JP2022006215A - 方向性電磁鋼板および方向性電磁鋼板の製造方法 - Google Patents

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隆史 片岡
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Abstract

【課題】鋼板表層近傍のインヒビターの耐熱性を強化して、高磁束密度を実現し、磁気特性に優れた方向性電磁鋼板を提供する。【解決手段】質量%で、少なくともC:0.005%以下、Si:2.5~4.0%を含有し、残部がFeおよび不純物であり、表面に、フォルステライト(Mg2SiO4)を含むグラス被膜が形成された方向性電磁鋼板であって、前記鋼板の板厚1/4から前記鋼板の中心までのCu、Hg、Ag、Pb、Cd、Co、ZnおよびNiの合計濃度に対する、鋼板表面から板厚1/4までのCu、Hg、Ag、Pb、Cd、Co、ZnおよびNiの合計濃度の比が1.02以上である方向性電磁鋼板。【選択図】なし

Description

本発明は、方向性電磁鋼板および方向性電磁鋼板の製造方法に関する。
方向性電磁鋼板は、鋼板成分として、一般的に、Siを2質量%~5質量%程度含有し、鋼板の結晶粒の方位をGoss方位と呼ばれる{110}<001>方位に高度に集積させた鋼板である。方向性電磁鋼板は、磁気特性に優れ、例えば、変圧器等の静止誘導器の鉄心材料などとして利用される。
このような方向性電磁鋼板では、磁気特性を向上させるために、種々の技術開発がなされている。特に、近年の省エネルギー化の要請に伴って、方向性電磁鋼板では、さらなる低鉄損化が求められている。方向性電磁鋼板の低鉄損化には、鋼板の結晶粒の方位について、Goss方位への集積度を高めて磁束密度を向上させて、ヒステリシス損失を低減することが有効である。
ここで、方向性電磁鋼板の製造において、結晶方位の制御は、二次再結晶と呼ばれるカタストロフィックな粒成長現象を利用することで行われる。ただし、二次再結晶にて結晶方位を適切に制御するためには、インヒビターと呼ばれる鋼中微細析出物の耐熱性を向上させることが重要である。
例えば、インヒビターを熱間圧延前の鋼片加熱時に完全固溶させ、その後、熱間圧延及び後段の焼鈍工程で微細析出させる方法が挙げられる。具体的には、下記の特許文献1で例示されるようなMnSおよびAlNをインヒビターとし、最終冷延工程で80%を超える圧下率の圧延を行う方法、または下記の特許文献2で例示されるようなMnSおよびMnSeをインヒビターとし、2回の冷延工程を行う方法が挙げられる
また、特許文献3には、熱延板焼鈍の条件および酸洗処理条件を制御することで、板厚中心に対する鋼板表面のCuの濃度比および鋼板表面のMnの濃度比を制御して、被膜特性に優れた方向性電磁鋼板を製造する技術が開示されているが。酸洗処理条件の制御は、酸洗溶液に使用する酸の種類、酸の濃度によって行われている。
特公昭40-15644号公報 特公昭51-13469号公報 特開2019-99827号公報
近年、世界的な変圧器効率規制の進展により、方向性電磁鋼板の鉄損低減要望は一層大きくなっている。一方、変圧器は長期間にわたって社会基盤を支える重要な設備機器であることから、安定的に運転を継続することが重要である。主要部材である方向性電磁鋼板にも、変圧器の安定的な運転に資する信頼性が求められている。このため、上述したように、二次再結晶にて結晶方位を適切に制御する必要があり、二次再結晶のトリガーとなるべきインヒビターと呼ばれる鋼中微細析出物の耐熱性を向上させることが重要である。
発明者らは、熱延板を、Cu等濃度が、1ppm以上1000ppm以下であり、pHが3以下である特定の酸洗液で酸洗すると、鋼中の析出物であるインヒビターMnS、MnSeのMn部分が、酸洗液のCu等と置換してCu2S、Cu2Seなるか、またはCu等がMnS、MnSe表面に電析してMnS、MnSeをコーティングすることで、結果としてMnS、MnSeが、高温でも分解せずの熱的安定性が高まり、インヒビターの強化が図られることを見出した。
しかし、酸洗工程で電析したCu2S、Cu2Seは、不安定なS、Se化物であり、熱的に不安定であり、鋼板中で分解しやすい。本発明者は、酸洗工程後の、特定の工程中で、Cu2S、Cu2Seを還元処理することで、Cu等が析出して、結晶界面、粒界に偏析すると、インヒビター強化が起こり、さらに二次再結晶高温化が図れることを見出した。
本発明は、上記課題等を鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、酸洗工程で、酸洗処理条件を制御して鋼板表層近傍のインヒビターの耐熱性を強化し、また、酸洗工程後の工程で、還元処理を導入することにより、さらにインヒビターの耐熱性を強化して、高磁束密度を実現し、磁気特性に優れた方向性電磁鋼板を製造することが可能な、新規かつ改良された方向性電磁鋼板の製造方法を提供することにある。
本発明の要旨は、以下に示すとおりである。
(1)質量%で、少なくともC:0.005%以下、Si:2.5~4.0%を含有し、残部がFeおよび不純物であり、表面に、フォルステライト(Mg2SiO4)を含むグラス被膜が形成された方向性電磁鋼板であって、
前記鋼板の板厚1/4から前記鋼板の中心までのCu、Hg、Ag、Pb、Cd、Co、ZnおよびNiの合計濃度に対する、鋼板表面から板厚1/4までのCu、Hg、Ag、Pb、Cd、Co、ZnおよびNiの合計濃度の比が1.02以上である方向性電磁鋼板。
(2)質量%で、Si:2.5~4.5%、C:0.02~0.10%、酸可溶性Al:0.01~0.05%、N:0.003~0.02%、S+0.4*Se:0.005~0.04%、Mn:0.04~0.20%、Bi、Pbからなる群から選択される1種または2種以上の合計:0.0005~0.05%を含有し、残部がFeおよび不純物からなるスラブに、
熱間圧延を施して、熱延板を得る工程、
前記熱延板に酸洗を施して酸洗板を得る酸洗工程、
前記酸洗板に冷間圧延を施して冷延鋼板を得る工程、
前記冷延鋼板を、700~900℃で、水素雰囲気下で水素焼鈍する工程、
前記水素焼鈍後の前記冷延鋼板の表面にMgOを含む焼鈍分離剤を塗布して、窒素と水素の混合ガス雰囲気下で仕上焼鈍する工程、
を含む方向性電磁鋼板の製造方法であって、
前記酸洗工程で、酸洗溶液が、Cu、Hg、Ag、Pb、Cd、Co、ZnおよびNiの群から選ばれる1種または2種以上の元素を含有し、各元素の濃度の合計が0.0001~0.1000質量%以下であり、pHが1.5以下であり、液温が15℃以上100℃以下であり、前記熱延板が前記酸洗溶液に浸漬される時間が、5秒以上200秒以下である、前記(1)に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
(3)前記仕上焼鈍工程の雰囲気ガスがH2SおよびH2から成り、400℃から900℃までの昇温過程において、少なくとも15分間、コイル状の冷延板間の雰囲気のPH2S/PH2比を4.0×10-5~4.0×10-3に制御する、前記(2)に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
(4)前記焼鈍分離剤に、Zn、Ga、希土類元素、アルカリ土類元素の化合物の群から選ばれる1種または2種以上の元素を合計で0.2~8.0質量%添加させる、前記(2)または(3)に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
(5)前記水素焼鈍工程の400℃から800℃の昇温を、400~4000℃/sの昇温速度で行う前記(2)~(4)のいずれか一つに記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
本発明によれば、酸洗工程で、酸洗処理条件を制御して鋼板表層近傍のインヒビターの耐熱性を強化し、また、酸洗工程後の工程で、還元処理を導入することにより、さらにインヒビターの耐熱性を強化することで、高磁束密度を有する、磁気特性に優れた方向性電磁鋼板を得ることができる。
以下に本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、特に断らない限り、数値AおよびBについて「A~B」という表記は「A以上B以下」を意味するものとする。かかる表記において数値Bのみに単位を付した場合には、当該単位が数値Aにも適用されるものとする。
本発明の一実施形態は、以下の構成を備える方向性電磁鋼板の製造方法である。
質量%で、Si:2.5~4.5%、C:0.02~0.10%、酸可溶性Al:0.01~0.05%、N:0.003~0.02%、S+0.4*Se:0.005~0.04%、Mn:0.04~0.20%、Bi、Pbからなる群から選ばれる1種または2種以上の合計:0.0005~0.05%を含有し、残部がFeおよび不純物からなるスラブに、
熱間圧延を施して、熱延板を得る工程、
前記熱延板に酸洗を施して酸洗板を得る酸洗工程、
前記酸洗板に冷間圧延を施して冷延鋼板を得る工程、
前記冷延鋼板を、700~900℃で、水素雰囲気下で水素焼鈍する工程、
前記水素焼鈍後の前記冷延鋼板の表面にMgOを含む焼鈍分離剤を塗布して、窒素と水素の混合ガス雰囲気下で仕上焼鈍する工程、
を含む方向性電磁鋼板の製造方法であって、
前記酸洗工程で、酸洗溶液が、Cu、Hg、Ag、Pb、Cd、Co、ZnおよびNiの群から選ばれる1種または2種以上の元素を含有し、各元素の濃度の合計が0.0001~0.1000質量%以下であり、
pHが1.5以下であり、
液温が15℃以上100℃以下であり、
前記熱延板が前記酸洗溶液に浸漬される時間が、5秒以上200秒以下である
方向性電磁鋼板の製造方法。
以下、本実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造方法について具体的に説明する。
[スラブの成分組成]
まず、本実施形態に係る方向性電磁鋼板に用いられるスラブの成分組成について説明する。なお、以下では特に断りのない限り、「%」との表記は「質量%」を表わすものとする。また、以下で説明する元素以外のスラブの残部は、Feおよび不純物である。ここで、不純物とは、原材料に含まれる成分、または製造の過程で混入する成分であって、意図的に鋼板に含有させたものではない成分を指す。また、方向性電磁鋼板の素材であるスラブの化学組成は基本的には方向性電磁鋼板の組成に準じたものになる。しかし、一般的な方向性電磁鋼板の製造においては製造過程で水素焼鈍および純化焼鈍により含有元素の一部が系外に排出されるため、素材であるスラブと最終製品である方向性電磁鋼板の化学組成は異なるものとなる。方向性電磁鋼板の特性を所望のものになるように、製造過程での水素焼鈍および純化焼鈍の影響等を考慮して、スラブ組成を適宜調整可能である。
発明に係る方向性電磁鋼板の製造用いられるスラブは、Si:2.5~4.5%、C:0.02~0.10%、酸可溶性Al:0.01~0.05%、N:0.003~0.02%、S+0.4*Se:0.005~0.04%、Mn:0.04~0.20%、Bi、Pbからなる群から選ばれる1種または2種以上の合計:0.0005~0.05%を含有する。
Si(ケイ素)の含有量は、2.5~4.5%である。Siは、鋼板の電気抵抗を高めることで、鉄損の原因の一つである渦電流損失を低減する。Siの含有量が2.5%未満である場合、最終的な方向性電磁鋼板の渦電流損失を十分に抑制することが困難になるため好ましくない。Siの含有量が4.5%超である場合、方向性電磁鋼板の加工性が低下するため好ましくない。したがって、Siの含有量は、2.5%~4.5%であり、好ましくは、2.7~4.0%である。
C(炭素)の含有量は、0.02~0.10%である。Cには、種々の役割があるが、Cの含有量が0.02%未満である場合、スラブの加熱時に結晶粒径が過度に大きくなることで、最終的な方向性電磁鋼板の鉄損値を増大させるため好ましくない。Cの含有量が0.10%超である場合、冷間圧延後の水素焼鈍時に、水素焼鈍時間が長時間になり、製造コストが増加するため好ましくない。また、Cの含有量が0.10%超である場合、脱炭が不完全になり易く、最終的な方向性電磁鋼板において磁気時効を起こす可能性があるため好ましくない。したがって、Cの含有量は、0.02~0.10%であり、好ましくは、0.05~0.09%である。
酸可溶性Al(酸可溶性アルミニウム)の含有量は、0.01~0.05%である。酸可溶性Alは、高磁束密度の方向性電磁鋼板を製造するために必要なインヒビターを構成する。酸可溶性Alの含有量が0.01%未満である場合、酸可溶性Alが量的に不足し、インヒビター強度が不足するため好ましくない。酸可溶性Alの含有量が0.05%超である場合、インヒビターとして析出するAlNが粗大化し、インヒビター強度を低下させるため好ましくない。したがって、酸可溶性Alの含有量は、0.01~0.05%であり、好ましくは、0.01~0.04%である。
N(窒素)の含有量は、0.003~0.02%である。Nは、上述した酸可溶性Alと共にインヒビターであるAlNを形成する。Nの含有量が上記範囲を外れる場合、十分なインヒビター効果が得られないため好ましくない。したがって、Nの含有量は、0.003~0.02%であり、好ましくは、0.002~0.012%である。
S(硫黄)および0.4*Se(セレン)の含有量は、合計で0.005~0.04%である。ここで、「0.4*Se」は、硫黄の原子量を基準にして、セレンの存在比を評価するための係数を乗じた値であり、インヒビター形成元素としての実効的なセレン添加量意味する。
SおよびSeは、上述したMnと共にインヒビターを形成する。SおよびSeは、2種ともスラブに含有されていてもよいが、少なくともいずれか1種がスラブに含有されていればよい。Sおよび0.4*Seの含有量の合計が上記範囲を外れる場合、十分なインヒビター効果が得られないため好ましくない。したがって、Sおよび0.4*Seの含有量は、合計で0.005~0.04%であり、好ましくは、0.001~0.035%である。
Mn(マンガン)の含有量は、0.04~0.20%である。Mnは、二次再結晶を左右するインヒビターであるMnSおよびMnSeなどを形成する。Mnの含有量が0.04%未満である場合、二次再結晶を生じさせるMnSおよびMnSeの絶対量が不足するため好ましくない。Mnの含有量が0.20%超である場合、スラブ加熱時にMnの固溶が困難になるため好ましくない。また、Mnの含有量が0.20%超である場合、インヒビターであるMnSおよびMnSeの析出サイズが粗大化し易く、インヒビターとしての最適サイズ分布が損なわれるため好ましくない。したがって、Mnの含有量は、0.04~0.20%であり、好ましくは、0.03~0.13%である。
Bi、Pbからなる群から選択される1種または2種以上の合計含有量は、0.0005~0.05%である。BiとPbは、インヒビターの周囲に偏析し、耐熱性を高めることが知られている。このとき、添加量が0.0005~0.05%であれば、磁気特性が良好に得られる。一方、0.05%を超えて添加すると、被膜密着性が劣化して、被膜剥離による鉄損劣化が生じる。
また、本実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造に用いられるスラブは、上述した元素の他に、磁気特性向上のために、残部Feの一部に代えて、質量%で、Cu:0.4%以下、P:0.5%以下、Sn:0.3%以下、Sb:0.3%以下、Ni:1.0%以下からなる群から選択される1種又は2種以上を含有してもよい。一態様に係るスラブにおいては、質量%で、Crの含有量が0.02%以上であってよく、Biの含有量が0.0005%以上であってよく、Sbの含有量が0.005%以上であってよく、Moの含有量が0.005%以上であってよい。
上記で説明した成分組成に調整された溶鋼を鋳造することで、スラブが形成される。なお、スラブの鋳造方法は、特に限定されない。また、研究開発において、真空溶解炉などで鋼塊が形成されても、上記成分について、スラブが形成された場合と同様の効果が確認できる。
[熱延鋼板とする工程]
鋳造されたスラブを所定の温度で加熱し、加熱されたスラブは、熱間圧延されて熱延鋼板に加工される。加工後の熱延鋼板の板厚は、例えば、1.8mm~3.5mmであってもよい。熱延鋼板の板厚が1.8mm未満である場合、熱間圧延後の鋼板温度が低温化し、鋼板中のAlNの析出量が増加することで二次再結晶が不安定となって、最終的な板厚が0.23mm以下の方向性電磁鋼板において磁気特性が低下するため好ましくない。熱延鋼板の板厚が3.5mm超である場合、冷間圧延の工程での圧延負荷が大きくなるため好ましくない。
尚、熱延鋼板に熱延板焼鈍を施して熱延焼鈍板を得てもよい。熱延板焼鈍を施す場合、鋼板形状がより良好になるため、後工程の冷間圧延にて鋼板が破断する可能性を軽減することができる。
[酸洗工程]
続いて、熱延鋼板に酸洗を施す。酸洗溶液は、Cu、Hg、Ag、Pb、Cd、Co、ZnおよびNiの群から選ばれる1種または2種以上の元素(以下、単に「Cu等」ともいう)を含有し、各元素の濃度の合計が0.0001~0.1000%であり、pHが1.5以下である。酸洗溶液の液温は15℃以上100℃以下であり、鋼板が酸洗溶液に浸漬される時間は5秒以上200秒以下である。
酸洗溶液のCu、Hg、Ag、Pb、Cd、Co、ZnおよびNiの群から選ばれる1種または2種以上の濃度の合計が0.0001%未満である場合、板厚方向の残留MsS/Se表面の改質効果が不十分となり好ましくない。酸洗溶液のCu、Hg、Ag、Pb、Cd、Co、ZnおよびNiの群から選ばれる1種または2種以上の濃度の合計が0.1000%超である場合、磁性向上の効果が飽和することに加えて、酸洗溶液のコストが増大するので好ましくない。したがって、酸洗溶液のCu、Hg、Ag、Pb、Cd、Co、ZnおよびNiの群から選ばれる1種または2種以上の濃度の合計は、0.0001~0.1000%である。
酸洗溶液のpHが1.5超である場合、酸洗不良によりスケールが残存し(「酸洗残り」ともいう)、表面欠陥の原因となり好ましくない。したがって、酸洗溶液のpHは、1.5以下である。
酸洗溶液の液温が15℃未満である場合、酸洗処理による残留MsS/Se表面の改質効果が不十分となり好ましくない。酸洗溶液の液温が100℃超である場合、酸洗溶液の取扱いが困難となるので好ましくない。したがって、酸洗溶液の液温は15℃以上100℃以下である。
酸洗処理において鋼板が酸洗溶液に浸漬される時間が5秒未満である場合、酸洗処理による残留MsS/Se表面の改質効果が不十分となり好ましくない。酸洗処理において鋼板が酸洗溶液に浸漬される時間が200秒超である場合、設備が長大となるので好ましくない。したがって、酸洗処理において鋼板が酸洗溶液に浸漬される時間は5秒以上200秒以下である。
上述した条件で酸洗を行った場合、鋼中の析出物であるMnSが、鋼板表層でCu等の硫化物に置換されるか、もしくはCu等によってコーティングされることで、これらインヒビターが耐熱化される。ここで、「鋼板表層」とは鋼板表面から約10μmまでの深さをいう。また、「置換」とは、もともと形成されていたMnSのMn部分が、酸洗液由来のCu等で置換され、MnSがCu等の硫化物と置き換わることをいい、「コーティングされる」とは、もともと形成されていたMnSの周囲に、酸洗液由来のCu等が新たに析出することをいう。本発明におけるこのような現象は、Cu等の析出方法に影響を受けない為、Cu等の硫化物への置換、Cu等のコーティングのどちらの現象が、酸洗処理時に起こっていても良い。
[冷延鋼板を得る工程]
熱延鋼板に、酸洗を施した後、1回の冷間圧延、または中間焼鈍を挟んだ複数回の冷間圧延にて圧延することで、冷延鋼板に加工する。
また、冷間圧延のパス間、圧延ロールスタンド間、または圧延中に、鋼板を、300℃程度以下で加熱処理してもよい。このような場合、最終的な方向性電磁鋼板の磁気特性を向上させることができる。なお、熱延鋼板を、3回以上の冷間圧延によって圧延してもよいが、多数回の冷間圧延は、製造コストを増大させるため、熱延鋼板を、1回または2回の冷間圧延によって圧延することが好ましい。冷間圧延をゼンジミアミルなどのリバース圧延で行う場合、それぞれの冷間圧延におけるパス回数は、特に限定されないが、製造コストの観点から、9回以下が好ましい。冷延工程では、80%以上の強冷延を行い、0.22mmの製品板厚を得た。
[水素焼鈍工程]
続いて、水素焼鈍を行う。冷延鋼板に対して、温度条件、700~900℃で1~3分間加熱して、熱処理(すなわち、脱炭焼鈍処理)を実施する。水素焼鈍処理を実施すると、冷延鋼板において、炭素が所定量以下に低減され、一次再結晶組織が形成される。また、脱炭焼鈍では、冷延鋼板の表面に、シリカ(SiO2)を主成分として含有する酸化物層が形成される。
本発明の方向性電磁鋼板の製造方法では、上記酸洗処理で耐熱化されたインビターの耐熱性をさらに強化するために、上記水素焼鈍工程において、水素焼鈍工程の400℃から800℃の昇温を、400~4000℃/sの昇温速度で行うことができる。
400℃以上における昇温速度は、二次再結晶に好条件となる集合組織及び脱炭酸化層の形成にとって重要である。400℃~750℃など比較的低温では、最終的な集積方位であるGoss方位粒が減少するが、それ以上の高温で一次再結晶させることでGoss方位粒を富化することができる。そのため、二次再結晶で選択的成長が可能なGoss方位粒を増加させる点から、昇温速度を高めると、最終的な磁気特性が良くなる。また、同じ酸素分圧では、低温の方が、Cu2Sが二酸化硫黄ガスと金属銅に分解しやすいため、なるべく早く昇温することで昇温後の表層Cu、Sの量を維持することができる。設備および製造コストの観点から、上限値は4000℃/sである。
上記条件で水素焼鈍を行うことによって、インビターの耐熱性がさらに強化される理由は、脱炭焼鈍後に残存する昇温後のCu、Sの量が多くなるためと考えられる。
[仕上焼鈍工程]
続いて、水素焼鈍後の前記冷延鋼板の表面に焼鈍分離剤を塗布する。この場合、通常、マグネシア(MgO)を主成分として含有する焼鈍分離剤を、冷延鋼板の表面(酸化物層の表面)に塗布する。
本発明の方向性電磁鋼板の製造方法では、上記酸洗処理で耐熱化されたインビターの耐熱性をさらに強化するために、焼鈍分離剤に、Zn、Ga、希土類元素、アルカリ土類元素の化合物の群から選ばれる1種または2種以上の元素を合計で0.2~8.0質量%添加することができる。
これらの添加剤に含まれる金属元素の硫化物は、Cu2Sよりも高い融点、鋼中での低い固溶限のいずれかまたは両方を持つため、耐熱性が高い。そのため、酸洗処理で形成したCu2Sはこれらの金属と反応して安定硫化物化し、さらに、周囲の濃化したCuが、安定硫化物の分解の拡散障壁となることで、耐熱性がさらに向上する。
Zn、Ga、希土類元素、アルカリ土塁元素の化合物の群から選ばれる1種または2種以上の元素の添加量の0.2~8.0質量%であることが好ましい。添加量が0.2%を下回れば、安定硫化物への置換が十分行われず、析出物の耐熱化による磁性向上は得られない。一方、8.0質量%を上回れば、硫化物の過剰な安定化や鋼板内部の硫化物まで分解することで、二次再結晶不良を発生させ、磁気特性を劣化させるためであると考えられる。
焼鈍分離剤にZn、Ga、希土類元素、アルカリ土類元素の化合物の群から選ばれる1種または2種以上を添加すると、インビターの耐熱性がさらに強化される理由は、上記安定的な硫化物への置換とCuの界面偏析を通じてインヒビターの消失を伴う分解が遅延するためであると考えられる。
その後、仕上焼鈍を行う、焼鈍分離剤が塗布された冷延鋼板に対して、窒素と水素の混合ガス雰囲気下で、温度条件1100~1300℃で20~24時間加熱する熱処理(すなわち、仕上げ焼鈍処理)を実施する。仕上焼鈍処理を実施すると、二次再結晶が冷延鋼板に生じるとともに、冷延鋼板が純化される。その結果、上述の鋼板の化学組成を有し、結晶粒の磁化容易軸と圧延方向Xとが一致するように結晶方位が制御された冷延鋼板が得られる。
また、上記のような仕上焼鈍処理が実施されると、シリカを主成分として含有する酸化物層が、マグネシアを主成分として含有する焼鈍分離剤と反応して、鋼板の表面にフォルステライト(Mg2SiO4)等の複合酸化物を含むグラス皮膜が形成される。仕上焼鈍工程では、鋼板がコイル状に巻かれた状態で仕上げ焼鈍処理が実施される。鋼板の表面に焼鈍分離剤を塗布することにより、コイル状に巻かれた鋼板に焼き付きが発生することを防止することができる。
本発明の方向性電磁鋼板の製造方法では、上記酸洗処理で耐熱化されたインビターの耐熱性をさらに強化するために、上記仕上焼鈍工程において、窒素と水素の混合雰囲気ガスを、H2SおよびH2の雰囲気ガスに代えて、400℃から900℃までの昇温過程において、少なくとも15分間、コイル状の冷延板間の雰囲気のPH2S/PH2比を4.0×10-5~4.0×10-3に制御することが好ましい。
H2S/PH2比は、吹込みの炉内ガスのPH2/PN2の調整によって制御すればよく、PH2S/PH2比の測定は、炉内ガスのサンプリングを行い、ガス分析によりPH2Sと、PH2をそれぞれ測定し、PH2Sの値をPH2で除して算出する。
2SおよびH2の雰囲気ガスを用いる理由は、H2とH2Sの分圧は鋼板の硫黄ポテンシャルと平衡するため、PH2S/PH2はそれぞれ、硫化物の分解可否および速度を決めるからである。
400℃から900℃までの昇温過程が、少なくとも15分間である理由は、Cu2S硫化物の置換反応は、Cu2Sが完全に分解する900℃以下で実施しなくてはならず、また、温度が低すぎると、Cu2Sの置換に必要なMnや添加剤由来の金属の拡散が遅いため、400℃以上で実施しなくてはならない。そのため、Cu2Sの置換を行う温度域は400~900℃であることが好ましく、十分な置換を行うために必要な時間が15分であることが好ましい。少なくとも15分間、雰囲気制御を適正に行うことが好ましい。
H2S/PH2比を4.0×10-5~4.0×10-3である理由は、この範囲はCu2Sが分解できるポテンシャルであり、かつ、MnSの分解が無視できるほど遅い雰囲気であるからである。
上記条件で仕上焼鈍を行うことによって、インビターの耐熱性がさらに強化される理由は、Cu2Sがより安定な硫化物に置換するうえ、安定な硫化物の周りに濃化したCuが硫化物/地鉄の界面で拡散障壁となり、インヒビターの消失を伴う分解が遅延するためであると考えられる。
本発明の製造方法は、さらにインヒビターの耐熱性を強化するために、上述したように、仕上焼鈍工程における雰囲気ガスの制御、焼鈍分離剤に対する特定元素の添加、または水素焼鈍工程での昇温速度の制御による各種の還元処理を導入することが好ましい。これらの還元処理は、単独で導入、または複数組み合わせて導入することができる。
[絶縁コーティング液の塗布~平坦化焼鈍工程]
上記の仕上焼鈍された鋼板表面に対して、例えば、リン酸アルミニウムまたはコロイダルシリカなどを主成分とした絶縁被膜が鋼板の表面に塗布される。鋼板に対して絶縁性および張力が付与されるのであれば、絶縁被膜の成分は特に限定されない。その後、所定の温度条件(例えば840~920℃)の下で平坦化焼鈍が実施されることにより、最終的に、方向性電磁鋼板が得られる。
本発明のもう一つの一実施形態は、上述した本発明の方向性電磁鋼板の製造方法によって得られた方向性電磁鋼板である。即ち、質量%で、少なくともC:0.005%以下、Si:2.5~4.0%を含有し、残部がFeおよび不純物であり、表面に、フォルステライト(Mg2SiO4)を含むグラス被膜が形成された方向性電磁鋼板であって、
前記鋼板の板厚1/4から前記鋼板の中心までのCu、Hg、Ag、Pb、Cd、Co、ZnおよびNiの濃度(以下、単に「Cu等の濃度」ともいう)に対する、鋼板表面から板厚1/4までのCu、Hg、Ag、Pb、Cd、Co、ZnおよびNi濃度の比が1.02以上である方向性電磁鋼板である。
[鋼板の成分組成]
まず、本発明に係る方向性電磁鋼板に用いられる鋼板の成分組成について説明する。
なお、以下では特に断りのない限り、「%」との表記は「質量%」を表わすものとする。また、以下で説明する元素以外の鋼板の残部は、Feおよび不純物である。
本発明に係る方向性電磁鋼板に用いられる鋼板の成分は、結晶方位を{110}<001>方位に集積させたGoss集合組織に制御するために好ましい成分構成を有し、少なくとも、少なくともC:0.005%以下、Si:2.5~4.0%を含有する。
(C:0.005%以下)
C(炭素)の含有量は、0.005%以下である。Cの含有量が0.005%超である場合、鋼板中で析出物を形成し鉄損が劣化する時効を引き起こすため好ましくない。最終製品においては含有される必要はなく、基本的には低減すべき元素であり、ゼロでも構わない。Cの下限値は特に限定されないが、一方で脱炭焼鈍のコストを考慮すると、0.0001%未満とすることは困難である。そのため、Cの含有量は、0.005%以下であり、好ましくは、0.0001~0.005%である。
(Si:2.50~4.50%)
Si(ケイ素)の含有量は、2.50~4.50%である。Siは、鋼板の電気抵抗を高めることで、鉄損の原因の一つである渦電流損失を低減する。Siの含有量が2.50%未満である場合、最終的な方向性電磁鋼板の渦電流損失を十分に抑制することが困難になるため好ましくない。Siの含有量が4.50%超である場合、方向性電磁鋼板の加工性が低下するため好ましくない。したがって、Siの含有量は、2.50~4.50%であり、好ましくは、2.70~4.00%である。
CおよびSi以外の成分は、通常の方向性電磁鋼板に含まれている成分となることができる。
例えば、C、Si以外の成分として、質量%で、Mn:0.01~0.15%、酸可溶性Al:~0.065%以下、N:~0.012%以下、Cr:~0.3%以下、Cu:~0.4%以下、P:~0.5%以下、Sn:~0.3%以下、Sb:~0.3%以下、Ni:~1%以下、SおよびSeは、合計で0.001~0.050%、Bi:~0.02%以下を含有することができる。
(Mn:0.01~0.15%)
Mn(マンガン)の含有量は、0.01~0.15%である。Mnは、二次再結晶を左右するインヒビターであるMnSおよびMnSeなどを形成する。Mnの含有量が0.01%未満である場合、二次再結晶を生じさせるMnSおよびMnSeの絶対量が不足するため好ましくない。Mnの含有量が0.15%超である場合、スラブ加熱時にMnの固溶が困難になるため好ましくない。また、Mnの含有量が0.15%超である場合、インヒビターであるMnSおよびMnSeの析出サイズが粗大化し易く、インヒビターとしての最適サイズ分布が損なわれるため好ましくない。したがって、Mnの含有量は、0.01~0.15%であり、好ましくは、0.03~0.13%である。
酸可溶性AlとNは前述の通り、製造過程においてインヒビターとして活用される元素であるが、最終製品において含有される必要はない。これら元素は製造過程の純化焼鈍において多くの割合が系外に排出される。Alは飽和磁束密度を低下させ、Nは磁気時効を引き起こすためゼロでも構わない。実用的な純化焼鈍能力とコストを考慮すると、酸可溶性Al:0.0001~0.005%、N:0.0001~0.005%である。
SおよびSeも前述の通り、製造過程においてインヒビターとして活用される元素であるが、最終製品において含有される必要はなくゼロでも構わない。これら元素は製造過程の純化焼鈍において多くの割合が系外に排出される。実用的な純化焼鈍能力とコストを考慮すると、S、Seとも0.0001~0.005%となる。
鋼板の上記成分以外の残部は、Feおよび不純物である。ここで、不純物元素とは、原材料に含まれる成分、または製造の過程で混入する成分であって、意図的に鋼板に含有させたものではない成分を指す。
本発明の方向性電磁鋼板では、製造過程の仕上焼鈍処理において、シリカを主成分として含有する酸化物層が、マグネシアを主成分として含有する焼鈍分離剤と反応して、鋼板の表面にフォルステライト(Mg2SiO4)等の複合酸化物を含むグラス皮膜が形成されている。
本発明の方向性電磁鋼板は、鋼板の板厚1/4から鋼板の中心までのCu等の濃度に対する、鋼板表面から板厚1/4までのCu等の濃度の比が1.02以上であることを特徴とする。
(Cu等の濃度の比)
鋼板の板厚1/4から鋼板の中心までのCu等の濃度に対する、鋼板表面から板厚1/4までのCu等の濃度の比は、酸洗で形成したこれらの元素の硫化物もしくはセレン化物による耐熱性向上効果を得るために必要な濃化度を示している。本発明の鋼板における前記元素群の濃化の効果は、二次再結晶において発揮され、製品板で発揮されるものではないが、表面付近における前記元素群濃化は、その後につづく純化過程でも解消されず残痕跡として残存しており、前記元素群度比が1.02以上である場合、表面における前記元素群が、インヒビターの耐熱性アップに寄与していることは明らかである。
(Cu等の濃度の比が1.02以上)
Cu等の濃度の比が1.02以上であるとは、前記元素群による表面インヒビターの耐熱性アップが達成された方向性電磁鋼板に特有の濃度勾配であり、二次再結晶前に、前記元素群による磁性改善効果が生じる程度の前記元素群濃化が果たされたとき、仕上焼鈍後の前記元素群濃度の比は1.02以上となる。この濃度比の上限は特に設定されないが、例えば、スラブ成分にCuを0.1%程度含む場合であって、Cu等濃度の比が2.0以上となる場合、酸洗行程におけるCu等の付着が過剰である場合があり、この場合、磁気特性の劣化によって本発明の範囲外となる。しかしながら、スラブの成分にCuを含まない場合は、Cu等の付着量が適当であっても、Cu等の濃度の比は10.00以上の、極端に高い値になりえる。そのため、前記元素群濃度の比の上限値は特に設定しないが、好ましくは、1.02~5.00である。
鋼板の板厚1/4から鋼板の中心までのCu等の濃度に対する、鋼板表面から板厚1/4までのCu等の濃度の比の測定方法は、以下のとおりである。
製造された電磁鋼板の絶縁被膜をアルカリによって除去した後、板厚1/4まで溶解してICP-MSで測定した前記元素群の合計量を、板厚1/4面を表出させた鋼板を板厚1/2まで溶解してICP-MS(誘導結合プラズマ質量分析計)で測定した前記元素群の合計量の値で除することによって求める。板厚1/4面を表出させる方法は、物理的あるいは化学的に研磨により減肉させて実施可能である。測定手順の詳細は、実施例の説明のところで、鋼板の板厚1/4から鋼板の中心までのCu等の濃度を、「内層Cu濃度」の測定手順、そして鋼板表面から板厚1/4までのCu等の濃度を、「外層Cu濃度」の測定手順として説明する。
[板厚]
本発明の方向性電磁鋼板の厚みは、0.1~0.5mmであることが好ましく、さらに好ましくは0.15~0.35mmである。
本発明に係る方向性電磁鋼板は、磁束密度の向上し、磁気特性が改善されている。
この効果は、方向性電磁鋼板の製造時に、特定の酸洗条件で酸洗を施したことによるインヒビター耐熱化、また酸洗工程後の、特定の工程中で、インヒビター成分を還元処理することでさらにインヒビターが耐熱化されたことに起因すると考えられる。
以下に、実施例を示しながら、本発明製造方法を用いて得られた方向性電磁鋼板について、より具体的に説明する。なお、以下に示す実施例は、本実施形態に係る方向性電磁鋼板のあくまでも一例に過ぎず、本実施形態に係る方向性電磁鋼板は、以下に示す実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
表1の組成のスラブを、1100℃の温度で熱間圧延して得られた熱延鋼板に対して焼鈍処理を実施し、その後、熱延鋼板に対して酸洗を実施した。熱延鋼板に対しての酸洗条件を表2に示す。
Figure 2022006215000001
Figure 2022006215000002
酸洗後の熱延鋼板に対して、冷間圧延を実施し、0.22mmの板厚を有する冷延鋼板を製造した。いずれの試験番号においても、冷延率は90.4%であった。冷延鋼板に対して、脱炭焼鈍を兼ねた一次再結晶焼鈍を実施した。一次再結晶焼鈍での焼鈍温度、保持時間はいずれの試験番号においても、同じとし、500~800℃までの昇温速度を表1に示す通りとした。
一次再結晶焼鈍後の冷延鋼板に対して、焼鈍分離剤の水性スラリーを塗布した。焼鈍分離剤の水性スラリーは、MgOと、MgOの質量を100%としたときの5%のTiO2、水とを混合して調整した。水性スラリーが表面に塗布された冷延鋼板に対して、いずれの試験番号においても900℃にて10秒焼付け処理を実施して、水性スラリーを乾燥した。焼付け後、仕上げ焼鈍処理を実施した。
仕上げ焼鈍処理では、いずれの試験番号においても、1200℃で20時間保持した。以上の製造工程により、母材鋼板とフォルステライト(Mg2SiO4)等の複合酸化物を含むグラス被膜とを有する方向性電磁鋼板を製造した。
製造された試験番号1~13の方向性電磁鋼板の母材鋼板に対して、磁気特性の測定とチェック分析を実施して、B8と母材鋼板の化学組成を求めた。求めたB8および化学組成を表3に示す。
(「内層Cu濃度」の測定手順)
酸洗にてフォルステライト(Mg2SiO4)等の複合酸化物を含むグラス被膜を除去した鋼板を、機械的に研磨して減肉し、板厚1/4層と板厚1/2層を表出させた後、JISG1258-2に記載の、ICP-MSによる定量分析を実施して内層Cu濃度を求めた。
(「外層Cu濃度」の測定手順)
酸洗にてフォルステライト(Mg2SiO4)等の複合酸化物を含むグラス被膜を除去した鋼板を、元の1/4の厚さになるまで片側から減肉し、表面と板厚1/4層が表出した試料をJISG1258-2に記載の、ICP-MSによる定量分析を実施して内層Cu濃度を求めた。
(「平均B8」と「内周-外周ΔB8」の測定手順)
仕上焼鈍後のコイルの払い出しにて、払出した鋼板の累計質量がコイル単重の1/10となったときの払出位置と、9/10となったときの払い出し位置をそれぞれ外周サンプル、内周サンプルとして、それぞれのB8を単盤磁気測定にて測定して求め、その平均値を「平均B8」とした。内周のB8から外周のB8を引いた値を、「内周―外周ΔB8」として求めた。
(「酸洗残り」の測定手順と評価)
酸洗不良によりスケールが残存している「酸洗残り」を、製品に酸洗残りによる押し傷が生じた場合を「×」とし、押し傷の無い場合を「〇」として評価した。
Figure 2022006215000003
試験番号2、3および5、6は、酸洗溶液中のCu等濃度が範囲外でありコイル全長での磁気特性偏差を改善する効果が得られなかった。
試験番号11は、pHが高すぎて、酸洗残りが生じ、製品板に押し傷が表れた。試験番号13は、酸洗溶液中のCu等濃度が範囲内であったが、PH2S/PH2の調整によるCu2Sの還元が不十分となり、十分な磁気特性改善効果が得られなかった。試験番号1、4、7~10、12、13は仕上げ焼鈍中の炉内雰囲気制御により、PH2S/PH2が範囲内となった。そのため、Cuの偏析効果が得られ、磁気特性が改善した。
(実施例2)
表4の組成のスラブを、1100℃の温度で熱間圧延して得られた熱延鋼板に対して焼鈍処理を実施し、その後、熱延鋼板に対して酸洗を実施した。熱延鋼板に対しての酸洗条件を表5に示す。
Figure 2022006215000004
Figure 2022006215000005
酸洗後の熱延鋼板に対して、冷間圧延を実施し、0.22mmの板厚を有する冷延鋼板を製造した。いずれの試験番号においても、冷延率は90.4%であった。冷延鋼板に対して、水素焼鈍を兼ねた一次再結晶焼鈍を実施した。一次再結晶焼鈍での焼鈍温度、保持時間はいずれの試験番号においても、同じとし、5400~800℃までの昇温速度を表4に示す通りとした。
一次再結晶焼鈍後の冷延鋼板に対して、焼鈍分離剤の水性スラリーを塗布した。焼鈍分離剤の水性スラリーは、MgOと、MgOの質量を100%としたときの5%のTiO2、さらに表3に示す成分、水とを混合して調整した。焼鈍分離剤の成分は表6に示す。
Figure 2022006215000006
水性スラリーが表面に塗布された冷延鋼板に対して、いずれの試験番号においても900℃にて10秒焼付け処理を実施して、水性スラリーを乾燥した。焼付け後、仕上げ焼鈍処理を実施した。仕上げ焼鈍処理では、いずれの試験番号においても、1200℃で20時間保持した。以上の製造工程により、母材鋼板とフォルステライト(Mg2SiO4)等の複合酸化物を含むグラス被膜とを有する方向性電磁鋼板を製造した。製造された試験番号1~27の方向性電磁鋼板の母材鋼板に対して、実施例1の場合と同様に磁気特性の測定とチェック分析を実施して、B8と母材鋼板のCuの化学組成を求めた。
(「内層Ni濃度」の測定手順)
酸洗にてフォルステライト(Mg2SiO4)等の複合酸化物を含むグラス被膜を除去した鋼板を、機械的に研磨して減肉し、板厚1/4層と板厚1/2層を表出させた後、JISG1258-2に記載の、ICP-MSによる定量分析を実施して内層Ni濃度を求めた。
(「外層Cu濃度」の測定手順)
酸洗にてフォルステライト(Mg2SiO4)等の複合酸化物を含むグラス被膜を除去した鋼板を、元の1/4の厚さになるまで片側から減肉し、表面と板厚1/4層を表出させた後、JISG1258-2に記載の、ICP-MSによる定量分析を実施して内層Ni濃度を求めた。
求めたB8および化学組成を表7に示す。
Figure 2022006215000007
試験番号1、4、5、8、9、11、15、18、19、26および27は、焼鈍分離剤中の還元剤が範囲外でありコイル全長での磁気特性偏差を改善する効果が得られなかった。試験番号2、3、6、7、10、12、14、20~25は焼鈍分離剤中の還元剤により、Cuが安定な硫化物に置き変わった。そのため、Cuの偏析効果が得られ、磁気特性が改善した。
また、試験番号13は、PH2S/PH2の調整と、焼鈍分離剤中の還元剤がいずれも範囲内であり、同様に磁気特性が改善した。
また、試験番号16は、PH2S/PH2の調整が範囲内であり、同様に磁気特性が改善し、昇温速度が高いため、特に著しくB8が向上した。
また、試験番号17は、昇温速度が高く、焼鈍分離剤中の還元剤と、PH2S/PH2がいずれも範囲内であり、同様に磁気特性が改善し、昇温速度が高いため、特に著しくB8が向上した。

Claims (5)

  1. 質量%で、少なくともC:0.005%以下、Si:2.5~4.0%を含有し、残部がFeおよび不純物であり、表面に、フォルステライト(Mg2SiO4)を含むグラス被膜が形成された方向性電磁鋼板であって、
    前記鋼板の板厚1/4から前記鋼板の中心までのCu、Hg、Ag、Pb、Cd、Co、ZnおよびNiの合計濃度に対する、鋼板表面から板厚1/4までのCu、Hg、Ag、Pb、Cd、Co、ZnおよびNiの合計濃度の比が1.02以上である方向性電磁鋼板。
  2. 質量%で、Si:2.5~4.5%、C:0.02~0.10%、酸可溶性Al:0.01~0.05%、N:0.003~0.02%、S+0.4*Se:0.005~0.04%、Mn:0.04~0.20%、Bi、Pbからなる群から選択される1種または2種以上の合計:0.0005~0.05%を含有し、残部がFeおよび不純物からなるスラブに、
    熱間圧延を施して、熱延板を得る工程、
    前記熱延板に酸洗を施して酸洗板を得る酸洗工程、
    前記酸洗板に冷間圧延を施して冷延鋼板を得る工程、
    前記冷延鋼板を、700~900℃で、水素雰囲気下で水素焼鈍する工程、
    前記水素焼鈍後の前記冷延鋼板の表面にMgOを含む焼鈍分離剤を塗布して、窒素と水素の混合ガス雰囲気下で仕上焼鈍する工程、
    を含む方向性電磁鋼板の製造方法であって、
    前記酸洗工程で、酸洗溶液が、Cu、Hg、Ag、Pb、Cd、Co、ZnおよびNiの群から選ばれる1種または2種以上の元素を含有し、各元素の濃度の合計が0.0001~0.1000質量%以下であり、pHが1.5以下であり、液温が15℃以上100℃以下であり、
    前記熱延板が前記酸洗溶液に浸漬される時間が、5秒以上200秒以下である、請求項1に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
  3. 前記仕上焼鈍工程の雰囲気ガスがH2SおよびH2から成り、400℃から900℃までの昇温過程において、少なくとも15分間、コイル状の冷延板間の雰囲気のPH2S/PH2比を4.0×10-5~4.0×10-3に制御する、請求項2に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
  4. 前記焼鈍分離剤に、Zn、Ga、希土類元素、アルカリ土類元素の化合物の群から選ばれる1種または2種以上の元素を合計で0.2~8.0質量%添加、請求項2または3に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
  5. 前記水素焼鈍工程の400℃から800℃の昇温を、400~4000℃/sの昇温速度で行う、請求項2~4のいずれか1項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
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