JP2022008004A - バイオフィードバックを行う方法および装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】本発明は、高齢者のMCI(軽度認知障害)の症状の緩和または進行を予防するために有用なアルファ波やガンマ波などの脳波を増強するバイオフィードバック方法に関し、特に、対象者がバイオフィードバックの利用方法に習熟するためのトレーニング手段を含めて提供する。【解決手段】対象1の姿勢Uや脳波2を脳波計測手段3で計測し、MCI対策に有用な周波数帯(例えばアルファ波やガンマ波)における脳波の状態などから評価値4を算出して対象1にフィードバックする。入門者の段階では、脳波誘導手段6で特定周波数の脳波2を増強し、視覚によるフィードバック手段を用いて初期トレーニングを行う。操作に慣れた初心者の段階では、閉眼でもフィードバックできるように、音声を用いたフィードバック手段を用いる。なお、音声として静寂な音声7を採用することにより、瞑想の集中力を妨げないことが重要である。【選択図】図1

Description

本発明は、高齢者のMCI(軽度認知障害)の症状の緩和または進行を予防するために有用なアルファ波やガンマ波などの脳波を増強するバイオフィードバック方法に関し、特に、対象者がバイオフィードバックの利用方法に習熟するためのトレーニング手段を含めて提供する。
<高齢者の軽度認知障害(MCI)>
MCI(Mild Cognitive Impairment)は、通常の老化と初期的な認知症の中間的な状態であり、患者は日常生活の機能は維持しながらも、主観的な認知障害と客観的な記憶障害を抱えている。MCIは認知症の前駆状態であるため、症状緩和や進行予防が重要である。
平成24年(2012年)10月1日の65歳以上の人口3,079万人(確定値)に対しては、全国のMCI有病者数は約400万人と推定された.(非特許文献1)
<MCIの診断>
現在、臨床的にMCIであると診断するためには、本人の主観的な認知障害(例えばブレインフォッグや物忘れなどの自覚症状)の訴えのみならず客観的な障害状況の確認(例えば家族の証言や、認知機能の診断テストなど)にも比重が置かれている。
近年、EEG(脳波計)を用いてMCIを早期発見する方法が研究されており、MCIの原因が脳血管障害である場合にはシータ波(4.9~6.9Hz)/アルファ波の第1帯域(6.9~8.9Hz)の比率が増加し、アルツハイマー症により海馬等が萎縮した場合にはアルファ波の第3帯域(10.9~12.9Hz)/第2帯域(8.9~10.9Hz)の比率が増加し、海馬と複合される扁桃体が萎縮した場合はシータ波/ガンマ波(32.4~45Hz)の比率が増加することが知られている。(非特許文献2)
<脳波を増強してMCIを治療する方法>
(1)アルファ波を増強する方法
MCIで低下するアルファ波を10Hzで駆動する経頭蓋磁気刺激法(TMS)を用いて誘導する臨床研究が試行されており、MCIの治療あるいは悪化を遅らせる方法として有効である可能性が示唆されている。(非特許文献3)
また、デルタ波やシータ波に比べて低下したアルファ波のパワーを増強するMCIの治療方法の研究も行われている。具体的には、頭頂部に設けたEEGの電極で計測したアルファ波(この文献では8~10Hz)の測定値を、視覚(ボールの動画)と聴覚(ビープ音)を介して、患者にフィードバックするバイオフィードバック(別名:ニューロフィードバック)を用いた手法が知られている。(非特許文献4)
(2)ガンマ波を増強する方法
海馬の萎縮による認知症やMCIではガンマ波が低下することは知られており(非特許文献5)、特にアルツハイマー型の認知症が発症している場合にはガンマ波(40Hz)を強化することにより免疫細胞を刺激して治療効果を得られる可能性が示唆されている。(特許文献1)
前述の非特許文献2ではMCIによる扁桃体の萎縮によるガンマ波の低下も指摘されていることから、低下したガンマ波を増強してMCIを治療する可能性についても研究が期待される。
<知覚刺激により脳波が誘導される自然現象>
MCIの治療に有用な可能性のあるアルファ波やガンマ波などの脳波を増強する方法は、上述の経頭蓋磁気刺激法(TMS)やバイオフィードバックだけではない。視覚、聴覚、触覚などの知覚刺激として一定周波数の刺激を連続して付与すると、付与したのと同じ周波数の脳波が誘導されて発生する自然現象が脳科学の分野で周知である。
この現象は、定常状態誘発電位(SSEPs、Steady State evoked potentials)と呼ばれ、この自然現象を利用して、臨床医学や脳科学の研究分野では被験者に所望の周波数の脳波を誘導して、臨床用の脳波検査や研究用の試験計測にも広く利用されている。(非特許文献6)
また、この定常状態誘発電位(SSEPs)の現象が1Hz~少なくとも90Hzまでの周波数で発生すること、ならびにアルファ波の周波数帯域に含まれる10Hzのほか、ベータ波では20Hz、ガンマ波では40Hz付近で誘導される脳波の振幅が急増して共振現象を示すことも、当業者には広く知られた自然現象である。(非特許文献7)
つまり、定常状態誘発電位として付与する知覚刺激の周波数としてアルファ波を誘導する目的ならば共振周波数の10Hzを適用(非特許文献3)し、ガンマ波を誘導する目的ならば共振周波数の40Hzを適用(特許文献1)することは、弱い知覚刺激を付与して強い脳波を発生させる観点からは効率的で合理的である。
もちろん、10Hzや40Hz以外でMCIの治療効果の高い周波数が今後の研究で発見された場合には、その治療効果の高い周波数を用いることができることは言うまでもない。
<視覚や聴覚によるバイオフィードバック>
視覚によるバイオフィードバックは開眼時にのみ有効であり、目を閉じているときには利用できない。一方、聴覚によるバイオフィードバックは目を閉じているときでも利用できる。
視覚により数値情報を表示する手法は、静止画あるいは動画で図形や色や明るさや文字を組み合わせるなど、産業機器の計測表示装置やゲームなどの分野で多様な手法が公知であり、これらは視覚によるフィードバックの表示装置に利用可能である。
聴覚により数値情報を表示する手法は、計測器出力などの数値の変化を音声で認識させるため、音の周波数や強さ(音量)で数値を表現する手法(特許文献2)が知られている。
また、目視できない計測値(例えば方位角の数値)を表現するために音像定位を利用する技術も知られている(特許文献3)。さらに、左右のステレオ音源から発する音声の振幅を制御して、左右の耳の間の距離を10等分した位置に音像を定位させるための数式の例が開示されている(非特許文献8)。
したがって、特許文献2の音の周波数や強さで数値を表現する代わりに、特許文献3の音像定位を利用して目視できない数値を表現することは、音響工学分野の当業者には容易に着想できる。
<瞑想技能を応用して脳波を増減させる技能>
欧米のビジネスマンなどの間で、ストレス解消と安眠あるいは集中力向上などを目的として流行しているマインドフルネス瞑想(テーラワーダ仏教ではヴィパッサナ瞑想と呼ばれる)にはアルファ波を増大させる効果があることが知られている。またチベット仏教の慈悲の瞑想は、ガンマ波を増大させる効果が知られている。
スポーツジムで身体の筋肉のトレーニングを行うのと同様に、瞑想技能も体系的にトレーニングすることができる。具体的には、姿勢を安定させて座るテクニックを習得することが最初に行うべき最も基礎的なトレーニングである。そのうえで、眼を閉じ(あるいは開き)、心を落ち着けて平静な心を保って、呼吸や全身の知覚などに意識を集中することにより、アルファ波やガンマ波などの脳波を自らの意思にもとづいて増減できるようにトレーニングすることが可能になる。
さらに、眼を閉じて座る姿勢だけでなく、立ち止まったり、眼を開いたまま歩いたり、あるいは横臥した姿勢でも瞑想を行うテクニックが仏教のヴィパッサナ瞑想のトレーニング体系の中では知られている。
これらの瞑想技能をトレーニングして身につければアルファ波やガンマ波などの脳波を増強することが容易になるので、バイオフィードバックの手法によるMCI治療や予防に極めて有用である。
<日常習慣としての瞑想は、MCIの早期発見に役立つ>
前述(非特許文献2)のように、MCIに罹患するとアルファ波やガンマ波が低下する現象が起きる。そのため、瞑想を日常的な生活習慣に組み込んでおけば、瞑想中の精神集中の乱れに気づくことができるので、自分自身のMCIを早期発見することにも役立つ。
例えばinteraxon社製のMUSE(登録商標)などの市販されている瞑想用の簡易な脳波計を装着して瞑想状態を評価する習慣をつけておくと、脳波の客観的なデータから集中力低下を示す異常な兆候を発見できる場合がある。
つまり、瞑想用の簡易な脳波計を装着して行う瞑想を日常的な生活習慣に組み込んでおけば、MCIを早期発見しやすくなり、早期にMCIの治療を開始できるメリットもある。
特表2019-502429号公報 特開2001-141525号公報 特開平10-230899号公報
厚生労働科学研究費補助金認知症対策総合研究事業「都市部における認知症有病率と認知症の生活機能障害への対応」平成23年度~平成24年度 総合研究報告書
D. V. Moretti et al ,"Quantitative EEG Markers in Mild Cognitive Impairment: Degenerative versus Vascular Brain Impairment",International Journal of Alzheimer’s Disease / 2012
C S Herrmann et al,"Human EEG gamma oscillations in neuropsychiatric disorders", Clin Neurophysiol. 2005
論文題名:振幅と位相制御における音像定位の研究 著者:正岡 涼 ほか出典:東京電機大学 情報通信工学科 音響信号処理研究室 H.13 論文
高齢者のMCI(軽度認知障害)の症状の緩和または進行を予防するために、アルファ波やガンマ波などの脳波を計測して患者に情報提供(フィードバック)してMCI患者自身が意識的に自分の脳波の状態をコントロールする治療方法はバイオフィードバック(別名:ニューロフィードバック)と呼ばれる。(非特許文献4)
バイオフィードバックを効果的に行うためには、全身の筋肉を意図的に動かす運動機能のトレーニングに似て、脳波のアルファ波やガンマ波などの強度を意図的に増強できるように脳波のトレーニングを行う必要がある。
具体的には、バイオフィードバックによる治療法のトレーニングを行うにあたり、下記の2つの課題がある。
第1の課題は、バイオフィードバックの「手順を学び始めた段階」の入門者に発生する。
すなわち、バイオフィードバックの入門者の大半は、アルファ波やガンマ波などの脳波を治療に必要な強度まで意図的に増強する技能を持っておらず、バイオフィードバックを用いたMCIの治療法の効果を実感できない。その結果、入門者はこの治療法に積極的に取り組もうとする意欲が沸きにくい、という問題が発生する。
第2の課題は、バイオフィードバックの「手順を学び終えた」初心者に発生する。
初心者は、アルファ波やガンマ波などの脳波を治療に必要な強度まで意図的に増減する技能が不十分なため、学んだばかりのバイオフィードバックの手順だけを実行しても、MCIの治療に有用な十分に強度の強い脳波を発生できない。
そこで、「手順を学び終えた」初心者については、「目を閉じた状態」で心を集中させて、アルファ波やガンマ波などの脳波が意図する強度(dBで計測)へと増減できるようトレーニングする。その場合、目を閉じていれば視覚によるフィードバックは利用できないから、音声によるフィードバックを利用する必要がある。
しかし初心者の場合、フィードバック情報を伝える音声が常に大きな音で鳴り続けると、瞑想を妨げる騒音(雑音)のように感じてしまう。その結果、初心者は瞑想に集中できず、瞑想技能のトレーニングがうまくゆかないという問題が発生する。
本発明は、MCI(軽度認知障害)の症状の緩和または進行を予防するために有用なアルファ波やガンマ波などの脳波を増強するバイオフィードバック方法に関し、特に、入門者あるいは初心者の段階の対象者がバイオフィードバックの利用方法に習熟するためのトレーニングの手段を含めて下記の方法で課題の解決手段を提供する。
第1の課題を解決するために、対象1の姿勢Uや脳波2を脳波計測手段3で計測し、MCI対策に有用な周波数帯(例えばアルファ波やガンマ波)における姿勢Uや脳波2の数値データを演算して評価値4を算出し、その評価値4の数値そのものや増減の状態などを対象1にフィードバックする。
特に入門者の段階では、脳波を増強する技能をまだ持っていないので、脳波誘導手段6で特定周波数の知覚刺激(視覚、聴覚、触覚のうち1種類以上)を連続的に付与してMCI治療に有用な周波数帯(例えばアルファ波やガンマ波)の脳波2を増強してMCIの治療を補助する。 さらに、トレーニングの妨害になる騒音を発生しないように、静寂で音声を発しない視覚によるフィードバック手段を用いてバイオフィードバックの操作手順を学ぶ。
なお、入門者であっても、より進んだ段階の操作手順を学びたければ、瞑想の状況に応じて音量を低下させる静寂な音声7(詳細は実施例2に記載)を用いた音声フィードバックを行ってもよい。
さらに、視覚フィードバックと音声フィードバックを併用して、入門者が視覚フィードバックから音声フィードバックへ進むための橋渡しのトレーニングを行ってもよい。
<第1の発明事項>
上記を整理して、下記の第1の発明事項とする。
対象1の脳波2の状態を改善してMCIの症状の緩和または進行を予防するためのバイオフィードバックを行う方法であって、
前記対象1の姿勢Uおよび/または前記脳波2を計測する脳波計測手段3と、
前記脳波計測手段3で計測した数値データを演算して算出した評価値4の状態を前記対象1の視覚および/または聴覚へフィードバックする静寂なフィードバック手段5と、
前記対象1に特定周波数の前記脳波2を誘導する脳波誘導手段6を
組み合わせて用い、あるいは提供することを含む。
ちなみに上記の特定周波数という表現は、10Hzもしくは40Hzのような単一周波数の正弦波波形だけではなく、10Hzおよび40Hzを重畳した波形のように意図的に複数の周波数の成分を持つ波形の場合をも包含している。
第1の発明事項には、全く未経験な入門者がバイオフィードバックの使い方の概要を学ぶ目的で、音声を発しない(つまり静寂な)視覚によるフィードバック手段を包含している。
これは、姿勢Uや脳波2から算出した評価値4としての数値データが、ユーザーあるいは設計者の意図した数値の設定範囲にあるときに、数字そのものや色や形などの静止画や動画による画像Gとして表示するものである。なお自明であるが、視覚フィードバックは「目を開いて見る」用途に限定される。
<第2の発明事項>
そこで、視覚によるフィードバック手段の部分を抜き出して、下記の第2の発明事項とする。
前記静寂なフィードバック手段5は開眼時の視覚によるフィードバックであり、
前記脳波計測手段3を用いて姿勢Uおよび/または前記脳波2の数値データを計測するステップと、
前記脳波計測手段3で計測した数値データを演算して算出した前記評価値4が所定の値の範囲に入った場合には数値データを画像Gで出力するステップと
を含むことを特徴とする。
次に、第2の課題を解決するため、バイオフィードバックの操作手順を学び終えた初心者の段階における基本的な瞑想技能のトレーニングを行う。
その際、瞑想の形態(閉眼、半眼、開眼)にかかわらず姿勢Uや脳波2の数値をフィードバックできるように、音声(音像位置や音量、周波数あるいは音の種類で特徴づけた数値表現)を用いたフィードバック手段を用いる。特に、この音声には瞑想の状況に応じて音量を増減させる静寂な音声7を採用することにより、瞑想の集中力を妨げないことが重要である。
なお、本発明における静寂な音声7の詳細な説明は、後に述べる実施例2に記載する。
<第3の発明事項>
上記を整理して、下記の第3の発明事項とする。
前記静寂なフィードバック手段5は聴覚によるフィードバックであり、
前記脳波計測手段3を用いて姿勢Uおよび/または前記脳波2の数値データを計測するステップと、
前記脳波計測手段3で計測した数値データを演算して算出した前記評価値4が所定の値の範囲に入った場合には数値データを静寂な音声7で出力するステップと
を含むことを特徴とする。
基本的な瞑想技能のトレーニングを行うためには、椅子や座布団などに座って背骨をまっすぐに直立させ、頭部や背骨や腰周りの姿勢を瞑想中に動かさないテクニックを習得する。これは瞑想の集中力を低下させないために習得すべき必須の技能である。
そこで、脳波計測手段3に組み込んだ3軸加速度センサや3軸角速度センサなどによって頭部の傾斜角や姿勢の動き(これらの多チャンネルのデータをまとめて姿勢Uと記載した)を計測する。
もし瞑想の練習中に集中力の低下や居眠りなどによって姿勢が傾いた場合には、フィードバックの音声が静寂(小音量)から警報(大音量)へと変わり、音声フィードバックを用いて姿勢の崩れを警告することができる。
<第4の発明事項>
上記を整理して、下記の第4の発明事項とする。
前記静寂なフィードバック手段5は聴覚によるフィードバックであり、
前記脳波計測手段3を用いて前記姿勢Uの数値データを計測するステップと、
計測した前記姿勢Uと姿勢基準値wとの偏差量pにもとづいて前記静寂な音声7の出力パラメータを算出するステップと、
前記静寂な音声7の出力を実行するステップと
を、含むことを特徴とする。
また、基本的な瞑想のトレーニングでは、心静かに座り、眼を半眼あるいは閉じることにより、アルファ波が若干上昇し、同時にガンマ波が大幅に低下することを経験できる。この状態から目を開けると、アルファ波が若干低下し、同時にガンマ波が大幅に上昇してほぼ元に戻る。
また、目を閉じた状態で安静な心理状態を保つと、アルファ波はますます上昇する。
あるいは、目を開けて自分が強い興味を引かれる物体や映像を見ることによって意欲を高めたり、文字を精読したり、眼から入った視覚情報に注目してさまざまな認知機能を働かせると、ガンマ波はますます上昇する。これらの現象は人体で観察される一般的な現象である。
このように、心理状態や目の開閉に伴ってアルファ波やガンマ波などの脳波が増減するので、脳波周波数帯8ごとの強度Pwの変化を音声フィードバックすれば、MCIの治療に用いるアルファ波やガンマ波などの脳波を意識的に増強させる技能のトレーニングに活用できる。
<第5の発明事項>
上記を整理して、下記の第5の発明事項とする。
前記静寂なフィードバック手段5は聴覚によるフィードバックであり、
前記脳波計測手段3を用いて前記脳波2の数値データを計測するステップと、
計測した前記脳波2から脳波周波数帯8ごとの脳波の強度Pwを算出するステップと、
前記脳波周波数帯8ごとの前記強度Pwと強度基準値Sgとの偏差量Δpwにもとづいて前記静寂な音声7の出力パラメータを算出するステップと、
前記静寂な音声7の出力を実行するステップと
を、含むことを特徴とする。
以上の5つの発明事項を用いることで、本発明のバイオフィードバックによるMCIの治療方法をトレーニングするにあたり、入門者と初心者に関する2つの重要な課題を解決することができる。
以上に概説したそれぞれの問題点を解決するための具体的な実現手段は、後述する実施例で詳細に説明する。
本発明のバイオフィードバックを行う方法は、MCI(軽度認知障害)の症状の緩和または進行を予防するために有用なアルファ波やガンマ波などの脳波を増強するにあたり、特に、対象者がバイオフィードバックの利用方法に習熟するためのトレーニング段階における困難を解決できる効果がある。
第1の発明事項の効果は、「入門者にも効果を実感させること」である。
つまり、バイオフィードバックの使い方を全く知らない入門者でも、第1の発明事項の脳波誘導手段6で得られる脳波の僅かな増加だけでも自覚症状が改善したことを実感できる。そこで、さらに強い効果が得られるバイオフィードバックによる治療に取り組む意欲を向上させることができる。
第2の発明事項の効果は、「入門者の手順習得に有用であること」である。
つまり、バイオフィードバックの使い方を全く知らない入門者のトレーニング段階において、脳波の状態を評価した数値データを視覚的にフィードバックすることにより、バイオフィードバックの基本的な考え方や操作手順をわかりやすく学ぶことができる初期トレーニング手段を提供できる。
第3の発明事項の効果は、「初心者のための一般的な訓練手段を提供する」ことである。
つまり、バイオフィードバックの操作手順を学び終えたばかりの初心者の段階における瞑想技能のトレーニングを行う一般的な手段を提供する。
すなわち、音声フィードバック手段を用いることにより、瞑想の形態(閉眼、半眼、開眼)にかかわらず姿勢Uや脳波2の状態をフィードバックし、姿勢の調整や心理的な状態が姿勢Uや脳波2の計測結果に与える定量的な影響を体験させることができる。
特に、音声として静寂な音声7を採用することにより、瞑想の集中力を妨げないトレーニング環境を提供できる重要な効果がある。
第4の発明事項の効果は、「初心者のための姿勢保持の訓練手段を提供すること」である。
バイオフィードバックの操作手順を学び終えたばかりの初心者の段階における瞑想技能の最も基礎となる「瞑想中の姿勢を正す技能」を修得するための具体的な手段を提供する。
ちなみに、日本の伝統的な禅寺で初心者が座禅を学ぶ際には指導僧が警策を携えている。この警策は、座禅中に姿勢が乱れて集中力が低下した瞑想修行者の肩ないし背中を打って注意を促すとともに眠気をさます効果のある棒であり、瞑想に集中して脳波をコントロールするための大前提となる姿勢の乱れを瞑想修行者にフィードバックするものである。
つまり、第4の発明事項の効果は、座禅の警策と同様に、瞑想時の姿勢が基準の状態から乱れたことをフィードバックして瞑想者に気づかせることにより、瞑想時の集中力の低下を防止する効果がある。
さらに、瞑想者本人がリアルタイムで姿勢の変化を認識できるので、瞑想中に自ら試行錯誤して姿勢の乱れを予防するテクニックを学習するためにきわめて有用である。
第5の発明事項の効果は、「初心者のための脳波強度の訓練手段を提供すること」である。
つまり、バイオフィードバックの操作手順を学び終えたばかりの初心者の段階における周波数帯域8ごとの脳波2の強度Pwが基準値と比べて乖離している程度をフィードバックすることができる。
この第5の発明事項により、脳波2の強度Pwが基準値に近づくよう意識を集中し、あるいは感情をコントロールするなどの試行錯誤を行う。所望の周波数帯域8ごとの脳波2の強度Pwが増減する様子をリアルタイムで観察することにより、所望の周波数帯域8における脳波の強度を意図的に操作する瞑想技能を効率よくトレーニングすることができる。なお、基準値の数値を自由に設定変更可能とすることにより、瞑想訓練者の練度が向上するにつれて基準値をさらに高度な数値に変更してトレーニングすることができる。
以上の5つの発明事項により、MCIの症状の緩和または進行を予防するために有用なアルファ波やガンマ波などの脳波を増強するにあたり、特に、対象者がバイオフィードバックの利用方法を学ぶためのトレーニング段階で直面する困難な状況を解決できる。
本発明によるその他の効果は、後述する実施例で詳細に説明する。
(実施例1)MCI治療のためのバイオフィードバックの機材と機能の全体像 (実施例1の変形例)入門者のための視覚フィードバックの機材と機能 (実施例2)初心者を訓練する音声フィードバックの機材と機能の全体像 (実施例2)音像の位置で数値を表す、音像定位技術 (実施例2)瞑想中の姿勢の傾きを警告する音声フィードバック (実施例2)静寂な音声を使って姿勢の傾きを警告するフロー (実施例2の変形例1)多様な「静寂な音声」の事例 (実施例2の変形例1)多様な「静寂な音声」を実現するフロー (実施例2の変形例2)静寂な音声で脳波の強度を表示する事例 (実施例2の変形例2)脳波の強度を表示するフロー (実施例2の変形例3)脳波の強度を多段階に表示する事例 (実施例2の変形例3)多段階に表示する事例のフロー (実施例2の変形例4)多数の脳波強度を表示する事例とフロー
以下、MCI患者である対象1の脳波2の状態を改善してMCIの症状の緩和または進行を予防するためのバイオフィードバックを行う方法および装置について詳細に説明する。
≪MCI対策としての静寂なバイオフィードバック(全体像)≫
図1は本発明の全体像としての「第1の発明事項」において、静寂なフィードバック手段5を用いたバイオフィードバックで使用する機材と機能を説明する図である。
音声を発しない視覚フィードバック手段70と、静寂な音声7を用いた音声フィードバック手段80の2種類を包含して「静寂なフィードバック手段5」と用語定義する。
静寂な音声7とは、音声フォードバック手段80が発生するフィードバック音声であって、瞑想が所望の状態(例えば姿勢が直立して安定したり、ガンマ波の強度が目標値に近いなど)にあるときには音量を低下させて瞑想中の意識集中の妨げになる雑音を減らすように音量調節した音声である。具体的な制御方法は実施例2で詳細に説明する。
図1(a)において、簡易脳波計10を用いて対象1の脳波2を計測し、スマートフォン20の画面で視覚フィードバックの画像を表示し、ステレオイヤホン30で静寂な音声7による音声フィードバックの音声を発する(以下、フィードバックの音声を発することを「表示する」と表現することもある)。
図1(b)は、本発明のバイオフィードバック機材と機能の関係を示す図である。
本図において簡易脳波計10とスマートフォン20は脳波計側手段3を構成するとともに、スマートフォン20の表示画面は視覚フィードバック手段70としても利用できる。
簡易脳波計10で計測した対象1の頭部の姿勢U(例えば3軸加速度と3軸角速度の計測値)と脳波2の計測値は、信号の中継装置としてのスマートフォン20を介して解析制御装置40へ入力されて処理され、評価値4が算出される。解析制御装置40で算出された評価値4にもとづいて、画像表示装置としてのスマートフォン20へ戻されて視覚フィードバックを行い、ステレオイヤホン30へ出力して静寂な音声7による音声フィードバックを行う。
解析制御装置40は、さらに、定常状態誘発電位の現象を利用してアルファ波やガンマ波などの特定周波数の脳波を誘導するため、ステレオイヤホン30からの聴覚刺激、液晶サングラス50からの視覚刺激、および振動アクチュエータ60からの触覚刺激を対象1に付与する機能を持つ。
ちなみに上記の特定周波数という表現は、10Hzもしくは40Hzのような単一周波数の正弦波波形だけではなく、10Hzおよび40Hzを重畳した波形のように意図的に複数の周波数の成分を持つ波形の場合をも包含している。
聴覚刺激の手段としては、ステレオイヤホン30の代わりにステレオヘッドホンやステレオスピーカー、ステレオ骨伝導ヘッドホン、あるいはモノラルスピーカーを利用できる。1つの音源から複数の周波数を含む波形を発生できる。
視覚刺激の手段としての液晶サングラス50の機能と構造は、特許文献(特願2020-122248、「電子閃光サングラスからなる認知症治療器具」)に記載されている。液晶サングラス50の代替としてストロボやLED光源を特定周波数で点滅させてもよい。1つの光源(または液晶サングラス50)から複数の周波数を含む波形を発生できる。
また、触覚刺激の手段としての振動アクチュエータ60には、非特許文献6に記載されたブリュエル・ケア社製のミニシェーカー(Type4810)のほか、新電元メカトロニクス(株)製のボイスコイルモータMM30Cなどの市販品を使用して特定周波数で皮膚感覚を刺激することができる。1つの振動源から複数の周波数を含む波形を発生できる。
図1(b)の脳波計側手段3は、市販品を用いて構成することも可能である。具体的には、例えば、市販の簡易脳波計10であるInterAxon社製のMUSE(登録商標)を、スマートフォン20への搭載用として販売されているMUSE用のアプリであるMindMonitor(登録商標)に接続すればよい。これにより、簡易脳波計10の計測値を、スマートフォン20を中継して解析制御装置40へWiFi(登録商標)を介して転送する機能まで市販品で構成できる。なお、スマートフォン20は市販のiPad(登録商標)に置換できる。
ちなみに簡易脳波計10として利用可能な市販品としては、OpenBIC(登録商標)、Unicorn(登録商標)、SmartSleep(登録商標)、Insight(登録商標)など多数の商品が知られている。
次に、図1にもとづいて実施例1の操作手順を説明する。
(操作手順1)
対象1は、頭部に装着した簡易脳波計10としてのMUSE(登録商標)とスマートフォン20の電源を投入して、スマートフォン20のアプリのMindMonitor(登録商標)を立ち上げる。これにより、簡易脳波計10で計測した姿勢Uと脳波2の計測値がBluetooth(登録商標)などの公知の通信手段によって送信され、スマートフォン20に受信される。
(操作手順2)
解析制御装置40の電源を投入し、スマートフォン20の市販アプリであるMindMonitorの画面でデータ転送の開始を選択すると、スマートフォン20からWiFi(登録商標)経由で解析制御装置40との通信が確立する。この時点から、スマートフォン20から解析制御装置40へ姿勢Uと脳波2の計測値が送信され、解析制御装置40で受信される。
一方、MindMonitorの代替として双方向の通信中継機能を持つ、専用の中継表示アプリを設計することは当業者には容易である。
つまり、上記の中継表示アプリでスマートフォン20から中継された姿勢Uと脳波2の計測値を解析制御装置40が受信すると、評価値4として視覚フィードバックの描画のためのパラメータ(例えば表示すべき数字や画像の数値データ)を算出し、スマートフォン20へ視覚フィードバックのための表示データを返信し、スマートフォン20にインストールした上記の中継表示アプリによって視覚フィードバックのための画像(数値や画像)が表示される。
上記の中継表示アプリの画面表示機能は、解析制御装置40からWiFiで返信されて来る数値データをスマートフォン20の表示画面に画像表示するだけのきわめて簡単な仕様であり、公知の開発ツールを利用して当業者には容易に設計可能である。
市販アプリのMindMonitorの操作パネルの機能と同様に、上記の中継表示アプリにも操作パネルの機能を備えることは容易であり、その操作パネルとしての機能を利用して、視覚フィードバックと音声フィードバックを同時に、もしくはどちらか一方だけを選択することができる。
音声フィードバックを選択した場合には、解析制御装置40で評価値4として静寂な音声7による音声フィードバックのパラメータを算出し、聴覚刺激用のステレオイヤホン30にフィードバック音を重畳して音声フィードバックも同時に行うことができる。
なお、脳波誘導手段6として知覚刺激(聴覚、視覚、触覚)のそれぞれの刺激の強さ(刺激波形の振幅)の調節は、解析制御装置40にボリウム等を設けてもよいし、あるいは上記の中継表示アプリの操作パネルとしての機能を利用してボリウム調節する設計としてもよい。
(操作手順3)
上記の手順2の段階までを繰り返せば、瞑想経験のない入門者でも、自分自身の姿勢Uや脳波2の状態を視覚フィードバック手段70や音声フィードバック手段80を介して認識する操作手順を学習できる。
具体的には、上半身を前後に傾けたり左右に揺らしたりして、視覚フィードバック手段70や音声フィードバック手段80で表示される画像や音声の変化の仕方を体験することができる。
また、心を落ち着けた状態で目を閉じたり、開いたりすると、アルファ波やガンマ波などの脳波2の計測値が変化する現象を、視覚フィードバック手段70や音声フィードバック手段80の出力の変化として経験することができる。
なお、図1の音声フィードバック手段80としてのステレオイヤホン30は、脳波誘導手段6で定常状態誘発電位の脳波を発生させるための聴覚刺激を付与する手段を兼ねている。従って、瞑想技能が低い入門者や初心者が瞑想のトレーニングをする場合には聴覚刺激を騒がしい騒音のように感じる可能性がある。その場合、例えば目を閉じてトレーニングする場合には、視覚刺激も聴覚刺激も使用せずに、騒音を発生させない触覚刺激としての振動アクチュエータ60だけを使用して定常状態誘発電位による脳波を発生させることもできる。
つまり、脳波誘導手段6は視覚、聴覚、触覚の3種類の刺激手段を用いることが可能だが、必ずしも常に3種類の刺激を同時に使用するわけではなく、任意の2種類あるいは任意の1種類の刺激手段を状況に応じて選択的に利用することができる。
(操作手順4)
入門者の場合、ひきつづき機材の使用方法を学ぶトレーニングを続ける。
今度は、目を開いた状態で、脳波誘導手段6の視覚刺激と聴覚刺激と触覚刺激の全てを試しに作動させる。具体的には、例えば、ステレオイヤホン30から繰返し周期10Hzや40Hzのクリック音を発生させ、液晶サングラス50をかけて10Hzおよび/または40Hzで透過率制御して光刺激を発生させ、振動アクチュエータ60からも10Hzおよび/または40Hzで駆動制御して触覚刺激を発生させる。
これにより、入門者の場合でも、視覚、聴覚、触覚の3種類の定常的な知覚刺激が生じるので、自然現象としての定常状態誘発電位が働いた結果、10Hzおよび/または40Hzの脳波が誘導されて増強される。
なお、定常状態誘発電位の知覚刺激に用いる周波数として、アルファ波の周波数帯では共振周波数の10Hz、ガンマ波の周波数帯では共振周波数の40Hzを用いることが臨床研究などでよく知られている。しかしMCIの治療においては必ずしもこの2つの周波数のみに限定するものではなく、臨床的にMCIの症状に応じた適切と判断される周波数を含んだ知覚刺激の波形を付与できる。
上記の(操作手順4)では、瞑想経験のない入門者でも、脳波誘導手段6による定常状態誘発電位の現象を利用することによりアルファ波やガンマ波などの脳波2の強度を増強させる体験ができる。
このようにして、瞑想経験のない入門者であっても、MCIの治療に必要な最小限のアルファ波やガンマ波などの脳波2を増強することができるから、MCIの症状に対する治療効果を実際に体験できる。
例えば、軽いMCIの場合はブレインフォッグなどの自覚症状の軽減を自覚できる場合もある。
以上述べたように、瞑想経験のない入門者であっても、操作手順1から操作手順4までのバイオフィードバックの操作手順を体験すれば、MCIの治療の効果を実感することができ、さらに意欲を持ってMCIの治療に取り組むことができる。
入門者が上記の4つの操作手順を何度も繰り返して習熟したら、初心者の段階に進むことができる。初心者の段階では、瞑想技能の上級者を目指して実施例2に記載する「瞑想技能を高めるトレーニング」を開始する。 それにより、脳内のアルファ波やガンマ波などの脳波2の強度を随意に高める技能を身につけることができるので、いっそう効果的なMCI治療が可能になる。
なぜならば、十分な瞑想トレーニングを経て瞑想技能が向上した上級者が本発明のバイオフィードバックをMCI治療に用いる場合には、瞑想中でも目を開けて視覚刺激を使い、騒音も気にせずに聴覚刺激を使い、さらに触覚刺激を使うと同時に、自分の瞑想技能を生かしてアルファ波やガンマ波などの脳波の強度を高めることができる。このようにして、瞑想技能における上級者の場合には、図1に記載したバイオフィードバックの全ての機材を利用してMCI治療を行うことができるから、MCIの治療効果も一層高まるのである。
≪第1の発明事項の事例≫
以上で説明した実施例1は、「第1の発明事項」の実施形態の事例である。
すなわち、
対象1の脳波2の状態を改善してMCIの症状の緩和または進行を予防するためのバイオフィードバックを行う方法であって、
前記対象1の姿勢Uおよび/または前記脳波2を計測する脳波計測手段3と、
前記脳波計測手段3で計測した数値データを演算して算出した評価値4の状態を前記対象1の視覚および/または聴覚へフィードバックする静寂なフィードバック手段5と、
前記対象1に特定周波数の前記脳波2を誘導する脳波誘導手段6を
組み合わせて用い、あるいは提供することを含む。
<実施例1の変形例>
図2は、実施例1の変形例として、入門者向けに特化した最も小規模な構成例を示す。
具体的には、脳波計測手段3として視覚フィードバック手段70を含む市販の簡易脳波計10とスマートフォン20用の市販の専用アプリで視覚フィードバック用のパラメータである評価値4を算出して視覚フィードバックを行う。 この図2の事例では、音声フードバックは省略する。
また、図2の脳波誘導手段6の解析制御装置40では、視覚または聴覚フィードバックのための評価値を算出する解析機能は使用せず、聴覚刺激と視覚刺激を用いて定常状態誘発電位による自然現象を利用して脳波2のアルファ波やガンマ波を増強させるためのスピーカー90と液晶サングラス50を駆動する制御装置として使用する。
図2(a)と図2(b)において、簡易脳波計10を用いて対象1の姿勢Uや脳波2を計測し、スマートフォン20の画面に視覚フィードバック手段70としての画像G(この事例では数値や時系列チャート)を表示する。この視覚フィードバックは音声を出さず、スマートフォン20の画面に画像を表示するので、騒音を発生しないという意味では静寂なフィードバック手段5として機能する。当然ながら、目を開いて視覚フィードバックの画面を見る。
またこの事例では、解析制御装置40からスピーカー90を駆動して繰り返し周波数10Hzでパルス幅の短いクリック音を聴覚刺激として発生させ、液晶サングラス50を10Hzおよび/または40Hzの正弦波を含む波形で駆動して10Hzおよび/または40Hzの視覚刺激を発生させる。
ちなみに聴覚刺激の音声波形は、非特許文献6に記載されているように、ビート、チャープ、クリック、パルス、正弦波、正弦波変調ノイズ、狭帯域ノイズ、周波数変調トーン、振幅変調トーン、または混合変調のトーンなど、さまざまなタイプの音声波形で刺激できる。
また、視覚刺激の波形は、特許文献(特願2020-122248、「電子閃光サングラスからなる認知症治療器具」)に記載されている通り、2値の矩形波、3値の階段状波形、あるいは正弦波などのように透過率の最大値と最小値の間の任意の透過率を組み合わせた波形を用いて光刺激を付与できる。液晶サングラス50の代替として点滅するLEDやストロボ光を用いてもよい。
図2(c)と図2(d)は、市販の簡易脳波計10としてのMUSE(登録商標)とスマートフォン20の市販アプリのMindMonitor(登録商標)を使用した場合の視覚フィードバックとして表示される画面の例である。この市販品では、簡易脳波計10で計測した脳波の電圧波形に周波数分析の演算を行った結果をもとに、評価値4が算出される。
この事例の場合における評価値4は、アルファ波やガンマ波などの脳波の強度(dB表示)である。この数値が上限値の140dBを超えた場合には、画像(数値や時系列チャート)による視覚フィードバックの数値表示を上限値(140dB)で飽和させる仕様になっている。なぜならば、通常の人間の脳波では、この上限値を超える高電圧が発生する可能性が低い。従って、もし異常な高電圧が計測された場合には、簡易脳波計10の電極部分に異常な雑音電圧が入力されて入力アンプが誤動作している可能性が高いからである。
なお図2(c)と図2(d)では、時系列グラフを見やすくする都合上、スマートフォン20の代わりに代替手段のiPad(登録商標)でMindMonitor(登録商標)を使用した場合の表示画面の主要部分だけをスケッチしている。
ちなみに、上記市販品の視覚フィードバックの画面表示機能に代えて本発明の表示専用アプリを新規設計する場合には、評価値4が上限値以下の場合のみ数値を表示し、評価値4が上限値を超える異常な数値を示す場合には「電極異常」と表示するほうが、入門者にとって誤解が無く理解しやすいバイオフィードバック用のトレーニング機材になるかもしれない。
あるいは、アルファ波やガンマ波などの脳波の強度(dB表示)のトレーニング目標として例えば70dB以上を目指す場合には、スマートフォンのアプリから編集可能な所定値として例えば70dBという数値をユーザーが仮に設定できるように設計する。そして、脳波2の強度が70dB未満なら数値を棒グラフで表示し、70dBを超えた場合に数値で視覚フィードバックするように設計してもよい。このような仕様であれば、バイオフィードバック用のトレーニングの達成度合いが目で見てわかりやすく、励みになるので使いやすい。
また、姿勢Uを視覚フィードバックする場合には、瞑想中に姿勢が前後に揺れ始めたことを警告する画面を表示してもよい。例えば、姿勢の傾きを数字で表示するだけでなく、姿勢の傾きが基準よりも少なければ画面の背景色を白色とし、姿勢の傾きが基準を超えて大きくなるにしたがって画面の背景色の赤みを増大させてもよい。
図2(c)は、姿勢Uの20秒間の時系列チャートの例である。瞑想中に体を前後に傾けると、図のように重力加速度の前後方向成分と、左右軸回りの角速度に波形が発生する。瞑想中の時系列グラフで姿勢の波形に脈動が生じている場合には、心身が安定しておらず、集中力を欠いた状態にある。このように集中力が欠如した状態が時系列チャートから判読できることは、瞑想トレーニングのノウハウのひとつである。
入門者の瞑想技能を上達させるには、姿勢Uのフィードバック情報を参考にして、姿勢の傾きを安定させるノウハウを身に着けることが、最初に行うべきトレーニングとしてきわめて重要である。
図2(d)は、脳波2の20秒間の時系列チャートの例である。チャートの左上にアルファ波とガンマ波の強度の数値がdB単位で表示されている。
目を開けた状態から目を閉じると、一般的に、ガンマ波は低下し、アルファ波は増加する。逆に、目を閉じた状態から目を開くと、ガンマ波は増大し、アルファ波は減少する。
上記のように閉じた目を開くとアルファ波が減少する現象は、脳波の臨床検査などでアルファ・ブロッキングと呼ばれる周知の現象である。
バイオフィードバックによるMCI治療の入門者は、まだアルファ波やガンマ波を意図的に増強させる瞑想の技能を持っていない。しかし、図2の最も簡単な視覚フィードバックを用いることにより、脳波が目の開閉や心理状態だけでなく、眼球や顔面の筋肉を動かすことで雑音信号(アーチファクト)が生じて脳波の波形が変化すること、つまり脳波読み取りの基礎知識を体験しながら学習できる。
さらに、瞑想技能を持たない入門者であっても、本発明に組み込んだ脳波誘導手段6によってMCIの治療に効果のあるアルファ波やガンマ波などの脳波2を僅かでも増強することができ、バイオフィードバックによる治療効果を実感することができる。
≪第2の発明事項の事例≫
以上で説明した実施例1の変形例は、「第2の発明事項」の実施形態の事例である。
すなわち、
前記静寂なフィードバック手段5は開眼時の視覚によるフィードバックであり、
前記脳波計測手段3を用いて姿勢Uおよび/または前記脳波2の数値データを計測するステップと、
前記脳波計測手段3で計測した数値データを演算して算出した前記評価値4が所定の値の範囲に入った場合には数値データを画像Gで出力するステップと
を含む。
なお、上記の画像Gとして、数値や画面の背景色や時系列チャートのほか、棒グラフ、円グラフあるいは顔グラフなどの各種の図形や動画、さらにはキャラクターが登場する動画など、数値を表現する多様な公知の表現形式を利用することができる。
以下の実施例2では、音声フィードバック手段80と静寂な音声7の多様な実施形態について詳細に説明する。
図1は比較的性能の低いスマートフォン20を用いた構成の例であり、図3は高性能なスマートフォン20を用いた構成の例である。図1や図3のいずれの構成でも、音声フィードバックの音量が大きすぎて瞑想中における意識集中の妨げにならぬよう、姿勢Uや脳波2が所定の好ましい状態(つまり演算した評価値4の数値が所定の範囲)であれば、音量を下げた静寂な音声7を用いて音声フィードバックする。
≪第3の発明事項の事例≫
なお、以下の実施例2で説明する内容は、第3の発明事項の事例である。すなわち、
前記静寂なフィードバック手段5は聴覚によるフィードバックであり、
前記脳波計測手段3を用いて姿勢Uおよび/または前記脳波2の数値データを計測するステップと、
前記脳波計測手段3で計測した数値データを演算して算出した前記評価値4が所定の値の範囲に入った場合には数値データを静寂な音声7で出力するステップと
を含む。
まず、図1の比較的性能の低いスマートフォン20を用いた構成では、スマートフォン20の処理性能不足を補う目的で、図1(b)に示すように音声フィードバック手段80のための信号処理機能を解析制御装置40に実装し、図1(b)のステレオイヤホン30を聴覚による音声フィードバックと音声による聴覚刺激とで兼用する構成を採用した。この場合、スマートフォン20は、簡易脳波計10から解析制御装置40への信号の中継装置として動作していた。
ちなみに図1(b)の構成を採用する場合には、視覚フィードバックの信号処理機能も解析制御装置40に実装し、解析制御装置40からスマートフォン20へ信号を戻して、スマートフォン20を視覚フィードバック手段70の表示装置として利用することが可能である。
次に、図3の高性能なスマートフォン20を用いた構成は、以下に詳細に述べる音声フィードバック手段80の信号処理機能を搭載可能な高性能スマートフォン20を利用する事例である。
つまり、対象1が簡易脳波計10を頭部に装着し、簡易脳波計10で計測した姿勢Uや脳波2などの定量的な数値データを解析する機能をスマートフォン20に組み込んで音声フィードバックの評価値4を算出し、数値データの状態や変化をステレオイヤホン30Rと30Lから音声フィードバックする事例を説明する。
もちろん、スマートフォン20を視覚によるフィードバックの表示画面としても利用して、視覚フィードバックと音声フィードバックを同時または選択的に実現できることはいうまでもない。視覚によるフィードバックの表示については、図2を参考にして設計変更するだけなので、ここでは説明を省略する。
図3の構成では、解析制御装置40には音声フィードバック手段80のための機能は不要であり、図3(b)に示すように、解析制御装置40は脳波誘導手段6として定常状態誘発電位のための各種の知覚刺激(視覚や聴覚や触覚の刺激)を発生させるアクチュエータを駆動する制御装置としての機能だけでよい。
なお、ステレオイヤホン30は音声フィードバック手段80として使用し、聴覚刺激の音声はスピーカー90から発生させることができる。
もし瞑想の上級者が本発明を利用する場合には、音声フィードバック中に聴覚刺激を付与しても、上級者は雑音を気にせずに瞑想に集中できる。その場合には、スピーカー90から聴覚刺激の音声を発するとともに、骨伝導ヘッドホンなどの周囲の物音が聞こえるタイプのステレオイヤホン30で音声フィードバックを行うことができる。
さらに瞑想の上級者の場合には、聴覚刺激を騒音(雑音)と感じないだけでなく、目を開けたままで心を集中させて瞑想状態になることも可能である。その場合には視覚、聴覚、触覚の3種類の知覚刺激を全て併用してMCIの治療を行うことも可能である。同様に、十分なトレーニングを積んで上達した上級者は目を開けて瞑想ができるので、視覚フィードバックを利用してもよいことはいうまでもない。
一方、瞑想の初心者の場合には、脳波誘導手段6の聴覚刺激を雑音と感じて集中力が低下する。おまけに目を閉じなければ瞑想状態になることができないので脳波誘導手段6の視覚刺激も利用できない。その場合には、脳波誘導手段6の触覚刺激としての振動アクチュエータ60だけを用いて、定常状態誘発電位の現象を利用した脳波を誘導することができる。
<音像定位の技術を利用した、数値の音声フィードバック>
図4(a)は頭部定位線13と音像11の位置の関係を説明する図である。
頭部定位線13とは、右耳のステレオイヤホン30Rと左側のステレオイヤホン30Lを結ぶ直線である。音像定位を利用して数値データを表現するには、例えば、数値データXの値が0のときには左耳の位置に音像11が現れ、数値データXの値が例えばプラス10のときには右耳の位置に音像11が現れるようにステレオイヤホン30R、30Lの音量に相当する出力音の振幅Ar、Alの比率を調整する。
図4(b)は上記の非特許文献8に記載された左右のイヤホンの音量調整の式である。両耳の中央に音像11が現れるときの数値Xは5に該当する。
なお、本発明に適用できる音像11の位置Xとステレオイヤホン30R、30Lの音の振幅Ar、Alの関係式は、設計上の必要に応じて音像11の所望の音像定位に利用できるものであれば置き替えることが可能であり、図4(b)の計算式に限定されない。
図4(c)は、音像11を発生させて数値Xを増減し、実際の体感を確認しながら音像11が移動したと感じた主観的な移動経路を描いた事例を示す。ただし、この音像11の位置と数値Xの対応関係は、知覚および認知機能に個人差があり、音像11が現れる位置の精度は必ずしも高くはない。
また、発明者本人が実験した限りにおいては、音像11が動く経路を音像移動線12で表現すると、前記文献が想定した頭部定位線13よりもわずかに正面前方を音像が移動するように感じた。
つまり、図4(c)の頭部定位線13に比べ、頭部よりもやや前方の音像移動線12の上を音像11が移動したように感じ、たとえば、扇型のアナログ式メータ表示、あるいは指針が左右に移動するアナログ式メータ表示の指針の動きのようなイメージを頭の中で描くことができた。
このように、アナログ式のメータの針の振れを連想させるように、頭部定位線13あるいは音像移動線12の上を移動する音像11の位置として音声で数値を表現することについては、従来の技術(特許文献2、特許文献3、非特許文献8)を組み合わせれば容易に思いつくことができる。
ところが、音像11の位置の分解能や再現性が低いため、上記の従来技術を組み合わせて数値を表現しただけでは、「基準値に対する数値の変化」を音像位置の動きから明確に感知することが難しい、という実用上の問題がある。
≪第4の発明事項の事例≫
以下の図5~図8では、姿勢Uに関する情報をフィードバックする第4の発明事項の事例を詳細に説明する。すなわち、
前記静寂なフィードバック手段5は聴覚によるフィードバックであり、
前記脳波計測手段3を用いて前記姿勢Uの数値データを計測するステップと、
計測した前記姿勢Uと姿勢基準値wとの偏差量pにもとづいて前記静寂な音声7の出力パラメータを算出するステップと、
前記静寂な音声7の出力を実行するステップと
を、含む。
この第4の発明事項は、前述の第3の発明事項において、特に姿勢Uの数値データを静寂な音声7で音声フィードバックする事例に関するものである。
<瞑想中の姿勢の傾きを警告する音声フィードバックの事例>
図5は瞑想の不調の原因になりがちな姿勢の傾きを警告する事例である。
図5(a)は前後傾斜角θと傾斜指標uの関係を示す図である。説明を簡単にするために、姿勢が直立している場合をθ=0とし、そのとき正面方向へ向けた簡易脳波計10のX軸が水平になるように装着するものとする。その場合、前方向に傾斜すると3軸加速度計のX軸には重力加速度のX軸方向成分として姿勢の前後傾斜角θの正弦(Sinθ)が検出される。そこでサンプリング時刻tnにおいて傾斜指標u(tn)=Sinθ(tn)として、前傾斜の時に傾斜指標uがマイナスの値になるように、以下ではθの極性を定義する。
図5(b)はサンプル時刻tnにおける傾斜指標u(tn)とその一次遅れで定義される姿勢の基準値wの関係を離散系の応答で表現した基準値w(tn)の計算式と図である。なお、定数Aは0と1の間の実数値である。時刻t0において対象1は前傾斜の姿勢をとっているものとし、傾斜指標uと姿勢の基準値wの初期値は等しいものとする。
最初の前傾姿勢から、姿勢を直立させたのち後方へ傾斜させ、時刻taで後傾斜を最大にする。次に、時刻tbで姿勢を再び直立に戻したのち、再び前方へわずかに傾斜させ、さらに直立に戻して時刻tc以降は概ね直立させ、その後も姿勢が安定するまで調整を繰り返す。
図5(b)では説明のため基準値はw=0に収束するように描いている。しかし、実際の瞑想では、傾斜指標uは直立状態を中心に若干の変動を続け、姿勢の基準値wは直立状態(w=0)に近い安定した姿勢に相当する数値に収束する。
なお、実用上の観点から、瞑想開始してから5分ないし10分程度の所定の時間が経過した時点で、瞑想時の姿勢が安定した頃合とみなし、姿勢の基準値wをその時の数値で固定することもできる。
実際には、瞑想を開始してから30分あるいは60分と経過するにつれ、姿勢が安定した基準値から少しづつ変化し続けて、ついには瞑想が不調になる場合がある。この現象を防止するためには、上記の「瞑想開始後、所定の時間が経過したら、姿勢の基準値wの数値を固定する」という設計も実用的である。
図5(c)は前後揺れ指標p=u-wを表す。時刻t0では傾斜指標uと基準値wは等しいと定義するので前後揺れ指標pは0である。前後揺れ指標pはこの図では時刻ta付近で最大値をとり、時刻tbとtcの付近ではほぼ0となる。
図5(d)は前後揺れ指標pの数値に応じて音像11の位置を動かす事例を示す。前後揺れ指標pが0の時には音像11は音像移動線12上で正面にあたる中央の位置にある。姿勢の直立状態が継続して基準値wが0に収束したのちに、姿勢が後傾斜すれば前後揺れ指標pの値はプラス(p>0)となり、音像11は右耳のステレオイヤホン30Rに近づくように音像移動線12の上を移動する。逆に姿勢が前傾斜すれば前後揺れ指標pの値はマイナス(p<0)となり、音像11は左耳のステレオイヤホン30Lに近づくように音像移動線12の上を移動する。
以上述べたように、簡易脳波計10に組み込んだ3軸加速度計の出力から重力方向成分を検出すれば傾斜計として使える。計測した傾斜角θに対する傾斜指標u=sin(θ)から図5(b)に示したサンプリング時刻ごとの一次遅れとしての基準値wを算出し、偏差量pに相当する前後揺れ指標p=u-wを算出して、音像定位を用いて数値を表示した。
これにより、直立周辺での前後傾斜の微小な変化の増減だけに注目し、基準値wと傾斜指標uの偏差量pとしての前後揺れ指標pを音像位置として表現することで、姿勢の傾斜の変化を明確に感知しやすく改善された。
以上の改良を行っても、瞑想している間は常に音像11の音が聞こえるため、瞑想の入門者や初心者にとっては気が散って深く瞑想することの妨げになる、という問題が未解決である。
そこで、対策として、瞑想が順調ならばフィードバック音声の音量を下げる静寂な音声7を用いる例を以下で説明する。
<瞑想を妨げない静寂な音声7による音声フィードバック>
図6は、瞑想中の姿勢の乱れを警告する手順のフローチャートを説明する図である。
図6(a)は、瞑想中に姿勢が直立して安定しているときに、音像11が気にならないように音量を下げてフィードバック音声を静寂にする態様を説明する図である。
図6(a)における初期化期間の意味を簡単に説明する。これは、実際の瞑想のテクニックにおいて、座禅の姿勢で座ったのち、眼を閉じて安定した瞑想状態に入るまでの最初の数分間(概ね1分ないし5分程度)は前後揺れの有無に関わらず音量を0に設定して音像11を消してもよい。これは、瞑想を開始する前に、姿勢の傾斜角θなどを意図的に変えて、瞑想を行いやすい適切な姿勢になるまで調整する時間が必要であることを考慮している。
図6(a)に図示した事例では、予め設定した長さの初期化期間(時刻ti)を過ぎるまでは音量をゼロに絞っており、その後も前後揺れ指標pが音像停止範囲±Sを超える時刻tsまで音量はゼロのままである。
もし瞑想中に集中力の低下や居眠りで姿勢が前後に大きく傾くと、前後揺れ指標pの絶対値がSからVに近づくほど音量は増大し、時刻tvで前後揺れ指標pの絶対値がVを超えると音量は最大値Maxで飽和する。
つまり、瞑想中に姿勢がほぼ直立していれば音像11の音量はゼロになる。また、姿勢が直立から所定値S以上に前後傾斜した場合は、小さな音量の音像11が現れ、姿勢が少し傾いたことを静かに警告することができる。
さらに、瞑想中に居眠りして姿勢が大きく傾くほど、より大きな音量の音像11が現れ、所定値V以上に前後傾斜した場合は、眼が覚めるほど大きな音量(最大値Max)で強く警告することもできる。
また、音像11として効果音を発生させる場合は、騒々しい鳥や犬の鳴き声などではなく、瞑想の妨害にならないと感じられる静寂な印象を与える種類の音を用いるとよい。例えば秋の夜のコオロギや鈴虫の声、あるいは禅寺の石庭を打つ雨音や小川の水音などの静寂さを感じさせる音を使うことも、望ましい設計例のひとつである。
図6(b)は、前後揺れ指標pと音像11の位置の関係を示す。前後揺れ指標pが-S<p<+Sの間なら音量をゼロにするので音像11は現れない。姿勢が前後に傾斜して、-V≦p≦-Sまたは+S≦p≦+Vの範囲では、pの絶対値がSに近ければ音像11の音量は0に近く、pの絶対値がVに近ければ音像11の音量はMaxに近い。さらに姿勢が前後に大きく傾斜して、pの絶対値がVを超えれば音像11の音量はMaxで飽和して音像の位置だけが右耳もしくは左耳の近くへ移動する。
図6(c)は、簡易脳波計10に搭載した3軸加速度計で計測した数値データ(重力加速度の情報を傾斜計のように利用する)を受信してフィードバック音声を表示する(または、発生する)フローチャートである。このフローチャートは、音声フィードバック手段80の計算処理を図3(b)のようにスマートフォン20に搭載する設計事例のフローチャートである。
ステップ1210では、簡易脳波計10で姿勢Uや脳波2など全ての数値データを計測して送信する。全ての数値データとは、簡易脳波計10で計測および解析された、送信可能な数値データである。
例えば、簡易脳波計10としての市販品のMUSE(登録商標)では、周波数帯ごとの脳波強度(dB)まで解析する機能が搭載されており、脳波電極で計測した脳波の生データ(電圧値)ならびに3軸加速度計と3軸角速度計の計測値に加え、周波数に応じてアルファ波などに分類した複数の周波数帯ごとの脳波の強度(dB値)も含まれる。
ステップ1220では、スマートフォン20で全ての数値データを受信する。この通信はBluetooth(登録商標)など、簡易脳波計10の機種ごとに最適な通信形式を使用する場合が多いが、代替としてWiFi(登録商標)や有線通信を含め公知の通信形式が利用できる。
なお、以前にも述べたとおり、本発明は図1(b)のように、音声フィードバック手段80の計算処理を解析制御装置40に搭載し、スマートフォン20は中継器として用いる設計事例に適用することもできる。その場合には、図6(c)のステップ1220は「スマートフォン20で受信した全ての数値データを中継して解析制御装置40へ転送し、解析制御装置40で全ての数値データを受信する」と読み替えて設計変更すればよい。この設計変更方法は、本発明の別のフローチャートでも同様である。
ステップ1230以降はスマートフォン20で計算処理を行う設計事例について説明する。ステップ1230では、受信した重力加速度の前後方向成分αxを用いる。図5(a)で説明したように、前傾斜のときに傾斜指標u=sinθがマイナスの数値になる方向に姿勢の前後傾斜角θを定義して傾斜指標uを算出する。(つまり、簡易脳波計10の座標系設計に応じて、例えばu=αxの場合とu=-αxの場合がある)
ステップ1240では、傾斜指標uから、図5(b)で説明した離散形で表現した一次遅れの応答を算出する数式を用いて姿勢の基準値wを算出する。
傾斜指標uの値がほぼ一定の値に収束した場合には、基準値wは収束後の傾斜指標uの平均値にほぼ等しい。一次遅れの代替にカルマンフィルタなどの予測手法や各種のディジタルフィルタも利用できる。
瞑想開始後に姿勢が安定すると、この基準値wは瞑想中の簡易脳波計10の前後傾斜の傾斜指標uの平均値とほぼ等しくなる。そのため、簡易脳波計10を頭部に装着するときに水平でなく、オフセットした角度で斜めに傾斜して装着している場合でも、瞑想中に姿勢が安定したときに傾斜指標uが収束する値に近い数値を基準値wで表すことができる。
ステップ1250では、傾斜指標uと基準値wから、図5(C)で説明したように前後揺れ指標pをp=u-wで算出する。
したがって、図5(b)と(c)に示すように、瞑想中に安定した姿勢がわずかに崩れて後傾斜すると前後揺れ指標pの値は0からプラスの値へ増加し、わずかに前傾斜すると前後揺れ指標pの値は0からマイナスの値へ減少する。
ステップ1260では、前後揺れ指標pから図6(b)に示す音像11の位置を算出する。
この事例では、p=0のときは顔の正面方向にあたる中央の位置に音像11を置くものとする。
この中央の位置は図4(a)のX=5の位置に等しい。前後揺れ指標pを表示する際の最大値をPとすると、音像11で表現する前後揺れ指標pがp=-Pになれば、左耳のステレオイヤホン30Lの位置に音像11が現れる。この左耳の30Lの音像位置は図4(a)のX=0の位置に等しい。同様に、前後揺れ指標pがp=+Pになればその音像位置は図4(a)のX=10の位置に等しい。
つまり、音像位置の数値はX=5×(p/P)+5で算出される。
ステップ1270では、前後揺れ指標pから音像の音量を算出する。
まず、音像定位を行うため、ステレオイヤホン30L、30Rの音量の左右バランスを算出する。つまり、図4(b)に記載した公知の式に上記の音像位置の数値Xを代入し、左右の音声の振幅Al、Arの比を算出する。
次に、静寂な音声7を作るため、左右共通のアンプ全体の音量を調整する。
図6(a)の事例では、時刻t0で瞑想を開始してから時刻tiまでは初期化期間として音量のボリウムを0に保ち、その後、初期化期間を終えると、傾斜に応じた音像が発生する。
初期化期間が終わった後も、前後揺れ指数pの絶対値|p|が音像停止範囲としてのSを超える時刻tsまでは音量0とする。前後揺れ指数pの絶対値|p|がS≦|p|≦Vの範囲になれば、|p|-Sの数値が増加するほど単調増加で音量のボリウムを上げる。さらに、|p|が数値Vを超えたら、左右両方の音量のボリウムを最大値MAXに設定する。
このように音像の音量を算出することにより、瞑想中に姿勢が安定している場合には音像の音量が小さくなるので、フィードバックの音声が静寂になる。
ステップ1280では、算出済みの左右バランスと音量のボリウム調整にもとづいて、右耳と左耳のステレオイヤホンから音像を作る音声を発する。なお、音像の種類は、雨音や水音などの静寂な印象を与える効果音に限らず、一定周波数の正弦波や矩形波などのような生成が容易で単調な音声であってもよい。
このステップ1280が終了したらステップ1210へ戻って以上のフローを繰り返す。
なお、姿勢Uとは、簡易脳波計10に組み込んだX,Y,Z軸方向の3軸の加速度計と角速度計などの姿勢センサで計測した数値である。なお、姿勢センサが角速度計の場合は基準値wとして一定値(例えばゼロ)を採用してもよい。また、これらのセンサの一部は設計上の都合で必要に応じて省略できる。
以上をまとめると、図6(c)のステップ1210は、簡易脳波計10で瞑想中の姿勢Uを計測するステップを含む。この実施例では一例として姿勢Uのうち3軸加速度計のX軸成分の数値データを計測する場合について説明した。
また、ステップ1220から1270までは、姿勢Uを姿勢基準値wとの偏差量pにもとづいて静寂な音声7の表示パラメータを算出するステップに該当する。すなわち、ステップ1220で3軸加速度計のX軸成分の数値データを得た後、ステップ1230で傾斜指標uを算出し、ステップ1240で姿勢基準値wとしての基準値wを算出した後、ステップ1250で偏差量pに相当する前後揺れ指標pを算出し、ステップ1260で音像位置を算出し、さらにステップ1270で音量を算出する。
さらに、ステップ1280は静寂な音声7の表示を実行する(つまり音声を発生させる)ステップに相当する。
なお、右耳と左耳のステレオイヤホン30に替えてステレオヘッドホンを使用し、あるいは2台のステレオ用スピーカーを左右方向に配置しても左右に移動する音像を表示できる。また、2台のステレオ用スピーカーを前後方向に配置すれば、前後に移動する音像を表示できる。
<実施例2の変形例1>
図7は、実施例2の変形例1を説明する。この例では、基準位置における音声の周波数を442Hzとし、姿勢が前方へ傾斜したら周波数を低くし、後方へ傾いたら周波数を高くする。
図7(a)は瞑想中の姿勢の基準位置と音像の周波数の関係を表す。この図では、簡易脳波計10を頭部の正面側が上向きに傾いた状態で装着している。この基準の姿勢で長時間にわたって安定した瞑想を続けていれば、この基準の姿勢に傾斜指標uと基準値wが収束するので、前後揺れ指数p=u-wはp=0となる。その基準姿勢よりも後に傾斜すればp>0となり、例えばFh=884Hzの周波数で音像を発生させる。一方、その基準姿勢よりも前に傾斜すればp<0となり、例えばFl=221Hzの周波数で音像を発生させる。
図7(b)は音像の位置と周波数を示す。この図ではp>0で音像11が中央よりも右耳の30Rに近い位置にあって周波数はFh=884Hz、p<0で音像11が中央よりも左耳の30Lに近い位置にあって周波数はFl=221Hzである。
図7(c)は前後揺れ指数pと音量ボリウムの関係を示す。この図では、前後揺れ指数pの絶対値|p|が|p|≦Sならば音量ボリウムを0としている。あるいは、わずかに0を超える値に音量ボリウムを設定し、中央のp=0の基準位置での周波数を、例えばFhとFlの音階の中間にあたるF0=442Hzで発生させてもよい。
この音の音量が小さくて静寂に聞こえるときには前後揺れ指数pが0に近く、収束した基準位置から姿勢が大きく傾いていないことを表す。つまり静寂な音声7を用いて「瞑想中の姿勢が安定している」ということを明示的に知らせることができる。
姿勢が前後に傾斜し始めて前後揺れ指数pが変化すれば、該当する音像の位置を得るために、実施例2で説明した方法と同様に、左右の音声の振幅Al、Arを算出する。
そのうえで、音量のボリウムの設定として、前後揺れ指数pの絶対値|p|がS≦|p|≦Vの範囲なら|p|-Sの数値が増加するほど音量のボリウムを上げる。|p|が数値Vを超えたら、左右両方の音量のボリウムを最大値MAXに設定する。
このようにして、瞑想中の姿勢が安定していれば音像の音量が静寂になることは実施例2の図6と同じである。
図7(d)は音像の位置に応じて周波数ではなく音像の種類を変える事例を示す。つまり、長時間にわたって安定した姿勢で瞑想を続けていれば、その姿勢が基準となって前後揺れ指数pは0となる。基準位置p=0で中央の位置での音像11は無音とする。その基準姿勢よりも後に傾斜すればp>0となり、例えばセミの声で音像11を発生させる。一方、その基準姿勢よりも前に傾斜すればp<0となり、例えばコオロギの声で音像11を発生させる。左右の音量は図7(c)の説明と同じである。
これにより、瞑想中の姿勢が安定していれば音像の音量が静寂になることは実施例2と同じである。また、図7(d)の音像の種類そのものも静寂な印象を与えるため、姿勢が僅かに傾いて音像の音が発生しても、瞑想の妨げになりにくい利点がある。
図8は、実施例2の変形例1のフローチャートを示す。この変形例1の原型となる実施例2のフローチャートは図6(c)で説明したが、そのステップ1280だけをステップ1480に入れ替えて変形したものである。
すなわち、ステップ1480では、前後揺れ指数pの値にもとづいて図7(b)もしくは図7(d)およびその説明に示したように音像11の種類を選択し、音声を発する。
ステップ1480が終了すれば、ステップ1210に戻り、このフローチャートを繰り返す。
以上をまとめると、図8のステップ1210は、簡易脳波計10で瞑想中の姿勢Uを計測するステップを含む。この実施例では一例として姿勢Uのうち3軸加速度計のX軸成分の数値データを計測する場合について説明したが、姿勢Uの他の数値データも音声表示できる。
また、ステップ1220から1270までは姿勢Uを姿勢基準値wとの偏差量pにもとづいて静寂な音声7の表示パラメータを算出するステップに該当する。すなわち、ステップ1220で3軸加速度計のX軸成分の数値データを得た後、ステップ1230で傾斜指標u、ステップ1240で姿勢基準値wに相当する基準値wを算出した後、ステップ1250で偏差量pに相当する前後揺れ指標pを算出し、ステップ1260で音像位置を算出し、さらにステップ1270で音量を算出する。
さらに、ステップ1480は音声を発するステップに相当する。音像の種類を選択し、右耳と左耳のステレオイヤホンから音像を作る音声を発する。
≪第5の発明事項の事例≫
以下の図9~図13では、脳波2に関する情報を音声でフィードバックする第5の発明事項の事例を詳細に説明する。すなわち、
前記静寂なフィードバック手段5は聴覚によるフィードバックであり、
前記脳波計測手段3を用いて前記脳波2の数値データを計測するステップと、
計測した前記脳波2から脳波周波数帯8ごとの脳波の強度Pwを算出するステップと、
前記脳波周波数帯8ごとの前記強度Pwと強度基準値Sgとの偏差量Δpwにもとづいて前記静寂な音声7の出力パラメータを算出するステップと、
前記静寂な音声7の出力を実行するステップと
を、含む
<実施例2の変形例2>
図9は実施例2の変形例2を説明する図である。変形例2では、簡易脳波計10で計測した脳波2に基づいて、周波数帯8ごとのアルファ波やガンマ波などの脳波の強さの数値を出力するにあたり、目標値を予め設定する態様を説明する。
周波数帯8ごとのアルファ波やガンマ波などの脳波の強さの数値を算出する機能は当業者には周知であり、簡易脳波計10に組み込んでもよいし、図3(b)のスマートフォン20もしくは図1(b)の解析制御装置40に組み込んでもよい。
以下では簡易脳波計10として市販品のMUSE(登録商標)を使用し、簡易脳波計10で脳波を計測するとともにガンマ波の強さ(dB表示)の数値まで算出したうえで簡易脳波計10から送信する事例について説明する。
図9(a)は瞑想時のガンマ波の強さを表す強度Pwとその目標値Tgの例を示す。瞑想時における一般的な傾向として、眼を閉じて瞑想を開始した時刻t0から急激にガンマ波の強度Pwは低下し、眼を閉じている期間中の時刻t1から瞑想終了の時刻teまで、ガンマ波の強度Pwは低い値である。時刻teで瞑想を終了して眼を開けると、ガンマ波の強度Pwは急激に高い値に戻る。
この変形例2では、ガンマ波の強度Pwの目標値Tgは瞑想開始前に予め一定の数値を設定しておくものとする。
図9(b)は瞑想時のガンマ波の目標強度偏差Δpwを示す図で、Δpw=Pw-Tgの関係がある。Δpwの絶対値の最大値をPで表せば、この事例では音量調整の範囲±Vは±Pと等しくなるように設定している。この例では仮にS=3[dB]、P=V=40[dB]として説明を続ける。
図9(c)は目標強度偏差Δpwごとの音量ボリウムの設定を示す。この例では、Δpwが±Sの間の値なら音像の音量を0にする。そして、絶対値|Δpw|がS≦|Δpw|≦Vの範囲なら|Δpw|-Sの数値が増加するほど音量のボリウムを上げる。
なお目標強度偏差の絶対値|Δpw|が|Δpw|≦Sの範囲のときに、音量ボリウムをゼロにせず、僅かな音量で鳴動させることで、ガンマ波の強度Pwが目標値に近いことを明示的に示すこともできる。
これにより、ガンマ波の強度Pwが予め設定した目標値Tgに近ければ、僅かな音量の静寂な音像11で瞑想できる。
図9(d)は目標強度偏差Δpwと、音像11の周波数および位置との対応関係の例を示す。
この例では、ガンマ波の強度Pwが予め設定した目標値Tgよりも大きく目標強度偏差Δpw>0であれば、目標強度偏差Δpwが大きくなるにつれて、音像11はFh=884Hzで鳴動しながら音像移動線12に沿って中央から右耳30Rまで移動する。目標強度偏差Δpw=P(=V)のとき右耳30Rに近い位置に音像11が現れる。
ガンマ波の強度Pwが予め設定した目標値Tgよりも小さく目標強度偏差Δpw<0であれば、ガンマ波の強度Pwが小さくなるにつれて、音像11はFl=221Hzで鳴動しながら音像移動線12に沿って中央から左耳30Lまで移動する。この例では、目標強度偏差Δpw=-P(=-V)のとき左耳30Lに近い位置に音像11が現れる。
ガンマ波の強度Pwが予め設定した目標値Tgに極めて近く目標強度偏差Δpwの絶対値が|Δpw|≦Sの範囲では前述のように音量ボリウムをゼロにせず僅かな音量で鳴動させることもできる。その場合には、例えば、Fh(884Hz)とFl(221Hz)の中央の音階の周波数(442Hz)を小さな音量で鳴動させることもできる。
上記では音像の目標強度偏差Δpwの正負などに応じて音像の周波数を切り替える事例を説明したが、これは図7(b)の態様と同様である。同様に、図7(d)の態様を組み合わせれば、音像の目標強度偏差Δpwの正負などに応じて音像の種類を切り替えるように設計変更することができる。なお、音像の目標強度偏差Δpwの数値にかかわらず一定の周波数の音像、あるいは同一の種類の音像を使うように設計変更できるのはいうまでもない。
図10は実施例2の変形例2のフローチャートを示す。
図10(a)は、目標強度偏差Δpwと音像位置Xの関係を示す図であり、中央の音像位置でのX=5は目標強度偏差Δpw=0に相当し、左耳の30Lの位置でのX=0はΔpw=-Pに相当し、右耳の30Rの位置でのX=10はΔpw=Pに相当する。なおPは目標強度偏差Δpwの絶対値の最大値である。したがって目標強度偏差Δpwと音像位置Xの間には、X=5×(Δpw/P)+5の関係があり、この音像位置Xを図4(b)の式に代入すると、ステレオイヤホン30L、30Rの音量の比率としての振幅Al:Arが求まる。
図10(b)は実施例2の変形例2のフローチャートである。
ステップ1610では、スマートフォン20を操作して瞑想時のガンマ波の目標値Tgを設定する。
ステップ1620では、簡易脳波計10で脳波を含む全ての数値データを計測して送信し、ステップ1630では全ての数値データを受信する。この事例では、前述のとおり、簡易脳波計10として市販品のMUSE(登録商標)を使用しているため、送受信された数値データにはガンマ波の強度Pwが含まれる。
ステップ1640では、受信した数値データからガンマ波の強度Pw(dB単位)を抽出する。
ステップ1650では、ガンマ波の強度Pw[dB]と目標値Tg[dB]から目標強度偏差Δpw[dB]をΔpw=Pw-Tgで算出する。
ステップ1660では、目標強度偏差Δpwから音像位置Xを図10(a)の説明文に記載した関係式を用いて算出し、さらに図4(b)の関係式などを用いてステレオイヤホン30L、30Rの音量の比率としての振幅Al:Arを算出する。
ステップ1670では、目標強度偏差Δpwから音像の音量を図9(c)の音量ボリウムの設定方法の説明を参考にして決定する。
ステップ1680では、音像位置Xと音量の設定にもとづいて右耳と左耳のステレオイヤホンから音像を作る音声を発する。
なお音像の種類は、図9(d)と同様にΔpw>0ならば高い周波数(884Hz)、Δpw<0ならば低い周波数(221Hz)の音源を選択して音を発生する。
|Δpw|≦Sのときには音量をゼロにして無音を設定してもよいが、もし明示的に僅かに音を発生させるように設計したければ、|Δpw|≦Sのときには中間的な周波数(442Hzなど)の音源を選択して音を発生するように設計することもできる。
ステップ1680が終了したら、ステップ1620へ戻って動作を繰り返す。
なお周波数帯ごとの脳波の強度Pwとは、脳波をアルファ波α、ベータ波β、ガンマ波γ、デルタ波δ、シータ波θの5種類の周波数帯に分け、FFTなどの数学的な手法によりリアルタイムで周波数分析し、それぞれの信号の周波数帯域に含まれる波形のエネルギーにもとづいて強度の数値の時間的な変化を算出する手法などが医療用脳波計や簡易脳波計の分野の当業者には周知である。
脳波の強度Pwを算出する工程は、簡易脳波計10に搭載したコンピュータチップの性能とコストの配分などの設計の都合上、周波数分析の演算機能を簡易脳波計10に搭載したほうが量産コストなどの観点で都合が良い場合もある。その場合には、ステップ1620で周波数帯ごとの脳波の強度Pwまで算出したうえでスマートフォン20へ送信するから、ステップ1640は受信したデータに含まれている周波数帯ごとの脳波の強度Pwのデータの数値を選び出すだけの処理を行う。
図10(b)の例では、脳波の強度Pwを算出する工程をスマートフォン20に搭載している。
この事例では、ステップ1620では簡易脳波計10で採取した脳波の生データを送信し、ステップ1630では生データをスマートフォン20で受信する。そして、ステップ1640は生データを周波数分析して周波数帯ごとの脳波の強度Pwを演算して算出する工程となる。
つまり、ステップ1640では、ガンマ波など前述の5種類の周波数帯に限らず、アルファ波を10Hz以上のハイ・アルファ波もしくは10Hz未満のロー・アルファ波に細分化して強度を算出するなど、注目する周波数帯の上限と下限の周波数を自由に設定し、注目する周波数帯における強度Pwを算出するなどの設計の自由度がある。つまり、MCI治療の必要に応じて周波数帯を自由に定義して、周波数分析にもとづく強度Pwを求めることができる。
あるいは計算量の多い周波数分析の手法ではなく、MCI治療の必要に応じて注目する周波数帯の周波数成分を抽出する軽量なディジタルフィルタを採用し、ディジタルフィルタを透過した脳波の強度(dB単位)を算出してもよい。
図10(b)のステップ1650から1670は、注目する周波数帯の脳波の強度Pwと強度目標値Tgとの偏差量Δpwにもとづいて静寂な音声7の表示パラメータを算出するステップに相当する。すなわち、偏差量Δpwに相当する目標強度偏差Δpwの数値を、ガンマ波の強度Pwと目標値TgからΔpw=Pw-Tgで算出する。ステップ1660で静寂な音声7の表示パラメータとしての音像位置に対応するXの値を算出し、ステップ1670で静寂な音声7の表示パラメータとしての音像の音量を算出する。
図10(b)のステップ1680は、前記静寂な音声7の表示を実行するステップに相当する。すなわち、静寂な音声7の表示パラメータとしての音像位置と音量にもとづいて右耳と左耳のステレオイヤホンから音像11を作る音声を発する。
<実施例2の変形例3>
図11は実施例2の変形例3を説明する図である。
この変形例3は、簡易脳波計10で計測したガンマ波などの脳波の強さの数値を出力するにあたり、目標値Tgを設定するとともに、目標値Tgからの偏差Δpwごとに音像11の音の周波数Fを割り当てる事例である。
図11(a)は瞑想時のガンマ波の強度Pwと目標値Tgの一例を示す。
図11(b)は瞑想時のガンマ波の目標強度偏差Δpwを示す図で、±Sは音像停止範囲、±Vは音量調整範囲を示し、音像11で表現する目標強度偏差Δpwの絶対値の最大値をPで表している。この事例では音量調整範囲±Vは最大値±Pの半分に設定しており、仮にS=3[dB]、V=20[dB]、P=40[dB]として説明する。
図11(c)は目標強度偏差Δpwごとの音量ボリウムの設定を示す。ガンマ波の強度Pwが目標値Tgに等しければ目標強度偏差Δpw=0となり、音量ボリウムは0となる。
絶対値|Δpw|がS≦|Δpw|≦Vの範囲なら|Δpw|-Sの数値が増加するほど音量のボリウムを上げ、ボリウムの最大値はMaxに設定する。
図11(c)では、目標強度偏差の絶対値|Δpw|が|Δpw|≦Sの範囲では音量ボリウムをゼロにしている。なお、音量ボリウムをゼロにせず、僅かな音量で鳴動させることで、ガンマ波の強度Pwが目標値に近いことを明示的に示すように設計することもできる。
これにより、ガンマ波の強度Pwが予め設定した目標値Tgに近ければ静寂な音声で瞑想を継続できる。
図11(d)は目標強度偏差Δpwと、音像11の周波数と位置の例を示す。
この例では、ガンマ波の強度Pwが予め設定した目標値Tgよりも大きく目標強度偏差Δpw>0であれば、目標強度偏差Δpwの絶対値|Δpw|が大きくなるにつれて、音像11は鳴動しながら音像移動線12に沿って中央から右耳30Rまで移動する。この例では、目標強度偏差Δpw=Pのとき右耳30Rの位置にF10=884Hzの音像11が現れる。
ガンマ波の強度Pwが予め設定した目標値Tgよりも小さく目標強度偏差Δpw<0であれば、ガンマ波の強度Pwが小さくなるにつれて、音像11は鳴動しながら音像移動線12に沿って中央から左耳30Lまで移動する。この例では、目標強度偏差Δpw=-Pのとき左耳30Lの位置にF0=221Hzの音像11が現れる。
図11(c)では、ガンマ波の強度Pwが予め設定した目標値Tgに極めて近い目標強度偏差Δpwの絶対値が|Δpw|≦Sの範囲では音量ボリウムをゼロにしたが、僅かな音量で鳴動させておくこともできる。
さらにこの例では、音像11が音像移動線上を左耳30Lから右耳30Rへ移動してゆくにつれ、目標強度偏差Δpwの値に応じて予め定めた区間ごとに周波数を切り替えつつ音像11が移動する。
たとえば、11個の周波数を切り替えるとして、左耳30LではF0=221Hz、中央ではF5=442Hz、右耳30Rでは884Hzとすれば、音像11が移動するたびに切り替わる音像の音の周波数をF0<F1<F2<F3<F4<F5<F6<F7<F8<F9<F10のように目標強度偏差Δpwに応じて周波数を単調増加させれば、音像位置の移動方向を簡単に識別できるので望ましい。
図12は実施例2の変形例3のフローチャートである。
図12(a)は音像11の位置と周波数の関係を示す図である。目標強度偏差Δpwが表示範囲の下限である-Pから上限である+Pまで増加するにつれて、音像11の音の周波数を目標強度偏差Δpwに応じて11区間の単調増加に設定した。周波数の区間の数を多くして細分化すれば目標強度偏差Δpwの変化を感覚的に把握しやすいが、スマートフォン20にプログラムを実装する際の音源切り替え時間やメモリ消費量などの性能上の負担が増大することも考慮して、いくつの区間に分けるかを設計する。
周波数を区分する際に、周波数を等分割するのではなく、音階を目安にして分割してもよい。
図12(b)のフローチャートは、ステップ1610からステップ1670までは図10(b)と同じだが、ステップ1880はステップ1680で音源11の音の周波数を選択する際に、図12(a)に示す目標強度偏差Δpwに応じて所定の区間に該当する指定した周波数を適用することが、この変形例3の特徴である。
この実施例2の変形例3のステップ1880は、図12(a)に関して説明したように有限個に分割した音像位置に応じて段階的に音像の周波数を変更している。
しかし、もしスマートフォン20の処理負荷に支障が無ければ、目標強度偏差Δpwに応じて周波数を段階的に区間に分けるのではなく、目標強度偏差Δpwに応じてほぼ連続的に周波数を変えてもよい。
このフローチャートを簡単にまとめると、図12(b)のステップ1620は前記簡易脳波計10で瞑想中の前記脳波を計測するステップである。またステップ1620からステップ1640が計測した前記脳波を前記周波数帯ごとの脳波の強度Pwに分析するステップに相当し、ステップ1650からステップ1670までが前記周波数帯ごとの脳波の強度Pwと強度目標値Tgとの偏差量Δpwに相当する目標強度偏差Δpwにもとづいて静寂な音声7の表示パラメータを算出するステップに相当する。これについては図10(b)に関して既に詳細に説明した。
さらにステップ1880は静寂な音声7の表示を実行するステップに相当する。
<実施例2の変形例4>
図13は、実施例2の変形例4の説明とフローチャートであり、数値を表す複数の音像11を左右のイヤホンを用いて利用者に聞かせる態様である。
図13(a)は、瞑想中の複数種類の脳波の強度Pw(dB)の時間的変化を表す事例である。脳波としてはアルファ波α、ベータ波β、ガンマ波γ、デルタ波δ、シータ波θの5種類の数値の時間的な変化を例示している。
この事例では、説明を簡単にするため、この5種類ごとの脳波の強度Pwの目標値を共通にTg[dB]とし、音量ボリウムを最小まで絞る音像停止範囲±Sの数値も共通とした。この図13(a)の事例では、ベータ波β、デルタ波δ、シータ波θの3種類の脳波は音像停止範囲±Sに収まるので音像が停止されて音が聞こえず、この範囲の外にあるアルファ波αとガンマ波γの2種類の脳波の強度の数値だけが音像として耳に聞こえることになる。
図13(b)と(c)は目標強度偏差Δpwの数値と音量ボリウムの調整の例を示す。図13(b)は目標強度偏差Δpwの絶対値が音像停止範囲±S1を超えた値に対して、Δpwが正負の最大値±P1に到達するまで音量を単純増加で上昇させる事例である。
図13(c)は目標強度偏差Δpwの絶対値が音像停止範囲±S2を超えて音量調整範囲±V2に至るまでは単純増加で音量を上昇させ、それ以上増加しても音量を最大値のMAXに維持する事例である。
5種類の脳波ごとに図13(b)や図13(c)を参考に多様な音量ボリウム調整のパターンを設定することもできる。さらに、脳波の強度Pwの目標値Tg、音像停止範囲±S、音量調整範囲±V、最大値±P、音量ボリウムの最小値や最大値MAXを5種類の脳波ごとに個別に設定することもできる。なお、図13(d)の事例では、説明を簡単にするため、これらの数値の設定はすべて5種類の脳波の間で共通の設定とした。
さらに5種類のそれぞれの脳波について、音像として音を出すか、あるいは音を出さないかを個別に選択できるようにしてもよい。
図13(d)は複数の脳波の強度を音像位置で表現する事例である。5種類の脳波ごとに音像として発生する周波数をそれぞれ異なる数値に設定した。図(a)に示した瞑想中にベータ波β、デルタ波δ、シータ波θの3種類の脳波が音像停止範囲±Sに収まる期間中は、この範囲の外にあるアルファ波αとガンマ波γの2種類の脳波の強度の数値だけが音像として耳に聞こえている。
例えば、図13(a)の中央付近の時刻において、アルファ波αの音像には884Hz、ガンマ波γの音像には221Hzが設定済みであるとする。その場合、図13(d)に現れるそれぞれの音像の位置は、中央よりも右耳寄りに目標強度偏差Δpw>0(音像位置X>5)のアルファ波αの音像が周波数884Hzで現れる。また、中央よりも左耳寄りに目標強度偏差Δpw<0(音像位置X<5)のガンマ波γの音像が221Hzで現れる。
このように、5種類の脳波ごとに音像11を表現する音の周波数を別々に設定すれば、複数の脳波の強度の数値を音像位置で表現できる。また、個々の脳波の種類ごとに目標値Tgを設定すれば、個々の脳波がそれぞれの目標値の近くにある場合には全ての音像が消えるので、静寂な状態で瞑想の訓練をすることができる。
図13(e)は複数の脳波の強度を音像位置で表現するフローチャートを示す。このフローチャートは図10(b)に似ているが、全ての変数、定数あるいは係数などに多次元ベクトルを用いて記載している。
なお、これらの数値を表すベクトルの次元は、脳波の種類の数に応じて設定することができるので、5種類の脳波(アルファ波α、ベータ波β、ガンマ波γ、デルタ波δ、シータ波θ)ごとに関連する数値を表す5つの要素をもつ5次元ベクトルで表現できる。
以下の説明では、例えば、ベクトルAの要素はA=[Aα、Aβ、Aγ、Aδ、Aθ]で表現する。
具体的に説明すると、ステップ1910は、スマートフォン20を操作して瞑想時の脳波の強度である5次元ベクトルPw=[Pwα、Pwβ、Pwγ、Pwδ、Pwθ]の目標値である5次元ベクトルTg=[Tgα、Tgβ、Tgγ、Tgδ、Tgθ]を設定する。
以下では、図13(a)を参照した説明を簡単にするため、5つの目標値の要素の数値は同じ値Tgα=Tgβ=Tgγ=Tgδ=Tgθに設定すると仮定とする。
ステップ1920では簡易脳波計10で脳波を含む全ての数値データを計測して送信し、ステップ1930ではスマートフォン20で全ての数値データを受信する。
ステップ1940では受信した数値データから5種類の脳波の強度Pw=[Pwα、Pwβ、Pwγ、Pwδ、Pwθ]をdB単位で抽出する。
ステップ1950では5種類の脳波の目標強度偏差Δpw=[Δpwα、Δpwβ、Δpwγ、Δpwδ、Δpwθ]をΔpw=Pw-Tgにより、要素ごとのベクトル演算により算出する。
ステップ1960では5種類の音像位置X=[Xα、Xβ、Xγ、Xδ、Xθ]を上記の目標強度偏差Δpwと最大値P=[Pα、Pβ、Pγ、Pδ、Pθ]から、要素ごとのベクトル演算X=5×(Δpw/P)+5によって算出する。なお、この事例では5種類の脳波の最大値を同じ値に設定するのでPα=Pβ=Pγ=Pδ=Pθである。
この音像位置Xの5次元ベクトルの要素ごとに図4(b)の式に代入すると、ステレオイヤホン30L、30Rの音量の比率としての振幅Al:Arの5次元ベクトルが求まる。
すなわち、Al=[Alα、Alβ、Alγ、Alδ、Alθ]であり、Ar=[Arα、Arβ、Arγ、Arδ、Arθ]である。
ステップ1970では5種類の脳波の目標強度偏差Δpw=[Δpwα、Δpwβ、Δpwγ、Δpwδ、Δpwθ]の音像停止範囲S=[Sα、Sβ、Sγ、Sδ、Sθ]、音量調整範囲V=[Vα、Vβ、Vγ、Vδ、Vθ]、および前述の最大値Pからなるそれぞれ5次元のベクトルを、5種類の脳波ごとに図(b)または図(c)にもとづいて音量ボリウムを設定する。なお、この事例では5種類の脳波の音量ボリウムを図13(b)に従って設定するうえ、最大値も同じ数値に設定するのでPα=Pβ=Pγ=Pδ=Pθ=Vα=Vβ=Vγ=Vδ=Vθであるとともに、Sα=Sβ=Sγ=Sδ=Sθである。
ステップ1980では、音源位置と音量にもとづいて右耳と左耳のステレオイヤホン30から音像の音声を発する。5種類の脳波の強度の数値を表す音像の周波数をF=[Fα、Fβ、Fγ、Fδ、Fθ]としてそれぞれ異なる周波数を設定する。例えば図(d)では、アルファ波の音像の周波数をFα=884Hz、ガンマ波の音像の周波数をFγ=221Hzに設定しておけば、図13(a)の中央付近の時刻では、この2つの音像の音が左右の耳に聞こえる。
このステップを終了すると、ステップ1920に戻ってフローチャートの動作を繰り返す。
以上をまとめると、図13(e)のステップ1920では簡易脳波計10で脳波を計測する。ステップ1920からステップ1940の間で周波数帯ごとの脳波の強度Pwの数値を得る。さらに、ステップ1950からステップ1970までに周波数帯ごとの脳波の強度Pwと目標値Tgとの偏差量に相当する目標強度偏差Δpwにもとづいて静寂な音声7の表示パラメータを算出し、最後のステップ1980で前記静寂な音声7の表示を実行する。
以上、実施例2とその変形例について具体的に実施態様を説明したが、これらは、それぞれの実施態様への適用に限定されるものではなく、設計上の要素としてそれぞれの要素を組み合わせて利用できる。
<補足説明1:姿勢Uおよび脳波2を同時にフィードバックする設計例>
設計上の要素としてそれぞれの要素を組み合わせて利用できることを示すため、簡単な設計例を用いて以下に補足説明する。
図5から図8では姿勢Uを音声フィードバックする事例を説明し、図9から図13では脳波2を音声フィードバックする事例を説明した。特に、図13では5種類の脳波(アルファ波α、ベータ波β、ガンマ波γ、デルタ波δ、シータ波θ)ごとに関連する数値を表す5つの要素をもつ5次元ベクトルで表現できることを説明した。
そこで、設計例として、1つの姿勢Uおよび2つの脳波2として計測した3つの数値を同時にフィードバックする事例を説明する。
また、前述の実施例2や変形例では音像定位を利用して説明したが、ここではあえて音像定位を用いずに音量調整だけで音声フィードバックする事例を説明する。この設計例では音像定位のためにステレオ音源を使用する必要が無く、音源としてモノラルのスピーカーを使用してもよい。
なお、前述の実施例や変形例などと同様に、音像定位を用いて数値データごとに音声フィードバックを構成するように設計できることはいうまでもない。
この設計例を説明するにあたり、最初に、姿勢と脳波のセンサで計測した数値データを演算した評価値4について、2種類の脳波(アルファ波α、ガンマ波γ)の強度PwαとPwγ、および1種類の加速度(X軸方向成分)に対応した傾斜指標uとを用いた3次元ベクトル[Pwα、Pwγ、u]で表現するものとする。
2番目に、姿勢と脳波の基準値は、脳波の強度の基準値として設定するTgαとTgγ、および図5(b)の式で傾斜指標uから算出する姿勢基準値wとを用いた3次元ベクトル[Tgα、Tgγ、w]で表現する。
3番目に、姿勢と脳波の偏差値は、脳波の強度の偏差値Δpwα=Pwα-TgαとΔpwγ=Pwγ-Tgγ、および姿勢の偏差量p=u-Wとを用いた3次元ベクトル[Δpwα、Δpwγ、p]で表現する。
4番目に、この3次元ベクトルで表現された数値データが所定の値の範囲に入った場合に静寂な音声7で表現するために、アルファ波とガンマ波と傾斜の3つのデータに対応して最大値P=[Pα,Pγ,P]、音像停止範囲S=[Sα,Sγ,S]、音量調整範囲V=[Vα,Vγ,V]とする。この事例では音像定位を使用していないので、ステレオ音声の左右の音量バランスは音の振幅Ar:Al=1:1と左右を等しくし、あるいはモノラル音声を利用することができる。そのうえで、これらの所定の範囲の設定にもとづいて、3つの音声ごとに音量のボリウムは図13(b)または(c)に準じて算出する。
5番目に、上記で算出された音量のボリウムにもとづいて3つの音声を発生させるにあたり、例えばアルファ波の音声は884Hz、ガンマ波の音声は221Hzを用いる。また、傾斜の偏差の正負を表現するために、例えば、前方への傾斜ならコオロギの声、後方への傾斜なら雨音などを使うこともできる。
このように、本発明の実施例で説明したそれぞれの設計上の要素を組み合わせることで、脳波と姿勢からなる3つの数値に対応して、音像定位なしの音量のボリウム調整だけで、静寂な音声7を用いて音声フィードバックすることができる。
フローチャートについては、5つのデータに対応した図13と、姿勢Uに対応した図5から図8と、脳波2に対応した図9から図13をそれぞれ設計の要素として組み合わせればよい。なお前述の通り、モノラルのスピーカーを使えるこの設計例では音像定位は使わないので、左右の音量バランスは常に振幅Ar:Al=1:1と左右を等しく設定すればよい。
この設計例は、音声フィードバックの音源としてモノラルのスピーカーでも利用でき、ステレオイヤホンが不要なので、身軽に瞑想できて便利である。一方、音像定位を使用しないため、脳波強度の偏差の正負を音像位置で表現できず、慣れるまでやや使いにくく感じるかもしれない。
しかし、実際にこの設計例を製作して使ってみると、発明者の場合には意外に早く慣れてしまい不便は感じなかった。また、姿勢と脳波を同時に音声フィードバックすることで、姿勢の乱れによって脳波の安定が崩れる現象を明確に認識できるようになるので、瞑想のトレーニングにおける姿勢を安定させることの重要性をより深く認識できるメリットがあった。
≪補足説明2:バイオフィードバック装置としての発明事項の見直し≫
本発明は、バイオフィードバックを用いたMCI治療法に習熟するための瞑想技能のトレーニング手段として、静寂な音声7を用いた音声フィードバックの手段を提供することにも大きな特徴がある。以下ではこれを、静寂なバイオフィードバック装置9と呼ぶ。
また、瞑想技能をトレーニングすることの効果は、MCIに罹患した患者の治療のみならず、健常な高齢者がMCIに罹患せぬように日常のストレスを低下させる予防効果がある。さらには瞑想技能に習熟していれば、MCIの初期症状による認知機能の低下や混乱した状態を早期発見することができ、早期治療が可能になる効果もある。
そこで、本発明における静寂なバイオフィードバック装置9そのものを装置発明として扱うために、既出の第3~第5の発明事項を方法発明から装置発明の表現に書き改めて追記する。ちなみに、それぞれの装置発明としての実施例は既に記載したものと同様である。
<第3の発明事項(装置発明への表現変更)>
聴覚によるバイオフィードバックを行う静寂なバイオフィードバック装置9は、
姿勢Uおよび/または脳波2の数値データを計測する脳波計測手段3と、
前記脳波計測手段3で計測した数値データを演算して算出した評価値4が所定の値の範囲に入った場合には数値データを静寂な音声7で出力する演算出力手段と
を備えたことを特徴とする、バイオフィードバック装置。
<第4の発明事項(装置発明への表現変更)>
前記静寂なバイオフィードバック装置9は、
前記姿勢Uの数値データを計測する前記脳波計測手段3と、
計測した前記姿勢Uと姿勢基準値wとの偏差量pにもとづいて前記静寂な音声7の出力パラメータを算出する第1演算手段と、
前記静寂な音声7の出力を実行する出力手段と
を備えたことを特徴とする。
<第5の発明事項(装置発明への表現変更)>
前記静寂なバイオフィードバック装置9は、
前記脳波2の数値データを計測する前記脳波計測手段3と、
計測した前記脳波2から脳波周波数帯8ごとの脳波の強度Pwを算出する第2演算手段と、
前記強度Pwと強度基準値Sgとの偏差量Δpwにもとづいて前記静寂な音声7の出力パラメータを算出する第3演算手段と
前記静寂な音声7の出力を実行する出力手段と
を備えたことを特徴とする。
なお、脳波2から脳波周波数帯8ごとの脳波の強度Pwを算出する第2演算手段の計算手順は、医療用脳波計や簡易脳波計などの分野では公知であるが、具体例を下記に示す。
特定の周波数範囲(例えばアルファ波として9~13Hzの範囲)の脳波の強度Pwを絶対帯域パワー(Absolute Band Power)として算出するには、簡易脳波計10の脳波電極で計測した基準電極に対する電位差信号の時系列データをパワースペクトル密度に変換し、その特定の周波数範囲での合計の対数をとってdB単位で表示すればよい。
参考技術情報:Compute the average bandpower of an EEG signal,May 2018、https://raphaelvallat.com/bandpower.html(インターネット閲覧日2021年3月5日現在)
この計算手段を解析制御装置40に実装するには、例えば開発ツールArduino(登録商標)のFFT(高速フーリエ変換)を利用して制御用マイクロコンピュータに組み込むことができる。また、この計算手段をスマートフォン20や簡易脳波計10に実装するには、それぞれが搭載しているCPUあるいはOSごとに専用の開発ツールを使用すればよい。
なお、既出の簡易脳波計10とスマートフォン20および解析制御装置40には、それぞれ、マイクロコンピュータのほか電源装置、入出力装置、通信装置など、本発明で詳細に説明した各実施態様に関する説明済みのフローチャートをそれぞれのマイクロコンピュータで作動させるために必要な部品が予め搭載されていることはいうまでもない。
本発明では、瞑想技能を持たない入門者でもバイオフィードバックの治療効果を体験できるように定常状態誘発電位による脳波誘導手段6を組み合わせて脳波を増強(第1の発明事項)した。また、入門者のトレーニング用に視覚フィードバックを提供(第2の発明事項)した。
さらに、バイオフィードバック療法の初心者が瞑想の技能を向上させるための体系的なトレーニングの手段(第3の発明事項)を提供した。具体的には、瞑想技能の向上のもっとも基礎となる姿勢Uのトレーニングのための静寂な音声フィードバック(第4の発明事項)を提供した。また、初心者が脳波2の強度を認識してトレーニングを行う静寂な音声フィードバック(第5の発明事項)を提供した。
本発明の静寂なフィードバック手段5(あるいは静寂なバイオフィードバック装置9)を用いたバイオフィードバックは、MCIに罹患した患者の症状の緩和または進行を予防するために有用である。
もし、MCIに罹患していない健常な高齢者がアルファ波やガンマ波などの脳波を意図的にコントロールする瞑想技能を予めトレーニングしておけば、MCI発症時の治療において有利である。
さらに、本発明の静寂なフィードバック手段5(あるいは静寂なバイオフィードバック装置9)は、MCIの予防と早期発見の観点から、精神的なリラックス効果をねらった瞑想技能のトレーニング手段としても産業上の利用価値がある。
なお近年、うつ病の治療方法として、患者の頭部に電磁波の電力エネルギーを照射して、強度が不足している周波数の脳波を増強する臨床治療も行われている。
本発明の方法と装置は、原理的にはこれと同様に、強度が不足している周波数の脳波を増強するものであるから、軽微なうつ病の症状緩和や進行予防に役立つ可能性もあろう。本発明は必要機材を小さなバッグに収納できる程度の寸法に設計できるので、従来の頭部に電磁エネルギーを直接照射する磁気刺激装置に比べて可搬性が高い。そのため、患者の自宅での日常的な治療に用いる際の利便性に優れるので、医療機関によるうつ病の治療方法としての有用性の検討が実施されることを期待したい。
1 対象
2 脳波
3 脳波計測手段
4 評価値
5 静寂なフィードバック手段
6 脳波誘導手段
7 静寂な音声
8 脳波周波数帯
9 静寂なバイオフィードバック装置
10 簡易脳波計
11 音像
12 音像移動線
13 頭部定位線
20 スマートフォン
30 ステレオイヤホン
30L ステレオイヤホン(左)
30R ステレオイヤホン(右)
40 解析制御装置
50 液晶サングラス
60 振動アクチュエータ
70 視覚フィードバック手段
80 音声フィードバック手段
90 スピーカー

Claims (8)

  1. 対象1の脳波2の状態を改善してMCIの症状の緩和または進行を予防するためのバイオフィードバックを行う方法であって、
    前記対象1の姿勢Uおよび/または前記脳波2を計測する脳波計測手段3と、
    前記脳波計測手段3で計測した数値データを演算して算出した評価値4の状態を前記対象1の視覚および/または聴覚へフィードバックする静寂なフィードバック手段5と、
    前記対象1に特定周波数の前記脳波2を誘導する脳波誘導手段6を
    組み合わせて用い、あるいは提供することを含む、バイオフィードバックを行う方法。
  2. 前記静寂なフィードバック手段5は開眼時の視覚によるフィードバックであり、
    前記脳波計測手段3を用いて姿勢Uおよび/または前記脳波2の数値データを計測するステップと、
    前記脳波計測手段3で計測した数値データを演算して算出した前記評価値4が所定の値の範囲に入った場合には数値データを画像Gで出力するステップと
    を含むことを特徴とする、
    請求項1に記載のバイオフィードバックを行う方法。
  3. 前記静寂なフィードバック手段5は聴覚によるフィードバックであり、
    前記脳波計測手段3を用いて姿勢Uおよび/または前記脳波2の数値データを計測するステップと、
    前記脳波計測手段3で計測した数値データを演算して算出した前記評価値4が所定の値の範囲に入った場合には数値データを静寂な音声7で出力するステップと
    を含むことを特徴とする、
    請求項1に記載のバイオフィードバックを行う方法。
  4. 前記静寂なフィードバック手段5は聴覚によるフィードバックであり、
    前記脳波計測手段3を用いて前記姿勢Uの数値データを計測するステップと、
    計測した前記姿勢Uと姿勢基準値wとの偏差量pにもとづいて前記静寂な音声7の出力パラメータを算出するステップと、
    前記静寂な音声7の出力を実行するステップと
    を、含むことを特徴とする、請求項3記載のバイオフィードバックを行う方法。
  5. 前記静寂なフィードバック手段5は聴覚によるフィードバックであり、
    前記脳波計測手段3を用いて前記脳波2の数値データを計測するステップと、
    計測した前記脳波2から脳波周波数帯8ごとの脳波の強度Pwを算出するステップと、
    前記脳波周波数帯8ごとの前記強度Pwと強度基準値Sgとの偏差量Δpwにもとづいて前記静寂な音声7の出力パラメータを算出するステップと、
    前記静寂な音声7の出力を実行するステップと
    を、含むことを特徴とする、請求項3記載のバイオフィードバックを行う方法。
  6. 聴覚によるバイオフィードバックを行う静寂なバイオフィードバック装置9は、
    姿勢Uおよび/または脳波2の数値データを計測する脳波計測手段3と、
    前記脳波計測手段3で計測した数値データを演算して算出した評価値4が所定の値の範囲に入った場合には数値データを静寂な音声7で出力する演算出力手段と
    を備えたことを特徴とする、バイオフィードバック装置。
  7. 前記静寂なバイオフィードバック装置9は、
    前記姿勢Uの数値データを計測する前記脳波計測手段3と、
    計測した前記姿勢Uと姿勢基準値wとの偏差量pにもとづいて前記静寂な音声7の出力パラメータを算出する第1演算手段と、
    前記静寂な音声7の出力を実行する出力手段と
    を備えたことを特徴とする、請求項6記載のバイオフィードバック装置。
  8. 前記静寂なバイオフィードバック装置9は、
    前記脳波2の数値データを計測する前記脳波計測手段3と、
    計測した前記脳波2から脳波周波数帯8ごとの脳波の強度Pwを算出する第2演算手段と、
    前記強度Pwと強度基準値Sgとの偏差量Δpwにもとづいて前記静寂な音声7の出力パラメータを算出する第3演算手段と
    前記静寂な音声7の出力を実行する出力手段と
    を備えたことを特徴とする、請求項6記載のバイオフィードバック装置。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
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