JP2022025631A - ワクチン組成物 - Google Patents

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Abstract

Figure 2022025631000001
【課題】本発明は、抗原に対する免疫応答を改善したワクチン組成物を提供することを目的とする。本発明はまた、抗原に対する免疫応答を改善する方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明により、(a)抗原と、(b)microRNA1-192(miR-192)とを含む、ワクチン組成物が提供される。また、哺乳動物への投与のためのワクチンを製造するための方法であって、(1)miR-192を発現する動物培養細胞を培養する工程、(2)前記動物培養細胞にウイルスを接種して感染させて細胞を培養することにより、細胞においてウイルスを複製する工程、および(3)ウイルスを、miR-192とともに単離してウイルス調製物を製造する工程、を含む方法が提供される。
【選択図】図27

Description

本発明は、抗原に対する免疫応答を改善したワクチン組成物に関する。本発明はまた、抗原に対する免疫応答を改善する方法に関する。
インフルエンザ、呼吸器多核体ウイルス(RSVウイルス)、COVID-19など感染症による死亡率は65歳以上の老齢者で著しく高くなる。これらのウイルスは、老齢者において気管支炎及び重度の呼吸器疾患を引き起こす主要な原因である。一方で、老齢者は加齢に伴い免疫が低下しているため、より一層、ウイルス感染症に対する免疫の向上が求められる。老齢者のウイルス感染症に対する免疫獲得にはワクチンが使用されるが、免疫が低下している老齢者に対しては、ワクチンによる免疫向上作用が弱く、従来のワクチンによる予防効果は、老齢者では顕著に低下することが知られている。また、ワクチン接種は感染症の予防に非常に効果的だが、免疫系への老齢の影響は免疫機能障害につながり、老齢者のワクチン接種の有効性を低下させる可能性が指摘されている。
そのため、ウイルス感染症に対するワクチンの免疫向上作用をより増強させる必要があるが、免疫賦活剤などではこの点で十分ではない。そのため、老齢者にも高い予防効果を示すワクチンの開発が求められている。
また、季節性インフルエンザワクチンは、ウイルスのHAタンパク質を含む画分が使用されているが、一般に予防効果が十分でなく、特に免疫向上作用が弱い老齢者においては問題となる。一方で、パンデミックインフルエンザワクチンでは、ウイルス粒子全体を用いた全粒子ワクチンが使用されている。承認を受けたワクチンの作製には鶏卵が主に用いられている。それ以外に、培養細胞、例えばMDCKなどの用いた方法も報告されており(特許文献1~4)、一部のワクチンメーカーにおいてMDCK細胞を用いた作製が承認されている。
循環細胞外小胞(circulating extracellular vesicle:EV)は、インフルエンザに対するワクチン接種に使用される全ワクチン粒子(whole virus particle: WVP)と呼ばれる不活化されたインフルエンザAウイルス粒子による刺激後の免疫応答を調節できるという報告がある(非特許文献1:Okamoto et al., 2018, J Biol Chem 293, 18585-18600)。
国際公開WO1997/037000 国際公開WO2008/105931 国際公開WO2010/036760 再表2007-132763号公報
Okamoto et al., 2018, J Biol Chem 293, 18585-18600
本発明は、抗原に対する免疫応答を改善したワクチン組成物を提供することを目的とする。本発明はまた、抗原に対する免疫応答を改善する方法を提供することを目的とする。
本発明者は、若齢と老齢のマウス個体から血清を採取してそこから細胞外小胞を抽出し、細胞外小胞内のmicroRNAについて網羅的に調べたところ、老齢個体のマウスでのみ特異的に発現量が増加するmicroRNAを複数同定した。これらのmicroRNAについて調べたところ、miR-192と呼ばれるmicroRNAが免疫応答を制御することを発見した。そこで、このmiR-192を含む細胞外小胞を調製し、老齢のマウスに投与したのちにワクチンを接種したところ、老齢のマウスは、若齢のマウスと同程度にまで免疫応答を回復させることを発見し、本発明を完成した。
本発明は以下の態様を含む。
[1](a)抗原と、(b)microRNA1-192(miR-192)とを含む、ワクチン組成物。
[2]前記miR-192は細胞外小胞に含まれた状態にて含有される上記[1]に記載のワクチン組成物。
[3]65歳またはそれ以上の年齢のヒト老齢者に投与されることを特徴とする、上記[1]または[2]に記載のワクチン組成物。
[4]前記抗原は病原体由来の抗原である上記[1]~[3]のいずれか一つに記載のワクチン組成物。
[5]抗インフルエンザワクチン組成物である上記[1]~[3]のいずれか一つに記載のワクチン組成物。
[6]前記抗原は、腫瘍に対するT細胞応答を選択的に引き出す腫瘍抗原である、上記[1]~[3]のいずれか一つに記載のワクチン組成物。
[7]哺乳動物への投与のためのワクチンを製造するための方法であって、
(1)miR-192を発現する(または、miR-192をトランスフェクトして発現させた)動物培養細胞を培養する工程、
(2)前記動物培養細胞にウイルスを接種して感染させて細胞を培養することにより、細胞においてウイルスを複製する工程、および
(3)ウイルスを、miR-192とともに単離してウイルス調製物を製造する工程、
を含む方法。
[8]前記ウイルス調製物を弱毒化または不活性化する工程をさらに含む、上記[7]に記載の方法。
[9]前記工程(3)における単離を、miR-192は細胞外小胞に含まれた状態にてウイルスとともに単離される、上記[7]または[8]に記載の方法。
[10]前記工程(3)における単離を、ウイルス粒子の大きさ(例えば直径)およびmiR-192を含有する細胞外小胞の大きさ(例えば直径)に基づく分離方法により行う、上記[9]に記載の方法。
[11]前記分離方法が、約50~約150nm(好ましくは約60~約140nm、より好ましくは約70~約130nm、さらに好ましくは約80~約120nm、最も好ましくは約90~約110nm)の粒子径(好ましくは直径)に基づいて行われる上記[10]に記載の方法。
[12]前記ウイルスがインフルエンザウイルスである上記[7]~[11]のいずれか一つに記載の方法。
[13]前記動物培養細胞が、MDCK細胞、Vero細胞、PerC6細胞、BHK細胞、およびCHO細胞からなる群より選ばれる細胞である、上記[7]~[12]のいずれか一つに記載の方法。
本発明により、抗原に対する免疫応答を改善したワクチン組成物が提供される。
図1は、若齢および老齢の、野生型マウス(WT)およびIL-6KOマウス(IL-6 KO)の分離された血清EV中のmiR-19b、miR-322、miR-192、miR-21、およびmiR-181cレベルを確認した結果である。n=6である。データは平均±SEMを表す(*p<0.05)。 RAW264.7細胞をmiRNA模倣RNA(miR-19b、miR-21、miR-192、miR-322、およびmiR-181c)でトランスフェクトし、トランスフェクションの36時間後に細胞をR848で刺激し、Il6、Tnfa、およびCcl2のmRNA発現をRT-qPCRで測定した結果である(n=3)。データは平均±SEMを表す(*p<0.05)。 miR-192に関してマイクロアレイ分析を行い、さらに遺伝子オントロジーと経路分析を行った結果である。 NanoSight NS300によって測定した、若齢および老齢血清におけるEVの濃度(図4A)およびEVのサイズ(図4B)を示す。図4Cは、RT-qPCRによって決定したEV miR-192の絶対コピー数を示す(n=5)。図4Dは、若齢および老齢のWTマウスとIL-6 KOマウスの血漿からEVを収集した後、トータルRNAを抽出し、RT-qPCRによりmiR-192レベルを測定した結果を示す(n=6)。データは平均±SEMを表す(*p<0.05)。 図5Aは、各抗体を投与した後に採取した血清EVのmiRNAレベルをRT-qPCRによって測定した結果を示す(n=6)。図5Bは、組換えIL-6、TNF-α、又はIL-1βを若齢マウスに静脈内注射した後に採取した血清EVのmiRNAレベルをRT-qPCRで測定した結果を示す(n=6)。データは平均±SEMを表す(*p<0.05)。 図6Aは、ELISAで測定した若齢および老齢マウスの血清IL-6レベルを示している(n=10)。図6Bは、若齢マウスにIL-6を注射し、1日後および2日後に血清を採取し、血清IL-6レベルをELISAで測定した結果である(n=4)。図6Cは、若齢および老齢のWTマウスにIL-6を注射した後の血清EVのmiR-192レベルをRT-qPCRによって評価した結果である(n=4または5)。データは平均±SEMを表す(*p<0.05)。 コントロールまたは抗CSF-1R抗体を注射したマウスの血清から収集したEVのmiR-192レベルをRT-qPCRで評価した結果である(n=4または5)。データは平均±SEMを表す(*p<0.05)。 骨髄由来マクロファージにコントロールまたはmiR-192模倣RNAをトランスフェクトし、36時間後、LPS、R848、CL097、およびポリI:Cで細胞を刺激した。その後、Il6、Ccl2、およびTnfa遺伝子の発現を、RT-qPCRによって決定した結果である(n=3)。データは平均±SEMを表す(*p<0.05)。 RAW264.7細胞をコントロールまたはmiR-192模倣RNAでトランスフェクトし、その後LPSで刺激した後、各遺伝子の発現をRT-qPCRによって評価した結果である(n=3)。データは平均±SEMを表す(*p<0.05)。 RAW264.7細胞およびヒトCD14+単球由来マクロファージをコントロールまたはmiR-192模倣RNAでトランスフェクトした後、IL-6タンパク質レベルをELISAで評価した結果である(n=3)。データは平均±SEMを表す(*p<0.05)。 図11Aは、コントロールまたはmiR-192でトランスフェクトしたRAW264.7細胞の培養上清0.75μL(x1)または150μL(x2)(x1:1x109粒子、またはx2;2x109粒子)から回収したコントロールまたはmiR-192 EVを用いて、CD11b+Gr1-マクロファージを処理した後、miR-192、miR-101c、Il6、およびIl1bの発現レベルをRT-qPCRによって評価した結果である。図11Bは、IL-6産生をELISAで測定した結果である。 コントロールおよびmiR-192 EVを、LPSを腹腔内注射した若齢マウスに静脈内投与し、血清IL-6およびTNF-αのタンパク質レベルをELISAで評価した結果である(n=6)。 コントロールおよびmiR-192 EVを、LPSを腹腔内注射した若齢及び老齢マウスに静脈内投与し、血清IL-6およびCXCL10のタンパク質レベルをELISAで評価した結果である(n=6)。 若齢および老齢マウスの鼻腔内にWVPを接種し、血清中のIL-6およびCXCL10タンパク質レベルをELISAで評価した結果を示す(n=9)。データは平均±SEMを表す(*p<0.05)。 若齢または老齢のマウスから回収されたEV(1、3または6x109粒子)でWVPで刺激した脾細胞を処理した後、CXCL10、IL-6、およびTNF-αタンパク質レベルの発現をELISAで評価した結果を示す(n=4)。データは平均±SEMを表す(n≧3、*p<0.05)。 コントロールまたはmiR-192 EVを若齢および老齢マウスに静脈注射し、14時間後、WVPを鼻腔内投与した。ワクチン接種60時間後の肺におけるサイトカイン、ケモカイン、およびmiRNAの発現レベルをRT-qPCRによって評価した結果である(n=5)。データは平均±SEMを表す(n≧3、*p<0.05)。 ワクチン接種の30時間後に肺から分離されたCD11b+Gr-1-骨髄集団におけるmiR-192のレベルをRT-qPCRで評価した結果である(n=4)。データは平均±SEMを表します(n≧3、*p<0.05)。 他のmiRNAのEVをWVP接種の18時間前に老齢マウスに投与し、WVP接種の40時間後に血清IL-6レベルをELISAで測定した結果である(n=5)。データは平均±SEMである。 若齢および老齢のマウスに、対照のmiRNA EVまたはmiR-192 EVを静脈内投与し、投与の24時間後、マウスにLPSを腹腔内注射した。LPS注射の4時間後に腹腔洗浄液から細胞を収集し、測定を行った。A図は、腹腔洗浄液の総細胞数を、B図は、マクロファージと好中球の数を、C図は腹腔洗浄液中のIL-6濃度を示している。 WVPを若齢および老齢のWTおよびIL-6 KOマウスに2回鼻腔内投与し、14日後、血清中の抗原特異的総IgG、IgG1、IgG2cレベルを評価した結果である。(n=10)。データは平均±SEMを表す(n≧3、*p<0.05)。 若齢および老齢のWTおよびIL-6 KOマウスのウイルス感染による生存率を比較した結果である。 EVによる治療およびWVPによるワクチン接種のスケジュールを示した図である。 若齢および老齢マウスのWVPによるワクチン接種の有効性に対するmiR-192 EVの改善効果を確認した結果である。生存率を示している。非ワクチン接種(模擬) vs コントロールEV処理老齢者グループ(Con EV)、p>0.01(ログランク検定)。模擬 vs miR-192EV処理老齢者グループ(miR-192 EV)、p<0.01(ログランク検定)(n=10-12) 若齢および老齢マウスのWVPによるワクチン接種の有効性に対するmiR-192 EVの改善効果を確認した結果である。経時的な体重変化を示している。 若齢マウスを用いたmiR-192 EVの有無におけるWVPのワクチン接種の効果を確認した結果である。 若齢および老齢のマウスでの、WVPによるTh1およびTh2応答を評価した結果である。 WVPによるワクチン接種の1日前に、コントロールおよびmiR-192 EVを若齢および老齢マウスに注射し、IgG、IgG1、およびIgG2を測定した結果である(n=6-8)。
以下、本発明を、例示的な実施態様を例として、本発明の実施において使用することができる好ましい方法および材料とともに説明するが、本発明は以下に記載の態様に限定されるものではない。なお、文中で特に断らない限り、本明細書で用いるすべての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者に一般に理解されるのと同じ意味をもつ。また、本明細書に記載されたものと同等または同様の任意の材料および方法は、本発明の実施において同様に使用することができる。また、本発明に関連して本明細書中で引用されるすべての刊行物および特許は、例えば、本発明で使用できる方法や材料その他を示すものとして、本明細書中に引用されそして本明細書の一部を構成するものである。
本明細書において、数値範囲を示す「A~B」の記載は、端点であるAおよびBを含む数値範囲を意味する。また、「AないしB」についても同様である。また本明細書において、「約」とは、±10%を許容する意味で用いる。
1.ワクチン組成物
本発明の一つの態様は、ワクチン組成物である。以下、本発明のワクチン組成物について説明する。
本発明のワクチン組成物の投与対象は、哺乳動物、鳥類が挙げられ、好ましくは哺乳類、さらに好ましくはヒト、より好ましくはヒト老齢者である。具体的な実施態様において、対象は、霊長類(例えば、サル、チンパンジー、及びヒト)および非霊長類(例えば、ラクダ、ロバ、シマウマ、ウシ、ブタ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、ネコ、イヌ、ラット、及びマウス)を含む哺乳動物である。別の実施態様において、対象は非ヒト動物である。ある実施態様において、対象は家畜又はペットである。また別の実施態様において、対象はヒトである。ある実施態様において、対象はヒト老齢者である。本明細書においては、「対象」又は「患者」という用語は、前後の文脈から一方のみを示すと明確でない限り、互換的に使用される。
本発明のワクチン組成物をヒトに投与する場合は、老齢者に投与するのが好ましい。老齢者とは、例えば、55歳以上、60歳以上、65歳以上、70歳以上、75歳以上、または80歳以上を言う。本発明のワクチン組成物が投与される老齢者の年齢は、対象において治療または予防する疾患および組成物に含まれる抗原により適宜選択されるが、例えば、季節性インフルエンザやコロナウイルス(COVID-19)の場合は、好ましくは60歳以上、より好ましくは65歳以上である。
本発明において「抗原」とは、免疫系によって認識され、適応免疫応答の一部としての抗体または抗原特異的なT細胞の形成によって、抗原特異的な免疫応答を誘起し得る物質を意味する。本発明のおいて用いられる「抗原」は、例えば、1種または複数のウイルス(不活化、弱毒化、または変性生ウイルス)、細菌、寄生虫、ヌクレオチド(これに限定されないが、核酸を基にした抗原、例えばDNAワクチンを含む)、ポリヌクレオチド、ペプチド、ポリペプチド、組換えタンパク質、合成ペプチド、タンパク質抽出物、細胞(腫瘍細胞を含む)、組織、多糖、炭水化物、脂肪酸、タイコ酸、ペプチドグリカン、脂質、または糖脂質をはじめとする、対象において所望の免疫応答を生じることが可能な様々な物質のいずれかまたはそれらの任意の組み合わせを挙げることができる。
本発明において用いられる「抗原」の一つの態様は、対象に感染して疾患を引き起こす病原体由来の物質である。病原体とは、哺乳動物(好ましくはヒト)に感染した場合、哺乳動物に病気を引き起こす原因となる生物をいい、例えば、ウイルス、細菌、真菌、原生動物、寄生生物を挙げることができる。本発明のワクチン組成物において、抗原は、例えば、対象において疾患を誘発しない生ウイルス株、変性生ウイルス株、弱毒化ウイルス株、および不活化または死滅したウイルス株を挙げることができ、これらのウイルス株は、当該技術分野で公知の方法により調製できる。さらには、例えば、病原体から精製された天然の産生物、または遺伝子組換等の手法により人為的に作製されたタンパク質、ペプチド、多糖類、糖タンパク質、具体的には、完全ウイルス粒子であるビリオン、不完全ウイルス粒子、ビリオン構成粒子、ウイルス非構造タンパク質を挙げることができる。本発明において用いることができる抗原は、これらの組合せの形態も含む。
前記病原体ウイルスとしては、例えば、インフルエンザウイルス(トリインフルエンザ、ウマインフルエンザウイルス、ブタインフルエンザウイルス、イヌインフルエンザウイルス、ネコインフルエンザウイルス、ヒトインフルエンザウイルス)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、フラビウイルス(例えば、肝炎ウイルス、デングウイルス、ジカウイルス等)、ヒトパピローマウイルス(HPV)、ウシパピローマウイルス、ヘルペスウイルス(例えば、HSV-I、HSV-II、CMV、又は、VZV)、ライノウイルス、コロナウイルス(例えば、SARS-CoV-2、SARSコロナウイルス、MERSコロナウイルス等)、エンテロウイルス、ポリオーマウイルス、呼吸器多核体ウイルス(RSV)、B型肝炎ウイルス、ロタウイルス、麻疹ウイルス、ムンプスウイルス、風疹ウイルス、水痘ウイルス、ヒトメタニューモウイルス、エボラウイルス、マールブルグウイルス、アルファウイルス(例えば、チクングニアウイルス、ロスリバーウイルス、セムリキ森林ウイルス、シンドビスウイルス、マヤロ(Mayaro)ウイルス等)、ブタ流行性下痢、ブタ生殖器呼吸器症候群ウイルス、および口蹄疫ウイルスを挙げることができるが、これらに限定されない
前記病原体細菌としては、例えば、緑膿菌、ペスト菌、ジフテリア菌、百日咳菌、エルシニア菌、サルモネラ菌、赤痢菌、エアロモナスヒドロフィラ菌、せっそう病原因菌、仮性結核菌、病原性大腸菌、腸炎ビブリオ菌、ビブリオ・ハーベイ菌、クラミジア菌、破傷風菌、肺炎球菌(Pneumococcus)、または髄膜炎菌(Meningococcus)を挙げることができるが、これらに限定されない。
その他の前記病原体としては、哺乳動物に対して疾患を引き起こし、ワクチン療法の対象となるものであれば特に限定されないが、例えば病原体寄生虫としてはマラリア原虫を挙げることができる。
本発明のワクチン組成物に含まれる抗原は、感染能が低減された(弱毒化抗原)または感染能を喪失させた(不活化抗原)ものが望ましい。不活化抗原としては、例えば、物理的(例えば、放射線照射、加熱処理、超音波処置)、化学的(例えば、ホルマリン、水銀、アルコール、塩素、βプロプリオラクトン(BPL)、バイナリーエチレンイミン(BEI)での処理)等の操作により不活化されたものが挙げられるがそれらに限定されない。
本発明のワクチン組成物において、抗原はまた、腫瘍に対するT細胞応答を選択的に引き出す腫瘍抗原であり得る。変異が原因で異常構造を有する、腫瘍細胞において生成された任意のタンパク質は、腫瘍抗原として作用し得る。そのような異常タンパク質は、関連する遺伝子の変異によって生成される。異常タンパク質の生成をもたらす癌原遺伝子および腫瘍抑制因子の変異は、腫瘍の原因であり、そのような異常タンパク質は腫瘍特異的抗原という。腫瘍特異的抗原の例としては、rasおよびp53遺伝子の異常生成物を挙げることができる。例えば、αフェトプロテイン(胚細胞性腫瘍、肝細胞癌腫)、癌胎児性抗原(腸がん、肺がん、乳がん)、CA-125(卵巣がん)、MUC-1(乳がん、上皮性腫瘍抗原(乳がん)、およびメラノーマ関連抗原(悪性メラノーマ)を挙げることができる。異常タンパク質はまた腫瘍ウイルス、例えば、エプスタイン・バーウイルス(「EBV」)およびヒトパピローマウイルス(「HPV」)に感染した細胞によっても生成される。これらのウイルスに感染した細胞は、転写される潜在型ウイルス性DNAを含有し、そして得られたタンパク質は免疫応答を生じる。タンパク質に加えて、細胞表面糖脂質および糖タンパク質のような他の物質もまた、腫瘍細胞において異常構造を有する場合があり、したがって免疫系の標的となり得え、腫瘍抗原となり得る。
本発明のワクチン組成物は、マイクロRNAであるmiR-192を含むことを特徴とする。マイクロRNAは、約70ヌクレオチドの前駆体として転写され、その後、ダイサー(Dicer)酵素により切断され、約22ヌクレオチドのRNA産物となる。成熟配列は、前駆体の5‘アームに由来し、相補的な標的mRNAの発現制御を担い、様々な役割を果たすと考えられている。miR-192は、ヒト腫瘍抑制因子であるp53の正の調節因子であると考えられており、ヒトの一部のがんにおいて過剰発現が報告されている(文献:Kim T et al., J. Exp. Med. 2011, 208: 875-883)。また、miR-192は腎臓において発現することが報告されている(文献:Baker MA et al., Hypertension 2019, 73: 399-406)。また、miR-192がZEB1およびZEB2の発現を抑制することが示されている(Putta et al., J Am Soc Nephrol 23, 458-469 2012)。ZEB1/2タンパク質は、IL-6などの炎症誘発性サイトカインの発現を誘導することが報告されている(Katsura et al., 2017,Mol Oncol 11, 1241-1262)。しかしながら、miR-192が老齢に関連する免疫制御に関連しているとの報告はなく、本発明者らにより初めて見いだされたことである。
成熟したヒトmiR-192(has-miR-192-5p)は、CUGACCUAUGAAUUGACAGCC(配列番号1)の配列を有し、miRbase Accession Number: MIMAT0000222として登録されている。また、stem loopを含むmiR-192は、Homo sapiens microRNA 192 (MIR192)としてGenBank Accession number:NR_029578 で登録されており、以下の配列DNA配列(配列番号2):
gccgagaccg agtgcacagg gctctgacct atgaattgac agccagtgct ctcgtctccc
ctctggctgc caattccata ggtcacaggt atgttcgcct caatgccagc
を有する。成熟化したmiR-192の配列は、ヒト(Homo sapiens)、マウス(Mus musculus)、ラット(Rattus norvegicus)およびイヌ(Canis familiaris)で同一であると報告されている。
本発明のワクチン組成物に含まれるmiR-192は、安定な状態で維持される限り、いずれの形態で含まれていてもよい。例えば、ワクチンナノキャリアに含まれたまたは結合した状態で組成物中に含まれていてもよく、または、細胞外小胞に含まれた状態にて組成物中に含まれていてもよいが、好ましくは、細胞外小胞に含まれた状態にて組成物中に含まれる。
ワクチンナノキャリアとしては、例えば、WO2009/051837やWO2011/150264に記載のナノキャリアを挙げることができる。miR-192をワクチンナノキャリアに含ませるまたは結合させる方法は、これらの文献や公知の技術を参照して行うことができる。
miR-192を含む細胞外小胞は、公知の方法を用いて調製することができる、例えば、任意の細胞から公知の方法を用いて調製した細胞外小胞と合成したmiR-192を混合することにより調製することもできる。また、より簡単には、例えば、miR-192を発現する培養細胞、またはmiR-192をトランスフェクトして発現するようにした培養細胞を培養し、培養上清からmiR-192を含む細胞外小胞を調製することもできる。好ましくは、本明細書に記載のワクチンの製造において記載の方法を用いて調製できる。
本発明のワクチン組成物中に含まれるmiR-192の数は、miR-192を含まない場合に比べ、抗原に対する免疫応答が改善される限り特に制限がない。例えば、マウスに対するワクチン組成物を例に記載すると、抗原としてインフルエンザウイルスを用いる場合は、好ましい態様としては、18μgのインフルエンザウイルスHAタンパク質を含むインフルエンザワクチンに対し、miR-192を含む細胞外小胞を少なくとも0.5x1010個以上、好ましくは1x1010個以上、より好ましくは2x1010個以上を含む組成物を挙げることができる。また、細胞外小胞におけるmiR-192の数としては、1x1010個の細胞外小胞に対し、少なくとも2万個以上、好ましくは3万個以上、より好ましくは5万個以上、さらに好ましくは10万個以上のmiR-192が存在すれば十分な効果を発揮できる。
本発明のワクチン組成物は、さらに免疫賦活剤/アジュバントを含んでもよい。免疫賦活化剤としては、沈降性アジュバントとしてアルミニウム塩(水酸化アルミニウムゲル等)、油性アジュバントとしてスクアレン、免疫原性があるグラム陰性菌細胞壁外膜の構成成分であるリポ多糖LPSの改変体であるMPLがある。また、CpGやPoly I:Cなどに由来する核酸、Toll様受容体(TLR)を活性化するバクテリア構成成分の改変体や免疫系を刺激するサイトカイン類の改変体などを挙げることができる。さらに、ポリγ-グルタミン酸等のポリマー系アジュバント、キトサン及びイヌリン等の多糖類、カチオン性脂質など、多くの天然または合成化合物が免疫賦活剤として報告されている。本発明ではこれらの免疫賦活剤を任意に用いることができる。
例えば、本発明では、特定のグラム陰性細菌由来のリポポリサッカライド又はその誘導体若しくは塩を用いることができる。リポポリサッカライド(以下、LPSと記載することがある)は、大腸菌、サルモネラ菌、百日咳菌等のグラム陰性細菌細胞壁のペプチドグリカンを囲む外膜に存在している脂質および糖からなる複合化合物であり、O抗原及びエンドトキシンの活性成分として知られている。LPSの基本構造は、特異な脂質を有するリピドA、それに共有結合したRコアと呼ばれるオリゴ糖、さらにO特異多糖の3成分よりなっている。O特異多糖の構造は、構成成分の中で最も多様であり、菌種に特異的であって、いわゆるO抗原としての活性を示す。一般に数種の単糖からなるオリゴ糖の繰返し構造を特徴とするが、同一単糖からなるもの、または繰返し構造でないものも知られている。これらは、多くの食品、漢方薬に含まれ、生体への安全性が担保されており、これらの菌由来の抽出物又はその改変体をそのまま用いることも可能である。
本発明のワクチン組成物において、抗原は有効量含有されていればよいが、例えば、本発明のワクチン組成物中、1回投与量あたり0.01~10000μgの範囲で含有されていることが好ましい。0.01μg未満であると、感染症や癌の予防又は治療剤としての機能が不充分となることがあり、10000μgを超えると、安全性に関して問題となることがある。抗原含有量のより好ましい下限は0.1μg、より好ましい上限は5000μgである。本明細書にいう「抗原の有効量」は、特記する場合を除き、ワクチン組成物中の抗原に含まれる抗原タンパク質の質量のことである。したがって、抗原が、ウイルス等生体由来物質である場合は、その抗原に含まれる全タンパク質の質量を意味する。
より具体的には、免疫応答を誘導するのに用いられる抗原の量は、用いられる抗原、対象、および所望の応答レベルに応じてかなり変動し、当業者により決定され得る。変性生ウイルスまたは弱毒化ウイルスを含むワクチン組成物の場合、抗原の治療有効量は、一般に約102組織培養感染用量(TCID)50~約1010TCID50の範囲内である。多くのそのようなウイルスでは、治療有効用量は、一般に、約102TCID50~約108TCID50である。
不活化ウイルスを含むワクチン組成物の場合、抗原の治療有効量は、一般に、少なくとも約100相対単位/用量であり、多くの場合、約1,000~約4,500相対単位/用量の範囲内である。不活化ウイルスを含むワクチン中の抗原の治療有効量はまた、1mLあたりの相対効力(RP)に関して測定することができる。治療有効量は、多くの場合、約0.1~約50RP/mLの範囲内である。
ワクチン組成物中で投与される細菌抗原についての細胞数は、約1×106~約5×1010コロニー形成単位(CFU)/用量の範囲内である。
ワクチン組成物の剤形は、任意の形態を取り得、例えば、液状、粉末状(凍結乾燥粉末、乾燥粉末)、カプセル状、錠剤、凍結状態であってもよい。
ワクチン組成物は、医薬として許容されうる担体を含んでいてもよい。担体としては、ワクチン製造に通常用いられる担体を制限なく使用することができる。具体的には、担体は、食塩水、緩衝食塩水、デキストロース、水、グリセロール、等張水性緩衝液及びそれらの組み合わせが挙げられる。ワクチンは、乳化剤、保存剤(例えば、チメロサール)、等張化剤、pH調整剤、不活化剤(例えば、ホルマリン)等が、更に適宜配合されてもよい。
ワクチン組成物の投与経路は、例えば、経皮投与、舌下投与、点眼投与、皮内投与、筋肉内投与、経口投与、経腸投与、経鼻投与、静脈内投与、皮下投与、腹腔内投与、口から肺への吸入投与であってもよい。ワクチン組成物の投与方法は、例えば、シリンジ、経皮的パッチ、マイクロニードル、移植可能な徐放性デバイス、マイクロニードルを付けたシリンジ、無針装置、又はスプレーによって投与する方法であってもよい。
本発明のワクチン組成物は、例えば、特定のワクチン接種計画の一部として、必要に応じ、複数用量で対象に投与される。例えば、組成物複数用量を、対象に、1日に約1回、2日毎に1回、3日毎に1回、4日毎に1回、5日毎に1回、6日毎に1回、1週間に1回、2週間毎に1回、3週間毎に1回、4週間毎に1回、1月に1回、2カ月毎に1回、3カ月毎に1回、4カ月毎に1回の頻度で複数回、またはより少ない頻度で、ワクチン接種計画に基づいて投与することができる。
抗原としてインフルエンザウイルスを含む場合を以下に記載するが、本発明のワクチン組成物および本発明のワクチンの製造方法は、インフルエンザウイルスのワクチンに限定されるものではない。
インフルエンザウイルスとは、オルソミクソウイルス科に属する直径約100nmの粒子サイズを有するRNAエンベロープウイルスであり、内部タンパクの抗原性に基づいて、A、B及びC型に分けられる。インフルエンザウイルスは、脂質二重層構造を有するウイルスエンベロープに取り囲まれた内部ヌクレオキャプシド又は核タンパク質と会合したリボ核酸(RNA)のコアと、外部糖タンパク質からなる。ウイルスエンベロープの内層は、主としてマトリックスタンパク質で構成され、外層は大部分が宿主由来脂質物質で構成される。また、インフルエンザウイルスのRNAは、分節構造をとる。なお、世界中で大流行するインフルエンザは、A型インフルエンザウイルスによるものであり、このA型インフルエンザウイルスは、ヘマグルチニン(HA)及びノイラミニダーゼ(NA)の2種類のエンベロープ糖タンパク質を有し、抗原性の違いによってHAでは16種、NAでは9種の亜型に区別されている。
本発明においては、上記病原体由来抗原としては、A型及びB型インフルエンザウイルス由来抗原が好適に用いられる。なお、上述したA型及びB型インフルエンザウイルスの亜型としては特に限定されず、これまで単離された亜型であっても将来単離される亜型であってもよい。
本発明において、インフルエンザウイルス由来抗原としては、上記インフルエンザウイルスを構成する種々の成分の少なくとも一部であれば特に限定されるものではなく、精製ウイルス粒子を脂質エンベロープが可溶化されるように有機溶媒/界面活性剤若しくは他の試薬で分解されたサブビリオン、又は、HA及びNAを始めとするウイルスサブユニットでもよく、ウイルス全粒子でもよい。免疫原性の観点から、HA又はウイルス全粒子が好ましい。上記ウイルス全粒子は、ホルマリン等により不活化されたものがより好ましい。上記インフルエンザウイルス抗原の調製方法は、特に限定されるものではなく、公知の方法が限定なく使用できる。例えば、インフルエンザ感染動物またはインフルエンザの患者から単離されたウイルス株をニワトリ卵等に感染させて常法により培養し、精製したウイルス原液から抗原を調製する方法が挙げられる。また、遺伝子工学的に培養細胞中で調製したウイルス由来の抗原を用いてもよい。
2.ワクチンの製造方法
本発明の別の一つの態様は、ワクチンを製造するための方法である。以下、本発明のワクチン製造方法について説明する。
本発明のワクチンの製造方法は、以下の工程:
(1)miR-192を発現する(または、miR-192とトランスフェクトして発現させた)動物培養細胞を培養する工程、
(2)前記動物培養細胞にウイルスを接種して感染させて細胞を培養することにより、細胞においてウイルスを複製する工程、および
(3)ウイルスを、miR-192とともに単離してウイルス調製物を製造する工程、
を含むことを特徴とする。本発明のワクチンの製造においては、miR-192を発現する動物培養細胞を用いることにより、ウイルスをmiR-192とともに単離し、miR-192を含むウイルス調製物を製造することができる。
本発明のワクチンの製造において用いる動物培養細胞は、miR-192を発現する。用いる動物培養細胞自身がmiR-192を発現する場合はそのまま本発明の方法において用いることができるが、miR-192をさらに発現させたい場合は、常法に従い、miR-192を細胞にトランスフェクトして発現を増幅しても良い。用いる動物培養細胞自身がmiR-192を発現しないまたは発現量が不十分である場合は、常法に従い、miR-192を細胞にトランスフェクトして発現させることができる。
本発明のワクチンの製造において用いる動物培養細胞はウイルスの複製およびmiR-192の発現が可能であれば特に制限なく用いることができる。培養細胞は一般に、哺乳動物が起源の細胞株である。適当な哺乳動物起源の細胞には、ハムスター、ウシ、霊長類(ヒトおよびサルを含む)、およびイヌの細胞が含まれるがこれらに限定されない。腎細胞、線維芽細胞、網膜細胞、肺細胞等の様々な細胞種が使用されてよい。適当なハムスターの細胞の例は、BHK21またはHKCCと呼ばれる細胞株である。適当なサルの細胞は、例えばアフリカミドリザルの細胞、例えばVero細胞株のような腎細胞である。適当なイヌの細胞は、例えばMDCK細胞株のような腎細胞である。そのため、適当な細胞株には、MDCK、CHO、293T、BHK、Vero、MRC‐5、PER.C6、WI‐38等が含まれるがこれらに限定されない。インフルエンザウイルスの増殖に使用される好ましい哺乳動物の細胞株は、Madin Darbyイヌ腎臓由来のMDCK細胞、アフリカミドリザル腎臓由来のVero細胞、またはヒト胎児網膜芽細胞由来のPER.C6細胞を挙げることができる。これらの細胞株は広く入手可能であり、例えば、ATCCコレクションまたはECACCから入手できる。例えば、ATCCはCCL-81、CCL-81.2、CRL-1586、およびCRL-1587のカタログ番号で各種のVero細胞を提供しており、CCL-34のカタログ番号でMDCK細胞を提供している。PER.C6細胞は、96022940のデポジット番号でECACCから入手可能である。
哺乳動物の細胞株でウイルスが増殖された場合、ワクチン組成物は卵タンパク質(例えば、卵白アルブミンおよびオボムコイド)や、ニワトリDNAを含まなくなるため、アレルゲン性が低下するので好ましい。
なお、インフルエンザワクチンの製造においては、主としては鶏卵でウイルスを増やしている。しかし、ニワトリはmiR-192が保存されておらずゲノム上に存在しないため、従来の鶏卵でウイルスを増やし作成したインフルエンザワクチンはmiR-192を全く含まない。
MDCK細胞のような細胞株での増殖については、浮遊状態または接着培養液でウイルスの増殖を行うことができる。浮遊培養に適したMDCK細胞株の1つは、MDCK 33016(DSM ACC 2219としてデポジットされている)である。あるいは、マイクロキャリア培養を使用することも可能である。米国特許第6,825,036号、米国特許第8,846,932号、米国特許出願公開公報第2013/0183741号、および国際公開WO2017/072744は、無血清浮遊培養およびワクチン生産のための方法およびMDCK細胞の培養を記載している。これらの記載は引用することにより本明細書の一部である。
以下、本発明のワクチンの製造方法を、インフルエンザウイルスを例に記載するが、本発明の製造方法は、インフルエンザウイルスのワクチンの製造方法に限定されるものではない。
インフルエンザウイルスの複製を行う場合、細胞株は、好ましくは無血清培養用培地および/または無タンパク質培地で増殖させる。無血清培地とは、ヒトまたは動物起源の血清由来の添加物を含まない無血清培地を意味する。無タンパク質培地とは、タンパク質、増殖因子、その他のタンパク質添加物および非血清タンパク質が存在しない状態で細胞の増殖が可能な培地を言うが、トリプシンまたはウイルスの増殖に必要なその他のプロテアーゼのようなタンパク質を場合により含むことができる培地を意味する。
本発明の製造方法における細胞の培養は、当業者に公知の通常の方法(特に、細胞培養におけるインフルエンザウイルス複製のためにすでに公知な方法)を用いて行うことができる。細胞の培養は、バッチプロセスおよび灌流系(例えば、当業者に公知の細胞貯留系(例えば、遠心分離、濾過、スピンフィルターなど)を用いる攪拌容器発酵槽において)のいずれで行ってもよい。
培養された細胞の感染は、好ましくは、バッチプロセスにおける細胞が約8~25×105細胞/ml、または灌流系において約5~20×106細胞/mlの細胞密度に達したときに行われる。接着性増殖細胞が用いられる場合、感染のために最適な細胞密度は用いる特定の細胞株に依存する。
培養細胞中でウイルスを増殖させる方法は、通常、(i)培養する株を培養細胞に接種する手順と、(ii)ウイルス増殖のために感染細胞を所望の時間、例えば、接種後24~168時間培養する手順(ウイルス増殖は、例えば、ウイルス力価または抗原の発現によって判定される。)と、(iii)増殖したウイルスを回収する手順とが含まれる。インフルエンザウイルスでの細胞の感染は、培養細胞に、1:500~1:1、好ましくは1:100~1:5、より好ましくは1:50~1:10の細胞比でウイルス(PFUまたはTCID50で測定)が接種される。ウイルスは、通常、細胞の浮遊液に添加されるまたは細胞の単層に加えられ、25℃~40℃で、好ましくは28℃~37℃で、少なくとも60分間、通常は300分未満、好ましくは90~240分間、ウイルスを細胞上に吸着させる。増殖後の回収される培養液上清のウイルス含有量を増やすため、凍結融解または酵素作用のいずれかで感染細胞培養(例えば、単層)を除去してもよい。本発明の方法においては、miR-192を含む細胞外小胞は、ウイルスとともに培養液上清として回収できる。プロテアーゼ(一般にトリプシン)は、ウイルス放出が起こるように通常細胞培養の間に、任意の適切な段階において添加される。
本発明の方法における好ましい実施態様において、複製されたインフルエンザウイルスの回収または単離は、感染から2~10日後、好ましくは3~7日後に行われる。ウイルスの単離のために、例えば、細胞または細胞残渣を、当業者に公知の方法の手段(例えば、分離器またはフィルターにより)により培養培地から分離する。これに続いて、培養培地中に存在するインフルエンザウイルスの濃縮を、当業者に公知の方法(例えば、勾配遠心分離、濾過、沈殿などのような)により行われる。
本発明の製造方法においては、インフルエンザウイルスとともに、miR-192を単離することを特徴とする。miR-192は、培養培地中に存在、好ましくは細胞外小胞の含まれた状態で培養液中に存在するので、ウイルスとともに回収または単離できる。インフルエンザウイルス粒子の直径は約100nmであり、一方、細胞外小胞の直径も約100nmであるので、ウイルス粒子とともに細胞外小胞を回収または単離できる。例えば、ウイルス粒子の直径および細胞外小胞(miR-192を含有)の直径に基づく分離方法により、具体的には、約50~約150nm、好ましくは約60~約140nm、より好ましくは約70~約130nm、さらに好ましくは約80~約120nm、最も好ましくは約90~約110nmの粒子径(好ましくは直径)のウイルスと細胞外小胞を回収または単離できる分離方法により、ウイルスおよびmiR-192を含む細胞外小胞の両者を含むウイルス調製物を容易に製造できる。上記分離方法は、当業者に公知の方法を必要に応じ適宜変更して用いることにより達成できる。
ワクチンとして得られたインフルエンザウイルスの免疫原性または効率は、当業者に公知の方法(例えば、曝露実験における保護分与の手段により、またはウイルス中和抗体の抗体力価として)により決定され得る。
本発明の製造方法においては、製造したウイルス調製物をさらに弱毒化または不活性化する工程を含むことができる。ウイルスの弱毒化または不活性化は、当該技術分野で周知の方法を利用して行うことができる。例えば、これに限定されないが、物理的(例えば、放射線照射、加熱処理、超音波処理)、化学的(例えば、ホルマリン、水銀、アルコール、塩素、BPL、BEIでの処理)等の操作により行うことができる。
本発明の方法においてはまた、ウイルス調製物を弱毒化または不活性化する工程を含む代わりに、疾患を誘発しない生ウイルス株、変性生ウイルス株、および弱毒化ウイルス株を用いて、細胞を培養しウイルスを複製することもできる。
本発明の方法により製造されたワクチンは、本発明のワクチン組成物において記載した組成物として調製することができる。
以下、実施例により、本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
1.材料および方法
(1)マウス
若齢(2-3月齢)雄C57BL/6JrSlcマウスは日本SLC、Inc.から購入した。IL-6欠損マウスおよびIL-6受容体α-flox/flox(IL6Rfl/fl)マウスはジャクソン研究所から入手した。IL6Rαが遍在的に欠損しているマウスは、IL6Rfl/flマウスとCAGプロモーター駆動のCreトランスジーンを発現しているマウスを交配することで作成した。それらのマウスは、老齢したマウスとして利用するために14~18ヶ月間飼育した。すべての実験は、熊本大学の施設内動物委員会によって承認され、ガイドラインに従って実行した。
(2)細胞株、ウイルス、ワクチン
マウスマクロファージ系統RAW264.7細胞は、ATCCから入手した。マイコプラズマ試験は、e-Myco Mycoplasma PCR Detection kit(Minerva Biolabs GmbH)を使用して行った。マウス適応インフルエンザAウイルス(IAV)H1N1株プエルトリコ/34/8(PR8)は、Kouwaki et al., 2017, Sci Rep 7, 11905の記載に従い増殖し、MDCK細胞を使用してウイルス力価を評価しました。A/California/7/2009[H1N1]由来のホルマリン不活化インフルエンザ全ワクチン(WVP)は、一般社団法人・化学及び血清療法研究所(熊本)から提供された。ヒト単球は健康な成人から分離した。
(3)ワクチン接種とウイルス接種
接種は、麻酔下で、マウスに鼻腔内に18μg(/35μL)のWVPを接種(ワクチン接種)するか、または、致死量に相当する1x106 PFUのIAVに感染させた(ウイルス接種)。ワクチン接種は、WVPを1週間に1回の頻度で2回接種した。ウイルス感染させた後、17日間、病気、体重減少、死亡の兆候について毎日マウスを監視した。一部の実験条件では、生体内マクロファージを枯渇させるために、マウスに200μgのコントロールIgG 抗体(ミリポア)、または抗F4/80(CI:A3-1、BioXCell)抗体と抗CSF1R(AFS98、BioXCell)抗体を、鼻腔内接種の1日前および3日または6日後に、腹腔内注射した。インビボにおける炎症性サイトカイン活性を遮断するために、IL-6、IL-1β、およびTNF-α(BioXCell)に特異的な抗体200μgを、分析前に2日間間隔で2回マウスに注射した。
(4)マクロファージの分化、トランスフェクション、および刺激
マウスBMMとヒト単球由来マクロファージは、M-CSF(50 ng/ml)で4~8日間刺激することにより、それぞれ骨髄細胞とCD14+単球から生成した。CD14+単球は、健康なドナーの血液から精製した分析はインフォームドコンセントを得て実施した。100 pmolのmiR-192-5p模倣RNA、miR-192、miR-101cの阻害剤、またはネガティブコントロールmiRNA模倣(すべてThermo Fisher Scientificから購入。)を使用し、TRANsitトランスフェクション試薬(Mirus Bio)を用い、メーカーの指示に従って、BMM、RAW264.7および単球由来マクロファージにトランスフェクトした。トランスフェクション効率は通常85~90%であった。トランスフェクションの24~36時間後、細胞を、WVP、LPS、R848(どちらもSigma-Aldrich製)、またはCL097(Invivogen)、およびpoly I:C(GE Healthcare)で刺激した。
(5)細胞外小胞(EV)の単離、分析、ラベリング、および転送
血清由来EVは、製造元の指示に従って、全エキソソーム分離試薬(Thermo Fisher Scientific)を使用し血清から分離した。一方、細胞培養培地由来EVは、エクソソーム分離試薬を使用し、miRNAを模倣してトランスフェクトしたRAW264.7細胞の48時間培養上清から分離した。EVをネガティブコントロールのmiR mimic-またはmiR-192 mimicでトランスフェクトした細胞から収集する場合は、すべての実験でFCSフリーの培地を使用した。EVをEDTA処理された血漿から分離する場合は、抗CD9、CD63、およびCD81抗体でEVを捕捉するPan Exosome分離キット(Miltenyi Biotec)が利用した。一部の実験では、100 ngの組換えマウスIL-1β、200 ngの組換えIL-6、またはTNF-αをマウスに静脈内注射し、続いて血清EVを分離した。EVのサイズと濃度は、anoSight NS300(Malvern Panalytical)で評価した。各サンプルを1万倍希釈し、5回測定した。データはNTA3.2ソフトウェアで分析した。単離したEVは0.45μMフィルターを通過した。単離したEVの0.5-1.0x1010のEV粒子は、内毒素血症モデルにおけるLPS腹腔内投与(亜致死量;3μg/マウス)またはWVPの鼻腔内投与の1日前に各マウスに静脈内に投与した。EVの形質導入を評価するために、EVに含まれるRNAをメーカーの指示に従ってSYTO RNASletct Green蛍光細胞染色試薬で標識し、Exosomeスピンカラム(Thermo Fisher Scientific)でさらに精製しました。
(6)リアルタイムPCR
トータルRNAは、TRIzol試薬(Thermo Fisher Scientific)とRNeasy Plus Mini Kit(QIGEN)を使用して抽出し、ReverTra Ace(toyobo)で逆転写した。リアルタイム定量PCR(qPCR)は、Taqman Universal PCR Master Mix試薬(Applied Biosystems)とTaqManプローブを備えたViiA7またはOne-Step Real-time PCR Systemで、またはプライマーを使用してPower SYBR Green PCR Master Mix(Applied Biosystems)で実行した。各遺伝子の発現レベルは、比較2[-ΔΔCT]法を使用してGapdh発現に対して正規化した。miRNAの発現レベルは、miR-X miRNA First-Strand Synthesisキット(Clontech)を使用して、miRNA生成の逆転写反応により評価した。miRNAレベルはU6 RNA発現に対して正規化した。miR-192コピー数の絶対定量と検量線のプロットは、既知濃度のmiR 192 mimicの段階希釈を用いた半定量的RT-qPCR分析によって行った。この標準曲線と血清1μlあたりのEV粒子の絶対数に基づいて、調整された容量の血清からのEVに含まれるmiR-192のコピー数を計算した。
(7)RNAディープシーケンスとマイクロアレイ分析
RNAディープシーケンスとオリゴDNAマイクロアレイ分析は、RNeasyミニキット(Qiagen)を使用して、各グループのマウスから分離されたプールされた血清由来EVから、およびプールされたmiRNA模倣トランスフェクトBMMからそれぞれ抽出されたトータルRNAに対して行った。Small RNAライブラリは、製造元の指示に従って、TruSeq small RNA Library Prepキットで調製した。手短に言えば、サイズ選択を行って、トータルRNAからmiRNAフラグメントを抽出した。全RNAをアガロースゲルで泳動し、miRNAのサイズに対応するバンドを切り取り、すべてのmRNAおよびrRNAを含むすべてのより大きなフラグメントをサンプルから除外した。シーケンシングアダプターは、選択したサイズのRNA分子にライゲーションされる。アダプターが連結されたmiRNAフラグメントは、cDNAフラグメントに変換される。増幅されたcDNA断片をアガロースゲルで再度泳動し、ライゲーションされたアダプターを含むmiRNA断片を含む分子を含むバンドを、その後のシーケンシングのために切り取った。RNAシーケンスはHiSeq2000で行った。データは、アクセッション番号DRA009054でDDBJデータベースに登録した。マイクロアレイ分析は、3D-Geneマウスオリゴチップ24k(東レ株式会社)で行い、Cy5標識aRNAプールとのハイブリダイゼーションは、サプライヤーのプロトコル(www.3d-gene.com)に従って行った。ハイブリダイゼーション信号は、3D-Gene Scannerで評価され、3D-Gene Extractionソフトウェア(東レ株式会社)によって処理した。各遺伝子の検出された信号は、グローバル正規化法によって正規化した(検出された信号強度の中央値は25に調整した)。IL-6遮断ではなく、miR-192トランスフェクションの影響を受ける遺伝子発現の差異を分離し、GeneSpring GX(Agilent Technologies Inc.)で遺伝子オントロジー分析と経路分析を行った。icroarrayデータは、GEOアクセッション番号GSE138758で入手できる。遺伝子発現比を示すヒートマップは、低発現レベルの遺伝子を削除し、サンプル間の各中央値を正規化した後に作成した。
(8)ELISA
インビトロ実験の細胞培養培地、マウスの血清、腹腔洗浄液、またはBALFを、ELISAアッセイキット(R&D Systems)を使用して、IL-6、TNF-α、IL-1β、CXCL-10のレベルについて、メーカーのプロトコルに従って分析した。ワクチン接種したマウスの血清中のWVP特異的総IgG、IgG1、またはIgG2cのレベルは、コーティングバッファー(Thermo Fisher Scientific)でWVPをコーティングしたプレートに血清を加えることで評価し、特定の抗体は、HRP標識抗アイソタイプ特異的抗体を使用して検出した。
(9)一次免疫細胞の分離とフローサイトメトリー分析
DCのCD11cマイクロビーズ、骨髄細胞のCD11bマイクロビーズ、PMN/好中球のLy6Gマイクロビーズ、T細胞のCD4/CD8マイクロビーズ、およびB細胞のCD19マイクロビーズ(すべてMiltenyi Biotec製)を用い、メーカーの指示に従って、特定の細胞集団を分離した。分離後の各細胞集団の純度は、通常80~95%であった。肺浸潤細胞を分析する場合、安楽死の前にAPC-Cy7標識抗CD45抗体(3μg/マウス)を静脈内注射し、血液循環細胞の混入を検出および排除した。肺組織からの細胞は、2.5 mg/mLのコラゲナーゼDと0.1 mg/mLのDNase Iを用いて37℃で30分間酵素消化して調製し、フローサイトメトリーに必要な抗体で染色し、分析した。LPSによる内毒素血症モデルでは、PBSで洗浄することにより、腹腔洗浄液から細胞を回収した。T細胞の細胞内サイトカイン染色のために、細胞懸濁液をBreferdin Aの存在下でPMA/イオノマイシンで5時間刺激した。次に細胞を固定し、透過処理し、Cytofix/Cytopermキット(BD Biosciences)を使用して染色した。免疫蛍光画像およびデータは、それぞれFACSVerse(BD Biosciences)およびFlowJoソフトウェア(Tree Star)を使用して分析した。血清中または培養物中のIL-6、CXCL10、IL-1b、およびTNF-aのレベルを検出するためのELISAキットは、R&D Systemsから購入した。
(10)ウエスタンブロット法
miRNA mimicでトランスフェクトしたRAW264.7、単離したEV、またはBMMを、溶解バッファー(1%NP-40、150 mM NaCl、20 mM Tris、pH 7.4、2 mM EDTA、10%グリセロール、0.25%デオキシコール酸ナトリウム、1 mMオルトバナジン酸ナトリウム、25 mM b-グリセロリン酸、10 mM NaF、およびプロテアーゼ阻害剤タブレット(Roche))で溶解した。細胞溶解物を還元条件下で12%SDS-PAGEで分離し、I-κB、ホスホ-NF-κBp65、NF-κBp65、またはb-アクチンに特異的な抗体を用いてウエスタンブロットを行った。
(11)共焦点分析
RAW264.7細胞を24ウェルプレートのカバーガラス上で1日間培養し、miRNA mimicでトランスフェクトした。24時間後、細胞をLPSで1~3時間刺激した後、4%パラホルムアルデヒドで固定し、透過処理し、PBS中の0.2%TritonX-100/5%FBSでブロックした。細胞を抗NF-kB p65抗体で一晩染色した。PBSで洗浄した後、細胞を二次抗ウサギIg抗体で染色した。染色された細胞は、DAPIを含むProlong Diamond Antiface Mountant(Invitrogen)で覆い、FluoView FV1200共焦点顕微鏡(Olympus)で観察した。
(12)統計分析
多重比較は、一元配置分散分析、続いてTukey-Kramer事後検定によって実行した。クラスカル・ウォリス検定は、ANOVAのノンパラメトリックな代替法として使用した。2つの実験グループを比較するときは、対応のないスチューデントのt検定を使用してデータを分析した。生存率の統計分析は、ログランク(マンテルコックス)検定とグレハンブレスローウィルコクソン検定を実行し、生存率曲線を比較した。これらの分析は、Prism 7 for Mac OS X(Ver.7.0)ソフトウェア(GraphPad Software Inc.)を使用して実行した。
結果
2.細胞外小胞中の加齢に伴うmiRNAの検出
若齢(2~3か月)および加齢(14~18か月)のマウス由来の血清細胞外小胞(EV)中のmiRNAプロファイルを比較した。トータルRNAは、野生型マウス(WT)、IL-6ノックアウトマウス(IL-6 KO)、およびIL-6受容体KOマウス(IL-6R KO)のそれぞれの血清EVから抽出し、ハイスループットRNA-Seq分析にかけた。RNA-Seq分析により、老齢のWTマウス血清EVで発現が特異的に増加した15のmiRNA(mmu-miR-19b-3p、mmu-miR-142a-3p、mmu-miR-21a-5p、mmu-miR-30e-5p、mmu-miR-322-5p、mmu-miR-30a-5p、mmu-miR-181c-5p、mmu-miR-140-3p、mmu-miR-192-5p、mmu-miR-10b-5p、mmu-miR-30b-5p、mmu-miR-126a-5p、mmu-miR-10a-5p、mmu-miR-143-3p、およびmmu-miR-215-5p)が明らかになった。RT-qPCRを実行してRNA-Seqデータを確認し、血清EV中のmiR-19b、miR-322、miR-192、miR-21、およびmiR-181cレベルが老齢のWTマウスで大幅に増加していることを確認した。結果を図1に示す。これにより、循環しているEV中に加齢に関与する免疫調節miRNAが存在することが明らかになった。また、IL-6 KOのマウスでは、若齢および老齢のいずれにおいても、血清EVのmiR-192レベルの低下が確認された。
次いで、加齢に関与するmiRNAがサイトカインの発現を調節するかどうかを確認した。各miRNA(miR-19b、miR-21、miR-192、miR-322、およびmiR-181)の模倣RNAをRAW264.7細胞にトランスフェクトし、TLRリガンドに応答したサイトカイン発現への影響を確認した。その結果、興味深いことに、図2に示すように、miR-192はIl6およびCcl2 mRNAレベルを低下させることが確認された。
この点をさらに明確にするために、マイクロアレイ分析を実施したところ、miR-192がいくつかのサイトカインを増加させ、遺伝子オントロジーと経路分析により、miR-192が免疫システムプロセスとサイトカインシグナル伝達経路に関連していることが示唆され。遺伝子オントロジー分析の結果を図3Aに、経路分析の結果を図3Bに示す。これらのデータは、miR-192が免疫調節miRNAであることを示唆している。
老齢マウスの血清EVの濃度は、若齢マウスのそれと同等であった(図4A)。EVのサイズは約100~150 nmで、エキソソームの基準を満たしていた。また、若齢マウスと老齢のマウスの間で直径に有意差は見られなかった(図4A)。しかし、EVにおけるmiR-192の絶対コピー数は、老齢マウスで大幅に増加していた(図4C)。収集したEVが、エクソソームマーカーであるCD63とHsp70を発現していることを確認した。また、エキソソームのマーカーである抗CD9、CD81、およびCD63抗体を使用して血漿からEVを収集した場合、老齢マウスのEVにおけるmiR-192レベルの増加も観察された(図4D)。
3.炎症性サイトカインのmiR-192レベルへの影響
炎症性サイトカインは老齢に関連していることがよく知られているため、miR-192の発現に対する炎症性サイトカインの影響を確認した。抗IL-6抗体、抗TNF-α抗体、または抗IL-1β抗体を、血清採取の1および3日前に老齢マウスに注射し、採取した血清EVのmiR-192レベルを測定した。抗IL-6抗体の投与は、老齢マウスの血清EVのmiR-192レベルを低下させたが、抗TNF-α抗体や抗IL-1β抗体は低下させなかった。結果を図5Aに示す。また、組換えIL-6を若齢マウスに静脈内注射し、2日後に採取した血清EVのmiR-192レベルを測定した。抗体とは逆に、組換えタンパク質IL6の投与は、若齢マウスの血清EVのmiR-192レベルを増加させたが、TNF-αやIL-1βは増加させなかった。結果を図5Bに示す。
4.若齢および老齢マウスの血清IL-6レベル
本実施例2で確認されたように、老齢のIL-6 KOマウスでは、正常な若齢のマウスのレベルに匹敵するレベルでmiR-192のレベルが低下した。また、以前に報告されており、図6Aに示すように老齢マウスの血清IL-6レベルは若齢のマウスのそれよりも高い。このことは、老齢したEVで観察されたmiR-192の増加にIL-6シグナリングが関係していることを示している。IL-6を静脈内に投与したところ、血清IL-6レベルが増加し、若齢マウスの血清EVのmiR-192レベルが増加することが確認された(図6BおよびC)。一方、老齢マウスでは、IL-6が連続して高レベルであってもEVのmiR-192はさらには増加しなかった(図6C)。これらのデータは、IL-6濃度の上昇が血清EVのmiR-192レベルの増加を引き起こすことを示している。
5.マクロファージのmiR-192への影響
マクロファージは炎症反応の強力なレギュレーターであるため、miR-192のEVでの増加に対する寄与を評価します。抗コロニー刺激因子1受容体(CSF-1R)抗体を用いてマクロファージの枯渇を引き起こした。その結果、図7に示されるように、老齢マウスの血清EVのmiR-192のレベルが有意に低下した。このことは、マクロファージがインビトロでmiR-192を含むEVsを産生することを示唆している。
一方、生体内とは異なり、IL-6だけでは生体外でマクロファージから放出されたEVのmiR-192レベルを上げることができなかった。しかし、TLR7リガンドであるR848との共刺激により、EVのmiR-192レベルが上昇した。CL097またはポリI:CだけではEVのmiR-192レベルを上げることができなかったが、LPS刺激はマクロファージから放出されるmiR-192レベルを上げた。これらの観察結果は、宿主細胞から放出されたDNA/RNAなどのPAMPおよび/または損傷関連の分子パターンによるいくつかの種類の刺激が、IL-6がインビボで血清EVのmiR-192レベルを増加させるために必要であることを示唆している。
6.EVのmiR-192による炎症誘発性サイトカインの発現減衰
miR-192はTLRリガンドに反応してサイトカインの発現を抑制する能力がある。そこで、骨髄由来マクロファージ(BMMs)にmiR-192模倣RNAを36時間トランスフェクトし、LPS、R848、CL097、ポリI:CなどのTLRリガンドで刺激した。興味深いことに、図8に示されるように、miR-192模倣RNAは、LPS、R848、およびCL097に応答して、Il6およびCcl2遺伝子の発現を有意に減少させた。LPS刺激マクロファージにおけるmiR-192発現によって調節される遺伝子発現プロファイルを解明するマイクロアレイ分析により、いくつかのサイトカインおよびケモカインの発現がmiR-192によって減少することが確認された。これらの結果をRT-qPCRによって確認した結果を図9に示す。
抗IL-6抗体はmiR-192による抑制に影響を与えなかったため、miR-192を介したサイトカイン発現の抑制がIL-6発現の低下によって引き起こされた可能性は低いと判断した。一般に、単一のmiRNAは複数の遺伝子を標的としている。本実験によるマイクロアレイデータは100を超える遺伝子の発現レベルがmiR-192によって少なくとも2倍変化することを示した。タイムコース分析では、マウスRAW264.7およびヒトCD14+単球由来マクロファージの両方で、R848刺激後に、miR-192がIl6とCcl2遺伝子の発現を減衰させることも確認されたが、Tnfa発現への影響はわずかであった。一方、CL097およびR848刺激に関連するIL-6産生は、miR-192によって減少した(図10)。これらの結果は、miR-192192がいくつかの炎症性サイトカインとケモカインの発現を抑制することを示している。
7.EVmiR-192の効果の確認
蛍光標識RNAを含むEVで処理されたマクロファージで確認されているように、EVがmiRNAをレシピエント細胞に送達することはよく知られている。そこで、EVに囲まれたmiR-192がmiR-192自体と同じ効果を発揮できるかどうかを確認した。miR-192(miR-192 EVs)を含むEVは、コントロールまたはmiR-192模倣RNAをRAW264.7細胞にトランスフェクトし、EVを培養上清から回収した。CD11b+Gr1-マクロファージを回収したEVで処理し、TLR7リガンドであるR848で刺激した。miR-192 EVは、マクロファージの細胞内miR-192レベルを有意に増加させたが、miR-101c(ネガティブコントロール)などの他のmiRNAレベルは増加させなかった。興味深いことに、miR-192 EVは、R848刺激後に、Il6およびIl1bのmRNAの発現とIL-6タンパク質の産生を減少させた。結果を図11に示す。
さらに、LPS腹腔内注射後の血清IL-6レベルは、miR-192 EVの静脈内注射によって減少することが確認された。結果を図12に示す。miR-192 EVによる血清IL-6レベルの低下は、LPSで刺激された老齢マウスでも確認された。結果を図13に示す。これらのデータは、EVがmiR-192をレシピエント細胞に送達し、それにより、インビトロおよびインビボの両方でIL-6産生を低下させることを示唆している。
8.老齢のEV miR-192の効果の確認
老齢のEVでmiR-192レベルが増加したので、マクロファージにおけるIL-6発現に対する老齢EVの影響を確認した。miR-192およびmiR-101の阻害剤RNAをBMMにトランスフェクトした。細胞を若齢および老齢の血清から回収したEV(3x109粒子)で処理し、その後R848で刺激した。Il6、Ccl2、およびTnfαの発現レベルは、RT-qPCRによって評価した。その結果、血清から回収した若齢EVは、R848で刺激されたマクロファージのIl6遺伝子の発現に影響を与えなかったが、老齢のEVは、Il6遺伝子の発現を有意に減少させた。Ccl2遺伝子の発現もまた、老齢のEVによって減少した。miR-192の阻害性RNA(anti-miR-192)であるantagomir-192 RNAをマクロファージにトランスフェクトすることにより、老齢のEVで治療する前にmiR-192の機能を抑制し、老齢のEVの内因性miR-192の特性を評価した。anti-miR-192は老齢のEVの影響を打ち消しましたが、コントロールRNAもanti-miR-101(ネガティブコントロール)も効果がなかった。これらのデータは、老齢のEVに封入されたmiR-192がマクロファージに転送され、それによりレシピエントのマクロファージでのサイトカイン発現を抑制することを示している。
9.老齢のEV miR-192の標的
上記で同定されたサイトカインとケモカインは、どのデータベースでもmiR-192による潜在的な標的であると予測されていなかったため、miR-192がこれらの遺伝子を間接的に標的とする可能性がある。そこで、miR-192がサイトカインとケモカインの転写因子を標的としたかどうかを確認した。RAW264.7細胞にコントロールまたはmiR-192模倣RNAをトランスフェクトし、R848で刺激した。R848による刺激の1時間後、細胞を固定した。全細胞抽出物(WCE)をSDS-PAGEにかけタンパク質を分離した後、各種抗体を用いたウエスタンブロッティングを行った。抗NF-κBp65抗体(赤)とDAPI(青)で染色し、細胞内局在を共焦点顕微鏡で観察しました。細胞が模倣miR-192でトランスフェクトされた場合、R848刺激によって引き起こされるIκBの分解およびp65とIKKβのリン酸化の両方が減少した。TBK1リン酸化もmiR-192によって減少した。対照的に、ERKとp38のリン酸化はmiR-192の影響を受けなかった。NF-κBの核局在化は、miR-192発現によって減少した。
NF-κBおよびTBK1転写因子は、Il6、Ccl2、およびIfnb遺伝子の発現を誘導するため、これらのデータは、miR-192が転写因子経路を標的とすることにより、炎症性サイトカインおよびI型IFNの発現を減衰させることを示唆している。以前の研究では、miR-192が炎症性サイトカインの発現に必要な上皮細胞および糸球体細胞のZEB1/2シグナル伝達分子を抑制することが報告されている(Kim et al., 2011, J Exp Med 208, 875-883.; Putta et al., 2012, J Am Soc Nephrol 23, 458-469.)。ZEB2ノックダウンは、Il6 mRNA発現を減少させたが、miR-192は、RAW264.7細胞のZEB2タンパク質レベルを下げなかった。
10.EV miR-192の役割:加齢に伴う過炎症状態で負のフィードバック
以下のようにして、WVPに対する免疫応答に対するmiR-192を含む老齢EVの影響を確認した。最初に、若齢マウスと老齢マウスのWVP誘発免疫応答を比較した。WVPは、若齢および老齢のマウスに鼻腔内接種した。血清IL-6およびCXCL10タンパク質レベルをELISAで評価した。WVP鼻腔内接種は、若齢マウスでIL-6やCXCL10などの炎症性サイトカインの一過性および全身性の増加を引き起こした。一方、老齢者のマウスの血清では、CXCL10ではなくIL-6のレベルの延長が確認された。結果を図14に示す。WVPを接種した老齢マウスのIL-6の全身レベルが高いことと一致して、肺の局所発現レベルは後の時点で老齢マウスでも増加していた。若齢および老齢のいずれのマウスでも同様に局所的および全身的に炎症反応を誘発し、これらの影響は老齢の動物で悪化した。
どのタイプの細胞が老齢マウスにおける炎症性サイトカインの長期発現の原因であるかを確認し、その後、インビトロでWVPで刺激された老若マウスから異なるタイプの細胞を分離した。老齢のマウスから単離されたCD11b+Gr1-マクロファージによって有意に多くの量のIL-6が産生されたのに対し、老齢のマクロファージにおけるTNF-α産生およびCXCL10産生のレベルは、若齢のマクロファージよりも低かった。これらのデータは、これらのマクロファージが老齢マウスにおける高IL-6産生の原因であることを示唆している。
老齢者のEVがWVP刺激時にサイトカインの発現を制御できるかどうかを確認した。脾細胞は若齢および老齢のEVで処理し、その後WVPで刺激した。若齢EVは脾細胞によるIL-6産生を減少させたが、老齢EVは若齢EVよりも顕著に減少させた。結果を図15に示す。さらに、老齢したEVは、miR-192を介してマクロファージによるIl6発現を抑制した。これらのデータは、老齢EVがマクロファージを介した炎症誘発性サイトカインの発現を弱める可能性があることを示唆している。以上の結果より、miR-192 EVは、IL-6を介して負のフィードバックループを構成することがしめされた。一方、TNF-αまたはIL-12はループに関与していなかった。
11.EV miR-192のWVP接種に対する免疫応答での役割
次いで、WVP接種に対する免疫応答におけるEV miR-192の役割を評価した。コントロールとmiR-192 EVを若齢および老齢マウスに静脈注射した。14時間後、WVPを鼻腔内投与した。ワクチン接種60時間後の肺におけるサイトカイン、ケモカイン、およびmiRNAの発現レベルを測定した。WVP接種後のIl6、Il12b、Tnfa、Ifng、およびCcl2の発現レベルは、WVP接種後60時間の若齢マウスよりも老齢マウスの方が高かったが、サイトカインおよびケモカインの発現レベルは、miR-192 EVの投与により大幅に減少した。結果を図16に示す。また、miR-192 EVの投与により、肺および肺CD11b+Gr-1-マクロファージのmiR-192レベルが増加したことを確認した(図17)。
局所炎症と一致して、miR-192 EVは、老齢マウスにおけるIL-6の長期の全身性増加も無効にした。接種60時間後の肺で、組織に存在するマクロファージである肺胞マクロファージ(F4/80+CD11c+SiglecF+細胞)の集団は、WVPの鼻腔内投与により劇的に減少したが、WVPは、単球から分化したLy6C+単球およびF4/80+CD11c-間質マクロファージの動員および蓄積を誘導した。間質性マクロファージの蓄積と動員は、老齢マウスでより明白であった。またmiR-192 EVは、老齢マウスにおける間質性マクロファージの動員と蓄積を有意に抑制しました。肺におけるIl12bおよびTnfa発現のmiR-192 EVを介した抑制は、間質性マクロファージの蓄積が低いためである可能性がある。miR-192は、インビトロでIl12bおよびTnfaの発現を効率的に低減できなかった。これらのデータは、老齢したEVおよびmiR-192 EVが、インビトロおよびインビボで、WVP接種に応答して、老齢に関連する長期のサイトカイン発現を減衰させる可能性があることを示している。
CSF-1Rが枯渇すると、間質性マクロファージは、WVP接種後の肺で減少する。興味深いことに、抗CSF-1R抗体処理は、WVP接種後の肺におけるIl6およびCcl2 mRNA発現を有意に減少させ、間質性マクロファージが肺におけるIl6およびCcl2の発現に関与していることを示唆している。さらに、BALFのIL-6タンパク質レベルも抗CSF-1R抗体処理により減少した。これらのデータは、間質性マクロファージが、ワクチン接種した老齢マウスで観察された増大した炎症反応の原因であることを示唆している。これらの観察結果は、miR-192 EVと老齢EVがマクロファージのサイトカイン発現を低下させ、老齢マウスの過炎症状態を減衰させることを裏付けている。抗CSF-1R抗体治療により脾臓マクロファージの数は減少したが、脾臓の樹状細胞、単球、PMN/MDSCの数は減少しなかったため、他のタイプのマクロファージが、miR-192 EVを介した免疫調節に関与している可能性は排除出来ない。
12.他のmiRNAの評価
加齢に伴って発現が増加した他のmiRNAの影響を評価するために、miR-19b、miR-21、およびmiR-322を含むEVをmiR-192と同様にして準備し、老齢マウスにおけるWVP誘発の血清IL-6の増加に対する影響を評価した。各miRNAのEVは、WVP接種の18時間前に老齢マウスに投与し、WVP接種の40時間後に、血清IL-6レベルをELISAで測定した。興味深いことに、miR-21 EVとmiR-192 EVは、WVP投与後にIL-6レベルを抑制した(図18)。このデータは、miR-192 EVだけでなく、miR-21 EVなどの他の加齢に伴うEVも加齢に伴う炎症の抑制に寄与していることを示唆している。
13.LPS誘発性腹膜における免疫応答におけるEV miR-192の効果
miR-192 EVがLPS誘発性腹膜炎モデルである他のタイプの刺激に対する免疫応答に影響を与えるかどうかを確認した。若齢および老齢のマウスに、対照のmiRNA EVまたはmiR-192 EVを静脈内投与した。投与の24時間後、マウスにLPSを腹腔内注射した。LPS注射の4時間後に腹腔洗浄液から細胞を収集した。腹腔洗浄液の総細胞数およびIL-6濃度を測定した。結果を図19に示す。miR-192 EVの投与により、LPS刺激後の老齢マウスの腹腔洗浄液に蓄積された総細胞数とF4/80+マクロファージの数が減少した。またこれらと一致して、腹腔洗浄液中のIL-6レベルはmiR-192 EV投与により減少した。これらのデータは、miR-192 EVがWVPだけでなく、腹膜炎モデルのLPSなどの他のタイプの刺激に対する炎症反応を低下させることを示している。
14.自然免疫応答におけるEV miR-192の効果
自然免疫応答に対するmiR-192 EVの影響を評価するために、miR-192 EVがMHCおよび共刺激分子の発現を調節するかどうかを確認した。R848による刺激は、骨髄由来樹状細胞(BMDC)のMHC-I、MHC-II、およびCD86発現を増加させた。ただし、miR-192 EVは、R848の有無にかかわらず刺激されたBMDCのMHC-I、MHC-II、およびCD86の発現レベルを変えなかった。これらのインビトロの結果は、WVPを接種した老齢マウスを用いた検討において、miR-192 EVの投与が、CD11c+DCにおけるMHC-I、MHC-II、およびCD86の発現に影響を与えなかったという事実と整合した。これらのデータは、miR-192 EVがサイトカインの発現を減衰させるが、抗原提示に必要なMHCおよびCD86は減衰させないことを示唆している。
15.老齢者におけるワクチン接種における加齢特異的miR-192 EVの効果
過度の炎症がワクチンの有効性を低下させることが報告されている(Fourati et al., 2016, Nat Commun 7,10369; Park et al., 2014, Hum Mol Genet 19, R169-175)。したがって、老齢したマウスはWVPに対する反応が弱まることが予想される。確認するために、WVPを、若齢および老齢のWTおよびIL-6 KOマウスに2回鼻腔内投与し、14日後、血清中の抗原特異的総IgG、IgG1、IgG2cレベルを評価した。その結果、WVPが若齢および老齢マウスに接種された場合、抗原特異的総IgG産生は老齢マウスで有意に減少した。結果を図20に示す。これらのデータは、マウスモデルが老齢マウスにおけるワクチン効力の低下を反映している。興味深いことに、IL-6 KOマウスでは、老齢マウスでのWVP接種における特定のIgGの産生を改善し、老齢マウスでのIL-6媒介炎症がWVPによるワクチンの有効性の低下に関連していることが示された。
WVPをワクチン接種した後、マウスをウイルスに感染させた。IL6 KOマウスでは、老齢マウスで抗体産生の増加が見られたが、若齢および老齢のWTおよびIL-6 KOマウスのウイルス感染による生存率を比較したところ、IL-6 KOマウスは、ワクチン接種を受けていても野生型マウスよりもウイルス感染の影響を受けやすいこと分かった。結果を図21に示す。これは、インフルエンザAウイルス感染時にIL-6自体が保護的な役割を果たすためだと考えられる。これらのデータは、効率的なワクチン接種とウイルス感染に対する防御のために、過度の炎症ではなく、適切な炎症が必要であることを示している。
以上の結果より、老齢マウスの肺にWVPを投与した後、miR-192 EVが炎症誘発性反応を調節するので、老齢マウスのWVPによるワクチン接種の有効性がmiR-192 EVによって改善すると考えられる。そこで、図22に示すスケジュールに従い、ワクチン接種の1日前にコントロールとmiR-192 EVをマウスに投与し、次に、ワクチン接種されたマウスをインフルエンザAウイルス(PR8)に感染させ、生存とその体重減少を記録した。結果を図23および図24に示す。若齢マウスでは、ワクチン接種はウイルス感染したマウスの生存を延長し、miR-192 EVはウイルス感染後の生存または体重減少に影響を与えなかった。若齢マウスを用いたmiR-192 EVの有無におけるWVPによるワクチン接種に効果を確認したところ、図25に示すように、EV自体の投与はWVPワクチン接種の防御活動に影響を及ぼさなかった。図23に示すように、老齢マウスでは、ワクチン接種はインフルエンザ感染からの保護にわずかな影響を示したが、ワクチン接種された老齢マウスの生存は、miR-192 EVの投与によって大幅に改善された。これらの結果は、老齢者のワクチン接種におけるmiR-192 EVの治療の改善効果を示している。
若齢および老齢のマウスでTh1およびTh2応答を評価したところ、図26に示すように、IFN-γ発現などのTh1応答は、老齢マウスではWVPに応答して誘導されなかったが、一方、IL-5発現などのTh2応答は老齢マウスでも誘導された。老齢マウスではTh1応答が減衰することが示唆された。
WVPによるワクチン接種の1日前に、コントロールおよびmiR-192 EVを若齢および老齢マウスに注射し、特異的抗体総IgG、IgG1、およびIgG2を評価した。興味深いことに、図27に示すように、IgG1ではなく特定のIgGおよびIgG2cが、加齢マウスへのmiR-192 EVの投与によって著しく増加したことが確認された。IgG2c産生はTh1応答を必要とすることが知られているため、これらのデータは、miR-192 EVが老齢マウスのTh1応答を改善したことを示している。このことは、miR-192 EVが、インビボでワクチンの有効性を改善したという観察と一致している。以上の結果は、加齢に伴うEV miR-192が過炎症状態を緩和し、ワクチン接種の有効性を改善することを示している。
上記の詳細な記載は、本発明の目的及び対象を単に説明するものであり、添付の特許請求の範囲を限定するものではない。添付の特許請求の範囲から離れることなしに、記載された実施態様に対しての、種々の変更及び置換は、本明細書に記載された教示より当業者にとって明らかである。
本発明により、新規なワクチン組成物が提供された。

Claims (13)

  1. (a)抗原と、(b)microRNA1-192(miR-192)とを含む、ワクチン組成物。
  2. 前記miR-192は細胞外小胞に含まれた状態にて含有される請求項1に記載のワクチン組成物。
  3. 65歳またはそれ以上の年齢のヒト老齢者に投与されることを特徴とする、請求項1または2に記載のワクチン組成物。
  4. 前記抗原は病原体由来の抗原である、請求項1~3のいずれか一つに記載のワクチン組成物。
  5. 抗インフルエンザワクチン組成物である、請求項1~3のいずれか一つに記載のワクチン組成物。
  6. 前記抗原は、腫瘍に対するT細胞応答を選択的に引き出す腫瘍抗原である、請求項1~3のいずれか一つに記載のワクチン組成物。
  7. 哺乳動物への投与のためのワクチンを製造するための方法であって、
    (1)miR-192を発現する動物培養細胞を培養する工程、
    (2)前記動物培養細胞にウイルスを接種して感染させて細胞を培養することにより、細胞においてウイルスを複製する工程、および
    (3)ウイルスを、miR-192とともに単離してウイルス調製物を製造する工程、
    を含む方法。
  8. 前記ウイルス調製物を弱毒化または不活性化する工程をさらに含む、請求項7に記載の方法。
  9. 前記工程(3)における単離を、miR-192は細胞外小胞に含まれた状態にてウイルスとともに単離される、請求項7または8に記載の方法。
  10. 前記工程(3)における単離を、ウイルス粒子の大きさおよびmiR-192を含有する細胞外小胞の大きさに基づく分離方法により行う、請求項9に記載の方法。
  11. 前記分離方法が、約50~約150nmの粒子径に基づいて行われる請求項10に記載の方法。
  12. 前記ウイルスがインフルエンザウイルスである請求項7~11のいずれか一つに記載の方法。
  13. 前記動物培養細胞が、MDCK細胞、Vero細胞、PerC6細胞、BHK細胞、およびCHO細胞からなる群より選ばれる細胞である、請求項7~12のいずれか一つに記載の方法。
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