JP2021191968A - 衝撃吸収機構、衝撃吸収機構の製作方法 - Google Patents

衝撃吸収機構、衝撃吸収機構の製作方法 Download PDF

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Toshiki Sugiura
義輝 水谷
Yoshiteru Mizutani
拓也 西村
Takuya Nishimura
貴恭 池田
Takayasu Ikeda
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Abstract

【課題】好適に衝撃吸収を行うことのできる衝撃吸収機構等を提供する。【解決手段】衝撃吸収機構5は、車両に加わる衝突荷重Aを軽減するためのものであり、木材からなる衝撃吸収部7と、鉛直方向において衝撃吸収部7を内側に挟み込むように配置される一対の拘束部材9と、を具備する。一対の拘束部材9は、衝撃吸収部7の長手方向の両端部のみで、衝撃吸収部7を挟んで連結され、衝撃吸収部7の厚さtw(mm)の値と、拘束部材9の厚さtm(mm)の値が、0.33≦0.0147tw+0.0458tm2≦2を満たすように設計される。【選択図】図4

Description

本発明は、車両に加わる衝突荷重を軽減するための衝撃吸収機構等に関する。
特許文献1には、車両の側面衝突時の衝撃吸収機構として、木材を一対の拘束部材で挟み付けたものが記載されている。この衝撃吸収機構は、車両の側面衝突時に木材が圧縮されて潰れることにより衝撃を吸収するが、この際拘束部材で木材を拘束しておくことにより、衝突時の木材の割裂等を防止して木材による衝撃吸収効果を確保する。
特開2019−89484号公報
特許文献1では、木材を拘束部材により拘束しつつ衝突時の木材のスムーズな変形を可能とするため、木材を貫通して拘束部材同士を連結するボルトなどの連結部を木材の長手方向の中間部位に設けている。しかしながら、特許文献1の構成では、衝突箇所の近傍に連結部がないと十分な衝撃吸収効果が発揮されないという課題があった。
本発明は前述した問題点に鑑みてなされたものであり、好適に衝撃吸収を行うことのできる衝撃吸収機構等を提供することを目的とする。
前述した目的を達成するための第1の発明は、車両に加わる衝突荷重を軽減するための車両の衝撃吸収機構であって、木材からなる衝撃吸収部と、前記衝突荷重の荷重入力方向と直交する第1の方向において前記衝撃吸収部を内側に挟み込むように配置される一対の拘束部材と、を具備し、一対の前記拘束部材は、前記荷重入力方向および前記第1の方向と直交する、第2の方向の両端部のみで連結され、前記衝撃吸収部の前記第1の方向の長さt(mm)の値と、前記拘束部材の前記第1の方向の長さt(mm)の値が、下式
0.33≦0.0147t+0.0458t ≦2
を満たすことを特徴とする衝撃吸収機構である。
本発明の衝撃吸収機構では、木材からなる衝撃吸収部と拘束部材の厚さを上記のように定めることにより、一般的な車両において、所定の厚さの衝撃吸収部に対し拘束部材の厚さを確保し、衝突時の拘束部材の面外曲げを抑制して荷重入力方向の座屈を誘導することで高い衝撃吸収効果が得られる。そのため、拘束部材の連結は衝撃吸収部の両端部のみで行えばよく、連結部の間隔が大きくても高い衝撃吸収効果が得られる。
前記車両の重量をN(kg)としたときに、t、tの値が下式
(N/1500)≦0.0147t+0.0458t
を満たすことが望ましい。
これにより、車重に応じて衝撃吸収部と拘束部材の厚さを適切に定めることができる。
前記第2の方向が前記衝撃吸収部の木材の繊維直交方向に対応し、前記衝撃吸収部の木材の前記第2の方向の長さL(mm)が、下式
L<86.6t
を満たすことが望ましい。
これにより、熱膨張による衝撃吸収部の木材の座屈を防ぎ、極低温から高温まで様々な環境で使用される自動車部品として衝撃吸収性能のロバスト性を確保できる。
第2の発明は、車両に加わる衝突荷重を軽減するための車両の衝撃吸収機構の製作方法であって、木材からなる衝撃吸収部を、前記衝突荷重の荷重入力方向と直交する第1の方向において内側に挟み込むように一対の拘束部材を配置し、一対の前記拘束部材は、前記荷重入力方向および前記第1の方向と直交する、第2の方向の両端部のみで連結され、前記衝撃吸収部の前記第1の方向の長さt(mm)の値と、前記拘束部材の前記第1の方向の長さt(mm)の値を、想定する衝突物の前記第2の方向の長さをD(mm)、当該衝突物が衝突した時の前記衝撃吸収機構の最大変位と吸収エネルギーをそれぞれd(mm)、E(kN・mm)、α、βをそれぞれ木材、拘束部材の材質に応じた係数として、下式
E/d≦α×D×t+β×t
を満たすように定めることを特徴とする衝撃吸収機構の製作方法である。
これにより、目標とする衝撃吸収効果等に応じて衝撃吸収部と拘束部材の厚さを適切に定めることができ、衝撃吸収機構を設計・開発するに当たって試行錯誤を減らすことで開発コストの低減につながる。
前記第2の方向が前記衝撃吸収部の木材の繊維直交方向に対応し、前記衝撃吸収部の木材の前記第2の方向の長さL(mm)を、前記衝撃吸収部の木材の前記第2の方向の細長比に基づいて定めることが望ましい。
これにより、熱膨張による衝撃吸収部の木材の座屈を防止するようにその長さを適切に定めることができ、極低温から高温まで様々な環境で使用される自動車部品として衝撃吸収性能のロバスト性を確保できる。
本発明によれば、好適に衝撃吸収を行うことのできる衝撃吸収機構等を提供できる。
衝撃吸収機構5の配置を示す概略図。 衝撃吸収機構5を示す図。 衝撃吸収機構5を示す図。 衝撃吸収機構5による衝撃吸収について説明する図。 衝撃吸収機構5による衝撃吸収について説明する図。 実機衝突試験の結果を示す図。 、tの値の範囲を示す図。 衝撃吸収機構5’による衝撃吸収について説明する図。 衝撃吸収機構5aを示す図。
以下、図面に基づいて本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
図1は本発明の実施形態に係る車両1の衝撃吸収機構5の配置を示す概略図である。衝撃吸収機構5は車両1の衝突時に車両1に加わる衝撃を吸収して衝突荷重を軽減するためのものである。車両1の種類は特に限定されない。
衝撃吸収機構5は、車両1の側部の金属製のボディ3に沿って車両前後方向に配置される。車両前後方向は図1の上下方向に対応する。図1の左右方向は車両幅方向であり、車両前後方向と平面において直交する。
図2、3は衝撃吸収機構5を示す図である。図2は衝撃吸収機構5の斜視断面図である。図3(a)は衝撃吸収機構5を上方から見た図であり、図3(b)、(c)はそれぞれ図3(a)の線B−B、C−Cによる鉛直断面を示したものである。
図2、3に示すように、衝撃吸収機構5は、衝撃吸収部7、拘束部材9等を有する略直方体状の部材であり、長手方向を車両前後方向(図2の奥行方向、図3(a)の上下方向、図3(b)、(c)の紙面法線方向に対応する)として車両1のボディ3に面接触するように固定される。固定手法は特に限定されない。例えば、衝撃吸収機構5の前後のそれぞれに図示しない取付板を設け、この取付板をボルトによりボディ3に締結することができる。
本実施形態では、車両1の側面衝突時、車両1の側方から車両1に向かって図2、3の矢印に示すように衝突荷重Aが入力されるものとし、以下この方向を荷重入力方向という。車両1の側面衝突時には、この荷重入力方向に衝撃吸収機構5が潰れることで衝撃が吸収される。衝撃吸収機構5は、前記のように長手方向を車両前後方向としてボディ3に固定することで、衝撃吸収機構5の長手方向の広い範囲で荷重Aを受け止めることが可能となる。以下、衝撃吸収機構5について、衝突荷重Aが入力される側(図2、3の右側に対応する)を荷重入力側、ボディ3側(図2、3の左側に対応する)を固定側ということがある。
衝撃吸収部7は略直方体の形状を有する柱状部材であり、木材により構成される。衝撃吸収部7は長手方向を車両前後方向として配置され、当該長手方向は荷重入力方向と直交する。衝撃吸収部7の鉛直断面は長方形状であり、当該断面のサイズは求められる衝撃吸収性能に応じて適宜設定されるが、図2、3の例では鉛直方向の長さ(以下、厚さという)よりも荷重入力方向の長さ(以下、幅という)の方が大きい。
なお、衝撃吸収部7の木材の年輪の軸心方向(木材の繊維方向)は、荷重入力方向に対応することが望ましい。これにより、衝突時に木材が年輪の軸心方向に圧縮しつつ潰れることで、その衝撃を良好に吸収することができる。ただし、木材の配置はこれに限らない。
拘束部材9は、鉛直方向(荷重入力方向と直交する第1の方向)において衝撃吸収部7を内側に挟み込むように、衝撃吸収部7の上面と下面に一対配置される板状の部材である。
拘束部材9は、衝撃吸収部7の上面と下面を荷重入力側の端部から固定側の端部まで覆うように、衝撃吸収部7の長手方向(荷重入力方向および上記第1の方向と直交する第2の方向)の全長に亘って設けられる。
衝撃吸収部7の上下面の拘束部材9は、衝撃吸収部7の長手方向の両端部のみで、ボルト91とナット92により衝撃吸収部7を挟んで連結される。すなわち、衝撃吸収部7とその上下面の拘束部材9の対応する位置に孔71、93(図3(c)参照)が設けられ、頭付きボルト91の軸部が一方の拘束部材9側からこれらの孔71、93に通され、他方の拘束部材9から突出する軸部の先端にナット92が締め込まれる。
前記したように、衝撃吸収部7の鉛直断面は長方形状であり厚さよりも幅が大きいため、衝撃吸収部7の上面と下面は衝撃吸収部7の面のうち面積が最も大きい面であり、拘束部材9がこれらの面を覆うように配置されることで衝撃吸収部7が好適に拘束される。拘束部材9は、衝撃吸収部7の木材を拘束しその割裂を防いで木材による衝撃吸収効果を確保しつつ、また衝突時に自ら座屈することにより更なる衝撃吸収効果を得る機能を有する。
拘束部材9は金属製の剛なものとする。本実施形態では、拘束部材9を構成する金属材料を衝撃吸収部7を構成する木材よりも荷重入力方向の圧縮に対し剛なものとするか、または、部材形状を含んだ観点として、一対の拘束部材9を衝撃吸収部7よりも荷重入力方向の圧縮に対して剛とする。前者の比較については、例えば金属材料の圧縮時の弾性係数(ヤング率)をインストロン万能試験機を用いた圧縮試験によって得て、JIS Z2101(木材の試験方法)に規定された圧縮試験により求めた木材の弾性係数(ヤング係数)と比較すればよい。後者の比較については、例えば一対の拘束部材9と衝撃吸収部7のそれぞれについて、インストロン万能試験機を用いた全断面に対する同一の圧縮試験を別々に行い、圧縮力と歪みの関係から弾性域における剛性を得てこれらを比較に用いればよい。
図4(a)は、衝突時、ポール等の衝突物2が衝撃吸収機構5に接触した状態を図3(b)と同様の断面で示す図であり、図4(b)は衝突荷重Aにより変形した衝撃吸収機構5を図3(b)と同様の断面で示す図である。また図4(c)は衝突荷重Aにより変形した衝撃吸収機構5を上方から見た図である。
本実施形態では、衝突時、まず図4(a)に示すように、衝撃吸収機構5の荷重入力側の端部に接触した衝突物2から衝撃吸収機構5に衝突荷重Aが入力され、図4(b)、(c)に示すように、衝撃吸収部7の木材が拘束部材9によって拘束されつつ荷重入力方向に圧縮されて潰れる。また、拘束部材9自体も荷重入力方向に座屈する。
図5は、上記の衝突過程における衝撃吸収機構5の変位と荷重の関係を、縦軸を荷重、横軸を衝撃吸収機構5の変位として模式的に示した図である。荷重は衝撃吸収機構5が衝突時に受ける荷重であり、衝撃吸収機構5が潰れることで吸収される荷重である。衝撃吸収機構5の変位は、衝撃吸収機構5の荷重入力側の端部の、固定側への移動量である。
図5において、衝撃吸収機構5の衝撃吸収効果(吸収エネルギー)は変位による荷重の積分値で表される。衝撃吸収機構5の衝撃吸収効果は大きく衝撃吸収部7の木材の圧縮によるもの、拘束部材9の面外変形によるもの、拘束部材9の座屈によるものに分けることができ、図中の符号15、17、19はそれぞれの現象による衝撃吸収効果を示したものである。
本実施形態の衝撃吸収機構5を用いた場合、衝突初期には、衝撃吸収部7の木材の圧縮による大きな衝撃吸収効果15が得られる。なお、衝突初期には拘束部材9の面外曲げによっても衝撃が吸収されるが、その衝撃吸収効果17は小さい。その後、衝突過程が進むにつれて木材の圧縮による衝撃吸収効果15は徐々に低下する一方、前記した拘束部材9の座屈が生じることにより大きな衝撃吸収効果19が得られる。
本実施形態では、上記のような衝撃吸収効果、特に拘束部材9の座屈による大きな衝撃吸収効果19を得るために、衝撃吸収機構5の各部のサイズを以下のように定める。
すなわち、図4に示す衝撃吸収部7と拘束部材9の厚さt(mm)、t(mm)については、所定の衝突物2が衝撃吸収機構5に衝突すると想定し、その衝突物2の幅をD(mm)、衝突時の衝撃吸収機構5の最大変位をd(mm)、当該衝突時に衝撃吸収機構5が吸収する吸収エネルギーの目標値をE(kN・mm)として、以下の式(1)、(2)を満たすように定める。
ave=α×D×t+β×t …(1)
ave=E/d…(2)
なお、衝突物2の幅Dは、衝撃吸収部7の長手方向(第2の方向)における長さをいうものとする。また、式(1)、(2)のFaveは、衝突時に衝撃吸収機構5が受ける平均荷重(kN)であり、式(1)、(2)は以下の式(3)によって書き表すことができる。
E/d=α×D×t+β×t …(3)
式(1)、(3)のαは、衝撃吸収部7で用いる木材の材質に応じた係数であり、βは拘束部材9の材質に応じた係数である。式(1)、(3)は、衝撃吸収機構5の受ける荷重が、衝撃吸収部7の圧縮応力と拘束部材9の座屈応力の和であると捉え、前者が衝撃吸収部7の荷重を受ける面積に比例し、後者が拘束部材9の厚さtの2乗に比例することによったものである。
α、βの値は、衝撃吸収機構5について予め実機衝撃試験を行うことで得られ、これにより衝撃吸収機構5につき高精度な寸法決定を行うことができる。実機衝撃試験は、例えば水平置き空気圧式衝撃試験機(前川試験機製作所製HGS-2600TC)を用い、図4の例と同様に衝撃吸収機構5に側方から衝突物を衝突させることにより行う。
図6のグラフは、衝撃吸収部7を厚さt=20mmのスギ材とし、拘束部材9をそれぞれ厚さt=1、1.5、2.0mmのアルミ板とした衝撃吸収機構5について、幅D=127mmの衝突物による実機衝撃試験を行った結果を示したものである。衝突物を衝突させるときの衝突速度は、「道路運送車両の保安基準の細目を定める告示」(平成14年国土交通省告示第619号)において引用される協定規則第135号(ポール側面衝突時の乗員保護)で定められたポール側突の要件である32km/hとした。
グラフ中のデータ点は、それぞれの衝撃吸収機構5について、t の値(横軸)と実機衝撃試験時のFaveの値(縦軸)を示したものである。グラフ中の実線10は、α、βを未知数とした前記の式(1)により各データ点を近似したものであり、これにより、衝撃吸収部7がスギの場合のαの値と、拘束部材9がアルミ合金の場合のβの値がそれぞれ0.0138(約0.014)、10.9(約11)と同定された。なお実機衝撃試験では、全ての衝撃吸収機構5について拘束部材9の座屈が生じていた。
本実施形態では、衝撃吸収部7、拘束部材9の厚さt、tを規定するにあたり、車重(車両の重量)が1500kgである標準的な乗用車に所定の幅Dの衝突物2が衝突することを想定し、この時の衝撃吸収機構5の吸収エネルギーEと最大変位dについて所定の目標値を設定する。α、βについては、前記した実機衝撃試験を基に同定された値を用い、これらの値を前記の式(3)に代入することで、以下の式(4)のように、衝撃吸収部7と拘束部材9の厚さt、tを規定する式が得られた。
1=0.0147t+0.0458t …(4)
上記の吸収エネルギーE等は車重に応じて設定され、車重がN(kg)の乗用車の場合、上記の式(4)は、左辺の値を(N/1500)として以下の式(5)で表すことができる。
(N/1500)=0.0147t+0.0458t …(5)
式(5)より、車重が500kg以上3000kg以下の一般的な乗用車(車両1)の場合、衝撃吸収部7と拘束部材9の厚さt、tは少なくとも以下の式(6)を満たすことが望ましい。図7は、横軸を拘束部材9の厚さt、縦軸を衝撃吸収部7の厚さtとし、式(6)によって規定されるt、tの範囲をグレーで示したものである。
0.33≦0.0147t+0.0458t ≦2…(6)
なお、衝撃吸収機構5のその他の寸法として、図4に示す衝撃吸収機構5の幅h(mm)、衝撃吸収機構5の車両前後方向の長さL(mm)については、以下の式(7)、(8)を満たすように定める。
h=δ×d…(7)
L>D…(8)
ここで、式(7)のδは、衝突時の衝撃吸収機構5の最大変位dに対する衝撃吸収機構5の幅hの余裕率であり、例えば2.0である。
以上のように衝撃吸収機構5の各部のサイズを定めることで、前記した衝撃吸収効果、特に拘束部材9の座屈による大きな衝撃吸収効果19が得られる。例えば所定の厚さtの衝撃吸収部7に対し、拘束部材9の厚さtが小さく式(6)の範囲を下回る場合、図8(a)の衝撃吸収機構5’に示すように、衝突物2の衝突時に拘束部材9が衝撃吸収部7から大きく剥がれて面外曲げが優越する。
図8(b)は、図8(a)の衝撃吸収機構5’について、図5と同様に衝突過程における衝撃吸収機構5’の変位と荷重の関係を示したものである。
この場合も、衝突初期には図5の例と同様、衝撃吸収部7の木材の圧縮による衝撃吸収効果15と拘束部材9の面外曲げによる衝撃吸収効果17が生じ、木材の圧縮による衝撃吸収効果15は衝突過程の進行とともに低下する。ただし、この例では拘束部材9の厚さtが不足しているため、拘束部材9は衝突過程の進行とともに専ら面外曲げによって衝撃吸収部7の外側に剥がれてゆき、衝突過程が進んでも拘束部材9の荷重入力方向の座屈による大きな衝撃吸収効果19が得られない。結果、全体としての衝撃吸収効果は衝撃吸収機構5に比べて低下する。
なお、前記の式(8)では、衝撃吸収機構5の車両前後方向の長さLを衝突物2の幅Dより大きいものとしている。この長さLは衝撃吸収部7の木材の長手方向(第2の方向)の長さでもあるが、当該長さLは、熱膨張を考慮して、衝撃吸収部7の木材に座屈が生じないように設定することが望ましい。
すなわち、前記のように衝撃吸収部7の木材の繊維方向を荷重入力方向に対応させた場合、衝撃吸収部7の木材の長手方向は木材の繊維方向と直交する方向(繊維直交方向)になるが、木材の繊維直交方向の線膨張係数は大きい。
そのため、衝撃吸収機構5の車両1への固定を拘束部材9をボディ3に取り付けることによって行う場合、高温環境下において衝撃吸収部7の木材が長手方向に伸びようとするが、長手方向の両端はボルト91によって拘束され、またボルト91を設けた拘束部材9および拘束部材9の取り付けられたボディ3は金属製であるため線膨張係数は小さくほとんど伸びない。そのため、衝撃吸収部7の木材に、線膨張係数の差に起因する長手方向の圧縮力が発生して座屈が生じ、木材と拘束部材9の隙間が大きくなって衝撃吸収効果を損なうおそれがある。
そこで、衝撃吸収部7の木材の座屈耐力を高めて座屈を防止するために、衝撃吸収部7の木材の長手方向の長さLは以下の式(9)を満たすように定めることができる。
L<γt…(9)
上記の式(9)は、衝撃吸収部7の木材の長手方向の細長比λに基づくものであり、細長比λを所定値未満とすることを目的としたものである。式(9)の係数γは当該所定値や木材の両端の支持条件等に応じて定まる。すなわち、本実施形態において、木材の両端をボルト91による固定支持と考えると、木材の座屈長さは0.5Lであり、細長比λは衝撃吸収部7の木材の厚さtを用いて
λ=2×31/2×0.5L/t…(10)
となる。本実施形態では、建築基準法施工令第43条第6項を参考にして、座屈防止目的で細長比λを150より小さくなるように定める。これは、上記の式(10)を用いて
2×31/2×0.5L/t<150…(11)
と書き表すことができ、これにより
L<86.6t…(12)
となる。式(12)は式(9)の係数γを86.6としたものに相当する。
衝撃吸収部7の木材の両端支持条件は上記に限らない。例えば、一端が固定支持で他端がピン支持である場合、座屈長さは0.7Lであり、上記と同様の手順で細長比λを150より小さくなるように定めると係数γが61.9、すなわち
L<61.9t…(12’)
となる。また木材の両端がピン支持である場合、座屈長さは1.0Lであり、上記と同様の手順で細長比λを150より小さくなるように定めると係数γは43.3、すなわち
L<43.3t…(12”)
となる。ただし、いずれの場合も長さLは86.6t(式(12)参照)より小さい値となる。
このように、衝撃吸収部7の木材の長さLを、少なくともL<86.6tとなるように定めることで、熱膨張により座屈しにくい形状とすることができる。熱膨張によって木材が座屈すると衝撃吸収機構5の衝撃吸収効果が損なわれるが、上記したように長さLを定めることにより、木材の座屈が抑制され、極低温から高温まで様々な環境下で衝撃吸収性能のロバスト性を確保できる。
以上説明したように、本実施形態の衝撃吸収機構5では、衝撃吸収部7と拘束部材9の厚さt、tを前記した式(6)のように定めることにより、一般的な車両において、所定の厚さtの衝撃吸収部7に対し拘束部材9の厚さtを確保し、衝突時の拘束部材9の面外曲げを抑制して荷重入力方向の座屈を誘導することで高い衝撃吸収効果が得られる。そのため、拘束部材9の連結は衝撃吸収部7の長手方向の両端部のみで行えばよく、長手方向の中間部で連結部を省略し、連結部の間隔が大となっても高い衝撃吸収効果が得られる。
また本実施形態では前記の式(5)を用いることで、車両1の車重Nに応じて衝撃吸収部7の厚さtと拘束部材9の厚さtを適切に定めることができる。なお、t、tの値を、式(5)の右辺の値が左辺より大きくなるように定めることも当然可能であり、これを含めて式(5)の条件は以下の式(5’)のように修正することができる。
(N/1500)≦0.0147t+0.0458t …(5’)
また前記の式(3)により衝撃吸収機構5の設計を行うことで、目標とする衝撃吸収効果等に応じて衝撃吸収部7と拘束部材9の厚さt、tを適切に定めることができ、衝撃吸収機構5を設計・開発するに当たって試行錯誤を減らすことで開発コストの低減につながる。上記と同様、t、tの値を、式(3)の右辺の値が左辺より大きくなるように定めることも当然可能であり、これを含めて式(3)の条件は以下の式(3’)のように修正することができる。
E/d≦α×D×t+β×t …(3’)
また、前記の式(12)、(12’)、(12”)などにより、熱膨張による衝撃吸収部7の木材の座屈を防止するようにその長さLを適切に定めることができ、極低温から高温まで様々な環境で使用される自動車部品として衝撃吸収性能のロバスト性を確保できる。
しかしながら、本発明は以上の実施形態に限らない。例えば本実施形態では金属製の拘束部材9を用いているが、拘束部材9を前記したように剛とできればその材料は特に限定されず、例えば樹脂を用いることもできる。なお、樹脂材料の圧縮時の弾性係数(ヤング率)は例えばJIS K7181(プラスチック−圧縮特性の求め方)に規定された圧縮試験によって得ることができる。
また本実施形態では拘束部材9の連結をボルト91とナット92を用いて行っているが、連結手段はこれに限ることはなく、例えば図9の衝撃吸収機構5aに示すように、拘束部材9の端部同士を、衝撃吸収部7の長手方向の端面に沿った板材94により連結することも可能である。
以上、添付図面を参照しながら、本発明に係る好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
例えば、衝撃吸収機構5の配置は上記の実施形態で説明したものに限らず、衝突荷重の入力が想定される車両1の各部において適切な配置で取付けることが可能であり、車両1の内部に設けることも可能である。例えば衝突荷重が車両前後方向に入力されることを想定する場合、車両1の前部や後部に衝撃吸収機構5を固定することができ、衝撃吸収機構5は例えば長手方向を車両幅方向として配置することができる。その他、水平方向に長い衝突物2の存在を想定する場合、衝撃吸収機構5を90°回転して長手方向が鉛直方向となるように配置することも可能である。
1:車両
2:衝突物
3:ボディ
5、5’、5a:衝撃吸収機構
7:衝撃吸収部
9:拘束部材
15、17、19:衝撃吸収効果

Claims (5)

  1. 車両に加わる衝突荷重を軽減するための車両の衝撃吸収機構であって、
    木材からなる衝撃吸収部と、
    前記衝突荷重の荷重入力方向と直交する第1の方向において前記衝撃吸収部を内側に挟み込むように配置される一対の拘束部材と、
    を具備し、
    一対の前記拘束部材は、前記荷重入力方向および前記第1の方向と直交する、第2の方向の両端部のみで連結され、
    前記衝撃吸収部の前記第1の方向の長さt(mm)の値と、前記拘束部材の前記第1の方向の長さt(mm)の値が、下式
    0.33≦0.0147t+0.0458t ≦2
    を満たすことを特徴とする衝撃吸収機構。
  2. 前記車両の重量をN(kg)としたときに、t、tの値が下式
    (N/1500)≦0.0147t+0.0458t
    を満たすことを特徴とする請求項1記載の衝撃吸収機構。
  3. 前記第2の方向が前記衝撃吸収部の木材の繊維直交方向に対応し、前記衝撃吸収部の木材の前記第2の方向の長さL(mm)が、下式
    L<86.6t
    を満たすことを特徴とする請求項1または請求項2記載の衝撃吸収機構。
  4. 車両に加わる衝突荷重を軽減するための車両の衝撃吸収機構の製作方法であって、
    木材からなる衝撃吸収部を、前記衝突荷重の荷重入力方向と直交する第1の方向において内側に挟み込むように一対の拘束部材を配置し、
    一対の前記拘束部材は、前記荷重入力方向および前記第1の方向と直交する、第2の方向の両端部のみで連結され、
    前記衝撃吸収部の前記第1の方向の長さt(mm)の値と、前記拘束部材の前記第1の方向の長さt(mm)の値を、
    想定する衝突物の前記第2の方向の長さをD(mm)、当該衝突物が衝突した時の前記衝撃吸収機構の最大変位と吸収エネルギーをそれぞれd(mm)、E(kN・mm)、α、βをそれぞれ木材、拘束部材の材質に応じた係数として、下式
    E/d≦α×D×t+β×t
    を満たすように定めることを特徴とする衝撃吸収機構の製作方法。
  5. 前記第2の方向が前記衝撃吸収部の木材の繊維直交方向に対応し、前記衝撃吸収部の木材の前記第2の方向の長さL(mm)を、前記衝撃吸収部の木材の前記第2の方向の細長比に基づいて定めることを特徴とする請求項4記載の衝撃吸収機構の製作方法。
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