JP2021526550A - 有害傷害を阻害するための方法および組成物 - Google Patents

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Abstract

本発明は、対象の臓器に対する、虚血再灌流障害のような有害傷害の作用を阻害する方法であって、塩化亜鉛のような、亜鉛、または薬学的に許容されるその塩を、それを必要とする対象に投与するステップを含み、亜鉛、または薬学的に許容されるその塩が、有害傷害の作用を阻害するのに十分な量で、対象に血管内投与される、方法を提供する。【選択図】図10

Description

[0001]本発明は、全体的に、臓器に対する虚血および/または再灌流のような有害傷害の作用を阻害するための方法および組成物、より詳細には、亜鉛、または薬学的に許容されるその塩を、それを必要とする対象に血管内投与することにより、臓器に対する有害傷害の作用を阻害するための方法および組成物に関する。
[0002]臓器に対する有害傷害は、本質的に急性(例えば、虚血、虚血再灌流、薬物毒性、ショック、発作、敗血症、外傷、感染症、炎症)か、または慢性(例えば、高血圧、糖尿病、心不全、狼瘡、感染症、炎症)のいずれかであるが、臓器機能の減退から完全な臓器不全までの広範囲な有害作用を有し得る。異なる種類の有害傷害中で、虚血および虚血再灌流は、とりわけ、過剰な失血を防ぐために一過性の血管閉塞を必要とする外科的手技の状況で、または、血流が一時的に除去される移植において、特に問題があるとみなされる。
[0003]虚血は、一般に、臓器に供給する血管の狭窄(例えば動脈の狭窄)をもたらす、生理学的なプロセスもしくは病態生理学的プロセス、または外科的手技(例えば動脈のクランプ)の間のいずれかによる閉塞の結果としての、臓器に対する不十分な血液供給で特徴づけられている。血流の低下は臓器への酸素供給を低下させ、臓器の構造および/または機能に影響を及ぼす複雑な一連の生物学的事象を引き起こす。
[0004]いくつかの場合では、虚血の後に、再灌流とも呼ばれる血流の再開が続く。虚血再灌流は、ミトコンドリア酸化性リン酸化の変化、ATPの消耗、炎症、細胞内カルシウムの増加、ならびに、タンパク質キナーゼ、ホスファターゼ、プロテアーゼ、リパーゼ、およびヌクレアーゼの活性化のような、一連の有害な生物学的事象をもたらす酸化ストレスを起こす、過剰な量の活性酸素種(ROS)および活性窒素種(RNS)の生成をもたらす。これらは、次いで、細胞の機能および/または完全性の喪失をもたらす。独立した研究は、虚血再灌流により誘発される炎症反応が、組織および臓器損傷に大きく関与していることを示している。
[0005]虚血再灌流障害に対する典型的な短期的反応は、血管収縮、血栓症、および血管透過性の上昇、ならびに最終的に線維症をもたらす炎症反応の活性化を含む、血管のホメオスタシス機構の崩壊を含む。虚血に対する長期的な病態生理学的反応は、関与する臓器または虚血性事象の重症度によって異なる。例えば、脳内の虚血は、鬱病、てんかん発作、急性壊死、および遅延神経変性と関連している。数分超の間閉塞が起こる長期持続性虚血は、細胞死および恒常的な臓器損傷を生じ得ることも知られている。
[0006]虚血再灌流障害はまた、低酸素、発作、心臓発作、および臓器移植後の臓器損傷の程度を決定する重要な要素である。例えば、臓器移植において、虚血再灌流障害は、遅延移植片機能および免疫拒絶のエピソードをもたらす反応のカスケードの開始における主要な要因である。これらのエピソードは、次いで、移植片生存の長さの一つの最も重要な要素であると広く考えられており、遅延移植片機能の範囲と移植片の半減期との間で強い相関が認められている。急性拒絶を起こさない死体移植片の生存時間を延長することにおいては進歩がある一方で、遅延移植片機能のエピソードを有する死体移植片の生存時間を延長することにおいては、ほとんどまたは全く進歩がない。
[0007]いくつかの異なるアプローチが、虚血再灌流障害のような臓器に対する有害傷害の作用を処置または予防するために研究されている。臓器移植において、例えば、これらは、シクロスポリンおよびトリメタジジン、ムロモナブ−CD3(OKT3モノクローナル抗体)、ミコフェノール酸モフェチル、タクロリムスのような薬剤の投与、または導入療法を含む。しかし、これらの戦略は、遅延移植片機能のエピソードに罹患している死体移植片のレシピエントの生存率を改善することができない。
[0008]有害傷害の作用から臓器を保護するために利用されている他の戦略は、抗血小板剤(例えばアスピリン、アブシキシマブ)、抗凝血剤(例えばワルファリン、組織プラスミノーゲンアクティベーター(tPA))、抗炎症剤(例えばアスピリン)、利尿薬(例えばフロセミド)、血管拡張剤(例えばニトログリセリン、ACE阻害剤)、および抗高血圧薬(例えばアテノロール)の送達を含む。これらの薬物は、動脈閉塞に関与する原因因子を低減する一方で、虚血性傷害に対する保護をもたらさないと思われる。さらに、全ての患者が、部分的に、薬物非感受性、薬物毒性、薬物相互作用を含む因子、および他の危険因子(例えば出血)により、このような処置の利益を受けられない。薬物に基づく戦略に加えて、血管形成、動脈ステント留置、冠動脈バイパス、および血栓溶解薬(例えばtPA)での処置による血流の回復もまた、虚血性傷害に関連する有害作用を減らす試みにおいて採用されている。これらの処置は患者の予後を改善する可能性があるが、血管破裂の深刻な危険性、およびさらなる虚血性損傷、閉塞した血管の再狭窄または再閉塞で起こる遅延型の危険性を含む臓器損傷は依然として起こり、さらなる虚血性事象をもたらし得る。
[0009]臓器に対する有害傷害の作用を処置および/または予防するのに効果的な戦略を見出すことは、調整機構および炎症機構の複雑な相互作用を含む、有害傷害の性質および変動性に少なくとも部分的に起因する課題のままである。ゆえに、臓器に対する有害傷害の作用を阻害する方法に対する差し迫った必要性がある。
[0010]第一の態様では、本発明は、対象の臓器に対する有害傷害の作用を阻害する方法であって、亜鉛、または薬学的に許容されるその塩を、それを必要とする対象に投与するステップを含み、亜鉛、または薬学的に許容されるその塩が、有害傷害の作用を低下または阻害するのに十分な量で、対象に血管内投与される、方法を提供する。
[0011]第二の態様では、対象の臓器に対する有害傷害の作用を阻害するのに使用するための、亜鉛、または薬学的に許容されるその塩であって、有害傷害の作用を阻害するのに十分な量で、それを必要とする対象に血管内投与される、亜鉛、または薬学的に許容されるその塩を提供する。
[0012]第三の態様では、対象の臓器に対する有害傷害の作用を阻害するための医薬の製造における、亜鉛、または薬学的に許容されるその塩の使用であって、亜鉛、または薬学的に許容されるその塩が、有害傷害の作用を阻害するのに十分な量で、それを必要とする対象に血管内投与するために製剤化される、使用を提供する。
[0013]虚血の24時間前および4時間前に塩化亜鉛(ZnCl)を静脈内に与えたヒツジにおける、虚血60分後の血清クレアチニンレベル(μmol/L)(n=1〜4;0.1〜10mg/kg体重のZnCl)。片側の腎摘出を受ける24時間前および4時間前に、生理食塩水を静脈内に与えた、対照(n=4)(;p<0.05、対照に対して)。 [0014]虚血の24時間前および4時間前にZnClを静脈内に与えたヒツジにおける、虚血60分後の血清尿素レベル(mmol/L)(n=1〜4;0.1〜10mg/kg体重のZnCl)。片側の腎摘出を受ける24時間前および4時間前に、生理食塩水を静脈内に与えた、対照(n=4)(;p<0.05、対照に対して)。 [0015]虚血の24時間前および4時間前にZnCl(10mg/kg体重)を静脈内に与えたヒツジにおける、血清クレアチニンおよび血清尿素レベルに対する、曲線下面積(AUC)(**;p<0.05、対照に対して)。 [0016]虚血の24時間前および4時間前にZnCl(10mg/kg体重)、またはフラボノイド系酸化防止剤を静脈内に与えたヒツジにおける、虚血60分後の血清クレアチニンおよび尿素レベル。片側の腎摘出を受ける24時間前および4時間前に生理食塩水を静脈内に与えた対照(n=4)。 虚血の24時間前および4時間前にZnCl(10mg/kg体重)、またはフラボノイド系酸化防止剤を静脈内に与えたヒツジにおける、虚血60分後の血清クレアチニンおよび尿素レベル。片側の腎摘出を受ける24時間前および4時間前に生理食塩水を静脈内に与えた対照(n=4)。 虚血の24時間前および4時間前にZnCl(10mg/kg体重)、またはフラボノイド系酸化防止剤を静脈内に与えたヒツジにおける、虚血60分後の血清クレアチニンおよび尿素レベル。片側の腎摘出を受ける24時間前および4時間前に生理食塩水を静脈内に与えた対照(n=4)。 虚血の24時間前および4時間前にZnCl(10mg/kg体重)、またはフラボノイド系酸化防止剤を静脈内に与えたヒツジにおける、虚血60分後の血清クレアチニンおよび尿素レベル。片側の腎摘出を受ける24時間前および4時間前に生理食塩水を静脈内に与えた対照(n=4)。 [0017]腎区動脈(A)、および、その後の分析用に切除した腎組織(B)を介するヒト腎臓へのZnCl(50μM)の灌流を示す。切除組織への血液供給は、ZnCl溶液が投与される腎動脈により提供された。 [0018]ZnCl灌流されたヒト腎臓由来の組織での、低酸素誘導因子1−α(HIF−1α)タンパク質発現(n=2)。タンパク質発現は、ウェスタンブロットにより測定された。結果は、生理食塩水灌流のヒト腎臓における、HIF−1αタンパク質発現の百分率(%)として示される(n=2)。 [0019]24時間にわたってZnClで処置した、不死化したヒト腎尿細管性のHK−2腎細胞での、HIF−1αタンパク質発現(n=3;50μM)。サンプルは収集されて、HIF−1αタンパク質発現は、ウェスタンブロットにより決定された。発現のレベルは、ハウスキーピング遺伝子、グリセルアルデヒド3−リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)の発現に対して示される;;p<0.05。 [0020](A)塩化コバルト(CoCl;150μM)、または塩化亜鉛(ZnCl;50μM)に曝露した、ヒト腎癌腫細胞(ACHN)での、HIF−1α、HIF−2α、HIF−3α、pAKT、およびpMAPKタンパク質発現。結果は、ウェスタンブロットにより決定された、対照と比較したときの、ZnClに曝露した4時間後のヒト腎癌腫細胞でのHIF−1αおよびHIF−2αタンパク質発現の増加を示す。(B)図8(A)で示されるタンパク質発現データの定量化。(C)塩化コバルト(CoCl;150μM)、または塩化亜鉛(ZnCl;50μM)に曝露した正常なヒトの近位尿細管HK−2細胞での、HIF−1α、HIF−2α、HIF−3α、pAKT、およびpMAPKタンパク質発現。結果は、ウェスタンブロットにより決定された、対照と比較したときの、ZnClに曝露した4時間後のヒト腎癌腫細胞でのHIF−1αおよびHIF−2αタンパク質発現の増加を示す。(D)図8(C)で示されるタンパク質発現データの定量化。 (A)塩化コバルト(CoCl;150μM)、または塩化亜鉛(ZnCl;50μM)に曝露したヒト腎癌腫細胞(ACHN)での、HIF−1α、HIF−2α、HIF−3α、pAKT、およびpMAPKタンパク質発現。結果は、ウェスタンブロットにより決定された、対照と比較したときの、ZnClに曝露した4時間後のヒト腎癌腫細胞でのHIF−1αおよびHIF−2αタンパク質発現の増加を示す。(B)図8(A)で示されるタンパク質発現データの定量化。(C)塩化コバルト(CoCl;150μM)、または塩化亜鉛(ZnCl;50μM)に曝露した、正常なヒトの近位尿細管HK−2細胞での、HIF−1α、HIF−2α、HIF−3α、pAKT、およびpMAPKタンパク質発現。結果は、ウェスタンブロットにより決定された、対照と比較したときの、ZnClに曝露した4時間後のヒト腎癌腫細胞でのHIF−1αおよびHIF−2αタンパク質発現の増加を示す。(D)図8(C)で示されるタンパク質発現データの定量化。 (A)塩化コバルト(CoCl;150μM)、または塩化亜鉛(ZnCl;50μM)に曝露したヒト腎癌腫細胞(ACHN)での、HIF−1α、HIF−2α、HIF−3α、pAKT、およびpMAPKタンパク質発現。結果は、ウェスタンブロットにより決定された、対照と比較したときの、ZnClに曝露した4時間後のヒト腎癌腫細胞でのHIF−1αおよびHIF−2αタンパク質発現の増加を示す。(B)図8(A)で示されるタンパク質発現データの定量化。(C)塩化コバルト(CoCl;150μM)、または塩化亜鉛(ZnCl;50μM)に曝露した、正常なヒトの近位尿細管HK−2細胞での、HIF−1α、HIF−2α、HIF−3α、pAKT、およびpMAPKタンパク質発現。結果は、ウェスタンブロットにより決定された、対照と比較したときの、ZnClに曝露した4時間後のヒト腎癌腫細胞でのHIF−1αおよびHIF−2αタンパク質発現の増加を示す。(D)図8(C)で示されるタンパク質発現データの定量化。 (A)塩化コバルト(CoCl;150μM)、または塩化亜鉛(ZnCl;50μM)に曝露したヒト腎癌腫細胞(ACHN)での、HIF−1α、HIF−2α、HIF−3α、pAKT、およびpMAPKタンパク質発現。結果は、ウェスタンブロットにより決定された、対照と比較したときの、ZnClに曝露した4時間後のヒト腎癌腫細胞でのHIF−1αおよびHIF−2αタンパク質発現の増加を示す。(B)図8(A)で示されるタンパク質発現データの定量化。(C)塩化コバルト(CoCl;150μM)、または塩化亜鉛(ZnCl;50μM)に曝露した、正常なヒトの近位尿細管HK−2細胞での、HIF−1α、HIF−2α、HIF−3α、pAKT、およびpMAPKタンパク質発現。結果は、ウェスタンブロットにより決定された、対照と比較したときの、ZnClに曝露した4時間後のヒト腎癌腫細胞でのHIF−1αおよびHIF−2αタンパク質発現の増加を示す。(D)図8(C)で示されるタンパク質発現データの定量化。 [0021]ヒツジにおける、腎臓の虚血再灌流障害後の血清クレアチニンおよび尿素レベル。ヒツジは、一側性腎摘出を行い、腎虚血を60分間行った後、再灌流した。血清クレアチニン(A;μmol/L)、および血清尿素(B;mmol/L)は、Zn処置の前(ベースライン)、虚血の前(第0日)、および再灌流後7日間に測定した。ヒツジは、24時間のみ、もしくは4時間のみのいずれかでの0.5mg/kgのZnClの単回用量で、または、虚血60分の前の24時間および4時間での2回用量で予備調整された。データは、平均±SEM値(n=4、24時間のみの群n=1を除く)として表す。虚血の24時間前に1回、4時間前にもう1回の2回用量として投与される0.5mg/kgのZnClは、虚血の24時間前のみ、または4時間前のみのいずれかに与えられる単回用量と比較して、経時的なクレアチニン上昇を著しく低下させた(p<0.05)。 [0022]ヒツジにおける、腎臓の虚血再灌流障害後の血清クレアチニンおよび尿素レベル。ヒツジは、一側性腎摘出を行い、腎虚血を60分間行った後、再灌流した。ヒツジは、24時間のみ、もしくは4時間のみのいずれかでの0.5mg/kgのZnClの単回用量で、または、虚血60分の前の24時間および4時間での2回用量で、予備調整された。データは、平均±SEM値(n=4、24時間のみの群n=1を除く)として表す。虚血の24時間前に1回、4時間前にもう1回の2回用量として投与される0.5mg/kgのZnClは、虚血の24時間前のみ、または4時間前のみのいずれかに与えられる単回用量と比較して、経時的なクレアチニン(A)または尿素(B)上昇のいずれかを発現させた虚血性負荷量(曲線下面積)を著しく低下させた(p<0.05)。 [0023]心筋の持続的な虚血再灌流障害後のヒツジの左心室の環の断面。危険にさらされている心筋層の領域(淡い、エバンスブルー非染色、A)に対する、代表的なデジタル写真(塩化トリフェニルテトラゾリウム(TTC)染色、B)。未処置のヒツジと比較した場合、白色領域がないのは、亜鉛の予備調整による、心筋の虚血再灌流障害に対する保護を示す。 心筋の持続的な虚血再灌流障害後のヒツジの左心室の環の断面。危険にさらされている心筋層の領域(淡い、エバンスブルー非染色、A)に対する、代表的なデジタル写真(塩化トリフェニルテトラゾリウム(TTC)染色、B)。未処置のヒツジと比較した場合、白色領域がないのは、亜鉛の予備調整による、心筋の虚血再灌流障害に対する保護を示す。
[0024]本明細書を通して、文脈で別段の要求がない限り、語句「含む(comprise)」、または「含む(comprises)」もしくは「含む(comprising)」のような変形が、記述された要素もしくは整数、または要素もしくは整数の群を包含するが、他のいかなる要素もしくは整数、または要素もしくは整数の群も除外しないことを意味することは理解されよう。
[0025]いずれの先行出版物(もしくはそれに由来する情報)、または知られているいずれの問題に対する本明細書での言及も、その先行出版物(もしくはそれに由来する情報)、または知られている問題が、本明細書が関連する当該技術分野において、一般常識の一部を形成するという認識もしくは承認、または示唆のいずれかの形態ではなく、そのように取られるべきでもない。
[0026]本明細書で述べる全ての刊行物は、その全体が参照として本明細書に組み込まれる。
[0027]本明細書で使用される通り、単数形「1つ(a)」、「1つ(an)」および「その(the)」は、文脈で別段の指示が明確にない限り、複数の態様を含むことは留意されるべきである。ゆえに、例えば、「薬剤」に対する言及は、1つの薬剤、ならびに2つ以上の薬剤を含み、「組成物」に対する言及は、1つの組成物、ならびに2つ以上の組成物を含むなどである。
[0028]本発明は、亜鉛の血管内投与が、腎臓および心臓のような臓器を、虚血再灌流障害のような有害傷害の有害作用に対して保護することができるという、驚くべき知見に基づいている。したがって、第一の態様では、本発明は、対象の臓器に対する有害傷害の作用を阻害する方法であって、亜鉛、または薬学的に許容されるその塩を、それを必要とする対象に投与するステップを含み、亜鉛、または薬学的に許容されるその塩が、有害傷害の作用を阻害するのに十分な量で、対象に血管内投与される、方法を提供する。
有害傷害
[0029]用語「有害傷害」とは、本明細書で使用される場合、臓器に対して有害(harmful)または有害(injurious)である傷害を意味する。有害傷害の作用が、傷害の性質に応じて、いくつかの様式で現れ得ることは理解されよう。例えば、有害傷害の作用は、臓器に対する構造的な変化(例えば解剖学的変化および/または組織学的変化)として現れ得、その具体例は、炎症細胞浸潤、細胞肥大、細胞死(例えば壊死、プログラム細胞死)、および細胞外マトリックス沈着(すなわち瘢痕)の出現を含む。一実施形態では、有害傷害の作用は、プログラム細胞死(アポトーシス)または細胞壊死として現れる。アポトーシス、またはプログラム細胞死は、老化細胞、損傷細胞、または異常細胞を除去するための生理学的機構である。アポトーシスは、典型的には、エンドヌクレアーゼにより開始され、180〜200塩基対の倍数でDNAを断片化することを特徴とする。アポトーシス細胞は、マクロファージまたは隣接する細胞により取り込まれ、典型的にはタンパク質分解酵素または毒性酸素種を放出せず、炎症を伴わない。対照的に、壊死は、細胞の集団に影響を及ぼし、局所的な組織破壊、炎症、および多くの場合、重篤な全身的な影響をもたらす、病理学的プロセスである。
[0030]あるいは、または加えて、有害傷害の作用は、臓器の機能に対する変化として現れ得る。当業者は、機能的な変化の性質および/または程度が、影響される臓器ならびに有害傷害の性質および/または重症度に依存することは理解するであろう。例えば、腎臓に対する有害傷害は、血清クレアチニンの増加、血清尿素の増加、クレアチニンクリアランスの変化、またはその組合せとして現れ得る。臓器機能の変化を決定する方法は、当業者にはよく知られている。別の実施形態では、臓器に対する有害傷害の作用は、有害傷害に関連することが知られている生物マーカーの発現の変化により決定することができる。具体例は、好中球ゼラチナーゼ結合性リポカリン(NGAL)、腎障害分子−1(KIM−1)、およびN−アセチルグルコサミニダーゼ(NAG)であり、虚血性傷害によって増加する。
[0031]有害傷害は、当業者によく知られており、その具体例は、虚血、虚血再灌流障害、および造影剤により誘発される障害(例えば、造影剤誘発性腎症をもたらす)を含む。本明細書に開示される一実施形態では、有害傷害は、虚血である。本明細書の他の箇所で述べる通り、虚血とは、典型的には、臓器または組織に供給する血管の狭窄(例えば動脈の狭窄)をもたらす、生理学的なプロセスもしくは病態生理学的プロセス、または外科的手技(例えば動脈のクランプ、もしくは出血もしくは心不全を伴う低灌流)の間のいずれかによる血管閉塞の結果としての、臓器または組織に対する不十分な血液供給を記載するために使用される用語である。血流の低下により、臓器または組織の構造および/または機能に影響を及ぼす、複雑な一連の生物学的事象を引き起こす、臓器または組織への酸素の供給が低下する。虚血は、いくつかの原因事象のいずれかから生じ得、その具体例は、低酸素、発作、臓器不全(例えば心臓発作、腎臓不全)、および臓器移植を含む。
[0032]いくつかの例では、虚血の後に、血流の再開、または「再灌流」が続く。最初の虚血性傷害と、続く再灌流の組合せは、多くの場合、「虚血再灌流」と呼ばれる。理論または特定の適用様式に拘束されるものではないが、虚血再灌流による臓器または組織に対する障害は、ミトコンドリア酸化性リン酸化の変化、ATPの消耗、細胞内カルシウムの増加、ならびに、細胞の機能および/または完全性の喪失をもたらすタンパク質キナーゼ、ホスファターゼ、プロテアーゼ、リパーゼ、およびヌクレアーゼの活性化のような、一連の有害な生物学的事象をもたらす酸化ストレスを起こす、過剰な量の活性酸素種(ROS)および活性窒素種(RNS)の生成に、少なくとも部分的に起因する。本明細書に開示される一実施形態では、有害傷害は、虚血再灌流である。
[0033]虚血再灌流障害は、例えば、細動脈の内皮依存性拡張の障害、流体ろ過の亢進、毛細血管の白血球の蓄積、および、後毛細管小静脈の血漿タンパク質溢出として現れる、微小血管機能不全をもたらし得る。独立した研究は、微小循環での活性化した内皮細胞が、再灌流後の最初の期間には、酸素ラジカルをより多く生成するが、一酸化窒素をより少なく生成することを見出した。内皮細胞での超酸化物と一酸化窒素との間の不均衡は、炎症性メディエーター(例えば、血小板活性化因子、腫瘍壊死因子)の生成および放出、ならびに、白血球−内皮細胞付着を媒介する付着分子の増大した生合成をもたらすことができる。再灌流の結果放出される炎症性メディエーターはまた、最初の虚血性傷害を経験しなかった遠位臓器の内皮細胞を活性化すると思われる。虚血再灌流障害のこの遠位での反応は、多数の臓器機能不全の特性である、白血球依存性微小血管障害をもたらし得る。
[0034]用語「虚血性」とは、虚血、または虚血再灌流にある程度影響を受けた臓器、細胞、組織、またはサンプルを記載するために使用される。
[0035]本明細書に開示される一実施形態では、有害傷害は、温虚血である。温虚血とは、生理学的温度(例えば約36.5℃)での臓器への血流の閉塞を記載するために典型的に使用される用語である。別の実施形態では、有害傷害は、冷虚血である。冷虚血とは、臓器または組織の温度が、生理学的温度未満に下がる(例えば冷却される)場合の、虚血性事象を記載するために典型的に使用される用語である。これは、組織または臓器が、依然として体内に存在するか、または、身体から切除される後、例えば、臓器もしくは組織が、別の対象に移植される場合に起こり得る。臓器または組織の温度を下げることは、低温保存とも呼ばれるが、臓器または組織を冷却することが臓器内の酵素プロセスを阻害するので、低下した血液供給の存在下で細胞損傷の程度を下げるという原理に基づく。先行研究は、温度が10℃下がるごとに、代謝が2〜3分の1、減少することを示す。これは、アデノシン三リン酸(ATP)の消耗を示し、また、分解プロセス(リン脂質加水分解)を阻害する。しかし、低温条件下で、代謝率は依然として約10%を維持するので、経時的に、低酸素条件は、実質的な障害(冷虚血障害)を依然として引き起こすことができる。
[0036]有害傷害に曝露された任意の臓器が、本明細書に記載の方法の利益を受け、その具体例は、腎臓、心臓、肝臓、および脳を含むことは留意されたい。一実施形態では、対象の臓器は、腎臓、肝臓、心臓、および脳からなる群から選択される。さらなる実施形態では、対象の臓器は、腎臓および心臓からなる群から選択される。またさらなる実施形態では、対象の臓器は、腎臓である。またさらなる実施形態では、対象の臓器は、心臓である。
[0037]本明細書に開示される一実施形態では、有害傷害は、腎虚血(すなわち、腎臓に対する虚血性傷害)、または腎臓の虚血再灌流である。
[0038]本明細書に開示される別の実施形態では、有害傷害は外科的手技から生じる。虚血性障害の危険にさらされている臓器で行われる外科的手技の例は、当業者に知られている。いくつかの例では、外科的手技は、手技の間の血液の喪失を最小限にするか、または回避するように、臓器または組織へ血液を供給する脈管構造の活性な閉塞を必要とする。活性な血管の閉塞を必要とする外科的手技の種類は当業者に知られており、その具体例は、腎部分切除術の間の腫瘍切除、および移植用の臓器摘出を含む。本明細書に開示される一実施形態では、虚血は、腎腫瘍(例えば腎細胞癌腫)の切除の間に起こる。例えば、腎腫瘍の切除は、典型的には、観血的手術または腹腔鏡手術による腎部分切除術を必要とし、腎門は、出血過多を予防し、正確な腫瘍切除、腎盂腎杯縫合修復、および、実質的な止血を確実にするための十分な時間を可能にするためにクランプさせる。本明細書に開示される一実施形態では、有害傷害は、腎臓移植の間のドナー腎臓に対するものである。これは、例えば、死体ドナーの死亡時の血流の停止、続く移植のためにドナー(生体もしくは死体)からドナー腎臓を切除する前の、(例えば腎動脈のクランプを介する)インサイチュでのドナー腎臓への血液供給の閉塞、ドナーからの切除に続くドナー腎臓への血流の停止、またはその組合せのような、ドナー腎臓への血液供給が遮断させる、中断させる、または制限させる場合に起こり得る。
[0039]別の実施形態では、有害傷害は、造影剤により誘発される毒性である。造影剤は、腎臓内の異なる解剖部位で作用し、腎臓の近位尿細管細胞での直接的な細胞毒性作用、活性酸素種による細胞損傷の亢進、および腎臓の血流に対する抵抗性の上昇を含む、多数の機構を介して有害作用を及ぼすことが示される。これらはまた、特に外髄質のより深い部分で腎血管収縮を悪化させることが示されており、これは、先行する異常血管の病理生理を悪化させ得る。
[0040]本明細書で使用される場合、有害傷害の作用に対して、用語「阻害する」とは、有害傷害に少なくとも部分的に起因する対象の臓器に対する損傷の、任意の低減、減少、弱化、縮小、または逆転を指し、任意のこのような阻害は、一過性、部分的、または完全であるかのいずれかである。有害傷害に少なくとも部分的に起因する臓器に対する損傷の程度は、当業者に知られている方法により決定させることができる。このような方法は、評価される臓器の種類に依存する可能性がある。具体例として、虚血再灌流のような有害傷害の結果としての腎臓の損傷は、腎機能の変化により評価されることができ、これは、対象における血清クレアチニンおよび/または血清尿素の濃度の変化として現れ得る。別の具体例では、対象の脳組織の損傷は、認知機能の変化により評価されることができる。また別の具体例では、有害傷害の結果としての臓器の損傷は、組織壊死、および/または細胞アポトーシスの存在のような臓器の組織学的変化により評価され得る。臓器に対する組織学的変化を評価するための方法は、当業者によく知られており、その具体例は、本明細書の別の箇所に記載される通り、免疫細胞化学(例えば細胞アポトーシスのマーカーの染色)、ならびに組織学的染色(例えばエバンスブルー、ヘマトキシリン、およびエオシン)の使用を含む。
亜鉛
[0041]本明細書の他の箇所で述べる通り、本発明者らは、驚くべきことに、対象に対する亜鉛の血管内投与が、対象の腎臓のような対象の臓器を、虚血または虚血再灌流のような有害傷害の有害作用から保護するということを見出した。形態が、亜鉛、または薬学的に許容されるその塩を、それを必要とする臓器に送達するのに適している限り、亜鉛、または薬学的に許容されるその塩の任意の形態が、本発明にしたがって対象に投与されることができることは理解されるべきである。
[0042]亜鉛、または薬学的に許容されるその塩の好適な形態は、当業者に知られている。具体例は、亜鉛の有機塩および無機塩、例えば、鉱酸(塩酸、硫酸、リン酸など)、有機酸(例として、酢酸、リンゴ酸、フマル酸など)、組合せ塩(例として、炭酸/水酸化物塩、アンモニウム塩、キレートなど)に由来する亜鉛塩を含む。本明細書に開示される方法はまた、その有機塩および無機塩を含む、亜鉛の様々な組合せを想定する。
[0043]用語「無機亜鉛」とは、本明細書で使用される場合、二価カチオンZn2+、およびその無機塩を指す。無機亜鉛の好適な形態は、当業者に知られており、その具体例は、塩化亜鉛(ZnCl)、四塩基性塩化亜鉛(ZnCl(OH))、酸化亜鉛(ZnO)、硫酸亜鉛(ZnSO)、および四塩基性塩化亜鉛(ZnCl(OH))を含む。元素亜鉛の百分率は、このような形態では異なり得る。例えば、硫酸亜鉛のおよそ23%は、元素亜鉛を含む。ゆえに、220mgの硫酸亜鉛は、約50mgの元素亜鉛を含有する。
[0044]用語「有機亜鉛」は、本明細書で使用される場合、有機亜鉛複合体、ならびに亜鉛タンパク質化合物、亜鉛キレート化合物、ならびに有機分子および化合物との塩、ならびに亜鉛アミノ酸複合体を指す。有機亜鉛の好適な形態は、当業者に知られており、その具体例は、亜鉛ヒスチジン、亜鉛メチオニン(ZnMet)、亜鉛リシン(ZnLys)複合体、酢酸亜鉛(Zn(OCCH)、アスコルビン酸亜鉛(C1214ZnO12)、アスパラギン酸亜鉛(C10ZnH)、酪酸亜鉛(Zn(C))、炭酸亜鉛(ZnCO)、クエン酸亜鉛(Zn(C)、グルコン酸亜鉛(Zn(C122214))、グリシン酸亜鉛(CZn)、ヒスチジン酸亜鉛(C1216Zn)、ケトグルタル酸亜鉛(CZn)、乳酸亜鉛(Zn(C5)、リンゴ酸亜鉛(CZn)、ピコリン酸亜鉛(C12Zn)、プロパン酸亜鉛(C10Zn)、ステアリン酸亜鉛(C3670Zn)、および、コハク酸亜鉛(CZn)を含む。無機亜鉛塩のように、元素亜鉛の百分率は、これら形態では異なり得る。例えば、アルギニン酸亜鉛では、300mgは、約30mgの元素亜鉛をもたらす。
[0045]本明細書に開示される一実施形態では、亜鉛は、塩化亜鉛の形態で投与される。
[0046]一実施形態では、亜鉛、または薬学的に許容されるその塩は、好適な溶液として対象に投与される。溶液は、亜鉛、または薬学的に許容されるその塩、ならびに生理食塩水溶液または血漿のような、典型的な血管内投与で使用される標準的な液体担体から形成され得る。
[0047]好ましくは、亜鉛、または薬学的に許容されるその塩は、過剰な量の亜鉛に典型的には関連するいかなる有害作用(すなわち亜鉛毒性)も回避しながら、投与される用量が、本明細書で「治療有効量」とも呼ばれる、有害傷害の作用を阻害するのに十分な量の亜鉛をもたらすように制御されることが可能な形態で投与される。
[0048]米国科学アカデミー(NAS)は、男性に対して11mg/日の亜鉛に対する推奨栄養所要量(RDA)を概算し、これは、平均的な成人男性(70kg)に対して1日当たり0.16mg/kg体重に等しい。女性に対しては、RDAは、8mg/日として概算し、すなわち、平均的な成人女性(60kg)に対して0.13mg/kg体重である。より低い亜鉛摂取量は、幼児(2〜3mg/日)、および小児(5〜9mg/日)に推奨されている。RDAが、人口の大部分に対して十分な栄養状態のレベルを提供する目的としながら、亜鉛の超過した食事性レベルは、妊娠期および授乳期の女性に推奨され、11〜12mg/日のRDAが、妊娠女性に設定され、12〜13mg/日が、授乳女性に設定されている。
[0049]亜鉛の食事性(経口)投与が、吸収、分布、代謝、およびクリアランスにおいて、大きな変動を受けることは留意されたい。血漿では、例えば、亜鉛の3分の2はアルブミンと結合しており、亜鉛の代謝的に活性なプールを呈する。アルブミンが組織に結合した亜鉛を放棄する能力を有するので、血漿亜鉛のこのプールは、ゆるく結合した亜鉛と頻繁に呼ばれる。亜鉛の排出は、膵臓により大きく促進され、便内に行われる(75%)が、便は、未吸収の亜鉛、ならびに胆汁および膵臓分泌物を含有する。亜鉛の他の25%は、腎クリアランスにより(すなわち、尿を通して)排除される。亜鉛の便排出は、亜鉛の摂取が増加すると増加することが示される一方、亜鉛の腎クリアランスは、正常な腎機能の対象において比較的安定している(腎クリアランスは、腎機能が低下した患者では10倍に高まる可能性がある)。排出の副次的な経路は、唾液分泌、脱毛、および汗である。亜鉛が保存されないので、吸収とクリアランスとの間のバランス(ホメオスタシス)は、広範囲の亜鉛依存する機能の維持に必須である。ゆえに、既存の亜鉛の食事摂取は、腎臓に対する有害傷害の作用を阻害するのに必要な、治療有効量の亜鉛の適切な制御を行うことはできない。
[0050]食事摂取による治療有効量の亜鉛に対する不適切な制御はまた、RDAより高い亜鉛の蓄積から生じる、亜鉛毒性の容認できない危険性が存在することも意味する。成人では、50mgの亜鉛/日の高い摂取が、銅の代謝に影響を及ぼすと思われるが、例えば、25〜35mg/日での亜鉛の補給用量は、十分な許容性を示すと思われる。豪州国立保健医療研究評議会(NHMRC)は、亜鉛に対するRDAの上限を、40mg/日に設定している。米国環境保護庁(US EPA)は、銅および鉄状態に対する経口亜鉛補給の効果の臨床試験から報告された最小毒性量(LOAEL)に基づいて、亜鉛に対して0.3mg/kg/日の経口基準用量(RfD)を設定している。RfDは、ヒト集団(罹患しやすい下位集団を含む)に対する、生涯にわたって健康に対する有害作用の顕著な危険を伴わないと考えられる1日経口曝露の概算量であるが、70kgの男性に対して21mgの亜鉛、60kgの女性に対して18mgに相当し、いくつかの例では、WHOにより推奨される許容される1日の推奨摂取量より高い。一方、米国食品栄養委員会は、許容される摂取上限レベル(UL)を、19歳超の成人に対して40mg/日と設定する。ULは、人口の97〜98%を保護するために設計された毒性危険性の評価値の別の形態である。
[0051]上記で概説した通り、RDA値、RfD値、およびUL値の間には明らかな矛盾があり、これは、主に、亜鉛の状態をヒトの健康の正常な状態と関連付ける能力、ならびに、軽度から中等度の亜鉛欠乏および毒性エンドポイントの検出における大きな不確実性を反映しているからである。それにもかかわらず、RDAとRfDとの比較は、亜鉛の安全な用量と安全ではない用量との間に余地はほとんどないという事実を指摘する。亜鉛の安全ではない用量は、急性または慢性の亜鉛毒性をもたらし得る。急性亜鉛毒性の症状は、腹痛、悪心、および嘔吐を含む。他に報告された効果は、嗜眠、貧血、およびめまいを含む。ヒトでは、食事性亜鉛の急性毒性作用は、およそ200mg以上の用量で起こることが示された。ESOD(赤血球スーパーオキシドジスムターゼ)活性もまた、銅の状態の測定であるが、50mg/日以上で12日間の補給の後に低下することが示された。50mg/日で最大10週間の食事性亜鉛サプリメントは、ヘマトクリットおよび血清フェリチンの低下をもたらす。100mg/日超の投与量は、HDL:LDLコレステロールの改変された比をもたらす。慢性亜鉛摂取に関連する銅欠乏および鉄芽球性貧血は、26.6〜40mg/日で少なくとも2年間、非処方の亜鉛サプリメントを摂取した個人において報告された。
[0052]亜鉛は、50mg/日以上の補給用量で、鉄および銅の取込みに影響を及ぼす。ゆえに、高用量の亜鉛の長期的な使用(慢性亜鉛毒性)は、銅の二次的な欠乏をもたらし、その症状は、低銅血、鉄動員障害、貧血、白血球減少、好中球減少、スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)の低下(特に、赤血球SOD(ESOD))、セルロプラスミンの低下、シトクロムCオキシダーゼの低下、血漿コレステロールの増加、LDL:HDLコレステロールの増加、グルコースクリアランスの減少、メチオニンおよびロイシンエンケファリンの低下、心機能の異常、ならびに、膵酵素、アミラーゼおよびリパーゼの障害を含む。過剰な亜鉛が、アテローム発生性であることも示唆される。
[0053]亜鉛毒性の他の症状は、腎毒性(例えば、腎不全および軽度のアルブミン尿症を伴わない顕微鏡的血尿、逆行性腎病変、重症のびまん性ネフローゼ、糸球体および近位尿細管における上皮細胞損傷、血漿クレアチニンおよび尿素レベルの上昇、タンパク質性円柱を伴う腎尿細管拡張、ならびにヘモシデリン沈着)、神経毒性(例えば、嗜眠、立ちくらみ、ふらつき、明確に書くことの困難さ、不安、鬱病、傾眠、昏睡、神経細胞死およびグリア細胞死)、肝毒性(例えば、肝酵素活性の一過性の増加、重症の胃腸消耗に関連する)、心血管毒性(例えば、心房性早期収縮、血管内容量に続発する高血圧、血液量減少性ショック(1分当たり120拍超の脈拍)および高血圧)、癌原性、ならびに遺伝子毒性を含む。初期の報告は、大量(30,000mg以上)の硫酸亜鉛の経口摂取に由来する亜鉛過剰投与は、死をもたらす可能性があることを示す。約2,000〜4,000mg/日のより少ない用量のグルコン酸亜鉛は、貧血(亜鉛誘発性銅欠乏症に一致)、重症のネフローゼ、悪心、嘔吐、脱水、電荷質平衡異常、めまい、嗜眠、および協調運動失調、上腹部痛、ならびに腹痛をもたらす。
[0054]いくつかの亜鉛化合物(1日当たり186〜623mgの亜鉛/kg体重の範囲)のLD50値は、ラットおよびマウスで決定されている。ラットでは、酢酸亜鉛が、最も致死的な試験化合物であり、硝酸亜鉛、塩化亜鉛、および硫酸亜鉛(毒性の低い順)は、致死性がより低かった。マウスでは、最も致死的な化合物は、酢酸亜鉛であり、続いて、硝酸亜鉛、硫酸亜鉛、および塩化亜鉛であった。3〜13日間の食事で、酸化亜鉛として1日当たり390mgの亜鉛/kg体重の摂取は、3匹のフェレット中3匹で致死的だった。ヒトにおける同等の用量は、およそ27,000mg/日である。死亡率もまた、3か月間、飲用水中、酢酸亜鉛として191mgの亜鉛/kg/日を摂取するラットにおいて観察される。
[0055]上記で概説した通り、亜鉛の現在の食事摂取は、吸収、代謝、およびクリアランスにおける差に少なくとも部分的に起因した治療で利用可能な量に対する不適切な制御に悩まされ、その速度は、個体によって異なる可能性がある。亜鉛の皮下投与もまた、主に動物モデルにおいて記載されている。しかし、皮下投与が、経口投与と比較して、治療で利用可能な量の亜鉛に対するある種の制御をもたらしながら、皮下デポー剤からの吸収率における差を解消することが一般に難しいので、治療で利用可能な量の亜鉛に対する不適切な制御にさらに悩まされる。食事性(経口)または皮下投与による、治療で利用可能な量の亜鉛に対する不適切な制御は、不十分な量の亜鉛(すなわち治療有効量不足)、または過剰な量の亜鉛(すなわち亜鉛毒性)に関連する対象に対して、容認できない危険を招く。
[0056]本発明者らは、関心臓器に血管内(例えば、静脈内および/または動脈内)投与される亜鉛が、(すなわち有害傷害の作用を阻害するために)治療有効量の亜鉛に対するより正確な制御をもたらすので、少なくとも一部の亜鉛毒性の有害作用を回避するか、または最小限にするように使用することができることを示す。さらに、いくつかの例では、より高用量の亜鉛が、有害傷害の作用に対して腎臓を保護することができず、他の例では、有害傷害の有害作用を悪化し得ることが、本明細書で初めて示されている。ゆえに、好ましい実施形態では、本明細書に開示される方法にしたがう、対象に投与される亜鉛の量は、好ましくは、過剰な量の亜鉛に関連する有害作用を回避しながら、有害傷害の作用を阻害するのに効果的な量(すなわち治療有効量)をもたらすように制御される。
[0057]亜鉛、または薬学的に許容されるその塩は、当業者に知られている任意の手段により、血管内投与され得る。血管内投与の好適な様式は、当業者に知られており、その具体例は、静脈内投与および/または動脈内投与を含む。一実施形態では、方法は、亜鉛、または薬学的に許容されるその塩を、対象に静脈内投与するステップを含む。別の実施形態では、方法は、亜鉛、または薬学的に許容されるその塩を、対象に動脈内投与するステップを含む。本明細書に開示される一実施形態では、亜鉛、または薬学的に許容されるその塩は、注入により、例えば、腎臓脈管構造(例えば腎動脈)のような、目的の臓器の脈管構造への直接注入(例えば灌流)により、血管内投与される。別の実施形態では、亜鉛、または薬学的に許容されるその塩は、例えば、末梢静脈または中心静脈を介した間接注入により、血管内投与される。投与は、腹腔鏡下または観血的手術の間のいずれか、および、虚血性傷害の前に行うことができる。本明細書に開示される一実施形態では、亜鉛、または薬学的に許容されるその塩は、臓器へ灌流を介して投与される。本明細書に開示される別の実施形態では、亜鉛、または薬学的に許容されるその塩は、末梢静脈および/または中心静脈を介して投与される。
[0058]亜鉛の治療有効量は、例えば、吸収、代謝、およびクリアランスの速度を考慮して、亜鉛の生物学的利用能に影響を及ぼし得る、対象の年齢、体重、ならびに健康状態(例えば、急性または慢性腎障害、糖尿病、および高血圧のような既存の疾患または状態)のような因子によって変更する。
[0059]1mg/kg体重以上の量で血管内投与される亜鉛が、腎臓に対する虚血再灌流障害の有害作用を阻害するようにみえないことが見出されている。例えば、1mg/kg体重以上の量で投与される亜鉛は、血清クレアチニンおよび血清尿素レベルにより決定される通り、虚血再灌流障害に続く腎機能を改善しなかった。さらに、さらにより多量(2.5mg/kg体重または10mg/kg体重)で投与される亜鉛は、虚血再灌流障害に続く腎機能を悪化させた。ゆえに、本発明者らは、驚くべきことに、いくつかの例で、腎臓に対する有害傷害の作用を阻害する治療有効量をもたらす、(例えば灌流を介して)血管内投与され得る、亜鉛の範囲の上限が存在し得ることを見出した。
[0060]本明細書に開示される一実施形態では、亜鉛、または薬学的に許容されるその塩は、1.0mg/kg体重未満の量で、血管内投与される。本明細書に開示される別の実施形態では、亜鉛、または薬学的に許容されるその塩は、約0.1mg/kg体重〜約0.9mg/kg体重、好ましくは約0.1mg/kg体重〜約0.8mg/kg体重、好ましくは約0.1mg/kg体重〜約0.7mg/kg体重、好ましくは約0.2mg/kg体重〜約0.9mg/kg体重、好ましくは約0.2mg/kg体重〜約0.8mg/kg体重、好ましくは約0.2mg/kg体重〜約0.7mg/kg体重、好ましくは約0.3mg/kg体重〜約0.9mg/kg体重、好ましくは約0.3mg/kg体重〜約0.8mg/kg体重、または、好ましくは約0.3mg/kg体重〜約0.7mg/kg体重からなる群から選択される量で、血管内投与される。本明細書に開示される別の実施形態では、亜鉛、または薬学的に許容されるその塩は、約0.5mg/kg体重の量で、血管内投与される。
[0061]本明細書に記載される通り、対象における亜鉛の治療有効量を設定する投与量範囲の上限を表している、亜鉛、または薬学的に許容されるその塩の量が、決定的ではなく、限定されないが、対象の年齢、体重、全身の健康状態、および有害傷害に対する保護が望ましい臓器のような因子に依存する可能性があることは理解されたい。上限は、亜鉛、または薬学的に許容されるその塩が、治療効果がほとんどないか、全くない(または、有害傷害の作用を低下させ得る)ものより高いが、当業者により容易に決定される概算であり得る。例えば、予備的研究は、ある範囲の用量を、健康な対象のコホート(対照)、および、血管閉塞が必要とされる腎臓で手術を受ける対象のコホートに投与することにより行うことができる。次いで、分析は、血管閉塞および/または続く再灌流による有害傷害の作用をほとんど阻害しないか、全く阻害しない(または、有害傷害の作用を低下させる)用量を確認するために行うことができる。これは、有害傷害に影響を受ける腎機能または他のパラメーター(例えば、アポトーシス細胞の数、または、低酸素誘導因子1−α、好中球ゼラチナーゼ結合性リポカリン(NGAL)、腎障害分子−1(KIM−1)、N−アセチル−グルコサミニダーゼ(NAG)、NephroCheck(インスリン様増殖因子結合タンパク質7;IGFBP7の存在を検出する)、および、尿中のメタロプロテナーゼの組織インヒビター(例えばTIMP−2)(急性腎障害に関連する)のような因子の発現)を測定することにより確認することができる。
[0062]本明細書の他の箇所で述べる通り、本発明者らは、血管内投与される亜鉛が、腎臓および心臓のような臓器を、虚血再灌流のような続く有害傷害の有害作用から保護することを示した。ゆえに、有害傷害が予測されてもされなくても、有害傷害の前に亜鉛、または薬学的に許容されるその塩が投与されるべきであることは、当業者なら理解されよう。例えば、いくつかの例では、有害傷害は、腎動脈のクランプが出血過多を予防するために必要な場合のような、対象が腎臓の手術を受ける場合で予測される。この例では、亜鉛、または薬学的に許容されるその塩は、腎臓脈管構造のクランプによる虚血性傷害の前に投与される。ゆえに、一実施形態では、方法は、亜鉛、または薬学的に許容されるその塩を、それを必要とする対象に投与するステップを含み、亜鉛、または薬学的に許容されるその塩が、有害傷害の作用を阻害するのに十分な量で、対象に血管内投与され、有害傷害の前に対象に投与される。亜鉛、または薬学的に許容されるその塩の、対象に対する投与と、有害傷害の発症との間の期間は、投与される亜鉛の濃度、ならびに対象の年齢、体重、および健康のような因子を考慮して、変更する。治療有効量の亜鉛が、本明細書に記載される通り、有害傷害の有害作用を阻害するため、有害傷害の発症時に依然として存在することを確実にするために、期間は、選ばれるべきである。期間は、当業者により決定することができる。いくつかの実施形態では、亜鉛、または薬学的に許容されるその塩は、有害傷害前の36時間以内に、好ましくは1時間以内に、好ましくは2時間以内に、好ましくは3時間以内に、好ましくは4時間以内に、好ましくは5時間以内に、好ましくは6時間以内に、好ましくは7時間以内に、好ましくは8時間以内に、好ましくは9時間以内に、好ましくは10時間以内に、好ましくは11時間以内に、好ましくは12時間以内に、好ましくは13時間以内に、好ましくは14時間以内に、好ましくは15時間以内に、好ましくは16時間以内に、好ましくは17時間以内に、好ましくは18時間以内に、好ましくは19時間以内に、好ましくは20時間以内に、好ましくは21時間以内に、好ましくは22時間以内に、好ましくは23時間以内に、好ましくは24時間以内に、または好ましくは有害傷害の24時間前に、対象に投与される。本明細書に開示される別の実施形態では、亜鉛、または薬学的に許容されるその塩は、有害傷害前の4時間以内に対象に投与される。
[0063]いくつかの例では、多回用量が、亜鉛、または薬学的に許容されるその塩の治療有効量を達成する必要があることは理解されよう。用量の数は、例えば、用量が、本明細書に記載される通り、有害傷害の有害作用を阻害するのに適切であるかどうかの観察を行うことにより、当業者により容易に決定することができる。多回投与が必要とされるか、または望ましい場合、用量の数が、投与される製剤の亜鉛、または薬学的に許容されるその塩の濃度のような因子に依存することは理解されよう。例えば、亜鉛の比較的低い濃度に対して、より多数の用量は、亜鉛のより高い濃度を含む製剤と比較して、単回用量がそれを必要とする対象で亜鉛の治療有効量を達成するのに十分であり得る場合に必要である可能性がある。多回用量レジメンの各用量間の期間は、例えば、1時間、2時間、3時間、4時間、5時間、6時間、7時間、8時間、9時間、10時間、11時間、12時間、13時間、14時間、15時間、16時間、17時間、18時間、19時間、20時間、21時間、22時間、23時間、および/または24時間に変更することができる。ゆえに、一実施形態では、本明細書に開示される方法は、少なくとも2回用量の亜鉛、または薬学的に許容されるその塩を、それを必要とする対象に血管内投与するステップを含む。「少なくとも2回用量」とは、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11回用量などを意味する。ゆえに、一実施形態では、本明細書に開示される方法は、少なくとも2回用量、好ましくは少なくとも3回用量、好ましくは少なくとも4回用量、好ましくは少なくとも5回用量、好ましくは少なくとも6回用量、好ましくは少なくとも7回用量、好ましくは少なくとも8回用量、好ましくは少なくとも9回用量、および、より好ましくは少なくとも10回用量の亜鉛、または薬学的に許容されるその塩を、それを必要とする対象に投与するステップを含む。一実施形態では、多回用量レジメンの各用量間の期間は、約1時間、好ましくは約2時間、好ましくは約3時間、好ましくは約4時間、好ましくは約5時間、好ましくは約6時間、好ましくは約7時間、好ましくは約8時間、好ましくは約9時間、好ましくは約10時間、好ましくは約11時間、好ましくは約12時間、好ましくは約13時間、好ましくは約14時間、好ましくは約15時間、好ましくは約16時間、好ましくは約17時間、好ましくは約18時間、好ましくは約19時間、好ましくは約20時間、好ましくは約21時間、好ましくは約22時間、好ましくは約23時間、および、より好ましくは約24時間である。特定の実施形態では、亜鉛、または薬学的に許容されるその塩は、有害傷害前の約36時間以内に、好ましくは約24時間以内に、2分割した用量で対象に投与される。本明細書に開示される一実施形態では、亜鉛、または薬学的に許容されるその塩は、有害傷害の約24時間前および約4時間前に、2分割した用量で対象に投与される。
[0064]臓器での有害傷害の作用を阻害するという点で、少なくとも2分割した投与の亜鉛、または薬学的に許容されるその塩を投与することにより、著しい利点を達成できることが、予想外に見出された。しかし、いくつかの例では、この利益を達成するために必要である投与の数に対して上限が存在し得る。すなわち、特定の数を超えた投与では、さらなる利点は得られない。ゆえに、いくつかの実施形態では、過剰投与の危険を冒し得るように、多回用量レジメンを介して、亜鉛、または薬学的に許容されるその塩を投与する必要はない。いかなる特定の理論または作用様式によっても拘束されるのを望むものではないが、亜鉛、または薬学的に許容されるその塩の1回目の投与が、亜鉛、または薬学的に許容されるその塩の2回目以降の用量に対して改善されるか、または最適な反応のために、臓器を「刺激する」と仮定されている。
[0065]本明細書に開示される一実施形態では、方法は、2〜5用量の亜鉛、または薬学的に許容されるその塩を対象に投与するステップを含む。別の実施形態では、本明細書に開示される方法は、有害傷害前の36時間以内に、2〜5用量の亜鉛、または薬学的に許容されるその塩を対象に投与するステップを含む。
[0066]特定の実施形態では、本明細書に開示される方法は、有害傷害前の36時間以内に、2、3、または4分割した用量の亜鉛、または薬学的に許容されるその塩に関する。好適には、前述した期間のいずれか以内に、2分割した投与である。
[0067]他の実施形態では、有害傷害前の36時間以内の亜鉛、または薬学的に許容されるその塩の用量は、有害傷害前の30時間、28時間、26時間、または約24時間以内に投与される。
[0068]好ましい実施形態では、第一の用量の亜鉛、または薬学的に許容されるその塩は、有害傷害の36〜12時間前の間に、対象に投与され、第二の用量は、有害傷害の1〜10時間前の間に投与される。
[0069]特定の実施形態では、第一の用量は、有害傷害の30〜18時間前の間に投与され、第二の用量は、有害傷害の2〜6時間前の間に投与される。
[0070]第一の用量は、有害傷害の28〜20時間前の間に投与され得、第二の用量は、有害傷害の3〜5時間前の間に、例えば、第一の用量に対して有害傷害の約24時間前、および第二の用量に対して有害傷害の約4時間前に、投与される。
[0071]したがって、別の実施形態では、対象の臓器に対する有害傷害の作用を阻害する方法であって、亜鉛、または薬学的に許容されるその塩を、それを必要とする対象に投与するステップを含み、亜鉛、または薬学的に許容されるその塩が、有害傷害の作用を阻害するのに十分な量で、対象に血管内投与され、有害傷害前の36時間以内に、少なくとも2分割だが5分割未満の用量で投与される、方法を提供する。一実施形態では、方法は、亜鉛、または薬学的に許容されるその塩を、対象に静脈内投与するステップを含む。別の実施形態では、方法は、亜鉛、または薬学的に許容されるその塩を、対象に動脈内投与するステップを含む。
[0072]用量の回数、投与のタイミング、投与間の時間、および各用量で供給される量は、前述した通り、異なり得る。
[0073]特定の実施形態では、2分割した分量は、投与される。例えば、第一の用量の亜鉛、または薬学的に許容されるその塩は、有害傷害の36〜12時間前の間に、対象に投与され得、第二の用量は、有害傷害の1〜10時間前の間に投与され得る。
[0074]亜鉛の各用量は、約0.1mg/kg体重〜約0.9mg/kg体重からなる群から選択される量で投与され得る。
[0075]特定の実施形態では、本発明は、腎臓のような臓器に対する有害傷害の作用を阻害する処置を必要とする患者を、前記処置を施す前に選択するステップを含む。選択は、医療/治療行為により、虚血性事象にさらされる患者を同定するステップを含み得る。
[0076]成句「薬学的に許容される」とは、本明細書で使用される場合、例えばヒトのような対象に投与される場合に副作用、アレルギー反応、または他の有害反応を生じない分子形態および組成物を指す。
[0077]特定の実施形態では、亜鉛、または薬学的に許容されるその塩は、「薬学的に許容される担体」で製剤化される。成句「薬学的に許容される担体」とは、本明細書で使用される場合、亜鉛を対象に送達するために使用される、液体、希釈剤、賦形剤、または溶媒のような組成物またはビヒクルを意味する。各担体は、比較的不活性である、すなわち、対象に対して有害ではないまま、亜鉛、または薬学的に許容されるその塩に適合するという意味で「許容され」なければならない。好適な担体は、当業者に知られており、その具体例は、溶媒、分散媒、酸化防止剤、保存剤(例えば抗細菌剤、抗真菌剤)、等張剤、吸収遅延剤、塩、防腐剤、安定剤、賦形剤、またはその組合せを含む。亜鉛、または薬学的に許容されるその塩はまた、1つまたは複数の他の活性剤または成分で製剤化され得る。
[0078]本明細書の他の箇所で述べる通り、成句「治療有効量」とは、腎臓のような臓器に対する有害傷害の作用を低減または阻害するのに効果的である、亜鉛、または薬学的に許容されるその塩の量を指す。治療有効量は、所望の結果をもたらす用量の最適な範囲を決定するために、ヒツジのような実験動物での臨床試験または代謝試験を行うことにより容易に決定することができる。臨床環境での使用の前に、処置される特定疾患の典型的に広く受容されている動物モデルでの確認研究を行うことが有効であり得る。特定の実施形態で使用するための典型的な動物モデルは、齧歯類、マウス、およびヒツジのモデルであり、これは使用するのに経済的であり、得られる結果が臨床的価値を(すなわちヒト対象で)示すからである。
対象
[0079]用語「対象」とは、本明細書で使用される場合、動物、特に哺乳動物、より詳細には下等霊長類を含む霊長類、さらにより詳細には本明細書に開示される方法の利益を受けることができるヒトを指す。対象は、ヒトまたは非ヒト動物もしくは胎仔にかかわらず、個体、対象、動物、患者、宿主、またはレシピエントとも呼ばれる。本発明は、ヒトおよび獣医学的適用の両方を有する。便宜上、「動物」は、具体的に、家庭用動物および家畜動物、例えば、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ヒツジ、ブタ、ラクダ、ヤギ、およびロバを含む。ウマに関して、レース業界で使用されるウマ、ならびに、娯楽的または畜産で使用されるウマを含む。臨床検査動物の例は、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、およびハムスターを含む。ウサギおよび齧歯動物、例えばラットおよびマウスは、霊長類および下等霊長類と同様に、便利な試験システム、または動物モデルを実現する。本明細書に開示される一実施形態では、対象は、ヒトである。
[0080]本明細書に開示される別の実施形態では、対象は、腎がんである。
[0081]本明細書に開示される別の実施形態では、対象は、心筋梗塞を有するか、心筋梗塞の危険にさらされている。
[0082]第二の態様では、対象の臓器に対する有害傷害の作用を阻害するのに使用するための、亜鉛、または薬学的に許容されるその塩であって、有害傷害の作用を阻害するのに十分な量で、それを必要とする対象に血管内投与される、亜鉛、または薬学的に許容されるその塩を提供する。
[0083]第三の態様では、対象の臓器に対する有害傷害の作用を阻害するための医薬の製造における、亜鉛、または薬学的に許容されるその塩の使用であって、亜鉛、または薬学的に許容されるその塩が、有害傷害の作用を阻害するのに十分な量で、それを必要とする対象に血管内投与するために製剤化される、使用を提供する。
[0084]第二および第三の態様の使用は、第一の態様に記載の態様にしたがって行うことができる。
[0085]本発明の好ましい実施形態は、本明細書に記載され、本発明を実行するための本発明者らに知られている最良の様式を含む。これらの好ましい実施形態の変形例は、前述の説明を読むことで、当業者に明らかであり得る。当業者は、必要に応じてこのような変形例を利用することが予想され、本発明の範囲および趣旨内で、本発明が本明細書に具体的に記載したもの以外の別の方法で利用されると考慮される。したがって、本発明は、適用可能な法律で容認される通り、添付の特許請求の範囲に記載された本主題の全ての変形および等価物を含む。さらに、本明細書で別段指定がない限り、または別段文脈によって明らかに矛盾しない限り、全ての可能なその変形例における上述した要素のいずれの組合せも、本発明に含有される。
[0086]本発明は、ここで、以下の実施例により記載されるが、これに限定されるものではない。
実施例1
亜鉛の静脈内投与は、ヒツジの腎臓において、虚血再灌流障害を阻害する
材料および方法
A.亜鉛投与
[0087]医薬品グレードの塩化亜鉛(ZnCl)溶液の静脈内注射を、0.1〜2mg/kg体重の範囲の用量で、植込み型頸静脈カテーテルを介して、ヒツジ[n=4]に投与した。手術の24時間前および4時間前に、ヒツジにZnCl溶液を投与した。4時間の注射後、第0日の血液サンプルを採取した。予備的な結果は、ヒツジが、有害作用なくこれらの用量のZnClを忍容したことを示した。
[0088]対照(n=4)は、片側の腎摘出を受け、手術の24時間前および4時間前に生理食塩水を投与された。
[0089]別の群のヒツジ(n=1)は、手術の1時間前に、6.6mg/kg体重で、フラボノイド系酸化防止剤(3’,4’ジヒドロキシフラボノール)を受けた。
B.麻酔
[0090]ヒツジを、手術前に、気管内挿管(カフ付きチューブサイズ10)される静脈内チオペンタールナトリウム(15mg/kg)で麻酔した。麻酔の維持を、酸素/空気/イソフラン(1.5〜2.0%)により行った。少量の吸入酸素を、およそ100mmHgでPaOを維持するように改変し、換気を、およそ40mmHgでPaCOを維持するように制御した。
C.外科的手技およびサンプル分析
[0091]全身麻酔に続いて、右腎を切除した。流動プローブ(4mm)を、左腎に埋め込み、腎臓に血液を供給する腎門(動脈および静脈)を、60分間、血管鉗子を使用してクランプした。60分の虚血に続いて、血管鉗子を、左腎から取り除き、血液供給を回復した。次いで、全身麻酔をリバースし、ヒツジを回復させた。腎臓の血流を測定し、血液サンプルを1週間にわたってヒツジから毎日採取し、尿素およびクレアチニンのレベルを決定した。血液サンプルを、リチウムヘパリン管(Microtainer、Becton−Dickinson)内で収集した。血液サンプルを遠心分離し、アリコートを、オーストラリア、ハイデルバーグの、Austin Pathologyの臨床試験部門によるクレアチニンおよび尿素の分析まで、−20℃で保管した。血液血清サンプルのクレアチニンおよび尿素を、全自動Roche Cobas 8000 c702分析器で測定した。クレアチニン決定用の動態学的比色アッセイは、ヤッフェ法に基づく。尿素に対する動態学的比色アッセイは、ウレアーゼにより触媒された尿素のアンモニウムへの加水分解と、それに続く、グルタミン酸デヒドロゲナーゼおよび補酵素NADHの存在下での2−オキソグルタル酸とのアンモニウムの反応に基づいている。NADH濃度における低下速度は、標本の尿素濃度に正比例し、測光的に測定する。
結果
[0092]0.1および0.5mg/kg体重でZnClは、対照と比較したときの、血清クレアチニン(図1)および血清尿素(図2)レベルの著しい減少により証明される通り、ヒツジの腎臓における虚血再灌流障害を阻害した。血清クレアチニンレベルの減少は、虚血再灌流障害後第1日〜第4日に統計学的有意差に達し、血清尿素レベルの減少は、虚血再灌流障害後第1日、第3日、および第4日に統計学的有意差に達した(p<0.05)。
[0093]虚血性負荷量は、血清クレアチニンおよび血清尿素に対するAUC(曲線下面積)値により証明される通り、対照動物と比較したとき、0.5mg/kgの亜鉛で70%近く減少した(図3、**p<0.05)。
[0094]0.1、2.5、および10.0mg/kg体重でZnClは、対照と比較したときの、血清クレアチニンおよび尿素レベルにより測定される通り、虚血再灌流障害を阻害できなかった。さらに、データはまた、2.5、および10.0mg/kg体重でZnClが、対照動物と比較したときにより高い血清クレアチニンおよび尿素レベルの傾向により証明される通り、ヒツジの腎臓における虚血再灌流の有害作用を悪化させたように思われたことを示す。
[0095]虚血再灌流障害の阻害の程度は、血清クレアチニンレベルの低下により証明される通り、酸化防止剤に起因する阻害の程度より高かった(図4Aおよび4B)。虚血性負荷量は、血清クレアチニンおよび血清尿素に対するAUC(曲線下面積)値により証明される通り、酸化防止剤処置の動物におけるたった50%の減少と比較する場合、0.5mg/kgの亜鉛で70%近く減少した(図4Bおよび4C、**p<0.05)。
実施例2
亜鉛の予備調整は、部分的に低酸素誘導因子1−α(HIF−1α)の上方制御を介して、虚血再灌流障害から腎臓を保護する
A.ヒト研究
[0096]癌部から分離した後、正常なヒト腎臓の区動脈を切断し、50μMのZnClまたは生理食塩水で灌流し、その後、この動脈に特異的な組織をHIF−1α評価用に摘出した。図5は、腎区動脈(A)、および、その後の分析用に切除した腎組織(B)を介するヒト腎臓へのZnCl(50μM)の灌流を示す。切除組織への血液供給は、ZnCl溶液が投与される腎動脈により提供された。初期の研究では、Znで灌流させた正常なヒト腎臓におけるHIF−1α発現で、生理食塩水で灌流させた組織と比較して、25%の増加を観察した。
B.インビトロ研究
[0097]Znは、HK−2細胞内のHIF1αを刺激した。不死化したヒト腎尿細管細胞、HK−2を、50μMのZnClで処置し、HIF1αタンパク質発現に対する変化を、ウェスタンブロット解析により測定した。
[0098]Znは、ACHN細胞内のHIF1αを刺激した。ヒト腎癌腫細胞(ACHN)を、50μMのZnClで処置し、HIF1αタンパク質発現に対する変化を、ウェスタンブロット解析により測定した。
結果
[0099]塩化亜鉛の予備調整は、ヒト腎臓組織においてHIF−1αタンパク質発現を向上させた(図6を参照)。塩化亜鉛はまた、曝露の少なくとも4時間後、不死化したヒト腎臓の近位尿細管細胞(HK2;図7)、ならびにヒト腎癌腫細胞(ACHN;図8Aおよび8B)においてHIF−1αタンパク質発現を向上させた。
[0100]HIF−1αは、低酸素に対する細胞の反応をモジュレートし、その上方制御は、酸素利用率の減少に適応させて、関連するいくつかの遺伝子の発現を誘発することが示された。HIF−1αは、酸素によって調節されるαサブユニット、および構成的に発現されるβサブユニットを含むヘテロ二量体タンパク質である。αサブユニットは、プロリルヒドロキシラーゼ(PHD)による2つのプロリン残基のヒドロキシル化の後、主にプロテアソーム依存性経路を通して、好気状態で分解される。低酸素の間、PHDは阻害され、HIF−1αサブユニットは蓄積するが、HIF−1βで二量体化して、HIF標的遺伝子、例えば、血管形成および組織修復に関与するもの(例として、血管内皮増殖因子(VEGF)、エリトロポエチン(EPO)、プロリルヒドロキシラーゼ(PHD)遺伝子)の発現を駆動する。
[0101]Elisa Condeおよびその同僚の研究(PlosOne、2012年3月、Vol.7(3):e33258)は、HIF−1αが、酸素張力が正常の場合、虚血、および予想外に後の再灌流の間にラットの腎臓の近位尿細管細胞において安定することを見出した。さらに、HIF−1α発現のインビトロでの干渉は、細胞死を促進し、インビボでの干渉は、虚血再灌流障害に続く組織損傷および腎臓機能不全を悪化させた。著者らはまた、HIF−1αが、急性尿細管壊死と著しい負の相関を有する、正常な腎臓構造を呈した移植後のヒト生検の近位尿細管でのみ発現したことを報告した。これらのデータは、本データに一致し、これは、亜鉛の予備調整が、ラットの腎臓においてHIF−1αタンパク質発現を向上させ、亜鉛が、ヒト腎尿細管性の腎細胞(図7)およびヒト腎癌腫細胞(図8)においてHIF−1α発現を刺激することを示す。理論または特定の適用様式に拘束されるものではないが、これらのデータは、亜鉛の予備調整が、HIF−1αの上方制御に少なくとも部分的に介して、虚血再灌流障害から腎臓を保護することを示唆する。さらに、亜鉛が、HIF−2αを刺激したが、ACHNおよびHK2細胞の両方においてHIF−3αを刺激しなかった。4時間のZnClでの処置は、ACHN細胞(図8Aおよび8B)およびHK2細胞(図8Cおよび8D)の両方においてAKTのリン酸化を刺激したが、24時間ではACHN細胞でのみ、ERK1/2のリン酸化を活性化した。
実施例3
亜鉛の多回投与の効果
[0102]0.5mg/kgが、腎臓の虚血再灌流障害を阻害する有効用量として確定しているので、上記の投与実験を繰り返して、多回投与の効果を研究した。ヒツジは、一側性腎摘出を行い、腎虚血を60分間行った後、再灌流した。血清クレアチニン、および血清尿素レベルは、Zn前処置の前(ベースライン)、虚血の前(第0日)、および再灌流後の7日間に測定した。ヒツジを、24時間のみ、もしくは4時間のみのいずれかでの0.5mg/kgのZnClの単回用量で、または、虚血60分の前の24時間および4時間での0.5mg/kgのZnClの2回用量で、予備調整した。データは、平均±SEM値(n=4、24時間のみの群n=1を除く)として表す。図9は、虚血の24時間前、および4時間前に、2回用量(0.5mg/kg体重で)として投与されるZnClは、虚血の24時間前のみ、または4時間前のみのいずれかに与えられる単回用量と比較して、経時的なクレアチニン上昇を著しく低下させた(p<0.05)を示す。二重投与アプローチが、虚血の4時間前、または24時間前のいずれかに与えられる0.5mg/kgのZnClの単回用量と比較する場合、著しくより良好な結果をもたらすことが、これらのデータから理解することができる。
[0103]虚血性負荷量は、血清クレアチニンおよび血清尿素に対するAUC(曲線下面積)値により証明される通り、24時間および4時間投与する対照動物(図10)および個体と比較する場合、虚血の24時間前、続いて4時間前に投与される0.5mg/kgの亜鉛で著しく減少した。
実施例4
亜鉛の予備調整は、虚血再灌流障害から心筋組織を保護する
[0104]心筋の虚血再灌流を、成年のヒツジ(30〜50kg)で行った。ヒツジを、心筋虚血の24時間前および4時間前に、0.5mg/kgのZnClの二重用量で予備調整した。左開胸術および心膜の開放術に続いて、左冠動脈前下行枝(D2)の第二の枝を単離して、血管係蹄を、通過時間の流動プローブに近接して(2mm)に設置した。安定化に続いて、実験プロトコルは、全身血行動態および冠状血流のベースライン記録30分間、続いて、虚血1時間、ならびに再灌流3時間から構成した。梗塞の危険にさらされている心筋層の領域、および梗塞サイズを、前述した通り、それぞれ、エバンスブルーおよび塩化トリフェニルテトラゾリウム(TTC)染色で描画した(Wangら、2004年、Br.J.Pharmacol.142、443〜452頁)。簡潔には、再灌流の3時間後、D2動脈を血管係蹄で再閉塞した。ペントバルビタール(100mg/kg;Virbac、オーストラリア)の静脈内注射で心臓が停止する直前、エバンスブルー染料(60mlの生理食塩水中1.5%、Sigma、オーストラリア)を、左心房カテーテルに注射して、虚血性心筋層、すなわち、梗塞の危険にさらされている領域を規定した。心臓を迅速に切除し、左心室を、撮影する6個の1cm厚さの横断環にスライスし、非染色領域は、スライドにトレースした。環を、37℃、pH7.4で20分間、1%のTTC(Sigma、オーストラリア)を含有する0.1Mのリン酸ナトリウム緩衝液中でインキュベートし、再撮影し、梗塞した領域をアウトライン化させてスライドにトレースした。梗塞の危険にさらされている心筋層の領域、および梗塞サイズを、コンピュータ処理面積測定(MCID−M 2、Imaging Research Inc.、カナダ)により測定した。危険にさらされている心筋層を、左心室の総体積の百分率として表し、梗塞サイズを、危険にさらされている心筋層の面積の百分率として表した。
[0105]図11は、本研究由来のTCC染色前後のヒツジの心臓の切片の2セットの写真を示す。第一の写真(図11A)は、任意のTCC染色の前のエバンスブルーで染色された横断環を示す。虚血の危険にさらされている領域を強調し、本実験でクランプされた脈管構造の血管により供給された領域を表す。第二の写真(図11B)は、TCC緩衝液に接触し、それにより、梗塞した組織を白色にした後の横断環を示す。確認される非常に小さい白い染色が存在し、これが、亜鉛の予備調整の結果として虚血または虚血再灌流由来の損傷の著しい減少を示すことが、図11Bから明らかである。梗塞サイズを、危険にさらされている心筋層の面積の百分率として表した場合(Thomasら、2011年、European Journal of Pharmacology 658;160〜167頁において前述される通り)、梗塞サイズは、対照(亜鉛未処置)動物における心筋層の面積の80±3%であったのに対して、亜鉛処置された動物は、危険にさらされている心筋層の領域において梗塞の組織学的徴候を有さなかった。

Claims (29)

  1. 対象の臓器に対する有害傷害の作用を阻害する方法であって、亜鉛、または薬学的に許容されるその塩を、それを必要とする対象に投与するステップを含み、亜鉛、または薬学的に許容されるその塩が、有害傷害の作用を阻害するのに十分な量で、対象に血管内投与される、方法。
  2. 亜鉛、または薬学的に許容されるその塩が、2.5mg/kg体重未満の量で、投与される、請求項1に記載の方法。
  3. 亜鉛、または薬学的に許容されるその塩が、約0.1mg/kg体重〜約2mg/kg体重の量で、投与される、請求項1または請求項2に記載の方法。
  4. 亜鉛、または薬学的に許容されるその塩が、約0.1mg/kg体重〜約0.9mg/kg体重の量で、投与される、請求項3に記載の方法。
  5. 有害傷害が、虚血および虚血再灌流から選択される、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
  6. 有害傷害が、外科的手技から生じる、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
  7. 虚血が、腫瘍の切除の間に起こる、請求項5または請求項6に記載の方法。
  8. 有害傷害が、臓器移植の間のドナー臓器に対するものである、請求項5から7のいずれか一項に記載の方法。
  9. 有害傷害が、造影剤により誘発される毒性である、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
  10. 亜鉛、または薬学的に許容されるその塩が、臓器へ灌流を介して投与される、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
  11. 亜鉛、または薬学的に許容されるその塩が、末梢静脈または中心静脈を介して投与される、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
  12. 亜鉛、または薬学的に許容されるその塩が、有害傷害の前に対象に投与される、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
  13. 亜鉛、または薬学的に許容されるその塩が、溶液で投与される、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
  14. 溶液が、塩化亜鉛を含む、請求項13に記載の方法。
  15. 亜鉛、または薬学的に許容されるその塩が、静脈内投与および/または動脈内投与される、請求項1から14のいずれか一項に記載の方法。
  16. 亜鉛、または薬学的に許容されるその塩が、有害傷害前の36時間以内に対象に投与される、請求項1から15のいずれか一項に記載の方法。
  17. 亜鉛、または薬学的に許容されるその塩が、有害傷害前の4時間以内に対象に投与される、請求項1から16のいずれか一項に記載の方法。
  18. 亜鉛、または薬学的に許容されるその塩が、有害傷害前の36時間以内に、多回用量で対象に投与される、請求項1から16のいずれか一項に記載の方法。
  19. 亜鉛、または薬学的に許容されるその塩が、2分割した用量で対象に投与される、請求項18に記載の方法。
  20. 第一の用量の亜鉛、または薬学的に許容されるその塩が、有害傷害前の36〜12時間の間に、対象に投与され、第二の用量の亜鉛、または薬学的に許容されるその塩が、有害傷害前の1〜10時間の間に、対象に投与される、請求項19に記載の方法。
  21. 第一の用量および第二の用量の両方が、0.1mg/kg〜0.9mg/kgの間である、請求項20に記載の方法。
  22. 対象が、ヒトである、請求項1から21のいずれか一項に記載の方法。
  23. 対象の臓器が、腎臓、肝臓、心臓、および脳からなる群から選択される、請求項1から22のいずれか一項に記載の方法。
  24. 対象が、腎がんを有する、請求項23に記載の方法。
  25. 対象の臓器に対する有害傷害の作用を阻害するのに使用するための、亜鉛、または薬学的に許容されるその塩であって、有害傷害の作用を阻害するのに十分な量で、それを必要とする対象に血管内投与される、亜鉛、または薬学的に許容されるその塩。
  26. 対象に静脈内投与および/または動脈内投与される、請求項25に記載の、対象の臓器に対する有害傷害の作用を阻害するのに使用するための、亜鉛、または薬学的に許容されるその塩。
  27. 対象の臓器に対する有害傷害の作用を阻害するための医薬の製造における、亜鉛、または薬学的に許容されるその塩の使用であって、亜鉛、または薬学的に許容されるその塩が、有害傷害の作用を阻害するのに十分な量で、それを必要とする対象に血管内投与するために製剤化される、使用。
  28. 亜鉛、または薬学的に許容されるその塩が、それを必要とする対象に対する静脈内投与および/または動脈内投与用に製剤化される、請求項27に記載の使用。
  29. 亜鉛、または薬学的に許容されるその塩が、溶解している、請求項27または請求項28に記載の使用。
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