JP2022027451A - 人工皮革およびその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】 柔軟性、長期使用時の風合いや形態などの劣化への耐久性に優れる人工皮革、およびその製造方法を提供すること。【解決手段】 極細繊維からなる繊維質基材と、高分子弾性体とを有する人工皮革であって、前記極細繊維の平均単繊維直径は0.1μm以上10μm以下であり、前記人工皮革の厚さ方向の断面において、高分子弾性体により被膜されている繊維束の数の割合が5%以上20%以下である、人工皮革。【選択図】 なし

Description

本発明は、人工皮革およびその製造方法、特に、柔軟性、長期使用時の風合いや形態などの劣化への耐久性に優れる人工皮革およびその製造方法に関するものである。
主として不織布等の繊維質基材とポリウレタンからなる人工皮革は、天然皮革にない優れた特徴を有しており、種々の用途に広く利用されている。とりわけ、ポリエステル系繊維質基材を用いた人工皮革は、成型性に優れているため、衣料や椅子張りおよび自動車内装材用途等にその使用が年々広がってきた。
このような人工皮革を製造するにあたっては、繊維質基材にポリウレタンの有機溶剤溶液を含浸せしめた後、得られた繊維質基材をポリウレタンの非溶媒である水または有機溶剤水溶液中に浸漬してポリウレタンを湿式凝固せしめる工程の組み合わせが、一般的に採用されている。この場合、ポリウレタンの溶媒である有機溶剤としては、N,N-ジメチルホルムアミド(以下、「DMF」とも表すことがある。)等の水混和性有機溶剤が用いられる。しかしながら、一般的に有機溶剤は、人体や環境への有害性が高いことから、人工皮革の製造に際しては、有機溶剤を使用しない手法が強く求められている。
具体的な解決手段として、従来の有機溶剤系のポリウレタンに代えて、水中にポリウレタン樹脂を分散させた水分散型ポリウレタンを用いる方法が検討されている。これまでに、水分散型ポリウレタンを用いて柔軟な風合いの人工皮革を得るため、例えば、不織布等の布帛からなるシート等の繊維質基材に、マイクロバルーンを含有する水分散型ポリウレタン液を付与し、湿熱処理によってポリウレタン凝固時にマイクロバルーンを膨張させ、繊維質基材内でのポリウレタンの構造を多孔構造とする方法が提案されている(特許文献1参照。)。
また、熱収縮性ポリマーを含む極細繊維発現型繊維の不織布を、湿熱処理により収縮させた後に、水系の高分子弾性体を含浸し調温調湿された雰囲気下で凝固処理を実施する方法が提案されている。(特許文献2参照。)。
特開2014-080513号公報 特開2014-139361号公報
しかしながら、水分散型ポリウレタンを液中に分散させた水分散型ポリウレタン分散液を繊維質基材に含浸し、ポリウレタンを凝固した人工皮革は、風合いが硬くなりやすいという課題がある。
その主な理由の一つとして、両者の凝固方式の違いがある。すなわち、有機溶剤系ポリウレタン液の凝固方式は、有機溶剤に溶解しているポリウレタン分子を、水で溶媒置換して凝固する、いわゆる湿式凝固方式であり、ポリウレタン膜で見ると、密度が低い多孔膜が形成される。そのため、ポリウレタンが繊維質基材内に含浸され、凝固された場合も繊維とポリウレタンの接着面積が少なくなり、柔らかい人工皮革となる。
一方、水分散型ポリウレタンは、主に加熱することにより、水分散型ポリウレタン分散液の水和状態を崩壊させ、ポリウレタンエマルジョン同士を凝集させることにより凝固する、いわゆる湿熱凝固方式が主流であり、得られるポリウレタン膜構造は密度が高い無孔膜となる。そのため、繊維質基材とポリウレタンの接着は密になり、繊維の交絡部分が強く把持されるため、風合いが硬くなる。
特許文献1に開示された方法においては、水分散型ポリウレタンを多孔とすることにより、ポリウレタン樹脂の柔軟化は図れるが、有機溶剤系ポリウレタンを付与させた場合と比較すると、まだ柔軟性に乏しい傾向であり、経年劣化での風合い変化および形態が生じる傾向である。
また、特許文献2に開示された方法においても、有機溶剤系ポリウレタンを付与させた場合と比較すると、まだ柔軟性に乏しい傾向であり、経年による風合いおよび形態の変化が生じることが課題である。
そこで、本発明の目的は、上記の従来技術の背景に鑑み、柔軟性、長期使用時の風合いや形態などの劣化への耐久性に優れる人工皮革、およびその製造方法を提供することである。
本発明者らは、上記目的を達成するべく鋭意検討を重ねた結果、親水性基を有する高分子弾性体と繊維質基材からなる人工皮革に対し、特定の条件で湿熱処理を行うことで、繊維と高分子弾性体との間に一定の空隙が生じることを見出し、課題である柔軟性を向上できるという知見を得た。さらにこの繊維と高分子弾性体との間に一定の空隙を有する人工皮革が、経年による風合いおよび形態の変化が生じにくいということも判明した。
本発明は、これら知見に基づいて完成に至ったものであり、本発明によれば、以下の発明が提供される。
本発明の人工皮革は、極細繊維からなる繊維質基材と、高分子弾性体とを有する人工皮革であって、前記の極細繊維の平均単繊維直径は0.1μm以上10μm以下であり、前記の人工皮革の厚さ方向の断面において、高分子弾性体により被膜されている繊維束の数の割合が5%以上20%以下である。
本発明の人工皮革の好ましい態様によれば、前記の高分子弾性体は、親水性基並びにN-アシルウレア結合および/またはイソウレア結合を有する。
また、本発明の人工皮革の製造方法は、下記(1)、(2)の工程を含むことを特徴とする。
(1) 繊維質基材に、親水性基を有する高分子弾性体前駆体と架橋剤とを含有する水分散液を含浸せしめ、さらに高分子弾性体を形成させる工程。
(2) 前記の工程(1)以降に雰囲気温度70℃以上180℃以下、雰囲気圧力0.1MPa以上1MPa以下、雰囲気湿度80%RH以上で湿熱処理する工程。
本発明の人工皮革の製造方法の好ましい態様によれば、前記の工程(1)と工程(2)との間に、染色を行う工程を含む。
本発明の人工皮革の製造方法の好ましい態様によれば、前記の架橋剤がカルボジイミド系架橋剤および/またはブロックイソシアネート架橋剤である。
本発明の人工皮革の製造方法の好ましい態様によれば、前記の水分散液に1価陽イオン含有無機塩がさらに含有されてなり、前記高分子弾性体前駆体100質量部に対して10質量部以上50質量部以下含有する。
本発明の人工皮革の製造方法の好ましい態様によれば、前記の工程(1)において、水分散液を含浸させた繊維質基材の温度を100℃以上180℃以下として加熱乾燥処理を行う。
本発明によれば、高柔軟で、長期使用時の風合いや形態などの劣化への耐久性に優れる人工皮革を得ることができる。特に、本発明の人工皮革は長期間にわたって使用した場合であっても、風合いや形態などが実質的に劣化せず、耐久性に優れるという特徴から、自動車シート材のような比較的長期間にわたって使用する部材に好適に用いることができる。
本発明の人工皮革における、高分子弾性体と繊維の接着部の断面顕微鏡写真の一例である。 本発明の人工皮革における、高分子弾性体と繊維の接着部の断面顕微鏡写真の一例である。 本発明に係る人工皮革の表面品位の評価方法を例示する概念斜視図である。
本発明の人工皮革は、極細繊維からなる繊維質基材と、高分子弾性体とを有する人工皮革であって、前記極細繊維の平均単繊維直径は0.1μm以上10μm以下であり、前記人工皮革の厚さ方向の断面において、高分子弾性体により被膜されている繊維束の数の割合が5%以上20%以下である。以下にこの構成要素について詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下に説明する範囲に何ら限定されるものではない。
[極細繊維からなる繊維質基材]
まず、本発明の人工皮革は、極細繊維からなる繊維質基材を有する。
この極細繊維に用いることができる樹脂としては、優れた耐久性、特には機械的強度、耐熱性および耐薬品性の観点から、例えば、ポリエステル系樹脂やポリアミド系樹脂などが挙げられる。
本発明において、極細繊維に用いられる樹脂として、ポリエステル系樹脂を用いる場合には、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートおよびこれらの共重合体を用いることができる。また、ポリエステル系樹脂は、例えば、ジカルボン酸および/またはそのエステル形成性誘導体とジオールとから得ることができる。
前記ポリエステル系樹脂に用いられるジカルボン酸および/またはそのエステル形成性誘導体としては、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、ジフェニル-4,4’-ジカルボン酸およびそのエステル形成性誘導体などが挙げられる。なお、本発明でいうエステル形成性誘導体とは、ジカルボン酸の低級アルキルエステル、酸無水物、アシル塩化物などである。具体的には、メチルエステル、エチルエステル、ヒドロキシエチルエステルなどが好ましく用いられる。本発明で用いられるジカルボン酸および/またはそのエステル形成性誘導体としてより好ましい態様は、テレフタル酸および/またはそのジメチルエステルである。
前記ポリエステル系樹脂に用いられるジオールとしては、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、シクロヘキサンジメタノールなどが挙げられる。中でもエチレングリコールが好ましく用いられる。
本発明において、極細繊維に用いられる樹脂としてポリアミド系樹脂を用いる場合には、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド56、ポリアミド610、ポリアミド11、ポリアミド12および共重合ポリアミド等を用いることができる。
なお、極細繊維に用いられる樹脂には、種々の目的に応じて、本発明の目的を達成する限りにおいて、酸化チタン粒子等の無機粒子、潤滑剤、顔料、熱安定剤、紫外線吸収剤、導電剤、蓄熱剤および抗菌剤等を含有することができる。
さらに、本発明の極細繊維に用いられる樹脂が、バイオマス資源由来の成分を含有することがより好ましい。
このバイオマス資源由来の成分としては、極細繊維に用いられる樹脂としてポリエステル系樹脂を用いた場合には、その構成成分であるジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体としてバイオマス資源由来の成分を用いてもよいし、ジオールとしてバイオマス資源由来の成分を用いてもよいが、環境負荷低減の観点からは、ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とジオールの両方にバイオマス資源由来の成分を用いることが好ましい。
バイオマス資源由来の成分としては、極細繊維に用いられる樹脂としてポリアミド樹脂を用いた場合には、バイオマス資源由来の原料を経済的に有利に得られることや繊維の物性の点から、ポリアミド56、ポリアミド610、ポリアミド11が好ましく用いられる。
極細繊維の断面形状としては、丸断面、異形断面のいずれでも採用することができる。異形断面の具体例としては、楕円、扁平、三角などの多角形、扇形、十字型などが挙げられる。
本発明において、極細繊維の平均単繊維直径は、0.1μm以上10μm以下である。極細繊維の平均単繊維直径が10μm以下、好ましくは7μm以下、より好ましくは5μm以下であることによって、人工皮革をより柔軟なものとすることができる。また、人工皮革が立毛を有する場合は、立毛の品位を向上させることができる。一方、極細繊維の平均単繊維直径が0.1μm以上、好ましくは0.3μm以上、より好ましくは0.7μm以上であることによって、染色後の発色性に優れた人工皮革とすることができる。また、人工皮革が立毛を有する場合、バフィングによる立毛処理を行う際に、束状に存在する極細繊維の分散しやすさ、さばけやすさを向上させることができる。
本発明でいう平均単繊維直径とは、以下の方法で測定されるものである。すなわち、
(1)得られた人工皮革を厚み方向に切断した断面を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察する。
(2)観察面内の任意の50本の極細繊維の繊維直径をそれぞれの極細繊維断面において3方向で測定する。ただし、異型断面の極細繊維を採用した場合には、まず単繊維の断面積を測定し、当該断面積となる円の直径を以下の式で算出する。これより得られた直径をその単繊維の単繊維直径とする
単繊維直径(μm)=(4×(単繊維の断面積(μm))/π)1/2
(3)得られた合計150点の算術平均値(μm)を算出し、小数点以下第二位で四捨五入する。
本発明で用いられる繊維質基材は、前記の極細繊維からなる。なお、繊維質基材には、異なる原料の極細繊維が混合されていることが許容される。
前記繊維質基材の具体的な形態としては、前記極細繊維それぞれが絡合してなる不織布や極細繊維の繊維束が絡合してなる不織布を用いることができる。中でも、極細繊維の繊維束が絡合してなる不織布が、人工皮革の強度や風合いの観点から好ましく用いられる。柔軟性や風合いの観点から、特に好ましくは、極細繊維の繊維束を構成する極細繊維同士が適度に離間して空隙を有する不織布が好ましく用いられる。このように、極細繊維の繊維束が絡合してなる不織布は、例えば、極細繊維発現型繊維をあらかじめ絡合した後に極細繊維を発現させることによって得ることができる。また、極細繊維の繊維束を構成する極細繊維同士が適度に離間して空隙を有する不織布は、例えば、海成分を除去することによって島成分の間を空隙とすることができる海島型複合繊維を用いることによって得ることができる。
前記不織布としては、短繊維不織布、長繊維不織布のいずれでもよいが、人工皮革の風合いや品位の観点から短繊維不織布がより好ましく用いられる。
短繊維不織布を用いた場合における短繊維の繊維長は、25mm以上90mm以下の範囲であることが好ましい。繊維長を25mm以上、より好ましくは35mm以上、さらに好ましくは40mm以上とすることにより、絡合により耐摩耗性に優れた人工皮革が得られやすくなる。また、繊維長を90mm以下、より好ましくは80mm以下、さらに好ましくは70mm以下とすることにより、より風合いや品位に優れた人工皮革を得ることができる。
本発明において、繊維質基材として不織布を用いる場合、強度を向上させるなどの目的で、不織布の内部に織物や編物を挿入し、または積層し、または裏張りすることもできる。かかる織物や編物を構成する繊維の平均単繊維直径は、ニードルパンチ時における損傷を抑制し、強度を維持することができるため、0.3μm以上10μm以下であることがより好ましい。
前記織物や編物を構成する繊維としては、「ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリ乳酸」などのポリエステルや、「ポリアミド6やポリアミド66、ポリアミド56、ポリアミド610、ポリアミド11、ポリアミド12および共重合ポリアミド」などのポリアミドに代表される熱可塑性樹脂からなる合成繊維、セルロース系ポリマー等の再生繊維、綿や麻等の天然繊維などを用いることができる。
本発明において、極細繊維からなる繊維質基材を得る手段としては、極細繊維発現型繊維を用いた繊維質基材を準備し、後述する手段によって極細繊維を発現させる方法を採ることが好ましい。
極細繊維発現型繊維としては、溶剤溶解性の異なる2成分(島繊維が芯鞘複合繊維の場合は2または3成分)の熱可塑性樹脂を海成分と島成分とし、前記の海成分を、溶剤などを用いて溶解除去することによって島成分を極細繊維とする海島型複合繊維を用いることが、海成分を除去する際に島成分間、すなわち繊維束内部の極細繊維間に適度な空隙を付与することができるため、人工皮革の風合いや表面品位の観点から好ましい。
本発明では、繊維束内の極細繊維数は8本/束以上1000本/束以下であることが好ましく、より好ましくは10本/束以上800本/束以下である。極細繊維数が8本/束以上であると、極細繊維が十分な緻密性を有しやすく、例えば、摩耗等の機械物性が向上しやすくなる傾向がある。また、極細繊維数1000本/束以下であると、立毛時の開繊性が向上し、立毛面の繊維分布が均一となって、より良好な人工皮革の表面品位が得られやすくなる。
海島型複合繊維としては、海島型複合用口金を用い、海成分と島成分の2成分(島繊維が芯鞘複合繊維の場合は3成分)を相互配列して紡糸する高分子相互配列体を用いる方式が、均一な単繊維繊度の極細繊維が得られるという観点から好ましい。
海島型複合繊維の海成分としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ナトリウムスルホイソフタル酸やポリエチレングリコールなどを共重合した共重合ポリエステル、およびポリ乳酸などを用いることができるが、製糸性や易溶出性等の観点から、ポリスチレンや共重合ポリエステルが好ましく用いられる。
なお、海成分の溶解除去は、第1の高分子弾性体前駆体含浸工程の後に行うことが好ましい。
本発明で用いられる海島型複合繊維における海成分と島成分の質量割合は、海成分と島成分との合計を100質量%として、海成分の質量割合が10質量%以上80質量%以下の範囲であることが好ましい。海成分の質量割合が10質量%以上、より好ましくは20質量%以上であると、島成分が十分に極細化されやすくなる。また、海成分の質量割合が80質量以下、より好ましくは70質量%以下であると、溶出成分の割合が少ないため生産性が向上する。
また、極細繊維発現型繊維からなる繊維質基材は、不織布の形態をとることが好ましく、いわゆる短繊維不織布でも長繊維不織布でも用いることができるが、短繊維不織布であると、人工皮革の厚さ方向を向く繊維が長繊維不織布に比べて多くなり、起毛した際の人工皮革の表面に高い緻密感を得ることができるため好ましい。
極細繊維発現型繊維からなる繊維質基材として短繊維不織布を用いる場合には、まず、得られた極細繊維発現型繊維に、好ましくは捲縮加工を施し、所定長にカット加工して原綿を得る。捲縮加工やカット加工は、公知の方法を用いることができる。
次に、得られた原綿を、クロスラッパー等により繊維ウェブとし、絡合させることにより短繊維不織布を得る。繊維ウェブを絡合させ短繊維不織布を得る方法としては、ニードルパンチ処理やウォータージェットパンチ処理等を用いることができる。
さらに、得られた短繊維不織布と織物を積層し、そして絡合一体化させる。短繊維不織布と織物の絡合一体化には、短繊維不織布の片面もしくは両面に織物を積層するか、あるいは複数枚の短繊維不織布ウェブの間に織物を挟んだ後に、ニードルパンチ処理やウォータージェットパンチ処理等によって短繊維不織布と織物の繊維同士を絡ませることができる。
ニードルパンチ処理あるいはウォータージェットパンチ処理後の複合繊維(極細繊維発現型繊維)からなる短繊維不織布の見掛け密度は、0.15g/cm以上0.45g/cm以下であることが好ましい。見掛け密度を好ましくは0.15g/cm以上とすることにより、人工皮革が十分な形態安定性と寸法安定性が得られる。一方、見掛け密度を好ましくは0.45g/cm以下とすることにより、高分子弾性体を形成させるための十分な空間を維持することができる。
このようにして得られた短繊維不織布は、緻密化の観点から、乾熱もしくは湿熱またはその両者によって収縮させ、さらに高密度化することが好ましい態様である。また、短繊維不織布はカレンダー処理等により、厚み方向に圧縮することもできる。
[高分子弾性体]
次に、本発明の人工皮革は、高分子弾性体を有する。この高分子弾性体は、高分子弾性体前駆体と架橋剤とが反応して形成されるものである。以下、この詳細について、さらに説明する。
(1)高分子弾性体前駆体
まず、本発明に係る高分子弾性体前駆体は、親水性基を有する。本発明において「親水性基を有する」とは、そのものが「活性水素を有する基を有する」ことを指す。この活性水素を有する基の具体例としては、水酸基やカルボキシル基、スルホン酸基、アミノ基等が挙げられる。
この高分子弾性体前駆体としては、水分散型シリコーン樹脂、水分散型アクリル樹脂、水分散型ウレタン樹脂やそれらの共重合体が挙げられる。それらの中でも風合いの面から、水分散型ポリウレタン樹脂が好ましく用いられる。特に、後述する高分子ポリオールと、有機ジイソシアネートと、親水性基を有する活性水素成分含有化合物とを反応させて親水性プレポリマーを形成し、その後に鎖伸長剤を添加・反応させることによって調製される水分散型ポリウレタン樹脂がより好ましく用いられる。以下に、これらについて詳細を説明する。
(a)高分子ポリオール
本発明で好ましく用いられる高分子ポリオールは、ポリエーテル系ポリオール、ポリエステル系ポリオール、ポリカーボネート系ポリオール等を挙げることができる。
まず、ポリエーテル系ポリオールとしては、多価アルコールやポリアミンを開始剤として、エチレンオキシド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、スチレンオキサイド、テトラヒドロフラン、エピクロルヒドリンおよびシクロヘキシレン等のモノマーを付加・重合して得られるポリオール、ならびに、前記モノマーをプロトン酸、ルイス酸およびカチオン触媒等を触媒として開環重合して得られるポリオールが挙げられる。具体的には、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなど、およびこれらを組み合わせた共重合ポリオールを挙げることができる。
次に、ポリエステル系ポリオールとしては、各種低分子量ポリオールと多塩基酸とを縮合させて得られるポリエステルポリオールやラクトンを開重合することによって得られるポリオールなどを挙げることができる。
ポリエステル系ポリオールに用いられる低分子量ポリオールとしては、例えば、「エチレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1.8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール」などの直鎖アルキレングリコールや、「ネオペンチルグリコール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール」などの分岐アルキレングリコール、1,4-シクロヘキサンジオールなどの脂環式ジオール、および1,4-ビス(β-ヒドロキシエトキシ)ベンゼンなどの芳香族2価アルコール、などから選ばれる1種または2種以上が挙げられる。また、ビスフェノールAに各種アルキレンオキサイドを付加させて得られる付加物も、低分子量ポリオールとして使用可能である。
一方、ポリエステル系ポリオールに用いられる多塩基酸としては、例えば、コハク酸、マレイン酸、アジピン酸、グルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、およびヘキサヒドロイソフタル酸などからなる群から選ばれる1種または2種以上が挙げられる。
そして、ポリカーボネート系ポリオールとしては、ポリオールとジアルキルカーボネート、あるいはポリオールとジアリールカーボネートなど、ポリオールとカーボネート化合物との反応によって得られる化合物を挙げることができる。
ポリカーボネート系ポリオールに用いられるポリオールとしては、ポリエステル系ポリオールに用いられる低分子量ポリオールを用いることができる。一方、ジアルキルカーボネートとしては、ジメチルカーボネートやジエチルカーボネートなどを用いることができ、ジアリールカーボネートとしてはジフェニルカーボネートなどを用いることができる。
なお、本発明で好ましく用いられる高分子ポリオールの数平均分子量は、500以上5000以下であることが好ましい。高分子ポリオールの数平均分子量を500以上、より好ましくは1500以上とすることにより、人工皮革の風合いが硬くなるのを防ぎやすくすることができる。また、数平均分子量を5000以下、より好ましくは4000以下とすることにより、バインダーとしてのポリウレタンの強度を維持しやすくすることができる。
(b)有機ジイソシアネート
本発明で好ましく用いられる有機ジイソシアネートとしては、炭素数(イソシアネート基中の炭素を除く、以下同様。)が6以上20以下の芳香族ジイソシアネート、炭素数が2以上18以下の脂肪族ジイソシアネート、炭素数が4以上15以下の脂環式ジイソシアネート、炭素数が8以上15以下の芳香脂肪族ジイソシアネート、これらのジイソシアネートの変性体(カーボジイミド変性体、ウレタン変性体、ウレトジオン変性体など。)およびこれらの2種以上の混合物等が挙げられる。
前記の炭素数が6以上20以下の芳香族ジイソシアネートの具体例としては、1,3-および/または1,4-フェニレンジイソシアネート、2,4-および/または2,6-トリレンジイソシアネート、2,4’-および/または4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(以下、MDIと略記することがある)、4,4’-ジイソシアナトビフェニル、3,3’-ジメチル-4,4’-ジイソシアナトビフェニル、3,3’-ジメチル-4,4’-ジイソシアナトジフェニルメタン、および1,5-ナフチレンジイソシアネートなどが挙げられる。
前記の炭素数が2以上18以下の脂肪族ジイソシアネートの具体例としては、エチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、2,6-ジイソシアナトメチルカプロエート、ビス(2-イソシアナトエチル)カーボネート、および2-イソシアナトエチル-2,6-ジイソシアナトヘキサエートなどが挙げられる。
前記の炭素数が4以上15以下の脂環式ジイソシアネートの具体例としては、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート、シクロヘキシレンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート、ビス(2-イソシアナトエチル)-4-シクロヘキシレン-1,2-ジカルボキシレート、および2,5-および/または2,6-ノルボルナンジイソシアネートなどが挙げられる。
前記の炭素数が8以上15以下の芳香脂肪族ジイソシアネートの具体例としては、m-および/またはp-キシリレンジイソシアネートや、α、α、α’、α’-テトラメチルキシリレンジイソシアネートなどが挙げられる。
これらのうち、より好ましい有機ジイソシアネートは、炭素数が4以上15以下の脂環式ジイソシアネートである。また、特に好ましい有機ジイソシアネートは、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート(以下、水添MDIと略することがある。)である。
(c) 親水性基を有する活性水素成分含有化合物
本発明で好ましく用いられる親水性基を有する活性水素成分含有化合物としては、ノニオン性基および/またはアニオン性基および/またはカチオン性基と活性水素とを含有する化合物等が挙げられる。これらの活性水素成分含有化合物は、中和剤で中和した塩の状態でも用いることができる。この親水性基を有する活性水素成分含有化合物を用いることによって、人工皮革の製造方法で用いられる水分散液の安定性を高めることができる。
ノニオン性基と活性水素を有する化合物としては、2つ以上の活性水素成分または2つ以上のイソシアネート基を含み、側鎖に分子量250~9000のポリオキシエチレングリコール基等を有している化合物、および、トリメチロールプロパンやトリメチロールブタン等のトリオール等が挙げられる。
アニオン性基と活性水素を有する化合物としては、2,2-ジメチロールプロピオン酸、2,2-ジメチロールブタン酸、2,2-ジメチロール吉草酸等のカルボキシル基含有化合物およびそれらの誘導体や、1,3-フェニレンジアミン-4,6-ジスルホン酸、3-(2,3-ジヒドロキシプロポキシ)-1-プロパンスルホン酸等のスルホン酸基を含有する化合物およびそれらの誘導体、並びにこれらの化合物を中和剤で中和した塩が挙げられる。
カチオン性基と活性水素を含有する化合物としては、3-ジメチルアミノプロパノール、N-メチルジエタノールアミン、N-プロピルジエタノールアミン等の3級アミノ基含有化合物およびそれらの誘導体が挙げられる。
(d)鎖伸長剤
本発明で好ましく用いられる鎖伸長剤としては、水、「エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ジエチレングリコールおよびネオペンチルグリコールなど」の低分子ジオール、「1,4-ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサンなど」の脂環式ジオール、「1,4-ビス(ヒドロキシエチル)ベンゼンなど」の芳香族ジオール、「エチレンジアミンなど」の脂肪族ジアミン、「イソホロンジアミンなど」の脂環式ジアミン、「4,4-ジアミノジフェニルメタンなど」の芳香族ジアミン、「キシレンジアミンなど」の芳香脂肪族ジアミン、「エタノールアミンなど」のアルカノールアミン、ヒドラジン、「アジピン酸ジヒドラジドなど」のジヒドラジド、および、これらの2種以上の混合物が挙げられる。
これらのうち、より好ましい鎖伸長剤は、水、低分子ジオール、芳香族ジアミンであり、更に好ましくは水、エチレングリコール、1,4-ブタンジオール、4,4’-ジアミノジフェニルメタンおよびこれらの2種以上の混合物が挙げられる。
(e)水分散型ポリウレタン樹脂の構成
前記のとおり、本発明で好ましく用いられる水分散型ポリウレタン樹脂は、前記の高分子ポリオールと、有機ジイソシアネートと、親水性基を有する活性水素成分含有化合物とを反応させて親水性プレポリマーを形成し、その後に鎖伸長剤を添加・反応させることによって調製される。
(f)高分子弾性体前駆体の構成
高分子弾性体前駆体は、耐加水分解性の観点から、ポリエーテルジオールまたはポリカーボネートジオールを構成成分として含有することが好ましい。高分子弾性体前駆体がこのポリエーテルジオールを構成成分として含有することによって、そのエーテル結合の自由度が高いことでガラス転移温度が低く、且つ凝集力も弱い為に柔軟性に優れる高分子弾性体とすることができる。一方、ポリカーボネートジオールを構成成分として含有することによって、そのカーボネート基の有する高い凝集力により、耐水性、耐熱性、耐候性、力学物性に優れる高分子弾性体とすることができる。
本発明に用いられる高分子弾性体の数平均分子量は、20000以上500000以下が好ましい。20000以上、より好ましくは30000以上であることによって、高分子弾性体の強度を高くできる。一方、500000以下、より好ましくは150000以下であることによって、粘度の安定性を高め、作業性を向上させることができる。
前記の高分子弾性体前駆体の数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により求めることができ、例えば次の条件で測定される。
・機器:東ソー株式会社製「HLC-8220」
・カラム:東ソー株式会社製「TSKgel α-M」
・溶媒:N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)
・温度:40℃
・校正:ポリスチレン。
(2)架橋剤
続いて、本発明に係る架橋剤は、カルボジイミド基、イソシアネート基、オキサゾリン基、エポキシ基、メラミン樹脂、およびシラノール基などを有する高分子化合物を用いることができる。
特に、高分子弾性体前駆体として水分散型ポリウレタン樹脂を用いる場合には、カルボジイミド基を含有するカルボジイミド架橋剤および加熱によりイソシアネート基が発現するブロックイソシアネート架橋剤を用い、N-アシルウレア結合および/またはイソウレア結合を形成することが好ましい。このようにすることで、人工皮革中の高分子弾性体の分子内に、耐光性や耐熱性、耐摩耗性等の物性、および柔軟性に優れるN-アシルウレア結合および/またはイソウレア結合によって3次元架橋構造を付与させることができ、人工皮革の柔軟性を保持しながら、耐熱性、耐摩耗性等の物性を飛躍的に向上させることができる。
(3)高分子弾性体
本発明の人工皮革を高分子弾性体は、前記の高分子弾性体前駆体と架橋剤とが反応して形成されるものである。この反応によって、本発明の高分子弾性体は、高分子弾性体前駆体由来の親水性基と、さらに、N-アシルウレア結合および/またはイソウレア結合とを有するものとなる。これらの結合を有することによって、前記のとおり、人工皮革の柔軟性を保持しながら、耐熱性、耐摩耗性等の物性を飛躍的に向上させることができる。
なお、高分子弾性体に上記N-アシルウレア基やイソウレア基が存在することは、人工皮革の断面に対して、例えば、飛行時間型二次イオン質量分析(TOF-SIMS分析)等のマッピング処理を行えば分析可能である。
本発明に係る高分子弾性体は、ポリエーテルジオールまたはポリカーボネートジオールを構成成分として含有することが好ましい。
本発明に係る高分子弾性体がこのポリエーテルジオールを構成成分として含有することによって、そのエーテル結合の自由度が高いことでガラス転移温度が低く、且つ凝集力も弱い為に柔軟性に優れる高分子弾性体とすることができる。一方、ポリカーボネートジオールを構成成分として含有することによって、そのカーボネート基の有する高い凝集力により、耐水性、耐熱性、耐候性に優れる高分子弾性体とすることができる。
本発明で用いられる親水性基を有する高分子弾性体は、人工皮革中で繊維同士を適度に把持しており、好ましくは人工皮革の少なくとも片面に立毛を有する観点から、繊維質基材の内部に存在していることが好ましい態様である。
[人工皮革]
本発明の人工皮革は、人工皮革の厚さ方向の断面において、高分子弾性体により皮膜されている繊維束の数の割合が5%以上20%以下存在する。
本発明において「高分子弾性体により皮膜されている繊維束」とは、一例として図1に示したように観察視野内の断面部における繊維束の周囲一周に隙間なく高分子弾性体が接着している構造を有する極細繊維の集合体のことを表す。ここでいう隙間とは、高分子弾性体と極細繊維の束との最短距離が1μm以上ある空隙のことを指し、隙間があるとは、図2のように高分子弾性体と極細繊維の束とが離間している部分を有する状態のことである。
前記の数の割合が5%以上、好ましくは7%以上とすることによって、高分子弾性体と繊維とが離間していない極細繊維の束の割合が増えていくことになるため、人工皮革の表面に均一感をもたらし、外観品位はより良好なものとすることができる。
一方、前記の数の割合が20%以下、好ましくは18%以下とすることで、高分子弾性体と繊維とが離間している極細繊維の束の割合が増えていくことになるため、人工皮革の風合いは柔軟なものとなるだけでなく、長期使用時における風合い・形態への変化を防ぎ、いわゆる経年劣化を抑制することが可能となる。
本発明の人工皮革は、家具、椅子および壁材や、自動車、電車および航空機などの車輛室内における座席、天井および内装などの表皮材として非常に優美な外観を有する内装材、シャツ、ジャケット、カジュアルシューズ、スポーツシューズ、紳士靴および婦人靴等の靴のアッパー、トリム等、鞄、ベルト、財布等、およびそれらの一部に使用した衣料用資材、ワイピングクロス、研磨布およびCDカーテン等の工業用資材として好適に用いることができる。
このような用途に用いることが好適な本発明の人工皮革は、特に人工皮革の縦方向の剛軟度が40mm以上120mm以上であることが好ましい。人工皮革の縦方向の剛軟度を40mm以上、より好ましくは50mm以上、さらに好ましくは55mm以上とすることで、より反発性のある人工皮革とすることができる。一方、人工皮革の縦方向の剛軟度を120mm以下、より好ましくは115mm以下、さらに好ましくは110mm以下とすることで、より柔軟性のある人工皮革とすることができる。
なお、本発明において、人工皮革の縦方向の剛軟度とは、JIS L1096:2010「織物及び編物の生地試験法」の「8.21 剛軟度」に記載のA法(45°カンチレバー法)に準じ、人工皮革の縦方向について測定される値のことを指すものとする。また、本発明の人工皮革における「縦方向」とは、人工皮革の製造工程において、人工皮革に対して起毛処理を行った方向のことをいう。起毛処理を行った方向の探索方法としては、指でなぞった時の目視確認やSEM撮影など人工皮革の構成成分に応じて適宜採用することができる。すなわち、指でなぞった際、立毛繊維を寝かせたり、立たせたりすることができる方向が縦方向となる。また、指でなぞった人工皮革の表面をSEM撮影することで寝た立毛繊維の向きが最も多い方向が縦方向となる。一方で、本発明の人工皮革における「横方向」とは、縦方向に対して人工皮革面内における垂直方向のことを横方向という。
さらに、本発明の人工皮革は、雰囲気温度が100℃、雰囲気湿度が95%、処理時間が30分間の条件で前記人工皮革に対して強制劣化試験を行ったときの、強制劣化試験前後の人工皮革の剛軟度の変化率が5%以内であることが好ましい。この人工皮革の剛軟度の変化率が5%以内、より好ましくは3%以内である人工皮革は、高い耐久性を示すものであるから、従来推奨されていないような、人工皮革に対して負荷の大きい機械による洗浄や洗濯、あるいはドライクリーニングを行った場合においても形態を保持することが可能となる。なお、強制劣化試験前後の人工皮革の剛軟度は、前記の人工皮革の剛軟度の測定方法に従って測定されるものであり、強制劣化試験前後の人工皮革の剛軟度の変化率は、以下の式によって算出するものとする
= |B-B|/B×100
ここで、
: 強制劣化試験前後の人工皮革の剛軟度の変化率(%)
: 強制劣化試験前の人工皮革の剛軟度(mm)
: 強制劣化試験後の人工皮革の剛軟度(mm)
である。
また、本発明の人工皮革は、雰囲気温度が100℃、雰囲気湿度が95%、処理時間が30分間の条件で前記人工皮革に対して強制劣化試験を行ったときの、強制劣化試験前後の人工皮革の厚みの変化率が3%以内であることが好ましい。この人工皮革の剛軟度の変化率が3%以内、より好ましくは2%以内である人工皮革は、高い耐久性を示すものであるから、従来推奨されていないような、人工皮革に対して負荷の大きい機械による洗浄や洗濯、あるいはドライクリーニングを行った場合においても形態を保持することが可能となる。なお、強制劣化試験前後の人工皮革の厚みは、例えば、株式会社尾崎製作所「ダイヤルシックネスゲージ (厚み測定器) 0.01mmタイプ H型」を用い、5枚の試験片を測定して得られる、強制劣化試験前の算術平均値あるいは強制劣化試験後の算術平均値であり、強制劣化試験前後の人工皮革の厚みの変化率は、以下の式によって算出するものとする
= |T-T|/T×100
ここで、
: 強制劣化試験前後の人工皮革の剛軟度の変化率(%)
: 強制劣化試験前の人工皮革の厚み(mm)
: 強制劣化試験後の人工皮革の厚み(mm)
である。
[人工皮革の製造方法]
本発明の人工皮革の製造方法は、下記(1)、(2)の工程を含む、前記の人工皮革の製造方法である。
(1) 繊維質基材に、親水性基を有する高分子弾性体前駆体と架橋剤とを含有する水分散液を含浸せしめ、さらに高分子弾性体を形成させる工程。
(2) 前記の工程(1)以降に雰囲気温度70℃以上180℃以下、雰囲気圧力0.1MPa以上1MPa以下、雰囲気湿度80%以上で湿熱処理する工程。
以下に、これについて、詳細を順に説明する。
(1)高分子弾性体を形成させる工程(工程(1))
本工程では、繊維質基材に、親水性基を有する高分子弾性体前駆体と架橋剤とを含有する水分散液を含浸せしめ、次いで高分子弾性体を形成させる。
(1-a)繊維質基材
まず、本工程に用いられる繊維質基材は、極細繊維からなる不織布または極細繊維発現型繊維からなる不織布を用いることが好ましい。
極細繊維からなる不織布を得る手段として、極細繊維発現型繊維からなる不織布に対する繊維極細化処理が挙げられる。
極細繊維発現型繊維が海島型複合繊維である場合には、繊維極細化処理(脱海処理)は、溶剤中に海島型複合繊維を浸漬し、搾液することによって行うことができる。海成分を溶解する溶剤としては、水酸化ナトリウムなどのアルカリ水溶液や熱水を用いることができる。脱海処理では、連続染色機、バイブロウォッシャー型脱海機、液流染色機、ウィンス染色機およびジッガー染色機等の装置を用いることができる。
極細繊維からなる不織布は、一般に形態が不安定であることから、繊維極細化処理の前に極細繊維発現型繊維からなる不織布に対し、あるいは、繊維極細化処理の後に極細繊維からなる不織布に対して、補強剤を付与することが好ましい。
前記補強剤としては、繊維質基材の補強効果が高く、水に溶出にしにくいことから、ポリビニルアルコール(以下、PVAと略することがある)が好ましく用いられる。PVAの中でも、親水性基を有する高分子弾性体前駆体を含む水分散液付与時に阻害剤を溶出しにくくでき、かつより極細繊維と高分子弾性体の密着を阻害できるという観点から、より水に難溶性である高ケン化度PVAを適用することが、より好ましい態様である。
高ケン化度PVAは、ケン化度が95%以上100%以下であることが好ましく、より好ましくは98%以上100%以下である。ケン化度を95%以上にすることにより、親水性基を有する高分子弾性体分散液付与時の溶出を抑制することができる。
PVAの重合度は、500以上3500以下であることが好ましく、さらに好ましくは500以上2000以下である。PVAの重合度を500以上にすることにより、高分子弾性体分散液付与時の高ケン化度PVAの溶出を抑制することができる。また、PVAの重合度を3500以下にすることにより、高ケン化度PVA液の粘度が高くなりすぎず、安定して繊維質基材に高ケン化度PVAを付与することができる。
繊維質基材へのPVAの付与量は、繊維質基材の繊維質量に対し、0.1質量%以上50質量%以下であり、好ましくは1質量%以上45質量%以下である。PVAの付与量を0.1質量%以上とすることにより、柔軟性と風合いの良好な人工皮革が得られ、PVAの付与量を50質量%以下とすることにより、加工性が良く、耐摩耗性等の物理特性がより良好な人工皮革が得られる。
親水性基を有する高分子弾性体を付与した繊維質基材から必要に応じてPVAを除去する工程を含んでも良い。親水性基を有する高分子弾性体付与後の繊維質基材から、PVAを除去することにより、柔軟な人工皮革を得るものであるが、PVAを除去する方法は特に限定されず、例えば、60℃以上100℃以下の熱水にシートを浸漬し、必要に応じてマングル等で搾液することにより、溶解除去することが好ましい態様である。
極細繊維発現型繊維からなる不織布に高分子弾性体を付与した場合では、高分子弾性体を有した極細繊維発現型繊維からなる不織布の繊維極細化処理が必要となる。
極細繊維発現型繊維が海島型複合繊維である場合には、脱海処理は、溶剤中に海島型複合繊維を浸漬し、搾液することによって行うことができる。海成分を溶解する溶剤としては、水酸化ナトリウムなどのアルカリ水溶液や熱水を用いることができる。脱海処理では、連続染色機、バイブロウォッシャー型脱海機、液流染色機、ウィンス染色機およびジッガー染色機等の装置を用いることができる。
(1-b)水分散液
次に、本工程で用いられる水分散液は、前記の親水性基を有する高分子弾性体前駆体と架橋剤とを含有する。
この水分散液における高分子弾性体前駆体の濃度は、水分散液中5質量%以上50質量%以下が好ましい。高分子弾性体前駆体の水分散液中の濃度を5質量%以上、より好ましくは10質量%以上とすることで、高分子弾性体前駆体の凝集性が良好となり、高分子弾性体が大きな固まりで凝集させることができるため、耐摩耗性に優れた人工皮革を得ることができる。一方、前記の濃度を50質量%以下、より好ましくは40質量%以下とすることで、高分子弾性体を繊維質基材に均一に付与することができるため、表面に析出する高分子弾性体にムラが出来ず、表面の品位に優れた人工皮革を得ることができる。
一方、前記の水分散液における架橋剤の濃度は、高分子弾性体前駆体の質量に対し、1質量%以上、より好ましくは2質量%以上とすることで、架橋剤によって高分子弾性体に3次元網目構造をより多く導入でき、耐摩耗性等に優れた人工皮革を得ることができる。また、架橋剤の濃度を高分子弾性体前駆体の質量に対し、10質量%以下、より好ましくは7質量%以下とすることで、高分子弾性体が形成される際に、過剰な架橋剤が高分子弾性体の凝固を阻害してしまうことを抑制し、耐摩耗性等の物性の低下を抑制しやすくなる。さらに前述の1価陽イオン含有無機塩と併用することで、高分子弾性体と繊維との間の接着構造を制御することができるようになるため、より柔軟な人工皮革を得ると同時に、人工皮革の引張強度や引裂強度などの力学物性を高め、さらに、高耐熱性も達成しやすくなる。
また、本発明の人工皮革の製造方法に係る架橋剤がカルボジイミド系架橋剤および/またはブロックイソシアネート架橋剤であることが好ましい。このようにすることで、人工皮革中の高分子弾性体の分子内に、耐光性や耐熱性、耐摩耗性等の物性、および柔軟性に優れるN-アシルウレア結合および/またはイソウレア結合によって3次元架橋構造を付与させることができ、人工皮革の柔軟性を保持しながら、耐熱性、耐摩耗性等の物性を飛躍的に向上させることができる。
本工程における水分散液には、前記の高分子弾性体前駆体、架橋剤の他、採用する高分子弾性体を形成させる方法に応じて添加剤を加えても良い。この高分子弾性体を形成させる方法としては、感熱凝固剤を水分散液に添加し、その調合液を繊維質基材に含浸し乾燥機にて乾燥させる感熱凝固法、増粘剤を水分散液に添加することでマイグレーションを抑制し、その調合液を繊維質基材に含浸し乾燥機にて乾燥させる乾熱凝固法、水分散液を繊維質基材に含浸させた後、その繊維質基材へスチームを照射することで高分子弾性体前駆体をゲル化させるスチーム凝固法、水分散液を含浸させた繊維質基材をpH1以上3以下の酢酸や蟻酸等の酸性溶液中に浸漬させ、高分子弾性体前駆体をゲル化させる酸凝固法、あるいは、水分散液を含浸させた繊維質基材を80℃以上100℃以下の熱水中に浸漬させ、高分子弾性体前駆体をゲル化させる熱水凝固法等が挙げられ、中でも、表面品位が優美となる感熱凝固剤を添加する感熱凝固法がより好ましい。なお、本発明において、感熱凝固法とは、水分散液を加熱した際に、ある温度(以降、この温度を感熱凝固温度と称する)に達すると水分散液の流動性が減少し、高分子弾性体前駆体が凝固して高分子弾性体が形成されることを利用した方法のことをいう。以下に、それぞれの詳細をさらに説明する。
(1-b-1) 感熱凝固法
感熱凝固法を採用する場合、水分散液の感熱凝固温度は、55℃以上80℃以下であることが好ましい。感熱凝固温度を55℃以上、より好ましくは60℃以上とすることで、水分散液の貯蔵時の安定性が良好となり、操業時の製造設備への高分子弾性体の付着等を抑制することができる。一方、感熱凝固温度を80℃以下、より好ましくは70℃以下とすることで、高分子弾性体前駆体が水分の蒸発とともに繊維質基材の表面に移行する、マイグレーション現象を抑制することができる。さらに、繊維質基材からの水分蒸発前に高分子弾性体前駆体の凝固が進行することで、高分子弾性体が強く繊維を拘束しない構造を形成することができ、良好な柔軟性、反発感を有する人工皮革を得ることが可能である。
前記の感熱凝固法に用いられる感熱凝固剤は、本発明において、前記の水分散液を感熱凝固温度よりも高い温度とした際に、高分子弾性体前駆体の凝固を促進させる物質などのことであり、特に、このような物質として塩化ナトリウムまたは硫酸ナトリウムのような1価陽イオン含有無機塩であることが好ましい。硫酸マグネシウムや塩化カルシウムといった2価陽イオンを有する無機塩では、少量の添加によっても水分散液の安定性に大きく影響するため、高分子弾性体前駆体の種類によっては、その添加量を調整することによる感熱ゲル化温度の厳密な制御が困難である。さらに、水分散液の調製時や貯蔵時にゲル化してしまうことがあるなどの点で課題がある。一方で、イオン価数が小さい1価陽イオン含有無機塩は、水分散液の安定性への影響が比較的小さく、添加量を調整することで水分散液の安定性を担保しながらにして、感熱凝固温度を厳密に制御することが出来る。
この水分散液において、1価陽イオン含有無機塩は、水分散液中の高分子弾性体前駆体100質量部に対して10質量部以上100質量部以下となる量が含有される。この含有される量を10質量部以上とすることで、水分散液中に多量に存在するイオンが、高分子弾性体粒子に均一に作用することで、特定の感熱凝固温度において速やかに凝固を完了させることができる。これによって、繊維質基材中に多量の水分を含有した状態で高分子弾性体前駆体の凝固を進行させることができるようになる。この結果、天然皮革に類似した良好な柔軟性、反発感を達成することが可能である。さらに、前記の含有量を上記の範囲とすることで、高分子弾性体前駆体が過度に凝集・硬化してしまうことを抑制し、膜状に広がった高分子弾性体が形成されてしまうことも抑制できる。一方で、前記の含有量を100質量部以下とすることで、高分子弾性体が適度なサイズで形成されるため、引張強度や引裂強度などの力学物性の低下を抑えることができる。また、水分散液の経時でのゲル化が生じにくく、かつ、高分子弾性体前駆体と水との分離などが生じにくくすることができる。
感熱凝固法では前記の感熱凝固剤を含む水分散液を含浸せしめ、次いで水分散液を含浸させた繊維質基材の温度を100℃以上180℃以下として加熱乾燥処理を行い、高分子弾性体を形成させる。
この加熱乾燥処理における繊維質基材の温度は、100℃以上180℃以下とする。繊維質基材の温度を100℃以上、好ましくは120℃以上、より好ましくは140℃以上とすることにより、高分子弾性体前駆体を速やかに凝固させ、自重によるシート下面に高分子弾性体が偏在してしまうことを抑制できる。また、高分子弾性体前駆体と架橋剤との架橋反応を十分に促進し、3次元網目構造を形成させ、人工皮革の引張強度や引裂強度などの力学物性や耐光性を向上させることができる。一方、繊維質基材の温度を180℃以下、好ましくは175℃以下とすることで、高分子弾性体前駆体が人工皮革の製造中に熱劣化してしまうことを抑制することができる。
(1-b-2) 乾熱凝固法
増粘剤を添加した乾熱凝固法を採用する場合、増粘剤を含む水分散液の粘度は、200mPa・s~100000mPa・sであることが好ましい。前記水分散液の粘度を200mPa・s以上にすることにより、乾熱凝固工程における高分子弾性体のマイグレーションを抑制することができ、また、粘度を100000mPa・s以下とすることにより、水分散液を繊維質基材内に均一に含浸させやすくなる。
なお、本発明における「増粘剤」とは、水分散液に含有されることで、水分散液の粘度を前記の範囲とすることができるものであり、このような増粘剤は、ノニオン系、アニオン系、カチオン系および両イオン系の増粘剤を適用することができる。中でも、水分散液の安定性に影響を及ぼしにくいことから、前記増粘剤がノニオン性増粘剤であることが好ましい。
増粘剤の種類としては、会合型増粘剤と水溶性高分子型増粘剤の中から選択できる。
会合型増粘剤としては、ウレタン変性化合物やアクリル変性化合物やそれらの共重合化合物等を適用することができる。
水溶性高分子型増粘剤としては、天然高分子化合物、半合成高分子化合物および合成高分子化合物等が挙げられる。
天然高分子化合物としては、タマリンドガム、グアーガム、ローストビーンガム、トラガントガム、デンプン、デキストリン、ゼラチン、アガロース、カゼイン、カードラン等のノニオン性のものや、キサンタンガム、カラギーナン、アラビアガム、ペクチン、コラーゲン、コンドロイチン硫酸ソーダ、ヒアルロン酸ソーダ、カルボキシメチルデンプン、リン酸デンプン等のアニオン性のものや、カチオンデンプン、キトサン等のカチオン性のものが挙げられる。
半合成高分子としては、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、メチルヒドロキシプロピルセルロース、可溶性デンプン、メチルデンプン等のノニオン性のものや、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルデンプン、およびアルギン酸塩等のアニオン性の化合物が挙げられる。
合成高分子化合物としては、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン、ポリメチルビニルエーテル、ポリエチレングリコール、ポリイソプロピルアクリルアミド等のノニオン性のものやカルボキシビニルポリマ-やポリアクリル酸ナトリウム、ポリスチレンスルホン酸ソーダ等のアニオン性のものや、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート4級塩、ジメチルジアリルアンモニウムクロライド、ポリアミジン、ポリビニルイミダゾリン、およびポリエチレンイミン等のカチオン性の化合物が挙げられる。
この加熱乾燥処理における繊維質基材の温度は、100℃以上180℃以下とする。繊維質基材の温度を100℃以上、好ましくは120℃以上、より好ましくは140℃以上とすることにより、高分子弾性体前駆体を速やかに凝固させ、自重によるシート下面に高分子弾性体が偏在してしまうことを抑制できる。また、高分子弾性体前駆体と架橋剤との架橋反応を十分に促進し、3次元網目構造を形成させ、人工皮革の物性や耐光性を向上させることができる。一方、繊維質基材の温度を180℃以下、好ましくは175℃以下とすることで、高分子弾性体が熱劣化してしまうことを抑制することができる。
スチーム凝固法を採用する場合については、スチーム温度は、40~200℃であることが好ましい。スチーム温度を40℃以上、より好ましくは80℃以上とすることにより、水分散型ポリウレタン樹脂組成物の凝固までの時間を短くしてマイグレーション現象をより抑制することができる。一方、スチーム凝固の温度を200℃以下、より好ましくは160℃以下とすることにより、水分散型ポリウレタン樹脂組成物の熱劣化を防ぐことができる。
(1-c)高分子弾性体のさらなる形成
本発明の人工皮革の製造方法においては、前記の(1-b)で示したように、水分散液を含浸させ、高分子弾性体前駆体を凝固させて、高分子弾性体を形成させたのち、さらに、繊維構造物に親水性基を有する高分子弾性体前駆体と、架橋剤、添加剤とを含有する水分散液を含浸せしめ、次いで、前述した凝固法を用いて、高分子弾性体を形成させることも好ましい。
本工程で用いられる水分散液は、前述した(1-b)水分散液と同様であり、同一の高分子弾性体前駆体を用いてもよいし、異なる高分子弾性体前駆体を用いてもよい。好ましくは、1回目の高分子弾性体前駆体が構成成分としてポリエーテルジオールを含む、高分子弾性体前駆体Aであり、2回目の高分子弾性体前駆体が構成成分としてポリカーボネートジオールを含む、高分子弾性体前駆体Bとからなる態様である。柔軟性に優れる構成成分としてポリエーテルジオールを含む、高分子弾性体Aと、光や熱などの外的刺激に対する耐久性に優れる構成成分としてポリカーボネートジオールを含む、高分子弾性体Bの両者をシート状物内部に含むことで、柔軟かつ工程(2)を経ても高分子弾性体の劣化を抑制した耐久性を有する人工皮革が得られやすくなる。
(1-d)高分子弾性体の形成後から工程(2)まで
本発明の人工皮革の製造方法においては、前記の繊維構造物の厚み方向に複数枚に分割することも好ましい。特に、厚み方向に複数枚に分割する際、得られる繊維構造物の厚みが等しくなるように得るようにすることで、最終的に得られる人工皮革も均質なものが得られることから、より好ましい。
本発明では、さらに、前記の繊維構造物の少なくとも一面を起毛処理して、表面に立毛を形成させてもよい。立毛を形成する方法は、特に限定されず、サンドペーパー等によるバフィング等、当分野で通常行われる各種方法を用いることができる。立毛長は短すぎると優美な外観が得られにくく、長すぎると、ピリングが発生しやすくなる傾向にあることから、立毛長は0.2mm以上1mm以下とすることが好ましい。
(2)染色を行う工程
本発明の人工皮革の製造方法においては、前記の工程(1)と後述する工程(2)との間に、高分子弾性体を形成させた繊維質基材に対して、染色を行うことができる。染色方法としては、当分野で通常用いられる各種方法を採用することができる。中でも、人工皮革の染色と同時に揉み効果を与えて人工皮革を柔軟化することができることから、液流染色機を用いる方法が好ましい。
染色温度は、繊維の種類にもよるが、80℃以上150℃以下とすることが好ましい。染色温度を80℃以上、より好ましくは110℃以上とすることにより、繊維質基材を構成する繊維への染着を効率良く行わせることができる。一方、染色温度を150℃以下、より好ましくは130℃以下とすることにより、人工皮革に含まれる高分子弾性体の劣化を防ぐことができる。
本発明で用いられる染料は、繊維質基材を構成する繊維の種類にあわせて選択すればよく、特に限定されないが、例えば、ポリエステル系繊維であれば分散染料を用いることができ、ポリアミド系繊維であれば酸性染料や含金染料を用いることができ、更にそれらの組み合わせを用いることができる。分散染料で染色した場合は、染色後に還元洗浄を行ってもよい。
また、染色時に染色助剤を使用することも好ましい態様である。染色助剤を用いることにより、染色の均一性や再現性を向上させることができる。また、染色と同浴または染色後に、例えば、シリコーン等の柔軟剤、帯電防止剤、撥水剤、難燃剤、耐光剤および抗菌剤等を用いた仕上げ剤処理を施すことができる。
(3)湿熱処理する工程(工程(2))
本発明の人工皮革の製造方法においては、前記の工程(1)以降に(工程(1)の後に染色を行った場合には、さらにその後に)、得られた繊維質基材に対して、雰囲気温度70℃以上180℃以下、雰囲気圧力0.1MPa以上1MPa以下、雰囲気湿度80%RH以上の条件で湿熱処理することが好ましい。この工程を行うことにより、水蒸気によって極細繊維の束と高分子弾性体との間の接着が部分的に剥がれ、前記の人工皮革を容易に得ることができ、人工皮革の風合いは柔軟なものとなるだけでなく、長期使用時における風合い・形態への変化を防ぎ、いわゆる経年劣化を抑制することが可能となる。
前記の湿熱処理の条件について、雰囲気温度を70℃以上、より好ましくは90℃以上、さらに好ましくは110℃以上とすることにより、前記した極細繊維の束と高分子弾性体との間の接着をより多くの部分で剥がすことができ、さらに柔軟な人工皮革を得ることができ、経年劣化も抑制することができるようになる。一方、雰囲気温度を180℃以下、より好ましくは170℃以下、さらに好ましくは160℃以下とすることで、湿熱処理時の高分子弾性体の熱劣化を抑制することができ、表面品位に優れた人工皮革を得ることができる。
また、前記の湿熱処理の条件について、雰囲気湿度を80%RH以上、より好ましくは90%RH以上、さらに好ましくは95%RH以上とすることによって、人工皮革の極細繊維がよりさばけるようになり、優れた外観品位の人工皮革を得ることができる。
ここで、湿熱処理を行う時間については、湿熱処理を行う条件、すなわち、雰囲気温度、雰囲気圧力、雰囲気湿度に応じて適宜調整されるものである。
なお、湿熱処理を行う方法としては、加熱した繊維質基材に水を噴霧しスチームを発生させて行う方法、水を繊維質基材に含ませて乾燥させる方法、繊維質基材にスチームを吹き付ける方法、スチームで満たした装置に繊維質基材を一定時間存在させる方法、などが挙げられる。中でも、繊維質基材にスチームを吹き付ける方法、スチームで満たした装置に繊維質基材を一定時間存在させる方法によれば、繊維質基材の内部、表層をムラなく処理することができ、得られる人工皮革が均一感に優れたものとなるため、特に好ましい。
ここで、本発明における「スチーム」とは、水蒸気を含む空気、飽和水蒸気、または、過熱水蒸気のことを指す。
次に、実施例に基づき本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、各物性の測定において、特段の記載がないものは、前記の方法に基づいて測定を行ったものである。
[評価方法]
(1)極細繊維の平均単繊維直径
走査型電子顕微鏡として、株式会社キーエンス製「VE-7800」型を用いて人工皮革を構成する極細繊維を3000倍で観察し、30μm×30μmの視野内で無作為に抽出した50本の単繊維直径をμm単位で、小数点以下第1位まで測定した。
(2)人工皮革の剛軟度(柔軟性)
前記のとおり、JIS L1096:2010「織物および編物の生地試験方法」の8.21「剛軟度」の8.21.1に記載のA法(45°カンチレバー法)に基づき、縦方向へ2×15cmの試験片を5枚作成し、45°の角度の斜面を有する水平台へ置き、試験片を滑らせて試験片の一端の中央点が斜面と接したときのスケールを読み、5枚の平均値を求めた。
(3)強制劣化試験前後の人工皮革の剛軟度の変化率
強制劣化試験は、以下に示す手順で行った。すなわち、株式会社大屋製作所製ステンレスビーカー(直径26cm、容積13L、SUS316製)に2Lの水を入れ、熱源を用いて内部の水温を100℃まで昇温し、湿度が95%RH以上となることを確認した。そして、人工皮革から縦方向2cm×横方向15cmの大きさに試験片を切り取り、この試験片がステンレスビーカーの内部で水に触れないように、日本特殊織物株式会社製ポリエチレンモノフィラメント製メッシュ「PE 24目」を水面から5cmの高さに設置し、試験片をこのメッシュの上に置き、蓋をして、30分間、雰囲気温度100℃、雰囲気湿度95%RHに保持した。その後、内部より試験片を取り出し、前記の手法と同様に剛軟度を測定し、前記の通り、剛軟度の変化率を測定した。
(4)強制劣化試験前後の人工皮革の厚みの変化率
強制劣化試験は、以下に示す手順で行った。すなわち、株式会社大屋製作所製ステンレスビーカー(直径26cm、容積13L、SUS316製)に2Lの水を入れ、熱源を用いて内部の水温が100℃まで昇温し、湿度が95%RH以上となることを確認した。そして、人工皮革から縦方向5cm×横方向5cmの大きさに試験片を切り取り、この試験片がステンレスビーカーの内部で水に濡れないように、日本特殊織物株式会社製ポリエチレンモノフィラメント製メッシュ「PE 24目」を水面から5cmの高さに設置し、試験片をこのメッシュの上に置き、蓋をして、30分間、雰囲気温度100℃、雰囲気湿度95%RHに保持した。その後、内部より試験片を取り出し、人工皮革の厚みを株式会社尾崎製作所製「ダイヤルシックネスゲージ (厚み測定器) 0.01mmタイプ H型」を用い測定し、前記の通り、厚みの変化率を測定した。
(5)水分散液の感熱凝固温度
各実施例、比較例で調製した水分散液の感熱凝固温度は、以下の手順で測定した。
(5-1)水分散液20gを内径12mmの試験管に入れ、温度計を先端が液面よりも下になるように差し込む。
(5-2)試験管を封止し、95℃の温度の温水浴に水分散液の液面が温水浴の液面よりも下になるように浸漬する。
(5-3)温度計により試験管内の温度の上昇を確認しつつ、適宜1回あたり5秒以内の時間、試験管を引き上げて水分散液の液面の流動性の有無を確認できる程度に揺する。
(5-4)水分散液の液面が流動性を失った温度を記録する。
(5-5)この測定を、水分散液1種につき3回ずつ行い、平均値を算出し、これを水分散液の感熱凝固温度とした。
(6)高分子弾性体中の結合種の同定:
上記人工皮革より分離した高分子弾性体について、日本分光株式会社製「FT/IR 4000 series」を用いて、赤外分光分析により結合種を同定した。
(7)人工皮革の外観品位:
得られた人工皮革の表面品位は10人のパネラーによる評価で行い、下記の基準で評価して、最も人数の多かった評価結果を採用した。なお、表面品位の評価は、図1に示すように床面1と平行の位置にある検査台2の上に人工皮革3を置き、目視確認する位置と人工皮革とを結ぶ線4の距離が50cmとなるように、人工皮革3に対して検査台平面から45°の角度で人工皮革3を目視確認して判断した。また、検査台には、検査台上面から垂直方向に150cm上部に32Wの蛍光灯6が設置されていた。その蛍光灯6の真下、すなわち、人工皮革から蛍光灯への垂線7を引くことができる位置に人工皮革3を置いて表面品位評価を実施した。外観品位は、4級~5級を良好であるものとした。
5級:均一な繊維の立毛があり、繊維の分散状態は良好で、外観は良好であった。
4級:5級と3級の間の評価である。
3級:繊維の分散状態はやや良くない部分があったが、繊維の立毛はあり、外観はまずまず良好であった。
2級:3級と1級の間の評価である。
1級:繊維の立毛は少なく、また、全体的に繊維の分散状態は非常に悪く、外観は不良であった。
[製造例1: 高分子弾性体前駆体aの水分散液Waの調製]
高分子ポリオールとして数平均分子量(Mn)が2000のポリテトラメチレンエーテルグリコール、有機ジイソシアネートとしてMDI、親水性基を有する活性水素成分含有化合物として、2,2-ジメチロールプロピオン酸を用い、トルエン溶媒中でプレポリマーを作成した。さらに、鎖伸長剤としてエチレングリコールとエチレンジアミン、外部乳化剤としてポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルと水を添加して、攪拌した。減圧化でトルエンを除去して、高分子弾性体前駆体aの水分散液Waを得た。なお、高分子弾性体前駆体aは、高分子弾性体Aに対応する高分子弾性体前駆体である。また、この水分散液Waの感熱凝固温度は、65℃であった。
[製造例2:高分子弾性体前駆体bの水分散液Wbの調製]
高分子ポリオールとして数平均分子量(Mn)が2000のポリヘキサメチレンカーボネート、有機ジイソシアネートとして水添MDI、親水性基を有する活性水素成分含有化合物として、側鎖にポリエチレングリコールを有するジオール化合物および2,2-ジメチロールプロピオン酸を用い、アセトン溶媒中でプレポリマーを作成した。鎖伸長剤としてエチレングリコールとエチレンジアミンと水を添加して、攪拌した。減圧化でアセトンを除去して高分子弾性体前駆体bの水分散液Wbを得た。なお、高分子弾性体前駆体bは、高分子弾性体Bに対応する高分子弾性体前駆体である。また、この水分散液Wbの感熱凝固温度は、65℃であった。
[実施例1]
(極細繊維発現型不織布の作製)
海成分として、5-スルホイソフタル酸ナトリウムを8モル%共重合したポリエチレンテレフタレートを用い、島成分として、ポリエチレンテレフタレートを用い、海成分が20質量%で島成分が80質量%の複合比率で、島数16島/1フィラメント、平均繊維直径が20μmの海島型複合繊維を得た。得られた海島型複合繊維を、繊維長51mmにカットしてステープルとし、カードおよびクロスラッパーを通して繊維ウェブを形成し、ニードルパンチ処理により不織布とした。このようにして得られた不織布を、97℃の温度の湯中に2分間浸漬させて収縮させ、100℃の温度で5分間乾燥させた。
(高分子弾性体樹脂の付与)
高分子弾性体aの固形分100質量%に対して、添加剤として感熱凝固剤である硫酸ナトリウム(表1では「NaSO」と記載)を35質量%添加し、カルボジイミド系架橋剤3質量%加え、水によって全体を固形分11質量%に調製し、高分子弾性体前駆体aを含む水分散液Waを得た。この水分散液Waの感熱凝固温度は、65℃であった。得られた繊維質基材用不織布を、前記水分散液に浸漬し、次いで160℃の温度の熱風で20分間乾燥することにより、繊維重量に対して高分子弾性体Aが10質量%付与された高分子弾性体付与不織布を得た。
(繊維極細化)
得られた高分子弾性体付与不織布を、95℃の温度に加熱した濃度8g/Lの水酸化ナトリウム水溶液に浸漬して30分間処理を行い、海島型複合繊維の海成分を除去した極細繊維からなるシートを得た。
(半裁と起毛工程)
得られた高分子弾性体樹脂付与シートを厚さ方向に垂直に半裁し、半裁面の反対側をサンドペーパー番手240番のエンドレスサンドペーパーで研削することにより、厚みが0.7mmの立毛を有する人工皮革を得た。
(染色と仕上げ)
得られた立毛を有する人工皮革を、液流染色機を用いて120℃の温度条件下で黒色染料を用いて染色を行った。
(湿熱処理)
得られた染色品を95%RH、140℃の過熱水蒸気で満たした雰囲気下に30秒間さらし、極細繊維の平均単繊維直径が4.4μmの人工皮革を得た。製造工程・製造条件についてまとめたものを表1に、得られた人工皮革の特性を表2に示す。
[実施例2]
実施例1の(高分子弾性体樹脂の付与)において、水分散液Wbを用いたこと以外は、実施例1と同様にして極細繊維の平均単繊維直径が4.4μmの人工皮革を得た。製造工程・製造条件についてまとめたものを表1に、得られた人工皮革の特性を表2に示す。
[実施例3]
実施例1の(高分子弾性体樹脂の付与)において、架橋剤としてブロックイソシアネート架橋剤を3質量%加えたこと以外は、実施例1と同様にして極細繊維の平均単繊維直径が4.4μmの人工皮革を得た。製造工程・製造条件についてまとめたものを表1に、得られた人工皮革の特性を表2に示す。
[実施例4]
実施例1の(高分子弾性体樹脂の付与)において、添加剤として増粘剤であるグアーガム3質量%を加えたこと以外は、実施例1と同様にして極細繊維の平均単繊維直径が4.4μmの人工皮革を得た。製造工程・製造条件についてまとめたものを表1に、得られた人工皮革の特性を表2に示す。
[実施例5]
実施例1の(高分子弾性体樹脂の付与)において、繊維質基材用不織布を水分散液Waに浸漬した後に95%RH、100℃の水蒸気で満たした雰囲気下に20分間さらし、さらに、160℃の温度の熱風で20分間乾燥したこと以外は、実施例1と同様にして極細繊維の平均単繊維直径が4.4μmの人工皮革を得た。製造工程・製造条件についてまとめたものを表1に、得られた人工皮革の特性を表2に示す。
[実施例6]
実施例1の(湿熱処理)において、処理温度を140℃から80℃へ変更したこと以外は、実施例1と同様にして極細繊維の平均単繊維直径が4.4μmの人工皮革を得た。製造工程・製造条件についてまとめたものを表1に、得られた人工皮革の特性を表2に示す。
[実施例7]
実施例1の(湿熱処理)において、処理温度を140℃から110℃へ変更したこと以外は、実施例1と同様にして極細繊維の平均単繊維直径が4.4μmの人工皮革を得た。製造工程・製造条件についてまとめたものを表1に、得られた人工皮革の特性を表2に示す。
[実施例8]
実施例1の(湿熱処理)において、処理温度を140℃から170℃へ変更したこと以外は、実施例1と同様にして極細繊維の平均単繊維直径が4.4μmの人工皮革を得た。製造工程・製造条件についてまとめたものを表1に、得られた人工皮革の特性を表2に示す。
[実施例9]
実施例1の(繊維極細化)と(半裁と起毛工程)との間に、以下の(第2の高分子弾性体樹脂の付与)を行い、さらに、前記の(半裁と起毛工程)において、エンドレスサンドペーパーの番手を240番手から180番手に変えた以外は、実施例1と同様にして、極細繊維の平均単繊維直径が4.4μmの人工皮革を得た。製造工程・製造条件についてまとめたものを表1に、得られた人工皮革の特性を表2に示す。
(第2の高分子弾性体樹脂の付与)
高分子弾性体前駆体bを100質量部として、感熱凝固剤として硫酸ナトリウムを35質量部添加し、カルボジイミド系架橋剤を3質量部加え、水によって全体を固形分11質量%となるように、高分子弾性体前駆体bを含む水分散液Wbを調製した。感熱凝固温度は、65℃であった。得られた繊維質基材用不織布を、前記の水分散液に浸漬し、次いで160℃の温度の熱風で20分間乾燥し、繊維重量に対して高分子弾性体Bが10質量%付与された高分子弾性体付与不織布を得た。
[比較例1]
実施例1の(高分子弾性体樹脂の付与)において、架橋剤を添加しなかったこと以外は、実施例1と同様にして極細繊維の平均単繊維直径が4.4μmの人工皮革を得た。製造工程・製造条件についてまとめたものを表1に、得られた人工皮革の特性を表2に示す。
[比較例2]
実施例1の(高分子弾性体樹脂の付与)において、添加剤を使用しなかったこと以外は、実施例1と同様にして極細繊維の平均単繊維直径が4.4μmの人工皮革を得た。製造工程・製造条件についてまとめたものを表1に、得られた人工皮革の特性を表2に示す。
[比較例3]
実施例1の(湿熱処理)において、処理温度を140℃から60℃へ変更したこと以外は、実施例1と同様にして極細繊維の平均単繊維直径が4.4μmの人工皮革を得た。製造工程・製造条件についてまとめたものを表1に、得られた人工皮革の特性を表2に示す。
[比較例4]
実施例1の(湿熱処理)において、処理温度を140℃から190℃へ変更したこと以外は、実施例1と同様にして極細繊維の平均単繊維直径が4.4μmの人工皮革を得た。製造工程・製造条件についてまとめたものを表1に、得られた人工皮革の特性を表2に示す。
[比較例5]
実施例1の(湿熱処理)を、(極細繊維発現型不織布の作製)後に行ったこと以外は実施例1と同様にして極細繊維の平均単繊維直径が4.4μmの人工皮革を得た。製造工程・製造条件についてまとめたものを表1に、得られた人工皮革の特性を表2に示す。
[比較例6]
実施例1の(湿熱処理)を(高分子弾性体樹脂の付与)後に行ったこと以外は実施例1と同様にして極細繊維の平均単繊維直径が4.4μmの人工皮革を得た。製造工程・製造条件についてまとめたものを表1に、得られた人工皮革の特性を表2に示す。
[比較例7]
実施例1の(湿熱処理)を(半裁と起毛工程)後に行ったこと以外は実施例1と同様にして極細繊維の平均単繊維直径が4.4μmの人工皮革を得た。製造工程・製造条件についてまとめたものを表1に、得られた人工皮革の特性を表2に示す。
[比較例8]
実施例1の(湿熱処理)を実施しなかったこと以外は実施例1と同様にして極細繊維の平均単繊維直径が4.4μmの人工皮革を得た。製造工程・製造条件についてまとめたものを表1に、得られた人工皮革の特性を表2に示す。
[比較例9]
実施例4の(湿熱処理)を実施しなかったこと以外は実施例1と同様にして極細繊維の平均単繊維直径が4.4μmの人工皮革を得た。製造工程・製造条件についてまとめたものを表1に、得られた人工皮革の特性を表2に示す。
[比較例10]
実施例5の(湿熱処理)を実施しなかったこと以外は実施例1と同様にして極細繊維の平均単繊維直径が4.4μmの人工皮革を得た。製造工程・製造条件についてまとめたものを表1に、得られた人工皮革の特性を表2に示す。
Figure 2022027451000001
Figure 2022027451000002
表2に示すとおり、実施例1~9の人工皮革は、高分子弾性体の繊維束被覆率を5%以上20%以下とすることで、高柔軟で、長期使用時の風合いや形態などの劣化への耐久性に優れる人工皮革を得ることができた。特に、実施例1の人工皮革は、高分子弾性体前駆体のポリオール部分をポリエーテル系とし、架橋剤をカルボジイミド系とし、凝固調整剤を使用した感熱凝固プロセスを経ることで、より柔軟で耐久性に優れる人工皮革を得ることができた。
一方、表2に示すとおり、比較例1の人工皮革は、架橋剤を使用していないため、湿熱処理に優美な外観を維持できず、品位が劣位な人工皮革であった。また、比較例2の人工皮革は、添加剤を使用していないため、乾熱凝固時に高分子弾性体がマイグレーションを起こすため、表面に偏在した高分子弾性体により、硬く品位が劣位な人工皮革となった。また、比較例3の人工皮革は、湿熱処理工程における処理温度が60℃であったため、高分子弾性体の繊維束被覆率が高く、使用時の風合いや形態などの劣化への耐久性に劣る人工皮革であった。また、比較例4の人工皮革は、湿熱処理工程における処理温度が190℃であったため、湿熱処理に優美な外観を維持できず、品位が劣位となった。また、比較例5、6、7では湿熱処理工程以降に染色と仕上げ工程等を行っているため、再度高分子弾性体が極細繊維へ融着し、高分子弾性体の繊維束被覆率が高く、使用時の風合いや形態などの劣化への耐久性に劣る人工皮革であった。また、比較例8、9、10では、湿熱処理を実施していないため、高分子弾性体の繊維束被覆率が高く、使用時の風合いや形態などの劣化への耐久性に劣る人工皮革であった。
本発明を特定の態様を用いて詳細に説明したが、本発明の意図と範囲を離れることなく様々な変更及び変形が可能であることは、当業者にとって明らかである。
本発明の人工皮革は、家具、椅子および壁装や、自動車、電車および航空機などの車輛室内における座席、天井や内装などの表皮材、非常に優美な外観を有する内装材、および衣料や工業材料等として好適に用いることができる。
1: 床面
2: 検査台
3: 人工皮革
4: 目視確認する位置と人工皮革とを結ぶ線
5: 目視確認する位置
6: 蛍光灯
7: 人工皮革から蛍光灯への垂線

Claims (7)

  1. 極細繊維からなる繊維質基材と、高分子弾性体とを有する人工皮革であって、前記極細繊維の平均単繊維直径は0.1μm以上10μm以下であり、前記人工皮革の厚さ方向の断面において、高分子弾性体により被膜されている繊維束の数の割合が5%以上20%以下である、人工皮革。
  2. 前記高分子弾性体は、親水性基並びにN-アシルウレア結合および/またはイソウレア結合を有する、請求項1に記載の人工皮革。
  3. 下記(1)、(2)の工程を含む、請求項1または2に記載の人工皮革の製造方法。
    (1) 繊維質基材に、親水性基を有する高分子弾性体前駆体と架橋剤とを含有する水分散液を含浸せしめ、さらに高分子弾性体を形成させる工程。
    (2) 前記工程(1)以降に雰囲気温度70℃以上180℃以下、雰囲気圧力0.1MPa以上1MPa以下、雰囲気湿度80%RH以上で湿熱処理する工程。
  4. 前記工程(1)と工程(2)との間に、染色を行う工程を含む、請求項3に記載の人工皮革の製造方法。
  5. 前記架橋剤がカルボジイミド系架橋剤および/またはブロックイソシアネート架橋剤である、請求項3または4に記載の人工皮革の製造方法。
  6. 前記水分散液に1価陽イオン含有無機塩がさらに含有されてなり、前記高分子弾性体前駆体100質量部に対して10質量部以上50質量部以下含有する、請求項3~5のいずれかに記載の人工皮革の製造方法。
  7. 前記工程(1)において、水分散液を含浸させた繊維質基材の温度を100℃以上180℃以下として加熱乾燥処理を行う、請求項3~6のいずれかに記載の人工皮革の製造方法。
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