以下、本発明に係るプレストレストコンクリートポール、その製造方法及びプレストレストコンクリートポール製造用定着装置の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。各図面では、同一又は同等の部分に同一の符号を付す。以下、プレストレストコンクリートポールの一例を挙げて説明するが、下記のプレストレストコンクリートポールに限定されるものではない。
(実施の形態1)
図1〜図4を参照して、実施の形態1に係るプレストレストコンクリートポール1の構成を説明する。プレストレストコンクリートポール1は、長尺なコンクリート成形体2に埋め込んだ緊張材が縮もうとする力を利用してコンクリート成形体2に圧縮荷重を加え、コンクリート成形体2に作用する引張荷重を打ち消すことで耐荷重性を向上させたコンクリートポールである。プレストレストコンクリートポール1は、例えば、配電線、通信線、電車の架線、交通信号、照明、アンテナ等を架設するために用いられる。なお、ここで長尺とは、コンクリート成形体が径方向よりも長手方向に長い寸法を有することを示す。
図1(a)に示すように、プレストレストコンクリートポール1には、先端側(末口)から基端側(元口)に向かって直径が大きくなるように一定のテーパーが付けられている。末口の直径は、例えば190mmであり、元口の直径は、例えば297mmである。プレストレストコンクリートポール1は、一例として全長8mであり、元口から支持点(地際GL)までの距離(根入長)が1.4mとなるように地面に設置される。
コンクリート成形体2を構成するコンクリートは、例えば、砂(細骨材)、砂利(粗骨材)、水、セメント等を混合した材料である。コンクリートは、砂利等の粗骨材を含まないモルタルであってもよく、砂等の細骨材を含まないセメントであってもよい。
図1(b)に示すように、プレストレストコンクリートポール1の内部には、長手方向に延びる空洞が形成され、コンクリート成形体2は、円環断面状に形成されている。プレストレストコンクリートポール1は、コンクリート成形体2の内部に配置された緊張材3、非緊張材4及びらせん筋(図示せず)を備える。
図2に示すように、緊張材3は、プレストレストコンクリートポール1の全長にわたって長手方向に延びるように配置され、引張荷重(緊張力)が加えられた状態でコンクリート成形体2が成型された後に緊張力を取り除くことで、コンクリート成形体2に圧縮荷重を加える補強材である。緊張材3は、炭素繊維及びマトリクス樹脂を組み合わせて複合化した炭素繊維複合材ケーブルで形成される。炭素繊維複合材ケーブルは、強化繊維及びマトリクス樹脂を組み合わせて複合化した強化繊維複合材ケーブルの一例である。緊張材3の本数は任意であるが、例えば8本である。
非緊張材4は、補助筋とも呼ばれ、緊張材3とは異なり、緊張力が加えられない状態でコンクリート成形体2の内部に組み込まれる。非緊張材4は、プレストレストコンクリートポール1の長手方向に延びるようにコンクリート成形体2内に配置されている。非緊張材4は、例えば公知の防食鉄筋である。
非緊張材4は、末口側に配置されず、かつ、元口側に向かって徐々に本数が増えるように配置されている。プレストレストコンクリートポール1にはテーパーが付けられ、支持点付近で付加される曲げモーメントが増大するため、支持点では非緊張材4の本数を増やす必要がある。非緊張材4の本数は任意であるが、例えば、中間部で2本、元口側で4本である。
らせん筋5は、スパイラル筋とも呼ばれ、プレストレストコンクリートポール1の全長にわたってらせん状に巻かれ、プレストレストコンクリートポール1がせん断荷重により破損することを防止する。らせん筋5は、例えば、亜鉛めっき鋼材である。らせん筋5は、例えば、直径2.9mmであり、全長8m当たり100ピッチとなるように緊張材3及び非緊張材4の周りに巻かれている。
図3に示すように、プレストレストコンクリートポール1は、プレストレストコンクリートポール1で発生する曲げモーメントが破壊荷重2Mの1/2(安全率2.0)である設計荷重M以下になるように設計される。曲げモーメントは、風や角度荷重等によりプレストレストコンクリートポール1に荷重が加わることで発生し、支持点(地際GL)で最も大きくなる。破壊荷重2Mは、プレストレストコンクリートポール1が破壊される破壊点における荷重である。
プレストレストコンクリートポール1では、図3の配筋図に示すようにコンクリート成形体2内に8本の緊張材3及び4本の非緊張材4が配置されている。これらの補強材が配置されることで、実線で示す曲げモーメントを有するプレストレストコンクリートポール1を作製できる。曲げモーメントを示す実線は、破壊荷重2Mのモーメント直線を上回っているため、プレストレストコンクリートポール1に必要な強度が得られていると判断できる。
図4に示すように、緊張材3を構成する炭素繊維複合材ケーブルは、複数の炭素繊維の束(芯線)3a、3bを撚り合わせてマトリクス樹脂を含浸させた炭素繊維複合材の撚り線ケーブルである。炭素繊維複合材ケーブルは、例えば、一本の炭素繊維の束3aを中心として、その周りに他の複数の炭素繊維の束3bがらせん状に巻き付けられるように撚り合わされて形成されている。なお、炭素繊維複合材ケーブルでは、複数の炭素繊維の束が図示せぬ保護被覆で覆われていてもよいし、覆われていなくてもよい。
炭素繊維複合材ケーブルの直径は、プレストレストコンクリートポール1で要求される強度や用途、サイズ等を考慮して設定すればよく、例えば、7mm〜10mmの範囲内であり、好ましくは9mmである。炭素繊維複合材ケーブルの直径が小さくなるほど、引張強度が低下するため、プレストレストコンクリートポール1における緊張材3の本数を増やす必要がある。
炭素繊維の束3a、3bは、例えば、1000本以上の炭素繊維の素線が束ねられたものである。炭素繊維は、例えば、ポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維である。弾性率や機械的強度を考慮すると、炭素繊維はPAN系炭素繊維であることが好ましい。各炭素繊維の素線は、マトリクス樹脂により互いに接着され、一つの束として一体化されている。炭素繊維の束3a、3bは、いずれも同一の断面形状を有し、その断面は、例えば円形状、楕円形状である。炭素繊維の束3a、3bの寸法は、いずれも同一である。一例として炭素繊維の束3a、3bが断面円形状である場合、その直径は、例えば2mm〜4mmの範囲内であり、好ましくは3mmである。
炭素繊維の束3a、3bの本数は、プレストレストコンクリートポール1の強度や用途、サイズ等を考慮して設定されるが、PC(Prestressed Concrete)鋼材と同等の引張強度を得るためには少なくとも5本以上である。炭素繊維の束3a、3bの本数が多いほど、炭素繊維複合材ケーブルの引張強度を向上させることができる。炭素繊維の束3a、3bの本数は、炭素繊維複合材ケーブルの重量及び強度のバランスを考慮し、例えば、5本〜12本の範囲内であり、5本〜9本であることが好ましく、7本であることがさらに好ましい。例えば、7本の炭素繊維の束3a、3bからなる撚り線であって、その直径が9.3mmである炭素繊維複合材ケーブルでは、約100kNの引張強度が得られる。
炭素繊維の束3a、3bの撚り方向は、左撚りであっても右撚りであってもよい。炭素繊維の束3a、3bの撚り回数は、PC鋼材のインデントの間隔が7.7個/m程度であることを考慮すると、8回/m以上であることが好ましく、例えば、8回/m〜20回/mの範囲内である。炭素繊維の束3a、3bの撚り回数を多くすると、炭素繊維複合材ケーブル表面の凹凸を深くできるため、コンクリート成形体2への付着強度を大きくできる。ただし、炭素繊維の束3a、3bの径が小さい場合に撚り回数を多くすると、炭素繊維複合材ケーブルの表面の凹凸が浅くなり、コンクリート成形体2への付着強度が低下する。このため、炭素繊維の束3a、3bの撚り回数は、炭素繊維の束3a、3bの径を考慮して設定する必要がある。
各炭素繊維の束3a、3bは、任意であるが、その表面を耐アルカリ性の材料からなる筒状の構造体で被覆してもよい。炭素繊維の束3a、3bを筒状の構造体で被覆することで、炭素繊維の束3a、3bがバラバラにならないように保護できる。筒状の構造体は、例えば、繊維材料を丸編み、平編み等で編むことで形成してもよい。ただし、コンクリートがアルカリ性であることを考慮すると、アルカリにより腐食する材料、例えばガラス繊維等で各炭素繊維の束3a、3bを被覆することは好ましくない。
マトリクス樹脂は、熱可塑性樹脂であり、アルカリ環境下でも耐久性や強度を維持できるものが好ましい。炭素繊維やコンクリート材への付着性を考慮すると、マトリクス樹脂としては熱可塑性エポキシ樹脂が好ましい。なお、マトリクス樹脂は、二種類以上の熱可塑性樹脂を混合したものであってもよい。
熱可塑性樹脂は、例えば、反応性樹脂(現場重合型樹脂)である。反応性樹脂は、架橋剤、触媒、重合開始剤、重合促進剤等の硬化剤を添加することにより、重合反応が開始または促進されて硬化する樹脂である。反応性樹脂を用いることで、炭素繊維の束3a、3bに熱可塑性エポキシ樹脂を付加した後に樹脂を硬化させることができる。
炭素繊維複合材ケーブルは、液体の状態でマトリクス樹脂を炭素繊維の束3a、3bの内部に含浸させ、次いで、炭素繊維とマトリクス樹脂とが絡み合った状態で複数の炭素繊維の束3a、3bに対して撚りをかけ、その後、含浸させたマトリクス樹脂を硬化させることで作製される。炭素繊維複合材ケーブルは、マトリクス樹脂として熱可塑性樹脂を用いているため、一旦硬化させた後でも加熱することで所望の形状に変形させることができる。また、各炭素繊維の束3a、3b同士がマトリクス樹脂により強固に接着されないため、炭素繊維複合材ケーブルの端部において各炭素繊維の束3a、3bを解くこともできる。
炭素繊維複合材ケーブルは、上記の構成を備えるため、同径のPC鋼材に比べて1.5倍以上の引張強度が得られる。例えば、直径9mmの炭素繊維複合材ケーブルの引張強さは、2,387N/mm2であるのに対し、同径のPC鋼材の引張強さは、1,515N/mm2にすぎない。このため、緊張材3として炭素繊維複合材ケーブルを用いることで、緊張材3の本数を減らしたとしてもプレストレストコンクリートポール1に必要な強度を確保できる。
また、炭素繊維複合材ケーブルは、腐食環境下でも腐食することがなく、緊張材3で発生しやすい遅れ破壊も防止できるため、長期にわたってプレストレストコンクリートポール1の耐久性や強度を維持できる。加えて、炭素繊維複合材ケーブルは、表面に凹凸を有する撚り線であり、インデントを備えた鉄筋よりもコンクリート成形体2への付着性が高い。このため、プレストレストコンクリートポール1に曲げ荷重が加えられてもコンクリート成形体2に対する滑りが生じにくく、コンクリート成形体2のひび割れを抑制できる。
以上がプレストレストコンクリートポール1の構成である。
(プレストレストコンクリートポール製造用定着装置)
次に、図2、図5及び図6を参照して、プレストレストコンクリートポール1の製造時に用いられるプレストレストコンクリートポール製造用定着装置10の構成を説明する。プレストレストコンクリートポール製造用定着装置10は、プレストレストコンクリートポール1を製造するために用いられる緊張材3の両端をプレストレストコンクリートポール成形用の型枠20に定着する装置であって、型枠20に定着された緊張材3に対して緊張力が加えられた状態を維持する装置である。プレストレストコンクリートポール製造用定着装置10を用いて緊張材3に緊張力を加えた状態でコンクリート成形体2を成形することで、コンクリート成形体2に圧縮荷重を加えることができる。
図2に示すように、プレストレストコンクリートポール製造用定着装置10は、緊張材3の各端部にそれぞれ接続される一対の定着板11、12を備える。元口側の定着板12には、定着板12を牽引する牽引装置(図示せず)が接続され、末口側の定着板11を後述する型枠20に固定した状態で元口側の定着板12を牽引することで緊張材3に緊張力を付加できる。
各定着板11、12は、それぞれ円盤状に形成されている。末口側の定着板11の直径は、例えば、190mmである。他方、元口側の定着板12の直径は、例えば、297mm〜407mmの範囲内である。プレストレストコンクリートポール製造用定着装置10は、末口側及び元口側において同一又は同等の構成を備えるため、以下、元口側の構成を中心に説明する。
図5に示すように、プレストレストコンクリートポール製造用定着装置10は、定着板12の貫通孔12aに挿通されるボルト13と、定着板12の貫通孔12aに挿通されたボルト13に締め付けられ、定着板12に接触することで定着板12に対するボルト13の長手方向の移動を規制するナット14と、ボルト13の端部と緊張材3の端部とを接続する接続管15と、を備える。ナット14は、定着板12に接触することで、ボルト13が図5の右側に移動することを規制する。
ボルト13には、頭部が設けられておらず、ボルト13は、雄ねじが切られた棒状の部材である。ボルト13は、例えば、長さ30mmのM16ボルトである。緊張材3の両端に接続された各ボルト13をそれぞれ定着板11、12の貫通孔に挿通し、それぞれのボルト13にナット14を締め付け、定着板11、12を互いに離れる方向に相対的に移動させることで、緊張材3に緊張力が加えられ、緊張材3及びボルト13の移動が規制される。なお、ボルト13の長手方向は、ボルト13の本体が延びる方向である。
接続管15は、緊張材3の端部とボルト13の端部とを接続する接続手段である。接続管15は、例えば、鋼材で形成された円筒状の管であり、内壁にボルト13を締め付け可能なねじが切られている。接続管15の一端に緊張材3の端部を挿入して両者を接着剤で接着し、同様に接続管15の他端にボルト13を締め付けることで、緊張材3の端部とボルト13の端部とが接続される。接着剤は、耐加水分解性、耐候性に優れる接着剤であることが好ましく、例えば、ウレタン樹脂であり、好ましくは2液型ウレタン樹脂である。
接続管15は、例えば、長さ230mm、直径28mmである。接続管15に緊張材3が接着される接着長さは、例えば、緊張材3が有する引張強度の60%の緊張力を付加しても、緊張材3が接続管15から抜けない程度に設定される。接着長さは、接着剤の接着性の程度、緊張材3の外径、接続管15の内径等を考慮して設定されるが、例えば、150mm〜200mmの範囲内であり、好ましくは200mmである。
図6に示すように、各定着板11、12は、それぞれプレストレストコンクリートポール1を成形する型枠20の端部に装着可能に構成されている。型枠20は、内部にコンクリートが注入された状態で、遠心機(図示せず)により長手方向に延びる軸周りに回転させられることで、緊張材3が埋め込まれたコンクリート成形体2の筒状体を成形する。
型枠20は、長手方向に分割可能に形成された一対の型枠片21、22を備え、各定着板11、12が型枠20の端部に装着されると、型枠20の内部に緊張材3が配置されるように構成されている。このため、緊張材3に緊張力を加えた状態で型枠片21の両端部にそれぞれ定着板11、12を装着し、型枠片21に型枠片22を被せてボルト等で両者を一体化することで、緊張力が加えられた状態で緊張材3を型枠20に装着できる。
以上が、プレストレストコンクリートポール製造用定着装置10の構成である。
(製造方法)
次に、図7のフローチャートを参照して、プレストレストコンクリートポール(CP)1の製造方法を説明する。以下、プレストレストコンクリートポール1を遠心成形法で製造する場合を例に説明する。
まず、緊張材3、非緊張材4及びらせん筋5からなる補強材をかご状に組み立てる(ステップS1)。具体的には、緊張材3、非緊張材4及びらせん筋5を支持する円盤状のスペーサ(図示せず)を所定の間隔で配置する。スペーサは、緊張材3及び非緊張材4を挿通可能な複数の貫通孔を備える。スペーサは、最終的にコンクリート成形体2の内部に埋め込まれるため、例えば、モルタルで形成されている。
次に、各スペーサの貫通孔に緊張材3及び非緊張材4を挿通させ、緊張材3及び非緊張材4を所定の配置で位置決めする。次に、緊張材3の端部に接続管15を介してボルト13を接続し、各ボルト13を定着板11、12の貫通孔に挿通し、各ボルト13に対してナット14で締め付けることで、緊張材3を定着板11、12に接続する。次に、緊張材3、非緊張材4及びスペーサの周りに所定のピッチでらせん筋5を巻き付ける。
以上の工程で図2に示すように補強材のかごを形成することができる。
次に、補強材のかごを内部に収容した状態でプレストレストコンクリートポール成形用の型枠20を組み立てる(ステップS2)。例えば、一方の型枠片21内に補強材のかごを配置し、他方の型枠片22を一方の型枠片21に被せ、両者をボルト等で互いに固定すればよい。
次に、プレストレストコンクリートポール製造用定着装置10の元口側の定着板12に牽引装置(図示せず)を取り付け、元口側の定着板12を末口側の定着板11から離れる方向に牽引することで、緊張材3に緊張力を加える(ステップS3)。定着板11、12が型枠20の両端部にそれぞれ装着されることで、緊張材3に緊張力が加えられた状態が維持される。
次に、緊張材3に緊張力が加えられた状態で型枠20内にコンクリートを注入し、型枠20に接続された遠心機(図示せず)で型枠20を長手方向に延びる軸周りに回転させることで、型枠20内でコンクリートの遠心締固めを行う(ステップS4)。
次に、ステップS4で生成された断面円環状のコンクリート成形体2に対して蒸気養生を行い(ステップS5)、ナット14を緩め、緊張材3から定着板11、12を取り外すことで、蒸気養生により硬化したコンクリート成形体2にプレストレスを導入する(ステップS6)。そして、最後に型枠20を取り外す脱型を行う(ステップS7)。
以上が、プレストレストコンクリートポール(CP)1の製造方法の流れである。
以上説明したように、実施の形態1に係るプレストレストコンクリートポール1は、緊張材3として複数の炭素繊維の束3a、3bを撚り合わせて形成された炭素繊維複合材ケーブルを用いている。炭素繊維複合材ケーブルは、腐食して劣化することがないため、長期間にわたってプレストレストコンクリートポール1の耐久性や強度を維持でき、点検や補修に要するコストを低減できる。
また、炭素繊維複合材ケーブルは、直径が同一のPC鋼材よりも約1.5倍の引張強度を有する。このため、PC鋼材を用いた場合と比べて緊張材3の本数を半分程度に削減でき、緊張材3の表面とコンクリート表面との間の標準かぶり距離を確保し易くなる。その結果、強度が要求される仕様のプレストレストコンクリートポール1でも簡単に製造できる。なお、標準かぶり距離は、JIS(Japanese Industrial Standards)規格で規定された緊張材3を含む補強材の表面からコンクリートの外面までの最短距離のことである。
加えて、炭素繊維複合材ケーブルは、複数の炭素繊維の束3a、3bからなる撚り線であるため、PC鋼材に比べてコンクリート成形体2への付着性が高く、コンクリート成形体2に荷重が加えられたとしてもコンクリート成形体2のひび割れを抑制できる。
(実施の形態2)
図8を参照して、実施の形態2に係るプレストレストコンクリートポール1、その製造方法及びプレストレストコンクリートポール製造用定着装置10を説明する。実施の形態2に係るプレストレストコンクリートポール製造用定着装置10では、実施の形態1に係るプレストレストコンクリートポール製造用定着装置10とは異なり、接続管15を介さずに緊張材3とボルト13とを接続している。以下、両者の異なる部分を中心に説明する。
図8(a)〜(c)に示すように、プレストレストコンクリートポール製造用定着装置10は、緊張材3の端部とボルト13の端部とを接着剤で接着した接着部16を備える。接着部16は、バラバラに解かれた複数の炭素繊維の束3bをボルト13の周りに配置し、複数の炭素繊維の束3bとボルト13とを接着剤で接着することで形成されている。接着部16は、全ての炭素繊維の束3a、3bを解き、炭素繊維複合材ケーブルの中心にある炭素繊維の束3aを除去することで、炭素繊維の束3a以外の複数の炭素繊維の束3bをボルト13に接着している。
接着部16は、例えば、円筒状に形成され、複数の炭素繊維の束3bは、ボルト13の長手方向に延びるように、かつ、ボルト13の周りに径方向に等間隔で配置されている。ボルト13は、例えば、直径7mmのねじ切りされたPC鋼材であり、炭素繊維複合材ケーブルは、例えば、直径9mmの撚り線である。
接着部16は、接着長さがオーバラップ長さよりも長くなるように形成されている。接着長さは、解かれた複数の炭素繊維の束3bが接着剤で接着される範囲の長さ、言い換えると接着部16の全長であり、オーバラップ長さは、ボルト13と炭素繊維の束3bとがオーバラップする範囲の長さである。緊張材3の緊張時に加えられる緊張力を考慮すると、接着長さは、例えば190mm〜200mmの範囲内であり、オーバラップ長さは、例えば150mm〜160mmの範囲内である。
接着部16は、円筒状の型枠(図示せず)の内側に他の炭素繊維の束3bを配置した状態で型枠内に接着剤を注入して硬化させることで、円筒状に形成される。円筒状の型枠は、例えば、断面半円状の一対の型片を備え、一対の型片を互いに分離することで硬化した接着部16を取り外すことができる。接着剤は、耐加水分解性及び耐候性に優れた樹脂材料であることが好ましく、例えば、ウレタン樹脂であり、好ましくは2液型ウレタン樹脂である。
以上説明したように、実施の形態2に係るプレストレストコンクリートポール製造用定着装置10は、緊張材3とボルト13とを接着する接着部16を備える。接続管15等の接続手段を介さずに緊張材3の端部とボルト13の端部とを接続した結果、実施の形態1に係るプレストレストコンクリートポール製造用定着装置10と比べて緊張材3及びボルト13の接続部の外径を小さくできるため、標準かぶり距離の条件を満たしやすくなる。
また、実施の形態2に係るプレストレストコンクリートポール製造用定着装置10では、ボルト13の径を任意に選択することができる。このため、既存の定着板11、12をそのまま用いてプレストレストコンクリートポール1を製造でき、プレストレストコンクリートポール1の製造コストを抑制できる。
本発明は上記実施の形態に限られず、以下に述べる変形も可能である。
(変形例)
上記実施の形態では、緊張材3の主原料は炭素繊維であったが、本発明はこれに限られない。例えば、アラミド繊維、ポリエチレン繊維、ポリイミド繊維、ポリビニルアルコール繊維等の他の強化繊維であってもよい。また、2種類以上の強化繊維を混合して強化繊維の束を構成してもよい。
上記実施の形態では、非緊張材4は防食鉄筋であり、らせん筋5は亜鉛めっき鋼材であったが、本発明はこれに限られない。例えば、非緊張材4に炭素繊維複合材ケーブルを用いてもよく、非緊張材4及びらせん筋5のいずれにも炭素繊維複合材ケーブルを用いてもよい。
上記実施の形態では、補強材として緊張材3、非緊張材4及びらせん筋5を用いていたが、本発明はこれに限られない。例えば、強度がそれほど要求されない仕様のプレストレストコンクリートポール1であれば、非緊張材4を省略してもよい。また、元口側の非緊張材4をそのまま配置し、末口側の非緊張材4だけを省略してもよい。
上記実施の形態2では、炭素繊維複合材ケーブルの端部において中心にある炭素繊維の束3aを除去し、他の炭素繊維の束3bをボルト13に接着していたが、本発明はこれに限られない。互いに解かれた炭素繊維の束3a、3bをボルト13に接着してもよい。
上記実施の形態は例示であり、本発明はこれらに限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した発明の趣旨を逸脱しない範囲でさまざまな実施の形態が可能である。各実施の形態や変形例で記載した構成要素は自由に組み合わせることが可能である。また、特許請求の範囲に記載した発明と均等な発明も本発明に含まれる。
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
実施例1では、緊張材として炭素繊維複合材ケーブルを用いたプレストレストコンクリートポール(発明仕様CP)を作製した。発明仕様CPは、JIS A5373推奨仕様A−1の1種ポールであり、全長8m、ひび割れ試験荷重(設計荷重)3.5kNとした。
まず、JPCS(Journal of Physics Conference Series)−7120に準拠した手法で発明仕様CPを設計した。補強材を緊張材のみとし、緊張材として直径9mm、全長8mの炭素繊維複合材ケーブルを用いた場合に、最小限の緊張材でJIS規格強度を満たせるように設計した。その結果、図9(a)に示すようにJIS A5373推奨仕様A−1の1種ポールに必要な緊張材の本数は6本と導き出された。
曲げモーメントの設計値としては、設計0.25mmひび割れ曲げモーメントMcr及び設計破壊曲げモーメントMuを算出した。Mcrは、支持点付近で幅0.25mmのひび割れが発生するときの曲げモーメントの設計値であり、Muは、破壊点における曲げモーメントの設計値である。図10に示すように、発明仕様CPにおける緊張材の本数を6本とした場合、Mcrは設計荷重(ひび割れ試験荷重曲げモーメント)Mのモーメント直線を上回り、Muについても破壊荷重2Mのモーメント直線を上回っていた。以上から、緊張材として直径9mm、全長8mの炭素繊維複合材ケーブルを用いる場合、6本の緊張材でJIS規格強度を満たせることが確認できた。
次に、図11に示すように、緊張材及びらせん筋を配置して補強材のかごを形成した。緊張材の端部とボルトの端部とは円筒状の鋼管を介して接続した。緊張材の端部及びボルトの端部と鋼管とは接着剤で互いに接着した。スペーサが配置される結束位置は、500mm間隔、合計15箇所である。らせん筋は、直径2.9mmの亜鉛めっき鋼材を100ピッチで巻き付けた。次に、かごに組み込まれた緊張材を緊張させ、かごの全長を7850mmから8000mmに引き伸ばした。その後、遠心成形法を用いてコンクリートを成形し、蒸気養生を用いてコンクリートを硬化させることで、発明仕様CPを作製した。
次に、作製された発明仕様CPに対してJIS A5373に規定された曲げ強度試験を実施した。曲げ強度試験用の試験機は、図12に示すように発明仕様CPの基端部を固定する固定台と、発明仕様CPの先端部を下から支持する支持台と、発明仕様CPの先端部を水平方向に牽引して引張荷重を印加する牽引装置(図示せず)と、を備える。曲げ強度試験では、発明仕様CPの先端部に対して水平方向に引張荷重を加え、発明仕様CPのひび割れ幅やたわみ量を測定する。
試験の結果、図13に示すように、発明仕様CPはJIS A5373に示す各種規格を十分に上回る強度水準を有していることが確認できた。JIS A5373で規定されているように、発明仕様CPにひび割れ試験荷重3.5kNを加えてもひび割れ幅は0.25mm以下であり、ひび割れ試験荷重を除荷しても幅0.05mmを超えるひび割れが残留することもなかった。また、曲げ強度試験における最大載荷荷重は8.87kNであった。この最大載荷荷重の値は、ひび割れ試験荷重の値の2.53倍であり、ひび割れ試験荷重の2倍以上であることを要求するJIS規格の規定を満たしていた。荷重点の高さが支持点を規準にして6.35mであるため、発明仕様CPの実証試験値Mu’を8.87kN×6.35m=56.3kN・mと導き出すことができた。この実証試験値Mu’は、支持点JIS規格強度及び支持点強度設計値を上回っていた。
図13に示すように、図9(a)の発明仕様CPの曲げ強度試験結果を図9(b)、(c)に示す標準仕様コンクリートポール(標準仕様CP)、現行耐塩仕様コンクリートポール(現行耐塩仕様CP)と比較した。いずれもJIS A5373推奨仕様A−1の1種ポールである。標準仕様CPでは、緊張材及び非緊張材として鋼鉄製の鉄筋を用いており、現行耐塩仕様CPでは、緊張材及び非緊張材として被覆鋼材を用いている。被覆鋼材は、PC鋼材に腐食防止のための樹脂被覆を施した線材である。
発明仕様CPでは、支持点における補強材(緊張材及び非補強材)の本数が6本であるのに対し、標準仕様CP及び現行耐塩仕様CPでは、支持点における補強材(緊張材及び非補強材)の本数が12本であった。また、標準仕様CP及び現行耐塩仕様CPの支持点における補強材の総断面積は、発明仕様CPの約1.6倍であった。
以上から、発明仕様CPは、標準仕様CP及び現行耐塩仕様CPに比べて補強材の本数が少なく、補強材の総断面積も小さく、効率的な仕様であることが確認できた。これは、発明仕様CPの緊張材として用いた炭素繊維複合材ケーブルが、PC鋼材及び被覆鋼材と比べて引張強度の点で優れていると共に、コンクリートとの付着力が高く、コンクリートに対する滑りが抑えられたためである。
(実施例2)
実施例2では、実施例1で検討したひび割れ試験荷重が3.5kNであるJIS A5373推奨仕様A−1の1種ポールに加えて、ひび割れ試験荷重がそれぞれ5.0kN、7.0kN、10.0kNで規定された他の1種ポールについても緊張材及び非緊張材の本数を検討した。便宜上、実施例1の1種ポールをA型ポール、ひび割れ試験荷重5.0kNの1種ポールをB型ポール、ひび割れ試験荷重7.0kNの1種ポールをC型ポール、ひび割れ試験荷重10.0kNの1種ポールをD型ポールと呼ぶこととする。なお、発明仕様CPで非緊張材を配置する場合は、非緊張材として炭素繊維複合材ケーブルを用いることとした。
炭素繊維複合材ケーブルの引張強度は2,387N/mm2であり、その断面積は49mm2であるため、引張強度を引張荷重に換算すると、2.387×49≒116.96kNである。初期に緊張材に加えられた緊張力は時間の経過と共に減退するため、1本の緊張材に加えられる最大の緊張力を、緊張材の引張強度の60%以下に設定すれば安全である。例えば、1本の緊張材に加えられる最大の緊張力を、緊張材の引張強度の60%とすると、116.98kN×60%=70.1kNとなる。そこで、発明仕様CPの緊張材1本当たりの緊張力が70kN以下となるように緊張材及び非緊張材の本数を決定した。
その結果、図14に示すように、発明仕様CPでは、補強材の本数を標準仕様CPよりも半分程度に削減できることが確認できた。特に、発明仕様CPでは、現行耐塩仕様CPでは不可能であったD型ポールを作製できることが確認できた。これは、緊張材として炭素繊維複合材ケーブルを用いたため、標準仕様CPと比べて補強材の本数を削減でき、その結果として補強材の総断面積も低減できたためである。なお、現行耐塩仕様CPでD型ポールを作製できないのは、ひび割れ制御性能を満たすために鉄筋を多く配置すると、今度はかぶり距離がJIS規格で規定された標準かぶり距離を満足できなくなるためである。
(実施例3)
実施例3では、炭素繊維複合材ケーブルの接続方法を検討した。既存の定着板には、実施例1で用いられたM16ボルトよりも径の小さい、ねじ切りされたPC鋼材が接続されるため、実施例1のようにM16ボルトを用いるには定着板の仕様を変更する必要がある。また、コンクリート内に埋設される補強材はJIS規格の標準かぶり距離を満たす必要があるが、実施例1における定着用鋼管は外径28mmであるため、標準かぶり距離を確保できないおそれがある。そこで、以下の接続方法を検討した。
まず、図15に示すような試験片を作製した。試験片は、直径9mmの炭素繊維複合材ケーブル(より線型炭素繊維)の一端にねじ切りされた直径7.1mmのPC鋼材(PC鋼線)の端部を接続し、炭素繊維複合材ケーブルの他端に試験機に固定される固定用鋼管を接続したものである。PC鋼材の端部と炭素繊維複合材ケーブルの端部とは、実施の形態2に係る接続方法で接続した。接着剤としては、2液型ウレタン樹脂を用いた。接着剤の主材は、ポリエーテルポリオールであり、硬化剤は、ポリイソシアネートである。接着部(オーバラップ定着装置)の外径は約19mmである。接着長さは195mmであり、オーバラップ長さは160mmである。
次に、図16に示す引張試験機に試験片を装着して引張荷重を加えることで、試験片の耐荷重を測定した。試験に供した試験片は合計4本であった。その結果、試験片の耐荷重は53.72kN〜57.27kNの範囲内であり、その平均値は56.3kNであった。測定された試験片の耐荷重は、最も強度が要求される図14のD型ポールにおける緊張材1本当たりの緊張力47.57kN(≒666kN/16本)を上回っていた。したがって、実施例3の接続方法でも、緊張材に加えられる緊張力に耐え得る強度が確保できることを確認できた。