さらに好ましくは0.30~1.40%、もっとも好ましくは0.50~1.20%である。
P: 0.05%以下
Pは、鋼中に偏析しやすい元素であり、フェライト中にPが濃化して鋼を脆化させるので、0.05%以下とすることが好ましい。
なお、P量の下限は、0%がよいが(つまり含まないことがよいが)、脱Pコストを低減する観点から、0%超え(又は0.0001%以上)であることがよい。
S: 0.05%以下
Sは、多量に添加すると鋼中に多数のMnSを形成し、鋼中に固溶状態で効果を発揮する上記Mnの濃度を低下させることにより、その効果を阻害することから、0.05%以下とすることが好ましい。
なお、S量の下限は、0%がよいが(つまり含まないことがよいが)、脱Sコストを低減する観点から、0%超え(又は0.0001%以上)であることがよい。
Al(アルミニウム):0.100%以下
Alは、フェライト素地を微細強化する効果がある。0.10%を超えて過剰に含有すると、鋼を逆に脆化させる可能性が高くなる。従って、適切なAlの含有量は0.10以下とすることが好ましい。Al量は、より好ましくは0.015%~0.040%、さらに好ましくは0.020%~0.030%である。
Cr(クロム):0.50%以下
Crは、変態温度を低下させることにより、パーライトラメラ間隔を微細化させる効果のある元素である。Cr量が0.50%超えでは鋼線の延性を劣化させる可能性がある。したがって、Cr量は0.50%以下が好ましい。Cr量は、より好ましくは0.02~0.50%、さらに好ましくは0.20%~0.30%である。
B(ホウ素):0.0030%以下
Bは、適量の微量添加で結晶粒界の強度を強化するもので、ロータリースエージング加工による高ヤング率形成に有効な結晶方位を鋼線伸長方向に配向させるために有利な塑性流動を促進する効果がある。B量が0.0030%超では逆に粒界の結合を阻害し、欠陥の発生を助長するする要因にもなり易い。したがって、B量は、0.0030%以下が好ましい。B量は、より好ましくは0.0005~0.0030%、さらに好ましくは0.0010~0.0020%、もっとも好ましくは0.0015~0.0018%である。
Ti(チタン):0.020%以下
フェライト素地中にN(窒素)が多く固溶していると、ひずみ時効を発現し、高ヤング率を発現するための塑性流動を阻害する。Tiはこれを軽減するもので、鋼線中でTiNを形成して塑性流動の阻害を緩和する効果がある。Ti量が0.020%超では鋼線中に粗大なTiNを形成し易く、材質に悪影響を及ぼすおそれがある。したがって、Ti量は、0.020%以下が好ましい。Ti量は、より好ましくは0.001~0.020%、さらに好ましくは0.002~0.010%である。
Mo(モリブデン):0.030%以下
Moは、適量の微量添加で、上述のBの粒界強化を促進する効果があるとされている。Mo量が0.030%超では粗大な炭窒化物として析出し、材質に悪影響を与える傾向にある。したがって、Mo量は0.030%以下が好ましい。Mo量は、より好ましくは0.002~0.030%、さらに好ましくは0.005~0.020%、もっとも好ましくは0.008~0.015%である。
V(バナジウム):0.50%以下
Vは、フェライト素地の強度を上げる効果がある。V量が0.50%を超えると、鋼線が脆化する可能性が高くなる。したがって、V量は、0.50%以下が好ましい。V量は、より好ましくは0.05~0.30%、さらに好ましくは0.07~0.15%である。
Cu(銅):0.10%以下
Cuは、フェライト素地に固溶してフェライト素地を強化する効果がある。Cu量が0.10%を超えると、鋳片加熱時に粒界に濃化して脆化する可能性が高くなる。したがって、Cu量は、0.10%以下が好ましい。Cu量は、より好ましくは0.02~0.08%、さらに好ましくは0.03~0.05%である。
Ni(ニッケル):0.10%以下
Niは、フェライト素地に固溶して強化する効果がある。Ni量が0.10%を超えると、その効果が飽和する傾向がある。したがって、Ni量は、0.10%以下が好ましい。Ni量は、より好ましくは0.01~0.08%、さらに好ましくは0.03~0.05%である。
Nb(ニオブ):0.10%以下
Nbは、フェライト素地に微細な炭化物として析出し、フェライト素地を強化する効果がある。Nb量が0.10%を超えると、鋼線を脆化させる可能性が高くなる。したがって、Nb量は、0.10%以下が好ましい。Nb量は、より好ましくは0.02~0.07%、さらに好ましくは0.03~0.05%である。
なお、本実施形態に係る鋼線の化学組成は、残部がFeおよび不純物であることがよいが、不純物は、原材料に含まれる成分、または、製造の工程で混入する成分であって、意図的に含有させたものではない成分を指す。
次に、本実施形態に係る鋼線における組織について説明する。
本実施形態に係る鋼線は、フェライトとセメンタイトとの層状組織が面積率で60%以上占める組織を有する。
フェライトとセメンタイトとの層状組織とは、フェライトとセメンタイトとが層状に交互に繰り返し重なったパーライト組織であり、ラメラ構造が崩れた疑似パーライトは非パーライト組織として取り扱う。
フェライトとセメンタイトとの層状組織は、鋼線の高ヤング率化に寄与する。そのため、フェライトとセメンタイトとの層状組織の面積率は、60%とする。フェライトとセメンタイトとの層状組織は、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上である。なお、理想的には100%である。
フェライトとセメンタイトとの層状組織以外の残部組織(非パーライト組織)としては、疑似パーライト、マルテンサイト、ベイナイト、初析フェライト、初析セメンタイト等が挙げられる。
フェライトとセメンタイトとの層状組織の面積率は、次の通りである。
鋼線から、鋼線横断面(つまり、鋼線長手方向に垂直な断面)を有する試料を採取する。
次に、試料の鋼線横断面を鏡面研磨した後、ピクラールで腐食する。腐食した鋼線横断面における、鋼線表面からD/4(D:線径=鋼線直径)より深い中心部の任意の5個所を、電界放射型走査型電子顕微鏡(FE-SEM)を用いて倍率2000倍で観察し、写真撮影する。1視野あたりの面積は、2.7×10-3mm(縦0.045mm、横0.060mm)とする。
次に、撮影された各写真について、セメンタイトとフェライトとの層状組織と判断される、パーライト組織に相当する部分を塗り潰し、画像解析によって塗り潰し領域の面積値を測定して、1視野の面積に対する塗り潰し領域の面積率(パーライト面積率)を算出する。
得られた各測定値の算術平均値を「フェライトとセメンタイトとの層状組織の面積率」とする。
次に、本実施形態に係る鋼線における、結晶方位分布(つまり集合組織)について説明する。
本実施形態に係る鋼線は、鋼線横断面(つまり、鋼線長手方向に垂直な断面)の鋼線表面からD/4(D:線径=鋼線直径)より深い中心部の任意の位置において、フェライトの<111>配向率が高く、<111>配向率が35%以上である。
ここで、フェライトの<111>配向とは、フェライトの<111>方向が鋼線長手方向と10°以内の角度をなすことを示す。そして、フェライトの<111>配向率とは、フェライトの結晶方位を測定した全測定点の中で<111>配向している割合を示す。以下、フェライトの<111>配向率は、単に<111>配向率と表す。
中心部の任意の位置における<111>配向率は、鋼線のヤング率向上に寄与する。<111>配向率が35%未満である場合、鋼線のヤング率が220GPaを下回る。よって、<111>配向率は35%以上とする。<111>配向率は、好ましくは40%以上、より好ましくは50%以上である。さらに好ましくは65%以上である。
ただし、鋼線が縦に割れやすくなるのを防止する観点から、<111>配向率は、例えば、92%以下とする。
一方、鋼線横断面の鋼線表面からD/8(D:線径)までの表層部は、ヤング率の向上に寄与するものではない。よって、鋼線横断面の鋼線表面からD/8(D:線径)までの表層部の任意の位置において、結晶方位が鋼線半径方向に対してランダム方位である。
ここで、結晶方位が鋼線半径方向に対してランダム方位であるとは、フェライトの{111}集積度、{110}集積度、{100}集積度、および{100}集積度の4つの集積度の最大値が1.5以下であることを示す。
なお、「集積度」は、材料座標系上での結晶の方向および面の極点の分布の集中の度合いを示す指標で、完全にランダムな結晶方位分布を持つ材料の場合、最小値である1.0をとる指標である。
本実施形態に係る鋼線において、ヤング率向上の効果が得られる集合組織の一例を示すと、次の通りである。
Figure 2022056005000001
なお、結晶方位の測定方法(EBSD法の詳細)は、次の通りである。
結晶方位は、日本電子社製走査形電子顕微鏡JSM7100Fのチャンバー内に設置した、TSL社のDigiview IV カメラ、EBSD(Electron backscattering Diffraction)装置と、それを制御するソフトウエアである、OIM-DC(Data Collection)を使用して取得する。
EBSDは、観察試料面上にステップ毎に電子プローブを照射して、回折図形を取得し、そのパターンを基に鉄立方晶の結晶方位を取得するものである。そして、これらをつなぎ合わせることにより、先ずはスキャン領域の結晶方位マップを取得する。マップ取得は、50μm×50μmで0.3μmの測定間隔で、解析点(ピクセル数)が30000点となるように採取する。なお、マップを効率的に得るための走査形電子顕微鏡側の電子ビーム照射条件として、15kV、照射電流として3.5×10-8A、ワーキングディスタンスは15mmで行う。
取得された方位マップから、「鋼線横断面の鋼線表面からD/4(D:線径)より深い中心部の任意の位置」で、全点の方位をもとめ、そのなかで<111>配向を示す測定点が全測定点中何点を占めるか、という情報をTSL社OIM-Analysis(方位解析ソフトウエア)を用いてもとめる。それにより、<111>配向率を求める。
また、「鋼線横断面の鋼線表面からD/8(D:線径)までの表層部の任意の位置」で、フェライトの{111}集積度、{110}集積度、{100}集積度、および{100}集積度を測定し、結晶方位が鋼線半径方向に対してランダム方位か否かを判別する。
結晶方位の測定方法は、鋼線の長手方向両端部から長手方向に50mm離れた個所から採取した3つの試料に対して実施する。
そして、<111>配向率は、得られた各測定値の算術平均値とする。
また、すべての測定個所で、鋼線横断面の鋼線表面からD/8(D:線径)までの表層部の任意の位置における「結晶方位が鋼線半径方向に対してランダム方位」である場合、当該位置における結晶方位が「鋼線半径方向に対してランダム方位」であると判断する。
なお、結晶方位の測定方法の詳細は、後述の実施例で説明する方法により測定する。
次に、本実施形態に係る鋼線のヤング率について説明する。
本実施形態に係る鋼線のヤング率が220GPaを下回ると、例えば、鋼線を撚り合わせて集積した部材が横方向(つまり、鋼線の径方向)から力を受けて曲がった際に、元の形に復帰する能力(復元能力)が低下する。
特に、鋼線のヤング率が220GPa以上であると、後述する復元能力の評価法で、復元までに1.0sec以内となり、部材としての復元能力が低下し、鋼線をプッシュロッドに適用したバルブの開閉応答性等の向上が図られる。また、鋼線をピアノ線に適用した場合、従来のピアノ線に対する音色に根本的な変化が期待できるようになる。
そのため、鋼線のヤング率は220GPa以上であるとした。
ただし、鋼線の径方向の靭性確保の観点から、鋼線のヤング率は、例えば、260GPa以下とする。
なお、鋼線のヤング率は、後述の実施例で説明する方法により測定する。
次に、本実施形態に係る鋼線の粗度Raについて説明する。
本実施形態に係る鋼線の鋼線表面の周方向の中心線平均粗さ(Ra)(以下、本明細書内では「粗度Ra」と呼称)は、20μm以下が好ましい。
粗度Raを20μm以下にすると、鋼線をより合わせる、又は並列に束ねる際に、隣接する鋼線との間に擦過疵が生じる等して製造工程に支障をきたすことが抑制される。そのため、鋼線の粗度Raは20μm以下が好ましい。鋼線の粗度Raは、より好ましくは10μm以下である。
ただし、あまりにも平滑なものを作ろうとするとコストが上がってしまうため、鋼線の粗度Raは、例えば、1μm以上とする。
なお、鋼線の粗度Raは、後述の実施例で説明する方法により測定する。
次に、本実施形態に係る鋼線の製造方法の一例について説明する。
本実施形態に係る鋼線の製造方法は、例えば、上記本実施形態に係る鋼線の成分組成と同じ成分組成の鋼線材を冷間伸長加工する工程(以下、本明細書内では「伸長工程」と呼称)を有する。そして、伸長工程は、冷間伸長加工がロータリースエージング加工を含み、冷間伸長加工における鋼線材の全断面減少率の中のロータリースエージング加工による鋼線材の断面減少率の占める割合が30%以上で、かつ冷間伸長加工をロータリースエージング加工で仕上げる工程とする。
なお、冷間伸長加工をロータリースエージング加工で仕上げるとは、冷間伸長加工の最終加工にロータリースエージング加工を実施することを意味する。
具体的な本実施形態に係る鋼線の製造方法は、次の通りである。
まず、鋼の成分組成を上述した成分組成に調整した鋼を鋼片とし、これを熱間圧延して熱間圧延線材とする。この熱間圧延線材は、公知の製造方法を用いることで得ることができる一般的なものである。
そして、この熱間圧延材を鋼線材として用いて、冷間で、伸線加工などの冷間加工により、鋼線材を長手方向に伸長させる塑性加工を施す。そして最終的仕上げの段階で必ずロータリースエージング加工による伸長加工を行うことが重要である。
ロータリースエージング加工は、アプローチ部とベアリング部を有するロータリースエージングダイスで、ワークである鋼線材を挟み込み、鋼線材の径方向にハンマーで打撃を加え、逐次周方向に打撃の位置を変えながら鋼線材を伸長加工するものである。
ここで、図3に、ロータリースエージング加工装置の一例を示す。
図3に示すロータリースエージング加工装置は、鋼線材Aの径方向にスエージングダイスを介してハンマー2で打撃を与える機構を有する装置である。本装置としては、株式会社吉田記念社のロータリースエージングマシン(SW1500)、Yoshidakinen(ヨシダキネン)社製ロータリースエージャー1500型などが採用できる。
図3に示すロータリースエージング加工装置では、鋼線Aをスエージングダイス11で上下方向に引き抜き自在に挟接し、ハンマー12を介してスエージングダイス11をローラー15で径方向に打撃することによって加工が行われる。
そして、スエージングダイス11及びハンマー12を挟持しているガイド13は、ローラ-15を保持する回転体14の回転につれて、自然に矢印の方向に回転し、鋼線材Aの周方向に回転しながら、スエージングダイス11及びハンマー12に対して鋼線材Aの径方向に逐次押し込みを加える動作をなす。
それにより、スエージングダイス11が回転しながら、鋼線材Aに対してスエージング加工を実施する。
ロータリースエージング加工では、図4に示すように、鋼線材Aは、鋼線材横断面の形状が、一旦、楕円形から円形、円形から楕円形、楕円形から円形に繰り返し変化しながら、加工が施される。なお、鋼線材Aの横断面形状が楕円形につぶれる方向は加工の度合い従って変化する。
ここで、スエージングダイスは、例えば、片側約4°で長さが約13mm程度のテーパー(半漏斗状)のついたアプローチ部と、それに続く長さ13mm程度の半円筒状のベアリング部からなる溝(孔型)を有するSKD(工具鋼)製半割ダイス(図1~図2参照)を例示することができる。
なお、スエージングダイスのベアリング径は、入線する鋼線材の断面積に対して約20%小さい断面積となる径のものを使用することができる。
例えば、スエージングダイスにより、鋼線材の径方向に1打撃あたり500N・m/sの力積で打撃を加えながら、鋼線を5mm/minの速度で引き抜く。これに対して、スエージングダイスの打撃方向は、周方向に20回/分で回転しており、この引き抜き速度とスエージングダイスの周方向の回転の割合により、ロータリースエージングによって均一な線径を得ることが可能となる。このようにして、入線時の鋼線材の線径に対して約20%断面積の小さい鋼線を得ることができる。
スエージングダイスの周方向への回転は、引き抜き速度に比例して変更することができる。例えば、鋼線を10mm/minの速度で引き抜く際には、スエージングダイスの周方向への回転は40回/分で回転させる等して変更することが可能である。
そして、上記と相似形の更に細い孔型を持つスエージングダイスに鋼線材を一段、又は複数段通過させることにより、任意の線径のスエージング材を得ることが可能である。スエージングダイスの段数自体に特に制約はない。また、20%の断面減少率と異なる断面減少率で加工する場合は、入線する鋼線材の径と断面減少率に合わせて、スエージングダイスアプローチ部のテーパー角度を変更すればよい。好ましいロータリースエージング加工の1ダイス当りの断面減少率は、5~35%の範囲内に分配されるようにするのがよい。各断の断面減少率が5%を下回ると、鋼線断面内に均一な加工を付与することができなくなり、35%を超えると、発熱量が大きくなり、鋼線の温度が上昇し時効する等して鋼線を脆くする等して悪影響を与える可能性が高くなるからである。
最終仕上げ段階でのロータリースエージング加工は、全断面減少率に占めるロータリースエージング加工による鋼線材の断面減少率の割合が30%以上となるように行う。ロータリースエージング加工が、冷間伸長加工における鋼線材の全断面減少率の30%未満の場合、鋼線のヤング率が220GPaを下回るため、除外する。
ただし、ロータリースエージング加工が、冷間伸長加工における鋼線材の全断面減少率の75%を超える場合は、表面の鋼線周方向の凹凸が大きくなり、JIS B 0601:2013に規定する粗度Ra(中心線平均粗さRa)が20μmを超えることがある。過度にロータリースエージングを行うと粗度Raが20μmを超えてしまう理由は、鋼線の表層部が加工限界となり、折れ込み等の疵を生成してしまうことがあるためである。
そのため、最終仕上げ段階でのロータリースエージング加工は、全断面減少率に占めるロータリースエージング加工による鋼線材の断面減少率の割合の上限は、75%以下が好ましい。
最終加工にロータリースエージング加工を適用することで、結晶方位分布が特定方向に集積して、ヤング率が向上するメカニズムは、以下のようなものと推定している。ダイス伸線では、中心部で単調に引っ張りを受けるのみで、逐次ではなく一気に加工されるのに対し、ロータリースエージング加工は、前述したような、鋼線材の周方向に打撃方向を変えて、鋼線材の径方向に少量ずつ押し込むことによる逐次加工であることにより、鉄立方晶のすべり系の選択の自由度が大きいこと、又は、隣接するパーライトラメラが相互にずれる変形が促進されることが関与しているからであると推定される。
また、一般的な引き抜きダイスによる伸線とは異なり、ロータリースエージングによる加工は鋼線中心部に加工を集中させることができるため、本発明で提案しているように、中心部の塑性流動を主に変化させることから、鋼線表面からD/4(D:線径)より深い中心部の任意の位置において<111>配向率が高く、かつ鋼線横断面の鋼線表面からD/8(D:線径)までの表層部の任意の位置において、結晶方位が鋼線半径方向に対してランダム方位である組織を形成することになる。
以下に、本発明の一例である実施例を示す。但し、以下に記載の実施例は、具体的な例に沿って説明を行うものであり、本発明の請求項の内容を限定するものではない。
(実施例)
表2に示す鋼組成を有する鋼片(ビレット)を熱間圧延して得られた、φ5.5mmの熱間圧延線材(鋼線材)を使用した。熱間圧延工程は、122mm角断面で18m長さのビレットを約1100℃まで加熱してオーステナイト組織とし、仕上げ圧延速度にして80m/secとなるように圧延した。圧延後の組織が粗大化しないよう中間で水冷を行い、仕上げ圧延中の最高到達温度が1050℃程度となるように調整した。
次に、熱間圧延スケールをベンディング法等の物理的な方法、又は酸洗等による化学的な方法で除去した後、冷間伸長加工を実施した。
冷間伸長加工(冷間の伸線)は、次の通り実施した。ダイスアプローチアングル7°(半角)の単独ダイス又は複数のダイスを組み合わせで、始めに表2に記載の線径(表中、「加工前半のダイス仕上げ径」と表記)までダイスで引き抜き加工を行った。その後、最終段の伸長加工を線径がφ3.9mmとなるようにロータリースエージング加工を行った。そして、表2に示すように、冷間伸長加工における鋼線材の全断面減少率に対するスエージング加工鋼線材の断面減少率の割合(表中「スエージング加工の占める割合」と表記)が30~75%の範囲になるように調整した。
実際の伸線加工は、単釜伸線機のダイスボックスに乾式潤滑材を供給し、熱間圧延線材の引き抜きを行った。引抜加工後のロータリースエージング加工は、Yoshidakinen(ヨシダキネン)社製ロータリースエージャー1500型に、最初は手動で線材をアプローチ部に押し込み、ベアリング部から加工された線材の先端部が出てからはチャッキングして、5m/minで引き抜きを行った。
具体的には、図1及び図2のような孔型形状のスエージングダイスを用い、鋼線材の周方向に少しずつ位置を変化させながら、回転ハンマーで鋼線材の径方向に塑性変形を付与し、引き抜くことにより、最終的に円形になるまで行った。5m/minの引き抜き速度に対して適切なスエージングダイスの周方向の移動速度は20回転/分である。1回あたりに鋼線横方向から付与する打撃力は500N・m/sの力積で行った。
ここで、図1及び図2に示すスエージングダイス101は、鋼線材の入口部の開口径9mmで、片側約4°で長さが約13mm程度のテーパー(半漏斗状)のついたアプローチ部101Aと、それに続く、鋼線材の出口部の開口径7.5mmで、長さ13mm程度の半円筒状のベアリング部101Bからなる、溝(孔型)を有するSKD(工具鋼)製半割ダイスである(図1(A)参照)。なお、図1及び図2は、半割ダイスの一方のダイスのみを示している。
鋼線材の通材方向に垂直な面の、アプローチ部101Aの断面形状は、ダイス幅方向中央部に円弧形状の溝部102Aと、ダイス幅方向両端部に直線状の平坦部103Aと、を有している(図1(B)及び図2参照)。
ただし、鋼線材の通材方向に向かって、鋼線材の入口部101AAの端から2mmまでの長さの部分は、溝部102Aの円弧形状の曲率半径が急激に小さくなり、ベアリング部101B側の13mmの長さの部分は、溝部102Aの円弧形状の曲率半径が漸次小さくなっている(図1(A)参照)。
鋼線材の通材方向に垂直な面の、ベアリング部101Bの断面形状は、図2に示すように、ダイス幅方向中央部に円弧形状の溝部102Bと、ダイス幅方向両端部に直線状の平坦部103Bと、を有している(図1(C)及び図2参照)。
ただし、鋼線材の通材方向に向かって、アプローチ部101A側の13mmの長さの部分は、溝部102Bの円弧形状の曲率半径が略一定であり、鋼線材の出口部101BBの端から2mmまでの長さの部分は、溝部102Bの円弧形状の曲率半径が急激に大きくなっている(図1(A)参照)。
使用したスエージングダイスの寸法(図1及び図2参照)は、次の通りである。
-アプローチ部101A(図1(A)のB-B断面図(図1(B)及び図2)-
・曲率半径R=3.5mm
・セットバックB=0.5mm
・半割ダイス間ギャップG=1mm
-ベアリング部101B(図1(A)のC-C断面図(図1(C)及び図2))-
・曲率半径R=2.5mm
・セットバックB=0.5mm
・半割ダイス間ギャップG=1mm
図2において、溝部102A(102B)の円弧と平坦部103A(103B)の直線との遷移位置は、θが10°の位置である。
なお、図1及び図2に示したスエージングダイスのベアリング部102Bは曲率半径Rを2.5mmとしているが、G(ギャップ)が1mmであり、さらにセットバックBを0.5mmとしているため、このスエージングダイスの天地で鋼線材をφ3.9mmまで押し込むことができ、実施例で記載の鋼線を製造することが可能である。
(評価)
次に、得られた鋼線の評価方法について説明する。
-フェライトとセメンタイトとの層状組織の面積率-
得られた鋼線における「フェライトとセメンタイトとの層状組織の面積率」を既述の方法に従って測定した。
-<111>配向率-
得られた鋼線におけるフェライトの<111>配向率を次の通り測定した。
測定は、走査型電子顕微鏡(SEM)と結晶方位解析装置(EBSD)を組み合わせて行った。また、評価する位置は、鋼線横断面(鋼線長手方向に垂直な断面)で、線径(鋼線直径)をDとしたときの鋼線表面からの深さがD/4より深い任意の位置で行った。また、結晶方位の情報は、TSL社のOIM-DC (Data Collection) を使用して取得する。取得面積は上記の領域から50μm×50μmで解析点(ピクセル数)が30000点となるように採取した。
結晶方位解析は、以下の方法に従う。
湿式カッターで十分水を供給しながら、試験片への熱流を極力抑制して、得られた鋼線から観察用試験片を切り出した。試験片の観察面を段階的に目の細かいエメリーペーパーで湿式研磨し、ダイヤモンドペーストでラッピング(バフ研磨)し、最終的にコロイダルシリカ分散液で研磨した。その後、試験片の観察面側をアノード(陽極)、Pt板をカソード(陰極)として、硝酸、硫酸水素ナトリウム、界面活性剤、及び平滑剤を含有する水溶液中で、5分溶解する条件で電解研磨を行って観察面を鏡面に仕上げる。得られた試験片の観察・解析はSEMで行う。
なお、上記と異なる観察用試験片の観察面作製方法で観察・評価を行い、大きく異なる評価結果が出てきたとすると、それは研磨した試料表面の加工影響層の除去が不十分で、本発明の方法で作り込んだ組織とは関係のない加工、研磨で生成したアーティファクト(人造物)を見ていることになるので、注意が必要である。
次に、日本電子FE-SEM(JEOL-7100F)等の汎用のSEMを用いて、二次電子像観察を行う。結晶方位情報は同SEM内に設置のEBSD装置を用いる。EBSD測定は、TSL社製Digiview-IV CCDカメラで加速電圧15kV、電子線入射方向に対して試料面を70°傾斜させて、EBSDパターンを取得する。パターン同定においては、付属のデータベース中からフェライト(立方晶)とセメンタイト(直方晶)を選択して、50μm×50μmの領域で0.3μmの測定間隔で採取する。
鋼線長手方向のフェライトの<111>配向については、TSL社製のソフトウエアであるOIM-Analysisを用いて行う。ソフトウエア上、各測定点が<111>配向であるか、そうでないかは、閾値を設定することで判別できる。より具体的な解析項目としては、”Crystal Direction”の表示メニューで、結晶側にフェライトの<111>を指定し、材料側に鋼線長手方向、Tolerance(許容差)として10°を指定する。すると、全体のピクセル数(これは領域寸法とステップサイズによって自ずと決まる)に対して、<111>測定点に対応するピクセルの数が表示される。それにより全測定点数に対する<111>測定点の数の割合(つまり、<111>配向率)を算出することができる。
また、OIM-Analysis上でフェライトの{111}集積度、{110}集積度、{100}集積度、{100}集積度の極点図上をそれぞれ描画し、それらのマップ上での最大値をもとめ、「ランダム方位」の基準とした。4つの集積度の最大値が1.5以下であったとき、「ランダム方位」と判定した。
-ヤング率-
JIS Z2241(2011)の引張試験に準拠し、引張試験の変位-荷重曲線において、直線的な関係を示す弾性変形領域の傾きから、得られた鋼線のヤング率を算出した。なお、鋼線のヤング率は、鋼線長手方向(伸長方向)のヤング率である。
-中心線平均粗さ(Ra)-
JIS B0601(2013)に準拠し、評価長さLn=1000μm、カットオフ値(触子径)=20μmの条件で、得られた鋼線表面の周方向の中心線平均粗さ(Ra)を測定した。
具体的には、鋼線表面の周方向に沿って、鋼線の長手方向に5mm以上離れた10箇所の位置における周方向の粗さ曲線を取得し、鋼線表面の周方向の中心線平均粗さ(Ra)を測定した。
鋼線を集積した部材としての復元能力を評価する方法について述べる。
まずは評価試験体の作成方法について述べる。はじめに鋼線直径3.9mm、長さ3mの鋼線の一端を約100mmの保持長さで下垂するように評価装置(剛体)の天井面に剛固定する。そして、下端に横方向に50mmの変位を与えて静かに離した際、何秒で振れの振幅が5mm以内に収まるかにより、復元能力を評価した。鋼線の振れが5mm以内に収まる時間が1.0sec以内である場合、本発明では十分なヤング率を有しており、復元力に優れた鋼線とみなし、合格判定した。
Figure 2022056005000002
実施例1~30は、本発明に規定の構成要件を全て満足しているため、請求項に規定する目的の組織が得られ、本発明で規定する高いヤング率の鋼線が得られる。それにより、構成される部材で高い復元能力が発現される例である。
それに対し、比較例101~102は、C含有量の上下限が外れているため、規定のフェライト<111>配向率を満足せず、復元力が低い例である。
比較例103~106は、全減面率に占めるスエージングの割合が低いため、鋼線の高ヤング率が発現せず、復元力が発揮されない例である。
実施例31~36は、本発明に規定の構成要件を全て満足しているため、請求項に規定する目的の組織が得られ、本発明で規定する高いヤング率の鋼線が得られる。それにより、構成される部材で高い復元能力が発現される例である。
ただし、実施例31~36は、スエージング加工の割合が高過ぎるために、疵の発生等による表面の凹凸を有し、本発明において、好ましい範囲として規定する粗度Raの値を満足することが出来ず、製品としての部材の品質が、他の実施例に比べ低い例である。

Claims (4)

  1. 質量%で、
    C:0.40~1.50%、
    Si:0.02~2.50%、
    Mn:0.10~2.50%、
    P:0.05%以下、および
    S:0.05%以下、
    を含有し、残部Feおよび不純物からなり、金属組織はフェライトとセメンタイトとの層状組織が面積率で60%以上占める鋼線であって、
    鋼線横断面の鋼線表面からD/4(D:線径)より深い中心部の任意の位置において、フェライトの<111>配向率が35%以上であり、
    鋼線横断面の鋼線表面からD/8(D:線径)までの表層部の任意の位置において、結晶方位が鋼線半径方向に対してランダム方位であり、
    鋼線のヤング率が、220GPa以上である、
    鋼線。
  2. 質量%で、
    Al:0.100%以下、
    Cr:0.50%以下、
    B :0.0030%以下、
    Ti:0.020%以下、
    Mo:0.030%以下、
    V :0.50%以下、
    Cu:0.10%以下、
    Ni:0.10%以下、および
    Nb:0.10%以下、
    の1種又は2種以上を含有する請求項1に記載の鋼線。
  3. 鋼線表面の周方向の中心線平均粗さ(Ra)が、20μm以下である請求項1または請求項2に記載の鋼線。
  4. 鋼線材を冷間伸長加工する工程であって、前記冷間伸長加工がロータリースエージング加工を含み、前記冷間伸長加工における鋼線材の全断面減少率の中の前記ロータリースエージング加工による鋼線材の断面減少率の占める割合が30%以上で、かつ前記冷間伸長加工を前記ロータリースエージング加工で仕上げる工程を有する、
    請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の鋼線の製造方法。
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